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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】マイクロニードルアレイ
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
A61M37/00 520
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021014454
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117769
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000176626
【氏名又は名称】三島光産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】中 利明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 正昭
(72)【発明者】
【氏名】田代 康典
(72)【発明者】
【氏名】原 正哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 高廣
(72)【発明者】
【氏名】引間 知広
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0004614(US,A1)
【文献】特開2003-093521(JP,A)
【文献】特開2009-061144(JP,A)
【文献】特開2015-226649(JP,A)
【文献】特開2021-003547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座上に多数のマイクロニードルが立設されたマイクロニードルアレイにおいて、
平面視して、前記台座の中心位置を含む内側領域に立設されたマイクロニードル群Aを構成するマイクロニードルAと、前記台座の外周端位置を含み、前記内側領域を囲む外側領域に立設されたマイクロニードル群Bを構成するマイクロニードルBは、
前記マイクロニードルBの基部の幅が前記マイクロニードルAの基部の幅よりも広く、かつ、前記マイクロニードルBの先端部に比べて前記マイクロニードルAの先端部が鋭角状であり、穿刺性に優れたことを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロニードルアレイにおいて、前記マイクロニードルAと前記マイクロニードルBの高さが同じであることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマイクロニードルアレイにおいて、前記マイクロニードルBの基部の幅が300μm以上1000μm以下であることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイにおいて、前記台座の前記内側領域の上面高さを前記外側領域の上面高さよりも高くしたことを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【請求項5】
請求項4記載のマイクロニードルアレイにおいて、前記台座の高低差が0μm超200μm以下であることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、従来使用されている注射器の代わりに体内への投薬を行うことが可能なマイクロニードルアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
今後、高齢化社会が進むにつれ、社会体制の中で医療の占める比率が増加する。このため、例えば、老齢者や仕事多忙者等の通院頻度の軽減化を図る方策の一つとして、また、遠隔地や過疎地のような医師や病院数の不足地域に対する在宅医療の一環として、医師の処方に基づいた在宅投薬を行うニーズは大きくなる。
医療行為の中では、外傷等の患部への外科的処置と投薬治療が大きな比率を占め、更に投薬治療においては、注射器による体内投薬が大きな比率を占めている。この注射器による投薬は、通常、医師や看護師のような有資格者が病院で施行するものであるが、糖尿病に対するインシュリン投与のように、中には患者自身が在宅で施行することが認められているものもある。
【0003】
注射器による投薬の長所は、皮下や血管に直接投薬できる点にあるが、欠点は、注射の際の痛みや、投薬回数の増加に伴い傷(注射痕)が残ったり腫れたりする点にある。
