(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】機能性中空炭素繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/12 20060101AFI20240118BHJP
D01F 9/16 20060101ALI20240118BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20240118BHJP
【FI】
D01F9/12
D01F9/16
C01B32/00
(21)【出願番号】P 2019234269
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将輝
(72)【発明者】
【氏名】宮川 正人
(72)【発明者】
【氏名】棚池 修
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-054693(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/00
C01B 32/00
D06B 1/00 - 23/00
D06C 3/00 - 29/00
D06G 1/00 - 5/00
D06H 1/00 - 7/00
D06J 1/00
D06M 10/00 - 32/00
B01D 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含炭素中空繊維素材の中空部内に反応原料溶液を浸透させる工程と、
前記反応原料溶液を浸透させた前記含炭素中空繊維素材を、前記反応原料溶液に対して非相溶性の溶媒中に浸漬して、前記反応原料溶液を前記含炭素中空繊維素材の中空部内の内部ないしは繊維組織内へ移行させる工程と、
前記含炭素中空繊維素材の中空部内の内部ないしは繊維組織内へ移行させた前記反応原料溶液の化学反応により無機機能性物質を生じさせる工程と、
前記無機機能性物質を生じた前記含炭素中空繊維素材を不活性雰囲気中で加熱して炭素繊維を生成する工程と、
を含む、機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記化学反応を加熱により生じさせる、請求項
1に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
前記加熱がマイクロ波照射による加熱である、請求項
2に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロ波照射がシングルモードのマイクロ波照射である、請求項
3に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記反応原料溶液は金属前駆体を含み、
前記化学反応が、前記金属前駆体から金属を析出する反応である、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
前記化学反応が、前記反応原料溶液中の化学物質の結晶化又は析出である、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
前記反応原料溶液はシリカ源、アルミニウム源、アルカリ源及び水を含み、
又は、前記シリカ源、前記アルミニウム源、前記アルカリ源及び前記水に加えケイ素を置換可能な金属源を含み、
前記化学反応がゼオライトを生じる反応である、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項8】
前記含炭素中空繊維素材が、植物繊維、動物繊維もしくは化学繊維で構成され、又はこれらの2種以上からなる複合素材で構成されている、請求項
1~
7のいずれか1項に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【請求項9】
前記含炭素中空繊維素材が綿又はリネンである、請求項
8に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性中空炭素繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維(カーボンファイバ)は一般的には、PAN(ポリアクリロニトリル)系と、ピッチ(PITCH:石油、石炭又はコールタールなどの副生成物を原料とする)系に区分される。
PAN系炭素繊維は、一般に、ポリアクリロニトリル繊維を、空気中で200~300℃の温度で数時間の耐炎化処理(不融化、安定化)に付した後、窒素や希ガス等の不活性ガス雰囲気において600~1500℃で加熱する炭素化処理によって製造される。この炭素化処理により高強度な炭素繊維が得られ、さらに必要に応じて、不活性ガス雰囲気中で2000~3000℃に加熱する黒鉛化処理によって、高弾性な炭素繊維が得られる。ピッチ系炭素繊維は、溶融紡糸によってピッチ繊維を形成し、このピッチ繊維を不融化処理した後、高温で炭素化して作製される。炭素化処理や黒鉛化処理の温度条件は、得ようとする炭素繊維の性質に応じて決定される。
【0003】
このような炭素繊維は種々の用途に用いられている。
また、炭素繊維は、主成分である炭素が空気中では燃えやすいため、炭素繊維とセラミックス等の無機難燃性物質との複合材料の開発が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
