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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】絶縁トランス
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/10 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
H01F30/10 A
H01F30/10 C
H01F30/10 G
H01F30/10 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021011592
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115130
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2022-11-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】木下 祥宏
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-258250(JP,A)
【文献】特開2006-228996(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111743(WO,A1)
【文献】特開2006-253618(JP,A)
【文献】TDK,Mn-Zn系スイッチング電源用フェライトコア EPシリーズ,2014年03月13日,https://product.tdk.com/system/files/dam/doc/product/ferrite/ferrite/ferrite-core/catalog/ferrite_mz_sw_ep_ja.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のE型のコアと、前記E型のコアの中央脚部を通す筒状胴部を備えるボビンと、前記筒状胴部の外周に巻装された導線で形成された第1巻線および第2巻線と、を備えたコイル部材と、
前記コイル部材を収容し、前記第1巻線と接続する第1端子と前記第2巻線と接続する第2端子とを備えた矩形状のケースと、を有し、
前記ケースは前記コイル部材を収容する内空間を備え、前記内空間に、前記一対のE型のコアの中央脚部が前記ケースの基部に対して平行方向に延在しており、前記中央脚部と一対の側脚部が前記中央脚部の延在方向と垂直であって前記ケースの基部に対して平行方向に配置された状態となるように前記コイル部材が配置され、
前記一対のE型のコアは実効断面積Aeが15.5mm以上21.0mm以下であり、実効磁路長leが21.8mm以上24.2mm以下であり、130℃における飽和磁束密度Bsが0.35T以上であるMn系フェライトからなり、
スイッチング周波数が300kHz以上500kHz以下のフライバック型コンバータ用である、絶縁トランス。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁トランスであって、
前記Mn系フェライトは、周波数400kHz、励磁磁束密度240mT、温度23℃から130℃における磁心損失が7000kW/m以下である、絶縁トランス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁トランスであって、
少なくとも一方の巻線に強化絶縁電線が使用され、前記第1巻線を構成する導線の巻回部と前記第2巻線を構成する導線の巻回部とは、前記第1巻線を構成する導線の巻回部が前記第2巻線を構成する導線の巻回部を挟むように、前記筒状胴部の径方向に重ねて配置され、
