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特許7421018ダイヤモンド膜堆積基板、およびダイヤモンド膜堆積基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ダイヤモンド膜堆積基板、およびダイヤモンド膜堆積基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20240116BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C30B29/04 G
C23C16/27
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023561231
(86)(22)【出願日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2023008214
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2022072370
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 直宏
(72)【発明者】
【氏名】守田 俊章
(72)【発明者】
【氏名】栗原 香
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0345011(US,A1)
【文献】特開平4-157177(JP,A)
【文献】国際公開第2004/104272(WO,A1)
【文献】特開2008-230945(JP,A)
【文献】特開2002-265296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C23C 16/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ニオブからなる基板と、
前記基板の少なくとも一方の主面上に形成されたニオブ炭化物層と、
前記ニオブ炭化物層上に形成された単層構造の導電性ダイヤモンド膜と、を有し、
前記導電性ダイヤモンド膜の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、前記基板または前記ニオブ炭化物層まで達するピンホールが存在しない、ダイヤモンド膜堆積基板。
【請求項2】
ダイヤモンド膜堆積基板の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm以上の幅に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的な前記ニオブ炭化物層が形成されている、請求項1に記載のダイヤモンド膜堆積基板。
【請求項3】
前記ニオブ炭化物層の厚さは、0.5μm以上5μm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド膜堆積基板。
【請求項4】
前記ニオブ炭化物層の主成分は、化学式NbCの炭化ニオブである、請求項1に記載のダイヤモンド膜堆積基板。
【請求項5】
前記ニオブ炭化物層の上部の主成分は、化学式NbCの炭化ニオブであり、前記ニオブ炭化物層の下部は、化学式Nb2Cの炭化ニオブを含む、請求項1に記載のダイヤモンド膜堆積基板。
【請求項6】
前記ニオブ炭化物層に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、1nm以上60nm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド膜堆積基板。
【請求項7】
前記金属ニオブの結晶子径は、30nm以上90nm以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のダイヤモンド膜堆積基板。
【請求項8】
金属ニオブからなる基板の少なくとも一方の主面上に、加工ダメージを導入することで、マイクロクラックを有する加工ダメージ層を形成する工程と、
前記加工ダメージ層の内部に、炭素または炭素化合物の固体からなる炭素源を埋め込む工程と、
前記加工ダメージ層に熱処理を施し、前記金属ニオブおよび前記炭素源を反応させることで、前記主面を連続的に覆うニオブ炭化物層を形成する工程と、
前記ニオブ炭化物層上に、導電性ダイヤモンド膜を堆積する工程と、を有する、ダイヤモンド膜堆積基板の製造方法。
【請求項9】
前記加工ダメージ層を形成する工程では、厚さ0.5μm以上5μm以下の加工ダメージ層を形成する、請求項8に記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法。
【請求項10】
前記ニオブ炭化物層を形成する工程では、前記加工ダメージ層の10%以上100%以下の厚さを有するニオブ炭化物層を形成する、請求項8に記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法。
【請求項11】
前記加工ダメージ層を形成する工程では、前記加工ダメージ層における金属ニオブの結晶子径が1nm以上25nm以下になるように、加工ダメージを導入する、請求項8に記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法。
【請求項12】
前記ニオブ炭化物層を形成する前に、前記主面にダイヤモンド粒子を種付け処理する工程をさらに有する、請求項8に記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法。
【請求項13】
前記加工ダメージ層を形成する前に、前記主面に凹凸をつける加工を行う工程をさらに有する、請求項8から請求項12のいずれか1項に記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド膜堆積基板、およびダイヤモンド膜堆積基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ダイヤモンドは、水系・非水系における電位窓が広く、バックグラウンド電流も小さいため、広い電位範囲で高感度な電気化学検出が可能な電極材料として知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ニオブ、タンタル、チタン及びジルコニウムから成る群から選択されるバルブメタル及びこれらの金属基合金から選択される材料を含んで成る電極基材の少なくともその表面を塑性加工し、次いで前記電極基材を真空中又は不活性雰囲気中で加熱処理し、該加熱処理した電極基材表面に導電性ダイヤモンド膜を形成することを含んで成ることを特徴とする導電性ダイヤモンド電極の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4456378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることができるダイヤモンド膜堆積基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
金属ニオブからなる基板と、
前記基板の少なくとも一方の主面上に形成されたニオブ炭化物層と、
前記ニオブ炭化物層上に形成された導電性ダイヤモンド膜と、を有し、
前記導電性ダイヤモンド膜の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、前記基板または前記ニオブ炭化物層まで達するピンホールが存在しない、ダイヤモンド膜堆積基板が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
金属ニオブからなる基板の少なくとも一方の主面上に、加工ダメージを導入することで、マイクロクラックを有する加工ダメージ層を形成する工程と、
前記加工ダメージ層の内部に、炭素または炭素化合物の固体からなる炭素源を埋め込む工程と、
前記加工ダメージ層に熱処理を施し、前記金属ニオブおよび前記炭素源を反応させることで、前記主面を連続的に覆うニオブ炭化物層を形成する工程と、
前記ニオブ炭化物層上に、導電性ダイヤモンド膜を堆積する工程と、を有する、ダイヤモンド膜堆積基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることができるダイヤモンド膜堆積基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の断面を示す模式図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3(a)は、本発明の第1実施形態の加工ダメージ層形成工程S102を説明する模式図であり、図3(b)は、本発明の第1実施形態の炭素源埋め込み工程S103を説明する模式図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態の変形例のダイヤモンド膜堆積基板10の断面を示す模式図である。
