(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】金属カドミウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 17/00 20060101AFI20240116BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240116BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240116BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20240116BHJP
C25C 1/16 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C22B17/00 101
C22B3/44 101A
C22B3/06
C22B3/46
C25C1/16 B
(21)【出願番号】P 2020127974
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-077374(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103588240(CN,A)
【文献】特開2005-256068(JP,A)
【文献】特開2015-183292(JP,A)
【文献】特開2006-316293(JP,A)
【文献】特開昭54-145305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カドミウムを含有する原料溶液にアルカリを添加して、前記原料溶液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物となる範囲に前記原料溶液のpHを調整して、前記カドミウム沈殿物を含む中和スラリーを形成した後、前記中和スラリーに固液分離処理を施し、前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物を得る中和工程と、
前記カドミウム沈殿物に酸を添加して、前記カドミウム沈殿物中のカドミウムが浸出される範囲にpHを調整して、カドミウムを含む浸出スラリーを形成した後、前記カドミウムを含む浸出スラリーに固液分離処理を施し、カドミウムを含む浸出液を得る浸出工程と、
前記浸出液に亜鉛粉末を添加し、鉛と銅を金属鉛と金属銅の沈殿物として沈殿させ、前記沈殿物を含むセメンテーションスラリーを形成した後、前記セメンテーションスラリーに固液分離処理を施し、前記沈殿物を含む固形物と液相として銅、および鉛が低減された電解始液を得る部分セメンテーション工程と、
前記電解始液を満たした電解槽にカソードとアノードを浸漬し、カドミウムがカソードに析出して金属カドミウムとなる一方で、亜鉛の析出量が1mass%以下、ニッケルとタリウムの析出量が0.02mass%以下に抑制される範囲に、電流密度と電解終了時の電解液のカドミウム濃度を調整して前記金属カドミウムを得る電解採取工程と、
からなることを特徴とする、金属カドミウムの製造方法。
【請求項2】
前記浸出工程が、前記カドミウム沈殿物に酸を添加して、前記カドミウム沈殿物中のカドミウムが浸出される範囲にpHを調整して、カドミウムを含む浸出スラリーを形成した後、
前記カドミウムを含む浸出スラリーに酸化剤を添加し、酸化還元電位をマンガン酸化物が形成される範囲に調整して得た、前記マンガン酸化物の沈殿物を含む酸化スラリーに固液分離処理を施し、マンガンが低減されたカドミウムを含む浸出液を得る工程であること、
を特徴とする、請求項1に記載の金属カドミウムの製造方法。
【請求項3】
前記酸化還元電位が、1000mV以上(vs. Ag/AgCl)の範囲に調整されていること、
を特徴とする、請求項2に記載の金属カドミウムの製造方法。
【請求項4】
前記亜鉛粉末の添加量が、0.2g/L以上、5g/L以下の範囲に調整されていること、
を特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属カドミウムの製造方法。
【請求項5】
前記電流密度が、50A/m
2以上、2000A/m
2以下の範囲に調整され、
前記電解終了時の電解液のカドミウム濃度が、1.0g/L以上、3.0g/L以下の範囲に調整されていること、
を特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属カドミウムの製造方法。
【請求項6】
前記電流密度が、50A/m
2以上、150A/m
2以下の範囲に調整され、
前記電解終了時の電解液のカドミウム濃度が、1.0g/L以上、3.0g/L以下の範囲に調整されていること、
を特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属カドミウムの製造方法。
【請求項7】
前記中和工程が、第1のpH調整工程と、第2のpH調整工程とから構成され、第1のpH調整工程、第2のpH調整工程の順に行なわれていること、
