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  • 特許-端子付き電線およびその製造方法 図1
  • 特許-端子付き電線およびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】端子付き電線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20240118BHJP
   H01R 4/70 20060101ALI20240118BHJP
   H01R 43/048 20060101ALI20240118BHJP
   H01R 43/05 20060101ALI20240118BHJP
   H01R 4/62 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R4/70 K
H01R43/048 Z
H01R43/05
H01R4/62 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022100613
(22)【出願日】2022-06-22
(62)【分割の表示】P 2018160970の分割
【原出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2022118198
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】達川 永吾
(72)【発明者】
【氏名】生沼 良樹
(72)【発明者】
【氏名】今村 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
【審査官】鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-212089(JP,A)
【文献】特開2012-028021(JP,A)
【文献】特開2016-225171(JP,A)
【文献】特開2018-077949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 3/00 - 4/22
H01R 4/58 - 4/72
H01R 43/027-43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、
被覆導線の先端部の被覆部が除去された導線露出部が、前記端子の導線圧着部で圧着されており、
前記導線圧着部と前記端子本体との間のトランジション部の開口する側を上方とすると、
前記導線圧着部の先端から露出する導線の出代部に対し、前記導線圧着部の上部に付着しないように設けられた第1防食材と、
前記第1防食材の少なくとも一部を覆うように前記導線圧着部の少なくとも先端部近傍に設けられ、前記第1防食材との境界が顕微鏡で観察可能な第2防食材と、
を具備し、
前記第1防食材が、前記導線と前記導線圧着部との隙間に浸透されていることを特徴とする端子付き電線。
【請求項2】
前記導線の出代部以外の部位であって、前記導線圧着部の少なくとも一部を覆うように設けられる第3防食材をさらに有し、
前記第2防食材が、前記第1防食材及び前記第3防食材の少なくとも一部を覆うように設けられたことを特徴とする請求項1記載の端子付き電線。
【請求項3】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、
被覆導線の先端部の被覆部を除去し、導線露出部を形成する電線加工工程と、
前記導線露出部を、端子の導線圧着部で圧着して、導線と前記端子とを接続する電線・端子接続工程と、
前記導線圧着部の先端から露出する前記導線の出代部に対し、前記導線圧着部を避けるように防食材を塗布する第1防食材塗布工程と、
前記導線圧着部の後端側に第3防食材を塗布する第3防食材塗布工程と、
前記第1防食材塗布工程で塗布した防食材を、前記導線の先端部近傍に浸透させる防食材浸透工程と、
前記導線の出代部に防食材を浸透させた後、前記第1防食材塗布工程及び前記第3防食材塗布工程で塗布した防食材の少なくとも一部を覆うようにさらに防食材を塗布する第2防食材塗布工程と、
塗布された防食材を硬化させる樹脂硬化工程と、
を具備し、
前記防食材浸透工程では、所定時間の浸透時間によって、前記第1防食材塗布工程で塗布した防食材を前記導線と前記導線圧着部の先端部との隙間に浸透させるとともに、前記第3防食材塗布工程で塗布した防食材を前記導線と前記導線圧着部の後端部との隙間に浸透させることを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車等に用いられる端子付き電線およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた銅系材料からなる電線が使用されている。特に、自動車分野においては、車両の高性能化、高機能化が急速に進められており、車載される各種電気機器や制御機器が増加している。したがって、これに伴い、使用される端子付き電線も増加する傾向にある。
【0003】
一方、環境問題が注目される中、自動車の軽量化が要求されている。したがって、ワイヤハーネスの使用量増加に伴う重量増加が問題となる。このため、従来使用されている銅線に代えて、軽量なアルミニウム電線が注目されている。
【0004】
ここで、このような電線同士を接続する際や機器類等の接続部においては、接続用端子が用いられる。しかし、アルミニウム電線を用いた端子付き電線であっても、接続部の信頼性等のため、端子部には、電気特性に優れる銅が使用される場合がある。このような場合には、アルミニウム電線と銅製の端子とが接合されて使用される。
