(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ルチンの分解が抑制されたダッタンソバふすまの製造方法、及びその利用
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240116BHJP
A21D 13/02 20060101ALI20240116BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20240116BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20240116BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A21D13/02
A21D2/36
A23L7/109 F
(21)【出願番号】P 2019155479
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大塚 しおり
(72)【発明者】
【氏名】森下 敏和
(72)【発明者】
【氏名】石黒 浩二
(72)【発明者】
【氏名】原 尚資
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-153433(JP,A)
【文献】特開平10-313836(JP,A)
【文献】特開2014-087273(JP,A)
【文献】特開2012-244927(JP,A)
【文献】特開2018-191552(JP,A)
【文献】**グルテンフリー**そば粉のガレット,cookpad [online],2017年06月26日,URL: https://cookpad.com/recipe/4597427 [検索日2023/9/12]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
A21D 2/00 - 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッタンソバのふすまを、160~180℃、30~40分の焙煎条件で焙煎し、これによりふすまに含まれるルチンの熱分解を抑制しつつ、ふすまに含まれるルチン分解酵素を失活させる工程を含む、焙煎ダッタンソバふすまの製造方法。
【請求項2】
ダッタンソバのふすまを、140~165℃、5~15分である焙煎条件で焙煎し、これによりふすまに含まれるルチンの熱分解を抑制しつつ、ふすまに含まれるルチン分解酵素を失活させる工程を含む、焙煎ダッタンソバふすまの製造方法。
【請求項3】
ダッタンソバのふすまを、155~195℃、20~50分である焙煎条件で焙煎し、これによりふすまに含まれるルチンの熱分解を抑制しつつ、ふすまに含まれるルチン分解酵素を失活させる工程を含む、焙煎ダッタンソバふすまの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法で焙煎ダッタンソバふすまを製造し、
製造されたふすまを用いて食品組成物を製造する、焙煎ダッタンソバふすまを含む、食品組成物の製造方法。
【請求項5】
焙煎ダッタンソバふすま中のルチン残存率が70%以上である、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
食品組成物が、麺若しくはガレット、又は麺若しくはガレット用のミックス粉である、請求項
5に記載の食品組成物の製造方法。
【請求項7】
食品組成物が、一日摂取量あたり、又は一回摂取量あたり、300~500mgのルチン又は5~10gの焙煎ダッタンソバふすまを含む、請求項
4~6のいずれか1項に記載の食品組成物の製造方法。
【請求項8】
ダッタンソバの品種が、満点きらりである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法
、又は請求項
4~7のいずれか1項に記載の食品組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチンの分解が抑制されたダッタンソバふすまの製造方法、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ダッタンソバはタデ科の一年草である。ダッタンソバの子実には機能性成分のルチンが普通種ソバと比べ、品種により20~1,000倍も多い。ルチンは、子実に含まれるルチン分解酵素が作用することにより苦みの原因となるケルセチンを生じる。そのため、ソバ粉の製造工程においては、ルチン分解酵素を失活させるために加熱処理することが検討されてきた(特許文献1~4、非特許文献1)。また、ルチン分解酵素活性値が一定以下であるダッタンソバ粉を用いたルチン高含有の食品・飲料が開発されている(特許文献5、6)。
