(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】粘着剤組成物及び粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
C09J 133/00 20060101AFI20240118BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20240118BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20240118BHJP
C09J 133/14 20060101ALI20240118BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240118BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20240118BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20240118BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240118BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C09J133/00
C09J133/06
C09J175/04
C09J133/14
C09J7/38
C09J7/25
C08F220/26
B32B27/00 M
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2019233900
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】長倉 毅
(72)【発明者】
【氏名】塚田 高士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 史恵
(72)【発明者】
【氏名】大津賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】廣神 萌美
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 啓太
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-047924(JP,A)
【文献】特開2015-214677(JP,A)
【文献】特開2019-035061(JP,A)
【文献】特開2008-308633(JP,A)
【文献】特開2016-210873(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0210953(US,A1)
【文献】特開2018-053066(JP,A)
【文献】特開2014-101443(JP,A)
【文献】特開2017-002190(JP,A)
【文献】特開2014-118486(JP,A)
【文献】特開2014-043096(JP,A)
【文献】特開2011-231313(JP,A)
【文献】特開2016-079256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/00
C09J 133/06
C09J 175/04
C09J 133/14
C09J 7/38
C09J 7/25
C08F 220/26
B32B 27/00
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー成分として(メタ)アクリレートのみを共重合させてなるアクリル系ポリマーと、(C)架橋剤とを含有する粘着剤組成物であって、
前記粘着剤組成物に含まれる前記アクリル系ポリマーが、
(A-1)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも
2種以上の合計を100重量部、又は、
(A-2)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85
重量部以上100重量部
未満と、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上の合計を
0.0重量部超15重量部以下との合計を100重量部と、
(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を0.1~5.0重量部と、
をカルボキシ基を含有するビニルモノマー、及び窒素含有ビニルモノマーを含有させないで共重合させた重量平均分子量5万~150万のアクリル系ポリマーであり、
前記粘着剤組成物が、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(C)架橋剤として3官能以上のイソシアネート化合物を0.01~2.0重量部の割合で含有してな
り、
前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の厚さを25μmとしたときの、該粘着剤層の水蒸気透過率が、JIS K7129に準拠した赤外線センサ法を用いて測定したとき、32℃×90%RH雰囲気下において100g/(m
2
・day)以下であることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記アクリル系ポリマーのSP値が9.0(cal/cm
3)
0.5以下であることを特徴とする請求項
1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記粘着剤組成物を架橋してなる厚みが25μmの粘着剤層を、厚みが50μmのポリエステルフィルムの基材の片面に積層した粘着フィルムとし、JIS Z0237に準拠して前記粘着剤層の粘着力を測定したとき、高密度ポリエチレン樹脂に対する、前記粘着剤層の粘着力が10N/25mm以上であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーが、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を80重量部以上の割合で含有してなることを特徴とする請求項
1~3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートが、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項
1~4のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の、厚さが25μmのときの全光線透過率が90%以上、且つヘイズ値が1.0%以下であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか
1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか
