(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】新規メディエータ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20240117BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240117BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20240117BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240117BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240117BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20240117BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20240117BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240117BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240117BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240117BHJP
H01M 4/86 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
G01N27/327 353R
G01N27/327 353F
H01M4/90 Y
H01M4/02 A
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/05
H01M10/36 Z
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M10/058
H01M4/86 B
(21)【出願番号】P 2019033250
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018078701
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鉞 陽介
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 直哉
(72)【発明者】
【氏名】篠原 靖智
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/072702(WO,A1)
【文献】米国特許第04490464(US,A)
【文献】特開2008-249336(JP,A)
【文献】米国特許第05264092(US,A)
【文献】BARD, A. J. et al.,Electrochemical methods : fundamentals and applications,2nd ed.,2001年,p.580-581,ISBN 0-471-04372-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327
H01M 4/02 ー 4/62
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 10/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極改変剤を含む電池であって、
前記電極改変剤は、酸処理されていない電極に吸着する性質を有する化合物を含む電極改変剤であり、
前記化合物は、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく前記電極に吸着する性質を有する化合物であり、
前記化合物が電極に吸着することが、サイクリックボルタンメトリーにおいて掃引速度を変化させ、酸化電流の最大値(I
Omax)および還元電流の最大値(I
Rmax)が比例関係になることにより確認されるものであ
り、
前記化合物が、式I又は式IIの構造、
【化1】
[式中、
R
1
は、-NR
7
R
8
、-N=N-R
9
、又は-N
+
≡Nであり、
R
2
は、-NR
10
R
11
又は、-N=N-R
12
であり、
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+
≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化2】
であり、
R
10
は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3
及びR
4
、又は、R
5
及びR
6
は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化3】
を形成し、但し*はR
3
が結合する炭素原子に結合し、**はR
4
が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5
が結合する炭素原子に結合し、**はR
6
が結合する炭素原子に結合し、
R
11
は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12
は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化4】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化5】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2
-CH=CH
2
、又は-SO
2
-C
2
H
4
-O-SO
3
H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物であり、
ただし前記化合物から、式Ibの構造
【化6】
[式中、
R
7b
、R
8b
及びR
10b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b
、R
4b
、R
5b
及びR
6b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11b
は、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
の構造を有する化合物、その塩、無水物、及び溶媒和物は除かれる、
前記電池。
【請求項2】
電子伝達促進剤を含む電池であって、
前記電子伝達促進剤は、酸処理されていない電極に吸着する性質を有する化合物を含む電子伝達促進剤であり、
前記化合物は、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく前記電極に吸着する性質を有する化合物であり、
前記化合物が電極に吸着することが、サイクリックボルタンメトリーにおいて掃引速度を変化させ、酸化電流の最大値(I
Omax)および還元電流の最大値(I
Rmax)が比例関係になることにより確認されるものであ
り、
前記化合物が、式I又は式IIの構造、
【化7】
[式中、
R
1
は、-NR
7
R
8
、-N=N-R
9
、又は-N
+
≡Nであり、
R
2
は、-NR
10
R
11
又は、-N=N-R
12
であり、
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+
≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化8】
であり、
R
10
は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3
及びR
4
、又は、R
5
及びR
6
は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化9】
を形成し、但し*はR
3
が結合する炭素原子に結合し、**はR
4
が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5
が結合する炭素原子に結合し、**はR
6
が結合する炭素原子に結合し、
R
11
は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12
は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化10】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化11】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2
-CH=CH
2
、又は-SO
2
-C
2
H
4
-O-SO
3
H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物であり、
ただし前記化合物から、式Ibの構造
【化12】
[式中、
R
7b
、R
8b
及びR
10b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b
、R
4b
、R
5b
及びR
6b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11b
は、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
の構造を有する化合物、その塩、無水物、及び溶媒和物は除かれる、
前記電池。
【請求項3】
前記化合物が前記電池の電極に固定化されている、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
酸化還元酵素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
酸化還元酵素が電極に固定化されている、請求項4に記載の電池。
【請求項6】
電子伝達促進剤を含む、組成物であって、
前記
電子伝達促進剤は、酸処理されていない電極に吸着する性質を有する化合物を含む電極改変剤であり、
前記化合物は、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく前記電極に吸着する性質を有する化合物であり、
前記化合物が電極に吸着することが、サイクリックボルタンメトリーにおいて掃引速度を変化させ、酸化電流の最大値(I
Omax)および還元電流の最大値(I
Rmax)が比例関係になることにより確認されるものであり、
前記化合物が、式I又は式IIの構造、
【化13】
[式中、
R
1
は、-NR
7
R
8
、-N=N-R
9
、又は-N
+
≡Nであり、
R
2
は、-NR
10
R
11
又は、-N=N-R
12
であり、
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+
≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化14】
であり、
R
10
は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3
及びR
4
、又は、R
5
及びR
6
は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化15】
を形成し、但し*はR
3
が結合する炭素原子に結合し、**はR
4
が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5
が結合する炭素原子に結合し、**はR
6
が結合する炭素原子に結合し、
R
11
は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12
は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化16】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化17】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2
-CH=CH
2
、又は-SO
2
-C
2
H
4
-O-SO
3
H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物であり、
ただし前記化合物から、式Ibの構造
【化18】
[式中、
R
7b
、R
8b
及びR
10b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b
、R
4b
、R
5b
及びR
6b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11b
は、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
の構造を有する化合物、その塩、無水物、及び溶媒和物は除かれ、
さらに、前記化合物から
【化19】
である化合物並びにその塩、無水物、及び溶媒和物は除かれ、かつ、前記化合物から、N-メチル-N-フェニル-1,4-フェニレンジアミン並びにその塩、無水物、及び溶媒和物は除かれる、
前記組成物。
【請求項7】
電子伝達促進剤を含む、電極であって、
前記
電子伝達促進剤は、酸処理されていない電極に吸着する性質を有する化合物を含む電極改変剤であり、
前記化合物は、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく前記電極に吸着する性質を有する化合物であり、
前記化合物が電極に吸着することが、サイクリックボルタンメトリーにおいて掃引速度を変化させ、酸化電流の最大値(I
Omax)および還元電流の最大値(I
Rmax)が比例関係になることにより確認されるものであり、
前記化合物が、式I又は式IIの構造、
【化20】
[式中、
R
1
は、-NR
7
R
8
、-N=N-R
9
、又は-N
+
≡Nであり、
R
2
は、-NR
10
R
11
又は、-N=N-R
12
であり、
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+
≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化21】
であり、
R
10
は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3
及びR
4
、又は、R
5
及びR
6
は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化23】
を形成し、但し*はR
3
が結合する炭素原子に結合し、**はR
4
が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5
が結合する炭素原子に結合し、**はR
6
が結合する炭素原子に結合し、
R
11
は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12
は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化24】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化25】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2
-CH=CH
2
、又は-SO
2
-C
2
H
4
-O-SO
3
H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物であり、
ただし前記化合物から、式Ibの構造
【化26】
[式中、
R
7b
、R
8b
及びR
10b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b
、R
4b
、R
5b
及びR
6b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11b
は、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
の構造を有する化合物、その塩、無水物、及び溶媒和物は除かれ、
さらに、前記化合物から
【化27】
である化合物並びにその塩、無水物、及び溶媒和物は除かれ、かつ、前記化合物から、N-メチル-N-フェニル-1,4-フェニレンジアミン並びにその塩、無水物、及び溶媒和物は除かれる、
前記電極。
【請求項8】
酵素を有する、請求項7に記載の電極、又は、酵素を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
酵素が酸化還元酵素である、請求項8に記載の電極又は組成物。
【請求項10】
酸化還元酵素が固定化されている、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
電極改変剤を含むセンサーであって、
前記電極改変剤は、酸処理されていない電極に吸着する性質を有する化合物を含む電極改変剤であり、
前記化合物は、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく前記電極に吸着する性質を有する化合物であり、
前記化合物が電極に吸着することが、サイクリックボルタンメトリーにおいて掃引速度を変化させ、酸化電流の最大値(I
Omax)および還元電流の最大値(I
Rmax)が比例関係になることにより確認されるものであり、
前記化合物が、式I又は式IIの構造、
【化28】
[式中、
R
1
は、-NR
7
R
8
、-N=N-R
9
、又は-N
+
≡Nであり、
R
2
は、-NR
10
R
11
又は、-N=N-R
12
であり、
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+
≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化29】
であり、
R
10
は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3
及びR
4
、又は、R
5
及びR
6
は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化30】
