(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】リハビリ用起立補助具
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20240119BHJP
A61H 3/00 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
A61H1/02 N
A61H3/00 B
(21)【出願番号】P 2020100530
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 宜彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 建介
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-204485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
A61H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータを用いない下肢装着型の起立補助具であって、
ユーザが膝関節を曲げた座位から上半身を前傾させ、膝を前方に押し出した際に、下腿前側を上斜め後方に支持し始め、膝関節を伸展して立ち上がるまで、前記支持を継続し得るリンク機構を備え
、
前記リンク機構は、
足底面と左右の足側面とで形成されるベース部と、
前記ベース部の左右の足側面の後方に回動軸を有し回動自在に固定される部位であって、膝を前方に押し出した際に、下腿前側を上斜め後方に支持する下腿前側支持部と、
前記ベース部の左右の足側面に支軸を有し、足首前側に位置し左右を連結するアーチ部を有する足側面リンク部と、
前記下腿前側支持部に設けられた上下に延びる長孔に嵌合し該長孔の長手方向に摺動する摺動部が一端に設けられ、前記摺動部が前記長孔の上端部に当接することで前記下腿前側支持部の回動が止まり、他端が前記足側面リンク部の前記支軸の前方に位置するアーチ部に回動自在に固定され、下腿側面に沿って伸び、下腿の前傾及び立位に追従して前傾及び立位に変位する下腿前方リンク部と、
前記支軸の後方に位置する前記足側面リンク部の後方端部と回動自在に連結する継手部を下端に有し、下腿側面に沿って伸びる左右一対の下腿側方リンク部と、
前記ベース部の左右の足側面の後方端部に固定され、前記支軸を中心として前記継手部を上下に円弧状に回動させ、前記下腿側方リンク部の下端の上下動作を導く左右一対のガイド部と、
前記下腿側方リンク部の上端部に回動軸を有し回動自在に連結され、大腿後側を支持する大腿後側支持部、
を備えたことを特徴とする起立補助具。
【請求項2】
左右の前記下腿側方リンク部
と前記大腿後側支持部の回動可動域に制限が設けられ、
最小開き角が固定される
屈曲リミッタ機構を備え
、
膝を前方に押し出した際に、大腿後側を上方に支持し臀部の離床を補助することを特徴とする請求項
1に記載の起立補助具。
【請求項3】
膝関節の屈曲から伸展に伴う前記下腿側方リンク部の前傾から立位の変位により前記下腿側方リンク部の下端が上から下へ変位し、梃子により前記下腿前側支持部が前傾から立位に変位する機構を備え、
膝関節の
前記伸展中
に下腿前側を上斜め後方への支持の継続により、下腿を起こし足関節の動きを誘導し得ることを特徴とする請求項1
又は2に記載の起立補助具。
【請求項4】
前記下腿前側支持部は、前記ベース部の左右の足側面の回動軸による回転を垂直方向から前方に所定角度の範囲内に制限する
前傾リミッタ機構を備え、
前記下腿前方リンク部の摺動部が、前記長孔の上端部に当接したときに、前方に上限角度に到達することを特徴とする請求項
1又は2に記載の起立補助具。
【請求項5】
前記ベース部の足底面と左右の足側面と、前記足側面リンク部のアーチ部とで囲まれる開口空間が、シューズを履いた状態でトウ側から挿入し装着できる大きさであることを特徴とする請求項
1~4の何れかに記載の起立補助具。
【請求項6】
