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特許7420496マスク保持機構、蒸着装置、および電子デバイスの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】マスク保持機構、蒸着装置、および電子デバイスの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20240116BHJP
   C23C 16/04 20060101ALI20240116BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240116BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C16/04
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019126170
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011607
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江澤 光晴
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 圭介
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-045137(JP,A)
【文献】特開2013-204100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
C23C 16/04
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクを、磁力を用いて前記成膜対象物の表面に吸着させ、保持するマスク保持機構であって、
前記成膜対象物に対して前記マスクとは反対側に配置され、前記成膜パターンにおける前記成膜対象物の被成膜領域を遮蔽するための前記マスクの遮蔽部に対応した格子形状を有するヨークと、
前記ヨークの前記マスク側に取り付けられる複数の第1永久磁石であって、前記ヨークの前記格子形状において互いに交差する第1直線部と第2直線部のうち、前記第1直線部の延びる方向に沿って間隔を空けて配置され、かつ隣り合う第1永久磁石の着磁方向が互い違いになるように配置される複数の第1永久磁石と、
を備えるマスク保持機構において、
前記ヨークの前記格子形状において方向が異なる前記第1直線部と前記第2直線部とをつなげる交差部に配置される第2永久磁石を備え、
前記第2永久磁石は、その着磁方向が前記複数の第1永久磁石のうち隣り合う前記第1永久磁石の着磁方向とは逆方向であり、
記第1直線部と前記第2直線部とをつなげる前記交差部に配置される前記第2永久磁石は、前記交差部において前記第1直線部が延びる第1方向に沿って2つに分割して配置されるとともに、前記第2直線部の前記第1方向における幅の中心に対して、前記第1方向に対称的に配置されることを特徴とするマスク保持機構。
【請求項2】
前記第1永久磁石と前記第2永久磁石は、大きさが同じであることを特徴する請求項1に記載のマスク保持機構。
【請求項3】
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクと、
請求項1または2に記載のマスク保持機構と、
前記マスク保持機構により前記マスクが吸着された前記成膜対象物に蒸着材料を蒸着させてる蒸着室と、
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【請求項4】
請求項に記載の蒸着装置を用いて前記成膜対象物に成膜することにより、電子デバイ
スを製造することを特徴とする電子デバイスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELパネル等の電子デバイスの製造装置において、磁力によってマスクを保持するマスク保持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の成膜対象物に蒸着材料を蒸着して成膜を行う蒸着装置が用いられており、例えば有機ELパネルの製造時に有機層を蒸着する有機層蒸着装置が知られている。有機層は、厚みが数十μm~数μmの薄い膜であり、膜の形成には1つあるいは複数の開口部が設けられた成膜用のマスクが用いられる。蒸着材料は、成膜用のマスクの開口部を通過して成膜対象物上に堆積することで、所望の位置に所望のパターン形状の有機層を形成することができる。
有機層蒸着装置では、ガラス基板等の成膜対象面へのコンタミネーション付着を嫌うため、成膜対象面を重力方向下側に向けることが多く採用されている。ガラス基板は成膜面を下側に水平に保持され、マスクはそれと対面して水平に保持される。大型ディスプレイパネルのような開口が大きいパターンが数種類組み合わさったパネルレイアウトでは、マスク箔は単純なマトリックス状ではなくラインを組み合わせた形状になっている。ガラス基板とマスクには、相対する位置に位置決めのためのアライメントマークを有し、必要な位置決め精度になるまでアライメント工程を経て重ね合わされる。重ね合わされたマスクは、ガラス基板越しに磁気吸引力でマスク箔への吸引力を付与されて、ガラス基板に吸着される。
【0003】
有機層のような薄い層を成膜するには、成膜時にマスクの影が発生しないように薄いマスク箔を用いられるが、マスク箔が成膜対象物に隙間なく密着することが必須である。素子間や配線パターン間の短絡や漏れ電流もクロストークが発生しないように、マスク箔とガラス基板のすきまを数μm以内が必要とされる場合がある。
そこで、従来技術として、特許文献1記載の有機EL表示装置の製造装置は、基板の成膜面の反対側に永久磁石を配置し、成膜面にあるマスク箔を吸着する永久磁石の配置について記載されている。この特許文献1では、マスク箔の長手方向に複数のN極と複数のS極を周期配置させている。また、複数の永久磁石の間には所定の間隔が設けられていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-119905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のように永久磁石をマスク箔の長手方向に複数のN極と複数のS極を周期配置した場合、マスク箔の交差部では磁気干渉が生じる。そのため、吸着力が想定より大きくなったり、小さくなったりし、マスク箔の吸着力にムラが生じることがある。また、複数の永久磁石の間に間隔を設けると、磁気干渉は回避できるが他の場所と比べ吸着力が低下する。このような、吸着力のムラは、基板とマスク箔の隙間の要因となりえる。
【0006】
本発明は、成膜対象物とマスクとを密着領域の全域にわたって均一な吸着力分布を形成して密着させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のマスク保持機構は、
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクを、磁力を用いて前記成膜対象物の表面に吸着させ、保持するマスク保持機構であって、
前記成膜対象物に対して前記マスクとは反対側に配置され、前記成膜パターンにおける前記成膜対象物の被成膜領域を遮蔽するための前記マスクの遮蔽部に対応した格子形状を有するヨークと、
前記ヨークの前記マスク側に取り付けられる複数の第1永久磁石であって、前記ヨークの前記格子形状において互いに交差する第1直線部と第2直線部のうち、前記第1直線部の延びる方向に沿って間隔を空けて配置され、かつ隣り合う第1永久磁石の着磁方向が互い違いになるように配置される複数の第1永久磁石と、
を備えるマスク保持機構において、
前記ヨークの前記格子形状において方向が異なる前記第1直線部と前記第2直線部とをつなげる交差部に配置される第2永久磁石を備え、
前記第2永久磁石は、その着磁方向が前記複数の第1永久磁石のうち隣り合う前記第1永久磁石の着磁方向とは逆方向であり、
記第1直線部と前記第2直線部とをつなげる前記交差部に配置される前記第2永久磁石は、前記交差部において前記第1直線部が延びる第1方向に沿って2つに分割して配置されるとともに、前記第2直線部の前記第1方向における幅の中心に対して、前記第1方向に対称的に配置されることを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明の蒸着装置は、