【0003】
一方、ダッタンソバは一般的にはソバ粉の状態で流通している。ソバ粉は、玄ソバ(子実)のままロール製粉し、粉砕物をふるいで分別することにより製造される。その際、ふるいに残った残渣のうち大きな物はソバ殻などであり、通常は廃棄され、粒径の小さい残渣画分はふすまである。通常、玄ソバの約1割がふすまとなる。ルチン含量の高いダッタンソバふすまを、所定の条件で焙煎等の加熱加工することで、嗜好性の高い飲料や食品用の食品素材とすることが提案されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-144654号公報
【文献】特開平11-075743号公報
【文献】特開2005-013005号公報
【文献】特開2006-311845号公報
【文献】特開2012-244927号公報
【文献】特開2013-081440号公報
【文献】特開2017-153433号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】北海道立総合研究機構 食品加工研究センター 研究報告、No.9、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダッタンソバふすまには、ソバ粉の5~10倍のルチンが含まれる。またダッタンソバふすまは、ソバ粉に比較して、タンパク質、脂質、食物繊維が多く含まれ、鉄、亜鉛、マンガン等のミネラルも豊富である。そのため、ダッタンソバふすまを、より有効に利用することができれば望ましい。
【0007】
しかしながら、ダッタンソバふすまにはルチン分解酵素が含まれており、ルチン分解酵素を失活させるために加熱処理することで、ルチン自体が熱分解してしまうという問題があることが分かった。ダッタンソバふすまに関しては、分解されずに残存するルチンが70%以上であれば、味には影響しないと考えられるため、ルチン残存率70%以上を達成できる技術があれば望ましい。
【0008】
また、従来のソバ粉におけるルチン分解酵素を失活させるための処理条件は、製麺を想定した加水条件でのルチン残存率や、加水後の比較的短い時間経過した時点でのルチン残存率を指標としている。そのため、その処理条件が、麺以外の食品の製造や、加水後保蔵される場合においても有効かは不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ダッタンソバふすまにおいてルチン分解を抑制するための技術について鋭意検討した。その結果、ダッタンソバふすまに適したルチン分解酵素失活条件を見出し、本発明を完成した。本願は、以下の発明を提供する。
【0010】
[1] ダッタンソバのふすまを、140~195℃ 、5~50分の焙煎条件で焙煎し、これによりふすまに含まれるルチンの熱分解を抑制しつつ、ふすまに含まれるルチン分解酵素を失活させる工程を含む、焙煎ダッタンソバふすまの製造方法。
[2] 焙煎条件が、140~165℃、15分以下である、1に記載の製造方法。
[3] 焙煎条件が、155~195℃、20分以上である、1に記載の製造方法。
[4] ルチンの含量が40mg/g以上であり、ルチン分解酵素が失活化されている、焙煎ダッタンソバふすま。
[5] 4に記載の焙煎ダッタンソバふすまを含む、食品組成物。
[6] ルチン残存率が70%以上である、焙煎ダッタンソバふすま含有食品組成物。
[7] 麺、又はガレットである、6に記載の食品組成物。
[8] 一日摂取量あたり、又は一回摂取量あたり、300~500mgのルチン又は5~10gの焙煎ダッタンソバふすまを含む、5~7のいずれか1項に記載の食品組成物。
[9] ダッタンソバの品種が、満点きらりである、1~3のいずれか1項に記載の製造方法、4に記載の焙煎ダッタンソバふすま、又は5~8のいずれか1項に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0011】
ダッタンソバふすまに適した条件で、ルチン分解酵素を失活できる。
【0012】
ルチン分解酵素が十分に失活処理されているため、様々な食品に利用できる、焙煎ダッタンソバふすまを提供できる。またルチンを多く含むため、少量用いることでルチンを多く含む食品が製造できる、焙煎ダッタンソバふすまを提供できる。
