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特許7420027EUVマスクブランク用多層反射膜付き基板、その製造方法及びEUVマスクブランク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】EUVマスクブランク用多層反射膜付き基板、その製造方法及びEUVマスクブランク
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20240116BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240116BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240116BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20240116BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240116BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F7/20 521
G02B5/26
G02B5/28
C23C14/06 R
C23C14/34
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020151709
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022045940
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲月 判臣
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 恒男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 英雄
(72)【発明者】
【氏名】西川 和宏
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/071086(WO,A1)
【文献】特開2015-122468(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0143981(US,A1)
【文献】特開2015-109366(JP,A)
【文献】特開2012-054412(JP,A)
【文献】特表2016-519778(JP,A)
【文献】特開2004-331998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた多層反射膜とを有し、該多層反射膜が、Si層とMo層とが交互に積層されたSi/Mo積層部と、Si/Mo積層部上に、上記多層反射膜の最上層として上記Si/Mo積層部に接して形成されたRuを含有する保護層とを有し、該保護層が、上記Si/Mo積層部に接して設けられた下層と、上記基板から最も離間する側に設けられた上層とを有し、上記下層がRu、上記上層がRuと、Ruとは異なる金属又は半金属1種以上とを含有する材料で形成されており、
上記上層が、上記金属又は半金属の含有率が、上記上層の厚さ方向に上記基板から離間する側に向かって連続的に増加する傾斜組成、又は2以上の副層で構成され、各副層の上記金属又は半金属の含有率が、上記上層の厚さ方向に上記基板から離間する側に向かって段階的に増加する傾斜組成を有する
ことを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項2】
上記Ruとは異なる金属が、Ruより標準酸化還元電位が低い遷移金属であることを特徴とする請求項1に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項3】
上記上層がRuと、Nb、Zr、Ti、Cr及びSiから選ばれる1種以上とを含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項4】
上記上層がRuと、O2ガスとCl2ガスとを含むエッチングガスを用いたドライエッチングにおいてRuよりエッチング速度が遅い1種以上の金属又は半金属とを含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項5】
上記上層が、更に、酸素を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項6】
上記Si/Mo積層部の上記Si層と上記Mo層との間のいずれか1以上に、SiとNとを含有する層が上記Si層と上記Mo層との双方に接して形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項7】
上記SiとNとを含む層の厚さが2nm以下であることを特徴とする請求項6記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項8】
上記Si/Mo積層部の上記保護層と接する層がMo層であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項9】
上記多層反射膜の最上部が、上記基板から離間する側から、上記保護層と、上記Mo層と、上記SiとNとを含有する層と、上記Si層とで構成されていることを特徴とする請求項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項10】
上記基板から離間する側から、上記保護層と、上記Mo層と、上記SiとNとを含有する層と、上記Si層とで構成されている上記多層反射膜の最上部において、上記保護層の厚さが4nm以下、上記Mo層の厚さが1nm以下、上記SiとNとを含有する層の厚さが2nm以下、かつ上記Si層の厚さが4nm以下であることを特徴とする請求項9に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項11】
上記Si/Mo積層部中に、上記基板側から、Si層と、該Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、該SiとNとを含む層に接して形成されたMo層とで構成される3層積層構造単位、又は基板側から、Mo層と、Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層と、SiとNとを含む層に接して形成されたSi層とで構成される3層積層構造単位が、30以上含まれていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項12】
上記Si/Mo積層部中に、上記基板側から、Si層と、該Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、該SiとNとを含む層に接して形成されたMo層と、該Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層とで構成される4層積層構造単位が、30以上含まれていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項13】
波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°での、上記多層反射膜のピーク反射率が65%以上であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を製造する方法であって、
(A)上記Si/Mo積層部をスパッタリングにより形成する工程
を含み、上記スパッタリングを、
MoターゲットとSiターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、
MoターゲットとSiターゲットとに、別々に電力を印加することができ、
基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、
各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、
基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ
窒素含有ガスを導入することができる
チャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を製造する方法であって、
(B)上記保護層をスパッタリングにより形成する工程
を含み、上記スパッタリングを、
Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、
Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとに、別々に電力を印加することができ、
基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、
各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、
基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ
酸素含有ガスを導入することができる
チャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の上記多層反射膜上に、Ta又はCrを含有する吸収体膜を有することを特徴とするEUVマスクブランク。
【請求項17】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の上記多層反射膜上に、Taを含有し、Crを含有しない吸収体膜と、該吸収体膜上に、Crを含有し、上記吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能するハードマスク膜とを有することを特徴とするEUVマスクブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIなどの半導体デバイスの製造などに使用されるEUVマスクの素材となるEUVマスクブランク、EUVマスクブランクの製造に用いられるEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小投影光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が繰り返し用いられる。従来、露光光の波長はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流であり、露光プロセスや加工プロセスを複数回組み合わせるマルチパターニングというプロセスを採用することにより、最終的には露光波長より小さい寸法のパターンを形成してきた。
【0003】
しかし、継続的なデバイスパターンの微細化により、更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より更に波長の短いEUV(Extreme UltraViolet(極端紫外))光を用いたEUVリソグラフィ技術が開発されてきた。EUV光とは、波長が例えば10~20nm程度の光、より具体的には、波長が13.5nm付近の光である。このEUV光は、物質に対する透過性が極めて低く、従来の透過型の投影光学系やマスクが使えないことから、反射型の光学素子が用いられる。そのため、パターン転写用のマスクも反射型マスクが提案されている。反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜の上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。一方、吸収体膜にパターニングする前の状態(レジスト層が形成された状態も含む)のものが、反射型マスクブランクと呼ばれ、これが反射型マスクの素材として用いられる。一般に、EUV光を反射させる反射型マスク及び反射型マスクブランクは、各々、EUVマスク及びEUVマスクブランクと呼ばれる。