を形成し、但し*はR
3
が結合する炭素原子に結合し、**はR
4
が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5
が結合する炭素原子に結合し、**はR
6
が結合する炭素原子に結合し、
R
11
は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12
は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化31】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化32】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2
-CH=CH
2
、又は-SO
2
-C
2
H
4
-O-SO
3
H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物であり、
ただし前記化合物から、式Ibの構造
【化33】
[式中、
R
7b
、R
8b
及びR
10b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b
、R
4b
、R
5b
及びR
6b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11b
は、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
の構造を有する化合物、その塩、無水物、及び溶媒和物は除かれ、
さらに、前記化合物から
【化34】
である化合物並びにその塩、無水物、及び溶媒和物は除かれ、かつ、前記化合物から、N-メチル-N-フェニル-1,4-フェニレンジアミン並びにその塩、無水物、及び溶媒和物は除かれる、前記センサー、
又は、
請求項9若しくは10に記載の電極を有する酵素センサー。
【請求項12】
化合物が、式Ia若しくはIIaの構造
【化35】
[式中、
R
1aは、-NR
7aR
8a、-N=N-R
9a、又は-N
+≡Nであり、
R
2aは、-NR
10aR
11a、又は-N=N-R
12aであり、
R
7a及びR
8aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、又はフェナントレニルであり、R
10は、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニルであり、
R
3a、R
4a、R
5a及びR
6aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3a及びR
4a、又は、R
5a及びR
6aは、ベンゼン環、又は
【化36】
を形成し、但し*はR
3aが結合する炭素原子に結合し、**はR
4aが結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5aが結合する炭素原子に結合し、**はR
6aが結合する炭素原子に結合し、
R
11aは、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
R
9aおよびR
12aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
Xaは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
を有する、又は、IIbの構造
【化37】
[式中、
R
7b、R
8b及びR
10bは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b、R
4b、R
5b及びR
6bは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11bは、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物である、請求項
1~5のいずれか一項に記載の電池、
請求項6、8又は9に記載の組成物、
請求項7~10のいずれか一項に記載の電極、又は
請求項11に記載のセンサー。
【請求項13】
化合物が、
【化38】
からなる群より選択される、請求項
12に記載の電池、組成物、電極又はセンサー。
【請求項14】
酸処理されていない電極に吸着する性質を有する化合物を含む電極改変剤であって、
前記化合物は、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく前記電極に吸着する性質を有する化合物であり、
前記化合物が電極に吸着することがサイクリックボルタンメトリーにおいて掃引速度を変化させ酸化電流の最大値(I
Omax)および還元電流の最大値(I
Rmax)が比例関係になることにより確認されるものである、
前記電極改変剤を電池の電極と接触させる工程を含む、電池の製造方法
であって、
前記化合物は、式I又は式IIの構造、
【化39】
[式中、
R
1
は、-NR
7
R
8
、-N=N-R
9
、又は-N
+
≡Nであり、
R
2
は、-NR
10
R
11
又は、-N=N-R
12
であり、
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+
≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化40】
であり、
R
10
は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3
及びR
4
、又は、R
5
及びR
6
は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化41】
を形成し、但し*はR
3
が結合する炭素原子に結合し、**はR
4
が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5
が結合する炭素原子に結合し、**はR
6
が結合する炭素原子に結合し、
R
11
は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12
は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化42】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化43】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7
アルキル、C
1-7
アルケニル、C
1-7
アルキニル、C
1-7
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2
-CH=CH
2
、又は-SO
2
-C
2
H
4
-O-SO
3
H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物であり、
ただし前記化合物から、式Ibの構造
【化44】
[式中、
R
7b
、R
8b
及びR
10b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b
、R
4b
、R
5b
及びR
6b
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11b
は、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
の構造を有する化合物、その塩、無水物、及び溶媒和物は除かれる、
前記製造方法。
【請求項15】
請求項1~5及び12~
13のいずれか1項に記載の電池を用いる、発電方法。
【請求項16】
請求項6、8、9及び12~
13のいずれか1項に記載の組成物、
請求項7~10、及び12~
13のいずれか1項に記載の電極、又は
請求項11~
13のいずれか1項に記載のセンサー
を用いる、電気化学的測定方法。
【請求項17】
請求項6、8、9及び12~
13のいずれか1項に記載の組成物を電極に接触させる工程を含む、電極を改変又は修飾する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニレンジアミン系化合物のメディエータとしての用途及び、当該化合物を含む電極改変剤、当該化合物を含む電極、当該電極を含む酵素センサー、及び電池に関する。また本発明は、フェニレンジアミン系化合物および酸化還元酵素を用いた電気化学的測定、フェニレンジアミン系化合物および酸化還元酵素を含む組成物、フェニレンジアミン系化合物を含む電極に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素電極においてメディエータは、酵素による酸化還元反応によって発生した電子を、電極に受け渡すための媒介物質として利用されている。酵素から電極への効率的な電子伝達のためには、メディエータが電極の近傍に局在化していることが望ましい。そのため、電極とメディエータを化学結合させる方法や、メディエータ自体を高分子化する方法など、電極にメディエータを固定化させる様々な手法が利用されている。しかしながら、化学結合法はメディエータの側鎖官能基に制限があり、メディエータ自体を高分子化する方法はメディエータの酸化還元電位が変化する可能性があるなど、従来の手法は汎用性に欠けていた。なお、グラッシーカーボン電極を強酸で処理することで表面の官能基を活性化させ、キノン類等のメディエータを吸着固定することも報告されているが、産業界ではほとんど実用化されていない。
【0003】
さらに、いずれの方法もメディエータの電極への固定化のために煩雑な工程が必要であり、高コストとなるという問題もあった。そこで、電極への固定化に煩雑な工程を必要としない、簡便に使用できる電子メディエータが望まれていた。
【0004】
特許文献1(特開平7-234201)は、電気化学的測定方法に用いる電子メディエータとしてp-フェニレンジアミン化合物を記載している。開示されているp-フェニレンジアミン化合物は、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、ホスホノオキシ基およびスルホ基からなる群より選ばれる1以上の基を有するp-フェニレンジアミン誘導体である。
【0005】
特許文献2(国際公開第2004/011929号パンフレット)は、炭素粒子を酸処理して表面を活性化させた後、当該酸処理済炭素粉末にN,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)を添加し、この炭素粉末を炭素電極に固定化すること、及び該電極を用いた溶液中の硫化水素やチオールの検出を報告している。
【0006】
特許文献3(特表2007-526474)は、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミンで誘導化した炭素を含む電極、及び当該電極を用いたpHセンサーを記載している。
【0007】
特許文献4(特開2008-185534)は、メディエータとしてフェニレンジアミン系化合物である2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミンまたはN,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン、及びこれを用いたエタノール測定を記載している。
【0008】
特許文献5(特開2016-042032)は、メディエータとしてN,N,N',N'-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン、及びこれを用いたグルコース測定を記載している。
N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)は、いずれもゴムの老化防止剤として知られている(非特許文献2、日本ゴム協会誌、82巻、第2号、2009、p. 45-49)。
【0009】
非特許文献1(Analyst, 2003, 128, 473-479)は、炭素粉末を0.1 M塩酸で酸処理し炭素表面を活性化させた後、当該酸処理済炭素粉末にDPPDを添加し、この炭素粉末を炭素電極(基底平面熱分解グラファイト電極、BPPG電極)に固定化すること、及び該電極を用いたスルフィドの検出を報告している。特許文献6はフロー電池を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平7-234201
【文献】国際公開第2004/011929号パンフレット
【文献】特表2007-526474(国際公開第2005/085825号パンフレット)
【文献】特開2008-185534
【文献】特開2016-042032
【文献】特開2019-003928
【非特許文献】
【0011】
【文献】Analyst, 2003, 128, 473-479
【文献】日本ゴム協会誌、82巻、第2号、2009、p. 45-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を少なくとも部分的に解決しうる、新規メディエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意努力した結果、フェニレンジアミン系化合物が、驚くべきことに、酸処理等の特別な処理を必要とせずに電極表面に吸着可能であり、かつ、該化合物がメディエータとして機能しうることを見出し、本発明を完成させた。本発明者らの知る限り、IPPD、DPPD、6PPDが電極に吸着するメディエータであることはこれまでに報告されておらず、これは驚くべき知見である。また本発明者らは、驚くべきことに、酸処理等の特別な処理を必要とせずに電極表面に吸着可能であるさらなるフェニレンジアミン系化合物を見出した。
【0014】
本発明は以下の実施形態を包含する:
[1] 酸処理されていない電極に、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく吸着する性質を有する化合物を含む、電極改変剤。
[2] 酸処理されていない電極に、ポリマーに結合されることなく、若しくはポリマー化することなく吸着する性質を有する化合物を含む、電子伝達促進剤。
[3] 実施形態1に記載の電極改変剤又は実施形態2に記載の電子伝達促進剤を含む、電池。
[4] 前記化合物が前記電池の電極に固定化されている、実施形態3に記載の電池。
[5] 酸化還元酵素を含む、実施形態3又は4に記載の電池。
[6] 酸化還元酵素が電極に固定化されている、実施形態5に記載の電池。
[7] 実施形態1に記載の電極改変剤又は実施形態2に記載の電子伝達促進剤を含む、組成物。
[8] 実施形態1に記載の電極改変剤又は実施形態2に記載の電子伝達促進剤を含む、電極。
[9] 酵素を有する、実施形態8に記載の電極、又は、酵素を含む、実施形態7に記載の組成物。
[10] 酵素が酸化還元酵素である、実施形態9に記載の電極又は組成物。
[11] 酸化還元酵素が固定化されている、実施形態10に記載の電極。
[12] 実施形態1に記載の電極改変剤又は実施形態2に記載の電子伝達促進剤を含むセンサー、又は、実施形態10若しくは11に記載の電極を有する酵素センサー。
[13] 化合物が、式I又は式IIの構造、
【化1】
[式中、
R
1は、-NR
7R
8、-N=N-R
9、又は-N
+≡Nであり、
R
2は、-NR
10R
11又は、-N=N-R
12であり、
R
7及びR
8は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化2】
であり、
R
10は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
1-7アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3及びR
4、又は、R
5及びR
6は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化3】
を形成し、但し*はR
3が結合する炭素原子に結合し、**はR
4が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5が結合する炭素原子に結合し、**はR
6が結合する炭素原子に結合し、
R
11は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化4】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化5】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
1-7アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2-CH=CH
2、又は-SO
2-C
2H
4-O-SO
3H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物である、
実施形態1に記載の電極改変剤、
実施形態2に記載の電子伝達促進剤、
実施形態3~6のいずれかに記載の電池、
実施形態7、9又は10に記載の組成物、
実施形態8~11のいずれかに記載の電極、又は
実施形態12に記載の酵素センサー。
[14] 化合物が、式Ia若しくはIIaの構造
【化6】
[式中、
R
1aは、-NR
7aR
8a、-N=N-R
9a、又は-N
+≡Nであり、
R
2aは、-NR
10aR
11a、又は-N=N-R
12aであり、
R
7a及びR
8aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、又はフェナントレニルであり、
R
10は、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニルであり、
R
3a、R
4a、R
5a及びR
6aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3a及びR
4a、又は、R
5a及びR
6aは、ベンゼン環、又は
【化7】
を形成し、但し*はR
3aが結合する炭素原子に結合し、**はR
4aが結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5aが結合する炭素原子に結合し、**はR
6aが結合する炭素原子に結合し、
R
