(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】銅不純物を除去するための浸出液の電気分解による電池リサイクル
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240116BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240116BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20240116BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240116BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240116BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/06
C22B3/16
C22B3/44
C22B23/00 102
C25C1/12
(21)【出願番号】P 2021520345
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 EP2019077258
(87)【国際公開番号】W WO2020078779
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-03
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローデ,ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】バイヤー,ドムニク
(72)【発明者】
【氏名】アデルマン,トルベン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-097076(JP,A)
【文献】米国特許第04240886(US,A)
【文献】米国特許第05804044(US,A)
【文献】特開2003-157913(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0117024(KR,A)
【文献】特開平01-188691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C25C 1/00-7/08
C02F 1/46-1/469
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池から遷移金属を回収する方法であって、
(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、溶解した銅不純物を含む浸出液を生成すること
、ここで、前記遷移金属材料はリチウムイオン電池スクラップに由来する材料である、と、
(b)前記浸出液を含む電解質の電気分解により、前記溶解した銅不純物を元素銅として粒子状堆積カソードに堆積させることと、を含
み、
前記堆積カソードは、少なくとも部分的に前記遷移金属材料から取得され、前記堆積カソードは、グラファイトなどの炭素である、
方法。
【請求項2】
前記堆積カソードは、1~1000μ
mの範囲の粒径d50を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解質は、前記電気分解の前に、最大400
0ppmの前記銅不純物の濃度を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
銅の電気化学ポテンシャルに
対して-50mV~-500m
Vの範囲に保たれる電気化学ポテンシャルが、前記電気分解中に前記堆積カソードに印加される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質は、4~8のpHを有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属材料は、機械的に処理された電池スクラップから取得されるか、または製錬電池スクラップから金属合金として取得される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(a1)前記浸出液から非溶解固形物を除去するステップであって、前記非溶解固形物は炭素粒子であり、前記炭素粒子を堆積カソードとしてステップ(b)に供給するステップをさらに含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(c)前記遷移金属を混合水酸化物または混合炭酸塩として沈殿させるステップをさらに含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記浸出剤は、無機または有機の水性酸である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(a2)前記浸出液のpH値を2.5~8に調整するステップと、
(a3)固液分離によって、リン酸塩、酸化物、水酸化物またはオキシ水酸化物の沈殿物を除去するステップと、をさらに含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記堆積カソードは、前記電解質中に懸濁させられる、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電解質中の懸濁された前記堆積カソードの濃度は、0.01~10重量
%である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(b)は、前記電気分解中に前記堆積カソードにさらなる電気化学ポテンシャルを印加することを含み、これにより、溶解したニッケル塩を元素ニッケルとして、または溶解したコバルト塩を元素コバルトとして前記粒子電極上に堆積させることができる、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
詳細
本発明は、電池から遷移金属を回収する方法に関し、本方法は、遷移金属材料を浸出剤で処理して、溶解した銅不純物を含む浸出液を生成することと、浸出液を含む電解質の電気分解によって、溶解した銅不純物を元素銅として粒子状堆積カソード上に堆積させることとを含む。好ましい実施形態と他の好ましい実施形態との組み合わせは、本発明の範囲内である。
【背景技術】
【0002】
電池、特にリチウムイオン電池の寿命は、無制限ではない。したがって、使用済みリチウムイオン電池の数が増えることが予想される。使用済みリチウムイオン電池は、コバルトおよびニッケルを含むがこれらに限定されない重要な遷移金属、さらに、リチウムを含有しているため、使用済み電池は新世代のリチウムイオン電池の原材料の貴重な供給源となり得る。そのため、使用済みリチウムイオン電池から遷移金属-および、任意選択的に、リチウム-をリサイクルすることを目的として行われる研究が増加している。
【0003】
原材料の回収には様々な方法が見出されている。1つの方法は、対応する電池スクラップの製錬と、それに続く、製錬方法から得られた金属合金(マット)の湿式製錬処理とに基づいている。別の方法は、電池スクラップ材料の直接湿式製錬処理である。そのような湿式製錬方法は、遷移金属を水溶液として、または沈殿した形態で、例えば、水酸化物として、別々に、またはすでに新しいカソード活物質を作製するための所望の化学量論で提供する。
【0004】
US6,514,311(B1)は、ステンレス鋼スクリーンカソードを用いた電気分解ステップを含む、廃電池から金属を回収する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の方法により、様々な目的が追求された。
