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特許7420378プローブのティルト角度の調整方法及び高周波特性検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】プローブのティルト角度の調整方法及び高周波特性検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/28 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
G01R27/28 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020026493
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021131305
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103528
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 一男
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 亮
(72)【発明者】
【氏名】堀部 雅弘
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/050001(WO,A1)
【文献】特開2019-39869(JP,A)
【文献】CAGLAYAN, Cosan ; TRICHOPOULOS, Georgios C. ; SERTEL, Kubilay,“Non-Contact Probes for On-Wafer Characterization of Sub-Millimeter-Wave Devices and Integrated Circuits”,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,2014年11月,Vol. 62,No. 11,pp. 2791-2801,DOI: 10.1109/TMTT.2014.2356176
【文献】坂巻亮;堀部雅弘,“高周波プローブのティルト角度の自動調整技術の実デバイスへの適用”,電子情報通信学会2020年総合大会講演論文集 エレクトロニクス1,2020年03月03日,p. 69
【文献】SAKAMAKI, R.,“Contactless in-situ probe planarity adjustment on co-planar devices”,2022 98th ARFTG Microwave Measurement Conference (ARFTG),2022年01月17日,DOI: 10.1109/ARFTG52954.2022.9844092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00-27/32
G01R 31/26-31/3193
G01R 31/50-31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シグナル端子とグランド端子とを有するプローブと、
前記プローブへの信号と前記プローブからの信号とに基づきSパラメータを算出する分析部と、
載置面に載置された被試験デバイスに対する前記プローブの位置及びティルト角度を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部が、
前記プローブを、前記被試験デバイスの上方にあり且つ前記被試験デバイスと前記プローブとが非接触である第1の基準位置に配置し、
前記第1の基準位置おける第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値を超えることとなる第2のSパラメータが算出され、前記第1の基準位置より前記被試験デバイスに近く且つ前記プローブが前記被試験デバイスと非接触である第2の基準位置を探索し、
前記第1のSパラメータとの前記複素平面上の距離が前記第1の閾値より大きい第2の閾値を超える第3のSパラメータが算出され且つ前記第1の基準位置及び前記第2の基準位置より前記被試験デバイスに近い位置を探索し、前記第2の基準位置から、探索された前記位置までの長さを測定し、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより長い場合には、ティルト角度の増加方向を変化させた上でティルト角度を変化させ、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより短い場合には、ティルト角度を同じ増加方向で変化させる
処理を複数回実行することで、複数のティルト角度の中で前記長さがより短いティルト角度を探索する
高周波特性検査システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記処理を、第1の所定回数実施するか、又は、
同一ティルト角度で同一の長さが第2の所定回数以上連続して得られるまで実施する
請求項1記載の高周波特性検査システム。