【0013】
様々な食品に利用できるため、ダッタンソバふすまの食品素材としての利用が拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】ダッタンソバふすまの焙煎によるルチン残存率。140℃90分、160℃40分ではルチンは熱分解しないが、180℃では15分以上、 200℃では6分以上加熱すると、熱分解することが明らかとなった。
【
図1B】焙煎ダッタンソバふすまのルチン含量。焙煎したふすまには、焙煎したソバ粉(満点きらり)より多くのルチンが含まれていることが示された。
【
図2】酵素活性によるルチン減少率。ダッタンソバふすまのルチン分解酵素は140℃では90分焙煎しても失活せず、160~180℃では30分、200℃では7分焙煎することにより、失活することが明らかになった。またソバ粉(満点きらり)とふすまでは、ふすまのほうが酵素分解による影響が大きいことが明らかになった。
【
図3A】45%加水後のルチン残存率。加水後にもルチン残存率70%以上を維持するためには、45%加水の場合は軽めの焙煎(例えば、160℃、10分)で良いことが明らかになった。
【
図3B】200%加水後のルチン残存率。加水後にもルチン残存率70%以上を維持するためには、400%加水の場合は強めの焙煎(例えば、160℃、40分、又は180℃、30分)が良いことが明らかになった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ダッタンソバのふすまの製造方法>
本願は、ダッタンソバのふすまを、140~195℃、5~50分の焙煎条件で焙煎し、これによりふすまに含まれるルチンの熱分解を抑制しつつ、ふすまに含まれるルチン分解酵素を失活させる工程を含む、焙煎ダッタンソバふすまの製造方法を提供する。
【0016】
(ダッタンソバ)
本発明にはダッタンソバ(韃靼蕎麦、学名:Fagopyrum tataricum)が用いられる。ダッタンソバの品種には、信永イエロー、北海T8号、北海T9号、北海T10号、北陸4号、気の力、気の宝、気の豊、大禅、信濃くろつぶ、ダルマだったん、イオンの黄彩、満天きらり、西のはるか等がある。本発明に用いるダッタンソバの品種には特に制限はないが、苦みが少なくルチン含量が多い点で、満天きらりを用いることが好ましい。
【0017】
(ダッタンソバふすま)
本発明にはダッタンソバのふすまが用いられる。ふすまは、ソバ殻とソバ粉を得る胚乳の間の層に由来し、ソバ粉を製造する際に副生される。一般的には、玄ソバ(子実)をロール製粉し、粉砕物をふるいで分別することによりソバ粉を製造する際に、ふるいに残った残渣のうち大きな物はソバ殻などであり、粒径の小さい残渣画分をふすまとして得ることができる。ダッタンソバふすまには、ソバ粉の5~10倍のルチンが含まれる。
【0018】
ルチンは、ケルセチンの3位に二糖のβ-ルチノース(6-O-α-L-ラムノシル-β-D-グルコース)がグリコシド結合したフラボノイド配糖体である。ルトシドあるいは、ケルセチン3-O-ルチノシドと称されることもある。ダッタンソバのソバ粉については、麺等に加工した際に、内在するルチン分解酵素によってルチンが分解され、ルチン含量が低下することが知られている。ルチンの分解により生じたケルセチンは苦みを呈する。
【0019】
なお、本明細書でダッタンソバふすまというとき、焙煎前の生のものを指す場合と、焙煎後のものを指す場合があるが、どちらを指しているかは文脈から判断できる。
【0020】
(焙煎条件)
本発明では、ダッタンソバふすまを、ふすまに含まれるルチンの熱分解を抑制しつつ、ふすまに含まれるルチン分解酵素を失活させる条件で、焙煎する。
【0021】
焙煎は、乾煎り、ローストと称されることもあるが、熱媒体として油や水を使わずに食材を加熱乾燥させる処理をいう。本発明でダッタンソバふすまを焙煎する際、焙煎のための装置には特に制限はなく、従来技術の焙煎装置を用いることができる。焙煎は、むらなく確実に加熱されるよう、食材を撹拌しながら行ってもよい。
【0022】
ルチンの熱分解を抑制しつつ、ルチン分解酵素を失活させる焙煎条件は、具体的には、温度は140~195℃であり、時間は5~50分である。
【0023】