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクと、
本発明のマスク保持機構と、
前記マスク保持機構により前記マスクが吸着された前記成膜対象物に蒸着材料を蒸着させてる蒸着室と、
を備えることを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明の電子デバイスの製造装置は、
本発明の蒸着装置を用いて前記成膜対象物に成膜することにより、電子デバイスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成膜対象物とマスクとを密着領域の全域にわたって均一な吸着力分布を形成して密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】有機ELパネルの製造ラインを示す概略図
図2】有機ELパネルの製造ラインの制御ブロック図
図3】搬送キャリアを示す概略図
図4】搬送キャリアの分解斜視図
図5】アライメントのプロセスを示すフロー図
図6】アライメントの進行の各段階を示す概略図
図7】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
図8】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
図9】磁気吸着マグネットの配置およびマスクの吸引力密度を示す図
図10】磁気吸着マグネットの交差部の永久磁石配置を示す図
図11】磁気吸着マグネットの交差部の永久磁石配置の比較を示す図
図12】永久磁石サイズと吸引力密度の均一性の関係を示す図
図13】平均吸引力密度と永久磁石ピッチの関係を示す図
図14】その他の永久磁石配置例を示す図
図15】ファインメタルマスクへ適用した時の本発明の実施例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下で説明する実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本
発明の範囲をそれらの構成に限定するものではない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、製造条件、寸法、材質、形状などは、特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、繰り返しの説明を省略する。
【0011】
本発明は、成膜対象物に蒸着による成膜を行う蒸着装置に使用される蒸着マスクの保持機構に好適であり、典型的には有機ELパネルを製造するためにガラス基板に対して有機材料等を蒸着して成膜する蒸着装置に適用できる。本発明は、基板等の成膜対象物に薄膜、特に無機薄膜を所望の成膜パターンで形成するためのマスクを磁力によって成膜対象物に吸着させて保持する磁気式吸着機構に好適である。
成膜対象物たる基板の材料は、磁力を透過する材料であればよく、ガラス以外にも、高分子材料のフィルム、強磁性体以外の金属などの材料を選択することができる。基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。蒸着材料としても、有機材料以外に、金属性材料(金属、金属酸化物など)などを選択してもよい。
本発明はまた、蒸着装置の制御方法や蒸着方法、薄膜を形成する成膜装置およびその制御方法、ならびに成膜方法としても捉えられる。本発明はまた、有機ELディスプレイなどの有機ELパネルを用いた電子デバイスの製造装置や電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
本発明における電子デバイスとしては、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)なども含まれる。
【0012】
[実施例1]
(製造ライン全体構成)
図1は、有機ELパネルの製造ライン100の全体構成を示す概念図である。概略、製造ライン100は、蒸着処理工程搬送路100a、リターン搬送路100b、マスク受渡機構100c、キャリアシフタ100d、マスク受渡機構100e、プリアライメント室100g、および、キャリアシフタ100fを備える、循環型搬送路を構成する。循環型搬送路を構成する各構成要素、例えば基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105、減速室106、マスク分離室107、反転室108、ガラス基板排出室109などには、搬送路を構成するための搬送モジュール301が配置されている。詳しくは後述するが、本図には、製造プロセスの各工程においてガラス基板G、マスクMおよび静電チャック308(符号C)がどのように搬送路上を搬送されるかが示される。
【0013】
蒸着処理工程搬送路100aでは、概略、外部よりガラス基板Gが搬送方向(矢印A)に搬入され、ガラス基板GとマスクMが搬送キャリア上に位置決めされて保持され、搬送キャリア302とともに搬送路上を移動しながら蒸着処理を施された後、成膜済みのガラス基板Gが排出される。リターン搬送路100bでは、蒸着処理完了後に分離されたマスクMと、ガラス基板排出後の搬送キャリア302が、基板搬入室側へと復帰する。
【0014】
マスク受渡機構100cでは、蒸着処理完了後に搬送キャリアから分離されたマスクMが、リターン搬送路へと移動される。リターン搬送路に移動したマスクMは、基板を排出して空になった搬送キャリア302に再び載置される。キャリアシフタ100dでは、ガラス基板Gを次工程へと排出した空の搬送キャリア302がリターン搬送路100bへと乗せ換えられる。マスク受渡機構100eでは、リターン搬送路100bを搬送されてきた搬送キャリアから分離されたマスクMが、蒸着処理工程搬送路100a上のマスク装着
位置P2へと搬送される。キャリアシフタ100fでは、マスクM分離後の空の搬送キャリアが、リターン搬送路100bから蒸着処理工程搬送路100aの始点のガラス基板搬入位置P1へと搬送される。製造ライン100を用いた製造プロセスの詳細については後述する。
【0015】
図2は、製造ライン100の制御ブロックの概念図である。制御ブロックは、製造ライン100の全体の稼働情報を管理する稼働管理制御部700と、運行コントローラ20を含む。また、製造ライン100を構成する基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105等の各室(各装置)には、各室内部の駆動機構を制御する駆動制御部が設けられている。すなわち、基板搬入室101には基板搬入室制御部701a、反転室102には反転室制御部701b、アライメント室103にはアライメント室制御部701c、加速室104には加速室制御部701d、蒸着室105には蒸着室制御部701eが設けられている。上記以外の各装置(各室)にも、それぞれ制御部701Nが設けられている。これらの駆動制御部と全体を管理する稼働管理制御部700は、制御手段に含めて考えてもよい。また運行コントローラ20も、制御手段に含めて考えてもよい。
【0016】
また、基板搬入室101には搬送モジュールa(301a)、反転室102には搬送モジュールb(301b)、アライメント室103には搬送モジュールc(301c)、加速室104には搬送モジュールd(301d)、蒸着室105には搬送モジュールe(301e)が設けられている。上記以外の各室にも、それぞれ搬送モジュール301Nが設けられている。各装置に配置されている搬送モジュール301には、ガラス基板Gおよび搬送キャリア302の搬送方向に沿って、複数の駆動用コイルがライン状に配置されている。各搬送モジュール301に設けられたエンコーダの値に応じて、各駆動用コイルに流れる電流もしくは電圧を制御することにより、搬送キャリア302の駆動が制御される。搬送キャリア302にライン状に配置された磁石と、搬送モジュール301に搬送キャリア302の磁石に対向するように配置されたコイルが協働して基板を搬送することから、搬送キャリア302と搬送モジュール301を合わせて基板搬送ユニット300(搬送機構)と考えてもよい。
【0017】
各搬送モジュール301には、搬送キャリア302の位置を検出するエンコーダが設置されている。エンコーダの検出値に応じて、稼働管理制御部700が、各室の駆動制御部に指示を送信し、各室の駆動機構の制御を開始または停止させたり、制御状態を変化させたりする。なお、制御のトリガはエンコーダ検出値に限られず、制御に用いることができるものであれば任意のセンサを利用してよい。
