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特許7420628塩素バイパスの抽気装置、塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造設備、及びセメントクリンカの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】塩素バイパスの抽気装置、塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造設備、及びセメントクリンカの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20240116BHJP
   B01D 51/00 20060101ALI20240116BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C04B7/60
B01D51/00 B
F27D17/00 105G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020064302
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160983
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】井生 大地
(72)【発明者】
【氏名】中河 久典
(72)【発明者】
【氏名】末益 猛
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-035355(JP,A)
【文献】特開平11-130489(JP,A)
【文献】特開平09-175847(JP,A)
【文献】特開2010-126410(JP,A)
【文献】特開2007-105687(JP,A)
【文献】特開平02-116649(JP,A)
【文献】特開平09-309751(JP,A)
【文献】特開平09-301752(JP,A)
【文献】特開平10-330136(JP,A)
【文献】特開2008-156228(JP,A)
【文献】実開昭57-034541(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00 - 7/60
B01D 51/00
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻及び/又はライジングダクトに連結され、抽気口からキルンガスを抽気する抽気管と、その周方向に沿うように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部と、を備える塩素バイパスの抽気装置であって、
前記抽気口に堰状部材を有し、前記堰状部材は切り欠き部を有する、抽気装置。
【請求項2】
前記堰状部材は、前記抽気管の内壁の周方向に沿ってC型リング状又はO型リング状に設けられている、請求項1に記載の抽気装置。
【請求項3】
前記堰状部材は、前記切り欠き部が前記抽気口の上側に配置するように設けられる、請求項1又は2に記載の抽気装置。
【請求項4】
前記堰状部材は、前記切り欠き部が前記抽気口の下側に配置するように設けられる、請求項1又は2に記載の抽気装置。
【請求項5】
前記堰状部材は、抽気口から離れるにつれて薄くなるテーパー部を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抽気装置。
【請求項6】
前記堰状部材は、前記切り欠き部を構成する一対の先端部の少なくとも一方は、前記切り欠き部に近くなるにつれて薄くなるテーパー部を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の抽気装置。
【請求項7】
前記抽気管と同心となるように前記抽気口側とは反対側から前記抽気管の内部に挿入された管体を備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の抽気装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抽気装置を備える塩素バイパス設備。
【請求項9】
予熱仮焼部と、セメントキルンと、ライジングダクトと、前記ライジングダクト及び/又は前記セメントキルンの窯尻に接続される塩素バイパス設備とを備え、
前記塩素バイパス設備は、請求項1~7のいずれか一項に記載の抽気装置を備える、セメントクリンカ製造設備。
【請求項10】
セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、
予熱及び仮焼された前記セメント原料を焼成して、セメントクリンカを製造する焼成工程と、
前記焼成工程で発生するキルンガスに含まれる揮発成分の少なくとも一部を、請求項8に記載の塩素バイパス設備でダストとして回収するダスト回収工程と、を有する、セメントクリンカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩素バイパスの抽気装置、塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造設備、及びセメントクリンカに関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカ製造設備では多種多様の廃棄物が処理されている。近年、廃棄物処理量の増加に伴い、塩素及び硫黄等の揮発成分のセメントキルンへのインプット量が増加している。これらの揮発成分は、製造設備内に付着してコーチングを生成する要因となり、セメントクリンカ製造設備の操業に影響を及ぼす。このため、多くのセメントクリンカ製造設備には揮発成分を低減するために塩素バイパス設備が設置されている。
