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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20240116BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
F28D15/02 102D
F28D15/02 101G
F28D15/02 102H
F28D15/04 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019179336
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055914
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】上久保 将大
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131790(WO,A1)
【文献】特開昭58-016187(JP,A)
【文献】米国特許第09618275(US,B1)
【文献】特開2007-205701(JP,A)
【文献】特開2017-146024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
F28D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入された内部空間を有する管状容器を備え、
前記管状容器は、
液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、
前記蒸発部から離隔した位置に配設され、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部と、
前記蒸発部と前記凝縮部の間に位置する中間部と
を有するヒートパイプにおいて、
前記管状容器の内周面に、前記管状容器の長手方向に沿って延在する複数の溝が形成され、
前記蒸発部は、
多孔質金属材料からなり、前記管状容器の内周面に、前記溝が埋まる状態で対向接触するように形成される管状のウィック構造体を備え、
前記中間部は、
非多孔質金属材料からなり、前記管状容器の内周面に対向接触する外周面を有し、一端が前記ウィック構造体の端部に埋設された状態で連接されている内管部材(ただし、外周面に溝を有する場合を除く。)を備え、かつ、
前記管状容器の前記内周面と前記内管部材の前記外周面の境界部分に、前記管状容器の長手方向に沿って前記液相の作動流体が流動可能な流路が形成され、
前記境界部分に形成される流路は、前記複数の溝と前記内管部材の外周面とで区画形成されることを特徴とするヒートパイプ。
【請求項2】
前記蒸発部は、前記管状容器の一端側部分に位置し、前記凝縮部は、前記管状容器の他端側部分に位置する、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記蒸発部は、前記管状容器の中央部分に位置し、前記凝縮部は、前記管状容器の両端側部分に位置する、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記凝縮部は、前記管状容器の内周面が露出した状態のまま存在している、請求項1から3までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記ウィック構造体は、銅粉の焼結体で構成される、請求項1から4までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項6】
前記内管部材は、銅管である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送特性を有するヒートパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のノートパソコンをはじめとした、デジタルカメラ、携帯電話などの電気・電子機器に搭載されている半導体素子等の電子部品は、高機能化に伴う高密度搭載等により、発熱量が増大する傾向があることから、効率よく冷却できるような構成を採用することが重要である。電子部品を冷却するための手段としては、例えばヒートパイプを用いて冷却する方法が挙げられる。
【0003】
