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特許7420241複合粒子、負極材およびリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】複合粒子、負極材およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240116BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240116BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240116BHJP
   C01B 33/027 20060101ALI20240116BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20240116BHJP
   C01B 32/956 20170101ALI20240116BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240116BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240116BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 E
C01B33/027
C01B32/20
C01B32/956
H01M4/485
H01M4/48
H01M4/36 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022526679
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2021020499
(87)【国際公開番号】W WO2021241750
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020093159
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021005093
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 彬史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩文
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131862(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131861(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/019994(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/587
H01M 4/36
C01B 33/027
C01B 32/20
C01B 32/956
H01M 4/485
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素とシリコンを含む複合粒子(A)と、
その表面を被覆する非晶質層とからなる複合粒子(B)であって、
前記複合粒子(B)のラマンスペクトルにおいて、
シリコンによるピークが450~495cm-1に存在し、そのピークの強度をISiとし、Gバンドの強度(1600cm-1付近のピーク強度)をIG、Dバンドの強度(1360cm-1付近のピーク強度)をIDとすると、
Si/IGが0.10以上、0.65以下であり、
R値(ID/IG)が1.00以上、1.30以下であり、
前記複合粒子(B)のCu-Kα線を用いたXRDパターンにおいて、
Siの111面のピークの半値幅が3.0deg.以上である、複合粒子(B)。
【請求項2】
前記複合粒子(B)のCu-Kα線を用いたXRDパターンにおいて、
(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)が0.004以下である、請求項1に記載の複合粒子(B)。
【請求項3】
複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層が金属酸化物および炭素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む層である請求項1または2に記載の複合粒子(B)。
【請求項4】
複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層における金属酸化物が、Al,Ti,V,Cr,Hf,Fe,Co,Mn,Ni,Y,Zr,Mo,Nb,La,Ce,Ta,Wの酸化物およびLi含有酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む請求項3に記載の複合粒子(B)。
【請求項5】
金属元素の含有率が0.1質量%以上、10.0質量%以下である、請求項4に記載の複合粒子(B)。
【請求項6】
複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層における金属酸化物がチタン酸リチウム(Li4Ti512)であって、複合粒子(B)中のチタンの含有率が0.1質量%以上、10.0質量%以下である、請求項3に記載の複合粒子(B)。
【請求項7】
複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層における金属酸化物が五酸化ニオブ(Nb25)または酸素欠損型の酸化ニオブ(Nb2x、x=4.5~4.9)であって、複合粒子(B)中のニオブの含有率が0.1質量%以上、20.0質量%以下である、請求項3に記載の複合粒子(B)。
【請求項8】
複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層が炭素のみを含む、請求項3に記載の複合粒子(B)。
【請求項9】
前記複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層の厚みが0.1nm以上、30nm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の複合粒子(B)。
【請求項10】
複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層の被覆率が50%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の複合粒子(B)。
【請求項11】
複合粒子(B)における酸素含有率が10質量%以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の複合粒子(B)。
【請求項12】
複合粒子(B)におけるシリコンの含有率が20質量%以上、70質量%以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の複合粒子(B)。
【請求項13】
複合粒子(B)のDv50が1.0μm以上30.0μm以下であり、BET比表面積が0.3m2/g以上10.0m2/g以下である請求項1~12のいずれか1項に記載の複合粒子(B)。
【請求項14】
複合粒子(B)の空気雰囲気における熱分析において発熱ピークが400℃~800℃に2つ存在すること、700±10℃に発熱ピークを有さないことの少なくともいずれかを満たす請求項1~13のいずれか1項に記載の複合粒子(B)。
【請求項15】
複合粒子(B)の表面に平均粒径100nm以下の金属酸化物粒子が付着している請求項1~14のいずれか1項に記載の複合粒子(B)。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の複合粒子(B)の製造において、物理気相成長法(PVD)によって前記複合粒子(A)の表面を非晶質層で被覆する、複合粒子(B)の製造方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の複合粒子(B)の製造において、原子層堆積法(ALD)によって前記複合粒子(A)の表面を金属酸化物層で被覆する、複合粒子(B)の製造方法。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか1項に記載の複合粒子(B)を含む負極材。
【請求項19】
請求項18に記載の負極材を含む負極合剤層。
【請求項20】
請求項19に記載の負極合剤層を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その粒子の製造方法、負極材、負極合剤層ならびにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレットPCなどのIT機器、掃除機、電動工具、電気自転車、ドローン、自動車に使用される二次電池には、高容量および高出力を兼ね備えた負極活物質が必要とされる。負極活物質として、現在使用されている黒鉛(理論比容量:372mAh/g)よりも高い理論比容量を有するシリコン(理論比容量:4200mAh/g)が注目されている。
【0003】
しかし、シリコン(Si)は電気化学的なリチウム挿入・脱離に伴って、最大で約3~4倍まで体積が膨張・収縮する。これによりシリコン粒子が自壊したり、電極から剥離したりするため、シリコンを用いたリチウムイオン二次電池はサイクル特性が著しく低いことが知られている。このため、シリコンを単に黒鉛から置き換えて使うのではなく、負極材全体として膨張・収縮の程度を低減させた構造にして用いることが、現在盛んに研究されている。中でも炭素質材料との複合化が多く試みられている。