を特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の金属カドミウムの製造方法。
【請求項8】
前記カドミウムを含有する原料溶液が、0.05g/L以上のカドミウム濃度を有し、亜鉛濃度が5g/L以下、銅濃度が0.1g/L以下、鉛濃度が1g/L以下、マンガン濃度が1g/L以下、ニッケル濃度が0.005g/L以下、タリウム濃度が0.05g/L以下であること、
を特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の金属カドミウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カドミウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等から不純物を分離回収して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。この粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストから還元焙焼処理を経て得ることができ、資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。
【0003】
一方で、このような鉄鋼ダスト由来の粗酸化亜鉛には、その主成分である酸化亜鉛以外に、塩素やフッ素等のハロゲン成分及びカドミウム等の不純物が高い割合で含有されている。これらの不純物のうち、特にカドミウムについては有害金属であるため、酸化亜鉛の製造プラントにおいては、カドミウムの分離回収が一般的に行われている。
カドミウムの分離回収に際して、例えば、鉄鋼ダストを酸に付し、カドミウムを浸出させた浸出液に亜鉛セメンテーションを行うことによって金属カドミウムを得る、湿式処理が一般的に採用されている。しかし、こうした湿式処理で得られる金属カドミウムには、亜鉛や鉛や銅やマンガンなどの電子材料として望ましくない不純物が含まれることが多い。このため、湿式処理後の金属カドミウムに乾式処理を施し、こうした不純物の除去が行われてきたが、この乾式処理を行うことは環境への配慮やエネルギー使用の合理化の観点から望ましくなく、湿式処理のみで高純度な金属カドミウムを得る新たな処理方法が模索されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示される処理方法は、カドミウムと銅を含む水溶液をアルカリ中和して得たカドミウム水酸化物を、酸浸出後にアルカリを添加して脱銅処理して電解採取することにより金属カドミウムを得る処理方法である。
しかしながら、得られる金属カドミウム中の不純物である銅の銅品位は1.2mass%や2.4mass%であり、不純物が低減された純度の高い金属カドミウムは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、カドミウムを含有し、さらに少なくとも不純物となる亜鉛、鉛、銅、マンガンを含有する原料溶液から、Cd>95mass%、Mn、Pb、Cu、Ni、Tl品位がそれぞれ≦0.02mass%、そしてZn≦1mass%の純度の高い金属カドミウムを得る製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明は、カドミウムを含有する原料溶液にアルカリを添加して、前記原料溶液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物となる範囲に前記原料溶液のpHを調整して、前記カドミウム沈殿物を含む中和スラリーを形成した後、前記中和スラリーに固液分離処理を施し、前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物を得る中和工程と、前記カドミウム沈殿物に酸を添加して、前記カドミウム沈殿物中のカドミウムが浸出される範囲にpHを調整して、カドミウムを含む浸出スラリーを形成した後、前記カドミウムを含む浸出スラリーに固液分離処理を施し、カドミウムを含む浸出液を得る浸出工程と、前記浸出液に亜鉛粉末を添加し、鉛と銅を金属鉛と金属銅の沈殿物として沈殿させ、前記沈殿物を含むセメンテーションスラリーを形成した後、前記セメンテーションスラリーに固液分離処理を施し、前記沈殿物を含む固形物と液相として銅、および鉛が低減された電解始液を得る部分セメンテーション工程と、前記電解始液を満たした電解槽にカソードとアノードを浸漬し、カドミウムがカソードに析出して金属カドミウムとなる一方で、亜鉛の析出量が1mass%以下、ニッケルとタリウムの析出量が0.02mass%以下に抑制される範囲に、電流密度と電解終了時の電解液のカドミウム濃度を調整して前記金属カドミウムを得る電解採取工程とからなることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【0008】
