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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ジャイロセンサの補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20240117BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20240117BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20240117BHJP
   B60W 50/023 20120101ALI20240117BHJP
   G08G 1/042 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G01C21/28
G08G1/00 X
B60W40/114
B60W50/023
G08G1/042 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020562531
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051546
(87)【国際公開番号】W WO2020138470
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2018248445
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019037864
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】浦川 一雄
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 康太
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-160493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/28
G08G 1/00
G08G 1/042
B60W 40/114
B60W 50/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向の軸回りの車両の角速度を計測して角速度を表すセンサ出力を出力するジャイロセンサの補正方法であって、
前記センサ出力が表す角速度を時間的に積分することにより車両の回頭角の計測値である計測方位を求める処理と、
車両の走路に配置されたマーカに対する車両の横ずれ量を検出する横ずれ量検出処理と、
方向が既知である走路に沿って離間する2個のマーカに対する前記横ずれ量を利用して当該2個のマーカを結ぶ線分の方向に対する車両のずれ角を求めることにより車両方位を推定する処理と、
前記計測方位と前記車両方位の差分に処理を施して補正情報を得る生成処理と、
前記補正情報を利用して前記センサ出力あるいは前記計測方位を補正する補正処理と、を含むジャイロセンサの補正方法。
【請求項2】
請求項1において、前記補正情報は、前記差分の時間的な変化を表す情報であり、
前記補正処理は、前記補正情報に基づく補正量により、前記センサ出力あるいは前記計測方位を補正する処理であるジャイロセンサの補正方法。
【請求項3】
請求項1において、前記補正情報は、前記差分の時間的な平均値であり、
前記補正処理は、前記差分の時間的な平均値に当たる補正量の分だけ、前記計測方位をシフトさせる処理であるジャイロセンサの補正方法。
【請求項4】
鉛直方向の軸回りの車両の角速度を計測するジャイロセンサの補正方法であって、
該ジャイロセンサの出力であるセンサ出力に処理を施して得られる計測方位と、車両の走路に沿って配置されたマーカを利用して推定される車両方位と、の差分に処理を施して補正情報を得る生成処理と、
前記補正情報を利用して前記センサ出力補正する補正処理と、を含み、
前記補正情報は、前記差分の時間的な変化量を少なくとも含む情報であり、
前記補正処理では、前記差分の時間的な変化量に対応する補正量の分だけ前記センサ出力をシフトさせることで該センサ出力を補正する処理が実行されるジャイロセンサの補正方法。
【請求項5】
鉛直方向の軸回りの車両の角速度を計測するジャイロセンサの補正方法であって、
該ジャイロセンサの出力であるセンサ出力に処理を施して得られる計測方位と、車両の走路に沿って配置されたマーカを利用して推定される車両方位と、の差分に処理を施して補正情報を得る生成処理と、
前記補正情報を利用して前記センサ出力あるいは前記計測方位を補正する補正処理と、を含み、
前記補正情報は、前記差分の時間的な変化を表す情報として、前記差分の時間的な変化を近似した直線の傾きaを少なくとも含む情報であり、
前記補正処理では、前記傾きaに当たる補正量の分だけ前記センサ出力をシフトさせることで該センサ出力が補正される、ジャイロセンサの補正方法。
【請求項6】
鉛直方向の軸回りの車両の角速度を計測するジャイロセンサの補正方法であって、
該ジャイロセンサの出力であるセンサ出力に処理を施して得られる計測方位と、車両の走路に沿って配置されたマーカを利用して推定される車両方位と、の差分に処理を施して補正情報を得る生成処理と、
前記補正情報を利用して前記センサ出力あるいは前記計測方位を補正する補正処理と、を含み、
前記補正情報は、前記差分の時間的な変化を近似した直線の傾きa及び切片bを少なくとも含む情報であり、
前記補正処理では、前記差分の時間的な変化の起点からの経過時間Tを前記傾きaの値に乗じ、前記切片bの値を加算して得られる補正量の分だけ、前記計測方位をシフトさせることで該計測方位が補正される、ジャイロセンサの補正方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項において、前記マーカに対する車両の横ずれ量を検出する横ずれ量検出処理と、
少なくとも2個のマーカについて前記横ずれ量検出処理により検出された横ずれ量に基づいて前記車両方位を推定する処理と、を含むジャイロセンサの補正方法。
【請求項8】
請求項1~3及び7のいずれか1項において、前記2個のマーカを結ぶ線分の方向あるいは前記走路の方向を特定可能な方位情報を提供するために設けられた情報提供部から当該方位情報を取得する方位情報取得処理を含み、
前記車両方位を推定する処理では、前記方位情報によって特定される方向を基準として前記車両方位が推定されるジャイロセンサの補正方法。
【請求項9】