【0005】
しかし、異種金属を接触させると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいため、接触部への水の飛散や結露等の影響により、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、接続部における電線と端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、更には断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。このため、電線と端子との接続部を防食材で被覆する方法が提案されている。
【0006】
例えば、防食材の粘度を下げることで、効率よく導線の素線間等に防食材を浸透させるために、製造工程において、樹脂を加温して一時的に低粘度として、防食材を塗布する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-225171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5(a)は、導線圧着部107において、導線113を圧着した状態を示す概念図である。導線圧着部107を金型で圧縮して導線113を圧着すると、その先端部には、導線113との間に隙間101が生じる場合がある。
【0009】
この状態で、図5(b)に示すように、導線圧着部107の先端から露出する導線113を覆うように防食材117を塗布すると、発明者らは、図5(c)に示すように、この隙間101や導線113の素線間に残っていた空気によって、気泡102が生じるおそれがあることを見出した。このような気泡102が生じると、この部位の防食材117の厚みが薄くなり、硬化時等において防食材117が破裂して導線113が露出するおそれがある。このため、防食性が低下するという問題がある。
【0010】
これに対し、特許文献1のように防食材を低粘度とすることで、気泡を抜けやすくする方法はあるが、特許文献1のように粘度調整を行うためには、環境温度を調整する追加設備が必要となり、製造工程が長くなるなどコスト増を招く。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、製造性を損なうことなく、導線圧着部から露出する導線を確実に防食材で覆い、防食性を確保することが可能な端子付き電線及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達するために第1の発明は、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、被覆導線の先端部の被覆部が除去された導線露出部が、前記端子の導線圧着部で圧着されており、前記導線圧着部と前記端子本体との間のトランジション部の開口する側を上方とすると、前記導線圧着部の先端から露出する導線の出代部に対し、前記導線圧着部の上部に付着しないように設けられた第1防食材と、前記第1防食材の少なくとも一部を覆うように前記導線圧着部の少なくとも先端部近傍に設けられ、前記第1防食材との境界が顕微鏡で観察可能な第2防食材と、を具備し、前記第1防食材が、前記導線と前記導線圧着部との隙間に浸透されていることを特徴とする端子付き電線である。
【0013】
前記導線の出代部以外の部位であって、前記導線圧着部の少なくとも一部を覆うように設けられる第3防食材をさらに有し、前記第2防食材が、前記第1防食材及び前記第3防食材の少なくとも一部を覆うように設けられてもよい。
【0014】
第2の発明は、覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、被覆導線の先端部の被覆部を除去し、導線露出部を形成する電線加工工程と、
前記導線露出部を、端子の導線圧着部で圧着して、導線と前記端子とを接続する電線・端子接続工程と、前記導線圧着部の先端から露出する前記導線の出代部に対し、前記導線圧着部を避けるように防食材を塗布する第1防食材塗布工程と、前記導線圧着部の後端側に第3防食材を塗布する第3防食材塗布工程と、前記第1防食材塗布工程で塗布した防食材を、前記導線の先端部近傍に浸透させる防食材浸透工程と、前記導線の出代部に防食材を浸透させた後、前記第1防食材塗布工程及び前記第3防食材塗布工程で塗布した防食材の少なくとも一部を覆うようにさらに防食材を塗布する第2防食材塗布工程と、塗布された防食材を硬化させる樹脂硬化工程と、を具備し、前記防食材浸透工程では、所定時間の浸透時間によって、前記第1防食材塗布工程で塗布した防食材を前記導線と前記導線圧着部の先端部との隙間に浸透させるとともに、前記第3防食材塗布工程で塗布した防食材を前記導線と前記導線圧着部の後端部との隙間に浸透させることを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0015】
第1、第2の発明によれば、導線圧着部の先端から露出する導線の出代部に対し、導線圧着部を避けるように防食材を塗布するため、導線と導線圧着部との隙間が防食材で覆われることがない。また、導線の素線間等に防食材を浸透させることで、導線の素線間や隙間を防食材で埋めることができるため、気泡が生じることを抑制することができる。このため、気泡に起因した防食性の低下を抑制することができる。
【0016】