前記大腿後側支持部は、その長手方向が水平方向に延びる位置から前記下腿側方リンク部の長手方向に延びる位置まで、前記下腿側方リンク部の上端部の回動軸で回動することを特徴とする請求項
2に記載の起立補助具。
【請求項7】
前記大腿後側支持部は、ガススプリングを介して前記下腿側方リンク部と連結され、
前記下腿側方リンク部との最小開き角を固定する前記屈曲リミッタ機構とこれを補助するガススプリングの反力により膝折れの制動を行うことを特徴とする請求項
2又は6に記載の起立補助具。
【請求項8】
前記大腿後側支持部は、大腿前側に位置し左右を連結する面ファスナを備えることを特徴とする請求項
2,6,7の何れかに記載の起立補助具。
【請求項9】
前記下腿前側支持部は、下腿後側に位置し左右を連結する面ファスナを備えることを特徴とする請求項
1~8の何れかに記載の起立補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳卒中片麻痺等の脳血管疾患の後遺症、転倒による下肢骨折、廃用症候群(いわゆる不活動による筋力低下)等の起立動作において患側下肢を使用しないことを学習してしまうような症状を来す疾患により起立動作に支障が生じた患者を対象ユーザとして、発症して間もない頃から後遺症が残った後まで適用可能な下肢装着型の起立補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、日本は高齢者社会となっており、数10年先には要介護高齢者の増加が見込まれる。高齢者などの要介護の原因には、脳梗塞など脳血管疾患の後遺症による麻痺や転倒による骨折などの障害が挙げられる。このような疾患や障害を現病歴または既往歴に有する高齢者などは、左右一側の身体機能が低下し、前額面における動作の左右非対称が現れる。
動作の左右非対称が現れると、歩行動作が不安定になるだけでなく、椅子から立ち上がる際の起立動作も不安定となる。起立動作を補助する補助具の内、下肢装着型の補助具がある。
【0003】
起立動作を補助する従来の下肢装着型補助具は、モータ等の動力源を用いたアクチュエータを構成要素として有し、膝関節等の動きに対してトルク補助を行うタイプが殆どである(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1に開示された装着型動作支援装置は、しゃがんだ状態から立ち上がる動作を補助することができるが、左右一対の大腿フレームと下腿フレームとを連結して回転駆動するための膝駆動装置が、電動モータを用いて構成され、膝関節等の動きに対して補助を行うものである。
このように、膝関節等の動きに対してモータ駆動で補助を行うタイプでは、各ユーザに適した駆動制御の調整に時間を要する点や、補助具に依存した起立姿勢から自立した起立姿勢を獲得するために時間を要する点や、補助具の重量が大きく、またコストが高いといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の下肢装着型補助具とは異なり、モータ等の動力源を用いることなく、また、調整時間や重量面とコスト面に優れた起立補助具が要望されている。また、ユーザの疾患側の脚力を極力活用するように起立動作を補助することにより、脚力の維持・増強が図れる起立補助具が必要とされている。
【0006】
かかる状況に鑑みて、本発明は、脳血管疾患の後遺症による麻痺や転倒による骨折等により起立動作機能が低下した側の下肢の関節運動を補助し、起立動作の左右対称化に向けたリハビリに使用でき、ユーザの疾患側の脚力を活用して、起立動作時の体の重心位置が左右に揺れることなく正しい姿勢で起立させる、アクチュレータレスの下肢装着型の起立補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の起立補助具は、アクチュエータを用いない下肢装着型の起立補助具であり、ユーザ(補助具を装着する者)が膝関節を曲げた座位から上半身を前傾させ、膝を前方に押し出した際に、下腿前側を上斜め後方に支持し始め、膝関節を伸展して立ち上がるまで、下腿前側を上斜め後方に支持することを継続できるリンク機構を備えることを特徴とする。本発明の起立補助具は、「支持」と「誘導」の2つが起立動作支援のコンセプトとなっており、ある関節の動きが他の関節の動きをも起こすという点が本起立補助具の特徴である。膝関節を伸展して立ち上がるまで、下腿前側を上斜め後方に支持することを継続することにより、下腿を起こし足関節の動きを誘導できる。すなわち、本発明の起立補助具におけるリンク機構が、膝関節を伸展していく間、下腿前側を上斜め後方に支持し続けることで、下腿を起こし足関節の動きを誘導することになる。