請求項において、前記情報提供部は、前記マーカに取り付けられた無線タグであるジャイロセンサの補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたジャイロセンサの補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナビゲーションシステムや、アンチスキッドコントロールなどの車両制御システムや、自動運転システムなどが組み込まれた車両が増えている。これらのシステムでは、車両の姿勢(方位)や車両の姿勢変化などを精度高く推定する必要がある。そこで、これらのシステムが組み込まれた車両の多くでは、鉛直方向の軸回りの車両の回転方向(ヨー方向)の角速度を計測するジャイロセンサが採用されている(例えば下記の特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-91412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ジャイロセンサの出力は、時間経過や温度変動や振動などの環境条件によって変動(ドリフト)することがある。このようにジャイロセンサの出力特性は、時間経過や環境条件によって変動するため、ジャイロセンサの出力の精度や、その出力に基づく計測量の精度を維持できなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、車両に搭載されたジャイロセンサの補正方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鉛直方向の軸回りの車両の角速度を計測するジャイロセンサの補正方法であって、
該ジャイロセンサの出力であるセンサ出力に処理を施して得られる計測方位と、車両の走路に沿って配置されたマーカを利用して推定される車両方位と、の差分に処理を施して補正情報を得る生成処理と、
前記補正情報を利用して前記センサ出力あるいは前記計測方位を補正する補正処理と、を含むジャイロセンサの補正方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明のジャイロセンサの補正方法は、センサ出力に基づく計測方位と、マーカを利用して推定される車両方位と、の差分に基づく補正情報を利用する補正処理を含んでいる。マーカは、走路に配置されており、時間経過や環境条件によって位置が変動するおそれがほとんどない。このマーカを利用して推定される車両方位を利用すれば、時間経過や環境条件によって変動し得るジャイロセンサの出力特性を効果的に補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1における、車両を見込む正面図。
図2】実施例1における、磁気マーカの説明図。
図3】実施例1における、磁気マーカの敷設態様の説明図。
図4】実施例1における、RFIDタグの正面図。
図5】実施例1における、車載システムの構成を示す説明図。
図6】実施例1における、磁気マーカを通過する際の進行方向の磁気計測値の変化を例示する説明図。
図7】実施例1における、車幅方向に配列された磁気センサCnによる車幅方向の磁気計測値の分布曲線を例示する説明図。
図8】実施例1における、車両の全体動作の流れを示すフロー図。
図9】実施例1における、車載システムによる自車位置の推定方法の説明図。
図10】実施例1における、走行ルートに対する自車位置の偏差ΔDを示す説明図。
図11】実施例1における、計測方位の補正処理の流れを示すフロー図。
図12】実施例1における、車両方位Vdの検出方法の説明図。
図13】実施例1における、計測方位の誤差の時間的な変化を直線近似する処理の説明図。
図14】実施例2における、計測方位の補正処理の流れを示すフロー図。
図15】実施例3における、車両方位Vdの検出方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、自車位置(車両の位置)を推定する車載システム1を自動運転システム6に組み合わせた例である。特に、この車載システム1は、磁気マーカ10を利用してジャイロセンサ223が出力する角速度に由来する計測方位を補正する機能を有している。この内容について、図1図13を用いて説明する。
【0010】
車載システム1は、図1のごとく、磁気検出等を行う計測ユニット2、磁気マーカ10に関するマーカ情報を取得するタグリーダ34、及び自車位置を特定するための演算処理を実行する制御ユニット32等、を含んで構成されている。
【0011】
この車載システム1を組み合わせる自動運転システム6は、自動運転制御を実行する車両ECU61と、詳細な3次元地図データ(3Dマップデータ)を格納する地図データベース(地図DB)65と、を含んで構成されている。車両ECU61は、車載システム1が推定する自車位置を制御入力値として、図示しないステアリング操舵ユニットやエンジンスロットルやブレーキなどを制御して車両5を自動走行させる。
【0012】
以下、道路に敷設される磁気マーカ10を概説した後、計測ユニット2、タグリーダ34、制御ユニット32の内容を説明する。
磁気マーカ10は、図1図3のごとく、車両5が走行する道路(走路の一例)の路面100Sに敷設されるマーカの一例である。この磁気マーカ10は、直径20mm、高さ28mmの柱状をなしている。磁気マーカ10は、例えば、路面100S(図1)に設けた孔に収容された状態で敷設される。磁気マーカ10をなす磁石は、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料中に分散させたフェライトプラスチックマグネットである。この磁石は、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/mという特性を備えている。
【0013】
本例の磁気マーカ10の仕様の一部を表1に示す。
【表1】
この磁気マーカ10は、計測ユニット2の取付け高さとして想定される範囲100~250mmの上限の250mm高さにおいて、8μT(マイクロテスラ)の磁束密度の磁気を作用する。また、この磁気マーカ10では、表面における磁気の強さを表す表面磁束密度Gsが45mTとなっている。
【0014】
磁気マーカ10は、図3のごとく、左右のレーンマークで区分された車線100の中央に沿って例えば2m間隔(マーカスパンM)で配置されている。詳しくは後述するが、車載システム1では、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向を基準として車両方位(車両の前後方向の向き、方位)を推定している。そして、基準となる方位としてこの車両方位を利用し、ジャイロセンサ223の出力に由来する計測方位を補正している。
【0015】
