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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】排水処理装置及び排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20240117BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20240117BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20240117BHJP
   C02F 3/28 20230101ALI20240117BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D61/00 500
B01D61/58
C02F1/44 D
C02F3/28 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020561311
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047842
(87)【国際公開番号】W WO2020129707
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018239439
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 拓
(72)【発明者】
【氏名】石田 進
(72)【発明者】
【氏名】三好 太郎
(72)【発明者】
【氏名】グェン タン フォン
(72)【発明者】
【氏名】ガンバト ゾルザヤ
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/133661(WO,A1)
【文献】特開2012-236124(JP,A)
【文献】特開2015-016392(JP,A)
【文献】特開2018-008219(JP,A)
【文献】特開2016-203176(JP,A)
【文献】特開2014-180629(JP,A)
【文献】特開2002-273473(JP,A)
【文献】特開2016-97327(JP,A)
【文献】特表2016-506867(JP,A)
【文献】特開2014-100624(JP,A)
【文献】特開2014-61487(JP,A)
【文献】米国特許第3130156(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
3/28 - 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第1の排水、並びに、水分を含み且つ前記第1の排水以外の第1の駆動溶液の間に配設され、前記第1の排水から受ける圧力が前記第1の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第1の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第1の排水を濃縮する第1の除去手段と、
前記第1の駆動溶液を前記第1の除去手段との間で循環させる第1の循環手段と、
夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第2の排水、並びに、水分を含み且つ前記第2の排水以外の第2の駆動溶液の間に配設され、前記第2の排水から受ける圧力が前記第2の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第2の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第2の排水を濃縮する第2の除去手段と、
前記第2の駆動溶液を前記第2の除去手段との間で循環させる第2の循環手段と、
を備え、
前記第1の駆動溶液は、前記第2の循環手段により循環した第2の駆動溶液であり、
前記第1の排水の溶質濃度は前記第2の排水の溶質濃度よりも低く、前記第1の駆動溶液の溶質濃度は前記第2の駆動溶液の溶質濃度よりも低いことを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記第1の駆動溶液は前記第2の排水に含まれる水分を含むことを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記第1の駆動溶液の溶質濃度及び前記第1の排水の溶質濃度の差又は前記第2の駆動溶液の溶質濃度及び前記第2の排水の溶質濃度の差と、前記第1の除去手段のフラックス又は前記第2の除去手段のフラックスとに基づいて前記第1の除去手段の面積又は前記第2の除去手段の面積を算出することを特徴とする請求項1又は2記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記第1の排水の濃縮倍率及び前記第2の排水の濃縮倍率は前記第1の除去手段の面積又は前記第2の除去手段の面積に基づいて設定されることを特徴とする請求項3記載の排水処理装置。
【請求項5】
前記第1の排水の濃縮倍率及び前記第2の排水の濃縮倍率は前記第1の排水に含まれる有機物が分解される量又は前記第2の排水に含まれる有機物が分解される量に基づいて設定されることを特徴とする請求項3又は4記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記第1の排水又は前記第2の排水において、メタン発酵が進行してバイオガスが生成された場合に、前記バイオガスを回収する回収手段を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項7】
前記第1の排水又は前記第2の排水において、メタン発酵が進行してバイオガスが生成された場合に、前記バイオガスを前記第1の除去手段又は前記第2の除去手段に供給する供給手段を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項8】
前記第1の排水又は前記第2の排水に気体を曝気する曝気手段を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項9】
前記第1の排水又は前記第2の排水に曝気される気体の曝気量はORPに基づいて制御されることを特徴とする請求項8記載の排水処理装置。
【請求項10】
前記第1の排水又は前記第2の排水に酸を供給する酸供給手段を有し、前記酸の量は前記第1の排水又は前記第2の排水のpHに基づいて制御されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項11】