ここでヒートパイプは、作動流体が封入された内部空間を有する管状容器(コンテナ)を備える。管状容器は、一端側部分に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部を有し、他端側部分に、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部を有する。蒸発部で液相から気相に相変化させた作動流体は、蒸発部から凝縮部に流れる。凝縮部で気相から液相に相変化させた作動流体は、凝縮部から蒸発部に流れる。このようにして、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で作動流体の循環流れが形成されることによって、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で熱輸送を行っている。
【0004】
従来のヒートパイプとしては、例えば、コンテナの蒸発部に、粒子状の金属粉の焼結体からなるウィック構造体(以下、「ウィック構造体(金属粉)」という場合がある。)を備える構成が挙げられる。蒸発部を構成するウィック構造体(金属粉)は、液相の作動流体の保持力に優れているため、ヒートパイプが、例えば蒸発部側が凝縮部側よりも高い位置にある姿勢、いわゆるトップヒートの姿勢で設置されたとしても、ドライアウト(作動流体が枯渇する現象)を防止することができる。
【0005】
また、本発明者は、特許文献1において、蒸発部と凝縮部の間にある中間部に、蒸発部のウィック構造体(金属粉)に連接するように、金属繊維の焼結体からなる別のウィック構造体(以下、「ウィック構造体(金属繊維)」という場合がある。)を形成し、中間部での毛細管力をより一層高めることによって、凝縮部から蒸発部側への液相の作動流体の還流を促進して熱輸送特性を向上させたヒートパイプを提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2019/131790号(特に図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、蒸発部から凝縮部に向かう気相の作動流体の一部の流れが、ウィック構造体(金属繊維)の端部付近で、ウィック構造体(金属繊維)を通る液相の作動流体の流れとぶつかり合って、いわゆるカウンターフローが生じ、作動流体の循環流れに乱れが生じる可能性がある。かかる作動流体の循環流れの乱れを抑制するようにすれば、ヒートパイプの熱輸送特性は、さらに改善されるものと考えられる。
【0008】
本発明の目的は、蒸発部から凝縮部に向かう気相の作動流体の循環流れの乱れを抑制して、優れた熱輸送特性を有するヒートパイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、液相の作動流体の保持力に優れている管状のウィック構造体(金属粉)を、管状容器(コンテナ)の蒸発部に備える構成を前提とし、熱輸送特性の更なる改善を図るための検討を行ったところ、ウィック構造体(金属粉)に連接(連結)するように、液相の作動流体が透過しない非多孔質構造材料からなる内管部材を設けることによって、上述したようなカウンターフローによる作動流体の流れの乱れが抑制されて、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で作動流体の良好な循環流れを形成できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)作動流体が封入された内部空間を有する管状容器を備え、前記管状容器は、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、前記蒸発部から離隔した位置に配設され、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを有するヒートパイプにおいて、前記蒸発部は、多孔質金属材料からなる管状のウィック構造体を有し、前記蒸発部と前記凝縮部の間に、前記管状容器の内周面に対向して位置する外周面を有し、非多孔質金属材料からなる内管部材を備え、前記管状容器の前記内周面と前記内管部材の前記外周面の境界部分に、前記管状容器の長手方向に沿って前記液相の作動流体が流動可能な流路が形成されていることを特徴とするヒートパイプ。
(2)前記蒸発部は、前記管状容器の一端側部分に位置し、前記凝縮部は、前記管状容器の他端側部分に位置する、上記(1)に記載のヒートパイプ。
(3)前記蒸発部は、前記管状容器の中央部分に位置し、前記凝縮部は、前記管状容器の両端側部分に位置する、上記(1)に記載のヒートパイプ。
