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特許7421406インコヒーレントディジタルホログラム撮像装置およびその撮像方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】インコヒーレントディジタルホログラム撮像装置およびその撮像方法
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/06 20060101AFI20240117BHJP
   G03H 1/22 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G03H1/06
G03H1/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020076258
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021173822
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】木下 延博
(72)【発明者】
【氏名】石井 紀彦
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0139561(US,A1)
【文献】特表2017-520801(JP,A)
【文献】特開2004-340663(JP,A)
【文献】特開2020-60709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00 - 26/08
G03H 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体からのインコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割する光分割手段と、
該第1分割光および該第2分割光の少なくとも一方の波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与する位相分布可変手段と、
前記位相分布可変手段を通過した前記第1分割光および前記第2分割光からなる2つの光波を合成する光合成手段と、
この光合成手段により合成された前記第1分割光および前記第2分割光が、互いに干渉して形成された干渉縞を撮像する干渉縞撮像手段と、
物体の一部分のみの光を前記光分割手段方向に導く、前記物体と照明の間の位置、または前記物体と前記光分割手段の間の位置に配設された開口手段と、
該開口手段の開口の位置を移動させ、設定する開口位置移動設定手段と、
前記開口位置移動設定手段により該開口手段の該開口の位置を移動させ、移動させた各位置毎に前記干渉縞撮像手段により撮像された干渉縞に基づき前記物体のホログラムを得、該開口の位置毎に得られたホログラムに基づき、前記物体全体の再構成画像を得る再構成画像演算手段と、
を備えたことを特徴とするインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置。
【請求項2】
前記開口手段が、前記物体と前記光分割手段の間の位置に配設された場合に、前記開口手段の開口の位置に物体の像を結像するレンズを設けたことを特徴とする請求項1に記載のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置。
【請求項3】
得られた複数の前記ホログラムを互いに合成して合成ホログラムを得、該合成ホログラムに基づき前記物体全体の再構成画像を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置。
【請求項4】
得られた複数の前記ホログラムの各々から前記物体の各部分の再構成画像を得、得られた前記物体の各部分の再構成画像に基づき前記物体全体の再構成画像を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置。
【請求項5】
物体からのインコヒーレントな光波のうち一部分のみを開口を通して光分割手段方向に導き、該物体からのインコヒーレントな光波を該光分割手段により第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割し、該第1分割光および該第2分割光の少なくとも一方の波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与し、相対的に球面位相の分布が付与された前記第1分割光および前記第2分割光を合波し、この合波により得られた干渉縞を撮像する干渉縞取得工程と、
撮像された干渉縞に基づいて前記物体の一部に係るホログラムを得る工程とを、
前記開口を移動設定する度に、繰り返し行って、その度に得られた前記物体の一部に係るホログラムに基づき、前記物体全体の再構成画像を得、
前記開口は、前記物体と照明の間の位置、または前記物体と前記光分割手段の間の位置に配される開口手段に設ける、
ことを特徴とするインコヒーレントディジタルホログラム撮像方法。
【請求項6】