本発明者らの検討によると、ダッタンソバふすまに含まれるルチンは、140℃では90分焙煎しても分解せず、また160℃では40分焙煎しても分解しない。しかし、180℃では15分の焙煎で一部のルチンが分解し、200℃では7分の焙煎でかなりの部分のルチンが分解する。なお本発明に関し、ルチンの分解の程度を評価するときは、特に記載した場合を除き、ルチンの含量とルチンの分解産物であるケルセチンの含量を測定し、それらの値に基づいて計算されたルチン残存率に拠る。ルチン残存率の計算方法は、本明細書の実施例の項に詳細に記載されている。
【0024】
また本発明者らの検討によると、ダッタンソバふすまに含まれるルチン分解酵素は、140℃では90分焙煎しても完全には失活せずにルチンを分解する活性が残るが、160~180℃では30分、200℃では7分焙煎することにより、ほぼ完全に活性がみられなくなる。なお本発明に関し、ルチン分解酵素の活性を評価するときは、特に記載した場合を除き、ルチン減少率に拠る。ルチン減少率の計算方法は、本明細書の実施例の項に詳細に記載されている。
【0025】
好ましい態様の一つでは、焙煎条件は、140~165℃、15分以下(5~15分)であり、155~165℃、12分以下(5~12分)であることがより好ましい。この焙煎条件であれば、ルチンの熱分解はほとんどなく、また得られた焙煎ダッタンソバふすまを製麺条件で加水した場合であっても、ルチン分解酵素による影響が少ない。
なお、加水率(%)は、粉類に対して使用する水又は塩水の質量%をいい、例えばダッタンソバふすま1kgに対して水500gを使用することを、50%加水という。
【0026】
別の好ましい態様では、焙煎条件は、155~195℃、20分以上である(20~50分)であろ、160~180℃、30~40分であることがより好ましい。この焙煎条件であれば、ルチンの熱分解はほとんどなく、また得られた焙煎ダッタンソバふすまを配合したガレットを製造する場合のような高い加水率で用いた場合であっても、ルチン分解酵素による影響が少ない。
【0027】
<焙煎ダッタンソバふすま、焙煎ダッタンソバふすま含有食品>
本願はまた、上述の焙煎条件による焙煎工程を含む製造方法により製造された、ダッタンソバふすま、及びその焙煎ダッタンソバふすまを含有する食品組成物を提供する。
【0028】
(ルチン含量、ルチン分解酵素の失活化、ルチン残存率)
本発明により提供される焙煎ダッタンソバふすまのルチンの含量は、40mg/g以上であり、好ましくは45mg/g以上であり、より好ましくは50mg/mg以上である。なお、焙煎ダッタンソバふすまや後述する食品組成物等に関し、ルチン含量をいうときは、特に記載した場合を除き、焙煎ダッタンソバふすまや食品の全量に対するルチンの質量として表した値である。焙煎ダッタンソバふすまの場合、全量質量は乾燥質量とほぼ一致する。
【0029】
本発明により提供される焙煎ダッタンソバふすまにおいては、ルチン分解酵素が失活化されている。ルチン分解酵素が失活化されているとは、対象となる焙煎ダッタンソバふすまを45%又は400%加水し、室温又は4℃で24時間保蔵した場合に、ルチン残存率が70%以上であること、好ましくは75%以上であること、より好ましくは80%以上であることをいう。
【0030】
またこのような焙煎ダッタンソバふすまは、食品素材として食品組成物に配合できる。本発明により提供される、焙煎ダッタンソバふすまを含む食品組成物は、ルチン残存率が70%以上であり、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。
【0031】
ここでいうルチンの残存率は、対象となる焙煎ダッタンソバふすまについてルチンの含量とルチンの分解産物であるケルセチンの含量を測定し、それらの値に基づいて計算されたルチン残存率である。ルチン残存率の計算方法は、本明細書の実施例の項に詳細に記載されている。
【0032】
(焙煎ダッタンソバふすまの配合量)
本発明により提供される焙煎ダッタンソバふすまは、ルチン分解酵素が失活化されているために製造工程等においても苦みが出にくく、食品をおいしく感じられなくなるという不都合がほとんどないと考えられる。そのため、食品組成物におけるその配合量は、付与したいルチンの量等に応じ、適宜とすることができる。
【0033】
具体的には、食品組成物の一日摂取量あたり、又は一回摂取量あたりの焙煎ダッタンソバふすまの配合量は、1~30gとすることができ、好ましくは3~20gであり、より好ましくは5~10gである。ルチンの含量としては、食品組成物の一日摂取量あたり、又は一回摂取量あたり100~700mgとすることができ、好ましくは200~600mgであり、さらに好ましくは300~500mgである。