(4)前記管状容器の内周面に、前記管状容器の長手方向に沿って延在する複数の溝が形成され、前記境界部分に形成される流路は、前記複数の溝と前記内管部材の外周面とで区画形成される、上記(1)、(2)または(3)に記載のヒートパイプ。
(5)前記ウィック構造体は、銅粉の焼結体で構成される、上記(1)から(4)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(6)前記内管部材は、銅管である、上記(1)から(5)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で作動流体の良好な循環流れを形成でき、優れた熱輸送特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ヒートパイプ(比較例)の内部で生じる作動流体の流れを説明するための図である。
図2図2(a)~(d)は、本発明に従う第1の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、図2(a)が縦断面図、図2(b)が図2(a)のb-b断面図図2(c)が図2(a)のc-c断面図、図2(d)が図2(a)のd-d断面図である。
図3図3は、図2のヒートパイプの内部で生じる作動流体の流れを説明するための図である。
図4図4は、第2の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した縦断面図である。
図5図5(a)、(b)は、内管部材の2つの変形例を示す横断面図である。
図6図6は、管状容器の内周面に形成した複数本の溝の形状の変形例を示したものであって、図2(b)と同じ位置で切断したときのヒートパイプのb-b断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施形態について、以下で説明する。
【0014】
まず、図1を用いて、ヒートパイプ(比較例)の内部で生じる作動流体の流れを説明する。なお、図1および図3では、液相の作動流体F(L)が流れる方向を、黒塗り矢印で示し、気相の作動流体F(g)が流れる方向を、白抜き矢印で示している。
【0015】
ヒートパイプ100は、蒸発部と凝縮部の間に位置する中間部での毛細管力を高めることによって熱輸送特性が向上する。しかし、ウィック構造体(金属粉)109とウィック構造体(金属繊維)110は、液相の作動流体F(L)が通る流路のサイズや性状などが異なり、ウィック構造体(金属粉)109の方が、ウィック構造体(金属繊維)110に比べて、液相の作動流体F(L)が移動する際の移動速度が遅くなる傾向がある。そのため、図1に示すように、毛細管力等によってウィック構造体(金属繊維)110を移動してきた液相の作動流体F(L)が、ウィック構造体(金属粉)109に連接されたウィック構造体(金属繊維)110の端部110aにまで到達しても、ウィック構造体(金属粉)109は、到達した液相の作動流体F(L)の全てを即座に取り込むことができない。その結果、一部の液相の作動流体F(L)は、ウィック構造体(金属粉)109に連接されたウィック構造体(金属繊維)110の端部110aに溜まるようになる。
【0016】
また、蒸発部105で蒸発した蒸気(気相の作動流体F(g))は、コンテナ103の内部空間S100を通って、凝縮部へ向かう。ここで、図1に示すように、気相の作動流体F(g)の一部が液相の作動流体F(L)が通る流路(とくに、端部110a付近)に侵入すると考えられる。とくに、蒸発部105への入熱量が増えてくると、蒸発部105から発生する蒸気の勢いが増し、ウィック構造体(金属繊維)110の内面を通り抜けて、蒸気が液相の作動流体F(L)が通る流路に侵入すると考えられる。
【0017】
端部110a付近では、一部の液相の作動流体F(L)が溜まっているため、この液相の作動流体F(L)と気相の作動流体F(g)が衝突(カウンターフローCF)する可能性が高い。カウンターフローCFが生ずると、液相の作動流体F(L)の蒸発部105への流入(供給)が阻害されてしまい、ヒートパイプ100の熱輸送特性が悪化してしまう。
【0018】
本発明では、蒸発部から凝縮部に向かう気相の作動流体の循環流れの乱れを抑制して、優れた熱輸送特性を有するヒートパイプを提供することを目的とする。以下に本発明にかかるヒートパイプの構成について説明する。
【0019】
<第1の実施形態>
図2(a)~(d)は、本発明に従う第1の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、図2(a)が縦断面図、図2(b)が図2(a)のb-b断面図、図2(c)が図2(a)のc-c断面図、図2(d)が図2(a)のd-d断面図である。なお、図2では、ヒートパイプの内部に封入されている作動流体の図示は省略している。
