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<図1>
  • 特許-合金の処理方法 図1
  • 特許-合金の処理方法 図2
  • 特許-合金の処理方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】合金の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/06 20060101AFI20240116BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240116BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240116BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240116BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C22B3/06
C22B23/00 102
C22B3/44 101B
C22B7/00 C
H01M10/54
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022188423
(22)【出願日】2022-11-25
(65)【公開番号】P2023084105
(43)【公開日】2023-06-16
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2021197733
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021197734
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 いつみ
(72)【発明者】
【氏名】三條 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松木 匠
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/166755(WO,A1)
【文献】特開2021-147686(JP,A)
【文献】特開2019-108586(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111807388(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、
前記合金に対して、硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して浸出処理を施し、ニッケル及び/又はコバルトを含む浸出液と、該硫化剤により銅を硫化して生成する硫化銅を含む浸出残渣とを得る浸出工程を含み、
前記浸出工程では、
2価の銅イオン源を添加し、反応溶液中の銅濃度を0.5g/L以上15g/L以下の範囲に維持するとともに、
前記2価の銅イオン源を添加した後の反応溶液の酸化還元電位を銀/塩化銀電極を参照電極とする値で50mV以上に維持して前記硫化剤による前記2価の銅イオンの硫化を制御する、
合金の処理方法。
【請求項2】
前記硫化剤の添加を制御することによって前記酸化還元電位を50mV以上とする、
請求項に記載の合金の処理方法。
【請求項3】
前記浸出工程で得られた浸出液に、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくとも該浸出液に含まれる銅を硫化する脱銅処理を施し、脱銅後液と脱銅残渣とを得るセメンテーション工程をさらに含む、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【請求項4】
前記浸出工程で得られた浸出液の一部を、前記酸溶液として前記浸出工程に繰り返す、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【請求項5】
前記セメンテーション工程で得られた脱銅残渣に含まれる銅を、前記浸出工程にて添加する前記2価の銅イオン源として添加する、
請求項に記載の合金の処理方法。
【請求項6】
前記合金は、リチウムイオン電池の廃電池を熔解して得られた合金を含む、
請求項1乃至のいずれかに記載の合金の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金からニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリット自動車等の車両、及び携帯電話やスマートフォン、パソコン等の電子機器には、軽量で大出力であるという特徴を有するリチウムイオン電池(以下「LIB」とも称する)が搭載されている。
【0003】
LIBは、アルミニウムや鉄等の金属製あるいは塩化ビニル等のプラスチック製の外装缶の内部に、銅箔を負極集電体に用いて表面に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材と、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材を、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータと共に装入し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含んだ有機溶媒を電解液として含浸させた構造を有する。
【0004】
