(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】接着性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20240116BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2020521177
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019262
(87)【国際公開番号】W WO2019225424
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2018098087
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大道
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189885(JP,A)
【文献】国際公開第2007/100021(WO,A1)
【文献】特開2015-078090(JP,A)
【文献】特開平06-322334(JP,A)
【文献】特開2012-072224(JP,A)
【文献】特開平08-259849(JP,A)
【文献】特開平08-259703(JP,A)
【文献】特開2001-322953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物と、過酸化物とを含む混合物を
230℃以上250℃以下に昇温させながら90秒以上128秒以下の間混練して、加熱混練物を得る加熱混練工程と、
前記加熱混練工程に連続して行われ、前記加熱混練物を160℃以下に降温させながら60秒以上126秒以下の間混練して、冷却混練物を得る冷却混練工程とを含む、接着性樹脂の製造方法であって、
前記環構造含有炭化水素樹脂は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]と、を有するブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]であり、
前記ブロック共重合体水素化物[D]は、前記ブロック共重合体[C]の前記芳香族ビニル化合物由来の芳香環の炭素-炭素不飽和結合、ならびに、前記共役ジエン化合物由来の主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合の90%以上が水素化されたものであり、
前記接着性官能基含有化合物が、シランカップリング剤、不飽和カルボン酸無水物およびグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールを、前記接着性樹脂100質量部に対して0.8質量部添加したときの、該接着性樹脂の黄色度(Yi)が3.0以下である、接着性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記加熱混練工程を第1の混練装置で行い、前記冷却混練工程を第2の混練装置で行う、請求項1に記載の接着性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記加熱混練工程において、前記混合物中の前記過酸化物の含有量が1ppm未満になるまで混練する、請求項1または2に記載の接着性樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記冷却混練工程において、前記加熱混練物の溶融粘度が、せん断速度1mm/mim以上10mm/min以下において20Pa・s以上になるまで混練する、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接着性樹脂の製造方法として、特許文献1では、有機過酸化物の存在下、熱可塑性ポリマーをシランカップリング剤で変性することにより、シール材としてのホットメルト組成物を製造する方法が提案されている。
また、過酸化物を用いた官能化低粘度エチレン系ポリマーの形成方法として、特許文献2では、エチレン系ポリマーと、少なくとも1つの極性化合物と、少なくとも1つの過酸化物とを含む組成物を、少なくとも1つのバレルを備える少なくとも1つの押出機内で熱処理してポリマー溶融体を形成する方法が提案されている。ここで、過酸化物としては、特定の半減期を有する過酸化物が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/098889号
【文献】特表2017-501280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、過酸化物の存在下での反応によって得られる接着性樹脂では、過酸化物が接着性樹脂中に残留した場合、過酸化物が分解してラジカルが発生することがある。このラジカルは、接着性樹脂を分解したり劣化させるだけでなく、接着性樹脂に後添加した添加剤と反応することで添加剤や接着性樹脂本来の性能を低下させたり、接着性樹脂を着色してしまう場合もあり、問題であった。
そこで、過酸化物の残留を防ぐ方法として、加熱により過酸化物を炭酸ガスと水とへ分解することが考えられる。しかし、過酸化物を十分に分解するためには加熱する装置内での滞留時間を長くしなければならず、そのためには大型の装置を使用する必要がある。また、過酸化物の不必要な加熱によってもラジカルが発生して接着性樹脂の分解や架橋が生じる場合があり、結果として接着性樹脂にゲルが発生したり、褐変が生じるという問題がある。さらに、接着性樹脂にゲルが発生しない温度域で過酸化物を加熱しても、溶融した接着性樹脂を吐出させて、固化後にカットしてペレット加工する際に、接着性樹脂の温度が高すぎると、接着性樹脂の溶融粘度が低くなり冷却固化が追い付かず、ペレット加工できないという問題がある。
なお、特許文献2に記載の方法は、軟質樹脂である低粘度エチレン系ポリマーに対し、接着性機能を付与するために極性化合物を付加している。そのため、特許文献2の方法によれば、得られたポリマーをペレット加工のためにカットしても、カットしたペレット同士が直ちに固着してブリッジやブロッキングが生じるため、事実上、ペレット加工できない。
またそもそもポリエチレン等のエチレン系ポリマーは透明性に劣る為、高透明が要求される用途には利用されず、例えば、配線ケーブルの被覆材や金属との接着層といった透視性が要求されない場合に利用されることが多い。なお、そのような場合には、ゲルや褐変の発生は許容される。一方、例えば環構造を含む高透明樹脂の場合、こうしたゲルや褐変の発生は品質に関わる重要な項目である。そのため、樹脂の分解を抑制し、ゲルや褐変の発生しない製造方法が求められる。
【0005】
そこで、本発明は、接着性樹脂の分解や劣化などの経時的変化やゲルの発生を抑制しつつ、効率的にペレット加工を行うことのできる接着性樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物と、過酸化物とを含む混合物を昇温させながら混練した後、それに続いて降温させながら混練することによって、得られる接着性樹脂中の過酸化物の残留を抑制でき、結果として、分解や劣化などの経時的変化やゲルの発生を抑制しつつ、効率的にペレット加工を行えることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の接着性樹脂の製造方法は、環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物と、過酸化物とを含む混合物を昇温させながら混練して、加熱混練物を得る加熱混練工程と、該加熱混練工程に連続して行われ、該加熱混練物を降温させながら混練して、冷却混練物を得る冷却混練工程とを含む、接着性樹脂の製造方法であって、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールを、前記接着性樹脂100質量部に対して0.8質量部添加したときの、該接着性樹脂の黄色度(Yi)が3.0以下であることを特徴とする。このように、加熱混練工程と、それに連続して行われる冷却混練工程とを行い、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールを、接着性樹脂100質量部に対して0.8質量部添加したときの、該接着性樹脂の黄色度(Yi)を3.0以下とすることで、過酸化物の残留を抑制して接着性樹脂の分解や劣化などの経時的変化やゲルの発生を抑制しつつ、ペレット加工を効率的に行うことのできる接着性樹脂を得ることができる。
なお、本発明において、「黄色度(Yi)」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0008】
