(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】複合ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20240116BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20240116BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H01B7/00 310
H01B7/00 301
H01B7/18 H
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2020042280
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 崇範
(72)【発明者】
【氏名】松村 有史
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-27775(JP,A)
【文献】特開2020-27776(JP,A)
【文献】特開2017-147268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/18
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対の信号線と1対の電源線とを備える複合ケーブルにおいて、
前記信号線及び前記電源線がいずれも絶縁被覆層で被覆されており、
前記信号線の対と前記電源線の対がシース層で一括してシースされた構造を有しており、
前記絶縁被覆層と、前記絶縁被覆層に直接接している前記シース層のうち、いずれか一方が、引張弾性率が50MPa以下でゴム弾性を有するエラストマー材料で構成され、他方が、引張弾性率が200MPa以上でゴム弾性を有しない樹脂材料で構成されて
おり、
前記シース層が前記エラストマー材料で構成され、前記絶縁被覆層が前記樹脂材料で構成されていることを特徴とする複合ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁被覆層と前記シース層の引張弾性率の差が150MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合ケーブル。
【請求項3】
前記エラストマー材料は、エチレン-プロピレン共重合ゴム若しくはスチレン系エラストマー又はそれらの組み合わせを40質量%以上含有するように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合ケーブル。
【請求項4】
前記樹脂材料は、ベース樹脂のうち60質量%以上がポリオレフィン系樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の複合ケーブル。
【請求項5】
前記信号線の対と前記電源線の対が全体的に撚り合わされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の複合ケーブル。
【請求項6】
前記信号線及び前記電源線は、いずれも、中心導体が、複数の素線が撚り合わされて構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の複合ケーブル。
【請求項7】
撚り合わされた前記信号線及び前記電源線の撚り込み率が、それぞれ0.5%以上になるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の複合ケーブル。
【請求項8】
前記絶縁被覆層を構成する前記エラストマー材料又は前記樹脂材料が架橋されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の複合ケーブル。
【請求項9】
前記シース層を構成する前記エラストマー材料又は前記樹脂材料が架橋されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の複合ケーブル。
【請求項10】
前記シース層が複数の層で形成されており、前記複数の層のうち少なくとも1層を構成する前記エラストマー材料又は前記樹脂材料が架橋されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の複合ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブルに係り、特に信号線と電源線とを備える複合ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、近年、車両では、高度な電子化により車輪側に複数のセンサが取り付けられており、車両内に、バッテリからそれらのセンサ等に電力を供給する電源線や、検出した信号をセンサからECU等に送信する信号線が配置される場合がある。
そして、それらの電源線や信号線を車両内に配置する際、従来は、それらの線をテープで巻いたり結束バンドで束ねる等してまとめられて配置されることが多かった。
【0003】
近年、それらの線を1本のケーブルにまとめた複合ケーブルの開発が進められている。そして、複合ケーブル内に配置される信号線は、2本を撚り合わせるなどして信号線対の状態とされ、それが複合ケーブル内に1対あるいは複数対配置されるように構成される場合が多い(例えば特許文献1~3等参照)。
また、複合ケーブルは、各信号線や各電源線がそれぞれ絶縁被覆層で被覆され、それらが一括でシースされて形成されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5541331号公報
【文献】特許第6219263号公報