ユーザが、疾患側の下肢に本起立補助具を装着することにより、疾患側の脚の筋力を活用して、起立動作時の体の重心位置が左右等に揺れることなく、正しい姿勢で起立させることができる。かかる起立補助具は、椅子に座った状態の膝の屈曲から起立する動作直前の膝下にかかる自身の荷重を、膝が伸展するまで、下腿前側を上斜め後方に支持するリンク機構によって、膝伸展及び下肢直立を補助する。
【0008】
ここで、本発明の起立補助具は、起立動作がある程度可能、すなわち、少しの介助があれば起立できるが、ユーザの下肢の機能低下により、起立動作時の体の重心位置が左右等に揺れて、動作の非対称性が見受けられるユーザを対象とする。本明細書において、「補助」という用語は、その用語から想起されるような「モータ等のアクチュエータによる力の補助」を意味するものではなく、起立動作時の体の重心位置が左右等に揺れず正しい姿勢で起立することをガイドする意味合いで用いている。
【0009】
本発明の起立補助具におけるリンク機構は、具体的には、下記a)~d)を備える。
a)膝を前方に押し出した際に、下腿前側を上斜め後方に支持する下腿前側支持部。
b)下腿側面に沿って伸び、下腿の前傾及び立位に追従して前傾及び立位に変位する下腿側方リンク部。
c)下腿側方リンク部の下端の上下動作を導くガイド部。
d)膝関節の屈曲から伸展に伴う下腿側方リンク部の前傾から立位の変位により下端が上から下へ変位し、梃子により下腿前側支持部が前傾から立位に変位する機構。
【0010】
本発明の起立補助具は、膝を前方に押し出した際に、大腿後側を上方に支持し臀部の離床を補助する機構を更に備えることが好ましい。かかる起立補助具は、起立動作の直前の膝下にかかる自身の荷重を、大腿部持ち上げに変換するリンク機構によって、椅子から起立する際の大腿部持ち上げにより、椅子の着座面からの臀部の離床を補助する。
【0011】
本発明の起立補助具のリンク機構は、更に具体的には、以下の構成1)~6)を備える。
1)足底面と左右の足側面とで形成されるベース部。
2)ベース部の左右の足側面に回動軸を有し回動自在に固定される部位であって、下腿前側を支持する下腿前側支持部。
3)ベース部の左右の足側面に支軸を有し、足首前側に位置し左右を連結するアーチ部を有する足側面リンク部。
4)下腿前側支持部に設けられた上下に延びる長孔に嵌合し該長孔の長手方向に摺動する摺動部が一端に設けられ、他端が足側面リンク部のアーチ部に回動自在に固定される下腿前方リンク部。
5)足側面リンク部の後方端部と回動自在に連結する継手部を下端に有し、下腿側面に沿って伸びる左右一対の下腿側方リンク部。
6)ベース部の左右の足側面の後方端部に固定され、支軸を中心として継手部を上下に円弧状に回動させる左右一対のガイド部。
かかる構成によって、起立動作において膝下にかかる自身の荷重を、下腿前側から上斜め後方にしっかりと支持し、膝関節を伸展して立ち上がるまで、支持を継続することができる。なお、上述のa)の下腿前側支持部、b)の下腿側方リンク部、c)のガイド部は、それぞれ上記2)の下腿前側支持部、5)の左右一対の下腿側方リンク部、6)の左右一対のガイド部に対応する。上述のd)の機構は、上記1),3),4)の要素が加わり実現される。
【0012】
本発明の起立補助具のリンク機構は、左右の下腿側方リンク部の上端部に回動軸を有し回動自在に連結され、大腿後側を支持し得る部位であって、回動可動域に制限が設けられ、下腿側方リンク部との最小開き角が固定される大腿後側支持部を更に備える。
かかる構成によって、起立動作の直前の膝下にかかる自身の荷重を、大腿を持ち上げる力に変換できる。