図5図5(a)は、本発明の実施例のサンプル1の表面写真であり、図5(b)は、本発明の実施例のサンプル2の表面写真であり、図5(c)は、本発明の実施例のサンプル3の表面写真であり、図5(d)は、本発明の実施例のサンプル4の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。
【0011】
ホウ素等を含有させることで導電性を付与したダイヤモンド電極は、オゾン等の酸化剤の生成に用いることができる。このようなダイヤモンド電極においては、耐久性が大きな課題である。特許文献1等に記載されている技術により、基板とダイヤモンド膜との密着性、剥離強度は改善されたものの、実用的なレベルの耐久性を得ることは困難であることがわかった。
【0012】
例えば、特許文献1の段落0009には、「中間層を基材由来の炭化物にすれば、基材とその基材から成長する炭化物、炭化物とその炭化物を核として発生するダイヤモンドという関係から、ダイヤモンド膜の密着性が高まることが期待されるが、実際には炭化物は強酸性中における陽極として電位が印加されたときには酸化物に比べて耐食性に劣る場合が多い。高温中で炭化水素ラジカルやダイヤモンドと接触する基材には炭化物が生成しやすいので、陽極として用いる場合には注意が必要である。」と記載されており、耐久性を向上させる観点からは、基板とダイヤモンド膜との中間層に、炭化物を出来るだけ生成させないようにするのが好ましいと考えられていた。
【0013】
本願発明者は、上述のような炭化物層に対して鋭意研究を行った。その結果、炭化物層がダイヤモンド電極の耐久性を阻害するのは、強酸性の液が炭化物層と接した場合だけであり、ダイヤモンド膜の表面に、基材または炭化物層まで達するピンホールが存在していることが問題の本質であることがわかった。そして、敢えて中間層として、連続的な炭化物層を形成することで、上述のピンホールの発生を抑制できることがわかった。また、連続的な炭化物層を形成するためには、例えば、基板に加工ダメージを導入することで、マイクロクラックを有する加工ダメージ層を形成し、加工ダメージ層の内部に、炭素源を埋め込んで熱処理を施すのが有効であることがわかった。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
<本発明の第1実施形態>
(1)ダイヤモンド膜堆積基板10の構成
まず、本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の構成について説明する。本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10は、例えば、電気化学反応用(例えば、オゾン生成用)のダイヤモンド電極を製造するために用いることが好ましい。これにより、ダイヤモンド電極の通電劣化を抑制し、耐久性を向上させることができる。
【0016】
図1は、本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の断面を示す模式図である。図1に示すように、ダイヤモンド膜堆積基板10は、例えば、基板20と、ニオブ炭化物層30と、導電性ダイヤモンド膜40と、を有している。
【0017】
基板20は、例えば、導電性ダイヤモンド膜40を堆積させるため、および、導電性ダイヤモンド膜40を支持するための平板状の金属ニオブ板材である。基板20の主面の大きさ、および厚さは特に限定されないが、例えば、主面は一辺が20mm以上500mm以下の角形状であり、厚さは0.5mm以上5mm以下である。
【0018】
ニオブ炭化物層30は、例えば、基板20の少なくとも一方の主面上に形成されており、基板20の金属ニオブの一部と、後述する炭素源22とが反応して形成された層である。ニオブ炭化物層30は、例えば、ダイヤモンド結晶の核発生密度を高めるための中間層として機能する。
【0019】
ニオブ炭化物層30の厚さは、例えば、0.5μm以上5μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)であることが好ましい。つまり、ニオブ炭化物層30の最大厚みおよび最小厚みが、0.5μm以上5μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)の範囲に収まっていることが好ましい。ニオブ炭化物層30の厚さが0.5μm未満では、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度が不充分となる可能性がある。これに対し、ニオブ炭化物層30の厚さを0.5μm以上とすることで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高めることができる。一方、ニオブ炭化物層30の厚さが5μmを超えると、内部応力が大きくなり、ダイヤモンド膜堆積基板10が反ってしまう可能性がある。これに対し、ニオブ炭化物層30の厚さを5μm以下とすることで、内部応力を低減し、ダイヤモンド膜堆積基板10の反りを低減することができる。
【0020】
導電性ダイヤモンド膜40は、例えば、ニオブ炭化物層30上に形成されている、導電性を有する多結晶膜である。導電性ダイヤモンド膜40は、多結晶ダイヤモンド膜、または、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)膜のいずれかであってもよい。導電性ダイヤモンド膜40は、例えば、ホウ素を1×1019cm-3以上1×1022cm-3以下の濃度で含むことが好ましい。導電性ダイヤモンド膜40の厚さは、例えば、0.5μm以上10μm以下であり、耐久性とコストとのバランスを保つ観点からは、1μm以上5μm以下であることが好ましい。なお、本実施形態では、導電性ダイヤモンド膜40が単層構造である場合について説明する。
【0021】
導電性ダイヤモンド膜40の表面を、例えば、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率5000倍)を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、基板20またはニオブ炭化物層30まで達するピンホールは存在しない。これにより、例えば、強酸性の液中でダイヤモンド電極を使用したとしても、強酸性の液がニオブ炭化物層30と接するリスクを低減できるため、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることが可能となる。なお、ダイヤモンド電極の耐久性をさらに向上させる観点からは、1mm×1mmの視野内に、基板20またはニオブ炭化物層30まで達するピンホールが存在しないことが好ましく、導電性ダイヤモンド膜40の全面において、ピンホールが存在しないことが特に好ましい。
【0022】
また、導電性ダイヤモンド膜40の断面(縦断面または横断面)を、例えば、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率5000倍)を用いて観察した場合にも、20μm×20μmの視野内に、基板20またはニオブ炭化物層30まで達するピンホールが存在しないことが好ましい。つまり、導電性ダイヤモンド膜40は、表面から観察できるピンホールだけではなく、内部のピンホールも低減されている。これにより、ダイヤモンド電極の耐久性をさらに向上させることが可能となる。なお、導電性ダイヤモンド膜40の断面(縦断面または横断面)において、1mm×1mmの視野内に、基板20またはニオブ炭化物層30まで達するピンホールが存在しないことがより好ましく、導電性ダイヤモンド膜40の断面全面において、ピンホールが存在しないことが特に好ましい。
【0023】
ダイヤモンド膜堆積基板10の断面を、例えば、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率5000倍)を用いて観察した際、20μm以上の幅(基板20の主面に平行な方向の長さ)に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成されていることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高め、ピンホールの発生を抑制することができる。なお、ピンホールの発生をさらに抑制する観点からは、1mm以上の幅に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成されていることがより好ましく、基板20の主面の全面に、連続的な厚さ0.5μm以上のニオブ炭化物層30が形成されていることが特に好ましい。
【0024】