【0018】
(搬送キャリアの構成)
図3(A)は固定部としての搬送モジュール301、可動部としての搬送キャリア302からなる基板搬送ユニット300を図1の矢印Aで示す搬送方向から見た正面図である。図3(B)は図3(A)における枠Sで囲む要部の拡大図、図3(C)は搬送キャリア302の側面図、図4は搬送キャリアの分解斜視図である。搬送モジュール301は、製造ライン100の全域にわたって複数個配列されて搬送路を構成する。各搬送モジュール301の駆動用コイルに供給する電流を制御することにより、複数の搬送モジュール全体を1つの搬送路として制御し、搬送キャリア302を連続して移動させることができる。
【0019】
図において、搬送キャリア302のキャリア本体302Aは、矩形状のフレームで構成され、その左右両側面には断面コ字形状に側方に開くガイド溝303a,303bがそれぞれ搬送方向Aに平行な方向に沿って形成されている。一方、搬送モジュール301側の側板3011a,3011b内面には、複数のローラ列からなるローラベアリング(ガイドローラ)304a,304bが回転自在に取り付けられている。そして、各ガイド溝3
03a,303b内にそれぞれ挿入されたローラベアリング304a,304bによって、搬送キャリア302が搬送モジュール301に対して、矢印A方向(搬送方向)に移動自在に支持される。
【0020】
搬送キャリア302のキャリア本体302Aの両側部のガイド溝303a,303bの形成位置における上面には、複数のマグネット(永久磁石)を所定のパターンで配列した駆動用マグネット305a,305b(磁石列)が、基板の搬送方向(進行方向)に平行に、リニアに配置されている。また、搬送モジュール301側には、駆動用マグネット305a,305bと正対する固定部に、複数のコイルを所定のパターンで配列した駆動用コイル306a,306b(コイル列)が配置されている。そして、駆動用マグネット305a,305bと、駆動用コイル306a,306bは、搬送モジュール301に搬送キャリア302が支持されたときに、それぞれ互いに対向して近接するように配置されている。搬送キャリア302側の駆動用マグネット305a,305bと、搬送モジュール301側の駆動用コイル306a,306bとの間に作用する電磁力によって、搬送キャリア302を浮上させたり、矢印Aの方向(搬送方向)に走行させたりすることができる。
【0021】
なお、搬送キャリア側のガイド溝303a,303bの開口幅303Wは、搬送モジュール側の各ローラベアリング304a,304bの直径304Rよりも、クリアランスCLだけ広く形成されている(303W=304R+CL)。この構成により、ガイド溝内において、ローラベアリング304a,304bが所定のクリアランスCLの範囲内で浮上できる。
【0022】
このような構成により、ムービングマグネット型のリニアモータ制御を実施することができる。すなわち、駆動系を構成する駆動用コイル306a,306bを構成する複数のコイルそれぞれに供給する電流を制御することにより、搬送キャリア302の進行方向における推進力を発生させたり、搬送モジュール301に対する磁気浮上力を発生させたりすることができる。なお、搬送機構が備える搬送モジュールと搬送キャリアの一方にコイルを、他方に磁石を配置する構成であればよく、ムービングコイル方式であっても搬送キャリアの浮上アライメントを行うことができる。
【0023】
さらに、図3に示したような搬送モジュール301と搬送キャリア302の構成によれば、ローラベアリング304a,304bを用いて、搬送キャリア302をローラで支持しながら搬送することも可能である。すなわち、搬送キャリア302が磁気浮上していない状態(搬送キャリア302が自重で沈み、ガイド溝303a、303bがローラベアリング304a、304bに接触支持されている状態)で搬送キャリア302を移動させることができる。
【0024】
(搬送キャリア上のガラス基板GとマスクMの保持機構)
次に、搬送キャリア302にガラス基板Gを保持する機構と、ガラス基板上にマスクMを保持する機構について説明する。本実施例によれば、ガラス基板Gは静電吸着手段である静電チャック308によって、マスクMは磁気吸着手段としての磁気吸着チャック307によって、それぞれ搬送キャリア302に重ねて保持されるように構成されている。
【0025】
図3図4において、矩形フレーム状の搬送キャリア302のキャリア本体302A下面には、磁気吸着チャック307と静電チャック308を重ねて収納したチャックフレーム309が取り付けられている。磁気吸着チャック307はマスクMを磁気的に吸着し、静電チャック308はガラス基板Gを静電力によって吸着する。キャリア本体302Aの矩形フレーム上面には、静電チャック308に電荷を帯電させる制御部が内蔵された静電チャック制御ユニット(制御ボックス312)が配されている。
この制御ボックス312にはバッテリーが備わっており、バッテリーに蓄電された電力によって静電チャック308を帯電させることにより、ガラス基板Gを吸着して保持することができる。そのため、充電時以外は搬送キャリアには電力を供給するための動力線を接続する必要はなく、完全に非接触な状態で搬送キャリアを搬送し成膜している。
【0026】
磁気吸着チャック307は、図3に示すように、チャック本体307xと、チャック本体307xの背面(ガラス基板Gと対向する側とは反対側)からキャリア本体302側にZ軸方向(図の上方向)に延びる2本のガイドロッド307aとを有している。このガイドロッド307aがキャリア本体302Aのフレームに設けられた筒状ガイド307bに摺動自在に挿入され、チャックフレーム309内を上下に移動可能となっている。
【0027】
磁気吸着チャック307は、外部に設けられた駆動源側の連結端部の駆動側連結端部に設けられた駆動側フック307gに係脱可能な連結部である連結フック307cを有している。この連結フック307cが駆動側フック307gと係合し、駆動側フック307gを上下方向に駆動(移動)させることによって、ガイドロッド307aを介して、チャック本体307xを上下方向に駆動させる。駆動側フック307gは、装置外部に配置される流体圧シリンダやボールねじを用いた駆動装置等のアクチュエータ307hによって制御される。磁気吸着チャック307が下端位置にあるときマスクMを磁気吸着チャックし、上端位置にあるときアンチャックする。
【0028】
図示例では、ガイドロッド307aの先端部に固定されたキャップ307iに連結フック307cが設けられると共に、キャップ307iの側面に側方に延びる位置決め片307dが設けられている。一方、キャリア本体302A側には、この位置決め片307dが、チャック本体307xの上端位置にて当接する上端ロック片307fと、下端位置をロックする下端ストッパ307eとに選択的に係合可能となっている。上端ロック片307fは、水平方向に移動可能となっており、上端位置にて位置決め片307dの下面に係合する係合位置と、位置決め片307dから離れる退避位置間を移動可能となっている。上端ロック片307fが退避位置にあるときに、位置決め片307dが下方に移動可能となり、下端ストッパ307eに当接することで、チャック本体307xのキャリア本体302Aに対する下降位置が規制される。この下降限は、マスクMを磁気吸着する位置であるが、チャック本体307xと静電チャック308との間には若干隙間を設けている。これによって、磁気吸着チャック307の重量が静電チャック308に作用するのを回避している。
【0029】
この上端ロック片307fの駆動も外部駆動力によって駆動される。例えば、回転駆動のアクチュエータ307mで先端に設けたピニオンを回転駆動させ、上端ロック片307fまたは、直線ガイド307kの可動部材に設けたラックに噛合うようにすれば、上端ロック片307fを水平移動させることができる。
【0030】
上端ロック片307fは、図3に示すように、キャリア本体302Aに設けられた台座307jの上面に、所定間隔離間した一対の直線ガイド307kを介してスライド自在に支持されている。直線ガイド307kの間の台座307j上面には、下端ストッパ307eが突設されている。位置決め片307dは、直線ガイド307kの間を通過可能な幅に構成されており、上端ロック片307fが退避位置に移動すると、下方への移動が可能となり、下端ストッパ307eに当接する。
【0031】
