(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】Mo合金ターゲット材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240116BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20240116BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C1/04 D
C22C27/04 102
(21)【出願番号】P 2020038881
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019052843
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 卓哉
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147734(JP,A)
【文献】特開2015-221937(JP,A)
【文献】特開2008-255440(JP,A)
【文献】特開2013-014839(JP,A)
【文献】特開2011-132563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 1/04
C22C 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを10~49原子%、Nbを1~30原子%含有し、且つNiとNbの合計量が50原子%以下で、残部がMoおよび不可避的不純物からなり、ビッカース硬さが290~460HVであり、9点の測定点で測定を行なったビッカース硬さのばらつきが20%以下
に調整されているマトリックスとなるMo相にNi合金相が微細に分散した金属組織であるMo合金ターゲット材。
【請求項2】
Niを10~49原子%、Nbを1~30原子%含有し、且つNiとNbの合計量が50原子%以下で、残部がMoおよび不可避的不純物となるように、Mo粉末とNiMo合金粉末とNb粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を常温で加圧して成形体を得る工程と、前記成形体を
熱間静水圧プレス装置の炉体内部に設置して、加圧焼結して
、ビッカース硬さが290~460HVであり、9点の測定点で測定を行なったビッカース硬さのばらつきが20%以下に調整されているマトリックスとなるMo相にNi合金相が微細に分散した金属組織の焼結体を得て、該焼結体に機械加工を施す工程を含むMo合金ターゲット材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子部品用の電極や配線薄膜を形成するためのMo合金ターゲット材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気泳動型ディスプレイ等の平面表示装置(フラットパネルディスプレイ、Flat Panel Display:以下、FPDという)や、各種半導体デバイス、薄膜センサー、磁気ヘッド等の薄膜電子部品においては、低い電気抵抗値を備える(以下、「低抵抗」ともいう。)配線薄膜が必要である。例えば、FPDは、大画面、高精細、高速応答化に伴い、その配線薄膜には低抵抗化が要求されている。また、近年、FPDに操作性を加えるタッチパネルや樹脂基板を用いたフレキシブルなFPD等、新たな製品が開発されている。
【0003】
FPDの駆動素子として用いられている薄膜トランジスタ(Thin FilmTransistor:以下、TFTという)の配線薄膜は、低抵抗化が必要であり、配線材料にはAlが用いられている。
現在、TFTには、非晶質Si半導体膜が用いられており、配線膜であるAlは、Siと直接触れると、TFT製造中の加熱工程により熱拡散して、TFTの特性を劣化させる。このため、AlとSiの間にキャップ膜として、耐熱性に優れたMoやMo合金をバリア膜とした積層配線膜が用いられている。
【0004】
また、これまでの非晶質Si半導体膜から、より高速応答を実現できる酸化物を用いた透明な半導体膜の適用検討が行なわれており、これら酸化物半導体の配線薄膜にも、Alからなる配線膜と、MoやMo合金からなる下地膜やキャップ膜を積層した構造を有する、積層配線膜が検討されている。このため、これらの積層配線膜の形成に用いられるMo合金からなる薄膜の需要が高まっている。
そして、高い耐酸化性を有し、モバイル機器や車載機器に好適なMo合金薄膜として、Mo-Ni-Nb合金が提案されている。
【0005】
一方、上述したMo合金薄膜を形成する手法としては、スパッタリングターゲット材(以下、単に「ターゲット材」ともいう。)を用いたスパッタリング法が最適である。スパッタリング法は、物理蒸着法の一つであり、他の真空蒸着やイオンプレーティングと比較して、大面積に安定してMo合金薄膜が形成できる方法であるとともに、上記のような添加元素の多い合金でも、組成変動が少ない優れたMo合金薄膜が得られる有効な手法である。