ニオブ炭化物層30の主成分は、例えば、化学式NbCの炭化ニオブであることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を高めることができる。ニオブ炭化物層30の主成分は、例えば、X線回折(XRD)により確認することができる。
【0025】
ニオブ炭化物層30に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、例えば、1nm以上60nm以下であることが好ましい。結晶子径が上記範囲外では、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成され難い可能性がある。これに対し、結晶子径を上記範囲内とすることで、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成されやすくなり、その結果、ピンホールの発生を抑制しやすくなる。なお、本明細書における、各結晶子径は、例えば、XRDのScherrer法により測定することができる。ダイヤモンド膜堆積基板10をXRDで測定すると、NbC(111)、NbC(200)、NbC(222)、NbC(400)等のピークが観察されるが、NbC(111)のピークが最も強いため、本明細書においては、特に断りのない限り、NbC(111)のピークから炭化ニオブの結晶子径を算出した。
【0026】
基板20に含まれる金属ニオブ(特に、ニオブ炭化物層30との界面近傍に存在する金属ニオブ)の結晶子径は、例えば、30nm以上90nm以下であることが好ましい。金属ニオブの結晶子径が30nm未満では、連続的なニオブ炭化物層30が形成され難い可能性がある。これに対し、金属ニオブの結晶子径を30nm以上とすることで、連続的なニオブ炭化物層30が形成されやすくなる。一方、金属ニオブの結晶子径が90nmを超えると、ニオブ炭化物層30に含まれる炭化ニオブとの結晶子径の差が大きくなり、クラック等が発生する可能性がある。これに対し、金属ニオブの結晶子径を90nm以下とすることで、基板20からニオブ炭化物層30にかけて、徐々に結晶子径が小さくなるように分布するため、クラック等の発生を抑制することができる。なお、ダイヤモンド膜堆積基板10を(導電性ダイヤモンド膜40側から)XRDで測定すると、Nb(110)、Nb(200)、Nb(211)等のピークが観察されるが、Nb(110)のピークが最も強いため、本明細書においては、特に断りのない限り、Nb(110)のピークから金属ニオブの結晶子径を算出した。
【0027】
(2)ダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法
次に、本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法について説明する。上述のように、本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10は、電気化学反応用(例えば、オゾン生成用)のダイヤモンド電極を製造するために用いることができるため、本発明は、ダイヤモンド電極の製造方法としても適用可能である。
【0028】
図2は、本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法は、例えば、凹凸形成工程S101と、加工ダメージ層形成工程S102と、炭素源埋め込み工程S103と、シーディング工程S104と、ニオブ炭化物層形成工程S105と、ダイヤモンド膜堆積工程S106と、を有している。本実施形態では、金属ニオブからなる基板20から、ダイヤモンド膜堆積基板10を製造する場合について説明する。
【0029】
(凹凸形成工程S101)
凹凸形成工程S101は、例えば、基板20の少なくとも一方の主面に凹凸をつける加工を行う工程である。これにより、基板20と、導電性ダイヤモンド膜40との熱膨張係数差に起因する剥離を抑制することができる。つまり、ダイヤモンド膜堆積基板10の剥離強度をより向上させることができる。凹凸形成工程S101では、例えば、主面の算術平均粗さRa(JIS B0601-2001参照)が0.5μm以上10μm以下となるように、凹凸をつけることが好ましい。なお、凹凸をつける加工としては、例えば、研削、ブラスト、ウェットエッチング、ドライエッチング等、公知の方法を用いることができる。
【0030】
凹凸形成工程S101は、例えば、加工ダメージ層形成工程S102の前に行うことが好ましい。加工ダメージ層21を形成した面に、凹凸をつける加工を行った場合、加工ダメージ層21が除去されてしまう可能性がある。これに対し、加工ダメージ層形成工程S102の前に、凹凸形成工程S101を行うことで、基板20に加工硬化が生じるため、加工ダメージ層形成工程S102において、マイクロクラックを形成しやすくなる。また、凹凸形成工程S101では、基板20に加工硬化をさらに生じさせる目的で、パンチングや溝加工等の機械加工をさらに行ってもよい。
【0031】
なお、凹凸形成工程S101は省略してもよい。本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法は、凹凸形成工程S101を省略した場合でも、後述の加工ダメージ層形成工程S102および炭素源埋め込み工程S103を行うことで、ニオブ炭化物層形成工程S105において、基板20の主面を連続的に覆うニオブ炭化物層30を形成することができる。すなわち、導電性ダイヤモンド膜40のピンホールの発生を抑制することができる。
【0032】
(加工ダメージ層形成工程S102)
図3(a)は、加工ダメージ層形成工程S102を説明する模式図である。図3(a)に示すように、加工ダメージ層形成工程S102は、例えば、基板20の少なくとも一方の主面上(凹凸形成工程S101で凹凸をつけた面)に、加工ダメージを導入することで、多数のマイクロクラックを有する加工ダメージ層21を形成する工程である。金属ニオブ中へ炭素を固溶させ、炭化ニオブを形成するためには、通常、2300度を超える加熱が必要であるが、加工ダメージ層21を形成することで、低温(例えば、800度程度)であっても、炭素原子の金属ニオブ中への拡散が促進され、ニオブ炭化物層30を形成しやすくなる。加工ダメージを導入する方法は、マイクロクラックを形成できる方法であれば特に限定されない。具体的には、研削、インプリント、ブラスト、プレス等により、加工ダメージを導入し、マイクロクラックを有する加工ダメージ層21を形成することができる。なお、本明細書において、マイクロクラックとは、長さ0.1μm以上2μm以下、かつ、幅5nm以上200nm以下の亀裂(以下、空隙を伴うマイクロクラックともいう)だけではなく、結晶欠陥が高密度に集合、配列した粒界(以下、空隙を伴わないマイクロクラックともいう)を含むものとする。つまり、本明細書におけるマイクロクラックとは、必ずしも空隙を伴うものではない。マイクロクラックを確認するには、例えば、走査型電子顕微鏡で基板20の主面を観察すればよい。また、加工ダメージ層形成工程S102では、例えば、深さ0.5μm以上5μm以下のマイクロクラックを、10本/cm以上10本/cm以下の密度で形成することが好ましい。これにより、後述の炭素源埋め込み工程S103において、マイクロクラックの内部に炭素源22を埋め込みやすくなる。
【0033】
加工ダメージ層形成工程S102では、例えば、厚さ0.5μm以上5μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)の加工ダメージ層21を形成することが好ましい。後述するニオブ炭化物層形成工程S105では、加工ダメージ層21の少なくとも一部が、ニオブ炭化物層30となるため、加工ダメージ層21の厚さを上記範囲内とすることで、適切な厚さのニオブ炭化物層30を形成しやすくなる。なお、加工ダメージ層21の厚さを規定する際は、例えば、加工ダメージ層21形成前の金属ニオブの結晶子径に対して、10%以上結晶子径が小さくなっている領域を、加工ダメージ層21としてもよい。
【0034】
加工ダメージ層形成工程S102では、例えば、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径が1nm以上25nm以下になるように、加工ダメージを導入することが好ましい。加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径が25nmを超えると、加工ダメージ層21中に炭素源22が拡散し難く、連続的なニオブ炭化物層30を形成するのが困難となる場合がある。これに対し、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径を25nm以下とすることで、金属ニオブの表面積が充分大きくなるため、連続的なニオブ炭化物層30を形成しやすくなる。また、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径を1nm未満とした場合でも、連続的なニオブ炭化物層30を形成することは可能であるが、金属ニオブの結晶子径を1nm未満にするのは技術的に困難であり、コストが大きく増大するため、コスト削減の観点から、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径は、1nm以上とすることが好ましい。