1項に記載の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、基材の少なくとも片面に形成してなる粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気透過率が低く、水蒸気バリア性に優れた粘着剤層を形成することができる粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルムを提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特定の医薬品、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、電子ペーパーなどでは、大気中の水分及び酸素が、内容物の医薬品、発光素子などに悪影響を及ぼすことを避けるために、ガスバリア性フィルムを用いて内容物を密封することが行われている。
また、近年、自ら発光する発光素子を用いた有機ELディスプレイが、液晶ディスプレイに比べて画像が鮮明であることから、テレビ、スマートフォン、デジタルサイネージなどのディスプレイとして、徐々に普及しつつある。
特に、有機ELディスプレイの発光素子は、耐湿性が低い有機物で形成されているため、大気中の水分に対して極めて脆弱である。そこで、従来は、発光素子の基材及び封止部材として、ガスバリア性と耐熱性を有する薄いガラス基板が用いられてきた。ところが、近年、有機ELディスプレイのフレキシブル化が進められ、薄いガラス基板を代替する透明な基材として、ガスバリア性フィルムが用いられている。また、ガスバリア性フィルムを貼り合せるために、ガスバリア性を有する粘着剤層が用いられている。
例えば、特許文献1には、高いガスバリア性が必要とされる食品、医薬品の包装用途や太陽電池、電子ペーパー、有機ELディスプレイなどの電子部材の用途に使用される、ガスバリア性フィルムが開示されている。
【0003】
従来のプラズマCVD法によりケイ素酸化物を主成分とした蒸着膜によるガスバリア層を形成する方法では、有機ELディスプレイや電子ペーパー用途で必要とされる水蒸気透過率1×10-3g/(m2・day)以下の高いガスバリア性を得るためには、蒸着膜を厚膜化する必要がある。ところが、形成されたガスバリア層が非常に緻密かつ高硬度な層であるため、このような厚膜の蒸着膜の場合には、ガスバリア性フィルムを曲げたときに、蒸着膜にクラックが発生し、ガスバリア性が低下するという課題があった。
【0004】
そこで、特許文献1に係わる発明のガスバリア性フィルムは、高分子フィルム基材の少なくとも片面に、蒸着膜からなるガスバリア層を有するガスバリアフィルムであって、前記ガスバリア層は高分子フィルム基材の側から、周期律表第3族から第14族に属する金属元素のうち少なくとも1つの元素を含む化合物を主成分とする第1の層と、ケイ素化合物を主成分とする第2の層がこの順に積層されている。さらに、各層の厚みを特定の範囲にすることにより、高温環境や屈曲に対してもガスバリア性が低下し難い、高度なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムが得られるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、有機EL素子等のディスプレイデバイスなど、電子デバイスの封止に好適に用いられる粘着性組成物および該組成物から得られる粘着性シートが開示されている。特許文献2の発明に係わる粘着剤組成物によれば、特定分子量のポリイソブチレン系樹脂とポリブテン樹脂とを使用したことにより、目的の粘着物性を発現させるとともに、水蒸気透過率を低下させることができ、外部からの水分の浸入を防止することができるとしている。
【0006】
また、特許文献3には、湿熱条件下においても白化せず、透明性やガスバリア性に優れる粘着剤組成物が開示されている。特許文献3の発明に係わる粘着剤組成物によれば、粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物とすることにより、ガスバリア性が顕著に向上し、相溶性が良好となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-043096号公報
【文献】特開2011-231313号公報
【文献】特開2016-079256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の発明に係わるガスバリア性フィルムは、基材の片面にスパッタ・CVD装置を使用して金属薄膜層の蒸着膜を形成することによりガスバリア性を発揮させている。そのため、例えば、厚みが188μmのポリエステルフィルムのような、相当な剛性を有する基材を使用する必要があり、適度な柔軟性を有する粘着剤層に、蒸着膜を積層してガスバリア性を持たせることには適用できなかった。
また、特許文献2に記載の発明に係わる粘着剤組成物は、オレフィン系樹脂であるポリブテン樹脂を含有しているため、紫外線による劣化により黄変することを、酸化防止剤により防止するとしても、潜在的に時間の経過と共に変色することが避けられないという問題がある。このため、紫外線による変色が起こらない粘着剤組成物が求められていた。
また、特許文献3に記載の発明に係わる粘着剤組成物を用いた粘着シートにおいて、厚みが100μmの粘着剤層が形成された実施例1~6の粘着シートでは、水蒸気透過率が70~110g/(m2・day)である。しかし、厚みが100μmの粘着剤層では厚膜であることにより、適用範囲に制約を受ける。このため、粘着剤層が薄膜でも、優れた水蒸気バリア性を有することが求められている。さらに、各種ディスプレイに用いられる光学用粘着フィルムでは、視認性を向上させるために高透明性が必要とされている。
【0009】
上記の問題に鑑み、本発明は、一般的な構造を有するアクリル系モノマーのみを含有した粘着剤組成物であるにも拘らず、水蒸気透過率が低く、水蒸気バリア性に優れた粘着剤層を得ることができる粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
低い透湿度である粘着剤組成物に関して、一般的に、アクリル系ポリマーから得られる厚みが100μmの粘着剤層においては、水蒸気透過率を測定すると300g/(m2・day)以上の高い数値を示している。また、粘着剤層の厚さが薄いほど水蒸気バリア性は低下するため、粘着剤層を薄膜にすると、水蒸気透過率の値は、さらに高い値を示すことになる。前記の課題を解決した、本発明の粘着剤組成物は、粘着剤層の厚さが25μmのときの水蒸気透過率が、100g/(m2・day)以下であり、優れた水蒸気バリア性を有する粘着剤層が得られることを特徴としている。
【0011】
本発明は、粘着剤組成物として、少なくとも、
(A-1)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上と、