そこで、注射器の代わりに、先端が尖ったマイクロニードルを台座(平板)上に複数有する樹脂製や金属製のマイクロニードルアレイを使用することが考えられている(例えば、特許文献1、2参照)。
このマイクロニードルアレイの使用にあっては、マイクロニードルの長さを皮下の無痛点の深さに到達可能な寸法にすることで使用時の痛みを解消(無痛化を達成)することができ、また、パッチ式に表皮に貼り当てるだけの使用方法となるため患者自身が在宅で容易に投薬できることから、患者への負担が大いに軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-111274号公報
【文献】特開2018-183511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したマイクロニードルアレイを用いて複数のマイクロニードルを皮膚に刺した場合、各マイクロニードルの皮膚への穿刺深さ(刺さり具合)にばらつきが生じ、穿刺性が悪化して、表皮下に規定量の薬剤を注入できないおそれがあった。ここで、穿刺性が悪化とは、各マイクロニードルの穿刺深さのばらつきが大きいことを、また、穿刺性が良好(優れている)とは、各マイクロニードルの穿刺深さのばらつきが小さいことを、それぞれ意味する。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、表皮下に規定量の薬剤を注入可能なマイクロニードルアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、従来のマイクロニードルアレイ、具体的には、同一形状のマイクロニードルが複数同じピッチで台座上に立設されたマイクロニードルアレイを使用して、各マイクロニードルの穿刺深さを調査したところ、以下の知見が得られた。
なお、調査には、図4に示すように、台座上に配置したマイクロニードルの本数が異なる4種類のマイクロニードルアレイを用いた。この4種類のマイクロニードルアレイにはそれぞれ、マイクロニードルが、26本(配置ピッチ:1.5~1.8mm)、52本(配置ピッチ:1.3mm)、100本(配置ピッチ:0.6mm)、及び、140本(配置ピッチ:0.6mm)配置され、各マイクロニードルアレイを構成するマイクロニードルの形状と寸法は、それぞれ同じである。また、マイクロニードルアレイを押し当てる対象として、豚の皮膚を用いた。
【0008】
まず、4種類のマイクロニードルアレイを同一条件下で豚の皮膚に押し当てた場合のマイクロニードルの平均穿刺深さ(μm)について、図5を参照しながら説明する。
図5に示すように、マイクロニードルの平均穿刺深さは、4種類のマイクロニードルアレイのうち52本の場合が最も良好であり(深く刺さっており)、これより少なくても(26本)、また、多くても(100本、140本)、低下する傾向が得られた。
次に、4種類のマイクロニードルアレイを同一条件下で豚の皮膚に押し当てた場合のマイクロニードルの穿刺深さの分布(高さ分布)を調査した結果について、図6を参照しながら説明する。なお、図6は、各マイクロニードルアレイを構成する全てのマイクロニードルごとに穿刺深さ(例えば、マイクロニードルが26本の場合は26箇所)を測定した結果であり、数値が高いほど穿刺深さが深い(深く刺さっている)ことを示している。
図6に示すように、4種類のマイクロニードルアレイのいずれについても、マイクロニードルは、平面視して台座の幅方向(上下方向や左右方向)の刺さり方に偏りが生じているが、台座の内側領域に配置されたマイクロニードルよりも、この内側領域を囲む外側領域に配置されたマイクロニードルの方が、深く刺さる傾向が得られた。
【0009】
以上の知見から得られた結果を、以下に示す。
マイクロニードルの本数が多くなると、単位面積当たりのマイクロニードルの本数が増加するため、穿刺時の力が分散して、穿刺性が悪化した。
マイクロニードルの本数が少なくなって、配置ピッチが広くなり過ぎると、隣り合うマイクロニードル間の皮膚が撓み易くなるため、穿刺性が悪化した。
マイクロニードルの配置位置によって穿刺深さが異なっていた。即ち、平面視して台座の内側領域に配置されたマイクロニードルよりも、この内側領域を囲む外側領域に配置されたマイクロニードルの方が、深く刺さっていた(内側領域の方が浅く刺さっていた)。
そこで、本発明者らは、マイクロニードルの配置領域ごとに各種条件を変更することで、マイクロニードルの穿刺深さのばらつきを小さくできること、即ち、穿刺性を良好にできることに想到した。
本発明は、以上の知見をもとになされたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0010】