-ニッケルなどの遷移金属、および存在する場合はコバルトとマンガンの簡単、安価、および/または効率的な回収
-リチウムおよび炭素(例えば、グラファイト粒子)などの、さらなる価値のある元素の回収
-特に銅および/またはAg、Au、白金族金属などの貴金属の含有量が少ない場合の、遷移金属またはさらなる価値のある元素の高純度での回収
-追加の精製ステップを必要とする、新しい不純物の方法への導入の回避
-迅速な方法、特に電気分解は迅速かつ効率的でなければならない
-銅不純物を除去するための高い選択性。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電池スクラップから回収された遷移金属化合物がリチウムイオン電池の新しいカソード活物質の製造に使用される場合、そのような不純物が、セルまたは電池の短絡および破壊を引き起こす可能性がある電池セル内の導電性デンドライトを形成し得るため、少量の銅が特に重要である。
【0008】
この目的は、電池から遷移金属を回収する方法であって、
(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、溶解した銅不純物を含む浸出液を生成することと、
(b)浸出液を含む電解質の電気分解により、溶解した銅不純物を元素銅として粒子状堆積カソードに堆積させることと、を含む方法によって解決された。
【発明を実施するための形態】
【0009】
リチウムイオン電池などの電池からの遷移金属の回収は、通常、遷移金属(例えば、ニッケル、コバルトおよび/またはマンガン)および任意選択でさらなる価値のある元素(例えば、リチウムおよび/または炭素)が、少なくとも部分的に、典型的にはそれぞれ少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、または95重量%の回収率で回収することができることを意味する。好ましくは、少なくともニッケル、コバルトおよび/またはリチウムがこの方法によって回収される。
【0010】
遷移金属および任意選択でさらなる価値のある元素は、電池、好ましくは使用済みまたは新品の電池などのリチウムイオン電池、電池の部品、その規格外の材料(例えば、仕様および要件を満たさない)、または電池製造からの生産廃棄物から回収される。
【0011】
遷移金属材料は通常、電池、好ましくはリチウムイオン電池に由来する材料である。安全上の理由から、このような電池は完全に放電される。そうしないと、火災および爆発の危険をもたらす短絡が発生し得る。そのようなリチウムイオン電池は、例えば、ハンマーミルで分解、打ち抜き、粉砕、または例えば、工業用シュレッダーで細断され得る。この種の機械的処理から、規則的な形状を有し得るが通常は不規則な形状を有する遷移金属材料を含む電池電極の活物質が取得され得る。しかしながら、例えば、強制的なガス流、空気分離または分類において、有機プラスチックおよびアルミ箔または銅箔から形成されたハウジング部品などの軽質留分を可能な限り除去することが好ましい。遷移金属材料はまた、製錬電池スクラップから金属合金として取得され得る。好ましくは、遷移金属材料は、リチウムイオン電池から取得され、リチウムを含む。
【0012】
遷移金属材料は、多くの場合、リチウムイオン電池などの電池の電池スクラップからのものである。このような電池のスクラップは、使用済み電池または製造廃棄物、例えば規格外の材料に起因し得る。好ましい形態では、遷移金属材料は、機械的に処理された電池スクラップ、例えば、ハンマーミルまたは工業用シュレッダーで処理された電池スクラップから取得される。そのような遷移金属材料は、1μm~1cm、好ましくは1~500μm、特に3~250μmの範囲の平均粒径(D50)を有し得る。ハウジング、配線、および電極キャリアフィルムなどの電池スクラップのより大きな部分は、通常、機械的に分離されるため、対応する材料は、方法において使用される遷移金属材料から広く除外することができる。機械的に処理された電池スクラップは、遷移金属酸化物を集電体膜に結合するために、または例えばグラファイトを集電体膜に結合するために使用されるポリマー結合剤を溶解および分離するために溶媒処理に供され得る。適切な溶媒は、純粋な形態の、そのうちの少なくとも2つの混合物としての、または1~99重量%の水との混合物としての、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルピロリドン、およびジメチルスルホキシドである。
【0013】
機械的に処理された電池スクラップは、様々な雰囲気下で広範囲の温度で熱処理に曝され得る。温度範囲は通常100~900℃の範囲である。300℃未満の低温は、電池電解質から残留溶媒を蒸発させるのに役立つが、より高温では、バインダーポリマーが分解し得るのに対し、400℃を超える温度では、一部の遷移金属酸化物が、スクラップ材料に含まれる炭素によってまたは還元性ガスの導入によって還元され得るため、無機材料の組成が変化し得る。このような熱処理により、遷移金属材料の形態は通常保持され、化学組成のみが変化し得る。しかしながら、そのような熱処理は、溶融遷移金属合金および溶融スラグが形成される製錬方法とは根本的に異なる。そのような熱処理の後、取得された材料は、水または弱酸または希酸で浸出され得、これにより、選択的に容易な可溶性成分、特に熱処理中に形成され得るリチウムの塩、例えば炭酸リチウムおよび水酸化リチウムを溶解させる。一形態では、遷移金属材料は、任意選択で水素雰囲気下で、(例えば、100~900℃において)熱処理された電池スクラップの機械的処理から取得される。
【0014】
好ましくは、遷移金属材料は、機械的に処理された電池スクラップから取得されるか、または製錬された電池スクラップから金属合金として取得される。
【0015】
遷移金属材料は、リチウムおよびその化合物、導電性形態の炭素(例えば、グラファイト、煤、およびグラフェン)、電解質に使用される溶媒(例えば、ジエチルカーボネートなどの有機炭酸塩)、アルミニウムおよびアルミニウムの化合物(例えば、アルミナ)、鉄および鉄化合物、亜鉛および亜鉛化合物、ケイ素およびケイ素化合物(例えばゼロ<y<2でのシリカおよび酸化ケイ素SiOy)、スズ、ケイ素-スズ合金、および(ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素化ポリマー、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの)有機ポリマー、フッ化物、リンの化合物(例えば、広く用いられるLiPF6、およびLiPF6の加水分解に由来する生成物における、液体電解質に由来し得る)を含み得る。
【0016】
遷移金属材料は、1~30重量%、好ましくは3~25重量%、特に8~16重量%のニッケルを、金属としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。
【0017】
遷移金属材料は、1~30重量%、好ましくは3~25重量%、特に8~16重量%のコバルトを、金属としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。
【0018】
遷移金属材料は、1~30重量%、好ましくは3~25重量%、特に8~16重量%のマンガンを、金属としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。
【0019】
遷移金属材料は、0.5~45重量%、好ましくは1~30重量%、特に2~12重量%のリチウムを、金属としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。
【0020】
遷移金属材料は、100ppm~15重量%のアルミニウムを、金属としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。
