(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】低粘度光硬化性組成物、硬化物及び電子部品
(51)【国際特許分類】
C08G 18/62 20060101AFI20240117BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C08G18/62 016
C08F2/44 B
(21)【出願番号】P 2020063109
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】木之瀬 葵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】志村 優之
【審査官】山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178288(JP,A)
【文献】特開2019-178260(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090752(WO,A1)
【文献】特開2014-238575(JP,A)
【文献】特開2013-107374(JP,A)
【文献】特開2019-179149(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009157(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107450269(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00-18/87;71/00-71/04
C08F2/00-2/60
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)光重合性多官能モノマー、
(B)光重合開始剤、
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤、
(D)潜在性熱硬化成分
を有
し、
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤が、4-メトキシ-1-ナフトール、9-オキソアントラセン、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンおよび1,4-ナフトキノンからなる群から選択されることを特徴とする低粘度光硬化性組成物。
【請求項2】
(D)潜在性熱硬化成分が、ブロックイソシアネートであることを特徴とする請求項
1に記載の低粘度光硬化性組成物。
【請求項3】
(A)光重合性多官能モノマーが、(A1)25℃における粘度が50mPa・s以下の光重合性2官能モノマーを含むことを特徴とする請求項1
又は2に記載の低粘度光硬化性組成物。
【請求項4】
50℃における粘度が20mPa・s以下であることを特徴とする請求項1~
3の何れか一項に記載の低粘度光硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか一項に記載の低粘度光硬化性組成物の硬化物。
【請求項6】
請求項
5に記載の硬化物を有することを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度光硬化性組成物、その硬化物及び硬化物を有する電子部品に関し、特に、少なくとも光重合反応により硬化されるインクジェット印刷用硬化性組成物、その硬化物及び硬化物を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット印刷用のソルダーレジストに用いられる低粘度光硬化性組成物が提案されている。この光硬化性組成物をインクジェットプリンターにより噴射可能に十分に低い粘度とするために、粘度の制約を広げるべく、印刷時にヘッド部分を加温することで低粘度化する手法が一般的である。
【0003】
しかし、印刷時にヘッド部分が加温されることで光硬化性組成物のインク中に含まれる重合性化合物の重合が加速され、増粘やゲル化の結果粘度が向上してしまうという問題がある。この重合を遅らせるために、一般に重合禁止剤が使用される。
【0004】
特許文献1は、重合禁止剤としてフェノチアジン類とヒンダードフェノール類とを含むインクジェット記録用活性エネルギー線硬化型インク組成物を開示する。特許文献1の組成物によれば、組成物を50℃で40日保管しても経時的な粘度上昇を抑制することができたこと、組成物を光硬化し得たこと、などが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の組成物に対して50℃より高い温度で保管する試験は行われておらず、50℃超の高温に対する組成物の安定性は不明である。また、インクジェット印刷機の中は無酸素状態となっていることが多く、ラジカル重合タイプの重合性化合物を多く使用しているインクジェット用インキは無酸素状態の場合、増粘やゲル化の進行が速いところ、無酸素状態におけるゲル化の有無についても検討されていない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温時や無酸素状態での安定性に優れ、良好な光硬化性及び基板への密着性を示す低粘度光硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的達成に向け鋭意検討を行った。その結果、低粘度光硬化性組成物において、アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤及び潜在性熱硬化成分を配合することで、光硬化性や基板への密着性を維持しつつ、高温時や無酸素状態での安定性の問題が解消されたことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の上記目的は、
(A)光重合性多官能モノマー、
(B)光重合開始剤、
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤、
(D)潜在性熱硬化成分
を有することを特徴とする低粘度光硬化性組成物により達成されることが見出された。
【0010】
本発明の低粘度光硬化性組成物は、(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤が、(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤が、4-メトキシ-1-ナフトール、9-オキソアントラセン、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンおよび1,4-ナフトキノンからなる群から選択されることが好ましい。