前記目的に沿う本発明に係るマイクロニードルアレイは、台座上に多数のマイクロニードルが立設されたマイクロニードルアレイにおいて、
平面視して、前記台座の内側領域(中央領域)に立設されたマイクロニードル群Aを構成するマイクロニードルAと、前記内側領域を囲む外側領域(外周領域)に立設されたマイクロニードル群Bを構成するマイクロニードルBは、高さ、基部の幅、配置ピッチ、及び、先端部の形状のいずれか1又は2以上が異なり、穿刺性に優れている。
【0011】
本発明に係るマイクロニードルアレイにおいて、前記高さが異なることを条件として、前記マイクロニードルBの高さを前記マイクロニードルAの高さよりも低くすることが好ましい。
ここで、前記マイクロニードルAと前記マイクロニードルBの高低差は0μm超200μm以下であるのがよい。
【0012】
本発明に係るマイクロニードルアレイにおいて、前記基部の幅が異なることを条件として、前記マイクロニードルBの基部の幅を前記マイクロニードルAの基部の幅よりも広くすることが好ましい。
ここで、前記マイクロニードルBの基部の幅は300μm以上1000μm以下であるのがよい。
【0013】
本発明に係るマイクロニードルアレイにおいて、前記配置ピッチが異なることを条件として、隣り合う前記マイクロニードルBの配置ピッチBを隣り合う前記マイクロニードルAの配置ピッチAよりも狭くするのがよい。
ここで、前記配置ピッチAは1.0mm以上2.0mm以下であり、前記配置ピッチBは0.5mm以上1.0mm以下であるのがよい。
【0014】
本発明に係るマイクロニードルアレイにおいて、前記先端部の形状が異なることを条件として、前記マイクロニードルBの円弧状となった先端部の曲率半径Bを前記マイクロニードルAの円弧状となった先端部の曲率半径Aよりも大きくするのがよい。
ここで、前記曲率半径Aが5μm以上20μm以下であり、前記曲率半径Bが30μm以上70μm以下であるのがよい。
【0015】
本発明に係るマイクロニードルアレイにおいて、前記台座の前記内側領域の上面高さを前記外側領域の上面高さよりも高くすることが好ましい。
ここで、前記台座の高低差は0μm超200μm以下であるのがよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るマイクロニードルアレイは、台座の内側領域に立設されたマイクロニードル群Aと、内側領域を囲む外側領域に立設されたマイクロニードル群Bとで、マイクロニードルの高さ、基部の幅、配置ピッチ、及び、先端部の形状のいずれか1又は2以上を変更するので、複数のマイクロニードルの穿刺深さ(刺さり具合)のばらつきを従来よりも低減でき(穿刺性を良好にでき)、表皮下に規定量の薬剤を注入することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)~(D)はそれぞれ本発明の第1~第4の実施の形態に係るマイクロニードルアレイの側面図である。
図2】同マイクロニードルアレイの概要を示す説明図である。
図3】変形例に係るマイクロニードルアレイの側面図である。
図4】調査に用いた4種類のマイクロニードルアレイを構成するマイクロニードルの配置状況を示す平面図である。
図5】同4種類のマイクロニードルアレイを用いて得られたマイクロニードルの本数と平均穿刺深さとの関係を示すグラフである。
図6】同4種類のマイクロニードルアレイを構成するマイクロニードルの穿刺深さを測定した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
まず、図1(A)~(D)にそれぞれ示す本発明の第1~第4の実施の形態に係るマイクロニードルアレイの全体概要(共通部分)について、図2に示すマイクロニードルアレイ10を用いて説明する。
マイクロニードルアレイ10は、従来使用されている注射器の代わりに体内への投薬を行うもの(医療用デバイス)である。なお、マイクロニードルアレイ10の用途は、投薬に限定されるものではなく、皮膚や頭皮への美容液の投与、また、皮膚組織や体液の採取等に使用することも可能である。
【0019】
マイクロニードルアレイ10は、例えば、樹脂、生体由来材料、金属、及び、セラミックのいずれか1又は2以上の組み合わせ(以下、樹脂等とも記載)で構成され、台座11と、この台座11上に立設配置された先端が尖った複数のマイクロニードル(針又は微小針ともいう)12とを有している。なお、必ずしもマイクロニードルアレイ全体が樹脂等で構成される必要はなく、少なくともマイクロニードルが樹脂等で構成されていればよい。また、マイクロニードルの表面に、必要に応じて、めっき、溶射、又は、金属蒸着等を行って、金属層を形成することもできる。