ここで、本発明の接着性樹脂の製造方法において、前記加熱混練工程を第1の混練装置で行い、前記冷却混練工程を第2の混練装置で行うことが好ましい。加熱混練工程と冷却混練工程とをそれぞれ異なる混練装置で行うことで、各混練工程における調整を容易に行うことができ、その結果、接着性樹脂を効率的に製造することができる。
【0009】
また、本発明の接着性樹脂の製造方法では、前記加熱混練工程において、前記混合物中の前記過酸化物の含有量が1ppm未満になるまで混練することが好ましい。混合物中の過酸化物の含有量が1ppm未満になるまで混練すれば、得られる接着性樹脂において、過酸化物の残留を十分に抑制することができる。
【0010】
さらに、本発明の接着性樹脂の製造方法では、前記冷却混練工程において、前記加熱混練物の溶融粘度が、せん断速度1mm/mim以上10mm/min以下において20Pa・s以上になるまで混練することが好ましい。冷却混練工程において、加熱混練物の溶融粘度が上記下限値以上となるまで混練すれば、得られる冷却混練物の取り扱いが容易となる。
なお、本発明において、「溶融粘度」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0011】
そして、本発明の接着性樹脂の製造方法において、前記環構造含有炭化水素樹脂が、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを有するブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]であることが好ましい。環構造含有炭化水素樹脂としてこのようなブロック共重合体水素化物[D]を用いれば、接着性樹脂を効率的に製造することができると共に、接着性樹脂のペレット化を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明の接着性樹脂の製造方法において、前記ブロック共重合体水素化物[D]は、前記ブロック共重合体[C]の前記芳香族ビニル化合物由来の芳香環の炭素-炭素不飽和結合、ならびに、前記共役ジエン化合物由来の主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合の90%以上が水素化されたものであることが好ましい。環構造含有炭化水素樹脂としてこのようなブロック共重合体水素化物[D]を用いれば、接着性樹脂をより効率的に製造することができる。
【0013】
さらに、本発明の接着性樹脂の製造方法において、前記接着性官能基含有化合物が、シランカップリング剤、不飽和カルボン酸無水物およびグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。接着性官能基含有化合物としてシランカップリング剤、不飽和カルボン酸無水物およびグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を用いれば、接着性樹脂をさらに効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、接着性樹脂中の過酸化物の残留が抑制されることによって、分解や劣化などの経時的変化やゲルの発生を抑制しつつ、ペレット加工を効率的に行い得る接着性樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】製造システムの他の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の接着性樹脂の製造方法は、環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物とを、過酸化物を用いて反応させて得られる接着性樹脂を製造する際に用いることができる。本発明によって得られる接着性樹脂は、過酸化物の残留が抑制されているため、接着性樹脂の分解や劣化などの経時的変化やゲルの発生が抑制されるとともに、冷却されているため、効率的にペレット加工を行うことができる。また、本発明によって得られる接着性樹脂は、過酸化物の残留が抑制されているために、後添加した添加剤の影響を受け難く、接着性樹脂本来の性能が十分に発揮され得る。さらに、接着性樹脂中のゲルの発生が抑制されることで機械的強度も向上する。そのため、本発明の製造方法によって得られる接着性樹脂は、各種用途に用いることができる。
【0017】
(接着性樹脂の製造方法)
本発明の接着性樹脂の製造方法は、環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物と、過酸化物とを含む混合物を昇温させながら混練して、加熱混練物を得る加熱混練工程と、該加熱混練工程に連続して行われ、該加熱混練物を降温させながら混練して、冷却混練物を得る冷却混練工程とを含み、任意に、後述するその他の工程を含み得る。
【0018】
<接着性樹脂>
[黄色度(Yi)]
そして、本発明の製造方法によって得られる接着性樹脂は、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールを、前記接着性樹脂100質量部に対して0.8質量部添加したときの、該接着性樹脂の黄色度(Yi)が3.0以下である。なお、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールが添加された接着性樹脂は、本発明の製造方法で使用する過酸化物が分解する温度以上、かつ2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールの融点以上の温度で加熱、混練することが好ましい。過酸化物の分解温度を下回る温度および/または2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールの融点を下回る温度で、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールが添加された接着性樹脂を加熱、混練する場合、残存している過酸化物と2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールとの反応が十分に進まないことにより黄色度の増加が生じない場合があり、その結果、過酸化物の残留と、得られた接着性樹脂に添加剤を加えたときの、接着性樹脂に対する添加剤の影響とを確認することが出来ない場合があるためである。
【0019】
なお、接着性樹脂の黄色度は、分光色彩計を用いて測定することができる。
ここで、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールは公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、公知の方法を用いて調製してもよい。また、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾールを接着性樹脂に添加する方法は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって添加することができる。
【0020】
<加熱混練工程>
そして、本発明の接着性樹脂の製造方法が含む加熱混練工程では、環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物と、過酸化物とを含む混合物を昇温させながら混練して、加熱混練物を得る。
【0021】
[環構造含有炭化水素樹脂]
本発明において、環構造含有炭化水素樹脂とは、主鎖または側鎖に、芳香環および/または脂環式構造を有する炭化水素樹脂を指す。中でも、環構造含有炭化水素樹脂は、側鎖に芳香環および/または脂環式構造を有する炭化水素樹脂であることが好ましい。なぜなら、側鎖に芳香環および/または脂環式構造を有する炭化水素樹脂のガラス転移温度は、主鎖に芳香環および/または脂環式構造を有する炭化水素樹脂に比較して高いため、側鎖に芳香環および/または脂環式構造を有する炭化水素樹脂を使用すれば、得られる接着性樹脂の耐熱性が向上するからである。
【0022】
また、環構造含有炭化水素樹脂が有する環構造は、芳香環および/または脂環式構造であればよいが、好ましくは脂環式構造であり、より好ましくはシクロアルカンである。
【0023】
そして、環構造中に含まれる炭素数は、3以上10以下であることが好ましく、6であることがより好ましい。
【0024】