さらに、リチウムイオン電池や燃料電池の電極は、電気伝導パスを有し、比表面積の多い炭素繊維が広く用いられている。この用途では、炭素繊維表面に触媒の金属等が導入される(例えば、特許文献2参照)。
炭素繊維表面に触媒作用を持つ物質を担持することで、水質浄化や空気浄化を行う技術も実用化されている(例えば、特許文献3参照)。
このように、炭素繊維と機能性無機化合物との複合化による機能性材料の開発が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-195193号公報
【文献】特開2002-86178号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】多賀谷基博、本塚智、堀田裕司、許哲峰、田中順三、「複合材のマトリックス樹脂評価と樹脂の熱伝導化に伴う効果」、Materials Integration,Vol.26,No.2,p.16-22,(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭素繊維にセラミックス等の無機難燃性物質を適用した複合材料では、耐熱性能の向上が求められている。また、特許文献2に記載されたように、電池の電極材として用いた炭素繊維の外表面に金属等が担持されている場合には、電池の繰り返し利用において、金属の脱落による性能劣化を防ぐことが課題となっている。また、水質浄化や空気浄化を行う技術では、炭素繊維表面に触媒作用を持つ物質を担持させている。そのため、炭素繊維表面の無機機能性物質(触媒作用を持つ物質など)との結合性(担持力)が重要となるが、導入の種類(例えば、混錬)によっては機能、活性が低下する可能性がある。そのため、炭素と無機機能性物質との結合形態に拘わらず、性能劣化を防止して長寿命化することが望まれている。
したがって、炭素繊維と無機機能性物質との複合化の状態をより安定化し、また機能発現をより安定的に発現させる技術が求められている。
【0007】
本発明は、中空炭素繊維と無機機能性物質との複合化の状態をより安定化し、また機能をより安定的に発現させることが可能な機能性中空炭素繊維及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
[1]
内部に中空部を含む炭素繊維の該中空部内に無機機能性物質を保持する、機能性中空炭素繊維。
[2]
前記無機機能性物質が金属、酸化物、炭化物及び窒化物のうちの少なくとも1種以上を含む、[1]に記載の機能性中空炭素繊維。
[3]
前記無機機能性物質は粒径が1nm以上の粒子状である、[1]又は[2]に記載の機能性中空炭素繊維。
[4]
含炭素中空繊維素材の中空部内に反応原料溶液を浸透させる工程と、
前記反応原料溶液を浸透させた前記含炭素中空繊維素材を、前記反応原料溶液に対して非相溶性の溶媒中に浸漬して、前記反応原料溶液を前記含炭素中空繊維素材の中空部内の内部ないしは繊維組織内へ移行させる工程と、
前記含炭素中空繊維素材の中空部内の内部ないしは繊維組織内へ移行させた前記反応原料溶液の化学反応により無機機能性物質を生じさせる工程と、
前記無機機能性物質を生じた前記含炭素中空繊維素材を不活性雰囲気中で加熱して炭素繊維を生成する炭素化工程と
を含む、機能性中空炭素繊維の製造方法。
[5]
前記化学反応を加熱により生じさせる、[4]に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
[6]
前記加熱がマイクロ波照射による加熱である、[5]に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
[7]
前記マイクロ波照射がシングルモードのマイクロ波照射である、[6]に記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
[8]
前記反応原料溶液は金属前駆体を含み、
前記化学反応が、前記金属前駆体から金属を析出する反応である、[4]~[7]のいずれかに記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
[9]
前記化学反応が、前記反応原料溶液中の化学物質の結晶化又は析出である、[4]~[7]のいずれかに記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
[10]
前記反応原料溶液はシリカ源、アルミニウム源、アルカリ源及び水を含み、
又は、前記シリカ源、前記アルミニウム源、前記アルカリ源及び前記水に加えケイ素を置換可能な金属源を含み、
前記化学反応がゼオライトを生じる反応である、[4]~[7]のいずれかに記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
[11]
前記含炭素中空繊維素材が、植物繊維、動物繊維又は化学繊維で構成され、又はこれらの2種以上からなる複合素材で構成されている、[4]~[10]のいずれかに記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
[12]
前記含炭素中空繊維素材が綿又はリネンである、[4]~[10]のいずれかに記載の機能性中空炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の機能性中空炭素繊維及びその製造方法によれば、炭素繊維と無機機能性物質との複合化の状態をより安定化し、また機能発現をより安定的に発現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)図は、銀を析出した綿布断面を走査型電子顕微鏡にて撮影した図面代用写真であり、組成分析した位置を四角い囲みA部で示す。(B)図は、走査型電子顕微鏡にて撮影した