【0003】
塩素バイパス設備の抽気管におけるダストの堆積及びコーチングを抑制する技術が種々検討されている。例えば、特許文献1では、抽気管の内壁を、冷却用空気の旋回流の逆流によるエアーカーテンで保護するとともに、コーチングの発生を抑制することが提案されている。そして、逆流を調節するため、スライドゲートタイプのような吹込口の入口断面積可変機構を設けることが提案されている。特許文献2では、抽気ダクト内に、抽気ガスの下流側から排気ダクト側に向けて抽気ダクトの内壁に沿う気体の旋回流を噴出させることにより抽気ダクト内に堆積するダストを除去するダスト除去ノズルを設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-175847号公報
【文献】特開2010-126410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、スライドゲートの差し込み量により抽気管の内壁を保護する冷却風の流速を変え、吹込み位置を変更することは、塩素バイパスの抽気管におけるダストの堆積及びコーチングを抑制するのに有効であると考えられる。しかしながら、特許文献1のようにスライドゲートタイプの機構を設けると、装置が大型化することが懸念される。また、可動部や摺動部が大きくなり気密性を維持し難くなることが懸念される。また、特許文献2のように、ダスト除去ノズルを抽気管内に挿入して配置する技術では、ダスト除去ノズルの死角にダストが堆積し易くなることが懸念される。
【0006】
そこで、本開示では、ダストの堆積及び付着を低減すること、及び、セメントキルンの熱損失を低減することが可能であり、塩素バイパス設備の運転を安定化することが可能な抽気装置を提供する。また、そのような抽気装置を備えることによって、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造装置を提供する。また、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る抽気装置は、セメントキルンの窯尻及び/又はライジングダクトに連結され、抽気口からキルンガスを抽気する抽気管と、その周方向に沿うように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部と、を備える塩素バイパスの抽気装置であって、抽気口に堰状部材を有し、堰状部材は切り欠き部を有する。
【0008】
上記抽気装置は抽気口に堰状部材を有する。堰状部材は、抽気口における流路を絞ることができる。抽気管の周方向に沿うように冷却ガスが導入されることから、抽気管の内部では、キルンガスと冷却ガスが混合されながら、抽気管の周方向に沿って旋回流が生じる。一方、抽気管全体としては、キルンガスと冷却ガスとを含む抽気ガスを抽気管の下流側に導出するものの、抽気管内の抽気ガスの一部は、セメントキルン側に逆流することがある。この場合、旋回流の影響により、抽気口の中心部分よりも外周部分から冷却ガスが逆流し、セメントキルンの熱損失が生じることになる。
【0009】
ここで、上記抽気装置は、抽気口の流路を絞り、切り欠き部を有する堰状部材を有するため、大部分の冷却ガスの逆流を抑制してセメントキルンの熱損失を低減できる。そして、一部の逆流する冷却ガスは、主に切り欠き部を流通することとなるため、逆流する冷却ガスの位置を調整するとともに、逆流する冷却ガスの流速を大きくすることができる。このため、キルンガスとともに抽気口から流入する原料ダストの流入量が多い位置に切り欠き部が配置されるように堰状部材を設ければ、抽気管への原料ダストの流入量が低減され、抽気管内に堆積及び付着するダストを低減することができる。また、原料ダストの吸引量を低減することで、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。
【0010】
上記抽気装置は、このように抽気管内に流入する原料ダストを低減し、抽気管内に堆積及び付着するダストを低減できる。また、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気できるとともに、セメントキルンの熱損失を低減することができる。したがって、塩素バイパス設備及びセメント製造設備の運転を安定化することができる。また、抽気管内に堆積及び付着するダストに含まれる原料ダストは、セメントキルンで焼成され、セメントクリンカとなることから、セメント原料を有効活用してセメントクリンカの収量を増やすことができる。なお、上述の抽気装置は、上述のとおり、塩素バイパス設備及びセメント製造設備の運転を安定化できるものであるが、そのメカニズムは上述の説明内容に限定されるものではない。
【0011】
上記堰状部材は、抽気管の内壁の周方向に沿ってC型リング状又はO型リング状に設けられることが好ましい。これによって、抽気口における流路を十分に絞り、抽気管へのダストの流入を一層抑制することができる。また、冷却ガスがキルンガスと十分に混合される前に窯尻及びライジングダクトに逆流することを十分に抑制できる。
【0012】
上記堰状部材は、切り欠き部が抽気口の上側に配置するように設けられてもよい。これによって、例えば抽気口の上方から落下してくる原料ダスト(例えば仮焼炉からの抜け落ちダスト)が、抽気口から流入することを抑制できる。これによって、抽気管内に堆積及び付着するダストを十分に低減するとともに、原料ダストを有効活用してセメントクリンカの収量を十分に増やすことができる。
【0013】