LIBは、上記のような車両や電子機器等の中に組み込まれて使用されると、やがて自動車や電子機器等の劣化、あるいはLIB自身の寿命等によって使用できなくなり、廃リチウムイオン電池(廃LIB)となる。なお、「廃LIB」には、製造工程内で不良品として発生したものも含まれる。
【0005】
これらの廃LIBには、ニッケルやコバルト、銅などの有価成分が含まれており、資源の有効活用のためにも、それら有価成分を回収して再利用することが望まれる。
【0006】
一般に、金属で作製された装置や部材、材料から有価成分を効率よく回収しようとする場合、炉等に投入して高温で熔解し、有価物を含むメタルとそれ以外のスラグとに分離する乾式製錬の原理を利用した乾式処理が従来から広く行われている。例えば、特許文献1には、乾式処理を用いて有価金属の回収を行う方法が開示されている。特許文献1に開示の方法を廃LIBからの有価金属の回収に適用することで、ニッケル、コバルトを含む銅合金を得ることができる。
【0007】
このような乾式処理(以下、「乾式法」とも称する)は、炉を用いて高温に加熱するためにエネルギーを要するという短所があるが、様々な不純物を一括して分離できる利点がある。しかも、乾式処理で得られるスラグは、化学的に安定な性状であり、環境に影響する懸念が少なく、処分しやすい利点もある。
【0008】
しかしながら、乾式処理で廃LIBを処理した場合、一部の有価成分、特にコバルトのほとんどがスラグに分配され、コバルトの回収ロスとなることが避けられないという問題があった。また、乾式処理で得られたメタルは、有価成分が共存した合金であり、再利用するためには、この合金から成分ごとに分離し、不純物を除去する精製が必要となる。
【0009】
乾式処理で一般的に用いられてきた元素分離の方法として、高温の熔解状態から徐冷することで、例えば、銅と鉛とを分離したり、鉛と亜鉛とを分離するといった方法が知られている。ところが、廃LIBのように銅とニッケルが主な成分である場合、銅とニッケルは全組成範囲で均一熔融する性質を持つため、徐冷しても銅とニッケルが層状に混合固化するのみで分離はできない。
【0010】
さらに、一酸化炭素(CO)ガスを用いてニッケルを不均化反応させ銅やコバルトから揮発させて分離する精製方法もあるが、有毒性のCOガスを用いるため、安全性の確保が難しいといった問題もある。
【0011】
また、工業的に行われてきた銅とニッケルを分離する方法として、混合マット(硫化物)を粗分離する方法がある。この方法では、製錬工程で銅とニッケルを含むマットを生成させ、これを上述の場合と同様に徐冷することで、銅を多く含む硫化物とニッケルを多く含む硫化物とに分離するものである。ところが、この分離方法でも、銅とニッケルの分離は粗分離程度に留まり、純度の高いニッケルや銅を得るためには、別途、電解精製等の処理が必要となる。
【0012】
その他にも、塩化物を経て蒸気圧差を利用する方法も検討されてきた。しかしながら、有毒な塩素を大量に取り扱うプロセスとなるため、装置の腐食対策や安全対策等を大掛かりに要し、工業的に適した方法とは言い難い。
【0013】
このように、乾式処理での各元素の分離精製は、粗分離レベルに留まるか、あるいは高コストになるという欠点を有している。
【0014】
一方で、酸処理や中和処理、溶媒抽出処理等を用いる湿式製錬の方法を用いた湿式処理(以下、「湿式法」とも称する)は、消費するエネルギーが少なく、混在する有価成分を個々に分離して高純度な品位で回収できる利点がある。
【0015】
しかしながら、湿式処理を用いて廃LIBを処理する場合、廃LIBに含有される電解液成分の六フッ化リン酸アニオン等は、高温、高濃度の硫酸でも完全に分解させることができない難処理物であり、有価成分を浸出した酸溶液に混入することになる。六フッ化リン酸アニオンは、水溶性の炭酸エステルであることから、有価物を回収した後の水溶液からリンやフッ素を回収することも困難となり、公共海域等への放出を抑制するために種々の対策を講じることが必要になる等、環境面の制約が大きい。
【0016】
さらに、酸だけで廃LIBから有価成分を効率的に浸出して精製に供することができる溶液を得ることは容易でない。特に、廃LIB本体は、酸等では浸出され難く、完全に有価成分を浸出させることは容易でない。また、酸化力の強い酸を用いる等して強引に浸出すると、有価成分と共に工業的には回収対象でないアルミニウムや鉄、マンガン等の不純物成分までもが浸出されてしまい、不純物を中和等で処理するための中和剤のコストが増加し、発生する排水量や澱物量が増加する問題が生じる。またさらに、廃LIBには電荷が残留していることがあり、そのまま処理しようとすると、発熱や爆発等を引き起こす恐れがあるため、残留電荷を放電するための処理等の手間がかかる。
【0017】
このように湿式処理だけを用いて廃LIBを処理することも、必ずしも有利な方法とは言えなかった。
【0018】
そこで、上述した乾式処理や湿式処理の単独処理では困難な廃LIBを、乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法、つまり廃LIBを焙焼する等の乾式処理によって不純物をできるだけ除去して均一な廃LIB処理物とし、得られた処理物を湿式処理によって有価成分とそれ以外の成分とに分離しようとする試みが行われてきた。
【0019】
このような乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法では、電解液のフッ素やリンは乾式処理で揮発して除去され、廃LIBの構造部品であるプラスチックやセパレータ等の有機物による部材も熱で分解される。また、乾式処理を経て廃LIB処理物は、均一な性状で得られるため、湿式処理の際にも均一な原料として取り扱いしやすい。
【0020】