周波数400kHzにおける前記第1巻線と前記第2巻線の結合係数が0.990以上である、絶縁トランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車(EV、HEV)の駆動モータ用インバータに使用される絶縁トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や産業機器などで使用される大容量のスイッチング電源では、電源回路を小型化するのにスイッチング速度の向上が図られ、それに使用されるスイッチング素子には、耐圧が高く、スイッチング速度を上げることができる炭化ケイ素(SiC)の採用が進んでいる。SiCのゲート駆動用電源回路においてはフライバック方式電源回路が主流であり、スイッチング周波数を、ノイズ対策からラジオ周波数帯(LW帯、AM帯)を除く300kHzから500kHzの範囲に設定したフライバック型インバータが普及している。このようなフライバック型インバータに使用される絶縁トランスは、スイッチング周波数が高いほど小型に設計することが出来るため、回路全体の小型化に大きく寄与している。
【0003】
一方で、各種用途における高機能化に伴って電源システムの高電圧化が進み,スイッチング電源に使用される部品においても高耐電圧品の需要が高まっていて、絶縁トランスもまた高耐電圧、絶縁強化の要求がある。
【0004】
このような絶縁トランスとして、例えば特許文献1に、高密度実装に対応し、実装される基板上でトランス本体と周囲の電子部品との絶縁性を確保した構造のトランスが開示されている。図9(A)、図9(B)は特許文献1に開示されたトランス100を正面側と背面側から見た斜視図である。図9(A)はトランスの一次側のピン端子側を手前に正面側から見た斜視図であり、図9(B)はトランスの二次側のピン端子側を手前に背面側から見た斜視図である。トランス100は、一対のE型のコア108、ボビン102、一次側巻線104と二次側巻線106で構成されたトランス本体110と、それを収容する絶縁カバー114で構成されている。
【0005】
ボビン102に一次側巻線104と二次側巻線106が巻かれた状態で、ボビン102に形成された貫通穴に一対のE型のコアの中央脚部が挿入され取り付けられている。E型のコアの中央脚部はボビンの貫通穴内で近接し、側脚部は一次側巻線104、二次側巻線106の外側で近接して磁路を形成している。またボビン102には、一次側巻線104と接続する複数の一次側のピン端子112がトランスの下方に突出した状態でフランジ部102eに取り付けられている。
【0006】
トランス本体110を収容する中空で直方体形状の絶縁カバー114は、その内側の収容空間にトランス本体110の大部分が収容可能な大きさで、トランス本体110の一次側のピン端子112側の一側面が開口した開口部と、上下に対向する天板114aと底板(図示せず)、天板114aと底板とに連なる側板114c、114dを有し、それらによってトランス本体110を囲んでいる。図示した例では、絶縁カバー114の天板114aに副開口部114f(切欠部)が形成されていて、そこからトランス本体110のE型のコア108等が部分的に露出している。そして絶縁カバー114の開口部と対向する側板側には、二次側巻線106と接続する複数の二次側のピン端子116がトランスの下方に突出した状態で底板に取り付けられている。
【0007】
一次側巻線104の巻始めと巻終わりから引出線104aが引き出され、これら引出線104aは、それぞれ一次側のピン端子112にはんだ付け固定されている。また、二次側巻線106の巻始めと巻終わりからも、それぞれ引出線106aが引き出され、絶縁カバー114の副開口部114fを通じて引き出された後、天板114aから側板114dに沿って下方に向かって延び、それぞれ二次側のピン端子116にはんだ付け固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-16581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に定義される絶縁距離とは、一次側巻線と二次側巻線の導体露出部の間の最短距離を示し、沿面距離は絶縁体の沿面に添った距離である。特許文献1のトランス100では、立設された一次側のピン端子112と二次側のピン端子116との間の距離であり、E型のコア108を導体と見做し一次側巻線104と同電位体であるとする場合は、絶縁カバー114から現れたE型のコア108と二次側のピン端子116との間の距離で定義される。
【0010】
特許文献1のトランスは、トランス本体110を絶縁カバー114で囲い、二次側巻線106の引出線106aを絶縁カバー114に設けられた開口を通じて外側に引き出し、それを天板114aから側板114dに沿って張り渡すことで、E型のコア108と二次側のピン端子116との間の沿面距離を確保している。
