(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】水中油型乳化食品
(51)【国際特許分類】
A23L 27/60 20160101AFI20240117BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20240117BHJP
A23D 7/01 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
A23L27/60 A
A23D7/00 510
A23D7/01
(21)【出願番号】P 2023090904
(22)【出願日】2023-06-01
【審査請求日】2023-06-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】山田 遙夢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠美子
(72)【発明者】
【氏名】須崎 健太
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-172528(JP,A)
【文献】特開2006-271205(JP,A)
【文献】特開2015-002682(JP,A)
【文献】特開2002-125596(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0050399(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/60
A23D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも卵黄を含有する水中油型乳化食品であって、
前記卵黄の含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、30質量%以下であり、
前記水中油型乳化食品が、卵黄から抽出した未精製の卵黄レシチンを含み、前記未精製の卵黄レシチンの含有量が、前記水中油型乳化食品に対して、2質量%以上8質量%以下であり、
前記水中油型乳化食品中のリン脂質が、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの少なくとも1種を含み、
前記ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、2.0質量%以上4.0質量%以下であり、
前記ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量が、前記リン脂質の全量に対して、65.0質量%以上であることを特徴とする、
水中油型乳化食品。
【請求項2】
前記リン脂質の含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、2.5質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の水中油型乳化食品。
【請求項3】
前記卵黄の含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、15質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、
請求項
1に記載の水中油型乳化食品。
【請求項4】
前記水中油型乳化食品が食用油脂を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の水中油型乳化食品。
【請求項5】
前記食用油脂の含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、10質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、
請求項
4に記載の水中油型乳化食品。
【請求項6】
前記水中油型乳化食品が酸材を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の水中油型乳化食品。
【請求項7】
マヨネーズ様調味料であることを特徴とする、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の水中油型乳化食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化食品に関し、詳細には、少なくとも卵黄を含有する水中油型乳化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マヨネーズ等の水中油型乳化食品には、卵黄、食用油脂、食酢等が配合されてきた。健康配慮の観点から、食用油脂の含有量が少なく、カロリーを抑えた水中油型乳化食品が開発されている。しかし、水中油型乳化食品中の食用油脂の含有量を低減させると、水中油型乳化食品の物性の変化、コクの減少、および風味の低下等の問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1では、物性を維持したまま食用油脂の含有量を低減した場合でも安定性に優れた酸性水中油型組成物を得るために、酸性水中油型組成物においてホスファチジン酸又は/及びホスファチジン酸塩の含有量を調節することが提案されている。特に、ホスファチジン酸を増加させるため、ホスファチジルコリンを低減することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、卵黄の通常の添加量を更に増量しなくても、卵の風味が更に強められ、その特有の風味を生かした卵風味食品を得るために、卵風味食品に、卵黄、イソチオシアン酸エステル類、及びホスファチジルイノシトールを20質量%以上含むリン脂質混合物を含有させることが提案されている。さらに、リン脂質混合物中の他の成分、例えば、ホスファチジルコリンの含量が好ましくは25質量%以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-91460号公報
