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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】複合粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/16 20060101AFI20240116BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240116BHJP
   C08F 251/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C08J3/16 CER
C08J3/16 CEZ
C08F2/44 C
C08F251/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019027816
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020132759
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】林 佑美
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 秀次
(72)【発明者】
【氏名】加来 悠人
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006872(JP,A)
【文献】特開2010-180309(JP,A)
【文献】特開2010-090398(JP,A)
【文献】特許第5186694(JP,B2)
【文献】国際公開第2020/170995(WO,A1)
【文献】特開2016-153470(JP,A)
【文献】藤澤秀次 ほか2名,ナノセルロースで包んだ高分子マイクロ粒子の合成,セルロース学会第24 回年次大会 講演要旨集,(2017),pp.17-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00、
C08F2/00-2/60、
C08C19/00-19/44、C08F6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチンおよび/またはキトサン原料を溶媒中で解繊して微細化キチン分散液を得る第1工程と、
前記分散液中においてモノマー液および/またはポリマー液を含む液滴表面を前記微細化キチンで被覆し、エマルションとして安定化させる第2工程と、
前記液滴を固体化して前記微細化キチンでポリマーが被覆された複合粒子を得る第3工程と、を具備し、
前記第2工程が、前記微細化キチン分散液に重合性モノマー液を添加しエマルション化させる工程であり、
第記3工程が、前記重合性モノマーを重合することにより前記液滴を固体化して複合粒子を得る工程であり、
前記第2工程において、前記微細化キチンが100質量部に対して前記重合性モノマーが1質量部以上50質量部以下である、
複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程が、前記微細化キチン分散液への相溶性が低い溶媒にポリマーを溶解した溶解ポリマーを前記微細化キチン分散液に添加しエマルション化させる工程である、
請求項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程が、前記微細化キチン分散液に常温にて固体であるポリマーを融点以上に加熱し融解させた溶融ポリマーを添加しエマルション化させる工程である、
請求項に記載の複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細化キチン/コア粒子を含む複合粒子および当該複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物は生合成過程でセルロースやキチンなどの高結晶性のナノファイバーを生産している。セルロースやキチンなどの高結晶性のナノファイバーは、地球上で最も多量に生物生産されているナノファイバーである。これらのナノファイバーは、生体の維持に不可欠な構造多糖であり、高強度を発現する。
【0003】
キチンナノファイバー(微細化キチン)は、カニ殻等から採取したキチン/キトサンを極細繊維に粉砕したナノファイバーである。キチンナノファイバーは、循環型資源であり、抗菌性や生分解性を有しており、食品や化粧品への添加、フィルムなどの補強繊維、農業資源への利用、医療用途への利用などが期待される。
【0004】
しかし、キチン/キトサンは強い水素結合で互いに密に結合しているため、キチン/キトサンから完全に一本一本のナノファイバーを調製することは容易ではない。特許文献1に記載されたキチンナノファイバーとその製造方法によれば、簡便な工程で、一本一本に分離されたキチンナノファイバーを含む分散液を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-180309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたキチンナノファイバーとその製造方法によれば、一本一本に分離されたキチンナノファイバーを含む分散液を得ることができるが、単純に熱乾燥などでキチンナノファイバーを含む分散液の溶媒を除去してしまうと、極細繊維同士が凝集・角質化し、あるいは膜化してしまう。さらにキチンナノファイバーの固形分濃度が低いため、乾燥による溶媒除去工程自体に多大なエネルギーがかかってしまうことも事業性を損なう一因となる。
【0007】
このように、キチンナノファイバーを分散液の状態で取り扱うこと自体が事業性を損なう原因となりうるため、キチンナノファイバーを容易に取り扱うことができる新たな取り扱い様態を提供することが強く望まれている。
【0008】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、キチンナノファイバーの特性を維持しつつ、取り扱いが容易なキチンナノファイバーの新たな取り扱い態様を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係る複合粒子は、少なくとも1種類のポリマーを含むコア粒子を含み、前記コア粒子の表面に微細化キチンにより構成された微細化キチン層を有する複合粒子であり、前記コア粒子と前記微細化キチンとが結合して不可分の状態であり、前記微細化キチン層は、微細化キチンが均一な厚みで被覆されている。
【0010】
本発明の第二の態様に係る複合粒子の製造方法は、キチンおよび/またはキトサン原料を溶媒中で解繊して微細化キチン分散液を得る第1工程と、前記分散液中においてモノマー液および/またはポリマー液を含む液滴表面を前記微細化キチンで被覆し、エマルションとして安定化させる第2工程と、前記液滴を固体化して前記微細化キチンでポリマーが被覆された複合粒子を得る第3工程と、を具備し、前記第2工程が、前記微細化キチン分散液に重合性モノマー液を添加しエマルション化させる工程であり、第記3工程が、前記重合性モノマーを重合することにより前記液滴を固体化して複合粒子を得る工程であり、前記第2工程において、前記微細化キチンが100質量部に対して前記重合性モノマーが1質量部以上50質量部以下である
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合粒子の一態様によれば、キチンナノファイバー(微細化キチン)の特性を維持しつつ、取り扱いが容易な新たな取り扱い態様を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る複合粒子の概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る微細化キチンを用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部のモノマーを重合して固体化する複合粒子の製造方法の概略図である。
図3】本発明の実施形態に係る微細化キチンを用いたO/W型ピッカリングエマルション内部の有機溶媒を除去して溶解ポリマーを固体化する複合粒子の製造方法の概略図である。
図4】本発明の実施形態に係る微細化キチンを用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の溶融ポリマーを固体化する複合粒子の製造方法の概略図である。
図5】タラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料から作製した複合粒子の光学顕微鏡写真である。
図6】ヤリイカの軟甲を1cm程度に砕いた原料から作製した複合粒子の光学顕微鏡写真である。
図7】微細化キチン分散液の光線透過率の測定結果を示すグラフである。
図8】複合粒子の電子顕微鏡観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
<複合粒子5>
