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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】成膜用材料及び成膜用スラリー
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/04 20060101AFI20240116BHJP
   C01F 17/265 20200101ALI20240116BHJP
   C01F 17/212 20200101ALI20240116BHJP
   C01F 17/218 20200101ALI20240116BHJP
   C01F 17/224 20200101ALI20240116BHJP
   C01F 17/20 20200101ALI20240116BHJP
【FI】
C23C4/04
C01F17/265
C01F17/212
C01F17/218
C01F17/224
C01F17/20
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021011940
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115374
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 凌
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕司
(72)【発明者】
【氏名】中村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】中野 瑞
(72)【発明者】
【氏名】宮本 滉平
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082325(JP,A)
【文献】特開2020-015978(JP,A)
【文献】特開2020-029614(JP,A)
【文献】特表2019-519091(JP,A)
【文献】国際公開第2021/145341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-4/18
C23C 24/00-24/10
C01F 17/00-17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含むことを特徴とする成膜用材料。
【請求項2】
上記希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とが、相互に分散した複合粒子を形成していることを特徴とする請求項1に記載の成膜用材料。
【請求項3】
上記希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物粒子であり、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が、希土類元素フッ化アンモニウム複塩粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜用材料。
【請求項4】
希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含むことを特徴とする成膜用材料。
【請求項5】
上記希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子をマトリックスとして、該希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子の表面及び/又は内部に、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子又は層が分散した複合粒子を形成していることを特徴とする請求項4に記載の成膜用材料。
【請求項6】
上記希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子が希土類元素酸化物粒子であり、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子又は層が、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の粒子又は層であることを特徴とする請求項5に記載の成膜用材料。
【請求項7】
上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素フッ化物粒子であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項8】
希土類元素オキシフッ化物の結晶相を含まないことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項9】
上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩が、(NH4336、NH434、NH43 27及び(NH433 29(式中、R3は、各々、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上である。)から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項10】
酸素含有率が、0.3~10質量%であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項11】
特性X線としてCuKα線を用いたX線回折で、回折角2θ=10~70°の範囲内に検出される結晶相の回折ピークにおいて、下記式
FO=I(RNF)/(I(RF)+I(RO))
(式中、I(RNF)は、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RF)は、上記希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RO)は、上記希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値である。)
により算出されるXFOの値が0.01以上であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項12】
上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子の、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(F1)が、0.5~10μmであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項13】
上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子の粒子径分布において、下記式
D=(D90(F1)-D10(F1))/D50(F1)
(式中、D90(F1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積90%径、D10(F1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積10%径、D50(F1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である。)
により算出されるPDの値が4以下であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項14】
上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子のBET比表面積が10m2/g以下であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項15】
上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子のゆるみかさ密度が0.6g/cm3以上であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項16】
粉末状又は顆粒状であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項17】
体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(S0)が10~100μmであることを特徴とする請求項16に記載の成膜用材料。
【請求項18】
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の成膜用材料と、分散媒とを含むことを特徴とする成膜用スラリー。
【請求項19】
スラリー濃度が、10~70質量%であることを特徴とする請求項18に記載の成膜用スラリー。
【請求項20】
上記分散媒が、非水系溶媒を含むことを特徴とする請求項18又は19に記載の成膜用スラリー。
【請求項21】
純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(S1)が、1~10μmであることを特徴とする請求項18乃至20のいずれか1項に記載の成膜用スラリー。
【請求項22】
平均粒子径D50(S1)(ここで、D50(S1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である。)と、平均粒子径D50(S3)(ここで、D50(S3)は、純水30mLに混合し、40W、3分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である。)とから、下記式
SA=D50(S1)/D50(S3)
により算出されるPSAの値が1.04以上であることを特徴とする請求項18乃至21のいずれか1項に記載の成膜用スラリー。
【請求項23】
上記成膜用材料の、大気中、500℃、2時間の条件での強熱減量が0.5質量%以上であることを特徴とする請求項18乃至22のいずれか1項に記載の成膜用スラリー。
【請求項24】
溶射材料であることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の成膜用材料。
【請求項25】
溶射用スラリーであることを特徴とする請求項18乃至23のいずれか1項に記載の成膜用スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置用部材の耐食性皮膜として優れた溶射皮膜などの皮膜を形成できる成膜用材料及び成膜用スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、半導体の集積化が進み、ドライエッチングによってウエハ上に形成される線幅の要求が10nm以下にもなりつつあり、半導体製造工程中に発生するパーティクルの低減が求められている。従来から、半導体製造装置用部材の耐食性皮膜に要求される低パーティクル性を与える皮膜として、大気プラズマ溶射(APS)により形成した希土類元素オキシハロゲン化物の皮膜の検討が進められており、そのための溶射材料として、例えば、国際公開第2014/002580号(特許文献1)には、イットリウムのオキシフッ化物を含む溶射材料が開示されている。
【0003】
これに対し、更なる低パーティクル性の向上が期待される、大気サスペンションプラズマ溶射(SPS)により形成した希土類元素オキシフッ化物の皮膜の開発が進んでおり、そのための溶射材料として、国際公開第2015/019673号(特許文献2)には、希土類元素オキシフッ化物を含む粒子及び分散媒を含む溶射用スラリーが開示されている。しかし、大気サスペンションプラズマ溶射によって形成される溶射皮膜は、高パワーな溶射プルームを通して得られるために、大気下の溶射雰囲気中では、大気プラズマ溶射よりも酸化反応が進行し、得られる溶射皮膜中に多くの酸化物が形成されてしまうことが問題となっている。
【0004】