【文献】特開平6-296474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、マヨネーズの美味しさのコクを上げる目的で卵黄を大量に配合する場合、卵黄のコクが増す一方で卵黄の生臭さが強く感じられ、水中油型乳化食品の風味に悪影響を与えるという課題を知見した。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、卵黄のコクが感じられ、かつ、卵黄の生臭さを抑制できる水中油型乳化食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、少なくとも卵黄を含有する水中油型乳化食品において、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量を、水中油型乳化食品の全量に対して調節し、かつ、リン脂質の全量に対して調節することによって、上記課題を解決できることを知見した。本発明者等は、当該知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一態様によれば、以下の発明が提供される。
[1] 少なくとも卵黄を含有する水中油型乳化食品であって、
前記水中油型乳化食品中のリン脂質が、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの少なくとも1種を含み、
前記ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、2.0質量%以上4.0質量%以下であり、
前記ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量が、前記リン脂質の全量に対して、65.0質量%以上であることを特徴とする、
水中油型乳化食品。
[2] 前記リン脂質の含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、2.5質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする、
[1]に記載の水中油型乳化食品。
[3] 前記水中油型乳化食品が卵黄レシチンを含むことを特徴とする、
[1]または[2]に記載の水中油型乳化食品。
[4] 前記卵黄の含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、15質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、
[1]~[3]のいずれかに記載の水中油型乳化食品。
[5] 前記水中油型乳化食品が食用油脂を含むことを特徴とする、
[1]~[4]のいずれかに記載の水中油型乳化食品。
[6] 前記食用油脂の含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、10質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、
[5]に記載の水中油型乳化食品。
[7] 前記水中油型乳化食品が酸材を含むことを特徴とする、
[1]~[6]のいずれかに記載の水中油型乳化食品。
[8] マヨネーズ様調味料であることを特徴とする、
[1]~[7]のいずれかに記載の水中油型乳化食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、卵黄のコクが感じられ、かつ、卵黄の生臭さを抑制できる水中油型乳化食品を提供することができる。さらに、酸味が抑制された水中油型乳化食品を提供することもできる。このような水中油型乳化食品は消費者の食欲を惹起することができ、水中油型乳化食品のさらなる市場拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<水中油型乳化食品>
本発明の水中油型乳化食品は、少なくとも卵黄を含有し、乳化剤、食用油脂、水、酸材、増粘剤、他の原料、及び具材等をさらに含んでもよい。
【0012】
水中油型乳化食品は、油脂が油滴として水相中に略均一に分散し、水中油型に乳化された食品であり、酸性水中油型乳化食品であることが好ましい。本発明の水中油型乳化食品は、特に限定されず、マヨネーズ様調味料、ドレッシング、ソース、タレ、及びこれらに類する他の食品が挙げられる。これらの中でも、マヨネーズ様調味料が好ましい。なお、本発明におけるマヨネーズ様調味料には、食品表示基準で定めるマヨネーズ(水分含有量:30質量%以下、食用油脂含有量:65質量%以上)と類似の性状(例えば、味、外観、主原料等)を有しながら、成分組成が食品表示基準に合致しない類似商品群が含まれる。
【0013】
(水中油型乳化食品の水分含有量)
水中油型乳化食品の水分含有量は、特に限定されないが、下限値は好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上であり、また、上限値は好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0014】
(水中油型乳化食品のpH)