【0004】
高容量かつ長寿命な負極材としては、高温でシランガスに多孔質炭素粒子を曝露することによって、多孔質炭素の細孔内にケイ素を生成させる方法(特表2018-534720;特許文献1)によって得られた、シリコン-カーボン(Si-C)複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-534720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された、Si-C複合材料に炭素質層を被覆した材料を負極材に用いた場合、本発明者らの検討によると、低温でSi-C複合材料を炭素質層で被覆した場合には、Si-C複合材料の炭素被覆率が低く、時間の経過とともにSi-C複合材料が酸化してしまい、負極材の比容量は低下した。また高温でSi-C複合材料を炭素質層で被覆した場合には、炭化ケイ素(SiC)の生成により、比容量の低い負極材が得られてしまった。本発明では、低温での被覆による、Si-C複合材料の経時酸化抑制が可能な複合粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、SiCの生成を抑え、良質な被覆層を得るために、低温での被覆についての検討を行った。その結果、特定の非晶質層によって被覆されたSi-C複合粒子は、Si-C複合粒子の経時的な酸化を抑制でき、またSiCが生成していないために同材料の比容量が高くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の構成は以下に示される。
[1]炭素とシリコンを含む複合粒子(A)と、
その表面を被覆する非晶質層とからなる複合粒子(B)であって、
前記複合粒子(B)のラマンスペクトルにおいて、
シリコンによるピークが450~495cm-1に存在し、そのピークの強度をISiとし、Gバンドの強度(1600cm-1付近のピーク強度)をIG、Dバンドの強度(1360cm-1付近のピーク強度)をIDとすると、
Si/IGが0.10以上、0.65以下であり、
R値(ID/IG)が1.00以上、1.30以下であり、
前記複合粒子(B)のCu-Kα線を用いたXRDパターンにおいて、
Siの111面のピークの半値幅が3.0deg.以上である、複合粒子(B)。
[2]前記複合粒子(B)のCu-Kα線を用いたXRDパターンにおいて、
(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)が0.004以下である、[1]の複合粒子(B)。
[3]複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層が金属酸化物および炭素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む層である[1]または[2]の複合粒子(B)。
[4]複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層における金属酸化物が、Al,Ti,V,Cr,Hf,Fe,Co,Mn,Ni,Y,Zr,Mo,Nb,La,Ce,Ta,Wの酸化物およびLi含有酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む[3]の複合粒子(B)。
[5]金属元素の含有率が0.1質量%以上、10.0質量%以下である、[4]に記載の複合粒子(B)。
[6]複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層における金属酸化物がチタン酸リチウム(Li4Ti512)であって、複合粒子(B)中のチタンの含有率が0.1質量%以上、10.0質量%以下である、[3]の複合粒子(B)。
[7]複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層における金属酸化物が五酸化ニオブ(Nb25)または酸素欠損型の酸化ニオブ(Nb2x、x=4.5~4.9)であって、複合粒子(B)中のニオブの含有率が0.1質量%以上、20.0質量%以下である、[3]の複合粒子(B)。
[8]複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層が炭素のみを含む、[3]に記載の複合粒子(B)。
[9]前記複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層の厚みが0.1nm以上、30nm以下である、[1]~[8]の複合粒子(B)。
[10]複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層の被覆率が50%以上である、[1]~[9]の複合粒子(B)。
[11]複合粒子(B)における酸素含有率が10質量%以下である、[1]~[10]の複合粒子(B)。
[12]複合粒子(B)におけるシリコンの含有率が20質量%以上、70質量%以下である、[1]~[11]の複合粒子(B)。
[13]複合粒子(B)のDv50が1.0μm以上30.0μm以下であり、BET比表面積が0.3m2/g以上10.0m2/g以下である[1]~[12]の複合粒子(B)。
[14]複合粒子(B)の空気雰囲気における熱分析において発熱ピークが400℃~800℃に2つ存在すること、700±10℃に発熱ピークを有さないことの少なくともいずれかを満たす、[1]~[13]の複合粒子(B)。
[15]複合粒子(B)の表面に平均粒径100nm以下の金属酸化物粒子が付着している、[1]~[14]の複合粒子(B)。
[16][1]~[15]の複合粒子(B)の製造において、物理気相成長法(PVD)によって前記複合粒子(A)の表面を非晶質層で被覆する、複合粒子(B)の製造方法。
[17][1]~[15]の複合粒子(B)の製造において、原子層堆積法(ALD)によって前記複合粒子(A)の表面を金属酸化物層で被覆する、複合粒子(B)の製造方法。
[18][1]~[15]の複合粒子(B)を含む負極材。
[19][18]の負極材を含む負極合剤層。
[20][19]の負極合剤層を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合粒子(B)によれば、Siの利用率が高いために高い比容量を維持でき、また耐酸化性に優れたリチウムイオン二次電池用の負極材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1-5の複合粒子の端部TEM写真を示す。
図2】実施例1-1の複合粒子のラマンスペクトルを示す。
図3】実施例1-8の複合粒子のラマンスペクトルを示す。
図4】比較例1-3の複合粒子のラマンスペクトルを示す。
図5】実施例1-1の複合粒子のXRDパターンを示す。
図6】実施例1-2の複合粒子のXRDパターンを示す。
図7】比較例1-1の複合粒子のXRDパターンを示す。
図8】実施例1-1の複合粒子のSEM写真を示す。
図9】比較例1-1の複合粒子のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<1>複合粒子(B)
一実施形態の複合粒子(B)は、炭素とシリコンを含む複合粒子(A)と、
その表面を被覆する非晶質層からなる複合粒子(B)であって、
前記複合粒子(B)のラマンスペクトルにおいて、
シリコンによるピークが450~495cm-1に存在し、そのピークの強度をISiとし、Gバンドの強度(1600cm-1付近のピーク強度)をIG、Dバンドの強度(1360cm-1付近のピーク強度)をIDとすると、
Si/IGが0.10以上、0.65以下であり、
R値(ID/IG)が1.00以上、1.30未満であり、
前記複合粒子(B)のCu-Kα線を用いたXRDパターンにおいて、
Siの111面のピークの半値幅が3.0deg.以上である。
【0012】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、炭素材料およびシリコンを含む複合粒子(A)の表面に非晶質層が存在している。
複合粒子(A)は、炭素材料の表面および細孔内に、シリコン(Si)が析出した複合粒子であることが好ましい。複合粒子(A)は、例えばシラン(SiH4)等のケイ素源を用いた化学気相成長(CVD)法により、通常は多孔質炭素にアモルファスのシリコンを析出させることにより得ることができる。
【0013】
前記複合粒子(A)の表面に非晶質層を形成することにより、複合粒子(A)中のシリコンの、空気中の酸素による酸化を防止することができる。
非晶質層は、金属酸化物、炭素、リン酸、ポリリン酸(重合度が3以上)およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、これらを組み合わせた複層であっても良く、また一層に2種類以上が混在していてもよい。非晶質層は、金属酸化物および炭素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。金属酸化物としては、Al,Ti,V,Cr,Hf,Fe,Co,Mn,Ni,Y,Zr,Mo,Nb,La,Ce,Ta,Wの酸化物およびLi含有酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが望ましく、特にチタン酸リチウム(Li4Ti512)、五酸化ニオブ(Nb25)および酸素欠損型の酸化ニオブ(Nb2Ox、x=4.5~4.9)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。金属酸化物層はアモルファスが好ましい。非晶質層がこのような物質を含むことにより、複合粒子(B)に含まれるシリコンの、空気中の酸素による酸化をより防止することができる。加えて、Siと電解液との副反応を抑制する効果がある。