【文献】特許第6424950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように複合ケーブルを絶縁被覆層で被覆した各信号線や各電源線を一括でシースするようにして形成する場合、複合ケーブルの端末のシースを剥ぎ取り、信号線や電源線を取り出す際に、シースの皮むき性が悪い場合がある。
すなわち、シースを剥ぎ取る際に信号線や電源線の絶縁被覆層も剥ぎ取られてしまったり、あるいは、取り出した信号線や電源線の絶縁被覆層にシースが付着して残ってしまったりして、複合ケーブルの端末加工性が悪い場合がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、シースを剥ぎ取って信号線や電源線を適切に取り出すことが可能で、端末加工性に優れた複合ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
少なくとも1対の信号線と1対の電源線とを備える複合ケーブルにおいて、
前記信号線及び前記電源線がいずれも絶縁被覆層で被覆されており、
前記信号線の対と前記電源線の対がシース層で一括してシースされた構造を有しており、
前記絶縁被覆層と、前記絶縁被覆層に直接接している前記シース層のうち、いずれか一方が、引張弾性率が50MPa以下でゴム弾性を有するエラストマー材料で構成され、他方が、引張弾性率が200MPa以上でゴム弾性を有しない樹脂材料で構成されていることを特徴とする。
【0008】
さらに、請求項1に記載の発明は、前記シース層が前記エラストマー材料で構成され、前記絶縁被覆層が前記樹脂材料で構成されていることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の複合ケーブルにおいて、前記絶縁被覆層と前記シース層の引張弾性率の差が150MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の複合ケーブルにおいて、前記エラストマー材料は、エチレン-プロピレン共重合ゴム若しくはスチレン系エラストマー又はそれらの組み合わせを40質量%以上含有するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の複合ケーブルにおいて、前記樹脂材料は、ベース樹脂のうち60質量%以上がポリオレフィン系樹脂で構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の複合ケーブルにおいて、前記信号線の対と前記電源線の対が全体的に撚り合わされていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の複合ケーブルにおいて、前記信号線及び前記電源線は、いずれも、中心導体が、複数の素線が撚り合わされて構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の複合ケーブルにおいて、撚り合わされた前記信号線及び前記電源線の撚り込み率が、それぞれ0.5%以上になるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の複合ケーブルにおいて、前記絶縁被覆層を構成する前記エラストマー材料又は前記樹脂材料が架橋されていることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の複合ケーブルにおいて、前記シース層を構成する前記エラストマー材料又は前記樹脂材料が架橋されていることを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の複合ケーブルにおいて、前記シース層が複数の層で形成されており、前記複数の層のうち少なくとも1層を構成する前記エラストマー材料又は前記樹脂材料が架橋されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複合ケーブルが、シースを剥ぎ取って信号線や電源線を適切に取り出すことが可能で、端末加工性に優れたものになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る複合ケーブルの構成例を表す断面図であり、4芯の場合を表す。
【
図2】本実施形態に係る複合ケーブルの構成例を表す断面図であり、6芯の場合を表す。
【
図3】導電性を有する連続体が中心に配置された複合ケーブルの構成例を表す断面図である。
【
図4】電源線や信号線の中心導体が複数の素線を撚り合わされて構成されていることを表す図である。
【
図5】複合ケーブル内で信号線と電源線が全体的に撚り合わされた状態を表す図である。
【
図6】シース層が複数の層で形成された本実施形態に係る複合ケーブルの構成例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る複合ケーブルについて説明する。
ただし、以下に述べる各実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態や図示例に限定するものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る複合ケーブルの構成例を表す断面図であり、4芯の場合を表し、
図2は6芯の場合を表す。
本実施形態では、複合ケーブル1は、少なくとも1対の信号線2と1対の電源線3とを備えており、各信号線2と各電源線3はそれぞれ中心導体21、31が絶縁被覆層22、32で被覆されている。
そして、信号線2の対と電源線3の対がシース層4で隙間なく直接被覆されており、シース層4で一括してシースされた構造を有している。なお、シース層4は複数の層で構成されていてもよい。
【0021】
なお、
図1や
図2における信号線2の対を含む破線の円は、信号線2が対ごとに撚り合わされていることを表している。
そして、このように、2対の信号線2を、対ごとに信号線2同士を撚り合わせて構成することで、撚り合わせない場合に比べて、信号線2が対ごとに撓みやすくなるとともに、複合ケーブル1が長手方向に引っ張られた際に信号線2が伸びることができるため、複合ケーブル1の可撓性や耐屈曲性(繰り返しの曲げに対する耐性)を向上させることが可能となる。