【0035】
(炭素源埋め込み工程S103)
図3(b)は、炭素源埋め込み工程S103を説明する模式図である。図3(b)に示すように、炭素源埋め込み工程S103は、加工ダメージ層21の内部(例えば、空隙を伴うマイクロクラックの内部)に、炭素または炭素化合物の固体からなる炭素源22を埋め込む工程である。加工ダメージ層21は、多数のマイクロクラックを有するため、炭素源22を容易に埋め込むことができる。具体的には、例えば、基板20の表面に炭素源22をまぶし、同サイズの基板20等と表面を擦り合わせることにより、炭素源22をマイクロクラックと同程度のサイズ(例えば、平均粒径200nm以下)になるまで粉砕しながら炭素源22を埋め込めばよい。また、炭素源22は、固体であるため、炭化水素ガス等と比べて、炭素原子をより高濃度に加工ダメージ層21の内部に導入することが可能である。これにより、加工ダメージ層21の金属ニオブ中に、炭素原子が拡散されやすくなり、連続的なニオブ炭化物層30を形成しやすくなる。
【0036】
炭素源22としては、例えば、グラファイト、炭化ホウ素、ダイヤモンドパウダー等を用いることができる。炭素源22として、ダイヤモンドパウダーを用いる場合、金属ニオブとの反応性を高めるため、少なくとも外周部がアモルファス層(sp炭素)で覆われたダイヤモンドパウダーを用いることが好ましい。金属ニオブとの反応性を高め、かつ、コストを低減する観点からは、炭素源22として、グラファイトを用いることが好ましい。
【0037】
炭素源22の平均粒径は、200nm以下であることが好ましい。これにより、加工ダメージ層21の内部に炭素源22を埋め込みやすくなる。また、炭素源22の表面積が大きくなり、金属ニオブとの反応性を向上させることができる。なお、炭素源22の平均粒径の下限値は、特に限定されないが、例えば、5nm以上である。
【0038】
炭素源埋め込み工程S103において、炭素源22としてグラファイト(平均粒径5~200nm)を加工ダメージ層21の内部に埋め込む場合、例えば、0.1μg/cm以上10μg/cm以下の炭素源22を埋め込むことが好ましい。埋め込まれている炭素源22の量が0.1μg/cm未満では、金属ニオブの炭化が不充分となり、連続的なニオブ炭化物層30が形成され難い可能性がある。これに対し、埋め込まれている炭素源22の量を0.1μg/cm以上とすることで、金属ニオブを充分に炭化し、連続的なニオブ炭化物層30を形成しやすくなる。一方、埋め込まれている炭素源22の量が10μg/cmを超えると、ニオブ炭化物層30の形成後に、多量の炭素源22が残留し、導電性ダイヤモンド膜40の堆積に悪影響を及ぼす可能性がある。これに対し、埋め込まれている炭素源22の量を10μg/cm以下とすることで、残留する炭素源22を低減することができる。また、炭素源22を埋め込むためのエネルギー(コスト)を低減する観点から、炭素源22は、深さ1μm以下の範囲に埋め込むことが好ましい。なお、加工ダメージ層21の内部における、炭素源22を確認する際は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて、加工ダメージ層21の断面観察(例えば、深さ1μm付近)を行えばよい。
【0039】
(シーディング工程S104)
シーディング工程S104は、例えば、基板20の主面(加工ダメージ層21を形成した方の主面、つまり加工ダメージ層21の表面)に、ダイヤモンド粒子を種付け処理する工程である。ニオブ炭化物層30と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、ダイヤモンド粒子が介在することで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するための初期核生成に必要なエネルギー障壁を下げることができる。なお、ダイヤモンド粒子を種付けする方法としては、ブラスト、浸漬等、公知の方法を用いることができる。
【0040】
シーディング工程S104は、例えば、ニオブ炭化物層30を形成する前(つまり、ニオブ炭化物層形成工程S105より前)に、行うことが好ましい。これにより、後述のニオブ炭化物層形成工程S105およびダイヤモンド膜堆積工程S106を、同一装置内で連続的に行うことができる。また、この場合、シーディング工程S104は、上述の炭素源埋め込み工程S103と同時に行ってもよい。つまり、炭素源埋め込み工程S103において用いる炭素源22と、シーディング工程S104において用いるダイヤモンド粒子とを、同一のダイヤモンド粒子で兼ねさせることが可能である。上述のように、炭素源22としては、sp炭素を含むことが好ましい。したがって、ダイヤモンド構造(sp構造)のコア部の周囲がアモルファス層(sp炭素)で覆われたダイヤモンド粒子(例えば、爆轟法により得られるナノダイヤ粒子)は、ニオブ炭化物層30の形成時にsp炭素が消尽され、sp構造のコア部を種付けしたダイヤモンド粒子として残すことができるため好適である。
【0041】
なお、シーディング工程S104は省略してもよい。本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法は、シーディング工程S104を省略した場合でも、上述の加工ダメージ層形成工程S102および炭素源埋め込み工程S103を行うことで、ニオブ炭化物層形成工程S105において、基板20の主面を連続的に覆うニオブ炭化物層30を形成することができる。すなわち、導電性ダイヤモンド膜40のピンホールの発生を抑制することができる。
【0042】
(ニオブ炭化物層形成工程S105)
ニオブ炭化物層形成工程S105は、加工ダメージ層21に熱処理を施し、金属ニオブおよび炭素源22を反応させることで、基板20の主面を連続的に覆うニオブ炭化物層30を形成する工程である。これにより、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホール発生を抑制することができる。ニオブ炭化物層形成工程S105では、ニオブ炭化物層30の形成と同時に組織の再構成が起き、加工ダメージ層形成工程S102にて形成したマイクロクラックはその多くが消失する。また、炭素源22と反応せずに残った加工ダメージ層21は、粒界の固相拡散で欠陥が消滅して減少するため、加工ダメージはある程度回復し、強度が上昇する。
【0043】
ニオブ炭化物層形成工程S105では、例えば、後述する熱フィラメントCVD装置を熱処理用の加熱炉として用いて、ニオブ炭化物層30を形成することができる。
【0044】
ニオブ炭化物層形成工程S105における熱処理の条件としては、以下が例示される。
熱処理温度(基板温度):550~850度
圧力:10~50Torr
熱処理時間:30~120分
【0045】
ニオブ炭化物層形成工程S105では、例えば、加工ダメージ層21の10%以上100%以下(より好ましくは、30%以上100%以下)の厚さを有するニオブ炭化物層30を形成することが好ましい。言い換えると、表面から、加工ダメージ層21の厚さの10%以上までの深さ範囲を、炭素源22と反応させ、ニオブ炭化物層30とすることが好ましい。ニオブ炭化物層30の厚さが加工ダメージ層21の厚さの10%未満では、ダイヤモンド結晶の核発生密度が不充分となり、ピンホールの原因となる可能性がある。これに対し、ニオブ炭化物層30の厚さを加工ダメージ層21の厚さの10%以上とすることで、ダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高めることができる。なお、加工ダメージ層21のすべてを炭素源22と反応させた場合、ニオブ炭化物層30の厚さは、加工ダメージ層21の厚さと等しくなる。
【0046】
ニオブ炭化物層形成工程S105では、例えば、化学式NbCの炭化ニオブが主成分であるニオブ炭化物層30を形成することが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を高めることができる。
【0047】
ニオブ炭化物層形成工程S105では、例えば、ニオブ炭化物層30に含まれる炭化ニオブの結晶子径が1nm以上60nm以下になるように、ニオブ炭化物層30を形成することが好ましい。これにより、ピンホールの発生を抑制しやすくなる。
【0048】
(ダイヤモンド膜堆積工程S106)