(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上とを、カルボキシ基を含有するビニルモノマー、及びアミノ基等の窒素含有ビニルモノマーを含有させずに共重合させたアクリル系ポリマーと、
(C)架橋剤として3官能以上のイソシアネート化合物とを含有する粘着剤組成物を用いて、該粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層とすることを技術思想としている。その結果、一般的な構造を有するアクリル系モノマーのみを含有した粘着剤組成物であるにも拘らず、従来にない低い透湿度を有する粘着剤層が得られることを見い出し、本発明を完成させることができた。
【0012】
前記の課題を解決するため、本発明は、モノマー成分として(メタ)アクリレートのみを共重合させてなるアクリル系ポリマーと、(C)架橋剤とを含有する粘着剤組成物であって、前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の厚さを25μmとしたときの、該粘着剤層の水蒸気透過率が、JIS K7129に準拠した赤外線センサ法を用いて測定したとき、32℃×90%RH雰囲気下において100g/(m2・day)以下であることを特徴とする粘着剤組成物を提供する。
【0013】
前記粘着剤組成物に含まれる前記アクリル系ポリマーが、
(A-1)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を100重量部、又は、(A-2)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85~100重量部と、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上の合計を15~0.0重量部との合計を100重量部と、
(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を0.1~5.0重量部と、
をカルボキシ基を含有するビニルモノマー、及び窒素含有ビニルモノマーを含有させないで共重合させた重量平均分子量5万~150万のアクリル系ポリマーであり、
前記粘着剤組成物が、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(C)架橋剤として3官能以上のイソシアネート化合物を0.01~2.0重量部の割合で含有してなることが好ましい。
【0014】
前記アクリル系ポリマーのSP値が9.0(cal/cm3)0.5以下であることが好ましい。
【0015】
前記粘着剤組成物を架橋してなる厚みが25μmの粘着剤層を、厚みが50μmのポリエステルフィルムの基材の片面に積層した粘着フィルムとし、JIS Z0237に準拠して前記粘着剤層の粘着力を測定したとき、高密度ポリエチレン樹脂に対する、前記粘着剤層の粘着力が10N/25mm以上であることが好ましい。
【0016】
前記アクリル系ポリマーが、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を80重量部以上の割合で含有してなることが好ましい。
【0017】
前記(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートが、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の、厚さが25μmのときの全光線透過率が90%以上、且つヘイズ値が1.0%以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、基材の少なくとも片面に形成してなる粘着フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の粘着剤組成物は、一般的な構造を有するアクリル系モノマーのみを含有した粘着剤組成物であるにも拘らず、水蒸気透過率が低く、水蒸気バリア性に優れた粘着剤層を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0022】
本実施形態の粘着剤組成物は、モノマー成分として(メタ)アクリレートのみを共重合させてなるアクリル系ポリマーと、(C)架橋剤とを含有する粘着剤組成物であって、前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の厚さを25μmとしたときの、該粘着剤層の水蒸気透過率が、JIS K7129に準拠した赤外線センサ法を用いて測定したとき、32℃×90%RH雰囲気下において100g/(m2・day)以下であることを特徴とする。
【0023】
前記アクリル系ポリマーは、粘着剤組成物の主剤として機能する。前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、(メタ)アクリレートが好ましい。(メタ)アクリレートは、アクリレートの1種以上でもよく、メタクリレートの1種以上でもよく、アクリレートの1種以上とメタクリレートの1種以上との混合物でもよい。また、本発明の粘着剤組成物は、一般的な構造を有するアクリル系モノマーのみを含有した粘着剤組成物とするため、前記アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリレート以外の共重合性モノマー成分、例えば(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系モノマー、スチレン等のオレフィン系モノマー、酢酸ビニル等のビニルエステル等を含有しないことが好ましい。さらに、粘着剤層の被着体が、酸化インジウム錫(ITO)などの金属表面である場合には、前記アクリル系ポリマーが、詳しくは後述するが、カルボキシ基を有する(メタ)アクリレートエステルモノマー、及び、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩等の、該金属表面を腐食させる原因となる化合物を含有しないことが好ましい。
【0024】
前記モノマー成分の主成分となる(メタ)アクリレートとしては、(A-1)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上、又は、(A-2)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上と、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上とが挙げられる。
【0025】