【0011】
また、(D)潜在性熱硬化成分が、ブロックイソシアネートであることが好ましい。
【0012】
さらに、(A)光重合性多官能モノマーが、(A1)25℃における粘度が50mPa・s以下の光重合性2官能モノマーを含むことが好ましい。
【0013】
そのうえ、本発明の低粘度光硬化性組成物の50℃における粘度が20mPa・s以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の上記目的は、本発明の低粘度光硬化性組成物の硬化物、及びこの硬化物を有する電子部品によっても達成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、(A)光重合性多官能モノマー及び(B)光重合開始剤に加えて、(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤及び(D)潜在性熱硬化成分が配合されることで、光硬化性や基板への密着性を維持しつつ、高温時や無酸素状態での安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<低粘度光硬化性組成物>
本発明の低粘度光硬化性組成物は、
(A)光重合性多官能モノマー、
(B)光重合開始剤、
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤、
(D)潜在性熱硬化成分
を含む。
【0017】
[(A)光重合性多官能モノマー]
(A)光重合性多官能モノマーは、光重合反応により硬化され、硬化物を形成するために配合される成分である。
【0018】
光重合反応による良好な硬化性を得るために、(A)光重合性多官能モノマーは少なくとも2個のエチレン性不飽和基を有する。なお、エチレン性不飽和基とは、エチレン性不飽和結合を有する置換基であって、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基が挙げられ、反応性の観点から、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタアクリロイル基を総称する用語である。
【0019】
(A)光重合性多官能モノマーは、低粘度光硬化性組成物の粘度を低下させつつ良好な硬化性を得る観点から、(A1)25℃における粘度が50mPa・s以下、特に25℃における粘度が20mPa・s以下の光重合性2官能モノマーを含むことが好ましい。
【0020】
(A1)25℃における粘度が50mPa・s以下の光重合性2官能モノマーは、アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである二官能(メタ)アクリロイル基含有モノマーが挙げられる。
【0021】
アルキレングリコールは、モノアルキレングリコールでも、2以上のアルキレングリコールの繰り返し構造を有するものであってもよい。モノアルキレングリコールとしては、炭素数3~16個、好ましくは炭素数6~9個の直鎖又は分岐鎖のアルキレンジオールが挙げられる。
【0022】
2以上のアルキレングリコールの繰り返し構造を有するものとしては、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、トリブチレングリコールなどが挙げられる。
【0023】
具体的には、(A1)25℃における粘度が50mPa・s以下の光重合性2官能モノマーとしては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
(A1)25℃における粘度が50mPa・s以下の光重合性2官能モノマーの市販品としては、2G(新中村化学工業社製)、3G(新中村化学工業社製)、DPGDA(ダイセル・オルネクス社製)、T0948(東京化成工業株式会社製)、T2389(東京化成工業株式会社製)、ビスコート#310HP(大阪有機化学工業株式会社製)、PE-200(第一工業製薬株式会社製)、PE-300(第一工業製薬株式会社製)、HDDA(ダイセル・オルネクス社製)、L-C9A(第一工業製薬株式会社製)、A-NOD-N(新中村化学工業社製)、B1065(東京化成工業株式会社製)などが挙げられる。
【0025】
また、(A)光重合性多官能モノマーは、熱履歴後においても良好な導体への密着性および膜硬度等のソルダーレジストとしての機能性を付与するため、環状骨格を有する光重合性多官能モノマーを含むことが好ましい。
【0026】
環状骨格は、環構造が炭素のみにより形成される環状炭素骨格及び環構造中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子等の炭素原子以外の原子を含む複素環骨格を含む。さらに、環構造は芳香環であっても、飽和又は不飽和の環構造であってもよい。
【0027】
芳香環を有する光重合性多官能モノマーは、例えば、多価フェノールの(メタ)アクリレートや、そのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0028】
多価フェノールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールPH、ビスフェノールZなどのビスフェノール類、ビフェノールなどが挙げられる。
【0029】
また、飽和または不飽和の環構造を有する光重合性多官能モノマーは、上記多価フェノールの(メタ)アクリレートの水素添加物や、トリシクロデカンジメタノールのジ(メタ)アクリレート、シクロヘキシルジアクリレート等の炭素環を有するジオールのジ(メタ)アクリレートや、そのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0030】
アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられる。アルキレンオキサイドの付加数は6以下であることが好ましい。
【0031】
環状骨格を有する光重合性多官能モノマーの市販品としては、ABE-300(新中村化学工業社製)、BPE―80N(新中村化学工業社製)、BPE―100(新中村化学工業社製)、A-BPE-4(新中村化学工業社製)、BPE-4(第一工業製薬株式会社製)、BPE-10(第一工業製薬株式会社製)、BPE―200(新中村化学工業社製)、HBPE-4(第一工業製薬株式会社製)、TEICA(第一工業製薬株式会社製)、アロニックスM-208(東亜合成株式会社製)、EBECRYL 150(ダイセル・オルネクス株式会社製)、IRR 214-K(ダイセル・オルネクス株式会社製)、EBECRYL 130(ダイセル・オルネクス株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