従来、希土類元素オキシフッ化物の溶射皮膜を得るためには、希土類元素フッ化物、希土類元素オキシフッ化物、希土類元素酸化物などを単独で又は混合して溶射していた。希土類元素フッ化物を、例えば大気サスペンションプラズマ溶射すると、希土類元素オキシフッ化物の溶射皮膜は得られても、希土類元素フッ化物が溶射皮膜中に多く残存してしまう。また、希土類元素オキシフッ化物では、希土類元素オキシフッ化物の溶射皮膜が得られても、溶射プロセス中に大気下での酸化反応が進行して溶射皮膜中に希土類元素酸化物が多く副生してしまう。一方、希土類元素フッ化物と希土類元素オキシフッ化物との混合物、又は希土類元素フッ化物と希土類元素酸化物との混合物では、これらを溶射プロセス中の極僅かな時間で反応させて希土類元素オキシフッ化物の溶射皮膜を得るために、高パワーの条件で溶射する必要があり、反応と同時に溶融粒子の酸化が進行して、希土類元素酸化物が皮膜中に多く副生してしまう。これらの残存物や副生物は、パーティクル発生の一因であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/002580号
【文献】国際公開第2015/019673号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、皮膜の成膜、特に、大気プラズマ溶射(APS)や、大気サスペンションプラズマ溶射(SPS)などの大気下での溶射であっても、溶射皮膜中の希土類元素酸化物や希土類元素フッ化物の残存又は副生を抑制して、希土類元素酸化物や希土類元素フッ化物の存在比率が低い希土類元素オキシフッ化物溶射皮膜を形成することができる、溶射材料などとして好適な成膜用材料、及び溶射用スラリーとして好適な成膜用スラリーを提供することを目的とする。また、本発明は、希土類元素酸化物や希土類元素フッ化物の存在比率が低い、低パーティクル性の希土類元素オキシフッ化物溶射皮膜、及びこの溶射皮膜を備える溶射部材を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、
希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含む成膜用材料、特に、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とが、相互に分散した複合粒子を形成している成膜用材料、又は
希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含む成膜用材料、特に、希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子をマトリックスとして、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子の表面及び/又は内部に、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子又は層が分散した複合粒子を形成している成膜用材料
が、成膜に用いる材料として優れており、特に、希土類元素フッ化物や希土類元素酸化物が少ない希土類元素オキシフッ化物溶射皮膜を容易に形成できる溶射材料として優れた成膜用材料であり、また、このような成膜用材料を含む成膜用スラリーが、溶射用スラリーとして優れていることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記の成膜用材料及び成膜用スラリーを提供する。
1.希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含むことを特徴とする成膜用材料。
2.上記希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とが、相互に分散した複合粒子を形成していることを特徴とする1に記載の成膜用材料。
3.上記希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物粒子であり、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が、希土類元素フッ化アンモニウム複塩粒子であることを特徴とする1又は2に記載の成膜用材料。
4.希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含むことを特徴とする成膜用材料。
5.上記希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子をマトリックスとして、該希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子の表面及び/又は内部に、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子又は層が分散した複合粒子を形成していることを特徴とする4に記載の成膜用材料。
6.上記希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子が希土類元素酸化物粒子であり、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子又は層が、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の粒子又は層であることを特徴とする5に記載の成膜用材料。
7.上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素フッ化物粒子であることを特徴とする1乃至6のいずれかに記載の成膜用材料。
8.希土類元素オキシフッ化物の結晶相を含まないことを特徴とする1乃至7のいずれかに記載の成膜用材料。
9.上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩が、(NH4336、NH434、NH43 27及び(NH433 29(式中、R3は、各々、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上である。)から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする1乃至8のいずれかに記載の成膜用材料。
10.酸素含有率が、0.3~10質量%であることを特徴とする1乃至9のいずれかに記載の成膜用材料。
11.特性X線としてCuKα線を用いたX線回折で、回折角2θ=10~70°の範囲内に検出される結晶相の回折ピークにおいて、下記式
FO=I(RNF)/(I(RF)+I(RO))
(式中、I(RNF)は、上記希土類元素フッ化アンモニウム複塩に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RF)は、上記希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RO)は、上記希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値である。)
により算出されるXFOの値が0.01以上であることを特徴とする1乃至10のいずれかに記載の成膜用材料。
12.上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子の、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(F1)が、0.5~10μmであることを特徴とする1乃至11のいずれかに記載の成膜用材料。
13.上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子の粒子径分布において、下記式
D=(D90(F1)-D10(F1))/D50(F1)
(式中、D90(F1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積90%径、D10(F1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積10%径、D50(F1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である。)
により算出されるPDの値が4以下であることを特徴とする1乃至12のいずれかに記載の成膜用材料。
14.上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子のBET比表面積が10m2/g以下であることを特徴とする1乃至13のいずれかに記載の成膜用材料。
15.上記希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子のゆるみかさ密度が0.6g/cm3以上であることを特徴とする1乃至14のいずれかに記載の成膜用材料。
16.粉末状又は顆粒状であることを特徴とする1乃至15のいずれかに記載の成膜用材料。
17.体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(S0)が10~100μmであることを特徴とする16に記載の成膜用材料。
18.1乃至15のいずれかに記載の成膜用材料と、分散媒とを含むことを特徴とする成膜用スラリー。
19.スラリー濃度が、10~70質量%であることを特徴とする18に記載の成膜用スラリー。
20.上記分散媒が、非水系溶媒を含むことを特徴とする18又は19に記載の成膜用スラリー。
21.純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(S1)が、1~10μmであることを特徴とする18乃至20のいずれかに記載の成膜用スラリー。
22.平均粒子径D50(S1)(ここで、D50(S1)は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である。)と、平均粒子径D50(S3)(ここで、D50(S3)は、純水30mLに混合し、40W、3分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である。)とから、下記式
SA=D50(S1)/D50(S3)
により算出されるPSAの値が1.04以上であることを特徴とする18乃至21のいずれかに記載の成膜用スラリー。
23.上記成膜用材料の、大気中、500℃、2時間の条件での強熱減量が0.5質量%以上であることを特徴とする18乃至22のいずれかに記載の成膜用スラリー。
24.溶射材料であることを特徴とする1乃至17のいずれかに記載の成膜用材料。
25.溶射用スラリーであることを特徴とする18乃至23のいずれかに記載の成膜用スラリー。
また、本発明は、下記の溶射皮膜及び溶射部材が関連する。
26.24に記載の成膜用材料又は25に記載の成膜用スラリーを溶射して得たことを特徴とする溶射皮膜。
27.基材上に、26に記載の溶射皮膜を備えることを特徴とする溶射部材。
28.半導体製造装置用部材であることを特徴とする27に記載の溶射部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成膜用材料又は成膜用スラリーは、特に、成膜用材料又は成膜用スラリーを使用して溶射により溶射皮膜を形成すれば、過剰な熱量を必要とせず希土類元素オキシフッ化物溶射皮膜を形成できるので、大気下でも溶射熱による酸化反応の進行を抑制しながら、希土類元素フッ化物や希土類元素酸化物が少ない希土類元素オキシフッ化物溶射皮膜が得られ、また、過剰な熱量の影響による皮膜剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得られた成膜用材料の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例1で得られた成膜用材料のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明の成膜用材料は、希土類元素フッ化物の結晶相と、希土類元素酸化物の結晶相と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相とを含む。本発明の成膜用材料は、粉末状顆粒状などの固体状の形態で溶射、物理蒸着(PVD)、エアロゾルデポジション(AD)などの成膜に使用することができ、溶射の場合、大気プラズマ溶射(APS)に好適である。また、本発明の成膜用材料は、成膜用材料と、分散媒とを含む成膜用スラリーとすることができる。スラリーの形態で成膜用材料を使用する場合、溶射用スラリーとして好適であり、溶射用スラリーは、大気サスペンションプラズマ溶射(SPS)に好適である。
【0012】
