IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許74221245-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸及びL-バリンエチルエステルの結晶性塩
<>
  • 特許-5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸及びL-バリンエチルエステルの結晶性塩 図1
  • 特許-5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸及びL-バリンエチルエステルの結晶性塩 図2
  • 特許-5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸及びL-バリンエチルエステルの結晶性塩 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸及びL-バリンエチルエステルの結晶性塩
(51)【国際特許分類】
   C07D 475/04 20060101AFI20240118BHJP
   C07C 229/08 20060101ALI20240118BHJP
   C07C 227/42 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C07D475/04
C07C229/08 CSP
C07C227/42
A61K31/519
A61P7/00
A61P7/06
A61P9/00
A61P19/10
A61P25/00
A61P25/24
A61P25/28
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021500142
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019067703
(87)【国際公開番号】W WO2020007841
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】18182281.8
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】モーザー、 ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】グレーン、 ヴィオーラ
(72)【発明者】
【氏名】ベーニ シュタム、 ルース
(72)【発明者】
【氏名】ブラッター、 フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】シエラギエヴィッチ、 マルティン
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-327680(JP,A)
【文献】特表2015-506941(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0207925(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07C
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルを含む結晶塩であって、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルとのモル比が1:0.3~1:3.0(モル/モル)である結晶塩、および/またはその水和物および/またはその溶媒和物。
【請求項2】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸と-バリンエチルエステルとのモル比が、1:0.5~1:2.5(モル/モル)である請求項に記載の結晶塩、および/またはその水和物および/またはその溶媒和物。
【請求項3】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸と-バリンエチルエステルのモル比が、1:0.75~1:1.25(モル/モル)である請求項1または2に記載の結晶塩、および/またはその水和物および/またはその溶媒和物。
【請求項4】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸と-バリンエチルエステルのモル比が、1:1(モル/モル)である請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶塩、および/またはその水和物および/またはその溶媒和物。
【請求項5】
前記塩が、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルの塩であり、5.8、6.9、14.0、19.0、19.3、22.2および25.9に位置するピークから選択される少なくともつの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態A)、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項6】
前記塩が、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの塩であり、5.8、6.9、14.0、19.0、19.3、22.2および25.9に特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態A)、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項7】
前記塩が、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルの塩であり、5.8、6.9、12.6、14.0、14.9、17.5、18.0、19.0、19.3、20.0、22.2および25.9に位置するピークから選択される少なくともつの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態A)、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項8】
前記塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルの塩であり、図1に示されるようなPXRDパターンを有する(形態A)、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶塩。
【化1】
【請求項9】