【0013】
また、本発明の起立補助具における下腿前側支持部は、ベース部の左右の足側面の回動軸による回転を垂直方向から前方に所定角度の範囲内に制限するリミッタ機構を備え、下腿前方リンク部の摺動部が、長孔の上端部に当接したときに、前方に上限角度に到達するように構成される。また、本発明の起立補助具は、ベース部の足底面と左右の足側面と、足側面リンク部のアーチ部とで囲まれる開口空間が、シューズを履いた状態でトウ側から挿入し装着できる大きさであり、装着の利便性が図られる。
【0014】
本発明の起立補助具における大腿後側支持部は、その長手方向が水平方向に延びる位置から下腿側方リンク部の長手方向に延びる位置まで、下腿側方リンク部の上端部の回動軸で回動する。また、大腿後側支持部は、ガススプリングを介して下腿側方リンク部と連結され、ガススプリングの反力により膝折れの制動を行う。
本発明の起立補助具における大腿後側支持部は、大腿前側に位置し左右を連結する面ファスナを備え、下腿前側支持部は、下腿後側に位置し左右を連結する面ファスナを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の起立補助具によれば、起立動作機能が低下した側の下肢の関節運動を補助し、起立動作の左右対称化に向けたリハビリに使用でき、ユーザの疾患側の脚の筋力を活用して、起立動作時の体の重心位置が左右に揺れることなく、正しい姿勢で起立させることができるといった効果がある。なお、本発明の起立補助具は、起立後も歩行リハビリに使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】屈曲リミッタ機構及び伸展リミッタ機構の説明図
【
図4】起立動作の第2相における起立補助具の説明
図1
【
図5】起立動作の第2相における起立補助具の説明
図2
【
図6】起立動作の第3相における起立補助具の説明
図1
【
図7】起立動作の第3相における起立補助具の説明
図2
【
図10】屈曲リミッタ機構の他の実施例(実施例3)
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0018】
本発明の起立補助具の一実施形態について説明する。本発明の起立補助具は、アクチュエータを用いない下肢装着型補助具で、左右一側の身体機能が低下し、前額面における動作の左右非対称が現れたユーザを想定した補助具である。ユーザは、身体機能が低下した側の下肢に装着して使用する。
【0019】
ここで、
図8を参照して、人(ユーザ)の起立動作について説明する。
図8において、(1)はユーザ9が椅子18に着座した状態、(2)はユーザ9の膝が前方に倒れて椅子18の座面から臀部が離床した状態、(3)はユーザ9が上体を起こして膝の伸展が開始された状態、(4)は膝の伸展が終了してユーザ9の起立動作が完了した状態を示している。
図8では、ユーザ9が起立補助具1を装着した状態を示しているが、起立補助具1を装着しない場合でも同様である。
図8に示すように、人が着座した状態から起立動作を行う場合について、本明細書では、運動学的観点から起立動作を第1相~第3相の3つの相に分けて説明する。
【0020】
まず、第1相とは、椅子18に座るユーザ9の上体が前傾し、下腿が前方に倒れて膝を突き出して臀部が離床するまでを指す。すなわち、
図8(1)に示す椅子18に座った状態から、
図8(2)に示すように臀部が離床する直前までを第1相とする。第2相は、臀部が離床した直後から下腿が更に前方に倒れて膝を更に突き出し膝関節が最も屈曲するまでを指す。すなわち、
図8(2)に示す状態から、
図8(3)に示すように、より前傾姿勢となり膝が最大屈曲となり、上体を起こして膝関節の伸展が開始される直前までを第2相とする。そして、第3相とは、膝関節の伸展が開始した直後から起立動作が完了し、下肢が完全に伸展し立位となるまでを指すこととする。すなわち、
図8(3)に示す姿勢から膝関節が伸展し、
図8(4)に示す立位姿勢となるまでを第3相とする。
なお、以下で説明する図において、起立補助具を装着するユーザの前方をZ方向、上方をY方向、ユーザから見て左方向をX方向とする。