前記(A-1)及び(A-2)に共通して用いられる、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、テトラデシル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数がC14であるアルキル(メタ)アクリレート;ペンタデシル(メタ)アクリレート、イソペンタデシル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数がC15であるアルキル(メタ)アクリレート;ヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソヘキサデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、イソセチル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数がC16であるアルキル(メタ)アクリレート;ヘプタデシル(メタ)アクリレート、イソヘプタデシル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数がC17であるアルキル(メタ)アクリレート;オクタデシル(メタ)アクリレート、イソオクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数がC18であるアルキル(メタ)アクリレート;ノナデシル(メタ)アクリレート、イソノナデシル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数がC19であるアルキル(メタ)アクリレート;イコシル(メタ)アクリレート、イソイコシル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数がC20であるアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される、少なくとも1種以上が挙げられる。
【0026】
前記(A-2)のうち、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
前記(A-2)のうち、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレートの具体例としては、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、単環式の脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ビシクロヘプチル(メタ)アクリレート、ビシクロオクチル(メタ)アクリレート、ジメチルビシクロヘプチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の、多環式の脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレートからなる群から選択される、少なくとも1種以上が挙げられる。
【0028】
前記(A-2)のうち、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-(1-ナフチルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ナフチルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、6-(1-ナフチルオキシ)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(2-ナフチルオキシ)ヘキシル(メタ)アクリレート、8-(1-ナフチルオキシ)オクチル(メタ)アクリレート、8-(2-ナフチルオキシ)オクチル(メタ)アクリレート等の少なくとも1種以上が挙げられる。芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートは、水酸基、カルボキシ基、窒素原子を含有しない(メタ)アクリレートであることが好ましい。例えば、芳香族炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート、芳香族炭化水素基を含有するアルキル(メタ)アクリレート、芳香族エーテル基を含有するアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
前記(A-1)が、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの2種以上の合計が100重量部から構成されてもよい。また、前記(A-2)の合計100重量部のうち、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85~100重量部と、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上の合計を15~0.0重量部とから構成されてもよい。
また、前記(A-2)の合計100重量部のうち、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85~100重量部と、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上の特定の(メタ)アクリレートを、特定の割合範囲で含有することが、粘着剤層の水蒸気透過率を低減させる点において好ましい。
【0030】
例えば、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの1種以上の合計を80重量部以上の割合で含有してなることが好ましく、85重量部以上の割合で含有してなることがより好ましく、90重量部以上の割合で含有してなることが特に好ましい。また、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート又は芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種以上の合計を、20重量部以下の割合で含有してなることが好ましく、15重量部以下の割合で含有してなることがより好ましく、10重量部以下の割合で含有してなることが特に好ましい。また、紫外線等の影響を抑制するため、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート及び芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートとしては、前記アクリル系ポリマーの側鎖部分にオレフィン系二重結合を有しない化合物を選択することが好ましい。
【0031】
ところで、本発明に係わる粘着剤組成物を使用して得られる粘着剤層が、優れたガスバリア性を有する理由は、今のところ明確ではないが、次のように推測される。つまり、アクリル系ポリマーの100重量部のうち、長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートである、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートを80重量部以上の割合で含有させたことにより、該アクリル系ポリマーの親水性が抑制されて疎水性が強くなり、粘着剤層に侵入した水分が、粘着剤層に吸収され難く、且つ、粘着剤層を透過し難くなり、粘着剤層の水蒸気透過率が低減されるものと推測される。