【0034】
このような食品組成物は、繰り返し、又は長期間にわたって摂取してもよく、例えば毎日、又は一日おき等の間隔で、1週間以上、好ましくは4週間以上にわたって摂取することができる。
【0035】
(形態)
本発明の焙煎ダッタンソバふすまを含む食品組成物の形態は、特に限定されず、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等とすることができる。
【0036】
具体的には、菓子類(例えば、クッキー、ビスケット、クラッカー、ボーロ、スナック、スポンジケーキ、アイスクリーム、飴、チョコレート、ようかん、ういろ、まんじゅう、及び団子等)、パン類(例えば、食パン、菓子パン、ベーグル、蒸しパン、及びバターロール等)、麺類(例えば、そば、うどん、冷麺、パスタ、及びそうめん等)、ミックス粉(例えば、から揚げ粉、天ぷら粉、パン用ミックス粉、ホットケーキミックス粉、お好み焼きミックス粉、及びたこ焼きミックス粉等)、飲料(例えば、茶飲料、スープ類、青汁、スムージー)等が挙げられる、また、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。
【0037】
なお、本発明に関し、食品というときは、固体状のものに限定されず、飲料、スープ等の液体状のものも含む。また、食品は、ヒト用のものに限定されず、コンパニオンアニマルや家畜等の非ヒト動物用のものも含む。
【0038】
(他の成分、添加剤)
焙煎ダッタンソバふすまを含む食品組成物は、ルチン以外に、食品として許容可能な他の栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、食物繊維、タンパク質、脂質、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸及びニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、等である。
【0039】
(その他)
食品組成物の製造における焙煎ダッタンソバふすまの配合の段階は、適宜選択することができる。有効成分の特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、製造の初期の段階に、他の原材料(例えば、小麦粉等の穀類粉)に混合して配合することができる。
【0040】
焙煎ダッタンソバふすまを含む食品組成物には、ダッタンソバふすまを原材料として用いている旨、ルチン含量、ルチンの分解による苦みが少ないこと等を表示することができ、またルチンが含まれることにより期待できる特定の保健の目的(機能性)を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができる。直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、チラシ、ポスター、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、展示会、郵送物、電子メール等の手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0041】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
[ルチン分解を抑制する処理方法の検討]
ダッタンソバふすまを様様な条件で焙煎してルチンの熱分解の有無を確認し、ルチンを熱分解させない焙煎条件を明らかにした。またダッタンソバふすまに含まれるルチン分解酵素を失活させる焙煎条件を明らかにした。さらに、焙煎したふすまを加水して保蔵し、ルチン残存率を評価した。
〔材料、方法〕
以下の実験は、特に記載した場合を除き、下記の材料、方法で行った。
【0043】
(ダッタンソバふすま)
ダッタンソバ品種・満点きらりから得たふすま(小林食品、北海道興部町興部865-3)を用いた。
【0044】
(焙煎)
オーブンを用いて焙煎する。オーブンは予め設定温度+10~20℃まで余熱する。(サンプル(ふすま)を入れるときに温度が下がってしまうため。)148×102×61mmの硬質アルミ製のトレーに10gのサンプルを入れ、所定の温度及び時間で、焙煎する。
【0045】
(ルチンの抽出:80%エタノールを用いる方法)