前記供給される酸が有機酸であることを特徴とする請求項10記載の排水処理装置。
【請求項12】
前記有機酸が、排水に含まれる有機物の発酵生成物であることを特徴とする請求項11記載の排水処理装置。
【請求項13】
夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第1の排水、並びに、水分を含み且つ前記第1の排水以外の第1の駆動溶液の間に配設され、前記第1の排水から受ける圧力が前記第1の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第1の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第1の排水を濃縮する第1の除去手段と、前記第1の駆動溶液を前記第1の除去手段との間で循環させる第1の循環手段と、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第2の排水、並びに、水分を含み且つ前記第2の排水以外の第2の駆動溶液の間に配設され、前記第2の排水から受ける圧力が前記第2の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第2の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第2の排水を濃縮する第2の除去手段と、前記第2の駆動溶液を前記第2の除去手段との間で循環させる第2の循環手段とを備え、前記第1の駆動溶液は、前記第2の循環手段により循環させた第2の駆動溶液であり、前記第1の排水の溶質濃度は前記第2の排水の溶質濃度よりも低く、前記第1の駆動溶液の溶質濃度は前記第2の駆動溶液の溶質濃度よりも低いことを特徴とする排水処理装置を用いた排水処理方法において、
前記第2の排水に含まれる水分が前記第2の除去手段を透過して前記第2の駆動溶液に移動する移動ステップと、
前記第2の駆動溶液が前記第2の循環手段と前記第2の除去手段との間で循環する循環ステップと、
前記第2の駆動溶液に移動した水分を含む前記循環した第2の駆動溶液が前記第1の除去手段に供給される供給ステップと、を有することを特徴とする排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水処理装置及び排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、FO(Forward Osmosis)膜を用いて夾雑物、溶解性物質及び水分を含む下水等の排水を処理する排水処理設備が知られている(例えば、特許文献1参照。)。FO膜は下水等の排水及び海水等の駆動溶液DS(Draw Solution)の間に位置し、駆動溶液DSの溶質濃度が排水の溶質濃度よりも高いとき、FO膜が排水から受ける圧力が駆動溶液DSから受ける圧力よりも高いため、排水に含まれる水分のみがFO膜を透過して駆動溶液DSに移動し、排水に含まれる夾雑物及び溶解性物質はFO膜に捕捉される。その結果、排水は濃縮される。
【0003】
図7は従来の排水処理設備70を概略的に示すブロック図であり、図7の排水処理設備70は、排水導入設備71、処理槽72、FO膜ユニット73、駆動溶液導入設備74、駆動溶液循環設備75、メタン発酵槽76、及びポンプP1,P2,P3,P4,P5(各ポンプの吐出量は表1参照。)を備え、処理槽72はFO膜ユニット73を有する。また、FO膜ユニット73はFO膜支持材(不図示)及びFO膜73aから構成され、FO膜支持材及びFO膜73aが内部空間Vを有するように構成されている。
【0004】
【表1】
【0005】
排水導入設備71は、例えば、凝集沈殿法に基づいて発生した沈澱汚泥及びスクリーン等によって捕捉されたゴミ等の異物(スクリーンかす)が除去された排水を貯留している。排水導入設備71に貯留されている排水はポンプP1によって処理槽72に移送され、処理槽72はその排水によって充たされる。FO膜ユニット73は処理槽72を充たす排水に浸漬される。
【0006】
駆動溶液導入設備74はスクリーン等によって異物が除去された駆動溶液DSである海水を貯留している。駆動溶液導入設備74に貯留されている駆動溶液DSはポンプP2によって駆動溶液循環設備75に移送される。駆動溶液循環設備75はFO膜ユニット73及びポンプP3,P5に接続され、駆動溶液循環設備75に移送された駆動溶液DSはポンプP3によって駆動溶液循環設備75及びFO膜ユニット73を循環するとともに、ポンプP5によって駆動溶液循環設備75から、例えば、海洋中に放流される。
【0007】
駆動溶液循環設備75の駆動溶液DSは、駆動溶液循環設備75及びFO膜ユニット73を循環するとき、FO膜ユニット73の内部空間Vに流入する。したがって、FO膜73aは処理槽72を充たした排水と、内部空間Vに流入した駆動溶液DSとの間に位置し、駆動溶液DSの溶質濃度が処理槽72を充たす排水の溶質濃度よりも高いとき、処理槽72を充たす排水に含まれる水分はFO膜73aを透過して内部空間Vに移動する。その結果、内部空間Vに流入した駆動溶液DS及びFO膜73aを透過して内部空間Vに移動した水分は混合され、駆動溶液循環設備75に集水されるとともに、処理槽72を充たす排水は濃縮される。濃縮された処理槽72の排水はポンプP4によってメタン発酵槽76に移送される。
【0008】
メタン発酵槽76は濃縮された排水に含まれる有機物を分解するメタン菌を有し、メタン菌が濃縮された排水に含まれる有機物を分解すると、バイオガス及び消化液が生成され、バイオガスはエネルギーとして回収される。メタン発酵槽76で分解される有機物の濃度は安定したバイオガスの回収を確保する観点から高いほうがよいとされ、例えば、15倍以上に濃縮された下水やCODCrの値が30000~50000mg/Lを示す下水汚泥がメタン発酵槽76でのバイオガスの生成に用いられる。
【0009】
ところで、排水、例えば、下水は多くの塩類を含み、塩類が下水中で解離すると、塩化物イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオン、リン酸イオン等が生じる。一般的に、下水の塩類濃度は100~1000mg/Lであるが、汽水域付近の下水処理場で処理される下水の塩類濃度は2000~3000mg/Lに達する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-015684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、下水及び海水(駆動溶液DS)の間にFO膜を配置して下水を濃縮すると、その下水のCODCr及び塩類濃度は上昇するが、FO膜に生じる浸透圧の関係から下水の塩類濃度が海水の溶質濃度30000~35000mg/Lを越えることはない。そうすると、例えば、塩類濃度が2000mg/Lの下水及び海水の間にFO膜を配置しても、その下水を25倍濃縮し、その下水の溶質濃度を50000mg/Lとすることはできない(下水の濃縮倍率と、下水のCODCr又は下水の塩類濃度との関係は表2参照。)。