【0021】
図1は、実施例1の起立補助具の外観斜視図を示している。
図1に示すように、起立補助具1は、ベース部10、下腿前側支持部2、足側面リンク部3、下腿前方リンク部4、下腿側方リンク部(5a,5b)、ガイド部(6a,6b)及び大腿後側支持部7を備える。ベース部10は、足底面11と左右の足側面(12a,12b)とで形成され、ユーザは、シューズを履いたまま、ベース部10の足底面11が土踏まず辺りに位置するようにシューズのつま先側を踏み入れる。
下腿前側支持部2は、ベース部10の左右の足側面に回動軸を有し回動自在に固定される部位であり、下腿前側(膝下からくるぶしまでの間のスネ)を支持する。
【0022】
足側面リンク部3は、ベース部10の左右の足側面(12a,12b)に支軸(31a,31b)を有し、足首前側に位置し左右を連結するアーチ部32を有する。
下腿前方リンク部4は、一端に摺動部(42a,42b)が設けられ、下腿前側支持部に設けられた上下に延びる左右2つの長孔(41a,41b)に嵌合し該長孔の長手方向に摺動できるように構成されている。また、下腿前方リンク部4の他端は、回転軸33に固定され、足側面リンク部3のアーチ部32に回動自在に固定される。
【0023】
下腿側方リンク部(5a,5b)は、下腿側面に沿って伸び、その下端と、足側面リンク部3の後方端部とは、継手部(51a,51b)により回動自在に連結されている。継手部(51a,51b)は、ベース部10の左右の足側面(12a,12b)の後方端部に固定される左右一対の円弧状の孔のガイド部(6a,6b)により、支軸(31a,31b)を中心とする円弧の軌跡を描きながら上下に回動する。
【0024】
大腿後側支持部7は、大腿後側を支持する部位であり、左右の下腿側方リンク部(5a,5b)の上端部と、回動軸17を介して回動自在に連結される。大腿後側支持部7は、支持ベルト72によって大腿後方を上方に支え、リミッタ機構によってその回動可動域に制限が設けられ、下腿側方リンク部(5a,5b)との最小開き角及び最大開き角が固定されている。なお、反張膝などの人を除いて通常は180°以上に開くことはなく、最大開き角の固定については、ユーザの膝が屈伸した後、更に前方に折れることはないことから、必要に応じてリミッタ機構を設けることで構わない。
【0025】
大腿後側支持部7には、大腿前側で左右を連結する面ファスナ73が設けられ、ユーザが起立補助具1を装着する際は、支持ベルト72と面ファスナ73とによって、大腿の周囲に大腿後側支持部7を固定できる。また、図示しないが、下腿前側支持部2にも、下腿後側で左右を連結する面ファスナが設けられ、ユーザが起立補助具1を装着する際は、下腿前側支持部2と面ファスナとによって、下腿の周囲に下腿前側支持部2を固定できる。
【0026】
ここで、大腿後側支持部7の回動可動域に制限を設けるためのリミッタ機構について説明する。
図2は、屈曲方向への可動域を制限するための屈曲リミッタ機構及び伸展方向への可動域を制限するための伸展リミッタ機構の説明図を示している。
図2に示すように、起立補助具1において、大腿側方リンク部71aは、下腿側方リンク部5aとの接続部である大腿後側支持部7の回動軸17を中心としてθ
K(下腿側方リンク部5aに対し0°≦θ
K≦可動最大角)の回転運動を行う。ここで、可動最大角は、90°より大きい角度であり、例えば、110°である。
【0027】
屈曲リミッタ機構14aは、大腿側方リンク部71aに設けられ、下腿側方リンク部5aと接触することによって、屈曲方向への可動域を制限する。また、伸展リミッタ機構15aは、同様に大腿側方リンク部71aに設けられ、図の状態から回動軸17を中心として時計回りに回転し、下腿側方リンク部5aに設けられた伸展リミッタ機構15bと当接するまで回転でき、当接後は回転できず、伸展方向への可動域を制限する。屈曲リミッタ機構14aと伸展リミッタ機構15aとにより、θKの角度は、可動最大角までに制限される。
【0028】
また、大腿側方リンク部71aと下腿側方リンク部5aとは、