そして、上記したMo-Ni-Nb合金からなるターゲット材を得る手法としては、例えば、特許文献1では、Mo粉末と一種以上のNi合金粉末とを混合した、または、Mo粉末とNi合金粉末とNb粉末とを混合した混合粉末を加圧焼結した焼結体に機械加工を施す方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される、Mo粉末とNi合金とNb粉末とを混合した混合粉末を、熱間静水圧プレス(以下、「HIP」という。)で加圧焼結してターゲット材を作製すると、そのターゲット材中に、局所的な低硬度の部位が存在する場合がある。このため、ターゲット材を所定の形状寸法に機械加工をする際のチャッキングやボンディングなどのハンドリングにおいて、ターゲット材本体が変形する場合がある。
【0008】
また、Mo-Ni-Nb合金は、機械加工時に、割れや欠け、脱落が発生する可能性の高い、いわゆる難削材である上、ターゲット材に局所的な高硬度の部位が存在してしまうと、切削工具のチップの摩耗や破損を招き、得られるターゲット材の表面粗さが大きくなったり、場合によっては、ターゲット材本体を破損させてしまうことがある。
また、ターゲット材のスパッタ面における中央部の侵食領域に、局所的な低硬度の部位が存在してしまうと、低硬度の部位のみが残存したり、脱落したりすることにより、侵食領域の表面粗さが粗くなり、スパッタ時の異常放電の起点となりやすくなる。
【0009】
本発明の目的は、チャッキングやボンディングなどのハンドリングにおけるターゲット材の変形や、切削工具のチップの摩耗や破損を抑制することに加え、スパッタ時の異常放電の抑制も同時に達成できるMo合金ターゲット材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のMo合金ターゲット材は、Niを10~49原子%、Nbを1~30原子%含有し、且つNiとNbの合計量が50原子%以下で、残部がMoおよび不可避的不純物からなり、ビッカース硬さが290~460HVであり、9点の測定点で測定を行なったビッカース硬さのばらつきが20%以下である。
【0011】
本発明のMo合金ターゲット材は、Niを10~49原子%、Nbを1~30原子%含有し、且つNiとNbの合計量が50原子%以下で、残部がMoおよび不可避的不純物となるように、Mo粉末とNiMo合金粉末とNb粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を常温で加圧して成形体を得る工程と、前記成形体を加圧焼結して焼結体を得る工程を含む製造方法により得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ビッカース硬さが調整されたMo合金ターゲット材を提供できる。これにより、チャッキングやボンディングなどのハンドリングにおけるターゲット材の変形や、切削工具のチップの摩耗や破損を抑制可能であり、スパッタ時の異常放電の抑制も同時に達成することが期待できる。このため、上述した、例えば、FPD等の製造に有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明例1のターゲット材のスパッタ面における光学顕微鏡観察写真。
【
図2】比較例のターゲット材のスパッタ面における光学顕微鏡観察写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のターゲット材は、JIS Z 2244で規定されるビッカース硬さが290~460HVの範囲であり、9点の測定点で測定を行なったビッカース硬さのばらつきが20%以下である。本発明のターゲット材は、ビッカース硬さを特定範囲とし、そのばらつき[(最大値-最小値)/(最大値+最小値)]×100(%)を小さくすることで、機械加工におけるチャッキングや、ボンディング等のハンドリングでターゲット材本体の変形を抑制することができる。そして、本発明の実施形態に係るターゲット材は、任意の9点の測定点で測定を行なったビッカース硬さのばらつきが10%以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のターゲット材は、ビッカース硬さを特定範囲に調整することで、例えば、フライス盤や旋盤等のチップに構成刃先が生成されることを抑制できる。すなわち、本発明のターゲット材は、切削加工を進めるにつれて、構成刃先の成長に伴うチップの切り込み量が次第に大きくなることが抑制され、切削開始時と切削完了時でターゲット材の寸法差を小さくできることに加え、構成刃先の剥離に伴うチップの破損を抑制することもできる。
【0016】
一方、ターゲット材のスパッタ面における中央部の侵食領域に、例えば、Moマトリックス相やMoNb相等で構成される局所的に低硬度の部位が存在してしまうと、低硬度の部位のみが残存したり、脱落したりする場合があり、ターゲット材の侵食領域の表面が粗くなり、スパッタ時の異常放電の起点となりやすくなる。このため、本発明のターゲット材は、ビッカース硬さを290HV以上にする。そして、上記と同様の理由から、本発明の実施形態に係るターゲット材は、ビッカース硬さを295HV以上にすることが好ましい。
【0017】