上記堰状部材は、切り欠き部が抽気口の下側に配置するように設けられてもよい。これによって、例えばセメントキルン側からキルンガスに巻き込まれて窯尻又はライジングダクトを上昇してくるダストが抽気口から抽気管に流入することを抑制できる。したがって、抽気管内に堆積及び付着するダストを十分に低減することができる。なお、このように抽気口の下方が巻き上がってくるダスト量と、抽気口から落下してくるダストの量の大小関係は、セメントキルン及びその付帯設備の装置構成、及び、運転状態等に応じて変動する。このため、装置構成及び運転状態等に応じて、切り欠き部の位置を選定すればよい。
【0014】
上記堰状部材の一部は、抽気口から離れるにつれて薄くなるテーパー部を有することが好ましい。これによって、堰状部材における旋回流の跳ね返りを抑制し、抽気管の下流側から上流側(抽気口)に向かって逆流する旋回流を抽気口近傍まで十分に維持することができる。したがって、抽気口付近に堆積又は付着したダストをライジングダクト又は窯尻に戻すことができるとともに、抽気口から原料ダストが流入することを抑制することができる。なお、本開示において、抽気管の上流側とは抽気口側であり、下流側とは抽気口とは反対側を意味する。冷却ガス導入部は抽気口よりも下流側において抽気管に冷却ガスを導入する。
【0015】
上記堰状部材は、切り欠き部を構成する一対の先端部の少なくとも一方は、切り欠き部に近くなるにつれて薄くなるテーパー部を有することが好ましい。これによって、旋回流がテーパー部に沿って案内されやすくなるため、切り欠き部から窯尻又はライジングダクト内に逆流する抽気ガスの速度を一層大きくすることができる。したがって、抽気口へのダストの流入を一層抑制することができる。
【0016】
上記抽気装置は、抽気管と同心となるように抽気口側とは反対側から抽気管の内部に挿入された管体を備えることが好ましい。このような管体を備えることによって、抽気管の周方向に沿うよう導入される冷却ガスよって生じる旋回流の形成を一層促進し、抽気管へのダストの流入を一層低減することができる。
【0017】
上記抽気装置は、抽気管、ライジングダクト、セメントキルン、及び窯尻から選ばれる少なくとも一つの運転情報を計測する計測部と、計測部で計測された運転情報に基づいて、抽気管に導入される冷却ガスの流量を調節する流量調節部と、を有することが好ましい。これによって、塩素バイパス設備及びセメントキルンの運転状況に応じて、抽気管に導入される冷却ガスの流量を調節することができる。したがって、塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造設備の運転の一層の安定化を図ることができる。
【0018】
本開示の一側面に係る塩素バイパス設備は、上述のいずれかの抽気装置を備える。これによって、抽気管内の原料ダストの流入を低減し、抽気管内に堆積及び付着するダストを低減することができる。また、原料ダストの吸引量を低減することで、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。また、セメントキルンの熱損失を低減することができる。したがって、安定的にセメントクリンカ製造設備を運転することができる。また、抽気管内に堆積及び付着するダストに含まれる原料ダストは、セメントキルンで焼成され、セメントクリンカとなることから、セメント原料を有効活用してセメントクリンカの収量を増やすことができる。
【0019】
本開示の一側面に係るセメントクリンカ製造設備は、予熱仮焼部と、セメントキルンと、ライジングダクトと、ライジングダクト及び/又はセメントキルンの窯尻に接続される上述の塩素バイパス設備とを備える。このセメントクリンカ製造設備は、上述のいずれかの抽気装置を有する塩素バイパス設備を備えることから、抽気管内のダストの堆積及び付着を低減することができる。また、原料ダストの吸引量を低減することで、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。また、冷却ガスの逆流を抑制してセメントキルンの熱損失を低減することができる。したがって、塩素バイパス設備及びこれを備えるセメントクリンカ製造設備を安定的に運転することができる。
【0020】
本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造方法は、セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、予熱及び仮焼された前記セメント原料を焼成して、セメントクリンカを製造する焼成工程と、焼成工程で発生するキルンガスに含まれる揮発成分の少なくとも一部を上述の塩素バイパス設備でダストとして回収するダスト回収工程と、を有する。
【0021】
この製造方法では、上述の塩素バイパス設備でダストを回収する回収工程を有する。したがって、抽気管内の原料ダストの流入を低減し、抽気管内に堆積及び付着するダストを低減することができる。また、原料ダストの吸引量を低減することで、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。また、冷却ガスの逆流を抑制してセメントキルンの熱損失を低減することができる。したがって、各工程を安定化させ、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、ダストの堆積及び付着を低減すること、及び、セメントキルンの熱損失を低減することができる。また、原料ダストの吸引量を低減することで、揮発成分を含むキルン排ガスを効率よく抽気することができる。したがって、塩素バイパス設備の運転を安定化することが可能な抽気装置を提供することができる。また、そのような抽気装置を備えることによって、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造装置を提供することができる。また、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれに備えられる抽気装置の概要を示す図である。