【0012】
【表2】
【0013】
すなわち、駆動溶液DSの溶質濃度に制約され、十分な排水の濃縮を実現することができないという問題があった。
【0014】
本発明の目的は、十分な排水の濃縮を実現することができる排水処理装置及び排水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の排水処理装置は、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第1の排水、並びに、水分を含み且つ前記第1の排水以外の第1の駆動溶液の間に配設され、前記第1の排水から受ける圧力が前記第1の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第1の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第1の排水を濃縮する第1の除去手段と、前記第1の駆動溶液を前記第1の除去手段との間で循環させる第1の循環手段と、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第2の排水、並びに、水分を含み且つ前記第2の排水以外の第2の駆動溶液の間に配設され、前記第2の排水から受ける圧力が前記第2の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第2の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第2の排水を濃縮する第2の除去手段と、前記第2の駆動溶液を前記第2の除去手段との間で循環させる第2の循環手段と、を備え、前記第1の駆動溶液は、前記第2の循環手段により循環した第2の駆動溶液であり、前記第1の排水の溶質濃度は前記第2の排水の溶質濃度よりも低く、前記第1の駆動溶液の溶質濃度は前記第2の駆動溶液の溶質濃度よりも低いことを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の排水処理方法は、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第1の排水、並びに、水分を含み且つ前記第1の排水以外の第1の駆動溶液の間に配設され、前記第1の排水から受ける圧力が前記第1の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第1の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第1の排水を濃縮する第1の除去手段と、前記第1の駆動溶液を前記第1の除去手段との間で循環させる第1の循環手段と、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む第2の排水、並びに、水分を含み且つ前記第2の排水以外の第2の駆動溶液の間に配設され、前記第2の排水から受ける圧力が前記第2の駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記第2の排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記第2の排水を濃縮する第2の除去手段と、前記第2の駆動溶液を前記第2の除去手段との間で循環させる第2の循環手段と、を備え、前記第1の駆動溶液は、前記第2の循環手段により循環した第2の駆動溶液であり、前記第1の排水の溶質濃度は前記第2の排水の溶質濃度よりも低く、前記第1の駆動溶液の溶質濃度は前記第2の駆動溶液の溶質濃度よりも低いことを特徴とする排水処理装置を用いた排水処理方法において、前記第2の排水に含まれる水分が前記第2の除去手段を透過して前記第2の駆動溶液に移動する移動ステップと、前記第2の駆動溶液が前記第2の循環手段と前記第2の除去手段との間で循環する循環ステップと、前記第2の駆動溶液に移動した水分を含む前記循環した第2の駆動溶液が前記第2の除去手段に供給される供給ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、十分な排水の濃縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る排水処理設備を概略的に示す図である。
図2図1の排水処理設備によって実行される排水処理の手順を示すフローチャートである。
図3図2におけるステップS205の高溶質濃度排水濃縮処理の手順を示すフローチャートである。
図4図2におけるステップS203の低溶質濃度排水濃縮処理の手順を示すフローチャートである。
図5図1の排水処理設備の変形例を概略的に示す図である。
図6図5の排水処理設備によって実行される排水処理の手順を示すフローチャートであり、図2の排水処理の変形例の手順を示すフローチャートである。
図7】従来の排水処理設備を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る排水処理設備10を概略的に示す図である。
【0021】
図1の排水処理設備10は、排水導入設備11、処理槽12,13、FO膜ユニット14,15、駆動溶液導入設備16、駆動溶液循環設備17,18、メタン発酵槽19、及びポンプP6,P7,P8,P9,P10,P11,P12,P13(各ポンプの吐出量は表3参照。)を備え、処理槽12はFO膜ユニット14を有し、処理槽13はFO膜ユニット15を有する。また、FO膜ユニット14,15はFO膜支持材(不図示)及びFO膜14a,15aから構成され、FO膜支持材及びFO膜14a,15aが内部空間S,Tを有するように構成されている。
【0022】
【表3】
【0023】
排水導入設備11は、例えば、凝集沈殿法に基づいて発生した沈澱汚泥及びスクリーン等によって捕捉されたゴミ等の異物(スクリーンかす)が除去された排水であって、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水を貯留している。排水導入設備11に貯留されている排水はポンプP6によって処理槽12に移送され、処理槽12は排水導入設備11から処理槽12に移送された排水(第1の排水)によって充たされる。FO膜ユニット14は処理槽12を充たす排水に浸漬される。また、処理槽12を充たす排水は後述の低溶質濃度排水濃縮処理が実行された後にポンプP7によって処理槽13に移送され、処理槽13は処理槽12から処理槽13に移送された排水(第2の排水)によって充たされる。FO膜ユニット15は処理槽13を充たす排水に浸漬される。