ダイヤモンド膜堆積工程S106は、例えば、ニオブ炭化物層30上に、導電性ダイヤモンド膜40を堆積する工程である。本実施形態では、上述のニオブ炭化物層形成工程S105において、連続的なニオブ炭化物層30を形成しているため、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホール発生を抑制することができる。なお、ダイヤモンド膜堆積工程S106では、例えば、熱フィラメントCVD装置を用いて、導電性ダイヤモンド膜40を堆積することができる。熱フィラメントCVD装置は、水素ガス、炭素含有ガス、ホウ素含有ガス等の各種ガスを成長室に供給可能なように構成されている。炭素含有ガスとしては、メタンガスまたはエタンガスを用いることができる。ホウ素含有ガスとしては、トリメチルボロン(TMB)ガス、トリメチルボレートガス、トリエチルボレートガス、またはジボランガスを用いることができる。また、熱フィラメントCVD装置は、成長室の内部に構成された気密容器に、温度センサ、タングステンフィラメント、電極(例えば、モリブデン電極)等を有する。
【0049】
ダイヤモンド膜堆積工程S106におけるダイヤモンド結晶の成長条件としては、以下が例示される。
熱処理温度(基板温度):700~1000度
圧力:5~50Torr
熱処理時間:1~10時間
【0050】
以上の工程により、ダイヤモンド膜堆積基板10を製造することができる。また、ダイヤモンド膜堆積基板10を所定のサイズに分割し、複数のダイヤモンド電極を製造してもよい。
【0051】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0052】
(a)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10において、導電性ダイヤモンド膜40の表面を、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、基板20またはニオブ炭化物層30まで達するピンホールは存在しない。これにより、例えば、強酸性の液中でダイヤモンド電極を使用したとしても、強酸性の液がニオブ炭化物層30と接するリスクを低減できるため、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることが可能となる。なお、ダイヤモンド電極の耐久性をさらに向上させる観点からは、1mm×1mmの視野内に、基板20またはニオブ炭化物層30まで達するピンホールが存在しないことが好ましく、導電性ダイヤモンド膜40の全面において、ピンホールが存在しないことが特に好ましい。
【0053】
具体的には、例えば、本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10を用いて、オゾン水生成用のダイヤモンド電極を作製した場合、ダイヤモンド電極の通電劣化を抑制し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を防止することができる。すなわち、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることが可能となる。
【0054】
(b)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10において、ダイヤモンド膜堆積基板10の断面を、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm以上の幅に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成されていることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高め、ピンホールの発生を抑制することができる。なお、ピンホールの発生をさらに抑制する観点からは、1mm以上の幅に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成されていることがより好ましく、基板20の主面の全面に、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成されていることが特に好ましい。
【0055】
(c)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10において、ニオブ炭化物層30の厚さは、例えば、0.5μm以上5μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)であることが好ましい。つまり、ニオブ炭化物層30の最大厚みおよび最小厚みが、0.5μm以上5μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)の範囲に収まっていることが好ましい。ニオブ炭化物層30の厚さが0.5μm未満では、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度が不充分となる可能性がある。これに対し、ニオブ炭化物層30の厚さを0.5μm以上とすることで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高めることができる。一方、ニオブ炭化物層30の厚さが5μmを超えると、内部応力が大きくなり、ダイヤモンド膜堆積基板10が反ってしまう可能性がある。これに対し、ニオブ炭化物層30の厚さを5μm以下とすることで、内部応力を低減し、ダイヤモンド膜堆積基板10の反りを低減することができる。
【0056】
(d)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10において、ニオブ炭化物層30の主成分は、例えば、化学式NbCの炭化ニオブであることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を高めることができる。
【0057】
(e)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10において、ニオブ炭化物層30に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、例えば、1nm以上60nm以下であることが好ましい。結晶子径が上記範囲外では、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成され難い可能性がある。これに対し、結晶子径を上記範囲内とすることで、厚さ0.5μm以上の連続的なニオブ炭化物層30が形成されやすくなり、その結果、ピンホールの発生を抑制しやすくなる。
【0058】
(f)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10において、基板20に含まれる金属ニオブ(特に、ニオブ炭化物層30との界面近傍に存在する金属ニオブ)の結晶子径は、例えば、30nm以上90nm以下であることが好ましい。金属ニオブの結晶子径が30nm未満では、連続的なニオブ炭化物層30が形成され難い可能性がある。これに対し、金属ニオブの結晶子径を30nm以上とすることで、連続的なニオブ炭化物層30が形成されやすくなる。一方、金属ニオブの結晶子径が90nmを超えると、ニオブ炭化物層30に含まれる炭化ニオブとの結晶子径の差が大きくなり、クラック等が発生する可能性がある。これに対し、金属ニオブの結晶子径を90nm以下とすることで、基板20からニオブ炭化物層30にかけて、徐々に結晶子径が小さくなるように分布するため、クラック等の発生を抑制することができる。
【0059】
(g)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法は、例えば、加工ダメージ層形成工程S102と、炭素源埋め込み工程S103と、ニオブ炭化物層形成工程S105と、ダイヤモンド膜堆積工程S106と、を有している。これにより、連続的なニオブ炭化物層30を形成できるため、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホール発生を抑制することが可能となる。
【0060】
(h)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法において、加工ダメージ層形成工程S102では、例えば、厚さ0.5μm以上5μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)の加工ダメージ層21を形成することが好ましい。ニオブ炭化物層形成工程S105では、加工ダメージ層21の少なくとも一部が、ニオブ炭化物層30となるため、加工ダメージ層21の厚さを上記範囲内とすることで、適切な厚さのニオブ炭化物層30を形成しやすくなる。
【0061】