しかしながら、単なる乾式処理と湿式処理との組み合わせだけでは、廃LIBに含まれるコバルトがスラグに分配されるという回収ロスの問題は依然として残る。
【0021】
例えば、乾式処理での処理条件を調整することで、コバルトをスラグでなくメタルに効率的に分配させ、スラグへの分配を減じるように還元熔融する方法も考えられる。ところが、そのような方法で得られたメタルは、銅をベースとしてニッケル及びコバルトを含有する難溶性の耐蝕合金となってしまう。この耐蝕合金から、湿式処理によって有価成分を分離して回収しようとしても、酸溶解が難しく効果的に回収できなくなる。
【0022】
耐蝕合金を浸出するために、例えば塩素ガスを用いた場合、得られた溶解液(浸出液)には、高濃度の銅と比較的低濃度のニッケルやコバルトが含有するようになる。その中で、ニッケルとコバルトは溶媒抽出等の公知の方法を用いて容易に分離できるものの、特に銅を、ニッケルやコバルトと容易にかつ低コストに分離することは困難となる。
【0023】
以上のように、有価成分である銅、ニッケル、コバルトの他に様々な成分を含有する廃LIB等に由来する合金から、効率的に、銅とニッケル及び又はコバルトとを分離することは難しかった。
【0024】
なお、上述した問題は、廃LIB以外の廃電池からニッケル及び/又はコバルトと銅とを分離する場合においても同様に存在し、さらに、廃電池以外に由来する合金からニッケル及び/又はコバルトと銅とを分離する場合においても、同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】特開2012-172169号公報
【文献】特開昭63-259033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、合金を酸で浸出する浸出工程を含む処理方法において、2価の銅イオン源を添加して銅濃度を所定の範囲に維持しながら浸出処理を施すことで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、前記合金に対して、硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程を含み、前記浸出工程では、2価の銅イオン源を添加し、反応溶液中の銅濃度を0.5g/L以上15g/L以下の範囲に維持しながら浸出処理を施す、合金の処理方法である。
【0029】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記浸出工程では、反応溶液の酸化還元電位を銀/塩化銀電極を参照電極とする値で50mV以上に維持しながら浸出処理を施す、合金の処理方法である。
【0030】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記硫化剤の添加を制御することによって前記酸化還元電位を50mV以上とする、合金の処理方法である。
【0031】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記浸出工程で得られた浸出液に、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくとも該浸出液に含まれる銅を硫化する脱銅処理を施し、脱銅後液と脱銅残渣とを得るセメンテーション工程をさらに含む、合金の処理方法である。
【0032】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記浸出工程で得られた浸出液の一部を、前記酸溶液として前記浸出工程に繰り返す、合金の処理方法である。
【0033】
(6)本発明の第6の発明は、第4の発明において、前記セメンテーション工程で得られた脱銅残渣に含まれる銅を、前記浸出工程にて添加する前記2価の銅イオン源として添加する、合金の処理方法である。
【0034】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記合金は、リチウムイオン電池の廃電池を熔解して得られた合金を含む、合金の処理方法である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】合金の処理方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】実施例2における浸出反応の反応時間に対する反応溶液のORPの推移を示すグラフ図である。
図3】参考例1における浸出反応の反応時間に対する反応溶液のORPの推移を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0038】
本実施の形態に係る合金の処理方法は、ニッケル及び/又はコバルトと、銅と、を含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る方法である。
【0039】
処理対象である、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金としては、例えば、自動車や電子機器等の劣化による廃棄物、リチウムイオン電池の寿命に伴い発生したリチウムイオン電池のスクラップ、又は電池製造工程内の不良品等の廃電池等を用いることができる。また、そのような廃電池等を乾式処理に付して加熱熔融(熔解)することによって還元して得られる合金を用いることができる。
【0040】
図1は、本実施の形態に係る合金の処理方法の流れの一例を示す工程図である。この方法は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金(以下、単に「合金」ともいう)に対して硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S1を含む。また、得られた浸出液に、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくともその浸出液に含まれる銅を硫化する脱銅処理を施し、脱銅後液と脱銅残渣とを得るセメンテーション工程S2を含む。