【0021】
遷移金属材料は、20ppm~3重量%の銅を、金属としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。
【0022】
遷移金属材料は、100ppm~5重量%の鉄を、金属または合金としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。遷移金属材料は、20ppm~2重量%の亜鉛を、金属または合金としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。遷移金属材料は、20ppm~2重量%のジルコニウムを、金属または合金としてまたは1つ以上のその化合物の形態で含み得る。遷移金属材料は、20ppm~2重量%のタングステンを、金属または合金としてまたは1つ以上その化合物の形態で含み得る。遷移金属酸化物材料は、ポリマーに結合した有機フッ化物と、その1つ以上の無機フッ化物中の無機フッ化物との合計として計算して、0.5重量%~10重量%のフッ素を含み得る。遷移金属材料は、0.2重量%~10重量%のリンを含み得る。リンは、1つ以上の無機化合物で発生し得る。
【0023】
遷移金属材料は通常、ニッケルと、コバルトおよびマンガンのうちの少なくとも1つとを含む。このような遷移金属材料の例は、LiNiO2、リチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物(「NCM」)またはリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物(「NCA」)またはそれらの混合物に基づき得る。
【0024】
層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物の例は、一般式Li1+x(NiaCobMncM1
d)1-xO2の化合物であり、M1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、VおよびFeから選択され、さらなる変数は次のように定義される:ゼロ≦x≦0.2、0.1≦a≦0.8、ゼロ≦b≦0.5、好ましくは、0.05<b≦0.5、ゼロ≦c≦0.6、ゼロ≦d≦0.1、およびa+b+c+d=1。好ましい層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物は、M1が、Ca、Mg、Zr、AlおよびBaから選択されるものであり、さらなる変数は上記のように定義される。好ましい層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物は、Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.3](1-x)O2、およびLi(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2であり、それぞれ、xは上記で定義されている。
【0025】
リチウム化ニッケルコバルト酸化アルミニウムの例は、一般式Li[NihCoiAlj]O2+rの化合物であり、hは0.8~0.90の範囲であり、iは0.15~0.19の範囲であり、jは0.01~0.05の範囲であり、rは0~0.4の範囲である。
【0026】
ステップ(a)の前
任意選択で、遷移金属材料は、様々な方法によってステップ(a)の前に処理することができる。
【0027】
ステップ(a)の前に、例えば50~300℃の範囲の温度で、例えば機械的除去または乾燥によって、使用された電解質、特に有機溶剤または有機溶剤の混合物を含む使用された電解質を、少なくとも部分的に除去することが可能である。有機溶媒を除去するための好ましい圧力範囲は、0.01~2バール、好ましくは10~100ミリバールである。
【0028】
ステップ(a)の前に、遷移金属材料を水で洗浄し、それによって遷移金属材料から液体不純物および水溶性不純物を除去することが好ましい。前記洗浄工程は、例えばボールミルまたは撹拌ボールミルでの粉砕によって改善され得る。洗浄された遷移金属材料は、固液分離ステップ、例えば、濾過もしくは遠心分離、または任意の種類の沈降およびデカンテーションによって回収され得る。そのような固体遷移金属材料のより微細な粒子の回収を支援するために、凝集剤、例えばポリアクリレートが添加され得る。
【0029】
ステップ(a)の前に、例えば、炭素および/または高分子材料の少なくとも部分的な除去のために、少なくとも1つの固体-固体分離ステップを行うことができる。固体-固体分離ステップの例は、分類、重力濃縮、浮遊選別、高密度媒体分離、または磁気分離である。通常、ステップ(a)の前に取得された水性スラリーは、固体-固体分離に供され得る。固体-固体分離ステップはしばしば、炭素およびポリマーなどの疎水性不溶性成分を金属または金属酸化物成分から分離するのに役立つ。
【0030】
このような固体-固体分離ステップは、機械的、カラムもしくは空気圧、またはハイブリッド浮遊選別によって実施され得る。疎水性成分をさらに疎水性にするコレクター化合物をスラリーに添加することができる。炭素および高分子材料に適したコレクター化合物は、1g/t~50kg/tの遷移金属材料の量で導入される炭化水素または脂肪アルコールである。
【0031】
逆の意味で浮遊選別を行うことも可能であり、すなわち、特別なコレクター物質、例えば、脂肪アルコール硫酸塩またはエステルクアットによって、元々親水性の成分を強い疎水性の成分に変換する。炭化水素コレクターを使用する直接浮遊選別が好ましい。炭素および高分子材料の粒子に対する浮遊選別の選別性を改善するために、泡相中の同伴金属および金属酸化物成分の量を低減する抑制剤を添加することができる。使用することができる抑制剤は、3~9の範囲でpH値を制御するための酸または塩基、またはより多くの親水性成分を吸収し得るイオン成分であり得る。浮遊選別の効率を増加させるために、浮遊選別条件下で疎水性標的粒子と凝塊を形成するキャリア粒子を添加することが有利であり得る。
【0032】
磁性または磁化可能な金属または金属酸化物成分は、磁化可能な成分の感受性に応じて、低、中、または高強度の磁気分離器を使用する磁気分離によって分離され得る。磁性キャリア粒子を追加することも可能である。そのような磁性キャリア粒子は、標的粒子と凝塊を形成することができる。これにより、非磁性材料も磁気分離技術によって除去することができ、好ましくは、磁性キャリア粒子は、分離方法内でリサイクルすることができる。
【0033】
固体-固体分離ステップにより、典型的には、スラリーとして存在する固体材料の少なくとも2つの画分が得られる。1つは主に遷移金属材料を含み、もう1つは主に炭素質および高分子の電池成分を含む。次に、第1の画分は本発明のステップ(a)に供給され得る一方、第2の画分は、異なる成分、すなわち炭素質および高分子材料を回収するためにさらに処理され得る。
【0034】
ステップ(a)
ステップ(a)は、遷移金属材料を浸出剤で処理して、溶解した銅不純物を含む浸出液を生成することを含む。
【0035】
ステップ(a)の過程で、遷移金属材料は、好ましくは、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸およびクエン酸から選択される酸、または前述のもののうちの少なくとも2つの組み合わせ、例えば、硝酸および塩酸の組み合わせである浸出剤で、処理される。別の好ましい形態では、浸出剤は、
-硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、
-メタンスルホン酸、シュウ酸、クエン酸、アスパラギン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、もしくはグリシンなどの有機酸、
-アンモニウムなどの塩基、または