前記開口手段が、前記物体と前記光分割手段の間の位置に配される場合に、所定のレンズにより前記開口の位置に該物体の像を結像することを特徴とする請求項5に記載のインコヒーレントディジタルホログラム撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インコヒーレントディジタルホログラム撮像装置およびその撮像方法に関し、特に、3次元テレビシステム等に用いられるインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インコヒーレントホログラフィの技術では、レーザなどのコヒーレンスが高い光源を必要とせず、太陽光や蛍光などのコヒーレンス性が低い光源を用いて、物体のホログラムを記録することができる。このように、インコヒーレントホログラフィは、従来のホログラフィで要求されていた光源のコヒーレンス性の条件を緩和できるため、ホログラフィの応用範囲を拡大することが可能である。
【0003】
従来から知られているインコヒーレントホログラフィの光学系の一例を図10に示す。
この図10に示す、非共通光路干渉計の代表格であるマイケルソン干渉計を用いたインコヒーレントホログラフィでは、物体701から伝搬された空間的にインコヒーレントな光波を、ビームスプリッタ702を用いて2つの光波に分割する。これら分割された2つの光波のうち一方を第1分割光、他方を第2分割光と各々称する。これら2つの分割光のうち、第1分割光を平面状のミラー703aにより反射させるとともに、第2分割光を、ミラー703aとは曲率半径が異なる凹面ミラー703bにより若干集束させるように反射させて、相対的な位相分布を変調する。
【0004】
ミラー703a、凹面ミラー703bで各々反射した2つの光波は、再びビームスプリッタ702に入射され、重ね合わされる。光源のコヒーレンス長よりも、2つの光波の光路長差が短い場合、第1分割光と第2分割光は干渉するため、イメージセンサ705により自己干渉の干渉縞を撮像することができる。なお、光源のコヒーレンス長が短く、干渉縞が形成されない場合には、光源からの光波の波長範囲を狭くするために、バンドパスフィルタ等を光路中に挿入する工夫がなされる。
【0005】
この状態で、平面状のミラー703aまたは凹面ミラー703bの位置を、ピエゾ素子等を用いて、光軸方向に光の波長の1/8の距離(往復で1/4波長の光路長差)ずつ移動させて、4つの異なる位相パターンの干渉縞をイメージセンサ705で取得する。これらの干渉縞から、演算装置709にて所定の演算を行って、物体701のホログラムを計算する。
さらに、演算装置709においては、このホログラムから逆伝搬計算を行い、任意の位置での物体701の再構成画像を取得することができる(下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-533542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、物体701を点の集合として考えた場合、物体701の各点からの光の干渉縞はフレネルゾーンプレート(FZP)を構成する。したがってイメージセンサ705で取得する物体701の干渉縞は多数のFZPが重なったものである。
【0008】
物体701のサイズが大きくなる程、すなわち物体701を構成する点の数が多くなるほど、多数のFZPが互いに重なるため、干渉縞の振幅(コントラスト)は小さくなり、ノイズの影響を受けやすくなる。さらにイメージセンサ705の階調数が少ない場合、干渉縞を正確に取得することができない。
【0009】
そのため、物体701が大きい程、干渉縞の信号対ノイズ比(SNR)が低下し、その干渉縞から計算されるホログラム、ひいては再構成される画像のSNRが低下する。
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、再構成された画像のSNRを向上させ、従来よりも高画質の再構成画像を実現し得る、インコヒーレントディジタルホログラム撮像装置およびその撮像方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置は、
物体からのインコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割する光分割手段と、
該第1分割光および該第2分割光の少なくとも一方の波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与する位相分布可変手段と、
前記位相分布可変手段を通過した前記第1分割光および前記第2分割光からなる2つの光波を合成する光合成手段と、
この光合成手段により合成された前記第1分割光および前記第2分割光が、互いに干渉して形成された干渉縞を撮像する干渉縞撮像手段と、
物体の一部分のみの光を前記光分割手段方向に導く、前記物体と照明の間の位置、または前記物体と前記光分割手段の間の位置に配設された開口手段と、
該開口手段の開口の位置を移動させ、設定する開口位置移動設定手段と、
前記開口位置移動設定手段により該開口手段の該開口の位置を移動させ、移動させた各位置毎に前記干渉縞撮像手段により撮像された干渉縞に基づき前記物体のホログラムを得、該開口の位置毎に得られたホログラムに基づき、前記物体全体の再構成画像を得る再構成画像演算手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
ここで、上記「移動させた各位置」には、移動させる前の最初の開口位置を含めることが可能である。
【0011】
た、前記開口手段が、前記物体と前記光分割手段の間の位置に配設された場合に、前記開口手段の開口の位置に物体の像を結像するレンズを設けることが好ましい。
【0012】