この台座11の大きさは、特に限定されるものではなく、一般的には、面積が0.5~40cm程度、厚みが10~2000μm程度、である。また、その形状は、平面視して正方形(長方形でもよい)であるが、特に限定されるものではなく、例えば、円形や楕円形、また、多角形(正多角形)、更には、勾玉形やフェイス状等でもよい。
また、マイクロニードル12の形状は、円錐状であるが、例えば、楕円錐状や多角錐状(三角錐状や四角錐状等)でもよい。
【0020】
マイクロニードル12は、台座11の約1cmの範囲に、例えば、10~1000本(好ましくは、下限が30本、上限が300本)程度、立設配置されている。従って、台座11の大きさは、上記マイクロニードル12を配置可能な面積を有すればよい。
ここで、複数のマイクロニードル12の台座11上の配置領域は、平面視して正方形であるが、例えば、長方形、円形や楕円形、また、多角形でもよく、長方形であれば長辺が、円形であれば直径が、楕円形であれば長軸が、多角形(正多角形)であれば一辺が、例えば、5~50mm程度となっている。なお、長方形の短辺は長辺よりも短い長さで適宜設定できる。
また、各マイクロニードル12は台座11に、平面視して碁盤目状に配置しているが、例えば、千鳥状やランダムに配置することもできる。ここで、千鳥状に分散配置するとは、マイクロニードルが一定間隔で直線状に並んだ(立設した)複数の列において、隣り合う列の間で、一方の列のマイクロニードルが、他方の列の隣り合うマイクロニードルの隙間の中央に対応する位置に配置(立設)されている状態をいう。
【0021】
マイクロニードル12は、人体に投薬を行う部分であるため、必要に応じて、その表面側に溝や窪み等を形成することもでき、更には、マイクロニードルの先側に向けて開口した穴(貫通孔でもよい)を形成することもできる。
マイクロニードル12の形状、寸法、及び、本数、また、台座11へのマイクロニードル12の配置の仕方や配置範囲の各条件は、マイクロニードルアレイの使用用途(例えば、人体に必要な投薬量)を満足できれば、特に限定されるものでなく、種々変更できる。
例えば、マイクロニードルの形状としては、前記した特許文献1や特許文献2等に記載の形状を採用することが好ましい。このマイクロニードルは、先側(穿刺部分)が二股に分かれ、その間に形成された凹部内に薬剤を保持可能なものである。
【0022】
マイクロニードルアレイ10を構成する樹脂としては、例えば、生分解性プラスチック(生分解性樹脂)や熱可塑性樹脂、あるいは、熱硬化性樹脂を使用できる。
生分解性プラスチックは、微生物により分解されるプラスチックであり、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、変性澱粉等があるが、特にポリ乳酸が好ましい。このポリ乳酸は、トウモロコシを原料としており、人の体内や自然環境で二酸化炭素と酸素に分解されるという特徴を持っている。このため、マイクロニードルをポリ乳酸製とすることで、マイクロニードルがもし体内で折れてしまっても、体内で分解され吸収されてしまうので、人体に対し安全である。
【0023】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等を使用できるが、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
そして、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等を使用できる。
【0024】
生体由来材料としては、例えば、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、セルロース等の生体内溶解物質を使用できる。
金属としては、例えば、ステンレス鋼、コバルト合金、チタン合金等を使用でき、それぞれの具体例として、316L(ステンレス鋼)、ASTM F75(Haynes-Stellite 21:コバルト合金)、ASTM F67(純チタン)、ASTM F136(Ti-6Al-4V:チタン合金)等の生理的環境における防食性を備えた材料を利用できる。
セラミックとしては、例えば、アルミナやジルコニア等を使用できる。なお、セラミックは、金属における腐食の問題を回避するため、上記した金属の表面に被覆することもできる。
【0025】
マイクロニードル12の寸法は、例えば、台座11側の基端径(基端幅:基部の幅)が100μm~1000μm程度、高さが0.03mm~5.0mm(好ましくは、下限が0.1mm、上限が2.0mm)程度、円弧状となった先端部の曲率半径が5μm~70μm程度、である。ここで、基端径は、折れにくさ(損傷を抑制、更には防止)を考慮して、また、高さは、皮膚の表皮を破り真皮に投薬可能な長さを考慮して、更に、先端部の曲率半径は、使用時に痛みを感じさせない(感じ難くさせる)ことを考慮して、それぞれ設定している。