【0014】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、そのラマンスペクトルにおいて、シリコン(Si)によるピークが450~495cm-1に存在する。この範囲にシリコンによるピークがあることは、複合粒子(B)がアモルファスのシリコンを含んでいることを意味する。シリコンがアモルファスであると、充放電時の膨張・収縮が等方的に行われるので、サイクル特性を向上させることができる。
【0015】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、前記シリコンによるピークの強度ISiと、Gバンドの強度(1600cm-1付近のピーク強度)IGの比であるISi/IGが0.10以上である。ISi/IGが0.10以上であることにより、シリコンは複合粒子(B)内部の表面付近に十分な濃度で存在していると本発明者らは考えている。このため、このような複合粒子(B)を負極材に用いたリチウムイオン二次電池はレート特性、初回クーロン効率に優れる。この観点から、ISi/IGは、0.11以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.30以上が更に好ましい。
【0016】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、前記ISi/IGが0.65以下である。ISi/IGが0.65以下であることにより、シリコンは複合粒子(B)内部の表面付近に過剰には存在していないと本発明者らは考えている。したがって、複合粒子(B)へのリチウム挿入・脱離時の膨張・収縮の応力は、複合粒子(B)の表面付近に集中することがない。このような複合粒子(B)を負極材に用いたリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れる。この観点から、ISi/IGは、0.50以下が好ましく、0.33以下がより好ましい。
【0017】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、そのラマンスペクトルにおけるDバンドの強度(1360cm-1付近のピーク強度)IDとGバンドの強度IGの比であるR値(ID/IG)が、1.00以上である。R値が1.00以上であると、複合粒子(B)の内部に含まれる炭素材料の結晶構造は十分な量の欠陥を含むため、複合粒子(A)に対し密着性のある非晶質層を形成でき、また、途中で割れて途切れることのない、連続的な非晶質層を形成することができる。このことはリチウムイオン二次電池における初回クーロン効率の改善につながる。この観点から、R値は1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましい。
【0018】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、前記R値が1.30以下である。R値が1.30未満であることは、炭素材料の結晶構造に欠陥が多すぎないことを意味する。これにより副反応が低減されるため、電池の内部抵抗が下がり、レート特性が向上する。この観点から、R値は1.25以下であることが好ましく、1.20以下であることがより好ましい。
【0019】
ここで、ピークの強度とは、ベースラインからピークトップまでの高さのことである。
一実施形態に係る複合粒子(B)は、Cu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターン(横軸:2θ、縦軸:Intensity)において、Siの111面のピークの半値幅が3.0deg.以上である。Siの111面のピークの半値幅が3.0deg.以上であると、結晶子が小さいため、充放電に伴うシリコンの割れの抑制につながる。このことはリチウムイオン二次電池における初回クーロン効率、およびクーロン効率の改善につながる。同様の観点から、前記半値幅は、3.5deg.以上であることが好ましく、4.0deg.以上であることがより好ましい。 また、前記半値幅は、10.0deg.以下であることが好ましく、8.0deg.以下であることがより好ましく、6.0deg.以下であることがさらに好ましい。
【0020】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、Cu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターンにおいて、(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)が0.004以下であることが好ましい。上記の比が0.004以下であることにより、複合粒子(B)中にはSiC(炭化ケイ素)が含まれていない、あるいはSiCの含有量が極めて低いことになる。これにより、シリコンの電池活物質としての利用率が向上する。なお、前記(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)を、ISiC111/ISi111とも表記する。
【0021】
SiC111/ISi111の下限は0.000である。すなわち、SiCのピークが観察されないことがより好ましい。なお、SiCの111面のピーク強度とは、XRDパターンにおいて、SiCの111面に由来する、2θで35deg.付近に現れるピークの、ベースラインからピークトップまでの高さを指す。またSiの111面のピーク強度とは、Siの111面に由来する、2θで28deg.付近に現れるピークの、ベースラインからピークトップまでの高さを指す。
【0022】
非晶質層が金属酸化物の場合、複合粒子(B)中の金属元素の含有率は0.1質量%以上であることが好ましい。0.1質量%以上であることにより、空気中の酸素による酸化を十分に防ぐことができる。この観点から、金属元素の含有率は0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
複合粒子(B)中の金属元素の含有率は10.0質量%以下であることが好ましい。金属元素の含有率が10.0質量以下であることにより、複合粒子(B)の表面の電子伝導は十分迅速に行える。この観点から、前記金属元素の含有率は9.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
なお、本明細書における複合粒子(B)中の金属元素およびシリコンの含有率については、複合粒子(B)からこれらの元素を溶出した後に、ICP-AESによって測定することができる。
【0025】
非晶質層がチタン酸リチウム(Li4Ti512)を含む場合、複合粒子(B)中のチタン(チタン換算)の含有率は0.1質量%以上であることが好ましい。0.1質量%以上であることにより、空気中の酸素による酸化を十分に防ぐことができる。この観点から、前記チタンの含有率は0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
複合粒子(B)中のチタンの含有率は、10.0質量%以下であることが好ましい。10.0質量%以下であることにより、複合粒子(B)表面の電子伝導は十分迅速に行える。この観点から、前記チタンの含有率は、9.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましい。複合粒子(B)中のチタンの含有率は、複合粒子(B)からチタンを溶出した後に、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)によって測定することができる。
【0027】
非晶質層が五酸化ニオブ(Nb25)または酸素欠損型の酸化ニオブ(Nb2x、x=4.5~4.9)を含む場合、複合粒子(B)中のニオブ(ニオブ換算)の含有率は0.1質量%以上であることが好ましい。0.1質量%以上であることにより、空気中の酸素による酸化を十分に防ぐことができる。この観点から、前記ニオブの含有率は0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
また、複合粒子(B)中のニオブの含有率は20.0質量%以下であることが好ましい。ニオブの含有率が20.0質量以下であることにより、複合粒子(B)の表面の電子伝導は十分迅速に行える。この観点から、前記ニオブの含有率は15.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
なお、本明細書における複合粒子(B)中のニオブおよびシリコンの含有率については、チタンと同様に、複合粒子(B)からこれらの元素を溶出した後に、ICP-AESによって測定することができる。
【0030】
一実施形態に係る複合粒子(B)の、非晶質層における炭素とは、黒鉛のような六角網面を持たない炭素である。このような炭素は、例えばスパッタリング法のような、物理気相成長法によって得られる。ただし、六角網面のサイズが0.3~0.4nm程度の非常に小さい黒鉛の結晶からなる炭素であってもよい。このような炭素は、例えば有機物の熱分解や、炭化水素ガスのCVDによって得ることができる。
【0031】
非晶質は炭素のみからなっていてもよい。ここで、「炭素のみ」とは、非晶質層の成分が炭素のみであり、他に金属酸化物やリン酸、ポリリン酸(重合度が3以上)およびそれらの塩、を含まないことを指す。
【0032】
TEM-EDXを用いて、複合粒子(B)の断面のうち、被覆層の部分を観察および分析することにより、その結晶格子の模様や組成を調べることができるので、被覆層が非晶質の炭素からなることを確認することができる。なお、複合粒子(B)の断面のうち、複合粒子(A)と被覆層は、結晶格子の模様の違いから識別することができる。
【0033】