図2図1における抽気装置とその近傍を拡大して示す図である。
図3】抽気装置に備えられる堰状部材を示す図である。
図4】堰状部材の幾つかの変形例を示す図である。
図5】別の実施形態に係る抽気装置を示す断面図である。
図6】堰状部材の別の変形例を示す斜視図である。
図7】さらに別の実施形態に係る抽気装置を示す断面図である。
図8】さらに別の実施形態に係る抽気装置を示す断面図である。
図9図8のIX-IX線断面図である。
図10】塩素バイパス設備に設けられるチャンバの一例を示す図である。
図11】塩素バイパス設備に設けられるチャンバの別の例を示す図である。
図12】一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0025】
図1は、一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれに備えられる抽気装置の概要を示す図である。塩素バイパス設備100はセメントキルン50と窯尻52とライジングダクト51を備えるセメントクリンカ製造設備200に設けられ、セメントクリンカの製造に伴って生じる塩素等の揮発成分を含むキルンガスを抽気する抽気装置90を備える。抽気装置90を備える塩素バイパス設備100は、セメントクリンカ製造設備内の塩素等の揮発成分をダストとして回収し、セメントクリンカ製造設備内の揮発成分を低減する。
【0026】
塩素バイパス設備100は、ライジングダクト51及び/又はセメントキルン50の窯尻52から、キルンガスを抽気し、抽気したキルンガスに冷却ガスを混合してキルンガスと冷却ガスを含む抽気ガスを得る抽気装置90と、抽気装置90に冷却ガスを供給するための導入ファン14と、抽気装置90からの抽気ガスに含まれる塊状のダストを分離するチャンバ20と、塊状のダストが分離された抽気ガスを揮発性アルカリ塩の融点以下に冷却する熱交換器25と、冷却に伴って析出した、抽気ガスに含まれるダスト(塩素バイパスダスト)を、抽気ガスから分離する集塵器26と、チャンバ20、熱交換器25及び集塵器26を介して、抽気ガスを抽気する吸引ファン28とを備える。抽気管12は、抽気プローブと称されるものであってもよい。吸引ファン28としては、シロッコファン及びターボファンなどの通常の吸引ファンが挙げられる。
【0027】
抽気装置90は、導入ファン14から抽気管12に冷却ガスを導入する冷却ガス導入部16と、抽気管12と、を備える。冷却ガスは、常温の空気であってよく、工場等で発生する排気ガスを含むものであってもよい。排気ガスとしては、例えば、セメント製造工場に持ち込まれた下水汚泥等の含水汚泥の受け入れ、貯蔵及び発酵時に発生する臭気ガス、吸引ファン28及び他工程の吸引ファンから排出される排出ガス等が挙げられる。
【0028】
抽気管12は、図1に示されるように、水平方向に対して傾斜している。すなわち、抽気管12の抽気口12a側を上流側、チャンバ20側を下流側としたときに、抽気管12は、上流側よりも下流側の方が高くなるように傾斜した状態で、ライジングダクト51(窯尻52)に連結されている。これによって、旋回流と重力によって、原料ダストを含むダストをライジングダクト51(窯尻52)に戻すことができる。傾斜角度は、例えば水平面に対して上方に20~70°であってよい。ただし、抽気管12は、幾つかの変形例では、水平であってもよい。
【0029】
図2は、図1における抽気装置90とその近傍を拡大して示す図である。抽気装置90はライジングダクト51(窯尻52)に接続され、キルンガスと冷却ガスとを混合する円管形状の抽気管12を備える。抽気管12は、その内壁面に沿って設けられ、抽気口12aを形成する堰状部材10を有する。
【0030】
冷却ガス導入部16は、抽気管12における周面13の接線方向に延在するように抽気管12に接続されている。冷却ガス導入部16から、抽気管12の周面13の周方向に沿うように導入された冷却ガス62は、抽気口12aから抽気管12に流入したキルンガス60と混合しながら、抽気管12に旋回流SF1,SF2を形成する。旋回流SF1,SF2の旋回軸と、円管形状を有する抽気管12の中心軸は略一致してよい。旋回流SF1,SF2は、高温のキルンガス60から抽気管12の内壁面が保護する。また、抽気管12内部を、下流側から上流側に流れる旋回流SF1は、抽気口12aにおいてキルンガスに同伴されるダストの流入を抑制する。
【0031】
図3(A)は堰状部材10の平面図であり、図3(B)は堰状部材10の側面図である。図3(A)に示すように、堰状部材10は、C型リング形状を有しており、外周縁15bが抽気管12の内壁の周方向に沿うように設置される。上部に切り欠き部11を有する。切り欠き部11と堰状部材10の内周縁15aの内側が抽気口12aとなる。堰状部材10は、切り欠き部11が抽気口12aの上側に配置するように設けられてよい。これによって、例えば抽気口12aよりも上方にある仮焼炉から落下してくる抜け落ちダストが、抽気口12aから抽気管12内に流入することを抑制できる。本開示における「抽気口の上側」とは抽気口の上半分の部分をいい、「抽気口の下側」とは抽気口の下半分の部分をいう。
【0032】
切り欠き部11がなす角度θは、好ましくは180°以下であり、より好ましくは30~150°以下であり、さらに好ましくは60~120°である。角度θが過大になると、抽気口12aからライジングダクト51(窯尻52)に逆流する冷却ガス量が多くなりすぎて、セメントクリンカ製造設備の熱効率が低下する傾向にある。一方、角度θが過少になると、抽気口12aからライジングダクト51(窯尻52)に逆流する冷却ガス量が少なくなりすぎて、ダストの流入を抑制する効果が低下する傾向にある。ここで、角度θは、図3(A)のような正面図において、抽気口12aの中心Cを通り、切り欠き部11を形成する2つの先端部10a,10bと接する2つの線分のなす角度として求められる。