本発明の成膜用材料には、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含む成膜用材料(第1の態様の成膜用材料)が含まれる。この第1の態様の成膜用材料は、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とが、相互に分散した複合粒子(第1の態様の複合粒子)を形成していることが好ましい。また、第1の態様の成膜用材料は、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、第1の態様の複合粒子との混合物又は造粒粒子であることが好ましい。更に、第1の態様の成膜用材料の場合、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素フッ化物粒子であることが好ましく、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物粒子であることが好ましく、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が、希土類元素フッ化アンモニウム複塩粒子であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の成膜用材料には、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子とを含む成膜用材料(第2の態様の成膜用材料)が含まれる。この第2の態様の成膜用材料は、希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子をマトリックスとして、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子の表面及び/又は内部に、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子又は層が分散した複合粒子(第2の態様の複合粒子)を形成していることが好ましい。また、第2の態様の成膜用材料は、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、第2の態様の複合粒子との混合物又は造粒粒子であることが好ましい。更に、第2の態様の成膜用材料の場合、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素フッ化物粒子であることが好ましく、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子が、希土類元素酸化物粒子であることが好ましく、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子又は層が、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の粒子又は層であることが好ましい。
【0014】
従って、第1及び第2の態様の成膜用材料のいずれにおいても、複合粒子は、希土類元素酸化物の結晶相と、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相とを含んでいる。また、第1及び第2の態様の成膜用材料のいずれにおいても、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子は、他の成分を含まない希土類元素フッ化物のみで構成された粒子であることが好ましく、結晶相が、実質的に、希土類元素フッ化物の結晶相のみである粒子であることが好ましい。この場合、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子の近傍に、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の粒子又は層が豊富に存在することになり有利である。更に、第1及び第2の態様の成膜用材料のいずれにおいても、複合粒子(第1及び第2の態様の複合粒子)は、少量であれば、希土類元素酸化物及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩以外の成分を含んでいてもよいが、実質的に、希土類元素酸化物及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩のみで構成された粒子であることが好ましく、結晶相が、実質的に、希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相のみである粒子であることが好ましい。
【0015】
本発明の成膜用材料は、希土類元素オキシフッ化物の結晶相を含まないことが好ましい。希土類元素オキシフッ化物は、希土類元素フッ化物や希土類元素酸化物に比べて不安定な化合物であり、成膜用材料中に希土類元素オキシフッ化物が含まれていると、例えば、溶射で用いた場合、溶射プロセス中に、希土類元素オキシフッ化物の酸化反応が優先的に進行し、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜中の希土類元素酸化物の量が多くなってしまう場合がある。
【0016】
本発明において、希土類元素フッ化物としては、R12、R13(式中、R1は、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素である。)などが挙げられる。希土類元素フッ化物は、単一種であっても、2種以上の混合物であってもよく、また、R1は、一部又は全ての希土類元素フッ化物に共通でも、各々の希土類元素フッ化物で異なっていてもよい。
【0017】
本発明において、希土類元素酸化物としては、R2O、R2 23(R2は、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素である。)などが挙げられる。希土類元素酸化物は、単一種であっても、2種以上の混合物であってもよく、また、R2は、一部又は全ての希土類元素酸化物に共通でも、各々の希土類元素酸化物で異なっていてもよい。
【0018】
本発明において、希土類元素フッ化アンモニウム複塩としては、(NH4336、NH434、NH43 27、(NH433 29(式中、R3は、各々、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上である。)などが挙げられる。希土類元素フッ化アンモニウム複塩は、単一種であっても、2種以上の混合物であってもよく、また、R3は、一部又は全ての希土類元素フッ化アンモニウム複塩に共通でも、各々の希土類元素フッ化アンモニウム複塩で異なっていてもよい。
【0019】
本発明において、希土類元素オキシフッ化物としては、R4OF(R4 111)、R4 436、R4 547、R4 658、R4 769、R4 171423、R42F、R4OF2(式中、R4は、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素である。)などが挙げられる。希土類元素オキシフッ化物は、単一種であっても、2種以上の混合物であってもよく、また、R4は、一部又は全ての希土類元素オキシフッ化物に共通でも、各々の希土類元素オキシフッ化物で異なっていてもよい。
【0020】
本発明の成膜用材料は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の成分として、希土類元素フッ化物、希土類元素酸化物及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩以外に、希土類元素水酸化物、希土類元素炭酸塩などの他の希土類元素化合物又はその粒子、他の元素の化合物又はその粒子を含んでいてもよい。この他の成分の含有率は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましいが、この他の成分は、実質的に含まれていないことが最も好ましい。
【0021】
また、第1及び第2の態様の成膜用材料のように、希土類元素酸化物及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩を複合粒子として含む場合は、他の成分を含まない希土類元素酸化物のみで構成された希土類元素酸化物粒子や、他の成分を含まない希土類元素フッ化アンモニウム複塩のみで構成された希土類元素フッ化アンモニウム複塩粒子を含んでいてもよい。希土類元素酸化物粒子及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩粒子の合計の含有率は、複合粒子に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましいが、これらの希土類元素酸化物粒子及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩粒子は、実質的に含まれていないことが最も好ましい。
【0022】
本発明において、希土類元素には、Sc(スカンジウム)、イットリウム(Y)、及びランタノイド(原子番号57~71の元素)が含まれる。希土類元素としては、特に、Y、Sc、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)が好適である。
【0023】
本発明の成膜用材料は、酸素含有率が0.3質量%以上であることが好ましい。酸素含有率が0.3質量%以上であれば、例えば、溶射で用いた場合、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜中の希土類元素フッ化物の量を少なくすることができる点で有利であり、また、溶射皮膜の面粗さを小さくすることができる点で有利である。酸素含有率は0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。一方、本発明の成膜用材料は、酸素含有率が10質量%以下であることが好ましい。酸素含有率が10質量%以下であれば、例えば、溶射で用いた場合、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜中に含まれる希土類元素酸化物の量を少なくすることができる点で有利である。酸素含有率は9質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることが更に好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。成膜用材料の酸素含有率を上記範囲とするためには、成膜用材料を製造する際、成膜用材料を構成する全成分に対する酸素の含有率を、適宜調整すればよい。具体的には、成膜用材料中の複合粒子(第1又は第2の態様の複合粒子)の比率、又は複合粒子中の希土類酸化物の結晶相を含む粒子の比率を調整すればよい。
【0024】
本発明の成膜用材料は、特性X線としてCuKα線を用いたX線回折で、回折角2θ=10~70°の範囲内に検出される結晶相の回折ピークにおいて、下記式
FO=I(RNF)/(I(RF)+I(RO))
(式中、I(RNF)は、希土類元素フッ化アンモニウム複塩に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RF)は、希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RO)は、希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値である。)
により算出されるXFOの値が、0.01以上であることが好ましい。ここで、希土類元素フッ化アンモニウム複塩、希土類元素フッ化物及び希土類元素酸化物の各々において、2種以上の化合物が存在する場合、I(RNF)、I(RF)及びI(RO)は、2種以上の化合物の各々の回折ピークの最大ピークの積分強度値の和とする。希土類元素フッ化アンモニウム複塩の分解、解離によって発生するNH3ガスは、高温で燃焼する性質を有しており、特に限定されるものではないが、XFOの値が大きいほど、周囲の空気中の酸素を消費して、希土類元素オキシフッ化物の酸化を抑制すると考えられる。XFOの値は、0.02以上であることがより好ましく、0.05以上であることが更に好ましく、0.08以上であることが特に好ましい。一方、XFOの値は、1以下であることが好ましい。XFOの値が1以下であれば、特に、成膜用材料を成膜用スラリーの形態で使用した場合に、スラリーの粘度上昇を抑制できる点で有利である。XFOの値は、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることが更に好ましく、0.4以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の成膜用材料は、特性X線としてCuKα線を用いたX線回折で、回折角2θ=10~70°の範囲内に検出される結晶相の回折ピークにおいて、下記式