リン酸、ポリリン酸(重合度が3以上)およびそれらの塩とは、例えば無水リン酸P25、ポリリン酸H(n+2)n(3n+1)、リン酸ランタンLaPO3、トリポリリン酸ナトリウムNa5310、トリポリリン酸ランタンLa5(P3103、テトラポリリン酸ナトリウムNa6413のような化合物が挙げられる。リン酸H3PO4で複合粒子(A)をコーティングし、これを熱処理したり、上記リン酸塩の水溶液を複合粒子(A)にコーティングし、乾燥させたりすることによって得ることができる。
【0034】
一実施形態では、前記複合粒子(B)の蛍光X線分析(XRF)による、シリコンの含有量に対するリンの含有量の比が0.05以上、1.00以下であることが望ましい。
一実施形態に係る複合粒子(B)における前記非晶質層の厚みは0.1nm以上であることが好ましい。0.1nm以上であることにより、空気中の酸素による酸化を十分に抑制できる。この観点から、前記非晶質層の厚みは0.3nm以上であることがより好ましく、0.4nm以上であることがさらに好ましい。
【0035】
一実施形態に係る複合粒子(B)における前記非晶質層の厚みは30.0nm以下であることが好ましい。30.0nm以下であることにより、複合粒子(B)表面の電子伝導は十分迅速に行える。この観点から、前記非晶質層の厚みは20.0nm以下であることがより好ましく、10.0nm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本明細書における非晶質層の厚みは、複合粒子(B)の断面若しくは端部のTEM像から計測することができる。非晶質層が金属酸化物、リン酸、ポリリン酸(重合度が3以上)およびその塩から選ばれる1種以上からなる場合、複合粒子(B)中の非晶質層の濃度と密度、複合粒子(B)の比表面積から計算で求めることも可能である。
【0037】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、非晶質層による複合粒子(A)の被覆率が50%以上であることが好ましい。被覆率が50%以上であることにより、空気中の酸素による酸化を十分防ぐことができる。この観点から、前記被覆率は60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
非晶質層による複合粒子(A)の被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による複合粒子(B)の像を画像処理ソフトで二値化することで、被覆層と複合粒子(A)を色分けし、被覆層の面積を画像処理で求め、それの、複合粒子(B)全体の面積に対する割合から求めることができる。SEM像の二値化および面積の計測、被覆率の算出のための画像処理ソフトとしては、Photoshop(Adobe製)が挙げられるが、同様の処理が行えればこれに限られない。また、SEMの組成分析像を画像解析することで求めてもよい。

一実施形態に係る複合粒子(B)中の酸素(酸素換算)の含有率は20.0質量%以下であることが好ましい。前記酸素含有率が20.0質量%以下であることにより、複合粒子(B)の比容量を十分に大きく確保できる。この観点から、複合粒子(B)中の酸素含有率は10.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
前記酸素含有率は、例えば、酸素窒素同時測定装置によって測定することができる。
一実施形態に係る複合粒子(B)は、真密度が1.80g/cm3以上であることが好ましい。これにより、高いエネルギー密度が得られる。この観点から、複合粒子(B)の真密度は、1.90g/cm3以上が好ましく、2.00g/cm3以上がより好ましい。真密度は、ピクノメーター法によって測定することができる。
【0040】
複合粒子(A)の表面を被覆する非晶質層が金属酸化物層の場合、その厚みは、4.0nm以下であることが特に好ましい。4.0nm以下であることにより、複合粒子(B)の表面は電子伝導性を十分に有する。
【0041】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、非晶質層が金属酸化物層の場合、複合粒子(A)の被覆率が95%以上であることが特に好ましく、97%以上であることが最も好ましい。被覆率が95%以上であることにより、空気中の酸素による酸化を十分防ぎ、電解液との副反応を抑制することができる。前記被覆率の上限は100%である。
【0042】
複合粒子(B)や複合粒子(A)や炭素材料の細孔分布を調べるには、例えばガス吸着法による吸脱着等温線を公知の方法で解析する。一実施形態では吸着ガスとして窒素を用いた。
【0043】
さらに一実施形態に係る複合粒子(B)は、シリコンの含有率が20質量%以上であることが好ましい。シリコンの含有率が20質量%以上であることにより、計算上は比容量が840mA/g以上の複合粒子(B)が得られる。この観点から、前記シリコンの含有率は30質量%以上がより好ましく、35質量%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
一実施形態に係る複合粒子(B)は、シリコンの含有率が70質量%以下であることが好ましい。シリコンの含有率が70質量%以下であることにより、複合粒子(B)には、充放電に伴うシリコンの膨張・収縮を吸収できる部分が十分に存在する。この観点から、前記シリコンの含有率は60質量%以下がより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の一実施形態に係る複合粒子(B)のBET比表面積は、10.0m2/g以下が好ましい。BET比表面積が10.0m2/g以下であると、電解液との副反応が抑制され、初回クーロン効率が高くなる。同様の観点から、BET比表面積は7.0m2/g以下がより好ましく、5.0m2/g以下がさらに好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態に係る複合粒子(B)のBET比表面積は、0.3m2/g以上が好ましい。BET比表面積が0.3m2/g以上であると、Liイオンの脱挿入時の抵抗が小さくなる。同様の観点から、BET比表面積は0.5m2/g以上がより好ましく、1.0m2/g以上がさらに好ましい。BET比表面積は後述するBET比表面積測定装置によって測定できる。
【0047】
本発明の一実施形態に係る複合粒子(B)の体積基準累積粒度分布を測定による50%粒子径Dv50は、30.0μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。30.0μm以下であると、複合粒子のハンドリング性が向上するほか、複合粒子をリチウムイオン二次電池の負極材として用いた場合に複合材料の表面積が大きい状態で維持でき、複合材料をリチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合にLiイオンの脱挿入時の抵抗が小さくなるため入出力特性が高くできる。
【0048】
本発明の一実施形態に係る複合粒子(B)の体積基準累積粒度分布を測定による50%粒子径Dv50は、1.0μm以上が好ましく、4.0μm以上がより好ましく、7.0μm以上がさらに好ましい。D50を1.0μm以上とすることにより、複合粒子(B)のハンドリング性が向上するほか、複合粒子(B)をリチウムイオン二次電池の負極材として用いた場合に負極層中の複合粒子(B)の分散性が高くなりサイクル特性が良好となる。
【0049】
v50はレーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の累積粒径分布において50%となる粒子径である。
本発明の一実施形態に係る複合粒子(B)は非晶質層が金属酸化物層の場合、熱分析(TG-DTA)において雰囲気Air 100ml/min, 昇温速度10℃/min条件下でDTAから判断される発熱ピークが400℃~800℃に2つ以下であること、700℃±10℃に発熱ピークを有さないことの少なくともいずれかを満たすことが好ましい。これは空気中の酸素による酸化抑制効果を表すものである。同様の観点から、両方を満たすことがより好ましい。
【0050】
被覆する非晶質層は粒子および薄膜どちらでもよいが、粒子の場合、粒子同士が、独立ではなく、結合し連なり、面を形成していることが望ましい。面を形成することで空気中の酸素による酸化を防ぎ、電解液との副反応を抑制する効果が高まる。
【0051】
本発明の他の一実施形態にかかる複合粒子は、非晶質層の表面に平均粒径100nm以下の金属酸化物粒子が付着してなることが好ましい。この構造によれば、固体電解質と親和性の高い金属酸化物粒子が複合材料の表面に存在することで、電解液との接触面積が増え抵抗が低くなりレート特性が向上する。
【0052】
この構造は透過型電子顕微鏡(SEM)やラマン分光分析によるマッピング像で確認することができる。
<2>複合粒子(B)の製造方法
一実施形態に係る複合粒子(B)は、下記工程(1)~工程(2)により、製造することができる。
【0053】
工程(1):炭素とシリコンを含む複合粒子(A)を製造する工程。
工程(2):複合粒子(A)の表面に、非晶質層を設ける工程。
工程(1)
工程(1)は、炭素とシリコンを含む複合粒子(A)を製造する工程である。
【0054】
炭素には多孔質炭素を用いることが好ましい。本明細書において、「多孔質炭素」とは、BET比表面積が200m2/g以上の炭素のことである。多孔質炭素としては、微細なシリコンをその細孔内部に析出させることができ、リチウムの挿入・脱離に伴い、中のシリコンが膨張・収縮しても、細孔の構造を保とうとする応力が働いたり、シリコンが占有していない空間が存在して、それがつぶれたりすることにより、負極材全体として膨張・収縮の程度を小さくできるものが好ましい。多孔質炭素の具体的な例としては、活性炭や、樹脂や有機物を熱分解することにより得られる炭素、カーボンモレキュラーシーブ、活性炭素繊維、気相法炭素繊維の凝集体やカーボンナノチューブの凝集体、無機テンプレートカーボンが挙げられる。