水中油型乳化食品のpHは、特に限定されないが、下限値は好ましくは3.0以上であり、より好ましくは3.5以上であり、さらに好ましくは4.0以上であり、また、上限値は好ましくは6.0以下であり、より好ましくは5.5以下であり、さらに好ましくは5.0以下である。水中油型乳化食品のpHが上記範囲内であれば、水中油型乳化食品の微生物発生を制御して保存性を高めながら、水中油型乳化食品の風味のバランスを良好にすることができる。本発明においては、酸材の種類や配合量を調節することで、水中油型乳化食品のpHを上記の好適な数値範囲に調整することができる。なお、水中油型乳化食品のpHの値は、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いて測定した値である。
【0015】
(水中油型乳化食品中のコリン・リン脂質)
水中油型乳化食品にはリン脂質が含まれる。当該リン脂質は、例えば、卵黄及びレシチン由来であってもよいし、リン脂質として別途添加したものであってもよい。
水中油型乳化食品は、リン脂質として、ホスファチジルコリン(PC)及びリゾホスファチジルコリン(LPC)の少なくとも1種を含むものである。水中油型乳化食品は、上記以外のその他のリン脂質をさらに含んでもよい。その他のリン脂質としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンなどが挙げられる。
【0016】
(PC及びLPCの含有量並びにその測定方法)
ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量は、水中油型乳化食品の全量に対して、2.0質量%以上4.0質量%以下であり、下限値は好ましくは2.2質量%以上であり、より好ましくは2.4質量%以上であり、また、上限値は好ましくは3.8質量%以下であり、より好ましくは3.5質量%以下である。
また、水中油型乳化食品中のホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量に対して、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンのそれぞれの含有量は特に限定されないが、ホスファチジルコリンの含有量の下限値は、20質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、また、上限値は98質量%以下であってもよく、96質量%以下であってもよく、94質量%以下であってもよく、リゾホスファチジルコリンの含有量の下限値は、2質量%以上であってもよく、4質量%以上であってもよく、6質量%以上であってもよく、また、上限値は80質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよい。
また、水中油型乳化食品中のホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量は、リン脂質の全量に対して、下限値は65.0質量%以上であり、好ましくは67.0質量%以上であり、より好ましくは70.0質量%以上であり、さらに好ましくは72.0質量%以上であり、また、上限値は90.0質量%以下であってもよく、85.0質量%以下であってもよく、82.0質量%以下であってもよい。
本発明においては、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量は、水中油型乳化食品に配合する卵黄、レシチン、及びリン脂質の種類や量を適宜調節することで、所望の範囲内に調節することができる。
ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量を、水中油型乳化食品の全量に対して上記数値範囲内に調節し、かつ、リン脂質の全量に対して上記数値範囲内に調節することで、卵黄のコクが感じられ、かつ、卵黄の生臭さを抑制できる水中油型乳化食品を提供することができる。さらに、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量を、水中油型乳化食品の全量に対して上記数値範囲内に調節し、かつ、リン脂質の全量に対して上記数値範囲内に調節することで、水中油型乳化食品が酸性水中油型乳化食品の場合は酸味を抑制することができる。
なお、本発明において、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの含有量については、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いてそれぞれの標準試料(ホスファチジルコリン:製品番号P3556 L-α-ホスファチジルコリン Sigma Aldrich製、リゾホスファチジルコリン:製品番号L4129 L-α-リゾホスファチジルコリン Sigma Aldrich製)の分析結果から検量線を作成し、対象となる原料または水中油型乳化食品のピーク面積からそれぞれの含有量を算出できる。
但し、卵黄由来のリゾホスファチジルコリンの含有量は、HPLCの分析結果から算出した含有量を、分子量(ホスファチジルコリン:772g/mol、リゾホスファチジルコリン:504g/mol)をもとに、下記の計算式を用いてホスファチジルコリン含有量に換算した値である。
・リゾホスファチジルコリンの含有量(ホスファチジルコリン換算値)=HPLCの分析結果から算出した含有量×772÷504
また、大豆由来のリゾホスファチジルコリンの含有量については、HPLCの分析結果から算出した含有量を、分子量(ホスファチジルコリン:773g/mol、リゾホスファチジルコリン:512g/mol)をもとに、下記の計算式を用いてホスファチジルコリン含有量に換算した値である。
・リゾホスファチジルコリンの含有量(ホスファチジルコリン換算値)=HPLCの分析結果から算出した含有量×773÷512