【0024】
駆動溶液導入設備16はスクリーン等によって異物が除去された駆動溶液DSである海水を貯留している。駆動溶液導入設備16に貯留されている駆動溶液DSはポンプP8によって駆動溶液循環設備17に移送される。駆動溶液循環設備17はFO膜ユニット15及びポンプP9,P10に接続され、駆動溶液導入設備16から駆動溶液循環設備17に移送された駆動溶液DS(第2の駆動溶液)はポンプP9によって駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する。
【0025】
駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DSは、FO膜ユニット15を経由するとき、FO膜ユニット15の内部空間Tに流入する。これにより、FO膜15a(第2の除去手段)は処理槽13を充たした排水と、内部空間Tに流入した駆動溶液DSとの間に位置する。このとき、FO膜15aは0.0001~0.001μmの孔径を有するので、FO膜15aの孔径よりも大きい径を有する夾雑物及び溶解性物質はFO膜15aの排水側で捕捉される。
【0026】
処理槽13を充たす排水に含まれる水分はFO膜15aを透過して内部空間Tに移動し、内部空間Tに流入した駆動溶液DS及びFO膜15aを透過して内部空間に移動した水分は混合され、駆動溶液循環設備17に集水される。すなわち、処理槽13を充たす排水に含まれる水分が内部空間Tに流入した駆動溶液DSに移動するので、処理槽13を充たす排水は濃縮される。なお、濃縮された処理槽13の排水(以下、「濃縮排水」という。)は後述の高溶質濃度排水濃縮処理が実行された後にポンプP13によってメタン発酵槽19に移送される。なお、FO膜15aとしては、水分子を透過し夾雑物及び溶解性物質を捕捉する孔径を有するものであれば特に限定されず、従来公知のFO膜を使用することができる。
【0027】
また、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DSは、ポンプP10によって駆動溶液循環設備17から駆動溶液循環設備18に移送される。駆動溶液循環設備18はFO膜ユニット14及びポンプP11,P12に接続され、駆動溶液導入設備17から駆動溶液循環設備18に移送された駆動溶液DSはポンプP11によって駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する。
【0028】
ここで、駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DS(第1の駆動溶液)は駆動溶液循環設備17から移送されているため、処理槽13を充たす排水に含まれる水分を含む。したがって、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環して駆動溶液導入設備17から駆動溶液循環設備18に移送された駆動溶液DSの溶質濃度は駆動溶液導入設備16から駆動溶液循環設備17に移送された駆動溶液DSの溶質濃度よりも低い。
【0029】
駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DSは、FO膜ユニット14を経由するとき、FO膜ユニット14の内部空間Sに流入する。これにより、FO膜14a(第1の除去手段)は処理槽12を充たした排水と、内部空間Sに流入した駆動溶液DSとの間に位置する。処理槽12を充たす排水に含まれる水分はFO膜14aを透過して内部空間Sに移動し、内部空間Sに流入した駆動溶液DS及びFO膜14aを透過して内部空間に移動した水分は混合され、駆動溶液循環設備18に集水される。すなわち、処理槽12を充たす排水に含まれる水分が内部空間Sに流入した駆動溶液DSに移動するので、処理槽12を充たす排水は濃縮される。また、駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DSはポンプP12によって駆動溶液循環設備18から、例えば、海洋中に放流される。
【0030】
メタン発酵槽19は嫌気性細菌であるメタン菌を有し、メタン菌は処理槽13から移送された濃縮排水にメタン発酵処理を施す。これにより、バイオガス及び消化液が生成され、バイオガスはエネルギーとして回収される。一方、消化液には脱水処理が実行され、消化液は脱水ケーキ及び脱水ろ液に分離される。脱水ケーキは環境への負荷を低減するために園芸用土やセメント原料等に活用され、脱水ろ液は、例えば、処理槽12に返送される。
【0031】
ところで、処理槽12,13を充たす排水は嫌気性細菌を有し、その嫌気性細菌が排水中に含まれる有機物を処理槽12,13で分解する場合がある。具体的に、嫌気性細菌は、まず、有機物を加水分解し、可溶性のアミノ酸等を生成する。次いで、生成されたアミノ酸等が嫌気性細菌の細胞内に取り込まれて代謝分解され、酢酸や水素、二酸化炭素等が生成される。その後、酢酸や水素、二酸化炭素からバイオガスとしてのメタン等が生成される。そうすると、処理槽12,13でバイオガスを生成するための有機物が消費され、メタン発酵槽19で活用される有機物が減少し、メタン発酵槽19でのメタン発酵処理が効率的に実行されないという問題がある。
【0032】
これに対応して、例えば、排水に空気や酸素等の気体を曝気する曝気装置(曝気手段)が処理槽12,13に設置されてもよい。曝気装置が処理槽12,13を充たす排水に空気や酸素等の気体を曝気すると、処理槽12,13を充たす排水が有する嫌気性細菌の活動は鈍化する。これにより、排水中に含まれる有機物がメタン発酵槽19に移送される前に分解されるのを抑制することができる。
【0033】
処理槽12,13を充たす排水に曝気される気体の曝気量は気体が曝気される排水の酸化還元電位ORP(Oxidation-reduction Potential)に基づいて制御され、例えば、酸化還元電位ORPは嫌気性細菌の活動を鈍化させるために-200~-100mVの範囲内で制御されるのがよい。
【0034】
また、排水中に含まれる有機物がメタン発酵槽19に移送される前に分解されるのを抑制するために、処理槽12,13を充たす排水にpH調整剤を添加してもよい。処理槽12,13を充たす排水のpHが6以下であれば嫌気性細菌の活動は鈍化するため、処理槽12,13は排水にpH調整剤を添加する添加装置(酸供給手段)を備えてもよい。pH調整剤には、例えば、塩酸や硝酸、硫酸等の無機酸又はギ酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸が使用され、例えば、排水のpHは4~6に調整される。
