(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】冷却風導入装置、塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造設備、及びセメントクリンカの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20240116BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20240116BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C04B7/60
C04B7/44 101
F27D17/00 104D
(21)【出願番号】P 2020062790
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】末益 猛
(72)【発明者】
【氏名】大場 康太
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-130489(JP,A)
【文献】特開2013-023423(JP,A)
【文献】特開平11-035354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0045728(US,A1)
【文献】特開2008-239413(JP,A)
【文献】特開2011-032130(JP,A)
【文献】特開平09-175847(JP,A)
【文献】特開2013-147401(JP,A)
【文献】特開2000-146458(JP,A)
【文献】特開2007-225239(JP,A)
【文献】特開2021-160969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00 - 7/60
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素バイパス設備の抽気管の側面の周方向に沿うように冷却ガスを導入する冷却風導入装置であって、
前記抽気管に導入される前記冷却ガスの導入方向を変えて冷却風の風向を調節する風向調節部を備える冷却風導入装置。
【請求項2】
前記風向調節部は、軸体と、当該軸体に回動又は揺動可能に取り付けられる部材と、を有する、請求項1に記載の冷却風導入装置。
【請求項3】
前記風向調節部は、板状部材及び変形可能な流路壁の少なくとも一つを有する、請求項1又は2に記載の冷却風導入装置。
【請求項4】
前記抽気管、或いは前記抽気管が連通するライジングダクト、セメントキルン及び窯尻から選ばれる少なくとも一つの運転情報を計測する計測部と、前記計測部で計測された運転情報に基づいて、前記風向調節部に前記冷却風の風向を調節する制御信号を出力する制御部と、を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷却風導入装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の冷却風導入装置を備える塩素バイパス設備。
【請求項6】
予熱仮焼部と、セメントキルンと、ライジングダクトと、前記ライジングダクト及び/又は前記セメントキルンの窯尻に接続される塩素バイパス設備とを備え、
前記塩素バイパス設備は、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷却風導入装置を備える、セメントクリンカ製造設備。
【請求項7】
セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、
予熱及び仮焼された前記セメント原料を焼成して、セメントクリンカを製造する焼成工程と、
塩素バイパス設備の抽気管の側面の周方向に沿うように冷却ガスを導入して、前記抽気管で抽気した抽気ガスを冷却する冷却工程と、を有し、
前記冷却工程では、前記冷却ガスの導入方向を変えて冷却風の風向を調節し前記抽気ガスを冷却する、セメントクリンカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷却風導入装置、塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造設備、及びセメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカ製造設備では多種多様の廃棄物が処理されている。近年、廃棄物処理量の増加に伴い、塩素及び硫黄等の揮発成分のセメントキルンへのインプット量が増加している。これらの揮発成分は、製造設備内に付着してコーチングを生成する要因となり、セメントクリンカ製造設備の操業に影響を及ぼす。このため、多くのセメントクリンカ製造設備には揮発成分を低減するために塩素バイパス設備が設置されている。