【0011】
一方で、絶縁カバー114の開口から一次側のピン端子104が形成されたフランジ部102eが大きく外側に張り出すようにしてトランス本体110を配置する。このような構造によれば、立設された端子間の沿面距離の確保が容易である反面、トランスの実装面積を小さくするのに制約があった。また一次側のピン端子112と二次側のピン端子116とが異なる部材に設けられているため、絶縁カバー114とトランス本体110との組み合わせの際に、端子の位置のずれやばらつきが生じ易く、回路基板への実装が困難となる場合もあった。
【0012】
また、実装される回路基板に対して垂直な方向にE型のコアを重ねる縦置き構造であるため、トランスの低背化には不向きである。またトランスは、巻線に流れる電流が最大値となる負荷条件でも磁気飽和しないことが求められ、低背化するようにE型のコアを小型化するにも制限がある。また一般にコアを構成する磁性材料は温度に対して飽和磁束密度Bsが変動し、環境温度の上昇とともに小さくなる傾向がある。100℃を超えるような環境温度になる車載用途で、最大の負荷条件でスイッチング電源の駆動が継続した場合でも磁気飽和に耐えられることも求められる。
【0013】
そこで本発明は、上述した課題を解決するため、充分な沿面距離を確保しつつ、高温環境下でもコアの磁気飽和を抑制することが出来、低背型で小型の絶縁トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、一対のE型のコアと、前記E型のコアの中央脚部を通す筒状胴部を備えるボビンと、前記筒状胴部の外周に巻装された導線で形成された第1巻線および第2巻線と、を備えたコイル部材と、前記コイル部材を収容し、前記第1巻線と接続する第1端子と前記第2巻線と接続する第2端子とを備えた矩形状のケースと、を有し、前記ケースは前記コイル部材を収容する内空間を備え、前記内空間に、前記一対のE型のコアが横置の状態となるように前記コイル部材が配置され、前記一対のE型のコアは実効断面積Aeが15.5mm以上21.0mm以下であり、実効磁路長leが21.8mm以上24.2mm以下であり、130℃における飽和磁束密度Bsが0.35T以上であるMn系フェライトからなる、絶縁トランスである。
【0015】
本発明においては、前記Mn系フェライトは、周波数400kHz、励磁磁束密度240mT、温度23℃から130℃における磁心損失が7000kW/m以下であるのが好ましい。
また少なくとも一方の巻線に強化絶縁電線が使用され、前記第1巻線を構成する導線の巻回部と前記第2巻線を構成する導線の巻回部とは、前記第1巻線を構成する導線の巻回部が前記第2巻線を構成する導線の巻回部を挟むように、前記筒状胴部の径方向に重ねて配置され、周波数400kHzにおける前記第1巻線と前記第2巻線の結合係数が0.990以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、充分な沿面距離を確保しつつ、高温環境下でもコアの磁気飽和を抑制することが出来、低背型で小型の絶縁トランスを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態の絶縁トランスを構成部材に分解して示した斜視図である。
図2(A)】本発明の一実施形態の絶縁トランスを正面側から見た斜視図である。
図2(B)】本発明の一実施形態の絶縁トランスを背面側から見た斜視図である。
図3】本発明の一実施形態の絶縁トランスの断面図である。
図4】本発明の一実施形態の絶縁トランスが使用されるフライバック型コンバータの等価回路である。
図5】本発明の一実施形態の絶縁トランスの巻線構造を説明するための模式図である。
図6】本発明の一実施形態を含む絶縁トランスの構成で算出した130℃における直流重畳特性を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態の絶縁トランスの構成で算出した磁心損失の温度特性を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態の絶縁トランスの130℃における直流重畳特性を示すグラフである。
図9(A)】従来の絶縁トランスを正面側から見た斜視図である。