図1(A)のA部における機能性中空炭素繊維のカーボン(炭素)成分及び無機機能性物質の銀成分の成分マッピングを示した図面代用写真であり、白色の点が銀成分を示し、灰色の点がカーボン成分を示す。
【
図2】本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一実施形態に用いる綿繊維であり、綿繊維の各層を部分的に剥離した状態を斜視にて示した図面代用合成写真である。
【
図3】本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一実施形態に用いる綿繊維(
図2に示した綿繊維、2本)を模式的に示した部分断面斜視図である。
【
図4】本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一実施形態の、
図3に示した綿繊維に反応原料溶液が浸透する浸透工程を模式的に示した部分断面斜視図である。
【
図5】本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一実施形態の、
図4に示した綿繊維に対して反応原料溶液がさらに内部へと移行する移行工程を模式的に示した部分断面斜視図である。
【
図6】本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一実施形態の加熱、化学反応工程を模式的に示した部分断面斜視図である。
【
図7】本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一実施形態に用いた綿繊維であり、綿繊維の各層を部分的に剥離した状態を斜視にて示した図面代用合成写真である。
【
図8】(A)図は、実施例1の銀を析出した試料の綿布断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した図面代用写真である。(B)図は、エネルギー分散型X線分光法を用いて(A)図の矢印方向に綿布断面の組成分析を行った結果を示したグラフであり、縦軸に銀成分とカーボン成分のスペクトル強度(Intensity)を示し、横軸に位置(Position)を示す。
【
図9】実施例1の銀を析出した試料の綿布断面を走査型電子顕微鏡にて撮影した図面代用写真であり、組成分析した位置を四角い囲みA部で示す。
【
図10】(A)図は、走査型電子顕微鏡にて撮影した
図9のA部におけるカーボン成分の成分マッピングを示した図面代用写真である。白い点がカーボン成分を示す。(B)図は、走査型電子顕微鏡にて撮影した
図9のA部における銀成分の成分マッピングを示した図面代用写真である。白い点が銀成分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[機能性中空炭素繊維]
以下に本発明の機能性中空炭素繊維の好ましい一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
本発明の機能性中空炭素繊維は、内部に中空部を有する炭素繊維であり、該中空部内に無機機能性物質を保持しているものである。以下、一例として
図1を参照して説明する。
図1に示すように、機能性中空炭素繊維11は、繊維長手方向の内部に中空部12を有し、該中空部12内に無機機能性物質21を保持している。中空部12は、機能性中空炭素繊維11の長手方向に配されていて、機能性中空炭素繊維11を長手方向の一端又は両端に貫通するものであってもよい。上記中空部12は、その内部に上記無機機能性物質が生成できる長さ(例えば、内径)を有しており、内径が好ましくは1nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、さらに好ましくは100nm以上である。そして内径は、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。上記内径は、例えば、中空部12の断面が円形もしくは円形に近い形状の場合であり、例えば内接円の径とする。また、中空部12の断面が矩形、長円形等の場合には、断面の最大長さとする。
【0013】
無機機能性物質21は、金属、酸化物、炭化物及び窒化物のうちの少なくとも1種以上を含むことが好ましい。酸化物として好ましくは金属酸化物が挙げられ、炭化物として好ましくは金属炭化物が挙げられ、窒化物として好ましくは金属窒化物が挙げられる。具体的には、銀、銅、白金、ニッケル、鉄、コバルト、パラジウム、ロジウム等の金属、アルミノケイ酸塩、メソポーラスシリカ、チタン酸バリウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、ジルコニア等の酸化物、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素等の炭化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物が挙げられる。