まず、本発明の一実施形態に係る微細化キチン及び樹脂粒子の複合粒子5について説明する。尚、樹脂のことをポリマーともいう。図1は微細化キチン1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2(以下、単に「液滴2」とも称する)を固体化することで得られる複合粒子5の概略図である。
【0015】
複合粒子5は、少なくとも一種類の樹脂(ポリマー)を有するコア粒子3を含み、コア粒子3の表面に、微細化キチン1により構成された微細化キチン層10を有し、コア粒子3と微細化キチン1とが結合して不可分の状態にある複合粒子である。
【0016】
複合粒子5の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、重合性モノマーから、重合過程で粒子形成を行う重合造粒法(乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、放射線重合法等)、微小液滴化したポリマー溶液から粒子形成を行う分散造粒法(スプレードライ法、液中硬化法、溶媒蒸発法、相分離法、溶媒分散冷却法等)が挙げられる。製造方法の詳細は後述する。
例えば、親水性溶媒4に分散したコア粒子の液滴2の界面に微細化キチン1が吸着することによって、O/W型ピッカリングエマルションが安定化し、安定化状態を維持したままエマルション内部の液滴2を固体化することによって、エマルションを鋳型とした複合粒子5が作製することができる。
なお、重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2を固体化とは、(1)重合性モノマー液滴を重合すること、(2)ポリマー液滴を固体化すること、(3)重合性モノマー液滴およびポリマー液滴を固体化することを含む。
【0017】
ここで言う「不可分」とは、複合粒子5を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子5を精製・洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いたろ過洗浄によって繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、微細化キチン1とコア粒子3とが分離せず、微細化キチン1によるコア粒子3の被覆状態が保たれることを意味する。被覆状態の確認は走査型電子顕微鏡による複合粒子5の表面観察により確認することができる。複合粒子5において微細化キチン1とコア粒子3の結合メカニズムについては定かではないが、複合粒子5が微細化キチン1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作成されるため、エマルション内部の液滴2に微細化キチン1が接触した状態で液滴2の固体化が進むために、物理的に微細化キチン1が固体化する液滴2に固定化されて、最終的にコア粒子3と微細化キチン1とが不可分な状態に至ると推察される。
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
【0018】
また、複合粒子5は微細化キチン1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるため、複合粒子5の形状はO/W型エマルションに由来した真球状となることが特徴である。詳細には、真球状のコア粒子3の表面に微細化キチン1からなる微細化キチン層10が比較的均一な厚みで形成された様態となる。微細化キチン層10の平均厚みは複合粒子5を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削して走査型電子顕微鏡観察を行い、画像中の複合粒子5の断面像における微細化キチン層10の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出できる。また、複合粒子5は比較的揃った厚みの微細化キチン層10で均一に被覆されていることが好ましく、具体的には上述した微細化キチン層10の厚みの値の変動係数は0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。
【0019】
本実施形態においては、微細化キチン1はキチンナノファイバー(微細化キチン)は、カニ殻等から採取したキチン/キトサンを極細繊維に粉砕したナノファイバーである。微細化キチン1は、生分解性を有する。
【0020】
特に限定されないが、微細化キチン1は、イオン性官能基を含むことが好ましい。微細化キチン1が有するイオン性官能基がカチオン性であることが好ましい。微細化キチン層10を構成する微細化キチン1が有するイオン性官能基含有量が、微細化キチン層10を構成する微細化キチン1の乾燥重量に対して0.1mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることが好ましい。微細化キチン1のイオン性官能基含有量がこの範囲であると、粒子径の揃った分散性の高い複合粒子5を得ることができる。
また、微細化キチン層10を構成する微細化キチン1が有するイオン性官能基含有量が、複合粒子5の乾燥重量に対して0.0002mmol/g以上、0.2mmol/g以下であることが好ましい。
【0021】
さらに、微細化キチン1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化キチン1は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。微細化キチン1の結晶化度は50%以上であることが好ましい。
なお、微細化キチン1の数平均短軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化キチン1の数平均長軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
【0022】
特に、微細化キチン1は、N-アセチル化度が60%以上85%以下のアルファキチンからなることが好ましい。N-アセチル化度がこの範囲であると、数平均短軸径が5nm以上50nm以下であり、数平均長軸径が300nm以上5μm以下の、一本一本が分離された幅の細いナノファイバーを得ることができる。
【0023】
ポリマーは特に限定されず、例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、アミノ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ウレタン・イソシアネート系ポリマー等が挙げられる。
【0024】
特に限定されないが、ポリマーは生分解性ポリマーであることが好ましい。生分解性とは、土壌や海水中などの地球環境において分解して消滅するポリマー、または/および生体内で分解して消滅するポリマーのことである。一般的に、土壌や海水中では微生物がもつ酵素によりポリマーが分解されるのに対し、生体内では酵素を必要とせず物理化学的な加水分解により分解される。
生分解性ポリマーは、天然由来の天然高分子、或いは合成高分子があり、天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。生分解性ポリマーについては後述する。
【0025】
<複合粒子5の製造方法>
次に、本実施形態に係る複合粒子5の製造方法について説明する。本実施形態に係る複合粒子5の製造方法は、キチンおよび/またはキトサン原料を溶媒中で解繊して微細化キチン1の分散液を得る工程(第1工程)と、微細化キチン1の分散液中において重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2の表面を微細化キチン1で被覆し、エマルションとして安定化させる工程(第2工程)と、液滴2を固体化して微細化キチン1でコア粒子3が被覆された複合粒子5を得る工程(第3工程)と、を具備する複合粒子5の製造方法である。
【0026】
図2は、微細化キチン1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部のモノマーを重合して固体化する複合粒子5の製造方法の概略図である。
図3は、微細化キチン1を用いたO/W型ピッカリングエマルション内部の有機溶媒を除去して溶解ポリマーを固体化する複合粒子5の製造方法の概略図である。
図4は、微細化キチン1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の溶融ポリマーを固体化する複合粒子5の製造方法の概略図である 。
【0027】
上記製造方法により得られた複合粒子5は分散体として得られる。さらに溶媒を除去することにより乾燥固形物として得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば遠心分離法やろ過法によって余剰の水分を除去し、さらにオーブンで熱乾燥することで乾燥固形物として得ることができる。この際、得られる乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。この理由としては定かではないが、通常微細化キチン1の分散体から溶媒を除去すると、微細化キチン1同士が強固に凝集、膜化することが知られている。一方、複合粒子5を含む分散液の場合、微細化キチン1が表面に固定化された真球状の複合粒子であるため、溶媒を除去しても微細化キチン1同士が凝集することなく、複合粒子間の点と点で接するのみであるため、その乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られると考えられる。このように本発明の複合粒子は、生分解性及び生体適合性を有する微細化キチンを肌理細やかな粉体として利用可能であるため、例えばパウダータイプのファンデーション向け組成物等、化粧品用途や医療用途に好適である。