図2に示すように、ガススプリング13によって連結されている。大腿側方リンク部71aと下腿側方リンク部5aは、回動軸17によって回動自在に取り付けられているが、後述するように膝折れを防止すべく、ガススプリング13によって急激な反時計周りの回動を抑える。ガススプリング13は、その接続部13aが大腿側方リンク部71aに接続され、接続部13bが下腿側方リンク部5aに接続される。例えば、ガススプリング13は、最小長が6cm、最大長が11cm、ストロークが5cmである。
【0029】
ガススプリング13は、圧縮ガスの反力を活用したスプリングであり、密閉シリンダーに圧縮ガスとして不活性ガスを充填し、ピストンによってガスを圧縮し反力を高め、小さな力で重い物を持ち上げる補助が行えるものである。前述した起立動作における臀部の離床、膝の伸展動作を補助すると共に、起立時や、起立後の歩行時に、膝折れ制動の役割を有する。なお、本実施例では、ガススプリング13の接続部13aは、大腿側方リンク部71aに固定されているが、大腿側方リンク部71a上を長手方向に所定の範囲でスライドできる構造でもよい。
【0030】
図3を参照して、大腿後側支持部7の補助による臀部の離床について説明する。
図3(1)に示すように、大腿側方リンク部71aの回動角は、屈曲リミッタ機構14aによって、θ
Kの可動最大角に制限され、大腿側方リンク部71aと下腿側方リンク部5aとの成す角は固定される。そのため、
図3(2)に示すように、下腿側方リンク部5aがθ
Lだけ前方に傾いた時、大腿側方リンク部71aは下腿側方リンク部5aに連動して、θ
T(=θ
L)回転することになり、それにより臀部を押し上げ、座面からの離床を補助することになる。
【0031】
図4及び
図5を参照して、起立動作の第1相から第2相における起立補助具の下腿前側支持部の動きについて説明する。座位姿勢の時には下腿が真っすぐ立った状態または膝がやや下腿より後方に位置する状態であり、
図4に示すように、下腿前側支持部2(図中のハッチング部分)は、回動軸43から鉛直方向L
Fに沿って真っすぐ立った状態になっている。ユーザの上体が前傾し、下腿が前方に倒れて膝を突き出す状態になると、
図5に示すように、下腿前側支持部2は、回動軸43を回転中心として鉛直方向L
Fから前方(Z方向)のL´
Fへ回動する。この回動角度θ
Fは、前傾リミッタ機構8により決定される。すなわち、起立動作の第2相において、下腿が更に前方に倒れて膝を更に突き出すと、下腿前側支持部2は回動軸43を回転中心として前方(Z方向)のL´
Fへ回動し、その回動に対応して凸部81が回動し、ベース部10の足側面12a後方の切り欠き部の周縁82に凸部81が当接する。下腿前側支持部2は、凸部81が切り欠き部の周縁82に当接すると、前方(Z方向)L´
Fへの回動が止まる。このように、凸部81と切り欠き部の周縁82とにより、前傾リミッタ機構8が構成されることになる。
【0032】
下腿前側支持部2に摺動部42を介して連結される下腿前方リンク部4は、
図4に示すように、摺動部42が長孔41の長手方向に沿って上方向へ範囲Rだけスライド可能な状態である。
図5に示すように、下腿前側支持部2が前方(Z方向)L´
Fへ前傾すると、摺動部42は長孔41の上端側へ向かって摺動し、最終的に上端に到達すると共に、下腿前方リンク部4が鉛直方向に立ち上がり、
図4に示すとおり、下端の回動軸33を回転中心として角度θ
fだけ回転する。例えば、角度θ
Fは、前傾リミッタ機構8によって、また、摺動部42のスライドが制限されることによって、最大角が22°以下になるように調整される。
【0033】
次に、
図6及び
図7を参照して、起立動作の第3相における起立補助具の下腿前側支持部と下腿側方リンク部の動きについて説明する。
図6に示すように、下腿側方リンク部5が-Z方向へ角度θ
L回転すると共に、下腿側方リンク部5の下端の継手部51と足側面リンク部3の後方端部との継手部51が、支軸31を回動軸として、円弧状のガイド孔を有するガイド部6に沿って角度θ
M1回転して-Y方向へ移動する。足側面リンク部3の後方端部の回転に伴って、支軸31を回転中心として、足側面リンク部3の前方端部の回動軸33が角度θ