【0033】
変形例では、堰状部材10の切り欠き部11は、抽気口12aの下側に配置するように設けられてよい。これによって、セメントキルン50側からキルンガスに巻き込まれて窯尻52及びライジングダクト51を上昇してくるダストが抽気口12aから抽気管12に流入することを抑制できる。堰状部材10は、このようにダストの流入を制御する機能を有する。
【0034】
堰状部材の外径r0に対する内径r1の比は、好ましくは0.4~0.9であり、より好ましくは0.5~0.8である。これによって、抽気口12aから逆流する抽気ガスの量を好適な範囲に調整し易くなる。
【0035】
図4は、幾つかの変形例に係る堰状部材の正面図である。図4(A)の堰状部材10Aは、堰状部材10と同様にC型リング形状を有しているが、切り欠き部11Aの形状が切り欠き部11とは異なっている。この場合も、切り欠き部11Aがなす角度θは、抽気口12aの中心Cを通り、切り欠き部11Aを形成する2つの先端部10a,10b(上端)と接する2つの線分のなす角度として求められる。堰状部材10Aは、内周縁15aの内側部分と切り欠き部11Aで構成される抽気口12aの輪郭に凸部がないため、図4のような面方向に沿うガスの流速成分のばらつきを小さくすることができる。また、例えば、堰状部材を耐火物で作製する場合の加工を円滑に行うことができる。
【0036】
図4(B)の堰状部材10Bは、O型リング形状を有しており、内周縁15aの一部が、他部よりも、外周縁15b側に凹むように切り欠かれて切り欠き部11Bが形成されている。このようなO型リング形状を有する堰状部材10Bは、冷却ガス導入部より導入された冷却ガスがキルンガスと十分に混合される前に窯尻及びライジングダクトに逆流することを十分に抑制できる。
【0037】
図4(C)と堰状部材10Cは、上下2つに分割されており、その間に合計2つの切り欠き部11Cが形成されている。抽気口12aの中心Cをそれぞれ通り、2つの切り欠き部11Cにおいて対向する2つの先端部10a,10bと接する2つの線分のなす角度θ,θは、合計値(θ+θ)が、上述の範囲にあることが好ましい。なお、複数の切り欠き部は図4(C)のように上下に堰状部材を分断するものに限定されず、例えば、図4(C)において左右に堰状部材を分断するものであってもよい。これによって、抽気口12aの上側と下側に切り欠き部11Cをそれぞれ配置することができる。また、切り欠き部は、例えば放射状に3つ以上形成されていてもよい。
【0038】
図5は、別の実施形態に係る抽気装置を示す断面図である。抽気装置91における抽気管12Aは、その中心軸Cが水平になるようにしてライジングダクト51(又は窯尻52)に連結されている。抽気管12Aは、その内壁面に沿って、抽気口12aを形成するように堰状部材10Dを有している。堰状部材10Dは、上部にテーパー状に切り欠かれた切り欠き部11Dを有する。堰状部材10Dの切り欠き部11Dは、抽気口12aから離れるにつれて薄くなるようにテーパー状に切り欠かれている。このように、本開示における切り欠き部は、堰状部材を分断する部分、及び、凹部が形成されるように切り欠かれる部分のみならず、テーパー状に一部が切り欠かれる部分であってよい。
【0039】
このようなテーパー状の切り欠き部11Dを有することによって、堰状部材10Dは、抽気管12Aからライジングダクト51(又は窯尻52)に逆流するガスの流路を段階的にではなく、徐々に狭くすることができる。したがって、抽気管12Aの下流側から上流側(抽気口12a)に向かう旋回流SF1を抽気口12aまで十分に維持することができる。よって、抽気口12aから原料ダストが流入することを抑制するとともに、抽気口12a付近に堆積又は付着したダストをテーパー部11Dからライジングダクト51(又は窯尻52)に戻すこともできる。
【0040】
切り欠き部11Dの勾配角度θsは、好ましくは0を超え且つ60°以下であり、より好ましくは5~45°であり、さらに好ましくは10~30°である。これによって、抽気管12Aの下流側から上流側(抽気口12a)に向かう旋回流SF1を抽気口12aまで一層十分に維持することができる。
【0041】
切り欠き部11Dを有する堰状部材10Dの形状は、図5の形状に限定されない。例えば、図3の堰状部材10のように抽気口12aの上側に切り欠き部が配置されるように設けられてもよいし、抽気口12aの下側に切り欠き部が配置されるように設けられてもよい。また、抽気管12Aは、図2に示すように、抽気口12aから離れるにつれて高くなるように傾斜していてもよい。
【0042】
図6は、堰状部材の別の変形例を示す斜視図である。図6(A)の堰状部材10Eは、C型リング形状を有し、切り欠き部11Eが抽気口12aの上側に配置されるように抽気管12(12A)に設けられる。切り欠き部11Eを形成する一対の先端部10a,10bは、切り欠き部11Eに近くなるにつれて薄くなるテーパー部17a,17bを有する。旋回流SF1は、このようなテーパー部17a,17bによって切り欠き部11Eに案内されやすくなる。これによって、切り欠き部11Eから窯尻52又はライジングダクト51内に逆流する抽気ガスの速度を一層大きくすることができる。また、旋回流SF1が、先端部10a又は先端部10bの端面に衝突して消失することが抑制される。このようにして、抽気口12aにダストが流入することを一層抑制することができる。なお、先端部10a,10bの両方にテーパー部が形成されている必要はなく、旋回流の向きに応じて、先端部10a,10bの一方のみにテーパー部が形成されていてもよい。
【0043】