また、得られた複数の前記ホログラムを互いに合成して合成ホログラムを得、該合成ホログラムに基づき前記物体全体の再構成画像を取得することが可能である。
また、得られた複数の前記ホログラムの各々から前記物体の各部分の再構成画像を得、得られた前記物体の各部分の再構成画像に基づき前記物体全体の再構成画像を取得することが可能である。
【0013】
また、本発明のインコヒーレントディジタルホログラム撮像方法は、
物体からのインコヒーレントな光波のうち一部分のみを開口を通して光分割手段方向に導き、該物体からのインコヒーレントな光波を該光分割手段により第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割し、該第1分割光および該第2分割光の少なくとも一方の波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与し、相対的に球面位相の分布が付与された前記第1分割光および前記第2分割光を合波し、この合波により得られた干渉縞を撮像する干渉縞取得工程と、
撮像された干渉縞に基づいて前記物体の一部に係るホログラムを得る工程とを、
前記開口を移動設定する度に、繰り返し行って、その度に得られた前記物体の一部に係るホログラムに基づき、前記物体全体の再構成画像を得、
前記開口は、前記物体と照明の間の位置、または前記物体と前記光分割手段の間の位置に配される開口手段に設ける、
ことを特徴とするものである。
ここで、上記「移動設定する度」には、移動させる前の最初の開口位置に設定されている場合も含めることが可能である。
また、前記開口手段が、前記物体と前記光分割手段の間の位置に配される場合に、所定のレンズにより前記開口の位置に該物体の像を結像することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置および撮像方法では、物体からの光のうち一部が通過する開口の位置を設定し、その後、この開口位置を順次ずらすように設定し、その設定のたびに干渉縞を撮像し、得られた干渉縞に基づいて物体各部のホログラムを得、得られた物体各部のホログラムから物体全体の再構成画像を得るようにしている。
これにより、1回の撮像時において、開口の位置を通過する、物体を構成する点の数を少なくすることができ、この点の各々に対応するFZPの重なりあう数を減少させることができる。
【0015】
したがって、干渉縞の振幅(コントラスト)が小さくなるのを抑制することができ、ノイズの影響を受け難くすることができ、SNRの値の低下を抑制することができる。
さらに撮像装置により得られた画像の階調数が少ない場合であっても、干渉縞を正確に取得することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の原理を説明するための概念図((a)は物体の左半分を撮像する光学系、(b)は物体の右半分を撮像する光学系)である。
図2図1に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置(実施形態)を用いて得られた再構成画像((a)は物体の左半分に係る再構成画像、(b)は物体の右半分に係る再構成画像、(c)は図2(b)の右下部分の領域を拡大した画像)を示すものである。
図3】従来技術に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置を用いて得られた再構成画像((a)は物体全体の再構成画像、(b)は図3(a)の右下部の領域を拡大した画像)を示すものである。
図4図2に示すインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置(実施形態)を用い、部分画像を合成して得た、物体全体の再構成画像を示すものである。
図5】実施例1に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の光学系を示すものである((a)は物体の前方に開口部を設けた場合であり、(b)は物体の後方に開口部を設けた場合である)。
図6】実施例2に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の光学系を示すものである。
図7】実施例2に係る空間光変調器による開口の移動状態の例((a)~(d)の4パターン例)を示す図である。
図8】実施例2の変形例に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の光学系を示すものである。
図9】実施例3に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の光学系を示すものである((a)は物体の輝度分布取得用の光学系、(b)は干渉縞取得用の光学系、(c)は、実施例3に係る空間光変調器による開口の移動状態の例)を示すものである。
図10】従来技術に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の光学系を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置および撮像方法を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
<実施形態>