したがって、さらに、長鎖アルキル基の炭素数を20よりも多くして、アルキル(メタ)アクリレートの分子構造を長大化させると、アクリル系ポリマーの疎水性がより強くなると考えられる。しかし、この場合、アクリル系ポリマーを溶解させた粘着剤組成物の粘度が増大することから、基材に塗布して粘着剤層を積層することが困難になるという問題が発生する。よって、本実施形態に係わる粘着剤組成物は、アクリル系ポリマーの100重量部のうち、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を80~100重量部の割合で含有させることが、本発明の課題を解決するための実用的な粘着剤組成物が得られることから好ましい。
【0032】
前記(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートの具体例としては、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、その他のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の少なくとも1種以上が挙げられる。
【0033】
前記(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートは、前記(A-1)又は(A-2)の合計100重量部に対して、0.1~5.0重量部の割合で含有することが好ましく、0.6~5.0重量部の割合で含有することがより好ましく、1.2~5.0重量部の割合で含有することが特に好ましい。また、前記(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートは、アルキル基の炭素数がC2以上~C8以下である水酸基置換アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、中でも、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。さらに、前記(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートは、アルキル基の炭素数がC4以上~C8以下である水酸基置換アルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選ばれた少なくとも1種であることが、粘着剤層の凝集力を増大させ、ひいては粘着力を増大できることから特に好ましい。
【0034】
前記アクリル系ポリマーは、カルボキシ基を含有するビニルモノマーを含有させないで共重合させたアクリル系ポリマーであることが好ましい。カルボキシ基を含有するビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等のエステル基を有しないカルボキシ基含有モノマー;カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルテトラヒドロフタル酸等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリレートエステルモノマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
前記アクリル系ポリマーは、窒素含有ビニルモノマーを含有させないで共重合させたアクリル系ポリマーであることが好ましい。窒素含有ビニルモノマーとしては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン等の環状(メタ)アクリルアミド類;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル基含有環状モノマー;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド等の非環状(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等の置換アミノ基含有(メタ)アクリレート類;N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等の置換アミノ基含有(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニルモノマー;イソシアネート基含有ビニルモノマー;(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩等の4級アンモニウム基含有ビニルモノマー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
なお、前記の特許文献3に記載の発明に係わる粘着シートは、アクリル系ポリマーにアミド基含有モノマーを共重合させることを必須要件としているが、本実施形態の粘着剤組成物は、アミド基含有モノマーを必須成分としていない。このため、本実施形態によれば、モノマー成分として(メタ)アクリレートのみを共重合させてなるアクリル系ポリマーを含有する粘着剤組成物であっても、水蒸気透過率が低く、水蒸気バリア性に優れた粘着剤層を得ることができる。
【0037】
前記アクリル系ポリマーとして使用される共重合体の重合方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、乳化重合法等、適宜、公知の重合方法が使用可能である。前記アクリル系ポリマーは、重量平均分子量5万~150万のアクリル系ポリマーであることが好ましく、重量平均分子量15万~150万のアクリル系ポリマーであることがより好ましく、重量平均分子量30万~150万のアクリル系ポリマーであることが特に好ましい。
【0038】
前記アクリル系ポリマーは、酸価が0のアクリル系ポリマーであることが好ましい。前記アクリル系ポリマーが、カルボキシ基を含有するビニルモノマー以外にも、例えば、スルホン酸基を含有するビニルモノマー、ホスホン酸基を含有するビニルモノマー等の酸性モノマーを含有させないで共重合させたアクリル系ポリマーであることが好ましい。カルボキシ基等の酸性基は親水性が高いため、前記アクリル系ポリマーに酸性モノマーを共重合させると、水蒸気透過率が増加し、水蒸気バリア性が低下するおそれがある。
また、被着体が酸化インジウム錫(ITO)などの金属表面である場合には、カルボキシ基を含有するビニルモノマーを共重合させたアクリル系ポリマーを含有する粘着剤層が、該金属表面を腐食して透明導電膜の抵抗値を変化させる原因となる。このため、前記アクリル系ポリマーは、金属表面を腐食させる原因となる化合物である、カルボキシ基を含有するビニルモノマーを含有させないで共重合させたアクリル系ポリマーであることが好ましい。
【0039】