図6(B)の堰状部材10Fも、C型リング形状を有し、切り欠き部11Fが抽気口12aの上側に配置されるように抽気管12に設けられる。切り欠き部11Fを形成する一対の先端部10a,10bは、切り欠き部11Fに近くなるにつれて薄くなるテーパー部17a,17bを有する。旋回流SF1は、このようなテーパー部17a,17bによって切り欠き部11Fに案内されやすくなる。なお、さらに別の変形例では、切り欠き部11E,11Fがそれぞれ抽気管12(12A)の下側になるように、堰状部材10E又は堰状部材10Fを設けてもよい。この例においても、先端部10a,10bの両方にテーパー部が形成されている必要はなく、旋回流の向きに応じて、先端部10a,10bの一方のみにテーパー部が形成されていてもよい。
【0044】
図7は、さらに別の実施形態に係る抽気装置を示す断面図である。図7の抽気装置92は、抽気管12の抽気口12aとは反対側の端部12bから、抽気管12と同心となるように抽気管12の内部に挿入される管体40を備える点で、図1の抽気装置92と異なっている。抽気管12の長手方向に沿ってみたときに、管体40の先端40aは、キルンガスの抽気管12への入口である抽気口12aと、抽気管12と冷却ガス導入部16との接続部の間に配置されている。管体40は、冷却ガス導入部16から導入される冷却ガスによって生じる旋回流の形成を促進する。これによって、抽気口12aから抽気管12内に流入するダストを低減することができる。
【0045】
抽気口12aには、堰状部材10を有することから、キルンガスの発生量が減少しても、冷却ガス導入部16から導入された冷却ガスがライジングダクト51(又は窯尻52)内に流入することを抑制できる。管体40に流入した抽気ガス63は、管体40の下流に向かって流通する。管体40の下流側には、図1に示すように、チャンバ20、熱交換器25、集塵器26、吸引ファン28が設けられてよい。
【0046】
図8及び図9は、さらに別の実施形態に係る抽気装置を示す図である。図9は、図8のIX-IX線断面図である。図8の抽気装置93も、図7の抽気装置92と同様に、抽気管12の周面13の周方向に沿うように冷却ガスを導入し、キルンガス60と冷却ガス62とを混合する旋回流SF1が生じる。抽気装置93は、抽気口12aにおいて抽気管12の内壁面に沿って堰状部材10Gを備える。堰状部材10Gの切り欠き部11Gは、抽気口12aの下側に配置するように設けられている。これによって、セメントキルン50側からキルンガスに巻き込まれて窯尻52及びライジングダクト51を上昇してくるダストが抽気口12aから抽気管12に流入することを抑制できる。
【0047】
また、図8及び図9示す抽気装置93は、抽気管12の端部12b側から、抽気管12と同心となるように抽気管12の内部に挿入される二重管41を備える。二重管41は、第1の管体41Aと、第1の管体41A内に挿入されている第2の管体41Bとを備える。第1の管体41Aは、第2の管体41Bの長手方向に沿ってスライド可能に設けられている。第1の管体41A及び第2の管体41Bは、抽気管12と同心となるように設けられている。二重管41は、抽気管12の内部において旋回流SF1の形成を促進するとともに旋回流SF1の抽気管12の長手方向に沿う進行方向をガイドする機能を有してよい。
【0048】
第1の管体41Aを第2の管体41Bに対して長手方向に沿ってスライドさせることによって、第1の管体41Aの先端41aの位置を変えることができる。これによって、抽気管12内の旋回流の強さを変えることができる。例えば、抽気管12における第1の管体41Aの先端41aの位置を、キルンガス60の発生量及びダストの発生量に応じて変えてよい。これによって、ライジングダクト51(窯尻52)に逆流する抽気ガスの量、並びに、旋回流の強度及び分布等の流動状態を調整することができる。したがって、抽気管12の内壁へのダストの堆積及び付着の抑制と、ライジングダクト51(窯尻52)内への冷却ガスの流入の抑制とを、高水準に両立することができる。抽気ガス63は、第2の管体41B内を通り、二重管41の下流に向かって流通する。二重管41の下流側には、図1に示すように、チャンバ20、熱交換器25、集塵器26、吸引ファン28が設けられてよい。
【0049】
上述の抽気装置90(91,92,93)を備える塩素バイパス設備100は、計測部で計測された運転情報に基づいて、冷却ガス導入部16から抽気管12(12A)に導入される冷却ガス62の流量を調節することが好ましい。
【0050】
計測部が計測する運転情報としては、温度、圧力、ガス成分、ガス流速、ダスト濃度及び画像等が挙げられる。具体的には、抽気管12(12A)の内部又は表面の温度、ライジングダクト51又は窯尻52におけるキルンガスの温度、抽気管12(12A)内に流入するキルンガスの温度、及び、キルンガス又は抽気ガスの圧力、キルンガス又は抽気ガスのガス成分、キルンガス又は抽気ガスに含まれるダスト濃度、抽気管12(12A)の内部の画像等が挙げられる。計測部としては、例えば、温度センサ、圧力センサ、ガス成分センサ、流速センサ、及びカメラ等が挙げられる。
【0051】
冷却ガス62の流量の調節は、ダンパー等の流量調節部で行ってもよい。流量調節部での調節は、オペレーターが運転情報に基づいてマニュアルで行ってよく、計測部で計測された運転情報に基づいて、流量調節部に制御信号を出力する制御部を用いて行ってもよい。制御部は、通常のコンピュータシステムであってよく、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力インターフェイスなどを備えてよい。
【0052】