【0003】
塩素バイパス設備の抽気管におけるダストの堆積及びコーチングを抑制する技術が種々検討されている。例えば、特許文献1では、抽気管の内壁を、冷却用空気の旋回流の逆流によるエアーカーテンで保護するとともに、コーチングの発生を抑制することが提案されている。そして、逆流を調節するため、スライドゲートタイプのような吹込口の入口断面積可変機構を設けることが提案されている。特許文献2では、抽気ダクト内に、上記抽気ガスの下流側から排気ダクト側に向けて抽気ダクトの内壁に沿う気体の旋回流を噴出させることにより抽気ダクト内に堆積するダストを除去するダスト除去ノズルを設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-175847号公報
【文献】特開2010-126410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、スライドゲートの差し込み量により抽気管の内壁を保護する冷却風の流速を変えて吹込み位置を変更することは、塩素バイパスの抽気管におけるダストの堆積及びコーチングを抑制するのに有効であると考えられる。しかしながら、特許文献1のようにスライドゲートタイプの機構を設けると、装置が大型化することが懸念される。また、可動部や摺動部が大きくなり気密性を維持し難くなることが懸念される。また、特許文献2のように、ダスト除去ノズルを抽気管内に挿入して配置する技術では、ダスト除去ノズル付近にダストが堆積し易くなることが懸念される。
【0006】
そこで、本開示では、抽気管におけるダストの堆積及び付着を低減することが可能であり、塩素バイパス設備の運転を安定化することが可能な冷却風導入装置を提供する。また、そのような冷却風導入装置を備えることによって、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造設備を提供する。また、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る冷却風導入装置は、塩素バイパス設備の抽気管の側面の周方向に沿うように冷却ガスを導入する冷却風導入装置であって、抽気管に導入される冷却ガスの導入方向を変えて冷却風の風向を調節する風向調節部を備える。この冷却風導入装置は、風向調節部を備えることから、抽気管のダストの堆積状況、及び、セメントキルンの運転状況に応じて、抽気管への冷却ガスの風向を調節することができる。したがって、抽気管内のダストの堆積及び付着を低減することと、冷却風のキルン流入による熱損失を抑制することの調整が可能になる。また、原料ダストの吸引量を低減し、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。したがって、塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造設備の運転を安定化することができる。
【0008】
上記風向調節部は、軸体と、当該軸体に回動又は揺動可能に取り付けられる部材とを有することが好ましい。これによって、高い自由度で抽気管への冷却風の導入方向を調節することができる。したがって、塩素バイパス設備の運転の一層の安定化を図ることができる。
【0009】
上記風向調節部は、板状部材及び変形可能な流路壁の少なくとも一つを有することが好ましい。これによって、シンプルな装置構成で抽気管への冷却風の導入方向を調節することができる。
【0010】
上記冷却風導入装置は、抽気管、或いは抽気管が連通するライジングダクト、セメントキルン及び窯尻から選ばれる少なくとも一つの運転情報を計測する計測部と、計測部で計測された運転情報に基づいて、風向調節部に冷却風の風向を調節する制御信号を出力する制御部と、を有することが好ましい。これによって、塩素バイパス設備及びセメントキルンの運転状況に応じて、抽気管への冷却風の導入方向を調節することができる。したがって、塩素バイパス設備の運転の一層の安定化を図ることができる。
【0011】
本開示の一側面に係る塩素バイパス設備は、上述のいずれかの冷却風導入装置を備える。上記冷却風導入装置は、風向調節部を備えることから、抽気管のダストの堆積状況、及び、セメントキルンの運転状況に応じて、抽気管への冷却風の導入方向を調節することができる。したがって、抽気管内のダストの堆積及び付着を低減することと、冷却風のキルン流入による熱損失を抑制することの調整が可能になる。また、原料ダストの吸引量を低減し、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。したがって、安定的に塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造設備を運転することができる。