なお、卵黄及び大豆以外の原料に由来するホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの含有量の算出においては、当該原料に含まれるホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの分子量の値について文献から用いた数値を使用しても良いし、原料毎にホスファチジルコリンやリゾホスファチジルコリンの脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー等を用いて分析した結果から算出した値を使用しても良い。
【0017】
リン脂質の含有量は、水中油型乳化食品の全量に対して、下限値は好ましくは2.5質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.4質量%以上であり、また、上限値は好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは4.8質量%以下であり、さらに好ましくは4.5質量%以下である。リン脂質の含有量を水中油型乳化食品の全量に対して上記数値範囲内に調節することで、卵黄のコクが感じられ易く、かつ、卵黄の生臭さを抑制できる。
なお、本発明において、リン脂質の含有量は、食品添加物公定書におけるレシチンの分析方法に準拠して測定した値である。
【0018】
(レシチン)
本発明において、「レシチン」とは、天然物(卵黄等)に含まれるもの(抽出前のもの)ではなく、天然物から抽出された後のものであり、リン脂質を15%以上含有するものとする。レシチンの由来は特に限定されないが、卵黄レシチン、大豆レシチン、菜種レシチン、ひまわりレシチン、及び米レシチン等が挙げられる。これらの中でも、卵黄レシチンを使用することが好ましい。本発明において、「原料名+レシチン」とは、当該原料から抽出したレシチンを指す。レシチンは、天然物由来の未精製レシチンであってもよいし、未精製レシチンから、中性脂質、タンパク質、ステロール、及び色素等の不純物を常法により除去して得られた精製レシチンであってもよい。
【0019】
(卵黄)
卵黄は、特に限定されず従来公知の卵黄を用いることができる。卵黄としては、例えば、液卵黄や生卵黄、当該液卵黄や生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスホリパーゼA処理卵黄のようなホスホリパーゼA1またはホスホリパーゼA2による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖質等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。
【0020】
卵黄の含有量(生換算)は、水中油型乳化食品の全量に対して、下限値は好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは17質量%以上であり、さらに好ましくは20%以上であり、また、上限値は好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは27質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以下である。卵黄の含有量が上記範囲内であれば、水中油型乳化食品は乳化状態を維持し易くなり、さらに、卵黄のコクが感じられ易く、かつ、卵黄の生臭さを抑制できる。
【0021】
(食用油脂)
水中油型乳化食品に用いる食用油脂は、特に限定されず、従来公知の食用油脂を用いることができる。食用油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル等の植物油脂、魚油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を挙げることができる。これらの中でも、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、又はこれらの混合油を用いることが好ましい。
【0022】
食用油脂の含有量は、水中油型乳化食品の全量に対して、下限値は好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、さらにより好ましくは40質量%以上であり、また、上限値は好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下であり、さらに好ましくは65質量%以下であり、さらにより好ましくは60質量%以下である。食用油脂の含有量が上記範囲内であれば、水中油型乳化食品の乳化状態を維持し易い。
【0023】
(酸材)
水中油型乳化食品に用いる酸材は、特に限定されず、従来公知の食品用酸材を用いることができる。酸材としては、例えば、食酢(酢酸)、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸等の有機酸及びそれらの塩、燐酸、塩酸等の無機酸及びそれらの塩、レモン果汁、リンゴ果汁、オレンジ果汁、乳酸発酵乳等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの酸材を配合することで、水中油型乳化食品のpHを所望の数値範囲内に調節したり、水中油型乳化食品の風味のバランスを良好にしたりすることができる。
【0024】
水中油型乳化食品中の酸材の含有量は、酸材の種類や目的とするpHに応じて適宜調節することができる。例えば、酸材として食酢(酸度9%)を用いる場合、食酢(酸度9%)の含有量は、水中油型乳化食品の全量に対して、下限値は好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは4質量%以上であり、さらにより好ましくは5質量%以上であり、また、上限値は好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは12質量%以下であり、さらにより好ましくは10質量%以下である。食酢(酸度9%)の含有量が上記範囲内であれば、水中油型乳化食品の微生物発生を制御して保存性を高めながら、水中油型乳化食品本来の風味を維持し易くなる。