【請求項3】
シグナル端子とグランド端子とを有するプローブと、前記プローブへの信号と前記プローブからの信号とに基づきSパラメータを算出する分析部と、載置面に載置された被試験デバイスに対する前記プローブの位置及びティルト角度を制御する制御部とを有する高周波特性検査システムにおける前記プローブのティルト角度調整方法であって、
前記制御部が、
前記プローブを、前記被試験デバイスの上方にあり且つ前記被試験デバイスと前記プローブとが非接触である第1の基準位置に配置し、
前記第1の基準位置おける第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値を超えることとなる第2のSパラメータが算出され、前記第1の基準位置より前記被試験デバイスに近く且つ前記プローブが前記被試験デバイスと非接触である第2の基準位置を探索し、
前記第1のSパラメータとの前記複素平面上の距離が前記第1の閾値より大きい第2の閾値を超える第3のSパラメータが算出され且つ前記第1の基準位置及び前記第2の基準位置より前記被試験デバイスに近い位置を探索し、前記第2の基準位置から、探索された前記位置までの長さを測定し、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより長い場合には、ティルト角度の増加方向を変化させた上でティルト角度を変化させ、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより短い場合には、ティルト角度を同じ増加方向で変化させる
処理を複数回実行することで、複数のティルト角度の中で前記長さがより短いティルト角度を探索する
ティルト角度調整方法。
【請求項4】
シグナル端子とグランド端子とを有するプローブと、前記プローブへの信号と前記プローブからの信号とに基づきSパラメータを算出する分析部と、載置面に載置された被試験デバイスに対する前記プローブの位置及びティルト角度を制御する制御装置とを有する高周波特性検査システムにおける制御装置に、
前記プローブを、前記被試験デバイスの上方にあり且つ前記被試験デバイスと前記プローブとが非接触である第1の基準位置に配置し、
前記第1の基準位置おける第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値を超えることとなる第2のSパラメータが算出され、前記第1の基準位置より前記被試験デバイスに近く且つ前記プローブが前記被試験デバイスと非接触である第2の基準位置を探索し、
前記第1のSパラメータとの前記複素平面上の距離が前記第1の閾値より大きい第2の閾値を超える第3のSパラメータが算出され且つ前記第1の基準位置及び前記第2の基準位置より前記被試験デバイスに近い位置を探索し、前記第2の基準位置から、探索された前記位置までの長さを測定し、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより長い場合には、ティルト角度の増加方向を変化させた上でティルト角度を変化させ、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより短い場合には、ティルト角度を同じ増加方向で変化させる
処理を複数回実行させることで、複数のティルト角度の中で前記長さがより短いティルト角度を探索させるためのプログラム。
【請求項5】
シグナル端子とグランド端子とを有するプローブと、前記プローブへの信号と前記プローブからの信号とに基づきSパラメータを算出する分析部とを有する高周波特性検査システムにおいて、載置面に載置された被試験デバイスに対する前記プローブの位置及びティルト角度を制御するための制御装置であって、
前記プローブを、前記被試験デバイスの上方にあり且つ前記被試験デバイスと前記プローブとが非接触である第1の基準位置に配置し、
前記第1の基準位置おける第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値を超えることとなる第2のSパラメータが算出され、前記第1の基準位置より前記被試験デバイスに近く且つ前記プローブが前記被試験デバイスと非接触である第2の基準位置を探索し、
前記第1のSパラメータとの前記複素平面上の距離が前記第1の閾値より大きい第2の閾値を超える第3のSパラメータが算出され且つ前記第1の基準位置及び前記第2の基準位置より前記被試験デバイスに近い位置を探索し、前記第2の基準位置から、探索された前記位置までの長さを測定し、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより長い場合には、ティルト角度の増加方向を変化させた上でティルト角度を変化させ、
測定された前記長さが、直前に測定された長さより短い場合には、ティルト角度を同じ増加方向で変化させる
処理を複数回実行することで、複数のティルト角度の中で前記長さがより短いティルト角度を探索する