【0012】
本開示の一側面に係るセメントクリンカ製造設備は、予熱仮焼部と、セメントキルンと、ライジングダクトと、ライジングダクト及び/又はセメントキルンの窯尻に接続される塩素バイパス設備とを備え、塩素バイパス設備は、上述のいずれかの冷却風導入装置を備える。このセメントクリンカ製造設備は、上述のいずれかの冷却風導入装置を備えることから、抽気管のダストの堆積状況、及び、セメントキルンの運転状況に応じて、抽気管への冷却風の導入方向を調節することができる。したがって、抽気管内のダストの堆積及び付着を低減できることと、冷却風のキルン流入による熱損失を抑制することの調整が可能になる。また、原料ダストの吸引量を低減し、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。したがって、安定的にセメントクリンカ製造設備を運転することができる。
【0013】
本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造方法は、セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、予熱及び仮焼されたセメント原料を焼成して、セメントクリンカを製造する焼成工程と、塩素バイパス設備の抽気管の側面の周方向に沿うように冷却風を導入して、抽気管で抽気した抽気ガスを冷却する冷却工程と、を有し、冷却工程では、冷却ガスの導入方向を変えて冷却風の風向を調節し抽気ガスを冷却する。
【0014】
この製造方法では、抽気ガスを冷却する冷却風の風向を調節する冷却工程において、抽気管のダストの堆積及び付着状況、並びに、セメントキルンの運転状況に応じて、冷却風の風向を調節することができる。したがって、抽気管内のダストの堆積及び付着を効率よく低減できるともに、冷却工程及び焼成工程を安定化させることができる。また、原料ダストの吸引量を低減し、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。したがって、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、抽気管におけるダストの堆積及び付着を低減することと、冷却風のキルン流入による熱損失を抑制することの調整が可能であり、塩素バイパス設備の運転及びセメントクリンカ製造装置の運転を安定化することが可能な冷却風導入装置を提供することができる。また、そのような冷却風導入装置を備えることによって、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造設備を提供することができる。また、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る塩素バイパス設備の概要を示す図である。
【
図2】抽気管と冷却風導入装置の接続部近傍を拡大して示す図である。
【
図3】(A)及び(B)は、軸体と軸体に回動又は揺動可能に取り付けられる部材を有する風向調節部の例を示す図である。
【
図4】軸体と軸体に回動又は揺動可能に取り付けられる部材を有する風向調節部の別の例を示す図である。
【
図5】(A)及び(B)は、風向調節部のさらに別の例を示す図である。
【
図7】塩素バイパス設備の別の変形例を示す図である。
【
図9】(A)及び(B)は、塩素バイパス設備に設けられるチャンバの例を示す図である。
【
図10】(A)及び(B)は、塩素バイパス設備に設けられるチャンバの別の例を示す図である。
【
図11】一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0018】
図1は、一実施形態に係る塩素バイパス設備100の概要を示す図である。塩素バイパス設備100はセメントキルン50と窯尻52とライジングダクト51を備えるセメントクリンカ製造設備200に設けられ、セメントクリンカの製造に伴って生じる塩素等の揮発成分を含むキルン排ガスを抽気してセメントクリンカ製造設備200内の塩素等の揮発成分を低減する。
【0019】
塩素バイパス設備100は、ライジングダクト51及び/又はセメントキルン50の窯尻52から、キルン排ガスを抽気し、抽気したキルン排ガスに冷却ガスを混合してキルン排ガスと冷却ガスを含む抽気ガスを得る抽気管12と、抽気管12からの抽気ガスに含まれる塊状のダストを分離するチャンバ20と、塊状のダストが分離された抽気ガスを揮発性アルカリ塩の融点以下に冷却する熱交換器25と、冷却に伴って析出した、抽気ガスに含まれるダスト(塩素バイパスダスト)を、抽気ガスから分離する集塵器26と、チャンバ20、熱交換器25及び集塵器26を介して、抽気ガスを抽気する吸引ファン28とを備える。抽気管12は、抽気プローブと称されるものであってもよい。吸引ファン28としては、シロッコファン及びターボファンなどの通常の吸引ファンが挙げられる。