-EDTAのようなキレートなどの、錯体形成剤。
【0036】
好ましくは、浸出剤は、無機または有機水性酸などの水性酸である。酸の濃度は、広範囲で、例えば、0.1~98重量%、好ましくは10~80%の範囲で変更され得る。水性酸の好ましい例は、例えば10~98重量%の範囲の濃度を有する水性硫酸である。好ましくは、水性酸は、-1~2の範囲のpH値を有する。酸の量は、遷移金属を参照して過剰の酸を維持するように調整される。好ましくは、ステップ(a)の最後に、結果として生じる溶液のpH値は、-0.5~2.5の範囲である。
【0037】
ステップ(a)による処理は、20~130℃の範囲の温度で実施され得る。100℃を超える温度が望まれる場合、ステップ(a)は、1バールを超える圧力で実行される。それ以外の場合は、常圧が優先される。本発明の文脈において、常圧は、1バールを意味する。
【0038】
一形態では、ステップ(a)は、強酸から保護された容器、例えば、モリブデンおよび銅リッチの鋼合金、ニッケルベース合金、二相ステンレス鋼もしくはガラスライニングまたはエナメルもしくはチタン被覆鋼内で実行される。さらなる例は、耐酸性ポリマー、例えば、HDPEおよびUHMPEなどのポリエチレン、フッ素化ポリエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン(「PFA」)、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)、PVdFおよびFEPからのポリマーライナーおよびポリマー容器である。FEPは、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合体であるフッ素化エチレンプロピレンポリマーの略である。
【0039】
ステップ(a)から取得されたスラリーは、例えばボールミルまたは撹拌ボールミルにおいて、かき混ぜ、撹拌、または粉砕処理され得る。そのような粉砕処理は、しばしば、粒子状遷移金属材料への水または酸のより良いアクセスにつながる。
【0040】
ステップ(a)はしばしば、10分~10時間、好ましくは1~3時間の範囲の継続時間を有する。例えば、ステップ(a)における反応混合物は、良好な混合を達成し、不溶性成分の沈降を回避するために、少なくとも0.1W/lの出力でかき混ぜられ、またはポンピングによって循環される。バッフルを用いることにより、せん断をさらに改善することができる。これらのせん断装置は全て、十分な耐食性を適用する必要があり、容器自体について説明したのと同様の材料およびコーティングから生成され得る。
【0041】
ステップ(a)は、空気雰囲気下またはN2で希釈された空気下で実施され得る。しかしながら、不活性雰囲気、例えば窒素またはArなどの希ガス下でステップ(a)を実施することが好ましい。
【0042】
ステップ(a)による処理は、通常、浸出液において、遷移金属含有材料、例えば、炭素および有機ポリマー以外の不純物を含む前記NCMまたはNCAの溶解をもたらす。浸出液は、ステップ(a)を実施した後、スラリーとして取得され得る。リチウムならびに、コバルト、ニッケル、および適用可能であるならば、マンガンなどの、ただしこれらに限定されない遷移金属は、しばしば、浸出液に溶解された形態で、例えばそれらの塩の形態で存在する。
【0043】
浸出液中の銅不純物は、例えば銅塩などの、溶解した形態で存在する。
【0044】
浸出液は通常、1ppm~10000ppm、好ましくは5ppm~1000ppm、特に10~500ppmの銅不純物の濃度を含む。
【0045】
ステップ(a)は、還元剤の存在下で実施され得る。還元剤の例は、メタノール、エタノール、糖、アスコルビン酸、尿素、デンプンまたはセルロースを含有するバイオベースの材料などの有機還元剤、およびヒドラジンおよび硫酸塩などのその塩、および過酸化水素などの無機還元剤である。ステップ(a)のために好ましい還元剤は、ニッケル、コバルト、またはマンガン以外の金属に基づく不純物を残さないものである。ステップ(a)における還元剤の好ましい例は、メタノールおよび過酸化水素である。還元剤の助けを借りて、例えば、Co3+をCo2+またはMn(+IV)またはMn3+をMn2+に還元することが可能である。好ましくは、Coおよび(存在する場合は)Mnの量に応じて、過剰な還元剤が使用される。Mnが存在する場合、そのような過剰は有利である。
【0046】
いわゆる酸化性酸がステップ(a)において使用される実施形態では、未使用の酸化剤を除去するために還元剤を添加することが好ましい。酸化性酸の例は、硝酸および硝酸と塩酸の組み合わせである。本発明の文脈において、塩酸、硫酸およびメタンスルホン酸は、非酸化性酸の好ましい例である。
【0047】
使用される酸の濃度に応じて、ステップ(a)において取得される浸出液は、1~20重量%、好ましくは3~15重量%の範囲の遷移金属濃度を有し得る。
【0048】
ステップ(a)と(b)の間
ステップ(a)は、溶解した銅不純物を含む浸出液を生成する。任意選択で、ステップ(a)からの浸出液は、ステップ(a1)、(a2)、および/または(a3)などによって、ステップ(b)においてそれを使用する前に様々な方法によって処理することができる。好ましい形態では、ステップ(a1)、(a2)、および(a3)は、所与の順序で実行される。
【0049】
ステップ(a)の後およびステップ(b)の前に実行され得る任意選択のステップ(a1)は、浸出液からの非溶解固形物の除去である。非溶解固形物は、通常、炭素質材料、好ましくは炭素粒子、特にグラファイト粒子である。炭素粒子などの非溶解固形物は、1~1000μm、好ましくは5~500μm、特に5~200μmの範囲の平均粒径D50を有する粒子の形態で存在することができる。D50は、レーザー回折(ISO 13320 EN:2009-10)によって決定され得る。ステップ(a1)は、濾過、遠心分離、沈降、またはデカンテーションによって実施され得る。ステップ(a1)において凝集剤を加えることができる。除去された非溶解固形物は、例えば水で洗浄することができ、任意選択で、炭素質成分とポリマー成分を分離するためにさらに処理することができる。通常、ステップ(a)およびステップ(a1)は、連続運転モードで順次実行される。
【0050】
ステップ(a1)の好ましい形態は、浸出液から非溶解固形物を除去することであり、非溶解固形物は炭素粒子(好ましくはグラファイト粒子)であり、炭素粒子を堆積カソードとしてステップ(b)に供給する。したがって、電池スクラップからの炭素粒子をリサイクルでき、方法のために新しい炭素粒子を購入する必要はない。
【0051】
ステップ(a)の後、またはステップ(a1)の後、ステップ(b)の前に実施され得る別の任意選択のステップ(a2)は、浸出液のpH値を2.5~8、好ましくは5.5~7.5、特に6~7に調整することである。pH値は、従来の手段によって、例えば、電位差測定によって決定され得、20℃での連続液相のpH値を指す。pH値の調整は、水で希釈するか、塩基を添加するか、またはそれらの組み合わせによって行われる。適切な塩基の例は、例えば、ペレットとして、または好ましくは水溶液として、固体形態のアンモニアおよびアルカリ金属水酸化物、例えば、LiOH、NaOH、またはKOHである。前述のもののうちの少なくとも2つの組み合わせ、例えば、アンモニアと水性苛性ソーダの組み合わせも実行可能である。ステップ(a2)は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニアおよび水酸化カリウムのうちの少なくとも1つを添加することによって実施される。
【0052】