【0035】
有機酸がpH調整剤として用いられる場合、有機酸自体がメタン発酵の基質になり、その結果、メタン発酵槽19で生成されるバイオガスの生成量は増加する。一方、無機酸がpH調整剤として用いられても無機酸自体はメタン発酵の基質にならないので、有機酸がpH調整剤に用いられるのがよい。
【0036】
ところで、本実施の形態における排水導入設備11には、凝集沈殿法に基づいて発生した沈澱汚泥及びスクリーン等によって捕捉されたゴミ等の異物(スクリーンかす)が除去された排水が貯留されているが、除去された沈澱汚泥及びスクリーンかすには有機物(以下、「除去有機物」という。)が含まれている。除去有機物を酸発酵すると、有機酸が得られるので、除去有機物から得られた有機酸がpH調整剤として用いられてもよい。これにより、除去有機物を廃棄することなく有効に活用することができる。
【0037】
さらに、排水中に含まれる有機物がメタン発酵槽19に移送される前に分解されるのを抑制することができず、処理槽12,13でバイオガスが生成されたとき、そのバイオガスを、例えば、ガスホルダー(回収手段)で回収してエネルギー等として利用してもよい。
【0038】
また、処理槽12,13でメタン発酵が進行してバイオガスが生成されると、バイオガスは排水中から排水の水面に向けて浮上する。処理槽12,13に蓋を取り付けると、そのバイオガスは排水の水面及び蓋の間の空間に集まる。その空間に集まったバイオガスを利用するために、処理槽12,13はそのバイオガスを処理槽12,13の底部に移送する移送管と、処理槽12,13の底部からFO膜ユニット14,15にそのバイオガスを供給する供給装置(供給手段)とを備えてもよい。これにより、収集されたバイオガスがFO膜ユニット14,15に噴射されるので、FO膜ユニット14,15の表面を洗浄することができるとともに、処理槽12,13を充たす排水を撹拌することができる。
【0039】
図2は、図1の排水処理設備10によって実行される排水処理の手順を示すフローチャートである。
【0040】
図2において、まず、凝集沈殿法に基づいて発生した沈澱汚泥及びスクリーン等によって捕捉されたゴミ等の異物(スクリーンかす)が除去された排水が排水導入設備11に貯留される(S201)。排水導入設備11に貯留されている排水はポンプP6によって処理槽12に移送されるとともに、処理槽12はその排水によって充たされ且つ処理槽12が有するFO膜ユニット14はその排水に浸漬され(S202)、FO膜ユニット14は処理槽12を充たす排水を、予め設定されている濃縮倍率に到達するまで濃縮する低溶質濃度排水濃縮処理(図4)を実行する(S203)。
【0041】
次いで、処理槽12を充たす排水が予め設定されている濃縮倍率に到達するまで濃縮されると、その排水はポンプP7によって処理槽13に移送されるとともに、処理槽13はその排水によって充たされ且つ処理槽13が有するFO膜ユニット15はその排水に浸漬され(S204)、FO膜ユニット15は処理槽13を充たす排水を、予め設定されている濃縮倍率に到達するまで濃縮する高溶質濃度排水濃縮処理(図3)を実行する(S205)。
【0042】
すなわち、排水導入設備11に貯留されている排水には2段階の濃縮処理(低溶質濃度排水濃縮処理(S203)及び高溶質濃度排水濃縮処理(S205))が施される。したがって、排水導入設備11に貯留されている排水の溶質濃度CFS0は処理槽12を充たす排水の溶質濃度CFS1よりも低く、処理槽12を充たす排水の溶質濃度CFS1は処理槽13を充たす排水の溶質濃度CFS2よりも低い。
【0043】
続いて、濃縮された処理槽13の排水はポンプP13によってメタン発酵槽19に移送される。メタン発酵槽19は嫌気性細菌であるメタン菌を有し、メタン菌は処理槽13から移送された濃縮排水にメタン発酵処理を実行する(S206)。これにより、バイオガス及び消化液が生成され、バイオガスはエネルギーとして回収される。一方、消化液には脱水処理が実行され、これにより、消化液は脱水ケーキ及び脱水ろ液に分離される。脱水ケーキは環境への負荷を低減するために園芸用土やセメント原料等に活用され、脱水ろ液は、例えば、処理槽12に返送される。その後、本処理は終了する。
【0044】
図3は、図2におけるステップS205の高溶質濃度排水濃縮処理の手順を示すフローチャートである。
【0045】
図3において、まず、スクリーン等によってゴミ等の異物が除去された駆動溶液DSである海水が駆動溶液導入設備16に貯留され(S301)、駆動溶液導入設備16に貯留されている駆動溶液DS(溶質濃度CDS0)はポンプP8によって駆動溶液循環設備17に移送される。駆動溶液循環設備17に移送された駆動溶液DSはポンプP9によって駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する(S302)。
【0046】
具体的に、駆動溶液DSは駆動溶液循環設備17からFO膜ユニット15の内部空間Tに流入し(S303)、FO膜15aは処理槽13を充たした排水と、内部空間Tに流入した駆動溶液DSとの間に位置する。これにより、FO膜15aは夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水と、駆動溶液DSである海水との間に位置し、海水の溶質濃度がその排水の溶質濃度よりも高い場合、排水に含まれる水分はFO膜15aを透過して駆動溶液DSに移動するとともに、排水に含まれる夾雑物及び溶解性物質はFO膜15aに捕捉される。その結果、排水は濃縮されるとともに、駆動溶液DSはFO膜15aを透過した水分によって希釈される(S304)。
【0047】
つまり、駆動溶液導入設備16に貯留されている駆動溶液DS(溶質濃度CDS0)は、駆動溶液循環設備17に移送され、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DS(溶質濃度CDS1)は、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する間に希釈されるので、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DSの溶質濃度CDS1は、駆動溶液導入設備16に貯留されている駆動溶液DSの溶質濃度CDS0よりも低い。
【0048】