【0022】
また、複合ケーブル1は、上記のように少なくとも1対の信号線と1対の電源線とを備えるものであればよく、
図1に示した4芯の場合や
図2に示した6芯の場合に限定されない。
さらに、
図1や
図2では電源線3が1対だけ設けられている場合を示したが、2対以上設けられていてもよい。
【0023】
また、本発明者らの研究では、例えば
図3に示すように、複合ケーブル1の中心に連続体5をケーブルの長手方向に配置すると、シース層4の信号線2の部分と電源線3の部分の厚さをほぼ同じになり、複合ケーブル1が端末加工性に優れたものとなる。なお、連続体5としては、例えばポリエチレン(PE)からなる棒や糸状のポリエチレンテレフタレート(PET)を撚り合わせた線(撚線)等を使用することができる。
そして、本発明に係る複合ケーブル1には、このような複合ケーブル1も含まれる。
【0024】
信号線2は、例えば銅合金やアルミニウム合金等の金属線を中心導体21とし、それを絶縁被覆層22で被覆したものを用いることができる。
なお、以下では、信号線2の中心導体21が金属線であることを前提に説明するが、信号線2の中心導体21に例えば光ファイバ心線等が含まれていてもよい。
【0025】
電源線3は、例えば軟銅、銅合金、アルミニウム等の導線からなる中心導体31を絶縁被覆層32で被覆したものを用いることができる。
また、電源線3は、その外径が信号線2の外径よりも太いものが用いられている。このように、本実施形態では、電源線3は信号線2とは外径が異なっている。
【0026】
そして、本実施形態では、
図4に示すように、信号線2や電源線3は、いずれも、中心導体21、31が、複数の素線21a、31aが撚り合わされて構成されている。なお、
図4は、信号線2の中心導体21(素線21a)と電源線3の中心導体31(素線31a)とが同じ太さであることを表すものではない。
【0027】
すなわち、本実施形態では、信号線2は、中心導体21が、それを構成する複数の素線21a、すなわち複数の金属線が互いに撚り合わされて構成されている。複数の素線21aは、全体を一括に撚った撚線であってもよく、複数の素線を撚ったものをさらに撚り合わせた撚撚線であってもよい。
また、電源線3も、中心導体31が、それを構成する複数の素線31a、すなわち軟銅、銅合金、アルミニウム等の導線が互いに撚り合わされて構成されている。
そして、このように構成することで、撚り合わせない場合に比べて、信号線2自体や電源線3自体が撓みやすくなるとともに、複合ケーブル1が長手方向に引っ張られた際に信号線2自体や電源線3自体が伸びることができるため、複合ケーブル1の可撓性や耐屈曲性を向上させることが可能となる。
【0028】
なお、信号線2や電源線3の中心導体21、31を構成する素線21a、31aの撚りピッチ(撚り線がある配置から次に同じ配置になるまでの長さ)が小さくなり過ぎると、撚りピッチが大きい場合に比べて信号線2や電源線3の長さが長くなり、信号線2や電源線3で電気抵抗が大きくなったり信号が低下したりする場合がある。
そのため、撚り合わされた信号線2や電源線3の撚り込み率は、それぞれ適切な値に設定されることが望ましい。
【0029】
なお、撚り込み率A(%)は、撚りピッチをP、層心径をDとするとき、下記式(1)で表される。
【数1】
【0030】
本発明者らの研究によると、信号線2や電源線3の撚り込み率は、それぞれ0.5%以上になるように構成されていることが好ましいことが分かっている。
そして、このように構成すれば、信号線2や電源線3で必要以上に電気抵抗が大きくなったり必要以上に信号が低下したりすることなく、複合ケーブル1の可撓性や耐屈曲性を向上させることが可能となる。
【0031】
また、例えば
図5に示すように、複合ケーブル1の内部で、信号線2の対と電源線3の対が全体的に撚り合わされるように構成することも可能である。
このように、信号線2の対と電源線3の対が全体的に撚り合わされることで、複合ケーブル1全体の可撓性や耐屈曲性をさらに向上させることが可能となる。なお、
図5では、複合ケーブル1が4芯の場合(
図1参照)について示したが、他の構成においても同様である。
【0032】
次に、信号線2や電源線3の各絶縁被覆層22、32やシース層4の材料等について説明する。
本実施形態では、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32と、絶縁被覆層22、32に直接接しているシース層4(シース層4が複数の層で構成されている場合は最内層。以下同じ。)のうち、いずれか一方が、引張弾性率が50MPa以下でゴム弾性を有するエラストマー材料で構成され、他方が、引張弾性率が200MPa以上でゴム弾性を有しない樹脂材料で構成されている。
【0033】
すなわち、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32がエラストマー材料で構成されている場合は、シース層4は樹脂材料で構成される。
また、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32が樹脂材料で構成されている場合は、シース層4はエラストマー材料で構成される。
【0034】
そして、後者の場合、すなわち、シース層4がエラストマー材料で構成されており、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32が樹脂材料で構成されていれば、複合ケーブル1全体が軟らかくなり、複合ケーブル1の可撓性や耐屈曲性が向上する。
また、シース層4を容易に成形加工することが可能となる等のメリットもある。
【0035】
なお、本発明において、エラストマー材料とはエラストマーを含む材料をいい、エラストマーには、熱可塑性エラストマーに加え、各種熱硬化性のゴムも含まれる。また、樹脂材料とは、エラストマーを含まない樹脂(プラスチック)からなる材料をいう。