図9(B)】従来の絶縁トランスを正面側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の絶縁トランスの実施形態について説明するが、本発明は、以下に説明する形態に限定されない。図1は本発明の一実施形態の絶縁トランスを構成部材に分解して示した斜視図であり、図2(A)は本発明の一実施形態の絶縁トランスを正面側から見た斜視図であり、図2(B)は本発明の一実施形態の絶縁トランスを背面側から見た斜視図であり、図3は本発明の一実施形態の絶縁トランスの断面図である。また図4に絶縁トランスが使用されるフライバック型コンバータの等価回路の一例を示す。これらの図を適宜参照して本発明の実施形態の絶縁トランスを説明する。
【0019】
フライバック型コンバータは、例えば図4の等価回路に示すように、直流電圧供給源と接続する絶縁トランス1の一次側の第1巻線80と前記第1巻線80と接続するスイッチ回路と、スイッチ回路のON/OFFを制御する制御ICと、前記制御ICへ電源を供給する絶縁トランス1のVcc巻線87と、絶縁トランス1の二次側の第2巻線85と、前記第2巻線85と接続されたダイオードと、コンデンサを含む整流回路を備える。
【0020】
図1から図3に示した絶縁トランス1は、スイッチング周波数が300kHz以上500kHz以下のフライバック型コンバータに用いられ、縦15.5mm、横13.0mmの面内に配置可能で、高さ15.0mm以下の絶縁トランスとして好適な構成例である。
【0021】
絶縁トランス1は、筒状胴部を含むボビン30と、前記ボビン30の筒状胴部の外周に巻装された導線で形成された第1巻線80及び第2巻線85(以下、あわせて巻線として説明する場合がある)と、前記ボビン30に横置き配置で装着される一対のE型のコア10a、10bと、金属端子40が設けられたケース50とを備えている。E型のコア10a、10bと、第1巻線80、第2巻線85及びVcc巻線87が設けられたボビン30によりコイル部材60を構成し、前記ケース50内に収容している。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の絶縁トランス1で用いたE型のコア10a、10bのそれぞれは、一対の側脚部12と、その間に配置された中央脚部11と、側脚部12及び中央脚部11の一端側を接続する矩形の接続部13により略E型に形成されている。中央脚部11は接続部13の一方の長辺側にずれた位置にあって、中央脚部11の断面積を左右の側脚部12、13の全体と略等しくしている。
【0023】
ボビン30の筒状胴部の内側の貫通孔35に、一対のコア10a、10bの中央脚部11を挿入し、コア10a、10bの側脚部12を相互に突き合わせて、組み合わされたコア10a、10bの外周に絶縁テープ90を巻いて一体化してコイル部材60とする。一対のコア10a、10bの中央脚部11間にはインダクタンスの調整のためギャップを設ける場合が多い。コイル部材60の上方と側方にはコア10a、10bが現れ、下方には巻線80、85、87の巻線部とボビン30の脚部32が現れる。図1図3に示すように、コイル部材60の下方側で、巻線80、85、87が形成されていないコア10a、10bの下側(コアの接続部13の下部)に開き空間が出来るが、そこに巻線部の外周よりも僅かに突き出るようにボビン30の鍔部31と繋がった脚部32を形成している。また図示した例では、脚部32に巻線80、85、87の引出線を通す複数の窪み部を設けている。このような構成によれば、コイル部材60をケース50に装着することが容易であるとともに、無駄な空間を排除することで、コイル部材60におけるコア10a、10bが占める体積割合を大きくすることが出来る。それによってコイル部材60の小型化と、限られた空間の中でもコア10a、10bの磁気飽和を考慮した冗長設計が可能である。
【0024】
前記コアの実効断面積Aeは15.5mm以上21.0mm以下であり、実効磁路長leが21.8mm以上24.2mm以下であるのが好ましい。実効断面積Aeが上記範囲を外れ、小さい場合は磁気飽和し易くなり、大きい場合はコアが大型化し、絶縁トランスを小型化するのが困難となる場合がある。また実効磁路長leが上記範囲を外れ、短い場合は初期インダクタンスが増加して磁気飽和する場合がある。またコイルを巻く領域が狭まるためコイルを整列して巻くのが難しくなり、巻線の線径を細くすると、コイルの発熱が増加して絶縁トランスの熱暴走を誘発する場合がある。長い場合はコアが大型化し、絶縁トランスを小型化するのが困難となる場合がある。