なお、磁気マーカ10の設計上の敷設位置は、車線100の中央である。したがって、設計上では、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向は車線方向(走路の方向)に一致する。しかしながら、現実的には磁気マーカ10の敷設位置の誤差が不可避である。そのため、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ実際の線分の方向は、方位的な誤差を包含し、車線方向からずれている。以下、両者を区別し、車線方向を方位dir、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ実際の線分の方向を方位dir(M)という。
【0016】
磁気マーカ10の上端面には、無線により情報を出力する無線タグであるRFID(Radio Frequency IDentification)タグ15が取り付けられている(図2参照。)。情報提供部の一例であるRFIDタグ15は、無線による外部給電により動作し磁気マーカ10に関するマーカ情報を送信する。マーカ情報には、対応する磁気マーカ10の設計上の敷設位置を表す位置データや、車線方向を表す方位データ(方位情報、方位dir)等が含まれている。
【0017】
なお、隣り合う2個の磁気マーカ10の敷設位置(絶対位置)がわかれば、演算により方位dirを求めることが可能である。隣り合う2個の磁気マーカ10の敷設位置を表す位置データを、方位情報としてマーカ情報に含めても良い。あるいは、1個前の磁気マーカ10の敷設位置を車両側で記憶しておき、方位dirを演算する際、1個前の磁気マーカ10の敷設位置を読み出しても良い。この場合には、マーカ情報に含まれる1個の磁気マーカ10の敷設位置が方位情報の一例となる。
【0018】
情報提供部の一例をなすRFIDタグ15は、例えばPET(Polyethylene terephthalate)フィルムから切り出したタグシート150(図4)の表面にICチップ157が実装された電子部品である。タグシート150の表面には、ループコイル151及びアンテナ153の印刷パターンが設けられている。ループコイル151は、外部からの電磁誘導によって励磁電流が発生する受電コイルである。アンテナ153は、マーカ情報を無線送信するための送信アンテナである。RFIDタグ15は、磁気マーカ10の上向きの端面に配置されている。
【0019】
次に、車両5が備える計測ユニット2、タグリーダ34、制御ユニット32について説明する。
計測ユニット2は、図5のごとく、磁気検出部であるセンサアレイ21と、IMU(Inertial Measurement Unit)22と、が一体化されたユニットである。細長い棒状の計測ユニット2は、路面100Sと対面する状態で、例えばフロントバンパーの内側等に取り付けられる(図1参照。)。本例の車両5の場合、路面100Sを基準とした計測ユニット2の取付け高さが200mmである。
【0020】
計測ユニット2のセンサアレイ21は、一直線上に配列された15個の磁気センサCn(nは1~15の整数)と、図示しないCPU等を内蔵した検出処理回路212と、を備えている。センサアレイ21では、15個の磁気センサCnが10cmの等間隔で配置されている。計測ユニット2は、センサアレイ21における磁気センサCnの配列方向が車幅方向に一致するように車両5に取り付けられる。
【0021】
磁気センサCnは、アモルファスワイヤなどの感磁体のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するという公知のMI効果(Magneto Impedance Effect)を利用して磁気を検出するセンサである。磁気センサCnでは、直交する2軸方向に沿って感磁体が配置され、これにより直交する2軸方向に作用する磁気の検出が可能となっている。なお、本例では、進行方向の磁気成分および車幅方向の磁気成分を検出できるように磁気センサCnがセンサアレイ21に組み込まれている。
【0022】
磁気センサCnは、磁束密度の測定レンジが±0.6mTであって、測定レンジ内の磁束分解能が0.02μTという高感度のセンサである。本例では、車両5の高速走行に対応できるよう、計測ユニット2の各磁気センサCnによる磁気計測の周期が3kHzに設定されている。
【0023】
磁気センサCnの仕様の一部を表2に示す。
【表2】
【0024】
上記のように、磁気マーカ10は、磁気センサCnの取付け高さとして想定する範囲100~250mmにおいて8μT以上の磁束密度の磁気を作用できる。磁束密度8μT以上の磁気を作用する磁気マーカ10であれば、磁束分解能が0.02μTの磁気センサCnを用いて確実性高く検出可能である。
【0025】
センサアレイ21の検出処理回路212(図5)は、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理などを実行する演算回路である。この検出処理回路212は、各種の演算を実行するCPU(central processing unit)、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子、などを利用して構成されている。
【0026】
検出処理回路212は、各磁気センサCnが出力するセンサ信号を3kHz周期で取得してマーカ検出処理を実行する。検出処理回路212は、マーカ検出処理の検出結果を制御ユニット32に入力する。詳しくは後述するが、このマーカ検出処理では、磁気マーカ10の検出に加えて、検出した磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量を計測する横ずれ量検出処理が行われる。
【0027】
計測ユニット2に組み込まれたIMU22(図5)は、慣性航法により車両5の相対位置を推定する慣性航法ユニットである。IMU22は、方位を計測する電子コンパスである磁気センサ221、加速度を計測する加速度センサ222、角速度を計測するジャイロセンサ223等を備えている。ジャイロセンサ223は、鉛直方向の軸回りの回転方向の角速度(出力の一例)を計測するセンサである。例えば、ジャイロセンサ223が計測した角速度と、磁気センサ221が計測する方位と、を組み合わせれば、車両5の絶対方位を高精度に推定可能である。
【0028】
IMU22は、加速度の二階積分により変位量を演算し、車両方位に沿って変位量を積算することで基準位置に対する相対位置を演算する。IMU22が推定する相対位置を利用すれば、隣り合う磁気マーカ10の中間に車両5が位置するときにも自車位置の推定が可能になる。
【0029】