また、光重合反応による硬化性をさらに向上させるため、(A)光重合性多官能モノマーが3個以上のエチレン性不飽和基を有する光重合性多官能モノマーを含むことが好ましい。
【0033】
3個以上のエチレン性不飽和基を有する光重合性多官能モノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールメタントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸トリアクリレート、プロピレンオキサイド変性リン酸トリアクリレート、エピクロルヒドリン変性グリセロールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、あるいはこれらのシルセスキオキサン変性物等に代表される多官能アクリレート、あるいはこれらに対応するメタアクリレートモノマー、εカプロラクトン変性トリスアクリロキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。
【0034】
さらに、3個以上のエチレン性不飽和基を有する光重合性多官能モノマーは、多分岐状のオリゴマー又はポリマーであってもよい。この場合、多分岐状のオリゴマー又はポリマー(1分子中に複数の分岐鎖を有するオリゴマー又はポリマーのことをいう)は、多分岐状のオリゴマー又はポリマー骨格にエチレン性不飽和基を少なくとも3個有する化合物である。
【0035】
3個以上のエチレン性不飽和基を有する多分岐状のオリゴマー又はポリマー(以下、単に多分岐状のオリゴマー又はポリマーともいう)としては、デンドリマー構造(樹状構造)を有する化合物(以下、単にデンドリマーともいう)、ハイパーブランチ(超分岐)構造を有する化合物(以下、単にハイパーブランチ(オリゴマー、ポリマー)ともいう)、スター構造を有する化合物(オリゴマー、ポリマー)、及びグラフト構造を有する化合物(オリゴマー、ポリマー)であって、エチレン性不飽和結合を有する官能基、例えば(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。
【0036】
なお、本発明でデンドリマーは、枝分岐鎖が放射状に広がった構造を有する化合物を広く称する。デンドリマーの具体的種類は特に限定されず、アミドアミン系デンドリマー、フェニルエーテル系デンドリマー、ハイパーブランチポリエチレングリコールなど公知のものから1種以上を選択することができる。
【0037】
多分岐状のオリゴマー又はポリマーは、重量平均分子量(Mw)が、一般に1000~20000、好ましくは1000~8000である。重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフ測定に基づく分子量分布曲線に基づくポリスチレン換算の分子量である。
【0038】
本発明の多分岐状のオリゴマー又はポリマーの一分子中のエチレン性不飽和結合を有する官能基数、特に(メタ)アクリロイル基の数は、3以上であり、特に4~30の範囲であることが好ましく、本発明の組成物の所望の効果が損なわれない範囲で選択される。
【0039】
デンドリマーの製造方法は特に限定されず、中心コア分子に世代ごとに分子を結合させて分岐を形成するダイバージェント法、予め合成した枝部分をコア分子に結合させるコンバージェント法、2以上の反応点Bを有する分岐部分と別の反応点Aを有するつなぎ部分とを1分子内に持つモノマーABxを用いて1段階で合成する方法など公知の製造方法を採用することができる。
【0040】
デンドリマーは市販品を用いることも可能であり、例えば、Etercure 6361-100 (Eternal Materials社製)、Doublermer(DM)2015(Double Bond Chamical社製)、SP1106(Miwon Specialty Chemical社製)、ビスコート#1000(大阪有機化学工業株式会社製)を挙げることができる。
【0041】
このほか、デンドリマーはIris Biotech社、関東化学社、Merk Millipore社、QIAGEN社、Sigma-Aldrich社、テクノケミカル社、Double Bond Chamical社、大阪有機化学工業社、伯東社などから入手可能である。
【0042】
(A)光重合性多官能モノマーは、(A)光重合性多官能モノマーと後述する光重合性モノマー((A)光重合性多官能モノマーを除く)の合計量が、固形分換算で、低粘度光硬化性組成物100質量部あたり、好ましくは60質量部以上95質量部以下であり、より好ましくは65質量部以上90質量部以下であり、特に好ましくは70質量部以上90質量部以下であるように配合される。
【0043】
(A)光重合性多官能モノマーと後述する光重合性モノマー((A)光重合性多官能モノマーを除く)の合計量が固形分換算で、低粘度光硬化性組成物100質量部あたり60質量部以上95質量部以下であることで、光重合反応による本発明の低粘度光硬化性組成物の硬化を実現することができる。
【0044】
[(B)光重合開始剤]
(B)光重合開始剤としてはエネルギー線の照射により、(メタ)アクリレートを重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、ラジカル重合開始剤が使用できる。
【0045】
当該(B)光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、N,N-ジメチルアミノアセトフェノン等のアミノアセトフェノン類;2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;リボフラビンテトラブチレート;2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物;2,4,6-トリス-s-トリアジン、2,2,2-トリブロモエタノール、トリブロモメチルフェニルスルホン等の有機ハロゲン化合物;ベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類またはキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド;1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類などが挙げられる。
【0046】