【0020】
図2に示すヒートパイプ1は、作動流体Fが封入された内部空間Sを有する管状容器であるコンテナ3を備えている。
【0021】
コンテナ3は、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させる蒸発部5と、蒸発部5から離隔した位置に配設され、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させる凝縮部7とを有する。図2に示すコンテナ3は、一端側部分に蒸発部5、他端側部分に凝縮部7を有し、密閉された管として構成されている。コンテナ3の長手方向の延在形状は、図2(a)に示す直線状の他、曲部を有する形状など、特に限定されない。コンテナ3の長手方向に対して直交方向に切断したときのコンテナの外面輪郭形状は、図2(b)~(d)に示す略円形状の他、扁平形状、四角形等の多角形状など、特に限定されない。コンテナ3の肉厚は、特に限定されないが、例えば50~1000μmである。コンテナ3の外径寸法は、特に限定されないが、例えば、コンテナ3が略円形状の外面輪郭形状である場合には、5~20mmの範囲であることが好ましい。また、コンテナ3は、内周面が凹凸のない平滑な面で形成されているベア管でもよいが、後述するように、内周面に、コンテナ3の長手方向に沿って延在する複数の溝(グルーブ)15が形成されたグルーブ管であることが、コンテナの全長にわたって液相の作動流体を輸送するための毛細管力を発揮させる点で好ましい。
【0022】
コンテナ3の材質は、特に限定されない。優れた熱伝導率を有する点から、コンテナ3には、例えば、銅、銅合金等を使用することができる。軽量化の点から、コンテナ3には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等を使用することができる。高強度を有する点から、コンテナ3には、例えば、ステンレス鋼等を使用することができる。また、その他、使用状況に応じて、コンテナ3には、例えば、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金等を用いてもよい。
【0023】
蒸発部5は、図2では、コンテナ3の一端側部分に形成されており、熱的に接続された発熱体(図示せず)から受熱(吸熱)する機能を有する。具体的には、蒸発部5は、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させることで蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。蒸発部5は、コンテナ3の内周面側に管状のウィック構造体9を有している。
【0024】
ウィック構造体9は、多孔質金属材料で構成され、液相の作動流体F(L)が通過できる多数の細孔を有している。ウィック構造体9は、銅粉の焼結体で構成されていることが好ましい。このような構成によれば、ウィック構造体9は、熱伝導性が高く、耐ドライアウト性などを発揮し、逆作動性を有する。逆作動性とは、蒸発部5の位置が凝縮部7の位置よりも高い場合でも機能を発揮する性能をいう。
【0025】
ウィック構造体9の原料である金属粉の金属種は、特に限定されず、例えば、銅、銅合金等を挙げることができる。また、金属粉の平均一次粒子径は、特に限定されないが、例えば、10~300μmの範囲にすることが好ましい。
【0026】
凝縮部7は、図2では、コンテナ3の他端側部分に形成されており、蒸発部5で相変化して輸送されてきた気相の作動流体F(g)を、熱交換手段(図示せず)によって放熱する機能を有している。具体的には、凝縮部7は、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させることで凝縮潜熱として輸送された作動流体F(g)の熱をヒートパイプ1の外部に放出する。
【0027】
また、本実施形態のヒートパイプ1は、コンテナ3の内周面側であって、蒸発部5と凝縮部7の間(の中間部)に、内管部材11を備えている。
【0028】
内管部材11は、コンテナ3の内周面3aに対向して位置する外周面11aを有し、液相の作動流体F(L)が通過できない非多孔質構造材料で構成されている。内管部材11は、銅管で構成することが好ましい。また、コンテナ3の内周面3aと内管部材11の外周面11aとで区画される境界部分に、コンテナ3の長手方向Lに沿って液相の作動流体F(L)を流動させる流路13が形成されている。