また、防食材を浸透させている間に、導線の出代部以外の部位であって、導線圧着部を覆うように、防食材を塗布することで、防食材の塗布時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造性を損なうことなく、導線圧着部から露出する導線を確実に防食材で覆い、防食性を確保することが可能な端子付き電線及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】端子付き電線10を示す斜視図。
図2】端子付き電線10を示す断面図。
図3】(a)~(c)は、第1防食材17aを塗布する工程を示す断面拡大図。
図4】(a)、(b)は、第2防食材17b、第3防食材17cを塗布する方法を示す断面図。
図5】(a)~(c)は、従来の導線圧着部107への防食材117を塗布する工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、図2は断面図である。なお、図1は、防食材17を透視した図である。なお、防食材17は、後述する第1防食材17a、第2防食材17b、第3防食材17cの総称である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11が接続されて構成される。
【0020】
被覆導線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。導線13は、例えば、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。
【0021】
端子1は、オープンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。圧着部5と端子本体3の間に位置するトランジション部4は、上方が開口する。
【0022】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて例えば雄型端子の挿入タブを設けてもよい。また、端子本体3は、雄雌の嵌合タイプではなく、一般的な丸形端子や先開形端子であってもよい。
【0023】
圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、圧着前においては、端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。端子1の圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9と、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のバレル間部8からなる。
【0024】
導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられる。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0025】
被覆導線11の先端は、被覆部15が剥離され、内部の導線13が露出する。被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。また、被覆部15が剥離されて露出する導線13は、導線圧着部7により圧着される。導線圧着部7において、導線13と端子1とが電気的に接続される。なお、被覆部15の端面は、被覆圧着部9と導線圧着部7の間のバレル間部8に位置する。
【0026】
本発明では、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7の先端の導線13が露出する部位までが防食材17で覆われている。したがって、導線13は、防食材17によって外部に露出しない。なお、防食材17は、例えば、アクリレート系の光硬化樹脂である。
【0027】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。まず、被覆導線11の先端部の被覆部15を除去し、導線露出部を形成する(電線加工工程)。次に、導線露出部を、端子1の導線圧着部7で圧着して、導線13と端子1とを接続する(電線・端子接続工程)。
【0028】
次に、図3(a)に示すように、導線圧着部7の先端から端子本体3側に露出する導線13の出代部に対して、例えばディスペンサ等によって第1防食材17aを塗布する(第1防食材塗布工程)。この際、第1防食材17aは、導線圧着部7を避けるように塗布される。すなわち、導線圧着部7の先端部の上面には、第1防食材17aは付着せず、導線13の出代部のみに接触するように第1防食材17aが塗布される。
【0029】
第1防食材塗布工程の後に、図3(b)に示すように、導線13の出代部の前方の第1防食材17aを部分的に仮硬化させ、仮硬化部18を形成する(防食材仮硬化工程)。仮硬化部18は、第1防食材17aの端子本体3側の一部に部分的に光を照射することで形成することができる。なお、仮硬化部18は、完全に硬化していてもよく、完全に硬化していなくてもよい。いずれにせよ、導線13と付着している部分の第1防食材17aに流動性が残ればよい。
【0030】
また、防食材仮硬化工程は、必要に応じ行えばよく、後述する防食材浸透工程において、第1防食材17aの端子本体3への流出が少ない場合には不要である。例えば、第1防食材17aの塗布時の粘度が1000mPa・s以下である場合に、防食材仮硬化工程を行うことが効果的である。
【0031】
その後、図3(c)に示すように、第1防食材塗布工程で塗布した第1防食材17aを、導線13の先端部近傍に浸透させる(防食材浸透工程)。この際、第1防食材17aは、導線13の素線間と、導線13と導線圧着部7の先端部の隙間12に浸透する。なお、浸透時間は、例えば0.3~2.4秒が望ましく、より望ましくは1~2.4秒とする。浸透時間が十分でないと、隙間12が埋まらずに気泡が生成され、浸透時間が長すぎると、サイクルタイムが長くなりすぎて生産性が悪化する。