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波特性検査システムにおけるプローブのティルト角度の調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回路に対して所定の電気的検査を実行するために高周波特性検査システムが用いられている。高周波特性検査システムは、平面回路等のインピーダンス等の測定に利用され、平面回路網等の被試験デバイス(DUT:Device Under Test)に対して信号を出力し、且つDUTから信号を受信するプローブ(高周波プローブともいう)を有する。
【0003】
プローブは、DUTと電気的に接触することを想定したシグナル端子(S端子)及びグランド端子(G端子)を有する。シグナル端子は、DUTに対して信号を出力し、DUTから信号を受信する。一方、グランド端子は接地される。シグナル端子とグランド端子とは、互いに離間して並行して伸びるようにプローブの本体に配置される。
【0004】
一般に、プローブは、1又は複数のシグナル端子(S端子)、及び1又は複数のグランド端子(G端子)を有する。プローブの種類として、例えば、S-Gタイプ又はG-Sタイプ、G-S-Gタイプ、G-S-G-S-Gタイプがある。S-Gタイプ又はG-Sタイプのプローブは、1つのシグナル端子及び1つのグランド端子を有する。G-S-Gタイプのプローブは、2つのグランド端子及び1つのシグナル端子を有し、このシグナル端子は2つのグランド端子間に配置される。G-S-G-S-Gタイプのプローブは、3つのグランド端子及び2つのシグナル端子を有し、一のシグナル端子は2つのグランド端子間に配置される。
【0005】
DUTのこれまでの測定においては、シグナル端子の先端及びグランド端子の先端が、DUTの測定面と電気的に十分に接触するように、プローブの傾き(角度)が調整される。
【0006】
具体的には、シグナル端子の先端とグランド端子の先端とを結ぶ基準線の向きと、DUTの測定面とが平行になるように、プローブ角度が調整される。これにより、シグナル端子の先端及びグランド端子の先端が、DUTの測定面に対して電気的に同じように接触する。
【0007】
図1(A)及び図1(B)は、プローブのティルト角度を調整する従来の方法を説明するための図である。
【0008】
基板21は、プローブのティルト角度を調整するために用いられ、平坦な導電体面22を有する。導電体面22は、例えば、金属のプレートを用いて形成される。ここで、プローブ1は、G-S-Gタイプである。
【0009】
ある従来方法では、シグナル端子及びグランド端子の先端を、導電体面22と接触させると、導電体面22上に圧痕が形成される。そこで、顕微鏡を用いて、導電体面22上に形成された圧痕を観察し、導電体面22上に3つの圧痕が形成されていれば、プローブ角度は正しいと判定される。一方、導電体面22上に形成された圧痕の数が1つ又は2つの場合、プローブのティルト角度は正しくないと判定される。よって、導電体面22上に3つの圧痕が形成されるようにプローブのティルト角度を調整することにより、シグナル端子の先端とグランド端子の先端とを結んで形成される基準線Lの向きと、導電体面22とが平行となる。しかしながら、このような従来方法は、圧痕の観察結果に基づくので、調整結果にばらつきが大きくなるという問題がある。
【0010】
そのため、他の従来技術が提案されている。具体的には、プローブが有するグランド端子及びシグナル端子と導電体面との接触状態によって、DUTからの反射信号が変化する。そうすると、得られるSパラメータも変化するので、反射信号のSパラメータに基づいてプローブと導体面との接触状態を調べて、シグナル端子の先端とグランド端子の先端とを結ぶ基準線Lの向きと導電体面22とが平行となるプローブのティルト角度を決定するものである。
【0011】
このような従来技術によっても、プローブを導電体面に接触させることを前提としており、プローブを接触させることができるような導電体面が存在していれば良いが、そのようなパターンがDUTの基板上に存在していない場合もある。また、基板上で凹凸が激しい場合には、当該基板上のDUT毎に適切なティルト角度が異なる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開WO2019/050001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、一側面として、プローブのティルト角度を非接触で調整できるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る高周波特性検査システムは、シグナル端子とグランド端子とを有するプローブと、プローブへの信号とプローブからの信号とに基づきSパラメータを算出する分析部と、載置面に載置された被試験デバイスに対するプローブの位置及びティルト角度を制御する制御部とを有する。そして、上記制御部が、被試験デバイスとプローブとが非接触である第1の基準位置における第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値を超えることとなる第2のSパラメータが算出され、第1の基準位置より被試験デバイスに近く且つプローブが被試験デバイスと非接触である第2の基準位置から、第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値より大きい第2の閾値を超える第3のSパラメータが算出されるまでの長さが、より短い、プローブのティルト角度を探索するものである。