本発明の第2の発明は、第1の発明における浸出工程が、前記カドミウム沈殿物に酸を添加して、前記カドミウム沈殿物中のカドミウムが浸出される範囲にpHを調整して、カドミウムを含む浸出スラリーを形成した後、前記カドミウムを含む浸出スラリーに酸化剤を添加し、酸化還元電位をマンガン酸化物が形成される範囲に調整して得た、前記マンガン酸化物の沈殿物を含む酸化スラリーに固液分離処理を施し、マンガンが低減されたカドミウムを含む浸出液を得る工程であることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【0009】
本発明の第3の発明は、第2の発明における酸化還元電位が、1000mV以上(vs. Ag/AgCl)の範囲に調整されていることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【0010】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明における亜鉛粉末の添加量が、0.2g/L以上、5g/L以下の範囲に調整されていることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【0011】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明における電流密度が、50A/m2以上、2000A/m2以下の範囲に調整され、前記電解終了時の電解液のカドミウム濃度が、1.0g/L以上、3.0g/L以下の範囲に調整されていることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【0012】
本発明の第6の発明は、第1から第4の発明における電流密度が、50A/m2以上、150A/m2以下の範囲に調整され、前記電解終了時の電解液のカドミウム濃度が1.0g/L以上、3.0g/L以下の範囲に調整されていることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【0013】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明における中和工程が、第1のpH調整工程と、第2のpH調整工程とから構成され、第1のpH調整工程、第2のpH調整工程の順に行なわれていることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【0014】
本発明の第8の発明は、第1から第7の発明におけるカドミウムを含有する原料溶液が、0.05g/L以上のカドミウム濃度を有し、亜鉛濃度が5g/L以下、銅濃度が0.1g/L以下、鉛濃度が1g/L以下、マンガン濃度が1g/L以下、ニッケル濃度が0.005g/L以下、タリウム濃度が0.05g/L以下であることを特徴とする金属カドミウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属カドミウムの製造方法によれば、Cd>95mass%、Mn、Pb、Cu、Ni、Tl品位がそれぞれ≦0.02mass%、Zn≦1mass%の純度の高い金属カドミウムを得ることができ、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用された金属カドミウムの製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の金属カドミウムの製造方法は、カドミウムを含む原料溶液を出発物質として、高純度のカドミウム金属を得る、金属カドミウムの製造方法である。
その方法は
図1に示すように、中和工程、浸出工程、部分セメンテーション工程、電解採取工程の4つの工程から構成されており、上記の工程を経ることによって、品位が95mass%を超えるカドミウムを含有し、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウム品位がそれぞれ0.02mass%以下、且つ、亜鉛品位が1mass%以下の高純度な金属カドミウムを製造することができる。
以下、それぞれの工程を説明する。
【0018】
<中和工程>
中和工程は、カドミウムを含有する原料溶液にアルカリを添加して、その原料溶液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物となる範囲に前記原料溶液のpHを調整して、前記カドミウム沈殿物を含む中和スラリーを形成した後、前記中和スラリーに固液分離処理を施し、前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物を得る工程である。
【0019】
ここで、前記原料溶液は、望ましくは、0.05g/L以上のカドミウム濃度を有し、亜鉛濃度が5g/L以下、銅濃度が0.1g/L以下、鉛濃度が1g/L以下、マンガン濃度が1g/L以下、ニッケル濃度が0.005g/L以下、タリウム濃度が0.05g/L以下の組成を有する原料溶液である。この組成範囲を満たす原料溶液は、以降の工程を効果的に実施することができ、さらにマンガン濃度が10g/L以下と、より多く含有している点以外は先の原料溶液と同じ成分組成範囲を示す原料溶液からでも、後述の第2の実施形態を用いることで効果的な金属カドミウムの製造が可能である。