また無機機能性物質21は、触媒機能、耐熱性機能、抗菌機能、調湿機能、導電性機能、光触媒機能、防カビ機能、電磁波吸収機能、電磁波反射機能、化学物質捕獲機能、化学物質徐放機能等の少なくも一つを有することが好ましい。例えば、触媒機能という観点から、粒径が1nm以上の金属、酸化物、炭化物及び窒化物のうちの少なくとも1種以上を含む粒子状であることが好ましい。また、調湿機能や化学物質捕獲機能や化学物質徐放機能という観点から、粒径が10nm以上のメソポーラス材料を含む粒子状であることが好ましい。あるいは、電磁波吸収機能、電磁波反射機能という観点からは、長さが100nm以上で太さが1nm以上の金属、酸化物、炭化物及び窒化物のうちの少なくとも1種以上を含む繊維状物質であることが好ましい。
無機機能性物質21の粒径は、無機機能性物質21の用途によって、適宜選択されるものであり、触媒という観点から当該粒径は100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。当該粒径は、化学物質の捕獲や徐放という観点から10nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましい。
上記粒径は、例えば、SEM写真(倍率:10000倍)上において、13μm×10μmの撮影範囲の無機機能性物質21の微粒子30個を無作為に選択し、それぞれの最大直径を長さ測定用定規で測定して求めることが好ましい。
上記の機能性中空炭素繊維11は、中空部12内に無機機能性物質21が析出されることから、使用時に無機機能性物質21と他の物質との接触を回避でき、接触による脱落が生じにくく、無機機能性物質21の上記した機能を十分に発現することができる。これによって、機能性中空炭素繊維は、炭素繊維が持つ、高強度、高熱伝導性、電気伝導性、耐熱性等の一般的機能に加え、無機機能性物質の上記の機能の少なくとも一つを合わせ持つことによって、複合的な効果を得ることができる。
【0014】
[機能性中空炭素繊維の製造方法]
以下に本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一実施形態を、図面を参照して説明する。
図2には、機能性中空炭素繊維11(
図1参照)の原料とする含炭素中空繊維素材110として綿繊維111を示す。綿繊維111は、素材の長手方向に中空部12(
図1参照)となる内腔117を有する。なお、含炭素中空繊維素材110は全体が多孔質を有する多孔質素材であってもよい。綿繊維111は、セルロースを多量に(例えば95質量%以上)含む細長い(例えば、長さ30mm程度)形状の綿細胞からなる。綿繊維111は、外側から、キューティクル層112とネットワーク層113とワインディング層114とを有する一次細胞壁115、二次細胞壁116及び内腔(ルーメン)117を有する。そして一次細胞壁115が二次細胞壁116を覆った多層構造をとる。一次細胞壁115及び二次細胞壁116はミクロフィブリルの集合体である。ミクロフィブリルは、ナノファイバー(セルロース分子)が複数本束ねられてなる。綿繊維111では、このミクロフィブリル間の間隙によって孔が形成されて、多孔質素材としての機能も有している。
【0015】
含炭素中空繊維素材としては、上記綿繊維の他に、各種植物繊維、動物繊維等の天然繊維を用いることができる。また、精製繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等の化学繊維により構成されたものを用いることができる。これらの繊維が単繊維の場合には、当該単繊維を束ねた繊維束(例えば、糸)等を含炭素中空繊維素材として用いることができる。この場合、単繊維間の隙間が孔になる。
植物繊維には、各種の植物由来の繊維が挙げられる。一例として、綿、リネン等が挙げられる。動物繊維には、各種の動物由来の繊維が挙げられる。一例として、カシミア、アンゴラ、アルパカ等の獣毛、羽毛等が挙げられる。中空の化学繊維には、再生セルロース繊維、半合成繊維、合成繊維、高機能繊維等が挙げられる。再生セルロース繊維には、一例として、レーヨン、キュプラ、リオセル等が挙げられる。半合成繊維には、一例として、アセテート、トリアセテート等が挙げられる。合成繊維には、一例として、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維等が挙げられる。高機能繊維には、一例として、アラミド繊維、ポリイミド繊維等が挙げられる。
【0016】
続いて本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法の好ましい一例を説明する。
図3~6は、含炭素中空繊維素材110として
図2に示した綿繊維111を用いる場合を模式的に示したものである。なお、
図3及び4では模式的に2本の綿繊維を示し、
図5及び6では模式的に1本の綿繊維を示した。本発明において「含炭素中空繊維素材」は炭素を主成分とする。「主成分」とは、炭素を20質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは30質量%以上含み、さらに好ましくは50質量%以上含む。
【0017】
まず、
図3に示すように、綿繊維111に、反応原料溶液を浸透させる(浸透工程)。具体的には、容器(図示せず)に入れた反応原料溶液(図示せず)中に綿繊維111を浸漬して、綿繊維111中に反応原料溶液を浸透させる。この浸透工程は、例えば、液温が15℃~30℃、大気圧(例えば、1気圧)にて行うことができる。その結果、