11aは、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
R
9aおよびR
12aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
Xaは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
を有する、又は、式Ib若しくはIIbの構造
【化8】
[式中、
R
7b、R
8b及びR
10bは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b、R
4b、R
5b及びR
6bは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11bは、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]
を有する化合物、またはその塩、無水物若しくは溶媒和物である、実施形態13に記載の電極改変剤、電子伝達促進剤、電池、組成物、電極、又はセンサー。
[15] 化合物が、
【化9】
からなる群より選択される、実施形態13又は14に記載の電極改変剤、電子伝達促進剤、電池、組成物、電極又はセンサー。
[16] 実施形態1に記載の電極改変剤又は実施形態2に記載の電子伝達促進剤を用いる工程を含む、電池の製造方法。
[17] 前記電極改変剤、又は電子伝達促進剤を、電池の電極と接触させる工程を含む、実施形態16に記載の方法。
[18] 実施形態3~6及び13~15のいずれかに記載の電池を用いる、発電方法。
[19] 実施形態7、9、10及び13~15のいずれかに記載の組成物、
実施形態8~11、及び13~15のいずれかに記載の電極、又は
実施形態12~15のいずれかに記載のセンサー
を用いる、電気化学的測定方法。
[20] 実施形態1及び13~15のいずれかに記載の電極改変剤、
実施形態2及び13~15のいずれかに記載の電子伝達促進剤、又は
実施形態7、9、10及び13~15のいずれかに記載の組成物、
を電極に接触させる工程を含む、電極を改変又は修飾する方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-078701号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフェニレンジアミン系化合物は、p-フェニレンジアミンのような従来のメディエータと異なり、電極の酸処理や、メディエータ自体の高分子化等の特別な処理を必要とせずに、そのまま電極表面に吸着可能であり、そのため、簡便に電極に固定化することができる。またこのような電極は電気化学的測定に用いることができる。またこのような電極は電池に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】IPPD及びGDHを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とI
OmaxおよびI
Rmaxをプロットした結果を示す。
【
図2】IPPDの代わりにDPPDを用いた結果を示す。
【
図3】IPPDの代わりに6PPDを用いた結果を示す。
【
図4】IPPDの代わりにp-フェニレンジアミンを用いた結果を示す。
【
図5】IPPDの代わりにp-フェニレンジアミンを用いた結果を示す。横軸は掃引速度の平方根である。
【
図6】IPPDの代わりにBGLBを用いた結果を示す。
【
図7】BGLBの代わりにTDPAを用いた結果を示す。
【
図8】IPPDを用いたサイクリックボルタモグラムを示す。
【
図9】IPPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図10】DPPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図11】6PPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図12】FADGDH-AAとIPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図13】GLD1とIPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図14】GODとIPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図15】FPOX-CE IPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図16】BGLBをFADGDH-AAと共に用いて、+300mV印加したときの酸化電流値の比較を示す。
【
図17】TDPAをFADGDH-AAと共に用いて、+300mV印加したときの酸化電流値の比較を示す。
【
図18】IPPDをPQQ-GDHと共に用いて、グルコース終濃度と+300mVにおける酸化電流値の関係をプロットした結果を示す。
【
図19】BGLBをPQQ-GDHと共に用いて、グルコース終濃度と+300mVにおける酸化電流値の関係をプロットした結果を示す。
【
図20】DPPD存在下又は不在下でNAD-GDHを用いたときのグルコース添加前後の応答電流を示す。
【
図21】IPPDをLODと共に用いて、乳酸終濃度と+150mVにおける酸化電流値の関係をプロットした結果を示す。
【
図22】IPPD存在下又は不在下でFDHを用いたときのフルクトース終濃度と+100mVにおける酸化電流値の関係をプロットした結果を示す。フルクトース無添加時の電流を0とした。
【
図23】IPPDを吸着させ、GDHを固定化した電極を用いた際のグルコース終濃度と200mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図24】終濃度10pMのDPPDを用いて改変した電極を、FADGDH-AA及びグルコースを含む溶液に入れた際の+100mVにおける酸化電流値を示す。グルコース無添加時の電流を0とした。
【0017】
(フェニレンジアミン系化合物)
(フェニレンジアミン系化合物が吸着した電極)
ある実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物を提供する。本発明の化合物には、アゾ化合物、ジアゾニオ化合物も含まれるが、本明細書では、フェニレンジアミン系化合物、或いは本発明のフェニレンジアミン系化合物というとき、便宜上、フェニレンジアミン骨格を有する化合物のみならず、アゾ化合物、ジアゾニオ化合物も含まれるものとする。別の実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物を含む、電極改変剤を提供する。この電極改変剤は電極表面に吸着可能であり、電極の電子受容性を改変し得る。別の実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物又は本発明の電極改変剤が吸着した電極を提供する。別の実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物又は本発明の電極改変剤を含む電気化学的測定用組成物を提供する。組成物はさらに酵素を含みうる。酵素は酸化還元酵素であり得る。別の実施形態において本発明は、フェニレンジアミン系化合物又は本発明の電極改変剤を含む電気化学的測定用キットを提供する。本明細書において電極改変剤を電極吸着剤ということがある。
【0018】
本発明のフェニレンジアミン系化合物は、電極と接触させることで電極表面に吸着することができる。このとき、電極に吸着させるために、電極表面を酸処理して活性化するなどの特別の操作は必要ない。ある実施形態において、本発明の化合物が有する電極に吸着する性質とは、該化合物が電極に物理的に吸着する性質をいい、電極は炭素、金、白金等の素材等を用いることが出来る。さらに、該化合物を炭素粉末又は炭素材料などの一次材料に吸着させ次いで当該炭素粉末又は炭素材料などの一次材料を電極に固定化する態様を含むものとする。ただし、これは、本発明の化合物が有する性質についての説明であって、該化合物の使用方法を限定するものではない。すなわち、ある実施形態において本発明は、本発明の化合物を炭素粉末又は炭素材料などの一次材料に吸着させ次いで当該炭素粉末又は炭素材料などの一次材料を電極に固定化する方法を提供する。
【0019】
ある実施形態において、本発明は、本発明の化合物を吸着させた炭素粉末又は炭素材料などの一次材料を提供する。この炭素粉末又は炭素材料などの一次材料は、さらに電極に塗布又は適用することができる。一次材料としては、炭素、白金、金などが挙げられるがこれに限らない。炭素材料としてはカーボンブラック、カーボンファイバー、単層又は多層カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0020】
ある実施形態において、本発明の化合物が有する電極、炭素粉末又は炭素材料に吸着する性質とは、該化合物が電極、炭素粉末又は炭素材料に直接、物理的に吸着する性質をいい、該化合物をポリマーやリンカーに共有結合させることによる電極、炭素粉末又は炭素材料への結合する性質を言わないものとする。このような性質を本明細書において、ポリマーに結合されることなく電極に吸着する性質、或いはポリマーに結合されることなく、或いは該化合物がポリマー化することなく、炭素粉末又は炭素材料に吸着する性質ということがある。ただし、これは、本発明の化合物が有する性質についての説明であって、該化合物の使用方法を限定するものではない。すなわち、ある実施形態において本発明は、本発明の化合物をポリマーやリンカーに共有結合させることにより電極、炭素粉末又は炭素材料へ結合する方法を提供する。また、該化合物が電極、炭素粉末又は炭素材料に直接、物理的に吸着する、とは本発明の化合物自身が(モノマーとして)、炭素粉末又は炭素材料に共有結合することを妨げるものではない。なお、本明細書においてポリマーとは同一単位が、例えば10以上、多量体化しているものをいう。
【0021】
ある実施形態において、本発明の化合物を吸着させるための炭素粉末又は炭素材料、炭素電極、金電極、白金電極は、酸処理されていない。すなわちある実施形態において、本発明の化合物を吸着させる炭素粉末又は炭素材料から、酸処理された炭素粉末又は炭素材料、炭素電極は除かれる。
【0022】
ある実施形態において、本発明の化合物を酵素と組み合わせて用いることができる。ある実施形態において、本発明の化合物を酸化還元酵素と組み合わせて用いることができる。ある実施形態において、本発明の化合物を電子伝達促進剤として用いることができる。ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、酸化還元酵素により触媒される酸化還元反応において、メディエータとして機能する。酸化還元酵素としては、EC第1群に分類される各種の酸化還元酵素、例えばグルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、アマドリアーゼ(フルクトシルペプチドオキシダーゼまたはフルクトシルアミノ酸オキシダーゼともいう)、ペルオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D-またはL-アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、サルコシンオキシダーゼ、D-またはL-乳酸オキシダーゼ(LOD)、アスコルビン酸オキシダーゼ、チトクロムオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D-またはL-乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、17Bヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、エストラジオール17Bデヒドロゲナーゼ、D-またはL-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、カタラーゼ、グルタチオンレダクターゼ、チトクロムb5レダクターゼ、アドレノキシンレダクターゼ、チトクロムb5レダクターゼ、アドレノドキシンレダクターゼ、硝酸レダクターゼ、リン酸デヒドロゲナーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、ポリアミンオキシダーゼ、ギ酸デヒドロゲナーゼ、ピラノースオキシダーゼ、ピラノースデヒドロゲナーゼ、タウロピンデヒドロゲナーゼ等が挙げられるが、これに限らない。また、複数の酵素の組合せであってもよい。上記酵素の補酵素としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ピロロキノリンキノン等が挙げられる。すなわち、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)としては、FAD依存性GDH、NAD依存性GDH、PQQ依存性GDH等が挙げられる。上記に挙げた酸化還元酵素は、例えばMethods in Enzymology(1~602巻)に記載の方法で、種々の基質を用いた活性測定を行うことができる。
【0023】
本明細書において、メディエータとして機能するとは、フェニレンジアミン系化合物が電子移動に与ることをいい、例えば電極を用いる系では、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、酸化還元酵素から電子を受け取って還元型となり、電極に電子を渡して酸化型に戻る。このような観点から、メディエータとして機能する本発明のフェニレンジアミン系化合物のことを電子移動媒介剤、電子伝達促進剤、或いは電子メディエータ(単にメディエータともいう)と呼ぶこともできる。本明細書においてこれらの用語は同義とする。
【0024】
ある実施形態において、本発明の電極から、酸処理した炭素粉末又は炭素粒子を有する電極は除かれる。
【0025】
ある実施形態において、本発明の電極と共に用いられる酸化還元酵素は、当該電極に固定化されていてもよい。すなわち、この実施形態において本発明は、酸化還元酵素が固定化され、本発明の電極改変剤が吸着した電極を提供する。ある実施形態において本発明は、酸化還元酵素が固定化され、本発明の電極改変剤が吸着した電極を含む、酵素センサーを提供する。ある実施形態では、本発明の電極改変剤又は電子伝達促進剤を含むセンサーが提供される。
【0026】
本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤は、特別な処理を必要とすることなく、電極表面に吸着することができる。したがってある実施形態では、改変された電極を作製するために、予め本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤を電極に吸着させてもよい。別の実施形態では、電気化学的測定を行う際に、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、、電極吸着剤又は電子伝達促進剤、及び、酸化還元酵素を含む測定溶液(組成物)を使用することができる。この実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤、及び、酸化還元酵素を含む組成物を電極に物理的に接触させると、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤が電極に吸着し、電気化学的特性が改変された電極が、測定時にその場で作製される。
【0027】
ある実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤を電極に吸着させるに当たり、電極を酸で前処理しない。別の実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤を電極に吸着させるに当たり、電極を酸で前処理してもよい。なお、ここでいう酸での前処理とは、酸を含む電解質溶液を電極と接触させることを含むものとする。また、本明細書において酸とは、pH 4以下、例えばpH 4未満、pH 3以下、pH 3未満、pH 2以下、pH 2未満、pH 1の酸をいう。また、ある実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤を、特定電位を印加することで酸化型もしくは還元型に変換した後に電極に吸着させても良い。なお、酸化型もしくは還元型に変換する手法として酸化剤や還元剤を用いても良く、特に手法は限定されない。また、ある実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤を、高分子に包摂して、電極に吸着させてもよい。このような吸着を本明細書において包摂固定(embedded)又は包括固定(entrapped)ということがある。これは吸着固定、すなわち物理吸着による固定とは区別される。包摂固定又は包括固定では、本発明の化合物は高分子中で拡散することができるのに対して、吸着固定では本発明の化合物は拡散しない又はほとんど拡散しない。別の実施形態では、本発明の化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤を、イオン性ポリマー、例えばカチオン性ポリマーであるポリエチレンイミンやポリリジン、アニオン性ポリマーであるポリアニリン、ポリアクリル酸などを用いた静電的相互作用により電極に吸着させてもよい。別の実施形態では、本発明の化合物、電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤を、酵素に吸着もしくは架橋剤による固定を行い、酵素と共に電極に固定化させても良い。別の実施形態では、吸着させた本発明の化合物を酸化還元反応若しくは架橋剤によりポリマー化しても良い。
【0028】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は下記の一般式I又はIIの化合物またはその塩、無水物若しくは溶媒和物でありうる:
【化10】
[式中、
R
1は、-NR
7R
8、-N=N-R
9、又は-N
+≡Nであり、
R
2は、-NR
10R
11又は、-N=N-R
12であり、
R
7及びR
8は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、アセチル、カルボキシ、フラニルホルミル、ピラゾリルホルミル、1-メチル-1H-ピラゾール-5-イルホルミル、9,9-ジメチルフルオレン-2-イル、-N