【0020】
さて、この中和工程の実施に際して、カドミウムがカドミウム水酸化物を形成して沈殿物となる範囲にpH調整される限り、その調整範囲は特に限定されない。例えば、pH8.5以上の範囲に調整するようにすればよい。これにより、カドミウム水酸化物を効率的に沈殿させることが可能である。pH調整のために使用するpH調整剤は、工業的に使用可能なアルカリであればいずれも使用可能である。例えば、水酸化カルシウムだけでなく、水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム、水酸化カリウム等を使用してよい。
【0021】
なお、カドミウム沈殿物に含まれるカドミウムの濃度を効果的に高めるために、この中和工程を、第1のpH調整工程、第2のpH調整工程の順に分けて行ってもよい。
【0022】
(第1のpH調整工程)
第1のpH調整工程は、カドミウムを含有する原料溶液に対し、pH調整剤を添加し、亜鉛と鉛が水酸化物を形成して沈殿物となる範囲に、原料溶液をpH調整し、亜鉛と鉛の水酸化物の沈殿物と、濾液からなる第1中和スラリーを形成し、この第1中和スラリーを固液分離して亜鉛と鉛の水酸化物の沈殿物を系外に除去し、カドミウムを含む濾液を得る工程である。
【0023】
この場合、前記亜鉛と鉛が水酸化物を形成して沈殿物となる範囲にpH調整される限り、その調整範囲は特に限定されない。例えば、pH7.0以上、9.0以下の範囲に調整するようにすればよい。これにより、亜鉛や鉛を優先的に沈殿分離させることが可能である。
【0024】
(第2のpH調整工程)
第2のpH調整工程は、前工程の第1のpH調整工程で得た濾液に対し、さらにpH調整剤を添加し、前記濾液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物となる範囲に濾液のpHを調整することにより、固相部に前記カドミウム水酸化物が分配された第2中和スラリーを形成し、この第2中和スラリーを固液分離して前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物を得る工程である。
【0025】
この場合、前記第1のpH調整工程で調整した濾液のpHよりも大きく調整する。
この調整に際して、前記濾液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成する範囲にpH調整される限り、その調整範囲は特に限定されない。例えば、pH8.5以上の範囲に調整するようにすればよい。これにより、沈殿分離を効果的に行うことが可能である。また、上記においてさらにpH11.0以下の範囲に調整することによって、前記濾液にタリウムが含まれる場合であっても、タリウムを液中に効果的に分配することが可能である。
【0026】
<浸出工程>
浸出工程は、前工程の中和工程で得たカドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物に水を添加して作製した水溶液、或いはスラリーに対して、酸を添加してカドミウムを優先的に浸出させ、カドミウム以外の他の成分は不純物として、水酸化物や硫酸塩の固体形態に分配させ、これを固液分離してカドミウムが浸出された浸出スラリーを形成した後、この浸出スラリーを固液分離してカドミウムが浸出された浸出液を得る工程である。
【0027】
この場合、使用する酸は特に限定されず、例えば、硫酸を使用することができる。また、浸出液のpHはカドミウムが優先的に浸出されるpHである限り、その調整範囲は特に限定されない。例えば、pH2.0以上、pH5.0以下の範囲に調整するようにすればよい。これにより、カドミウムを効果的に浸出することが可能である。
【0028】
このようにして得られる浸出液は、例えば、カドミウム濃度が20g/L以上、亜鉛濃度が50g/L以下、マンガン濃度が2g/L以下、鉛濃度が0.5g/L以下、銅濃度が0.1g/L以下、ニッケル濃度が0.2g/L未満、タリウム濃度が0.1g/L未満の組成を有する浸出液である。pH5.0を超える範囲に調整すると、カドミウムが十分に浸出されず、pH2.0未満の範囲に調整すると、酸を大量に消費する一方でカドミウムの浸出率は殆ど向上しないため、非効率である。
【0029】
さらに原料溶液のマンガン濃度が10g/L以下と、より多くのマンガンを含有している点以外は、先の原料溶液と同じ成分組成範囲を示す原料溶液を用いる場合では、前記の浸出スラリーに対してさらに酸化処理を施すことによって浸出液を得ても良い。(浸出スラリーに対してさらに酸化処理を施す実施形態を第2の実施形態と称する。)
さて、この第2の実施形態では、前記の浸出スラリーに酸化剤を添加し、酸化還元電位を浸出スラリーに含まれるマンガンをマンガン酸化物とする範囲に調整し、そのマンガン酸化物を沈殿物として含む酸化スラリーを形成後、この酸化スラリーを固液分離することによって浸出液を得る。このようにして得られる浸出液は、カドミウムが浸出されているとともに、マンガン酸化物として含まれるマンガンが除去された、マンガン量が低減された浸出液である。