チャックフレーム309の静電チャック308にガラス基板Gを保持した状態で、マスクMをガラス基板Gに対してアライメントを行いながら接近させ、マスクMがガラス基板Gに当接した状態で、磁気吸着チャック307をマスクM側へと移動させる。これにより、マスクMがガラス基板Gおよび静電チャック308を挟んで磁気吸着チャック307に
磁気的に吸着される。これによって、ガラス基板GとマスクMが相互に位置合わせされた状態で、チャックフレーム309にチャックされ、結果として搬送キャリア302に保持されることとなる。
【0032】
次に、図4を参照して、静電チャック308及び磁気吸着チャック307の形状について説明する。チャックフレーム309は、キャリア本体302Aより一回り小さい矩形状の部材で、静電チャック308の外周縁を保持し、磁気吸着チャック307の格子状の支持フレーム307x2を支持する矩形状の枠体307x1の4辺をガイドするガイド壁309aを構成している。
【0033】
静電チャック308は、セラミック等の板状部材で、内部電極に電圧を印加し、ガラス基板Gとの間に働く静電力によってガラス基板Gを吸着するもので、チャックフレーム309の下側縁に上下に移動不能に固定されている。静電チャック308は、図4に示すように、複数のチャック板308aに分割されており(図では6枚)、各チャック板308aの辺同士が複数のリブ309bによって固定されている。リブ309bは、磁気吸着チャック307の支持枠が干渉しないように複数に分かれている。
【0034】
磁気吸着チャック307のチャック本体307xは、矩形状の枠体307x1にマスクMに形成された遮蔽パターンに対応するパターンの格子状の支持フレーム307x2と、支持フレーム307x2に取り付けられる吸着マグネット31(図9図14)を含む磁気吸着機構と、を備えた構成となっている。吸着マグネット31は、支持フレーム307x2にヨーク板30(図9図14)を介して格子に沿ってS極、N極のマグネットが交互にライン状に配列されている。磁気吸着機構の詳細については後述する。
【0035】
また、搬送キャリア302下面のチャックフレーム309の周囲複数箇所(実施例では10箇所)には、磁気吸着チャック307とは別に、マスクMを保持するマスク保持手段としてのマスクチャック311が設けられている。このマスクチャック311は、外部に配置されるアクチュエータ311mからの駆動力で駆動される構成で、搬送キャリア302には駆動源は搭載されていない。マスクチャック311は、マスクMの周縁のマスクフレームMFを係止することによって、ガラス基板Gを挟んで保持している。
【0036】
(製造プロセス)
次に実際にガラス基板GにマスクMを固定し、蒸着室において有機EL発光材料を真空蒸着して排出するプロセスについて説明する。
【0037】
図1は、上述したように、有機ELパネルの製造ライン100における各製造プロセス工程に対してガラス基板G、マスクMを搬送する搬送キャリア302(静電チャック308)の移動位置を示す。図では理解を容易とするため、製造プロセス工程における制御上の各移動位置に搬送キャリア302を符号C1、C2を付して描いているが(符号の意味は後述する。)、実際に図示した数だけ搬送キャリア302が搬送路上に導入されているとは限らない。同時に導入される台数は、製造プロセスの設計、タクトタイムによって決定される。また、図では製造ライン上を搬送キャリア等が紙面上で反時計回りに移動しているが、この方向には限定されない。
【0038】
製造ライン100において、搬送キャリア302の搬送方向への推進力としては磁気駆動方式(リニアモータ方式)が採用される。また搬送キャリア302の鉛直方向の支持には、磁気による浮上とローラによるガイドの支持のいずれかが用いられる。上述したように、搬送キャリア302を磁気浮上させて搬送する場合、ゴミやチリの発生が少ないため、有機ELパネルの製造のような高い真空度やクリーン度が要求される装置での搬送に非常に有効である。
【0039】
図中、各構成要素の位置関係が変化する部位には、以下に示すようなP1~P8の符号を付す。
P1:搬送キャリア上にガラス基板Gを保持するガラス基板搬入位置
P2:搬送キャリア上のガラス基板GにマスクMを装着するマスク装着位置
P3:蒸着処理後のガラス基板GからマスクMを分離するマスク分離位置
P4:蒸着処理後のガラス基板Gを搬送キャリア302から分離して排出する基板排出位置
P5:ガラス基板Gを排出した空の搬送キャリア302をリターン搬送路へと受け渡すキャリア受渡位置
P6:蒸着処理後に分離したマスクMをリターン搬送路上の搬送キャリア302に装着するマスク受渡位置
P7:リターン搬送路上を搬送中の搬送キャリア302からマスクMを分離して、マスク装着位置P2へと搬送するマスク復帰位置
P8:マスクMを分離した搬送キャリア302をリターン搬送路から蒸着処理用搬送路上のガラス基板搬入位置P1へとシフトさせるキャリア復帰位置(リターン搬送路終点)
【0040】
製造ライン100を搬送モジュール301によって搬送キャリア302が移動する間に、製造ライン上の様々な位置において、ガラス基板G、マスクM、および、搬送キャリアが備える静電チャック308などの積層関係が変化したり、反転処理によって上下が180°逆転したりする。そこで図1では、ガラス基板G、マスクM、および、静電チャック308の上下関係の理解を助けるために、主な位置ごとに符号を示している。すなわち、ガラス基板Gの成膜される側の面(被成膜面)が一番上に来る場合は符号G1、成膜されない側の面が一番上に来る場合は符号G2で示す。また、静電チャック308の基板吸着側が一番上に来る場合は符号C1、基板を吸着しない側が一番上に来る場合は符号C2で示す。また、マスクMの成膜側の面が一番上に来る場合は符号M1、成膜されない側が一番上に来る場合は符号M2で示す。符号は、各反転室では反転後の状態を示し、搬入室や排出室では搬入後・排出後の状態を示す。
【0041】
<搬入プロセス>
ガラス基板搬入位置P1において、外部のストッカより、蒸着処理工程搬送路100a上の基板搬入室101にガラス基板Gが搬入され、搬送キャリア302上の所定の保持位置において、静電チャック308によって保持される。ガラス基板搬入位置P1においては、搬送キャリア302とこれを支持する搬送モジュール301は、搬送モジュール301が下側となるように配置されている。このとき、搬送キャリア302のガラス基板保持面(チャック面)が上を向いた姿勢である。ガラス基板Gは、ガラス基板搬入位置P1に上方より搬入され、当該チャック面に載置される。
【0042】
続いて、ガラス基板を保持した搬送キャリア302がガラス基板搬入位置P1から反転室102へ搬送される。この搬送はローラ搬送モードで行われる。すなわち、搬送キャリア302は、ガイド溝303がガイドとなるローラベアリング304a、304bに接触しながら、電流または電圧を印加された駆動用コイル306a、306bと駆動用マグネット305a、305bとの間に発生する磁力により、進行方向に進む。
【0043】
<反転・モード切換えプロセス>
反転室102において、回転支持機構が、ガラス基板を保持した搬送キャリア302を支持した搬送モジュール301を、進行方向に対して180度回転させる。これにより搬送キャリア302および搬送モジュール301の上下関係が反転し、ガラス基板Gが下面側となる。回転支持機構は、搬送モジュール301を搬送キャリア302ごと進行方向に180度単位で回転できる。回転動作中に搬送キャリア302と搬送モジュール301の
位置ずれを起こさないように、重心位置に回転軸が位置するように構成することが好ましい。図中では、搬送キャリア302と搬送モジュール301の進行方向での反転を、矢印Rで示す。なお、搬送モジュール301と搬送キャリア302を機械的にロックするロック機構を使用することも好ましい。
【0044】
ここで、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと回転する理由の1つは、搬送キャリア302をガイドするために、搬送キャリアのガイド溝303a,303b内に搬送モジュールの両側に配列されたローラベアリング304a,304bが挿入されていることによる。もう1つの理由は、搬送キャリア側のマグネットと搬送モジュール側のコイルが互いに対向する位置関係にあるため、搬送キャリアのみを反転する構造とすると、反転重量は軽くなるものの、搬送キャリア側のマグネットの配置や搬送モジュールとのガイド機構が複雑になることによる。
【0045】