【発明の効果】
【0015】
一側面によれば、プローブのティルト角度を非接触で調整できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、従来技術の問題を説明するための図である。
図2図2は、シミュレーションの概要を示す図である。
図3図3は、シミュレーションにおけるプローブの端子構成を示す図である。
図4図4は、シミュレーションの結果を示す図である。
図5図5は、前提となる実験の評価結果を表す図である。
図6図6は、実施の形態に係る高周波特性検査システムの構成例を示す図である。
図7図7は、実施の形態における処理フローを示す図である。
図8図8は、実施の形態における処理フローを示す図である。
図9図9は、実施例における測定結果を示す図である。
図10図10は、実施例における測定結果を示す図である。
図11図11は、コンピュータ装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[本発明の実施の形態の前提となる実験結果等]
まず、プローブのティルト角度の調整を非接触で行えるかについて、電磁界シミュレーションを行って検討した。
【0018】
図2(a)に、シミュレーションのモデルの概要を示す。中央部に、3つの平面電極(Thru基準器)が配置されており、その上にG-S-Gタイプのプローブが2つ配置されている。図2(b)は、図2(a)の拡大図である。また、図2中の矢印方向から見た図が、図3となる。図3に示すように、プローブの端子は、直方体でモデル化されており、プローブのティルト角度Θを、一番左のグランド端子と一番右のグランド端子との高さを異ならせることで表すことにしている。なお、中央の端子がシグナル端子である。例えば、端子間隔が100μmである場合、ティルト角度が2°の場合には、4μmの高さの差が生ずる。
【0019】
このようなプローブのティルト角度を、0°、1°、2°と変化させ、グランド端子の底部から電極までの距離が25μmである位置から徐々にプローブ位置を下げていった場合における各位置で、70GHzにおける反射係数を算出し、評価指標として以下の評価値ΔScalを算出した。
【0020】
【数1】
ここでS11,calは、ある位置における反射係数を表し、S11,25μmは、25μm離れた位置での反射係数を表す。Re及びImは、実数部及び虚数部をとる関数である。このような評価値ΔScalは、25μmにおける反射係数との複素平面上の距離の相当する。
【0021】
このシミュレーション結果を、図4に示す。図4の横軸は、平面電極からの距離を表し、縦軸はΔScalを表す。このように、平面電極からの距離が10μmまでは、ほぼ、どのティルト角度についてもほぼ同様なΔScal変化となっている。また、10μmで、どのティルト角度でも、ΔScalが約0.01程度となる。一方、距離が10μm未満になると、ティルト角度毎にその変化の仕方が大きく異なるようになる。但し、例えば、ΔScal=0.06を基準とすると、ティルト角度0°であれば10μmからさらに4μmだけプローブを下げた位置、ティルト角度1°であれば10μmからさらに8μmだけプローブを下げた位置、ティルト角度2°であれば10μmからさらに9μmだけプローブを下げた位置が特定される。
【0022】
このシミュレーション結果からすると、ΔScalが、第1の基準値0.01に達した位置を基準にすると、より好ましい状態、すなわち、プローブが平面電極と平行の状態に近いほど、プローブをより短い長さ下げるだけで、ΔScalが第2の基準値0.06に達することが分かる。
【0023】
このようなシミュレーション結果に基づき、以下で述べる条件で実験してみた。すなわち、プローブi110-GSG-100(FormFactor社製)及びN5222B及びN5260A(Keysight Technologies社製)VNAシステムを含む高周波特性検査システムで、インピーダンス標準基板(ISS:Impedance Standard Substrate)にはmodel 101-190(FormFactor社製)を用いている。この高周波特性検査システムは、ティルト角度の調整処理の前に、マルチラインTHRU-REFRECT-LINE(mTRL)校正を用いて校正されている。このシステムの周波数帯域は、100MHzから125GHzである。
【0024】
ここで、例えば特許文献1の技術に基づいて、導電体面で1対のプローブのティルト角度の調整を行った。これによりプローブは、導電体面とほぼ平行となるように整列されたものと考えられる。その後、ティルト角度を変化させて、ΔScalと同様の評価値ΔSmeas=0.01となる位置とΔSmeas=0.1となる位置との距離を評価した。
なお、ΔSmeasは、以下のように表される。
【数2】
ここで、S11,airは、DUTから25μm離れた位置の反射係数を表す。
【0025】
図5に評価結果を示す。図5の横軸は、推定される角度ズレ(°)(特許文献1の技術に基づいて調整された角度を0°としているため)を表し、縦軸はΔSmeasが0.01から0.1になるまでの距離ΔDmeasを表している。
【0026】