【0004】
EUVマスクブランクは、低熱膨張の基板と、その上に形成されたEUV光を反射する多層反射膜と、その上に形成されたEUV光を吸収する吸収体膜とを含む基本構造を有している。多層反射膜としては、通常、モリブデン(Mo)膜とケイ素(Si)膜とを交互に積層することで、EUV光に対する必要な反射率を得るMo/Si多層反射膜が用いられる。更に、多層反射膜を保護するための保護膜として、ルテニウム(Ru)膜や、Ruと、ニオブ(Nb)やジルコニウム(Zr)との混合物からなる膜が、多層反射膜の最表層に形成される。一方、吸収体膜としては、EUV光に対して消衰係数の値が比較的大きいタンタル(Ta)やクロム(Cr)を主成分とする材料が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-516182号公報
【文献】国際公開第2015/012151号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多層反射膜の最上層として形成される保護層には、Si/Mo積層部と組み合わせて、多層反射膜としてEUV光に対して高い反射率が得られることが求められ、一般的に保護層を薄くすれば反射率を高くすることができる。しかし、保護層を薄くすると、マスク加工プロセスや、マスクを使用したEUV光による露光時などにおいて、多層反射膜に熱が加わると、大気中の酸素が保護層内を拡散して、Si/Mo積層部に到達し、特に、Si/Mo積層部の最上層がSi層であると、ケイ素酸化物を形成してしまい、反射率が低下してしまう。また、このような場合、保護層が酸化により膨張して剥離してしまう場合もある。
【0007】
また、保護層には、保護層上に形成される吸収体膜のエッチングや、吸収体膜をエッチングする際のエッチングマスクとして必要に応じて形成されるハードマスク膜の剥離のためのエッチングにおいて、耐性を有することが求められる。例えば、Ta系の吸収体膜の場合、Cl2ガスを用いたドライエッチング、Cr系のハードマスク膜の場合、Cl2ガスとO2ガスとを用いたドライエッチングが用いられる。これに対して、Ruは、O2ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングでエッチングされてしまうため、保護層を、RuとNbやZrとの混合物として、O2ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングに対する耐性を確保することがなされている。しかし、RuにNbやZrを添加した材料は、NbやZrが酸化されやすいため、保護層の表面が荒れやすく、また、大気中の酸素が保護層内を拡散しやすいため、上述した問題が生じやすい。そのため、このような保護層を薄くすることは難しかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、必要なエッチング耐性と、高い反射率とを有し、熱が加わった場合であっても、反射率が低下し難い多層反射膜を有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板及びその製造方法並びにEUVマスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、EUVマスクブランクに用いられる多層反射膜を、Si層とMo層とが交互に積層されたSi/Mo積層部と、多層反射膜の最上層としてSi/Mo積層部に接して形成されたRuを含有する保護層とを有するように構成し、この保護層を、Ruで形成され、かつSi/Mo積層部に接して設けられた下層と、Ruと、Ruとは異なる金属又は半金属1種以上とを含有する材料で形成され、かつ基板から最も離間する側に設けられた上層とを有するように構成すること、好ましくは、Si/Mo積層部の保護層と接する層をMo層とすることにより、必要なエッチング耐性と、高い反射率とを有し、熱が加わった場合であっても、反射率が低下し難い多層反射膜を有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板及びEUVマスクブランクとなることを見出した。
【0010】
そして、このようなEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板及びEUVマスクブランクの多層反射膜をスパッタリングにより形成する際、Si/Mo積層部を形成した後、Si/Mo積層部に、Si/Mo積層部と反応するガスを接触させることなく、保護層を形成することが、高い反射率を達成する上で、極めて重要であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、以下のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板、その製造方法及びEUVマスクブランクを提供する。
1.基板と、該基板上に設けられた多層反射膜とを有し、該多層反射膜が、Si層とMo層とが交互に積層されたSi/Mo積層部と、Si/Mo積層部上に、上記多層反射膜の最上層として上記Si/Mo積層部に接して形成されたRuを含有する保護層とを有し、該保護層が、上記Si/Mo積層部に接して設けられた下層と、上記基板から最も離間する側に設けられた上層とを有し、上記下層がRu、上記上層がRuと、Ruとは異なる金属又は半金属1種以上とを含有する材料で形成されており、
上記上層が、上記金属又は半金属の含有率が、上記上層の厚さ方向に上記基板から離間する側に向かって連続的に増加する傾斜組成、又は2以上の副層で構成され、各副層の上記金属又は半金属の含有率が、上記上層の厚さ方向に上記基板から離間する側に向かって段階的に増加する傾斜組成を有する
ことを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
2.上記Ruとは異なる金属が、Ruより標準酸化還元電位が低い遷移金属であることを特徴とする1に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
3.上記上層がRuと、Nb、Zr、Ti、Cr及びSiから選ばれる1種以上とを含有する材料で形成されていることを特徴とする1又は2に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
4.上記上層がRuと、O2ガスとCl2ガスとを含むエッチングガスを用いたドライエッチングにおいてRuよりエッチング速度が遅い1種以上の金属又は半金属とを含有する材料で形成されていることを特徴とする1乃至3のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
5.上記上層が、更に、酸素を含有することを特徴とする1乃至4のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
6.上記Si/Mo積層部の上記Si層と上記Mo層との間のいずれか1以上に、SiとNとを含有する層が上記Si層と上記Mo層との双方に接して形成されていることを特徴とする1乃至5のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
7.上記SiとNとを含む層の厚さが2nm以下であることを特徴とする6記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
8.上記Si/Mo積層部の上記保護層と接する層がMo層であることを特徴とする1乃至7のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
9.上記多層反射膜の最上部が、上記基板から離間する側から、上記保護層と、上記Mo層と、上記SiとNとを含有する層と、上記Si層とで構成されていることを特徴とするに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
10.上記基板から離間する側から、上記保護層と、上記Mo層と、上記SiとNとを含有する層と、上記Si層とで構成されている上記多層反射膜の最上部において、上記保護層の厚さが4nm以下、上記Mo層の厚さが1nm以下、上記SiとNとを含有する層の厚さが2nm以下、かつ上記Si層の厚さが4nm以下であることを特徴とする9に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
11.上記Si/Mo積層部中に、上記基板側から、Si層と、該Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、該SiとNとを含む層に接して形成されたMo層とで構成される3層積層構造単位、又は基板側から、Mo層と、Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層と、SiとNとを含む層に接して形成されたSi層とで構成される3層積層構造単位が、30以上含まれていることを特徴とする1乃至10のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
12.上記Si/Mo積層部中に、上記基板側から、Si層と、該Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、該SiとNとを含む層に接して形成されたMo層と、該Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層とで構成される4層積層構造単位が、30以上含まれていることを特徴とする1乃至10のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
13.波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°での、上記多層反射膜のピーク反射率が65%以上であることを特徴とする1乃至12のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
14.1乃至13のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を製造する方法であって、
(A)上記Si/Mo積層部をスパッタリングにより形成する工程
を含み、上記スパッタリングを、
MoターゲットとSiターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、
MoターゲットとSiターゲットとに、別々に電力を印加することができ、
基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、
各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、
基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ
窒素含有ガスを導入することができる
チャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の製造方法。
15.1乃至13のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を製造する方法であって、
(B)上記保護層をスパッタリングにより形成する工程
を含み、上記スパッタリングを、
Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、
Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとに、別々に電力を印加することができ、
基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、
各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、