【0030】
上記浸出工程、或いは酸化処理を含む浸出工程を経ることにより、マンガンの殆どが除去されるため、後述の電解採取工程においてアノードにマンガンが析出することを効果的に抑制することができる。これにより、電解採取を行う毎にアノード表面のクリーニングを行うことや、電解採取中にアノードから脱落するマンガン酸化物の受け皿などを電解槽内に設置するなどの、金属カドミウムへのマンガンの混入を防止するための処置が不要となり、効率的な電解採取が可能となる。
【0031】
なお、第2の実施形態における酸化剤の添加に際して、使用する酸化剤は特に限定されず、例えば、次亜塩素酸ソーダを使用することができる。また、酸化剤の添加量はマンガンがマンガン酸化物として沈殿する酸化還元電位となる範囲である限り、その調整範囲は特に限定されない。例えば、酸化還元電位が1000mV以上(vs. Ag/AgCl)となる範囲に調整するようにすればよい。これにより、マンガンを効果的に酸化物として沈殿させることが可能である。
【0032】
このように、酸化処理を含む浸出工程を経て得られる浸出液は、マンガンが高度に除去された浸出液であり、例えば、カドミウム濃度が20g/L以上、亜鉛濃度が50g/L以下、マンガン濃度が0.005g/L以下、鉛濃度が0.5g/L以下、銅濃度が0.1g/L以下、ニッケル濃度が0.2g/L未満、タリウム濃度が0.1g/L未満の組成を有する浸出液である。
【0033】
<部分セメンテーション工程>
部分セメンテーション工程は、前工程の浸出工程で得たカドミウムが浸出された浸出液に対して亜鉛粉末を添加し、鉛と銅を金属として沈殿させ、鉛、および銅を沈殿物として含むセメンテーションスラリーを形成した後、このセメンテーションスラリーを固液分離して鉛、および銅が除去された電解始液を得る工程である。
この場合、亜鉛粉末の添加量は特に限定されないが、例えば、亜鉛粉末の添加量を0.2g/L以上、5g/L以下の範囲(好ましくは0.7g/L以上、1.5g/L以下の範囲)に調整するようにすればよい。
【0034】
これにより、部分セメンテーション工程で得られた浸出液に含まれる鉛と銅を、それぞれ金属鉛と金属銅として効果的に沈殿させて前記浸出液に含まれる鉛と銅を0.005g/L未満まで低減し、前記浸出液に含まれるカドミウムの50%以上を残留させることが可能である。このようにして得られる溶液は、例えば、カドミウム濃度が10g/L以上、亜鉛濃度が55g/L以下、マンガン濃度が2g/L未満(前記の浸出工程において、酸化剤の添加によりマンガンの除去を行った場合は0.005g/L未満)、鉛濃度が0.005g/L未満、銅濃度が0.005g/L未満の組成を示す溶液であり、後述の電解採取工程の電解始液として好ましく使用することができる。
なお、亜鉛粉末の添加に際して、亜鉛粉末の添加量をできるだけ低い添加量に留めて鉛と銅とを除去し、後述の電解採取工程を適用することが好ましい。これにより、金属カドミウムの析出に利用される亜鉛を抑制することができ、効率的な金属カドミウムの採取が可能である。
【0035】
<電解採取工程>
電解採取工程は、前工程の部分セメンテーション工程で得た電解始液を満たした電解槽に対してアノードとカソードを浸漬し、カドミウムがカソードに析出して金属カドミウムとなる一方で、亜鉛の析出が抑制される範囲に電流密度と、電解終了時の電解液のカドミウム濃度を調整して金属カドミウムを電解採取する工程である。得られた金属カドミウムの回収は、例えば、金属カドミウムが析出したカソードに振動を与えて金属カドミウムをカソードから脱落させ、これを電解槽の底部から抜き取ることによって行われる。
【0036】
ここで、前記のカソードとして、例えば、電気導電率とコストの面で優れるSUS板やAl板を用いることができる。また、前記のアノードとして、例えば、酸素発生用電極を用いることができる。酸素発生用電極を用いることによって、アノードにおいて塩素が発生することを効果的に抑制することが可能である。アノードにおいて塩素が発生してしまうと、カソードにおいて析出した金属カドミウムを再酸化、すなわち再溶解させてしまうため非効率である。
【0037】
また、前記の酸素発生用電極としては、例えば、デノラ・ペルメレック株式会社製のDSE酸素発生用電極を採用することができる。また、アノードを濾布などで覆って発生した塩素をカソードから遮断することによって、アノードで発生した塩素のカソード近傍への拡散を効果的に抑制することが可能である。
【0038】
さて、この電解採取の電流密度と電解終了時の電解液のカドミウム濃度の調整に際して、亜鉛の析出量が1mass%以下、ニッケルとタリウムの析出量が0.02mass%以下となる限り、その調整範囲は特に限定されない。例えば、電流密度は50A/m2以上、2000A/m2以下の範囲に調整するようにすればよい。また、上記の電流密度範囲において、電解終了時の電解液のカドミウム濃度を1.0g/L以上、3.0g/L以下となる範囲に調整することによって、亜鉛、ニッケル、タリウムの析出を効果的に抑制することが可能である。