タグリーダ34は、磁気マーカ10の表面に配置されたRFIDタグ15と無線で通信する通信ユニットである。タグリーダ34は、RFIDタグ15の動作に必要な電力を無線で送電し、RFIDタグ15が送信するマーカ情報を受信する。マーカ情報としては、上記の通り、対応する磁気マーカ10の敷設位置(絶対位置)を表す位置データ、車線方向を表す方位データ(方位情報)である方位dir等がある。
【0030】
制御ユニット32は、計測ユニット2やタグリーダ34を制御すると共に、車両5の位置である自車位置をリアルタイムで推定するユニットである。制御ユニット32によって推定された自車位置は、例えば自動運転システム6を構成する車両ECU61に入力される。
【0031】
制御ユニット32は、各種の演算を実行するCPU、ROMやRAMなどのメモリ素子、などが実装された電子基板(図示略)を備えている。制御ユニット32が自車位置を推定する方法は、RFIDタグ15が取り付けられた磁気マーカ10に車両5が到達したときと、隣り合う磁気マーカ10の中間に車両5が位置するときと、で相違している。詳しくは後述するが、制御ユニット32は、前者の場合、磁気マーカ10に取り付けられたRFIDタグ15から受信したマーカ情報を利用して自車位置を推定する。一方、後者の場合には、慣性航法により推定した車両5の相対位置に基づいて自車位置を推定する。
【0032】
次に、本例の(1)車載システム1によるマーカ検出処理、及び(2)車両5の全体動作の流れを説明した後、(3)計測方位の補正処理について説明する。
(1)マーカ検出処理
マーカ検出処理は、計測ユニット2のセンサアレイ21が実行する処理である。センサアレイ21は、磁気センサCnを用いて3kHzの周期でマーカ検出処理を実行する。
【0033】
上記のごとく、磁気センサCnは、車両5の進行方向の磁気成分および車幅方向の磁気成分を計測するように構成されている。例えばこの磁気センサCnが、進行方向に移動して磁気マーカ10の真上を通過するとき、進行方向の磁気計測値は、図6のごとく磁気マーカ10の前後で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。したがって、車両5の走行中では、いずれかの磁気センサCnが検出する進行方向の磁気について、その正負が反転するゼロクロスZcが生じたとき、計測ユニット2が磁気マーカ10の真上に位置すると判断できる。検出処理回路212は、このように計測ユニット2が磁気マーカ10の真上に位置し進行方向の磁気計測値のゼロクロスが生じたときに磁気マーカ10を検出したと判断する。
【0034】
また、例えば、磁気センサCnと同じ仕様の磁気センサについて、磁気マーカ10の真上を通過する車幅方向の仮想線に沿う移動を想定すると、車幅方向の磁気計測値は、磁気マーカ10を挟んだ両側で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。15個の磁気センサCnを車幅方向に配列した計測ユニット2の場合には、磁気マーカ10を介してどちらの側にあるかによって磁気センサCnが検出する車幅方向の磁気の正負が異なってくる(図7)。
【0035】
計測ユニット2の各磁気センサCnの車幅方向の磁気計測値を例示する図7の分布曲線に基づけば、車幅方向の磁気の正負が反転するゼロクロスZcを利用して磁気マーカ10の車幅方向の位置を特定可能である。隣り合う2個の磁気センサCnの中間(中央とは限らない)にゼロクロスZcが位置している場合には、ゼロクロスZcを挟んで隣り合う2個の磁気センサCnの中間の位置が、磁気マーカ10の車幅方向の位置となる。あるいは車幅方向の磁気計測値がゼロであって両外側の磁気センサCnの磁気計測値の正負が反転している磁気センサCnが存在する場合には、その磁気センサCnの直下の位置が、磁気マーカ10の車幅方向の位置となる。検出処理回路212は、計測ユニット2の中央の位置(磁気センサC8の位置)に対する磁気マーカ10の車幅方向の位置の偏差を、磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量として計測する(横ずれ量検出処理)。例えば、図7の場合であれば、ゼロクロスZcの位置がC9とC10との中間辺りのC9.5に相当する位置となっている。上記のように磁気センサC9とC10の間隔は10cmであるから、磁気マーカ10の横ずれ量は、車幅方向において計測ユニット2の中央に位置するC8を基準として(9.5-8)×10cmとなる。そして、磁気マーカ10を基準とした車両5の車幅方向の偏差である横ずれ量は、上記の偏差の正負を反転して算出できる(横ずれ量検出処理)。計測ユニット2は、磁気マーカ10に対して車両5が左右どちら側にずれているかに応じて正負が入れ替わる横ずれ量を制御ユニット32に入力する。
【0036】
(2)車両の全体動作
次に、図8図10を参照して車載システム1と自動運転システム6とを備える車両5の全体動作について説明する。
自動運転システム6において走行経路(所定の経路)が設定されると(S101)、3Dマップデータを記憶する地図DB65から対応するデータが読み出されて自動運転の制御目標となる詳細なルートデータが設定される(S102)。ルートデータは、例えば図9及び図10中の破線で示すように、少なくとも絶対位置のデータで表される地点の連なりを含むデータである。
【0037】
一方、車載システム1は、自動運転の制御下において、上記のセンサアレイ21によるマーカ検出処理P1を繰り返し実行する。いずれかの磁気マーカ10を検出できたときには(S201:YES)、車載システム1は、RFIDタグ15が出力するマーカ情報の読取を実行する(S202)。そして車載システム1は、マーカ情報に含まれる位置データが表す磁気マーカ10の敷設位置を基準として自車位置(図9中の△印で例示)を推定する(S203)。具体的には、マーカ検出処理で計測ユニット2が計測した横ずれ量の分だけ、磁気マーカ10の敷設位置からオフセットさせた位置を自車位置として推定する。
【0038】
一方、隣り合う磁気マーカ10の中間に車両5が位置しており、磁気マーカ10を検出できないときには(S201:NO)、車載システム1は、直近で検出された磁気マーカ10の敷設位置に基づいて特定された自車位置(図9中の△印の位置)を基準位置とし、慣性航法により車両5の相対位置を推定する(S212)。具体的には、車載システム1は、上記の通り、計測ユニット2に組み込まれたIMU22による計測加速度の二階積分により変位量を演算する。そして車載システム1は、ジャイロセンサ22が出力する角速度等を利用して特定された車両5の方位に沿って、その変位量を積算することで上記の基準位置に対する車両5の相対位置を推定する。車載システム1は、図9に例示するように、この相対位置の分だけ基準位置から移動させた×印の位置を自車位置として推定する(S203)。なお、同図では、この相対位置を表すベクトルの一例を矢印で示している。