上記(B)光重合開始剤は、1種単独で、または2種以上を混合して使用することができる。また更に、これらに加え、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類などの光開始助剤を使用することができる。また、可視光領域に吸収のあるOmnirad 784等(IGM Resins B.V.社製)のチタノセン化合物等も、光反応を促進するために(B)光重合開始剤に添加することもできる。尚、光ラジカル重合開始剤に添加する成分はこれらに限られるものではなく、紫外光もしくは可視光領域で光を吸収し、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基をラジカル重合させるものであれば、光重合開始剤、光開始助剤に限らず、単独であるいは複数併用して使用できる。
【0047】
(B)光重合開始剤の配合量は、固形分換算で、インクジェット印刷用硬化性組成物100質量部に対して、好ましくは0.5~25質量部、より好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは5~10質量部である。
【0048】
光重合開始剤で市販されているものの製品名としては、例えば、TOE-04-A3(日本化学工業所製)、Omnirad 907、Omnirad 127、Omnirad 379EG(何れもIGM Resins B.V.社製)、LUNACURE2-ITX(DKSHジャパン社製)等が挙げられる。
【0049】
[(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤]
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤は、本発明のインクジェット印刷用硬化性組成物の系において、インクジェット印刷用硬化性組成物の保存安定性、特に、高温保存時や高温無酸素(乃至は高温低酸素)保存時の安定性を高めるために添加される。
【0050】
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤のアントラセン骨格は、式(1)
【化1】
で表されるアントラセン骨格だけでなく、式(2)
【0051】
【0052】
アントラセン骨格含有重合禁止剤は、式(3)
【化3】
(式(3)中、R
1~R
8は、それぞれ独立して、水素、水酸基、および炭素数1個以上3個以下の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる群から選択される)で表される化合物であることが好ましい。
【0053】
なお、式(3)の化合物のエノール型互変異体である式(4)
【化4】
(式(4)中、R
1~R
8は、それぞれ独立して、水素、水酸基、および炭素数1個以上3個以下の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる群から選択される)で表される化合物もアントラセン骨格含有重合禁止剤に含まれる。
【0054】
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤のナフレレン骨格は、式(5)
【化5】
で表されるナフタレン骨格だけでなく、式(6)
【化6】
で表されるような水素付加物も含む。
【0055】
ナフタレン骨格含有重合禁止剤は、式(7)
【化7】
(式(7)中、
R
1~R
2およびR
4~R
7は、それぞれ独立して、水素、水酸基、および炭素数1個以上3個以下の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる群から選択され、
R
3は、水素、水酸基、メトキシ基、および炭素数1個以上3個以下の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる群から選択される)で表される化合物であるか、又は式(8)
【化8】
(式(8)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して、水素、水酸基、および炭素数1個以上3個以下の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる群から選択される)で表される化合物であることが好ましい。
【0056】
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤は、好ましくは、4-メトキシ-1-ナフトール、9-オキソアントラセン、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンおよび1,4-ナフトキノンからなる群から選択される。
【0057】
これらの(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤のうち、4-メトキシ-1-ナフトールはキノパワーQS-30として川崎化成工業社から、9-オキソアントラセンはキノパワーATRとして川崎化成工業社から、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンはキノパワーLSNとして川崎化成工業社から、1,4-ナフトキノンはキノパワーNQIとして川崎化成工業社から、それぞれ市販されている。
【0058】
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤は、単独で、あるいは複数併用して使用することができ、また従来公知の重合禁止剤とも併用することができる。しかし、インクジェット印刷用硬化性組成物の高温保存時や高温無酸素(乃至は高温低酸素)保存時の安定性を高める観点から、(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤の単独使用または複数併用とすることが好ましい。
【0059】
(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤の配合量は、固形分換算で、低粘度光硬化性組成物100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.05質量部以上1質量部以下である。(C)アントラセン骨格またはナフタレン骨格含有重合禁止剤の配合量が固形分換算で、低粘度光硬化性組成物100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下であることで、低粘度光硬化性組成物の高温時や無酸素状態での安定性と、良好な光硬化性と、が兼備される。
【0060】
[(D)潜在性熱硬化成分]
(D)潜在性熱硬化成分は、熱硬化性成分に潜在性を持たせた成分である。本発明において、潜在性とは、常温や少々の加温条件では活性を示さないが、110℃以上の高温での加熱により活性化して熱硬化性を示す性質を意味するものとする。
【0061】
(D)潜在性熱硬化成分としては、低粘度光硬化性組成物中で固体として存在し、加熱により溶解して活性化する熱硬化性成分、熱で溶解するマイクロカプセル中に封入された熱硬化性成分、活性基がブロック剤により保護された熱硬化性成分などが挙げられる。