また、複合粒子5同士の凝集がないため、乾燥粉体として得られた複合粒子5を再び溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も複合粒子5の表面に結合された微細化キチン1に由来した分散安定性を示す。この際、用いる微細化キチン1の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、複合粒子の表面にイオン性官能基が選択的に配置されることになり、浸透圧効果により複合粒子間に溶媒が侵入しやすくなり分散安定性がより向上するため好ましい。
【0028】
なお、複合粒子5の乾燥粉体は溶媒をほとんど含まず、さらに溶媒に再分散可能であることを特長とする乾燥固形物であり、具体的には固形分率を80%以上とすることができ、さらに90%以上とすることができ、さらに95%以上とすることができる。溶媒をほぼ除去することができるため、輸送費の削減、腐敗防止、添加率向上、といった観点から好ましい効果を得る。なお、乾燥処理により固形分率を80%以上にした際、微細化キチン1は吸湿しやすいため、空気中の水分を吸着して固形分率が経時的に低下する可能性がある。しかしながら、複合粒子5は乾燥粉体として容易に得られ、さらに再分散させ得ることが特長である本発明の技術思想を考慮すると、複合粒子5を含む乾燥粉体の固形分率を80%以上とする工程を含む乾燥固形物であれば、本発明の技術的範囲に含まれると定義する。
【0029】
以下に、各工程について、詳細に説明する。
【0030】
(第1工程)
第1工程はキチンおよび/またはキトサン原料を溶媒中で解繊して微細化キチン1の分散液を得る工程である。特に限定されないが、次の方法を用いることにより、一本一本に分離されたキチンナノファイバーを含む分散液を得ることができる。このようなキチンナノファイバーを用いることで、分散性が良好で、粒子径の揃った複合粒子5を得ることができる。
具体的には、(1)キチンおよび/またはキトサン原料の精製とイオン性官能基の導入(2)浸漬処理、(3)解繊処理、の工程により微細化キチン1の分散液を作製した。
【0031】
(1)キチンおよび/またはキトサン原料の精製とイオン性官能基の導入
まず、キチンおよび/またはキトサン原料を用意する。例えば、カニ、エビ等の甲殻類に見られる逆平行鎖のアルファキチン、イカの甲などに見出される平行鎖のベータキチンを用いることができる。
キチンおよび/またはキトサンは分子構造がセルロースに類似した多糖類である。ピラノース環の2位の炭素にセルロースでは水酸基、キチンではN―アセチル基、キトサンではアミノ基がそれぞれ結合しており、その他の部分は同じ構造である。キチンおよび/またはキトサンはピラノース環のC2位にN-アセチル基及びアミノ基が100%結合しているわけではなく、一般には混在している。
キチンおよびまたは/キトサン原料は、カニ、エビなどの甲殻類や昆虫、クモなど、節足動物やイカの腱のように動物の体を支え、守るための直鎖状の構造多糖であり、結晶性があり(分子が規則的に並んでいる部分がある)、一部はタンパク質と結合している。キチンは、N-アセチルグルコサミンを主な構成糖とした多糖である。キチンおよび/またはキトサン原料を単離-精製すると、100%がN-アセチルグルコサミンからなる精製キチンはほとんどなく、一部はグルコサミンを構成成分として含んだキチンおよび/またはキトサンを得られる。
【0032】
例えば、乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料aと、湿潤状態のヤリイカの軟甲を1cm程度に砕いた原料bの2種類がキチンおよび/またはキトサン原料を用いることができる。
【0033】
キチンおよび/またはキトサン原料は、次の方法で精製することができる。まず、キチンおよび/またはキトサン原料を脱脂し、次に脱ミネラル後、脱タンパク処、漂白処理を数回繰り返し、最後に洗浄する。
【0034】
キチンおよび/またはキトサン原料は、脱脂するため、クロロホルム/メタノール(2/1)溶液に一日浸漬される。
【0035】
次に、脱脂された原料は、脱ミネラルを行うために、1M塩酸で3時間処理が行われる。処理された原料は、脱タンパクを行うために、窒素バージした10%水酸化ナトリウム水溶液で一晩処理が行われる。その後、処理された原料は、0.3%亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸され、70℃に設定したオイルバス中にマグネチックスターラーを用いて4時間、撹拌することで漂白が行われる。
脱ミネラル、脱タンパクおよび漂白の一連の処理が4回繰り返された後、脱脂された原料は、1M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄され、表面のアミノ基を脱プロント化し、その後、水で洗浄される。
【0036】
キチンおよび/またはキトサン原料の精製後、必要に応じてイオン性官能基を導入する。キチンおよび/またはキトサン原料を精製したものを、精製キチンと呼ぶ。導入されるイオン性官能基は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、アミノ基、カルボキシ基等を導入することができる。特に、部分脱アセチル化処理によりアミノ基を導入する方法は、安全であるため、化粧品や医療用途で用いるのに適している。
【0037】
乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料a(アルファキチン)に対して上記の精製処理を行ったものは、上記の精製処理の後、イオン性官能基を導入することが好ましい。
一方、湿潤状態のヤリイカの軟甲を1cm程度に砕いた原料b(ベータキチン)に対して上記の精製処理を行ったものは、上記の精製処理により、アミノ基がキチン結晶表面に露出するため、精製後に更にイオン性官能基を導入しなくても、容易に解繊することができる。
【0038】
部分脱アセチル化処理の方法は、特に限定されないが、次の方法で部分脱アセチル化することができる。精製キチンは、好ましくは0℃以上140℃以下、より好ましくは87℃~99℃に保持し、好ましくは20%以上50%以下の水酸化ナトリウム水溶液に、好ましくは0.5時間以上48時間以下、より好ましくは1時間以上5時間以下時間浸漬され、部分脱アセチル化処理される。その後、部分脱アセチル化処理された精製キチンは、濾過-水洗浄によって、ろ液が中性になるまで十分洗浄される。原料aは、部分脱アセチル化によりN-アセチル化度が低下して、ナノファイバー化に適した状態となる。原料aに含まれるキチンは、部分脱アセチル化により一部がキトサン構造となり、アミノ基を有する。
【0039】
(2)浸漬処理
次に、上記(1)の工程で得られた精製したキチンおよび/またはキトサンをpHを調整した液体に浸漬する。導入したイオン性官能基に合わせて適したpHの液体に浸漬することで、キチンミクロフィブリル間の荷電反発により解繊しやすくなる。
部分脱アセチル化処理によりアミノ基を導入した場合には、精製したキチンおよび/またはキトサンをpHを5以下に調整した酸性液体に浸漬することが好ましい。
【0040】
酸性液体としては、所望の範囲のpHが得られる限度で任意の酸を用いることができる。すなわち、酸は、有機酸であってもよく、無機酸であってもよく、特に制限されない。また、酸性液体の溶媒にも特に限定はなく、水以外のものを用いてもよい。
【0041】
有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、サリチル酸、アスコルビン酸、酒石酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸ナトリウム、フィチン酸、アジピン酸、プロピオン酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、グリコール酸、グリセリン酸、アクリル酸、安息香酸、パラニトロ安息香酸、パラトルエンスルホン酸、ピクリン酸、マレイン酸、などが挙げられる。無機酸としては、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、ピロリン酸二水素二ナトリウムなどが挙げられる。
【0042】
ただし、得られたキチンナノファイバーを医療、食品、薬剤などの生体に取り込む用途に用いる場合には、酢酸やクエン酸、リンゴ酸などの食用に供される酸を用い、溶媒に水を用いることが好ましい。ナノファイバーの作製に用いた酸や溶媒の除去が不要又は極めて容易になり、安全性の面でも有効だからである。
【0043】