・標準液(標品):Rutin、Quercetinそれぞれを、100mlのメスフラスコに慎重に10mg量りとり、抽出液(80%エタノール)を注ぐ。完全に解けたら、密閉できるガラス瓶に入れて-30℃冷凍庫で保存する。
・測定装置:島津
送液ユニット;LC-20AD
脱気ユニット;DGU-20A 3R
オートサンプラー;SIL-20AC
ダイオードアレイディテクター;SPD-M20A
カラムオーブン;CTO-20AC
・カラム:Cadenza CD-C18, Imtakt, 3μm, 150×2mm
・バイアル:島津 ディスポバイアル 型番:228-31600-91
・ソルベント:
A:7.5%アセトニトリル 92.5%D.W 0.1%TFA
B:50%アセトニトリル 50%D.W 0.1%TFA
・HPLC測定条件
グラジエントなし
T. Flow;0.3 ml/min
B. Conc;35.0%
カラムオーブン温度;40℃
測定時間;20分
【0046】
・手順:
1.チューブにサンプル(30mg)を量り取り、抽出液(80%エタノール)を1ml注ぐ。
2.ボルテックスにかけ、底まで混ざったのを確認して5分間、チューブミキサーで撹拌する。
3.37℃で3時間抽出する。途中1時間おきに、5分間、チューブミキサーで撹拌する。(抽出中に分析用のバイアル瓶を用意しておく)
4.3時間後、5分間、チューブミキサーで撹拌する。
5.4℃で5分間、遠心機にかける。(16000rpm)
6.上清をバイアル瓶に入れて、標準液と同時に分析する。
【0047】
(ルチンの抽出:ルチン抽出液を用いる方法)
・手順
1.サンプル30 mgに、ルチン抽出液(リン酸200μl、メタノール180ml、蒸留水(HPLC用)20mlを混合して調製)を1ml加え、50℃で15分間抽出する。5分ごとに撹拌する。
2.抽出後14,000rpmで10分間遠心する。
3.上清について、「ルチンの抽出:80%エタノールを用いる方法」に記載したのと同様に、HPLCによりルチン含量を計測する。
【0048】
(ルチン分解酵素活性の簡易測定)
・サンプルの準備
サンプルを、スクリューキャップに50mg測り取る。1サンプルについて、6本のチューブに測り取る。
【0049】
・手順:
1.0分サンプル:メタノール1mlをシリンジで入れる。続いて、250μLの50mM酢酸リチウムバッファーpH5.5を入れる。これを3本のチューブについて行う。
2.15分サンプル:250μLの50mM酢酸リチウムバッファーpH5.5を入れ、ボルテックスで均一になるまで撹拌する。正確に15分後にメタノール1mlをシリンジで入れボルテックスで均一になるまで撹拌する。これを3本のチューブについて行う。なお、室温で行う。
3.上記液を一晩(12時間)以上3日以内、室温で放置する。
4.ボルテックスで均一になるまで撹拌し、フィルター濾過して、「ルチンの抽出:80%エタノールを用いる方法」に記載したのと同様に、HPLCによりルチン含量を測定する。
5.0分サンプルのルチン含量と15分サンプルのルチン含量に基づき、ルチン減少率を算出する。ルチン減少率は以下の式で求める。
【0050】
ルチン減少率=(0分サンプルのルチン割合-15分サンプルのルチン割合)/
0分サンプルのルチン割合)×100
0分サンプルのルチン割合=(0分サンプルのルチン質量)/(0分サンプルのケルセチン質量+0分サンプルのケルセチン質量)×100
15分サンプルのルチン割合=(15分サンプルのルチン質量)/(15分サンプルのルチン質量+15分サンプルのケルセチン質量)×100
【0051】
ルチン減少率の値が大きいほど15分間の反応でルチンが減少している、すなわち酵素活性が高い(=酵素が失活していない)ことを示している。そして、ルチン減少率が0%であれば酵素が失活していると判断できる。
【0052】
〔結果〕
(ルチンの熱分解)
焙煎を高温で長時間行えば、ルチン分解酵素が失活するのは当然である。しかし、酵素が失活した際にルチンが熱分解していては意味がない。そのため、熱分解の有無を確認する必要がある。従来の報告では、ルチンの熱分解を考慮していないものも見られる。
【0053】
140℃、160℃、180℃、及び200℃で所定の時間焙煎を行ったときのルチンの分解を、ルチン含量及びケルセチン含量の測定値に基づくルチン残存率により、評価した。ルチンの抽出は、80%のエタノールを用いる方法で行った。なお、本発明者らの検討によると、ルチンの分解をルチン含量のみから評価するより、ルチンの分解産物であるケルセチン含量も考慮して評価したほうが、適切に判断できることが分かっている。ルチン残存率の計算式を、以下に示す。