次いで、FO膜15aを透過した排水中の水分及び駆動溶液DSはFO膜ユニット15から出て駆動溶液循環設備17に集水されるとともに、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DSはポンプP10によって駆動溶液循環設備18に移送される。また、処理槽13を充たす濃縮排水はメタン発酵槽19に移送される(S305)。その後、本処理は終了する。
【0049】
図4は、図2におけるステップS203の低溶質濃度排水濃縮処理の手順を示すフローチャートである。
【0050】
図4において、まず、駆動溶液循環設備17から駆動溶液循環設備18に移送された駆動溶液DS(溶質濃度CDS2)はポンプP11によって駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する。具体的に、駆動溶液DSは駆動溶液循環設備18からFO膜ユニット14の内部空間Sに流入し(S402)、FO膜14aは処理槽12を充たした排水と、内部空間Sに流入した駆動溶液DSとの間に位置する。
【0051】
これにより、FO膜14aは夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水と、駆動溶液DSである海水との間に位置し、海水の溶質濃度がその排水の溶質濃度よりも高い場合、排水に含まれる水分はFO膜14aを透過して駆動溶液DSに移動するとともに、排水に含まれる夾雑物及び溶解性物質はFO膜14aに捕捉される。その結果、排水は濃縮されるとともに、駆動溶液DSはFO膜14aを透過した水分によって希釈される(S403)。
【0052】
つまり、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DS(溶質濃度CDS1)は、駆動溶液循環設備18に移送され、駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DS(溶質濃度CDS2)は、駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する間に希釈されるので、駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DSの溶質濃度CDS2は、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DSの溶質濃度CDS1よりも低い。
【0053】
次いで、FO膜14aを透過した排水中の水分及び駆動溶液DSはFO膜ユニット14から出て駆動溶液循環設備18に集水されるとともに、駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DSはポンプP12によって駆動溶液循環設備18から、例えば、海洋中に放流される(S404)。その後、本処理は終了する。
【0054】
次に、排水処理設備10を用いた排水処理に係る実施例について説明する。
【0055】
まず、溶質濃度500mg/Lの排水(以下、本実施例において「被処理排水」という。)が排水導入設備11からポンプP6によって処理槽12に移送され、被処理排水は処理槽12で5倍に濃縮され、被処理排水の溶質濃度は500mg/Lから2500mg/Lまで濃縮された。5倍に濃縮された被処理排水(以下、本実施例において「5倍濃縮排水」という。)はポンプP7によって処理槽13に移送される。5倍濃縮排水は処理槽13で更に5倍に濃縮され、5倍濃縮排水の溶質濃度は2500mg/Lから12500mg/Lまで濃縮された。すなわち、被処理排水は処理槽13で25倍に濃縮された。25倍に濃縮された被処理排水(以下、本実施例において「25倍濃縮排水」という。)はポンプP13によってメタン発酵槽19に移送された。
【0056】
また、駆動溶液DSである海水が駆動溶液導入設備16からポンプP8によって駆動溶液循環設備17に移送され、駆動溶液循環設備17に移送された駆動溶液DSはFO膜ユニット15を経由して駆動溶液循環設備17に戻り、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する。このとき、駆動溶液DSの溶質濃度はFO膜ユニット15を経由する際にFO膜15aを透過した排水中の水分によって低下するが、本実施例では、駆動溶液DSの溶質濃度は35000mg/Lから30200mg/Lに低下した。
【0057】
駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DSは駆動溶液循環設備17からポンプP10によって駆動溶液循環設備18に移送され、駆動溶液循環設備18に移送された駆動溶液DSはFO膜ユニット14を経由して駆動溶液循環設備18に戻り、駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する。このとき、駆動溶液DSの溶質濃度はFO膜ユニット14を経由する際にFO膜14aを透過した排水中の水分によって低下するが、本実施例では、駆動溶液DSの溶質濃度は30200mg/Lから17900mg/Lに低下した。駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DSはポンプP12によって海洋中に放流された。
【0058】
ところで、一般的に、単位時間及び単位面積当たりにFO膜14a,15aを透過する水分量(以下、「膜フラックス」という。)と、駆動溶液DSの溶質濃度及び濃縮された被処理排水の溶質濃度の差との間には、一定の関係性が存在する(式1)。
【0059】
Jw=A(σ×Δπ―ΔP) (式1)
【0060】
上記式1において、Jwは膜フラックス[L・m-2・h-1(l.m.h)]を示し、AはFO膜14a,15aの特性値である水透過係数[L・m-2・h-1・bar]を示し、σはFO膜14a,15aの半透性を表す反射係数を示し、ΔπはFO膜14a,15aに隔てられた駆動溶液DSと排水との間の浸透圧差[bar]を示し、ΔPは駆動溶液DS及び排水に基づく浸透圧以外のFO膜14a,15aへの負荷[bar]を示す。通常、ΔPはΔπに対して極めて小さく、上記式1においてΔPは無視することができる。したがって、膜フラックスJwは比例係数をAσとして駆動溶液DS及び排水の浸透圧差Δπに比例する。また、浸透圧差Δπは駆動溶液DS及び排水の溶質濃度差ΔTDS[mg/L]に比例する(式2)。
【0061】
Δπ=B×ΔTDS (式2)
【0062】
上記式2において、Bは駆動溶液DS及び排水に含まれる溶質に基づいて定まる固有値である。したがって、膜フラックスJwは比例係数をAσBとして駆動溶液DS及び排水の溶質濃度差ΔTDS[mg/L]に概ね比例する(式3)。
【0063】
Jw=AσB×ΔTDS (式3)
【0064】