+≡N、-N=N-フェニル、ベンジル、
【化11】
であり、
R
10は、水素、場合により1以上のX又はVにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
1-7アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3及びR
4、又は、R
5及びR
6は、それらを含有するベンゼン環と一緒になって、場合により1以上のオキソ、X又はWにより置換されてもよい、ベンゼン環、又は
【化12】
を形成し、但し*はR
3が結合する炭素原子に結合し、**はR
4が結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5が結合する炭素原子に結合し、**はR
6が結合する炭素原子に結合し、
R
11は、場合により1以上のX又はZにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
9は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニルからなる群より選択され、
R
12は、場合により1以上のX、W、イソチオシアネート、又はハロスルホニルにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、及び
【化13】
からなる群より選択され、
ここでVは、場合によりC1-7アルキルに置換されてもよい、-O-アクリロイル、アセチルアミノ、又はフェニルであり、
Wは、場合により1以上のアミノ、C1-7アルキル、アミノアルキルにより置換されてもよい、D若しくはL-アラニルスルホニル、D若しくはL-バリルスルホニル、D若しくはL-ロイシルスルホニル、D若しくはL-メチオニルスルホニル、D若しくはL-プロリルスルホニル、D若しくはL-トリプトフィルスルホニル、D若しくはL-グリシルスルホニル、D若しくはL-システイニルスルホニル、D若しくはL-イソロイシルスルホニル、D若しくはL-フェニルアラニルスルホニル、D若しくはL-チロシルスルホニル、D若しくはL-セリルスルホニル、D若しくはL-トレオニルスルホニル、D若しくはL-アスパラギニルスルホニル、D若しくはL-グルタミルスルホニル、D若しくはL-アルギニルスルホニル、D若しくはL-ヒスチジルスルホニル、D若しくはL-リジルスルホニル、D若しくはL-アスパラギルスルホニル、D若しくはL-グルタミニルスルホニル、-C(=O)-O-スクシンイミジル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイルアミノ、-N=N-フェニル、フェニルアミノ、ジアミノフェニルアゾフェニル、又は、場合により1以上のXにより置換されてよいフェニルアゾ、場合により1以上のYにより置換されてもよいナフチルアゾ、アセチルアミノ、
【化14】
であり、
Xは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-7アルキル、C
1-7アルケニル、C
1-7アルキニル、C
1-7アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ及びスルホからなる群より選択され、
Zは-SO
2-CH=CH
2、又は-SO
2-C
2H
4-O-SO
3H、4,6-ジクロロトリアジン-2-イルアミノである]。
【0029】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は下記の一般式Ia若しくはIIaの構造を有する化合物又はその塩、無水物若しくは溶媒和物でありうる:
【化15】
[式中、
R
1aは、-NR
7aR
8a、-N=N-R
9a、又は-N
+≡Nであり、
R
2aは、-NR
10aR
11a、又は-N=N-R
12aであり、
R
7a及びR
8aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル、又はフェナントレニルであり、
R
10は、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニルであり、
R
3a、R
4a、R
5a及びR
6aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ、ヒドロキシ又はアミノであり、
或いは、R
3a及びR
4a、又は、R
5a及びR
6aは、ベンゼン環、又は
【化16】
を形成し、但し*はR
3aが結合する炭素原子に結合し、**はR
4aが結合する炭素原子に結合するか、又は、*はR
5aが結合する炭素原子に結合し、**はR
6aが結合する炭素原子に結合し、
R
11aは、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
R
9aおよびR
12aは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXaにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
Xaは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルアミノ、ニトロソ、ニトロ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ、アミノ又はアルキルアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]。
【0030】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は下記の一般式Ib若しくはIIbの構造を有する化合物又はその塩、無水物若しくは溶媒和物でありうる:
【化17】
[式中、
R
7b、R
8b及びR
10bは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、R
3b、R
4b、R
5b及びR
6bは、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホ又はアミノであり、
R
11bは、場合により1以上のXbにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXbは、場合により1以上のハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホ又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホからなる群より選択される]。別の実施形態では、上記一般式I若しくはIIで表される本発明の化合物又は上記一般式Ia若しくはIIaで表される本発明の化合物から、上記一般式Ib若しくはIIbの構造を有する化合物、その塩若しくは溶媒和物の一部又は全部は除かれる。
【0031】
本明細書において用いるアルキルとは、直鎖または分枝鎖の、例えば1~7個の炭素原子、例えば1~6個の炭素原子を有する炭化水素を言う。アルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、n-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、n-ペンチル、ヘプチルが挙げられるがこれに限らない。
【0032】
本明細書において用いる、(炭素原子など)の原子の数は、例えば「Cx-Cy アルキル」と表され、これはxからy個の炭素原子を有するアルキル基を言う。他の置換基および範囲についても同じような表記をする。
【0033】
本明細書において用いるアルケニルとは、1以上の炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分枝鎖の脂肪属炭化水素を言う。例としては、限定するものではないが、ビニル、アリルなどが挙げられるがこれに限らない。
【0034】
本明細書において用いるアルキニルとは、1以上の炭素-炭素三重結合を有する直鎖または分枝鎖の脂肪属炭化水素を言う。例としては、限定するものではないが、エチニルなどが挙げられるがこれに限らない。
【0035】
本明細書において用いるシクロアルキルとは、置換されたまたは置換されていない非芳香族環式炭化水素環を言う。シクロアルキル基としては、限定するものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロヘプチルが挙げられるがこれに限らない。
【0036】
本明細書において用いるハロとは、第17族元素の基、例えば-Cl、-Br、-I等をいう。本明細書において用いるハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を言う。
【0037】
本明細書において用いるハロアルキルとは、少なくとも1つのハロゲンで置換されているアルキル基を言う。ハロアルキル基としては、限定するものではないが、独立に1以上のハロゲン、例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードで置換されている、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、およびt-ブチル等が挙げられる。
【0038】
本明細書において用いるハロスルホニルとは、少なくとも1つのハロゲンで置換されているスルホニル基をいい、例えばクロロスルホニル(Cl-SO2-)、ブロモスルホニル(Br-SO2-)等が挙げられるがこれに限らない。
【0039】
本明細書において用いるフェニルとは、置換されたもしくは置換されていないベンゼン環系をいう。本明細書において用いるナフチルとは、置換されたもしくは置換されていないナフタレン環系をいい、1-ナフチルおよび2-ナフチルが挙げられる。本明細書において用いるアントラセニルとは、置換されたもしくは置換されていないアントラセン環系をいう。本明細書において用いるフェナントレニルとは、置換されたもしくは置換されていないフェナントレン環系をいう。
【0040】
本明細書においてアセチルとは、CH3CO-をいう。本明細書においてトリフルオロアセチルとは、CF3CO-をいう。本明細書において用いるカルボキシとは、-COOHをいう。本明細書においてフラニルとはフランの1価の基、例えば2-フラニル又は3-フラニルをいう。本明細書においてホルミルとは、アルデヒドともいい、-COHをいう。本明細書においてフラニルホルミルとは、フラニル基が結合したホルミル基(フラニル-CO-)をいう。本明細書においてピラゾリルとはピラゾール環系をいう。本明細書においてピラゾリルホルミルとはピラゾリル基が結合したホルミル基(ピラゾリル-CO-)をいう。本明細書において用いるフルオレニルとは、置換されたもしくは置換されていないフルオレン環系をいう。
【0041】
本明細書において-N+≡Nとは、アジドともいい、-N2基とも表記する。本明細書においてベンジルとは、C6H5CH2-をいう。本明細書においてベンゾイルとはC6H5-C(=O)-をいう。本明細書においてとはアゾとはR'-N=N-R''とも表記され、R'とR''は、同一でも異なってもよい。例えばナフチルアゾは、ナフチル-N=N-を表す。
【0042】
本明細書においてニトロは、-NO2基を言う。本明細書においてニトロソは、-N=O基を言う。本明細書においてシアノは、-CN基を言う。本明細書においてスルホは、-SO3Hをいう。本明細書においてヒドロキシは-OHをいう。本明細書においてオキソは=Oをいう。
【0043】
本明細書においてアミノとは、-NR'R''基を言い、R'とR''は、同一でも異なってもよい。R'とR''は、例えばH、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、等であり得るがこれに限らない。本明細書においてアミノアルキルとは、アミノ基が連結されているアルキレン・リンカーを有する。アミノアルキルとしては-(CH2)nNH2などが挙げられるがこれに限らない。本明細書においてアルキルアミノとは、アルキル基が連結されているアミノをいう。アルキルアミノとしては、C1-7アルキル-NH-などが挙げられるがこれに限らない。本明細書においてアセチルアミノとは、アセチル基が連結されているアミノをいう。アセチルアミノとしては、アセチル-NH-などが挙げられるがこれに限らない。
【0044】
本明細書においてアクリロイルとは、H2C=CH-C(=O)-をいう。本明細書において-O-アクリロイルとは、H2C=CH-C(=O)-O-をいう。本明細書においてイソチオシアネートとは-N=C=Sをいう。本明細書においてスクシンイミジルとは(CH2CO)2N-をいう。本明細書においてカルボニルとは-C(=O)-をいう。本明細書において用いるアルコキシとは-O-アルキル基を言う。
【0045】
本明細書において「場合により置換されてもよい」、「置換されたまたは置換されていない」とは、1以上の置換基での任意の置換を意味し、これには複数度の置換も含まれる。
【0046】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)
【化18】
であり得る(CAS No. 101-72-4)。別の実施形態では、本発明の化合物から、N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)は除かれる。
【0047】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)
【化19】
であり得る(Cas No. 74-31-7)。別の実施形態では、本発明の化合物から、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)は除かれる。
【0048】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)
【化20】
であり得る(CAS No. 793-24-8)。別の実施形態では、本発明の化合物から、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)は除かれる。
【0049】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、ビンドシェドラーズグリーンロイコ塩基(BGLB、CAS番号637-31-0)
【化21】
であり得る。
【0050】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Variamine Blue B Base (CAS番号101-64-4)
【化22】
であり得る。
【0051】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、2-ニトロ-4-アミノジフェニルアミン(CAS番号2784-89-6)
【化23】
であり得る。
【0052】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-メチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン
【化24】
であり得る。
【0053】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-エチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン
【化25】
であり得る。
【0054】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-イソプロピル-N'-(4-アミノフェニル)-p-フェニレンジアミン
【化26】
であり得る。
【0055】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、トリス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]アミン(TDPA、CAS番号 47743-70-4)
【化27】
であり得る。
【0056】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、4-(ジメチルアミノ)-4'-ニトロソジフェニルアミン(CAS番号7696-70-0)
【化28】
であり得る。
【0057】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-フェニル-o-フェニレンジアミン(CAS番号534-85-0)
【化29】
であり得る。
【0058】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-(4-クロロフェニル)-1,2-フェニレンジアミン(CAS番号 68817-71-0)
【化30】
であり得る。
【0059】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、4-ジアゾジフェニルアミンスルファート(CAS番号4477-28-5)
【化31】
であり得る。
【0060】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Acid Yellow 36(CAS番号587-98-4)
【化32】
であり得る。
【0061】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、2-アミノ-4-イソプロピルアミノ-ジフェニルアミン
【化33】
であり得る。
【0062】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-イソプロピル-N'-(4-ヒドロキシフェニル)-p-フェニレンジアミン
【化34】
であり得る。
【0063】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N,N'-ジ-2-ナフチル-1,4-フェニレンジアミン(CAS番号93-46-9)
【化35】
であり得る。
【0064】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、4-(2-オクチルアミノ)ジフェニルアミン(CAS番号15233-47-3)
【化36】
であり得る。