また、マイクロニードル12の台座11への配置ピッチとは、図1(A)に示すように、隣接するマイクロニードル12のうち、最も近いマイクロニードル12同士の距離を意味し、0.5mm以上2.0mm以下程度である。
【0026】
続いて、本発明の第1~第4の実施の形態に係るマイクロニードルアレイについて、図1(A)~(D)を参照しながら説明する。
第1~第4の実施の形態に係るマイクロニードルアレイはそれぞれ、上記したマイクロニードルアレイ10のように、台座11上に多数のマイクロニードルが立設されており、平面視して、台座11の内側領域に立設されたマイクロニードル群Aを構成するマイクロニードルAと、この内側領域を囲む外側領域に立設されたマイクロニードル群Bを構成するマイクロニードルBとを有している。この第1~第4の実施の形態に係るマイクロニードルアレイそれぞれのマイクロニードルAとマイクロニードルBは、高さ(図1(A))、基端径(図1(B))、配置ピッチ(図1(C))、先端部の形状(図1(D))が異なっており、穿刺性に優れたものである。なお、図1(A)~(D)は、図2に示すマイクロニードルアレイ10を側面視した図に対応する。
以下、詳しく説明する。
【0027】
台座11の内側領域と外側領域とは、前記したマイクロニードルの穿刺深さを調査した結果(図4図6参照)に基づいて設定した領域である。図2に示すマイクロニードルアレイ10のマイクロニードル12が立設された台座11上の領域について説明すると、その中心位置(軸心位置)Pから各辺部の端位置Eまでを幅Wとして、内側領域は、少なくとも中心位置PからW×0.3(好ましくはW×0.5)までの範囲であり、外側領域は、少なくとも端位置EからW×0.1(好ましくはW×0.2)までの範囲である。また、マイクロニードル12の立設位置で説明した場合、マイクロニードル12が立設された領域において、最外周に位置する1列のマイクロニードル12の立設位置、又は、最外周とその内側に位置する2列のマイクロニードル12の立設位置が、外側領域に該当し、残りは内側領域となる。
本実施の形態では、内側領域と外側領域との間に中間領域を設けているが、中間領域を介することなく内側領域と外側領域を連続させてもよい。なお、中間領域に立設されるマイクロニードルCは、高さ、基端径、配置ピッチ、又は、先端部の形状が、内側領域に立設されるマイクロニードルAと、外側領域に立設されるマイクロニードルBの間の数値に(段階的)設定される。
【0028】
図1(A)に示すマイクロニードルアレイは、内側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Aの一例)20を構成するマイクロニードル(マイクロニードルAの一例)21と、外側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Bの一例)22を構成するマイクロニードル(マイクロニードルBの一例)23とで、高さが異なるものであり、マイクロニードル23の高さをマイクロニードル21の高さよりも低くしている。
なお、マイクロニードル21、23と、中間領域に立設されるマイクロニードル(マイクロニードルCの一例)24は、基端径が同じであり、台座11上に同一ピッチで配置されている。
【0029】
ここで、マイクロニードル21とマイクロニードル23の高低差ΔTは0μm超200μm以下(好ましくは、下限が30μm、更には50μm、上限が170μm、更には150μm)であることが好ましい。このマイクロニードル21、23の高さはそれぞれ同じであるが、上記した条件下で、中心位置P側から端位置E側にかけて徐々に低くしてもよい。
このように、マイクロニードル23の高さをマイクロニードル21の高さよりも低くすることで、外側領域に比べて浅く刺さる傾向にある内側領域のマイクロニードル21が、マイクロニードル23よりも優先的に皮膚に刺さり易くなり、穿刺深さのばらつきを小さくでき、マイクロニードルアレイの穿刺性を向上できる。なお、マイクロニードル24の高さは、マイクロニードル21とマイクロニードル23の間に設定される。
【0030】
図1(B)に示すマイクロニードルアレイは、内側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Aの一例)30を構成するマイクロニードル(マイクロニードルAの一例)31と、外側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Bの一例)32を構成するマイクロニードル(マイクロニードルBの一例)33とで、基端径(根元径や裾野径とも称す)が異なるものであり、マイクロニードル33の基端径Bをマイクロニードル31の基端径Aよりも広くしている。