【0039】
車載システム1が推定した自車位置(図9中の△印及び×印の位置)は、自動運転システム6を構成する車両ECU61に入力される。車両ECU61は、図10において破線で示す制御目標値のルートデータに対する自車位置の偏差ΔDを算出する(S103)。そして車両ECU61は、この偏差ΔDに基づいてステアリング制御などの車両制御を実行し(S104)、自動走行を実現する。
【0040】
(3)計測方位の補正処理
上記のごとく車載システム1では、マーカスパンM=2mの間隔で磁気マーカ10が配置された車線100(図3参照。走路)が想定される。磁気マーカ10は、車線100の中央に沿って配置されているので、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の設計上の方向は、車線方向(方位dir)に一致する。2個の磁気マーカ10を結ぶ設計上の線分の方向に当たる車線方向の方位dirは、磁気マーカ10に付設されたRFIDタグ15によって方位データ(マーカ情報の一部)として無線出力される。
【0041】
車載システム1では、磁気マーカ10を利用して車両5の向きである車両方位Vdが推定される。そして、車載システム1では、この車両方位Vdを利用して計測方位Vsが補正される。上述した通り、マーカ基準の車両方位Vdは、磁気マーカ10の敷設位置の誤差に起因する誤差を包含している。図11の補正処理は、誤差を包含するマーカ基準の車両方位Vdを利用して計測方位Vsを補正する処理である。この補正処理の流れについて、図11のフロー図を参照して説明する。
【0042】
例えば自動運転システム6が起動されると、制御ユニット32は、ジャイロセンサ223の出力(角速度、センサ出力)の積分演算を開始するようにIMU22を制御する(S301)。センサ出力の積分演算により、車両5の回頭角の計測値である計測方位Vsが生成される。また制御ユニット32は、処理中に利用する変数nに初期値である0をセットする(S302)。
【0043】
例えば自動運転の制御中の制御ユニット32は、センサアレイ21を制御し、横ずれ量検出処理を含むマーカ検出処理P1を繰り返し実行させる(S303:NO)。磁気マーカ10が検出されると(S303:YES)、制御ユニット32は、まず、変数nを1加算する(S304)。そして制御ユニット32は、タグリーダ34を制御してRFIDタグ15からマーカ情報を読み取らせる(S305、方位情報取得処理)。上記のごとく、このマーカ情報には、2個の磁気マーカ10を結ぶ設計上の線分の方向に当たる車線方向の方位データ(方位dir)が含まれている。
【0044】
続いて制御ユニット32は、磁気マーカ10に対する横ずれ量を利用して車両方位Vdを推定する(S306、方位推定処理)。このステップS306の車両方位Vdの推定には、2個の磁気マーカ10に対する横ずれ量が必要である。詳しく言うと、車両方位Vdの推定は、2個目の磁気マーカ10が検出されたときに実行される。上記のステップS301及びS302の処理の実行前に、マーカ検出処理P1を実行し、2個目の磁気マーカ10が検出されたとき、ステップS301及びS302の処理を実行すると良い。
【0045】
ここで、車両方位Vdを演算するステップS306の方位推定処理の内容について、図12を参照して説明する。この方位推定処理では、隣り合う2個の磁気マーカ10についてそれぞれ計測された横ずれ量OF1、OF2を利用して車両方位Vdが推定される。ここで、横ずれ量OF1は、1つ目の磁気マーカ10に対する横ずれ量であり、横ずれ量OF2は、2つ目の磁気マーカ10に対する横ずれ量である。横ずれ量OF1、OF2は、車両5の幅方向中央を境に正または負の値となるよう定義される。
【0046】
制御ユニット32は、図12のごとく、隣り合う2個の磁気マーカ10に対する横ずれ量OF1、OF2に基づいて、2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向dir(M)に対する車両方位Vdのずれ角Axを次のように演算する。
横ずれ量の変化 OFd=|OF2-OF1|
ずれ角 Ax=arcsin(OFd/M)
【0047】
隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ実際の線分の方向dir(M)は、磁気マーカ10の敷設位置の誤差による方位的なずれの誤差を含む絶対方位である。この方位的なずれの誤差は不定であるので、本例の方位推定処理では、線分の方向dir(M)の設計値である方位dir(マーカ情報)を基準として、次のようにマーカ基準の車両方位Vdを推定している。
車両方位 Vd=dir+Ax
【0048】
この方位推定処理では、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ実際の線分の方向dir(M)を基準として得られるずれ角Axを、車線方向の設計値である方位dir(マーカ情報)に加算することでマーカ基準の車両方位Vdを求めている。したがって、このマーカ基準の車両方位Vdは、磁気マーカ10の位置的な誤差の影響を包含したものとなる。
【0049】
制御ユニット32は、ステップS306による車両方位Vdの推定に続いて、IMU22の出力である計測方位Vsを取得する(S307)。そして、制御ユニット32は、計測方位Vsと車両方位Vdとの差分を計測方位Vsの誤差E(n)として記憶すると共に、計測方位Vsの計測時点の時刻(現在時刻)をt(n)として記憶する(S308)。制御ユニット32は、このようにして誤差E(n)と時刻t(n)との組合せよりなるデータ列を生成する(生成処理の一例)。
【0050】
続いて制御ユニット32は、t(1)・・・t(n)に対するE(1)・・・E(n)の変化を直線近似し、E=aT+bなる1次方程式(補正情報)を得る(S309、図13参照。生成処理の一例)。ここで、Eは、計測方位Vsの誤差を表す角度的な量であり、Tは、時間である。また、補正情報を構成するaは、E=aT+bなる近似直線の傾きであり、同じくbは、近似直線の切片である。なお、本例では、最小二乗法によって直線近似を実施している。
【0051】
図13に例示する近似処理によりE=aT+bなる近似直線を得た後、制御ユニット32は、計測方位Vsから誤差E(補正量)を差し引いて補正計測方位Vsmを演算する(S310)。上記の近似直線を利用すると、誤差Eが(a×To+b)となる。ここで、Toは、データ列E(n)に対応する時間であり、To=t(n)-t(1)である。制御ユニット32は、この誤差Eを利用し、補正計測方位Vsm=Vs-E=Vs-(a×To+b)を求める。
【0052】