図4に示すように、綿繊維111の表面及び/又は表面近傍の綿繊維111の内部(例えば綿繊維111の孔内及び/又は綿繊維組織内)に毛管現象によって反応原料溶液が浸透する。表面とは、綿繊維111の最も外側の外表面111Sをいう。孔内とは、綿繊維111のミクロフィブリル間の間隙内(図示せず)をいう。図面においては、綿繊維111の断面の色の濃い部分が反応原料溶液の浸透領域121を示す。浸透領域121は、綿繊維111の外表面111Sから内部方向に向かって分布する。この状態では、綿繊維111の半径方向内腔117側より表面側(キューティクル層112側)に反応原料溶液が多く浸透する。反応原料溶液の浸透を促進するために、浸透工程を減圧状態で行ってもよい。たとえば、0.01~1気圧で実施すると、綿繊維内/繊維間に保持されていた空気の排出が促進され、その部分に反応原料溶液の保持量を増やすことができる。
ここで、綿繊維は極性を有し極性溶媒になじみやすいため、反応原料溶液の媒体としては、水、水溶性有機溶媒、又はこれらの混合液を用いることが好ましい。含炭素中空繊維素材が合成繊維のように比較的極性が低く、水となじみにくい物性の場合には、反応原料溶液の媒体としては、より疎水性の高い溶媒を用いることが好ましい。
【0018】
反応原料溶液には、例えば、金属前駆体(金属塩等)を含ませることができる。この場合、反応生成物を析出金属とすることができる。
一例として、金属前駆体が銀塩の場合、反応原料溶液として、硝酸銀を、金属に対する還元作用を示す溶媒(例えばアルコール、又はアルコールと水の混合溶媒)に溶解してなる溶液を用いることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセロール、ベンジルアルコール、ジプロピレングリコール等を挙げることができる。また、金属前駆体は銀塩に限られず、銅、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、鉄、アルミニウム、チタン、金、クロム、亜鉛等の種々の金属塩を用いることができる。
また、反応原料溶液と反応生成物の組み合わせとしては、上述した金属前駆体と析出金属の他、例えば、金属水酸化物と酸化物の組み合わせ、金属アルコキシドと金属酸化物の組み合わせ、配位子(リガンド)と金属錯体の組み合わせ等を挙げることができる。
【0019】
反応原料溶液が浸透した綿繊維111から、必要により綿繊維111が保持できる反応原料溶液量を超える余剰の反応原料溶液を取り除く。例えば、軽く絞ることによって余剰の反応原料溶液を取り除くことができる。次いで、
図5に示すように、容器131に入れた反応原料溶液とは非相溶性の溶媒132内に、綿繊維111を浸漬する。そして容器131内を密閉するように蓋133を被せることが好ましい。軽く絞るとは、液が垂れない程度に絞ることをいう。
溶媒132が反応原料溶液と非相溶性であるとは、溶媒132が反応原料溶液の溶媒と実質的に相溶しないことを意味する。すなわち、25℃において両溶媒が混じり合わずに各々独立した相で存在する関係を意味する。この場合において、本発明の効果を損なわない範囲であれば、両溶媒の界面付近において両溶媒が完全に相分離しておらず、互いに混じり合う領域が生じる関係にあってもよい。実質的に相溶しない関係とは、25℃において溶媒132に対して反応原料溶液の溶媒の溶解度が10g/100g以下が好ましく、5g/100g以下がより好ましく、1g/100g以下がさらに好ましい。
例えば、含炭素中空繊維素材として綿繊維を用い、反応原料溶液として水、水溶性有機溶媒、又はこれらの混合液(すなわち極性溶媒(親水性溶媒))を用いた場合には、溶媒132としては非極性溶媒(疎水性溶媒)を用いる。例えば、溶媒132として、ドデカン、デカン、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、ナフタレン、フロリナート(商品名)、ハイドロフルオロオレフィン、シリコーンオイル、直鎖アルカン類、環状アルカン類、直鎖不飽和炭化水素類、環式不飽和炭化水素、芳香族類、フロン類、鉱油、植物油等を用いることができる。溶媒132の温度は特に制限されず、目的に応じて適宜に設定される。例えば-100℃~300℃とすることができる。
【0020】
図5の形態において、綿繊維111に含浸した溶媒132に非相溶性の反応原料溶液は、溶媒132の液圧によって、綿繊維111の外表面111S側からミクロフィブリル間の間隙(孔内)を通してさらに綿繊維111の内部方向や綿繊維(素材)組織内、すなわち綿繊維111の内部方向及び/又は綿繊維(素材)組織内へと移行する(移行工程)。なお、毛管力がさらに働く場合には、綿繊維111の内部に浸透した反応原料溶液はミクロフィブリル間の間隙を通ってさらに内部へと移行する。したがって、反応原料溶液の浸透領域121は、綿繊維111の外表面111Sから綿繊維111の内部方向へと移行する。この結果、綿繊維111の外表面111S側から綿繊維111の内部方向に向かって反応原料溶液が多く存在するようになる。
【0021】
図5に示す形態では、綿繊維111を浸漬した溶媒132に圧力Pをかけている。圧力Pは、容器外部から、気体圧若しくは液体圧を加えてもよい。また、容器そのものに加圧シリンダを装備し、シリンダに動力を加えて加圧することもできる。若しくは容器を密閉し、溶液を加熱することで溶液の体積膨張や蒸気圧の発生により加圧してもよい。若しくは主溶媒の他に主溶媒よりも沸点が低い溶媒を加えて、加熱により気化させて加圧することも可能である。このように溶媒132の表面に大気圧よりも高い圧力がかかることによって、反応原料溶液が綿繊維111のミクロフィブリル間の間隙(孔内)を通って、さらに内部へと押し込まれるようになる。この結果、反応原料溶液は、綿繊維111の表面から内部へとより強い圧力によって移行し、綿繊維111の内腔117の内表面ないしその近傍にまで反応原料溶液を移行させることも可能となる。本発明の製造方法では、化学反応の開始前に圧力をかけてから化学反応を開始してもよく、また、化学反応を生じさせながら当該圧力をかける形態とすることもできる。また、この圧力の大きさは、含炭素中空繊維素材の種類等に応じて適宜に設定することができる。例えば、1.05~20気圧程度とすることができ、1.1~10気圧程度としてもよい。