反転室での反転処理後、駆動用コイルに印加される電流または電圧が制御されて、搬送キャリア302の支持方法が、ローラベアリング304a,304bとガイド溝303a,303bの当接から、磁気浮上に切換えられる。これにより、ローラ搬送モードから磁気浮上搬送モードに移行する。続いて、搬送キャリア302が磁気浮上搬送モードでアライメント室103(マスク装着位置P2)へと移動される。
【0046】
<アライメントプロセス>
アライメント動作は、アライメントカメラによって、ガラス基板GとマスクMに予め形成されているアライメントマークを撮像して両者の位置ずれ量及び方向を検知し、磁気浮上している搬送キャリア302の位置を搬送駆動系によって微動しながら位置合わせ(アライメント)を行い、ガラス基板GとマスクMの位置が正確に位置合わせされた状態で、磁気吸着チャック307によってマスクMが吸着され、搬送キャリア302に保持される。
【0047】
この保持状態は、前述のように10カ所のマスクチャック311によってロックされ、以後、静電チャック308、磁気吸着チャック307を解除しても、ガラス基板GとマスクMがアライメントされた状態で搬送キャリア302に保持された状態が維持される。
【0048】
ここで、アライメントの際に、搬送キャリア302が磁気浮上した状態で、搬送モジュール301に対する位置を微調整するようにしている。そのため、アライメント専用の微動調整機構を別途設けることなく、搬送キャリア駆動系によってアライメントを実施できるので、搬送キャリア302の構成の簡略化、軽量化にも有効である。
【0049】
(処理フロー)
図5のフローチャートと、図6図8を参照して、アライメント室103におけるアライメント動作の詳細を説明する。図6(A)~図8(D)はそれぞれ、図5のステップS1~S5,S7~S12に対応する。なお、説明を簡潔にするため、図6図8にはローラベアリング304a,304bとガイド溝303a,303bを図示しない。
【0050】
まずステップS1において、図6(A)のように、マスクMがマスク受渡機構100eによりプリアライメント室100gから搬入される。アライメント室制御部は、アライメント室103に設けられたセンサにより搬入の完了を検知する。
【0051】
次にステップS2において、図6(B)のように、反転室102からアライメント室103に、基板を保持した搬送キャリア302が磁気浮上搬送モードで搬入される。ここでの搬送方向Aは、奥から手前に向かう方向とする。アライメント室制御部は、搬送モジュール301のエンコーダの値から位置を検出し、所定のアライメント位置で搬送キャリア
302を停止させる。このときのマスクMとガラス基板Gのクリアランス(隙間)を、CLS2とする。例えばCLS2=68mmである。
【0052】
次にステップS3において、図6(C)のように、昇降装置202(ジャッキ203a~203d、昇降ロッド204a~204d)によりマスクMを上昇させ、ガラス基板Gに接触する直前で停止する。ジャッキ203a~203dと昇降ロッド204a~204dは、本実施例では、マスクトレイ205の下面四隅にそれぞれ4組設けられており、図6では、ジャッキ203aと昇降ロッド204a、ジャッキ203bと昇降ロッド204bの組のみ示している。停止位置は、次のステップS4において、アライメントカメラが、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークを同時に計測可能な位置となる。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS3とすると、例えばCLS3=3mmである。
【0053】
次にステップS4において、図6(D)のように、アライメントカメラ1310により、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークが同時に計測される。なお、搬送キャリア302には、アライメントカメラの光軸方向に沿って貫通孔が設けられている。アライメントカメラは、この貫通孔を介して、ガラス基板GとマスクMに設けられたアライメントマークを計測することができる。また、アライメントマーク計測を可能にする構成であれば、貫通孔ではなく、例えば切欠きなどを用いてもよい。
【0054】
次にステップS5において、図7(A)のように、アライメント室制御部は、S4における計測結果からガラス基板GとマスクMの位置ズレ量を算出し、位置ずれの値が所定の許容範囲に収まるように、ガラス基板Gを保持した搬送キャリア302の位置を調整する。位置調整の際には、符号331で示すように、駆動用コイル306a、306b(図3参照)に印加される電流または電圧を制御して、駆動用マグネット305a,305bとの間の磁力を調整する。このように本ステップのアライメント動作は、搬送キャリア302を浮上させた状態で行われる。次にステップS6において、アライメントカメラが再度計測を行い、アライメント室制御部が位置ずれの値が所定の範囲内かどうかを判定する。もし範囲外であればS5に戻り、位置ずれ値が範囲内に収まるまでアライメントを繰り返す。
【0055】
以上述べたように、本フローのアライメント動作は、搬送キャリアおよびそれに保持されるガラス基板Gが磁気浮上した状態で、磁力により搬送キャリアの位置を調整することで行われる。この構成では搬送キャリアと搬送モジュールが非接触であるため、摩擦等の影響が抑制され、また高精度な位置決めが可能になる。また、アライメントに搬送キャリアを搬送するための駆動用コイルと駆動用マグネットにより発生する磁力を用いるため、アライメント用に別の駆動手段を設ける必要がない。その結果、装置の構成を簡易化するとともにコストを低減することが可能である。
【0056】
アライメント動作が完了すると、マスクMを磁気吸着する行程に入るが、本実施例では、まず、マスクチャック311によって、マスクフレームMFをチャックする。
すなわち、S7において、図7(B)のように、マスクMを上昇させてガラス基板Gに近接させる。マスクMの上昇時には、昇降装置202によってマスクトレイ205を上昇させることにより、マスク支持部206によって支持されているマスクMが上昇する。マスクM自体は、図に模式的に示すように撓んでおり、マスク支持部206に支持されたマスクフレームMFが上昇し、ガラス基板Gと所定の隙間まで近接する。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS71とすると、例えばCLS71=0.5mmである。また、搬送キャリア302が磁気浮上していることから、キャリアスタンド部3
1の下端とマスクトレイ205の間にはクリアランスCLS72が存在する。
【0057】
次に、S8において、図7(C)のように、磁気浮上制御をOFFとし、搬送キャリア302をマスクトレイ205に着座させる。磁気浮上制御がOFFとなることによって、浮上力をなくした搬送キャリア302が自重によって落下し、マスクトレイ205に着座する。図示例では、キャリア本体302Aに設けられたキャリアスタンド部302A1の下端がマスクトレイ205に当接するようになっている。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS8とすると、例えばCLS8=0.3mmである。
【0058】
次に、S9において、図7(D)のように、マスクチャックを実施する。
すなわち、外部の駆動装置の駆動によって、回転軸311fが回転駆動され、チャック片311cがマスクフレームMFに係合してチャックされる。図示例では、上側のチャック片311bを省略している。この時点で、マスクフレームMFが固定される。この状態は静電チャック308、磁気吸着チャック307を解除しても維持される。
【0059】
次に、S10において、図8(A)のように、マスクチャック311でマスクMが保持された状態で、搬送キャリア302を浮上開始位置まで上昇させる。搬送キャリア302の上昇はマスクトレイ205の昇降装置によって行う。浮上開始位置は、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305の間隔が、搬送キャリア302を浮上させることができる程度の吸引力となる距離である。本ステップでは例えば、搬送キャリア302を0.7mm程度上昇させる。
【0060】