本発明のターゲット材は、ビッカース硬さを460HV以下にすることで、例えば、フライス盤や旋盤等のチップの摩耗量を抑えることができる。すなわち、本発明のターゲット材は、切削加工を進めるにつれて、チップの摩耗に伴うチップの切り込み量が次第に小さくなり、切削開始時と切削完了時でターゲット材の寸法差が大きくなることを抑制できることに加え、チップの破損を抑制することもできる。
また、本発明のターゲット材は、ビッカース硬さを460HV以下にすることで、切削機械へのチャッキングに加え、バッキングプレートやバッキングチューブにボンディングする際のハンドリング等でターゲット材本体の破損を抑制できる。そして、上記と同様の理由から、本発明の実施形態に係るターゲット材は、ビッカース硬さを455HV以下にすることが好ましい。
【0018】
本発明でいうビッカース硬さは、上述したターゲット材の変形や、切削工具のチップの摩耗や破損を抑制することに加え、スパッタ時の異常放電を抑制する観点から、ターゲット材のスパッタ面における中心付近の1.5mm四方において、任意の9点で測定する。このとき、荷重は9.8Nとし、加圧時間は10秒とする。
そして、本発明のターゲット材は、上記条件で測定されるビッカース硬さが290~460HVの範囲にあり、そのばらつき[(最大値-最小値)/(最大値+最小値)]×100(%)が20%以下であることをいう。
また、本発明の実施形態に係るターゲット材は、ビッカース硬さを290~460HVにする観点から、Mo-Ni-Nb合金相で構成されることが好ましい。
【0019】
そして、本発明のターゲット材は、Niを10~49原子%、Nbを1~30原子%含有し、且つNiとNbの合計量が50原子%以下で、且つ前記Niと前記NbとMoの合計が100原子%で不可避的不純物を含む組成を有する。NiおよびNbの含有量は、密着性、耐酸化性、耐湿性を大きく損なわない範囲として規定するものである。
Niの含有量は、10原子%以上にすることで、酸化抑制効果を得ることができる。また、Niは、Moに比べてCuやAlに熱拡散しやすい元素であり、電気抵抗値を増加させる場合がある。このため、Niの含有量は49原子%以下にする。また、上記と同様の理由から、Niの含有量は30原子%以下が好ましく、20原子%以下がより好ましい。
Nbの含有量は、1原子%以上にすることで、耐湿性を向上させることができる。また、Nbを30原子%以下、且つNiとNbの合計を50原子%以下にすることで、耐食性を向上させつつ、エッチング性を確保できる。また、上記と同様の理由から、Nbの含有量は20原子%以下が好ましく、15原子%以下がより好ましい。
【0020】
本発明のターゲット材は、以下の製造方法で得ることができ、その一般的形態を説明する。尚、本発明は、以下に説明する形態によって限定されるものではない。
先ず、Niを10~49原子%、Nbを1~30原子%含有し、NiとNbの合計量が50原子%以下、残部がMoおよび不可避的不純物からなるように、Mo粉末とNiMo合金粉末とNb粉末を混合して混合粉末を得る。そして、この混合粉末を、常温(JIS Z 8703で規定された20±15℃)で、例えば、冷間静水圧プレス(以下、「CIP」という。)を用いて加圧して成形体とする。
次に、この成形体を加圧焼結して焼結体を得て、これに機械加工を施すことにより、本発明のターゲット材を得ることができる。ここで、本発明の実施形態に係るターゲット材の製造方法は、後述する加圧焼結の条件を適用することで、上記の焼結体を得る工程の後に、ターゲット材の残留応力除去やビッカース硬さの調整のための熱処理を施すことなく、ビッカース硬さが調整されたターゲット材を得ることができる。
尚、本発明の実施形態に係るターゲット材は、ターゲット材全体のビッカース硬さのばらつきを効果的に低減する観点から、その製造方法において、上記の焼結体を得る工程の前に、「上記の成形体を解砕して解砕粉を得る工程」を含めて、上記の焼結体を得る工程では、この解砕粉を加圧焼結して焼結体を得ることが好ましい。例えば、上記の成形体を、例えば、ディスクミル等で一度解砕して、1.5mmアンダーの解砕粉を作製して、この解砕粉を加圧焼結して焼結体を得て、これに機械加工を施すことにより得ることが好ましい。
【0021】
加圧焼結は、HIPやホットプレスが適用可能であり、800~1400℃、10~200MPa、1~10時間の条件で行なうことが好ましい。これらの条件の選択は、加圧焼結する装置に依存する。例えば、HIPは低温高圧の条件が適用しやすく、ホットプレスは高温低圧の条件が適用しやすい。本発明の製造方法では、加圧焼結に、低温での焼結が可能で、Ni合金やNbの拡散を抑制でき、且つ高圧で焼結して高密度の焼結体が得られるHIPを用いることが好ましい。
焼結温度は800℃以上にすることで、焼結が促進され、高密度の焼結体を得ることができる。また、上記と同様の理由から、焼結温度は1000℃以上にすることが好ましい。
一方、焼結温度は1400℃以下にすることで、液相の発現や焼結体の結晶成長を抑制でき、均一で微細な金属組織を得ることができる。また、上記と同様の理由から、焼結温度は1300℃以下にすることが好ましい。
加圧力は10MPa以上にすることで、焼結が促進され、高密度の焼結体を得ることができる。また、加圧力は200MPa以下にすることで、焼結時にターゲット材への残留応力の導入が抑制され、焼結後の割れの発生を抑制することができることに加え、汎用の加圧焼結装置を利用することができる。