前記塩が、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルの塩であり、4.9、7.4、8.5、14.1、15.8、16.3、17.2、18.6、22.2および24.5に少なくとも1つの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態B)、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項10】
前記塩が、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの塩であり、4.9、7.4、8.5、14.1、15.8、16.3、17.2、18.6、22.2および24.5にピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態B)、ことを特徴とする請求項1~4および9のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項11】
前記塩が、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルの塩であり、4.9、7.4、8.5、14.1、15.8、17.2、18.4、18.6、20.3、20.9、21.、22.2、24.5および25.7に少なくともつの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態B)、ことを特徴とする請求項1~4、9および10のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項12】
前記塩が、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの塩であり、図2に示されるようなPXRDパターンを有する(形態B)、ことを特徴とする請求項1~4および9~11のいずれか1項に記載の結晶塩。
【化2】
【請求項13】
少なくとも99重量%以上の化学的および/または立体異性的純度を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項14】
5-メチル-(6S)テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶塩を製造する方法であって、以下の工程、
i)5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸と-バリンエチルエステルの混合物を、任意選択で適な溶媒または溶媒の混合物中で、準備する工程、
ii)塩基を、任意選択で適切な溶媒または溶媒の混合物中で、添加して化合物を溶解させる工程、
iii)組成物を少なくとも60℃に加熱し、任意選択で清澄濾過を行う工程、
iv)混合物を結晶化させ、1℃~30℃の間の温度に冷却し、任意選択でより多くの溶媒または溶媒の混合物を添加する工程、
v)得られた固体物質を単離し、任意選択で生成物を乾燥させる工程、
を含む方法。
【請求項15】
工程iにおける5-メチル-(6S)テトラヒドロ葉酸と-バリンエチルエステルとのモル比が1:1~1:3の範囲であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒が水であることを特徴とする、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
工程iii)および/またはiv)において種結晶が添加されることを特徴とする請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記L-バリンエチルエステルとしてL-バリンエチルエステル塩酸塩を使用することを特徴とする請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか1項に記載の5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルを含む結晶塩、ならびに任意選択で1以上の許容可能な賦形剤を含む、医薬組成物、食品添加物および/または製剤。
【請求項20】
錠剤、カプセル、経口液体製剤、粉末、凍結乾燥物、顆粒、ロゼンジ、再構成可能な粉末、注射可能または注入可能な溶液または懸濁液または坐剤の形態である請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
少なくとも1つの追加の治療薬をさらに含む、請求項19または20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
経口、非経口、筋肉内、脊髄内、髄腔内、歯周、局所または直腸投与の医薬組成物である請求項19~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
請求項1~13のいずれか1項に記載の5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルを含む結晶塩の、薬物の製造のための成分としての、および/または食品添加物としての使用。
【請求項24】
貧血、神経管欠損、心血管疾患、うつ病、認知障害、アルツハイマー病および骨粗鬆症のホモシステイン低下の治療に使用するための、および/または低血漿および/または低赤血球および/または低脳脊髄液および/または低末梢もしくは中枢神経系葉酸の食事管理に使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸および-バリンエチルエステルを含む結晶塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩であって、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルとのモル比が1:0.3~1:3.0(モル/モル)および/またはその水和物および/またはその溶媒和物である結晶塩に関する。以下、「結晶塩」との記載は「結晶性塩」と読み替えるものとする。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロ葉酸塩は、主に5-ホルミルテトラヒドロ葉酸(ロイコボリンおよびロボロイコボリン)のカルシウム塩として、5-メチルテトラヒドロ葉酸(メタフォリン(登録商標))のカルシウム塩として、または5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(モデュフォリン(登録商標))の硫酸塩として使用される。最も突出した使用分野は、巨赤芽球性葉酸貧血の治療のために、葉酸アンタゴニスト、特に癌治療におけるアミノプテリンおよびメトトレキセートの適合性を増加させるための解毒剤として(「葉酸拮抗剤レスキュー」)、フッ化ピリミジンの治療効果を増加させるために、および乾癬および関節リウマチのような自己免疫疾患の治療のために、例えばトリメトプリム-スルファメトキサゾールのような突然変異に対するある種の駆虫剤の適合性を増加させるために、および化学療法におけるジデアザテトラヒドロ葉酸の毒性を減少させるために、使用される。