基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ
酸素含有ガスを導入することができる
チャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の製造方法。
16.1乃至13のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の上記多層反射膜上に、Ta又はCrを含有する吸収体膜を有することを特徴とするEUVマスクブランク。
17.1乃至13のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の上記多層反射膜上に、Taを含有し、Crを含有しない吸収体膜と、該吸収体膜上に、Crを含有し、上記吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能するハードマスク膜とを有することを特徴とするEUVマスクブランク。
また、本発明は、以下のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板、その製造方法及びEUVマスクブランクが関連する。
[1].基板と、該基板上に設けられた多層反射膜とを有し、該多層反射膜が、Si層とMo層とが交互に積層されたSi/Mo積層部と、Si/Mo積層部上に、上記多層反射膜の最上層として上記Si/Mo積層部に接して形成されたRuを含有する保護層とを有し、該保護層が、上記Si/Mo積層部に接して設けられた下層と、上記基板から最も離間する側に設けられた上層とを有し、上記下層がRu、上記上層がRuと、Ruとは異なる金属又は半金属1種以上とを含有する材料で形成されていることを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[2].上記Ruとは異なる金属が、Ruより標準酸化還元電位が低い遷移金属であることを特徴とする[1]に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[3].上記上層がRuと、Nb、Zr、Ti、Cr及びSiから選ばれる1種以上とを含有する材料で形成されていることを特徴とする[1]又は[2]に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[4].上記上層がRuと、O2ガスとCl2ガスとを含むエッチングガスを用いたドライエッチングにおいてRuよりエッチング速度が遅い1種以上の金属又は半金属とを含有する材料で形成されていることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[5].上記上層が、上記金属又は半金属の含有率が、上記上層の厚さ方向に上記基板から離間する側に向かって連続的に増加する傾斜組成、又は2以上の副層で構成され、各副層の上記金属又は半金属の含有率が、上記上層の厚さ方向に上記基板から離間する側に向かって段階的に増加する傾斜組成を有することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[6].上記上層が、更に、酸素を含有することを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[7].上記Si/Mo積層部の上記Si層と上記Mo層との間のいずれか1以上に、SiとNとを含有する層が上記Si層と上記Mo層との双方に接して形成されていることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[8].上記SiとNとを含む層の厚さが2nm以下であることを特徴とする[7]記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[9].上記Si/Mo積層部の上記保護層と接する層がMo層であることを特徴とする[1]乃至[8]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[10].上記多層反射膜の最上部が、上記基板から離間する側から、上記保護層と、上記Mo層と、上記SiとNとを含有する層と、上記Si層とで構成されていることを特徴とする[9]に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[11].上記最上部において、上記保護層の厚さが4nm以下、上記Mo層の厚さが1nm以下、上記SiとNとを含有する層の厚さが2nm以下、かつ上記Si層の厚さが4nm以下であることを特徴とする[10]に記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[12].上記Si/Mo積層部中に、上記基板側から、Si層と、該Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、該SiとNとを含む層に接して形成されたMo層とで構成される3層積層構造単位、又は基板側から、Mo層と、Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層と、SiとNとを含む層に接して形成されたSi層とで構成される3層積層構造単位が、30以上含まれていることを特徴とする[1]乃至[11]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[13].上記Si/Mo積層部中に、上記基板側から、Si層と、該Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、該SiとNとを含む層に接して形成されたMo層と、該Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層とで構成される4層積層構造単位が、30以上含まれていることを特徴とする[1]乃至[11]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[14].波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°での、上記多層反射膜のピーク反射率が65%以上であることを特徴とする[1]乃至[13]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板。
[15].[1]乃至[14]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を製造する方法であって、
(A)上記Si/Mo積層部をスパッタリングにより形成する工程
を含み、上記スパッタリングを、
MoターゲットとSiターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、
MoターゲットとSiターゲットとに、別々に電力を印加することができ、
基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、
各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、
基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ
窒素含有ガスを導入することができる
チャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の製造方法。
[16].[1]乃至[14]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を製造する方法であって、
(B)上記保護層をスパッタリングにより形成する工程
を含み、上記スパッタリングを、
Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、
Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとに、別々に電力を印加することができ、
基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、
各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、
基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ
酸素含有ガスを導入することができる
チャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の製造方法。
[17].基板と、該基板上に設けられた多層反射膜とを有し、該多層反射膜が、Si層とMo層とが交互に積層されたSi/Mo積層部と、Si/Mo積層部上に、該Si/Mo積層部に接して形成されたRuを含有する保護層とを有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を製造する方法であって、
(A)上記Si/Mo積層部をスパッタリングにより形成する工程、及び
(B)上記保護層をスパッタリングにより形成する工程
を含み、
上記(A)工程後、上記(A)工程で形成した上記Si/Mo積層部に、該Si/Mo積層部と反応するガスを接触させることなく、上記(B)工程を実施することを特徴とするEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の製造方法。
[18].上記(A)工程を一のスパッタチャンバー内で実施し、上記Si/Mo積層部を形成した基板を、一のスパッタチャンバーから他のスパッタチャンバーに移動させて、上記(B)工程を上記他のスパッタチャンバー内で実施することを特徴とする[17]に記載の製造方法。
[19].上記一及び他のスパッタチャンバーとの間に、各々のスパッタチャンバーと個別に又は両方のスパッタチャンバーと同時に連通可能な搬送用チャンバーを設け、上記Si/Mo積層部を形成した基板を、上記一のスパッタチャンバーから上記搬送用チャンバーを経由させて上記他のスパッタチャンバーへ移動させることを特徴とする[18]に記載の製造方法。
[20].上記一のスパッタチャンバーから上記搬送用チャンバーへの移動、及び該搬送用チャンバーから上記他のスパッタチャンバーへの移動を、いずれも真空下で実施することを特徴とする[19]に記載の製造方法。
[21].[1]乃至[14]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の上記多層反射膜上に、Ta又はCrを含有する吸収体膜を有することを特徴とするEUVマスクブランク。
[22].[1]乃至[14]のいずれかに記載のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の上記多層反射膜上に、Taを含有し、Crを含有しない吸収体膜と、該吸収体膜上に、Crを含有し、上記吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能するハードマスク膜とを有することを特徴とするEUVマスクブランク。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、必要なエッチング耐性と、高い反射率とを有し、熱が加わった場合であっても、反射率が低下し難い多層反射膜を有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板及びEUVマスクブランクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の一例を示す中間省略部分断面図である。
図2】理想的なSi/Mo積層部と保護層とからなる多層反射膜を有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を説明するための中間省略部分断面図である。
図3】従来のSi/Mo積層部と保護層とからなる多層反射膜を有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を示す中間省略部分断面図である。