環構造含有炭化水素樹脂としては、例えば、(i)芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]と、を有するブロック共重合体[C]や、(ii)該ブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]が挙げられる。ブロック共重合体[C]は、重合体ブロックそれぞれの分子量や比率を変えることで、軟化温度や剛性を制御可能であること、また、変性に適した溶融温度へ設計することや耐熱性を向上させることで樹脂の熱劣化による黄色度の上昇を抑制することが容易であることから好ましい。またブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]は、耐熱性をより向上させて樹脂の熱劣化や紫外線吸収による黄色度の上昇をより抑制することが出来ることからより好ましい。
【0025】
なお、本発明において、「芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする」は、「芳香族ビニル化合物由来の構造単位を50質量%超含有する」ことを意味し、「共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする」は、「共役ジエン化合物由来の構造単位を50質量%超含有する」ことを意味する。
【0026】
ここで、上記芳香族ビニル化合物としては、ビニル基を有する芳香族炭化水素であれば、特に限定されない。ビニル基を有する芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレンおよびビニルアントラセンなどが挙げられる。
【0027】
また、上記共役ジエン化合物は、少なくとも一対の共役二重結合を有するジオレフィン化合物であれば、特に限定されない。共役ジエン化合物としては、鎖状共役ジエン(直鎖状共役ジエン、分岐鎖状共役ジエン)が好ましい。鎖状共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよび1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。
【0028】
本発明では、接着性樹脂を効率的に製造できるという観点から、環構造含有炭化水素樹脂は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]と、を有するブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]であることが好ましい。
【0029】
~重合体ブロック[A]~
ここで、重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有割合は、重合体ブロック[A]中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有割合が80質量%以上であれば、ブロック共重合体水素化物[D]中の重合体ブロック[A]由来のミクロ相分離ドメインを維持することができ、引張強度および重合体ブロック[A]の耐熱性を維持することができる。
【0030】
なお、重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位以外の構造単位をその他の構造単位として含んでいてもよく、そのようなその他の構造単位は、例えば、鎖状共役ジエン構造単位であってもよい。また、その他の構造単位を形成しうる成分としては、吸湿性を低減する観点から、極性基を含有しないものが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテンなどの鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサンなどの環状オレフィンが挙げられる。
なお、ブロック共重合体[C]が重合体ブロック[A]を複数有する場合は、複数の重合体ブロック[A]を形成する構造体の組成は同一あってもよく、異なっていてもよい。
【0031】
~重合体ブロック[B]~
重合体ブロック[B]中の共役ジエン化合物由来の構造単位の含有割合は、重合体ブロック[B]中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。重合体ブロック[B]中の共役ジエン化合物由来の構造単位の含有割合が60質量%以上であれば、ブロック共重合体[C]中の重合体ブロック[B]由来のガラス転移温度(Tg)を得ることができ、低温衝撃強度を維持することができる。
【0032】
なお、重合体ブロック[B]は、共役ジエン化合物由来の構造単位以外の構造単位をその他の構造単位として含んでいてもよく、そのようなその他の構造単位は、例えば、芳香族ビニル構造単位であってもよいし、その他の構造単位は「重合体ブロック[A]」の項で上述した鎖状オレフィンや、環状オレフィンから形成されてもよい。
なお、ブロック共重合体[C]が重合体ブロック[B]を複数有する場合は、複数の重合体ブロック[B]を形成する構造体の組成は同一あってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
~ブロック共重合体[C]~
ブロック共重合体[C]は、ブロック共重合体水素化物[D]の前駆体であり、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを含有する高分子である。
ここで、ブロック共重合体[C]中の重合体ブロック[A]の数は、通常5つ以下、好ましくは4つ以下、より好ましくは3つ以下であり、更に好ましくは2つである。
また、ブロック共重合体[C]の重合体ブロック[B]の数は、通常4つ以下、好ましくは3つ以下、より好ましくは2つ以下、また、更に好ましくは1つである。
【0034】
-wA:wB-
そして、ブロック共重合体[C]中の全芳香族ビニル化合物由来の構造単位がブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwAとし、ブロック共重合体[C]中の全共役ジエン化合物由来の構造単位がブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比(wA:wB)は、好ましくは20:80~60:40、より好ましくは、25:75~60:40、更に好ましくは、40:60~60:40である。
wAが多過ぎる場合は、ブロック共重合体[C]から得られるブロック共重合体水素化物[D]の低温下での耐衝撃性が低下するおそれがある。一方、wAが少な過ぎる場合は、ブロック共重合体[C]から得られるブロック共重合体水素化物[D]の剛性が低下するおそれがある。
なお、「wAとwBとの比(wA:wB)」については、ブロック共重合体[C]を製造する過程において、ブロック共重合体[C]の重合に用いた芳香族ビニル化合物由来の構造単位、および共役ジエン化合物由来の構造単位の部数と、ガスクロマトグラフィー(GC)を使用して測定されたブロック共重合体[C]の各ブロックの重合終了段階での用いた構造単位の重合体への重合転化率により、各構造単位の質量分率を算出することができる。
【0035】
また、ブロック共重合体[C]のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもラジアル型ブロックでもよいが、鎖状型ブロックであるものが、機械的強度に優れ好ましい。また、ブロック共重合体[C]は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合した構造(すなわち、A-B-Aの順に並んだ構造)を少なくとも1箇所有することが好ましい。
そしてブロック共重合体[C]の特に好ましい形態としては、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合してなるトリブロック共重合体(A-B-A)、および、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に、該2つの重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合してなるペンタブロック共重合体(A-B-A-B-A)が挙げられ、トリブロック共重合体(A-B-A)が最も好ましい。
【0036】
ブロック共重合体[C]としては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体およびスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体などが挙げられ、中でもスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。
【0037】
ここで、ブロック共重合体[C]中の不飽和結合の水素化方法や反応形態等は特に限定されず、公知の方法に従って行えばよい。