【0062】
熱硬化性成分としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン誘導体、ベンゾグアナミン誘導体等のアミノ樹脂、イソシアネート化合物、シクロカーボネート化合物、環状(チオ)エーテル基を有する熱硬化成分、ビスマレイミド、カルボジイミド樹脂等の公知の熱硬化性樹脂が挙げることができ、これらの熱硬化成分に対して上記の手法により潜在性を付与し、(D)潜在性熱硬化成分とすることができる。
【0063】
中でも、潜在性に優れる観点から、(D)潜在性熱硬化成分としては、活性基がブロック剤により保護された熱硬化性成分が好ましく、特にブロックイソシアネート化合物を用いることが好ましい。
【0064】
ブロックイソシアネート化合物は、1分子内に複数のブロック化イソシアネート基を有する化合物である。なお、ブロック化イソシアネート基とは、イソシアネート基がブロック剤との反応により保護されて一時的に不活性化された基であり、所定温度に加熱されたときにそのブロック剤が解離してイソシアネート基が生成する。上記ブロックイソシアネート化合物を加えることにより硬化性および得られる硬化物の強靭性を向上させることができる。
【0065】
ブロックイソシアネート化合物としては、イソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤との付加反応生成物が用いられる。ブロック剤と反応し得るイソシアネート化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートまたは脂環式ポリイソシアネート等のポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0066】
イソシアネートブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノールおよびエチルフェノール等のフェノール系ブロック剤;ε-カプロラクタム、δ-パレロラクタム、γ-ブチロラクタムおよびβ-プロピオラクタム等のラクタム系ブロック剤;アセト酢酸エチルおよびアセチルアセトン等の活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチルおよび乳酸エチル等のアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール等のメルカプタン系ブロック剤;酢酸アミド、ベンズアミド等の酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミドおよびマレイン酸イミド等のイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミン等のアミン系ブロック剤;イミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミンおよびプロピレンイミン等のイミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤等が挙げられる。
【0067】
ブロックイソシアネート化合物は市販のものであってもよく、例えば、デュラネートTPA-B80E、デュラネート17B-60PX、デュラネートE402-B80T(いずれも旭化成社製)、BI7950、BI7951、BI7960、BI7961、BI7982、BI7990、BI7991、BI7992(いずれもBaxenden chemicals社製)等が挙げられる。このような1分子内に複数のブロック化イソシアネート基を有する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(D)潜在性熱硬化成分の配合量は、固形分換算で、本発明の低粘度光硬化性組成物100質量部あたり1質量部以上30質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがさらに好ましい。(D)潜在性熱硬化成分の配合量が、固形分換算で、本発明の低粘度光硬化性組成物100質量部あたり1質量部以上30質量部以下であることで、低粘度光硬化性組成物の高温時や無酸素状態での安定性を高めつつ、基板への密着性を良好なものとし、さらに、ソルダーレジストとしての各種特性も良好なものとすることができる。
【0069】
[光重合性モノマー((A)光重合性多官能モノマーを除く)]
さらに、本発明の低粘度光硬化性組成物は、上記(A)光重合性多官能モノマー以外にも、様々な目的でエチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーを含んでいてもよい。
【0070】
このような光重合性モノマーとしては、水酸基を有する(メタ)アクリレート、少なくとも1個のエポキシ基を含む(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0071】
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。市販品としてはアロニックスM-5700(東亞合成社製の商品名)、4HBA、2HEA、CHDMMA(以上、日本化成社製の商品名)、BHEA、HPA、HEMA、HPMA(以上、日本触媒社製の商品名)、ライトエステルHO、ライトエステルHOP、ライトエステルHOA(以上、共栄社化学社製の商品名)等がある。水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物は1種類または複数種類を組み合わせて用いることができる。
【0072】
このうち、特に2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートが好ましく用いられる。また、粘度調整の容易さの観点から、単官能(メタ)アクリレート化合物が好ましく用いられる。
【0073】
水酸基を有する(メタ)アクリレートは低粘度であることから、本発明の低粘度光硬化性組成物がこれを含むことで強固な塗膜を形成できることに加えて、低粘度光硬化性組成物の粘度調整が容易となる。
【0074】
また、少なくとも1個のエポキシ基を含む(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ビスフェノールE型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、脂肪族エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0075】