【0055】
炭素材料の細孔分布を調べるには、例えばガス吸着法による吸脱着等温線を公知の方法で解析する。一実施形態では吸着ガスとして、窒素を用いた。
炭素材料は、例えば特定の細孔分布を持った市販されているものを使ってもよいが、例えば細孔分布の変化を上記の方法で調べながら、樹脂を合成する条件や、樹脂を熱分解する条件を調整して、所望の細孔分布を持つ多孔質炭素を製造してもよい。
【0056】
炭素材料にシリコン含有ガス、好ましくはシランガスを作用させて、炭素材料の細孔内および表面にシリコンを析出させ、複合粒子(A)を得ることができる。具体的には、シラン(SiH4)等のケイ素源を用いた化学気相成長(CVD)法により、炭素材料に通常はアモルファスのシリコンを析出させる。
【0057】
工程(2)
工程(2)は、工程(1)で得られた複合粒子(A)の表面に非晶質層を形成し、複合粒子(B)を得る工程である。表面に非晶質層を形成する方法は、公知の表面処理方法から適宜選択する事ができる。非晶質層の前駆体を複合粒子(A)に湿式にてコートし、溶媒を除去した後に、熱処理する湿式法でもよいし、スパッタリング法などの物理気相成長法(PVD)や原子層堆積法(ALD)のような乾式方法でもよい。複数の方法を組み合わせてもよい。基材到達推定温度(処理温度)は500℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。500℃以下であると複合粒子(A)に含まれる炭素やシリコンの結晶構造や表面構造を変性させることが無いため好ましい。成膜処理時間はスパッタリング法などの物理気相成長法(PVD)や原子層堆積法(ALD)のような乾式方法の場合、3.00nm/h以下が好ましく、2.00以下がさらに好ましい。3.00nm/h以下であると成膜処理が穏やかであり複合粒子の表面を荒らすことが無いため、非晶質層と密着性の高い複合粒子(B)を得ることができる。
【0058】
(工程(2) 第1の形態)
第1の形態は、複合粒子(A)の表面に物理気相成長法(PVD)によって非晶質層を形成し、複合粒子(B)を得る工程である。
【0059】
物理気相成長法(PVD)としては、スパッタリング法を用いることが好ましい。粒子上へのスパッタリング法は公知の方法を用いることができる。
複合粒子(A)の表面に形成する非晶質層は、金属酸化物、炭素、リン酸、ポリリン酸(重合度が3以上)およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、金属酸化物および炭素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。金属酸化物は、Al,Ti,V,Cr,Hf,Fe,Co,Mn,Ni,Y,Zr,Mo,Nb,La,Ce,Ta,Wの酸化物およびLi含有酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが望ましく、特にチタン酸リチウム(Li4Ti512)、五酸化ニオブ(Nb25)および酸素欠損型の酸化ニオブ(Nb2x、x=4.5~4.9)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましく、炭素はダイヤモンドライクカーボンを含むことがより好ましい。これらはスパッタリング法において、これらの材料のターゲットを用いることで、複合粒子(A)の表面に成膜することができる。
【0060】
(工程(2) 第2の形態)
第2の形態は、複合粒子(A)の表面に原子層堆積法(ALD)によって非晶質層を形成し、複合粒子(B)を得る工程である。原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD法)は、複数の低エネルギーガスの支持体表面に対する化学吸着および化学反応を利用する方法である。複合粒子(A)へのALD法は公知の方法を用いることができる。
【0061】
複合粒子(A)の表面に形成される非晶質層は、特に限定されないが、Al,Ti,V,Cr,Hf,Fe,Co,Mn,Ni,Y,Zr,Mo,Nb,La,Ce,Ta,Wの酸化物およびLi含有酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが望ましく、特に五酸化ニオブ(Nb25)、チタン酸リチウム(Li4Ti512)のいずれかであることが好ましい。これらはALD法において、これらの材料の前駆体を用いることで、複合粒子(A)の表面に金属酸化物層を形成することができる。前駆体としては、例えば、ニオブ、チタン、リチウムを金属種とし、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等を有機配位子とした化合物が挙げられる。
【0062】
(工程(2) 第3の形態)
第3の形態は、複合粒子(A)の表面に、非晶質層を構成する前駆体または微粒子を含むコート液を塗工する湿式法によって非晶質層を形成し、複合粒子(B)を得る工程である。塗工方法としては特に制限なく、浸漬法やスプレー法などをあげることができる。たとえば、複合粒子(A)を転動回転しながら、コート液をスプレー噴霧しながら、混合したのち、混合物を加熱処理することで、複合粒子(B)を製造することができる。
【0063】
<3>負極材
一実施形態に係る複合粒子(B)は、非水系二次電池用等の負極材として用いることができる。中でも、リチウムイオン二次電池用の負極材として好適に用いることができる。一実施形態において「負極材」とは、負極活物質、または、負極活物質とその他の材料との複合化物を指す。
【0064】
負極材として、一実施形態の複合粒子(B)を単独で使用してもよいが、他の負極材を一緒に用いてもよい。他の負極材としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として一般的に用いられる活物質を用いることができる。他の負極材を用いる場合には、通常は複合粒子(B)と、他の負極材とを混合して用いる。
【0065】
他の負極材としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、チタン酸リチウム(Li4Ti512)、シリコン、スズなどの合金系活物質およびその複合材料等が挙げられる。これらの負極材は通常粒子状のものが用いられる。複合粒子(B)以外の負極材は、一種を用いても、二種以上を用いてもよい。その中でも特に黒鉛やハードカーボンが好ましく用いられる。後述する一実施形態の負極合剤層は、複合粒子(B)および黒鉛粒子を含む形態が、好適形態の一つである。
【0066】
負極材が、複合粒子(B)と、他の負極材から形成されている場合には、負極材100質量%あたり、複合粒子(B)を好ましくは2~99質量%、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは20~80質量%、特に好ましくは30~70質量%含む。
【0067】
<4>負極合剤層
一実施形態に係る負極合剤層は、前述の負極材を含む。一実施形態の負極合剤層は、非水系二次電池用、特に、リチウムイオン二次電池用の負極合剤層として用いることができる。負極合剤層は一般に、負極材、バインダー、任意成分としての導電助剤とからなる。
【0068】
負極合剤層の製造方法は、例えば以下に示すような公知の方法を用いることができる。
(1)負極材、バインダー、任意成分としての導電助剤および、溶媒を用い、負極合剤層形成用のスラリーを調製する。
(2)スラリーを銅箔などの集電体に塗工し、乾燥させる。
(3)これをさらに真空乾燥させたのち、ロールプレスし、その後必要な形状および大きさに裁断し、あるいは打ち抜く。
【0069】
ロールプレスの際の圧力は通常は100~500MPaである。得られたものを負極シートと呼ぶことがある。負極シートは、プレスにより得られ、負極合剤層と集電体とからなる。電極密度(負極合剤層密度)は特に制限はないが、0.7g/cm3以上が好ましく、1.8g/cm3以下が好ましい。
【0070】
バインダーとしては、リチウムイオン二次電池の負極合剤層において一般的に用いられるバインダーであれば自由に選択して用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。バインダーは一種を単独で用いても、二種以上を用いてもよい。バインダーの量は、負極材100質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部である。
【0071】
導電助剤は、電極に対し導電性や寸法安定性(リチウムの挿入・脱離における体積変化に対する緩衝作用)を付与する役目を果たすものであれば特に限定されない。例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相成長法炭素繊維(例えば、「VGCF(登録商標)-H」昭和電工株式会社製)、導電性カーボンブラック(例えば、「デンカブラック(登録商標)」デンカ株式会社製、「SUPER C65」イメリス・グラファイト&カーボン社製、「SUPER C45」イメリス・グラファイト&カーボン社製)、導電性黒鉛(例えば、「KS6L」イメリス・グラファイト&カーボン社製、「SFG6L」イメリス・グラファイト&カーボン社製)などが挙げられる。また、前記導電助剤を2種類以上用いることもできる。導電助剤の量は、負極材100質量部に対して、好ましくは1~30質量部である。
【0072】