ブロック共重合体[C]の共役ジエン化合物に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合を選択的に水素化する方法としては、例えば、特開2015-78090号公報等に記載された公知の水素化方法が挙げられる。
また、ブロック共重合体[C]の共役ジエン化合物に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化する方法としては、例えば、国際公開第2011/096389号、国際公開第2012/043708号等に記載された方法が挙げられる。
【0038】
そして、水素化反応終了後においては、水素化触媒、或いは、水素化触媒および重合触媒を反応溶液から除去した後、得られた溶液から溶剤を除去してブロック共重合体水素化物[D]を回収することができる。
【0039】
~ブロック共重合体水素化物[D]~
ブロック共重合体水素化物[D]は、上述したブロック共重合体[C]中の不飽和結合(例えば、主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合などを含む)を水素化することで、得ることができる。
【0040】
-水素化率-
ここで、水素化により得られるブロック共重合体水素化物[D]の水素化率は、90モル%以上であることが好ましく、97モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることが更に好ましい。なお、本発明において、「水素化率」とは、共重合体に含まれる全不飽和結合のうち水素化された不飽和結合の割合を示す。水素化率は、ブロック共重合体[C]およびブロック共重合体水素化物[D]の1H-NMRを測定することにより、求めることができる。
【0041】
そして、ブロック共重合体[C]の共役ジエン化合物由来の主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化する場合、主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、通常95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上である。
なおここで、「主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合を水素化すること」は、「ブロック共重合体[C]における共役ジエン化合物由来の二重結合を水素化すること」を意味する。
【0042】
また、ブロック共重合体[C]の芳香族ビニル化合物由来の芳香環の炭素-炭素不飽和結合、ならびに、共役ジエン化合物由来の主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合を水素化する場合、水素化率は、全炭素-炭素不飽和結合の90%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。水素化率が90%以上であれば、耐熱性、透明性をさらに向上させることができる。
【0043】
本発明において、ブロック共重合体水素化物[D]は、ブロック共重合体[C]の共役ジエン化合物由来の主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合が選択的に水素化されたもの、または、ブロック共重合体[C]の芳香族ビニル化合物由来の芳香環の炭素-炭素不飽和結合、ならびに、共役ジエン化合物由来の主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合の95%以上が水素化されたものであることが好ましい。
【0044】
ブロック共重合体水素化物[D]としては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体およびスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体水素化物などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
-重量平均分子量-
本発明で使用する環構造含有炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、7000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、12000以上であることがさらに好ましく、190000以下であることが好ましく、150000以下であることがより好ましく、100000以下であることがさらに好ましい。環構造含有炭化水素樹脂の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、環構造含有炭化水素樹脂の凝集を抑制することができる。一方、環構造含有炭化水素樹脂の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、加熱混練工程において効率的に混練することができる。
【0046】
-分子量分布-
また、環構造含有炭化水素樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、7以下であることが好ましく、6以下であることが好ましく、5以下であることが更に好ましい。分子量分布が7以下であれば、機械強度を改善することができる。
なお、環構造含有炭化水素樹脂の重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定する。
【0047】
-環構造含有炭化水素樹脂の含有割合-
そして、加熱混練工程において混練する混合物中の、環構造含有炭化水素樹脂の含有割合は、50質量%以上であることが好ましい。環構造含有炭化水素樹脂の含有割合が上記下限値以上であれば、得られる接着性樹脂の経時的安定性および接着力が向上する。
【0048】
[接着性官能基含有化合物]
また、本発明で使用する接着性官能基含有化合物とは、被接着基材に対して、親和性や反応性を有する官能基を構造内に有する化合物を指す。ここで、親和性を有する官能基とは、被接着基材と静電的な相互作用を生じることで接着性を得る官能基であり、具体的には、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられる。また、反応性を有する官能基とは、被接着基材の表面に存在する反応部位と化学反応を伴った構造変化によりイオン結合や共有結合を介して接合し接着性を得る官能基であり、具体的には、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、アルコキシシリル基、アクリロイル基などが挙げられる。
【0049】
接着性官能基含有化合物としては、例えば、シアノアクリレート、ジイソシアネート、シランカップリング剤、不飽和カルボン酸無水物およびグリシジルエーテルなどが挙げられる。中でも、接着性官能基含有化合物は、シランカップリング剤、不飽和カルボン酸無水物およびグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
ここで、シランカップリング剤としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(イソブトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(n-ブチルアミノ)シラン、ビニルトリ(イソプロペノキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、ビニルジメトキシメチルアミノシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランおよび3-イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0051】
また、不飽和カルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、アリルコハク酸無水物、2-フェニルマレイン酸無水物、cis-アコニット酸無水物等が挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、無水マレイン酸、無水イタコン酸、および5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物が好適に用いられる。これらの不飽和カルボン酸無水物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