少なくとも1個のエポキシ基を含む(メタ)アクリレートの市販品としては、UVACURE 1561(ダイセル・オルネクス社製の商品名)、NKオリゴ EA-1010N、EA-1010LC、EA-1010NT2(以上新中村化学工業社製の商品名)等が挙げられる。
【0076】
本発明の低粘度光硬化性組成物が、少なくとも1個のエポキシ基を含む(メタ)アクリレートを含むことで、強固な塗膜を形成できることに加えて、基板上の銅等の金属への塗膜の密着性が向上する。
【0077】
さらに、本発明の低粘度光硬化性組成物は、その他の光重合性単官能モノマーを含んでいてもよい。
【0078】
その他の光重合性単官能モノマーとしては、粘度調整や銅等の金属への密着性向上を目的として、ポリアルキレングリコールモノエーテルと(メタ)アクリル酸とのエステル、直鎖又は分岐鎖脂肪酸の(メタ)アクリレートおよびそれらのアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。
【0079】
ポリアルキレングリコールモノエーテルと(メタ)アクリル酸とのエステルおよびそのアルキレンオキシド付加物の市販品としては、AM-90G、M-90G、AM-130G(以上、新中村化学工業社製)、MPEM-400(第一工業製薬社製)などが挙げられ、直鎖又は分岐鎖脂肪酸の(メタ)アクリレートおよびそのアルキレンオキシド付加物の市販品としては、S、S-1800A(以上、新中村化学工業社製)、M-120(東亞合成社製)などが挙げられる。
【0080】
本発明の低粘度光硬化性組成物には、着色を目的として、着色顔料や染料等を添加しても良い。着色顔料や染料等としては、カラ-インデックスで表される公知慣用のものが使用可能である。例えば、Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、60、Solvent Blue 35、63、68、70、83、87、94、97、122、136、67、70、PigmentGreen 7、 36、3、5、20、28、Solvent Yellow 163、Pigment Yellow 24、108、193、147、199、202、110、109、139 179 185 93、94、95、128、155、166、180、120、151、154、156、175、181、1、2、3、4、5、6、9、10、12、61、62、62:1、65、73、74、75、97、100、104、105、111、116、167、168、169、182、183、12、13、14、16、17、55、63、81、83、87、126、127、152、170、172、174、176、188、 198、Pigment Orange 1、5、13、14、16、17、24、34、36、38、40、43、46、49、51、61、63、64、71、73、Pigment Red 1、2、3、4、5、6、8、9、12、14、15、16、17、21、22、23、31、32、112、114、146、147、151、170、184、187、188、193、210、245、253、258、266、267、268、269、37、38、41、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、49:2、50:1、52:1、52:2、53:1、53:2、57:1、58:4、63:1、63:2、64:1、68、171、175、176、185、208、123、149、166、178、179、190、194、224、254、255、264、270、272、220、144、166、214、220、221、242、168、177、216、122、202、206、207、209、Solvent Red 135、179、149、150、52、207、PigmentViolet 19、23、29、32、36、38、42、Solvent Violet 13、36、Pigment Brown 23、25、PigmentBlack1、7等が挙げられる。これら着色顔料・染料等は、固形分換算で、低粘度光硬化性組成物100質量部に対して、0.01~8質量部添加することが好ましい。
【0081】
本発明の低粘度光硬化性組成物は、インクジェット法による印刷に適用される。インクジェット法による印刷に適用可能とするためには、インクジェットプリンターにより噴射可能な粘度であることが必要である。
【0082】
本発明において、粘度とは、JIS Z8803:2011の10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準じ、具体的には、本発明の低粘度光硬化性組成物の温度25℃または50℃において、100rpm、30秒値とし、コーンロータとして1°34′×R24を用いたコーンプレート型粘度計(TVE-33H、東機産業社製)にて測定した値である。また、本発明の低粘度光硬化性組成物の粘度は常温(25℃)で150mPa・s以下であることが好ましい。インクジェットプリンターに使用するインクの粘度は塗布時の温度(50℃)において約20mPa・s以下であることが好ましい。しかし、常温で150mPa・s以下の粘度であれば、塗布前、若しくは塗布時の加温によって上記条件を充足することができる。
【0083】
従って、本発明の低粘度光硬化性組成物によりプリント配線板用の基板等に、インクジェット印刷法により直接パターンを印刷することができる。
【0084】
さらに、本発明の低粘度光硬化性組成物は、常温では重合反応が生じないため、一液型の硬化性組成物として安定に保存可能である。
【0085】
本発明の低粘度光硬化性組成物はインクジェットプリンターにインクとして供給され、基板上への印刷に使用される。
【0086】
<低粘度光硬化性組成物の硬化物>
本発明の低粘度光硬化性組成物の硬化物は、例えば、上記印刷直後の組成物層に50mJ/cm2~1000mJ/cm2の光照射を行うことにより組成物層を光硬化させることで得られる。光照射は、紫外線、電子線、化学線等の活性エネルギー線の照射により、好ましくは紫外線照射により行われる。
【0087】
インクジェットプリンターにおける紫外線照射は、例えばプリントヘッドの側面に高圧水銀灯、メタルハライドランプ、紫外線LEDなどの光源を取り付け、プリントヘッドもしくは基材を動かすことによる走査を行うことにより行うことができる。この場合は、印刷と、紫外線照射とをほぼ同時に行なえる。
【0088】
光硬化後の硬化物は、公知の加熱手段、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の加熱炉を用いることにより熱硬化する。加熱条件としては、130℃~170℃にて5分~90分加熱することが好ましい。
【0089】
<低粘度光硬化性組成物の硬化物を有する電子部品>