F=I(RNF)/I(RF)
(式中、I(RNF)は、希土類元素フッ化アンモニウム複塩に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RF)は、希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値である。)
により算出されるXFの値が、0.01以上であることが好ましい。ここで、希土類元素フッ化アンモニウム複塩及び希土類元素フッ化物の各々において、2種以上の化合物が存在する場合、I(RNF)及びI(RF)は、2種以上の化合物の各々の回折ピークの最大ピークの積分強度値の和とする。XFの値が0.01以上であれば、成膜用材料中に含まれる希土類元素フッ化アンモニウム複塩の比率が高くなり、例えば、溶射で用いた場合、溶射プロセス中の酸化反応の進行が抑制される点で効果的である。希土類元素フッ化アンモニウム複塩は、溶射プルーム内に存在する極僅かな時間で分解、解離が進行し、これにより、HFガスとNH3ガスが発生する。発生したHFガスは、特に限定されるものではないが、成膜用材料中に含まれる希土類元素酸化物と瞬時に反応し、希土類元素オキシフッ化物となると考えられる。XFの値は、0.02以上であることがより好ましく、0.05以上であることが更に好ましく、0.08以上であることが特に好ましい。一方、XFの値は、1以下であることが好ましい。希土類元素フッ化アンモニウム複塩を、希土類酸化物の結晶相を含む粒子との複合粒子として含む成膜用材料の場合、希土類元素成膜用材料中に含まれる希土類元素フッ化アンモニウム複塩の比率が高くなると、希土類元素成膜用材料中に含まれる希土類酸化物の比率も高くなることになり、その結果、例えば、溶射で用いた場合、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜中に含まれる希土類元素酸化物の量が多くなる場合がある。XFの値は、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることが更に好ましく、0.4以下であることが特に好ましい。
【0026】
本発明の成膜用材料は、特性X線としてCuKα線を用いたX線回折で、回折角2θ=10~70°の範囲内に検出される結晶相の回折ピークにおいて、下記式
O=I(RNF)/I(RO)
(式中、I(RNF)は、希土類元素フッ化アンモニウム複塩に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RO)は、希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値である。)
により算出されるXOの値が、0.01以上であることが好ましい。ここで、希土類元素フッ化アンモニウム複塩及び希土類元素酸化物の各々において、2種以上の化合物が存在する場合、I(RNF)及びI(RO)は、2種以上の化合物の各々の回折ピークの最大ピークの積分強度値の和とする。XOの値が0.01以上であれば、成膜用材料中に含まれる希土類元素フッ化アンモニウム複塩の比率、特に、希土類元素フッ化アンモニウム複塩を、希土類酸化物の結晶相を含む粒子との複合粒子として含む成膜用材料の場合、複合粒子中に含まれる希土類元素フッ化アンモニウム複塩の比率が高くなり、例えば、溶射で用いた場合、溶射プロセス中、希土類元素フッ化アンモニウム複塩の反応の効率を上げて、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜中に含まれる希土類元素酸化物の量を少なくできる点で効果的である。XOの値は、0.02以上であることがより好ましく、0.05以上であることが更に好ましく、0.08以上であることが特に好ましい。一方、XOの値は、1以下であることが好ましい。XOの値が1以下であれば、例えば、溶射で用いた場合、希土類元素酸化物を希土類元素フッ化物又は希土類元素フッ化アンモニウム複塩と反応させて、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜中に希土類元素オキシフッ化物が含まれるようにするための酸素供給源として、希土類元素酸化物を効果的に作用させることができる。XOの値は、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることが更に好ましく、0.4以下であることが特に好ましい。
【0027】
希土類元素が、例えば、イットリウム(Y)の場合、フッ化イットリウムアンモニウム複塩(NH427)の立方晶系の最大ピークは、特に限定されるものではないが、一般的に、結晶格子の(541)面に帰属される回折ピークとなる。この回折ピークは、通常、2θ=27.3°前後に検出される。また、フッ化イットリウム(YF3)の最大ピークは、特に限定されるものではないが、一般的に、結晶格子の(111)面に帰属される回折ピークとなる。この回折ピークは、通常、2θ=27.9°前後に検出される。酸化イットリウム(Y23)の最大ピークは、特に限定されるものではないが、一般的に、結晶格子の(222)面に帰属される回折ピークとなる。この回折ピークは、通常、2θ=29.2°前後に検出される。
【0028】
本発明の成膜用材料は、粉末状や顆粒状などの固体状の形態で溶射、物理蒸着(PVD)、エアロゾルデポジション(AD)などの成膜に使用することができる。成膜用材料中の希土類元素フッ化アンモニウム複塩は、200℃を超えると分解が進行するので、成膜用材料は、200℃を超える温度での焼成を実施していないものが好ましい。本発明の成膜用材料は、例えば造粒などにより製造する際、200℃以下の温度で乾燥することは可能である。また、造粒により製造した成膜用材料の場合は、造粒の際に必要に応じて添加されるバインダーなどの結合剤を含有していてもよい。
【0029】
本発明の成膜用材料は、粉末状や顆粒状などの固体状の形態で使用する場合、体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(S0)が、100μm以下であることが好ましい。平均粒子径D50(S0)は、成膜用材料に超音波分散処理などの粒子径分布測定のための前処理を施すことなく、成膜用材料の粒子径分布を、そのままの状態で測定した平均粒子径である。成膜用材料の粒子径が小さくなるほど、例えば、溶射で用いた場合、溶融粒子が、基材、又は基材上に形成された皮膜に衝突して形成されるスプラット径が小さくなり、形成される溶射皮膜の気孔率を低くすることができ、スプラット中に生成するクラックを抑制することができる。平均粒子径D50(S0)は、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが更に好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。一方、平均粒子径D50(S0)は、10μm以上であることが好ましい。成膜用材料の粒子径が大きくなるほど、例えば、溶射で用いた場合、溶融粒子が大きな運動量を有することによって、基材、又は基材上に形成された皮膜に衝突してスプラットを形成しやすくなる点、また、溶射材料供給装置から溶射ガンへ成膜用材料(溶射材料)を供給する際に、流れ性が良くなる点で有利である。平均粒子径D50(S0)は、12μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更に好ましく、18μm以上であることが特に好ましい。
【0030】
本発明の成膜用材料は、分散媒中に分散させて、スラリーの形態で成膜に使用することができる。スラリーの形態で成膜用材料を使用する場合、成膜用スラリーは、溶射用スラリーとして好適である。スラリー濃度(成膜用材料のスラリー全体に対する含有率)は、70質量%以下であることが好ましい。成膜用材料の含有率が70質量%を超えると、例えば、溶射で用いた場合、溶射時にスラリーが供給装置内で閉塞する場合があり、溶射皮膜を形成することができないおそれがある。成膜用スラリー中の成膜用材料の含有率が低いほど、スラリー中の粒子の運動が活発になり、分散性が高まる。また、成膜用スラリー中の成膜用材料の含有率が低いほど、スラリーの流動性が向上し、スラリー供給に好適である。スラリー濃度は、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましく、55質量%以下であることが特に好ましい。より高い流動性が求められる場合には、スラリー濃度を更に低くすることができ、その場合は、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。一方、スラリー濃度は、10質量%以上であることが好ましい。成膜用スラリー中の成膜用材料の含有率が高いほど、例えば、溶射で用いた場合、スラリーの溶射によって形成される溶射皮膜の成膜速度が向上し、生産性を上げることができる。また、スラリー濃度は、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、25質量%以上であることが特に好ましい。
【0031】
成膜用スラリーは分散媒を含むが、分散媒は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。分散媒は、非水系分散媒、即ち、水以外の分散媒を含むことが好ましい。非水系分散媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、アルコール、エーテル、エステル、ケトンなどが挙げられる。より具体的には、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数が2~6の一価又は二価のアルコール、エチルセロソルブ等の炭素数が3~8のエーテル、ジメチルジグリコール(DMDG)等の炭素数が4~8のグリコールエーテル、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等の炭素数が4~8のグリコールエステル、イソホロン等の炭素数が6~9の環状ケトンなどが好ましい。非水系分散媒は、水と混合できる水溶性のものがより好適である。非水系分散媒を水と混合して使用する場合、水は、本発明の効果を損なわない程度であれば含んでいてもよい。非水系分散媒に混合する水の量は、分散媒全体に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましいが、分散媒は、非水系分散媒以外の分散媒を実質的に含んでいないこと(即ち、水を実質的に含んでいないこと)が最も好ましい。
【0032】
本発明の成膜用材料は、スラリーの形態で使用する場合、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(S1)が、10μm以下であることが好ましい。成膜用材料の粒子径が小さくなるほど、例えば、溶射で用いた場合、溶射した際、溶融粒子が、基材、又は基材上に形成された皮膜に衝突して形成されるスプラット径が小さくなり、形成される溶射皮膜の気孔率を低くすることができ、スプラット中に生成するクラックを抑制することができる。平均粒子径D50(S1)は、9μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることが更に好ましく、7μm以下であることが特に好ましい。一方、平均粒子径D50(S1)は、1μm以上であることが好ましい。成膜用材料の粒子径が大きくなるほど、例えば、溶射で用いた場合、溶融粒子が大きな運動量を有することによって、基材、又は基材上に形成された皮膜に衝突してスプラットを形成しやすくなる点で有利である。平均粒子径D50(S1)は、1.5μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが更に好ましく、2.5μm以上であることが特に好ましい。このように、平均粒子径D50(S1)が1~10μmの成膜用材料は、成膜用材料の供給性を向上させるために、成膜用スラリーとして使用することが有効である。