【0041】
そして、本実施の形態に係る方法では、浸出工程S1において、2価の銅イオン源を添加して、反応溶液中の銅濃度を0.5g/L以上15g/L以下の範囲に維持しながら浸出処理を施すことを特徴としている。
【0042】
また、好ましくは、浸出工程S1において、2価の銅イオン源を添加するとともに、反応溶液の酸化還元電位(参照電極:銀/塩化銀電極)を50mV以上に維持しながら浸出処理を施す。
【0043】
[浸出工程]
(浸出処理について)
浸出工程S1では、被浸出処理物に対して、酸による浸出処理を施して浸出液を得る。このとき、合金を酸に接触させる前、あるいは合金に酸を接触させるのと同時に、硫化剤を添加して、その硫化剤が共存する条件下で浸出処理を施す。このように、硫化剤の共存下で酸による浸出処理を施すことで、ニッケル及び/又はコバルトを溶解させた浸出液と、主として硫化銅を含む浸出残渣とを得る。
【0044】
浸出処理に供される「被浸出処理物」とは、処理原料であるニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金である。また、それと共に、詳しくは後述するように、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られる脱銅残渣を含ませ、併せて処理してもよい。なお、その場合、初回の処理における被浸出処理物としては、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金となる。
【0045】
より具体的に、浸出処理では、被浸出処理物に対して硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して接触させることで、下記反応式[1]、[2]で示す反応が生じる。なお、下記反応式では、酸として硫酸を用い、硫化剤として単体硫黄を用いた場合の例を示す。
Cu-Ni+S ⇒ CuS+NiO ・・・[1]
NiO+HSO+1/2O ⇒ NiSO+HO ・・・[2]
【0046】
浸出処理では、上記の反応式に示されるように、ニッケル及び/又はコバルトの硫酸溶液(浸出液)と、主に硫化銅からなる浸出残渣とが生成する。このように、硫化剤が共存した状態で合金に対して酸による浸出処理を施すことで、合金から浸出された銅を硫化銅として析出させて浸出残渣として分離することができる。生成した浸出残渣については、系外に払い出し、例えば銅製錬の原料として利用することができる。
【0047】
一方で、合金に対して酸による浸出処理を施すことで、ニッケル及び/又はコバルトを浸出させ、そのニッケル及び/又はコバルトを含む浸出液を得ることができる。
【0048】
(2価の銅イオンの添加について)
ここで、本実施の形態に係る方法では、2価の銅イオン源を添加して、反応溶液中の銅濃度を所定の範囲に維持しながら浸出処理を施すようにする。このように、合金に含まれるニッケル及び/又はコバルトを酸により浸出させる浸出反応において、2価の銅イオンを添加して存在させることで、ニッケルやコバルトの浸出を促進させることができる。
【0049】
このことは、下記式[3]、[4]に示すように、浸出反応において2価の銅イオンが触媒として作用するためであると推測される。
2Cu+1/2O+2H ⇒ 2Cu2++HO ・・・[3]
2Cu2++Ni ⇒ 2Cu+Ni2+ ・・・[4]
【0050】
2価の銅イオン源としては、特に限定されず、硫酸銅や酸化銅等を用いることができる。また、2価の銅イオン源の添加方法についても、特に限定されず、例えば、酸溶液と共に処理対象の合金に添加することができる。あるいは、予め、酸溶液に2価の銅イオン源を添加しておき、銅を含む酸溶液を合金に添加するようにしてもよい。
【0051】
また、2価の銅イオン源としては、後述するセメンテーション工程S2を経て得られた脱銅残渣に含まれる銅、すなわち浸出液に残留した銅を硫化させる脱銅処理により得られる硫化銅(CuS)を回収して用いてもよい(図1中の破線矢印(C))。なお、その場合、処理対象の合金に含まれる銅を完全に硫化銅として沈殿させるのではなく、一部が浸出液中に残留するように硫化剤の添加量を制御する等して硫化の進行を制御すればよい。
【0052】
また、2価の銅イオン源を添加して、反応溶液(浸出液)中の銅濃度を0.5g/L以上15g/L以下の範囲に維持しながら浸出処理を施すようにする。また、好ましくは銅濃度を1g/L以上12g/L以下の範囲、より好ましくは銅濃度を3g/L以上10g/L以下の範囲に維持しながら浸出処理を施すようにする。反応溶液中の銅濃度が0.5g/L未満では、添加して銅の触媒としての効果が十分に発揮されず、添加した銅も完全に硫化されて沈殿物となり、ニッケルやコバルトの浸出促進の効果が得られなくなる。また、銅濃度が15g/Lを超えるような高濃度で存在しても、浸出促進の効果はあまり変わらない一方で、浸出処理後に浸出液中に残留する銅が増え、次工程のセメンテーション工程S2での脱銅処理の負荷が大きくなる。
【0053】
また、このような浸出処理で得られた浸出液の一部を、浸出反応に用いる酸溶液として繰り返し用いるようにしてもよい(図1中の破線矢印(A))。上述したように、浸出処理では、2価の銅イオン源を添加し浸出反応の触媒として作用させている。したがって、浸出処理を経て得られた浸出液には、2価の銅が残留することがある。また、その浸出液は、硫酸等の酸によってニッケルやコバルトを浸出させて得られた酸溶液である。そこで、得られた浸出液の一部を、浸出処理に添加する酸溶液として繰り返し用いることで、浸出液中に残留する銅を2価の銅イオン源とすることができ、新たに添加する銅の添加量を低減することができる。