そして、グリシジルエーテルとしては、例えば、アリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、2-ビフェニルグリシジルエーテル、9,9-ビス(4-グリシジロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、2,2-ビス(4-グリシジロキシフェニル)プロパン、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0053】
-接着性官能基含有化合物の含有割合-
そして、加熱混練工程において混練する混合物中の、接着性官能基含有化合物の含有割合は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下あることがより好ましい。接着性官能基含有化合物の含有割合が上記下限値以上であれば、得られる接着性樹脂の接着性が十分に発揮される。一方、接着性官能基含有化合物の含有割合が上記上限値以下であれば、過剰な接着性官能基含有化合物が、接着性樹脂中に残存するのを防止できる。
また、本発明の製造方法によって得られる接着性樹脂への接着性官能基含有化合物の導入割合は、冷却混練工程後の接着性樹脂を再沈、析出させて接着性樹脂を未反応の接着性官能基含有化合物と分離し、FT-IR等で接着性樹脂中の接着性官能基含有化合物と環構造含有炭化水素樹脂のピーク面積比率を比較することで検量することができる。ここで、上記ピーク面積比率は接着性官能基含有化合物と過酸化物の添加量、また混練温度と時間により増減するが、接着性官能基含有化合物の添加量を増加しつづけてもいずれ飽和値となり、それ以上添加しても導入は生じず、過剰な接着性官能基による自己架橋などが生じて、多量のゲルや発泡が生じる。よって、接着性官能基含有化合物の好ましい導入割合とするには、環構造含有炭化水素樹脂のピーク面積比率は、接着性官能基含有化合物のピーク面積比率の飽和値に対して90%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。
【0054】
[過酸化物]
また、発明で使用する過酸化物は、加熱によって解離し、ラジカルを発生させるものであれば、特に限定されない。過酸化物としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエ-ト、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエートなどが挙げられ、中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
-過酸化物の含有割合-
そして、加熱混練工程において混練する混合物中の、過酸化物の含有割合は、0.01質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.5%質量以下であることがより好ましい。過酸化物の含有割合が上記下限値以上であれば、環構造含有炭化水素樹脂に対して、接着性官能基含有化合物を好適に反応させて、接着性樹脂を効率的に得ることができる。一方、過酸化物の含有割合が上記上限値以下であれば、混練する際に過剰な過酸化物が存在することで、得られる接着性樹脂が黄変するのを防ぐことができる。
【0056】
[混合物の調製]
そして、加熱混練工程において用いる混合物の調製方法は、特に限定されることなく、環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物と、過酸化物とを、既知の方法によって混合することで調製することができる。その際、上記各成分を混合する順番は、特に限定されることはなく、全成分を一括で混合してもよいし、一部の成分を混合した後に残部の成分を添加してさらに混合してもよい。特に好ましい順番として、環構造含有炭化水素樹脂に接着性官能基含有化合物と過酸化物を順次混合することが挙げられる。
【0057】
<<加熱混練工程の詳細>>
そして、加熱混練工程では、環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物と、過酸化物とを含む混合物を昇温させながら混練して加熱混練物を得る。このように混合物を昇温させながら混練することで、過酸化物のラジカルにより環構造含有炭化水素樹脂と、接着性官能基含有化合物とが反応して環構造含有炭化水素樹脂中に接着性官能基含有化合物の接着性官能基が導入されると共に、過酸化物が分解されるため、得られる加熱混練物に過酸化物が残留するのを抑制することができる。
【0058】
ここで、加熱混練工程では、混合物中の過酸化物の含有量が1ppm未満になるまで混練することが好ましい。混合物中の過酸化物の含有量が1ppm未満になるまで混練すれば、得られる接着性樹脂において、過酸化物の残留を十分に抑制することができる。
【0059】
なお、加熱混練工程における昇温速度や混練時間は特に限定されることはないが、加熱混練工程は、バレル温度を、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは250℃以上に設定した混練装置で行うことが好ましい。バレル温度を上記範囲内に設定して混練すれば、混合物を昇温させながら効率的に混練できると共に、混合物中の過酸化物を十分に分解させることができる。その際、混練時間は32秒以上とすることが好ましく、64秒以上とすることがより好ましく、90秒以上とすることがさらに好ましく、512秒以下とすることが好ましく、256秒以下とすることがより好ましく、128秒以下とすることがさらに好ましい。混練時間を上記範囲内とすれば、混合物中の各成分を良好に混練することができる。
【0060】
ここで、加熱混練工程において使用する混練装置は特に限定されるものではなく、例えば、加熱ミキサー、単軸混練装置、二軸混練装置、三軸以上の多軸混練装置、バンバリミキサーなどを用いることができるが、中でも、密閉性を維持して効率的に混練を行えるという観点から、二軸または三軸以上の多軸混練装置を用いることが好ましい。
【0061】
<冷却混練工程>
そして、本発明の接着性樹脂の製造方法が含む冷却混練工程は、加熱混練工程に連続して行われるものであって、加熱混練工程で得られた加熱混練物を降温させながら混練して、冷却混練物を得る。
【0062】
<<冷却混練工程の詳細>>
そして、冷却混練工程では、加熱混練物の溶融粘度が、せん断速度1mm/mm以上10mm/min以下において、好ましくは20Pa・s以上、より好ましくは100Pa・s以上、さらに好ましくは500Pa・s以上であり、好ましくは1000Pa・s以下になるまで混練することが好ましい。加熱混練物の溶融粘度が20Pa・s以上になるまで降温させながら混練することで、得られる冷却混練物の取り扱いが容易となる。なお、加熱混練物の溶融粘度は、キャピログラフを用いて測定することができる。
【0063】
ここで、冷却混練工程における降温速度や混練時間は特に限定されることはないが、冷却混練工程は、バレル温度を、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下に設定した混練装置で行うことが好ましい。温度を下げすぎた場合、溶融粘度が過剰に上昇し、押出装置のバレル駆動モーターの最大負荷を越えた場合は装置の停止に至る場合もある。したがって、上昇バレル温度を上記範囲内に設定して混練すれば、加熱混練物のペレット加工を効率的に行える程度に十分に冷却することができる。その際、混練時間は冷却が十分に行えれば特に限定されないが、加熱混練工程との生産効率の観点から16秒以上とすることが好ましく、32秒以上とすることがより好ましく、60秒以上とすることがさらに好ましく、256秒以下とすることが好ましく、188秒以下とすることがより好ましく、126秒以下とすることがさらに好ましい。混練時間を上記範囲内とすれば、混合物中の各成分を良好に混練することができる。
【0064】
ここで、冷却混練工程において使用する混練装置は特に限定されるものではなく、加熱混練工程で使用した混練装置と同じ種類の混練装置を用いることができるが、せん断熱による影響を回避して加熱混練物を効率的に冷却できるという観点から、単軸混練装置を用いることが好ましい。
【0065】
さらに、本発明において、冷却混練工程は、加熱混練工程で使用する混練装置とは別体の混練装置で行うことが好ましい。即ち、本発明では、加熱混練工程を第1の混練装置で行い、冷却混練工程を第2の混練装置で行うことが好ましい。加熱混練工程と冷却混練工程とをそれぞれ異なる混練装置を用いて行うことで、各混練工程における調整を容易に行うことができ、その結果、接着性樹脂を効率的に製造することができる。また、接着性樹脂を製造する製造システム全体を簡略化することができる。