次に、S11において、図8(B)のように、磁気浮上制御をONとし、マスクトレイ205から、マスクMが保持された搬送キャリア302を浮上させる。すなわち、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305間の吸引力によって、搬送キャリア302がマスクトレイ205から所定量浮上する。上昇量は、たとえば、0.5mm程度である。すなわち、このときのマスクトレイ205と、搬送キャリア302のキャリアスタンド部302A1の下端の間のクリアランスをCLS11とすると、例えばCLS11=0.5mmである。
【0061】
次に、S12において、図8(C)のように、磁気吸着チャック307を下降させてマスクMをガラス基板G表面に磁気吸着させる。すなわち、上昇端でロックされていたロック片が外部のアクチュエータによって回転駆動されて、退避位置に移動して下降方向へのロックが外れ、磁気吸着チャック307がガラス基板Gを保持する静電チャック308に向けて下降し、静電チャック308及びガラス基板Gを挟んで、磁気吸着チャック307の吸着マグネット31とマスクMが磁気吸着されて保持される。これによって、アライメントされた状態のマスクMがガラス基板Gの成膜面に全面的に密着して保持される。なお、磁気吸着チャック307の下方への移動は、搬送キャリア302の外部からの駆動力によって実現している。このときの磁気吸着チャック307の下降量は、例えば30mmである。
【0062】
次に、S13において、図8(D)のように、搬送キャリア302が搬送方向Aに向かって、アライメント室103から加速室104に搬出される。
【0063】
以上のフローにより、静電チャック308によって保持されたガラス基板Gの成膜面に、アライメントされたマスクMが磁気吸着チャック307によって保持され、さらにマスクチャック311によってマスクフレームMFがチャックされた状態で、搬送キャリア302が搬出される。
【0064】
<蒸着プロセス>
図1に戻り、説明を続ける。アライメント動作を完了し、アライメント室103より排出された搬送キャリアは、上述したように加速室104で加速され、蒸着室105へと搬
入される。搬送キャリアを蒸着室105に搬入する前に加速することにより、アライメント室103における高精度アライメント処理に要した時間の遅れを補償し、タクトタイムの低下を抑えることができる。
【0065】
蒸着室では、搬送キャリアを所定の蒸着速度で磁気浮上した状態で矢印B方向に移動しながら、有機EL発光材料を真空蒸着する。これによりガラス基板Gの被成膜面に対し、マスクMによる所望の成膜パターンでの成膜が行われる。このように、搬送キャリアをアライメント室から加速室および蒸着室に搬入するときや、蒸着室内を移動させるときに、磁気浮上搬送モードを用いることで、塵の発生や摩擦による粉体の発生を防止できるので、高品質な成膜が可能となる。
【0066】
<分離・搬出プロセス>
蒸着処理を終え蒸着室105より排出された搬送キャリアは、減速室106で減速され、マスク分離位置P3にあるマスク分離室107へと搬送されて所定位置で停止する。ここでマスクチャック311によるマスクMのロック状態が解除され、マスクMがガラス基板より分離される。
【0067】
分離されたマスクMは、上述したマスク昇降装置と同様の機構によって下降される。マスク受渡機構100cは、下降されたマスクMを保持フレームで受け取って保持し、蒸着処理工程搬送路100aとリターン搬送路100bの間の退避位置へと搬送する。そして、リターン搬送路100b上のマスク受取位置P6に、基板排出後の空の搬送キャリア302が移動して来ると、搬送キャリア302の下方位置へとマスクMを移動させる。そして、マスク昇降装置と同様の機構によってマスクMを搬送キャリア302下面へと上昇させ、磁気チャック308に保持させる。このようにマスクMを保持した搬送キャリア302は、供給側へとリターン搬送される。
【0068】
一方、マスク分離室107でマスクMを分離済みの搬送キャリア302は、マスクチャック311の係止部によってガラス基板Gを保持したまま反転室108へと移動する。反転室108内では、供給側の反転室102と同様の回転支持機構が、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと、進行方向に180度回転する。これにより、ガラス基板Gが上面となる。
【0069】
反転室108で反転された後、搬送キャリア302の搬送モードが、磁気浮上搬送モードから再びローラ搬送モードに切り換えられる。続いて、搬送キャリア302は、ローラ搬送により、基板排出位置P4のガラス基板排出室109へと搬送される。基板排出位置P4では、ガラス基板Gのマスクチャックが解除され、ガラス基板Gは不図示の排出機構によって次工程へと搬送される。
【0070】
ガラス基板排出室109でガラス基板Gを排出して空の状態となった搬送キャリア302は、搬送モジュール301とともに、図で見ると反時計まわりに90度回転される。そのためにガラス基板排出室109は、搬送モジュール301を平面方向で回転させる方向変換機構を備える。続いて搬送キャリア302は、搬送モジュール301からキャリアシフタ100dに受け渡され、リターン搬送路100b始点であるキャリア受渡位置P5へと搬送される。一方、搬送キャリア302をキャリアシフタ100dへと受け渡した後の搬送モジュール301は、時計まわりに90度回転され元の方向に戻る。これにより搬送モジュール301は、次に反転室108より搬出される搬送キャリア302を受け入れ可能な状態に復帰する。
【0071】
キャリアシフタ100dは、搬送モジュール301と同様の搬送用機構を持つ。キャリアシフタ100dは、ガラス基板排出室109で90度回転された搬送モジュール301
から、基板を排出して空になった搬送キャリア302を受け取り、リターン搬送路100bの始点(キャリア受渡位置P5)に配置された方向変換機構(方向変換用の搬送モジュール)110へと引き渡す。方向変換機構110は搬送キャリア302を、平面視で反時計回りに90度回転し、リターン搬送路100bを構成する搬送モジュール301ヘと搬送する。搬送完了後、方向変換機構110は時計まわりに90度回転して元の位置に復帰し、キャリアシフタ100dより次の搬送キャリア302を受け取り可能な状態になる。
【0072】
<リターンプロセス>
搬送キャリア302は、リターン搬送路100b上をローラ搬送モードで移動する。反転室111において、回転支持機構が、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと進行方向に180度回転する。これにより搬送キャリア302は、静電チャック308のマスク装着面が下面側となった状態でマスク受取位置P6に搬入される。続いて搬送キャリア302は、マスク受渡機構100cからマスクMを受け取って磁気吸着チャック307で吸着し、マスクチャック311で保持する。続いて搬送キャリア302は、マスクMをマスクチャック311で保持しながら、引き続きローラ搬送モードで矢印C方向へと移動する。
【0073】
搬送キャリア302は、マスク分離室112におけるマスク分離位置P7まで移動したのち停止し、マスクチャック311を解除してマスクMを分離する。分離されたマスクMは、マスク受渡機構100eへと受け渡される。マスク受渡機構100eは、蒸着処理工程搬送路100aとリターン搬送路100bの間のプリアライメント室100gにおいてマスクMを粗くアライメントしたのち、アライメント室103へと搬送する。
【0074】
一方、マスク分離位置P7においてマスクMを分離した搬送キャリア302は、反転室113において進行方向に180度回転される。これにより静電チャック308のガラス基板保持面が上面側に向いた状態となる。そして搬送キャリア302は、リターン搬送路100bの終点であるキャリア復帰位置P8にある方向変換機構114によって、時計まわりに90度回転される。続いてキャリアシフタ100fヘと引き渡され、蒸着処理工程搬送路100aの始点である、ガラス基板搬入位置P1にある基板搬入室101へと搬送される。方向変換機構114は、搬送キャリア302を引き渡したあとで反時計回りに90度回転して元の状態に戻る。一方、基板搬入室101内に搬入された搬送キャリア302は、さらに反時計まわりに90度回転され、外部より搬入される次のガラス基板Gを保持可能な初期位置へと復帰する。
【0075】
以上の処理を行うことによって、順次搬入されるガラス基板上に有機EL発光材料を蒸着する一連の処理を滞りなく実行することができる。
【0076】