【0054】
(2価の銅イオンの添加後の酸化還元電位の制御について)
本実施の形態に係る方法では、上述したように2価の銅イオンを添加して浸出処理を行うが、このとき、反応溶液の酸化還元電位(ORP)を銀/塩化銀電極を参照電極とする値で50mV以上に制御し維持しながら、浸出処理を行うことが好ましい。
【0055】
この合金の処理方法は、ニッケル及び/又はコバルトを選択的に浸出させて、銅と分離した溶液を効率的に得ることを目的としている。したがって、反応溶液中に含まれる必要以上の銅は硫化銅として沈殿させ、ニッケルやコバルトと分離する必要がある。硫化銅を生成させるために、上述したように、硫黄等の硫化剤を添加して共存させた状態で浸出反応を行っているが、その硫化剤量が不足すると銅を沈殿分離できず、一方で、過剰に硫化剤が存在すると、添加した銅(2価の銅イオン)を完全に硫化してしまい、ニッケルやコバルトの浸出促進の作用が十分に発揮されなくなる。
【0056】
そこで、好ましくは、反応溶液のORPを特定の範囲に制御し維持しながら浸出処理を施すようにする。これにより、添加した2価の銅イオンによる浸出促進の効果を最大限に発揮させつつ、得られる浸出液中に過剰に銅が残存することを防止して、ニッケル及び/又はコバルトを選択的に含有する溶液を得るようにする。
【0057】
具体的には、反応溶液のORP(参照電極:銀/塩化銀電極)を50mV以上に制御し維持しながら浸出処理を施す。また、より好ましくは、ORPを100mV以上に維持しながら浸出処理を施す。なお、浸出処理においてORPが50mV未満に低下すると、添加した2価の銅イオンと硫黄等の硫化剤との反応(下記反応式[5])が進行し、その銅イオンが硫化銅として固定されて、浸出促進の効果が十分に得られない可能性がある。
2Cu2++S ⇒ 2CuS ・・・[5]
【0058】
ORPを制御する方法としては、特に限定されないが、浸出処理において酸溶液と共に添加する硫化剤の添加制御によって行うこともできる。硫化剤の添加制御とは、添加量の制御だけではなく、所定量の硫化剤の添加タイミングの制御も含む。例えば、所定量の硫化剤を一括添加するのではなく、段階的に添加(所定量を分割添加)することによって制御してもよい。このように、硫化剤の添加制御によってORPを制御することで、過剰な硫化反応が生じることを直接的に抑制でき、浸出促進の効果をより効果的に発揮させることができる。
【0059】
また、ORPを制御する方法としては、酸素、エアー、過酸化水素、オゾンガス等の酸化剤を添加する方法であってもよい。例えば、酸化剤として気体状(ガス状)のものを用いる場合、溶液内にバブリングし、その供給量(送気量)を調整することで、浸出処理で得られる浸出液のORPを制御することができる。具体的には、浸出液のORPが上昇し過ぎた場合には、酸化剤の供給量を減らし又は停止することにより、ORPを低下させることができる。逆に、浸出液のORPが下限付近に低下した場合には、酸化剤の供給量を増やすことにより、ORPを上昇させることができる。
【0060】
なお、ORPの上限値としては、特に限定されないが、300mV以下とすることが好ましく、280mV以下とすることがより好ましい。ORPの上限値をこのような範囲に設定して制御することで、析出した硫化銅が過剰に酸化されて再溶解することを抑制でき、銅と、ニッケル及び/又はコバルトとをより効果的に分離することができる。
【0061】
(合金について)
処理対象である合金について、その形状は特に限定されない。廃リチウムイオン電池を熔解して得られる合金を板状に鋳造した合金、合金粉等の粉状物などの種々の形状のものを用いることができる。中でも、処理対象の合金としては、粉末状の合金(合金粉)であることにより、効果的にかつ効率的に浸出処理を施すことができる。
【0062】
粉末状の合金を用いる場合には、その粒径が概ね300μm以下であることが好ましい。このような粒径の合金を処理対象とすることで、より効果的に浸出処理を施すことができる。一方、合金の粒径が小さすぎると、その調製にコストがかかる上に、発塵又は発火の原因にもなる。そのため、合金の粒径は、概ね10μm以上であることが好ましい。
【0063】
浸出処理においては、処理対象である合金に対して予め薄い酸で予備洗浄を行うことが好ましい。これにより、合金の表面に活性処理を施すことができ、浸出反応を促進させることができる。
【0064】
なお、処理対象物という観点において、後述するセメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返し(図1中の破線矢印(R))、合金と共にその脱銅残渣に対しても酸による浸出処理を施すようにしてもよい。セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て繰り返される脱銅残渣には、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金がごく一部残存している。したがって、その脱銅残渣の少なくとも一部又は全部を、浸出工程S1での浸出処理に供することで、ニッケル及び/コバルトをより高い濃度で含有する溶液を効率的に得ることができる。
【0065】
(酸について)