本実施例では、膜フラックスJw及び溶質濃度差ΔTDSの実測データと、上記式3とに基づいて、膜フラックスJw及び溶質濃度差ΔTDSの具体的な関係が得られた(式4)。
【0065】
Jw=2.0×10-4×ΔTDS (式4)
【0066】
本実施例において、被処理排水から5倍濃縮排水を処理槽12で得たとき、駆動溶液DSの溶質濃度は17900mg/Lであり、5倍濃縮排水の溶質濃度は2500mg/Lであるため、駆動溶液DS及び5倍濃縮排水の溶質濃度差は15400mg/Lであり、式4に基づくと膜フラックスは3.08 l.m.hである。処理槽12での排水の処理量はポンプP6の吐出量に基づき10000m3/dayであるので、処理槽12で5倍濃縮排水を得るために必要なFO膜15aの面積は135000m2である。
【0067】
また、5倍濃縮排水から25倍濃縮排水を処理槽13で得たとき、駆動溶液DSの溶質濃度は30200mg/Lであり、25倍濃縮排水の溶質濃度は12500mg/Lであるため、駆動溶液DS及び25倍濃縮排水の溶質濃度差は17700mg/Lであり、式4に基づくと膜フラックスは3.53 l.m.hである。処理槽13での排水の処理量はポンプP7の吐出量に基づき2000m3/dayであるので、処理槽13で25倍濃縮排水を得るために必要なFO膜14aの面積は23600m2である。したがって、排水処理設備10で25倍濃縮排水を得るために必要なFO膜14a,15aの面積は158600m2である。
【0068】
一方、従来の排水処理設備70を用いて溶質濃度500mg/Lの被処理排水から溶質濃度12500mg/Lまで濃縮された25倍濃縮排水を得るために、駆動溶液循環設備75及びFO膜ユニット73を循環する駆動溶液DSが使用される。駆動溶液循環設備75及びFO膜ユニット73を循環する駆動溶液DSの溶質濃度は駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DSの溶質濃度に相当する17900mg/Lであり、駆動溶液DS及び排水処理設備70で得られた25倍濃縮排水の溶質濃度差は5400mg/Lであり、式4に基づくと膜フラックスは1.08 l.m.hである。
【0069】
処理槽72での排水の処理量はポンプP1の吐出量に基づき10000m3/dayであるので、処理槽72で25倍濃縮排水を得るために必要なFO膜73aの面積は386000m2である。したがって、排水処理設備10で25倍濃縮排水を得るために必要なFO膜14a,15aの面積(158600m2)は排水処理設備70で25倍濃縮排水を得るために必要なFO膜73aの面積(386000m2)の約41%であるので、排水処理に使用されるFO膜に必要な経費を抑制することができる。
【0070】
処理槽12,13を充たす排水の濃縮倍率に応じてその排水の濃縮に必要なFO膜14a,15aの面積が決定される。したがって、処理槽12,13を充たす排水の濃縮に必要なFO膜14a,15aの面積が最小となるようにその排水の濃縮倍率を設定してもよい。また、処理槽12,13を充たす排水の濃縮倍率を設定するとき、処理槽12,13を充たす排水に含まれる嫌気性細菌によって分解される排水中の有機物の量を考慮してもよい。
【0071】
本実施の形態の排水処理設備10によれば、処理槽12で使用される駆動溶液DSの溶質濃度は、処理槽13で使用された駆動溶液DSと、FO膜15aを透過して駆動溶液DSに移動した排水に含まれる水分とで構成される。したがって、処理槽12で使用される駆動溶液DSの溶質濃度(以下、「低溶質濃度駆動溶液」という。)は処理槽13で使用される駆動溶液DSの溶質濃度(以下、「高溶質濃度駆動溶液」という。)よりも低い。また、処理槽13では、処理槽12で濃縮された排水が更に濃縮されるため、処理槽12で濃縮される排水の溶質濃度(以下、「低溶質濃度排水」という。)は処理槽13で濃縮される排水の溶質濃度(以下、「高溶質濃度排水」という。)よりも低い。
【0072】
処理槽12,13を充たす排水の溶質濃度と、駆動溶液DSの溶質濃度との濃度差が大きいほど、FO膜14a,15aへの大きな浸透圧が生じ、処理槽12,13を充たす排水に含まれる水分がFO膜14a,15aを透過して駆動溶液DSに移動しやすいところ、高溶質濃度駆動溶液は高溶質濃度排水を濃縮するために使用され、低溶質濃度駆動溶液は低溶質濃度排水を濃縮するために使用されるので、FO膜14a,15aへの一定の浸透圧を確保することができ、もって、十分な排水の濃縮を実現することができる。
【0073】
また、処理槽12で使用される駆動溶液DSには、処理槽13で使用され且つ処理槽13を充たす排水中の水分を含む駆動溶液DSが使用される。すなわち、処理槽13での排水の濃縮に使用された駆動溶液DSは処理槽12で排水を濃縮する際に再利用されるので、駆動溶液DSを無駄にすることなく有効に活用することができる。
【0074】
図5は、図1の排水処理設備10の変形例を概略的に示す図である。図5の排水処理設備50は、図1の排水処理設備10に加えて処理槽51、FO膜ユニット52、濃縮駆動溶液導入設備53、濃縮駆動溶液循環設備54、及びポンプP14、P15,P16,P17,P18,P19,P20(各ポンプの吐出量は表4参照。)を備え、処理槽51はFO膜ユニット52を有する。FO膜ユニット52はFO膜支持材(不図示)及びFO膜52aから構成され、FO膜支持材及びFO膜52aが内部空間Uを有するように構成されている。以下、図1の排水処理設備10と異なる点のみ説明する。
【0075】
【表4】
【0076】
図5において、処理槽51には、高溶質濃度排水濃縮処理が実行された後の処理槽13を充たす排水がポンプP14によって移送され、処理槽51はその排水によって充たされる。その結果、FO膜ユニット52は処理槽51を充たす排水に浸漬される。
【0077】
一方、濃縮駆動溶液導入設備53には、濃縮駆動溶液CDS(Concentrated Draw Solution)、例えば、海水を淡水に変換したときに発生する濃縮海水が貯留されている。したがって、濃縮駆動溶液導入設備53に貯留されている濃縮駆動溶液CDSの溶質濃度は駆動溶液導入設備16に貯留されている駆動溶液DS、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DS、及び駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DSのいずれの溶質濃度よりも高い。
【0078】
濃縮駆動溶液導入設備53に貯留されている濃縮駆動溶液CDSはポンプP15によって濃縮駆動溶液循環設備54に移送される。濃縮駆動溶液循環設備54はFO膜ユニット52及びポンプP16に接続され、濃縮駆動溶液循環設備54に移送された濃縮駆動溶液CDSはポンプP16によって濃縮駆動溶液循環設備54及びFO膜ユニット52を循環する。