図4】本発明の多層反射膜の形成に好適なスパッタ装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板は、基板と、基板上(一の主表面(表側の面)上)に形成された露光光を反射する多層反射膜、具体的には、EUV光を反射する多層反射膜を有する。多層反射膜は、基板の一の主表面に接して設けてよく、また、基板と多層反射膜との間に下地膜を設けてもよい。EUV光を露光光とするEUVリソグラフィに用いられるEUV光の波長は13~14nmであり、通常、波長が13.5nm程度(例えば13.4~13.6nm)の光である。
【0015】
図1は、本発明のEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の一例を示す中間省略部分断面図である。このEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板10は、基板1の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜2を有する。
【0016】
基板は、EUV光露光用として、低熱膨張特性を有するものであることが好ましく、例えば、熱膨張係数が、±2×10-8/℃以内、好ましくは±5×10-9/℃の範囲内の材料で形成されているものが好ましい。また、基板は、表面が十分に平坦化されているものを用いることが好ましく、基板の主表面の表面粗さは、RMS値で0.5nm以下、特に0.2nm以下であることが好ましい。このような表面粗さは、基板の研磨などにより得ることができる。
【0017】
多層反射膜は、EUVマスクにおいて、露光光であるEUV光を反射する膜である。本発明において、多層反射膜は、Si(ケイ素)層とMo(モリブデン)層とが交互に積層された多層で構成されたSi/Mo積層部を有する。このSi/Mo積層部には、EUV光に対して相対的に高い屈折率を有する材料であるSiの層と、EUV光に対して相対的に低い屈折率を有する材料であるMoの層とを、周期的に積層したものが用いられる。ここで、Si層及びMo層は、各々、ケイ素単体及びモリブデン単体で形成されている層である。Si層及びMo層の積層数は、例えば40周期以上(各々40層以上)であることが好ましく、また、60周期以下(各々60層以下)であることが好ましい。Si/Mo積層部のSi層及びMo層の厚さは、露光波長に応じて適宜設定され、Si層の厚さは5nm以下であることが好ましく、Mo層の厚さは4nm以下であることが好ましい。Si層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、通常1nm以上であり、Mo層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、通常1nm以上である。Si層及びMo層の厚さは、EUV光に対して高い反射率が得られるように設定すればよい。また、Si層及びMo層の厚さの各々の厚さは、一定であっても、個々の層において異なっていてもよい。Si/Mo積層部の全体の厚さは、通常250~450nm程度である。
【0018】
本発明において、Si/Mo積層部は、Si層とMo層との間のいずれか1以上に、SiとNとを含有する層がSi層とMo層との双方に接して形成されていることが好ましい。SiとNとを含有する層は、酸素を含まないことが好ましい。SiとNとを含有する層として具体的には、SiN(ここで、SiNは構成元素がSi及びNのみからなることを意味する。)層が好適である。SiとNとを含有する層のNの含有率は、1原子%以上、特に5原子%以上であることが好ましく、また、60原子%以下、特に57原子%以下であることが好ましい。また、SiとNを含有する層の厚さは2nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。SiとNを含有する層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、0.1nm以上であることが好ましい。
【0019】
SiとNとを含有する層は、Si/Mo積層部を構成するSi層とMo層との間の少なくとも1箇所に設けられていることが好ましい。SiとNとを含有する層は、Mo層の基板側(下側)の一部又は全部に設けても、Mo層の基板から離間する側(上側)の一部又は全部に設けてもよいが、Si/Mo積層部を構成するSi層とMo層との間の全てに設けることが特に好ましい。
【0020】
特に、高い反射率を得る観点から、Si/Mo積層部中に、基板側から、Si層と、Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、SiとNとを含む層に接して形成されたMo層とで構成される3層積層構造単位、又は基板側から、Mo層と、Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層と、SiとNとを含む層に接して形成されたSi層とで構成される3層積層構造単位が、30以上、特に40以上含まれていることが好ましい。また、Si/Mo積層部中に、基板側から、Si層と、Si層に接して形成されたSiとNとを含む層と、SiとNとを含む層に接して形成されたMo層と、Mo層に接して形成されたSiとNとを含む層とで構成される4層積層構造単位が、30以上、特に40以上含まれていることがより好ましい。3層積層構造単位及び4層積層構造単位の上限は、いずれも、好ましくは60以下である。
【0021】
本発明において、Si/Mo積層部として具体的には、例えば、図1に示されるようなものが挙げられる。図1に示されるEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板10の多層反射膜2には、基板1に接してSi/Mo積層部21が形成されている。Si/Mo積層部21には、Si層211及びMo層212が交互に積層されており、この場合は、基板1に最も近い側がSi層211、基板1から最も離間する側がMo層212となっている。そして、Si層211及びMo層212との間の全てに、Si層211及びMo層212の双方に接して、SiとNとを含む層213が形成されている。従って、この場合は、基板側から、Si層211、SiとNとを含む層213及びMo層212の3層積層構造単位が含まれ、また、基板側から、Mo層212、SiとNとを含む層213及びSi層211の3層積層構造単位が含まれており、更に、基板側から、Si層211、SiとNとを含む層213、Mo層212及びSiとNとを含む層213の4層積層構造単位が含まれている。
【0022】
多層反射膜のSi/Mo積層部は、Si層とMo層とを交互に積層することにより形成される。図2は、理想的なSi/Mo積層部と保護層とからなる多層反射膜を有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を説明するための中間省略部分断面図である。また、図3は、従来のSi/Mo積層部と保護層とからなる多層反射膜を有するEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を示す中間省略部分断面図である。EUVマスクブランク用多層反射膜付き基板10の多層反射膜2のSi/Mo積層部21を、基板1上に、Si層とMo層とを直接交互に積層して形成した場合、図2に示されるような、Si層とMo層とが接触した、Si層211とMo層212のみで構成されたSi/Mo積層部21が形成された状態であることが理想である。このようなSi/Mo積層部21であれば、Si層とMo層とのみで構成されたSi/Mo積層部による、理論上の反射率が得られる。
【0023】
しかし、このような構成のSi/Mo積層部を形成することは、原理的には不可能ではないが、現実的な方法で形成した場合は、実際には、図3に示されるように、Si層211とMo層212とが接触する部分で、SiとMoとが混合し、この部分に、SiとMoとからなる相互拡散層21aが、意図せず形成されてしまう。このようなSiとMoとからなる相互拡散層が形成されると、Si層とMo層とのみで構成されたSi/Mo積層部で得られる理論上の値から、反射率が低下してしまう。更に、マスク加工プロセスや、マスクを使用したEUV光による露光時などにおいて、多層反射膜に熱が加わると、SiとMoとからなる相互拡散層が厚くなったり、SiとMoとからなる相互拡散層が変化したりして、更なる反射率の低下を招いてしまう。
【0024】
これに対して、Si層とMo層との間に、SiとNとを含有する層がSi層とMo層との双方に接して形成されていると、Si層とMo層との間に、反射率の低下を引き起こすSiとMoとからなる相互拡散層の形成が抑制されるので、Si層とMo層とのみで構成されたSi/Mo積層部で得られる理論上の値からの反射率の低下が抑制され、従来と比べて、高い反射率が達成される。なお、SiとNとを含有する層が形成されていないSi層とMo層との間には、通常、上述したSiとMoとからなる相互拡散層が、Si層とMo層との双方に接して形成されているが、本発明の多層反射膜のSi/Mo積層部では、SiとNとを含有する層が形成されているSi層とMo層との間では、SiとMoとからなる相互拡散層の形成が抑制されるので、Si層とMo層との間の全てにSiとMoとからなる相互拡散層が形成されている従来の多層反射膜と比べて、熱による反射率の低減が抑制される。この観点からは、SiとNとを含有する層は、Si層とMo層との間の一部に形成されていればよいが、Si層とMo層との間の多くに形成されている方が有利であり、Si層とMo層との間の全てに形成されていることが特に有利である。
【0025】
本発明において、多層反射膜は、多層反射膜の最上層としてSi/Mo積層部に接して、保護層を有している。多層反射膜の最表層をSi層又はMo層とした場合、フッ素を含むガスを用いたドライエッチングでエッチングされてしまうため、Si/Mo積層部の上に、保護層を設けることが有効である。保護層は、キャッピング層とも呼ばれ、その上に形成される吸収体膜から吸収体パターンを形成する際のエッチングストッパとして機能する。そのため、保護層には、吸収体膜とはエッチング特性が異なる材料が用いられる。また、保護層は、吸収体パターンの修正の際に、多層反射膜を保護するためにも有効であることが好ましい。
【0026】
本発明において、保護層は、Si/Mo積層部に接して設けられた下層と、基板から最も離間する側に設けられた上層とを有する。保護層として具体的には、例えば、図1に示されるようなものが挙げられる。図1に示されるEUVマスクブランク用多層反射膜付き基板10の多層反射膜2には、Si/Mo積層部21に接して保護層22が形成されており、保護層22は、基板1側から下層221と上層222とで構成されている。
【0027】
保護層の材料としては、ルテニウム(Ru)を含有する材料が用いられ、下層は、Ruで形成されている層(Ru層)、上層は、Ruと、Ruとは異なる金属又は半金属1種以上とを含有する材料で形成されている層とする。このようにすることで、保護層からSi/Mo積層部への酸素の拡散を抑制した上で、エッチング特性を改善したり、洗浄耐性を付与したりすることができる。上層のRuとは異なる金属は、Ruの標準酸化還元電位(Ru2++2e-⇔Ruにおける標準酸化還元電位)より低い標準酸化還元電位を有する金属(特に、Ruとの混合物としたとき、Ruよりも酸化物を形成しやすい金属)であることが好ましく、遷移金属であることがより好ましい。Ruとは異なる金属としては、Nb、Zr、Ti、Crなど、半金属としては、Siなどが好ましく、Ruとは異なる金属又は半金属1種以上とを含有する材料で形成されている層は、Ruと共に、これらの1種以上を含有していることが好ましい。このようにすることで、保護層が、Si/Mo積層部から離間する側から酸化された場合、上層に含まれる半金属、又はRuより標準酸化還元電位が低い金属が先に酸化されることになり、これにより、上層で、Ruで形成されている下層を保護し、酸素が下層に到達することを防止して、下層の酸化を抑制することができ、更に、保護層(下層)に接して形成されているSi/Mo積層部への酸素の拡散を抑制することができる。