前記(C)架橋剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等のジイソシアネート類、これらのビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、トリメチロールプロパンや、グリセリン等の3価以上のポリオールとのアダクト体などのポリイソシアネート化合物の少なくとも1種以上が挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、カルボキシ基を含有するビニルモノマーを含有させないで共重合させたアクリル系ポリマーであっても、(B)水酸基を含有する(メタ)アクリレートと反応して、粘着剤組成物を架橋させることができる。前記粘着剤組成物が、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(C)架橋剤として3官能以上のイソシアネート化合物を0.01~2.0重量部の割合で含有してなることが好ましい。ポリイソシアネート化合物が3官能以上である場合、2官能の場合に比べて、より高密度の架橋が可能になる。前記(C)架橋剤の使用量が多すぎる場合、前記アクリル系ポリマーの高分子鎖間に隙間が生じ、水蒸気透過率が増加し、水蒸気バリア性が低下するおそれがある。
【0040】
前記粘着剤組成物は、任意の成分として、シランカップリング剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、硬化促進剤、可塑剤、充填剤、架橋触媒、架橋遅延剤、硬化遅延剤、加工助剤、老化防止剤などの公知の添加剤を適宜に配合することができる。これらは、単独で、もしくは2種類以上を併せて用いてもよい。
なお、前記特許文献3の粘着シートは、テルペンフェノール樹脂等の粘着付与樹脂を必須成分としているが、本実施形態の粘着剤組成物は、粘着付与樹脂を必須成分としていない。このため、本実施形態によれば、前記アクリル系ポリマーのみを樹脂成分とした粘着剤組成物であり、一般的な構造を有するアクリル系モノマーのみを含有した粘着剤組成物であっても、水蒸気透過率が低く、水蒸気バリア性に優れた粘着剤層を得ることができる。このため、本実施形態の粘着剤組成物は、高品質の光学部材にも貼合可能である、高品質の粘着剤層を製造することができる。
【0041】
本実施形態に係わる粘着剤層は、前記粘着剤組成物を基材や離型フィルムに塗布した後、前記粘着剤組成物を架橋することで得ることができる。架橋後の粘着剤層のゲル分率は、場合により、40~85%、60~90%、又は95~100%であることが好ましい。前記(C)架橋剤の反応を進行させるため、前記粘着剤層を所定の温度条件に保管して、エージングすることが好ましい。粘着剤層の厚さは、用途等にも依存して適宜設定できるが、例えば、1~50μmの厚さが挙げられ、1~25μmの厚さが好ましい。
【0042】
前記粘着剤組成物は、該粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の厚さを25μmとしたときの、該粘着剤層の水蒸気透過率が、JIS K7129に準拠した赤外線センサ法を用いて測定したとき、32℃×90%RH雰囲気下において100g/(m2・day)以下であることが好ましく、90g/(m2・day)以下であることがより好ましい。水蒸気透過率の測定方法の詳細は、2008年改正のJIS K7129「プラスチック-フィルム及びシート-水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」のB法、又は2019年制定のJIS K7129-2「プラスチック-フィルム及びシート-水蒸気透過度の求め方-第2部:赤外線センサ法」に記載されている。
【0043】
前記アクリル系ポリマーのSP値(溶解度パラメータ)が、9.0(cal/cm3)0.5以下であることが好ましい。また、本実施形態に係わる粘着剤組成物において使用される高分子のSP値は、高分子を混合する場合の相溶性の良否を判断する尺度であるFedorsの式を使って算出される数値である。Fedorsの式によれば、分子を構成する原子、原子団、官能基等の構成単位ごとに提案された凝集エネルギーΔEi(cal/mol)及びモル体積ΔVi(cm3/mol)の値を用いて、次の式によりSP値が算出される。なお、0.5乗(又は1/2乗)は、平方根と同義である。
SP=(ΣΔEi/ΣΔVi)0.5
【0044】
Fedorsの式において、添え字iは、各構成単位に付される番号を表し、Σは、添え字iに関する総和を表す。分子中に同一の構成単位が複数個存在する場合は、添え字iに対応する個数をniとして、ΣΔEiの代わりにΣ(ni×ΔEi)、ΣΔViの代わりにΣ(ni×ΔVi)を用いることができる。各構成単位の存在割合を整数比で表し難い場合は、niとして、非整数の割合(モル分率等)を用いてもよい。
【0045】
前記粘着剤組成物は、該粘着剤組成物を架橋してなる厚みが25μmの粘着剤層を、厚みが50μmのポリエステルフィルムの基材の片面に積層した粘着フィルムとし、JIS Z0237に準拠して前記粘着剤層の粘着力を測定したとき、高密度ポリエチレン樹脂に対する、前記粘着剤層の粘着力が10N/25mm以上であることが好ましい。粘着力の試験に使用される被着体としては、高密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂が挙げられる。ポリエチレンのSP値は7.7~8.4程度であるため、前記アクリル系ポリマーのSP値が9.0より大きいと、被着体であるポリエチレン樹脂に対する粘着力が低下する要因となる。
【0046】
前記粘着剤層を、光学フィルム、光学ガラス等の光学部材を貼合するために用いる場合、粘着剤層と光学部材との界面での光線の反射を低減させるため、屈折率の差がなるべく小さいことが望ましい。このため、前記粘着剤層の屈折率が1.47~1.50であることが好ましい。前記粘着剤層の屈折率は、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレート等のモノマー成分の添加割合等により調整することができる。
前記アクリル系ポリマーは、前記(A-2)の合計100重量部のうち、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートモノマーを、3~30重量部の割合で含有することにより、前記粘着剤層の屈折率を1.47~1.50の値とすることが可能となる。
【0047】
前記粘着剤層を、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置に用いる場合は、透明性に優れる粘着剤層であることが好ましい。具体的には、前記粘着剤組成物は、該粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の、厚さが25μmのときの全光線透過率が90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、94%以上であることが特に好ましい。また、前記粘着剤組成物は、該粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層の、厚さが25μmのときのヘイズ値が1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることが特に好ましい。本実施形態の粘着剤組成物によれば、フィラー等の添加物を添加しなくても、水蒸気透過率が低く、水蒸気バリア性に優れた粘着剤層が得られる。このため、添加物による光の散乱等が抑制され、全光線透過率が高く、ヘイズ値が低く、透明性に優れた粘着剤層を得ることができる。