例えば自動運転の制御下では、図11の処理が繰り返し実行され、変数nが100に達するまでE(n)が順次追加される(S311:NOからS308に至る流れ)。変数nが100に達するまでの間は(S311:NO)、100個に満たないデータ列E(n)により、ステップS309の直線近似や、ステップS310の補正値の演算が行われる。
【0053】
変数nが100に到達し、E(1)・・・E(100)なる100個のデータ列が形成されたとき(S311:YES)、制御ユニット32は、E(1)・・・E(100)なる100個のデータ列を最新データに保持するための処理を実行する。この処理の実行に当たり、制御ユニット32は、まず、変数mに1をセットする(S312)。そして制御ユニット32は、(m+1)番目の誤差E(m+1)によりm番目の誤差E(m)を書き換えると共に、(m+1)番目の時刻t(m+1)によりm番目の時刻t(m)を書き換える(S313)。
【0054】
制御ユニット32は、変数mを1ずつ加算しつつ(S314)、変数mが100に達するまで(S315:NO)、ステップS313の書き換え処理を繰り返し実行する。変数mが100になると(S315:YES)、元のE(1)・・・E(100)の100個のデータ列のうちの時間的に最古のデータであるE(1)を消去すると共に、E(2)・・・E(100)を順次繰り下げてE(1)・・・E(99)の99個のデータ列を形成する。その後、制御ユニット32は、次回の処理ループの準備として変数nに99をセットした上で(S316)、次回のループを実行する。次回のループ中のステップS308では、制御ユニット32は、新たな誤差のデータをE(100)にセットし、E(1)・・・E(100)の最新の100個のデータ列を形成する。そして制御ユニット32は、最新のE(1)・・・E(100)のデータ列により、直線近似の処理や(S309)、計測方位Vsの補正処理(S310)等を実行する。
【0055】
以上のように、本例の車載システム1は、磁気マーカ10を利用して計測方位Vsの補正を実行する。精度が向上された補正計測方位Vsmを利用すれば、自動運転制御によって車両5を精度高く自動走行させることが可能である。ここで、磁気マーカ10は、道路側に固定されているため、その位置が変動する可能性が少ない。そしてそれ故、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向は、方位的に変動するおそれが少なく安定している。車載システム1では、この線分の方向を利用して車両方位Vdを推定し、計測方位Vsを補正する際の基準となる方位としてこの車両方位Vdを利用している。隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向に基づく車両方位Vdを利用する補正処理によれば、計測方位Vsを精度高く補正可能である。
【0056】
ここで、計測方位Vsの補正処理の考え方を説明する。車両5に作用するヨー方向(鉛直方向の軸回りの回転方向)の回転が生じておらず、その回転量がゼロであれば(ゼロ点)、理想的には、ジャイロセンサ223が計測する角速度はゼロ(deg/秒)となる。しかしながら、経時変化や温度変化等の影響に応じて、ジャイロセンサ223のゼロ点がずれることがある(ドリフト)。このようなドリフトが生じると、ゼロ点においてジャイロセンサ223が出力する角速度がゼロにならず、オフセットが生じる。このゼロ点でのオフセットは、角速度を時間的に積分して計測方位Vsを求める際に積分され、計測方位Vsの中の誤差の成分として顕在化する。上記のドリフトによるオフセットは一定に近いので、オフセットに由来する誤差は、積分区間に当たる時間をオフセットの量に乗じた量に近い値となる。本例の補正処理の場合、計測方位Vsの補正量である(a×To+b)のうち、上記のドリフトによるオフセットがaに相当し、Toが積分区間に当たる時間に相当している。つまり、補正量(a×To)は、ジャイロセンサ223の出力に含まれるドリフトによるオフセットaの時間積分に当たる量である。計測方位Vsから補正量(a×To)を差し引く補正に代えて、ジャイロセンサの出力(角速度)からオフセットaを差し引く補正を実施した後、時間積分により計測方位を求めることも良い。
【0057】
計測方位Vsから差し引く(a×To+b)の補正量のうちのbの部分は、計測方位Vsと車両方位Vdとの差分の初期値に当たる部分である。積分区間の先頭の時点における計測方位Vsを車両方位Vdに一致させれば、bに当たる補正量をゼロにできる。
【0058】
本例では、車線の中央に沿って磁気マーカ10が配置された走路を対象とし、磁気マーカ10を伝うように車両5を走行させる自動走行制御を想定している。ここで、現実的に、車両の中央のラインに対する磁気マーカ10の敷設誤差や、磁気マーカ10の絶対位置の測定誤差、等が不可避である。そして磁気マーカ10の敷設誤差や測定誤差等が存在すれば、隣り合う2個の磁気マーカを結ぶ線分の方向dir(M)が、実際の車線方向dirからずれてくる。それ故、上記の線分の方向に角度的な誤差が生じた場合には、この誤差に起因し、ステップS308(図11)におけるE(n)に誤差が生じる。一方、上記の線分の方向の角度的な誤差は、実際の車線方向に対して正負両側に分散すると考えられる。このような角度的な誤差の影響は、ステップS309による直線近似によって相殺できるので、比較的容易に抑制可能である。したがって、本例の補正処理では、磁気マーカ10の敷設誤差の影響を抑制し、ジャイロセンサ223が出力する角速度、あるいは計測方位Vsを精度高く補正可能である。
【0059】
以上のように、本例の車載システム1では、磁気マーカ10を利用してジャイロセンサ223の計測方位Vsの補正を可能としている。ジャイロセンサ223の計測方位の精度向上により、自動運転などの運転支援制御の精度向上を図ることができる。
【0060】
本例では、マーカ情報に含める方位情報として、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ設計上の線分の方向を表す方位dirを例示している。方位情報が方位そのものの情報であることは必須ではない。例えば、隣り合う2個の磁気マーカ10の敷設位置(絶対位置)の組合せなどは、方位を特定可能な方位情報の一例となる。
【0061】
マーカ情報に含める方位情報としては、車線方向を表す情報であっても良い。この場合、隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向が、車線方向からずれていても良い。隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向の車線方向からのずれは、ステップS308におけるE(n)の誤差となる。上記の通り、E(n)の誤差による影響は、ステップS309(図11)の直線近似処理により抑制可能である。また、次に説明する実施例2の構成の場合には、E(n)の平均値を求める演算により、E(n)の誤差による影響を抑制できる。磁気マーカ10は、走路をなす車線の方向に沿って配置されていれば良い。
