(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】イリジウム錯体化合物、該化合物を含有する有機電界発光素子、表示装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20240116BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
C09K11/06 660
(21)【出願番号】P 2021093298
(22)【出願日】2021-06-02
(62)【分割の表示】P 2017521888の分割
【原出願日】2016-05-26
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2015110255
(32)【優先日】2015-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】長山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小松 英司
(72)【発明者】
【氏名】五郎丸 英貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 太
(72)【発明者】
【氏名】安部 智宏
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-074000(JP,A)
【文献】特開2015-083587(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105615(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるイリジウム錯体化合物。
【化1】
式(1)において、Irはイリジウム原子を表す。
環Cy
1は炭素原子C
1およびC
2を含む
ベンゼン環を表し、
環Cy
2は炭素原子C
3および窒素原子N
1を含む、ピリジン
環を表し、
環Cy
3は炭素原子C
4およびC
5を含む
ベンゼン環を表し、
環Cy
4は炭素原子C
6および窒素原子N
2を含む、ピリジン
環を表す。
m=
1であり、
n=2である。
a及びcはそれぞれ独立に1
であり、b及びdはそれぞれ独立して0~2の整数を表す。
R
1
は下記式(2)で表され、
R
3
は下記式(3)で表され
、R
2
及びR
4はそれぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数1~30のアルキルアミノ基、炭素数3~30のアリールオキシ基、炭素数3~30のアリール基、炭素数3~30のヘテロアリール基、炭素数3~30のアリールアミノ基、及び炭素数7~40のアラルキル基から選ばれる。
【化2】
式(2)において、xは0~10の整数を表す。
hは1~3の整数を表す。
*は結合手を表す。
Rはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数5~30のアリール基でさらに置換されていてもよいアミノ基、及び炭素数1~20のアシル基から選ばれる。
R’はそれぞれ独立に、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数4~40のアラルキル基から選ばれる。
【化3】
式(3)において、kは
0を表す。
yは1~10の整数を表す。
*は結合手を表す。
Rは式(2)と同義であ
る。
前記水素原子、前記フッ素原子、前記塩素原子、前記臭素原子、並びに、前記式(2)および前記式(3)で表される基、を除く前記
R
2
、R
4
の基は、さらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい。
R
2
~R
4がそれぞれ複数個ある場合は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
複数の
R
2
、R
4
が、同一の環上で互いに隣り合う場合、隣り合っている
R
2
、R
4
同士が、直接結合あるいは炭素数3~12のアルキレン基、炭素数3~12のアルケニレン基もしくは炭素数6~12のアリーレン基を介して結合して、環を形成してもよく、これらの環はさらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数3~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい
。
【請求項2】
前記式(2)が下記式(4)で表され、かつ、前記式(3)が下記式(5)で表される請求項1に記載のイリジウム錯体化合物。
【化4】
pは0から2の整数を表し、
qは0から10の整数を表し、
rは0から2の整数を表し、
p+q+rは0から10の整数である。
*は結合手を表す。
R、R’およびhは式(2)と同義である。
【化5】
sは0から2の整数を表し、
tは1から10の整数を表し、
uは0から2の整数を表し、
wは0から4の整数を表し、
s+t+u+wは1から10の整数である。
*は結合手を表す。
R、R’’およびkは式(3)と同義である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のイリジウム錯体化合物及び有機溶剤を含有する組成物。
【請求項4】
基板上に、陽極と陰極を有し、前記陽極と前記陰極の間に発光層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、
前記発光層が、請求項3に記載の組成物を湿式成膜することによって形成される、有機電界発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記発光層の単位重量当たりのイリジウム錯体化合物が0.1mmol/gを超える濃度である、請求項4に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のイリジウム錯体化合物を含む、有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項6に記載の有機電界発光素子を有する表示装置。
【請求項8】
請求項6に記載の有機電界発光素子を有する照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイリジウム錯体化合物に関し、特に、有機電界発光素子の発光層の材料として有用なイリジウム錯体化合物、該化合物及び溶剤を含有する組成物、該化合物を含有する有機電界発光素子、該有機電界発光素子を含む表示装置及び照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL照明や有機ELディスプレイなど、有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」と称す。)を利用する各種電子デバイスが実用化されつつある。有機EL素子は、印加電圧が低く消費電力が小さく、三原色発光も可能であるため、照明やディスプレイへの適用が検討されている。これらを実現するために、発光材料に対しては発光波長の調整のみならず、発光素子の発光効率や駆動寿命の改善が盛んに研究されている。
【0003】
発光効率の向上を目的として、有機EL素子の発光層に燐光発光材料を利用することが提案されている。燐光発光材料としては、例えば、ビス(2-フェニルピリジナト-N,C2’)イリジウムアセチルアセトナート(Ir(ppy)2(acac))や、トリス(2-フェニルピリジナト-N,C2’)(Ir(ppy)3)イリジウムをはじめとしたオルトメタル化イリジウム錯体が広く知られている。
【0004】
燐光発光材料を使用して有機EL素子を形成する方法として、主に真空蒸着法が利用されている。しかし通常、素子は発光層や電荷注入層、電荷輸送層など複数の層を積層することにより製造される。そのため真空蒸着法では、蒸着プロセスが煩雑となり、生産性に劣り、これら素子からなる照明やディスプレイのパネルの大型化が極めて難しいという問題があった。
【0005】
一方、有機EL素子は、塗布法により成膜され、層を形成していくことも可能である。塗布法では、真空蒸着法に比べて安定した層を容易に形成できるため、ディスプレイや照明装置の量産化や大型デバイスへの適用が期待されている。
塗布法による成膜のためには、層に含まれる有機材料が有機溶媒に溶解しやすいことが必要である。通常トルエンのような低沸点で低粘度の溶媒が使用される。このような溶媒で作成したインクは、スピンコート法などにより容易に成膜することができる。
【0006】
塗布法による有機EL素子の製造については、主にオルトメタル化イリジウム錯体の溶解性を向上させることが必要である。一般的には、アルキル基やアラルキル基など特定の官能基を可溶化基として分子構造へ導入することが挙げられる(特許文献1、2)。また、可溶化基を導入せずとも配位子の構造を工夫することにより溶解性を向上させた例もある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2004/026886号
【文献】国際公開第2013/105615号
【文献】日本国特開2014-74000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの特許文献においては、燐光発光材料の有機溶媒への溶解のしやすさについては、燐光発光材料単独での溶解度に着目しているのみであった。実際に有機EL素子の発光層として燐光発光材料を用いる場合、併せて電荷輸送材料を混合させた組成物として用いることが一般的であるが、このような組成物としての有機溶媒への溶解性については着目されていなかった。すなわち、燐光発光材料単独では有機溶媒に溶解し、長期保存しても結晶として析出せず、保存安定性も良好な燐光発光材料であっても、電荷輸送材料と混合した組成物の状態では、上記保存安定性に問題を生じる可能性があることが判ってきた。
また、燐光発光材料であるイリジウム錯体は還元に弱いため、電子を受け取ってアニオン状態になると、イリジウム錯体自身が劣化したり、発光層内においてイリジウム錯体の周囲に存在する電荷輸送材料を劣化させることによって、素子の発光効率や駆動寿命を低下させるという問題があった。
さらに、発光効率や駆動寿命の向上のさらなる方法の一つとして、発光層内のイリジウム錯体の濃度を高くする、いわゆるヘビードープが行われることがある。しかし、上記特許に具体的に記載されているイリジウム錯体を用いて通常のドープ濃度の素子に加え、ヘビードープした素子を検討したところ、もともとの発光効率が低いためヘビードープによっても効率が高くならなかったり、あるいは駆動寿命が逆に低下してしまうという問題点が見つかった。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、電荷輸送材料と混合した組成物の状態でも良好な保存安定性を有し、かつ、該組成物を用いて形成された発光層を有する有機電界発光素子の素子特性が改善されたイリジウム錯体化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、素子寿命が改善された有機電界発光素子、並びに該有機電界素子を用いた表示装置及び照明装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ある特定の化学構造を有するイリジウム錯体化合物が、電荷輸送材料と混合した組成物の状態でも保存安定性が良好であり、かつ、該組成物を用いて形成された発光層を有する有機電界発光素子の発光効率を高め、かつ、駆動寿命を長くできることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明の要旨は、下記[1]~[9]に存する。
[1]下記式(1)で表されるイリジウム錯体化合物。
【0011】
【0012】
式(1)において、Irはイリジウム原子を表す。
環Cy1は炭素原子C1およびC2を含む芳香環またはヘテロ芳香環を表し、
環Cy2は炭素原子C3および窒素原子N1を含む6員環ヘテロ芳香環を表し、
環Cy3は炭素原子C4およびC5を含む芳香環またはヘテロ芳香環を表し、
環Cy4は炭素原子C6および窒素原子N2を含む6員環ヘテロ芳香環を表す。
m=1または2であり、
m+n=3である。
a,b,c,dはそれぞれ独立に1~4の整数を表す。
R1~R4はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数1~30のアルキルアミノ基、炭素数3~30のアリールオキシ基、炭素数3~30のアリール基、炭素数3~30のヘテロアリール基、炭素数3~30のアリールアミノ基、炭素数7~40のアラルキル基、式(2)または式(3)から選ばれる。
但し、R1またはR2のうち少なくとも1つは下記式(2)で表され、R3またはR4のうち少なくとも1つは下記式(3)で表される。
【0013】
【0014】
式(2)において、xは0~10の整数を表す。
hは1~3の整数を表す。
*は結合手を表す。
Rはその出現ごとにそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数5~30のアリール基でさらに置換されていてもよいアミノ基または炭素数1~20のアシル基から選ばれる。
R’はその出現ごとにそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~40のアラルキル基から選ばれる。
【0015】
【0016】
式(3)において、kは0~5の整数を表す。
yは1~10の整数を表す。
*は結合手を表す。
Rは式(2)と同義であり、
R’’はその出現ごとにそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、フッ素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよいナフチル基、または炭素数1~20のヘテロアリール基から選ばれる。
前記式(2)および前記式(3)で表される基を除く前記R1~R4の基は、さらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい。
R1~R4がそれぞれ複数個ある場合は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
複数のR1~R4が互いに隣り合う場合、隣り合っているR1~R4同士が、直接結合あるいは炭素数3~12のアルキレン基、炭素数3~12のアルケニレン基もしくは炭素数6~12のアリーレン基を介して結合して、環を形成してもよく、これらの環はさらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数3~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい。