【0032】
防食材浸透工程おいて、導線13の出代部に第1防食材17aを浸透させた後、第1防食材17aを覆うようにさらに第2防食材を塗布し(第2防食材塗布工程)、導線圧着部7の先端部において、十分な防食材の厚みを確保する。この際、第2防食材は、第1防食材17aと同一の粘度の樹脂を用いてもよいが、第1防食材17aよりも粘度の高い樹脂を用いてもよい。
【0033】
なお、前述したように、防食材浸透工程が完了しないと、第2防食材を塗布することができないため、その間は手待ち時間となる。このため、図4(a)に示すように、防食材浸透工程と並行して、導線13の出代部以外の部位であって、バレル間部8から導線圧着部7を覆うように、第3防食材17cを塗布してもよい(第3防食材塗布工程)。このようにすることで、防食材浸透工程における待ち時間を有効に利用して他の部位に防食材を塗布することができる。
【0034】
この場合には、図4(b)に示すように、第3防食材17cを塗布した後であって、防食材浸透工程が完了した後に第2防食材17bを導線圧着部7の先端部近傍に塗布し、導線圧着部7の先端部近傍の防食材17の厚みを確保する。
【0035】
最後に、塗布された防食材17(第1防食材17a、第2防食材17b、第3防食材17c)に光を照射して完全に硬化させる(樹脂硬化工程)。以上により、端子付き電線10を得ることができる。
【0036】
なお、本発明において、防食材17を塗布するとは、防食材17の液滴を対象部に接触させる方法や、防食材17の液滴を供給部から打ち出して(滴下させて)対象部に付着させる方法など、対象部に防食材17が付着した状態を得る方法の全てを含むものとする。例えば、防食材17の液滴を対象部に対して、メカニカルディスペンサで接触させて塗布してもよく、ジェットディスペンサで供給部から打ち出して塗布してもよい。
【0037】
また、各工程における防食材17の塗布は、一か所ではなく、複数個所であってもよい。例えば、第1防食材塗布工程において、導線圧着部7の上部にかからず、導線13の先端部にかかるように複数個所に第1防食材17aを塗布してもよい。
【0038】
なお、第1防食材17a、第2防食材17b及び第3防食材17cは、それぞれの形成タイミングが異なるため、その境界を、断面研磨後に光学顕微鏡や偏光顕微鏡で識別が可能である。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1防食材17aを導線圧着部7の上部にかからないように塗布するため、導線圧着部7と導線13との隙間12に溜まっていた空気による気泡の発生を抑制することができる。また、第2防食材17bを塗布する前に十分に浸透時間を確保するため、第2防食材17bを塗布した際の気泡の発生も抑制することができるとともに、第2防食材17bによって導線圧着部7の先端部近傍の防食材17の厚みを確保することができる。
【0040】
なお、このような効果は、特に、電線径の小さい場合に有効である。例えば、0.3sq~2.5sqの電線の場合には、隙間12に樹脂が浸透しにくく、気泡も抜けにくいが、上記の方法によれば、気泡の発生を抑制することができる。
【0041】
また、第1防食材塗布工程の後に、第1防食材17aを仮硬化させることで、第1防食材17aが端子本体3側に流れてしまい、十分に第1防食材17aを導線13側に浸透させることができなくなることを抑制することができる。
【0042】
また、防食材浸透工程と並行して、第3防食材17cを塗布することで、浸透時間を有効に利用し、タクトタイムを短縮することができる。
【実施例
【0043】
浸透時間と防食材の粘度等の条件を調整して、各種の端子付き電線を製造し、各種の評価を行った。防食材としては、紫外線硬化性のアクリレート系樹脂を用いた。第1防食材塗布工程→第2防食材塗布工程→樹脂硬化工程を行い、硬化後の浸透性(気泡の有無)と、膜厚について外観を確認し、導線部分の樹脂の膜厚が50μm以上のものを合格とした。また、製造にかかる時間について評価した。
【0044】
各条件において、10個のサンプルを作成し、上記の評価を行った。この際、10個全てが基準をクリアしたものを○とし、合格数が1~9個であったものを△とし、全て不合格であった物を×とした。浸透性、膜厚および目標タクトの全てについて評価し、その最低の評価を当該条件の評価として表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
浸透時間を2.5秒以上とすると、目標とするタクトタイムを超えてしまうため全て不合格となった。一方、浸透時間が0.1秒では、十分に樹脂が浸透せずに気泡が確認された。このため、浸透時間は、0.3~2.4秒であることが望ましい。
【0047】
また、粘度によっては、浸透時間を長くすることで膜厚不足が見られた。これに対しては、第1防食材の仮硬化工程を追加することで膜厚不足が解消された。
【0048】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0049】
1………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
8………バレル間部
9………被覆圧着部
10………端子付き電線
11………被覆導線
12………隙間
13………導線
15………被覆部
17………防食材
17a………第1防食材
17b………第2防食材
17c………第2防食材
18………仮硬化部
101………隙間
102………気泡
107………導線圧着部
113………導線
117………防食材
図1
図2
図3
図4
図5