このように基板等の基材上にパターン印刷した低粘度光硬化性組成物からなる被膜(硬化物)がソルダーレジストとして用いられる場合、部品の実装のためのはんだ付け工程で加熱される。はんだ付けは、手はんだ付け、フローはんだ付け、リフローはんだ付け等のいずれで行われてもよいが、例えば、リフローはんだ付けの場合には、100℃~140℃で1~4時間の予熱と、その後、240~280℃で5~20秒程度の加熱を複数回(例えば、2~4回)繰り返してはんだを加熱・溶融させるリフロー工程に供され、冷却後、必要により部品が実装された電子部品が完成する。
【0090】
なお、本発明において電子部品とは、電子回路に使用する部品を意味し、プリント配線板、トランジスタ、発光ダイオード、レーザーダイオード等の能動部品の他抵抗、コンデンサ、インダクタ、コネクタ等の受動部品も含まれ、本発明の低粘度光硬化性組成物の硬化物がこれらの絶縁性硬化塗膜として、本発明の効果を奏するものである。
【0091】
また、基板が、いわゆるリジッド基板、すなわち、両面に配線がプリントされた両面板や基板を積層させてなる多層板である場合には、上記低粘度光硬化性組成物からなる被膜を有する基板が複数回上記はんだ付け工程に供され、繰り返し加熱されることとなる。
【0092】
本発明の低粘度光硬化性組成物によれば、得られた被膜(硬化物)は、複数回のはんだ付けを想定した熱履歴を受けた後においても十分な基板との密着性及び被膜硬度を維持しており、リジッド基板上に施されるソルダーレジストとして期待される良好な機械的特性を有する。
【0093】
本発明の低粘度光硬化性組成物は、高温時や無酸素状態での安定性に優れ、良好な光硬化性を示す。さらに、熱硬化後には、基板への密着性、はんだ耐熱性、金めっき耐性、耐酸性、耐溶剤性、耐アルカリ性に優れることから種々の用途に適用可能であり、適用対象に特に制限はない。例えば、インクジェット法を用いたプリント配線板のエッチングレジスト、ソルダーレジスト、マーキングレジストの作製等の用いることができ、中でも高い耐熱性が要求されるソルダーレジストとして好適に用いることができる。
【0094】
また、UV成形品材料、光造形用材料、3Dインクジェット用材料などの用途にも利用可能である。
【0095】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成および実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は質量部を意味するものとする。
【0097】
[実施例1~7及び比較例1~4]
1.低粘度光硬化性組成物の調製
表1に示す割合(単位:質量部)で各成分を配合し、これをディゾルバーで撹拌した。その後、ビーズミルを用いて1mmのジルコニアビーズにて分散を2時間行い、本発明の低粘度光硬化性組成物(実施例1~7)及び本発明によらない組成物(比較例1~4)を得た。
【0098】
前記各低粘度光硬化性組成物について、以下に示すように、試験用試料を作成し、25℃粘度、50℃粘度、60℃保管10日間増粘率、無酸素状態での安定性(ゲル化の有無)、連続吐出性、表面硬化性、基板への密着性、はんだ耐熱性、金めっき耐性、耐酸性、耐溶剤性及び耐アルカリ性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0099】
<評価方法>
(1)25℃粘度
上記「1.低粘度光硬化性組成物の調製」で得られた各低粘度光硬化性組成物の粘度について、組成物の温度25℃、100rpm、30秒値とし、コーンロータとして1°34′×R24を用いたコーンプレート型粘度計(TVE-33H、東機産業社製)にて測定し、以下の基準で25℃粘度を評価した。
【0100】
◎:30mPa・s以下
○:30mPa・s超40mPa・s以下
×:40mPa・s超
【0101】
(2)50℃粘度
上記「1.低粘度光硬化性組成物の調製」で得られた各低粘度光硬化性組成物の粘度について、組成物の温度50℃、100rpm、30秒値とし、コーンロータとして1°34′×R24を用いたコーンプレート型粘度計(TVE-33H、東機産業社製)にて測定し、以下の基準で50℃粘度を評価した。
【0102】
◎:10mPa・s以下
○:10mPa・s超20mPa・s以下
×:20mPa・s超
【0103】
(3)60℃保管10日間増粘率
上記「1.低粘度光硬化性組成物の調製」で得られた各低粘度光硬化性組成物100gを160mlのポリエチレン製容器に入れ、60℃(※)の恒温槽に10日間保管した後、組成物の温度25℃、100rpmにおける粘度をコーンプレート型粘度計(TVH-33H、東機産業社製)にて測定し、初期の粘度からの増粘率を以下の式により算出した。
【0104】
(増粘率)=(10日後の粘度)/(初期粘度)
結果は以下の基準に基づき評価した。
【0105】
◎:15%以下
○:15%超30%以下
△:30%超
×:ゲル化
(※インクジェットプリンターに使用する組成物の塗布時のプリントヘッドにおける温度は通常50℃であるが、本試験においてはさらに過酷な60℃の温度条件とした加速試験を行った。)
【0106】
(4)無酸素状態での安定性(ゲル化の有無)
上記「1.低粘度光硬化性組成物の調製」で得られた各低粘度光硬化性組成物25gを30mlのポリエチレン製容器に入れたものをそれぞれ7点ずつ用意し、60℃の恒温槽に投入した。1日ごとに各サンプルを1点ずつ取り出し、ゲル化の有無を観察した。評価は7日間行った。結果は以下の基準に基づき評価した。
【0107】
◎:7日後ゲル化なし
○:2日後までゲル化なし
△:1日後ゲル化なし
×:1日後ゲル化
【0108】
(5)連続吐出性
富士グローバルグラフィックシステムズ社製マテリアルプリンターDMP-2831を用い、上記「1.低粘度光硬化性組成物の調製」で得られた各低粘度光硬化性組成物を1時間連続で吐出し、試験の前後で16個のノズルのうち詰まりが生じたノズルの数を数え、以下の基準に基づき評価した。
【0109】
◎:正常ノズル15個以上
○:正常ノズル10個以上14個以下
△:正常ノズル0個以上9個以下
×:ゲル化のため測定不能
【0110】
(6)表面硬化性
上記「1.低粘度光硬化性組成物の調製」で得られた各低粘度光硬化性組成物をアプリケーター(ERICHSEN社製)を使用して塗布厚60μmで銅張積層板(MCL-E-67(WK)、日立化成社製)上に塗布し、高圧水銀灯(HMW-713、ORC社製)で150mJ/cm2を照射して仮硬化を行った。その後、仮硬化後の塗膜の表面を指で触り、指紋の有無を観察した。また、塗膜の表面をペーパーウエス(テクノパワークロスレイ4つ折り、日本製紙クレシア株式会社製)を用いて10回擦り、ペーパーウエスへの色移りの有無を観察した。結果は、以下の基準に基づき評価した。
【0111】
◎:指紋無し/色移り無し
○:指紋無し/色移り少し有り
△:指紋有り/色移り少し有り