【0028】
上層中のRuとは異なる1種以上の金属又は半金属の含有率(原子%)は、Ruの含有率と同じ又はRuの含有率未満であることが好ましい。また、上層中のRuとは異なる1種以上の金属又は半金属の含有率(原子%)の下限は、特に限定されるものではないが、0.1原子%以上であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましい。上層は、更に、金属又は半金属以外の他の元素を含有していてもよく、特に、上層中の半金属、及びRuより標準酸化還元電位が低い金属は、酸化されることで安定化することから、上層は、酸素を含有していてもよい。
【0029】
上層は、Ruと、O2ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチング、特に、O2ガスとCl2ガスとを含むエッチングガスを用いたドライエッチングにおいてRuよりエッチング速度が遅い1種以上の金属又は半金属とを含有する材料で形成されていることが好ましい。保護層をRu層とした場合、酸素ガスを含むガスをエッチングガスとしたドライエッチングでエッチングされてしまう。これに対して、保護層を、RuとNbやZrとの混合物の層とすれば、O2ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチング、特に、クロムを含む材料のエッチングに常用される、O2ガスとCl2ガスとを含むエッチングガスを用いたドライエッチングに対する耐性や、マスク製造プロセスなどで用いられるO3ガスに対する耐性を確保することができる。しかし、RuにNbやZrを添加した材料は、NbやZrが酸化されやすいため、保護層の表面が荒れやすく、また、大気中の酸素が保護層内を拡散しやすいため、酸素が、Si/Mo積層部に到達し、特に、Si/Mo積層部の最上層がSi層であると、ケイ素酸化物を形成してしまい、反射率が低下してしまう。また、このような場合、保護層が酸化により膨張して剥離してしまう場合もある。更に、多層反射膜は、高い反射率が求められるため、消衰係数の大きいRuを含む材料で形成された保護層の厚さは、薄い方が有利であるが、上述した酸素の拡散に対しては、保護層の厚さは、厚い方が好ましいため、RuにNbやZrを添加した材料単独では、保護層全体の厚さを薄くすることには限界がある。
【0030】
本発明においては、保護層内の基板から最も離間する側に、Ruと、O2ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチング、特に、クロムを含む材料のエッチングに常用される、O2ガスとCl2ガスとを含むエッチングガスを用いたドライエッチングにおいてRuよりエッチング速度が遅い1種以上の金属又は半金属とを含有する材料で形成された上層が配置され、保護層内のSi/Mo積層部に接する側に、Ruで形成された下層が配置されると、上層で、O2ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチング、特に、O2ガスとCl2ガスとを含むエッチングガスを用いたドライエッチングに対する耐性や、マスク製造プロセスなどで用いられるO3ガスに対する耐性を確保しつつ、Ruよりも酸化物を形成しやすい金属を含有する上層が、下層への酸素の到達を抑制し、また、Ruで形成した下層をSi/Mo積層部に接触させることによって、保護層からSi/Mo積層部への酸素の拡散を抑制することができ、これにより、多層反射膜が、必要なエッチング耐性と、高い反射率とを有するものとなる。
【0031】
保護層の厚さは、通常5nm以下、特に4nm以下であることが好ましい。保護層の厚さの下限は、通常、2nm以上である。そのうち、下層の厚さは、0.5nm以上、特に1nm以上で、2nm以下、特に1.5nm以下であることが好ましく、上層の厚さは、0.5nm以上、特に1nm以上で、3nm以下、特に2nm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の保護層の上層は、各々、単一組成(厚さ方向に組成が変化しない組成)の層であっても、金属又は半金属の含有率が、厚さ方向に基板から離間する側に向かって連続的に増加する傾斜組成を有する層であっても、2以上の副層で構成され、各副層の金属又は半金属の含有率が、厚さ方向に基板から離間する側に向かって段階的に増加する傾斜組成を有する層であってもよいが、傾斜組成を有する層であることが好ましい。2以上の副層で構成されている場合、各々の副層に含まれる金属又は半金属の種類が異なるようにすることもできる。
【0033】
Si/Mo積層部は、多層反射膜の基板に最も近い側の層を、Si層としても、Mo層としてもよい。一方、基板から最も離間する側の層は、Si層としても、Mo層としてもよいが、Mo層とすることが好ましく、Si/Mo積層部の保護層と接する層がMo層であることが好ましい。
【0034】
Si/Mo積層部の保護層と接する層がSi層である場合、Ruを含有する材料の保護層を、Si/Mo積層部に直接積層すると、図2に示されるような、Si/Mo積層部21のSi層211と保護層22とが接触した状態であることが理想である。このような状態であれば、保護層22による多層反射膜2の反射率の低下は限定的であり、高い反射率が得られる。
【0035】
しかし、このような状態にすることは、原理的には不可能ではないが、現実的な方法で形成した場合は、実際には、図3に示されるように、Si層211と保護層22とが接触する部分で、SiとRuとが混合し、この部分に、SiとRuとからなる相互拡散層21bが、意図せず形成されてしまう。このようなSiとRuとからなる相互拡散層が形成されると、SiとRuとからなる相互拡散層21bにより、反射率が低下してしまう。更に、マスク加工プロセスや、マスクを使用したEUV光による露光時などにおいて、多層反射膜に熱が加わると、SiとRuとからなる相互拡散層が厚くなったり、SiとRuとからなる相互拡散層が変化したり、更には、Ruを含有する材料の保護層が、大気に曝されると、保護層のみならず、Si層も酸化されてしまい、更なる反射率の低下を招いてしまう。
【0036】
これに対して、図1に示されるように、Si/Mo積層部21の保護層22と接する層がMo層212であると、Si/Mo積層部とRuを含有する材料の保護層との間に、反射率の低下を引き起こすSiとRuとからなる相互拡散層が形成されることがないので、Si/Mo積層部の保護層と接する層がSi層である場合と比べて、高い反射率が達成され、同時にMoと接するRu層の結晶性が向上して、緻密なRu層が得られる。
【0037】
Si/Mo積層部の保護層と接する層をMo層とする場合、このMo層の直近のSi層と、保護層と接するMo層との間には、Si層とMo層との双方に接して、SiとNとを含有する層が形成されていることが好ましい。具体的には、多層反射膜の最上部が、基板から離間する側から、保護層と、Mo層と、SiとNとを含有する層と、Si層とで構成されていることが好ましい。Si/Mo積層部の保護層と接するMo層の直近のSi層と、保護層と接するMo層との間は、保護層の影響を受けやすく、また、多層反射膜に熱が加わると、熱の影響を最も受けやすいため、SiとMoとからなる相互拡散層が最も形成されやすい。そのため、多層反射膜の最上部のSi層とMo層との間にSiとNとを含有する層が形成されていることが、高い反射率を得る上で、特に有効である。
【0038】
この場合、SiとNとを含有する層を形成すると、Ruを含有する材料で形成された保護層と接するMo層を薄く形成しても、その上にRuを含有する材料で形成された保護層を形成すれば、Ruを含有する材料で形成された保護層が比較的薄い膜であっても、Ruを含有する材料で形成された保護層、特に、下層は、結晶性の緻密な構造を有する安定な状態となる。そのため、Ruを含有する材料で形成された保護層と接するMo層の厚さは、2nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。特に、多層反射膜の最上部が、基板から離間する側から、保護層と、Mo層と、SiとNとを含有する層と、Si層とで構成されている場合、保護層の厚さは4nm以下、Mo層の厚さは1nm以下、SiとNとを含有する層の厚さは2nm以下、Si層の厚さは4nm以下であることが好ましい。
【0039】
本発明においては、多層反射膜の反射率を、波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°でのピーク反射率として、65%以上とすることができ、多層反射膜に、熱処理、例えば、大気雰囲気中で、200℃、10分間の熱処理を実施しても、反射率の変化(低下)が小さく、熱処理後も、ピーク反射率として、65%以上を維持することができる。
【0040】
Si/Mo積層部の形成方法としては、ターゲットに電力を供給し、供給した電力で雰囲気ガスをプラズマ化(イオン化)して、スパッタリングを行うスパッタ法や、イオンビームをターゲットに照射するイオンビームスパッタ法が挙げられる。スパッタ法としては、ターゲットに直流電圧を印加するDCスパッタ法、ターゲットに高周波電圧を印加するRFスパッタ法がある。スパッタ法とはスパッタガスをチャンバーに導入した状態でターゲットに電圧を印加し、ガスをイオン化し、ガスイオンによるスパッタリング現象を利用した成膜方法で、特にマグネトロンスパッタ法は生産性において有利である。ターゲットに印加する電力はDCでもRFでもよく、また、DCには、ターゲットのチャージアップを防ぐために、ターゲットに印加する負バイアスを短時間反転するパルススパッタリングも含まれる。
【0041】
Si/Mo積層部は、例えば、複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができ、具体的には、Si層及びSiとNとを含有する層を形成するためのケイ素(Si)ターゲットと、Mo層を形成するためのモリブデン(Mo)ターゲット)とを用い、スパッタガスとして、Si層及びMo層を形成する場合は、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガス、SiとNとを含有する層を形成する場合は、希ガスと共に窒素ガス(N2ガス)などの窒素含有ガスを用いて、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置(各々のターゲットのスパッタ面の中心を通る鉛直線が、基板の膜形成面の中心を通る鉛直線と一致しない配置)とし、SiターゲットとMoターゲットとを順次スパッタリングすることにより、Si層、SiとNとを含有する層及びMo層を順次形成することができる。スパッタリングは、基板を主表面に沿って自転させながら実施することが好ましい。また、この場合、チャンバー内には、シャッターなどのターゲットと基板との間を遮蔽する部材は設けないことが好ましい。なお、SiとNとを含有する層は、窒素含有ガスを用いた反応性スパッタリングで形成しても、ターゲットに窒化ケイ素ターゲットなどのケイ素化合物ターゲットを用いて形成してもよい。
【0042】
Si/Mo積層部は、
(A)Si/Mo積層部をスパッタリングにより形成する工程
を含む方法により形成することができる。この場合、特に、このスパッタリングを、MoターゲットとSiターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、MoターゲットとSiターゲットとに、別々に電力を印加することができ、基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ窒素含有ガスを導入することができるチャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することが好適である。
【0043】
保護層は、Si/Mo積層部と同様に、例えば、イオンビームスパッタ法やマグネトロンスパッタ法などのスパッタ法により形成することができるが、Si/Mo積層部と同様、マグネトロンスパッタ法が有利である。