(i)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法において、ニオブ炭化物層形成工程S105では、例えば、加工ダメージ層21の10%以上100%以下(より好ましくは、30%以上100%以下)の厚さを有するニオブ炭化物層30を形成することが好ましい。言い換えると、表面から、加工ダメージ層21の厚さの10%以上までの深さ範囲を、炭素源22と反応させ、ニオブ炭化物層30とすることが好ましい。ニオブ炭化物層30の厚さが加工ダメージ層21の厚さの10%未満では、ダイヤモンド結晶の核発生密度が不充分となり、ピンホールの原因となる可能性がある。これに対し、ニオブ炭化物層30の厚さを加工ダメージ層21の厚さの10%以上とすることで、ダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高めることができる。
【0062】
(j)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法において、加工ダメージ層形成工程S102では、例えば、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径が1nm以上25nm以下になるように、加工ダメージを導入することが好ましい。加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径が25nmを超えると、加工ダメージ層21中に炭素源22が拡散し難く、連続的なニオブ炭化物層30を形成するのが困難となる場合がある。これに対し、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径を25nm以下とすることで、金属ニオブの表面積が充分大きくなるため、連続的なニオブ炭化物層30を形成しやすくなる。また、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径を1nm未満とした場合でも、連続的なニオブ炭化物層30を形成することは可能であるが、金属ニオブの結晶子径を1nm未満にするのは技術的に困難であり、コストが大きく増大するため、コスト削減の観点から、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径は、1nm以上とすることが好ましい。
【0063】
(k)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法は、シーディング工程S104を有している。ニオブ炭化物層30と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、ダイヤモンド粒子が介在することで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するための初期核生成に必要なエネルギー障壁を下げることができる。
【0064】
(l)本実施形態のダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法は、凹凸形成工程S101を有している。これにより、基板20と、導電性ダイヤモンド膜40との熱膨張係数差に起因する剥離を抑制することができる。つまり、ダイヤモンド膜堆積基板10の剥離強度を向上させることができる。
【0065】
(4)第1実施形態の変形例
上述の実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0066】
図4は、本変形例のダイヤモンド膜堆積基板10の断面を示す模式図である。図4に示すように、本変形例のダイヤモンド膜堆積基板10は、例えば、基板20と、ニオブ炭化物層30と、導電性ダイヤモンド膜40と、を有しており、ニオブ炭化物層30は、上部31と、下部32とに区別することができる。
【0067】
ニオブ炭化物層30の上部31の主成分は、化学式NbCの炭化ニオブであり、ニオブ炭化物層30の下部32は、化学式NbCの炭化ニオブを含んでいる。ニオブ炭化物層30は表面側から炭化されるため、表面側から拡散してくる炭素源22が少ない下部32では、Nb成分が多いNbCが形成されやすい。本変形例のように、ニオブ炭化物層30の下部32がNbCを含んでいる場合でも、連続的なニオブ炭化物層30が形成されていることで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高め、ピンホールの発生を抑制することができるため、結果としてダイヤモンド電極の耐久性を向上させることが可能となる。
【0068】
ニオブ炭化物層30の上部31と下部32の厚さの割合は特に限定されないが、例えば、ニオブ炭化物層30の下部32の厚さは、上部31の厚さの50%以上150%以下である。
【0069】
ニオブ炭化物層30の上部31に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、下部32に含まれる炭化ニオブの結晶子径より小さい。具体的には、例えば、上部31に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、1nm以上25nm以下であり、下部32に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、例えば、20nm以上60nm以下である。なお、上部31に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、XRDのNbC(111)のピークから算出し、下部32に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、XRDのNbC(211)のピークから算出した。
【0070】
本変形例のニオブ炭化物層形成工程S105では、ニオブ炭化物層30の上部31の主成分は、化学式NbCの炭化ニオブとなり、ニオブ炭化物層30の下部32は、化学式NbCの炭化ニオブを含むように、ニオブ炭化物層30を形成する。金属ニオブの結晶子径が小さいほど炭化しやすく、NbCが形成されやすいため、本変形例のようなニオブ炭化物層30を形成する場合、例えば、加工ダメージ層形成工程S102において、加工ダメージ層21の上部における金属ニオブの結晶子径が、下部における金属ニオブの結晶子径より小さくなるように、加工ダメージを導入すればよい。
【0071】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0072】
例えば、上述の実施形態では、ダイヤモンド膜堆積基板10の製造方法が有する各工程について説明したが、必ずしも上述したすべての工程を行わなくてもよい。具体的には、例えば、凹凸形成工程S101およびシーディング工程S104の一方(または両方)は、省略してもよい。この場合も、第1実施形態と同様に、連続的なニオブ炭化物層30を形成し、導電性ダイヤモンド膜40のピンホールを抑制することができる。
【0073】
また、上述の実施形態において、炭素源埋め込み工程S103では、例えば、空隙を伴うマイクロクラックの内部に、炭素源22を埋め込むと説明したが、必ずしも空隙を伴うマイクロクラックを形成し、マイクロクラックの内部に炭素源22を埋め込まなくてもよい。例えば、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径を充分小さく(例えば、20nm以下)することで、結晶欠陥が高密度に集合、配列した粒界(空隙を伴わないマイクロクラック)を多数形成することができる。これにより、炭素源22の拡散経路を充分確保し、かつ、炭化反応に寄与する金属ニオブの表面積を充分大きくできるため、マイクロクラックの内部に炭素源22を埋め込まず、炭素源22が加工ダメージ層21の表面に接するように導入されている場合でも、ニオブ炭化物層30を形成することは可能である。炭素源22は、空隙を伴うマイクロクラックの内部に埋め込まれている状態でなくとも、金属ニオブの粒界(空隙を伴わないマイクロクラック)等から内部へ拡散するため、拡散長に応じた厚さのニオブ炭化物層30を得ることは可能である。しかしながら、充分な厚さ(例えば、0.5μm以上)の連続的なニオブ炭化物層30を形成しやすくする観点からは、上述の実施形態のように、空隙を伴なうマイクロクラックの内部に炭素源22を埋め込むことが好ましい。
【0074】
また、上述の実施形態では、導電性ダイヤモンド膜40が単層構造である場合について説明したが、導電性ダイヤモンド膜40は、複数の導電性ダイヤモンド層が積層された積層構造であってもよい。しかしながら、本発明によれば、上述の実施形態のように、導電性ダイヤモンド膜40が単層構造である場合でも、ピンホールの発生を抑制することが可能である。
【実施例
【0075】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0076】
(1)ダイヤモンド膜堆積基板10の製造
(サンプル1)
まず、以下の手順により、サンプル1のダイヤモンド膜堆積基板10を製造した。
【0077】