【0062】
なお、本例では、図11中のステップS309において、最大100点の誤差E(n)の経時変化を対象として近似処理を行っている。近似対象の誤差E(n)の点数が多すぎると、誤差E(n)に対応する時間的な期間が長くなり、その期間内の温度変動などの環境変化を無視できなくなるおそれがある。このように無視できない温度変動等が生じた場合、温度変動等が生じるよりも以前の時間的に古い誤差E(n)が、近似処理の元データとして不適格なものに変質してしまっているおそれがある。このようなことから、本例の構成の場合、近似対象の誤差E(n)の点数としては、最大100点程度が妥当である。当然ながら、この点数は、磁気マーカ10の間隔であるマーカスパンMに依存している。本例のマーカスパンM=2mよりもマーカスパンが長い場合には、点数を少なめにすることも良く、マーカスパンが短い場合には、点数を多くすることも良い。
【0063】
(実施例2)
本例は、実施例1の車載システムについて、計測方位Vsの補正処理の内容を変更した例である。この内容について、図14のフロー図を参照しながら説明する。同図は、実施例1で参照した図11の代替図である。
本例の車載システムが実行する補正処理(図14)のうち、車両方位Vd、計測方位Vsを取得するまでの処理(S301からS307までの処理)は、実施例1の図11におけるS301からS307の処理と同様である。
【0064】
車両方位Vd、及び計測方位Vsを得た後、本例の制御ユニット(図5中の符号32)は、計測方位Vsと車両方位Vdとの差分を求めると共に、この差分を計測方位Vsの誤差E(n)とみなして記憶する(S408)。そして制御ユニット32は、E(1)・・・E(n)の平均値AV(補正情報)を求める(S409、生成処理の一例)。
【0065】
制御ユニット32は、ステップS409で求めた平均値AVを補正量として取扱い、ステップS307で取得された計測方位Vsから平均値AVを差し引く(シフトさせる)ことで、補正計測方位Vsmを求める(S410)。さらに制御ユニット32は、補正計測方位Vsmにより誤差E(n)を再計算して記憶する(S410)。
【0066】
例えば自動運転の制御下では、図14の補正処理が繰り返し実行され、変数nが10に達するまでE(n)が順次追加される(S411:NOからS408に至る流れ)。変数nが10に達するまでの間は(S411:NO)、10個に満たないデータ列E(n)により、ステップS409の平均値AVの算出や、ステップS410の補正値の演算が行われる。
【0067】
変数nが10に到達し、E(1)・・・E(10)なる10個のデータ列が形成されたとき(S411:YES)、制御ユニット32は、E(1)・・・E(10)なる10個のデータ列を最新データに保持するための処理(S411からS416までの一連の処理)を実行する。この処理は、データ列の個数が10個であるか100個であるかの相違点を除き、実施例1で参照した図11におけるステップS311からS316の処理とほぼ同様の処理である。データ列が10個に達した後は、10個のE(n)によってステップS409の平均値AVの算出や、ステップS410の補正値の演算が行われる。
【0068】
本例では、計測方位Vsの誤差E(n)の平均値を利用して、計測方位Vsを補正している。ここで、基準となる方位である車両方位Vdは、実施例1と同様、磁気マーカを利用して推定される。実施例1で説明した通り、磁気マーカの敷設位置には誤差があり、設計上の敷設ラインからのずれが不可避である。そして、磁気マーカの敷設位置の誤差は、車両側で推定する車両方位Vdの誤差に直結する。
【0069】
これに対して、本例の構成では、例えば計測方位Vsの誤差E(n)の総和を演算した後、データ数を示す変数nにより除算することで平均値AVを求めている。誤差E(n)の総和の演算によれば、上記の車両方位Vdの誤差を相殺できる。そのため、本例の構成では、磁気マーカ10の敷設位置の誤差の影響を抑制しながら、計測方位Vsを精度高く補正できる。
【0070】
なお、誤差E(n)の平均値AVを求める母数としてデータ数10個を設定したが、このデータ数は適宜変更可能である。10個に代えて20個であっても良く30個であっても良い。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0071】
ここで、実施例1の計測方位Vsの補正処理と、実施例2の計測方位Vsの補正処理と、を比較して説明する。実施例1の計測方位Vsの補正処理では、誤差E(n)の時間的な変化を表す近似直線を求め(図13)、この近似直線の傾きaや切片bを利用して計測方位Vsを補正している。実施例1の補正処理では、誤差E(n)の時間的な変化を利用するため、例えば対象とする時間区間に車両の停車期間が包含されていても問題が生じない。例えば、停車により磁気マーカの検出が途切れ、その後、走行の再開に応じて磁気マーカの検出が再開された場合であっても、上記の直線近似には影響がない。実施例1の構成では、停車に応じて補正処理を中断等する必要性がほとんどなく、継続的な補正処理が可能である。
【0072】
これに対して実施例2の補正処理の場合、停車期間の後の磁気マーカの検出時には、その停車期間の長さに応じて誤差E(n)が拡大する。そのため、実施例2の補正処理の場合、例えば、車両が停車したときに一旦、補正処理を中断し、その後の走行再開に応じて誤差E(n)をリセットして補正処理を再開する必要がある。
【0073】
実施例1の補正処理では、誤差E(n)の時間的な変化を直線近似している。この直線近似の際、誤差E(n)のデータ数が少ないと、直線近似が不安定になる傾向にある。直線近似が不安定になって近似直線の傾きが変動すれば補正量に対する影響度合いが大きく、計測方位Vsの補正精度が大きく損なわれるおそれがある。一方、誤差E(n)の平均値AVを算出する実施例2の補正処理の場合、誤差E(n)のデータ数が少ない場合であっても、平均値AVの変動幅が比較的少ないので、補正の精度が極端に低下するおそれは少ない。
【0074】
実施例1の補正処理の長所と、実施例2の補正処理の長所と、の組合せによれば、それぞれの補正処理の短所をカバーできる。例えば、実施例1の図11のフロー図においてnが100未満のとき(同図中のS311:NOの場合の処理)、実施例2の補正処理を実施し、nが100のとき(同図中のS311:YESの場合の処理)、実施例1の補正処理を実施すると良い。