【0065】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-(2-Amino-4-chlorophenyl)アントラニル酸(CAS番号 67990-66-3)
【化37】
であり得る。
【0066】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、4-ジアゾ-3-メトキシジフェニルアミン硫酸塩(CAS番号36305-05-2)
【化38】
であり得る。
【0067】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、4-(フェニルアゾ)ジフェニルアミン(CAS番号101-75-7)
【化39】
であり得る。
【0068】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Acid Orange 5(CAS RN:554-73-4)
【化40】
であり得る。
【0069】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Alizarin Cyanin Green F(CAS番号4403-90-1)
【化41】
であり得る。
【0070】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Alizarin Astrol(CAS RN:6408-51-1)
【化42】
であり得る。
【0071】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Disperse Yellow 9(CAS番号 6373-73-5)
【化43】
であり得る。
【0072】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、5-Sulfo-4'-diethylamino-2,2'-dihydroxyazobenzene(CAS番号1563-01-5)
【化44】
であり得る。
【0073】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Alizarin Cyanin Green F(CAS番号4403-90-1)
【化45】
であり得る。
【0074】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Alphamine Red R Base(CAS番号57322-42-6)
【化46】
であり得る。
【0075】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、Crocein scarlet 3B(CAS番号5413-75-2)
【化47】
であり得る。
【0076】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、p-フェニルフェニレンジアミン(CAS番号2198-59-6)
【化48】
であり得る。
【0077】
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、以下の表の化合物であり得る。
【0078】
【0079】
【0080】
本発明のフェニレンジアミン系化合物から、以下の構造
【化49】
を有するp-フェニレンジアミン及びo-フェニレンジアミンは除かれる。また、本発明のフェニレンジアミン系化合物からN,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン、N,N-ジメチル-o-フェニレンジアミン及びN,N,N',N'-テトラメチルフェニレンジアミンは除かれる。
【0081】
ある実施形態において、本発明の化合物から、以下の一般式(1)の構造を有するトリフェニルアミン誘導体は除かれる:
【化50】
(式中、X
1~X
9は、それぞれ独立して、水素、弗素、塩素、臭素、シアノ基、ニトロ基、-N(R1)2、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、または環状不飽和炭化水素を表し、R1は、水素、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、環状不飽和炭化水素、シアノ基、ニトロ基およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種である。ただし、X1~X9がすべて水素である場合を除く。)。別の実施形態では、電池に用いる本発明の化合物から、該構造を有するトリフェニルアミン誘導体は除かれる。
【0082】
別の実施形態において、本発明の化合物から、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(p-トリル-1,4-フェニレンジアミンは除かれる。別の実施形態では、電池に用いる本発明の化合物から、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(p-トリル-1,4-フェニレンジアミンは除かれる。
【0083】
本発明のフェニレンジアミン系化合物に酵素と共有結合させるための官能基を修飾してもよい。フェニレンジアミン系化合物と官能基の間にC1~C20のアルキルやアミノ酸、ペプチド等をリンカーとして入れても良い。リンカーの間に適宜、ヒドロキシル基やアミノ基、アルケン等が含まれていてもよい。官能基として、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、ヒドラジノ基、チオシアネート基、エポキシ基、ビニル基、ハロゲン基、酸エステル基、リン酸基、チオール基、ジスルフィド基、ジチオカルバメート基、ジチオホスフェート基、ジチオホスホネート基、チオエーテル基、チオ硫酸基、スクシンイミド基、マレイミド基及びチオ尿素基等が挙げられる。
【0084】
フェニレンジアミン系化合物には、酸化還元状態及びイオン化状態があり得る。上記の化学式では、本発明のフェニレンジアミン系化合物を、中性型で還元型の形態で記載した。しかしながらこの形態のみならず、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、酸化型(ジイミン型)、半酸化型、又は還元型(ジアミン型)であり得る。本発明のアゾ化合物又は、ジアゾニオ化合物も同様に、酸化型、半酸化型、又は還元型であり得る。また、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、中性型、又はカチオン型でありうる。便宜上、本発明のフェニレンジアミン系化合物、例えば上記化学式で表される本発明のフェニレンジアミン系化合物という場合、これは、中性型、又はカチオン型の、酸化型、半酸化型、又は還元型の形態のものを包含するものとする。例えば、測定系に、本発明のフェニレンジアミン系化合物として中性型で酸化型の化合物を添加した後、溶液のpHや電子授受によりそれが酸化型でカチオン型の化合物に変化することがあり得るが、そのような化合物も本発明のフェニレンジアミン系化合物に包含されるものとする。また本発明のフェニレンジアミン系化合物というとき、これはその塩、酸付加塩、無水物及び溶媒和物を包含するものとする。塩としては、第1族元素の塩や第17族元素の塩、例えばNa塩、K塩、Cl塩、Br塩等が挙げられるがこれに限らない。酸付加塩としては塩酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩が挙げられるがこれに限らない。
【0085】
本発明のフェニレンジアミン系化合物は、人工合成してもよく、天然物を取得してもよい。また市販されているものであってもよい。合成する場合は、慣用の有機合成手法を用いて有機合成を行い、NMR、IR、質量分析等により生成物を確認することができる。本発明の実施は、特に明記しない限り、化学、有機合成、生化学、分子生物学、電気化学の従来技術を使用するが、それらは当業者の能力の範囲内である。このような技術は文献に説明されている。たとえば、Organic Chemistry (Jonathan Clayden (編集), Nick Greeves (著), Stuart Warren (著), Peter Wothers (著))、Oxford Univ Pr, 2000や、March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure (Michael B. Smith (著), Jerry March (著))Wiley-Interscience, 6th edition, 2007を参照されたい。これらの一般的なテキストは、それぞれ参考として本明細書に組み入れられる。
【0086】
(酵素又は酸化還元酵素の固定化方法)
酵素又は酸化還元酵素は任意の公知の方法により固相に固定化されうる。酵素、例えば酸化還元酵素をビーズや膜、炭素粒子、金粒子、白金粒子、ポリマー、電極表面に固定化してもよい。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、ポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて酸化還元酵素をカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。固定化する酸化還元酵素の量は、電気化学的測定或いは燃料電池発電に必要な電流を生じうる量とすることができ、適宜決定しうる。
【0087】
(本発明のフェニレンジアミン系化合物の吸着方法)
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、溶液中に遊離した状態で存在していてもよく、また、ビーズや膜、炭素粒子、金粒子、白金粒子、ポリマー、電極表面に吸着、例えば物理的に吸着されていてもよい。本発明のフェニレンジアミン系化合物が電極表面に吸着していることを、電極表面に固定化されている、ということもあるが、本明細書においてこれらは同義とする。吸着方法としては、本発明のフェニレンジアミン系化合物を適当な媒体中に溶解させ、その溶液を電極と物理的に接触させる工程を含む方法が挙げられる。別の実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物を電極に噴霧してもよい。吸着させるフェニレンジアミン系化合物の量は、電気化学的測定或いは電池発電に必要な電流を生じうる量とすることができ、適宜決定しうる。
【0088】
ある実施形態では、電極に本発明のフェニレンジアミン系化合物が吸着され、さらに酵素例えば酸化還元酵素が固定化されていてもよい。この場合、先に本発明のフェニレンジアミン系化合物を吸着させ次いで酵素例えば酸化還元酵素を固定化してもよく、又は先に酵素例えば酸化還元酵素を固定化させ次いで本発明のフェニレンジアミン系化合物を吸着してもよく、又は酵素例えば酸化還元酵素を固定化する操作においてフェニレンジアミン系化合物を同時に吸着させてもよい。
【0089】
試料溶液に添加する本発明のフェニレンジアミン系化合物の終濃度は特に限定されず、例えば、1pM以上、2pM以上、3pM以上、4pM以上、5pM以上、6pM以上、7pM以上、8pM以上、9pM以上、10pM以上、1M以下、100mM以下、20mM以下、10mM以下、5mM以下、1mM以下、800μM以下、600μM以下、500μM以下、400μM以下、300μM以下、200μM以下、100μM以下、50μM以下、例えば1pM~1M、1pM~100mM、1pM~20mM、1pM~10mM、1pM~5mM、2pM~1mM、3pM~800μM、4pM~600μM、5pM~500μM、6pM~400μM、7pM~300μM、8pM~200μM、9pM~100μM、10pM~50μMの範囲であり得る。試料溶液に添加する本発明のフェニレンジアミン系化合物の終濃度は特に限定されず、例えば0.000001~0.5%(w/v)、0.000003~0.3%(w/v)、0.000005~0.1%(w/v)、0.00001~0.05%(w/v)、0.00002~0.03%(w/v)、0.00003~0.01%(w/v)であり得る。なお、フェニレンジアミン系化合物と他の試薬との添加順序は制限されず、同時でも逐次添加でもよい。
【0090】
ある実施形態において酸化還元反応を行う時間又は電気化学的測定を行う時間は、60分以下、30分以下、10分以下、5分以下、又は1分以下とすることができる。または、長期間測定する酵素センサーや電池等においては、酸化還元反応を行う時間は、60分以上、120分以上、1日以上、2日以上、3日以上、1週間以上、2週間以上、3週間以上とすることができる。例えばフェニレンジアミン系化合物を酸化還元酵素と共に使用する場合、試料に含まれる又は試料中に生成すると推定される還元型のメディエータの濃度範囲に対応して、電気化学的測定用試薬の各成分の濃度を調節することができる。
【0091】
特に断らない限り、本発明の組成物に含まれる酵素或いは本発明の電極に固定化された酵素は、精製された酵素である。酵素を含む細胞抽出物や細胞破砕液、粗酵素抽出液は、酵素以外にも様々な夾雑物質を含む。例えば微生物では粗酵素抽出液中のリボフラビン量は約53~133μMとの報告がある(J Indust Micro Biotech 1999, 22, pp. 8-18)。このような粗酵素抽出液等は、そのまま電気化学的測定に供すると、夾雑物質が電子を受け取るなどして電極への電子の授受が妨害されるため、粗酵素抽出液において、このリボフラビン濃度では正確な電気化学的測定は困難である。そこで本発明の電気化学的測定法では、夾雑物質が除去された酵素を使用することができる。本明細書において酵素が精製されている、又は精製酵素である、とは、必ずしもタンパク質が純品である必要はなく、電気化学的測定が可能な程度に酵素標品から夾雑物質が除去されていることをいう。
【0092】
(酸化還元酵素の活性測定)
酸化還元酵素の活性測定を説明するに当たり、具体的な酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を例とする。GDH(EC 1.1.99.10)は、グルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する。このとき電子受容体が電子を受け取り、還元型電子受容体になる。GDHの活性は、この作用原理を利用し、例えば、電子受容体としてフェナジンメトサルフェート(PMS)及び2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)を用いた以下の測定系を用いて測定することができる。
(反応1) D-グルコ-ス + PMS(酸化型)
→ D-グルコノ-δ-ラクトン + PMS(還元型)
(反応2) PMS(還元型) + DCIP(酸化型)
→ PMS(酸化型) + DCIP(還元型)
【0093】
具体的には、まず、(反応1)において、D-グルコースの酸化に伴い、PMS(還元型)が生成する。続いて進行する(反応2)により、PMS(還元型)が酸化されるのに伴ってDCIPが還元される。この「DCIP(酸化型)」の消失度合を波長600nmにおける吸光度の変化量として検知し、この変化量に基づいて酵素活性を求めることができる。
【0094】
GDHの活性は、以下の手順に従って測定することができる。100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 2.05mL、1M D-グルコース溶液 0.6mLおよび2mM DCIP溶液 0.15mLを混合し、37℃で5分間保温する。次いで、15mM PMS溶液 0.1mL及び酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、反応を開始する。反応開始時、および、経時的な吸光度を測定し、酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)を求め、次式に従いGDH活性を算出する。この際、GDH活性は、37℃において濃度200mMのD-グルコース存在下で1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量を1Uと定義する。
【0095】
【0096】
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素試薬の液量(mL)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/μmol)、0.1は酵素溶液の液量(mL)、1.0はセルの光路長(cm)、ΔA600blankは100mM リン酸緩衝液(pH7.0)を酵素サンプル溶液の代わりに添加して反応開始した場合の600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量、dfは希釈倍数を表す。
【0097】
本発明の電気化学的測定用キットは、少なくとも1回のアッセイに十分な量の本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を含む。典型的には、本発明の電気化学的測定用は、本発明のフェニレンジアミン系化合物に加えて、酸化還元酵素、アッセイに必要な緩衝液、キャリブレーションカーブ作製のための基質標準溶液、ならびに指針を含む。例えば酸化還元酵素はGDHであってもよく、この場合、基質標準溶液はグルコース標準溶液であり得る。
【0098】
ある実施形態において、本発明の電気化学的測定用キットは、本発明のフェニレンジアミン系化合物と酸化還元酵素とを同一試薬として含む。別の実施形態において、本発明の電気化学的測定用キットは、フェニレンジアミン系化合物と酸化還元酵素とを別々の試薬として含む。別の実施形態では、酸化還元酵素は電極に固定化されていてもよく、そのような電極に対して用いる本発明の電気化学的測定用キットはフェニレンジアミン系化合物を単一試薬として含む。ただしここでいう単一試薬とは、当該試薬がフェニレンジアミン系化合物以外の物質を含まないことを意味するものではない。本発明のフェニレンジアミン系化合物が単一試薬中で溶解するよう、該単一試薬は、適当な媒体を含み得る。媒体は本発明のフェニレンジアミン系化合物が溶解するものであればどのようなものでもよく、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられるがこれに限らない。本発明のフェニレンジアミン系化合物は種々の形態で、例えば、粉末固体状の試薬として、ビーズや電極表面に固定化された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液、例えば遮光されている溶液として提供することができる。