【0029】
内管部材11は、液相の作動流体F(L)が通過できない非多孔質構造材料で構成されている。そのため、液相の作動流体F(L)は、内管部材11を径方向に通過することができずに、内管部材11との外周面11aとコンテナ3の内周面との間に形成された流路13を通って、内管部材11に連接(連結)されたウィック構造体9の端部位置まで毛細管力等によって移動する。
【0030】
また、ウィック構造体9と内管部材11との連結部は、連接(連結)されている。よって、液相の作動流体F(L)は、連結部から内部空間Sに漏れることはなく、ウィック構造体9の内部に確実に移動させることが可能になる。その結果、蒸発部5で熱を吸収した気相の作動流体F(g)の凝縮部7へ向かう流れが、連結部で乱れることがなくなり、ヒートパイプ1の蒸発部5と凝縮部7との間で、作動流体Fの良好な循環流れを形成することができる。
【0031】
内管部材11は、特許文献1や図1に記載したウィック構造体(金属繊維)110よりも薄くしても、作動流体Fの気液分離を確実に行うことができる。内管部材11の厚さは、特に限定はしないが、例えば0.1~1.0mmで形成することができる。また、内管部材は、特許文献1や図1に記載したウィック構造体(金属繊維)110に比べて、コンテナ3内に簡単に装着できるので、生産性や歩留まりも高くすることができる。
【0032】
コンテナ3の内周面3aには、コンテナ3の長手方向Lに沿って延在する複数の溝15が形成されていることが好ましい。複数の溝15の形成によって、ヒートパイプ1の内部で液相の作動流体F(L)を輸送する際に、毛細管力を発揮することができる。このため、ヒートパイプ1がトップヒートの姿勢で設置されたとしても、凝縮部7から蒸発部5への液相の作動流体F(L)の輸送を確実に行うことができる。
【0033】
また、コンテナ3の内周面3aと内管部材11の外周面11aとで区画される境界部分に形成される流路13は、複数の溝15と内管部材11の外周面11aとで区画形成されることが好ましい。これによって、蒸発部5と凝縮部7の間に位置する中間部での毛細管力がより一層高まり、液相の作動流体F(L)の輸送速度を大きくすることができる。
【0034】
本実施形態のヒートパイプ1は、コンテナ3の内周面3aが、蒸発部5が形成されている箇所では、ウィック構造体9で覆われており、蒸発部5が形成されている箇所と凝縮部7が形成されている箇所の間(の中間部)では、内管部材11で覆われており、凝縮部7が形成されている箇所では、コンテナ3の内周面が露出した状態のまま存在している。
【0035】
<第2の実施形態>
図4は、第2の実施形態のヒートパイプ1Aの内部構造を示した縦断面図である。なお、図4に示す各構成部材は、図2に示す構成部材と同じ場合には、同じ符号を付している。
【0036】
図4に示すヒートパイプ1Aは、作動流体Fが封入された内部空間Sを有する管状容器であるコンテナ3を備えている。コンテナ3は、蒸発部5Aが、コンテナ3の中央部分に位置し、2つの凝縮部7A、7Bが、コンテナ3の両端に位置し、蒸発部5Aと2つの凝縮部7A、7Bの間に形成される2カ所の中間部は、断熱部として構成され、コンテナ全体としては、密閉された管として構成されている。蒸発部5Aは、コンテナ3の内周面側に管状のウィック構造体9Aを有している。
【0037】
また、本実施形態のヒートパイプ1Aは、コンテナ3の内周面側であって、蒸発部5と凝縮部7A、7Bとの間に形成される2カ所の中間部(断熱部)に、それぞれ内管部材11A、11Bを備えている。
【0038】
また、コンテナ3の内周面3aと内管部材11の外周面11aとで区画される境界部分に、コンテナ3の長手方向Lに沿って液相の作動流体F(L)を流動させる流路13が形成されている。
【0039】
内管部材11は、液相の作動流体F(L)が通過できない非多孔質構造材料で構成されている。そのため、液相の作動流体F(L)は、内管部材11を径方向に通過することができずに、内管部材11との外周面11aとコンテナ3の内周面3aとの間に形成された流路13を通って、内管部材11に連接(連結)されたウィック構造体9の端部位置まで毛細管力等によって移動する。
【0040】
また、ウィック構造体9と内管部材11との連結部は、連接(連結)されている。よって、液相の作動流体F(L)は、連結部から内部空間Sに漏れることはなく、ウィック構造体9の内部に確実に移動させることが可能になる。その結果、コンテナ3の中央部に位置する蒸発部5Aで熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、コンテナ3の両端側部分に位置する凝縮部7A、7Bの双方へ分かれて向かう2方向の流れが、連結部で乱れることがなくなり、ヒートパイプ1の蒸発部5と凝縮部7A、7Bとの間で、作動流体Fの異なる経路となる2つの循環流れを良好な状態で形成することができる。