本実施形態において、浸漬する液体のpH調整は極めて重要である。アミノ基を導入した精製キチンは、浸漬する酸性液体のpHが5以下であると、解繊処理により容易にキチンナノフィブリルを一本一本に分離することができる。これは、キチンを構成するグルコサミンへの荷電付与が十分となり、キチンミクロフィブリル間の荷電反発により解繊しやすくなるためと考えられる。
また、精製キチンを浸漬した酸性液体における固形分濃度は5%以下とすることが好ましい。グルコサミンへの荷電付与が不十分になるのを回避するためである。
【0044】
(3)解繊処理
次に、精製キチンが浸漬された液体を解繊処理に供する。この解繊処理により、微細化されたキチン(微細化キチン1)の分散液が得られる。精製キチンを部分脱アセチル化処理し、pHを調整した酸性液体に浸漬後、解繊して得られた分散液に含まれるキチンナノファイバーは、化学変性していないキチンからなり、幅が5nmから50nmであり、かつ、300nm以上の長さを有するキチンナノファイバーである。
【0045】
解繊処理は、家庭用ミキサー(プロペラミキサー、カッターミキサー)、超音波印加装置、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練機などの解繊、粉砕装置を用いて行うことができる。またこれらの装置による解繊処理を複数組み合わせてもよい。例えば、家庭用ミキサーによる解繊処理の後、超音波印加装置による解繊処理を行ってもよい。
【0046】
キチンナノフィブリル間の荷電反発を利用してナノファイバー化を行うので、解繊処理で精製したキチンに付与するエネルギーを低く抑えることができる。そのため、家庭用ミキサーのような簡便な装置であっても十分に適用できるのである。また、解繊処理の時間も数分間でよいため、極めて優れた効率でナノファイバーを製造することができる。
【0047】
なお、解繊処理に際して、精製キチンを浸漬したpHを調整した液体を希釈してもよい。解繊処理により精製アルファキチンがナノファイバー化されると高粘度の分散液となるので、希釈することであらかじめ固形分濃度を低下させておくことが好ましい。これにより解繊処理における攪拌を円滑に行えるようになる。希釈後の固形分濃度としては、1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下で、さらに好ましくは0.2%以下である。
【0048】
希釈に際しては、水等の溶媒や酸溶液を酸性液体に加える。溶媒を加えると酸性液体等のpHを調整した液体のpHが変化するが、浸漬処理において精製したキチンのグルコサミン成分に十分に荷電が付与されていれば、解繊処理の歩留まりにはほとんど影響しない。また、水以外の溶媒を含んでもよい。水以外の溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限はないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。
また、必要に応じて、解繊処理で分散せず残ってしまった精製したキチンを、濾過、遠心分離などにより除去することが好ましい。
【0049】
以上の(1)~(3)の工程により、キチンおよび/またはキトサン原料を溶媒中で解繊して微細化キチン1の分散液を得る。
特に、精製したキチンを部分脱アセチル化処理してN-アセチル化度を低下させ、これをpH調整された酸性液体に浸漬した後、解繊処理するという極めて簡便な工程で、一本一本に分離されたキチンナノファイバーを含む分散液を得ることができる。このようなキチンナノファイバーを用いることで、分散性が良好で、粒子径の揃った複合粒子5を得ることができる。
【0050】
得られるキチンナノファイバーは、化学変性していないキチンおよび/またはキトサンからなるものであり、安全性確認が不要であることから、特に、食品、医療、薬剤、ヘルスケア分野など、体内に取り込んで使用される用途における応用展開が格段に容易になる。また上記工程で得られるキチンナノファイバー分散液についても、透明な高粘度の液体であり、添加する酸の種類によっては、そのままの状態で食品や医療材料に用いることができるものである。
【0051】
また、微細化キチン1の分散体は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含有してもよい。上記他の成分としては、特に限定されず、複合粒子5の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物等が挙げられる。
【0052】
(第2工程)
第2工程は、微細化キチン1の分散液4中において重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2の表面を微細化キチン1で被覆して、エマルションとして安定化させる工程である。
【0053】
具体的には図2から図4に示すように、第1工程で得られた微細化キチン1の分散液4に重合性モノマーおよび/またはポリマー液を添加し、さらに重合性モノマーおよび/またはポリマー液を微細化キチン1の分散液4中に液滴2として分散させ、さらに液滴2の表面を微細化キチン1によって被覆し、微細化キチン1によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。ポリマー液は、特に限定されないが、ポリマーを溶融或いは溶媒に溶解させることにより得ることができる。
【0054】
O/W型エマルションを作製する方法としては特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができ、具体的には高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカーなどの機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
例えば超音波ホモジナイザーを用いる場合、第1工程にて得られた微細化キチン1の分散液4に対し重合性モノマーおよび/またはポリマー液を添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば周波数は20kHz以上が一般的であり、出力は10W/cm以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常10秒から1時間程度である。
【0056】
上記超音波処理により、微細化キチン1の分散液4中に重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2が分散してエマルション化が進行し、さらに液滴2と微細化キチン1の分散液4の液/液界面に選択的に微細化キチン1が吸着することで、液滴2が微細化キチン1で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のように微細化キチン1の繊維によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではないが、キチンおよびキトサンはその分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
【0057】
O/W型エマルション構造は、光学顕微鏡観察により確認することができる。O/W型エマルションの粒径サイズは特に限定されないが、通常0.1μm~1000μm程度である。
【0058】
O/W型エマルション構造において、液滴2の表層に形成された微細化キチン層10の厚みは特に限定されないが、通常3nm~1000nm程度である。微細化キチン層10の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
【0059】
図2に示す第2工程で用いることができる重合性モノマーの種類としては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等、)を用いることも可能である。
なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むこと示す。
【0060】
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0061】
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0063】
単官能のビニル系モノマーとしては例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレンおよびスチレン系モノマーなど、常温で水と相溶しない液体が好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレンなどが挙げられる。
【0064】
多官能のビニル系モノマーとしてはジビニルベンゼンなどの不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、(1)ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ジブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、(7)その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