【0033】
本発明の成膜用材料は、スラリーの形態で使用する場合、平均粒子径D50(S1)と、純水30mLに混合し、40W、3分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(S3)との比である
SA=D50(S1)/D50(S3)
が1.04以上であることが好ましい。PSAの値が大きくなるほど、成膜用材料中の粒子が、ほどよく凝集した状態を維持しており、本発明の成膜用材料を成膜用スラリーの形態で使用する場合に、沈殿を生じるときの重力による圧密を防止することができ、スラリーの再分散性を向上させることができる。PSAの値は、1.05以上であることがより好ましく、1.07以上であることが更に好ましく、1.09以上であることが特に好ましい。一方、PSAの値は、特に制限されるものではないが、スラリーの流動性を高める観点から、1.3以下であることが好ましく、1.28以下であることがより好ましく、1.26以下であることが更に好ましく、1.24以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の成膜用材料は、大気中、500℃、2時間の条件での強熱減量が0.5質量%以上であることが好ましい。強熱減量が小さいほど、不純物の量が少ないので好ましいと考えるのが通常であるが、本発明の成膜用材料では、この点のみならず、大気中、500℃、2時間の条件での強熱減量が0.5質量%以上であれば、特に、成膜用材料を成膜用スラリーとして使用する場合に、スラリーの再分散性(解膠性)を向上させることができる点で有利である。これは、特に限定されるものではないが、成膜用材料に含まれる希土類元素フッ化アンモニウム複塩のフッ化アンモニウム成分が、成膜用スラリー中で、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子同士の間、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子同士若しくは複合粒子同士の間、又は希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子若しくは複合粒子と間のエネルギー障壁となり、粒子間の凝集を防ぎ、粒子が沈降して沈殿が生じた後でも、容易に再分散させることができるものと考えられる。強熱減量は、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。一方、強熱減量は、特に限定されるものではないが、溶射皮膜などの皮膜の特性への影響(不純物の低減)の点から、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の成膜用材料に含まれる希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子は、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(F1)が、10μm以下であることが好ましい。希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子の粒子径が小さくなるほど、例えば、溶射で用いた場合、溶射した際、溶融粒子が、基材、又は基材上に形成された皮膜に衝突して形成されるスプラット径が小さくなり、形成される溶射皮膜の気孔率を低くすることができ、スプラット中に生成するクラックを抑制することができる。平均粒子径D50(F1)は、9μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることが更に好ましく、7μm以下であることが特に好ましい。一方、平均粒子径D50(F1)は、0.5μm以上であることが好ましい。成膜用材料の粒子径が大きくなるほど、例えば、溶射で用いた場合、溶融粒子が大きな運動量を有することによって、基材、又は基材上に形成された皮膜に衝突してスプラットを形成しやすくなる点で有利である。また、粒子径が大きくなるほど、溶射皮膜表面上に形成される凸形状の突起物を低減することができる点で有利である。平均粒子径D50(F1)は、1μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることが更に好ましく、2μm以上であることが特に好ましい。
【0036】
本発明の成膜用材料に含まれる希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子は、粒子径分布において、平均粒子径D50(F1)と、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積90%径であるD90(F1)と、純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積10%径である平均粒子径D10(F1)とから、下記式
D(D90(F1)-D10(F1))/D50(F1)
により算出されるPDの値が4以下であることが好ましい。PDの値が小さいほど、粒度分布がシャープで、より均一な粒子径を有する材料であり、例えば、溶射で用いた場合、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜の特性のばらつきを抑制することができる。PDの値は、2以下がより好ましく、1.5以下が更に好ましく、1.3以下が特に好ましい。PDの値の下限は、理想的には0以上であるが、実用上は、通常0.1以上、好ましくは0.5以上である。
【0037】
本発明の成膜用材料に含まれる希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子は、粒子径分布において、平均粒子径D50(F1)と、純水30mLに混合し、40W、3分間の条件で超音波分散処理して測定した体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)である平均粒子径D50(F3)とから、下記式
FA=D50(F1)/D50(F3)
により算出されるPFAの値が1.05以下であることが好ましい。PFAの値が小さくなるほど、特に、成膜用材料を成膜用スラリーとして使用する場合に、スラリーの流動性を高くすることができる。PFAの値は、1.04以下であることがより好ましく、1.03以下であることが更に好ましく、1.02以下が特に好ましい。PFAの値の下限は、理想的には1以上であるが、実用上は、通常1.01以上である。
【0038】
本発明の成膜用材料に含まれる希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子は、比表面積が10m2/g以下であることが好ましい。比表面積は、通常、BET法によって測定されたBET比表面積が適用される。比表面積が小さいほど、例えば、溶射で用いた場合、溶射フレームに入りきらずに、形成された溶射皮膜の表面部に付着してパーティクル汚染の原因となる微小粒子や、溶射プルームに入った場合に、過剰な溶射熱によって蒸発してしまう微小粒子を減らすことができる。比表面積は5m2/g以下であることがより好ましく、2m2/g以下であることがさらに好ましく、1m2/g以下であることが特に好ましい。一方、比表面積は、特に制限されるものではないが、0.01m2/g以上であることが好ましい。比表面積が大きいほど、例えば、溶射で用いた場合、溶射した際に、粒子の内部まで溶射プルームの熱が浸透しやすくなり、溶融粒子が、基材、又は基材上に形成された皮膜に衝突してスプラットを形成した際、皮膜が緻密になりやすく、スプラット間の結合も強固となる点で有利である。比表面積は、0.05m2/g以上であることがより好ましく、0.1m2/g以上であることが更に好ましく、0.3m2/g以上であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の成膜用材料に含まれる希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子は、かさ密度が0.6g/cm3以上であることが好ましい。かさ密度は、通常、ゆるみかさ密度が適用される。かさ密度が高いほど、例えば、溶射で用いた場合、プラズマ溶射した際にスプラットを形成しやすくなり、成膜用材料を溶射して得られる溶射皮膜が緻密になりやすい点で有利である。また、粒子中の空隙内に含まれるガス成分が少ないので、形成される溶射皮膜の特性悪化のリスクを減らすことができる点で有利である。かさ密度は0.65g/cm3以上であることがより好ましく、0.7g/cm3以上であることが更に好ましく、0.75g/cm3以上であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の成膜用材料又は成膜用スラリーを使用して溶射することにより、基材上に、例えば、直接又は下地皮膜(下層皮膜)を介して、半導体製造装置用部材などに好ましく適用される、希土類元素オキシフッ化物を含む溶射皮膜(表層皮膜)を形成することができ、基材上に、例えば、直接又は下地皮膜(下層皮膜)を介して形成された溶射皮膜(表層皮膜)を備える溶射部材を製造することができる。この溶射部材は、半導体製造装置用部材として好適である。本発明の溶射皮膜(表層皮膜)の膜厚は、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。また、溶射皮膜(表層皮膜)の膜厚の上限は、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0041】
基材の材質としては、特に制限されるものではないが、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、クロム、亜鉛、それらの合金等の金属、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、石英ガラス等の無機化合物(セラミックス)、カーボンなどが挙げられ、溶射部材の用途(例えば、半導体製造装置用などの用途)に応じて、好適な材質が選択される。例えば、アルミニウム金属又はアルミニウム合金の基材の場合は、耐酸性のあるアルマイト処理が施された基材が好ましい。基材の形状も、例えば、平面形状、円筒形状を有するものなどが挙げられ、特に制限はない。
【0042】
基材に溶射皮膜を形成する際、例えば、基材の溶射皮膜を形成する面を、アセトン脱脂し、例えば、コランダムなどの研磨剤を用いて粗面化処理して、面粗度(表面粗さ)Raを高くしておくことが好ましい。基材を粗面化処理することにより、溶射施工後に、溶射皮膜と基材の熱膨張係数の差から生じる皮膜の剥離を効果的に抑制することができる。粗面化処理の程度は、基材の材質などに応じて適宜調整すればよい。
【0043】
溶射皮膜を形成する前に、基材上に、予め、下層皮膜を形成することにより、溶射皮膜を、下地皮膜を介して形成することができる。下地皮膜は、膜厚を、例えば50~300μmとすることができる。下層皮膜の上に、好ましくは下層皮膜と接して、溶射皮膜を形成すれば、下地皮膜を下層皮膜、溶射皮膜を表層皮膜として形成でき、基材上に形成される皮膜を、複層構造の皮膜とすることができる。
【0044】
下地皮膜の材料としては、例えば、希土類元素酸化物、希土類元素フッ化物、希土類元素オキシフッ化物などが挙げられる。下地皮膜の材料を構成する希土類元素としては、成膜用材料中の希土類元素と同様のものを挙げることができる。下地皮膜は、例えば常圧での大気プラズマ溶射、サスペンションプラズマ溶射などの溶射により形成することができる。
【0045】
下地皮膜の気孔率は、5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましい。なお、気孔率の下限は、特に限定されるものではないが、通常、0.1%以上である。また、下地皮膜の面粗度(表面粗さ)Raは10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。面粗度(表面粗さ)Raの下限は、より低い方がよいが、通常、0.1μm以上である。面粗度(表面粗さ)Raが低い下地皮膜の上に、好ましくは下地皮膜と接して、溶射皮膜を表層皮膜として形成すれば、表層皮膜の面粗度(表面粗さ)Raも低くすることができるため好適である。