なお、マイクロニードル31、33と、中間領域に立設されるマイクロニードル(マイクロニードルCの一例)34は、高さが同じであり、台座11上に同一ピッチで配置されている。
【0031】
ここで、マイクロニードル33の基端径は300μm以上1000μm以下(好ましくは、下限が400μm、更には500μm、上限が900μm、更には800μm)であることが好ましい。このマイクロニードル31、33の基端径はそれぞれ同じであるが、上記した条件下で、中心位置P側から端位置E側にかけて徐々に広くしてもよい。
このように、マイクロニードル33の基端径をマイクロニードル31の基端径よりも広くすることで、外側領域に比べて刺さり難い傾向にある内側領域のマイクロニードル31が鋭角状となって、マイクロニードル33よりも皮膚に刺さり易くなり、刺さり易さのばらつきを低減できるので、マイクロニードルアレイの穿刺性を向上できる。なお、マイクロニードル34の基端径は、マイクロニードル31とマイクロニードル33の間に設定される。
【0032】
図1(C)に示すマイクロニードルアレイは、内側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Aの一例)40を構成するマイクロニードル(マイクロニードルAの一例)41と、外側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Bの一例)42を構成するマイクロニードル(マイクロニードルBの一例)43とで、配置ピッチが異なるものであり、隣り合うマイクロニードル43の配置ピッチBを隣り合うマイクロニードル41の配置ピッチAよりも狭くしている。
なお、マイクロニードル41、43と、中間領域に立設されるマイクロニードル(マイクロニードルCの一例)44は、同一形状である。また、マイクロニードルの配置ピッチとは、直線状に配置された複数のマイクロニードルのうち、隣り合うマイクロニードルが最も近くなる位置での距離を意味している。
【0033】
ここで、配置ピッチAは1.0mm以上2.0mm以下(好ましくは、下限が1.3mm、上限が1.5mm)であり、配置ピッチBは0.5mm以上1.0mm以下(好ましくは、下限が0.6mm、上限が0.8mm)であることが好ましい。このマイクロニードル41、43の配置ピッチA、Bはそれぞれ同じであるが、上記した条件下で、中心位置P側から端位置E側にかけて徐々に狭くしてもよい。
このように、隣り合うマイクロニードル43の配置ピッチBを隣り合うマイクロニードル41の配置ピッチAよりも狭くすることで、内側領域に比べて深く刺さる傾向にある外側領域のマイクロニードル43が、マイクロニードル41よりも皮膚に刺さり難くなり、穿刺深さのばらつきを小さくできるので、マイクロニードルアレイの穿刺性を向上できる。なお、隣り合うマイクロニードル44の配置ピッチCは、配置ピッチAと配置ピッチBの間に設定される。
【0034】
図1(D)に示すマイクロニードルアレイは、内側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Aの一例)50を構成するマイクロニードル(マイクロニードルAの一例)51と、外側領域に立設されたマイクロニードル群(マイクロニードル群Bの一例)52を構成するマイクロニードル(マイクロニードルBの一例)53とで、先端部の形状が異なるものであり、マイクロニードル53の円弧状となった先端部の曲率半径Bをマイクロニードル51の円弧状となった先端部の曲率半径Aよりも大きくしている。
なお、マイクロニードル51、53と、中間領域に立設されるマイクロニードル(マイクロニードルCの一例)54は、基端径と高さが同じであり、台座11上に同一ピッチで配置されている。
【0035】
ここで、先端部の曲率半径Aは5μm以上20μm以下(好ましくは、下限が7μm、上限が15μm)であり、曲率半径Bは30μm以上70μm以下(好ましくは、下限が40μm、上限が60μm)であることが好ましい。このマイクロニードル51、53の先端部の曲率半径A、Bはそれぞれ同じであるが、上記した条件下で、中心位置P側から端位置E側にかけて徐々に大きくすることもできる。
このように、マイクロニードル53の先端部の曲率半径Bをマイクロニードル51の先端部の曲率半径Aよりも大きくすることで、外側領域に比べて刺さり難い傾向にある内側領域のマイクロニードル51が、マイクロニードル53よりも皮膚に刺さり易くなり、刺さり易さのばらつきを低減できるので、マイクロニードルアレイの穿刺性を向上できる。なお、マイクロニードル54の円弧状となった先端部の曲率半径Cは、曲率半径Aと曲率半径Bの間に設定される。