【0066】
そして、冷却混練工程によって得られる冷却混練物は、そのままの状態で接着性樹脂として用いてもよいし、さらに、任意に、後述するその他の工程によって冷却混練物に後処理を行ってから、接着性樹脂として用いてもよい。
【0067】
本発明によれば、得られる接着性樹脂は、過酸化物の残留が抑制されることで分解や劣化などの経時的変化やゲルの発生が抑制されているとともに、ペレット加工を効率的に行うことができる。また、本発明の接着性樹脂によれば、接着性樹脂に添加剤を後添加した場合でも、接着性樹脂が添加剤による影響を受け難いため、添加剤によって接着性樹脂本来の性能が低下したり、着色するのを防ぐことができる。また、分解や劣化が抑制されることで、外観上問題となるゲルの発生の抑制に加え、透明性や機械的強度にも優れている。なお、接着性樹脂のペレット加工方法は特に限定されるものではなく、既知の方法を用いればよい。
【0068】
<その他の工程>
そして、本発明の接着性樹脂の製造方法が任意に含み得るその他の工程として、例えば、添加工程、ペレット化工程および潤滑化工程などが挙げられる。
【0069】
<<添加工程>>
本発明の接着性樹脂の製造方法が任意に含み得る添加工程では、得られた接着性樹脂に、任意の添加剤を添加してもよい。
[添加剤]
ここで、添加剤は、特に限定されるものではない。例えば、本発明の製造方法によって得られる接着性樹脂の軟化温度を調整する為に、環構造含有炭化水素樹脂に分散可能な低分子の樹脂を添加剤として混練してもよい。例えば、添加剤として、ポリイソブテン、石油樹脂、オイル、グリセリンなどを接着性樹脂の接着性や機械強度に問題の無い範囲で任意に添加することで、接着性樹脂の軟化温度を下げることができる。
また、本発明の製造方法によれば、得られた接着性樹脂中の過酸化物の残留が抑制されているため、例えば、紫外線防止剤や、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などの光安定剤や、老化防止剤などの、過酸化物が分解して生じるラジカルに対して反応性を有する添加剤なども好適に用いることができる。また、本発明によれば、ラジカル反応性を有する添加剤として、例えば、470nm以下の可視光領域に吸収帯を有する添加剤を好適に使用することができる。
【0070】
また、接着性樹脂に添加し得る添加剤の添加量は、接着性樹脂への溶解性や求められる性能により増減し、特に限定されるものではないが、価格や添加効率の観点から接着性樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、25質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。添加剤の添加量が上記上限値以下であれば、接着性樹脂の本来の性能が十分に発揮される。
【0071】
<<ペレット化工程>>
本発明の接着性樹脂の製造方法が任意に含み得るペレット化工程では、得られた接着性樹脂をペレット化してもよい。その際、ペレット化は、例えば既知のペレット化装置を用いて行うことができる。既知のペレット化装置として、ストランド状に押出した樹脂をカットし、俵状のペレットを得るストランドカット方法や、ダイスから押し出した樹脂を水の噴霧下でカットし球状のペレットを得るアンダーウォーターカット方法や、押出した樹脂を水中でカットする水中カット方法などを採用したペレット化装置が挙げられる。
【0072】
<<潤滑化工程>>
本発明の接着性樹脂の製造方法が任意に含み得る潤滑化工程では、例えば、ペレット加工された接着性樹脂の表面を外部潤滑剤で潤滑化してもよい。ここで、外部潤滑剤としては、例えば、ブロッキング防止剤などを用いることができ、ブロッキング防止剤の材料としては、タルクやシリカなどの無機系粒子、ステアリン酸アマイド、金属石鹸、コーンスターチなどが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0073】
そして、外部潤滑剤の使用量は、特に限定されるものではないが、接着性樹脂100質量部に対して0.0001質量部以上であることが好ましく、0.0005質量部以上であることがより好ましく、0.001質量部以上であることがさらに好ましく、0.5質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以下であることがさらに好ましい。接着性樹脂に対する外部潤滑剤の使用量が上記下限値以上であれば、接着性樹脂の保管中や、接着性樹脂を後処理した際に、ブリッジやブロッキングの発生を十分に抑制することができる。一方、接着性樹脂に対する外部潤滑剤の使用量が上記上限値以下であれば、接着性樹脂の透明性や接着性を十分に維持することができる。
【0074】
なお、接着性樹脂に対する外部潤滑剤の添加タイミングは特に限定されるものではない。従って、例えば、接着性樹脂を水中カット法やストランドカット法などの既知の方法でカットし、脱水後、直ちに外部潤滑剤を添加してもよい。または、接着性樹脂をペレット状にカットする際に用いる冷却水に、予め外部潤滑剤を配合しておいてもよい。さらには、ミキサーなどを用いて混合しながら外部潤滑剤を添加してもよい。
【実施例】
【0075】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0076】
実施例および比較例において、ペレット形状、ゲルの観察、接着性官能基の導入、黄色度、溶融粘度および過酸化物量は、それぞれ以下の方法に従って測定または評価した。
【0077】
<ペレット形状>
ペレット50gを回収し、目開き4mmのメッシュふるいを用いて選別を行った。そして、ペレットとペレットが切れずに2個や3個つながっているものや、芋虫状につながったものなどのカットミス品の個数を確認した。そして、ペレット50g中、一つもカットミスが発生していなければ「合格」、一つでもカットミス品が発生していれば「不合格」とした。
また、ペレット化できなかった混練物については、混練物の塊を液体窒素で冷却後、粉砕機(ヴァーダー・サイエンティフィック製、型番:カッティングミル SM300)を用いて粉砕してフレークを作製し、得られたフレークをペレットの替わりとして用いて、評価を行った。
【0078】
<ゲルの観察>
Tダイスを設置した小型押出装置(テクノベル社製、型番:KZW15TW-60MG-NM)を用いて、バレル温度210℃、ダイス温度210℃、冷却ロール温度60℃の条件下で、最終生成物を押出成形し、厚さ100μmのシートを得た。そして、得られたシート中に存在するフィッシュアイおよびゲルの個数を計測した。具体的には、得られたシートから10cm×10cmの大きさの試験シートを5枚作製し、それぞれのシートについて、直径1mm以上の目視可能なフィッシュアイおよびゲルの個数を計測した。そして、各シートに存在するフィッシュアイおよびゲルの個数の合計が5個未満であれば「合格」、5個以上であれば「不合格」とした。
【0079】
<接着性官能基の導入>
未反応成分を除去するために、最終生成物をトルエンに溶解させて、10%最終生成物溶液を調製した。次いで、この10%最終生成物溶液をアセトンに滴下し、析出した最終生成物の固形分を回収し、真空乾燥させた。それから、赤外分光光度計(サーモフィッシャー製、型番:iD5)を用いて、真空乾燥後の最終生成物の固形分について、接着性官能基に由来するピークの検出を行った。そして、ピークが検出された最終生成物の固形分については接着性官能基が導入されたものとして「合格」とし、それ以外は「不合格」とした。
【0080】
<黄色度(Yi)>
最終生成物100質量部に対して、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール(BASF製「TINUVIN326」)0.8質量部を加え、これらをドライブレンドした後、小型押出装置(テクノベル社製、型番:KZW15TW-60MG-NM)を用いて、バレル温度210℃にて溶融混練を行った。得られた混練樹脂を射出成型機(ファナック社製、型番:ROBO SHOT S200i100A)に投入して、厚さ1mmのプレートを作製した。得られたプレートについて、分光色差計(日本電色工業製「SE2000」)を用いて、黄色度(Yi)を測定した。
【0081】
<溶融粘度>
冷却混練工程を経て得られた混練物について、キャピロメーター(CEAST製、型番:RHEOLOGIC5000)を使用して、190℃以上270℃以下、せん断速度1mm/min以上10mm/min以下における溶融粘度を測定した。なお、異なる混練装置を用いて混練工程を2回実施した場合には、後の混練工程において得られた混練物の溶融粘度を測定した。
【0082】