また、R1とR2、あるいはR3とR4が、直接結合あるいは炭素数3~12のアルキレン基、炭素数3~12のアルケニレン基もしくは炭素数6~12のアリーレン基を介して結合して、環を形成してもよく、これらの環はさらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数3~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい。
[2]前記式(2)が下記式(4)で表され、かつ、前記式(3)が下記式(5)で表される[1]に記載のイリジウム錯体化合物。
【0017】
【化4】
pは0から2の整数を表し、
qは0から10の整数を表し、
rは0から2の整数を表し、
p+q+rは0から10の整数である。
*は結合手を表す。
R、R’およびhは式(2)と同義である。
【0018】
【0019】
sは0から2の整数を表し、
tは1から10の整数を表し、
uは0から2の整数を表し、
wは0から4の整数を表し、
s+t+u+wは1から10の整数である。
*は結合手を表す。
R、R’’およびkは式(3)と同義である。
[3]R1のうち少なくとも1つは式(2)または式(4)で表され、かつ、R3のうち少なくとも1つは式(3)または式(5)で表される[1]または[2]に記載のイリジウム錯体化合物。
[4]R’はフッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数4~40のアラルキル基から選ばれる[1]~[3]のいずれか一に記載のイリジウム錯体化合物。
[5]Cy1およびCy3がベンゼン環である[1]~[4]のいずれか一に記載のイリジウム錯体化合物。
[6][1]~[5]のいずれか一に記載のイリジウム錯体化合物及び有機溶剤を含有する組成物。
[7][1]~[5]のいずれか一に記載のイリジウム錯体化合物を含む、有機電界発光素子。
[8][7]に記載の有機電界発光素子を有する表示装置。
[9][7]に記載の有機電界発光素子を有する照明装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明のイリジウム錯体化合物は、有機溶剤に可溶であり、塗布法によって有機電界発光素子の作成が可能である。該イリジウム錯体化合物を含む有機電界発光素子の発光効率が高くかつ駆動寿命が長いことから、該イリジウム錯体化合物は有機電界発光素子用材料として有用である。さらに、該イリジウム錯体化合物を用いて得られた有機電界発光素子は、表示装置及び照明装置用として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
ここで、本明細書において“質量%”と“重量%”及び“質量部”と“重量部”とは、それぞれ同義である。
【0023】
<イリジウム錯体化合物>
本発明のイリジウム錯体化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0024】
【0025】
以下、式(1)の各構成について詳述する。
【0026】
<環Cy1および環Cy3>
環Cy1はイリジウム原子に配位する炭素原子C1およびC2を含む芳香環またはヘテロ芳香環を表し、環Cy3はイリジウム原子に配位する炭素原子C4およびC5を含む芳香環またはヘテロ芳香環を表す。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環が好ましい。これらの中でも、発光波長や溶解性向上あるいは素子の波長制御並びに耐久性向上のためには、これらの環上に適切な置換基が導入されることが多く、そのような置換基の導入方法が多く知られている環であることが好ましい。環Cy1および環Cy3は炭化水素芳香環であることが更に好ましく、ベンゼン環またはナフタレン環であることがより好ましく、ベンゼン環であることが特に好ましい。
【0027】
<環Cy2および環Cy4>
環Cy2は炭素原子C3およびイリジウム原子に配位する窒素原子N1を含む6員環ヘテロ芳香環を表し、環Cy4は炭素原子C6およびイリジウム原子に配位する窒素原子N2を含む6員環ヘテロ芳香環を表す。具体的には、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環が好ましい。これらの中でも、置換基を導入しやすく発光波長や溶解性の調整がしやすいこと、及び、イリジウムと錯体化する際に収率良く合成できる手法が多く知られていることから、好ましくは、ピリジン環、ピラジン環、キノリン環、イソキノリン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノキサリン環、キナゾリン環、であり、より好ましくは、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環である。
【0028】
<R1、R2、R3、R4>
R1、R2、R3、R4は、それぞれ、環Cy1、環Cy2、環Cy3、環Cy4に結合する基を表す。R1、R2、R3、R4は、それらが複数個ある場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1~R4はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数1~30のアルキルアミノ基、炭素数3~30のアリールオキシ基、炭素数3~30のアリール基、炭素数3~30のヘテロアリール基、炭素数3~30のアリールアミノ基、炭素数7~40のアラルキル基、式(2)または式(3)から選ばれる。
a,b,c,dはそれぞれ独立に1~4の整数を表す。
aは、錯体の溶解性を十分保持しかつ正孔の輸送性が良好であるという観点から、好ましくは1~2であり、最も好ましくは1である。
bは、錯体の溶解性を十分保持しかつ耐久性と発光色を調節するという観点から、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1であり、最も好ましくは0である。
cは、錯体の溶解性を十分保持しかつ正孔の輸送性が良好であるという観点から、好ましくは1~2であり、最も好ましくは1である。
dは、錯体の溶解性を十分保持しかつ耐久性と発光色を調節するという観点から、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1であり、最も好ましくは0である。
但し、R1またはR2のうち少なくとも一つは下記式(2)で表される基である。素子内部において発光材料は電荷を輸送し得るが、特にヘビードープ素子においては正孔を輸送する役割を担うと考えられる。正孔が輸送されにくいと発光層中での電荷再結合に位置が限定されるため発光効率ひいては駆動寿命が低下する。正孔の輸送は環Cy1とその置換基に多く依存するため、正孔を輸送しやすくするという観点から少なくとも一つのR1が式(2)で表される基であることが好ましい。
【0029】
【0030】
xは0~10の整数を表し、錯体の溶解性を十分保持しかつ正孔の輸送性が良好であるという観点から、好ましくは0以上であり、さらに好ましくは1以上であり、更に好ましくは2以上である。また、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
hは1~3の整数を表し、錯体の溶解性を十分保持するという観点から、好ましくは1である。
*は結合手を表す。
Rはその出現ごとにそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数5~30のアリール基でさらに置換されていてもよいアミノ基または炭素数1~20のアシル基から選ばれ、好ましくは水素原子、フッ素原子、シアノ基、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基である。正孔輸送性を高める観点から、Rは水素原子であることがより好ましく、全てのRが水素原子であることが特に好ましい。また、発光波長を短波長化する観点からは、少なくとも一つのRがフッ素原子、シアノ基、またはフッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、一つの配位子が有するRの内、一つまたは二つのRのみがフッ素原子、シアノ基、またはフッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基であることがより好ましく、一つの配位子が有するRの内、一つのRのみがシアノ基、またはフッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基であることが最も好ましい。
R’はその出現ごとにそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数4~20のアルキル基またはフッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数4~40のアラルキル基から選ばれ、好ましくは炭素数5~12の直鎖アルキル基または炭素数4~40のアラルキル基であり、さらに好ましくは炭素数4~40のアラルキル基である。
【0031】
炭素数4~20のアルキル基の例としては、直鎖のアルキル基および分岐のアルキル基、環状のアルキル基などであり、より具体的には、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。溶解性と耐久性の観点から、直鎖のアルキル基が好ましく、炭素数5~12の直鎖アルキル基がより好ましい。
炭素数4~40のアラルキル基の例としては、フェニルメチル基、フェニルエチル基、1,1-ジメチル-1-フェニルメチル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-n-ブチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基、5-フェニル-1-n-プロピル基、6-フェニル-1-n-ヘキシル基、7-フェニル-1-n-ヘプチル基、8-フェニル-1-n-オクチル基、4-フェニルシクロヘキシル基などが挙げられる。
【0032】
イリジウム錯体の溶解性を保ち、かつ、発光層内における電荷輸送材料との親和性を高め分散性を向上させ凝集を抑止することができれば、素子の発光効率や駆動寿命が損なわれることが少なくなる。その観点から、R’として好ましい基は、溶解性を担保するアルキレン部位と電荷輸送材料との親和性を有する芳香族基を同時に有する炭素数4~40のアラルキル基であり、さらに好ましい基は炭素数4~30のアラルキル基であり、特に好ましくは、溶媒への溶解性と合成の容易さの観点から、1,1-ジメチル-1-フェニルメチル基、5-フェニル-1-n-プロピル基、6-フェニル-1-n-ヘキシル基、7-フェニル-1-n-ヘプチル基及び8-フェニル-1-n-オクチル基である。
【0033】
また、R3またはR4のうち少なくとも一つは下記式(3)で表される基である。素子内部において発光材料は電荷を輸送し得るが、特にヘビードープ素子においては正孔を輸送する役割を担うと考えられる。正孔が輸送されにくいと発光層中での電荷再結合に位置が限定されるため発光効率ひいては駆動寿命が低下する。正孔の輸送は環Cy3とその置換基に多く依存するため、正孔を輸送しやすくするという観点から少なくとも一つのR3が式(3)で表される基であることが好ましい。
【0034】
【0035】
yは1~10の整数を表し、錯体の溶解性を十分保持しかつ正孔の輸送性が良好であるという観点から、好ましくは2以上である。また、好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である
kは0~5の整数を表し、錯体の溶解性を十分保持しかつ正孔の輸送性が良好であるという観点から0または1が好ましく、より正孔の輸送性が良好であるという観点から0がより好ましい。
*は結合手を表す。
式(3)中のRは、式(2)と同義である。
R’’はその出現ごとにそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、フッ素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよいナフチル基、または炭素数1~20のアリール基で置換されていてもよいヘテロアリール基から選ばれる。正孔の輸送性を促進するという観点から、炭素数1~20のアルキル基またはナフチル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基またはナフチル基がさらに好ましい。
【0036】
R1のうち少なくとも1つは式(2)で表され、かつ、R3のうち少なくとも1つは式(3)で表されることが最も好ましい。このとき本願発明におけるイリジウム錯体は、R1として少なくとも一つのアルキル基またはアラルキル基、好ましくはアラルキル基を有し、かつ、R3として少なくとも一つの、フェニレン基を2個以上連結した基を有することで、後述するように本願発明の効果を得やすくなる。
式(2)および式(3)で表される基を除くR1~R4の前記基は、さらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい。
さらに、複数のR1~R4が互いに隣り合う場合、隣り合っているR1~R4同士が、直接結合あるいは炭素数3~12のアルキレン基、炭素数3~12のアルケニレン基もしくは炭素数6~12のアリーレン基を介して結合して、環を形成してもよく、これらの環はさらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい。
また、R1とR2、あるいはR3とR4が、直接結合あるいは炭素数3~12のアルキレン基、炭素数3~12のアルケニレン基もしくは炭素数6~12のアリーレン基を介して結合して、環を形成してもよく、これらの環はさらに、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子でさらに置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルキル基でさらに置換されていてもよい炭素数3~30のアリール基または炭素数3~30のアリールアミノ基で置換されていてもよい。
【0037】
上記環の具体例としては、フルオレン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、クリセン環、トリフェニレン環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、ベンゾキノリン環、アザフェナントレン環、アザアントラセン環、アザトリフェニレン環等が挙げられる。π電子が共役する縮環構造はあまり大きいと発光波長が赤外領域まで長波長化したり、溶解性を減ずることになるため、好ましくは、フルオレン環、カルバゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、アザトリフェニレン環から選ばれる。