M2(=θ
M1)回転する。回動軸33が支軸31を回転中心として角度θ
M2回転することにより、-Z方向へ移動すると共に、Y方向に押し上げられる。回動軸33がY方向に押し上げられることにより、下腿前方リンク部4の上端の摺動部42にY方向の力Fが加わる。摺動部42は、下腿前側支持部2の長孔41の上端に達しているため、下腿前側支持部2に対して、分力F
1を加えることになる。下腿前側支持部2に対して加える分力F
1は、下腿前側を-Z方向及びY方向、すなわち、上斜め後方に支持する力であり、膝関節を伸展して立ち上がるまで、分力F
1を加え続ける。
【0034】
図7(1)(2)に示すように、下腿前方リンク部4の摺動部42が、L´
F方向に前傾している下腿前側支持部2に対して、-Z方向及びY方向(上斜め後方)に分力F
1を加えることにより、下腿前側支持部2は、-Z方向へ角度θ
F回転し、L´
F方向に前傾している状態からL
F方向に直立する状態へと変位する。下腿前側支持部2の変位に伴って、下腿前側支持部2に接触しているユーザの下腿も角度θ
F回転し、下腿がL
F方向に直立する状態への変位に伴って、
図7(3)に示すように、屈曲位の膝関節は伸展し、ユーザは立位姿勢となる。
なお、
図7(1)で前傾リミット機構8における切り欠き部の周縁82によって、凸部81が制動され、下腿前側支持部2は、L
F方向に直立する状態から更に-Z方向(後方)に変位しないようになっている。
【0035】
起立補助具の対象ユーザは、高齢者全般、小柄から大柄な成人まで及ぶため、対象ユーザの個人特性(大腿や下腿の長さや太さなど幾何学的寸法、起立動作タイミング)によって、起立補助具1の下腿前側支持部2、足側面リンク部3、前方リンク部4、下腿側方リンク部(5a,5b)、ガイド部(6a,6b)、大腿側方リンク部(71a,71b)の各部位(
図1を参照)の寸法や可動域角度が適切に調整されることになる。例えば、下腿側方リンク部(5a,5b)が2段の入子式になっており、大腿側方リンク部(71a,71b)とリンクする部分がリンク部(5a,5b)の長手方向に直線的にスライドして伸縮できる構造となっており、下腿側方リンク部の長さを対象ユーザの個人特性に応じて調整できる。
【実施例2】
【0036】
本発明の起立補助具の他の実施形態について説明する。本実施例の起立補助具は、実施例1と同様、アクチュエータを用いない下肢装着型補助具であり、動作の左右非対称が現れたユーザを想定しており、ユーザは身体機能が低下した側の下肢に装着して使用する。実施例1の起立補助具と異なり、本実施例の起立補助具では、起立動作の第1相(座った状態から臀部が離床する直前までの動作)を補助する機能を備えていない。
【0037】
図9は、本実施例の起立補助具の外観斜視図を示している。
図9に示すように、起立補助具1aは、ベース部10、下腿前側支持部2、足側面リンク部3、下腿前方リンク部4、下腿側方リンク部(5a,5b)及びガイド部(6a,6b)を備える。本実施例の起立補助具1aは、実施例1の起立補助具における大腿後側支持部7に相当する部位、また、ガススプリング13、屈曲リミッタ機構14a及び伸展リミッタ機構15aを備えていない。そのため、起立動作における臀部の離床の補助や膝折れ防止の機能を有していない。
【0038】
起立補助具1aは、実施例1の起立補助具1と上記の部位や機構を備えていない点を除き、その他の構成要素とそれらの連動動作(
図4~7で既に説明した動作)は同じである。
すなわち、起立補助具1aにおけるベース部10は、実施例1の起立補助具と同様に、足底面11と左右の足側面(12a,12b)とで形成され、ユーザは、シューズを履いたまま、ベース部10の足底面11が土踏まず辺りに位置するようにシューズのつま先側を踏み入れることができる。また、起立補助具1aにおける下腿前側支持部2は、実施例1の起立補助具と同様に、ベース部10の左右の足側面に回動軸を有し回動自在に固定される部位であり、下腿前側(膝下からくるぶしまでの間のスネ)を支持する。