【0099】
電気化学的測定の一例としてグルコース濃度の測定が挙げられる。グルコース濃度の測定は、比色式電気化学的測定用の場合は、例えば、以下のように行うことができる。電気化学的測定用の反応層にはグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、そして反応促進剤としてN-(2-アセトアミド)イミド2酢酸(ADA)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、炭酸ナトリウムおよびイミダゾールからなる群より選ばれる1以上の物質を含む液状もしくは固体状の組成物を保持させておく。ここで、必要に応じてpH緩衝剤、発色試薬(変色試薬)を添加する。ここにグルコースを含む試料を加え、一定時間反応させる。この間、GDHより電子を直接受け取ることによって重合し生成する色素もしくは還元された色素の最大吸収波長に相当する吸光度をモニタリングする。レート法であれば、吸光度の時間あたりの変化率から、エンドポイント法であれば、試料中のグルコースがすべて酸化された時点までの吸光度変化から、予め標準濃度のグルコース溶液を用いて作製したキャリブレーションカーブを元にして、試料中のグルコース濃度を算出することができる。
【0100】
この方法において使用できる発色試薬(変色試薬)としては、例えば2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)を電子受容体として添加し、600nmにおける吸光度の減少をモニタリングすることでグルコースの定量が可能である。また、発色試薬としてニトロテトラゾリウムブルー(NTB)を加え、570nm吸光度を測定することにより生成するジホルマザンの量を決定し、グルコース濃度を算出することが可能である。なお、いうまでもなく、使用する発色試薬(変色試薬)はこれらに限定されない。
【0101】
ある実施形態において、本発明の化合物が電極に吸着する性質を利用して、本発明の化合物を検出できるセンサを作製することができる。本発明の化合物、例えばDPPDを含む溶液中に電極、例えば炭素電極を挿し、該溶液中、もしくは一定時間経過後に別の測定溶液中に挿し変え、電気化学的測定、例えばCV或いはクロノアンペロメトリにより本発明の化合物の量を定量的若しくは定性的に検出することが出来る。
【0102】
(酵素センサー)
ある実施形態において本発明は、酸化還元酵素が固定化され、本発明の電極改変剤が吸着した電極を含む、酵素センサーを提供する。酵素センサーの電極としては、例えばカーボン電極、金電極、白金電極などが挙げられ、この電極上に酸化還元酵素を塗布または固定化することができる。さらに、導電性材料としてCo、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Re、Ni、Cr、Fe、Mo、Ti、Al、Cu、V、Nb、Zr、Sn、In、Ga、Mg、Pb、Au、Pt、Agのうち少なくとも一種類の元素を含む金属微粒子が含まれていてもよく、これらは、合金であっても、めっきを施したものであってよい。カーボンとして、カーボンナノチューブやカーボンブラック、グラファイト、フラーレン、及びその誘導体等も含まれる。酸化還元酵素の固定化方法としては、上記の「酵素又は酸化還元酵素の固定化方法」の段落を参照のこと。
【0103】
ある実施形態において、本発明の酵素センサーの一例としてグルコースセンサーが挙げられる。このグルコースセンサーは、電極に吸着された本発明のフェニレンジアミン系化合物及び電極に固定化されたGDH又はグルコースオキシダーゼ(GOD)を有しうる。該グルコースセンサーは持続血糖測定や連続グルコースモニタリングに使用可能である。
【0104】
本発明の電極、酵素センサー、及び電気化学的測定用組成物は、ポテンショスタットやガルバノスタットなどを用いることにより、種々の電気化学的な測定手法に用いることができる。電気化学的測定法としては、アンペロメトリー、例えばクロノアンペロメトリー、ポテンシャルステップ・クロノアンペロメトリー、ボルタンメトリー、例えばサイクリックボルタンメトリー、微分パルスボルタンメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリーなどの様々な手法が挙げられる。例えば測定対象基質がグルコースであれば、アンペロメトリー法により、グルコースが還元される際の電流を測定することで、試料中のグルコース濃度を算出することができる。印加電圧は条件や装置の設定にもよるが、例えば-1000mV~+1000mV(vs. Ag/AgCl)などとすることができる。
【0105】
なお、試験化合物が電極に吸着するか否かは、サイクリックボルタンメトリーにより確認することができる。掃引速度を変化させ、例えば10mV/secから50mV/secの範囲で変化させ、酸化電流の最大値(IOmax)および還元電流の最大値(IRmax)がどのように変化するか調べる。一般的に、メディエータが電極に吸着している場合、サイクリックボルタンメトリーの掃引速度とIOmaxおよびIRmaxの値は比例関係になることが知られている。メディエータが拡散している場合は、掃引速度の0.5乗にIOmaxおよびIRmaxが比例する。IOmaxおよびIRmaxと、掃引速度の関係から、化合物が吸着しているか、拡散しているかを決定する。
【0106】
電気化学的測定の一例としてグルコースの電気化学的測定が挙げられる。ある実施形態において、本発明は、グルコースを含みうる試料と、フェニレンジアミン系化合物と、精製されたグルコースオキシダーゼ又は精製されたグルコースデヒドロゲナーゼとを接触させる工程及び電流を測定する工程を含む、グルコースの電気化学的測定方法を提供する。該フェニレンジアミン系化合物は溶液中に存在するか又は電極に吸着されていてもよく、酵素は電極に固定化されていてもよい。
【0107】
例えばグルコース濃度の電気化学的測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。作用電極としてGDH又はGODを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極やAg/Ag+電極)を用いる。反応液に本発明のフェニレンジアミン系化合物を添加する。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。印加する電位は、例えば+800mV以下、+700mV以下、+600mV以下、+500mV以下、+400mV以下、+300mV以下、+200mV以下、+100mV以下、+50mV以下とすることができ、-200mV以上、-100mV以上、-50mV以上、例えば0mV以上、とすることができ、例えば+800mV~-200mV、+800mV~-100mV、+800mV~-50mV、+600mV~0mV、+500mV~0mV、+400mV~0mV、+300mV~0mV、+200mV~0mVとすることができる(いずれも銀塩化銀参照電極に対し)。グルコースが含まれる測定溶液のpHはpH3~10の範囲内であり得る。例えば、pH5、pH6、pH7、pH8、pH9、pH10であり、溶液中に緩衝剤として、グリシン、酢酸、クエン酸、リン酸、炭酸、グッド緩衝剤等が含まれていてもよい。GDHやGOD以外の酵素、及びグルコース以外の基質を用いる場合でも適宜、pHを変えて測定することができる。
【0108】
具体的な例としては、グラッシーカーボン(GC)電極に予めフェニレンジアミン化合物、例えばIPPDを固定化し、続いて0.2U~150U、例えば0.5U~100UのGDH又はGODを固定化し、グルコース濃度に対する応答電流値を測定する。電解セル中に、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)10.0mlを添加する。GC電極をポテンショスタットBAS100B/W(BAS製)に接続し、37℃で溶液を撹拌し、銀塩化銀参照電極に対して+500mVを印加する。これらの系に1M D-グルコース溶液を終濃度が5、10、20、30、40、50mMになるよう添加し、添加ごとに定常状態の電流値を測定する。この電流値を既知のグルコース濃度(5、10、20、30、40、50mM)に対してプロットし、検量線を作成する。これよりGDH又はGOD酵素固定化電極でグルコースの定量が可能となる。
【0109】
さらに電気化学測定のために印刷電極を用いることもできる。これにより測定に必要な溶液量を低減することができる。電極は絶縁基板上に形成しうる。具体的には、フォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術により、電極を基板上に形成させ得る。絶縁基板の素材としては、シリコン、ガラス、セラミック、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられ、各種の溶媒や薬品に対する耐性の強いものを用いることができる。作用極の面積は、所望の応答電流に応じて設定することができる。例えばある実施形態では、作用極の面積を1mm2以上、1.5mm2以上、2mm2以上、2.5mm2以上、3mm2以上、4mm2以上、5mm2以上、6mm2以上、7mm2以上、8mm2以上、9mm2以上、10mm2以上、12mm2以上、15mm2以上、20mm2以上、30mm2以上、40mm2以上、50mm2以上、1cm2以上、2cm2以上、3cm2以上、4cm2以上、5cm2以上、例えば10cm2以上とすることができる。ある実施形態では、作用極の面積を10cm2以下、5cm2以下、例えば1cm2以下、とすることができる。対極も同様でありうる。また、作用極上にカーボンナノチューブやグラフェン、ケッチェンブラック等を固定化し、みかけの表面積を大きくすることも出来る。この場合、見かけの面積は10倍以上、50倍以上、100倍以上、1000倍以上増え得る。
【0110】
ある実施形態において、本発明の電極改変剤、電極吸着剤又は電子伝達促進剤は、電極と共に使用する場合には、作用極の面積1cm2当たり、0.1pmol以上、0.2pmol以上、0.3pmol以上、0.4pmol以上、0.5pmol以上、1pmol以上、10mmol以下、5mmol以下、1mmol以下、800μmol以下、600μmol以下、500μmol以下、400μmol以下、300μmol以下、200μmol以下、100μmol以下、50μmol以下、例えば0.1pmol~10mmol、0.1pmol~5mmol、0.2pmol~1mmol、0.3pmol~800μmol、0.4pmol~600μmol、0.5pmol~500μmol、0.6pmol~400μmol、0.7pmol~300μmol、0.8pmol~200μmol、0.9pmol~100μmol、1pmol~50μmolの物質量にて使用しうる。これらの数値は作用極の面積を1cm2とした場合であり、作用極の面積を増大又は低減させた場合、もしくは比表面積の大きいカーボンナノチューブ、グラフェン等を用いた際には見かけの表面積が増大し、対応する物質量の本発明の電極改変剤を使用し得る。
【0111】
(本発明の電池)
ある実施形態において本発明は、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤、又は電子伝達促進剤を有する電池を提供する。ある実施形態において、本発明の電池では、本発明の化合物が当該電池の電極に固定化されている。ある実施形態において、本発明の電池は酸化還元酵素を有する。ある実施形態において酸化還元酵素は電池の有する電極に固定化されていてもよい。ある実施形態において本発明は、本発明の電池を用いる発電方法を提供する。
【0112】
(本発明の燃料電池)
ある実施形態において本発明は、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤、又は電子伝達促進剤を有する燃料電池用のアノード又はカソード及び当該アノード又はカソードを備えた燃料電池を提供する。ある実施形態において本発明は、本発明のフェニレンジアミン系化合物や、フェニレンジアミン系化合物が吸着した電極を使用した発電方法やGDHやGODなどといった酸化還元酵素をアノード電極に固定化し、酸化還元酵素に対応した基質、例えばグルコースを燃料とする発電方法を提供する。適宜、上記に示した酸化還元酵素を固定化した場合に、固定化した酸化還元酵素の基質となる化合物を燃料とすることができる。
【0113】
ある実施形態において、本発明の燃料電池は、本発明のフェニレンジアミン系化合物が吸着したアノード又はカソード、燃料槽、カソード、酸化還元酵素を有するアノード、及び電解質を備えている。また本発明の燃料電池は、必要に応じて、アノードとカソードとの間に負荷抵抗を配置することができ、そのための配線を備えうる。ある実施形態において負荷抵抗は、本発明の燃料電池の一部である。ある実施形態において、負荷抵抗は、本発明の燃料電池の一部ではなく、本発明の燃料電池は、適当な負荷抵抗に接続できるよう構成されている。本発明の燃料電池において酸化還元酵素はアノードの一部を構成する。例えば酸化還元酵素はアノードに近接若しくは接触していてもよく、固定化されていてもよく、又は吸着していてもよい。燃料槽は電極に固定化された酸化還元酵素の基質となる化合物を含む。例えば、グルコースデヒドロゲナーゼを電極に固定化した場合、燃料はグルコースであり得る。ある実施形態において本発明の燃料電池はアノードとカソードを分離するイオン交換膜を有し得る。イオン交換膜は1nm~20nmの孔を有し得る。アノードは炭素電極のような一般的な電極であり得る。例えば、カーボンブラック、グラファイト、活性炭等の導電性炭素質からなる電極や、金、白金等の金属からなる電極を用いることができる。具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、グラッシーカーボン、HOPG(高配向性熱分解グラファイト)等が挙げられる。対をなすカソードとしては、例えば、白金や白金合金等、燃料電池において一般的に用いられている電極触媒を、カーボンブラック、グラファイト、カーボンクロス、カーボンフェルト、活性炭のような炭素質材料、又は金、白金等からなる導電体に担持させた電極や、白金や白金合金等の電極触媒そのものからなる導電体をカソード電極として用い、酸化剤(カソード側基質、酸素等)を電極触媒に供給するような形態とすることができる。ある実施形態では、本発明の電極から水銀電極を除く。
【0114】
別の実施形態では、上記のような基質酸化型酵素電極からなるアノードと対をなすカソードとして、基質還元型酵素電極を使用しうる。酸化剤を還元する酸化還元酵素としては、ラッカーゼやビリルビンオキシターゼなど公知の酵素が挙げられる。酸化剤を還元する触媒として酸化還元酵素を用いる場合には、必要に応じて、公知の電子伝達メディエータを用いてもよい。カソード用メディエータはアノード用メディエータと同一でも異なってもよい。酸化剤としては、酸素、過酸化水素等が挙げられる。
【0115】
ある実施形態において、カソードにおける電極反応を妨害する不純物(アスコルビン酸や尿酸等)による影響を回避するために、酸素選択性の膜(例えばジメチルポリシロキサンの膜)をカソード電極の周囲に配置することができる。
【0116】
本発明の発電方法は、酸化還元酵素を有するアノードに燃料となる酸化還元酵素の基質となる化合物を供給する工程を含む。酸化還元酵素を有するアノードに燃料が供給されると、基質が酸化され、同時に生成した電子を、酸化還元酵素は、該酸化還元酵素と電極との間の電子伝達を仲介する電子伝達メディエータ、例えばフェニレンジアミン系化合物へと受け渡し、該電子伝達メディエータによって導電性基材(アノード電極)へ電子が受け渡される。アノード電極から配線(外部回路)を通って電子がカソード電極に到達することで、電流が発生する。
【0117】
上記過程において発生するプロトン(H+)は、電解質溶液内をカソード電極まで移動する。そして、カソード電極では、電解質溶液内をアノードから移動してきたプロトンと、外部回路を経てアノード側から移動してきた電子と、酸素や過酸化水素等の酸化剤(カソード側基質)とが反応して水が生成される。これを利用し発電を行うことができる。
【0118】
(本発明の有機電池)
ある実施形態において本発明は、本発明のフェニレンジアミン系化合物、電極改変剤、電極吸着剤、又は電子伝達促進剤を有する有機電池を提供する。電極改変剤、電極吸着剤、又は電子伝達促進剤は電極に吸着していてもよい。有機電池に用いる電極材料としては、キノンやインディゴ誘導体、メトキシ基を有するベンゾキノン化合物、インディゴカルミン、ペンタセンテトロン等が挙げられるがこれに限らない。有機ラジカル電池に用いる電極材料としては、ニトロキシラジカルを有する化合物、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルをポリマー、例えばポリメタクリレート、又はアクリレートに結合させた電極材料やリチウムが挙げられるがこれに限らない。例えば高分子、54巻、12月号、2005、p.886を参照のこと。有機電池では、本発明の電極改変剤をアノード側、カソード側の電子メディエーターとして使用しうる。
【0119】
本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤や、該電極改変剤が吸着した電極は、種々の電気化学的測定に用いることができる。また、該電極は、酸化還元酵素を固定化することで、酵素センサーに利用することができる。さらに本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤や、該電極改変剤が吸着した電極は、燃料電池や有機電池に用いることができる。これらは例示であり、本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤又は該電極改変剤が吸着した電極の用途はこれに限らない。
【0120】
以下の実施例により、本発明をさらに例証する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0121】
材料及び方法