炭素数1~30のアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソブチル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0038】
炭素数1~30のアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられ、中でも、メトキシ基が好ましい。
炭素数2~30のアルケニル基は、例えばビニル基、アリル基、3-ブテノ基、2-ブテノ基、1,3-ブタジエニル基などが挙げられ、中でもビニル基が好ましい。
炭素数1~30のアルキルアミノ基は、例えばメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、オクチルアミノ基、ジオクチルアミノ基等が挙げられ、中でもメチルアミノ基またはジメチルアミノ基が好ましい。
【0039】
炭素数3~30のアリールオキシ基は、例えばアリルオキシ基、フェノキシ基、メチルフェニルオキシ基等が挙げられ、中でもフェノキシ基が好ましい。
炭素数3~30のアリール基は、例えばフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、ナフチルフェニル基、ナフチルビフェニル基などが挙げられ、中でもフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基が好ましい。
【0040】
炭素数3~30のヘテロアリール基は、例えばピリジル基、ピリミジル基、トリアジン基、フェニルピリジル基、フェニルピリミジル基、ジフェニルピリミジル基等が挙げられる。
炭素数3~30のアリールアミノ基は、例えばフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジ(2,6-ジメチルフェニル)アミノ基等が挙げられる。
【0041】
炭素数7~40のアラルキル基は、1,1-ジメチル-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ブチル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-オクチル)-1-フェニルメチル基に例示される1,1-ジアルキル-1-フェニルメチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-n-ブチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基、5-フェニル-1-n-プロピル基、6-フェニル-1-n-ヘキシル基、7-フェニル-1-n-ヘプチル基、8-フェニル-1-n-オクチル基、4-フェニルシクロヘキシル基などが挙げられる。
【0042】
<m、n>
mは1または2であるが、錯体の溶解性を十分保持しかつ正孔輸送性が向上するという観点からm=1であることがより好ましい。また、m+n=3である。
【0043】
<前記式(2)及び前記式(3)の好ましい態様について>
前記式(2)は、好ましくは下記式(4)で表される。
【0044】
【0045】
式(4)中、pは0から2の整数を表し、qは0から10の整数を表し、rは0から2の整数を表し、p+q+rは0から10の整数である。*は結合手を表す。なお、R、R’およびhは式(2)と同義である。
溶解性を高く保つという観点から、pは0または1がより好ましく、rは0または1がより好ましい。
正孔輸送性を高く保つという観点から、p+q+rは0から5の整数であることがより好ましい。
【0046】
また、前記式(3)は、好ましくは下記式(5)で表される。
【0047】
【0048】
式(5)中、sは0から2の整数を表し、tは1から10の整数を表し、uは0から2の整数を表し、wは0から4の整数を表し、s+t+u+wは1から10の整数である。*は結合手を表す。なお、R、R’’およびkは式(3)と同義である。
溶解性を高く保つという観点から、sは0または1がより好ましく、uは0または1がより好ましい。
正孔輸送性を高く保つという観点から、s+t+u+wは0から5の整数であることがより好ましい。
【0049】
前記式(4)及び前記式(5)がより好ましい理由について述べる。前記式(2)及び前記式(3)はフェニレン環による結合を介している。この結合様式には、オルト、メタ、パラ位がある。このうち、オルト位で結合する場合、隣り合うフェニレン環がお互いに立体障害となり、大きなねじれを生ずる。このねじれにより錯体の溶解性は向上するものの、フェニレン環のπ電子の共役が小さくなるため正孔輸送性に必ずしも良くない影響を及ぼす。そのため、好ましい結合様式はメタまたはパラ位である。特に、Cy1またはCy3に直接結合するフェニレン環がパラ位の結合様式を有する場合、イリジウム原子からその隣のフェニレン環まで大きなπ電子の共役が広がり、正孔輸送性に好ましい効果を示す。
また、本願発明におけるイリジウム錯体は、式(2)が式(4)であり、かつ、式(3)が式(5)であることがさらに好ましい。
また、R1のうち少なくとも1つは式(2)または式(4)で表され、かつ、R3のうち少なくとも1つは式(3)または式(5)で表されることがより好ましい。
また、R1のうち少なくとも1つは式(4)で表され、かつ、R3のうち少なくとも1つは式(5)で表されることが更に好ましい。
【0050】
<具体例>
以下に、本発明のイリジウム錯体化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
<構造上の特徴>
本発明のイリジウム錯体化合物を用いる発光層形成用塗布液、すなわち、電荷輸送材料と共存する溶液の状態で析出することなく均一状態を維持するという保存安定性が向上すること、および、素子の発光効率や駆動寿命が向上するなどの素子特性が改善する理由を以下の通り推測する。
有機溶剤への溶解性を高めるには、通常イリジウム錯体化合物の配位子にアルキル基またはアラルキル基などの脂肪族炭化水素基を含む柔軟構造を有する基を導入することが行われている。これらの基は多くのコンホメーションをとりうるため、結晶化に際しては再配列のためのエネルギーが上昇する。よって、イリジウム錯体化合物は結晶化しにくくなり溶解性が向上するという効果が期待される。
【0055】
ところが、イリジウム錯体化合物に対するこれらの柔軟構造を対称性良く導入した場合、すなわちホモレプチック型錯体とした場合には、結晶化のための再配列エネルギーが低められ、結晶化しやすくなるため、十分な溶解性向上効果が得られなくなってしまう。
さらに、発光層形成用塗布液に共存させる電荷輸送材料は通常これらの柔軟構造を有する基は有さず、ベンゼン環が連なる剛直な構造を有する。化学構造が似ているもの同士はお互いによく溶かしあうことが一般的傾向として知られているが、上述の方法により溶解性を高めたはずのイリジウム錯体化合物と電荷輸送材料との構造類似性は必ずしも高くないため、これらの化合物を共存させることにより、いずれかの化合物、特に電荷輸送材料の有機溶剤に対する溶解性が著しく低められ、固体として析出しやすくなってしまう。
加えて、これらの柔軟構造を有する基は本質的に絶縁体であるため、イリジウム錯体への電荷の注入およびイリジウム錯体間あるいはイリジウム錯体とホスト間の電荷の輸送を阻害する。また、基の運動性が高いため、励起状態からの無輻射失活の経路を提供してしまい、結果発光効率を悪化させてしまうという欠点が存在する。
【0056】
一方、m-フェニレン基に代表される、アリーレン基を連結した置換基を配位子に導入する場合は、アルキル基ほどではないものの多くのコンホメーションを取りうるため、塗布法に適した充分な溶解性を有するようにすることができる。さらに、素子内部において発光材料は電荷を輸送し得るが、フェニレン基を長く連結することによりπ電子の軌道あるいは空軌道が空間的に拡張され、電荷の輸送が起こりやすくなる。特に、フェニレン基を長く連結した基を有するイリジウム錯体は正孔を受け取りやすくなる。このようなイリジウム錯体を発光層に発光材料として用いることにより、発光層内の正孔輸送性を向上させることができる。さらに、この様なイリジウム錯体のドープ濃度を調整することで発光層内の発光位置を調整できると考えられる。電荷が輸送されやすいということは素子における発光層中での電荷再結合の位置が広がるため発光効率や駆動寿命が改善することが期待される。しかし同時に、電気伝導性に優れることは発光層内においてイリジウム錯体同士の相互作用が妨げられないことにほかならず、特にヘビードープ時には励起子同士あるいは励起子と電荷との相互作用による励起子消滅すなわち濃度消光を併発するため発光効率の向上の幅が小さいかまたはかえって低下することになる。
【0057】
これらの欠点を補うには、本願発明のごとく上記の2種類の配位子を一つのイリジウム錯体上に適切な状態で同時に存在させることが効果的である。ヘテロレプチック型錯体とすることによりイリジウム錯体化合物の対称性を低め、かつ、柔軟構造を有さないフェニレン基を連結した基を有する配位子を存在させることで電荷輸送材料との類似性を高めることにより、発光層形成用塗布液の保存安定性を向上させることができる。
【0058】
また、本願発明におけるイリジウム錯体を発光材料として発光層に用いた有機EL素子においては、駆動寿命の向上の効果が期待される。その作用機構は次のように考えられる。フェニレン基を長く連結した基を有するイリジウム錯体は正孔を受け取りやすいため、通電駆動中の素子の発光層内のイリジウム錯体は、ほとんどが正孔を受け取った状態になると考えられる。さらに、本願発明におけるイリジウム錯体は、絶縁性であるアラルキル基も有する。アラルキル基は絶縁性のスペーサーとして、本願発明のイリジウム錯体の正孔輸送性を適度に抑制する。そのため、正孔を受け取った状態であるカチオン状態で存在する確率が高くなる。カチオン状態であるイリジウム錯体が電子を受け取ると直ちに発光するため、発光効率が高くなると考えられる。また、カチオン状態のイリジウム錯体は安定なので、駆動寿命も向上すると考えられる。
【0059】
本発明では配位子内にフェニレン連結を主とする適切な置換基部分と可溶化部分を配置することにより、上述の欠点を解消し、素子の発光効率を高めることと、駆動寿命の向上を両立させることができる。
【0060】
<有機溶剤>
湿式成膜法は、発光層の有機材料を一旦有機溶剤へ溶解したのち、スピンコート法やインクジェット法などにより塗布し、その後有機溶剤を加熱や減圧あるいは不活性ガスを吹き付けるなどによって蒸発気化させることにより成膜する方法である。必要であれば、成膜した有機材料を溶剤不溶性とするために、たとえば有機材料の分子中にC=C基、C≡C基あるいはベンゾシクロブテン基のような架橋基を存在させることにより、加熱あるいは光照射など既知の方法により架橋させ不溶化することもできる。
【0061】
このような湿式成膜法において好ましく用いられる有機溶剤の種類は、ヘキサン、ヘプタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルのような置換していてもよい脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン、フェニルシクロヘキサン、安息香酸エチルのような置換していてもよい芳香族系炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンのような置換していてもよい脂環式炭化水素などがあげられる。これらは単独で用いられていてもよいし、塗布のプロセスに好適な塗布液とするために複数種類の溶剤を混合して組成物として用いてもよい。主として用いる有機溶剤の種類として好ましくは、芳香族系炭化水素または脂環式炭化水素であり、より好ましくは芳香族系炭化水素である。特に、フェニルシクロヘキサンは湿式成膜プロセスにおいて好ましい粘度と沸点を有しているとされる。そのため、湿式成膜法に好適に用いられるイリジウム錯体化合物の溶解性は、大気圧下25℃において、フェニルシクロヘキサンに対して通常0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。
【0062】
<イリジウム錯体化合物の合成方法>
本発明のイリジウム錯体化合物は、既知の方法の組み合わせなどにより合成され得る。いわゆる鈴木-宮浦カップリング反応など公知の有機合成反応を組み合わせることにより配位子を合成することができる。イリジウム錯体化合物はこの配位子とイリジウム化合物により合成することができる。
【0063】
イリジウム錯体化合物の合成方法については、例えば、下記式(A)に示すような塩素架橋イリジウム二核錯体を経由する方法(M.G.Colombo,T.C.Brunold,T.Riedener,H.U.Gudel,Inorg.Chem.,1994,33,545-550)、下記式(B)二核錯体からさらに塩素架橋をアセチルアセトナートと交換させ単核錯体へ変換したのち目的物を得る方法(S.Lamansky,P.Djurovich,D.Murphy,F.Abdel-Razzaq,R.Kwong,I.Tsyba,M.Borz,B.Mui,R.Bau,M.Thompson,Inorg.Chem.,2001,40,1704-1711)等が例示できるが、これらに限定されるものではない。なお、式(A)及び(B)において、Rは水素または任意の置換基を表し、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。
【0064】
例えば、下記式(A)で表される典型的な反応の条件は以下のとおりである。第一段階として、第一の配位子2当量と塩化イリジウムn水和物1当量の反応により塩素架橋イリジウム二核錯体を合成する。溶媒は通常2-エトキシエタノールと水の混合溶媒が用いられるが、無溶媒あるいは他の溶媒を用いてもよい。配位子を過剰量用いたり、塩基等の添加剤を用いて反応を促進することもできる。塩素に代えて臭素など他の架橋性陰イオン配位子を使用することもできる。反応温度に特に制限はないが、通常は0℃~250℃、好ましくは50℃~150℃の範囲である。
【0065】
【0066】
二段階目は、トリフルオロメタンスルホン酸銀のようなハロゲンイオン捕捉剤を添加し第二の配位子と接触させることにより目的とする錯体を得る。溶媒は通常エトキシエタノールまたはジクリムが用いられるが、配位子の種類により無溶媒あるいは他の溶媒を使用することができ、複数の溶媒を混合して使用することもできる。ハロゲンイオン捕捉剤を添加しなくても反応が進行する場合があるので必ずしも必要ではないが、反応収率を高め、より量子収率が高いフェイシャル異性体を選択的に合成するには該捕捉剤の添加が有利である。反応温度に特に制限はないが、通常0℃~250℃の範囲で行われる。
【0067】
また、式(B)で表される典型的な反応条件を説明する。第一段階の二核錯体は式(A)と同様に合成できる。第二段階は、該二核錯体にアセチルアセトンのような1,3-ジオン化合物を1当量以上、及び、炭酸ナトリウムのような該1,3-ジオン化合物の活性水素を引き抜き得る塩基性化合物を1当量以上反応させることにより、1,3-ジオナト配位子が配位する単核錯体へと変換する。通常原料の二核錯体を溶解しうるエトキシエタノールやジクロロメタンなどの溶媒が使用されるが、配位子が液状である場合無溶媒で実施することも可能である。反応温度に特に制限はないが、通常は0℃~200℃の範囲内で行われる。