また、起立補助具1aにおける下腿前方リンク部4は、実施例1の起立補助具と同様に、一端に摺動部42が設けられ、下腿前側支持部に設けられた上下に延びる左右2つの長孔(41a,41b)に嵌合し該長孔の長手方向に摺動できるように構成されている。また、下腿前方リンク部4の他端は、回転軸33に固定され、足側面リンク部3のアーチ部32に回動自在に固定される。また、起立補助具1aにおける下腿側方リンク部(5a,5b)は、実施例1の起立補助具と同様に、下腿側面に沿って伸び、その下端と、足側面リンク部3の後方端部とは、継手部(51a,51b)により回動自在に連結されている。継手部(51a,51b)は、ベース部10の左右の足側面(12a,12b)の後方端部に固定される左右一対の円弧状の孔のガイド部(6a,6b)により、支軸(31a,31b)を中心とする円弧の軌跡を描きながら上下に回動する。
これらの構成要素の詳細な連動動作については、実施例1(
図4~7)で既に説明したので、ここでの説明は割愛する。
【0039】
本実施例の起立補助具は、実施例1の起立補助具と異なり、大腿後側支持部7が無く、大腿前側で左右を連結する面ファスナ73で、大腿の周囲に固定できない。そのため、下腿側方リンク部(5a,5b)に、下腿後側で左右を連結する面ファスナ74が設けられる。ユーザが起立補助具1を装着する際は、下腿の後方半周を面ファスナ74で留める。これにより、下腿が前傾から立位となるに従い、下腿側方リンク部(5a,5b)が下腿の動きに追従するようにできる。
【実施例3】
【0040】
屈曲方向への可動域を制限するための屈曲リミッタ機構に関し、他の実施形態について説明する。
図10は、屈曲リミッタ機構の説明図である。上述の如く、起立補助具1において、大腿側方リンク部71aは、下腿側方リンク部5aとの接続部である大腿後側支持部7の回動軸17を中心として可動するが、屈曲リミッタ機構14aによって、屈曲方向への可動域が制限される(上述の
図2の説明を参照)。
屈曲リミッタ機構14aの他の実施形態として、
図10に示すように、下腿側方リンク部5aと接触する部位(荷重部75)が、球状に構成され、荷重部75の基部のスクリュー部76により、例えば0~1cmの範囲内で、突出長77を調整できる構成になっている。すなわち、荷重部75の位置を調整し、それにより屈曲方向への可動範囲を微調整できる。
図2に示すθ
Kの可動域角度は、最大角までに制限されるが、大腿側方リンク部(71a,71b)の屈曲リミッタ機構(14a,14b)をリンク部(71a,71b)の長手方向に直線的にスライドできること、また、上記の荷重部75の突出位置の調整によって、リンク部(71a,71b)の屈曲方向へのθ
Kの最大角を調整できる。
荷重部75の調整によって、荷重部75が下腿側方リンク部(5a,5b)と接触する際のユーザの膝関節角度および下腿角度が変化する。荷重部75の突出長77を伸ばすことにより、ユーザが臀部を持ち上げる支援を受ける膝関節・足関節の角度が変化する。これらの調整はユーザ固有の起立動作特性毎に、或いは、起立動作時の座面高さによる初期膝関節角度毎に変更することによって適切な補助タイミングを得ることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の起立補助具は、病院、高齢者施設、介護事業所、在宅などで行うリハビリ用装置として有用である。
【符号の説明】
【0042】
1,1a 起立補助具
2 下腿前側支持部
3 足側面リンク部
4 下腿前方リンク部
5,5a,5a 下腿側方リンク部
6,6a,6b ガイド部
7 大腿後側支持部
8 前傾リミッタ機構
9 ユーザ
10 ベース部
11 足底面
12a,12b 足側面
13 ガススプリング
14a,14b 屈曲リミッタ機構
15a,15b,16a,16b 伸展リミッタ機構
17,33,43 回動軸
18 椅子
31,31a,31b 支軸
32 アーチ部
41,41a,41b 長孔
42,42a,42b 摺動部
51,51a,51b 継手部
71a,71b 大腿側方リンク部
72 支持ベルト
73,74 面ファスナ
75 荷重部
76 スクリュー部
77 突出長
81 凸部
82 切り欠き部の周縁