【0020】
塩素バイパス設備100は、抽気管12に冷却ガスを導入する冷却風導入装置10と、冷却風導入装置10に冷却ガスを供給する導入ファン14とを備える。冷却風を構成する冷却ガスは、常温の空気であってよく、工場等で発生する排気ガスを含むものであってもよい。排気ガスとしては、例えば、セメント製造工場に持ち込まれた下水汚泥等の含水汚泥の受け入れ、貯蔵、発酵時に発生する臭気ガス、吸引ファン28及び他工程の吸引ファンから排出される排出ガス等が挙げられる。
【0021】
抽気管12は、
図1に示されるように、水平方向に対して傾斜していてもよく、水平であってもよい。抽気管12中におけるダストの堆積を抑制する観点から、抽気管12のライジングダクト51側(窯尻52側)を上流側、チャンバ20側を下流側としたときに、上流側よりも下流側の方が高くなるように傾斜していることが好ましい。これによって、旋回流と重力によって、原料ダストを含むダストをライジングダクト51又は窯尻52に戻すことができる。傾斜角度は、例えば水平面に対して20~70°であってよい。
【0022】
図2は、抽気管12と冷却風導入装置10の接続部近傍を拡大して示す図である。キルン排ガス60は、抽気管12の入口である抽気口12aにおいて、ガス状の揮発成分とともに固形分としてダストを含有する。このダストには、セメントクリンカとなる原料ダストが含まれる場合もある。冷却風導入装置10は、円管形状の抽気管12における側面13の接線方向に延在するように抽気管12に接続される。冷却風導入装置10から導入される冷却ガス62は、抽気管12の側面13の周方向に沿って導入される。これによって、抽気管12の内壁面上には冷却ガス62の旋回流によるエアーカーテンが形成され、高温のキルン排ガス60から抽気管12の内壁面を保護する。
【0023】
冷却風導入装置10から、抽気管12の側面13の周方向に沿うように導入された冷却ガス62と、抽気口12aから抽気管12に流入したキルン排ガス60は、混合ガスとなって抽気管12に旋回流SF1,SF2を形成する。旋回流SF1,SF2の旋回軸と円管形状を有する抽気管12の中心軸は略一致する。混合ガスは、抽気管12の内部を旋回しながら抽気管12の長手方向に沿って移動する。
【0024】
冷却風導入装置10は、先端部分に、冷却ガス62の導入方向を変えて風向を調節する風向調節部11を有する。例えば、旋回流SF1が形成されるように冷却ガス62の導入を継続すると、抽気管12の上流側(ライジングダクト51側)にダストが堆積する場合がある。この場合、風向調節部11によって、冷却ガス62の導入方向を抽気管12の上流側に変更して冷却風の風向を調節すれば、旋回流SF2が形成される。これによって、抽気管12の上流側に堆積するダストを旋回流SF2で除去することができる。抽気管12の上流側に堆積するダストは、旋回流SF2によって、ライジングダクト51(窯尻52)内に戻してもよいし、抽気管12の下流側に導出されてもよい。
【0025】
抽気管12の上流側、すなわち抽気口12a付近に堆積するダストは、揮発成分よりもセメントクリンカとなる原料ダストの含有量が高い場合もある。このような原料ダストを含むダストをライジングダクト51(窯尻52)内に戻すことによって、塩素バイパスダストの量を低減し、セメントクリンカの収量を高くすることができる。
【0026】
抽気管12内に導入された冷却ガス(又は、冷却ガスとキルン排ガスの混合ガス)のライジングダクト51(窯尻52)への流入量は少ない方が好ましい。これによって、熱損失を抑制することができる。このため、例えば、セメント原料の変化等の要因によって、キルン排ガスの発生量が減少し、抽気管12からライジングダクト51(窯尻52)への冷却ガス又は混合ガスの流入量が増加した場合には、風向調節部11によって、冷却ガス62の導入方向を、抽気管12の下流側に調節してもよい。これによって、プレヒータ及び仮焼炉等における熱損失を低減することができる。
【0027】
冷却風導入装置10に備えられる風向調節部11は、軸体と軸体に回動又は揺動可能に取り付けられる部材とを有してよい。このような風向調節部11は、冷却ガスの導入方向を大きく変えることができる。このため、高い自由度で抽気管への冷却風の風向を調節することができる。したがって、塩素バイパス設備100の運転の一層の安定化を図ることができる。
【0028】
図3及び
図4には、軸体と軸体に回動又は揺動可能に取り付けられる部材を有する風向調節部の例を示している。