なお、シミュレーションでは0.06を基準としていたが、この実験では0.1を基準としている。これは、シミュレーションにおけるプローブの端子の形状と、実際のプローブの端子の形状との差に基づく。
【0027】
図5では、角度ズレが少なければ、ΔDmeasの平均及び分散は小さいが、角度ズレの絶対値が大きくなると、ΔDmeasの平均及び分散は大きくなる。
【0028】
このことから、ΔDmeasを分析することでプローブのティルト角度のズレは減らすことができるが、ΔDmeasの分散の大きさからすると、一度の測定では調整を完了させるのは難しい。
【0029】
[本発明の実施の形態]
上で述べたシミュレーション及び実験の結果に基づく、本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0030】
図6に、本発明の実施の形態に係る高周波特性検査システムの構成例を示す。
【0031】
本実施の形態に係る高周波特性検査システム8は、制御装置7と、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)3と、サンプルステージ2と、一対のプローブ1と、一対のティルトステージ17と、一対の周波数拡張ユニット4と、一対のプローブステージ16と、台座5と、顕微鏡20を備える。
【0032】
VNA3は、DUT19の電気的特性を評価するための高周波信号を出力し、DUT19から伝送信号及び反射信号を受信して、所定の分析処理を実行する。
【0033】
サンプルステージ2は、台座5上に配置され、DUT19が載置される平坦な載置面を有する。また、サンプルステージ2は、載置面をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に並進可能な並進ステージ2aと、載置面を回転軸Rを中心に回転可能な回転ステージ2bとを有する。並進ステージ2aのX軸方向及びY軸方向は、回転ステージ2bの回転の影響を受けない。
【0034】
一対のプローブ1は、サンプルステージ2を挟んで対向するようにティルトステージ17に配置される。プローブ1は、少なくとも1つのシグナル端子(S端子)と、少なくとも1つのグランド端子(G端子)を有する。プローブ1は、図1に関連して述べたものと同様である。
【0035】
なお、シグナル端子の先端とグランド端子の先端とを結ぶことにより、基準線Lが形成されるが、プローブが3つ以上の端子を有する場合、端子の先端を結んだ基準線Lは、厳密な直線ではない場合もある。プローブの加工精度に起因して、端子の先端を結んだ線が、直線とならない場合もあるからである。基準線Lの直線度には、このような直線からの乖離が許容される。
【0036】
プローブ1を回転軸Rを中心として回転することにより、基準線LのDUTの測定面に対する傾きが調整される。プローブ1の回転軸R周りの回転角度が、ティルト角度(プローブ角度ともいう)である。
【0037】
一対の周波数拡張ユニット4は、サンプルステージ2を挟んで対向するようにプローブステージ16上に配置される。周波数拡張ユニット4は、VNA3が入力した信号の周波数を拡張してシグナル端子へ出力する。周波数拡張ユニット4は、VNA3が生成できない周波数の信号を出力する場合に使用される。一対のティルトステージ17は、互いに対向するように周波数拡張ユニット4に固定されている。なお、ここでは、周波数拡張ユニット4の機能は、VNA3に含まれるものとする
【0038】
一対のプローブステージ16は、サンプルステージ2を挟んで対向するように、台座5上に配置される。プローブステージ16は、周波数拡張ユニット4をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に並進可能である。周波数拡張ユニット4が移動することにより、プローブ1の位置を移動可能である。
【0039】
制御装置7は、VNA3、サンプルステージ2、ティルトステージ17及びプローブステージ16の動作を制御する。制御装置7は、コンピュータにより実装される場合もあれば、専用の回路によって実装される場合もある。
【0040】
顕微鏡20は、サンプルステージ2の載置面上に載置されたDUT等とプローブ1とのおおよその位置関係を決めるためなどに使用される。
【0041】
次に、図7及び図8を用いて、本実施の形態に係る高周波特性検査システムにおけるプローブ1のティルト角度の調整処理の一例について説明する。
【0042】
制御装置7は、DUT上の所定位置(例えば25μm上の位置)に、プローブ1を移動させるように制御する(ステップS1)。そして、制御装置7は、カウンタNを1に初期化する(ステップS3)。
【0043】
その後、VNA3は、初期位置におけるSパラメータを測定し、制御装置7に出力する(ステップS5)。具体的には、反射係数S11を複数回計測して、その平均値をS11,airと設定する。
【0044】
制御装置7は、プローブ1を第1所定長(例えば1μm)だけ下げるように制御し、VNA3は、その状態でSパラメータS11,measを測定し、制御装置7に出力する(ステップS7)。
【0045】
制御部7は、式(2)に従って、ΔSmeasを算出して、ΔSmeas>0.01となったか否かを判断する(ステップS9)。0.01は、本実施の形態における一例であって、場合によっては他の値を採用することが好ましい場合もある。ΔSmeas≦0.01であれば、処理はステップS7に戻る。