図1は本発明の実施形態に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の光学系を中心として示すものであり、この図1を用いて本発明のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置の原理について説明する。
【0019】
すなわち、この図1に示すインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置は、物体1から伝搬してきた空間的にインコヒーレントな光波をレンズ4に通過させて平行光(レンズ4の焦点位置からの光に対して)とした後、ビームスプリッタ2により分割し、第1分割光と第2分割光を得る。第1分割光は平面状のミラー3aにより正反射されて平面波がビームスプリッタ2に戻り、一方、第2分割光は凹面ミラー3bにより球面波とされ、若干収束されるように反射されてビームスプリッタ2に戻る。
【0020】
ビームスプリッタ2に戻った第1分割光はイメージセンサ5方向に反射され、一方、ビームスプリッタ2に戻った第2分割光はイメージセンサ5方向に透過することで、これら2つの分割光が重畳してイメージセンサ5の撮像面上で干渉縞を形成する。
ここで、物体1とビームスプリッタ2の間には開口手段6が配設されており、この開口手段6の開口部6aを通過した物体の一部からの光波のみにより1つの干渉縞が形成される。
【0021】
開口手段6としては、物体1からの光波の一部を透過させる開口部6aを有し、この開口部6aの位置を移動可能とされるものであればよく、物理的に物体1からの光波の一部を遮光するシャッタを有するものであってもよいし、光波の一部を透過または反射させる光空間変調素子であってもよい。
【0022】
例えば、図1(a)に示すように、物体1の右半分(図中の開口手段6の上半分)からの光波を遮蔽して、物体1の左半分(図中の開口手段6の下半分)からの光波のみを透過させることにより、物体1の左半分に対応する、物体1の構成点を略半分とした干渉縞が形成される。
この干渉縞から得られたホログラム(以下、ホログラムAと称する)を再構成した画像を図2(a)に示す(物体1の左半分の再構成画像)。
【0023】
次に、図1(b)に示すように、開口手段6の開口部6aを、開口手段6の図中の上半分位置に移動させる。これにより、物体1の左半分(図中の開口手段6の下半分)からの光波を遮蔽して、物体1の右半分(図中の開口手段6の上半分)からの光波のみを透過させることにより、物体1の右半分に対応する、物体1の構成点を略半分とした干渉縞が形成される。
この干渉縞から得られたホログラム(以下、ホログラムBと称する)を再構成した画像を図2(b)に示す(物体1の右半分の再構成画像)。
【0024】
なお、開口手段6の開口部6aの移動については、演算装置9からの指示に応じて開口位置移動手段10が開口手段6に対して移動操作を行うことによりなされる。
この開口位置移動手段10は、開口手段6が物理的な開口位置切替手段であれば、開口部6a移動用のXY2軸移動ステージ等とされ、開口手段6が空間光変調器であれば、開口パターン表示ドライバおよびドライバ駆動プログラム等とされる。
【0025】
この後、図2(a)に示す、ホログラムAを再構成した画像と、図2(b)に示す、ホログラムBを再構成した画像を合成して、図4に示すような物体1全体の再構成画像を得る。
なお、上述したホログラムAやホログラムBから再構成画像を得る場合には、従来から知られている逆伝搬法等を用いて行う。
【0026】
また、干渉縞からホログラムAやホログラムBを得る手法は、従来より周知の位相シフト法やフーリエ変換法を用いて行う。
例えば、4ステップの位相シフト法においては、平面状のミラー3a(凹面ミラー3bとすることも可)の位置を、ピエゾ素子等を用いて、光軸方向に光の波長の1/8(往復経路で1/4波長)の光路長ずつ移動させて、開口手段6における開口部6aの位置を固定している間に、4つの異なる位相パターンの干渉縞をイメージセンサ5で取得し、これらの干渉縞から、周知の計算手法により、演算装置9にてホログラムを計算する。
【0027】
上述したように、本実施形態に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置によれば、撮像する各ホログラムについて、撮像する物体1の範囲(物体1を構成する点の数)を半分にしている(イメージセンサ5の撮像領域はそのままとしている)ので、FZP(フレネル・ゾーンプレート)の重なりあう数を半分にすることができる。
これにより、干渉縞の振幅(コントラスト)が小さくなるのを抑制することができ、ノイズの影響を受け難くすることができ、SNRの値の低下を抑制することができる。
【0028】
なお、図2(c)は、本実施形態に係るインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置を用いて得られた上述した再構成画像(図2(b))の右下角部分(黒三角のマーカーを参照)を拡大したものであり、従来技術に係る撮像装置(図10を参照)を用いて得られた再構成画像(図3(a))の右下角部分(黒三角のマーカーを参照)を拡大したもの(図3(b)を参照)と比較すると、明らかに画像ノイズが低減しており、SNRが改善していることが明らかである。
【0029】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
<実施例1>