【0025】
また、コアに使用する磁性材料として130℃における飽和磁束密度Bsが0.35T以上であるMn系フェライトが好ましい。飽和磁束密度Bsが大きいほどコアの小型化が可能であり、少なくともが0.35T以上であるのが好ましい。また、Mn系フェライトは、周波数400kHz、励磁磁束密度240mT、温度23℃から130℃における磁心損失が7000kW/m以下であることが好ましい。温度23℃から130℃における磁心損失を7000kW/m以下とすることで、100℃に超えるような環境温度で、最大の負荷条件でスイッチング電源を駆動し続けた場合でも、使用される絶縁トランスが熱暴走するのを抑制することが出来る。
【0026】
図5に絶縁トランスの巻線構造を説明するための模式図を示す。ボビン30の筒状胴部には、第1巻線80、第2巻線85、Vcc巻線87が設けられていて、第1巻線80で、第2巻線85とVcc巻線87を挟み込んだサンドイッチ巻の構成としている。このような巻線構造によって第1巻線80と第2巻線85との間の結合係数を0.990以上とすることが出来る。結合係数が大きいほど、電力変換効率が高くなるので好ましい。
【0027】
各巻線には銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体に絶縁被覆を備える被覆線が用いられる。一般的には銅線にポリアミドイミドで絶縁被覆したエナメル線が用いられるが、一次側と二次側の絶縁を考慮すれば、絶縁被膜を複数層形成して絶縁性を向上させた強化絶縁電線である二層絶縁電線あるいは三層絶縁電線を少なくとも一方の巻線に用いるのが好ましい。特には高周波でスイッチングする場合、巻線にはリッツ線、撚り線又はパラレル線を使用し、それを強化絶縁電線とするのが好ましい。
【0028】
ケース50は、絶縁樹脂からなる矩形の基部51と、前記基部51に設けられた金属端子40(T1~T8)を備えていて、更に基部51の三方の縁部から立設する壁部52、53、54と、前記基部51と対面し壁部52、53、54の上端側を覆う天板部55とを備える。図1図2に示すようにケース50は、金属端子40(T1~T4)が形成された側の側面が開口した箱状の形態となっている。また図3に示すように金属端子40の端部は基部51の下面と略同じか、下面に対して僅かに突出して形成されている。
【0029】
少なくとも壁部52、53、54の高さは前述のコイル部材60よりも高く形成され、基部51、壁部52、53、54と天板部55で囲まれた内空間に前述のコイル部材60が収容可能となっている。図示した例では、天板部55には、第1巻線80の引出線を導出可能な幅で、壁部53側に至る溝部を備えている。
【0030】
ケース50に、第1巻線80が接続する金属端子40(T5~T8)の第1端子と、第2巻線85、Vcc巻線87が接続する金属端子40(T1~T4)の第2端子とが一体に形成されている。ケース50を下方から見ると基部51の下面は略全体が平坦だが、金属端子40の間にはケース50の壁部52側から壁部54側に至る段差部52が形成されていて、第1端子と第2端子との間の沿面距離を長くすることが出来る。また第1端子と第2端子をケース50に一体形成したことにより、従来の場合よりも端子間の位置ずれが抑えられ、回路基板への実装で接続不良といった問題も生じにくい。
【0031】
金属端子40はSPCCや、ニッケル、コバルト、リン青銅および鉄の合金であるコバール、あるいは42アロイ等やCP線を用いるのが好ましい。
【0032】
ケース50や前述のボビン30は絶縁樹脂で形成され、絶縁性、機械強度、耐薬品性、耐熱性、耐湿性及び成形性を有する樹脂であれば良く、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、PPS(Poly Phenylene Sulfide:ポリフェニレンサルファイド)樹脂、液晶ポリマー、PET(Polyethylene Terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(Poly Butylene Terephthalate:ポリブチレンテレフタレート)樹脂、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene:アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂等が好ましく、それらを射出成形法等の公知の方法で成形したものを用いることができる。