図3(A)の風向調節部11Aは、軸体30とこれに回動又は揺動可能に取り付けられる板状部材32を有する。このような風向調節部11Aは、圧力損失を小さくできるため、冷却ガス62の風量調節の自由度を高くすることができる。板状部材32は、例えばフィンであってよい。
【0029】
図3(B)の風向調節部11Bは、軸体30とこれに回動又は揺動可能に取り付けられる円筒状部材33を有する。このような風向調節部11Bは、冷却風の風向を高い精度で調節することができる。したがって、抽気管12の運転状態を緻密に制御することが可能となり、塩素バイパス設備100及びセメントクリンカ製造設備200を、より一層安定的に運転することができる。円筒状部材33は、中央部分33aに、同心円状に円筒状の風向調節体を一つ又は複数設けてもよい。
【0030】
図4の風向調節部11Cは、軸体30とこれに回動又は揺動可能に取り付けられるゲート部材35を有する。ゲート部材35は、冷却ガス62の流路を絞りつつ、冷却ガス62の導入方向を変えて冷却風の風向を調節する機能を有する。したがって、冷却風の風向のみならず、冷却風の風速も制御することができる。ゲート部材35の形状は特に限定されず、冷却ガス62の流路を絞りつつ、冷却風の風向を調節可能な形状のものを適宜用いることができる。例えば、通常のボール弁の弁体に用いられるボール状の部材であってもよい。
【0031】
風向調節部11は、上述の例に限定されない。例えば、
図5(A)に示すような変形可能な流路壁を有する風向調節部11Dであってもよいし、
図5(B)に示すような挿抜可能な板状部材を有する風向調節部11Eであってもよい。風向調節部11Dの流路壁は、例えばジャバラ状部材で構成されていてもよいし、ホース状部材で構成されていてもよい。風向調節部11Eは、一対の板状部材11aを挿入した状態であれば、冷却風の風向を抽気管12の上流側にすることができる。一方、一対の板状部材11aを抜いて、代わりに一対の板状部材11bを挿入すれば、冷却風の風向を抽気管12の下流側に変えることができる。風向調節部11は、例えば、パンカールーバー型又はウエーブルーバー型のものであってもよい。
【0032】
冷却風導入装置10は、風向調節部11に加えて、冷却ガスの流速を制御するダンパー等の流速調節部を備えていてもよい。これによって、風向のみならず、セメントキルン50の運転状況、キルン排ガス中のダストの濃度、及びキルン排ガスの抽気量等に応じて冷却ガスの導入量を適宜調節することができる。
【0033】
風向調節部11(11A~11E)による冷却風の風向の調節は、例えば、抽気管12、或いは抽気管12が連通するライジングダクト51、セメントキルン50又は窯尻52の運転情報を計測する計測部に基づいて行ってよい。例えば、抽気管の運転情報に基づいて、オペレータが風向の調節を風向調節部11(11A~11E)を用いてマニュアルで行ってよく、制御部を用いて自動で行ってもよい。この場合、塩素バイパス設備100は、抽気管12、ライジングダクト51、セメントキルン50及び窯尻52の少なくとも一つの運転情報を計測する計測部を備えることが好ましい。
【0034】
計測部が計測する運転情報としては、温度、圧力、ガス成分、ガス流速、ダスト濃度及び画像等が挙げられる。具体的には、抽気管12内部又は表面の温度、ライジングダクト51又は窯尻52におけるキルン排ガスの温度、抽気管12内に流入するキルン排ガスの温度、及び、キルン排ガス又は抽気ガスの圧力、キルン排ガス又は抽気ガスのガス成分、キルン排ガス又は抽気ガスに含まれるダスト濃度、抽気管12の内部の画像等が挙げられる。計測部としては、例えば、温度センサ、圧力センサ、ガス成分センサ、流速センサ、及びカメラ等が挙げられる。
【0035】
塩素バイパス設備100は、計測部で計測された運転情報に基づいて、風向調節部11に冷却風の風向を調節する制御信号を出力する制御部を備えてもよい。制御部は、通常のコンピュータシステムであってよく、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力インターフェイスなどを備えてよい。
【0036】
制御部を備えることによって、風向調節部11に冷却風の風向を自動で制御することができる。例えば、抽気管12の抽気口12a付近の温度T1を計測部で計測し、温度T1が下限を下回った場合には、風向調節部11によって冷却風の風向を抽気管12の下流側の方に変更する。これによって、冷却風がライジングダクト51(窯尻52)に流入することを抑制できる。一方、温度T1が上限を上回った場合には、風向調節部11によって冷却風の風向を抽気管12の上流側の方に変更する。これによって、キルン排ガスに同伴して抽気管12に持ち込まれるダストの量を低減することができる。
【0037】