電極塗工用のスラリーを調製する際の溶媒としては、特に制限はない。N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール、水などが挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することも好ましい。溶媒の量はペーストが集電体に塗工しやすい粘度となるように調整される。
【0073】
<5>リチウムイオン二次電池
一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、前記負極合剤層を含む。前記リチウムイオン二次電池は、通常は前記負極合剤層および集電体からなる負極と、正極合剤層および集電体からなる正極、その間に存在する非水系電解液および非水系ポリマー電解質の少なくとも一方、並びにセパレータ、そしてこれらを収容する電池ケースを含む。前記リチウムイオン二次電池は、前記負極合剤層を含んでいればよく、それ以外の構成としては、従来公知の構成を含め、特に制限なく採用することができる。
【0074】
正極合剤層は通常、正極材、導電助剤、バインダーからなる。前記リチウムイオン二次電池における正極は、通常のリチウムイオン二次電池における一般的な構成を用いることができる。
【0075】
正極材としては、電気化学的なリチウム挿入・脱離が可逆的に行えて、これらの反応の標準酸化還元電位が、負極反応の標準酸化還元電位よりも充分に高い材料であれば特に制限されない。例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiCo1/3Mn1/3Ni1/32、炭素被覆されたLiFePO4、またこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0076】
導電助剤、バインダー、スラリー調製用の溶媒としては、負極の項で挙げたものを用いることができる。集電体としては、アルミニウム箔が好適に用いられる。
リチウムイオン電池に用いられる非水系電解液および非水系ポリマー電解質は特に制限されない。非水系電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、CH3SO3Liなどのリチウム塩を、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトンなどの非水系溶媒に溶かしてなる有機電解液が挙げられる。
【0077】
非水系ポリマー電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビリニデン、およびポリメチルメタクリレートなどを含有するゲル状のポリマー電解質;エチレンオキシド結合を有するポリマーなどを含有する固体状のポリマー電解質が挙げられる。
【0078】
また、前記非水系電解液には、リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる添加剤を少量添加してもよい。該物質としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビフェニール、プロパンスルトン(PS)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルトン(ES)などが挙げられる。好ましくはVCおよびFECが挙げられる。添加量としては、前記非水系電解液100質量%に対して、0.01~20質量%が好ましい。
【0079】
セパレータとしては、一般的なリチウムイオン二次電池において用いることのできる物から、その組み合わせも含めて自由に選択することができ、ポリエチレンあるいはポリプロピレン製の微多孔フィルム等が挙げられる。またこのようなセパレータに、SiO2やAl23などの粒子をフィラーとして混ぜたもの、表面に付着させたセパレータも用いることができる。
【0080】
電池ケースとしては、正極および負極、そしてセパレータおよび電解液を収容できるものであれば、特に制限されない。通常市販されている電池パックや18650型の円筒型セル、コイン型セル等、業界において規格化されているもののほか、アルミ包材でパックされた形態のもの等、自由に設計して用いることができる。
【0081】
各電極は積層した上でパックして用いることができる。また、単セルを直列につなぎ、バッテリーやモジュールとして用いることができる。
一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、スマートフォン、タブレットPC、携帯情報端末などの電子機器の電源;電動工具、掃除機、電動自転車、ドローン、電気自動車などの電動機の電源;燃料電池、太陽光発電、風力発電などによって得られる電力の貯蔵などに用いることができる。
【実施例
【0082】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。物性値の測定および電池評価は下記のように行った。
以下の条件で、実施例、比較例で得た複合粒子(B)中のシリコン、チタン、ニオブ、アルミニウム、イットリウム、ハフニウム、セリウム、バナジウム、モリブデン、タングステンおよび炭素の含有率の比を測定した。
[シリコンおよびチタン、ニオブ、アルミニウム、イットリウム、ハフニウム、セリウム、バナジウム、モリブデン、タングステンの含有率]
ICP-AESによる定量分析で評価した。
【0083】
装置:Agilent 5110(Agilent technology)
白金ルツボに試料を10mg秤量し、炭酸カリウムナトリウムを1g加え、ガスバーナーで溶融処理した後、超純水で加熱浸解し、冷却後に30質量%過酸化水素水2mL、酒石酸アンモニウム10質量%水溶液5mL、(1+4)硫酸5mL加えて溶融物を完全に溶解させた。溶解液をPTFE製メスフラスコに洗い込み、過酸化水素水1mL、(1+4)硫酸2mL、Co標準液、Ga標準液、Rb標準液を添加後に250mLに定容した。定容後の溶液をICP-AESによって定量分析した。測定はn=2で実施した。
[炭素の含有率]
測定装置:HORIBA EMIA-920V
試料10~13mgをセラミックるつぼに秤量し、助燃剤(W粉、Sn粒)を加え、炭素硫黄分析装置(高周波加熱赤外線吸収法)で測定した。
[TEM写真の取得]
以下の条件で、実施例、比較例で得た複合粒子(B)のTEM写真を取得した。
・試料加工
イオンスライサーにより、加速電圧を4.5kVとして加工した。複合粒子(B)を樹脂に包埋し、Si補助材で挟み、イオンスライサーで薄片に加工した。
・TEM観察
透過型電子顕微鏡(TEM):日立製H9500、加速電圧300kV
複合粒子(B)の非晶質層の平均厚さは以下の方法で求めた。
(1)TEMで観察される複合粒子(B)の中から1つの粒子A1をランダムに抽出する。
(2)抽出された粒子A1において、非晶質層が形成されている部分をランダムに1箇所選び、選ばれた部分の非晶質層の厚さt1を測定する。厚さt1は、複合粒子(A)表面に垂直な線と複合粒子(A)との交点x1、およびこの垂直な線と非晶質層の外周との交点x2を求め、求めた交点x1とx2との間の距離を測定することにより求める。
(3)前記の(1)および(2)を50回繰り返す。すなわち、TEMで観察される複合粒子(B)の中からランダムに抽出される50個の粒子A1~A50において測定される非晶質層の厚さt1~t50を測定する。なお、ランダムに抽出される粒子A1~A50はいずれも互いに重複しない。
(4)得られた値t1~t50の算術平均値を非晶質層の平均厚さtとする。
【0084】
複合粒子(B)の表面に付着する金属酸化物粒子の平均粒子径は以下の方法で求めた。
複合粒子(B)をFIB加工にて断面出しをおこない、STEM/EELSにてマッピングを行うことにより複合粒子内における金属酸化物の一次粒子を識別した。
(1)STEM/EELSで観察される複合粒子の表面付近から金属酸化物の一次粒子が1つ以上観察される視野をランダムに抽出した。倍率は一次粒子が明確に認識できる倍率とする。
(2)抽出された視野において、各一次粒子をSTEM/EELSの測長モードを用いて一点で必ず交わるように60°に傾けながら6回測長しその平均粒子径を算出した。ランダムに抽出した50粒子に関して上記測定を行いその平均値を金属酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径とした。算出は他のソフトを用いても良く、また一次粒子が明確に判別できるコントラストが確保できれば二次電子像や透過像から求めても良い。

[ラマン分光法測定]
以下の条件で実施例、比較例で得た複合粒子(B)のラマン分光法測定を行った。
【0085】
顕微ラマン分光測定装置:株式会社堀場製 LabRAM HR Evolution
励起波長:532nm
露光時間:5秒
積算回数:2回
回折格子:300本/mm(600nm)
測定範囲:縦80μm×横100μm
ポイント数:縦送り17.8μm、横送り22.2μmで100ポイント評価
ピークの強度に関してはベースラインからピークトップの高さを強度とした。測定されたスペクトルから1360cm-1付近のピークの強度ID(非晶質成分由来)と1600cm-1付近のピークの強度IG(黒鉛成分由来)の比(ID/IG)を算出した。これをR値として、炭素材料に含まれる欠陥の量の指標とした。
【0086】
また、450~495cm-1に現れるアモルファスシリコン由来のピークの強度ISiと前記IGの比(ISi/IG)を算出し、これをシリコンの、複合粒子(B)内部のうち、表面に近い位置での偏在の指標とした。
[粉末XRD測定]
実施例、比較例で得た粒子をガラス製試料板(試料板窓18×20mm、深さ0.2mm)に充填し、以下のような条件で測定を行った。
【0087】
XRD装置:株式会社リガク製 SmartLab(登録商標)
X線源:Cu-Kα線
Kβ線除去方法:Niフィルター
X線出力:45kV、200mA
測定範囲:10.0~80.0deg.