ステップ(a2)の後、ステップ(b)の前に実行され得る別の任意選択のステップ(a3)は、固液分離による、リン酸塩、酸化物、水酸化物またはオキシ水酸化物(例えば、Al、Fe、Sn、Si、Zr、Zn、もしくはCuまたはそれらの組み合わせなどの金属)の沈殿物の除去である。前記沈殿物は、ステップ(a2)におけるpH値の調整中に形成され得る。リン酸塩は、化学量論的または塩基性のリン酸塩であり得る。如何なる理論にも拘束されることを望まないが、リン酸塩は、ヘキサフルオロリン酸塩の加水分解によるリン酸塩形成の際に生成され得る。濾過などの固液分離によって、または遠心分離機を利用して、または沈降によって、沈殿物を除去することが可能である。好ましいフィルタは、ベルトフィルタ、フィルタプレス、吸引フィルタ、およびクロスフローフィルタである。
【0053】
好ましくは、この方法は、浸出液のpH値を2.5~8に調整するステップ(a2)、およびリン酸塩、酸化物、水酸化物またはオキシ水酸化物の沈殿物を除去するステップ(a3)を含む。
【0054】
ステップ(b)
ステップ(b)は、浸出液を含む電解質の電気分解によって、溶解した銅不純物を元素銅として粒子状堆積カソード上に堆積させることを含む。
【0055】
電気分解は通常、電解質を通してアノードとカソードとの間に直流電流を流すことによって電解槽で行われる。直流(DC)は通常、電解質内でイオンを生成または放電するために必要なエネルギーを提供し得る電源によって供給される。電極は、電解質と、エネルギーを提供する電気回路との間の物理的インターフェースを提供し得る。電気分解は、例えば電解槽の連続配置において、1回または繰り返して行うことができる。
【0056】
電気分解中に、特定の量のクーロンの電荷が電解質を通過し得る。電荷の量は、装置のサイズおよびタイプに依存し、専門家によって決定することができる。電流(時間あたりの電荷としても知られる)も、装置のサイズおよびタイプに依存し、専門家によって決定することができる。
【0057】
電気分解中に、通常、電気化学ポテンシャルが堆積カソードに印加される。電気化学ポテンシャルは、銅が堆積カソード上に堆積されるように選択され得る。電気化学ポテンシャルは、貴金属(例えば、Ni、CoおよびMn)の堆積が排除されるようにさらに選択され得る。電気化学ポテンシャルは、ポテンシオスタットまたは他の任意の電圧発生器によって適切な精度で制御され得る。堆積カソードに印加される電気化学ポテンシャルは、通常、電解槽中の銅の電気化学ポテンシャル(Cu2++2e-→Cu0)に関して、-50mV~-500mV、好ましくは-100mV~-400mV、特に-150mV~-300mVの範囲に保たれる。
【0058】
電気分解は定電位または定電流で実行できるが、定電位が好ましい。電気分解は通常、周囲温度で行われる。
【0059】
別の形態では、ステップ(b)は、電気分解中に堆積カソードにさらなる電気化学ポテンシャルを適用することを含み、これにより、溶解ニッケル塩を元素ニッケルとして、または溶解コバルト塩を元素コバルトとして堆積カソード上に堆積させることができる。さらなる電気化学ポテンシャルが、通常、電気化学ポテンシャルの適用後に適用され、これにより、銅不純物の堆積が可能になる。ニッケルおよびコバルトの電気化学的堆積の前に、銅によるニッケルとコバルトの汚染を回避するために、堆積カソードが新しい材料と交換され得る。さらなる電気化学ポテンシャルは、貴金属の堆積が排除されるように選択され得る。堆積カソードに印加されるさらなる電気化学ポテンシャルは、通常、電解質中のニッケルまたはコバルトの電気化学ポテンシャルに関して-50mV~-500mV、好ましくは-100mV~-400mV、特に-150mV~-300mVの範囲に保たれる。
【0060】
電解質は通常、ステップ(a)から取得される任意選択で、さらなるステップがステップ(a)と(b)の間にあり得る。
【0061】
電解液には通常、浸出液が含まれる。典型的には、電解質は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%の浸出液を含む。電解質は、通常は電解質に溶解したそれらの塩(例えば、Ni、Co、Mnの塩)の形態でリチウムまたは遷移金属を含み得る。電解質は通常、水性電解質であり、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%の水を含み得る。
【0062】
電解質中の遷移金属(例えば、Ni、Co、Mn)の総濃度は、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも2重量%、および少なくとも5重量%であり得る。遷移金属の濃度は、元素分析によって決定することができる。
【0063】
電解質中のリチウムの総濃度は、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、および少なくとも1重量%であり得る。
【0064】
電解質中のそれぞれの独立したニッケル、コバルトまたはマンガンの総濃度は、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも1重量%、および少なくとも2重量%であり得る。
【0065】
電解質は、通常、電気分解の前に、1ppm~1000ppm、好ましくは5ppm~300ppm、特に10~100ppmの溶解銅不純物の濃度を含む。別の形態では、電解質は通常、電気分解の前に、1ppm~4000ppm、好ましくは5ppm~2500ppm、特に10~1000ppmの溶解銅不純物の濃度を含む。別の形態では、電解質は、電気分解の前に、最大4000、3000、2500、2000、1500、1000、900、800、700、600、500、400、300、200、または100ppmの銅不純物の濃度を含む。
【0066】
銅不純物は、電解によって堆積カソード上に元素銅として堆積される。電解質は、電気分解後、最大100、80、60、40、20、10、5、3、または<1ppmの銅不純物の濃度を含む。好ましくは、電解質は、電気分解後、最大1ppmの銅不純物の濃度を含む。
【0067】
電解質は通常、水性電解質である。電解質は、1、2、3、4、または5を超える、好ましくは5を超えるpHを有し得る。電解質は、10、9、または8未満のpHを有し得る。別の形態では、電解質は4~8のpHを有し得る。電解質は、pH値を調整するために、緩衝塩、例えば酢酸塩の塩を含み得る。
【0068】
粒子堆積カソードは、金属、半導体、または炭素、またはそれらの混合物などの導電性材料から形成することができる。好ましくは、堆積カソードは銅または炭素から形成されている。1つの特定の好ましい形態では、堆積カソードは銅から形成されている。別の特に好ましい形態では、堆積カソードは、グラファイト、炭素煤、石炭、または木炭などの炭素から形成されている。別の特定の好ましい形態では、堆積カソードは、グラファイト、特に、以下に説明するように電池材料から回収された炭素またはグラファイトから形成されている。
【0069】
粒子堆積カソードは、1~1000μm、好ましくは5~500μm、特に5~200μmの範囲の粒径D50を有し得る。d50は、ISO 13320 EN:2009-10によるレーザー回折によって決定され得る。
【0070】
堆積カソードは、0.1~1000S/cm、好ましくは1~500S/cmの範囲の導電率を有する粒子、好ましくは炭素粒子の形態で存在することができる。
【0071】
堆積カソードは、少なくとも部分的に遷移金属材料から取得することができる。好ましくは、堆積カソードは、少なくとも部分的にステップ(a)の前またはステップ(a1)において、非溶解固形物が炭素粒子(好ましくはグラファイト粒子)である浸出液から非溶解固形物を除去し、炭素粒子を堆積カソードとしてステップ(b)に供給することによって取得される。
【0072】