図6は、塩素バイパス設備の変形例を示す図である。この変形例は、抽気管12の抽気口12aとは反対側の端部12b側から、抽気管12の内部に旋回流の形成を促進するとともに、抽気管12の長手方向に沿う旋回流の進行方向をガイドする内筒体40が挿入されている点で、上記実施形態とは異なっている。抽気管12の長手方向に沿ってみたときに、内筒体40の先端40aは、キルン排ガスの抽気管12への入口である抽気口12aと、抽気管12と冷却風導入装置10との接続部の間に配置されている。これによって、冷却風導入装置10から導入された冷却風によって生じた旋回流は、一旦、抽気口12aに向かった後、内筒体40の先端40aから内筒体40内に流入し、内筒体40の下流へと流通する。これによって、抽気管12の内壁及び内筒体40の内壁へのダストの堆積を十分に抑制することができる。
【0038】
単に内筒体40を設けただけでは、抽気口12aまで冷却風が十分に行き届かず、ダストが堆積又は付着することがある。しかしながら、冷却風導入装置10は、風向調節部11を備えるため、風向調節部11で冷却風の風向を、
図6中の破線の矢印方向から実線の矢印方向に変えることによって、抽気口12a付近に付着したダストを除去することができる。また、キルン排ガスの発生量が減少した場合は、冷却風の風向を
図6中の実線の矢印方向から破線の矢印方向に変えることによって、冷却ガス(混合ガス)がライジングダクト51(窯尻52)内に流入することを抑制できる。内筒体40に導入された抽気ガス63は、内筒体40の下流に向かって流通する。内筒体40の下流側には、
図1に示すように、チャンバ20、熱交換器25、集塵器26、吸引ファン28が設けられてよい。
【0039】
図7及び
図8は、塩素バイパス設備の別の変形例を示す図である。
図8は、
図7のVIII-VIII線断面図である。この変形例では、
図6の変形例と同様に、抽気管12の端部12b側から、抽気管12の内部に旋回流の形成を促進するとともに旋回流の進行方向をガイドする二重管41が挿入されている。二重管41は、第1の管体41Aと、第1の管体41A内に挿入されている第2の管体41Bとを備える。第1の管体41Aは、第2の管体41Bの長手方向に沿ってスライド可能に設けられている。第1の管体41A及び第2の管体41Bは、
図8に示すように、抽気管12と同心となるように設けられている(中心C)。二重管41は、
図6の内筒体40と同様に、抽気管12の内部において旋回流SFの形成を促進するとともに旋回流SFの抽気管12の長手方向に沿う進行方向をガイドする機能を有する。
【0040】
第1の管体41Aを第2の管体41Bに対してスライドさせることによって、第1の管体41Aの先端41aの位置を変えることができる。
【0041】
このように、本変形例では、抽気管12における二重管41の先端位置を可変とすることができる。風向調節部11による冷却風の導入方向の調節と併せて二重管41の先端位置も調節できるため、より高い自由度で、旋回流の流動状態を調整することができる。したがって、キルン排ガスの発生量、及び、ダストの発生量の変化が大きくても、抽気管12の内壁へのダストの堆積及び付着と、ライジングダクト51(窯尻52)内への冷却風の流入とを十分に抑制することができる。抽気ガス63は、二重管41の下流に向かって流通する。二重管41の下流側には、
図1に示すように、チャンバ20、熱交換器25、集塵器26、吸引ファン28が設けられてよい。
【0042】
図9は、塩素バイパス設備に設けられるチャンバ20の例を示している。
図9(A)はチャンバ20Aの正面図であり、
図9(B)はチャンバ20Aの上面図である。チャンバ20Aは、抽気管12からの抽気ガス63に含まれるダストの少なくとも一部を分離する内部空間を有する本体部21と、本体部21に抽気ガスを導入する導入管22と、本体部21で抽気ガスから分離されたダストを排出するダスト排出管24と、本体部21から抽気ガス63よりもダストが低減された抽気ガス64を導出する導出管23とを備える。
【0043】
チャンバ20Aでは、本体部21と導入管22との接続部に導入口22aが形成され、本体部21と導出管23との接続部に導出口23aが形成されている。
図9(A)及び
図9(B)に示されるように、導入口22aから導入される抽気ガス63の導入方向の延長線(仮想導入線VG)は、導出口23aからずれて、本体部21の内壁に交差している。このような本体部21を有するチャンバ20Aでは、抽気ガス63に含まれるダストを効率よく分離し、導出口23aから導出される抽気ガス64に同伴するダストを十分に低減することができる。仮想導入線VGは、本体部21とダスト排出管24との接続部に形成されるダスト排出口24aからもずれていることが好ましい。これによって、一旦、抽気ガス63から分離されたダストが再び抽気ガス63に混入することを抑制することができる。
【0044】