スキャンスピード:10.0deg./min
得られたXRDパターンに対し、解析ソフト(PDXL2、株式会社リガク製)を用い、バックグラウンド除去、スムージングを行った後に、ピークフィットを行い、ピーク位置とピーク強度を求めた。得られたXRDスペクトルから、Siの111面のピークの半値幅、(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)を求めた(ISiC111/ISi111)。このとき、ベースラインからピークトップの高さをピーク強度とした。
[酸素含有率測定]
以下の条件で実施例、比較例で得た粒子の酸素含有率測定を行った。
酸素/窒素/水素分析装置:株式会社堀場製作所製 EMGA-920
キャリアガス:アルゴン
実施例、比較例で得た粒子約20mgをニッケルカプセルに秤量し酸素窒素同時分析装置(不活性ガス中で融解→赤外線吸収法)により測定した。
【0088】
なお、酸素含有率の測定は、複合粒子(B)を製造した直後および室温大気下に2か月経過保管後に行った。
[粒度分布測定]
実施例、比較例で得た粒子を極小型スパーテル1杯分、および非イオン性界面活性剤(SIRAYA ヤシの実洗剤ハイパワー)の原液(32質量%)を100倍希釈した液2滴を水15mLに添加し、3分間超音波分散させた。この分散液をセイシン企業社製レーザー回折式粒度分布測定器(LMS-2000e)に投入し、体積基準累積粒度分布を測定し、10%粒子径DV10、50%粒子径DV50、90%粒子径DV90を決定した。
[真密度]
真密度測定装置として、マイクロメリティックス社製アキュピックII1340を用い、所定のセルに3gのサンプルを入れピクノメーター法によって測定を行った。真密度測定用のガスにはヘリウムを用いた。
[被覆率]
被覆率はSEM像から得られる二値化像から算出した。白い領域が非晶質層となるように調整した。
【0089】
被覆率=白い領域の合計の面積/粒子全体の面積×100[%]
具体的な方法は以下の通りである。SEMにて粒子一粒全体が映るように調整し、画像を取得した。その際にオートコントラストを使用した。取得したSEM像をPhotoshop(Adobe製)で開き、「イメージ/モード/グレースケール」を選択した。次に「イメージ/色調補正/平均化(イコライズ)」を行った。さらに「イメージ/色調補正/2階調化」を選択し、しきい値を110にし実行した。「クイック選択ツール」を選択し、「自動調整」にチェックし、「硬さ」を100%、「間隔」を25%に設定し、「直径」は任意に調整した。粒子全体を選択し、「イメージ/解析/計測値を記録」を選択し面積を算出した。その後、白い領域(1つのドメインと認識されるもの)を選択し、同様に面積を測定した。複数の領域がある場合はすべての領域を一つずつ測定した。すべての白い領域の合計面積を算出した。ここで、1つのドメインと認識される寸法の下限は0.1μmとした。すなわち、縦、横、斜めいずれかの寸法が0.1μm以下であるものについては、ドメインとはみなさないこととした。このような測定をSEM像から得られる任意の50個の粒子に対して行い、その平均値を被覆率とした。
【0090】
なお、「クイック選択ツール」を選択する前に「イメージ/解析/計測スケールを設定/カスタム」を選択し、SEM像のスケールバーの値をピクセル換算しておいた。
[熱分析(TG-DTA)]
熱分析(TG-DTA)装置としてネッチ社製TG-DTA2000SEを用い、アルミナサンプルパンに13mgのサンプルを入れ、流量Air 100mL/min、昇温速度10℃/minにて25℃~800℃の重量増減及び吸発熱挙動の測定を行った。
【0091】
[BET比表面積]
BET比表面積測定装置としてカンタクローム(Quantachrome)社製NOVA2200eを用い、サンプルセル(9mm×135mm)に3gのサンプルを入れ、300℃、真空条件下で1時間乾燥後、測定を行った。BET比表面積測定用のガスはN2を用いた。

[負極シートの作製]
バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。
【0092】
具体的には、固形分比40質量%のSBRを分散したSBR水分散液、およびCMC粉末を溶解したCMC水溶液を得た。
混合導電助剤として、カーボンブラック(SUPER C 45(登録商標)、イメリス・グラファイト&カーボン社製)および気相法炭素繊維(VGCF(登録商標)-H、昭和電工株式会社製)を3:2の質量比で混合したものを調製した。
【0093】
後述の実施例および比較例で製造した複合粒子(B)を黒鉛粒子と混合させた負極材90質量部、混合導電助剤5質量部、CMC固形分2.5質量部となるようにCMC水溶液、SBR固形分2.5質量部となるようにSBR水分散液を混合し、これに粘度調整のための水を適量加え、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製)を用いて混練し、負極合剤層形成用スラリーを得た。
[負極材]
後述の実施例で得られた複合粒子(B)と比較例の複合粒子を11質量部と、黒鉛粒子を89質量部とを混合することにより、電池評価用の負極材を調製した。
【0094】
前記の負極合剤層形成用スラリーを厚み20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて厚さ150μmとなるよう均一に塗布し、ホットプレートで乾燥後、真空乾燥させて負極シートを得た。乾燥した負極シートを300MPaの圧力で一軸プレス機によりプレスして電池評価用負極シートを得た。得られた負極シートの厚みは、銅箔の厚みを含めて62μmであった。
[電極密度の測定]
プレス後の負極シート(集電体+負極合剤層)を直径16mmの円形状に打ち抜き、その質量と厚さを測定した。これらの値から、別途測定しておいた集電体(直径16mmの円形状)の質量と厚さを差し引いて負極合剤層の質量と厚さを求め、負極合剤層の質量と厚さ、および直径(16mm)から、単位面積当たりの負極合剤の質量、電極密度(負極合剤層密度)を算出した。電極密度は特に制限はないが、0.7g/cm3以上が好ましく、1.8g/cm3以下が好ましい。
【0095】
ポリプロピレン製のねじ込み式フタつきのセル(内径約18mm)内において、上記負極と16mmφに打ち抜いた金属リチウム箔をセパレータ(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム(セルガード2400))で挟み込んで積層し、電解液を加えて試験用セル(リチウム対極セル)とした。ここで、リチウム対極セルでは、上記負極を試料極、リチウム極を対極と呼ぶ。
【0096】
なお、リチウム対極セルにおける電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネートが体積比で3:5:2の割合で混合した溶媒にビニレンカーボネート(VC)を1質量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を10質量%混合し、さらにこれに電解質LiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解させて得られた液である。
[初回Li挿入/脱離比容量、初回クーロン効率の測定試験]
リチウム対極セルを用いて試験を行った。OCVから0.005Vまで電流値0.1CでCC(コンスタントカレント:定電流)放電を行った。次に0.005VでCV(コンスタントボルテージ:定電圧)放電に切り替え、カットオフ電流値0.005Cで放電を行った。このときの比容量を初回Li挿入比容量とする。上限電圧1.5VとしてCCモードで電流値0.1Cで充電を行った。このときの比容量を初回Li脱離比容量とする。
【0097】
試験は25℃に設定した恒温槽内で行った。この際、比容量とは容量を負極材の質量で除した値である。初回Li脱離比容量/初回Li挿入比容量を百分率で表した結果を初回クーロン効率とした。
[複合粒子(B)の初回Li脱離比容量の計算]
リチウム対極セルによる初回Li脱離容量の値、黒鉛粒子のLi脱離容量、および用いた複合粒子(B)の質量から、複合粒子(B)の初回Li脱離比容量を次式により求めた。
(複合粒子(B)の初回Li脱離比容量)=(初回Li脱離容量-黒鉛の初回Li脱離容量)/(試料極中の複合粒子(B)の質量)