浸出処理に用いる酸(酸溶液)としては、硫酸、塩酸、硝酸等の酸を用いることができる。その中でも、合金としてリチウムイオン電池(LIB)の廃電池(廃LIB)を熔解して得られたものを用い、その廃LIBをリサイクルして再びLIB原料に供する理想的な循環方法である所謂「バッテリー トゥ バッテリー」を実現するプロセスとする場合には、酸として硫酸を含むものを用いることが好ましい。酸として硫酸を用いることで、LIBの正極材に利用し易い硫酸塩の形態で浸出液を得ることができる。
【0066】
なお、酸としては、1種を単独で用いてもよく、あるいは複数種を混合して用いてもよい。また、硫酸中に塩化物を含有させてこれを酸として用いてもよい。
【0067】
酸の添加量は、特に限定されないが、処理対象である合金及び脱銅残渣に含まれるニッケル及び/又はコバルトの合計量に対して、1当量以上であることが好ましく、1.2当量以上であることがより好ましい。酸の添加量を増やすことで反応速度を大きくすることができ、より効率的な処理を施すことができる。なお、酸の添加量の上限値としては、11当量以下とすることが好ましい。
【0068】
また、浸出処理においては、合金と酸とをシックナーのような混合部を複数段連結させた装置に供給して、その合金と酸とを向流で段階的に接触させるようにしてもよい。例えば、合金をその装置の最上段の混合部に供給し、酸を装置の最下段の混合部に供給し、それらを向流で段階的に接触させる。
【0069】
(硫化剤について)
酸と共に添加して合金に共存させる硫化剤としては、水硫化ナトリウムや単体硫黄等の一般に知られたものを用いることができる。例えば、固体の硫化剤である場合、反応が進み易いように適度に粉砕することが好ましい。なお、浸出工程S1での浸出処理に用いる硫化剤と、後述するセメンテーション工程S2での脱銅処理に用いる硫化剤とは、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0070】
硫化剤の量に関して、その1当量は、上記の反応式[1]に従って定義することができる。そしてそのとき、硫化剤の量としては、1当量以上2当量以下であることが好ましい。硫化剤の量が1当量未満では、銅の除去が不完全となる可能性がある。一方で、2当量を超える量を添加しても未反応の硫化剤が残ることでニッケルやコバルトのような溶液として分離すべき成分までも硫化物となり未回収となる懸念がある。
【0071】
なお、上述したように、浸出処理においては、反応溶液のORPを50mV以上に制御し維持しながら処理を施すことが好ましいが、このときのORP制御は、硫化剤の添加制御によって行うこともできる。したがって、硫化剤の量に関しては、反応溶液のORPが50mV以上となるようにその添加を制御することが好ましい。
【0072】
(処理条件について)
浸出処理では、得られる浸出液のpHや液温等を測定し、その測定値を監視して制御することが好ましい。
【0073】
浸出処理によってニッケルやコバルトのメタルが酸に溶解するのに伴い、酸が消耗されるに従ってpHが上昇していく。そのため、pH条件として、有価金属の浸出反応が促進される範囲に適切に制御しながら処理を行うことが好ましい。
【0074】
具体的に、pH条件については、特に限定されないが、得られる浸出液のpHが0.8以上1.6以下の範囲となるように制御して処理することが好ましい。これらのような範囲で浸出処理を施すことで、浸出が促進されるとともに、析出した硫化銅が過剰に酸化されて再溶解する事態をより効果的に抑制することができる。
【0075】
pHの制御は、酸の添加量を調整することで行うことができる。反応終点までの酸の添加量の目安としては、合金に含まれるニッケル及び/又はコバルトの合計量に対して1.2当量程度であることが好ましい。
【0076】
また、浸出処理においては、反応温度や処理時間、合金を含むスラリーの濃度等の条件について、予備試験を行って適切な範囲を定めることが好ましい。また、浸出処理では、均一な反応が進行するように、エアー等で浸出液をバブリングしてもよい。さらに、浸出処理では、2価の銅イオンを添加してもよく、これにより2価の銅イオンが触媒となって浸出反応を促進させることができる。
【0077】
[セメンテーション工程]
セメンテーション工程(「脱銅工程」又は「還元工程」とも称する)S2では、浸出工程S1での処理で得られた浸出液に対して、還元剤と、硫化剤とを添加して、少なくともその浸出液に含まれる銅を硫化する(下記反応式[6])脱銅処理(セメンテーション処理)を施し、ニッケル及び/又はコバルトを含む脱銅後液(セメンテーション後液)と、硫化銅を含む脱銅残渣(セメンテーション残渣)とを得る。
CuSO+Ni-Cu+2S ⇒ NiSO+2CuS ・・・[6]
【0078】
浸出工程S1における浸出処理では、ニッケル及び/又はコバルトと共に、合金及び脱銅残渣に含まれる銅が酸により浸出して溶液中に溶解して、硫化剤と反応せずにその一部が溶液中に残存することがある。また、特に、本実施の形態に係る方法では、2価の銅イオン源を添加して、反応溶液中の銅濃度を所定の範囲に維持しながら浸出処理を施すようにしている。
【0079】
そこで、セメンテーション工程S2を設け、得られた浸出液に含まれる銅を硫化(還元)することによって、銅を硫化銅の形態の沈殿物とした脱銅残渣を生成させて選択的に分離し、ニッケル及び/又はコバルトを含む脱銅後液(還元液)、すなわち銅を含有しない溶液を得る。
【0080】
還元剤としては、特に限定されず、固体又は液体の還元剤を用いることができる。例えば、固体の還元剤としては、銅よりも卑な金属を用いることができる。その中でも、ニッケル及び/又はコバルトを含む合金を用い、浸出液とその還元剤である合金とを接触させて銅を還元することが好ましい。
【0081】