【0044】
保護層は、例えば、複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができ、具体的には、ルテニウム(Ru)ターゲット、ルテニウム(Ru)以外の金属又は半金属(例えば、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)など)のターゲット、ルテニウム(Ru)と、ルテニウム(Ru)以外の金属又は半金属(例えば、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)など)とからなるターゲットなどを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスと、必要に応じて、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスとを用いて、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置として、単独のターゲットでスパッタリングすること、又は複数のターゲットを同時にスパッタリングすることにより形成することができる。スパッタリングは、基板を主表面に沿って自転させながら実施することが好ましい。
【0045】
例えば、下層は、Ruターゲットを用い、スパッタガスとして、希ガスを用いてスパッタリングすることにより形成することができる。一方、上層は、Ruターゲットと、ルテニウム(Ru)とは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとを用い、スパッタガスとして希ガスを用いてスパッタリングすることにより形成することができる。特に、複数のターゲットを同時にスパッタリングする場合、各ターゲットに印加する電力の比を連続的に又は段階的に変えることにより、傾斜組成を有する層を形成することができる。
【0046】
保護層の上層を、更に、金属又は半金属以外の他の元素を含む化合物で形成する場合は、スパッタガスとして、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスを用いた反応性スパッタリングにより形成することができる。特に、酸素を含有する層を形成する場合は、酸素ガス(O2ガス)を用いることが好ましい。また、ターゲットを、化合物としてもよい。
【0047】
保護層は、
(B)保護層をスパッタリングにより形成する工程
を含む方法により形成することができる。この場合、特に、このスパッタリングを、Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとを、各々1つ以上装着することができ、Ruターゲットと、Ruとは異なる金属又は半金属を1種以上含有するターゲットとに、別々に電力を印加することができ、基板と、各々のターゲットとの配置がオフセット配置であり、各々のターゲットと基板との間を遮蔽する部材を有さず、基板を主表面に沿って自転させることができ、かつ酸素含有ガスを導入することができるチャンバーを備えるマグネトロンスパッタ装置で実施することが好適である。
【0048】
このように、多層反射膜は、
(A)Si/Mo積層部をスパッタリングにより形成する工程と、
(B)保護層をスパッタリングにより形成する工程と
により好適に形成することができる。この場合、例えば、(A)工程を一のスパッタチャンバー内で実施し、Si/Mo積層部を形成した基板を、一のスパッタチャンバーから他のスパッタチャンバーに移動させて、(B)工程を他のスパッタチャンバー内で実施することができるが、(A)工程から(B)工程に移行する際に、Si/Mo積層部を、例えば、大気中などの酸素を含む雰囲気に曝してしまうと、Si/Mo積層部と保護層との間に、無用な酸化物層が形成されてしまい、反射率の低下や、層間での剥がれなどが生じるおそれがある。そのため(A)工程後、(B)工程に移行する際、(A)工程で形成したSi/Mo積層部に、Si/Mo積層部と反応するガス、特に、酸素ガス(O2ガス)などの酸素を含むガスを接触させること(より具体的には、大気に曝すこと)なく(B)工程に移行して、(B)工程を実施することが好ましい。
【0049】
(A)工程で形成したSi/Mo積層部に、Si/Mo積層部と反応するガスを接触させることなく、(B)工程を実施する方法として、具体的には、(A)工程を一のスパッタチャンバー内で実施し、Si/Mo積層部を形成した基板を、一のスパッタチャンバーから他のスパッタチャンバーに移動させて、(B)工程を他のスパッタチャンバー内で実施する際、一及び他のスパッタチャンバーとの間に、各々のスパッタチャンバーと個別に又は両方のスパッタチャンバーと同時に連通可能な搬送用チャンバーを設け、Si/Mo積層部を形成した基板を、一のスパッタチャンバーから搬送用チャンバーを経由させて他のスパッタチャンバーへ移動させる方法が挙げられる。この際、一のスパッタチャンバーから搬送用チャンバーへの移動、及び搬送用チャンバーから他のスパッタチャンバーへの移動を、いずれも常圧(大気圧)又は減圧(常圧より低圧)の不活性ガス雰囲気下又は真空下で実施することが好ましい。
【0050】
図4は、本発明の多層反射膜の形成に好適なスパッタ装置の一例を示す概念図である。このスパッタ装置100は、Si/Mo積層部をスパッタリングにより形成するためのスパッタチャンバー101と、保護層をスパッタリングにより形成するためのスパッタチャンバー102と、スパッタチャンバー101、102の双方と連結する搬送用チャンバー103と、搬送用チャンバー103と連結するロードロックチャンバー104とで構成されている。搬送用チャンバー103とロードロックチャンバー104との間には、開閉可能な隔壁(図示せず)が設けられており、また、スパッタチャンバー101、102と搬送用チャンバー103との間にも、各々、必要に応じて開閉可能な隔壁を設けることができる。
【0051】
このようなスパッタ装置で多層反射膜を形成する場合、例えば、まず、ロードロックチャンバー104に基板を導入し、ロードロックチャンバー104内を減圧後、隔壁を開けて、基板を、搬送用チャンバー103を経由させてスパッタチャンバー101に移動させて、スパッタチャンバー101内でSi/Mo積層部を形成する。次に、Si/Mo積層部が形成された基板を、スパッタチャンバー101から搬送用チャンバー103を経由させてスパッタチャンバー102に移動させて、スパッタチャンバー102内で保護層を形成する。次に、Si/Mo積層部及び保護層(多層反射膜)が形成された基板を、スパッタチャンバー102から搬送用チャンバー103を経由させてロードロックチャンバー104に移動させて、隔壁を閉じ、ロードロックチャンバー104内を常圧に戻して、多層反射膜が形成された基板を取り出せば、EUVマスクブランク用多層反射膜付き基板を得ることができる。多層反射膜をこのように形成すれば、(A)工程で形成したSi/Mo積層部に、Si/Mo積層部と反応するガスを接触させることなく(B)工程を実施することができる。
【0052】
EUVマスクブランク用多層反射膜付き基板は、多層反射膜上に吸収体膜を形成することにより、EUVマスクブランクとなる。
【0053】
本発明のEUVマスクブランクは、EUVマスクブランク用多層反射膜付き基板の上記多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜、具体的には、EUV光を吸収し、反射率を低下させる吸収体膜を有する。吸収体膜は、保護層に接して設けられることが好ましい。EUVマスクブランクは、更に、吸収体膜上に、吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能するハードマスク膜を有していてもよい。一方、基板の一の主表面と反対側の面である他の主表面(裏側の面)下、好ましくは他の主表面に接して、EUVマスクを露光装置に静電チャックするために用いる導電膜を設けてもよい。なお、本発明において、基板の一の主表面を表側の面かつ上側、他の主表面を裏側の面かつ下側としているが、両者の表裏及び上下は便宜上定めたものであり、一の主表面と他の主表面とは、基板における2つの主表面(膜形成面)のいずれかであり、表裏及び上下は置換可能である。
【0054】
EUVマスクブランク(EUV露光用マスクブランク)からは、吸収体膜をパターニングして形成される吸収体パターン(吸収体膜のパターン)を有するEUVマスク(EUV露光用マスク)が製造される。EUVマスクブランク及びEUVマスクは、反射型マスクブランク及び反射型マスクである。
【0055】
吸収体膜は、多層反射膜の上に形成され、露光光であるEUV光を吸収して、露光光の反射率を低減する膜であり、EUVマスクにおいては、吸収体膜が形成されている部分と、吸収体膜が形成されていない部分との反射率の差によって、転写パターンを形成する。
【0056】
吸収体膜の材料としては、EUV光を吸収し、パターン加工が可能な材料であれば、制限はない。吸収体膜の材料としては、例えば、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。また、Ta又はCrを含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。Taを含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル化合物が挙げられる。Crを含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム化合物が挙げられる。
【0057】
吸収体膜は、スパッタリングで形成することができ、スパッタリングは、マグネトロンスパッタが好ましい。具体的には、クロム(Cr)ターゲット、タンタル(Ta)ターゲットなどの金属ターゲットや、クロム化合物ターゲット、タンタル化合物ターゲットなどの金属化合物ターゲット(Cr、Taなどの金属と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などとを含有するターゲット)などを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いたスパッタリング、また、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスとを用いた反応性スパッタリングにより形成することができる。
【0058】
吸収体膜上の基板から離間する側には、好ましくは吸収体膜と接して、吸収体膜とはエッチング特性が異なるハードマスク膜(吸収体膜のエッチングマスク膜)を設けてもよい。このハードマスク膜は、吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能する膜である。このハードマスク膜は、吸収体パターンを形成した後には、例えばパターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減するための反射率低減層として残して吸収体膜の一部としても、取り除いてEUVマスク上には残存させないようにしてもよい。ハードマスク膜の材料としては、クロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。Crを含有する材料で形成されているハードマスク膜は、特に、吸収体膜が、Taを含有し、Crを含有しない材料で形成されている場合に好適である。吸収体膜の上に、パターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減する機能を主に担う層(反射率低減層)を形成するとき、ハードマスク膜は、吸収体膜の反射率低減層の上に形成することができる。ハードマスク膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により形成することができる。ハードマスク膜の膜厚は、特に制限はないが、通常5~20nm程度である。
【0059】