【0075】
(実施例3)
本例は、実施例1に基づいて、車両方位Vdの推定方法を変更した例である。本例は、車両5の前後に2mの間隔をあけてセンサアレイ21が配置されている点において、実施例1とは相違している。そして、このようなセンサアレイ21の配置の相違により、車両方位Vdの特定方法が実施例1とは相違している。この内容について図15を参照して説明する。
【0076】
本例の車載システム1では、図15のごとく、車両5におけるセンサアレイ21の配置間隔(センサスパンS)と、磁気マーカ10の配置間隔(マーカスパンM)と、が一致している。そのため、車両5の走行中では、前後のセンサアレイ21がほぼ同時に2個の磁気マーカ10を検出できる。
【0077】
本例では、前後のセンサアレイ21が磁気マーカ10について計測した横ずれ量OF1、OF2に基づいて、車両方位Vdが演算される。具体的には、2個の磁気マーカ10を結ぶ線分の方向dir(M)に対する車両方位のずれ角Axは次のように演算可能である。
横ずれ量の変化 OFd=|OF2-OF1|
ずれ角 Ax=arcsin(OFd/M)
【0078】
隣り合う2個の磁気マーカ10を結ぶ実際の線分の方向dir(M)は、磁気マーカ10の敷設位置の誤差による方位的なずれの誤差を含む絶対方位であり、この方位的なずれは不定である。ゆえに車両方位Vdは、線分の方向dir(M)の設計値である方位dir(マーカ情報)を基準としてずれ角Axの分だけヨー方向にずらした方位として推定できる。
車両方位 Vd=dir+Ax
【0079】
このような車両方位Vdの推定方法では、同時に検出された2個の磁気マーカ10に対する横ずれ量(OF1、OF2)を利用して車両方位Vdが推定される。この推定方法の場合、2種類の横ずれ量OF1、OF2を得るために車両5の移動が必要ではない。当然ながら、OF1の取得時点と、OF2の取得時点と、の間でステアリング操作が生じることもない。本例の車両方位Vdの推定方法では、ステアリング操作等に起因して車両方位Vdの推定誤差が大きくなるおそれが少ない。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0080】
(参考例)
本例は、実施例1または実施例2に基づいて、ジャイロセンサの計測方位の補正に利用する基準方位を変更した例である。実施例1、2では、磁気マーカを利用して推定された車両方位を基準方位に設定している。これに対して本例は、車両の走行経路の方位を基準方位に設定する参考例である。
(補正処理その1)
この補正処理は、例えば自動操舵など車線に沿って車両を走行させる運転支援の制御中を対象としている。この補正処理では、運転支援制御による操舵角に基づいて走行経路の方位を推定する。走行経路の方位は、相対的な方位であっても良い。例えば、ある時点の車両方位を初期値としてジャイロセンサの出力(角速度)を時間積分し、走行経路の方位を求めることも良い。
【0081】
上記の走行経路の方位と、ジャイロセンサの計測方位Vsと、の差分を時間的に順次記憶し、誤差E(n)とすると良い。この誤差E(n)の時間的な変化について、実施例1の構成のように近似処理を実施することも良い。あるいは誤差E(n)について、実施例2のように平均値を求めることも良い。近似処理の結果、あるいは平均値を利用すれば、実施例1あるいは実施例2と同様の補正処理を実施できる。
【0082】
(補正処理その2)
この補正処理は、例えば所定の経路に沿って車両を走行させる自動運転などの運転支援の制御中を対象とする処理である。この補正処理では、所定の経路をなす道路あるいは車線の絶対方位を3次元地図の地図データから読み出し、その絶対方位を走行経路の方位として取り扱うと良い。そして、この走行経路の方位と、ジャイロセンサの計測方位Vsと、の差分を時間的に順次記憶し、誤差E(n)とすると良い。誤差E(n)については、上記の補正処理その1と同様の取り扱いが可能である。
【0083】
(補正処理その3)
この補正処理は、ナビゲーション機能などによるマップマッチングにより、走行中の道路が特定されており、地図データを参照することにより、道路の方位を取得できることを前提とする処理である。
【0084】
例えば高速道路などの1本道を走行している際、車線変更することなく走行車線あるいは追越し車線等を走行している場合であれば、走行経路の方位が道路の方位に略一致すると期待できる。この場合は、地図データから読み出した道路の方位をもって実際の走行経路の方位と推定可能である。一方、車線変更の最中では、実際の走行経路の方位と道路の方位とのずれが大きくなる。当然ながら、道路の方位をもって走行経路の方位とみなすと、走行経路の方位と計測方位Vsとの差分である誤差E(n)に影響が生じる。
【0085】
高速道路などの1本道を走行している場合、右側への車線変更ばかりが何度も繰り返される訳ではなく、右側への車線変更の後、左側への車線変更が行われる可能性が高い。これにより、右側への車線変更の回数と、左側への車線変更の回数と、がほぼ等しくなると期待できる。また、右側への車線変更時の誤差E(n)への影響と、左側への車線変更時の誤差E(n)への影響と、では、影響の出方が正反対であり正負が異なる。実施例1の近似処理、あるいは実施例2の平均処理によれば、右側への車線変更時の誤差E(n)に対する影響と、左側への車線変更時の誤差E(n)に対する影響と、を相殺できる。したがって、高速道路などの1本道を走行している場合であれば、車線変更の有無に関わらず、道路の方位が走行経路の方位と一致すると推定可能である。
【0086】
なお、上記の補正処理その2、その3において、RFIDタグを備える磁気マーカが敷設された道路、車線を想定することもできる。この場合、RFIDタグが送信するマーカ情報に、道路、車線の方位を表す方位データを含めると良い。この場合には、地図データを参照することなく、道路、車線の方位を取得できる。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1あるいは実施例2と同様である。
【0087】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0088】
1 車載システム
10 磁気マーカ
15 RFIDタグ(情報提供部、無線タグ)
2 計測ユニット
21 センサアレイ(磁気検出部)
212 検出処理回路
22 IMU
222 加速度センサ
223 ジャイロセンサ
32 制御ユニット
34 タグリーダ
5 車両
6 自動運転システム
61 車両ECU
65 地図データベース(地図DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15