本実施例は、基本的なインコヒーレントディジタルホログラム撮像方法について、図5(a)、(b)を用いて説明するものであり、使用する装置構成としては、上述した図1(a)、(b)に示す実施形態に係る撮像装置と略同様の構成とされているが、開口手段6の配設位置は図5(a)、図5(b)のいずれに示す位置としてもよい。なお、図1(a)、(b)の部材に対応する部材については、図1(a)、(b)の各部材に付した符号に100を加えた符号を付すものとし、その部材の詳しい説明は省略する。
【0030】
すなわち、図5(a)に示すように、物体101の前方(干渉計側)に開口手段106を設けるようにしてもよいし、図5(b)に示すように、物体101の後方(干渉計側とは反対側)に開口手段106を設けるようにしてもよい。
【0031】
以下、図5(a)に示す構成を用いて、本実施例について説明する。
まず、物体101とレンズ104の間に、開口位置移動手段(XZ2軸ステージ(光軸に対して直交する2軸方向に移動可能なステージ))110に搭載した開口手段106を配設する。開口手段106の一部を開口するように設けられた開口部106aを通過した物体101からの光波をビームスプリッタ102により2経路に分け、図1に示す実施形態において説明したように、イメージセンサ105において、物体101の干渉縞を得る。
【0032】
従来技術と同様に、平面状のミラー103a(凹面ミラー103bでも可)位置を光軸方向に光の波長の1/8の距離(往復の光路長が1/4波長となる距離)だけ移動させて、異なる4つの位相パターンの干渉縞を取得する。取得した4つの位相パターンの干渉縞からホログラムを計算し、さらに逆伝搬計算により任意の奥行き方向位置での物体101の、上記開口部106aの開口割合に相当する部分画像を再構成する。
【0033】
次に、開口手段106の開口部106aの位置を、開口位置移動手段(XZ2軸ステージ)110を用いて上下方向および左右方向に移動し、物体101の種々の部位の干渉縞を取得する。そして、開口部106aの位置を移動させるたびに、上述した場合と同様に、4位相パターンの干渉縞を取得し、ホログラムを計算して、部分画像を再構成する。
【0034】
最後に、再構成されたそれぞれの部分画像を、開口の位置に応じて合成することにより、高SNRの物体101の画像を再構成することができる。
なお、上記では、開口手段106の開口部106aの位置の移動を、演算装置109からの指示信号に応じて、開口移動手段110が、開口手段106を搭載したXZ2軸ステージを自動的に所定量だけ移動させる場合について説明しているが、オペレータが上記XZ2軸ステージを手動で操作し、開口部106aを、所定のタイミングで上下方向および左右方向に所定量だけ移動させるようにしてもよい。
【0035】
<実施例2>
本実施例は、図6に示すように、基本的には上記実施例1のインコヒーレントディジタルホログラム撮像方法と同様の工程を有しているが、開口手段206として空間光変調器を用いることに特徴を有している。なお、図5(a)、(b)の部材に対応する部材については、図5(a)、(b)の各部材に付した符号に100を加えた符号を付すものとし、その部材の詳しい説明は省略する。
【0036】
すなわち、図6に示すように、物体201とレンズ204の間に空間光変調器からなる開口手段206(以下、空間光変調器206とも称する)を設け、この空間光変調器206に図7に示すような各パターン((a)~(d))を表示して、物体201の一部領域からの干渉縞を取得する。空間光変調器206としては液晶表示素子(透過型や反射型)やDMD(デジタルマイクロミラーデバイス)を用いることができる。
なお、図7においては、開口手段(空間光変調器)は306で表し、開口部は306a~cで表す。
【0037】
空間光変調器306に表示するパターン(a)は、1画素に相当する開口部306aを空間光変調器306の左上画素から右下画素に至るまで、順次走査していくものである。
また、空間光変調器306に表示するパターン(b)は、複数画素(ここでは4画素)からなる正方形領域の開口部306aを、空間光変調器306の左上領域から右下領域に至るまで、順次走査していくものである。
【0038】
また、空間光変調器306に表示するパターンとして、1、0の疎行列において、1で表される、互いに離れた複数の画素を開口部306a~cとしたようなパターン(c)や(d)であってもよい。この場合、特に、離れた開口部306a~c間の距離の平均値が大きくなるように設定することが好ましい。これにより、お互いの開口部306a~cを通過する光波により生成される干渉縞が、イメージセンサ205の撮像面で重なる割合を小さくすることができるため、SNRの低下を防ぐことができる。
【0039】
図8は、上記実施例2の変形例を示すものである。なお、図6(a)、(b)の部材に対応する部材については、図6(a)、(b)の各部材に付した符号に200を加えた符号を付すものとし、その部材の詳しい説明は省略する。
【0040】
すなわち、空間光変調器からなる開口手段406は、図8に示すように、物体401をレンズ404bで結像したときの結像面位置に設けることができる。これにより、開口手段406の開口部でのSNRを特に高くすることができる。
なお、この開口部から発散する光束は、レンズ404cで平行光束とされてビームスプリッタ402に入射する。
【0041】
<実施例3>