【0039】
このようにして得られる金属カドミウムは、例えば、純度95mass%を超え、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウム品位がそれぞれ0.02mass%以下、且つ、亜鉛品位が1mass%以下の組成を有した金属カドミウムである。2000A/m2を超えると、カドミウムとともに亜鉛が析出する恐れがあり、50A/m2未満であると電着量が不足して非効率である。
【0040】
そして、上記の電流密度の調整に際して、電流密度を50A/m2以上、150A/m2以下となる範囲に調整すると、亜鉛やニッケルやタリウムの析出をさらに抑制することができる。この場合、さらに、電解終了時の電解液のカドミウム濃度を1.0g/L以上、3.0g/L以下となる範囲に調整することによって、より効果的に亜鉛やニッケルやタリウムの析出を抑制することが可能である。
このようにして得られる金属カドミウムは、より高純度な金属カドミウムとなり、例えば、純度99.9mass%以上、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウム品位がそれぞれ0.01mass%以下、且つ、亜鉛品位が0.05mass%以下の組成を有し、極めて高純度な金属カドミウムである。
【0041】
ところで、電解始液のマンガン濃度が0.1g/L以上である場合、アノードにおいてマンガン酸化物が析出し、これが酸素発生の触媒となって塩素の発生が抑制されることがあるが、析出したマンガン酸化物が電解槽の底部へと脱落し、金属カドミウムに混入する恐れがある。このため、電解採取に際しては、例えば、アノード表面のクリーニングを都度行い、アノード表面のマンガン酸化物を除去することや、あるいは、電解採取中にアノードから脱落するマンガン酸化物の受け皿などを電解槽内に設置するなどの処置を行うことが好ましい。
【0042】
一方、前記の浸出工程において、酸化剤の添加によりマンガンの除去を行った第2の実施形態の場合には、電解始液のマンガン濃度は極めて低濃度となるため、アノードにおいてのマンガン酸化物の析出が効果的に抑制される。これは、電解採取を行う毎にアノード表面のクリーニングを行うことや、電解採取中にアノードから脱落するマンガン酸化物の受け皿などを電解槽内に設置するなどの、金属カドミウムへのマンガンの混入を防止するための処置が不要となることを意味する。これにより、作業を中断させることなく効率的に高純度の金属カドミウムを得ることが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて詳述する。
【実施例1】
【0044】
表1に示す組成の原料溶液を準備した。
【0045】
【0046】
次に、分取した原料溶液を25℃の常温で撹拌しながら、水酸化カルシウム粉末を添加し、pHを8.0に調整し、60分撹拌しながら保持して沈殿物を発生させ、この沈殿物を含む第1中和スラリーを得た。この第1中和スラリーをメンブレン濾紙で濾過し、沈殿物と濾液に分離した。
続けて、上記濾液を分取し、25℃の常温で撹拌しながら、水酸化カルシウム粉末を添加することでpHを11.0に調整し、60分撹拌しながら保持してカドミウム水酸化物を含む沈殿物を発生させ、この沈殿物を含む第2中和スラリーを得た。この第2中和スラリーをメンブレン濾紙で濾過、採取してカドミウム水酸化物を含む沈殿物を得た。
【0047】
次に、前記のカドミウム水酸化物を含む沈殿物40gを200mlビーカーに分取し、そのカドミウム水酸化物に、純水65mlを添加、25℃の常温で撹拌しながら、pHが4.0となるように64質量%硫酸を添加し、pHが安定してから60分間撹拌して浸出スラリーを得た。
この浸出スラリーに、さらに次亜塩素酸ソーダを酸化還元電位が1100mV(vs. Ag/AgCl)となるまで添加して酸化スラリーを得た。
この酸化スラリーをメンブレン濾紙で濾過し、濾液(浸出液)の組成を分析した。その分析結果を表2に示す。
【0048】
【0049】
カドミウムは高濃度に濃縮されていることが確認された。また、マンガンが除去されている一方で、その他の不純物は残存することが確認された。
次に、前記の浸出液を攪拌しながら亜鉛粉末を1.0g/Lの添加量で添加し、金属体の鉛と銅を含む沈殿物を発生させ、この沈殿物を含むセメンテーションスラリーを得た。このセメンテーションスラリーをメンブレン濾紙で濾過し、濾液(電解始液)の組成を分析した。その分析結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
カドミウム濃度は亜鉛粉末の添加後においても高濃度に維持されており、鉛と銅についてはいずれも0.005g/L未満の濃度に低減されていることが確認された。