導電膜は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、材質に特に制限はない。導電膜の材料としては、例えば、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。また、Ta又はCrを含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。Taを含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル化合物が挙げられる。Crを含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム化合物が挙げられる。
【0060】
導電膜の膜厚は、静電チャック用として機能すればよく、特に制限はないが、通常5~100nm程度である。導電膜の膜厚は、EUVマスクとして形成した後、即ち、吸収体パターンを形成した後に、多層反射膜及び吸収体パターンと、膜応力がバランスするように形成することが好ましい。導電膜は、多層反射膜を形成する前に形成しても、基板の多層反射膜側の全ての膜を形成した後に形成してもよく、また、基板の多層反射膜側の一部の膜を形成した後、導電膜を形成し、その後、基板の多層反射膜側の残部の膜を形成してもよい。導電膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により形成することができる。
【0061】
更に、EUVマスクブランクは、基板から最も離間する側に、レジスト膜が形成されたものであってもよい。レジスト膜は、電子線(EB)レジストが好ましい。
【実施例
【0062】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0063】
[実施例1]
熱膨張係数が±5.0×10-9/℃の範囲内の低熱膨張素材で形成され、主表面の表面粗さがRMS値で0.1nm以下、主表面の平坦度がTIR値で100nmである基板に、Si/Mo積層部と、Ruを含有する保護層とからなる多層反射膜を形成した。
【0064】
Si/Mo積層部は、ターゲットとして、SiターゲットとMoターゲット、スパッタガスとして、ArガスとN2ガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。マグネトロンスパッタ装置に、SiターゲットとMoターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。まず、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ3.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ3.0nmの設定で形成した。これらSi層、SiN層及びMo層の形成を1サイクルとして、これら3層の形成を合計40サイクル繰り返した。その後、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ2.3nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ0.5nmの設定で形成して、Si/Mo積層部とした。
【0065】
保護層は、ターゲットとして、RuターゲットとNbターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置とは別のマグネトロンスパッタ装置に、RuターゲットとNbターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置から保護層を形成するマグネトロンスパッタ装置へのSi/Mo積層部を形成した基板の移動は、双方のスパッタチャンバーに連通した搬送用チャンバーを経由させて、真空下で移動させた。まず、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Ruターゲットのみを放電させて、下層として、Ru層を厚さ2.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスを流し、RuターゲットとNbターゲットを同時に放電させて、上層として、RuNb混合層を厚さ0.5nmの設定で形成し、2層からなる保護層とした。
【0066】
得られた多層反射膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ0.5nmのRuNb混合層、厚さ2.0nmのRu層、厚さ0.5nmのMo層、厚さ0.5nmのSiN層、厚さ2.3nmのSi層、厚さ0.5nmのSiN層、厚さ3.0nmのMo層、厚さ0.5nmのSiN層が観察された。また、同様の方法で得られた多層反射膜に対して、大気雰囲気中で、200℃、10分間の熱処理を実施し、多層反射膜の断面を同様に観察したところ、熱処理前と同様であった。また、波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°でのピーク反射率を、熱処理前後で測定したところ、熱処理前は67%、熱処理後は65%であり、いずれも、65%以上の高い反射率であった。
【0067】
[実施例2]
熱膨張係数が±5.0×10-9/℃の範囲内の低熱膨張素材で形成され、主表面の表面粗さがRMS値で0.1nm以下、主表面の平坦度がTIR値で100nmである基板に、Si/Mo積層部と、Ruを含有する保護層とからなる多層反射膜を形成した。
【0068】
Si/Mo積層部は、ターゲットとして、SiターゲットとMoターゲット、スパッタガスとして、ArガスとN2ガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。マグネトロンスパッタ装置に、SiターゲットとMoターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。まず、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ3.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ3.0nmの設定で形成した。これらSi層、SiN層及びMo層の形成を1サイクルとして、これら3層の形成を合計40サイクル繰り返した。その後、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ2.3nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ0.5nmの設定で形成して、Si/Mo積層部とした。
【0069】
保護層は、ターゲットとして、RuターゲットとNbターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置とは別のマグネトロンスパッタ装置に、RuターゲットとNbターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置から保護層を形成するマグネトロンスパッタ装置へのSi/Mo積層部を形成した基板の移動は、双方のスパッタチャンバーに連通した搬送用チャンバーを経由させて、真空下で移動させた。まず、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Ruターゲットのみを放電させて、下層として、Ru層を厚さ1.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスを流し、RuターゲットとNbターゲットを同時に放電させ、この際、Nbターゲットに印加する電力を、徐々に増やして、Nb含有率が、厚さ方向に基板から離間する側に向かって連続的に増加する傾斜組成を形成して、上層として、RuNb混合層を厚さ1.5nmの設定で形成し、2層からなる保護層とした。
【0070】
得られた多層反射膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ1.5nmのRuNb混合層、厚さ1.0nmのRu層、厚さ0.5nmのMo層、厚さ0.5nmのSiN層、厚さ2.3nmのSi層、厚さ0.5nmのSiN層、厚さ3.0nmのMo層、厚さ0.5nmのSiN層が観察された。また、同様の方法で得られた多層反射膜に対して、大気雰囲気中で、200℃、10分間の熱処理を実施し、多層反射膜の断面を同様に観察したところ、熱処理前と同様であった。また、波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°でのピーク反射率を、熱処理前後で測定したところ、熱処理前は67%、熱処理後は65%であり、いずれも、65%以上の高い反射率であった。
【0071】
[実施例3]
熱膨張係数が±5.0×10-9/℃の範囲内の低熱膨張素材で形成され、主表面の表面粗さがRMS値で0.1nm以下、主表面の平坦度がTIR値で100nmである基板に、Si/Mo積層部と、Ruを含有する保護層とからなる多層反射膜を形成した。
【0072】
Si/Mo積層部は、ターゲットとして、SiターゲットとMoターゲット、スパッタガスとして、ArガスとN2ガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。マグネトロンスパッタ装置に、SiターゲットとMoターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。まず、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ3.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ3.0nmの設定で形成した。これらSi層、SiN層及びMo層の形成を1サイクルとして、これら3層の形成を合計40サイクル繰り返した。その後、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ2.3nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスとN2ガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、SiN層を厚さ0.5nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ0.5nmの設定で形成して、Si/Mo積層部とした。
【0073】
保護層は、ターゲットとして、RuターゲットとNbターゲット、スパッタガスとして、ArガスとO2ガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置とは別のマグネトロンスパッタ装置に、RuターゲットとNbターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置から保護層を形成するマグネトロンスパッタ装置へのSi/Mo積層部を形成した基板の移動は、双方のスパッタチャンバーに連通した搬送用チャンバーを経由させて、真空下で移動させた。まず、スパッタチャンバー内にArガスのみを流し、Ruターゲットのみを放電させて、下層として、Ru層を厚さ1.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスとO2ガスを流し、RuターゲットとNbターゲットを同時に放電させ、この際、Nbターゲットに印加する電力を、徐々に増やして、Nb含有率が、厚さ方向に基板から離間する側に向かって連続的に増加する傾斜組成を形成して、上層として、RuNbO混合層を厚さ1.5nmの設定で形成し、2層からなる保護層とした。
【0074】