【0046】
このような低い気孔率や、低い面粗度(表面粗さ)Raを有する下地皮膜を形成する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料として平均粒子径D50が0.5μm以上、好ましくは1μm以上で、50μm以下、好ましくは30μm以下の単一粒子粉又は造粒溶射粉を用い、プラズマ溶射、爆発溶射などにより、粒子を十分に溶融させて溶射を行うことにより、気孔率や面粗度(表面粗さ)Raが低い、緻密な下地皮膜を形成することができる。ここで、単一粒子粉とは、球状粉、角状粉、粉砕粉などの形態で、中身が詰まった粒子の粉末を意味する。単一粒子粉を用いた場合、単一粒子粉が、造粒溶射粉よりも粒径が小さな細かい粒子でも中身が詰まった粒子で構成された粉末であるため、スプラット径が小さく、クラックの発生が抑制された下地皮膜を形成することができる。
【0047】
また、下地皮膜は、機械研磨(平面研削、内筒加工、鏡面加工など)や、微小ビーズなどを使用したブラスト処理、ダイヤモンドパッドを使用した手研磨などの表面加工によって、面粗度(表面粗さ)Raを低くすることができる。
【0048】
本発明の溶射皮膜は、特性X線としてCuKα線を用いたX線回折で、回折角2θ=10~70°の範囲内に検出される結晶相の回折ピークにおいて、下記式
ROF=I(ROF)/(I(RF)+I(RO))
(式中、I(ROF)は、希土類元素オキシフッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RF)は、希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値、I(RO)は、希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値である。)
により算出されるXROFの値が、1.2以上であることが好ましい。ここで、希土類元素オキシフッ化物、希土類元素フッ化物及び希土類元素酸化物の各々において、2種以上の化合物が存在する場合、I(ROF)、I(RF)及びI(RO)は、2種以上の化合物の各々の回折ピークの最大ピークの積分強度値の和とする。XROFの値が大きいほど、溶射皮膜中に存在する希土類元素オキシフッ化物の比率が高く、希土類元素フッ化物及び希土類元素酸化物の比率が低いので、耐パーティクル性能の観点から有利である。XROFの値は、1.4以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましく、1.8以上であることが特に好ましい。
【0049】
希土類元素が、例えば、イットリウム(Y)の場合、オキシフッ化イットリウム(YOF(Y111))の菱面体晶系の最大ピークは、特に限定されるものではないが、一般的に、結晶格子の(012)面に帰属される回折ピークとなる。この回折ピークは、通常、2θ=28.7°前後に検出される。また、オキシフッ化イットリウム(Y547)の斜方晶系の最大ピークは、特に限定されるものではないが、一般的に、結晶格子の(151)面に帰属される回折ピークとなる。これらの回折ピークは、通常、2θ=28.1°前後に検出される。
【0050】
本発明の溶射皮膜の形成方法として、特に限定されるものではないが、大気プラズマ溶射(APS)や大気サスペンションプラズマ溶射(SPS)などが好ましい。
【0051】
大気プラズマ溶射においてプラズマを形成するために用いられるプラズマガスは、アルゴンガス単体、窒素ガス単体、アルゴンガス、水素ガス、ヘリウムガス及び窒素ガスから選ばれる2種以上の混合ガスなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。また、大気プラズマ溶射における溶射距離は、150mm以下であることが好ましい。溶射距離が短くなるにつれて、溶射皮膜の成膜速度が向上し、また、硬度が増し、気孔率が低くなる。溶射距離は、140mm以下であることがより好ましく、130mm以下であることが更に好ましい。溶射距離の下限は、特に制限されるものではないが、50mm以上であることが好ましく、60mm以上であることがより好ましく、70mm以上であることが更に好ましい。
【0052】
サスペンションプラズマ溶射においてプラズマを形成するために用いられるプラズマガスは、アルゴンガス、水素ガス、ヘリウムガス及び窒素ガスから選ばれる2種以上の混合ガスなどが挙げられ、アルゴンガス、水素ガス及び窒素ガスの3種の混合ガス、アルゴンガス、水素ガス、ヘリウムガス及び窒素ガスの4種の混合ガスがより好ましいが、特に制限されるものではない。サスペンションプラズマ溶射における溶射距離は、100mm以下であることが好ましい。溶射距離が短くなるにつれて溶射皮膜の成膜速度が向上し、また、硬度が増し、気孔率が低くなる。溶射距離は、90mm以下であることがより好ましく、80mm以下であることが更に好ましい。溶射距離の下限は、特に制限されるものではないが、50mm以上であることが好ましく、55mm以上であることがより好ましく、60mm以上であることが更に好ましい。
【0053】
基材、又は基材上に形成された皮膜(下地皮膜)に溶射皮膜を形成する際、基材、基材上に形成された皮膜(下地皮膜)、更には、形成される溶射皮膜(表層皮膜)を冷却しながら溶射することが好ましい。冷却方法として、例えば、空冷や水冷などが挙げられる。
【0054】
特に、溶射時に、又は基材及び基材上に形成された皮膜の基材温度は、200℃以下であることが好ましい。温度が低いほど、熱による基材、又は基材及び基材上に形成された皮膜の損傷や変形を防ぐことができる。また、低温になるほど熱応力の発生を抑えることができ、基材と、形成される溶射皮膜との間、又は基材上に形成された皮膜(下地皮膜)と、形成される溶射皮膜との間の剥離を防ぐことができる。溶射時の基材、又は基材及び基材上に形成された皮膜の基材温度は、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。この温度は、冷却能力を制御することにより達成することができる。
【0055】
溶射時の基材、又は基材及び基材上に形成された皮膜の基材温度を50℃以上とすることが好ましい。温度が高いほど、基材と、形成される溶射皮膜との間、又は基材上に形成された皮膜(下地皮膜)と、形成される溶射皮膜(表層皮膜)との間の結合が強くなり、溶射皮膜を緻密にすることができる。溶射時の基材、又は基材及び基材上に形成された皮膜の基材温度は、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましい。
【0056】
プラズマ溶射における成膜用材料(成膜用スラリー)の供給速度、ガス供給量、印加電力(電流値、電圧値)などの、他の溶射条件に、特に制限はなく、従来公知の条件を適用することができ、基材、成膜用材料(成膜用スラリー)、得られる溶射部材の用途などに応じて、適宜設定すればよい。本発明の成膜用材料又は成膜用スラリーを使用すれば、過剰な印加電力を必要とせず、目的の溶射皮膜を得ることができる。
【0057】
特に、基材に溶射皮膜を直接形成する際には、上述したように、基材の溶射皮膜を形成する面の面粗度(表面粗さ)Raを高くしておき、更に、基材温度を上述した温度とすることで、より剥離し難く、より高硬度で緻密な溶射皮膜を形成することが可能である。このようにした場合、形成された溶射皮膜の面粗度(表面粗さ)Raが高くなる傾向にあるので、機械研磨(平面研削、内筒加工、鏡面加工など)や、微小ビーズなどを使用したブラスト処理、ダイヤモンドパッドを使用した手研磨などの表面加工によって、面粗度(表面粗さ)Raを低くすることで、より剥離し難く、より高硬度で緻密で、かつ面粗度(表面粗さ)Raが低い、潤滑な溶射皮膜を形成することができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0059】
[実施例1]
[フッ化イットリウム粒子の製造]
硝酸イットリウム2mol相当量の2mol/L硝酸イットリウム水溶液を50℃に加熱し、加熱した硝酸イットリウム水溶液に、フッ化アンモニウム7mol相当量の12mol/Lフッ化アンモニウム水溶液を投入して混合し、温度を50℃に維持して1時間撹拌した。得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、70℃で24時間乾燥して、フッ化イットリウムアンモニウム複塩を得た。次に、得られたフッ化イットリウムアンモニウム複塩を窒素ガス雰囲気下の管状炉を使用し、850℃で4時間焼成後、ジェットミルで粉砕して、フッ化イットリウム粒子を得た。
【0060】
[フッ化イットリウム粒子の物性評価]
得られたフッ化イットリウム粒子0.1gを、最大目盛容積30mLのガラスビーカー中の純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して、体積基準の粒子径分布における平均粒子径D50(F1)、累積90%径D90(F1)及び累積10%径D10(F1)を測定した。また、得られたフッ化イットリウム粒子0.1gを、最大目盛容積30mLのガラスビーカー中の純水30mLに混合し、40W、3分間の条件で超音波分散処理して、体積基準の粒子径分布における平均粒子径D50(F3)を測定した。これらの結果から、
D(D90(F1)-D10(F1))/D50(F1)、及び
FA=D50(F1)/D50(F3)
の値を算出した。また、BET比表面積及びゆるみかさ密度を測定した。結果を表1に示す。なお、各々の測定、分析の詳細については後述する。
【0061】
[複合粒子の製造]
体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)が2μmである酸化イットリウム粒子5molを、純水中に加えて撹拌し、酸化イットリウム粒子濃度が20質量%のスラリーを作製した。得られたスラリーに酸性フッ化アンモニウムを12mol投入し、50℃で3時間熟成させた。得られた粒子をろ過し、洗浄した後、70℃で乾燥して、酸化イットリウム及びフッ化アンモニウムイットリウム複塩を含有する複合粒子を得た。
【0062】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化イットリウム粒子と、複合粒子とを、フッ化イットリウム粒子:複合粒子=40:60(質量比)となるように混合して、成膜用材料を得た。
【0063】
[成膜用材料の物性評価]
得られた成膜用材料について、特性X線としてCuKα線を用いたX線回折(XRD)で、回折角2θ=10~70°の範囲内に検出される回折ピークから結晶相を同定して、結晶構成を分析し、各結晶相成分の最大ピークを特定して、希土類元素フッ化アンモニウム複塩に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RNF)、希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RF)、及び希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RO)を算出した。また、これらの結果から、
FO=I(RNF)/(I(RF)+I(RO))、
F=I(RNF)/I(RF)、及び
O=I(RNF)/I(RO)
の値を算出した。
【0064】
X線回折は、X線回折測定装置 X’Pert PRO/MPD(Malvern Panalytical社製)を用いて測定し、解析ソフトウェア HighScore Plus(Malvern Panalytical社製)を用いて、結晶相を同定し、積分強度を算出した。測定条件は、特性X線:CuKα(管電圧:45kV、管電流:40mA)、走査範囲:2θ=5~70°、ステップサイズ:0.0167113°、タイムパーステップ:13.970秒、スキャンスピード:0.151921°/秒とした。
【0065】
得られた成膜用材料について、大気中、500℃、2時間の条件での強熱減量を測定した。また、酸素含有率を測定した。更に、得られた成膜用材料0.1gを、最大目盛容積30mLのガラスビーカー中の純水30mLに混合し、40W、1分間の条件で超音波分散処理して、体積基準の粒子径分布における平均粒子径D50(S1)を測定した。また、得られた成膜用材料0.1gを、最大目盛容積30mLのガラスビーカー中の純水30mLに混合し、40W、3分間の条件で超音波分散処理して、体積基準の粒子径分布における平均粒子径D50(S3)を測定した。これらの結果から、両者の比