【0068】
【0069】
第三段階は、第二の配位子を1当量以上反応させる。溶媒の種類と量は特に制限はなく、第二の配位子が反応温度で液状である場合には無溶媒でも良い。反応温度も特に制限はないが、反応性が若干乏しいため100℃~300℃の比較的高温下で反応させることが多い。そのため、グリセリンなど高沸点の溶媒が好ましく用いられる。
最終反応後は未反応原料や反応副生物及び溶媒を除くために精製を行う。通常の有機合成化学における精製操作を適用することができるが、上記の非特許文献記載のように主として順相のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製が行われる。展開液にはヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、メタノールの単一または混合液を使用できる。精製は条件を変え複数回行ってもよい。その他のクロマトグラフィー技術(逆相シリカゲルクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー)や、分液洗浄、再沈殿、再結晶、粉体の懸濁洗浄、減圧乾燥などの精製操作を必要に応じて施すことができる。
【0070】
<イリジウム錯体化合物の用途>
本発明のイリジウム錯体化合物は、有機電界発光素子に用いられる材料、すなわち有機電界発光素子材料として好適に使用可能であり、有機電界発光素子やその他の発光素子等の発光材料としても好適に使用可能である。
【0071】
<イリジウム錯体化合物含有組成物>
本発明のイリジウム錯体化合物は、溶解性に優れることから、溶剤とともに使用されることが好ましい。以下、本発明のイリジウム錯体化合物と溶剤とを含有する組成物(イリジウム錯体化合物含有組成物)について説明する。
【0072】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は、上述の本発明のイリジウム錯体化合物および溶剤を含有する。本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は通常湿式成膜法で層や膜を形成するために用いられ、特に有機電界発光素子の有機層を形成するために用いられることが好ましい。該有機層は、特に発光層であることが好ましい
つまり、イリジウム錯体化合物含有組成物は、有機電界発光素子用組成物であることが好ましく、更に発光層形成用組成物として用いられることが特に好ましい。
【0073】
該イリジウム錯体化合物含有組成物における本発明のイリジウム錯体化合物の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。組成物のイリジウム錯体化合物の含有量をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率よく、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。なお、本発明のイリジウム錯体化合物はイリジウム錯体化合物含有組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0074】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を例えば有機電界発光素子用に用いる場合には、上述のイリジウム錯体化合物や溶剤の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明のイリジウム錯体化合物を発光材料とし、他の電荷輸送性化合物を電荷輸送材料として含むことが好ましい。
【0075】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物に含有される溶剤は、湿式成膜によりイリジウム錯体化合物を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
該溶剤は、溶質である本発明のイリジウム錯体化合物が高い溶解性を有するために、むしろ後述の電荷輸送性化合物が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されない。好ましい溶剤としては、例えば、n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、フェニルシクロヘキサン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0076】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類であり、特に、フェニルシクロヘキサンは湿式成膜プロセスにおいて好ましい粘度と沸点を有している。
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0077】
溶剤の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、また、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。通常発光層の厚みは3~200nm程度であるが、溶剤の含有量がこの下限を下回ると、組成物の粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、この上限を上回ると、成膜後、溶剤を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。
【0078】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物が含有し得る他の電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、ピリジン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0079】
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
また、イリジウム錯体化合物含有組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物中の本発明のイリジウム錯体化合物1質量部に対して、通常1000質量部以下、好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下であり、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。
【0080】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物には、必要に応じて、上記の化合物等の他に、更に他の化合物を含有していてもよい。例えば、上記の溶剤の他に、別の溶剤を含有していてもよい。そのような溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0081】
<有機電界発光素子>
以下に、本発明の有機電界発光素子、有機電界発光照明装置及び有機電界発光表示装置の実施態様を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容により限定されるものではない。
【0082】
(基板)
基板は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。基板は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。このため、特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0083】
(陽極)
陽極は、発光層側の層に正孔を注入する機能を担う。陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック及びポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。陽極の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。また、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0084】
陽極は、通常、単層構造であるが、適宜、積層構造としてもよい。陽極が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。 陽極の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて、決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下とするのが好ましい。一方、透明性が不要な場合は、陽極の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよく、この場合、陽極は基板と同一の厚みでもよい。
陽極の表面に成膜を行う場合は、成膜前に、紫外線+オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくのが好ましい。
【0085】
(正孔注入層)
陽極側から発光層側に正孔を輸送する機能を担う層は、通常、正孔注入輸送層又は正孔輸送層と呼ばれる。そして、陽極側から発光層側に正孔を輸送する機能を担う層が2層以上ある場合に、より陽極側に近い方の層を正孔注入層と呼ぶことがある。正孔注入層は、陽極から発光層側に正孔を輸送する機能を強化する点で、用いることが好ましい。正孔注入層を用いる場合、通常、正孔注入層は、陽極上に形成される。
【0086】
正孔注入層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。
正孔注入層の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層中にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0087】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は、通常、正孔注入層となる正孔輸送性化合物を含有する。また、湿式成膜法の場合は、通常、更に溶剤も含有する。正孔注入層形成用組成物は、正孔輸送性が高く、注入された正孔を効率よく輸送できるのが好ましい。このため、正孔移動度が大きく、トラップとなる不純物が製造時や使用時等に発生し難いのが好ましい。また、安定性に優れ、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光に対する透明性が高いことが好ましい。特に、正孔注入層が発光層と接する場合は、発光層からの発光を消光しないものや発光層とエキサイプレックスを形成して、発光効率を低下させないものが好ましい。
【0088】
正孔輸送性化合物としては、陽極から正孔注入層への電荷注入障壁の観点から、4.5eV~6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、キナクリドン系化合物等が挙げられる。
【0089】
上述の例示化合物のうち、非晶質性及び可視光透過性の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は、特に制限されないが、表面平滑化効果により均一な発光を得やすい点から、重量平均分子量が1000以上1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)を用いるのが好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物等が挙げられる。
【0090】
【0091】
(式(I)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar3~Ar5は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar1~Ar5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
下記に連結基を示す。
【0092】
【0093】
(上記各式中、Ar6~Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。)Ar1~Ar16の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号に記載のもの等が挙げられる。
【0094】
(電子受容性化合物)
正孔注入層には、正孔輸送性化合物の酸化により、正孔注入層の導電率を向上させることができるため、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、電子親和力が5eV以上である化合物が更に好ましい。
【0095】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。具体的には、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号);塩化鉄(III)(日本国特開平11-251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物;トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(日本国特開2003-31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体及びヨウ素等が挙げられる。
【0096】
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。但し、カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0097】
カチオンラジカルとしては、正孔輸送性化合物として前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、及び溶解性などの点から好適である。
ここで、カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。即ち、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0098】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、又は、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0099】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜法により正孔注入層を形成する場合、通常、正孔注入層となる材料を可溶な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥させることにより形成させる。