【0046】
一方、ΔSmeas>0.01となった場合には、制御装置7は、カウンタnを1に初期化する(ステップS11)。
【0047】
そして、制御装置7は、プローブ1を第2所定長(ここでは0.25μm)だけ下げるように制御し、VNA3は、SパラメータSmeasを測定する(ステップS13)。第1所定長より第2所定長を短くし、小刻みにプローブ1を下げることが好ましい。
【0048】
ここで、制御装置7は、nを1インクリメントし(ステップS15)、式(2)に従ってΔSmeasを算出して、ΔSmeas>0.1となったか否かを判断する(ステップS17)。0.1は、本実施の形態における一例であって、場合によっては他の値を採用することが好ましい場合もある。ΔSmeas≦0.1であれば、処理はステップS13に戻る。
【0049】
一方、ΔSmeas>0.1となった場合には、処理は端子Aを介して図8の処理に移行する。すなわち、制御装置7は、距離DNにnを代入する(ステップS19)。これは、ΔSmeas>0.01を満たしたときの位置から、ΔSmeas>0.1という条件を満たしたときの位置までの距離は、n×第2所定長であるので、代わりに距離DNにnをセットしている。従って、DNにn×第2所定長を代入しても良い。
【0050】
そして、制御装置7は、DN>DN-1であるか否かを判断する(ステップS21)。D-1には、例えば十分に大きな値を設定しておくことにしても良い。この条件を満たしている場合には、好ましくない方向にプローブ1のティルト角度を増加させたことになるので、制御装置7は、プローブの傾斜方向を反転させる(ステップS23)。プローブの傾斜方向は、初期的に設定しておき、初めてこの条件を満たした場合に、傾斜方向を反転させる。
【0051】
そして、制御装置7は、プローブ1を所定角度(例えば0.2°)傾けるように制御する(ステップS27)。ステップS21の条件を満たした場合には、ステップS23で反転された傾斜方向で所定角度だけティルト角度を増加させる。一方、ステップS21の条件を満たしていない場合には、従前の傾斜方向で所定角度だけティルト角度を増加させる。
【0052】
一方、制御装置7は、DN<DN-1であるか否かを判断する(ステップS25)。この条件を満たした場合には、好ましい方向にプローブ1のティルト角度を増加させたことになるので、処理はステップS27に移行する。一方、DN<DN-1ではない場合には、DN=DN-1ということになるので、ティルト角度の変更は行わずに、処理はステップS29に移行する。
【0053】
ステップS27の後又はステップS2の条件が満たされなかった場合には、制御装置7は、カウンタNの値が閾値Nth(例えば21)を超えたか否かを判断する(ステップS29)。Nthについても、他の好ましい値に変更しても良い。
【0054】
N>Nthではない場合には、制御装置7は、Nを1インクリメントし(ステプS31)、ティルト角度をそのままにして、所定位置(DUTの25μm上)に移動させるように制御する(ステップS33)。そして処理は端子Bを介して図7のステップS5に戻る。
【0055】
一方、N>Nthとなると、制御装置7は、最後のティルト角度で調整が終了したものとして、測定を実施する(ステップS35)。最後のティルト角度を保存しておき、用いるものとする。
【0056】
このようにすれば、シミュレーション及び実験の結果を踏まえて、ΔSmeas>0.01を満たしたときの位置から、ΔSmeas>0.1という条件を満たしたときの位置までの距離がより短くなるティルト角度を探索することができるようになる。すなわち、より好ましいティルト角度に調整されるようになる。
【0057】
このようにDUTに対して非接触でティルト角度を調整できるようになるので、DUTの破損の恐れは全くない。また、別途ティルト角度の調整のために導電体面を用意することもない。また、同じウェハ上でDUT毎に傾きが違う場合でも、対応可能となる。
【0058】
[実施例]
特許文献1の技術を用いて導電体面上でプローブのティルト角度を調整した後、Thru基準器上に移動させて上で述べた処理フローを5回実行した。図9に、上で述べた処理フローにおけるN=1からN=21までのティルト角度の遷移を示す。図9の横軸は試行回数Nを表しており、縦軸はティルト角度を表す。N=21におけるティルト角度の平均値は0.066°であり、標準偏差は0.206°である。
【0059】
一方、ティルト角度を予め1°だけずらした上で、上で述べた処理フローを2回実行した。図10に、上で述べた処理フローにおけるN=1からN=21までのティルト角度の遷移を示す。図10図9と同様のグラフである。N=21におけるティルト角度の平均値は-1.3°である。もともと1°ずらしているので、-1°がターゲットのティルト角度であり、ほぼ正確に調整できている。
【0060】
このように、本実施例のようにNを適切に設定すれば、上で述べた処理フローで十分な調整ができることが分かる。
【0061】
以上本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、処理結果が変わらない限り、処理フローにおいて処理順番を入れ替えたり、複数のステップを同時に実行するようにしてもよい。