【0048】
本実施形態の粘着フィルムは、前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、基材の少なくとも片面に形成してなる。前記粘着剤層の形成に用いる基材フィルムや、粘着面を保護する離型フィルム(セパレーター)としては、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルム等を用いることができる。基材フィルムには、樹脂フィルムの粘着剤層が形成された側とは反対面に、シリコーン系、フッ素系の離型剤やコート剤、シリカ微粒子等による防汚処理、帯電防止剤の塗布や練り込み等による帯電防止処理を施すことができる。
【0049】
離型フィルムには、前記粘着剤層の粘着面と合わされる側の面に、シリコーン系、フッ素系の離型剤などにより離型処理が施される。前記粘着剤層の両面に離型フィルムの離型処理が施された面を貼り合せることで、「離型フィルム/粘着剤層/離型フィルム」の構成とすることもできる。この場合、離型フィルムを粘着剤層から剥離するために必要な剥離力が、前記粘着剤層の両面で同一でもよく、あるいは互いに異なってもよい。
【0050】
前記粘着フィルムから離型フィルムの少なくとも1つを剥離して、前記粘着剤層の粘着面を表出することにより、光学フィルム等の光学部材と貼合可能になる。光学フィルムとしては、偏光フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、防眩(アンチグレア)フィルム、紫外線吸収フィルム、赤外線吸収フィルム、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、有機ELディスプレイにおける発光素子の基材フィルム等が挙げられる。前記光学フィルムは、有機ELディスプレイの各種光学フィルム、液晶ディスプレイ用の各種光学フィルム、タッチパネル用の各種光学フィルム、電子ペーパー用の各種光学フィルムであってもよい。
本実施形態の粘着剤層又は粘着フィルムを貼り合せた光学フィルムは、例えば、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、タッチパネル、電子ペーパー等に適用することができることから、本発明に係わる粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルムは、産業上の利用価値が大である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0052】
<アクリル系ポリマー及び粘着剤組成物の製造>
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、反応装置内の空気を窒素ガスで置換した。その後、反応装置にテトラデシルメタクリレートを95重量部、ベンジルアクリレートを5重量部、8-ヒドロキシオクチルアクリレートを3.0重量部の割合で溶剤(酢酸エチル)と共に加えた。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを2時間かけて滴下した後、重合反応を継続して、実施例1のアクリル系ポリマーの溶液を得た。実施例1のアクリル系ポリマーの溶液に対して、架橋剤として、コロネート(登録商標)Lを0.4重量部の割合で添加した後、撹拌混合して実施例1の粘着剤組成物を得た。
【0053】
[実施例2~6及び比較例1~7]
モノマーの組成を各々、表1の(A)群及び(B)群の記載のように用いた以外は、上記の実施例1のアクリル系ポリマーの溶液と同様にして、実施例2~6及び比較例1~7のアクリル系ポリマーの溶液を得た。また、架橋剤を、表1の(C)群の記載のように用いた以外は、上記の実施例1の粘着剤組成物と同様にして、実施例2~6及び比較例1~7の粘着剤組成物を得た。
【0054】
【0055】
表1における実施例1、3、4、6及び比較例4~7では、(A)群のモノマーが、(A-2)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上と、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート、芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上とを含有している。また、実施例2、5では、(A)群のモノマーが、(A-1)アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上である。また、実施例1~7及び比較例4~7では、アクリル系ポリマーの100重量部に対して、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計が80重量部以上を含有している。また、比較例1~3では、アクリル系ポリマーの100重量部に対して、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計が80重量部未満である。
【0056】
表1において、(A)群のモノマーの合計を100重量部として求めた重量部の値を、化合物名に対応する略記号に添えて示す。さらに、(B)群及び(C)群では、アクリル系ポリマーを100重量部として求めた重量部の数値を、括弧( )内に示す。
なお、表1で用いた化合物名に対応する略記号は、次のとおりである。
【0057】
また、表1において、(A)群のうち、アルキル基の炭素数がC14以上~C20以下のアルキル(メタ)アクリレートについては、テトラデシルメタクリレートを「TDMA」、テトラデシルアクリレートを「TDA」、ペンタデシルアクリレートを「PDA」、ヘキサデシルメタクリレートを「HDMA」、イソステアリルアクリレートを「ISTA」と表示した。
また、(A)群のうち、脂環式炭化水素基を含有する(メタ)アクリレート及び芳香環構造を含有する(メタ)アクリレートについては、ベンジルアクリレートを「BZA」、イソボルニルアクリレートを「IBOA」と表示した。
また、(A)群のうち、アルキル基の炭素数がC1以上~C13以下のアルキル(メタ)アクリレート及び窒素含有ビニルモノマーについては、2-エチルヘキシルアクリレートを「2EHA」、n-ブチルアクリレートを「BA」、メチルアクリレートを「MA」、N,N-ジメチルアクリルアミドを「DMAA」と表示した。
【0058】