また、搬送キャリア302を磁気浮上方式で搬送することにより塵や摩擦による粉体の発生を抑制できるので、特に蒸着室内部や蒸着室への搬出入などにおいて有効である。さらに、図示例によれば、ガラス基板Gが製造ライン100に搬入された後、アライメント及び蒸着を経て排出されるまでの過程において、ガラス基板Gは一方向に搬送されるのみであり、かつ、進行方向で上下反転する必要はあるものの、ロボット等により平面方向で旋回する必要はない。すなわち、ガラス基板Gは直線状の搬送路上を搬送される。したがって、ガラス基板Gをロボット等で平面方向に旋回する必要がないため、塵や粉体が基板に付着する可能性をさらに低減できる。
【0077】
さらに、図示例では、ガラス基板Gの被成膜面を上向きにした状態で製造ラインに搬入する。そのため、例えばガラス基板Gを成膜されない面を支持機構に載置して搬入すれば、搬送キャリア302上へのガラス基板装着時に成膜面を保護する点でも有効である。
【0078】
ここで、蒸着室では真空中で蒸着材料をPVDあるいはCVDで気化あるいは昇華させて成膜処理を行うため、蒸着材料を下方に配置する必要がある。そこで蒸着時には、ガラス基板の被成膜面を下向きに位置させた姿勢に制御する必要がある。本実施例の構成によれば、マスクMは、搬送キャリア302に保持されたガラス基板Gの被成膜面が下面側を向いている状態で、下側から当該被成膜面に向かって上昇され、アライメント工程を経てガラス基板Gに装着される。そのため、マスクMを装着した時点で、上記の蒸着材料を蒸着可能な姿勢となっている。
【0079】
搬送キャリア302へのガラス基板保持には静電チャック308が用いられ、マスク保持には磁気吸着チャック307および機械式のマスクチャック311が用いられる。静電チャック308および磁気吸着チャック307はチャックフレーム309内に組み込まれており、磁気吸着チャック307は、チャックフレーム309内における昇降動作(マスクMに対するマグネット31の接近離間動作)によってチャック、非チャック状態を切り替えることができる。マスクMは、まず機械式のマスクチャック311により、ガラス基板Gを挟んで搬送キャリア302に弾性的に保持される。その後、磁気吸着チャック307を下降させることで、マスクMのチャックを完了する。本実施例の構成によれば、これら3種のチャックを搬送キャリア302にコンパクトに組み込むことができる。
【0080】
本実施例の静電チャックを制御する静電チャック制御部は、充電式の電源や、制御系からの指令を通信する無線通信手段とともに制御ボックス312に格納され、搬送キャリアに組み込まれている。そのため、製造プロセスにおいて、外部より搬送キャリア302に電源供給ケーブルや通信ケーブル等を接続する必要がなくなる。
【0081】
上述の実施例では、駆動用マグネット305a、305bは搬送キャリア302の上面に設けられ、搬送モジュール301に上に駆動用マグネット305a、305bに対向するように配置された駆動用コイル306a、306bによって上部から吸引される構成となっている。しかしながら磁石ユニットとコイルユニットの配置はこれに限られず、搬送キャリア302の側面に駆動用マグネットを配置し、駆動用マグネットに対向する搬送モジュール301上の位置に複数のコイルを配置し、搬送キャリア302の側面から磁気浮上により保持することも可能である。
【0082】
本実施例によれば、搬送キャリア302によりガラス基板GとマスクMを保持した状態で、蒸着室において蒸着される前に、アライメント室において磁気により浮上した状態で、磁気の力によりアライメントされる。これにより、高精度な位置決めが可能となる。また、搬送キャリアの搬送手段であるコイルへの電流もしくは電圧により制御するため、アライメント用に別の手段を設ける必要がなく、装置をシンプルでかつ低コストで実現することが可能である。
【0083】
<本実施例の特徴的構成及び優れた点>
図9図14を参照して、本実施例に係るマスク保持機構について説明する。
図9に、マスク保持機構としての磁気吸着マグネット307の配置およびマスクMに対する吸引力(吸着力)密度を示す。図9は磁気吸着マグネット307の一部を示しており、図9(A)は底面図(磁気吸着マグネット307をマスクM側から見た模式図)を示し、図9(B)は側面図を示し、図9(C)はマスクMの吸引力密度を示している。
【0084】
磁気吸着マグネット307は、永久磁石31およびヨーク30から構成されている。
ヨーク30は、ガラス基板Gに成膜される成膜パターンにおける被成膜領域を遮蔽するためのマスクMの遮蔽部に対応した格子形状を有している。
永久磁石31は、マスクMの格子形状における直線部に、直線部の延びる方向に沿って所定のピッチ間隔で複数配置されている。複数並んだ永久磁石31は隣り合う永久磁石と
の間でマスク側の磁極が交互にS極、N極となるように、すなわち、着磁方向が互い違いになるように、配置されている。以下で説明する各永久磁石31は、いずれも直方体形状を有しており、ヨーク30からの高さはいずれも同じとなるように構成されている。
ヨーク30と永久磁石31は磁気吸引力で吸着しており、永久磁石31を配置する位置には溝が掘ってあり、永久磁石31の位置を決めている。
本実施例では、ヨーク30の直線部の幅と永久磁石31の幅を同じ大きさに構成し、ヨーク30の直線部のマスクM側の面に、直線部の幅方向に延びて両端開放された溝を形成し、永久磁石31が取り付けられている。
【0085】
マスクMに均一に吸引力を発生させるには図9(A)に示したように、マスクMの遮蔽部(図9(A)の点線部)の幅より永久磁石31およびヨーク30の幅を大きくしておくことが、より大きな吸着力を得ることができるため望ましい。しかし、十分な吸着力が得られるときは、マスクMの遮蔽部の幅より永久磁石31およびヨーク30の幅が小さくなっていてもよい。
【0086】
図9(C)に示した単位面積当たりにマスクMを吸引する力を示す吸引力密度は有限要素法による磁界解析結果であり、永久磁石31の直下で吸引力密度はピークとなり、ピッチPの周期で吸引力が発生している。ガラス基板GとマスクMのすきまを発生せずに密着させる条件として、少なくとも磁気吸着チャック307の単位面積当たり吸引力がマスクMの単位面積当たり重量に対して1倍以上の吸引力をマスクM全域に対して与えることが必要である。本実施例では磁気吸着チャック307の単位面積当たり吸引力はマスクMの単位面積当たり重量に対して3倍以上を持つように構成される。
【0087】
図10に、磁気吸着マグネットの交差部の永久磁石配置を示す。図10(A)は、磁気吸着マグネット307全体の概略図を示し、図10(B)は、磁気吸着マグネット307のT字交差部3070の永久磁石配置を示し、図10(C)は、磁気吸着マグネット307のコーナー交差部3071の永久磁石配置を示している。
【0088】
図10(B)、図10(C)には、図9(A)と同様にマスクMの遮蔽部を点線で示している。磁気吸着マグネット307とマスクMの装置位置は、T字交差部3070の中心、および、コーナー交差部3071の中心とマスクMの遮蔽部の中心が合うようになっている。具体的には、マスクMのガラス基板Gに対する吸着方向に磁気吸着マグネット307とマスクMを投影したときに、マスクMの遮蔽部における直線部の幅中心と、磁気吸着マグネット307の格子形状における直線部の幅中心と、が一致するように位置決めされる。
【0089】
図10(B)に示したように、磁気吸着マグネット307のT字交差部3070の中心に永久磁石31a(第2永久磁石)を配置している。
具体的には、永久磁石31a(第2永久磁石)は、磁気吸着マグネット307において、図の横方向に延びる直線部(第1直線部)における、図の縦方向に延びる直線部(第2直線部)の先端が対向する領域を交差部として配置されている。磁気吸着マグネット307の横方向直線部(第1直線部)に対し、その延びる方向に沿って複数の永久磁石が所定のピッチ間隔を空けて配置されており、その永久磁石のうち、横方向直線部(第1直線部)と縦方向直線部(第2直線部)とをつなぐ交差部に配置される永久磁石31aが本発明の第2永久磁石に対応し、残りの永久磁石が本発明の第1永久磁石に対応する。磁気吸着マグネット307の縦方向直線部(第2直線部)に対しても、その延びる方向に沿って永久磁石31b(第3永久磁石)が所定のピッチ間隔を空けて配置されている。
横方向直線部(第1直線部)の延び方向(第1方向)において、交差部の永久磁石31a(第2永久磁石)の幅中心は、縦方向直線部(第2直線部)の永久磁石31b(第3永久磁石)の幅の中心(あるいは縦方向直線部(第2直線部)の幅中心)と一致する(それ
ぞれ第2直線部の延び方向に沿った1つの仮想直線上に位置する)。