【0041】
<その他の実施形態>
その他の実施形態として、内管部材11は、第1および第2の実施形態では銅管を用いた場合を示したが、かかる構成だけには限定されず、例えば図5(a)に示すように、銅箔を丸めてC形の断面形状に形成した内管部材11Aや、図5(b)に示すように、銅箔の両端を重ね合わせた円形の断面形状に形成した内管部材11Bを用いるなど、種々の態様にすることができる。また、溝15の断面形状は、第1および第2の実施形態では、略三角形状である場合を示したが、かかる構成だけには限定されず、例えば、図6に示す他の実施形態のヒータパイプ1Bの溝15Aのような台形状の他、矩形状など種々の形状を採用することができる。
【0042】
<ヒートパイプの熱輸送メカニズム>
次に、本発明のヒートパイプ1の熱輸送のメカニズムを、図2および図3に示す第1の実施形態のヒートパイプ1を用いて以下で説明する。まず、ヒートパイプ1の蒸発部5が、熱的に接続された発熱体(図示せず)から受熱すると、蒸発部5において、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化することによって、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。次に、蒸発部5で熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、コンテナ3の内部空間Sである蒸気流路を通り、コンテナ3の長手方向Lに蒸発部(受熱部)5から凝縮部(放熱部)7へ流れることで、発熱体から受けた熱が、蒸発部5から凝縮部7へと輸送される。
【0043】
その後、凝縮部7へ輸送された気相の作動流体F(g)は、凝縮部7にて、熱交換手段(図示せず)によって、液相へ相変化させられる。また、輸送されてきた発熱体の熱は、凝縮潜熱としてヒートパイプ1の外部に放出される。そして、凝縮部7で熱を放出して液相に相変化した液相の作動流体F(L)が、コンテナ3の内周面に沿って、凝縮部7から蒸発部5へ還流することで、蒸発部5と凝縮部7の間の作動流体の循環流れを形成することができる。この際、液相の作動流体F(L)が、凝縮部7から蒸発部5に還流する途中である中間部では、コンテナ3の内周面3aと内管部材11の外周面11aとで区画される境界部分に、流路13が形成されている。この流路13によって、中間部での毛細管力がより一層高まり、液相の作動流体F(L)の輸送速度を大きくすることができる。また、特許文献1に記載のヒートパイプのように、中間部にウィック構造体(金属繊維)を配置した場合と比べて、作動流体F(L)の循環流れの乱れが抑制でき、この結果、熱輸送特性を格段に向上させることができる。
【0044】
<ヒートパイプの製造方法>
以下、本発明のヒートパイプの製造方法の具体的な例について説明する。まず、コンテナ基材を用意する。コンテナ基材の形状は、ヒートパイプの形状に合わせて管材、板材、箔材等から適宜選択すれば良い。コンテナ基材の表面に付着した汚れ等は、ヒートパイプの熱伝達能の低下に繋がる恐れがあるため、洗浄することが好ましい。洗浄は一般的な方法で実施すれば良く、例えば溶剤脱脂、電解脱脂、エッチング、酸化処理等を行えば良い。
【0045】
次に、コンテナ基材の内部中心位置に、所定形状の芯棒(例えば、ステンレス製の芯棒)を挿入配置してから、コンテナ基材の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に、ウィック構造体の原料である金属粉(例えば銅粉)を装填する。
【0046】
次いで、金属粉を焼結する工程(焼結工程)と、コンテナ基材内に内管部材を装填する工程(装填工程)を行うが、かかる工程を行う順番は、順不同であり、特に限定はしない。
【0047】
例えば、焼結工程後に装填工程を行う場合には、まず、水素ガスや、水素ガスと不活性ガス(N、Ar、He等)との水素含有ガスなどの還元雰囲気下で、加熱処理を施し、金属粉を焼結させることでウィック構造体(金属粉)を作製する。次いで、コンテナ基材内の芯棒を引き抜いて取り外してから、内管部材(例えば銅管)をコンテナ基材内に、焼結された金属粉の焼結体に突き当たる位置まで押し込んで装填する。
【0048】