アノードは、塊状アノード(例えば、ブロック、ネット、メッシュ金属バッフル、ホイル、プレート、またはそれらの混合物として)などの任意の形態で存在することができる。適切なアノード材料は、低酸素過電圧を有する寸法的に安定した材料であるアノード材料から形成することができる。アノード材料の例は、白金族ドーピングを備えるまたは備えない、亜族IV~VIのホウ化物および/または炭化物および/またはケイ化物の導電中間層を備えるチタン担体であり、その表面は、周期表の亜族IV~VIのバルブ金属の導電性の非化学両論的混合酸化物、および白金族の金属または金属酸化物または白金族化合物、例えば白金酸塩でドーピングされている。タンタル-イリジウム、タンタル-白金、およびタンタル-ロジウムの混合された酸化物の使用、およびLi0.3Pt3O4タイプの白金酸塩の使用が好ましい。表面積を拡大するために、チタン支持体は、粗面化されるか、または微孔性であり得る。
【0073】
アノードおよび堆積カソードは、ダイアフラムまたはカチオン交換膜によって分離され得る。適切なダイアフラムは、酸化アルミニウムおよび/または酸化ジルコニウムまたは過フッ素化オレフィンに基づくセラミック材料であり、これらはさらにイオン交換基を含む。使用されるカチオン交換膜は、好ましくは、過フッ素化オレフィンに基づくポリマー、またはテトラフルオロエチレンと不飽和過フッ素化エーテルとのコポリマー、または電荷運搬基としてスルホン酸およびカルボキシル基またはスルホン酸基のみを含むスチレンおよびジビニルベンゼンのコポリマーである。スルホン酸基のみを含む膜を使用することが好ましい。なぜならば、このような膜は、スルホン酸基が多価カチオンの捕捉および多価カチオンによるファウリングに対して著しくより安定しているからである。
【0074】
粒子堆積カソードは通常、作用電極、特に陰極作用電極である。作用電極という用語は、通常、対象の反応が起こっている電気化学システムの電極を指す。作用電極は、支持電極、特に支持カソードと組み合わせて使用され得る。
【0075】
1つの好ましい形態では、ステップ(b)は、浸出液を含む電解質の電気分解によって、溶解した銅不純物を元素銅として粒子堆積カソード上に堆積させることを含み、粒子堆積カソードは、電解質中に懸濁される。
【0076】
電解質中の懸濁堆積カソードの濃度は、0.01~10重量%、好ましくは0.1~2重量%、特に0.4~1.2重量%であり得る。
【0077】
通常、堆積カソードが電解質に懸濁されている場合、支持カソードが使用される。支持カソードは、任意の形態、例えば、ブロック、ネット、メッシュ化された金属バッフル、ホイル、プレート、またはそれらの混合物として存在することができる。支持カソードは、金属、半導体、もしくは炭素、またはそれらの混合物から形成することができる。好ましくは、支持カソードは銅または炭素から形成されている。
【0078】
別の好ましい形態では、ステップ(b)は、浸出液を含む電解質の電気分解によって、溶解した銅不純物を元素銅として粒子堆積カソード上に堆積させることを含み、電解質は、粒子フィルタ補助層の形態で堆積カソードを通過する。
【0079】
粒子フィルタ補助層の形態の堆積カソードの深さは、0.3mm超、好ましくは0.5mm超であり得る。フィルタ補助層の深さは、10mm未満、好ましくは5mm未満であり得る。フィルタ補助層は、逆洗、分類、およびプレコーティング法によって定期的に(例えば、2~180分の間隔で)更新され得る。
【0080】
フィルタ補助層は、例えばフィルタプレートまたはプラグの形態で、織物または焼結体などの液体透過性である支持カソード上に存在し得る。フィルタ織物または焼結体の細孔径は、30~300μm、好ましくは60~120μmの範囲であることができる。フィルタ補助層は、支持電極を介して分極することができ、支持電極は、フィルタ補助層が水素放出なしに所望のポテンシャルレベルに分極され得るために1kA2の電流密度において少なくとも400mV以上の水素過電圧を有する低表面粗さの材料から形成することができる。適切な材料は、例えば、ケイ素鋼、ステンレス鋼、銅、銀、およびグラファイトである。
【0081】
フィルタ補助層を通る電解質のスループットは、0.5~300m3/m2h、好ましくは5~50m3/m2hの範囲であることができる。圧力損失は、0.2~3bar、好ましくは0.4~1barであり得る。フィルタ補助層の陰極分極の電流密度は、0.1~10kA/m2、好ましくは0.5~3kA/m2の範囲であることができる。
【0082】
特に、電気分解は、電解質が粒子フィルタ補助層の形で堆積カソードを通過する電気化学フィルタフローセルにおいて行われる。電気化学フィルタフローセルは、通常、フローセルアノードを含み、これは、上記のようなアノード材料から形成することができる。フローセルアノードおよび堆積カソードは、上記のようにダイアフラムまたはカチオン交換膜によって分離され得る。
【0083】
電気分解は、電気化学フィルタフローセルによってバッチ式または連続式のプロセスで行われ得る。連続プロセスの場合、水中の金属イオンの所望の残留濃度は、電流供給、プロセス廃水スループット、および直列に接続された電解セルの数によって決定される。金属の除去を監視するために、基準電極に対するフィルタ補助層のポテンシャルを測定することが有利であることが見出された。適切な基準電極は、例えば、タラミド、銀/塩化銀、およびカロメル電極である。
【0084】
ステップ(b)の後
任意選択で、ステップ(b)の後に、ステップ(c)および/またはステップ(d)などのさらなるステップを続け得る。
【0085】
任意選択のステップ(c)は、通常、混合水酸化物または混合炭酸塩として、好ましくは混合水酸化物としての遷移金属の沈殿を含む。ステップ(c)は、好ましくは、ニッケル、および任意選択で、混合水酸化物、混合オキシ水酸化物または混合炭酸塩としてのコバルトまたはマンガンの沈殿を含む。
【0086】
ステップ(c)はしばしば、アンモニアまたは有機アミン(ジメチルアミンもしくはジエチルアミンなど)、好ましくはアンモニアと、水酸化リチウム、重炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、または重炭酸カリウム、または前記のうち少なくとも2つの組み合わせなどの少なくとも1つの無機塩基とを加えることによって実施される。好ましいのは、アンモニアおよび水酸化ナトリウムの添加である。
【0087】
ステップ(c)は、しばしば10~85℃、好ましくは20~50℃の範囲の温度で実施される。有機アミン-またはアンモニア-の濃度は、しばしば0.01~1モル/l、好ましくは0.1~0.7モル/lの範囲である。この文脈における「アンモニア濃度」という用語は、アンモニアおよびアンモニウムの濃度を含む。母液中のNi2+およびCo2+の溶解度がそれぞれ1000ppm以下、より好ましくはそれぞれ500ppm以下であるアンモニアの量が特に好ましい。
【0088】
本発明のプロセスのステップ(c)は、空気下、不活性ガス雰囲気下、例えば、希ガスまたは窒素雰囲気下、または還元雰囲気下で実施され得る。還元性ガスの例は、例えば、SO2である。不活性ガス雰囲気下、特に窒素ガス下での作業が優先される。ステップ(c)は、1つ以上の還元剤の存在または不在において実施され得る。適切な還元剤の例は、ヒドラジン、メタノールまたはエタノールなどの、ただしこれらに限定されない第一級アルコール、さらに過酸化水素、アスコルビン酸、グルコース、およびアルカリ金属亜硫酸塩である。少量のMnしか存在しない場合は、ステップ(c)において還元剤を使用しないことが好ましい。それぞれのカソード活物質の遷移金属部分を参照して、著しい量のマンガン、例えば少なくとも3モル%のマンガンが遷移金属材料存在する場合、還元剤、または不活性雰囲気、またはその両方を組み合わせて使用することが好ましい。
【0089】
ステップ(c)は、しばしば7.5~12.5の範囲のpH値で実施され、水酸化物の場合には9~12のpH値が、炭酸塩の場合は7.5~8.5の範囲のpH値が好ましい。pH値とは、20℃において決定された母液のpH値を指す。ステップ(c)は、バッチ反応器において、または好ましくは連続的に、例えば、連続撹拌槽型反応器において、または2つ以上、例えば、2つまたは3つの連続撹拌槽型反応器のカスケードにおいてで実行され得る。