SA=D50(S1)/D50(S3)
を算出した。結果を表2に示す。また、実施例1で得られた成膜用材料の、走査型電子顕微鏡写真を図1に、X線回折プロファイルを図2に、各々示す。なお、各々の測定、分析の詳細については後述する。
【0066】
[成膜用スラリーの製造]
上記方法で製造した成膜用材料を、分散媒と混合し、分散させて成膜用スラリーを得た。スラリー濃度、使用した分散媒を表に示す。
【0067】
[成膜用スラリーの物性評価]
得られたスラリーについて、粘度及びpHを測定した。結果を表3に示す。なお、粘度の測定の詳細については後述する。
【0068】
[実施例2]
[フッ化イットリウム粒子の製造]
得られたフッ化イットリウムアンモニウム複塩を、800℃で2時間焼成したこと以外は、実施例1と同様にしてフッ化イットリウム粒子を得た。
【0069】
[フッ化イットリウム粒子の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0070】
[複合粒子の製造]
酸化イットリウム粒子として、体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)が1μmである酸化イットリウム粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。
【0071】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化イットリウム粒子と、複合粒子とを、フッ化イットリウム粒子:複合粒子=45:55(質量比)となるように混合して、成膜用材料を得た。
【0072】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0073】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0074】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0075】
[実施例3]
[フッ化イットリウム粒子の製造]
得られたフッ化イットリウムアンモニウム複塩を、440℃で2時間焼成し、ハンマーミルで解砕したこと以外は、実施例1と同様にしてフッ化イットリウム粒子を得た。
【0076】
[フッ化イットリウム粒子の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0077】
[複合粒子の製造]
酸性フッ化アンモニウムを7molとしたこと以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。
【0078】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化イットリウム粒子と、複合粒子とを、フッ化イットリウム粒子:複合粒子=50:50(質量比)となるように水に分散させて混合し、結合剤としてカルボキシメチルセルロースを加えてスラリーを作製し、得られたスラリーを、スプレードライヤーを使用して造粒して、顆粒状の成膜用材料を得た。
【0079】
[成膜用材料の物性評価]
平均粒子径D50(S1)及び平均粒子径D50(S3)の測定、並びにPSAの値の算出の代わりに、超音波分散処理をせずに、体積基準の粒子径分布における平均粒子径D50(S0)を測定した。これ以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0080】
[実施例4]
[フッ化イットリウム粒子の製造]
得られたフッ化イットリウムアンモニウム複塩を、950℃で2時間焼成したこと以外は、実施例1と同様にしてフッ化イットリウム粒子を得た。
【0081】
[フッ化イットリウム粒子の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0082】
[複合粒子の製造]
酸性フッ化アンモニウムを7molとしたこと以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。
【0083】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化イットリウム粒子と、複合粒子とを、フッ化イットリウム粒子:複合粒子=60:40(質量比)となるように混合して、成膜用材料を得た。
【0084】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0085】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0086】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0087】
[実施例5]
[フッ化イッテルビウム粒子の製造]
硝酸イッテルビウム2mol相当量の2mol/L硝酸イッテルビウム水溶液を50℃に加熱し、加熱した硝酸イッテルビウム水溶液に、フッ化アンモニウム7mol相当量の12mol/Lフッ化アンモニウム水溶液を投入して混合し、温度を50℃に維持して1時間撹拌した。得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、70℃で24時間乾燥して、フッ化イッテルビウムアンモニウム複塩を得た。次に、得られたフッ化イッテルビウムアンモニウム複塩を窒素ガス雰囲気下の管状炉を使用し、900℃で2時間焼成後、ジェットミルで粉砕して、フッ化イッテルビウム粒子を得た。
【0088】
[フッ化イッテルビウム粒子の物性評価]
実施例1のフッ化イットリウム粒子の物性評価と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0089】
[複合粒子の製造]
体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)が1μmである酸化イッテルビウム粒子5molを、純水中に加えて撹拌し、酸化イッテルビウム粒子濃度が20質量%のスラリーを作製した。得られたスラリーに酸性フッ化アンモニウムを10mol投入し、50℃で3時間熟成させた。得られた粒子をろ過し、洗浄した後、70℃で乾燥して、酸化イッテルビウム及びフッ化アンモニウムイッテルビウム複塩を含有する複合粒子を得た。
【0090】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化イッテルビウム粒子と、複合粒子とを、フッ化イッテルビウム粒子:複合粒子=65:35(質量比)となるように混合して、成膜用材料を得た。
【0091】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0092】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0093】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0094】
[実施例6]
[フッ化スカンジウム粒子の製造]
硝酸スカンジウム2mol相当量の2mol/L硝酸スカンジウム水溶液を50℃に加熱し、加熱した硝酸スカンジウム水溶液に、フッ化アンモニウム7mol相当量の12mol/Lフッ化アンモニウム水溶液を投入して混合し、温度を50℃に維持して1時間撹拌した。得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、70℃で24時間乾燥して、フッ化スカンジウムアンモニウム複塩を得た。次に、得られたフッ化スカンジウムアンモニウム複塩を窒素ガス雰囲気下の管状炉を使用し、850℃で2時間焼成後、ジェットミルで粉砕して、フッ化スカンジウム粒子を得た。
【0095】
[フッ化スカンジウム粒子の物性評価]
実施例1のフッ化イットリウム粒子の物性評価と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0096】
[複合粒子の製造]
体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)が1μmである酸化スカンジウム粒子5molを、純水中に加えて撹拌し、酸化スカンジウム粒子濃度が20質量%のスラリーを作製した。得られたスラリーに酸性フッ化アンモニウムを9mol投入し、50℃で3時間熟成させた。得られた粒子をろ過し、洗浄した後、70℃で乾燥して、酸化スカンジウム及びフッ化アンモニウムスカンジウム複塩を含有する複合粒子を得た。
【0097】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化スカンジウム粒子と、複合粒子とを、フッ化スカンジウム粒子:複合粒子=40:60(質量比)となるように混合して、成膜用材料を得た。
【0098】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0099】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0100】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0101】
[実施例7]
[フッ化エルビウム粒子の製造]
硝酸エルビウム2mol相当量の2mol/L硝酸エルビウム水溶液を50℃に加熱し、加熱した硝酸エルビウム水溶液に、フッ化アンモニウム7mol相当量の12mol/Lフッ化アンモニウム水溶液を投入して混合し、温度を50℃に維持して1時間撹拌した。得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、70℃で24時間乾燥して、フッ化エルビウムアンモニウム複塩を得た。次に、得られたフッ化エルビウムアンモニウム複塩を窒素ガス雰囲気下の管状炉を使用し、900℃で3時間焼成後、ジェットミルで粉砕して、フッ化エルビウム粒子を得た。
【0102】
[フッ化エルビウム粒子の物性評価]
実施例1のフッ化イットリウム粒子の物性評価と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0103】
[複合粒子の製造]
体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)が2μmである酸化エルビウム粒子5molを、純水中に加えて撹拌し、酸化エルビウム粒子濃度が20質量%のスラリーを作製した。得られたスラリーに酸性フッ化アンモニウムを10mol投入し、50℃で3時間熟成させた。得られた粒子をろ過し、洗浄した後、70℃で乾燥して、酸化エルビウム及びフッ化アンモニウムエルビウム複塩を含有する複合粒子を得た。
【0104】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化エルビウム粒子と、複合粒子とを、フッ化エルビウム粒子:複合粒子=55:45(質量比)となるように混合して、成膜用材料を得た。
【0105】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0106】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0107】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0108】
[比較例1]
[複合粒子及び成膜用材料の製造]
実施例2と同様の方法で複合粒子を得、これを成膜用材料とした。
【0109】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0110】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0111】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0112】
[比較例2]
[複合粒子及び成膜用材料の製造]
実施例1と同様の方法で複合粒子を得た。得られた複合粒子を、大気炉を使用し、900℃で5時間焼成後、ジェットミルで粉砕して、オキシフッ化イットリウムの結晶相と、フッ化イットリウムの結晶相とを含む粒子を得、これを成膜用材料とした。