【0100】
正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点では、低い方が好ましく、また、一方、正孔注入層に欠陥が生じ難い点では、高い方が好ましい。具体的には、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのが更に好ましく、0.5質量%以上であるのが特に好ましく、また、一方、70質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのが更に好ましく、50質量%以下であるのが特に好ましい。
【0101】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル及び1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0102】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。アミド系溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0103】
これらの他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
正孔注入層3の湿式成膜法による形成は、通常、正孔注入層形成用組成物を調製後に、これを、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより行われる。正孔注入層3は、通常、成膜後に、加熱や減圧乾燥等により塗布膜を乾燥させる。
【0104】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、通常、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた基板上の陽極上に正孔注入層を形成させる。なお、2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0105】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0106】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、陽極側から発光層側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層は、本発明の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極から発光層に正孔を輸送する機能を強化する点では、この層を用いるのが好ましい。正孔輸送層を用いる場合、通常、正孔輸送層は、陽極と発光層の間に形成される。また、上述の正孔注入層がある場合は、正孔注入層と発光層の間に形成される。
【0107】
正孔輸送層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
正孔輸送層の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層は、通常、正孔輸送層となる正孔輸送性化合物を含有する。正孔輸送層に含まれる正孔輸送性化合物としては、特に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(日本国特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(日本国特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等も好ましく使用できる。
【0108】
<湿式成膜法による正孔輸送層の形成>
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させる。
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、通常、正孔輸送層形成用組成物は、更に溶剤を含有する。正孔輸送層形成用組成物に用いる溶剤は、上述の正孔注入層形成用組成物で用いる溶剤と同様の溶剤を使用することができる。
【0109】
正孔輸送層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度と同様の範囲とすることができる。
正孔輸送層の湿式成膜法による形成は、前述の正孔注入層成膜法と同様に行うことができる。
【0110】
<真空蒸着法による正孔輸送層の形成>
真空蒸着法で正孔輸送層を形成する場合についても、通常、上述の正孔注入層を真空蒸着法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させることができる。蒸着時の真空度、蒸着速度及び温度などの成膜条件などは、前記正孔注入層の真空蒸着時と同様の条件で成膜することができる。
【0111】
(発光層)
発光層は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極から注入される正孔と陰極から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。発光層は、陽極と陰極の間に形成される層であり、発光層は、陽極の上に正孔注入層がある場合は、正孔注入層と陰極の間に形成され、陽極の上に正孔輸送層がある場合は、正孔輸送層と陰極の間に形成される。
【0112】
発光層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、また、一方、薄い方が低駆動電圧としやすい点で好ましい。このため、3nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのが更に好ましく、また、一方、通常200nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。
発光層は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、電荷輸送性を有する材料(電荷輸送性材料)とを含有する。
【0113】
(発光材料)
発光材料は、所望の発光波長で発光し、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、公知の発光材料を適用可能である。発光材料は、蛍光発光材料でも、燐光発光材料でもよいが、発光効率が良好である材料が好ましく、内部量子効率の観点から燐光発光材料が好ましい。燐光発光材料としては、本願発明のイリジウム錯体化合物を用いることが好ましい。
【0114】
蛍光発光材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光発光材料)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光発光材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(C9H6NO)3などのアルミニウム錯体等が挙げられる。黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光発光材料)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
【0115】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光発光材料)としては、例えば、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0116】
また、燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)の第7~11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体等が挙げられる。周期表の第7~11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0117】
有機金属錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0118】
好ましい燐光発光材料として、具体的には、例えば、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2-フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2-フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2-フェニルピリジン)白金、トリス(2-フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2-フェニルピリジン)レニウム等のフェニルピリジン錯体及びオクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等のポルフィリン錯体等が挙げられる。
【0119】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(1,4-ベンゾ-2{2,1’-3}-トリアゾール)]などのポリフルオレン系材料、ポリ[2-メトキシ-5-(2-ヘチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]などのポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0120】
(電荷輸送性材料)
電荷輸送性材料は、正電荷(正孔)又は負電荷(電子)輸送性を有する材料であり、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の発光材料を適用可能である。
電荷輸送性材料は、従来、有機電界発光素子の発光層に用いられている化合物等を用いることができ、特に、発光層のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0121】
電荷輸送性材料としては、具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等の正孔注入層の正孔輸送性化合物として例示した化合物等が挙げられる他、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等の電子輸送性化合物等が挙げられる。
【0122】
また、例えば、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(日本国特開平5-234681号公報)、4,4’,4”-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物等の正孔輸送層の正孔輸送性化合物として例示した化合物等も好ましく用いることができる。また、この他、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ターシャルブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等も挙げられる。
【0123】
<湿式成膜法による発光層の形成>
発光層の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよいが、成膜性に優れることから、湿式成膜法が好ましい。本発明において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等、湿式で成膜される方法を採用し、この塗布膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。湿式成膜法により発光層を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに、発光層となる材料を可溶な溶剤(発光層用溶剤)と混合して調製した発光層形成用組成物を用いて形成させる。
溶剤としては、例えば、正孔注入層の形成について挙げたエーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤の他、アルカン系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水系溶剤、脂肪族アルコール系溶剤、脂環族アルコール系溶剤、脂肪族ケトン系溶剤及び脂環族ケトン系溶剤などが挙げられる。以下に溶媒の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
【0124】
例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル系溶剤;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル系溶剤;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、3-イロプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン系溶剤;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶剤;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール系溶剤;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン系溶剤;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン系溶剤等が挙げられる。これらのうち、アルカン系溶剤及び芳香族炭化水素系溶剤が特に好ましい。
【0125】
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。
溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物中の合計含有量は、低粘性なために成膜作業が行いやすい点で多い方が好ましく、また、一方、厚膜で成膜しやすい点で低い方が好ましい。溶剤の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、また、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。
【0126】
溶媒除去方法としては、加熱または減圧を用いることができる。加熱方法において使用する加熱手段としては、膜全体に均等に熱を与えることから、クリーンオーブン、ホットプレートが好ましい。