【0003】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸のカルシウム塩は特に、薬物として、および食品添加物として、ビタミン調剤として、神経管欠損の予防のために、うつ病の治療のために、およびホモシステインレベルに影響を及ぼすために使用される。
【0004】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびその塩は、極めて不安定であることが知られている。特に、それらは、酸化に対して非常に敏感であり(この点に関して、A. L. Fitzhugh、Pteridines 4(4),187-191(1993)も参照のこと)、したがって、医薬活性成分または食品添加物に許容される純度レベルで製造することが困難である。
【0005】
5-メチルテトラヒドロ葉酸およびその塩の不安定性を克服するために、酸素をできるだけ完全に排除する、またはアスコルビン酸もしくは還元L-グルタチオンなどの酸化防止剤を添加するなどの様々な方法が使用されてきた。
【0006】
米国特許第6,441,168号は、5-メチルテトラヒドロ葉酸のアルカリ土類塩、特にカルシウム塩、その結晶化およびその使用を開示している。5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸のこのような結晶性カルシウム塩の欠点は、それが4つまでの多形変異の結晶形態で存在することである。従って、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸の結晶性カルシウム塩の製造方法は、非常に正確に制御されなければならない。さらに、米国特許第6,441,168号の5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸の結晶性カルシウム塩は、典型的には結晶格子中に、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸1当量当たり少なくとも1当量であるが4当量までの水をそのすべての多形形態で含有する。
【0007】
US 2,016,207,925 A1は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸と共にL-アスパラギンまたはL-アルギニンを含む噴霧乾燥または沸騰組成物を特許請求している。しかしながら、開示された組成物は単純な非化学量論的混合物であり、非晶質状態で存在する。
【0008】
薬学的に有用な化合物の新しい結晶形態は、薬学的および/またはビタミン/医学的食品の性能プロフィールを改善する機会を提供する。それは、製剤科学者が改善された特性を有する新しい投薬形態を設計するために利用可能な材料の蓄積を広げる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の根底にある技術的課題は、当該技術分野で知られている5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸の結晶性カルシウム塩の欠点を克服する、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸を含む結晶形態の提供である。
【0010】
さらに、新しい結晶形態はしばしば、所望の異なる物理的性質および/または生物学的特性を示し、これは、規制の承認に必要とされる純度レベルおよび均一性まで、活性化合物の製造または処方を補助し得る。
【0011】
テトラヒドロ葉酸塩の安定性のために、貯蔵時に低い吸水性を有し、製造中に十分に乾燥させることができる化合物を提供することが常に目標である。加えて、周囲条件下で多量の水を吸収しない薬剤物質が非常に望まれている。特に、環境の相対湿度の変化による含水量の大きな変化が剤形に関して高い精度を達成することをより困難にするため、環境の相対湿度が変化したときに含水量を変化させない物質が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含み、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルとのモル比が1:0.3~1:3.0(モル/モル)である結晶塩、および/またはその水和物および/またはその溶媒和物に関する。
【0013】
この技術的課題は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩であって、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルとのモル比が1:0.3~1:3.0(モル/モル)および/またはその水和物および/またはその溶媒和物である結晶塩によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩1:1(形態A)の粉末X線回折パターンを示す図である。
図2】5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸塩およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩1:1(形態B)の粉末X線回折パターンを示す図である。垂直矢印は、カプトン箔からの反射を示す。
図3】5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩の動的水蒸気収着結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固体形態は改善された薬理学的特徴を有し、したがって、改善された薬物生成物を調節および設計するための強化された可能性を提供する。当該技術分野で知られている5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸のカルシウム塩の結晶性多形形態と比較して、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩の水吸着は、有意に低く、変化する相対湿度条件下での吸着水の量の変化は有意にそれほど顕著ではないため、製剤中の標的剤形レベルに対する実質的に改善された制御をもたらす。
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩の別の有利な態様は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸の高い化学的および光学的純度が1回の結晶化工程で達成され得ることである。