制御部を備えることによって、冷却ガス62の流量を、流量調節部を用いて自動で制御することができる。例えば、抽気管12(12A)の抽気口12a付近の温度T1を計測部で計測し、温度T1が下限を下回った場合には、流量調節部によって冷却ガス導入部16からの冷却ガス62の流量を減らす。これによって、冷却ガスがライジングダクト51(窯尻52)に流入することを抑制できる。一方、温度T1が上限を上回った場合には、流量調節部によって冷却ガス62の流量を増やす。これによって、キルンガスに同伴して抽気管12(12A)に持ち込まれるダストの量を低減することができる。
【0053】
図10は、塩素バイパス設備に設けられるチャンバ20の例を示している。図10(A)はチャンバ20Aの正面図であり、図10(B)はチャンバ20Aの上面図である。チャンバ20Aは、抽気管12(12A)からの抽気ガス63に含まれるダストの少なくとも一部を分離する内部空間を有する本体部21と、本体部21に抽気ガス63を導入する導入管22と、本体部21で抽気ガス63から分離されたダストを排出するダスト排出管24と、本体部21から抽気ガス63よりもダストが低減された抽気ガス64を導出する導出管23とを備える。
【0054】
チャンバ20Aでは、本体部21と導入管22との接続部に導入口22aが形成され、本体部21と導出管23との接続部に導出口23aが形成されている。図10(A)及び図10(B)に示されるように、導入口22aから導入される抽気ガス63の導入方向の延長線(仮想導入線VG)は、導出口23aからずれて、本体部21の内壁に交差している。このような本体部21を有するチャンバ20Aでは、抽気ガス63に含まれるダストを効率よく分離し、導出口23aから導出される抽気ガス64に同伴するダストを十分に低減することができる。仮想導入線VGは、本体部21とダスト排出管24との接続部に形成されるダスト排出口24aからもずれている。これによって、一旦、抽気ガス63から分離されたダストが再び抽気ガス63に混入することを抑制することができる。
【0055】
図11は、塩素バイパス設備に設けられるチャンバの別の例を示している。図11(A)はチャンバ20Bの正面図であり、図11(B)はチャンバ20Bの上面図である。チャンバ20Bも、チャンバ20Aと同様に、本体部21、導入管22、ダスト排出管24、及び導出管23を備える。図11(A)及び図11(B)に示されるように、導入口22aから導入される抽気ガス63の導入方向の延長線(仮想導入線VG)は、導出口23aからずれて、本体部21の内壁に交差している。仮想導入線VGは、ダスト排出口24aからもずれている。したがって、チャンバ20Bも、抽気ガス63に含まれるダストを効率よく分離し、導出口23aから導出される抽気ガス64に同伴するダストを十分に低減することができる。
【0056】
なお、チャンバの構成は、図10及び図11に例示したものに限定されない。例えば、上述の図10及び図11に示す仮想導入線VGは、(A)正面図と(B)上面図のそれぞれにおいて、導出口23a及びダスト排出口24aからずれているが、さらに別の例では、(A)正面図と(B)上面図のどちらか一方において、導出口23a及びダスト排出口24aからずれていてもよい。このような例であっても、抽気ガス63に含まれるダストを効率よく分離することが可能である。また、抽気ガス63から分離されたダストが再び抽気ガス63に混入することも抑制できる。また、本実施形態の塩素バイパス設備100はチャンバ20を備えているが、別の実施形態ではチャンバを備えていなくてもよい。チャンバを備えていなくても、抽気ガスに含まれるダストは例えば集塵器26で回収することができる。
【0057】
集塵器26は、バグフィルタであってよく、湿式スクラバ等の湿式集塵器であってもよい。また、集塵器26とは別に分級器を集塵器26の上流又は下流に設けてもよい。塩素バイパス設備100は、抽気装置90(91,92,93)を備えることから、抽気ガスに含まれるダストを低減することができる。したがって、バグフィルタ及び湿式集塵器のどちらであっても、負荷を低減することができる。
【0058】
図12は、一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備を示す図である。セメントクリンカ製造設備200は、セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼部70と、予熱及び仮焼されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得るセメントキルン50と、セメントキルン50で得られたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ80とを備える。予熱仮焼部70は、4つのサイクロンC1,C2,C3,C4(プレヒータ)と仮焼炉72とを有する。
【0059】
セメントキルン50の窯尻52と予熱仮焼部70の仮焼炉72とは、ライジングダクト51で接続されている。ライジングダクト51と窯尻52の接続部近傍には、セメントキルン50で発生するキルンガスを抽気して、キルンガスに含まれるダストを回収する塩素バイパス設備100の抽気装置90の抽気管12が接続されている。抽気管12には、その周面の周方向に沿うように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部16が接続されている。セメントクリンカ製造設備200は、抽気装置90を有する塩素バイパス設備100を備えることによって、セメントクリンカ製造設備200内の揮発成分を低減することができる。
【0060】