【0079】
濃縮駆動溶液循環設備54及びFO膜ユニット52を循環する濃縮駆動溶液CDSは、FO膜ユニット52の内部空間Uに流入し、FO膜52aは処理槽51を充たした排水と、内部空間Uに流入した濃縮駆動溶液CDSとの間に位置する。処理槽51を充たす排水に含まれる水分はFO膜52aを透過して内部空間Uに移動し、内部空間Uに流入した濃縮駆動溶液CDS及びFO膜52aを透過して内部空間Uに移動した水分は混合され、濃縮駆動溶液循環設備54に集水される。すなわち、処理槽51を充たす排水に含まれる水分が内部空間Uに流入した濃縮駆動溶液CDSに移動するので、処理槽51を充たす排水は濃縮される。したがって、処理槽51を充たす排水の溶質濃度は処理槽12,13を充たす排水の溶質濃度よりも高い。なお、濃縮された処理槽51の排水はポンプP17によってメタン発酵槽19に移送される。
【0080】
また、濃縮駆動溶液循環設備54及びFO膜ユニット52を循環する濃縮駆動溶液CDSは、ポンプP18によって濃縮駆動溶液循環設備54から駆動溶液循環設備17に移送される。駆動溶液循環設備17はFO膜ユニット15及びポンプP9,P19に接続され、駆動溶液導入設備16から駆動溶液循環設備17に移送された駆動溶液DS及び濃縮駆動溶液循環設備54から駆動溶液循環設備17に移送された濃縮駆動溶液CDS(以下、「混合駆動溶液DS」という。)はポンプP9によって駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環するとともに、ポンプP19によって駆動溶液循環設備17から駆動溶液循環設備18に移送される。駆動溶液循環設備18はFO膜ユニット14及びポンプP11,P20に接続され、混合駆動溶液DSはポンプP11によって駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環するとともに、ポンプP20によって駆動溶液循環設備18から、例えば、海洋中に放流される。
【0081】
図6は、図5の排水処理設備50によって実行される排水処理の手順を示すフローチャートであり、図2の排水処理の変形例の手順を示すフローチャートである。図6のステップS201~S206は図2のステップS201~S206と同一であり、以下、図2と異なる点のみ説明する。
【0082】
図6において、高溶質濃度排水濃縮処理(S205)が終了すると、処理槽13を充たす排水は予め設定されている濃縮倍率に基づいて濃縮され、その排水はポンプP14によって処理槽51に移送される(S601)。これにより、処理槽51はその排水によって充たされ且つ処理槽51が有するFO膜ユニット52はその排水に浸漬される。
【0083】
濃縮駆動溶液導入設備53には、濃縮駆動溶液CDS、例えば、海水を淡水に変換したときに発生する濃縮海水が貯留されている。濃縮駆動溶液CDSは濃縮駆動溶液導入設備53からポンプP15によって濃縮駆動溶液循環設備54に移送され、濃縮駆動溶液循環設備54に移送された濃縮駆動溶液CDSはポンプP16によって濃縮駆動溶液循環設備54及びFO膜ユニット52を循環する(S602)。このとき、濃縮駆動溶液CDSは駆動溶液循環設備54からFO膜ユニット52の内部空間Uに流入し(S603)、FO膜52aは処理槽51を充たし且つ夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水と、内部空間Uに流入した濃縮駆動溶液CDSとの間に位置する。
【0084】
通常、濃縮駆動溶液CDSの溶質濃度は極めて高く、排水の溶質濃度よりも高いため、排水に含まれる水分はFO膜52aを透過して濃縮駆動溶液CDSに移動するとともに、排水に含まれる夾雑物及び溶解性物質はFO膜52aに捕捉される。その結果、排水は濃縮されるとともに、濃縮駆動溶液CDSはFO膜52aを透過した水分によって希釈される(S604)。
【0085】
FO膜52aを透過した排水中の水分及び濃縮駆動溶液CDSはFO膜ユニット52から出て濃縮駆動溶液循環設備54に集水されるとともに、濃縮駆動溶液循環設備54及びFO膜ユニット52を循環する濃縮駆動溶液CDSはポンプP18によって駆動溶液循環設備17に移送される。一方、濃縮された処理槽51の排水はポンプP17によってメタン発酵槽19に移送され(S605)、本処理はステップS206のメタン発酵処理が実行された後に(S206)終了する。
【0086】
なお、排水導入設備11に貯留されている排水には3段階の濃縮処理(処理槽12,13,51での処理)が施される。したがって、排水導入設備11に貯留されている排水の溶質濃度CFS0は処理槽12を充たす排水の溶質濃度CFS1よりも低く、処理槽12を充たす排水の溶質濃度CFS1は処理槽13を充たす排水の溶質濃度CFS2よりも低く、処理槽13を充たす排水の溶質濃度CFS2は処理槽51を充たす排水の溶質濃度CFS3よりも低い。
【0087】
また、濃縮駆動溶液導入設備53に貯留されている濃縮駆動溶液CDSの溶質濃度(溶質濃度CCDS)は駆動溶液導入設備16に貯留されている駆動溶液DS(溶質濃度CDS0)、駆動溶液循環設備17及びFO膜ユニット15を循環する駆動溶液DS(溶質濃度CDS1)又は駆動溶液循環設備18及びFO膜ユニット14を循環する駆動溶液DS(溶質濃度CDS2)の溶質濃度よりも高い。
【0088】
本変形例によれば、図1の排水処理設備10を用いた場合と同様の効果を奏することができる。
【0089】
また、本変形例によれば、処理槽51において、処理槽13で濃縮された排水を更に濃縮している。このとき、濃縮駆動溶液CDSとして海水を淡水に変換したときに発生する濃縮海水が排水の濃縮に使用されている。濃縮海水の溶質濃度は一般的に7~8%であり、FO膜52aに生じる浸透圧及び膜フラックスは溶質濃度3%程度の海水を使用する場合よりも大きいので、処理槽51での排水を簡単に濃縮することができる。さらに、濃縮海水は、例えば、海洋中に廃棄する際に廃棄される海域の水勢や生息生物を十分に把握しなければならないが、排水の濃縮に使用されるので、その手間を省くことができる。
【0090】
以上、本発明について、上述した実施の形態を用いて説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0091】
DS 駆動溶液
CDS 濃縮駆動溶液
S,T,U 内部空間
12,13,51 処理槽
14,15,52 FO膜ユニット
14a,15a,52a FO膜
11 排水導入設備
16 駆動溶液導入設備
17,18 駆動溶液循環設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7