【0016】
薬物が経口投与される場合、高い速度論的溶解度を有し、改善された、そしてより速いバイオアベイラビリティーをもたらす場合、有利である。その結果、薬剤は、より容易に機能することができる。
【0017】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸は水にほとんど溶けない。カルシウム塩(形態III)の熱力学的に安定な形態は約2.5mg/mlの水溶解度を示すことが知られており、準安定形態Iの溶解度は、室温で約10mg/mlである。特定のpH条件下、特に環境のpHが所与の塩の平衡pHより低い場合、塩は潜在的に遊離酸に不均化し、その結果、溶解度は実質的に低下する。したがって、中性~低いpH値での特許請求された塩の熱力学的溶解度は塩の不均化が遅い(難溶性遊離酸の形成)ために、アクセスできない。しかしながら、バイオアベイラビリティーは、速度論的効果によって支配される。固形の製剤を投与した後、溶解し、最初の溶解工程の後、薬物を体液で希釈し、分配する。したがって、最初に溶解した原薬は容易に希釈され輸送されるため、速度論的溶解度はバイオアベイラビリティーに影響を及ぼす重要なパラメータである。5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンの塩については、驚くべきことに、既知のカルシウム塩(準安定形態I)に対して、速度論的溶解度が約50%改善されることが見出された。カルシウム塩の熱力学的に安定な形態(形態III)に対する本発明の塩の速度論的溶解度の差は、おそらくさらに大きいであろう。したがって、一時的にはるかに高い原薬濃度を達成することができる。
【0018】
好ましくは、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルのモル比が1:0.5~1:2.5(モル/モル)である。
【0019】
さらにより好ましくは、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルのモル比が1:0.75~1:1.25(モル/モル)である。
【0020】
最も好ましくは、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルの比が約1:1(モル/モル)および/またはその水和物および/またはその溶媒和物である。
【0021】
好ましくは、本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、5.8、6.9、14.0、19.0、19.3、22.2および25.9(形態A)に位置するピークから選択される少なくとも1つの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する。
【0022】
より好ましくは、本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、5.8、6.9、14.0、19.0、19.3、22.2および25.9(形態A)に位置するピークから選択される少なくとも3つの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有し、さらにより好ましくは本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、5.8、6.9、14.0、19.0、19.3、22.2および25.9(形態A)に特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する。
【0023】
さらにより好ましくは、本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、5.8、6.9、12.6、14.0、14.9、17.5、18.0、19.0、19.3、20.0、22.2および25.9に位置する以下のピークから選択される少なくとも1つの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態A)。
【0024】
最も好ましくは、本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、実質的に図1に示されるようなPXRDパターンを有する(形態A)。
【0025】
好ましくは、本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、4.9、7.4、8.5、14.1、15.8、16.3、17.2、18.6、22.2および24.5に位置するピークから選択される少なくとも1つの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態B)。
【0026】
より好ましくは本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、4.9、7.4、8.5、14.1、15.8、16.3、17.2、18.6、22.2および24.5に位置するピークから選択される少なくとも3つの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有し、より好ましくは本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、4.9、7.4、8.5、14.1、15.8、16.3、17.2、18.6、22.2および24.5(形態B)にピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有する(形態B)。
【0027】
さらにより好ましくは、本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、4.9、7.4、8.5、14.1、15.8、17.2、18.4、18.6、18.6、20.3、20.9、21.1、22.2、24.5および25.7に位置するピークから選択される少なくとも1つの特徴的なピーク(2θ±0.2°2θ(CuKα放射線)で表したとき)を有するPXRDパターンを有し(形態B)、最も好ましくは本発明の塩が5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩であり、実質的に図2に示されるようなPXRDパターンを有する(形態B)。
【0028】
さらにより好ましくは、前述の結晶塩が、少なくとも99重量%以上の化学的および/または立体異性的純度を有する。
【0029】
本発明のさらなる側面は、5-メチル-(6S)テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩を製造する方法であり、以下の工程、