金属ニオブからなる基板20を準備し、研削加工を行った。研削加工には、縦軸丸テーブル型の装置を用い、砥石は、立方晶炭化ホウ素(粒度#600以上)を用いた。研削加工後の基板20の主面には、マイクロクラックを有する加工ダメージ層21が形成されていることを、走査型電子顕微鏡により確認した。
【0078】
研削加工後の基板20の主面に、炭素源22としてのグラファイト(粒径1~2μm)を7.5mg/cmの量をまぶし、同サイズの基板20と表面を擦り合わせた。埋め込まれているグラファイトの量を埋め込み前後で測定し、擦り合わせた後の加工ダメージ層21の内部には、2.1μg/cmのグラファイト(粒径5~45nm)が埋め込まれていることを確認した。基板20の主面をXRDで測定したところ、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径は12.3nmであった。
【0079】
なお、本実施例における各結晶子径の測定は、リガク社製、X線回析装置(RINT2500HLB)を用いて、広角X線回析測定を行った結果から算出したものである。測定条件は以下の通りとした。
測定波長:CuKα(0.15418nm)
X線出力:50kV-250mA
光学系:モノクロメータ付平行ビーム
発散スリット(DS):0.5°+10mmH
散乱スリット(SS):0.5°
受光スリット(RS):0.15mm
走査軸:2θ/θ
走査法:連続走査
走査範囲:5°≦2θ≦100°
走査速度:0.5°/min
サンプリング:0.01°
【0080】
グラファイトが埋め込まれた状態の基板20を、熱フィラメントCVD装置に投入し、ニオブ炭化物層30の形成と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積とを連続的に行った。具体的には、水素ガス、メタンガス、TMBガスを導入し、圧力を20~50Torrに設定した。その後、40cmのフィラメントに電圧(120~150V)を印加し、フィラメントが炭化して抵抗が一定になるまで保持した。さらに、フィラメントの電圧を175Vまで上げ、フィラメント温度2200~2400℃、基板温度700~800℃で180分保持した。
【0081】
熱フィラメントCVD装置からダイヤモンド膜堆積基板10を取り出し、3.32μmの厚さの導電性ダイヤモンド膜40が堆積されていることを確認した。また、ダイヤモンド膜堆積基板10を導電性ダイヤモンド膜40側からXRDで測定したところ、金属ニオブの結晶子径は85.6nmであり、炭化ニオブの結晶子径は1.9nmであった。
【0082】
(サンプル2)
また、以下の手順により、サンプル2のダイヤモンド膜堆積基板10を製造した。
【0083】
金属ニオブからなる基板20を準備し、サンプル1と同様の研削加工を行った。研削加工後の基板20の主面には、マイクロクラックを有する加工ダメージ層21が形成されていることを、走査型電子顕微鏡により確認した。
【0084】
サンプル2においては、炭素源22の埋め込みを行わず、研削加工後の基板20を、熱フィラメントCVD装置に投入し、サンプル1と同様の条件で、ニオブ炭化物層30の形成と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積とを連続的に行った。
【0085】
熱フィラメントCVD装置からダイヤモンド膜堆積基板10を取り出し、2.72μmの厚さの導電性ダイヤモンド膜40が堆積されていることを確認した。また、ダイヤモンド膜堆積基板10を導電性ダイヤモンド膜40側からXRDで測定したところ、金属ニオブの結晶子径は33.0nmであり、炭化ニオブの結晶子径は6.9nmであった。
【0086】
(サンプル3)
また、以下の手順により、サンプル3のダイヤモンド膜堆積基板10を製造した。
【0087】
サンプル3においては、加工ダメージ層21の形成を行わず、金属ニオブからなる基板20の主面に、炭素源22としてのグラファイト(粒径1~2μm)を7.5mg/cmの量をまぶし、同サイズの基板20と表面を擦り合わせた。擦り合わせた後の基板20の表面には、1.2μg/cmのグラファイトが付着していることを確認した。基板20の主面をXRDで測定したところ、金属ニオブの結晶子径は26.1nmであった。
【0088】
擦り合わせ後の基板20を、熱フィラメントCVD装置に投入し、サンプル1と同様の条件で、ニオブ炭化物層30の形成と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積とを連続的に行った。
【0089】
熱フィラメントCVD装置からダイヤモンド膜堆積基板10を取り出し、2.94μmの厚さの導電性ダイヤモンド膜40が堆積されていることを確認した。また、ダイヤモンド膜堆積基板10を導電性ダイヤモンド膜40側からXRDで測定したところ、金属ニオブの結晶子径は58.1nmであり、炭化ニオブの結晶子径は25.7nmであった。
【0090】
(サンプル4)
また、以下の手順により、サンプル4のダイヤモンド膜堆積基板10を製造した。
【0091】
金属ニオブからなる基板20を準備し、ブラスト加工を行った。ブラスト加工には、炭化ケイ素(粒度#100)の投射材を用いた。研削加工後の基板20の主面には、マイクロクラックを有する加工ダメージ層21が形成されていることを、走査型電子顕微鏡により確認した。
【0092】
ブラスト加工後の基板20の主面に、炭素源22としてのグラファイト(粒径1~2μm)を7.5mg/cmの量をまぶし、同サイズの基板20と表面を擦り合わせた。埋め込まれているグラファイトの量を埋め込み前後で測定し、擦り合わせた後の加工ダメージ層21の内部には、5.3μg/cmのグラファイト(粒径5~70nm)が埋め込まれていることを確認した。基板20の主面をXRDで測定したところ、加工ダメージ層21における金属ニオブの結晶子径は6.9nmであった。
【0093】
グラファイトが埋め込まれた状態の基板20を、熱フィラメントCVD装置に投入し、サンプル1と同様の条件で、ニオブ炭化物層30の形成と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積とを連続的に行った。
【0094】
熱フィラメントCVD装置からダイヤモンド膜堆積基板10を取り出し、3.21μmの厚さの導電性ダイヤモンド膜40が堆積されていることを確認した。また、ダイヤモンド膜堆積基板10を導電性ダイヤモンド膜40側からXRDで測定したところ、金属ニオブの結晶子径は63.1nmであり、炭化ニオブの結晶子径は12.8nmであった。
【0095】
(2)ダイヤモンド膜堆積基板10の評価
サンプル1~4について、走査型電子顕微鏡を用いて、断面を観察した。炭素源22の埋め込みを行わなかったサンプル2、および、加工ダメージ層21を形成しなかったサンプル3においては、基板20と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、島状に形成された炭化ニオブが観察され、連続的なニオブ炭化物層30は形成されていなかった。これに対し、加工ダメージ層21を形成し、加工ダメージ層21の内部に炭素源22の埋め込みを行ったサンプル1およびサンプル4においては、基板20と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、連続的なニオブ炭化物層30が形成されていた。
【0096】
また、サンプル1~4について、走査型電子顕微鏡を用いて、導電性ダイヤモンド膜40の表面を観察した。サンプル1の表面写真を図5(a)に、サンプル2の表面写真を図5(b)に、サンプル3の表面写真を図5(c)に、サンプル4の表面写真を図5(d)に示す。
【0097】
図5(b)および図5(c)に示すように、炭素源22の埋め込みを行わなかったサンプル2、および、加工ダメージ層21を形成しなかったサンプル3においては、導電性ダイヤモンド膜40の表面にピンホールが観察された。これに対し、図5(a)および図5(d)に示すように、加工ダメージ層21を形成し、加工ダメージ層21の内部に炭素源22の埋め込みを行ったサンプル1およびサンプル4においては、導電性ダイヤモンド膜40の表面に、ピンホールは観察されなかった。
【0098】
以上より、基板20の主面上に、マイクロクラックを有する加工ダメージ層21を形成し、加工ダメージ層21の内部に、炭素源22を埋め込むことで、連続的なニオブ炭化物層30を形成できることを確認した。また、連続的なニオブ炭化物層30を形成することで、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホールの発生を抑制できることを確認した。
【0099】
(3)ダイヤモンド電極の耐久性試験