【0054】
ルチン残存率=焙煎後のルチン含量/(焙煎後のルチン含量+焙煎後のケルセチン含量に相当するルチン含量)×100
ケルセチン含量に相当するルチン含量=ケルセチン含量×(ルチンのモル質量610.517 g/mol/ケルセチンのモル質量302.236 g/mol)
【0055】
結果を
図1Aに示した。140℃90分、160℃40分では熱分解しないが、180℃では15分以上、 200℃では6分以上加熱すると、熱分解することが明らかとなった。
【0056】
なお、ソバ粉(満点きらり)についても焙煎してルチン含量を測定し、ふすまの場合とともに
図1Bに示した。焙煎したふすまには、焙煎したソバ粉(満点きらり)より多くのルチンが含まれていることが示された。
【0057】
(酵素の失活)
次に、ダッタンソバふすまのルチン分解酵素を失活させる焙煎条件を明らかにした。焙煎したダッタンソバふすま及びソバ粉に対し、ルチン分解酵素活性の簡易測定法によりルチン減少率を求め、酵素の失活を評価した。
【0058】
結果を
図2に示した。ダッタンソバふすまのルチン分解酵素は140℃では90分焙煎しても失活せず、160~180℃では30分、200℃では7分焙煎することにより、失活することが明らかになった。またソバ粉(満点きらり)とふすまでは、ふすまのほうが酵素分解による影響が大きいことが明らかになった。
【0059】
(加水後保蔵)
各条件で焙煎したダッタンソバふすまに対して、製麺を想定した45%加水を行った場合と、ガレットを想定した400%加水を行った場合について、室温又は冷蔵(4℃)での保蔵後のルチン残存率を、上記と同様に求めた。なお、ルチンの抽出は、ルチン抽出液を用いる方法で行った。
【0060】
結果を
図3A及び
図3Bに示した。また、焙煎条件、熱分解の有無とともに、下表にまとめた。
【0061】
【0062】
加水後にもルチン残存率70%以上を維持するためには、45%加水の場合は軽めの焙煎(例えば、160℃、10分)で良いが、400%加水の場合は強めの焙煎(例えば、160℃、40分、又は180℃、30分)がよいことが明らかになった。なお、ルチン残存率が70%以上であれば、味にも影響しないと考えられる。
【0063】
従来の報告では、加水条件が1点であったため、焙煎不足、過焙煎が懸念されるが、本発明では45%加水と400%加水との双方を行うことにより、用途に適した焙煎条件を示すことができる。
【0064】
また、冷蔵・冷凍保蔵でのルチン残存率からは、冷蔵すればルチン分解酵素が働かず、冷蔵で酵素活性が抑えられることが明らかとなった。
【0065】
[製造例]
(ソバ麺)
ダッタンソバふすまと小麦粉を、ふすま:小麦粉=1:9の重量比で配合し、常法により製麺する。
【0066】
(白パン)
下記の配合で、ダッタンソバふすまを用いた白パンを製造できる。
小麦粉 98 g
ダッタンソバふすま 2.0g
砂糖 5.0g
ショートニング 5.0g
塩 5.0g
イースト 2.0g
アスコルビン酸 100ppm
水 適量
【0067】
(バターロール)
下記の配合で、ダッタンソバふすまを用いたバターロールを製造できる。
小麦粉 98 g
ダッタンソバふすま 2.0g
砂糖 12 g
バター 15 g
脱脂粉乳 3.0g
塩 1.8g
イースト 3.0g
全卵 10 g
アスコルビン酸 100ppm
水 適量
【0068】
(パウンドケーキ)
下記の配合で、ダッタンソバふすまを用いたパウンドケーキを製造できる。
小麦粉 95 g
ダッタンソバふすま 5.0g
ベーキングパウダー 5.0g
バター 100 g
全卵 100 g
※170℃40分で焼く
【0069】
(ガレット)
下記の配合で、ダッタンソバふすまを用いたガレットを製造できる。
小麦粉 90 g
ダッタンソバふすま 10 g
塩 1.0g
水 400mL
【0070】
(クッキー)
下記の配合で、ダッタンソバふすまを用いたクッキーを製造できる。
小麦粉 30.4 g
ダッタンソバふすま 7.6 g
砂糖 13 g
全卵 19.5 g
バター 4.65g
塩 0.25g
【0071】
(食パン)
下記の配合で、ダッタンソバふすまを用いた食パンを製造できる。
小麦粉 252 g
ダッタンソバふすま 28 g
砂糖 20 g
塩 4 g
バター 20 g
スキムミルク 6 g
ドライイースト 2.4g
水 190mL
【0072】
この配合で製造した食パンを8名で食味したところ、苦味を感じる人と気にならない人はほぼ半々だった。