また、表1において、(B)群については、8-ヒドロキシオクチルアクリレートを「8HOA」、6-ヒドロキシヘキシルアクリレートを「6HHA」、4-ヒドロキシブチルアクリレートを「4HBA」、2-ヒドロキシエチルアクリレートを「HEA」、アクリル酸を「AAc」と表示した。
【0059】
また、表1において、(C)群については、コロネート(登録商標)L(東ソー株式会社の商品名:TDIのTMPアダクト体)を「L」、コロネート(登録商標)HX(東ソー株式会社の商品名:HDIのイソシアヌレート体)を「HX」、コロネート(登録商標)HL(東ソー株式会社の商品名:HDIアダクト体)を「HL」、タケネート(登録商標)D-110N(三井化学株式会社の商品名:XDIアダクト体)を「D-110N」と表示した。
ここで、「TDI」はトリレンジイソシアネート、「TMP」はトリメチロールプロパン、「HDI」はヘキサメチレンジイソシアネート、「XDI」はキシリレンジイソシアネートをそれぞれ意味する。
【0060】
<粘着剤層及び粘着フィルムの製造>
実施例1~6及び比較例1~7の粘着剤組成物を、それぞれ離型フィルム(シリコーン樹脂コートされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)の表面に塗布した。塗布後に90℃で乾燥することによって溶剤を除去した後、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間エージングした。これにより、粘着剤組成物を架橋してなる厚さが25μmの粘着剤層を、離型フィルムの片面上に有する、実施例1~6及び比較例1~7の粘着フィルムを得た。
【0061】
<試験方法及び評価>
実施例1~6及び比較例1~7の粘着フィルムから、離型フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)を剥がして、粘着剤層を表出させた。
【0062】
<水蒸気透過率の測定方法>
厚さを25μmとした粘着剤層の水蒸気透過率〔g/(m2・day)〕は、JIS K7129のB法に準拠した赤外線センサ法により、株式会社日立ハイテクサイエンスのMOCON(登録商標)水蒸気透過率測定装置 PERMATRAN-W(登録商標)3/34Gを使用し、32℃×90%RH雰囲気下において24hに透過した水蒸気の量(g)から面積1m2当たりに換算して測定した。測定値が900g/(m2・day)以上となる場合は、測定装置の測定上限界値に達するため、測定値を特定せずに「900g/(m2・day)以上」とした。
【0063】
<粘着力の測定方法>
厚みが50μmのポリエステルフィルムの基材の片面に、厚さを25μmとした粘着剤層を転写して、試料となる粘着フィルム(粘着剤層付き光学フィルム)を得た。得られた粘着フィルムを、厚みが2mmの高密度ポリエチレン樹脂の表面に圧着ロールで貼り合せて、50℃、0.5MPa×20分間の条件でオートクレーブ処理した後、23℃×50%RHの雰囲気下に戻し、1時間経過させた。前記高密度ポリエチレン樹脂の表面から粘着フィルムを剥離するときの粘着力を測定する方法として、引張試験機によって、JIS Z0237(粘着テープ・粘着シート試験方法)に準拠して、粘着フィルムの剥離強度を測定し、180°方向に300mm/minの速度で剥離した時の剥離強度を、粘着フィルムの粘着剤層の粘着力(N/25mm)とした。
【0064】
<全光線透過率の測定方法>
厚さを25μmとした粘着剤層について、日本電色工業株式会社製ヘーズメーター(商品名:NDH4000)を使用して、JIS K7361-1(プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法)に準拠して、粘着剤層の全光線透過率(%)を測定した。
【0065】
<ヘイズ値の測定方法>
厚さを25μmとした粘着剤層について、日本電色工業株式会社製ヘーズメーター(商品名:NDH4000)を使用して、JIS K7136(プラスチック-透明材料のヘーズの求め方)に準拠して、粘着剤層のヘイズ値(%)を測定した。
【0066】
表2に、粘着剤層の評価に係わる測定結果を示す。さらに表2には、アクリル系ポリマーの重量平均分子量及びSP値を、それぞれ「ポリマー分子量」及び「ポリマーSP値」の欄に示した。
【0067】
【0068】
表2の試験結果によると、本発明の実施例1~6の粘着フィルムは、厚さを25μmとした粘着剤層の水蒸気透過率が、JIS K7129に準拠した赤外線センサ法を用いて測定したとき、32℃×90%RH雰囲気下において100g/(m2・day)以下であり、粘着剤層の水蒸気バリア性に優れている。
また、本発明の実施例1~6の粘着フィルムは、厚みを25μmとした粘着剤層を、厚みが50μmのポリエステルフィルムの基材の片面に積層した粘着フィルムとし、JIS Z0237に準拠して前記粘着剤層の粘着力を測定したとき、高密度ポリエチレン樹脂に対する、前記粘着剤層の粘着力が10N/25mm以上であり、粘着剤層の粘着力に優れている。
また、本発明の実施例1~6の粘着フィルムは、厚さを25μmとした粘着剤層の全光線透過率が90%以上、且つヘイズ値が1.0%以下であり、粘着剤層の透明性に優れている。
すなわち、本発明の実施例1~6の粘着フィルムによれば、本発明の課題を解決することができている。
【0069】
また、本発明の比較例1~3の粘着フィルムは、アクリル系ポリマーが、アルキル基の炭素数が8、又は4のアルキル(メタ)アクリレートを主成分としているため、水蒸気透過率が高く、水蒸気バリア性に劣っている。また、本発明の比較例1~3の粘着フィルムは、高密度ポリエチレン樹脂に対する粘着力が低かった。
【0070】
また、本発明の比較例4及び6の粘着フィルムは、アクリル系ポリマーが、水酸基を含有する(メタ)アクリレートを含有せず、カルボキシ基を含有するビニルモノマーを含有しているため、水蒸気透過率が高く、水蒸気バリア性に劣っている。また、本発明の比較例4及び6の粘着フィルムは、高密度ポリエチレン樹脂に対する粘着力が低かった。
【0071】
また、本発明の比較例5及び7の粘着フィルムは、アクリル系ポリマーを架橋する架橋剤が過多であるため、アクリル系ポリマーの架橋点が偏在して、アクリル系ポリマーの網目構造に隙間が多くなっていることが原因と考えられるが、粘着剤層の水蒸気透過率が高く、水蒸気バリア性に劣っている。また、高密度ポリエチレン樹脂に対する粘着力が低い。また、本発明の比較例5及び7の粘着フィルムは、前記のアクリル系ポリマーの架橋点が偏在していることが原因と考えられるが、粘着剤層のヘイズ値が高く、全光線透過率が低かった。
なお、本発明の比較例5の粘着フィルムは、本発明の比較例5のアクリル系ポリマーが、モノマー組成、重量平均分子量及びSP値の点で、本発明の実施例1のアクリル系ポリマーと同一であり、いずれも架橋剤として3官能以上のイソシアネート化合物を用いて架橋したものであるが、実施例1及び比較例5の粘着フィルムでは、架橋剤の含有量の差異のみにより、両者の測定結果に顕著な差異が示された。