<過酸化物量>
加熱混練工程を経て得られた混練物について、樹脂中の過酸化物を定量するために次の操作を行った。即ち、過酸化物を定量するために、混練で用いた過酸化物0.01gを10mLメスフラスコに秤量し、アセトニトリルで溶解させて標準原液を作製し、得られた標準原液をアセトニトリルで希釈して検量線用溶液を調整した。次に測定試料0.2gを25mLメスフラスコに秤量し、シクロヘキサン2mLを加えて溶解させた。溶解後にアセトニトリルを徐々に加えて樹脂成分を析出させ、最終的に25mLの溶液とした。得られた樹脂析出溶液をPTFEフィルターでろ過し、固形分を除去し、測定溶液とした。測定は液体クロマトシステム(島津製作所製、型番:LC-20A)にカラム(インタクト製、型番CadenzaCD-C18 2.0x150mm、3μm)を設置し、質量分析計(Sciex製、型番API4000)で検出を行った。検量線溶液を用いて検量線を作成し、測定溶液の検出結果から残留過酸化物量を定量した。
【0083】
<共重合体の重量平均分子量および分子量分布>
テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算値として、40℃において、0.6cc/分の速度で測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8320GPCを用い、カラムはTSKgel SuperH G5000HLX、G4000HLX、G2000HLX3本を直列につなぎ、ポリマー量4mg/1ccの濃度に調整し測定した。
【0084】
(実施例1)
<製造システム>
図1は、使用した製造システムの概略構成を示す図である。
図1に示すように、製造システム1は、上流から下流に向かって、二軸混練装置2と、ギアポンプ3と、単軸混練装置5と、水中カッター・ペレタイジング装置6と、遠心脱水機7と、リボンミキサー8とを備えている。
【0085】
二軸混練装置2は、図示しない計量ホッパーおよび圧入部を備えている。二軸混練装置2と単軸混練装置5とは、ギアポンプ3を介して接合されている。水中カッター・ペレタイジング装置6は、単軸混練装置5の出口側に設けられている。遠心脱水機7は、水中カッター・ペレタイジング装置6の出口側に設けられている。リボンミキサー8は、遠心脱水機7の出口側に設けられている。また、リボンミキサー8には、図示しない外部潤滑剤供給装置と、潤滑操作後に製品樹脂を回収するタンクとが接続されている。
【0086】
なお、上記各装置の詳細は以下の通りである。
二軸混練装置2:東芝機械社製、型番TEM-37
ギアポンプ3:NORDSON XALOY社製、型番MJ-1143
単軸混練装置5:アイ・ケー・ジー社製、型番PMS30-28
水中カッター・ペレタイジング装置6:ECON社製
遠心脱水装置7:ECON社製、型番EUP10
リボンミキサー8:槇野産業社製、型番RMM100
【0087】
[原料]
実施例1において、以下の原料を使用した。
環構造含有炭化水素樹脂:スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物
接着性官能基含有化合物:ビニルメトキシシラン(信越化学製「KBM-1003」)
過酸化物:2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油製、「パーヘキサ(登録商標)25B」
外部潤滑剤:エチレン・ビスステアリン酸アマイド(花王製「カオーワックス EB-FF」)
なお、上記スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物は、以下のようにして調製した。
【0088】
-スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物の調製-
~スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の調製~
撹拌装置を備え、内部が十分に窒素置換された反応器に、脱水シクロヘキサン300部およびジエチルエーテル0.475部を投入した。その後、全容を60℃で撹拌しながら、n-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.91部を加えた。引き続き、全容を60℃で撹拌しながら、脱水スチレン25部を70分間に亘って連続的に反応器内に添加して重合反応を進め、添加終了後、そのまま、さらに60℃で20分間全容を撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)により測定したところ、この時点での重合転化率は99.5%であった。
【0089】
次に、反応液に、脱水イソプレン50部を130分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま30分間撹拌を続けた。この時点で、反応液をGCにより分析した結果、重合転化率は99.5%であった。
【0090】
その後、さらに、反応液に脱水スチレン25質量部を70分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま60分撹拌した。この時点で、反応液をGCにより分析した結果、重合転化率はほぼ100%であった。
【0091】
ここで、反応液に、イソプロピルアルコール1.0部を加えて反応を停止させ、重合体溶液を得た。重合体溶液に含まれるブロック共重合体は、スチレン単量体単位からなる重合体ブロック[A]とイソプレン単量体単位からなる重合体ブロック[B]とがA-B-Aの順に並んでなるスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体であり、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体中の重合体ブロック[A]の含有量と重合体ブロック[B]の含有量との質量比(wA:wB)は50/50であった。
【0092】
~スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体への水素添加~
次に、上記の重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒としての珪藻土担持型ニッケル触媒(日揮触媒化成社製「E22U」、ニッケル担持量60%)4.0部、および脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度190℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行った。
【0093】
水素化反応終了後、反応溶液を濾過して水素化触媒を除去した後、得られた溶液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](ADEKA社製「AO60」)0.1部を溶解したキシレン溶液2.0質量部を添加して溶解させた。
【0094】
次いで、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製「コントロ」)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、上記溶液からシクロヘキサン、キシレンおよびその他の揮発成分を除去した。溶融ポリマーをダイからストランド状に押し出し、冷却後、ペレタイザーによりカッティングしてペレット状のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物94部を得た。
得られたスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物の水素化率は、「主鎖および側鎖」ならびに「芳香環」のいずれもほぼ100%であった。また、重量平均分子量(Mw)は48,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.4であった。
【0095】
<操作手順>
実施例1における操作手順について、
図1を参照して説明する。