【0025】
(他の原料)
水中油型乳化食品は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で水中油型乳化食品に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、下記の増粘剤、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、醤油、みりん、食塩、白胡麻、茶胡麻、胡麻、グルタミン酸ナトリウム、ブイヨン、ぶどう糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、オリゴ糖、トレハロース、からし粉、胡椒等の調味料、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、静菌剤等が挙げられる。
【0026】
(増粘剤)
増粘剤は、特に限定されず従来公知の食品用の増粘剤を用いることができる。増粘剤としては、増粘剤としては、加工澱粉及び/又はガム類を用いることができる。加工澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、及びリン酸化澱粉等が挙げられる。これらの加工澱粉の中でも、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉やオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムを用いることが好ましい。ガム類としては、例えば、キサンタンガム、コンニャクガム、グアーガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、及びアラビアガム等が上げられる。これらのガム類の中でも、キサンタンガムを用いることが好ましい。但し、ウェランガムを用いないことが好ましい。これらの増粘剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
増粘剤の含有量は、水中油型乳化食品の全量に対して、下限値は好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、また、上限値は好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、水中油型乳化食品の乳化状態を維持し易くなる。
【0028】
(具材)
具材としては、植物性の具材および動物性の具材のいずれでも用いることができる。植物性の具材としては、大根、人参、牛蒡、筍、キャベツ、白菜、セロリ、アスパラガス、ほうれん草、小松菜、青梗菜、トマト等の野菜、ジャガイモ、薩摩芋、里芋等の芋類、大豆、小豆、蚕豆、エンドウ豆等の豆類、米、麦、稗、粟等の穀類、リンゴ、モモ、パイナップル等の果実類、椎茸、シメジ、エノキ、ナメコ、松茸等のきのこ類、若布、昆布、ひじき等の海藻等を挙げることができる。また、動物性の具材としては、牛肉、豚肉、鳥肉、羊肉、馬肉、鹿肉、猪肉、山羊肉、兎肉、鯨肉、それらの内臓等の肉類や、鯵、鮎、鰯、鰹、鮭、鯖、鮪等の魚類、鮑、牡蠣、帆立、蛤等の貝類、エビ、カニ、イカ、タコ、ナマコ等の魚介類を挙げることができる。また、ゆで卵、卵焼き、オムレツ等の卵製品、蒲鉾等の練製品やハム・ソーセージ等の畜肉製品、麺類、漬物等の加工食品であってもよい。食用の食品製造原料または素材であれば、これらに限定されない。これらの具材は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
これらの具材は、生の状態で用いてもよいし、茹でる、煮る、焼く、蒸す、揚げる等の加熱・調理を行ったものを用いてもよい。また、これらの具材は、凍結あるいは凍結・解凍処理をしたものを用いることもできる。さらに、これらの具材の形状は、塊でも一口大でもいずれの形状であってもよく、具材の大きさは適宜選択することができる。
【0030】
<水中油型乳化食品の製造方法>
本発明の水中油型乳化食品の製造方法の一例について説明する。例えば、まず、清水、卵黄、酸材、及び調味料等の他の水相原料を混合して、水相を調製する。続いて、上記で調製した水相に油相原料である食用油脂を注加して粗乳化し、次にせん断力に優れた処理機等で均質化して、水相中に油相を乳化分散させた水中油型乳化食品を得ることができる。
【0031】
本発明の水中油型乳化食品の製造には、通常の水中油型乳化食品の製造に使われる装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、一般的な攪拌機、スティックミキサー、スタンドミキサー、ホモミキサー等が挙げられる。撹拌機の撹拌羽形状としては、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、アンカー翼等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0033】
<水中油型乳化食品の製造例>
[実施例1]
表1に記載の配合割合に準じ、水中油型乳化食品を製造した。具体的には、まず、撹拌タンクに、卵黄(ホスファチジルコリン(以下、「PC」)量:6.3質量%、リゾホスファチジルコリン(以下、「LPC」)量:0.5質量%、リン脂質量:9.4質量%)、食塩、醸造酢(酸度9%)、調味料、卵黄レシチン(PC量:21.3質量%、LPC量:2.2質量%、リン脂質量:27.9質量%)、及び清水を均一になるように混合して、水相を調製した。その後、調製した水相に食用油脂(菜種油)を注加し、乳化処理を行って、水中油型乳化食品を調製した。