このとき、より均一な吸着力を得るためには、交差部中心の永久磁石31a(第2永久磁石)のマスク側の磁極と、これと隣り合う永久磁石31b(第1永久磁石)のマスク側の磁極とが、互いに異極となるように配置している方が望ましい。
【0090】
図10(C)に示したように、コーナー交差部3071もT字交差部3070と同様に、コーナー交差部3071の中心に永久磁石31c(第2永久磁石)を配置している。中心の取り方は、図10(B)と同様であり、具体的な説明は省略する。この場合も、交差部中心の永久磁石31cのマスク側の磁極と、T字交差部3070と同様に隣り合う永久磁石31dのマスク側の磁極とが、互いに異極となるように配置している方が望ましい。
【0091】
図11に、磁気吸着マグネットの交差部の永久磁石配置の比較を示す。図11(A)は、本実施例の永久磁石配置例を示し、図11(B)は、T字交差部の中心と永久磁石がずれている場合の配置例を比較例として示している。図11(C)は、永久磁石配置による吸引力密度の本実施例と比較例との比較を示しており、図11(A)のAA断面直上の吸引力密度41と、図11(B)のBB断面直上の吸引力密度42と、をそれぞれ示している。
【0092】
永久磁石のマスク側の磁極をS極、N極が交互になるように配置したとき、隣り合う2つの異極(着磁方向が互いに逆方向)の永久磁石が対になって両者の間に磁束が流れる。そのため、図11(B)のような永久磁石の配置では、交差部の中心の両側に配置された永久磁石31fおよび31gとその隣にある永久磁石31hの磁束密度のバランスがとれず、吸引力密度42は交差部の中心に対して非対称になっている。そのため、特定の永久磁石の大きさを調整しただけでは、吸引力密度を均一にするのは困難である。
【0093】
一方、本発明を適用した図11(A)の配置において、吸引力密度41は交差部の中心に対して対称な特性が得られており、交差部の中心以外は吸引力密度値にピークの目標値40と一致している。T字交差部の中心に配置された永久磁石31e(第2永久磁石)の大きさを他の永久磁石(第1永久磁石)より大きくすることで、吸引力密度の対称性を維持したまま、交差部の中心以外は吸引力密度を大きくすることができ、交差部の中心の吸引力密度の大きさと交差部中心以外の吸引力密度の大きさとの差を小さくすることができ、磁気吸着マグネット307全体の吸引力密度を均一にすることができる。
【0094】
図12に、磁気吸着マグネット307の交差部の永久磁石サイズと吸引力密度の均一性の関係を示す。本実施例において、図の横方向をマスクMの長手方向(第1直線部の延び方向:第1方向)とし、該長手方向における磁石の長さを磁石の幅と定義したとき、交差部中心に配置された永久磁石31x(第2永久磁石)の幅をWとし、永久磁石31xに対して長手方向と交差する方向(第2直線部の延び方向:第2方向)に隣り合った位置にある永久磁石31y(第3永久磁石)の幅(第2方向の幅)を15mmとした。その他の永久磁石(第1永久磁石)の幅を10mmとしたとき、永久磁石31x(第2永久磁石)の幅Wとエリア1~エリア5の吸引力密度の均一性の関係について図12の下部の特性で示している。永久磁石31x(第2永久磁石)の幅Wを15mmとしたとき、エリア1~エリア5の吸引力密度差が最も小さくなった。本実施例では、交差部中心に配置された永久磁石31x(第2永久磁石)の幅、および、永久磁石31y(第2直線部に配置された第3永久磁石)の幅(第2方向における幅)を15mmとし、他の永久磁石(第1直線部に配置された第1永久磁石)の幅(第1方向における幅)を10mmとしたとき、吸引力密度を均一にすることができた。
【0095】
図13に、平均吸引力密度と永久磁石ピッチの関係を示す。永久磁石のマスク側磁極間ピッチPを一定に保ったまま、前述したように交差部の中心に永久磁石を配置するのは困
難である。例えば、図13に示すように、交差部の中心の永久磁石30iと永久磁石30jの距離Xと、永久磁石30jと永久磁石30kの距離X’とが異なっており、その差が磁極間ピッチPの倍数でない場合、磁極間ピッチPと磁極間ピッチP’は同じにはできない。
【0096】
永久磁石の磁極間ピッチPの区間で発生する吸引力密度の平均値を平均吸引力密度と定義し、図13の下部に平均吸引力密度と永久磁石の磁極間ピッチPの関係の特性図を示している。本実施例の場合、永久磁石の磁極間ピッチPを17mmから増やしていくと、平均吸着力密度は上昇するが、磁極間ピッチPが25mmから33mmの間のとき、平均吸着力密度はほぼ一定の値になっている。そのため、まず、交差部の中心になるように永久磁石30i、30j、30kを配置する位置を決める。そして、その間の磁極間ピッチPおよびP’を25mmから33mmの間の任意の位置に調整することで、本発明の効果を得ることが可能となり、磁気吸着マグネット307上の全面に対して均一な吸引力密度を与えることができる。
【0097】
図14に、その他の永久磁石配置例を示す。
図14(A)は、交差部の中心に配置すべき永久磁石(第2永久磁石)を永久磁石31mと永久磁石31nの2つに分割した場合した場合の配置例を示している。分割した永久磁石は同極になるようにし、縦方向直線部(第2直線部)に配置された永久磁石の幅中心に対して、横方向直線部(第1直線部)の延びる方向(第1方向)に対称的に配置する。交差部の中心に永久磁石が配置されていなくても、磁気回路的に等価であれば前述した実施例の構成と同様に均一な吸引力密度が得られる。
この場合、永久磁石31mと永久磁石31nの大きさは、少なくとも、その並び方向に沿って配置された他の永久磁石(第1永久磁石)と同じ大きさにすることができる(第1方向の幅が同じ)。したがって、用意すべき永久磁石のサイズの種類を少なくすることができ、コスト低減を図ることができる。
図14(B)は、磁気吸着マグネット307の互いに直交する直線部が十字に交差した構成となった場合の永久磁石の配置例を示している。磁気吸着マグネット307の直線部が十字に交差する場合でも、前述した永久磁石配置は可能である。
なお、本実施例では、第1直線部と第2直線部とが直角に交差する(すなわち、直交する)構成について説明したが、直角に対して多少の角度を有して交差する構成に対しても、本発明は適用可能である。すなわち、第1直線部と第2直線部とが交差する角度は直角に限定されるものではなく、直角でなくとも上述した磁気干渉を生じる角度で交差する構成に対して本発明を適用することで、本実施例と同様の効果を奏することができる。
【0098】
[実施例2]
図15を参照して、本発明の実施例2について説明する。なお、実施例2において実施例1と共通する構成については同じ符号を付して再度の説明を省略する。実施例2においてここで特に説明しない事項は、実施例1と同様である。
【0099】
実施例1では、吸着されるマスクがオープンマスクの場合について説明をしてきたが、ファインメタルマスクに対しても本発明は適用可能である。ファインメタルマスクの場合、磁気吸着マグネットはマスク全面にわたってマスク側の磁極がS極、N極が交互になるように永久磁石が配置されることが多い。しかし、永久磁石およびヨークの使用量が多くなることで、磁気吸着マグネットを含む可動部の重量が大きくなる。可動部の重量が大きいと基板搬送の負荷がかかるばかりではなく、装置全体の剛性を高くする必要があり、大きなコストアップにつながる。そのため、可動部の軽量化が求められることが多いく、可動部の構成要素である磁気吸着マグネットの軽量化が重要である。
【0100】
図13で示したように、本実施例の場合、永久磁石の磁極間ピッチPを増やしていくと
、磁極間ピッチPが25mmまでは平均吸着力密度が上昇する。そのため、平均吸着力密度が上昇した分、永久磁石の使用量を減らしても、同等のマスクの吸着力を得ることができる。
図15に、本発明をファインメタルマスクへ適用した場合の実施例を示す。ファインメタルマスクFMを吸着する磁気吸着チャック307aは永久磁石の磁極間の距離をあけ、平均吸着力密度が上昇した分、永久磁石の使用量を減らしている。さらに、隙間3072を設けることで磁気吸着チャック307aの軽量化を行っている。また、図12を参照して説明したように、吸引力が低下するT字交差部の中心、および、コーナー交差部の中心の永久磁石(図15の実施例では全てのS極)を大きくすることで、吸引力密度を均一にしている。
【符号の説明】
【0101】
307:磁気吸着チャック、30:ヨーク板(ヨーク)、31:永久磁石、G:ガラス基板、M:マスク
図1
図2
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