また、装填工程後に焼結工程を行う場合には、まず、内管部材を、コンテナ基材内に装填された金属粉に突き当たる位置まで押し込んで装填する。このとき、内管部材の突き当てた端部が、金属粉に、例えば1~3mm程度、埋設されるように強く押し込むことが、その後に行う焼結工程で形成される焼結体と、内管部材との強固な接合が得られる点で好ましい。その後、水素ガスや、水素ガスと不活性ガス(N、Ar、He等)との水素含有ガスなどの還元雰囲気下で、加熱処理を施し、金属粉を焼結させることでウィック構造体(金属粉)を作製する。
【0049】
内管部材の装填後、一方の端部である封入口を残してコンテナ(管材)の他方の端部だけを封止し、封入口から作動流体を注入する。作動流体を注入した後、コンテナ内部を、加熱脱気、真空脱気等の脱気処理をして減圧状態にする。その後、封入口を封止することでヒートパイプを製造する。
【0050】
封止の方法は、特に限定されず、例えば、TIG溶接、抵抗溶接、圧接、はんだ等を挙げることができる。なお、最初に行う封止(他方の端部だけの封止)は、その後に行う脱気の際に内部の気体が抜ける部分以外を封止するために行う工程であり、また、2回目の封止(封入口の封止)は、脱気の際に内部の気体が抜ける部分を封止するために行う工程である。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0052】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
実施例1のヒートパイプは、図2に示す内部構造を有する円筒状のヒートパイプ1である。コンテナ3は、例えば、長さが400mm、直径が8mmである。コンテナ3の内周面3aには、コンテナ3の全長にわたって延在し、断面が三角形状を有する60本の溝(溝幅が0.2mm、溝深さが0.2mm)を形成した。ウィック構造体(金属粉)9は、金属粉として平均粒径が0.1mmの銅粉を用い、水素ガス雰囲気下で加熱処理を施した。コンテナ3の内部の一端側部分(蒸発部5)には、長さが100mm、厚さ1mmの円環状の銅焼結体を、コンテナ3の内周面3aの溝が埋まるような状態で形成した。また、蒸発部5と凝縮部7の間には、コンテナ3の内周面3aに対向接触する外周面11aを有する内管部材11である銅管(直径が7mm、長さが100mm、厚さが0.5mm)を、ウィック構造体(金属粉)9の一端に突き当たるまでコンテナ3の内部に押し込んで装填した。コンテナ3の内周面3aに形成された複数の溝15と、内管部材11の外周面11aとで区画される境界部分には、コンテナ3の長手方向Lに沿って液相の作動流体F(L)が流動可能な流路13を形成した。内管部材11の装填後、一方の端部である封入口を残してコンテナ3の他方の端部だけを封止し、封入口から作動流体F(L)である水を注入した後、コンテナ3の内部を脱気して減圧状態とし、その後、封入口を封止することでヒートパイプ1を作製した。
【0054】
(比較例1)
比較例1のヒートパイプ100は、銅管の代わりに、図1に示すウィック構造体(金属繊維)110を配置したこと以外は実施例1のヒートパイプと同様な構成になるようにして作製した。なお、金属繊維としては、銅繊維を用いた。金属繊維の寸法を、繊維長が1.4mm、繊維径が30μmとし、ウィック構造体(金属粉)とともに加熱処理して焼結した。
【0055】
(性能評価)
ヒートパイプの性能評価は以下の条件で行った。
1.ヒートパイプの一端側部分である蒸発部(受熱部)の外面に発熱体(発熱量30W~150W)を装着した。
2.ヒートパイプの他端側部分である凝縮部(放熱部)に熱交換手段を装着した。
3.蒸発部と凝縮部の間の中間部は、断熱材を装着して断熱部とした。
4.水平方向に設置した状態で、蒸発部での入熱量を30Wから10Wずつ増加させていき、蒸発部の温度が非定常となる直前の入熱量の大きさを測定し、この測定した入熱量を最大熱輸送量Qmax(W)とした。
【0056】
その結果、実施例1のヒートパイプ1は、比較例1のヒートパイプに比べて最大熱輸送量が10%増加し、ヒートパイプの性能が向上していることが分かった。
【符号の説明】
【0057】
1、1A、1B ヒートパイプ
3、3A 管状容器(またはコンテナ)
5、5A 蒸発部
7、7A、7B 凝縮部
9、9A、9B ウィック構造体
11、11A、11B 内管部材(または銅管)
13 流路
15、15A 溝
F 作動流体
F(L) 液相の作動流体
F(g) 気相の作動流体
L 管状容器の長手方向
S 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6