例えば官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0065】
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料を限定しない。
【0066】
上記重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
第2工程において用いることができる微細化キチン1の分散液4と重合性モノマーの重量比については特に限定されないが、微細化キチン1が100質量部に対し、重合性モノマーが1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。重合性モノマーが1質量部以下となると複合粒子5の収量が低下するため好ましくなく、50質量部を超えると重合性モノマー液滴2Aを微細化キチン1で均一に被覆することが困難となり好ましくない。
【0068】
また、重合性モノマーには予め重合開始剤が含まれていてもよい。一般的な重合開始剤としては有機過酸化物やアゾ重合開始剤などのラジカル開始剤が挙げられる。
【0069】
有機過酸化物としては、例えばパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルなどが挙げられる。
【0070】
アゾ重合開始剤としては、例えばADVN,AIBNが挙げられる。
例えば2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0071】
第2工程において予め重合開始剤が含まれた状態の重合性モノマーを用いれば、O/W型エマルションを形成した際にエマルション粒子内部の重合性モノマー液滴2A中に重合開始剤が含まれるため、後述の第3工程においてエマルション内部のモノマーを重合させて固体化する際に重合反応が進行しやすくなる。
【0072】
第2工程において用いることができる重合性モノマーと重合開始剤の重量比については特に限定されないが、通常、重合性モノマー100質量部に対し、重合性開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーが0.1質量部未満となると重合反応が充分に進行せずに複合粒子5の収量が低下するため好ましくない。
【0073】
また、図3に示すように、第2工程で用いることができる液滴2としては、既存ポリマーを各種溶媒を用いて溶解させた、溶解ポリマー液滴2Bを用いることも可能である。例えば既存のポリマーを微細化キチン1の分散液4への相溶性が低い溶媒で溶解させて溶解液とし、該溶解液を前述のように超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながら分散液4に添加することによって、分散液4中でポリマー液滴をO/W型エマルションとして安定化することが好ましい。
【0074】
具体的なポリマーとしては、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアセテート誘導体、キチン、キトサン等の多糖類、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類、ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類、ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0075】
特に限定されないが、ポリマーは生分解性ポリマーであることが好ましい。生分解性とは、土壌や海水中などの地球環境において分解して消滅するポリマー、または/および生体内で分解して消滅するポリマーのことである。一般的に、土壌や海水中では微生物がもつ酵素によりポリマーが分解されるのに対し、生体内では酵素を必要とせず物理化学的な加水分解により分解される。
ポリマーの分解は、ポリマーが低分子化或いは水溶性化して形態を消失することである。ポリマーの分解は、特に限定されないが、主鎖、側鎖、架橋点の加水分解や、主鎖の酸化分解により起こる。
【0076】
生分解性ポリマーは、天然由来の天然高分子、或いは合成高分子がある。
天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリオール、ポリカーボネート等が挙げられる。
脂肪酸ポリエステルとしては、例えば、グリコール・ジカルボン酸重縮合系(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等)、ポリラクチド類(ポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、ポリラクトン類(β-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等)、その他(ポリブチレンテレフタレート・アジペート等)が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ポリカーボネートとしては、例えば、ポリエステルカーボネート等が挙げられる。
その他、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリオルソエステル、ポリフォスファゼン等も生分解性の合成高分子である。
中でも 、生分解性を有し、医療用材料としても使用されているポリラクチド類、ポリラクトン類であることが好ましい。
【0077】
また、前記ポリマーを溶解させる溶媒としては、微細化キチン1の分散液4への相溶性が低い溶媒が好ましい。水への溶解度が高い場合、溶解ポリマー液滴層から水相へ溶媒が容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。一方で、水への溶解性がない溶媒の場合、溶解ポリマー液滴相から溶媒が微細化キチン1の分散液相に移動することができないため、複合粒子を得ることができない。また、前記溶媒は沸点が90℃以下が好ましい。沸点が90℃より高い場合、前記溶媒よりも先に微細化キチン1の分散液4が蒸発してしまい複合粒子を得ることができない。用いることができる溶媒として、具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ベンゼンなどが挙げられる。
【0078】
さらに、図4に示すように、第2工程においては溶媒を用いずにポリマーそのものを溶融させた溶融ポリマー液滴2Cを用いることも可能である。例えば常温で固体のポリマーを溶融させて液体とし、該溶融液を前述のように超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながら、ポリマーの溶融状態を維持可能な温度にまで加熱された分散液4に添加することによって、分散液4中でポリマー液滴をO/W型エマルションとして安定化することが好ましい。
【0079】
第2工程で用いることができる溶融ポリマー液滴2Cとしては、微細化キチン1の水分散液4への溶解性が低いものが好ましい。水への溶解度が高い場合、溶融ポリマー液滴層から水相へポリマーが容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。また、溶融ポリマーは融点が90℃以下が好ましい。融点が90℃より高い場合、微細化キチン1の分散液4中の水が蒸発してしまい、エマルション化が困難となる。具体的には、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ステアリルステアレート、ステアリン酸バチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、ジステアリン酸エチレングリコール、ベヘニルアルコール、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、炭化水素ワックス、脂肪酸アルキルエステル、ポリオール脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとワックスの混合物、脂肪酸エステルの混合物、グリセリンモノパルミテート(/ステアリン酸モノグリセライド)、グリセリンモノ・ジステアレート(/グリセリンステアレート)、グリセリンモノアセトモノステアレート(/グリセリン脂肪酸エステル)、コハク酸脂肪族モノグリセライド(/グリセリン脂肪酸エステル)、クエン酸飽和脂肪族モノグリセライド、ソルビタンモノステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタントリベヘネート、プロピレングリコールモノベヘネート(/プロピレングリコール脂肪酸エステル)、アジピン酸ペンタエリスリトールポリマーのステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ステアリルシトレート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、超淡色ロジン、ロジン含有ジオール、超淡色ロジン金属塩、水素化石油樹脂、ロジンエステル、水素化ロジンエステル、特殊ロジンエステル、ノボラック、結晶性ポリαオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類、ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類、ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等を用いることができる。