材料や試薬は特に断らない限り、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製したものである。単層カーボンナノチューブは、シグマ社製、名城ナノカーボン社製、又はゼオンナノテクノロジー社製を用いた。多層カーボンナノチューブは、シグマ社製、名城ナノカーボン社製、又は関東化学社製を用いた。カーボンナノチューブは低分子界面活性剤、水溶性高分子、水溶性多糖などを含む水溶液中で超音波処理することで適宜分散させたものを用いた。界面活性剤として、Triton X-100、ドデシル硫酸ナトリウム塩等が用いられるが、これに限らない。化合物N-メチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-エチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N'-(4-アミノフェニル)-p-フェニレンジアミン、2-アミノ-4-イソプロピルアミノ-ジフェニルアミン、及びN-イソプロピル-N'-(4-ヒドロキシフェニル)-p-フェニレンジアミンは株式会社ナード研究所(NARD社)より入手した。これらの製造手順は次の通りである。
【0122】
以下のスキームを用いて、N-メチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(スキーム中で化合物1-1と表記)及び、N-エチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(スキーム中で化合物1-2と表記)を合成した。
【化51】
生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒 ヘプタン/酢酸エチル)にて精製し、質量分析及びNMRにより確認した。化合物1-1の[M+H]
+イオンのm/zは理論値199.1、実測値199.1であり、化合物1-2の[M+H]
+イオンのm/zは理論値213.1、実測値213.1であった。
【0123】
以下のスキームを用いて、N-イソプロピル-N'-(4-アミノフェニル)-p-フェニレンジアミン(スキーム中で化合物2-2と表記)及びN-イソプロピル-N'-(4-ヒドロキシフェニル)-p-フェニレンジアミン(スキーム中で化合物2-3と表記)を合成した。
【化52】
生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒 ヘプタン/酢酸エチル)にて精製し、質量分析及びNMRにより確認した。化合物2-2の[M+H]
+イオンのm/zは理論値242.1、実測値242.1であり、化合物2-3の[M+H]
+イオンのm/zは理論値243.1、実測値243.0であった。
【0124】
以下のスキームを用いて2-アミノ-4-イソプロピルアミノ-ジフェニルアミン(スキーム中では化合物2-1と表記)を合成した。
【化53】
生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒 ヘプタン/酢酸エチル)にて精製し、質量分析及びNMRにより確認した。化合物2-1の[M+H]
+イオンのm/zは理論値242.1、実測値242.2であった。
【0125】
他の化合物については、TCI社又はSigma-Aldrich社より市販品を入手した。
【0126】
実施例1.Mucor属由来GDH遺伝子の宿主への導入とGDH活性の確認
特許第4648993号に記載のMucor属由来GDH(MpGDH)のアミノ酸配列を配列番号1に、塩基配列を配列番号2に示す。MpGDHにN66Y/N68G/C88A/A175C/N214C/Q233R/T387C/G466D/E554D/L557V/S559Kの各変異を導入した改変GDH(MpGDH-M2)をコードする遺伝子を取得した。MpGDH-M2のアミノ酸配列は配列番号3に示し、その遺伝子の塩基配列は配列番号4に示す。プラスミドpUC19のマルチクローニングサイトに対象遺伝子であるMpGDH-M2遺伝子を常法により挿入させたDNAコンストラクトを作製した。具体的には、pUC19は、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社)に付属されているpUC19 linearized Vectorを用いた。pUC19のマルチクローニングサイトにあるIn-Fusion Cloning Siteにて、MpGDH-M1遺伝子を、上記したIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、キットに添付されたプロトコールに従って連結して、コンストラクト用プラスミド(pUC19-MpGDH-M2)を得た。
【0127】
これらの遺伝子をコウジカビ(Aspergillus sojae;アスペルギルス・ソーヤ)で発現させ、そのGDH活性を評価した。
【0128】
具体的には、MpGDH-M2を取得することを目的として、GDH遺伝子を用いて、Double-joint PCR(Fungal Genetics and Biology,2004年,第41巻,p.973-981)を行い、5’アーム領域-pyrG遺伝子-TEF1プロモーター遺伝子-フラビン結合型GDH遺伝子-3’アーム領域から成るカセットを構築し、下記の手順でアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株(pyrG遺伝子の上流48bp、コード領域896bp、下流240bp欠損株)の形質転換に用いた。なお、pyrG遺伝子はウラシル栄養要求性マーカーである。500ml容三角フラスコ中の20mMウリジンを含むポリペプトンデキストリン液体培地100mlに、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株の分生子を接種し、30℃で約20時間振とう培養を行った後、菌体を回収した。回収した菌体からプロトプラストを調製した。得られたプロトプラスト及び20μgの対象遺伝子挿入DNAコンストラクトを用いて、プロトプラストPEG法により形質転換を行い、次いで0.5%(w/v)寒天及び1.2Mソルビトールを含むCzapek-Dox最少培地(ディフコ社;pH6)を用いて、30℃、5日間以上インキュベートし、コロニー形成能があるものとして形質転換アスペルギルス・ソーヤを得た。
【0129】
得られた形質転換アスペルギルス・ソーヤは、ウリジン要求性を相補する遺伝子であるpyrGが導入されることにより、ウリジン無添加培地に生育できるようになることで、目的の遺伝子が導入された株として選択できた。得られた菌株の中から目的の形質転換体を、PCRで確認して選抜した。
【0130】
MpGDH変異体の遺伝子により形質転換した形質転換アスペルギルス・ソーヤを用いて、それぞれのGDH生産を行った。
【0131】
200ml容三角フラスコ中のDPY液体培地(1%(w/v)ポリペプトン、2%(w/v)デキストリン、0.5%(w/v)酵母エキス、0.5%(w/v)KH2PO4、0.05%(w/v)MgSO4・7H20;pH未調整)40mlに、各菌株の分生子を接種し、30℃で4日間、160rpmで振とう培養を行った。次いで、培養後の培養物から菌体をろ過し、得られた培地上清画分をAmicon Ultra-15, 30K NMWL(ミリポア社製)で10mLまで濃縮・脱塩し、150mM NaClを含む20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に置換した。続いて、150mM NaClを含む20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pg(GEヘルスケア社製)にアプライし、同緩衝液で溶出させ、GDH活性を示す画分を回収し、MpGDH-M2の精製標品を得た。なお、この酵素はそのFAD結合部位を介してFADと結合している状態のものである(ホロ酵素)。
【0132】
実施例2.フェニレンジアミン系化合物と炭素電極との吸着性確認
3種のフェニレンジアミン系化合物(N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD、東京化成工業社製、製品コードP0327)、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD、東京化成工業社製、製品コードD0609)、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD、東京化成工業社製、製品コードD3331)を用いて、印刷電極によるサイクリックボルタンメトリー(CV)を行った。具体的には、カーボンの作用電極(12.6mm2)、銀の参照電極が印刷されてなる、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-C110)上に、終濃度10μg/mlのIPPD 10%エタノール水溶液を3μl塗布し、室温で乾燥させた。その後電極を超純水で洗浄し、専用コネクター(DropSens社製、DRP-CAC)を用いて、ALS 電気化学アナライザー 814D(BAS社製)に接続した。印刷電極を作用極とし、銀塩化銀電極(BAS社製)を参照極、白金電極(BAS社製)を対極として、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)10mL中に浸漬させた。この溶液を650rpmで撹拌させながら、-200mVから+400mV(vs.Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。掃引速度を10mV/secから50mV/secの範囲で変化させ、酸化電流の最大値(IOmax)および還元電流の最大値(IRmax)がどのように変化するか調べた。一般的に、メディエータが電極に吸着している場合、サイクリックボルタンメトリーの掃引速度とIOmaxおよびIRmaxの値は比例関係になることが知られている。メディエータが拡散している場合は、掃引速度の0.5乗にIOmaxおよびIRmaxが比例する。
【0133】
IPPDを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とI
OmaxおよびI
Rmaxをプロットした結果を
図1に示す。その結果、掃引速度とI
OmaxおよびI
Rmaxが比例関係にあることが確認され、IPPDがカーボン電極に吸着することが示された。
【0134】
IPPDの代わりにDPPD、6PPDを用いて同様の試験を行った結果を
図2、
図3に示す。いずれの化合物においても掃引速度とI
OmaxおよびI
Rmaxが比例関係にあることが確かめられ、IPPDと同様、カーボン電極に吸着することが示された。
【0135】
比較例(p-フェニレンジアミン)
なお、本発明のジフェニルアミン系化合物の代わりに、メディエータとして機能することが既に知られているp-フェニレンジアミンを用いて同様の測定を実施すると、酸化波、還元波のいずれも観測されなかった。超純水による電極の洗浄、あるいはリン酸カリウム緩衝液への浸漬により、p-フェニレンジアミンが電極から剥離したためと考えられる。
【0136】
終濃度100μg/mlのp-フェニレンジアミン10%エタノール溶液10μl、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)10μlを上記の印刷電極に載せ、-200mVから+400mV(vs.Ag/Ag+)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行ったところ、
図4および5に示すようにI
OmaxおよびI
Rmaxが掃引速度の0.5乗に比例することが確認された。これは、p-フェニレンジアミンが電極に吸着せず、拡散していることを示している。
【0137】
実施例3.本発明の化合物と炭素電極との吸着性確認
ビンドシェドラーズグリーンロイコ塩基(BGLB、東京化成工業社製、製品コードB0482、CAS番号637-31-0)又はトリス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]アミン(TDPA、Sigma-Aldrich社製、製品コード556394、CAS番号5981-09-9)を用いて、印刷電極によるサイクリックボルタンメトリー(CV)を行った。具体的には、カーボンの作用電極(12.6mm2)、銀の参照電極が印刷されてなる、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-C110)に、終濃度1 mg/mlのBGLBエタノール溶液を用いて化合物を吸着させた。その後、実施例2と同様にサイクリックボルタンメトリーを実施した。
【0138】
BGLBを用いた測定において、掃引速度とI
OmaxおよびI
Rmaxをプロットした結果を
図6に示す。その結果、掃引速度とI
OmaxおよびI
Rmaxが比例関係にあることが確認され、BGLBがカーボン電極に吸着することが示された。
【0139】
BGLBの代わりにTDPAを用いて同様の試験を行った結果を
図7に示す。TDPAは酸化還元波が2つ存在することから、図中ではI
O1、I
O2、I
R1およびI
R2と表記した。TDPAを用いた場合でも掃引速度とI
OmaxおよびI
Rmaxが比例関係にあることが確かめられ、BGLBと同様、カーボン電極に吸着することが示された。
【0140】
丸型カーボン電極(バイオデバイステクノロジー社製、DEP-Chip EP-PP)またはSCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-C110)を用いた電極により、上記と同様の手法によって、以下の化合物についても同様に電極に吸着することを確認した。
【0141】
【0142】
実施例4.フェニレンジアミン系化合物を用いた電気化学的評価
FAD依存性GDHと3種のフェニレンジアミン系化合物(IPPD、DPPD、6PPD)を用いて、印刷電極を用いたサイクリックボルタンメトリーを行った。具体的には、カーボンの作用電極(2.64mm
2)、銀塩化銀の参照電極が印刷されてなる、丸型カーボン電極(バイオデバイステクノロジー社製、DEP-Chip EP-PP)を、専用コネクターを用いて、ALS電気化学アナライザー 814D(BAS社製)に接続し、2000U/mlのFADGDH-AA(キッコーマンバイオケミファ社製、製品番号60100)溶液2μl、1.5Mの塩化カリウムを含有した50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)8μl、IPPD10%エタノール水溶液10μlを電極上に載せた。IPPDの終濃度は2.5μMとした。そして、-200mVから400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。掃引速度は10mV/secとした。続いて、終濃度200mMになるようにグルコース溶液を添加し、同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。
測定時のサイクリックボルタモグラムを
図8に示す。グルコースに対する応答電流が観測されることから、IPPDがメディエータとして機能していることが示された。
続いて、カーボンの作用電極(12.6mm
2)、銀塩化銀の参照電極が印刷されてなる、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-110)を、専用コネクター(DropSens社製、DRP-CAC)を用いて、ALS 電気化学アナライザー 814D(BAS社製)に接続し、2000U/mlのGlucose Dehydrogenase(FAD-dependent)(BBI社製、Product Code:GLD3、以下GLD3と表記する)溶液5μl、1.5Mの塩化カリウムを含有した50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)20μl、フェニレンジアミン系化合物の10%エタノール水溶液25μlを電極上に載せた。化合物の終濃度は、IPPDは2.5μM、DPPDおよび6PPDは0.5μMとした。そして、-200mVから400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。掃引速度は30mV/secとした。続いて、種々の終濃度になるようにグルコース溶液を添加し、同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。また対照実験として、フェニレンジアミン系化合物を含まない条件で、上記と同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。
【0143】
また、IPPD、DPPD、6PPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係をプロットしたものを
図9、10、及び11に示す。IPPD、DPPD、6PPDのいずれの化合物を用いた場合でも、グルコースに対する応答電流が観測される。一方で、これらの化合物を含まない場合は応答電流が観測されなかったことから、IPPD、DPPD、6PPDはいずれもメディエータとして機能していることが示された。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
【0144】
続いて上記と同様に、FADGDH-AA(キッコーマンバイオケミファ社製、製品番号60100)またはGlucose Dehydrogenase(FAD-dependent)(BBI社製、Product Code:GLD1、以下GLD1と表記する)とIPPDを混合し、-200mVから+400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。ただしIPPD終濃度は、FADGDH-AAとの組み合わせでは5μM、GLD1との組み合わせでは2.5μMとした。結果を
図12、及び13に示す。IPPD添加時のみグルコースに対する応答電流が観測されたことから、IPPDがメディエータとして機能していることが分かった。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
【0145】
続いて、GOD from A. niger Type X-S(Sigma-Aldrich社製、製品番号G7141、以下GODと表記する)とIPPDを混合し、上記と同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。結果を