【0036】
また、上記したマイクロニードルアレイにおいて、図3に示すように、内側領域の上面高さを外側領域の上面高さよりも高くした台座11aを使用することもできる(即ち、台座11a上に、上記した図1図4にそれぞれ示したマイクロニードル21、23、24、マイクロニードル31、33、34、マイクロニードル41、43、44、マイクロニードル51、53、54が立設される)。
台座11aの上面の断面は、上方(マイクロニードルの立設側)に向けて突出した円弧状となっているが、台座の中央部から外側へ向けて下り勾配となった直線でもよく、また、台座の中央部から外側へかけて徐々に低くなる階段状でもよい。
【0037】
ここで、台座11aの内側領域と外側領域の高低差ΔHは、0μm超200μm以下(好ましくは、下限が30μm、更には50μm、上限が160μm、更には140μm)であることが好ましい。
このように、台座11aの内側領域の上面高さを外側領域よりも高くすることで、マイクロニードル21、31、41、51がマイクロニードル23、33、43、53よりも優先的に皮膚に刺さり易くなり、刺さり易さのばらつきを低減できるので、マイクロニードルアレイの穿刺性を更に向上できる。
【0038】
上記したマイクロニードルアレイは、例えば、硬質の炭素鋼等で構成された金属製の金型を使用し、射出成形により製造できるが、プレス金型による加圧成形法により製造してもよく、マイクロニードルアレイを製造できれば、特に限定されるものではない。
【0039】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のマイクロニードルアレイを構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、台座の内側領域に立設されたマイクロニードル群Aを構成するマイクロニードルAと、外側領域に立設されたマイクロニードル群Bを構成するマイクロニードルBとで、高さ、基端径、配置ピッチ、又は、先端部の形状が異なった場合について説明したが、高さ、基端径、配置ピッチ、及び、先端部のいずれか2以上が異なってもよい。
【0040】
また、前記実施の形態において、中間領域に立設されたマイクロニードルの各条件(即ち、高さ、基部の幅、配置ピッチ、及び、先端部の形状のいずれか1又は2以上)は、内側領域と外側領域に立設されたマイクロニードルの各条件と連続するよう(なだらか)に設定することが好ましいが、中間領域に立設されたマイクロニードルの各条件を同じ(例えば、同じ高さ等)にすることもできる。
更に、前記実施の形態において、内側領域は、中心位置Pから各辺部(外側領域)へ向けて、同一幅となっているが、部分的に異なる幅にすることもでき、また、外側領域は、各辺部から中心位置Pへ向けて、同一幅となっているが、部分的に異なる幅にすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るマイクロニードルアレイは、マイクロニードルの皮膚への穿刺深さのばらつきを、従来よりも低減できるものである。これによって、表皮下に規定量の薬剤を注入できるため、投薬のみならず、皮膚や頭皮への美容液の投与等にも、広く使用できる。
【符号の説明】
【0042】
10:マイクロニードルアレイ、11、11a:台座、12:マイクロニードル、20:マイクロニードル群(マイクロニードル群A)、21:マイクロニードル(マイクロニードルA)、22:マイクロニードル群(マイクロニードル群B)、23:マイクロニードル(マイクロニードルB)、24:マイクロニードル(マイクロニードルC)、30:マイクロニードル群(マイクロニードル群A)、31:マイクロニードル(マイクロニードルA)、32:マイクロニードル群(マイクロニードル群B)、33:マイクロニードル(マイクロニードルB)、34:マイクロニードル(マイクロニードルC)、40:マイクロニードル群(マイクロニードル群A)、41:マイクロニードル(マイクロニードルA)、42:マイクロニードル群(マイクロニードル群B)、43:マイクロニードル(マイクロニードルB)、44:マイクロニードル(マイクロニードルC)、50:マイクロニードル群(マイクロニードル群A)、51:マイクロニードル(マイクロニードルA)、52:マイクロニードル群(マイクロニードル群B)、53:マイクロニードル(マイクロニードルB)、54:マイクロニードル(マイクロニードルC)
図1
図2
図3
図4
図5
図6