そして、エラストマーとしては、例えば、熱可塑性ポリエステルエラストマーやスチレン系エラストマー、エチレン-プロピレン共重合ゴムが好ましく用いられる。
【0036】
熱可塑性ポリエステルエラストマーの例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート等の芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族ポリエーテルからなるソフトセグメントとのブロック共重合体が挙げられる。
【0037】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー)、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SBS)、SEEPS(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー)、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SIS)、HSBR(水素化スチレン-ブタジエンランダムコポリマー)等を挙げることができる。
また、スチレン系エラストマーとして、ポリスチレンブロックとポリオレフィン構造のエラストマーブロックで構成された、二元又は三元の共重合体を使用することもできる。
【0038】
また、エチレン-プロピレン共重合ゴムとして、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM)やエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を用いることが可能である。また、例えば、エチレン、プロピレン以外の第三成分として不飽和基を有する繰返し単位を有するエチレン-プロピレンターポリマー(例えば、EPDMが挙げられる)を包含するゴム等を用いることも可能であり、エチレンとプロピレンとの共重合体からなるゴムであれば特に限定されない。
【0039】
また、エラストマー材料は、上記に例示した各種のエラストマーを組み合わせたものを含んでいてもよい。
そして、上記のエラストマー材料が、上記のエチレン-プロピレン共重合ゴムやスチレン系エラストマー、あるいはそれらの組み合わせを40質量%以上含有するように構成されていれば、ゴム弾性を有するとともに、引張弾性率を50MPa以下に形成しやすくなり好ましい。
【0040】
一方、上記の樹脂材料が、ベース樹脂のうち60質量%以上がポリオレフィン系樹脂で構成されていれば、ゴム弾性を有さずに、引張弾性率を200MPa以上に形成しやすくなり好ましい。
なお、ポリオレフィン系樹脂には、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)の他、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等も含まれ、さらに、それらが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸などの不飽和カルボン酸で変性されたものも含まれる。
【0041】
本実施形態では、上記のように、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32と、絶縁被覆層22、32に直接接しているシース層4のうち、いずれか一方が、引張弾性率が50MPa以下でゴム弾性を有するエラストマー材料で構成され、他方が、引張弾性率が200MPa以上でゴム弾性を有しない樹脂材料で構成されている。
【0042】
この場合、例えば、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32と、絶縁被覆層22、32に直接接しているシース層4が、いずれも引張弾性率が50MPa以下でゴム弾性を有するエラストマー材料で構成されていると、すなわち絶縁被覆層22、32とシース層4の両方が軟らかいエラストマー材料で構成されていると、複合ケーブル1の可撓性や耐屈曲性の点では非常に良好になるが、絶縁被覆層22、32とシース層4とが密着してしまい、引き剥がそうとすると、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32が切れたり、絶縁被覆層22、32にシース層4の一部が残ったりする。
そのため、信号線2や電源線3からシース層4を剥ぎ取って信号線2や電源線3を適切に取り出すことが困難になり、複合ケーブルが端末加工性に劣るものになる。
【0043】
また、逆に、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32と、絶縁被覆層22、32に直接接しているシース層4が、いずれも引張弾性率が200MPa以上でゴム弾性を有しない樹脂材料で構成されていると、すなわち絶縁被覆層22、32とシース層4の両方が硬い樹脂材料で構成されていると、絶縁被覆層22、32とシース層4が密着しないため複合ケーブル1の端末加工性の点では良好になるが、信号線2や電源線3、シース層4が硬くなる。
そのため、複合ケーブル自体が硬くなって可撓性や耐屈曲性が悪化し、複合ケーブルを車両内に組み付けにくくなってしまう。
【0044】
それに対し、本実施形態に係る複合ケーブル1では、上記のように、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32と、絶縁被覆層22、32に直接接しているシース層4のうち、いずれか一方が、引張弾性率が50MPa以下でゴム弾性を有するエラストマー材料で構成され、他方が、引張弾性率が200MPa以上でゴム弾性を有しない樹脂材料で構成されている。