【0033】
図1図2に示すように、コイル部材60をE型のコア10a、10bが横置き状態となるように、ケース50内の空間に収容し接着剤(図示せず)で固定する。接着は、例えばシリコーン系の接着剤を使用することが出来、硬度が低くて使用温度範囲も広い接着剤を使用するのが好ましい。コイル部材60が載置されるケース50の基部51の上面は平坦となっているが、窪みを設けてコイル部材60の位置決めや、固定用の接着剤溜りにしても良い。
【0034】
コイル部材60に設けられた第2巻線85、Vcc巻線87の巻始めと巻終わりから、引出線75がボビン30の脚部32に形成された溝部を通って引き出され、ケース50の側面が開口した側の金属端子40(T1~T4)の第2端子に絡げてはんだ固定される。図4に示したフライバック型コンバータの例では、絶縁トランス1の金属端子40のT1に第2巻線85の巻始め側(図4の〇5)が接続し、T2に第2巻線85の巻終わり側(〇6)が接続する。またT3にはVcc巻線87の巻始め側(〇7)が接続し、T4にVcc巻線87の巻終わり側(〇8)が接続する。
【0035】
第1巻線80の巻始めと巻終わりから引出線70がケース50の開口側の上方から引き出され、ケース50の天板部55の溝部を通り、壁部53の平面にそって金属端子40(T5~T8)の第1端子へ向けて導出され絡げてはんだ固定される。図示した例では2本の第1巻線80を使い並列結線可能な構成としていて、金属端子40のT8に一方の第1巻線80の巻始め側(〇1)が接続し、T7に他方の第1巻線80の巻始め側(〇2)が接続する。またT6は一方の第1巻線80の巻終わり側(〇3)が接続し、T5には他方の第1巻線80の巻終わり側(〇4)が接続し、絶縁トランスが完成する。
【0036】
このような構成によれば、金属端子40(T5~T8)の第1端子とコイル部材60のコア13との間の間隔も大きくすることが出来て、それによって沿面距離を確保して絶縁性能を向上させることができる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、充分な沿面距離を確保しつつ、高温環境下でもコアの磁気飽和を抑制することが出来、低背型で小型の絶縁トランスを提供することができる。
【実施例
【0038】
以下の構成で、図1から図3に記載した絶縁トランスを作製した。この絶縁トランスは、縦15.5mm、横13.0mmの面内に配置可能で、高さ15.0mm以下であって、沿面距離が12.5mm以上で、第1巻線による入力側インダクタンスが15.0μHであり、スイッチング周波数が400kHzで、入力電圧が17~25Vのフライバック型インバータに使用するものである。
【0039】
絶縁トランスの外形寸法を決めるケースは、実装面がX方向12.5mm(B寸法)、Y方向15.2mm(金属端子を含むA寸法)で、Z方向14.5mm(C寸法)とした、コイル部材を収容するケース内側の寸法は、X方向が11.2mm、Y方向が10.7mm、Z方向が10.0mmである。ケースの内空間に収容可能なコイル部材のコアとして、X方向が10.4mm、Y方向が5.15mm、Z方向が7.5mmのE型のコアを用いた。組み合わせたE型のコアの実効断面積Aeは15.9mmであり、実効磁路長leが22.74mmである。またギャップ長は0.06mm、一対のE型のコアの体積Veは444mmである。第1巻線の巻き数N1を7ターンとし、第2巻線側の電圧や整流回路のダイオードによる電圧降下を考慮して、第2巻線の巻き数N2を16ターンとした。フライバック型インバータの動作条件を考慮し、第1巻線に流れるピーク電流は1.79Aとした。
【0040】
E型のコアに使用する使用するフェライトとして、日立金属株式会社製のMn系フェライトの2材質を選び、それぞれの磁気特性から、直流重畳特性と磁心損失を算出した。表1に各材質の磁気特性のカタログに記載された代表値を示す。なお各特性は、外径25mm、内径15mm、高さ5mmの円環状コアで評価されている。またそれぞれの130℃における飽和磁束密度は350mT以上である。