【0062】
また、図7及び図8において、N毎にステップS33からステップS5へ戻るような処理フローを示したが、ステップS11に戻るようにしてもよい。さらに、図7及び図8における処理フローでは、Nthまで、処理を繰り返すようなフローであったが、例えば、所定回数ティルト角度が変化しないといった、収束とみなすことができる状態を検出できれば、その段階で調整を終了させても良い。
【0063】
なお、上で述べた制御装置7は、コンピュータ装置を含み、このコンピュータ装置は図11に示すように、メモリ2501とCPU(Central Processing Unit)2503とハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。なお、HDDはソリッドステート・ドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置でもよい。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本発明の実施の形態における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。CPU2503は、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリ2501に格納されるが、HDD2505に格納されるようにしてもよい。本技術の実施例では、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク2511に格納されて頒布され、ドライブ装置2513からHDD2505にインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部2517を経由して、HDD2505にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及びアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【0064】
なお、上で述べたような処理を実行することで用いられるデータは、処理途中のものであるか、処理結果であるかを問わず、メモリ2501又はHDD2505等の記憶装置に格納される。
【0065】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0066】
本実施の形態に係る高周波特性検査システムは、シグナル端子とグランド端子とを有するプローブと、プローブへの信号とプローブからの信号とに基づきSパラメータを算出する分析部と、載置面に載置された被試験デバイスに対するプローブの位置及びティルト角度を制御する制御部とを有する。そして、上記制御部が、被試験デバイスとプローブとが非接触である第1の基準位置における第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値を超えることとなる第2のSパラメータが算出され、第1の基準位置より被試験デバイスに近く且つプローブが被試験デバイスと非接触である第2の基準位置から、第1のSパラメータとの複素平面上の距離が第1の閾値より大きい第2の閾値を超える第3のSパラメータが算出されるまでの長さが、より短い、プローブのティルト角度を探索するものである。
【0067】
このようにすれば、適切なティルト角度であれば上記長さが短くなることが期待されているので、非接触でティルト角度の調整が行われるようになる。
【0068】
なお、上で述べた制御部は、(a)上記探索を、第1の所定回数実施するか、又は、(b)同一ティルト角度で同一の長さが第2の所定回数以上連続して得られるまで実施するようにしてもよい。第1及び第2の所定回数は実験的に決定することが好ましい。
【0069】
さらに、上で述べた制御部は、(A)第2の基準位置を、第1の基準位置から徐々にプローブを下げることで探索し、(B)第2の基準位置から、プローブを徐々に下げて、第3のSパラメータが算出されるまでの長さを測定し、(C)当該長さが、直前に測定された長さより長い場合には、ティルト角度の増加方向を変化させた上でティルト角度を所定角度変化させ、(D)当該長さが、直前に測定された長さより短い場合には、ティルト角度を同じ増加方向で所定角度変化させる処理を繰り返すようにしてもよい。なお、その時点の長さが直前に測定された長さと同じである場合には、ティルト角度の変更は不要である。
【0070】
以上述べた制御部の処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを作成することができて、そのプログラムは、様々な記憶媒体に記憶される。
【0071】
また、上で述べたような制御部の処理を実行するコンピュータは、1台のコンピュータで実現される場合もあれば、複数台のコンピュータで実現される場合もある。また、VNAに含まれる場合もある。
【符号の説明】
【0072】
1 プローブ
2 ステージ
3 VNA
7 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11