【0080】
また、重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2には予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれていてもよい。具体的には磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物、等が挙げられる。重合性モノマーに、予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれている場合、複合粒子5として形成した際の粒子内部に上述の機能性成分を含有させることができ、用途に応じた機能発現が可能となる。
【0081】
さらに、重合性モノマーおよび溶解・溶融ポリマーを併用して用いて液滴2を形成し、エマルション化することも可能である。また、本複合粒子のコアとなるポリマー種として生分解性樹脂を選択した場合、得られる複合粒子は内部コアの生分解性樹脂および外部シェルのナノファイバーで構成されることにより、生分解性材料を有する環境調和性の高い複合粒子として提供することも可能である。
【0082】
(第3工程)
第3工程は、重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2を固体化して微細化キチン1でコア粒子3が被覆された複合粒子5を得る工程である。
【0083】
重合性モノマー液滴を固体化する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜選択可能であるが、例えば懸濁重合法が挙げられる。
【0084】
具体的な懸濁重合の方法についても特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。例えば第2工程で作製された、重合開始剤を含むモノマー液滴が微細化キチン1によって被覆され安定化したO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することによって実施することができる。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。また、加熱時の温度条件については重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、20度以上150度以下が好ましい。20度未満であると重合の反応速度が低下するため好ましくなく、150度を超えると微細化キチン1が変性する可能性があるため好ましくない。重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間~24時間程度である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いても良い。
【0085】
また、ポリマー液滴を固体化する方法については特に限定されない。例えば溶媒を用いた溶解ポリマー液滴2Bを用いる場合、微細化キチン1の分散液4中でO/W型エマルションを形成した後、前述のように水への溶解性の低い溶媒が経時的に水相へと拡散して行くことで、溶解ポリマーが析出して粒子として固体化させることができる。また、例えばポリマーを加熱して液体化した溶融ポリマー液滴2Cを用いる場合、微細化キチン1の分散液4中でO/W型エマルションを形成した後、該エマルションを冷却することにより溶融ポリマー液滴2Cを粒子として固体化することができる。
【0086】
なお、液滴2の固体化処理終了直後の状態は、複合粒子5の分散液中に多量の水と複合粒子5の微細化キチン層10に形成に寄与していない遊離した微細化キチン1が混在した状態となっている。そのため、作製した複合粒子5を回収・精製する必要があり、回収・精製方法としては、遠心分離による洗浄またはろ過洗浄が好ましい。遠心分離による洗浄方法としては公知の方法を用いることができ、具体的には遠心分離によって複合粒子5を沈降させて上澄みを除去し、水・メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して複合粒子5を回収することができる。ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができ、例えば孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて水とメタノールで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して複合粒子5を回収することができる。
【0087】
回収した複合粒子5のpHを調整し、分散しやすくすることが好ましい。アミノ基を有する微細化キチン1を用いる場合は、酢酸等によりpHを2から7の範囲に調整する。加えた酸と微細化キチン1の表面のアミノ基とをイオン結合させることにより、アミノ基がプラスのチャージを持ちやすくなり、複合粒子5同士が分散しやすくなる。特に、pHを3.3程度に調整することで、複合粒子5を好適に分散させることができる。
【0088】
上述の工程を経て、コア粒子3が微細化キチン1によって被覆された真球状の複合粒子5を作製することができる。図5は、乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料aから作製した複合粒子5の光学顕微鏡写真である。図6は、湿潤状態のヤリイカの軟甲を1cm程度に砕いた原料bから作製した複合粒子5の光学顕微鏡写真である。
【0089】
残留溶媒の除去方法は特に限定されず、風乾やオーブンなどの簡便な熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子5を含む乾燥固形物は上述のように膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
【0090】
なお、複合粒子5は、複合粒子5を含む組成物として提供可能である。
例えば前記複合粒子5を適当な分散媒に分散させた分散液として提供可能である。さらに前記分散液は複合粒子5以外の成分を含んでも良く、例えばアルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸などが挙げられる。
【0091】
例えば複合粒子5を、溶媒を含まない肌理細やかな粉体として、皮膚塗布用途での提供が可能である。さらに具体的には化粧料のパウダー型ファンデーション用組成物として提供可能である。さらに前記粉体は複合粒子5以外の成分を含んでも良く、例えばアルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸などが挙げられる。
なお、複合粒子5を含む組成物は、肌に塗布する製品だけではなく、口腔で使用する歯磨き粉等の製品、毛髪に使用するヘアケア製品の成分としても使用することができる。
【0092】
本実施形態に係る複合粒子5は、複合粒子5の表面の微細化キチン1に由来した、生体親和性が高く溶媒中でも凝集することない良好な分散安定性を有する、新規な複合粒子を提供することができる。
【0093】
また、本実施形態に係る複合粒子5を含む乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られ、粒子同士の凝集がないため、乾燥粉体として得られた複合粒子5を再び溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も複合粒子5の表面に結合されたキチンナノファイバーの微細化キチン層10に由来した分散安定性を示すため、キチンナノファイバーの特性を活用するとともに溶媒過多の問題を解決された新規な複合粒子を提供することができる。
【0094】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の一実施形態および変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【実施例
【0095】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
【0096】
<実施例>
(第1工程:微細化キチン分散液を得る工程)
キチンおよび/またはキトサン原料を溶媒中で解繊して微細化キチン1の分散液を得た。具体的には、(1)キチンおよび/またはキトサン原料の精製と部分脱アセチル化処理、(2)浸漬処理、(3)解繊処理、の工程により微細化キチン1の分散液を作製した。
【0097】
(1-1)キチンおよび/またはキトサン原料の精製
まず、キチンおよび/またはキトサン原料として乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料aと湿潤状態のヤリイカの軟甲を1cm程度に砕いた原料bの2種類を用意した。原料aおよび原料bを脱脂するため、クロロホルム/メタノール(2/1)溶液に一日浸漬した。