また、還元剤としてのニッケル及び/又はコバルトを含む合金は、浸出処理の処理対象と同様に、リチウムイオン電池の廃電池(廃リチウムイオン電池)を熔解して得られた合金を用いることができる。そもそも、この合金の処理方法は、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得るものであることから、その回収対象であるニッケル及び/又はコバルトを含んだ合金(例えば廃リチウムイオン電池を熔解して得られる合金)を還元剤として用いることで、還元に寄与した部分の合金を浸出させる効果も生じる。
【0082】
すなわち、セメンテーション工程S2での脱銅処理の対象である浸出液は、浸出工程S1にて硫酸等の酸により浸出処理を施して得られた酸溶液である。したがって、還元剤として、ニッケル及び/又はコバルトを含んだ合金を用いることで、その合金は、浸出液に含まれる銅を固定化するための還元剤として作用する一方で、酸溶液であるその浸出液によって浸出され、合金を構成するニッケル及び/又はコバルトを脱銅後液(還元液)中に溶解させることができる。
【0083】
このように、合金を還元剤として利用することで、還元剤を別途用意する必要がなく工業的にも有利である。また、ニッケル及び/又はコバルトの溶解量を増やすこともでき、ニッケル及び/又はコバルトがより高濃度に含まれる溶液を得ることができる。なお、合金の形状は、特に限定されない。
【0084】
還元剤として添加する合金の量(添加量)は、特に限定されないが、浸出液に含まれる銅を硫化して硫化銅として沈殿させるのに要する当量の1.0倍以上2.0倍以下の範囲の量とすることが好ましい。なお、ここでの「当量」は、上記の反応式[5]で示す反応に従って定義できる。還元剤の添加量が当量の1倍未満では、銅を完全には除去できない可能性があり、一方で、当量の2倍を超えて添加しても、未反応のまま脱銅残渣として残ってしまい、後述するように得られた脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返したときの負荷が増加し、その結果。浸出液の銅濃度が上昇する悪循環となる可能性がある。
【0085】
硫化剤としては、浸出処理で用いたものと同様に、水硫化ナトリウムや単体硫黄等の一般に知られたものを用いることができる。硫化物は、固体であっても、液体であっても、あるいは気体(ガス状)であってもよい。
【0086】
硫化剤の量(添加量)は、浸出工程S1で添加する硫化剤との通算で設定すればよく、浸出液と、還元剤として添加する合金に含まれる銅を硫化銅として固定するのに必要な当量とすることができる。
【0087】
脱銅処理においては、酸化還元電位(ORP)やpHを監視し、適宜、還元剤の添加量を制御して処理することが好ましい。例えば、脱銅処理により得られる脱銅後液のpHが、浸出液と同じく1.6以下を維持するように処理することが好ましい。また、脱銅処理において、銅が除去された終点の目安については、ORPを測定することで管理できる。例えば、ORPが、銀/塩化銀電極を参照電極とする値で0mV以下となる点を終点の目安とすることができる。
【0088】
また、脱銅処理においては、液温が50℃以上となるように制御して処理することが好ましい。
【0089】
上述したような脱銅処理を施すことによって、ニッケル及び/又はコバルトを含む脱銅後液と、硫化銅を含む脱銅残渣とを含むスラリーを得ることができ、それを固液分離することで、銅を分離した脱銅後液、すなわちニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を回収することができる。回収した脱銅後液については、例えば脱鉄工程(酸化中和工程)等に供することで、鉄等の不純物を除去して精製することができる。
【0090】
一方で、固液分離することで得られた脱銅残渣には、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金がごく一部残存している。脱銅残渣に残存する合金は、例えば、セメンテーション工程S2での脱銅処理で還元剤として添加した合金(ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金)に由来する。あるいは、浸出処理に供した処理原料であって浸出処理において未反応の合金に由来する。そこで、脱銅処理を経て得られた脱銅残渣の少なくとも一部又は全部を、浸出工程S1に繰り返すようにし(図1中の破線矢印(R))、新規の処理原料である合金と共に浸出処理に供するようにしてもよい。これにより、より効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができる。
【実施例
【0091】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]
(浸出工程)
廃リチウムイオン電池(廃LIB)を酸化雰囲気下で加熱する酸化焙焼を行い、その後、得られた酸化焙焼物に還元剤を添加して加熱熔融して還元する乾式処理を行った。還元熔融して得られた熔融状態の合金を凝固させ、粒径300μm以下の粉状粉(合金粉)を得た。得られた合金粉を処理対象の合金(ニッケル及びコバルトと銅とを含む合金)として用いた。下記表1に、ICP分析装置を用いて分析した合金粉の組成を示す。
【0093】
【表1】
【0094】
上記表1に組成を示す合金粉を、スラリー濃度100g/Lのスラリーとし、合金粉に含まれる銅に対して1.25当量となる量の硫黄を添加して共存させ、硫酸溶液を添加して浸出処理を行った。このとき、反応溶液中の銅濃度が5g/Lとなるように硫酸銅(II)(2価の銅イオン源)を添加した。
【0095】
液温は60℃とした。また、浸出反応の終了は目視で判定した。なお、浸出は6時間で終了した。浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0096】