【0022】
次に
図6に示すように、綿繊維111に含浸された反応原料溶液の浸透領域121を所定の反応温度に加熱するなどして、その中の反応原料溶液に化学反応を生じさせる。反応原料溶液が上述した金属塩と還元剤を含む場合、加熱により金属塩が還元されて金属を析出させることができる。
【0023】
上記加熱方法の一例として、容器131に入れた溶媒132中の綿繊維111にマイクロ波MWを照射する。そして、綿繊維111に含浸された反応原料溶液の浸透領域121を所定の反応温度へと加熱制御して、その中の反応原料(例えば前駆体(図示せず))を加熱する形態を挙げることができる。所定の反応温度は、目的の反応の種類によって適宜に設定される。すなわち、目的の反応が生じる温度以上とし、また、溶媒132の沸点未満の温度とすることが好ましい。容器131には、マイクロ波MWを吸収しにくい、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製(例えば、テフロン(登録商標)製)、石英製、セラミック製、酸化アルミニウム(アルミナ)製、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製、アクリル(商品名)樹脂製などを用いることが好ましい。上記マイクロ波MWには、一般にマイクロ波周波数2~4GHzのSバンドを用いることができる。又は900~930MHzや、5.725~5.875GHzを用いることもできる。また、これ以外の周波数のマイクロ波を用いてもよい。
上記のようなマイクロ波MWの照射は、反応原料溶液の硝酸銀が直接発熱するため短時間に加熱でき、また熱伝導に起因する温度ムラが少なくできる点で好ましい。さらに非接触で加熱でき、マイクロ波MWの吸収の良い硝酸銀を選択的に加熱できる点でも好ましい。
マイクロ波照射はマルチモードでもシングルモードでもよく、目的の部位を効率的に、均一に加熱する観点ではシングルモードのマイクロ波照射を採用することが好ましい。
【0024】
上記加熱は、マイクロ波加熱に限定されない。例えば、光加熱であってもよい。またその他の加熱手段による加熱であっても良い。また、加熱は反応原料溶液に対して選択的に行ってもよいし、綿繊維や溶媒を加熱して間接的に反応原料溶液を加熱してもよい。
さらに、加熱手段以外による反応促進を用いることもできる。例えば、光重合では紫外線や可視光の照射でもよい。また、超音波の照射による反応促進も利用できる。若しくは衝撃波など圧力を反応開始に利用ができる。若しくはゆるやかな反応の場合は、単に静置することも有効な反応制御方法である。また、結晶化や析出など低温で促進される反応では、低温環境に保持するのも、有効な反応制御方法である。
【0025】
上記加熱によって、綿繊維111内の浸透領域121で選択的に化学反応を生じさせて化学物質を生成する。例えば、金属前駆体から金属を析出させる。
【0026】
その後、溶媒132から綿繊維111を取出し、必要により所望の溶媒中に浸漬するなどして洗浄し、次いで乾燥し、目的の含炭素中空繊維素材を得ることができる。洗浄は、エタノールに浸漬し、超音波洗浄機にて洗浄することが好ましい。また乾燥は、大気中における自然乾燥若しくは電気炉による加熱乾燥によって行うことができる。若しくは、空気や窒素などと接触させて乾燥させることも有効である。また、上記洗浄は、水若しくはアルコールなどの液体に浸漬して洗浄してもよく、流水や流動状態の液体に接触させて洗浄してもよい。
【0027】
上記にようにして作製した綿繊維111は、
図7に示すように、二次細胞壁116のミクロフィブリル118間に機能性化学物質(金属等)を有する。
【0028】
次いで、不活性(酸素を含まない)雰囲気(不活性ガス雰囲気)中で無機機能性物質を生じさせた含炭素中空繊維素材を加熱して炭素化工程を行う。
炭素化工程は、加熱炉内に無機機能性物質を生じさせた含炭素中空繊維素材を収納して、加熱炉内の雰囲気を不活性ガス雰囲気にする。加熱炉には、例えば、電気炉を用いることができる。この不活性ガス雰囲気は、酸素を含まない雰囲気(還元雰囲気)であり、例えば、窒素ガス雰囲気もしくは希ガス雰囲気にすることが好ましい。その雰囲気中に酸素を含まないことが理想的であり、実際的には、含炭素中空繊維素材が燃焼しないように、酸素濃度は、1000ppm以下とすることが望まれ、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とする。加熱炉内が不活性ガス雰囲気に変換された後、加熱炉内の温度を、炭素化という観点から、600℃~1500℃に上げる。到達温度は、炭素化される材料によって適宜選択されることが好ましい。特に、機能性物質の構造を失わないよう到達温度を決定することも重要である。
炭素化によって生成された機能性中空炭素繊維の温度が常温になった時点で、加熱炉内の雰囲気を大気雰囲気に戻し、加熱炉内から無機機能性物質を含む機能性中空炭素繊維を取り出す。