次に、前記の電解始液にカソードとしてSUS304で作成された開口部5cm角のSUS板、アノードとして開口部5cm角の酸素発生用電極(デノラ・ペルメレック株式会社製のDSE酸素発生用電極)を浸漬し、電流密度が150A/m2(0.375A)となるようにして電解採取を行った。電解液中のカドミウム濃度が1.0g/Lとなった時点で電解採取を完了し、電解槽よりカソードを取り出して電着した金属カドミウムを剥ぎ取り、得られた金属カドミウムの不純物品位を分析した。
その分析結果を表4に示す。また、この分析結果からカドミウム品位を求めた。その結果を表5に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
得られた金属カドミウムは、純度95mass%を超え、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウムの品位がそれぞれ0.02mass%以下、且つ、亜鉛品位が1mass%以下の品位レベルを満足し、さらには、純度99.9mass%以上、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウムの品位がそれぞれ0.01mass%以下、且つ、亜鉛品位が0.05mass%以下の極めて高純度な金属カドミウムとなっていた。
【0055】
次に、電解槽よりアノードを取り出しアノードの表面状態を確認した。
アノードの表面にはマンガン酸化物は析出していなかった。これは、金属カドミウムへのマンガンの混入を防止するための処置が不要となり、作業を中断させることなく効率的に電解採取が可能となることを意味するものである。
【実施例2】
【0056】
電解採取時の電流密度を600A/m2(1.5A)に調整した以外は、実施例1と同様に行った。得られた金属カドミウムの不純物品位の分析結果を表6に示す。また、この分析結果からカドミウム品位を求めた。その結果を表7に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
得られた金属カドミウムは、純度95mass%を超え、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウムの品位がそれぞれ0.02mass%以下、且つ、亜鉛品位が1mass%以下の高純度な金属カドミウムとなっていた。
次に、電解槽よりアノードを取り出しアノードの表面状態を確認した。実施例1と同様に、アノードの表面にはマンガン酸化物は析出していなかった。
【実施例3】
【0060】
前記浸出スラリーに、次亜塩素酸ソーダの添加による酸化スラリーの形成を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。
その結果、実施例1と同様に、純度99.9mass%以上、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウムの品位がそれぞれ0.01mass%以下、且つ、亜鉛品位が0.05mass%以下の極めて高純度な金属カドミウムが得られた。
【0061】
さらに、電解槽よりアノードを取り出しアノードの表面状態を確認すると、アノードの表面にはマンガン酸化物が析出していたが、電解採取を行う毎にアノード表面のクリーニングを行うことや、電解採取中にアノードから脱落するマンガン酸化物の受け皿などを電解槽内に設置するなどの、金属カドミウムへのマンガンの混入を防止するための処置を合わせて行うことによって、実操業においても適用することが可能である。
【0062】
(比較例1)
部分セメンテーション工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。
得られた金属カドミウムの不純物品位の分析結果を表8に示す。また、この分析結果からカドミウム品位を求めた。
その結果を表9に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
得られた金属カドミウムは、純度95mass%を超え、且つ、マンガン、銅、ニッケル、タリウムの品位がそれぞれ0.02mass%以下、且つ、亜鉛品位が1mass%以下となっていたが、鉛は0.02mass%を超えてしまった。
【0066】
(比較例2)
電解採取時の電流密度を3000A/m2(7.5A)に調整した以外は、実施例1と同様に行った。得られた金属カドミウムの不純物品位の分析結果を表10に示す。また、この分析結果からカドミウム品位を求めた。その結果を表11に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
得られた金属カドミウムは、純度95mass%を超え、且つ、マンガン、鉛、銅、タリウム品位がそれぞれ0.02mass%以下になっていたが、ニッケルは0.02mass%を超えてしまい、また、亜鉛も1mass%を超えてしまった。
【0070】
本発明の各工程を経ることによって、純度95mass%を超え、且つ、マンガン、鉛、銅、ニッケル、タリウムの品位がそれぞれ0.02mass%以下、且つ、亜鉛品位が1mass%以下の組成を有した金属カドミウムが得られることが確認できた。