i) 5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸とL-バリンエチルエステルの混合物を、任意選択で適当な溶媒または溶媒の混合物中で、準備する工程、
ii) 塩基を、任意選択で適切な溶媒または溶媒の混合物中で、添加して化合物を溶解させる工程、
iii) 組成物を少なくとも60℃に加熱し、任意選択で清澄濾過を行う工程、
iv) 混合物を結晶化させ、1℃~30℃の間の温度に冷却し、任意選択でより多くの溶媒または溶媒の混合物を添加する工程、
v) 得られた固体物質を単離し、任意選択で生成物を乾燥させる工程、
を含む方法である。
【0030】
好ましくは、工程i)における5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステル塩酸塩のモル比は1:1~1:3の範囲である。
【0031】
より好ましくは、溶媒は水である。
【0032】
工程iii)および/またはiv)において、種結晶を添加してもよい。
【0033】
好ましくは、L-バリンエチルエステルは、L-バリンエチルエステル塩酸塩として使用される。
【0034】
また、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩、および任意選択で1以上の許容される賦形剤を含む、医薬組成物、食品添加物および/または調製物は、本発明の一部である。
【0035】
医薬組成物は、錠剤、カプセル、経口液体調製物、粉末、凍結乾燥物、顆粒、ロゼンジ、再構成可能な粉末、注射可能または注入可能な溶液または懸濁液または坐剤の形態であり得る。
【0036】
医薬組成物は少なくとも1つの追加の治療薬をさらに含んでもよく、好ましくは経口、非経口、筋肉内、脊髄内、髄腔内、歯周、局所または直腸投与の医薬組成物である。
【0037】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩を、薬物の製造のための成分として、および/または食品添加物として使用することもまた、本発明に包含される。
【0038】
5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルを含む結晶塩は、貧血、神経管欠損、心血管疾患、うつ病、認知障害、アルツハイマー病および骨粗鬆症のホモシステイン低下、ならびに/または低血漿および/または低赤血球および/または低脳脊髄液および/または低末梢もしくは中枢神経系葉酸の食事管理に使用することができる。
【0039】
要約すると、本発明の5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩によって提供される特性のプロフィールは、薬剤または食品添加物としての使用に有利である。特に、20%~75%の相対湿度の環境における水分含量の低い変化は、当業者によっては予見することができなかった。
【0040】
さらに、速度論的溶解度はより大きく、これはまた、当業者によって予想され得なかった。
【実施例
【0041】
粉末X線回折
Mythen1K検出器を備えたStoe Stadi P;Cu-Kα1放射線;標準測定条件:伝送; 40 kVおよび40mA管出力;湾曲Geモノクロメーター;0.02°2θステップサイズ、48秒ステップ時間、1.5~50.5°2θ走査範囲;検出器モ-ド:ステップ走査;1°2θ検出器ステップ;標準試料調製:10~20mg試料を2つのアセテートフォイルの間に置く;試料ホルダー: Stoe透過試料ホルダー;測定中に試料を回転させた。全ての試料の調製および測定は、周囲空気雰囲気中で行った。
【0042】
TG-FTIR
熱重量測定は、Bruker FTIR分光計ベクタ-22(ピンホールを有する試料パン、N大気、熱速度10 K/分)に連結したNetzsch Thermo-Microbalance TG 209を用いて行った。
DVS
DVS測定は、代表的には、ProUmid(以前の"Projekt Messtechnik")、August-Nagel-Str.23, 89079 Ulm (ドイツ)製のSPS11-100n "Sorptions Prufsystem"を用いて実施した。
DVS測定は以下のように行った:試料を微量天秤の上のアルミニウムホルダー上に置き、所定の湿度プログラムを開始する前に50% RHで平衡化させた:
(1) 50%一定相対湿度(RH)に2時間保ち、次いで、
(2) 毎時5%の割合でRHを95%に上げ、
(3) RHを95%に5時間維持し、
(4) 毎時5%の割合でRHを0%に低減し、
(5) RHを0%に5時間維持し、
(6) 毎時5%の割合でRHを95%に上げ、
(7) RHを95%に5時間維持し、
(8) 毎時5%の割合でRHを0%に低減し、
(9) RHを0%に5時間維持し、
(10) 毎時5%の割合でRHを50%まで上げ、
(11) RHを50%に約1時間維持した。
【0043】
実施例1:5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリン-エチルエステルの塩のシーディングなしの調製
478mgの5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸一水和物を室温で2.00mLの1.00モル水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、546mgのL-バリンエチルエステル塩酸塩を添加した。溶液を室温で約20分間撹拌し、0.300mLの1.00モル塩酸水溶液を添加した。撹拌しながら、溶液は徐々に濃厚な懸濁液に変化した。1.00mLの水を加え、懸濁液を超音波処理した。追加の0.300mLの1モル塩酸水溶液を添加し、懸濁液を再び超音波処理した。懸濁液を室温で約70分間撹拌し、周囲条件下での遠心濾過によって固体物質を分離した。0.5mLの水を、濾過遠心分離装置中の湿った固体材料に添加し、遠心分離を繰り返した。この洗浄工程を、それぞれ0.50mLおよび1.00mLの水を用いてさらに2回繰り返した。湿った濾過ケーキをフリットガラス濾過に移し、周囲空気(約22℃/約34% r.h.)をガラス濾過に通して約20分間引くことによって空気乾燥させた。乾燥した物質をH-NMRで調べ、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸・L-バリンエチルエステル1:1塩として同定した。TG-FTIRによるサンプルの分析は、約0.5%の含水率を示した。粉末X線回折を実施し、実質的に図1に示すようなL-バリンエチルエステル塩の形態AのPXRDパターンを得た。
【0044】