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、乾燥時間を短くする点では温度が高いほうが好ましく、材料へのダメージが少ない点では低い方が好ましい。上限は通常250℃以下であり、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。下限は通常30℃以上であり、好ましくは50℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上である。上限以上の温度は、通常用いられる電荷輸送材料または燐光発光材料の耐熱性より高く、分解や結晶化する可能性があり好ましくない。下限以下では溶媒の除去に長時間を要するため、好ましくない。加熱工程における加熱時間は、発光層形成用組成物中の溶媒の沸点や蒸気圧、材料の耐熱性、および加熱条件によって適切に決定される。
【0127】
<真空蒸着法による発光層の形成>
真空蒸着法により発光層を形成する場合には、通常、発光層の構成材料(前述の発光材料、電荷輸送性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた正孔注入輸送層の上に発光層を形成させる。なお、2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて発光層を形成することもできる。
【0128】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0129】
(ヘビードープ)
燐光発光する有機電界発光素子の発光層中のイリジウム錯体化合物の通常のドープ濃度は、発光層の単位重量当たりのイリジウム錯体化合物が0.1mmol/g以下の濃度である。本発明においては、この濃度を越えたドープ濃度を、ヘビードープ濃度という。一般にはヘビードープによる有機電界発光素子への影響はさまざまであり、素子の駆動寿命の伸長が期待される一方で、発光材料同士による励起子の対消滅による発光効率の低下も起きることが良く知られている。
【0130】
(正孔阻止層)
発光層と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層の上に、発光層の陰極側の界面に接するように積層される層である。
この正孔阻止層は、陽極から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0131】
このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(日本国特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(日本国特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(日本国特開平10-79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0132】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、前述の発光層の形成方法と同様にして形成することができる。
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0133】
(電子輸送層)
電子輸送層は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層と電子注入層との間に設けられる。
電子輸送層は、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極又は電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0134】
電子輸送層に用いる電子輸送性化合物は、通常、陰極又は電子注入層からの電子注入効率が高く、注入された電子を効率よく輸送できる化合物が好ましい。電子輸送性化合物としては、具体的には、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(日本国特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(日本国特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(日本国特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0135】
電子輸送層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
電子輸送層は、前記と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により正孔阻止層上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0136】
(電子注入層)
電子注入層は、陰極から注入された電子を効率よく、電子輸送層又は発光層へ注入する役割を果たす。
電子注入を効率よく行うには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0137】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(日本国特開平10-270171号公報、日本国特開2002-100478号公報、日本国特開2002-100482号公報などに記載)ことも、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。
【0138】
膜厚は通常、5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
電子注入層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層又はその上の正孔阻止層上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層の場合と同様である。
【0139】
(陰極)
陰極は、発光層側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たす。陰極の材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金などが用いられる。具体例としては、例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極などが挙げられる。
【0140】
素子の安定性の点では、陰極の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極を保護するのが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
陰極の膜厚は通常、陽極と同様である。
【0141】
(その他の層)
本発明の有機電界発光素子は、本発明の効果を著しく損なわなければ、更に他の層を有していてもよい。すなわち、陽極と陰極との間に、上述の他の任意の層を有していてもよい。
【0142】
<その他の素子構成>
なお、上述の説明とは逆の構造、即ち、基板上に陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極の順に積層することも可能である。
【0143】
<その他>
本発明の有機電界発光素子を有機電界発光装置に適用する場合は、単一の有機電界発光素子として用いても、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成にして用いても、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構成にして用いてもよい。
【0144】
<表示装置及び照明装置>
本発明の表示装置及び照明装置は、上述のような本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の表示装置及び照明装置の形式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発刊、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の表示装置および照明装置を形成することができる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
<化合物(D-1)の合成例>
【0146】
【0147】
反応容器に窒素気流下、2-(3-ピナコラートボリルフェニル)ピリジン(17.4g)、中間体1(19.2g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(77mL)、トルエン(120mL)およびエタノール(60mL)を加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)]4(1.21g)を加え、105℃で1.5時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=1/1~ジクロロメタン/ヘキサン/酢酸エチル=50/45/5)にて精製することにより、中間体2(23.6g)を黄色油状物質として得た。
【0148】
【0149】
反応容器に窒素気流下、中間体2(18.0g)、塩化イリジウムn水和物(8.0g)と2-エトキシエタノール(200mL)および蒸留水(28mL)を加え、オイルバスの温度を135℃から150℃まで段階的に上げて計10時間撹拌した。その間還流される液は側管から除いた。反応終了時に除いた液量は46mLであった。その後室温に冷却し、メタノール(100mL)を加えろ過し、メタノール(400mL)で洗浄後乾燥した。中間体3(21.0g)を黄色固体として得た。
【0150】
【0151】
反応容器に、窒素気流下、中間体3(17.6g)、1,2-ジメトキシエタン(300mL)、エタノール(50mL)を加え、油浴を120℃に加熱した後、3,5-ヘプタンジオン(14g)と炭酸ナトリウム(11.3g)を添加し引き続き約2時間加熱還流した。冷却し溶媒を減圧除去した後ジクロロメタン(200mL)を加え、シリカゲルでろ過したのち、ろ液を減圧濃縮した。残さにエタノール(150mL)を加え粉体を析出させた後ろ過した。
【0152】
中間体4(17.9g)を黄色固体として得た。
【0153】
【0154】
反応容器に、窒素気流下、中間体4(11.6g)、中間体5(特許文献2記載の方法で合成)(4.5g)およびグリセリン(87g)を入れ、内温を218℃から227℃へ加温しながら5.5時間撹拌した。副生する3,5-ヘプタンジオンは反応しながら蒸留にて留去した。冷却後水を加えデカンテーションにより溶媒を除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=1/1)で精製することにより化合物D-1(0.70g)を黄色固体として得た。
【0155】
<化合物(D-2)の合成例>
【0156】
【0157】
2Lナスフラスコに室温にて、臭化銅(I)(54.5g)及び無水臭化リチウム(65.9g)を入れ、60℃で2時間乾燥後アルゴン置換し室温まで冷却し、乾燥THF(0.9L)を加え2時間撹拌し触媒溶液を調製した。
10L反応器に、窒素下削り状マグネシウム(190g)、乾燥THF(0.3L)、微量のヨウ素片で活性化し、ブロモベンゼン(1192g)の乾燥THF(3.5L)溶液に2時間かけて滴下し、更に1.5時間還流撹拌しグリニャール試薬溶液を調製した。20L反応器に、窒素下、1,5-ジブロモペンタン(4365g)乾燥THF(5.2L)を入れ、先に調製した触媒溶液を加え、内温10℃に冷却後、先に調製したグリニャール試薬溶液を、内温10~45℃になるように、1時間かけて滴下した後、室温で一夜撹拌した。3M塩酸(3.5L)を加え、油層を分離し、さらに水層を酢酸エチル(3.5×2回)で抽出した。油層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、ろ液を濃縮し、褐色油状の粗体(4.9kg)を得た。この粗体を減圧蒸留して、微黄色透明油状物として中間体6(0.94kg)を得た。
【0158】
【0159】
10L反応器に、窒素下削り状マグネシウム(107g)、乾燥THF(0.5L)を入れ、ヨウ素片(数十mg)で活性化し、中間体6(0.91kg)の乾燥THF(2.5L)溶液を2時間かけて滴下し、更に1時間内温55℃にて加熱撹拌しグリニャール試薬溶液を調製した。3-ブロモベンゾニトリル及び乾燥THF(4.5L)を10℃に冷却後、先に調製したグリニャール試薬溶液を、内温10~35℃で45分間かけて滴下し、内温45~58℃にて3時間加熱撹拌した。3M塩酸(4.3L)に先の反応液を滴下した後、室温へ冷却し油層を分離し、さらに水層を酢酸エチル(6L)で抽出した。油層を合わせ、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、ろ液を濃縮し、褐色油状の粗体(2.0kg)を得た。この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/9-1/4)で精製し、淡黄色透明油状物(0.74kg)を得た。続いて20L反応器に移し、ジグリム(5.1L)を仕込み、水酸化ナトリウム(0.19kg)を加えた。次いで、ヒドラジン一水和物(0.24kg)を30分間かけて滴下し、1時間かけて内温80℃まで昇温し、内温123℃にて4時間撹拌した。冷却後、2M塩酸(3.6L)を加えた後、ヘキサン(3.5L)を加え、油層を分離した。水層をヘキサン(2.5L×2回)で抽出し、油層を合わせて飽和食塩水(2.5L)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、ろ液を濃縮し、褐色油状の粗体(0.92kg)を得た。この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、黄色透明油状物として中間体7(0.45kg)を得た。
【0160】
【0161】
20L反応器に、窒素下中間体7(0.45kg)、乾燥THF(4.5L)を加え、内温-77℃に冷却し、1.65Mのn-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液(1.0L)を内温-68℃以下で1時間かけて滴下し、-68℃にて1時間撹拌した。次いで、ホウ酸トリメチル(0.47kg)を内温-67℃以下で滴下し、温度を保ち1.5時間撹拌した。その後3M塩酸(1.5L)を滴下し、室温に戻しながら一夜撹拌した。酢酸エチル(3L)を注ぎ、油層を分離し、さらに水層を酢酸エチル(3L)で抽出した。油層を合わせ、飽和食塩水(2.5L)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、ろ液を濃縮し、褐色油状の粗体(0.58kg)を得た。この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ジクロロメタン/ヘキサン=0/1/3~2/2/3)で精製したところ中間体8を0.31kg得た。