図10は、塩素バイパス設備に設けられるチャンバの別の例を示している。
図10(A)はチャンバ20Bの正面図であり、
図10(B)はチャンバ20Bの上面図である。チャンバ20Bも、チャンバ20Aと同様に、本体部21、導入管22、ダスト排出管24と、及び導出管23を備える。
図10(A)及び
図10(B)に示されるように、導入口22aから導入される抽気ガス63の導入方向の延長線(仮想導入線VG)は、導出口23aからずれて、本体部21の内壁に交差している。仮想導入線VGは、ダスト排出口24aからもずれている。したがって、チャンバ20Bも、抽気ガス63に含まれるダストを効率よく分離し、導出口23aから導出される抽気ガス64に同伴するダストを十分に低減することができる。
【0045】
なお、チャンバの構成は、
図9及び
図10に例示したものに限定されない。例えば、上述の
図9及び
図10に示す仮想導入線VGは、(A)正面図と(B)上面図のそれぞれにおいて、導出口23a及びダスト排出口24aからずれているが、さらに別の例では、(A)正面図と(B)上面図のどちらか一方において、導出口23a及びダスト排出口24aからずれていてもよい。このような例であっても、抽気ガス63に含まれるダストを効率よく分離することが可能である。また、抽気ガス63から分離されたダストが再び抽気ガス63に混入することも抑制できる。また、本実施形態の塩素バイパス設備100はチャンバ20を備えているが、別の実施形態ではチャンバを備えていなくてもよい。この場合であっても、抽気ガスに含まれるダストは例えば集塵器26で回収することができる。
【0046】
集塵器26は、バグフィルタであってよく、湿式スクラバ等の湿式集塵器であってもよい。また、集塵器26とは別に分級器を集塵器26の上流又は下流に設けてもよい。
【0047】
図11は、一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備を示す図である。セメントクリンカ製造設備200は、セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼部70と、予熱及び仮焼されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得るセメントキルン50と、セメントキルン50で得られたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ80とを備える。予熱仮焼部70は、4つのサイクロンC1,C2,C3,C4(プレヒータ)と仮焼炉72とを有する。
【0048】
セメントキルン50の窯尻52と予熱仮焼部70の仮焼炉72とは、ライジングダクト51で接続されている。ライジングダクト51と窯尻52の接続部近傍には、セメントキルン50で発生するキルン排ガスを抽気して、キルン排ガスに含まれるダストを回収する塩素バイパス設備100の抽気管12が接続されている。抽気管12には、その側面13の周方向に沿うように冷却ガスを導入する冷却風導入装置10が設けられている。冷却風導入装置10は、抽気管12への冷却ガスの導入方向を変えて冷却風の風向を調節する風向調節部11を備える。塩素バイパス設備100を備えることによって、セメントクリンカ製造設備200内の揮発成分を低減することができる。
【0049】
サイクロンC1とサイクロンC2との接続部から導入されるセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、ライジングダクト51、仮焼炉72、及びサイクロンC4を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。セメントキルン50では、予熱及び仮焼されたセメント原料が、窯尻52とは反対側に設けられたバーナ54の燃焼によって加熱されセメントクリンカとなる。得られたセメントクリンカは、クリンカクーラ80で冷却される。クリンカクーラ80によって冷却された後、セメントクリンカが得られる。
【0050】
セメントクリンカ製造設備200は、冷却風導入装置10を備えることから、抽気管12のダストの堆積状況、及び、セメントキルン50の運転状況に応じて、抽気管12への冷却風の風向を調節することができる。したがって、抽気管12内のダストの堆積及び付着を低減できるとともに、安定的にセメントクリンカ製造設備200を運転することができる。
【0051】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカ製造設備200を用いて行うことができる。この製造方法は、予熱仮焼部70でセメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、予熱及び仮焼されたセメント原料を、窯尻52からセメントキルン50に導入し、セメントクリンカを製造する焼成工程と、塩素バイパス設備100の抽気管12の側面13の周方向に沿うように冷却風を導入して、抽気管12で抽気した抽気ガスを冷却する冷却工程と、抽気ガスに含まれるダストを回収する回収工程と、を有する。また、焼成工程で得られたセメントクリンカを、クリンカクーラ80で冷却するクリンカ冷却工程を有してよい。