【0098】
次に、脱脂された原料は、脱ミネラルを行うために、1M塩酸で3時間処理を行った。処理された原料は、脱タンパクを行うために、窒素バージした10%水酸化ナトリウム水溶液で一晩処理を行った。その後、処理された原料を、0.3%亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸し、70℃に設定したオイルバス中にマグネチックスターラーを用いて4時間、撹拌することで漂白した。
脱ミネラル、脱タンパクおよび漂白の一連の処理を4回繰り返した後、脱脂された原料を、1M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、表面のアミノ基を脱プロント化し、その後、水で洗浄した。
【0099】
(1-2)精製キチンの部分脱アセチル化
原料aに対して上記の精製処理を行った精製キチン原料を、90℃に保持した33%水酸化ナトリウム水溶液に1時間または4時間浸漬し、部分脱アセチル化処理した。その後、部分脱アセチル化処理された原料aを、濾過-水洗浄によって、ろ液が中性になるまで十分洗浄した。原料aは、部分脱アセチル化によりN-アセチル化度が低下して、ナノファイバー化に適した状態となる。原料aに含まれるキチンは、脱アセチル化に部分的にキトサン構造となる。
一方、原料bに対して上記の精製処理を行った精製キチンには部分脱アセチル化を行わなかった。
【0100】
(2)浸漬処理
次に、上記で得られた精製キチンに水を加えて固形分濃度0.1%の精製キチン水分散液を調製した。その後、上記の水分散液に酢酸を添加することでpHを3.3に調整した水分散液試料を作製した。
【0101】
(3)解繊処理
次に、得られた精製キチン水分散液試料0.25%を家庭用ミキサーで1分間解繊処理した後、超音波ホモジナイザーで1分間解繊処理した。
以上の(1)~(3)の工程により、精製キチンを原料とするナノファイバー水分散液を得た。
【0102】
(微細化キチン1の評価)
得られた精製キチン、微細化キチン1について、アミノ基量、結晶化度、長軸の数平均軸径、光線透過率の測定や算出を次のように行った。得られた微細化キチンの評価結果を表1に示す。
【0103】
(アミノ基量測定)
分散処理前の精製キチンについて、アミノ基量を以下の方法にて算出した。
精製キチンの乾燥重量換算0.2gをビーカーに採り、イオン交換水80mLを添加した。
そこに、攪拌しながら、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて、全体がpH8となるように調整した。
そこに、自動滴定装置(商品名:AUT-701、東亜ディーケーケー社製)を用いて、0.1mol/L塩酸を0.05mL/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH2.0まで測定を続けた。
得られた電導度曲線から、塩酸の滴定量を求め、アミノ基量(mmol/g)を算出した。
【0104】
(結晶化度の算出)
精製キチンについて、試料水平型多目的X線回折装置(商品名:UltimaIII、Rigaku社製)を用い、X線回折パターンを測定した。X線回折パターンから、精製キチンの結晶化度を算出した。
【0105】
(微細化キチン1の長軸の数平均軸径の算出)
原子間力顕微鏡を用いて、微細化キチンの長軸の数平均軸径を算出した。
まず、微細化キチン水分散液を0.001%となるように希釈した後、マイカ板上に20μLずつキャストして風乾した。
乾燥後に原子間力顕微鏡(商品名:AFM5400L、日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、DFMモードで微細化キチンの形状を観察した。
微細化キチンの長軸の数平均軸径は、原子間力顕微鏡による観察画像から100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求めた。
【0106】
(微細化キチン1水分散液の光線透過率の測定)
0.25%の微細化キチン水分散液について、光線透過率を測定した。
石英製のサンプルセルの一方にはリファレンスとして水を入れ、もう一方には気泡が混入しないように微細化キチン水分散液を入れ、光路長1cmにおける波長220nmから1300nmまでの光線透過率を分光光度計(商品名:NRS-1000、日本分光社製)にて測定した。図5に光線透過率測定結果を示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1から明らかなように、微細化キチン1水分散液は高い透明性を示した。また、微細化キチン1水分散液に含まれる微細化キチンの数平均短軸径は50nm以下であり、結晶化度は50%以上と高かった。
【0109】
(第2工程)
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)を1g溶解させた。
【0110】
前記重合性モノマー混合液全量を、微細化キチン濃度0.25%の微細化キチン分散液40gに対し添加したところ、重合性モノマー混合液と微細化キチン分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2相に分離した。
【0111】
次に、上記2相分離した状態の混合液における上相の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1~数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0112】
(第3工程:複合粒子5を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。
こうして得られた精製・回収物を1%濃度とし、酢酸を用いてpHを3.3に調節して分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価した。
次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子5)を得た。
【0113】
<実施例1>
上記実施例にてキチンおよび/またはキトサン原料として乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料aを用い、90℃に保持した33%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬し、部分脱アセチル化処理して作製した微細化キチン1Aを用い、複合粒子5を作製した。
【0114】
<実施例2>
実施例1においてDVBの代わりにジエチレングリコールジアクリレート(商品名FA-222A、日立化成、以下、FA-222Aとも称する。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5を作製した。
【0115】
<実施例3>
実施例1においてDVBの代わりにヘキサンジオールジアクリレート(商品名A-HD-N、新中村化学工業、以下、A-HD-Nとも称する。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5を作製した。
【0116】
<実施例4>
実施例1において、90℃に保持した33%水酸化ナトリウム水溶液に4時間浸漬し、部分脱アセチル化処理して作製した微細化キチン1Bを用いた以外は実施例1と同様の条件で複合粒子5を作製した。
【0117】
<実施例5>
実施例1において、キチンおよび/またはキトサン原料として乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料aの代わりに、ヤリイカの軟骨(湿潤状態)を1cm程度に砕いた原料b(ベータキチン)を用い、精製キチンの部分脱アセチル化処理を施さずに作製した微細化キチン1Cを用いた以外は実施例1と同様の条件で複合粒子5を作製した。
【0118】
<実施例6>
実施例1の第1工程と同様に、微細化キチン分散液を得た。
次に、第2工程において、ポリ乳酸(PLA)10gを100gのジクロロエタンに溶解し、フェニトロチオン(スミチオン、MEP)2g添加して混合し、溶解ポリマー液を調製した。
ポリマー液全量を、微細化キチン1濃度0.25%の微細化キチン分散液500gに対し添加したところ、溶解ポリマー液と微細化キチン分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2相に分離した。
【0119】
次に、上記2相分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーを用いて実施例1の第3工程と同様に超音ホモジナイザー処理した。光学顕微鏡にて1~数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0120】
次に第3工程において、O/W型エマルション液を700mgHgの減圧条件下で40℃で3時間減圧乾燥してジクロロエタンを完全に揮発させた。ジクロロエタンの揮発前後で分散液の外観に変化はなかった。