×:指紋有り/色移りかなり有り
【0112】
(7)基板への密着性
上記「1.低粘度光硬化性組成物の調製」で得られた各低粘度光硬化性組成物をアプリケーター(ERICHSEN社製)を使用して塗布厚60μmで銅張積層板(MCL-E-67(WK)、日立化成社製)上に塗布し、その後、高圧水銀灯(HMW-713、ORC社製)で150mJ/cm2を照射して仮硬化を行った。この仮硬化した基板に対して150℃の熱風循環式乾燥炉(DF160、ヤマト科学株式会社製)にて60分間加熱処理を行った。その後、高圧水銀灯(HMW-713、ORC社製)で1000mJ/cm2を照射し、硬化塗膜を有する基板を得た。この基板に対してクロスカットテープピール試験を実施した。結果は、碁盤目の残存数が100個のうち何個あるかを数えて、以下の基準に基づき評価した。
【0113】
碁盤目の残存数が、
◎:100個
○:90個以上99個以下
△:60個以上89個以下
×:59個以下
【0114】
(8)はんだ耐熱性
上記「(7)基板への密着性」と同じ条件で得られた硬化塗膜を有する基板の硬化塗膜に対してロジン系フラックスを塗布し、260℃のはんだ槽に10秒間浸漬することを3回繰り返し、クロスカットテープピール試験を実施した。結果は、碁盤目の残存数が100個のうち何個あるかを数えて、以下の基準に基づき評価した。
【0115】
◎:100個
○:90個以上99個以下
△:60個以上89個以下
×:59個以下
【0116】
(9)金めっき耐性
上記「(7)基板への密着性」と同じ条件で得られた硬化塗膜を有する基板の硬化塗膜に無電解ニッケルめっき浴および無電解金めっき浴を用いて、ニッケル0.5μm→金0.03μmの条件でめっきを行い、クロスカットテープピール試験を実施した。結果は、碁盤目の残存数が100個のうち何個あるかを数えて、以下の基準に基づき評価した。
【0117】
碁盤目の残存数が、
◎:100個
○:90個以上99個以下
△:60個以上89個以下
×:59個以下
【0118】
(10)耐溶剤性
上記「(7)基板への密着性」と同じ条件で得られた硬化塗膜を有する基板をクロスカットテープピール試験に基づきクロスカットした後、PMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)に20℃で20分浸漬し、染み込みや塗膜の溶けだしを目視にて確認し、クロスカットテープピール試験のピール試験部分を実施し、碁盤目の残存数が100個のうち何個あるかを数えて、以下の基準に基づき評価した。
【0119】
碁盤目の残存数が、
◎:100個
○:90個以上99個以下
△:60個以上89個以下
×:59個以下
【0120】
(11)耐酸性
上記「(7)基板への密着性」と同じ条件で得られた硬化塗膜を有する基板の硬化塗膜に10体積%のHCl水溶液に室温で30分間浸漬し、染み込みや塗膜の溶け出しを目視にて確認し、さらにこの塩酸水溶液浸漬後の基板に対してクロスカットテープピール試験を実施し、碁盤目の残存数が100個のうち何個あるかを数えて、以下の基準に基づき評価した。
【0121】
碁盤目の残存数が、
◎:100個
○:90個以上99個以下
△:60個以上89個以下
×:59個以下
【0122】
(12)耐アルカリ性
上記「(7)基板への密着性」と同じ条件で得られた硬化塗膜を有する基板の硬化塗膜に10体積%のNaOH水溶液に室温で30分間浸漬し、染み込みや塗膜の溶け出しを目視にて確認し、さらにこの塩酸水溶液浸漬後の基板に対してクロスカットテープピール試験を実施し、碁盤目の残存数が100個のうち何個あるかを数えて、以下の基準に基づき評価した。
【0123】
碁盤目の残存数が、
◎:100個
○:90個以上99個以下
△:60個以上89個以下
×:59個以下
【0124】
【0125】
*1:15官能デンドリマー(Mw3000)(DM2015:Eternal Material社製)
*2:ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA:ダイセル・オルネクス社製)
*3:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA:ダイセル・オルネクス社製)
*4:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(A-BPE-4:新中村化学社製)
*5:4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA:三菱ケミカル社製)
*6:アクリロイル基とグリシジルエーテルを有するモノマー(EA-1010LC:新中村化学社製)
*7:メトキシポリエチレングリコール♯400アクリレート(AM-90G:新中村化学社製)
*8:2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(Omnirad 379:IGM Resins B.V.社製)
*9:オキシムエステル系光重合開始剤(TOE-04-A3:日本化学工業所製)
*10:2-イソプロピルチオキサントン(LUNACURE 2-ITX:DKSHジャパン社製)
*11:4-メトキシ-1-ナフトール(キノパワーQS-30:川崎化成工業社製)
*12:9-オキソアントラセン(キノパワーATR:川崎化成工業社製)
*13:2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン(キノパワーLSN:川崎化成工業社製)
*14:1,4-ナフトキノン(キノパワーNQI:川崎化成工業社製)
*15:4-メトキシフェノール(M0123:東京化成工業社製)
*16:フェノチアジン(P0106:東京化成工業社製)
*17:3官能ブロックイソシアネート(SBL-100:旭化成社製)
*18:フタロシアニンブルー(FASTOGEN BLUEシリーズ:DIC社製)
*19:クロモフタルエロー(クロモフタルエローGR:BASF社製)
【0126】
表1に示すように、本発明に係る実施例1~7は、60℃の高温時や無酸素状態での安定性に優れ、良好な光硬化性、基板への密着性および連続吐出性を示した。
【0127】
また、本発明に係る低粘度光硬化性組成物は熱硬化後において良好なはんだ耐熱性、金めっき耐性、耐酸性、耐薬剤性および耐アルカリ性を示す。
【0128】
そのうえ、実施例1~4、6、7に示すように、(A)光重合性多官能モノマーが(A1)25℃における粘度が50mPa・s以下の光重合性2官能モノマーを含むことで、耐酸性、耐薬剤性および耐アルカリ性といったソルダーレジストに求められる特性をさらに高めることができる。また、(A)光重合性多官能モノマーとして、さらに3官能モノマーを含むことで、上記特性に加えて、はんだ耐熱性、金めっき耐性の特性をより高めることができる。