なお、炭素化処理における形状変化を抑える観点から、炭素化処理を行う前に、空気雰囲気中で200~300℃の加熱処理を行うことで耐炎化繊維に変換する、耐炎化工程を加えてもよい。
また、機能性物質の機能を発現させるため、雰囲気ガスを機能発現に必要な成分に置換したのち、所望の温度で熱処理を行ってもよい。
【0029】
無機機能性物質の融点が炭素化工程の炭素化温度より高い場合、さらに高温で高強度化の熱処理を行うことができる。例えば、窒素や希ガス等の不活性ガス雰囲気において600~1500℃で加熱する炭素化処理によって高強度な炭素繊維が作製される。
また、炭素化処理時又は炭素化処理後の高温熱処理によって、無機機能性物質と炭素繊維との反応生成物を生じさせることも可能である。
【0030】
上記実施形態では、主に、含炭素中空繊維素材に親水性の綿繊維111を用いた場合に例に説明したが、含炭素中空繊維素材は上述した通り、綿繊維に限られない。
すなわち、反応原料溶液には疎水性の反応原料溶液を用いて、その反応原料溶液を疎水性の含炭素中空繊維素材の孔内に浸透させ、さらに、その含炭素中空繊維素材を反応原料溶液に対して非相溶性の親水性の溶媒に浸漬することによって、反応原料溶液を含炭素中空繊維素材の孔内のより内部へと移行させることもできる。そして、含炭素中空繊維素材内部へと移行させた反応原料溶液に化学反応を生じさせることによって、綿繊維と同様に、含炭素中空繊維素材の表面よりもその内部に多く化学物質(例えば金属)を生成することができる。
【0031】
また、化学反応は、上述のように加熱によることができるが、加熱に限定されるものではなく、反応原料の種類によって、光(放射線)照射、超音波照射、衝撃波照射、静置、冷却等の手段を用いることもできる。
本発明において化学反応という用語は広義の意味に用いる。すなわち、化学物質が反応して別の化学物質へと変化することの他、化学物質の状態の変化も、本発明における化学反応に包含される。例えば、化学物質自体の変化を生じない結晶化もしくは析出も本発明における化学反応に包含される。本発明の機能性中空炭素繊維の製造方法を適用する化学反応の好ましい例としては、例えば、酸化反応、還元反応、重合反応、縮合反応、置換反応、結晶化及び析出が挙げられる。
【0032】
具体的な例として、上述のように上記反応原料溶液が金属前駆体を含み、上記化学反応が、上記金属前駆体から金属を析出する反応である形態を挙げることができる。
また、上記反応原料溶液がアルコキシシラン化合物(好ましくはテトラアルコキシシラン)を含み、上記化学反応が、上記アルコキシシラン化合物の加水分解とそれに続く縮重合によりシリカを生じる反応である形態を挙げることができる。
また、上記化学反応が、上記反応原料溶液中の化学物質の結晶化や析出である形態を挙げることができる。
また、上記反応原料溶液が、シリカ源、アルミニウム源、アルカリ源及び水を含み、又は、シリカ源、アルミニウム源、アルカリ源及び水に加えケイ素を置換可能な金属源を含み、上記化学反応がゼオライトを生じる反応である形態を挙げることができる。シリカ源としてはコロイダルシリカ、テトラエトキシシラン(TEOS)等を挙げることができる。アルミニウム源としては、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシド等を挙げることができる。アルカリ源としてはアルカリ土類金属カチオン、アルキルアンモニウムカチオン等を挙げることができる。ケイ素を置換可能な金属源としてはアルミナ、チタン等を挙げることができる。
【0033】
[機能性中空炭素繊維]
本発明の機能性中空炭素繊維は、上記説明した含炭素中空繊維素材において、無機機能性物質を内包するものである。内包とは、炭素繊維の外表面より内部側の孔内に無機機能性物質がより多く存在することを意味する。本発明の機能性中空炭素繊維が、その孔内に無機機能性物質を内包することにより、無機機能性物質が機能性中空炭素繊維によって保護された状態になり、その機能性を長期に亘り発現することができる。
無機機能性物質は、具体的には、銀、銅、白金、パラジウム、錫、ニッケル、コバルト、金等の種々の金属若しくはそれらの金属を含む化合物が挙げられる。また、ゼオライト、無機結晶、アモルファス粒子、半導体材料、誘電体材料、磁性材料、圧電材、熱電材料、光触媒(例えば、酸化チタン)、等を挙げることができる。
【0034】
本発明の機能性中空炭素繊維は、種々の用途に用いることができる。
[難燃性炭素繊維への適用]
本発明の機能性中空炭素繊維の中空部内に難燃性の無機結晶を導入できるため、炭素繊維のさらなる難燃化が可能になる。
【0035】
[電極材への適用]
リチウムイオン電池や燃料電池の電極には、電気伝導パスを有し、比表面積の多い炭素材料や炭素繊維が広く用いられている。本発明の機能性中空炭素繊維では、中空部に金属ナノ粒子結晶を成長させることによって、電池を繰り返し利用しても、脱落による炭素素材内部からの流失を抑制させる効果が期待できる。それによって、電池の長寿命化が可能となる。
【0036】
[触媒の担持材への適用]
本発明の機能性中空炭素繊維は、その中空部内に触媒作用を持つ物質を担持することで、水質浄化や空気浄化を行う技術に適用可能である。これによって、炭素と触媒作用を持つ物質とが強固な結合がなくても、触媒作用を持つ物質が炭素繊維から脱落することが防止され、機能性中空炭素繊維の外部に触媒成分が流失することがなくなる。したがって、触媒性能の保持や長寿命化が可能になる。
【0037】
[センサーへの適用]