得られた分散液を実施例1と同様の条件で分離・精製した。得られた複合粒子5の平均粒径は1.8μmであった。実施例1と同様の条件で回収物を乾燥したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子5)を得た。
【0121】
<実施例7>
実施例6において、第1工程と同様の条件で微細化キチン1分散液を調製し、第2工程にて、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL、和光純薬製)10gを加熱して溶融ポリマー液を調製し、第3工程と同様の条件でO/W型エマルション液を調製後、第4b工程にてO/W型エマルション液を冷却した。それ以外は実施例6と同様の条件で複合粒子5を得た。
【0122】
<比較例1>
実施例1において、微細化キチン分散液の代わりに純水を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子の作製を試みた。
【0123】
<比較例2>
実施例1において、微細化キチン分散液の代わりにカルボキシメチルキチン水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子の作製を試みた。
【0124】
<比較例3>
実施例6において、第b1工程において、微細化キチン分散液の代わりにカルボキシメチルキチン水溶液を8質量部、ラウリン酸ポリグリセリル-10(PGLE ML10)0.5質量部を純水500gに溶かした水溶液を用い、第2工程及び第3工程は実施例6と同様の条件でO/W型エマルション液を調製した。得られたO/W型エマルション液をスプレードライヤー装置を用いて乾燥温度100℃で噴霧乾燥し、粒子を作製した。
【0125】
<比較例4>
比較例3において、ラウリン酸ポリグリセリル-10(PGLE ML10)を添加しなかった以外は比較例4と同様の条件で粒子の作製を試みた。
【0126】
<評価方法>
【0127】
(液滴安定化可否評価)
液滴安定化形成可否は、目視および光学電子顕微鏡による形状観察により判断した。得られた複合粒子分散液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスを被せて光学顕微鏡にて観察した。
第2工程のエマルション安定化可否については、以下のように判定した。
○:目視で2相が分離することなく、光学顕微鏡にて微小な液滴が観察された。
×:目視で2相が分離していた、または光学顕微鏡にて液滴の平均径が50μm以上であった。
【0128】
(複合粒子形成可否評価)
複合粒子の形成可否は、走査型電子顕微鏡による形状観察により判断した。得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した。複合粒子の形成可否は、以下のように判定した。
○:粒子が得られ、粒子表面に微細化キチンが被覆されていた。
△:粒子が得られたが、粒子表面に微細化キチンが被覆されていなかった。
×:上記粒子は得られなかった。
【0129】
(再分散性の評価)
再分散性の評価は、第4工程で得られた複合粒子の粒度分布と、乾燥、再分散後の粒度分布を比較して再分散性を評価した。
第4工程で得られた複合粒子を1%濃度とし、酢酸を用いてpHを3.3に調節して分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて測定した平均粒径を、再分散前の平均粒径(D1)とし、複合粒子5の乾燥粉体を1%の濃度で純水に添加し、攪拌子で攪拌しながら酢酸水溶液を添加してpHを3.3に調節して再分散させて測定した粒子径を再分散後の平均粒径(D2)とする。再分散性の評価は、以下のように判定した。
〇:0.5 ≦ D2/D1 ≦1.5
×:D2/D1 < 0.5、1.5 < D2/D1
【0130】
(再分散性の評価は)
JIS規格「JIS K6950:2000 プラスチックー水系培養液中の好気的究極生分解度の求め方ー閉鎖呼吸計を用いる酸素消費量の測定による方法」生分解性を評価した。複合粒子5と活性汚泥をそれぞれ100mg/L、30mg/Lになるように無機塩培地に添加し、酸素の消費量を測定し、酸素消費生物化学的酸素要求量(BOD;化学物質又は有機物が、特定条件下で、水中での好気的生物酸化によって消費された溶存酸素の質量濃度)を算出する。
コントロールとして複合粒子5が入っていない無機塩培地を用いる。機能性成分を除いた複合粒子5の全てが水と炭酸ガスにまで変換されるのに必要な酸素量(理論酸素要求量、ThOD)をポリマー組成式から算出した。生分解度は、理論酸素要求量に対する生物化学的酸素要求量として算出した(生分解度=BOD/ThOD×100)。再分散性の評価は、以下のように判定した。
〇:試験開始から28日後の生分解度が80%以上であった。
×:試験開始から28日後の生分解度が80%未満であった。
【0131】
以上の実施例および比較例を用いた評価結果を図7図8及び表2に示す。図7は実施例1および実施例4により得られた複合粒子の光学顕微鏡観察図である。図8は複合粒子5の乾燥粉体を操作型電子顕微鏡にて観察した結果である。表2において液滴安定化剤とは第2工程においてO/W型エマルションを安定化させるために用いた添加剤のことであって、例えば本発明における微細化キチン1が相当する。また表2比較例中の各セルにおける斜線表記は、各工程実施中に工程の遂行が不可能となり、その後の工程を実施していないことを示している。
【0132】
図7及び図8から明らかなように、O/W型エマルション液滴を鋳型とし、液滴を固体化させることにより、エマルション液滴の形状に由来した、真球状の複合粒子5が無数に形成していることが確認され、さらに図8に示されるように、その表面は幅数nmの微細化キチン1によって均一に被覆されていることが確認された。また、ろ過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、複合粒子5の表面は等しく均一に微細化キチン1によって被覆されていることから、本発明の複合粒子5において、複合粒子内部のモノマーと微細化キチン1は結合しており、不可分の状態にあることが示された。
【0133】
【表2】
【0134】
表2の実施例1~7の評価結果において明らかなように、微細化キチン1の種類によらず、液滴を安定化し、各種モノマーの重合物や生分解性ポリマー及び各種機能性成分をコア粒子3とする複合粒子5を作製可能であることが確認された。得られた複合粒子5は再分散性が良好であった。また、生分解性ポリマーを用いることで、生分解性を有する複合粒子5を得られた。
【0135】
一方、比較例1においては、第2工程の遂行が不可能であった。具体的には、超音波ホモジナイザー処理を実施してもモノマー相と微細化キチン分散液相が2相分離したまま状態となり、O/W型エマルションの作製自体が不可能であった。
比較例4においても、第2工程の遂行が不可能であった。具体的には、超音波ホモジナイザー処理を実施してもポリマー相と微細化キチン分散液相が2相分離したまま状態となり、O/W型エマルションの作製自体が不可能であった。
【0136】
また、比較例2および比較例4においては、第a2工程におけるO/W型エマルションの形成は可能であった。これはカルボキシメチルキチンが微細化キチンと同様に両親媒性を示したため、エマルションの安定化剤として機能したと考えられる。しかしながら、続く第3工程において液滴を固体化させると、エマルションが崩壊してしまい、O/W型エマルションを鋳型とした複合粒子を得ることができなかった。この理由としては定かではないが、カルボキシメチルキチンは水溶性であるため、液滴の固体化中もエマルション形状を維持するための微細化キチン層10としては脆弱である可能性が高く、そのため液滴の固体化にエマルションが崩壊したと考えられる。
【0137】
また、比較例3においては粒子を作製できたが、表面に微細化キチン1が被覆されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の複合粒子は、添加剤としての添加効率、樹脂との混練効率が向上し、また輸送効率向上や腐敗防止の観点からコスト削減にも寄与するなど、産業実施の観点から好ましい効果が得られる。
本発明の複合粒子は、更に、コア粒子3内に磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、等の機能性材料を取込ませた上でマイクロカプセル化することで、該機能性材料の保護や、放出挙動の制御などが可能となる。コア粒子3を覆う微細化キチン層10に機能性材料をさらに付与することも可能である。
微細化キチン1は、生分解性および生体適合性を有しているため、本発明の複合粒子5は、コア粒子3に生分解性ポリマー、生体適合性ポリマーを用いることにより、ドラッグデリバリーシステム等医療用途や化粧品や貼付剤等のヘルスケア用途、食品用途に好適である。
【符号の説明】
【0139】
1 微細化キチン(キチンナノファイバー)
10 微細化キチン層
2 液滴
2A 液滴(モノマー液滴)
2B 液滴(溶解ポリマー液滴)
2C 液滴(溶融ポリマー液滴)
3 コア粒子(ポリマー、樹脂)
4 分散液
5 複合粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8