【0052】
予熱仮焼工程では、セメント原料がサイクロンC1とサイクロンC2の間の流路から導入される。セメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2及びサイクロンC3を流通して予熱される。その後、ライジングダクト51を経由して仮焼炉72に導入され、仮焼される。仮焼炉72には、石炭等の燃料を燃焼するバーナが設けられていてよい。仮焼炉72で仮焼されたセメント原料(仮焼原料)は、サイクロンC4に導入され加熱される。
【0053】
焼成工程では、サイクロンC4で加熱された仮焼原料が窯尻52に導入される。その後、セメントキルン50において焼成されセメントクリンカとなる。冷却工程では、抽気管12の側面13の周方向に沿うように冷却風を導入して、抽気管12で抽気した抽気ガスを冷却する。このとき、冷却ガスの導入方向を変えて冷却風の風向を調節する。冷却工程では、抽気管12のダストの堆積状況、及び、セメントキルン50の運転状況に応じて、抽気管12への冷却風の風向を調節することができる。したがって、抽気管12内のダストの堆積及び付着を低減できるともに、冷却工程及び焼成工程を安定化させることができる。したがって、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【0054】
冷却工程では、抽気管12、ライジングダクト51、セメントキルン50、又は窯尻52の運転情報に基づいて、冷却風導入装置10から抽気管12に導入される冷却風の風向を調節してもよい。冷却風の風向は、風向調節部11(11A~11E)で冷却ガスの導入方向を変えることによって調節することができる。
【0055】
上記製造方法によれば、抽気管12内のダストを効率よく除去できるともに、冷却工程及び焼成工程を安定化させることができる。したがって、安定的にセメントクリンカを製造することができる。上述の塩素バイパス設備100及びセメントクリンカ製造設備200に関する説明内容は、上記製造方法にも適用される。
【0056】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。各実施形態及び各変形例の各構成を組み合わせてもよいし、入れ替えてもよい。また、抽気管12は、窯尻52のみ又はライジングダクト51のみに接続されていてもよいし、2つ以上の抽気管12が、ライジングダクト51と窯尻52のそれぞれに接続されていてもよい。この場合、複数の抽気管12で抽気されたダストを含む抽気ガスは、チャンバで混合されてダストが回収されてもよく、個別のチャンバでダストを低減した後、集塵器で残存するダストが回収されてもよい。また例えば、抽気管12の内径は一定でなくてよく、長手方向に沿って変化してもよい。この場合、抽気管12は、ライジングダクト51(窯尻52)に近接するにつれて内径が小さくなるテーパー部を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示によれば、ダストの堆積及び付着を低減することが可能であり、塩素バイパス設備の運転を安定化することが可能な冷却風導入装置が提供される。また、そのような冷却風導入装置を備えることによって、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造設備が提供される。また、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0058】
10…冷却風導入装置、11,11A,11B,11C,11D,11E…風向調節部、11a…板状部材、11b…板状部材、12…抽気管、12a…抽気口、12b…端部、13…側面、14…導入ファン、20,20A,20B…チャンバ、21…本体部、22…導入管、22a…導入口、23…導出管、23a…導出口、24…ダスト排出管、25…熱交換器、24a…ダスト排出口、26…集塵器、28…吸引ファン、30…軸体、32…板状部材、33…円筒状部材、35…ゲート部材、40…内筒体、40a…先端、41…二重管、41A…第1の管体、41B…第2の管体、41a…先端、50…セメントキルン、51…ライジングダクト、52…窯尻、54…バーナ、60…キルン排ガス、62…冷却ガス、63,64…抽気ガス、70…予熱仮焼部、72…仮焼炉、80…クリンカクーラ、100…塩素バイパス設備、200…セメントクリンカ製造設備。