得られた多層反射膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ1.5nmのRuNbO混合層、厚さ1.0nmのRu層、厚さ0.5nmのMo層、厚さ0.5nmのSiN層、厚さ2.3nmのSi層、厚さ0.5nmのSiN層、厚さ3.0nmのMo層、厚さ0.5nmのSiN層が観察された。また、同様の方法で得られた多層反射膜に対して、大気雰囲気中で、200℃、10分間の熱処理を実施し、多層反射膜の断面を同様に観察したところ、熱処理前と同様であった。また、波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°でのピーク反射率を、熱処理前後で測定したところ、熱処理前は67%、熱処理後は65%であり、いずれも、65%以上の高い反射率であった。
【0075】
[比較例1]
熱膨張係数が±5.0×10-9/℃の範囲内の低熱膨張素材で形成され、主表面の表面粗さがRMS値で0.1nm以下、主表面の平坦度がTIR値で100nmである基板に、Si/Mo積層部と、Ruを含有する保護層とからなる多層反射膜を形成した。
【0076】
Si/Mo積層部は、ターゲットとして、SiターゲットとMoターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。マグネトロンスパッタ装置に、SiターゲットとMoターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。まず、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ4.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ3.0nmの設定で形成した。これらSi層及びMo層の形成を1サイクルとして、これら2層の形成を合計40サイクル繰り返した。その後、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ3.0nmの設定で形成して、Si/Mo積層部とした。
【0077】
保護層は、ターゲットとして、RuターゲットとNbターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置とは別のマグネトロンスパッタ装置に、RuターゲットとNbターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置から保護層を形成するマグネトロンスパッタ装置へのSi/Mo積層部を形成した基板の移動は、双方のスパッタチャンバーに連通した搬送用チャンバーを経由させて、真空下で移動させた。スパッタチャンバー内にArガスを流し、RuターゲットとNbターゲットを同時に放電させて、RuNb混合層を厚さ3.5nmの設定で形成し、保護層とした。
【0078】
得られた多層反射膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ2.5nmのRuNb混合層、厚さ1.5nmのSiとRuとが混合した相互拡散層、厚さ2.5nmのSi層、厚さ0.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.5nmのMo層、厚さ1.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層が観察された。また、同様の方法で得られた多層反射膜に対して、大気雰囲気中で、200℃、10分間の熱処理を実施し、多層反射膜の断面を同様に観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ2nmのRuNb混合層、厚さ2nmのSiO層、厚さ2nmのRuNbSi混合層、厚さ1.0nmのSi層、厚さ0.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.0nmのMo層、厚さ2.0nmのSiとMoとが混合した相互拡散層が観察され、大気中の酸素が、RuNb混合層を透過してSi層と反応して生成したSiO層が形成されていた。また、波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°でのピーク反射率を、熱処理前後で測定したところ、熱処理前は64%、熱処理後は60%であり、いずれも、65%未満の低い反射率であった。
【0079】
[比較例2]
熱膨張係数が±5.0×10-9/℃の範囲内の低熱膨張素材で形成され、主表面の表面粗さがRMS値で0.1nm以下、主表面の平坦度がTIR値で100nmである基板に、Si/Mo積層部と、Ruを含有する保護層とからなる多層反射膜を形成した。
【0080】
Si/Mo積層部は、ターゲットとして、SiターゲットとMoターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。マグネトロンスパッタ装置に、SiターゲットとMoターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。まず、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ4.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ3.0nmの設定で形成した。これらSi層及びMo層の形成を1サイクルとして、これら2層の形成を合計40サイクル繰り返した。その後、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ4.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ1.0nmの設定で形成して、Si/Mo積層部とした。
【0081】
保護層は、ターゲットとして、RuターゲットとNbターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置とは別のマグネトロンスパッタ装置に、RuターゲットとNbターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置から保護層を形成するマグネトロンスパッタ装置へのSi/Mo積層部を形成した基板の移動は、双方のスパッタチャンバーに連通した搬送用チャンバーを経由させて、真空下で移動させた。スパッタチャンバー内にArガスを流し、RuターゲットとNbターゲットを同時に放電させて、RuNb混合層を厚さ2.0nmの設定で形成し、保護層とした。
【0082】
得られた多層反射膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ2.0nmのRuNb混合層、厚さ1.0nmのMo層、厚さ1.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ3.5nmのSi層、厚さ0.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.5nmのMo層が観察され、RuNb混合層とMo層との間に相互拡散層は形成されていなかった。また、同様の方法で得られた多層反射膜に対して、大気雰囲気中で、200℃、10分間の熱処理を実施し、多層反射膜の断面を同様に観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ2nmのRuNb混合層、厚さ2nmのSiO層、厚さ1.0nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ1.5nmのSi層、厚さ0.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.5nmのMo層、厚さ1.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層が観察され、大気中の酸素が、RuNb混合層を透過してSi層と反応して生成したSiO層が形成されていた。また、波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°でのピーク反射率を、熱処理前後で測定したところ、熱処理前は64%、熱処理後は62%であり、いずれも、65%未満の低い反射率であった。
【0083】
[比較例3]
熱膨張係数が±5.0×10-9/℃の範囲内の低熱膨張素材で形成され、主表面の表面粗さがRMS値で0.1nm以下、主表面の平坦度がTIR値で100nmである基板に、Si/Mo積層部と、Ruを含有する保護層とからなる多層反射膜を形成した。
【0084】
Si/Mo積層部は、ターゲットとして、SiターゲットとMoターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。マグネトロンスパッタ装置に、SiターゲットとMoターゲットを、各々1つずつ装着し、基板と、各々のターゲットとの配置をオフセット配置とし、基板を自転させながら形成した。まず、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ4.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ3.0nmの設定で形成した。これらSi層及びMo層の形成を1サイクルとして、これら2層の形成を合計40サイクル繰り返した。その後、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Siターゲットのみを放電させて、Si層を厚さ3.0nmの設定で形成した。次いで、スパッタチャンバー内にArガスを流し、Moターゲットのみを放電させて、Mo層を厚さ1.0nmの設定で形成して、Si/Mo積層部とした。
【0085】
保護層は、ターゲットとして、Ruターゲット、スパッタガスとして、Arガスを用い、マグネトロンスパッタにより形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置とは別のマグネトロンスパッタ装置に、Ruターゲットを1つ装着し、基板と、ターゲットを対向させて配置し、基板を自転させながら形成した。Si/Mo積層部を形成したマグネトロンスパッタ装置から保護層を形成するマグネトロンスパッタ装置へのSi/Mo積層部を形成した基板の移動は、双方のスパッタチャンバーに連通した搬送用チャンバーを経由させて、真空下で移動させた。スパッタチャンバー内にArガスを流し、Ruターゲットを放電させて、Ru層を厚さ2.5nmの設定で形成し、保護層とした。
【0086】
得られた多層反射膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ2.5nmのRu層、厚さ1.2nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.8nmのSi層、厚さ0.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.7nmのMo層、厚さ1.3nmのSiとMoとが混合した相互拡散層が観察された。また、同様の方法で得られた多層反射膜に対して、大気雰囲気中で、200℃、10分間の熱処理を実施し、多層反射膜の断面を同様に観察したところ、多層反射膜の上部には、表面側(基板から離間する側)から順に、厚さ2.5nmのRu層、厚さ1.6nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.6nmのSi層、厚さ0.5nmのSiとMoとが混合した相互拡散層、厚さ2.6nmのMo層、厚さ1.6nmのSiとMoとが混合した相互拡散層が観察された。また、波長13.4~13.6nmの範囲内のEUV光の入射角6°でのピーク反射率を、熱処理前後で測定したところ、熱処理前は65%、熱処理後は62%であり、熱処理後は、65%未満の低い反射率であった。
【符号の説明】
【0087】
1 基板
10 EUVマスクブランク用多層反射膜付き基板
2 多層反射膜
21 Si/Mo積層部
211 Si層
212 Mo層
213 SiとNとを含む層
21a SiとMoとからなる相互拡散層
21b SiとRuとからなる相互拡散層
22 保護層
221 下層
222 上層
100 スパッタ装置
101、102 スパッタチャンバー
103 搬送用チャンバー
104 ロードロックチャンバー
図1
図2
図3
図4