なお、PC及びLPCの各含有量は、上記の(PC及びLPCの含有量並びにその測定方法)の欄で詳述した方法により測定した値である。
【0034】
[実施例2]
卵黄レシチンの配合量を4質量%に変更し、食用油脂の配合量を46質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0035】
[実施例3]
卵黄レシチンの配合量を6質量%に変更し、食用油脂の配合量を44質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0036】
[実施例4]
卵黄レシチンの配合量を8質量%に変更し、食用油脂の配合量を42質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0037】
[実施例5]
卵黄の配合量を15質量%に変更し、清水の配合量を22質量%に変更した以外は、実施例3と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0038】
[実施例6]
卵黄の配合量を5質量%に変更し、酵素処理卵黄(PC量:0.9質量%、LPC量:6.0質量%、リン脂質量:7.3質量%)を20質量%配合し、卵黄レシチンを配合せず、酵素処理レシチン(PC量:0.9質量%、LPC量:22.8質量%、リン脂質量:22.2質量%)を2質量%配合した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0039】
[実施例7]
卵黄の配合量を5質量%に変更し、酵素処理卵黄を20質量%配合し、食用油脂の配合量を47質量%に変更し、卵黄レシチンの配合量を3質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0040】
[実施例8]
卵黄の配合量を12.5質量%に変更し、酵素処理卵黄を12.5質量%配合し、食用油脂の配合量を46質量%に変更し、卵黄レシチンの配合量を4質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0041】
[実施例9]
卵黄の配合量を20質量%に変更し、酵素処理卵黄を5質量%配合し、食用油脂の配合量を45質量%に変更し、卵黄レシチンの配合量を5質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0042】
[比較例1]
卵黄レシチンの配合量を10質量%に変更し、食用油脂の配合量を40質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0043】
[比較例2]
卵黄レシチンを配合せず、食用油脂の配合量を50質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。
【0044】
[比較例3]
卵黄レシチンを配合せず、代わりに大豆レシチン(PC量:17.3質量%、LPC量:0.8質量%、リン脂質量:61.0質量%)を2質量%配合した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化食品を調製した。大豆レシチンについては、PCの分子量は773g/mol、LPCの分子量は512g/molを用いてHPLC分析より得られた数値をLPCをPCに換算した。
【0045】
(pH測定)
上記で調製した各水中油型乳化食品について、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いてpHを測定した。各水中油型乳化食品のpHは4.04~4.33の範囲内であった。
【0046】
(官能評価)
上記で調製した各水中油型乳化食品について、複数の訓練されたパネルより、下記の5段階の評価基準で、「卵黄のコク」及び「卵黄の生臭さ」の各項目を評価した。各パネルの点数の平均値を評価点として表1に示した。「卵黄のコク」及び「卵黄の生臭さ」評価点がともに2.0点以上であれば、良好な結果であると言える。
[評価基準]
(卵黄のコク)
5点:卵黄のコク味を非常に良く感じた。
4点:卵黄のコク味を十分に感じた。
3点:卵黄のコク味を感じた。
2点:卵黄のコク味を少し感じた。
1点:卵黄のコク味が乏しかった。
(卵黄の生臭さ)
5点:卵黄の生臭さが非常に抑制されていた。
4点:卵黄の生臭さが十分に抑制されていた。
3点:卵黄の生臭さが抑制されていた。
2点:卵黄の生臭さが少し抑制されていた。
1点:卵黄の生臭さが抑制されていなかった。
【0047】
実施例1~9の水中油型乳化食品はいずれも、卵黄のコクが感じられ、かつ、卵黄の生臭さを抑制できた。
比較例1の水中油型乳化食品は、PC+LPC量が多かったため、卵黄の生臭さが抑制されていなかった。
比較例2の水中油型乳化食品は、PC+LPC量が少なかったため、卵黄のコク味が乏しかった。
比較例3の水中油型乳化食品は、リン脂質量に対するPC+LPC量が少なかったため、卵黄のコク味が乏しかった。
【0048】
【要約】
【課題】卵黄のコクが感じられ、かつ、卵黄の生臭さを抑制できる水中油型乳化食品の提供。
【解決手段】本発明は、少なくとも卵黄を含有する水中油型乳化食品であって、前記水中油型乳化食品中のリン脂質が、ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの少なくとも1種を含み、前記ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量が、前記水中油型乳化食品の全量に対して、2.0質量%以上4.0質量%以下であり、前記ホスファチジルコリン及びリゾホスファチジルコリンの合計含有量が、前記リン脂質の全量に対して、65質量%以上 であることを特徴とする。
【選択図】なし