【0090】
ステップ(c)の結果として、通常、遷移金属材料に含まれるリチウムを任意選択で含む、前のステップで使用された酸のアルカリ塩の溶液中に沈殿物として遷移金属(オキシ)水酸化物を含むスラリーが、取得される。さらなる精製目的で、ステップ(c)において回収された固体は、酸、例えば、塩酸またはより好ましくは硫酸に溶解され、再沈殿され得る。
【0091】
ステップ(c)において取得された遷移金属(オキシ)水酸化物または炭酸塩のスラリーは、固液分離プロセス、好ましくは濾過に供され得る。取得された混合(オキシ)水酸化物または混合炭酸塩は、混合(オキシ)水酸化物または混合炭酸塩に同伴されるアルカリの量を0.1重量%未満、好ましくは0.01%未満のレベルに低減するために洗浄され得る。次に、取得された混合水酸化物は、適切な酸、例えば塩酸またはより好ましくは硫酸に再溶解させられる。再溶解した混合金属塩は、混合(オキシ)水酸化物または混合炭酸塩として再沈殿させられ得る。
【0092】
典型的には、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩のうちの少なくとも1つを含む1つ以上、好ましくは全てのステップは、それぞれ、水酸化リチウム、炭酸リチウムまたは重炭酸リチウムを用いて行われる。そのような実施形態では、プロセス中に溶解される遷移金属材料からのリチウムは、リチウム以外のアルカリ金属で汚染されていない。組み合わされたリチウム含有溶液は、リチウムの高い回収率を確実にする方法で処理され得、リチウムは、ある程度までプロセスに再導入することができ、残りは、例えば炭酸リチウムとしての結晶化によって、または水酸化リチウムを生成するための電気分解または電気透析によって、カソード活物質の製造に使用することができる。
【0093】
別の形態では、プロセスは、炭酸塩または水酸化物としての沈殿によって、または電気分解または電気透析によってリチウムを回収する追加のステップ(d)を含む。炭酸リチウムは、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムの添加により結晶化され得る。別の方法として、リチウムをリン酸塩またはフッ化物として沈殿させ得るが、炭酸リチウムは、直接または水酸化リチウムへの変換後にカソード活物質の製造に使用することができるので、炭酸リチウム結晶化が好ましい。
本発明の実施形態として例えば以下を挙げることができる。
項1
電池から遷移金属を回収する方法であって、
(a)遷移金属材料を浸出剤で処理して、溶解した銅不純物を含む浸出液を生成することと、
(b)前記浸出液を含む電解質の電気分解により、前記溶解した銅不純物を元素銅として粒子状堆積カソードに堆積させることと、を含む、方法。
項2
前記堆積カソードは、1~1000μm、好ましくは5~500μm、特に5~200μmの範囲の粒径d50を有する、項1に記載の方法。
項3
前記電解質は、前記電気分解の前に、最大4000、3000、2500、2000、1500、1000、900、800、700、600、500、400、300、200、または100ppmの前記銅不純物の濃度を含む、項1または2に記載の方法。
項4
前記堆積カソードは、銅または炭素から形成されている、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項5
銅の電気化学ポテンシャルに関して-50mV~-500mV、好ましくは-100mV~-400mV、特に-150mV~-300mVの範囲に保たれる電気化学ポテンシャルが、前記電気分解中に前記堆積カソードに印加される、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
項6
前記電解質は、4~8のpHを有する、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
項7
前記遷移金属材料は、機械的に処理された電池スクラップから取得されるか、または製錬電池スクラップから金属合金として取得される、項1~6のいずれか一項に記載の方法。
項8
前記堆積カソードは、少なくとも部分的に前記遷移金属材料から取得され、前記堆積カソードは、好ましくは、グラファイトなどの炭素である、項1~7のいずれか一項に記載の方法。
項9
(a1)前記浸出液から非溶解固形物を除去するステップであって、前記非溶解固形物は炭素粒子であり、前記炭素粒子を堆積カソードとしてステップ(b)に供給するステップをさらに含む、項1~8のいずれか一項に記載の方法。
項10
(c)前記遷移金属を混合水酸化物または混合炭酸塩として沈殿させるステップをさらに含む、項1~9のいずれか一項に記載の方法。
項11
前記浸出剤は、無機または有機の水性酸である、項1~10のいずれか一項に記載の方法。
項12
(a2)前記浸出液のpH値を2.5~8に調整するステップと、
(a3)固液分離によって、リン酸塩、酸化物、水酸化物またはオキシ水酸化物の沈殿物を除去するステップと、をさらに含む、項1~11のいずれか一項に記載の方法。
項13
前記堆積カソードは、前記電解質中に懸濁させられる、項1~12のいずれか一項に記載の方法。
項14
前記電解質中の懸濁された前記堆積カソードの濃度は、0.01~10重量%、好ましくは0.1~2重量%、特に0.4~1.2重量%である、項13に記載の方法。
項15
前記電解質は、粒子フィルタ補助層の形態の前記堆積カソードを通過させられる、項1~12のいずれか一項に記載の方法。
項16
前記電気分解は、電気化学的フィルタフローセルにおいて行われる、項15に記載の方法。
項17
ステップ(b)は、前記電気分解中に前記堆積カソードにさらなる電気化学ポテンシャルを印加することを含み、これにより、溶解したニッケル塩を元素ニッケルとして、または溶解したコバルト塩を元素コバルトとして前記粒子電極上に堆積させることができる、項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【実施例】
【0094】
金属不純物およびリンは、ICP-OES(誘導結合プラズマ-発光分光分析)またはICP-MS(誘導結合プラズマ-質量分析)を使用した元素分析によって測定された。全炭素は、燃焼後に熱伝導度検出器(CMD)で測定された。フッ素は、全フッ素の場合は燃焼後、またはイオン性フッ化物の場合はH3PO4蒸留後に、イオン感受性電極(ISE)で検出された。
【0095】
実施例1-洗浄
機械的に処理された電池スクラップ(500g;粒径D50約20μm)を使用し、これは以下を含んでいた。
-元素分析によって決定された、Ni/Co/Mnの1/1/1モル比、およびNi、Co、およびMnの合計に対するLiの1/1モル比を有する203gの使用済みカソード活物質;
-グラファイトおよび煤および電解質を含有する残留リチウムの形態の199gの合計炭素;
-元素分析によって決定された、Al(10.7g)、Cu(4.9g)、F(合計:9.8g)、Fe(1.1g)、P(2.5g)、Zn(0.14g)、Mg(100mg)、Ca(100mg)を含む41gのさらなる不純物。
【0096】
500gのこの電池スクラップを2kgの水にスラリー化させ、30分間激しく攪拌した。次に、固形物を濾過により分離し、1kgの水で洗浄した。固体を乾燥させた後、2.5Lの撹拌バッチ反応器内の400gの脱イオン水中で再スラリー化した。
【0097】
全ての不純物含有量は、特に別段の定めがない限り、重量パーセントとして示され、機械的に処理された電池スクラップの総量を基準とする。
【0098】
実施例2-浸出