本実施例は、基本的には上記実施例2のインコヒーレントディジタルホログラム撮像方法と同様の工程を有しているが、物体501の明るさに偏りがある場合に、この偏りに応じて開口手段(空間光変調器)506(以下、空間光変調器506とも称する)の開口部506aの大きさを重みづけする(物体501の各部の明るさに応じて、その明るさに反比例する開口部506aの大きさに設定する)ことにより(この開口部506aを通過する光量を平均化することにより)、SNRを向上させることに特徴を有している。なお、図6(a)、(b)の部材に対応する部材については、図6(a)、(b)の各部材に付した符号に300を加えた符号を付すものとし、その部材の詳しい説明は省略する。
【0042】
すなわち、まず、図9(a)に示すように、干渉計の凹面ミラー503bとビームスプリッタ502の間にマスク508を設けて凹面ミラー503bへの光照射を阻止し、平面状のミラー503aから反射される物体光のみをイメージセンサ505で取得する。これにより、物体の輝度分布を取得する。この取得画像に基づき、図9(a)に示すように、例えば、明るい(B)領域、中間(G)領域、および暗い(D)領域の3つの領域に判別し、この結果を演算装置509内に設けられたメモリ等に記憶させる。
【0043】
次に、図9(b)に示すように、マスク508を取り除き、凹面ミラー503bからの反射光と、平面状のミラー503aからの反射光の干渉により生じる干渉縞をイメージセンサ505により取得する。
【0044】
図9(c)に、空間光変調器506に表示される開口部506aを示す。イメージセンサ505で取得し、上記メモリ等に記憶された物体501の輝度分布に基づき、物体501の明るい場所に対応する領域の開口部506aは小さく、物体501の暗い場所に対応する領域の開口部506aは大きく設定する。これにより、パターン数を大幅に増加させることなく、より高SNRの画像を再構成することができる。
【0045】
本発明のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置および製造方法としては、上記実施形態のものに限られるものではなくその他の種々の態様のものに変更が可能である。例えば、装置の光学系の構成としても、上記実施形態のものに限られるものではない。
また、上記実施例1においては、得られた複数のホログラムの各々から物体の各部分の再構成画像を得、得られた物体の各部分の再構成画像に基づき物体全体の再構成画像を取得する構成について説明しているが、本発明のインコヒーレントディジタルホログラム撮像装置および製造方法としては、得られた複数のホログラムを互いに合成して合成ホログラムを得、しかる後、該合成ホログラムに基づき物体全体の再構成画像を取得する構成としてもよい。
【0046】
この態様について、図5を用いて簡単に説明する。すなわち、上記実施例1と同様に、平面状のミラー103a(凹面ミラー103bでも可)位置を光軸方向に光の波長の1/8の距離(往復の光路長が1/4波長となる距離)だけ移動させて、異なる4つの位相パターンの干渉縞を取得する。取得した4つの位相パターンの干渉縞からホログラムを計算する。
次に、開口手段106の開口部106aの位置を、開口位置移動手段(XZ2軸ステージ)110を用いて上下方向および左右方向に移動し、物体101の種々の部位の干渉縞を取得する。そして、開口部106aの位置を移動させるたびに、上述した場合と同様に、4つの位相パターンの干渉縞を取得し、各々ホログラム(部分ホログラム)を計算する。
【0047】
この後、得られた複数の物体各部についての部分ホログラムをつなぎ合わせて物体全体についての全体ホログラムを作成する。
このようにして作成した全体ホログラムに対し、逆伝搬計算を施すことで、任意の奥行き方向位置での物体101の全体画像を再構成することができる。
また、上記実施形態においては、分割した2つの分割光のうちの一方の光路に、球面波を付与する凹面ミラーを配置しているが、分割した2つの分割光の両方の光路に球面波を付与する球面ミラーを配置して、通過する分割光の各々に、互いに異なる曲率半径の球面波を付与するようにしてもよい。
【0048】
なお、上記実施形態においては光分割手段が光合成手段を兼用する構成とされているが、迂回路型フィゾー干渉計のように、これら両手段を別部材として構成してもよい。
また、上記実施形態においては、マイケルソン干渉計を用いているが、マッハツェンダ干渉計や、迂回路を付加したフィゾー干渉計などの他の等光路長型の干渉計を用いることも可能である。
また、上記実施形態においては、分割された2つの光波間に相対的な球面波を付加するため、曲率の互いに異なる2つのミラーを用いるようにしているが、このような球面波付与手段として、透過型の球面波付与部材を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1、101、201、401、501、701 物体
2、102、202、402、502、702 ビームスプリッタ
3a、103a、203a、403a、503a、703a ミラー
3b、103b、203b、403b、503b、703b 凹面ミラー
4、104、204、404b、404c、504、704 レンズ
5、105、205、405、505、705 イメージセンサ
6、106、206、306、406、506 開口手段(空間光変調器)
6a、106a、306a~c、506a 開口部
9、109、209、409、509、709 演算装置
10、110、210、410、510 開口位置移動手段
508 マスク
図1
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