【0113】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0114】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0115】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0116】
[比較例3]
[フッ化イットリウム粒子の製造]
硝酸イットリウム2mol相当量の2mol/L硝酸イットリウム水溶液を50℃に加熱し、加熱した硝酸イットリウム水溶液に、フッ化アンモニウム7mol相当量の12mol/Lフッ化アンモニウム水溶液を投入して混合し、温度を50℃に維持して1時間撹拌した。得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、70℃で24時間乾燥して、フッ化イットリウムアンモニウム複塩を得た。次に、得られたフッ化イットリウムアンモニウム複塩を窒素ガス雰囲気下の管状炉を使用し、650℃で2時間焼成後、ジェットミルで粉砕して、フッ化イットリウム粒子を得た。
【0117】
[フッ化イットリウム粒子の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0118】
[成膜用材料の製造]
上記方法で製造したフッ化イットリウム粒子と、体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)が2μmである酸化イットリウム粒子とを、フッ化イットリウム粒子:酸化イットリウム粒子=75:25(質量比)となるように混合して、成膜用材料を得た。
【0119】
[成膜用材料の物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0120】
[成膜用スラリーの製造]
実施例1と同様に実施した。
【0121】
[成膜用スラリーの物性評価]
実施例1と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
[実施例8]
100mm×100mm×5mmのA5052アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、基材の片面を粒度#150のコランダムの研磨剤を使用してブラスト研磨して粗面化処理した。この基材に対して、実施例1で得られた成膜用スラリーを使用し、大気サスペンションプラズマ溶射(SPS)により、基材に直接、溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。大気サスペンションプラズマ溶射は、プラズマ溶射機 100HE(プログレッシブ社製)と、溶射材料供給装置 LiquifeederHE(プログレッシブ社製)を使用し、表4に示される溶射条件で、大気雰囲気下、常圧で実施した(以下の大気サスペンションプラズマ溶射において同じ)。
【0126】
得られた溶射皮膜について、実施例1と同様の方法でX線回折(XRD)により結晶相を同定して、結晶構成を分析し、各結晶相成分の最大ピークを特定して、希土類元素オキシフッ化物(ROF(R111)、R436、R547、R658、R769、R171423、RO2F、ROF2(式中、Rは、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素である。)など)に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(ROF)、希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RF)、及び希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RO)を算出した。また、これらの結果から、
ROF=I(ROF)/(I(RF)+I(RO))
の値を算出した。また、酸素含有率、膜厚、面粗度(表面粗さ)Ra、及びRパーティクル量を測定した。なお、各々の測定、分析、評価の詳細については後述する。
【0127】
[実施例9]
実施例2で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0128】
[実施例10]
100mm×100mm×5mmのA5052アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、基材の片面を粒度#150のコランダムの研磨剤を使用してブラスト研磨して粗面化処理した。この基材に対して、実施例3で得られた顆粒状の成膜用材料を使用し、大気プラズマ溶射(APS)により、基材に直接、溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。大気プラズマ溶射は、プラズマ溶射機 F4(エリコンメテコ社製)と、溶射材料供給装置 TWIN-10(エリコンメテコ社)を使用し、表4に示される溶射条件で、大気雰囲気下、常圧で実施した。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0129】
[実施例11]
実施例4で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0130】
[実施例12]
実施例5で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0131】
[実施例13]
実施例6で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0132】
[実施例14]
実施例7で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0133】
[比較例4]
比較例1で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0134】
[比較例5]
比較例2で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0135】
[比較例6]
比較例3で得られた成膜用スラリーを使用したこと以外は実施例8と同様にして、基材上に溶射皮膜を形成し、溶射部材を得た。得られた溶射皮膜について、実施例8と同様の測定、分析、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
実施例8~14で得られた溶射皮膜では、X線回折における、希土類元素オキシフッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値(2種以上の化合物が存在する例では、2種以上の化合物の各々の回折ピークの最大ピークの積分強度値の和)のI(ROF)、希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RF)及び希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RO)から算出されたXROFの値が、いずれも1.2以上である。これらの場合、溶射皮膜の結晶相の主相が希土類元素オキシフッ化物であり、かつ希土類元素フッ化物及び希土類元素酸化物の存在比率が低い溶射皮膜が得られていることがわかる。
【0139】
また、実施例1~7で得られた成膜用材料は、希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子と、複合粒子(希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子、又は希土類元素酸化物の結晶相及び希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子)とからなり、X線回折における、希土類元素フッ化アンモニウム複塩に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RNF)、希土類元素フッ化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RF)及び希土類元素酸化物に帰属される回折ピークの最大ピークの積分強度値I(RO)から算出されたXFO、XF及びXO値は、いずれも0.01以上である。成膜用材料に複合粒子が含まれることによって、溶射プロセス中の反応性が高くなり、過剰な溶射熱を必要とせずに、希土類元素オキシフッ化物の存在比率が高く、希土類元素フッ化物及び希土類元素酸化物の存在比率が低い溶射皮膜を製造できることがわかる。
【0140】
一方、比較例4で得られた溶射皮膜は、比較例1の成膜用材料中に希土類元素フッ化物の結晶相を含む粒子が含まれていないので、溶射皮膜の結晶相の主相が希土類元素酸化物となっている。また、比較例5で得られた溶射皮膜は、比較例2の成膜用材料中に希土類元素酸化物の結晶相を含む粒子が含まれておらず、希土類元素フッ化物と希土類元素オキシフッ化物との反応では、希土類元素フッ化物が完全には消費されず、また、希土類酸化物の生成も抑制されないので、溶射皮膜の結晶相として、未反応の希土類元素フッ化物が多く残存し、また、希土類元素酸化物副生してしまう。特に、比較例5で用いた比較例2の成膜用材料では、溶射皮膜の結晶相の主相を希土類元素のオキシフッ化物とするために、溶射条件の電力を高くする必要がある。更に、比較例6で得られた溶射皮膜は、比較例3の成膜用材料中に希土類元素フッ化アンモニウム複塩の結晶相を含む粒子が含まれていないので、溶射プロセス中の極僅かな時間では、希土類元素フッ化物と希土類元素酸化物との反応が十分には進行せず、溶射皮膜の結晶相として、未反応の希土類元素フッ化物や希土類元素酸化物が多く残存してしまう。
【0141】
[粒度分布の測定]
レーザー回折法により粒度分布を測定した。測定には、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置 マイクロトラック MT3300EX II(マイクロトラック・ベル(株)製)を使用した。測定装置の循環系に、上記測定装置の使用に適合する濃度指数DV(Diffraction Volume)が0.01~0.09となるようにサンプルを投入又は滴下して測定した。
【0142】
[BET比表面積の測定]
全自動比表面積測定装置 Macsorb HM model-1208((株)マウンテック製)を使用して測定した。
【0143】
[ゆるみかさ密度の測定]
パウダーテスタ PT-X(ホソカワミクロン(株)製)を使用して測定した。
【0144】
[強熱減量の測定]
成膜用材料のサンプルを、白金坩堝に入れ、電気炉を使用して、大気中、500℃で2時間加熱し、加熱前後のサンプルの質量から強熱減量値を算出した。
【0145】
[酸素含有率の測定]
不活性ガス融解赤外吸収法により測定した。
【0146】
[スラリー粘度の測定]
TVB-10型粘度計(東機産業(株)製)を使用し、回転速度を60rpm、回転時間を1分間に設定して測定した。
【0147】
[膜厚の測定]
渦電流膜厚計 LH-300J((株)ケツト科学研究所製)を使用して測定した。
【0148】
[面粗度(表面粗さ)Raの測定)]
表面粗さ測定器 HANDYSURF E-35A((株)東京精密製)を使用して測定した。
【0149】
[パーティクル評価試験(Rパーティクル量)]
20mm×20mm(4cm2)の表面積を有する溶射皮膜が形成された溶射部材の試験片を、超純水中に溶射皮膜側を水面に向けて浸漬させた状態で、試験片に、超音波洗浄(出力:200W、照射時間:30分間)を行い、溶射後のコンタミネーション除去を行った。次に、試験片を乾燥させた後、試験片を、100mlのポリエチレン瓶に入れた20mlの超純水の中に溶射皮膜側をポリエチレン瓶の底面に向けて浸漬させた状態で、試験片に、超音波処理(出力:200W、照射時間15分間)を行った。超音波処理後、試験片を取り出し、超音波処理後の処理液に、5.3規定の硝酸水溶液を2ml加えて、処理液中に含まれるRパーティクル(希土類元素化合物のパーティクル)を溶かした。処理液に含まれる希土類元素量(R量)を、ICP発光分光分析法により測定し、試験片の溶射皮膜の表面積(4cm2)当たりのR質量として評価した。この値が小さいほど、溶射皮膜の表面部のRパーティクルが少ないことを意味する。
図1
図2