実施例2:5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの塩の真空乾燥
実施例1による結晶性材料約112mgを室温および約10mbarで約1時間真空乾燥し、続いて周囲空気を用いて換気した(約22℃/約23%r.h.)。TG-FTIRによるサンプルの分析は、約0.3%の含水率を示した。
【0045】
サンプルのアリコートを、室温および約25%相対湿度でPXRDのための2つのアセテート箔の間に調製する。粉末X線回折を行い、図1に示すように、L-バリンエチルエステル塩形態AのPXRDパターンを得たが、これは表1に列挙した2θ角でピークを示した。
【0046】
【表1-1】
【0047】
【表1-2】
【0048】
実施例3:5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの塩の水和物形成
実施例1に従って製造した結晶性材料約100mgを室温および75%相対湿度で14日間貯蔵した。試料のアリコートを、室温および約55%相対湿度で2つのカプトン箔の間でPXRDのために調製した。粉末X線回折を実施し、図2に示すように、L-バリンエチルエステル塩の形態BのPXRDパターンを得たが、これは表2に列挙した2θ角でピークを示した。
【0049】
【表2-1】
【0050】
【表2-2】
【0051】
実施例4:5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリン-エチルエステルの塩の調製
4.78gの5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸一水和物(分析94.6%、(6S)-含有量97.6%)を室温で20.0mLの1.0モル水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。5.47gのL-バリンエチルエステル塩酸塩を添加した。この溶液に、1.0モルの塩酸水溶液3.0mLを加えた。撹拌しながら、溶液は徐々に軽い懸濁液に変化した。さらに2.0mLの1.0モルの塩酸水溶液を0.5mLずつ添加した。実施例1で得られたように、軽い懸濁液に結晶を播種した。さらに1.0モルの塩酸水溶液1.0mLを加えた。固体物質を濾過により分離し、3.0mLの水で洗浄した。受け取った固体を36℃/0~10mbarで乾燥した。乾燥した物質(2.61g、43%修正分析収率に相当)をPXRDおよびHPLCによって調べた。5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸の分析は74.8%w/wであった。ほぼ図1に示すような粉末X線回折パターン(形態A)が得られた。HPLCは99.9%の(6S)-含有量を示した。
実施例5:吸湿性および含水量(DVS実験)
実施例2による5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの塩21mgを、DVS測定のためにアルミニウムサンプルパンに秤量した。DVS測定は、ProUmid、August-Nagel-Str. 23, 89079 Ulm (ドイツ)製のSPS11-100n「Sorptions Prufsystem」を用いて行った。相対湿度(RH)スキャンでは、1時間当たり5%の変化率を使用した。試料パンを装置に入れ、以下の工程に従って、規定の相対湿度変化プログラムを開始した:
(1) RHを50%で2時間維持し、次いで
(2) 毎時5%の速度でRHを50 →0%へ走査し、RHを0%で5時間維持し、次いで
(3) 毎時5%の速度でRHを0→75%へ走査し、RHを5時間75%に維持し、次いで
(4) 毎時5%の速度でRHを75→0%へ走査し、RHを0%で5時間維持し、次いで
(5) 毎時5%の速度でRHを0→75%へ走査し、RHを5時間75%に維持し、次いで
(6) 毎時5%の速度でRHを75→0%へ走査し、RHを0%で2時間維持する。
【0052】
これと並行して、対照としてカルシウム塩のサンプルに全く同じプロトコールを適用し、その結果を図3に示す。相対湿度0~55%の範囲内で、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの塩(実線)の相対サンプル質量は1%未満しか変化しないが、カルシウム塩(破線)の相対サンプル質量は約6%変化した。
【0053】
実施例6:5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸およびL-バリンエチルエステルの結晶塩の速度論的溶解度
実施例2による結晶性5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸L-バリンエチルエステル塩(形態A)の無水形態42.5mgを、スクリューキャップ付きの7mLガラスバイアル中に秤量した。2.00mLの精製/脱イオン水(例えば、ガスクロマトグラフィー用水)を、調整可能な容量ピペットを用いて固体に添加した。混合物を室温で1分間激しく撹拌した。1分後、希釈懸濁液が観察され、試料の大部分が溶解したことが示唆された。希釈懸濁液を遠心濾過によって濾過し、水溶液1.50mLを風袋を量ったガラスバイアル(約10mL容量)に移した。水を空気乾燥機中で40℃で約15時間、次いで50℃で約8時間蒸発させ、続いて50℃で真空下(10~20mbar)で約13時間乾燥を完了させた。溶解度は、固体残渣の重量評価によって決定した。溶解度は、1mL当たり12.5mgの5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸であった。
参考例1:5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸のカルシウム塩の速度論的溶解度
無水形態の結晶性5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸カルシウム塩42.5mgを、スクリューキャップ付きの7mLガラスバイアル中に秤量した。2.00mLの精製/脱イオン水(例えば、ガスクロマトグラフィー用水)を、調整可能な容量ピペットを用いて固体に添加した。混合物を室温で1分間激しく撹拌した。1分後、懸濁液が観察された。懸濁液を遠心濾過によって濾過し、1.50mLの水溶液を風袋を量ったガラスバイアル(約10mL容量)に移した。水を空気乾燥機中で40℃で約15時間、次いで50℃で約8時間蒸発させ、続いて50℃で真空下(10~20mbar)で約13時間乾燥を完了させた。溶解度は、固体残渣の重量評価によって決定した。溶解度は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸9.0mg/mLであった。
図1
図2
図3