二軸混練装置2の計量ホッパー(図示せず)に、環構造含有炭化水素樹脂としてのスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物を充填し、このスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物を、バレル温度250℃、回転数150rpmに設定した二軸混練装置2に10kg/hrsにて供給した。そして、計量可能な液添ポンプを用いて、上記スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物100部に対し、接着性官能基含有化合物としてのビニルメトキシシラン2.0部と、過酸化物としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.1部とを圧入部(図示せず)を介して圧入した。そして、二軸混練装置2を用いて、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物と、ビニルメトキシシランと、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサンとの混合物を、昇温させながら90秒間混練して混練物を得た(加熱混練工程)。
【0096】
次に、ギアポンプ3を用いて、得られた混練物を、単軸混練装置5へと搬送した。
【0097】
それから、バレル温度160℃、回転数100rpmに設定された単軸混練装置5を用いて、混練物をさらに60秒間混練して混練物を得た(冷却混練工程)。得られた混練物を水中カッター・ペレタイジング装置6でカットし、遠心脱水機7で脱水した後、カットされた混練物をリボンミキサー8へ運搬した。そして、リボンミキサー8を用いて、カットされた混練物100部に対して、外部潤滑剤Aとしてのエチレン・ビスステアリン酸アマイド(花王製「カオーワックス EB-FF」)0.005部を加えて、これらを混合して最終生成物を得た。得られた最終生成物について、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例2)
外部潤滑剤Aに替えて、外部潤滑剤B(イオン交換水で10倍に希釈した飽和脂肪酸アマイド(日本化成製「スリパックス(登録商標)E SA-20」)を用いたと共に、外部潤滑剤Bをリボンミキサー8に滴下した以外は、実施例1と同様にして最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例3)
過酸化物の量を0.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例4)
軟化温度調節剤として、40℃に加熱したポリイソブテン(日油製「10SH」)17.5部を単軸混練装置5に圧入した以外は、実施例1と同様にして最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例5)
接着性官能基含有化合物として、ビニルメトキシシランに替えてアクリルシラン(信越化学製「KBM-5103」)を用いた以外は、実施例1と同様にして最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例6)
接着性官能基含有化合物として、ビニルメトキシシランに替えて無水マレイン酸(東京化成工業製、製品名:無水マレイン酸)を用いた以外は、実施例1と同様にして最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例7)
接着性官能基含有化合物として、ビニルメトキシシランに替えてアクリルグリシジルエーテル(東京化成工業製、製品名:メタクリル酸グリシジル)を用いた以外は、実施例1と同様にして最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
なお、実施例1~7で得られた最終生成物において、環構造含有炭化水素樹脂のピーク面積比率は、接着性官能基含有化合物のピーク面積比率の飽和値に対して70%以下であった。
【0105】
(比較例1)
<製造システム>
図2は、比較例1で使用した製造システムの概略構成を示す図である。
図2に示すように、製造システム21は、二軸混練装置2と、水中カッター・ペレタイジング装置6と、遠心脱水機7と、リボンミキサー8とを備えている。
図2において、
図1に示した製造システム1と同じ装置には
図1と同じ符号を付している。なお、
図2に示すように、製造システム21においては、二軸混練装置2の出口側に水中カッター・ペレタイジング装置6を接続することで、
図1に示したギアポンプ3、および単軸混練装置5を省略していること以外は、製造システム1と共通することから、ここでの各装置の説明は省略する。
【0106】
[原料]
比較例1において、実施例1と同じ原料を使用した。
【0107】
<操作手順>
比較例1における操作手順について、
図2を参照して説明する。
二軸混練装置2の計量ホッパー(図示せず)に、環構造含有炭化水素樹脂としてのスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物を充填し、このスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物を、バレル温度260℃、回転数150rpmに設定した二軸混練装置2に10kg/hrsで供給した。そして、計量可能な液添ポンプを用いて、上記スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物100部に対し、接着性官能基含有化合物としてのビニルメトキシシラン2.0部と、過酸化物としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.1部とを圧入部(図示せず)を介して圧入した。そして、二軸混練装置2を用いて、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物と、ビニルメトキシシランと、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサンとの混合物を、昇温させながら90秒混練して混練物を得た(加熱混練工程)。
【0108】
次に、得られた混練物を水中カッター・ペレタイジング装置6でカットし、遠心脱水機7で脱水した後、カットされた混練物をリボンミキサー8へ搬送した。そして、リボンミキサー8を用いて、カットされた混練物100部に対して、外部潤滑剤Aとしてのエチレン・ビスステアリン酸アマイド0.005部を加えて、これらを混合して最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同様の製造システム1(
図1参照)を使用した。そして、単軸混練装置5のバレル温度を260℃に変更することで冷却混練工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(比較例3)
比較例3では、実施例1と同様の製造システム1(
図1参照)を使用した。そして、二軸混練装置2のバレル温度を160℃に変更すること以外は、実施例1と同様にして、最終生成物を得た。得られた最終生成物について、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
なお、以下に示す表1中、
「SIS」は、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水素化物を示し、
「PH」は、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサンを示し、
「EB-FF」は、エチレン・ビスステアリン酸アマイドを示し、
「SA-20」は、飽和脂肪酸アマイドを示し、
「10SH」は、ポリイソブテンを示す。
【0112】
【0113】
表1の実施例1~7から、加熱混練工程と冷却混練工程との両工程を含む製造方法とすることで、最終生成物として、ゲルの発生がなく、接着性官能基が良好に導入されており、黄色度が低く、過酸化物量が少ないペレットが得られることが分かる。
一方、比較例1から、加熱混練工程だけでは、最終生成物をペレットとして得ることができないだけでなく、最終生成物にゲルが発生してしまい、また、最終生成物には接着性官能基が導入されないことが分かる。
また、比較例2から、加熱混練工程の後に、冷却混練工程を行わずに、さらに昇温させながら混練すると、最終生成物にゲルは発生せず、接着性官能基は導入されるものの、ペレットとして得ることができないことが分かる。
さらに、比較例3から、二軸混練装置と単軸混練装置の異なる混練装置で混練を行った場合であっても、混練温度の昇降がなければ、得られる最終生成物の黄色度は高くなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の製造方法によれば、接着性樹脂の分解や劣化などの経時的変化やゲルの発生を抑制しつつ、効率的にペレット加工を行うことのできる接着性樹脂を提供することができる。
【符号の説明】
【0115】
1,21 製造システム
2 二軸混練装置
3 ギアポンプ
5 単軸混練装置
6 水中カッター・ペレタイジング装置
7 遠心脱水機
8 リボンミキサー