そのため、絶縁被覆層22、32とシース層4のいずれか一方がエラストマー材料で構成されているため、複合ケーブル1が十分に軟らかいものとなり、複合ケーブルを適宜曲げて車両内に的確に組み付けることができる。
【0045】
また、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32とそれに直接接しているシース層4の引張弾性率に150MPa以上の差があるため、複合ケーブル1の端末を加工して信号線2や電源線3をシース層4から取り出す際に、絶縁被覆層22、32とシース層4とがスムーズに剥がれる。
そのため、本実施形態に係る複合ケーブル1では、シース層4を剥ぎ取って信号線2や電源線3を適切に取り出すことが可能であり、端末加工性に優れたものになる。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る複合ケーブル1によれば、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32と、絶縁被覆層22、32に直接接しているシース層4のうち、いずれか一方を、引張弾性率が50MPa以下でゴム弾性を有するエラストマー材料で構成し、他方を、引張弾性率が200MPa以上でゴム弾性を有しない樹脂材料で構成した。
そのため、シース層4を剥ぎ取って信号線2や電源線3を適切に取り出すことが可能となり、複合ケーブル1の端末加工性が非常に優れたものとなる。
【0047】
ここで、本実施形態に係る複合ケーブル1(実施例1~4)や、信号線や電源線の絶縁被覆層とシース層をいずれも樹脂材料で構成したもの(比較例1)あるいはいずれもエラストマー材料で構成したもの(比較例2)について、端末加工性等の観点から性能評価した結果を表Iに示す。
【0048】
【0049】
なお、表Iにおいて、「撚り合わせ」は信号線の対や電源線を撚り合わせ構造にしたか否かを表し、撚り合わせ構造にした場合を「あり」、しない場合を「なし」と記載した。
また、「構造」の欄には、その実施例や比較例における複合ケーブルの構成を表す図の番号を記載した。
さらに、「絶縁被覆層」及び「シース層」の欄には、それらを構成する材料の種類が記載されており、「樹脂」は樹脂材料(架橋性ポリエチレン等)を、「エラ」はエラストマー材料(架橋性エチレンプロピレンジエンゴム等)を表す。
【0050】
また、評価項目のうち「端末加工性」は、作製した複合ケーブルの端末100mmにおいて実際にシース層を剥ぎ取り、その際の皮むき性を評価した。
そして、信号線や電源線からシース層を剥ぎ取って信号線や電源線を適切に取り出すことができた場合を〇、シース層が信号線や電源線の絶縁被覆層に密着するなどして適切に取り出せなかった場合を×とした。
【0051】
また、「可撓性」は、作製した複合ケーブル(外径18.0mmφ)を長手方向に600mm切り出し、両端を近接させて円状に変形する。その状態の複合ケーブルに荷重2kgfのおもりを載せて、断面が楕円状になった複合ケーブルの短径を測定した。そして、短径が10mm以下の場合を◎、10mmより大きく15mm以下の場合を〇としてここまでを合格とし、短径が15mmより大きい場合を×(不合格)とした。
【0052】
また、「耐屈曲性」は、電源線や信号線の中心導体に対して歪み0.4%に相当する径での180度ベンド試験において、中心導体の全断線までの屈曲回数を測定した(サンプル固定に用いるおもりは2kgf)。そして、屈曲回数が10万回以上の場合を◎、5万回以上10万回未満の場合を〇としてここまでを合格とし、屈曲回数が5万回未満の場合を×(不合格)とした。
【0053】
実施例1~4では、端末加工性、可撓性、耐屈曲性のいずれについても良好な結果が得られた。
一方、比較例1は、端末加工性の点では良好であるが、可撓性や耐屈曲性が劣り、車両内に組み付けるのが困難であった。
また、比較例2は逆に、可撓性や耐屈曲性の点では非常に良好であり、車両内への組み付けを非常に容易に行うことが可能であるが、端末加工性が非常に悪く、シース層が信号線や電源線の絶縁被覆層に密着するなどして皮むき性が悪く、信号線や電源線を適切に取り出せなかった。
【0054】
なお、本発明が上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
例えば、信号線2や電源線3の絶縁被覆層22、32を構成するエラストマー材料や樹脂材料が架橋されていれば、絶縁被覆層22、32が耐熱性を有するようになり、複合ケーブル1が高温に晒されるなどしても、熱により絶縁被覆層22、32が溶けるなどして複合ケーブル1が損傷することを防止することが可能となる。
なお、架橋法には、例えば電子線架橋法や化学架橋法、シラン架橋法等の架橋法を用いることができる。
【0055】
また、シース層4の場合も同様に、シース層4を構成するエラストマー材料や樹脂材料を架橋するように構成することが可能である。
また、例えば
図6に示すように、シース層4が複数の層41~43で形成されている場合は、複数の層41~43のうち少なくとも1層を構成するエラストマー材料や樹脂材料を架橋するように構成することが可能である。
【0056】
このように、シース層4自体を架橋したり、シース層4を構成する複数の層41~43のうちすくなくとも1層を架橋することで、シース層4が耐熱性を有するようになる。そのため、複合ケーブル1が高温に晒されるなどしても、熱によりシース層4が溶けるなどして複合ケーブル1が損傷することを防止することが可能となる。
なお、シース層4を複数の層で構成する場合、
図6に示したように必ずしも3層である必要はなく、シース層4が2層で構成されていてもよく、あるいは4層以上で構成されていてもよい。また、
図6では、複合ケーブル1が4芯である場合を示したが、この場合に限定されない。
【符号の説明】
【0057】
1 複合ケーブル
2 信号線
3 電源線
4 シース層
21 中心導体
21a 素線
22 絶縁被覆層
31 中心導体
31a 素線
32 絶縁被覆層
41~43 層