本発明の機能性中空炭素繊維は、電気伝導性を有するため、中空部内の炭素繊維のナノ構造表面に、特定の化学物質と相互作用する分子や結晶を導入することで、その化学物質との相互作用の応答を電気信号として取り出すセンサーとして利用が期待できる。
また、チタン酸バリウムなど、圧電素子に利用される結晶を導入することで、圧力センサーとしての利用が期待できる。さらに、硫化カドミウム(CdS)結晶など、光応答素子を導入すれば、光センサーとしての利用が期待できる。
【0038】
[他の物質との接合可能な炭素繊維への適用]
炭素繊維は、熱膨張係数が小さく、温度変化に対して製品の寸法変動が少ないという特徴がある。この特徴は、他の材料と炭素繊維とを複合化して利用する際には、接合部分でのひずみの原因となる。本発明の機能性中空炭素繊維は、中空部分に熱膨張係数の異なる材料を導入することで、炭素繊維の熱膨張係数を調整できることが期待できる。これによって、複合材のひずみ低減や、長寿命化が可能になる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0040】
上記した製造方法を用いて、中空部内に銀を含有している機能性中空炭素繊維を製造したのでその詳細について説明する。
【0041】
[実施例1]
実施例1は、試料を以下のように作製した。抗菌試験用標準布(綿)(3.5cm(縦)×20cm(横)、質量0.8g、一般社団法人 繊維評価技術評議会が頒布)を試料とした。
その試料を、反応原料溶液の硝酸銀0.4mol/L(400mM)を溶解させたエチレングリコール溶液(1.2g)に15分間浸漬して、全量を吸収させた。
ドデカン(30ml)及びヘキサン(5ml)の混合溶媒をテフロン(登録商標)製の容器(容量:100ml)に入れ、混合溶媒中に綿布を入れて、5分間浸漬した。そして、綿繊維の表面又はその近傍に存在する反応原料溶液を綿布の綿繊維の孔内内部や綿繊維組織内へと移行させた。その後、容器にテフロン(登録商標)製の蓋を被せて密閉し、マイクロ波加熱を行った。マイクロ波加熱装置にはMicroSYNTH(商品名)(マイルストーンゼネラル株式会社製)を用いた。溶媒の加熱設定温度を140℃、加熱開始時の容器内圧力を1気圧(101kPa)にして5分間のマイクロ波加熱を行った。なお、140℃到達時の容器内圧力は3.5気圧であった。この容器内圧力の上昇は、ヘキサン(沸点69℃)の一部が気体になったためと推察される。温度測定は、光ファイバー温度計を用いて、ドデカンとヘキサンの混合溶媒の温度を測定した。圧力測定は、MicroSYNTH付属の圧力センサーを用いて、容器内の圧力を測定した。
加熱後、容器を50℃まで自然冷却して、容器から綿布を取り出した。そして、洗浄し、乾燥した。洗浄は、綿布をエタノールに浸漬して、超音波洗浄器にて5分間洗浄した。また、乾燥は、綿布を室温(25℃)の大気中にて24時間自然乾燥した。
【0042】
続いて管状炉にて、上記綿布の炭素化処理を行った。綿布(86mg)を石英ボートに載せて管状炉内に設置した。管状炉には、アズワン社製のTMF-500Nを用いた。管状炉内を、室温(25℃)にて2時間の窒素置換を行った。窒素置換は99.99995体積%の高純度窒素を100ml/minの流量で流通させて行った。窒素置換した後、続けて上記高純度窒素を流通させながら、管状炉内を室温から600℃まで2時間で昇温し、600℃で30分間保持した。その後、管状炉内を約200℃/hの冷却速度にて50℃まで冷却を行った。冷却後の綿布の質量は11mgであった。
【0043】
その後、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジー社製S-4800(商品名))及びエネルギー分散型X線分光法(EDX)(BRUKER社製QUANTAX400(商品名))を用いて、炭素化処理後の綿布断面の観察及び組成分析を行った。
カッターを用いて綿布を切断し、その断面をSEMにより観察した。
図8(A)に示したように、綿布のSEM断面像において、図の中心付近に示された矢印方向に沿って綿繊維の断面の組成分析を行い、一本の綿繊維に対してその直径方向の銀成分及びカーボン成分の強度分布を調べた。
図8(B)に示したように、成分の強度分布より、カーボン成分と銀成分の分布位置はほぼ重なることから、銀成分は繊維内に分布しているが確認された。さらに、
図9の綿布断面が示された四角で囲われた領域Aの組成分析を行ったところ、
図10(A)に示されたカーボン(炭素)成分に対して、
図10(B)に示された銀成分は、繊維内壁部に分布しやすい傾向を示した。また、繊維内壁部のSEM観察によって、粒径50~100nmの銀微粒子が存在していることを確認した。粒径は、倍率10000倍で撮影したSEM写真上で、13μm×10μmの撮影範囲において微粒子30個を無作為に選択し、それぞれの最大直径を長さ測定用定規で測定して求めた。
以上より、炭素繊維の中空部に銀微粒子を保持した機能性中空炭素繊維が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0044】
11 機能性中空炭素繊維
12 中空部
21 無機機能性物質
110 含炭素中空繊維素材
111 綿繊維
111S 外表面
112 キューティクル層
113 ネットワーク層
114 ワインディング層
115 一次細胞壁
116 二次細胞壁
117 内腔(中空部12)
118 ミクロフィブリル
121 反応原料溶液の浸透領域
131 容器
132 溶媒
133 蓋
MW マイクロ波