【0162】
【0163】
反応容器に窒素気流下、中間体8(20.4g)、3-ブロモ-3’-ヨードビフェニル(28.6g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(90mL)、トルエン(140mL)およびエタノール(70mL)を加え、撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)4]1.68gを加え、100℃で3時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=1/9)にて精製することにより、ブロモ体27.8gを得た。これを別の反応容器に入れ、窒素気流下、ビスピナコラートジボロン(17.7g)、[PdCl2(dppf)]CH2Cl2(1.71g)、酢酸カリウム(20.5g)、脱水ジメチルスルホキシド(150mL)を入れ、100℃油浴中で2時間撹拌した。その後室温まで冷却し、水とトルエンを加え分液洗浄後、油相を硫酸ナトリウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ジクロロメタン/ヘキサン=3/7~ジクロロメタン/ヘキサン/酢酸エチル=3/7/0.1)にて精製することにより、中間体9(23.4g)の白色固体を得た。
【0164】
【0165】
反応容器に窒素気流下2-ブロモピリジン(3.3g)、中間体9(9.8g)、[Pd(PPh3)4]0.44g、リン酸三カリウム(9.0g)、蒸留水(20g)、トルエン(50mL)およびエタノール(20mL)を加え、100℃の油浴で3時間撹拌した。冷却後、水を加え分液洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタンのみ)で精製したところ、中間体10(10.0g)を無色油状物質として得た。
【0166】
【0167】
反応容器に窒素気流下、中間体4(5.5g)、中間体10(2.8g)、ジグリム(42mL)を入れ内温を約100℃とした。トリフルオロメタンスルホン酸銀(1.6g)を投入し、直ちに内温を125℃まで上げて2時間撹拌した。室温に冷却後、溶媒を減圧除去して残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)にて精製した。化合物D-2を1.6g、黄色固体として得た。
【0168】
<化合物(D-3)の合成例>
【0169】
【0170】
反応容器に窒素気流下、2-(3-ブロモフェニル)ピリジン(5.6g)、中間体11(国際公開第2012/137958号記載の方法で合成)9.3g、[Pd(PPh3)4]0.50g、2Mリン酸三カリウム水溶液27mL、トルエン50mLおよびエタノール25mLを加え、100℃の油浴で3時間撹拌した。冷却後、水とトルエンを加え分液洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタンのみ)で精製したところ、中間体12(9.16g)を白色固体として得た。
【0171】
【0172】
反応容器に窒素気流下、中間体12(8.9g)、塩化イリジウムn水和物(3.4g)と2-エトキシエタノール(50mL)、ジグリム(50mL)および蒸留水(13mL)を加え、オイルバスの温度を135℃から150℃まで段階的に上げて計10時間撹拌した。その間還流される液は側管から除いた。反応途中にジグリムをさらに60mL添加した。その後室温に冷却し、蒸留水500mLに反応液を投入後、析出固体をろ過し、メタノール500mLで洗浄後乾燥した。中間体13(10.5g)を黄色固体として得た。
【0173】
【0174】
反応容器に窒素気流下、中間体13(3.0g)、中間体10(1.3g)、ジグリム(24mL)を入れ内温を約100℃とした。トリフルオロメタンスルホン酸銀(0.85g)を投入し、直ちに油浴を130℃まで上げて2時間撹拌した。室温に冷却後、溶媒を減圧除去して残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)にて精製した。化合物D-3を0.7g、黄色固体として得た。
【0175】
<化合物(D-4)の合成例>
【0176】
【0177】
反応容器に窒素気流下、2-(3-ピナコラートボリルフェニル)ピリジン(19.2g)、3,3’-ジブロモビフェニル(64.4g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(260mL)、トルエン(280mL)およびエタノール(140mL)を加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)4]6.0gを加え、100℃で3時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=4/6~ジクロロメタン/ヘキサン/酢酸エチル=3/7/0.5)にて精製することにより、中間体14(22.0g)を黄色油状物質として得た。
【0178】
【0179】
反応容器に窒素気流下、中間体14(10.2g)、中間体8(7.80g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(33mL)、トルエン(60mL)およびエタノール(30mL)を加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)4]0.76gを加え、100℃で1.5時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=2/8)にて精製することにより、中間体15(12.9g)を無色油状物質として得た。
【0180】
【0181】
反応容器に窒素気流下、中間体15(4.0g)、中間体4(6.62g)、ジグリム(53mL)を入れ内温を約100℃とした。トリフルオロメタンスルホン酸銀(1.89g)を投入し、直ちに油浴を130℃まで上げて2時間撹拌した。室温に冷却後、溶媒を減圧除去して残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)にて精製した。化合物D-4を2.49g、黄色固体として得た。
【0182】
<化合物(D-7)の合成例>
【0183】
【0184】
反応容器に窒素気流下、m-ターフェニルボロン酸(44.5g)、m-ブロモヨードベンゼン(45.9g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(200mL)、トルエン(300mL)およびエタノール(150mL)を加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらにPd(PPh3)4]4.67gを加え、100℃で3.5時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=5/95から10/90)にて精製することにより、中間体16(48.0g)を無色油状物質として得た。
【0185】
【0186】
反応容器に窒素気流下、中間体16(36.8g)、ビス(ピナコラート)ジボロン(29.1g)、酢酸カリウム(33.8g)、脱水ジメチルスルホキシド(330mL)を加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[PdCl2dppf]CH2Cl2(2.81g)を加え、100℃で3.5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン/酢酸エチル=90/10/5から60/40/5)にて精製することにより、中間体17(23.1g)を白色固体として得た。
【0187】
【0188】
反応容器に窒素気流下、中間体17(14.3g)、2-(3-ブロモフェニル)ピリジン(7.7g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(42mL)、トルエン(70mL)およびエタノール(35mL)を加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)]4(0.95g)を加え、100℃で3時間撹拌還流した。室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン/酢酸エチル=75/25/3から60/40/3)にて精製することにより、中間体18(14.8g)を黄色固体物質として得た。
【0189】
【0190】
反応容器に窒素気流下、中間体18(14.2g)、塩化イリジウムn水和物(5.32g)と2-エトキシエタノール(68mL)、ジグリム(68mL)および蒸留水(21mL)を加え、オイルバスの温度を105℃から135℃まで段階的に上げて計7時間撹拌した。その間還流される液は側管から除いた。その後室温に冷却し、蒸留水400mLに反応液を投入後、析出固体をろ過し、メタノール200mLで洗浄後乾燥した。中間体19(16.0g)を黄色固体として得た。
【0191】
【0192】
反応容器にアルゴン気流下、中間体8(100.0g)、1-ブロモ-3-ヨードベンゼン(120.3g)、2M炭酸カリウム水溶液(443mL)、(トルエン)900mLおよびエタノール(450mL)を加え、撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)4](12.31g)を加え、90℃で15時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧化に留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=1/19)に処し、ブロモ体100.5gを得た。引き続きこれを3L反応容器に入れ、アルゴン気流下、乾燥THF1Lを加え、内温-75℃に冷却し、1.65Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液186mLを内温-66℃以下で滴下し、-70℃にて1時間撹拌した。次いで、ほう酸トリメチル85.0gを内温-64℃で50分間かけて滴下し、-70℃にて5時間撹拌した。反応混合物に3M塩酸 270mLを滴下し、室温に戻しながら一夜撹拌した後、酢酸エチル500mLを注ぎ、油水を分離し、水層を酢酸エチルで抽出した。全ての有機層を合わせ、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、ろ液を濃縮し、黄色油状の粗体を得た。この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ジクロロメタン/ヘキサン=1/0/4~1/2/0)に処しで精製し、中間体20を淡黄色固体として55.6g得た。
【0193】
【0194】
反応容器に窒素気流下、中間体12(13.4g)、中間体20(13.0g)、2Mリン酸三カリウム水溶液45mL、トルエン90mLおよびエタノール45mLを加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)]41.0gを加え、100℃で1.5時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=2/8)にて精製することにより、中間体21(14.4g)を無色油状物質として得た。
【0195】
【0196】
反応容器に窒素気流下、中間体19(6.6g)、中間体21(4.0g)、ジグリム53mLを入れ内温を約100℃とした。トリフルオロメタンスルホン酸銀1.64gを投入し、直ちに油浴を134℃まで上げて1.5時間撹拌した。室温に冷却後、溶媒を減圧除去して残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)にて精製した。化合物D-7を2.24g、黄色固体として得た。
【0197】
<化合物(D-8)の合成例>
【0198】
【0199】
反応容器に窒素気流下、2-(3-ブロモフェニル)ピリジン40.3g、塩化イリジウムn水和物28.8gと2-エトキシエタノール200mLおよび蒸留水60mLを加え、オイルバスの温度を135℃とし8時間撹拌した。その間還流される液は側管から除いた。その後室温に冷却し、メタノール100mLを反応液に投入後、析出固体をろ過し、メタノール400mLで洗浄後乾燥した。中間体22(49.0g)を黄色固体として得た。
【0200】
【0201】
反応容器に窒素気流下、中間体22(8.0g)、中間体15(12.3g)、DMF120mLを入れ、オイルバスの温度を170℃とし、弱い還流とした。トリフルオロメタンスルホン酸銀 3.52gを投入し、2時間撹拌した。室温に冷却後、水300mLとトルエン300mL、ジクロロメタン300mLで分液洗浄したのち、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し溶媒を減圧下除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)にて精製した。中間体23を4.3g、黄色固体として得た。
【0202】
【0203】
反応容器に窒素気流下、中間体23(4.3g)、ビス(ピナコラート)ジボロン2.7g、酢酸カリウム2.7g、脱水ジメチルスルホキシド400mLを加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[PdCl2dppf]CH2Cl2(0.92g)を加え、100℃で7時間撹拌した。その後室温まで冷却し、水500mLとジクロロメタン500mLを加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン/酢酸エチル=60/30/1から70/0/30)にて精製することにより、中間体24(2.5g)を黄色固体として得た。
【0204】
【0205】
反応容器に窒素気流下、3,5-ジブロモベンゾニトリル10.4g、m-ビフェニルボロン酸7.6g、2Mリン酸三カリウム水溶液50mL、トルエン60mLおよびエタノール30mLを加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)4]1.2gを加え、100℃で2時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=3/7)にて精製することにより、中間体25(8.2g)を無色油状物質として得た。
【0206】
【0207】