サンプル1~4のダイヤモンド膜堆積基板10から作製したダイヤモンド電極をそれぞれ陽極と陰極とに用いて、オゾン水を生成する耐久性試験を行った。高分子電解膜としては、Nafion324(Du Pont社製)を用いた。原水として水道水(流量200mL/min)を用い、15Vの低電圧駆動で8分間駆動し、2分間休止するサイクルを1000回繰り返した。その後、ダイヤモンド電極を取り出し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離の面積割合を確認した。その結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示すように、炭素源22の埋め込みを行わなかったサンプル2、および、加工ダメージ層21を形成しなかったサンプル3においては、初回サイクル時に比べて、1000サイクル時のオゾン水濃度が著しく低下しており、通電劣化が確認された。また、導電性ダイヤモンド膜40の剥離も確認された。これに対し、加工ダメージ層21を形成し、加工ダメージ層21の内部に炭素源22の埋め込みを行ったサンプル1およびサンプル4においては、1000サイクル時も、初回サイクル時と同程度(95%以上)のオゾン水濃度を得ることができた。また、導電性ダイヤモンド膜40の剥離は確認されなかった。
【0102】
以上より、連続的なニオブ炭化物層30を形成し、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホールの発生を抑制することで、通電劣化を抑制し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を防止できることを確認した。すなわち、ダイヤモンド電極の耐久性の向上が可能であることを確認した。
【0103】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
【0104】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
金属ニオブからなる基板と、
前記基板の少なくとも一方の主面上に形成されたニオブ炭化物層と、
前記ニオブ炭化物層上に形成された導電性ダイヤモンド膜と、を有し、
前記導電性ダイヤモンド膜の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、前記基板または前記ニオブ炭化物層まで達するピンホールが存在しない、ダイヤモンド膜堆積基板が提供される。
好ましくは、1mm×1mmの視野内に、前記基板または前記ニオブ炭化物層まで達するピンホールが存在しない。
特に好ましくは、前記導電性ダイヤモンド膜の全面において、前記基板または前記ニオブ炭化物層まで達するピンホールが存在しない。
【0105】
(付記2)
付記1に記載のダイヤモンド膜堆積基板であって、
ダイヤモンド膜堆積基板の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm以上の幅に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的な前記ニオブ炭化物層が形成されている。
より好ましくは、1mm以上の幅に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的な前記ニオブ炭化物層が形成されている。
特に好ましくは、前記主面の全面に、厚さ0.5μm以上の連続的な前記ニオブ炭化物層が形成されている。
【0106】
(付記3)
付記1または付記2に記載のダイヤモンド膜堆積基板であって、
前記ニオブ炭化物層の厚さは、0.5μm以上5μm以下である。
より好ましくは、前記ニオブ炭化物層の厚さは、0.8μm以上2.5μm以下である。
【0107】
(付記4)
付記1から付記3のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板であって、
前記ニオブ炭化物層の主成分は、化学式NbCの炭化ニオブである。
【0108】
(付記5)
付記1から付記3のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板であって、
前記ニオブ炭化物層の上部の主成分は、化学式NbCの炭化ニオブであり、前記ニオブ炭化物層の下部は、化学式NbCの炭化ニオブを含む。
【0109】
(付記6)
付記1から付記5のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板であって、
前記ニオブ炭化物層に含まれる炭化ニオブの結晶子径は、1nm以上60nm以下である。
【0110】
(付記7)
付記1から付記6のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板であって、
前記金属ニオブの結晶子径は、30nm以上90nm以下である。
【0111】
(付記8)
本発明の他の態様によれば、
金属ニオブからなる基板の少なくとも一方の主面上に、加工ダメージを導入することで、マイクロクラックを有する加工ダメージ層を形成する工程と、
前記加工ダメージ層の内部に、炭素または炭素化合物の固体からなる炭素源を埋め込む工程と、
前記加工ダメージ層に熱処理を施し、前記金属ニオブおよび前記炭素源を反応させることで、前記主面を連続的に覆うニオブ炭化物層を形成する工程と、
前記ニオブ炭化物層上に、導電性ダイヤモンド膜を堆積する工程と、を有する、ダイヤモンド膜堆積基板の製造方法が提供される。
【0112】
(付記9)
付記8に記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記加工ダメージ層を形成する工程では、厚さ0.5μm以上5μm以下の加工ダメージ層を形成する。
より好ましくは、厚さ0.8μm以上2.5μm以下の加工ダメージ層を形成する。
【0113】
(付記10)
付記8または付記9に記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記ニオブ炭化物層を形成する工程では、前記加工ダメージ層の10%以上100%以下の厚さを有するニオブ炭化物層を形成する。
より好ましくは、前記加工ダメージ層の30%以上100%以下の厚さを有するニオブ炭化物層を形成する。
【0114】
(付記11)
付記8から付記10のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記加工ダメージ層を形成する工程では、前記加工ダメージ層における金属ニオブの結晶子径が1nm以上25nm以下になるように、加工ダメージを導入する。
【0115】
(付記12)
付記8から付記11のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記ニオブ炭化物層を形成する前に、前記主面にダイヤモンド粒子を種付け処理する工程をさらに有する。
【0116】
(付記13)
付記8から付記12のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記加工ダメージ層を形成する前に、前記主面に凹凸をつける加工を行う工程をさらに有する。
【0117】
(付記14)
付記8から付記13のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記ニオブ炭化物層を形成する工程では、化学式NbCの炭化ニオブが主成分である、ニオブ炭化物層を形成する。
【0118】
(付記15)
付記8から付記13のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記ニオブ炭化物層を形成する工程では、前記ニオブ炭化物層の上部の主成分は、化学式NbCの炭化ニオブとなり、前記ニオブ炭化物層の下部は、化学式NbCの炭化ニオブを含むように、前記ニオブ炭化物層を形成する。
【0119】
(付記16)
付記8から付記15のいずれか1つに記載のダイヤモンド膜堆積基板の製造方法であって、
前記ニオブ炭化物層を形成する工程では、前記ニオブ炭化物層に含まれる炭化ニオブの結晶粒径が1nm以上60nm以下になるように、前記ニオブ炭化物層を形成する。
【符号の説明】
【0120】
10 ダイヤモンド膜堆積基板
20 基板
21 加工ダメージ層
22 炭素源
30 ニオブ炭化物層
31 上部
32 下部
40 導電性ダイヤモンド膜
S101 凹凸形成工程
S102 加工ダメージ層形成工程
S103 炭素源埋め込み工程
S104 シーディング工程
S105 ニオブ炭化物層形成工程
S106 ダイヤモンド膜堆積工程
【要約】
金属ニオブからなる基板と、基板の少なくとも一方の主面上に形成されたニオブ炭化物層と、ニオブ炭化物層上に形成された導電性ダイヤモンド膜と、を有し、導電性ダイヤモンド膜の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、基板またはニオブ炭化物層まで達するピンホールが存在しない、ダイヤモンド膜堆積基板。
図1
図2
図3
図4
図5