下記表2に、浸出液中の各元素の濃度を示す。元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)ともに98%であった。また、短時間で効率的にニッケル及びコバルトを浸出させることができた。これは、2価の銅イオン(硫酸銅)を添加して浸出処理を行ったことにより、その銅が浸出反応の触媒として作用したためであると考えられる。
【0097】
【表2】
【0098】
なお、浸出処理において2価の銅イオンを添加したため、得られた浸出液には銅イオンが残留した。ただし、残留した銅イオンについては、硫化剤を添加して脱銅処理を行うことで硫化銅として分離除去できると推察された。また、電解採取等の公知の方法を用いることによっても、容易に分離除去でき、ニッケル及びコバルトを主体とする浸出液を得ることができると推察された。
【0099】
[比較例1]
比較例1では、2価の銅イオン源を添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で浸出処理を行った。
【0100】
浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0101】
下記表3に、浸出液中の各元素の濃度を示す。元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)ともに97%であった。また、浸出反応が終了するまでに11時間もの長時間を要した。
【0102】
【表3】
【0103】
このように、比較例1の結果も踏まえ、2価の銅イオン源を添加して浸出処理を施す実施例1の方法によれば、ニッケルやコバルトの浸出を促進させ、処理時間を大幅に短縮できることがわかった。
【0104】
[実施例2]
実施例1で用いたものと同じ上記表1に組成を示す合金粉を、スラリー濃度100g/Lのスラリーとし、所定量の硫黄(硫化剤)を添加して共存させ、硫酸溶液を添加して浸出処理を行った。このとき、反応溶液中の銅濃度が5g/Lとなるように硫酸銅(II)(2価の銅イオン源)を添加した。
【0105】
また、硫化剤である硫黄の添加は、処理開始時と処理開始から20分経過後の2回に分け、それぞれ所定量の半分ずつを乳鉢で粉砕した粉状の形で添加し、この硫化剤である硫黄の添加によって反応溶液の酸化還元電位(ORP,参照電極:銀/塩化銀電極)を50mV以上に制御し維持した。
【0106】
液温は60℃とした。また、浸出反応の終了は目視で判定した。なお、浸出は6時間で終了した。浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0107】
下記表4に、浸出液中の各元素の濃度を示す。また、図2は、実施例1における浸出反応の反応時間に対する反応溶液のORPの推移を示すグラフである。
【0108】
元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)ともに98%であった。また、短時間で効率的にニッケル及びコバルトを浸出させることができた。これは、2価の銅イオン(硫酸銅)を添加するとともに、反応溶液のORPを50mV以上に維持しながら浸出処理を行ったことにより、その銅が浸出反応の触媒として有効に作用したためであると考えられる。
【0109】
【表4】
【0110】
なお、実施例1と同様に、浸出処理において2価の銅イオンを添加したため、得られた浸出液には銅が残量した。ところが、残留した銅量は0.1g/L程度であり、実施例1と比べて大きく減少した。この結果から、2価の銅イオンを添加するとともに、反応溶液のORPが50mV以上となるようにして浸出処理を施すことで、得られる浸出液中に残留する銅量も有効に低減できることがわかった。
【0111】
[参考例1]
参考例1では、実施例2で用いたものと同じ上記表1に組成を示す合金粉を用いて、スラリー濃度200g/Lのスラリーとし、硫黄(硫化剤)を添加して共存させ、硫酸溶液を添加して浸出処理を行った。
【0112】
このとき、反応溶液中の銅濃度が5g/Lとなるように硫酸銅(II)(2価の銅イオン源)を添加したものの、硫化剤である硫黄の添加は、所定量を処理開始時に一括して行った。そのため、反応溶液の酸化還元電位(ORP,参照電極:銀/塩化銀電極)は、反応開始時に-150mVまで急速に添加した。
【0113】
浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0114】
下記表5に、浸出液中の各元素の濃度を示す。また、図3は、参考例1における浸出反応の反応時間に対する反応溶液のORPの推移を示すグラフである。
【0115】
元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)が97%、コバルト(Co)が96%であったものの、浸出反応が終了するまでに11時間もの長時間を要した。このことは、硫化剤である硫黄を反応初期に一括添加したことによって、その硫黄と2価の銅イオンが急速に反応し、反応溶液中に2価の銅イオンが存在し得なくなったために、浸出促進の効果が得られなかったことによると考えられる。また、ORPが50mVを下回った際に硫黄と2価の銅イオンが直接反応し、合金表面に難溶性の硫化銅の被膜が生成したことも要因の一つと考えられる。
【0116】
【表5】
【0117】
このように、参考例1の結果も踏まえ、2価の銅イオン源を添加するとともに、反応溶液のORPを50mV以上に維持しながら浸出処理を施す実施例2の方法によれば、ニッケルやコバルトの浸出を促進させ、処理時間を短縮できることがわかった。
図1
図2
図3