サイクロンC1とサイクロンC2との接続部から導入されるセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、ライジングダクト51、仮焼炉72、及びサイクロンC4を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。セメントキルン50では、予熱及び仮焼されたセメント原料が、窯尻52とは反対側に設けられたバーナ54の燃焼によって加熱されセメントクリンカとなる。得られたセメントクリンカは、クリンカクーラ80で冷却される。クリンカクーラ80によって冷却された後、セメントクリンカが得られる。
【0061】
セメントクリンカ製造設備200は、抽気装置90を有する塩素バイパス設備100を備えることから、抽気管12内のダストの堆積及び付着を低減し、安定的に塩素バイパス設備100及びセメントクリンカ製造設備200を運転することができる。また、原料ダストを有効利用して、セメントクリンカを効率よく製造することができる。なお、本実施形態では、塩素バイパス設備100が抽気装置90を有しているが、抽気装置90の代わりに、抽気装置91,92,93又はこれらの変形例のいずれかを有していてもよい。
【0062】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカ製造設備200を用いて行うことができる。この製造方法は、予熱仮焼部70でセメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、予熱及び仮焼されたセメント原料を、窯尻52からセメントキルン50に導入し、セメントクリンカを製造する焼成工程と、焼成工程で発生するキルンガスに含まれる揮発成分の少なくとも一部を塩素バイパス設備100でダストとして回収するダスト回収工程と、を有する。また、焼成工程で得られたセメントクリンカを、クリンカクーラ80で冷却するクリンカ冷却工程を有してよい。
【0063】
予熱仮焼工程では、セメント原料がサイクロンC1とサイクロンC2の間の流路から導入される。セメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2及びサイクロンC3を流通して予熱される。その後、仮焼炉72に導入され、仮焼される。仮焼炉72には、石炭等の燃料を燃焼するバーナが設けられていてよい。仮焼炉72で仮焼されたセメント原料(仮焼原料)は、サイクロンC4に導入され加熱される。
【0064】
焼成工程では、サイクロンC4で加熱された仮焼原料が窯尻52に導入される。その後、セメントキルン50において焼成されセメントクリンカとなる。ダスト回収工程では、抽気管12(12A)において周面13の周方向に沿うように冷却ガスを導入して旋回流SF1を形成する。抽気管12(12A)は、堰状部材10(10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G)を有することから、旋回流SF1によって、抽気管12(12A)内に、抜け落ちダストや原料ダストが流入することを抑制することができる。また、冷却ガスがライジングダクト51及び窯尻52に逆流することを抑制することで、セメントキルン50の熱損失の発生を抑制することができる。したがって、上記製造方法によれば、各工程を安定化させて、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0065】
上述の塩素バイパス設備100及びセメントクリンカ製造設備200に関する説明内容は、上記製造方法にも適用される。
【0066】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、各実施形態及び各変形例の各構成を組み合わせてもよいし、入れ替えてもよい。また、抽気装置90(91,92,93)は、窯尻52のみ又はライジングダクト51のみに接続されていてもよいし、2つ以上の抽気装置90(91,92,93)が、ライジングダクト51と窯尻52のそれぞれに接続されていてもよい。この場合、複数の抽気装置90(91,92,93)で抽気されたダストを含む抽気ガスは、チャンバで混合されてダストが回収されてもよく、個別のチャンバでダストを低減した後、集塵器で残存するダストが回収されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示によれば、ダストの堆積及び付着を低減することが可能であり、塩素バイパス設備の運転を安定化することが可能な抽気装置が提供される。また、そのような抽気装置を備えることによって、安定的に運転することが可能な塩素バイパス設備及びセメントクリンカ製造装置が提供される。また、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0068】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G…堰状部材、10a,10b…先端部、11,11A,11B,11C,11D,11E,11F,11G…切り欠き部、12,12A…抽気管、12a…抽気口、12b…端部、13…周面、14…導入ファン、15a…内周縁、15b…外周縁、16…冷却ガス導入部、17a,17b,20,20A,20B…チャンバ、21…本体部、22…導入管、22a…導入口、23…導出管、23a…導出口、24…ダスト排出管、24a…ダスト排出口、25…熱交換器、26…集塵器、28…吸引ファン、40…管体、40a…先端、41…二重管、41A…第1の管体、41B…第2の管体、41a…先端、50…セメントキルン、51…ライジングダクト、52…窯尻、54…バーナ、60…キルンガス、62…冷却ガス、63,64…抽気ガス、70…予熱仮焼部、72…仮焼炉、80…クリンカクーラ、90,91,92,93…抽気装置、100…塩素バイパス設備、200…セメントクリンカ製造設備。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12