【0041】
【表1】
【0042】
(直流重畳特性)
ML25、ML29Dで作成された外径25mm、内径15mm、高さ5mmの円環状コアを準備し、130℃での直流B-H曲線の初磁化曲線(Bm-Hm特性)と、直流重畳特性(μΔ-Hm特性)を測定した。
得られた初磁化曲線の磁束密度Bmと磁界の強さHmから、磁路長Le、ギャップ長Lgの一対のE型コアで構成された磁気回路の磁界の強さH‘を式(1)より求めて、E型コアを組みわせて構成された磁気回路でのB-H’特性を得た。
H‘=(Hm×(Le―Lg)+Bm×Lg/μ)/Le (1)
Bm:磁束密度(T)
Hm:磁界の強さ(A/m)
Le:一対のE型のコアの磁路長(m)
Lg:一対のE型のコアのギャップ長 (m)
μ:真空の透磁率(4π×10-7)(H/m)
μΔ:増分透磁率
【0043】
円環状コアより得られた直流重畳特性の増分透磁率μΔから、磁路長Le、ギャップ長Lgの一対のE型のコアで構成された磁気回路の実効増分透磁率μΔeを求めた。さらに直流重畳特性の磁界の強さHmと前述のB-H‘特性を用いて、磁路長Le、ギャップ長LgのE型コアを組みわせて構成された磁気回路でのμΔe-H’特性を得た。
更に第1巻線の巻き数、一対のE型のコアの磁路長Le、実効断面積Aeにより、第1巻線による一次側インダクタンスLを算出した。図6に磁界の強さH‘を重畳電流に換算したインダクタンスLの重畳特性を示す。2種のMn系フェライトの内、ML29DはML25Dよりも重畳特性に優れることが分かる。
【0044】
(磁心損失)
第1巻線に流れるピーク電流から動作磁束密度を算出して240mTとした。スタイン・メッツの実験式をもとに、23℃、100℃、130℃、150℃で算出された磁心損失と温度のとの関係を図7に示す。ML29DはML25Dよりも温度に対する磁心損失の変化が小さく、23℃から130℃の温度では磁心損失が小さくて、温度特性に優れることが分かる。
【0045】
得られた結果を基にE型のコアにMn系フェライト:ML29Dを使用して絶縁トランスを作成した。 トランスの外形寸法は、X方向が12.5mm、Y方向が15.2mm、Z方向が14.5mmである。ケースはジアリルフタレート樹脂製、ボビンはフェノール樹脂製である。第1巻線として線径φ0.14の線材を4本束ねた3層絶縁電線を2本使い、第2巻線には線径φ0.23ポリウレタン被覆銅線(UEW線)を使い、またVcc巻線にも線径φ0.23ポリウレタン被覆銅線(UEW線)を使い、図4に示すように第1巻線で第2巻線とVcc巻線を挟み、第1巻線を7ターン、第2巻線を16ターン、Vcc巻線を3ターンとしてコイル部材を作製した。コイル部材の外形寸法は、X方向が10.2mm、Y方向が10.2mm、Z方向が8.7mmである。ケースの内空間にコイル部材を収容し、第1巻線の引出線を絶縁トランスの上面側から引き出し、ケースの天板部の溝部を通して、壁部の平面にそって金属端子40(T5~T8)の第1端子へ向けて導出され絡げてはんだ固定した。また、第2巻線85、Vcc巻線87の引出線をケースの側面が開口した側から引き出して金属端子40(T1~T4)の第2端子に絡げてはんだ固定して、絶縁トランスを作製した。周波数400kHzにおける第1巻線と第2巻線の結合係数は0.994であった。
【0046】
得られた絶縁トランスを使って、周波数400KHz、温度130℃の条件で入力側インダクタンスの直流重畳特性を評価した。その結果を図8に示す。絶縁トランスは重畳電流に対してインダクタンスの変化が小さく、第1巻線に流れるピーク電流の1.79Aの条件でも、初期インダクタンスに対する変化は0.5μH程度であった。2.5Aの条件でも変化は1.0μH程度と小さく、高温環境下でもコアの磁気飽和を抑制し、小型で充分な沿面距離を確保した絶縁トランスが得られた。
【符号の説明】
【0047】
1 絶縁トランス
10a、10b E型のコア
30 ボビン
40 金属端子
50 ケース
60 コイル部品

図1
図2(A)】
図2(B)】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9(A)】
図9(B)】