反応容器に窒素気流下、中間体24(2.5g)、中間体25(2.6g)、2Mリン酸三カリウム水溶液18mL、トルエン50mLおよびエタノール25mLを加え、窒素を30分バブリングした。その後撹拌しながらさらに[Pd(PPh3)4]0.3gを加え、100℃で2.5時間撹拌還流した。その後室温まで冷却し、水を加え分液洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=65/35)にて精製することにより、化合物D-8(1.2g)を黄色固体物質として得た。
【0208】
<参考例1>
化合物D-1と類似の方法で合成した化合物D-9は、100℃で調整されたフェニルシクロヘキサンの1wt%溶液が室温まで冷却されると速やかに析出した。溶解性が非常に低く、インクとすることができなかった。
【0209】
【0210】
<有機電界発光素子の作製1>
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。但し、実施例1および2と比較例1および2における発光層中のイリジウム原子濃度は、およそ0.095mmol/gとなるように調整した。同様に、実施例3および4と比較例3および4における発光層中のイリジウム原子濃度は、およそ0.19mmol/gとなるように調整した。
【0211】
(実施例1)
ガラス基板1の上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を70nmの厚さに堆積したもの(ジオマテック社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。このITOは、透明電極2として機能する。
【0212】
次に、下の構造式(P-1)に示すアリールアミンポリマー、構造式(A-1)に示す4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートおよび安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用塗布液を調製した。この塗布液を下記条件で陽極上にスピンコートにより成膜して、膜厚40nmの正孔注入層3を得た。
【0213】
【0214】
<正孔注入層形成用塗布液>
溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 P-1 2.5質量%
A-1 0.4質量%
<正孔注入層3の成膜条件>
スピンコート雰囲気 大気中
加熱条件 乾燥大気中 240℃ 1時間
【0215】
次に、下記に示す構造を有する化合物(P-2)を含有する正孔輸送層形成用塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、加熱により重合させることにより膜厚11nmの正孔輸送層4を形成した。
【0216】
【0217】
<正孔輸送層形成用塗布液>
溶剤 フェニルシクロヘキサン
塗布液濃度 1.0質量%
<成膜条件>
スピンコート雰囲気 乾燥窒素中
加熱条件 230℃、1時間(乾燥窒素下)
【0218】
次に、発光層を形成するにあたり、電荷輸送材料として、以下に示す、有機化合物(H-1)、有機化合物(H-2)及び、発光材料として、上記で合成した、イリジウム錯体化合物(D-1)を用いて下記に示すイリジウム錯体化合物含有組成物を調製し、以下に示す条件で正孔輸送層上にスピンコートして膜厚60nmで発光層を得た。この発光層の単位重量当たりのイリジウム錯体化合物のドープ濃度は、0.096mmol/gである。
【0219】
【0220】
<発光層形成用塗布液>
溶剤 フェニルシクロヘキサン:1900質量部
発光層組成 H-1: 45質量部
H-2: 55質量部
D-1: 14.8質量部
<成膜条件>
スピンコート雰囲気 乾燥窒素中
加熱条件 120℃×20分(乾燥窒素下)
【0221】
ここで、発光層までを成膜した基板を、真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が2.0x10-4Pa以下になるまで排気した後、化合物(HB-1)を真空蒸着法にて蒸着速度を0.8~1.0Å/秒の範囲で制御し、発光層の上に積層させ、膜厚10nmの正孔阻止層6を得た。
【0222】
【0223】
引き続き、下記に示す構造を有する有機化合物(ET-1)を真空蒸着法にて蒸着速度を0.8~1.0Å/秒の範囲で制御し、正孔阻止層6の上に積層させ、膜厚20nmの電子輸送層7を形成した。
【0224】
【0225】
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度取り出し、別の蒸着装置に設置し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて排気を行った。
電子注入層8として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、陰極9としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0226】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂30Y-437(スリーボンド社製)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0227】
(実施例2)
実施例1において、発光層を形成する際に用いた化合物D-1を、化合物D-4に変更し、その発光層形成用塗布液中の濃度を16.5質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0228】
(比較例1)
実施例1において、発光層を形成する際に用いた化合物D-1を、下記式で表される化合物D-5に変更し、その発光層形成用塗布液中の濃度を14.7質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0229】
【0230】
(比較例2)
実施例1において、発光層を形成する際に用いた化合物D-1を、下記式で表される化合物D-6に変更し、その発光層形成用塗布液中の濃度を15.0質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0231】
【0232】
(実施例3)
実施例1において、発光層形成用塗布液中の発光材料の濃度を34.6質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0233】
(実施例4)
実施例2において、発光層形成用塗布液中の発光材料の濃度を38.5質量部に変えた以外は、実施例2と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0234】
(比較例3)
比較例1において、発光層形成用塗布液中の発光材料の濃度を34.4質量部に変えた以外は、比較例1と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0235】
(比較例4)
比較例2において、発光層形成用塗布液中の発光材料の濃度を35.0質量部に変えた以外は、実施例2と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
このようにして得られた素子の性能を表1、表2に示す。
表1に、素子に10mA/cm
2通電した場合の発光効率(cd/A)を、比較例1を100とした相対値で示す。
【0236】
【0237】
本願発明の化合物を発光層に通常ドープ濃度でドープした素子および、ヘビードープ濃度でドープした素子とも、発光効率が高いことがわかる。表2に、素子に15mA/cm2通電した場合の初期輝度(cd/m2)を、比較例1を100とした相対値、および、素子を15mA/cm2で120時間定電流駆動した後の輝度を初期輝度で除して輝度保持率をもとめ、比較例1の輝度保持率を100とした場合の相対値を示す。
【0238】
【0239】
実施例1~4、比較例1~3により、本願発明の化合物を発光層に通常ドープ濃度でドープした素子および、ヘビードープ濃度でドープした素子とも、高い駆動寿命を有する素子であることがわかった。
また、特に、本願発明の化合物を発光層にヘビードープ濃度でドープした素子は、発光効率が高く、高い駆動寿命を有する素子であることがわかった。
【0240】
<発光層形成用塗布液の保存安定性>
該塗布液の保存安定性試験においては、液に濁りが無いこと、および、赤色レーザー光を当てチンダル現象が観察されないこと、を目視で確認できた場合、溶液状態が保持された均一状態であると判断した。
(実施例5)実施例3と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、均一状態を保持していた。
(実施例6)実施例4と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、均一状態を保持していた。
(実施例7)実施例5において、化合物D-1を化合物D-7に変更し、その発光層形成用塗布液中の濃度を44.4質量部に変えた以外は、実施例5と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、均一状態を保持していた。
(実施例8)実施例5において、化合物D-1を化合物D-8に変更し、その発光層形成用塗布液中の濃度を39.8質量部に変えた以外は、実施例5と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、均一状態を保持していた。
(参考例2)比較例3と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、均一状態を保持していた。
(比較例5)比較例4と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、固体の析出が認められた。
(比較例6)比較例3において、化合物D-5を下式に示す化合物D-10に変更し、その発光層形成用塗布液中の濃度を47.0質量部に変えた以外は、比較例3と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、固体の析出が認められた。
<化合物D-10>
【0241】
【0242】
(比較例7)比較例3において、化合物D-5を下式に示す化合物D-11に変更し、その発光層形成用塗布液中の濃度を28.0質量部に変えた以外は、比較例3と同様に作成した発光層形成用塗布液を、150℃で30分加熱し均一状態を確認したのち45℃で4時間静置したところ、固体の析出が認められた。
【0243】
【0244】
以上の結果を表3に示す。
【0245】
【0246】
実施例5~8、比較例5~7より、本願発明の化合物をヘビードープ濃度で発光層形成用塗布液に用いた組成物は、保存安定性が良好であることがわかる。
【0247】
<有機電界発光素子の作製2>
(実施例9)
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。但し、発光層中のイリジウム原子濃度は、およそ0.19mmol/gとなるように調整した。
【0248】
ガラス基板1および透明電極2は実施例3における有機電界発光素子の作製1と同様に作成した。
【0249】
次に、下の構造式(P-3)に示すアリールアミンポリマー、前記構造式(A-1)に示す4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートおよび安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用塗布液を調製した。この塗布液を下記条件で陽極上にスピンコートにより成膜して、膜厚29nmの正孔注入層3を得た。
【0250】
【0251】
<正孔注入層形成用塗布液>
溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 P-3 2.0質量%
A-1 0.4質量%
<正孔注入層3の成膜条件>
スピンコート雰囲気 大気中
加熱条件 乾燥大気中 230℃ 1時間
【0252】
次に、下記に示す構造を有する化合物(P-4)を含有する正孔輸送層形成用塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、加熱により重合させることにより膜厚20nmの正孔輸送層4を形成した。
【0253】
【0254】
<正孔輸送層形成用塗布液>
溶剤 フェニルシクロヘキサン
塗布液濃度 1.5質量%
<成膜条件>
スピンコート雰囲気 乾燥窒素中
加熱条件 230℃、1時間(乾燥窒素下)
【0255】
発光層の形成から最後の封止処理まで、実施例3と同様に行い、素子を作成した。
【0256】
(実施例10)
実施例9において、発光層形成用塗布液を実施例6の組成に変えた以外は、実施例9と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0257】
(実施例11)
実施例9において、発光層形成用塗布液を実施例7の組成に変えた以外は、実施例9と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0258】
(比較例8)
実施例9において、発光層形成用塗布液を比較例3の組成に変えた以外は、実施例9と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
このようにして得られた素子を15mA/cm
2で定電流駆動し、輝度が90%に低下した時の時間をLT90(h)として求め、比較例8のLT90を100とした場合の相対値を表4に示す。
【0259】
【0260】
比較例8で用いた化合物D-5は、参考例2で示した通り、発光層形成用塗布液としての保存安定性は良好であったものの、駆動寿命は実施例9~11に対して劣っており、本願発明の化合物を発光層に用いることで、発光層形成用塗布液としての優れた保存安定性と素子としての高駆動寿命の両立が図れることが判った。
【0261】
(実施例12)
実施例9において、発光層形成用塗布液を実施例8の組成に変えた以外は、実施例9と同様にして
図1に示す有機電界発光素子を作製したところ、素子の極大波長は517nmであった。
【0262】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年5月29日出願の日本特許出願(特願2015-110255)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0263】
本発明は、有機電界発光素子をはじめとする有機デバイス用の材料のほか、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯、照明装置等の分野において、好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0264】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極