図14に示す。IPPD添加時のみグルコースに対する応答電流が観測されたことから、IPPDがメディエータとして機能していることが分かった。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
【0146】
実施例5.本発明の化合物およびGDHが固定化された電極の安定性試験
FAD依存性GDHとN,N'-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン(DPPD、東京化成工業社製、製品コードD0609)を用いて、印刷電極を用いたサイクリックボルタンメトリー(CV)を実施した。具体的には、まず実施例2と同様の手順により、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-C110)にDPPDを吸着させ、電極を超純水で洗浄した後風乾させた。その後、4mg/mlのFADGDH-AA(キッコーマンバイオケミファ社製、製品番号60100)溶液を3μl電極に塗布し、再度風乾させた。続いて電極を25%グルタルアルデヒド溶液(富士フイルム和光純薬社製、和光一級、製品番号079-00533)の蒸気に30分暴露し、その後純水で電極を洗浄してDPPD・GDH固定化電極を作製した。この電極を、専用コネクター(DropSens社製、DRP-CAC)を用いて、ALS 電気化学アナライザー 814D(BAS社製)に接続し、終濃度100mMのグルコースを含む、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)10ml中に浸漬させた。印刷電極を作用極とし、銀塩化銀電極(BAS社製)を参照極、白金電極(BAS社製)を対極として、溶液を750rpmで撹拌させながら、-200mVから+400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したCVを行った。掃引速度は30mV/secとした。続いて、電極を溶液中から取り出し、超純水で洗浄した後、同じ組成の新しい測定溶液に浸漬させて、同様の測定を計3回繰り返し実施した。+150mV時の3回目のCVにおける酸化電流について、グルコースを含む溶液とグルコースを含まないブランク溶液における測定値の差異は、149nAであった。ブランクと比較して応答電流が高く、DPPDが電子移動促進剤として機能していることが示された。さらに、1回目、2回目のCVと3回目のCVを比較したところ、電流値はほとんど変化しておらず、DPPDおよびGDHが溶液中に脱離せずに安定して電極に固定化されていることが示された。
【0147】
比較例(メチレンブルー)
本発明の化合物の代わりに、メディエータとしてすでに知られているメチレンブルー(MB)を用いた際は、グルコース依存的な応答電流は観測されなかった。一方、電解質溶液中にFADGDH-AAとMBを添加した試験系では、グルコース依存的な応答電流が確認された。以上のことから、MBは電極に吸着せず、電極作製工程で剥離していることが示された。
【0148】
比較例(1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート)
また、MBと同様メディエータとしてすでに知られている1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート(mPMS)を用いて、同様の試験を実施した。+150mV時の3回目のCVにおける酸化電流について、グルコースを含む溶液とグルコースを含まないブランク溶液における測定値の差異はほとんど無く、DPPDを用いたときと比較し著しく低い値となった。これは、mPMSが容易に電極から剥離して溶液中に拡散したことを示している。
【0149】
実施例6.その他の酸化還元酵素について
続いて、Fructosyl-peptide Oxidase (FPOX-CE)(キッコーマンバイオケミファ社製、製品番号60123、以下FPOX-CEと表記する)とIPPDを用いて、印刷電極によるクロノアンペロメトリーを行った。具体的には、0.79U/mlのFPOX-CE溶液5μl、3Mの塩化ナトリウムを含有した100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)35μl、10ng/μlのIPPDの10%エタノール溶液5μlを電極上に載せた。さらに、9mMのフルクトシルグリシン溶液を1μlずつ添加した。そして、+250mV(vs. Ag/AgCl)を印加し、120秒間の応答電流値変化を観測した。
【0150】
印加後から10秒後の値を記録したところ、
図15に示すように、フルクトシルグリシンの濃度が増加するにつれて応答電流値が増加することがわかった。したがって、IPPDはFPOX-CEに対してもメディエータとして機能していることが示された。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
【0151】
FADGDH-AAとBGLB、TDPAを用いて、印刷電極によるCVを行った。具体的には、実施例2と同様の手順で化合物・GDH固定化電極を作製し、CVを実施した。ただし、CVの掃引範囲は-200mVから+600mV(vs. Ag/AgCl)とし、また対照実験としてグルコースを含まない溶液での測定も行った。
【0152】
BGLBおよびTDPAを用いた際の+300mV時の酸化電流値の比較を
図16、及び17に示す。BGLB、TDPAのいずれの化合物を用いた場合でも、グルコース依存的な応答電流が観測された。このことから、BGLB、TDPAともに、FADGDH-AAを用いた際のメディエータとして利用可能であることが判明した。
【0153】
続いて、PQQ依存性GDHとN-イソプロピル-N'-フェニル-1,4-フェニレンジアミン(IPPD、東京化成工業社製、製品コードP0327)およびBGLBを用いたCVを行った。具体的には、印刷電極DRP-C110を、専用コネクター(DRP-CAC)を用いてALS 電気化学アナライザー 814Dに接続し、0.8mg/mlのGlucose dehydrogenase(PQQ-dependent)(東洋紡社製、製品コードGLD-321)溶液5μl、1.5Mの塩化カリウムを含有した50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)20μl、5μM化合物の10%エタノール溶液25μlを電極上に滴下した。酵素の溶解液は1mM塩化カルシウム、0.1%ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)を使用した。そして、-200mVから+400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したCVを実施した。掃引速度は30mV/secとした。続いて種々の終濃度になるようグルコース溶液を添加し、同様にCVを実施した。
【0154】
グルコース終濃度と+300mVにおける酸化電流値の関係をプロットしたものを
図18、及び19に示す。IPPD、BGLBのいずれの化合物を用いた場合においても、グルコース濃度依存的な電流が確認されていることから、これらの化合物がPQQ依存性GDHのメディエータとして機能していることが示された。
【0155】
続いて、NAD依存性GDHとDPPDを用いたクロノアンペロメトリーを実施した。具体的には、印刷電極DRP-C110を、専用コネクター(DRP-CAC)を用いてALS 電気化学アナライザー 814Dに接続し、5mg/mlのGlucose dehydrogenase(NAD(P)-dependent) (東洋紡社製、製品コードGLD-311)溶液5μl、1.5Mの塩化カリウムを含有した150mMのリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)15μl、50mM-NAD水溶液5μl、5μM-DPPDの10%エタノール溶液25μlを電極上に滴下した。酵素の溶解液は150mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)を使用した。+150mV (vs. Ag/AgCl) の電位を印加し、測定開始から60秒後に500mMグルコース溶液を5μl添加して電流変化を測定した。また対照実験として、DPPDを含まない測定溶液でも同様の試験を実施した。
グルコース溶液添加後、電流値が一定となった時点での、グルコース添加前後の応答電流の差を
図20に示した。DPPD存在下ではグルコース添加により電流値が大きく増加したのに対し、DPPD非存在下ではグルコースへの応答がほとんど観測されなかった。このことから、NAD依存性GDHにおいても、DPPDがメディエータとして機能することが判明した。
【0156】
続いて、乳酸オキシダーゼ(LOD)とIPPDを用いたCVを実施した。具体的には、印刷電極DRP-C110を、専用コネクター(DRP-CAC)を用いてALS 電気化学アナライザー 814Dに接続し、5mg/mlのLactate Oxidase (東洋紡社製、製品コードLCO-301)溶液5μl、1.5Mの塩化カリウムを含有した1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)20μl、5μM-IPPDの10%エタノール溶液25μlを電極上に滴下した。酵素の溶解液は1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を使用した。そして、-200mVから+400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したCVを実施した。掃引速度は30mV/secとした。続いて種々の終濃度になるよう乳酸溶液を添加し、同様にCVを実施した。
【0157】
乳酸終濃度と+150mVにおける酸化電流値の関係をプロットしたものを
図21に示す。乳酸濃度依存的な応答電流の増加がみられたことから、IPPDがLODのメディエータとして機能することが判明した。
【0158】
続いて、フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)とIPPDを用いたCVを実施した。FDHは、メディエータの非存在下でも電極に直接電子を移動させることができ(すなわち直接電子移動能を有し)、メディエータの非存在下でも基質依存的な応答電流が観測できることが知られている酵素である。具体的には、印刷電極DRP-C110を、専用コネクター(DRP-CAC)を用いてALS 電気化学アナライザー 814Dに接続し、10mg/mlのD-Fructose dehydrogenase (東洋紡社製、製品コードFCD-302)溶液5μl、1.5Mの塩化カリウムを含有した150mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)20μl、5μM-IPPDの10%エタノール溶液25μlを電極上に滴下した。酵素の溶解液は0.1%-ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルを含む150mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を使用した。そして、-200mVから+400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したCVを実施した。掃引速度は30mV/secとした。続いて種々の終濃度になるようフルクトース溶液を添加し、同様にCVを実施した。
【0159】
フルクトース無添加時の電流を0とし、フルクトース終濃度と+100mVにおける酸化電流値の関係をプロットしたものを
図22に示す。FDHは直接電子移動能を有するため、IPPD非存在下でもフルクトース依存的な応答電流が観測される。しかしIPPD存在下では、IPPD非存在下時と比較しより大きな電流が観測された。このことから、直接電子移動能を持つFDHにおいても、IPPDがメディエータとして機能していることが示された。
【0160】
実施例7.フェニレンジアミン系化合物・GDH固定化センサーを用いたグルコース測定
SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-C110)上に、5%ポリエチレンイミン(平均分子量10000)を3μl塗布し、室温乾燥させた。引き続き、IPPD(10%エタノール溶解)を3μl、GDH-M2を30U分も塗布し、室温乾燥させた。最後に、2.5mg/dlのポリエチレングルコールジグリシジルエーテル(平均分子量500)を1μl塗布し、4℃で一晩静置した。得られた電極を純粋で洗浄し、IPPD・GDH固定化電極とした。次に、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)中にIPPD・GDH固定化電極とAg/AgCl参照極、白金対極を浸漬させ、CV測定を行った。掃印速度は10mV/secとした。2Mグルコースを適宜添加し、各グルコース濃度における+200mVにおける酸化電流値を算出した。その結果を
図23に示す。グルコース濃度が増加するにつれて、応答電流値も増加することが分かった。したがって、濃度が既知のグルコースを測定し、検量線を作成することでグルコース濃度を定量することができるといえる。また、アノード電極としても利用できることが示された。
【0161】
実施例8.炭素以外の電極素材を用いた際の吸着確認試験
IPPDとGDH-M2を含むpH7のリン酸緩衝液中に金電極(BAS社製、Cat No. 002421)、Ag/AgCl参照極、白金対極を浸漬させ、CV測定を行った。掃印速度を10~100mV/secとし、掃印速度とIOmaxおよびIRmaxをプロットした。その結果、掃引速度とIOmaxおよびIRmaxが比例関係にあることが確認され、IPPDが金電極に吸着することが示された。
同様に、金電極の代わりに白金電極(BAS社製、Cat No. 002422)を用いた際にも、掃引速度とIOmaxおよびIRmaxが比例関係にあることが確認され、IPPDが白金電極に吸着することが示された。
【0162】
実施例9.低濃度における本発明の化合物の電気化学的検出
印刷電極DRP-C110を、10 pM ~100nMの各種濃度に希釈されたDPPDを含む50mMリン酸カリウム緩衝液中に静置した。対照実験として、DPPDを含まない溶液でも実施した。1時間から5日間、適宜静置した後、専用コネクター(DRP-CAC)を用いてALS 電気化学アナライザー 814Dに接続し、DPPDを含まない終濃度4mg/mlのFADGDH-AAを含む50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)10ml中にて、-400mVから+200mV(vs. Ag/Ag+)の範囲で電圧を掃引したCVを実施した。掃引速度は30mV/secとした。その後1Mのグルコース溶液を1ml添加して同様にCVを実施し、+100mVでの酸化電流値からグルコース未添加における+100mVでの酸化電流値を差し引いた値を算出した。
【0163】
10 pM DPPD溶液を用いた際の結果を
図24に示す。グルコース添加時に電流値が増加したことから、本系において、10 pMという低濃度においても、DPPDを検出出来るセンサとして有用であることが示唆された。なお、DPPDを含まない溶液を用いた際には、グルコース添加時に応答電流の増加は見られなかった。同様に100pM、1nM、10nM、100nMのDPPDを用いた際にもグルコース添加時に未添加時と比較して、有意に応答電流の増加を確認した。
【0164】
実施例10.燃料電池の構築
5mm×5mmのカーボンクロス(東陽テクニカ社製)に多層カーボンナノチューブ溶液を数回に分けて80μl塗布し、60℃で乾燥させた。純水で洗浄後、さらに乾燥させ、IPPDを吸着固定させた。続けて、12mg/mlのFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(GLD1, フナコシ社製)を20μl塗布し、25℃で乾燥させた。25%グルタルアルデヒド蒸気中に上記のカーボンクロスを30分間さらすことでGLD1を架橋固定し、アノード電極とした。カソード電極として白金(BAS社製)を用いて、100mM D-グルコースを含むPBSに上記のアノード電極、Ag/AgCl参照極と共に浸漬させて、可変抵抗及びポテンショスタットと接続した。オープンサーキットポテンシャルにて測定したところ、10kΩ接続時に60μA/cm2の電流が流れた。なお、IPPDを吸着固定させなかった電極を用いた際には、10kΩ接続時に電流を観測することは出来なかった。したがって、本発明のフェニレンジアミン化合物を固定化した電極を用いれば、燃料槽にメディエータを添加せずに電気を流すことができる電池を作製することができる。
【0165】
また、多層カーボンナノチューブの代わりに単層カーボンナノチューブを用いても同様に電流を流すことが出来た。
【0166】
実施例11.本発明の化合物を用いたグルコースセンサの構築
単層カーボンナノチューブに1mg/mlのIPPDを用いて、吸着固定させた溶液を準備した。実施例2で用いた印刷電極の作用極上に、この溶液を3μL塗布・乾燥させ、超純水でよく洗浄した。続いて、4mg/mlのGLD1を塗布・乾燥させ、上記と同様にグルタルアルデヒドにより架橋固定した。超純水で洗浄後、PBS中に浸漬させ、銀塩化銀参照極、白金対極も浸漬させて、+250mV印加によるクロノアンペロメトリー測定を行った。その結果、グルコースを添加しなかった際と比べて、100μM グルコース添加時に1.3μAの応答電流が観測された。したがって、予め炭素と吸着させた溶液を印刷電極に塗布させても、同様に酵素センサを作製できることが示唆された。なお、単層カーボンナノチューブの代わりに、ケッチェンブラックを用いても、同様の酵素センサを作製できた。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤又は該電極改変剤が吸着した電極を用いることにより、電池等の各種の電気化学的測定を行うことができる。
【0168】
本明細書で言及又は引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【0169】
配列の簡単な説明
配列番号1 Mucor prainii由来GDH(aa)
配列番号2 Mucor prainii由来GDH(DNA)
配列番号3 MpGDH-M2(aa)
配列番号4 MpGDH-M2(DNA)
【配列表】