841gのH2SO4(水中の50%H2SO4)と130gの過酸化水素(水中の30%H2O2)の混合物を、激しく攪拌しながら実施例1のスラリーに滴下して加えた。スラリーの温度は30~40℃に保たれた。添加が完了した後、得られた反応混合物を30℃でさらに30分間撹拌し、40℃に20分間加熱し、続いて60℃に40分間加熱し、次いで周囲温度に冷却した。得られたスラリーから吸引濾過により固形物を除去した。フィルタケーキを135gの脱イオン水で洗浄した。合わせた濾液(1644g)には、49gのNi、33gのCo、30gのMn、4.9gのCu、および14.6gのLi(元素分析で測定)が含まれ、5つの金属全ての浸出効率>90%に相当する。乾燥したフィルタケーキ(349g)は、電気分解のために実施例6で使用されたグラファイト粒子を含んでいた。
【0099】
実施例3-pH調整
実施例2からの合わせた濾液の1350gのpH値を、撹拌しながら495.5gの4.5モル苛性ソーダ溶液を加えることによってpH6.0に調整した。沈殿物の形成を観察することができた。さらに30分間撹拌した後、固形物を吸引濾過により除去した。得られたろ液(2353g)には、25ppm未満のAl、Zn、Mg、Ca、Feの不純物レベルと、約64ppmのCuとが含まれていた。
【0100】
比較例4-巨大なカーボンカソード
固体ガラス状炭素アノードおよびガラス状炭素カソード(それぞれ18cm2の幾何学的表面積)と、Ag/AgCl基準電極(KCl飽和、200mV対NHE)を使用する分割されていない電気化学セルを使用し、80mlの電解質を充填した。
【0101】
電解質として、実施例3で得られた濾液を使用した。使用直前に、次の濃度を分析した:9ppmAl、0.87%Co、微量のCr、64ppmCu、1.2%Ni、および
0.1 -1%無機フッ化物。溶液のpHは約4~5であった。HFの形成を回避し、したがって電気分解全体で>4のpHを維持するために、溶液のpHが6になるまで酢酸ナトリウムを緩衝液として添加した。
【0102】
電気分解は、-50mV対Ag/AgClおよび-250mV対Ag/AgClの2段階でポテンショスタットを用いて実施された。0.02C/分の速度で14.7クーロンの電荷を通過させた後、電気分解を停止させた。銅の平均還元速度は1.1×10-7モル/分であった。
【0103】
残りの溶液を分析したところ、次の組成が見つかった:9ppmAl、0.87%Co、微量のCr、<1ppmCu、1.3%Ni。したがって、Cuは選択的に還元された。
【0104】
比較例5-巨大な銅カソード
前の実施例5に記載されたものと同じ電気化学セルが使用された。ガラス状炭素カソードの代わりに、銅カソード(それぞれ18cm2の幾何学的表面積)が使用された。
【0105】
電解質として、実施例3で得られた濾液を使用した。使用直前に、次の濃度を分析した:9ppmAl、0.85%Co、<1ppmCr、60ppmCu、1.2%Ni、および0.1~1%無機フッ化物。溶液のpHは約4~5であった。溶液のpHが6になるまで酢酸ナトリウムを緩衝液として加えた。
電気分解は、-250mV対Ag/AgClでポテンショスタットを用いて実施された。0.02C/分の速度で19.7クーロンの電荷を通過させた後、電気分解を停止させた。銅の平均還元速度は7.8×10-8モル/分であった。
【0106】
残りの溶液を分析したところ、次の組成が見つかった:10ppmAl、0.90%Co、<ppmCr、<1ppmCu、1.3%Ni。したがって、Cuは選択的に還元された。
【0107】
実施例6-グラファイト粒子を含む大規模なカーボンカソード
実施例2(浸出)で生成されたフィルタケーキは、グラファイト粒子を含み、水に分散され、金属不純物の変化が検出されなくなるまで繰り返し濾過された。乾燥後、グラファイト粒子は、洗浄後、約5%のフッ素、1.7%のAl、0.06%のCo、0.01%のCu、0.02%のFe、0.04%のMn、および0.06%のNiおよび78.5重量%の合計炭素含有量を含んでいた。得られたグラファイト粒子の粒径は、D10=6μm、D50=16μm、および
D90=83μmの粒径を有していた。
【0108】
ガラス状炭素アノード(5cm2)およびガラス状炭素カソード(18cm2)を備える未分割の電気化学セルを使用し、80mlの電解質を充填した。さらに、グラファイト粒子を添加して、グラファイトとして0.68重量%の固形分を得た。グラファイト粒子とカソードとの定期的な接触を維持して粒子の帯電を可能にするために、電解質をマグネット撹拌機バーを使用して500rpmで撹拌した。したがって、グラファイト粒子は電解質に懸濁したままである。
【0109】
電解質として、実施例3で得られた濾液を使用した。使用直前に、次の濃度を分析した:10ppmAl、0.88%Co、<1ppmCr、70ppmCu、1.3%Ni、および0.1~1%無機フッ化物。溶液のpHは約4~5であった。溶液のpHが6になるまで酢酸ナトリウムを緩衝液として加えた。
【0110】
電気分解は、-75mV対Ag/AgClおよび-250mV対Ag/AgClの2段階でポテンショスタットを用いて実施された。0.037C/分の速度で19.2Cの電荷を通過させた後、電気分解を停止させた。Cuの平均還元速度は2.0×10-7モル/分であった。残りの溶液を分析したところ、次の組成が見つかった:10ppmAl、0.85%Co、<1ppmCr、<1ppmCuおよび1.2%Ni。したがって、Cuは完全に還元された。
【0111】
電流が一定のポテンシャルでセルを通過する速度からわかるように、完全なCu還元の滞留時間は、グラファイト粒子をセルに導入することによって大幅に短縮することができる。グラファイト粒子を利用することはまた、グラファイト粉末のような新鮮なグラファイト粒子を使用する必要がないので、第2の方法でコストを削減する。
【0112】
実施例7-グラファイト粒子を使用したフィルタフローセル
別の例では、例えば米国特許第US5164091号に記載されている原理に従った電気化学フィルタフローセルが使用された。米国特許第US5164091号に記載されているセルとは異なり、互いに向き合う電極の水平の向きが選択された。電気化学セル全体の形状は円筒形であった。アノードおよびカソードチャンバーは、Nafion(登録商標)324ポリマー電解質によって分離された。アノードとして、イリジウムとタンタルの混合酸化物でコーティングされた膨張したTi金属シートが使用された。アノードチャンバー内の支持電解質は、飽和硫酸カリウム溶液であった。
【0113】
ステンレス鋼メッシュ(20cm2、1.4571)は、実施例6において説明したように実施例2(浸出)で製造したフィルタケーキから分離されたグラファイト粒子のフィルタケーキを構築するための導電性支持体として機能した。電気分解を開始する前に、そのグラファイト粒子の約3gをステンレス鋼支持メッシュ上で濾過して、約5mmの厚さの層を形成した。
【0114】
実施例3で得られた濾液の電解質80mlを使用した。使用直前に、次の濃度を分析した:0.7%Co、<1ppmCr、37ppmCu、0.96%Ni、および
0.1~1%無機フッ化物。電解質は、約50~100mbarの背圧でカソードチャンバーに導入された。溶液のpHは約4~5であった。溶液のpHが6になるまで酢酸ナトリウムを緩衝液として加えた。
【0115】
電気分解は、-250mV対Ag/AgClで実施された。0.36C/分の速度で10.9Cの電荷を通過させた後、電気分解を停止させた。銅の平均還元速度は1.5×10-6モル/分であった。電解溶液を分析したところ、次の組成が見つかった:0.7%Co、<1ppmCr、<1ppmCuおよび0.96%Ni。したがって、Cuは完全に還元された。
【0116】
電流が一定のポテンシャルでセルを通過する速度からわかるように、完全なCu還元のための滞留時間は、上記の懸濁したグラファイト粒子を備えた分割されていない電気化学セルと比較して10分の1に大幅に短縮された。