焼結時間は1時間以上にすることで、焼結を十分に進行させることができ、高密度の焼結体を得ることができる。また、焼結時間は10時間以下にすることで、製造効率の低下を抑制できる。
【実施例】
【0022】
体積基準の累積粒度分布の50%粒径(以下、「D50」という。)が7μmのMo粉末と、D50が35μmのNiMo合金粉末と、D50が110μmのNb粉末とを、Niを30原子%、Nbを15原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなるように混合して混合粉末を得た。
そして、この混合粉末をゴム製の型内に充填し、成形圧2.7ton/cm2(≒2.65MPa)の条件でCIP処理をして成形体を得た。
次に、上記で得た成形体をHIP装置の炉体内部に設置して、1250℃、120MPa、10時間の条件で加圧焼結を実施して、本発明例1のターゲット材となるMo合金焼結体を得た。
【0023】
体積基準の累積粒度分布の50%粒径(以下、「D50」という。)が7μmのMo粉末と、D50が35μmのNiMo合金粉末と、D50が110μmのNb粉末とを、Niを49原子%、Nbを1原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなるように混合して混合粉末を得た。
そして、この混合粉末をゴム製の型内に充填し、成形圧2.7ton/cm2(≒2.65MPa)の条件でCIP処理をして成形体を得た。この成形体をディスクミルで解砕して、1.5mmアンダーの解砕粉を得た。
次に、上記で得た解砕粉をHIP装置の炉体内部に設置して、1250℃、120MPa、10時間の条件で加圧焼結を実施して、本発明例2のターゲット材となるMo合金焼結体を得た。
【0024】
体積基準の累積粒度分布の50%粒径(以下、「D50」という。)が7μmのMo粉末と、D50が35μmのNiMo合金粉末と、D50が110μmのNb粉末とを、Niを10原子%、Nbを10原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなるように混合して混合粉末を得た。
そして、この混合粉末をゴム製の型内に充填し、成形圧2.7ton/cm2(≒2.65MPa)の条件でCIP処理をして成形体を得た。この成形体をディスクミルで解砕して、1.5mmアンダーの解砕粉を得た。
次に、上記で得た解砕粉をHIP装置の炉体内部に設置して、1250℃、120MPa、10時間の条件で加圧焼結を実施して、本発明例3のターゲット材となるMo合金焼結体を得た。
【0025】
D50が7μmのMo粉末と、D50が35μmのNiMo合金粉末と、D50が110μmのNb粉末とを、Niを30原子%、Nbを15原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなるように混合して混合粉末を得た。
そして、この混合粉末を軟鋼製の加圧容器に充填して、これをHIP装置の炉体内部に設置して、1250℃、120MPa、10時間の条件で加圧焼結を実施して、比較例のターゲット材となるMo合金焼結体を得た。
【0026】
上記で得た各焼結体のスパッタ面となる面の任意の位置から機械加工により試験片を採取した。そして、ビッカース硬さは、JIS Z 2244に準じ、株式会社明石製作所製のMVK-Eを用いて、
図1および
図2に示す9点に相当する測定点で測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
ここで、本発明例となるMo合金焼結体は、いずれも、ターゲット材の形状にするための機械加工時に、チップの摩耗や破損がないことを確認した。また、その機械加工において、Mo合金焼結体の脱落もなかったことから、スパッタ時の異常放電の抑制も期待できる。また、切削機械へのチャッキング等のハンドリングでMo合金焼結体が変形や破損することもなかった。
一方、比較例となるMo合金焼結体は、ターゲット材の形状にするための機械加工時に、チップの摩耗や破損が生じた。また、その機械加工において、Mo合金焼結体の脱落が確認された。
【0028】
【0029】
各ターゲット材のスパッタ面となる面の金属組織を光学顕微鏡で観察した結果を
図1および
図2に示す。
比較例となるターゲット材は、
図2で示すマトリックスとなるMo相に、薄灰色部で示す粗大なNi合金相が点在する金属組織であり、ビッカース硬さが460HVを上回る部位が確認され、ばらつき[(最大値-最小値)/(最大値+最小値)]×100(%)が20%を超えていることが確認された。
一方、本発明例1となるターゲット材は、
図1の薄灰色部で示すNi合金相が微細に分散しており、比較例にみられた粗大なNi合金相がなく、ビッカース硬さが290~460HVの範囲に調整されており、且つ、ばらつき[(最大値-最小値)/(最大値+最小値)]×100(%)が20%以下に調整されていることが確認できた。これにより、本発明のターゲット材は、ハンドリングにおけるターゲット材の変形や、切削工具のチップの摩耗や破損が抑制できることに加え、スパッタ時の異常放電の起点の生成抑制も期待できる。