黒鉛粒子の初回Li脱離比容量は、別途黒鉛粒子を試料極に用いたリチウム対極セルを作製し、その充放電測定によって調べた。
【0098】
なお、複合粒子(B)の初回Li脱離容量の測定は、複合粒子(B)を製造した直後および室温大気下に2か月経過保管後に行った。
[Si利用率の計算]
リチウム対極セルによる初回Li挿入比容量の値を、試料中のシリコン含有率で除した値を、シリコンのLi挿入比容量の理論値(4200mAh/g)で除して100倍することにより、Si利用率(%)を求めた。すなわち、次式の通りである。
【0099】
(Si利用率)=100×{(初回挿入比容量)/(シリコン含有率)}/4200(%)
以下に、負極材の原料(炭素材料、複合粒子(A)、複合粒子(B)、黒鉛粒子)について、調製方法および入手先、物性値を示す。
[炭素材料]
BET比表面積が1700m2/g、粒度DV50が9.2μmの市販活性炭を炭素材料として使用した。
[黒鉛粒子]
BET比表面積=2.7m2/g、DV10=7μm、DV50=14μm、DV90=27μm、タップ密度=0.98g/cc、比容量372mAh/g、初回クーロン効率92%の市販の人造黒鉛粒子を使用した。
[複合粒子(A)]
炭素材料に対して、窒素ガスと混合された1.3体積%のシランガス流を有する管炉で設定温度450℃、圧力760torr、流量100sccm、8時間処理して炭素材料の表面および内部にシリコンを析出させ、複合粒子(A)を得た。この複合粒子(A)は、DV50が9.2μm、BET比表面積が2.1m2/g、シリコン含有量は43質量%であった。
[複合材料(B)]
[実施例1-1~1-22、比較例1-3、1-5]
各実施例および各比較例において、表1-1に示す化合物を表1-1に示す割合で、バレルスパッタ装置(PVD:株式会社豊島製作所製)または原子層堆積流動床(ALD:Delft IMP社製)に複合粒子(A)を投入し、表1-1に示す条件で複合粒子(A)表面に各材料を成膜することで複合粒子(B)を得た。複合粒子(B)の物性および電池評価の結果を表1-1~表1-3に示す。
[実施例1-23]
バレルスパッタ装置(PVD:株式会社豊島製作所製)に複合粒子(A)投入し、表1に示す条件で複合粒子(A)表面にダイヤモンドライクカーボンを用いて80℃で製膜し、引き続きNb25を用いて380℃で製膜することで複合粒子(B)を得た。複合粒子(B)の物性および電池評価の結果を表1-3に示す。
[実施例1-24]
複合粒子(A)を転動流動コーティング装置(MP-01_mini、株式会社パウレック製)に600gを投入し、80℃、空気1vol%に調整した窒素雰囲気でコート溶液をスプレーしながら混合を行った。得られた混合物を窒素雰囲気下で380℃にて電気式管状炉にて下記条件で熱処理を行い、複合粒子(B)を得た。複合粒子(B)の物性および電池評価の結果を表1-1~表1-3に示す。
●コート溶液
・ペンタエトキシニオブ(高純度化学製) 13.5g
・脱水エタノール(関東化学製) 76.5g
露点-60℃で作製したのち、1カ月静置させ、100nm以下の微粒子をあらかじめ発生させる。
●転動流動コーティング装置の運転条件
・ローター:標準
・フィルター:FPM
・メッシュ:800M
・ノズル形式:NPX-II
・ノズル口径:1.2mm
・ノズル位置:接線
・ノズル数:1
・ローター回転速度:400rpm
・スプレーエアー圧:0.17(MPa)
・払い落し圧:0.2(MPa)
・フィルター払落し時間/インターバル:4.0/0.3(sec/sec)
・スプレー速度:2g/cc
● 熱処理(電気式管状炉)
・最高温度保持時間:1時間、
・昇温速度:150℃/h、
・降温速度:150℃/h。
[比較例1-1]
複合粒子(A)をそのまま複合粒子(B)として用いた。物性および電池評価の結果を表1-1~表1-3に示す。
[比較例1-2]
複合粒子(A)に化学気相成長法(CVD)を行い、表面に非晶質層を形成した。原料ガスにはプロパンを用い、1050℃で熱分解することにより、複合粒子(A)の表面に非晶質の炭素を成膜し複合粒子(B)を得た。複合粒子(B)の物性および電池評価の結果を表1-1~表1-3に示す。
[比較例1-4]
複合粒子(A)100質量部とポリビニルアルコール(PVA)3質量部とを混合し、200℃の熱を加えながら30分間混練した。その後、窒素雰囲気下焼成炉において300℃の熱処理を10分間行い、複合粒子(B)を得た。複合粒子(B)の物性および電池評価の結果を表1-1~表1-3に示す。
【0100】
以上の条件や結果を表1にまとめて示す。
また、実施例1-5の複合粒子(B)の端部のTEM写真を、図1に示す。図1において、符号Aは非晶質層を示す。
【0101】
実施例1-1のラマンスペクトルを図2に示す。
実施例1-8および比較例1-3のラマンスペクトルを、それぞれ図3および4に示す。実施例1-1、1-2および比較例1-1の解析ソフトによる処理前のXRDパターンを、それぞれ図5~7に示す。
【0102】
実施例1-1および比較例1-1のSEM像を図8および図9に示す。
【0103】
【表1-1】
【0104】
【表1-2】
【0105】
【表1-3】
【0106】
(実施例1-3,比較例1-2、1-4の非晶質層成分はカーボンであるが、含有率の測定は複合粒子(A)の重量と区別がつかないのでデータなし)
表1から、次のことが考えられた。
【0107】
実施例および比較例の結果から、ラマンスペクトルのR値、ISi/IGの値が所定の範囲にある複合粒子(B)は調製直後も、2か月保存後も、初回クーロン効率が高いということが分かる。
【0108】
実施例1-1~1-4により、非晶質層の材質がNb2x、LTO、C、Nb25のとき、また、物性値が表1のように本発明の所定の範囲を満足するものは、複合粒子(B)の自然酸化を防止でき、良好と考えられる電池特性が得られることが分かる。
【0109】
実施例1-5~1-8の結果から、ALDによる金属酸化物層でも、複合粒子(B)の酸化を防止でき、良好と考えられる電池特性が得られることが分かる。
また、実施例1-9~1-22の結果から、金属酸化物として明細書記載のAl,V,Hf,Y,Mo,Ce,Wの酸化物およびLi含有酸化物を用いることで、実施例1-1~1-8と同様にラマンスペクトルのR値、ISi/IGの値が所定の範囲にある複合粒子(B)を調製でき、同様に複合粒子(B)の自然酸化を防止でき、良好と考えられる電池特性が得られることが分かる。
【0110】
実施例1-23の結果から、Nb2xとカーボンを併用しても、実施例1-1~1-8と同様にラマンスペクトルのR値、ISi/IGの値が所定の範囲にある複合粒子(B)を調製でき、同様に複合粒子(B)の自然酸化を防止でき、良好と考えられる電池特性が得られることが分かる。さらに、実施例1-24の結果から、湿式でコートした金属酸化物層でも、実施例1-1~1-23と同様に複合粒子(B)の酸化を防止でき、良好と考えられる電池特性が得られることが分かる。
【0111】
比較例1-1では、非晶質層が存在しないため、酸化を防止できていないことが分かる。
比較例1-2では、ラマンスペクトルのR値とISi/IGが小さいことからカーボンコート層が厚く付いた結果シリコン利用率が低下し容量が低下したことが分かる。また、Siの111面のピークの半値幅も小さいことから、高温での熱処理によりシリコンの結晶性が高くなり初回クーロン効率が低下したことが分かる。
【0112】
比較例1-3では、非晶質層の厚みが厚くラマンスペクトルのR値とISi/IGが小さいことからシリコン利用率が低下し容量が低下したことが分かる。また、酸素含有率も高いことから、シリコンの酸化が進みやすく2ヵ月保存後に組んだ電池の初回クーロン効率(%)も低下した。
【0113】
比較例1-4では固相法によりPVAで表面をコーティングしているが、非晶質層が厚く付いた結果ISi/IGが小さいことから、結果シリコン利用率が低下し容量が低下したことが分かる。
【0114】
比較例1-5においては成膜処理時間を長くした結果R値が高くなり、炭素材料の欠陥が多すぎるため非晶質層との密着性が低下した結果、2ヵ月保存後に組んだ電池の初回クーロン効率(%)も低下したと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9