(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】正極、及びそれを含むリチウム電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20240119BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240119BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240119BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240119BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2019155903
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】10-2018-0101564
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100210480
【氏名又は名称】後藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100210170
【氏名又は名称】光末 竜太
(72)【発明者】
【氏名】金 暎洙
(72)【発明者】
【氏名】柳 永均
(72)【発明者】
【氏名】尹 在久
(72)【発明者】
【氏名】李 承▲妍▼
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-523281(JP,A)
【文献】特開2015-115106(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0112345(KR,A)
【文献】特開2017-182989(JP,A)
【文献】特開2018-101472(JP,A)
【文献】国際公開第2018/054235(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047454(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056488(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/525
H01M 4/62
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、
前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、
前記導電材が線形炭素系導電材を含み、
前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、
前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であ
り、
前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上である、正極。
【請求項2】
前記線形炭素系導電材が、炭素ナノチューブ(CNT)、炭素ナノファイバ及び炭素ナノロッドのうちから選択された1以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記導電材が、前記線形炭素系導電材以外に、粒子状炭素系導電材をさらに含み、前記線形炭素系導電材の縦横比が2以上であり、前記粒子状炭素系導電材の縦横比が2未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の正極。
【請求項4】
前記粒子状炭素系導電材が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、天然黒鉛及び人造黒鉛のうちから選択された1以上を含むことを特徴とする請求項3に記載の正極。
【請求項5】
前記線形炭素系導電材と前記粒子状炭素系導電材との重量比が、90:10ないし10:90であることを特徴とする請求項3または4に記載の正極。
【請求項6】
前記第1フッ素系バインダの含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、2wt%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の正極。
【請求項7】
前記第1フッ素系バインダが、
極性官能基を含む単量体由来の反復単位と、
フッ化ビニリデン由来の反復単位と、
選択的に、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロビニル及びパーフルオロアルキルビニルエーテルからなる群のうちから選択された1以上のフッ素含有単量体由来の反復単位と、を含み、
重量平均分子量が1,000,000Dalton以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の正極。
【請求項8】
極性官能基非含有第2フッ素系バインダをさらに含むことを特徴とする請求項1から
7のいずれか一項に記載の正極。
【請求項9】
前記第2フッ素系バインダがフッ化ビニリデン系バインダであり、重量平均分子量が1,000,000Dalton以下であることを特徴とする請求項
8に記載の正極。
【請求項10】
前記第1フッ素系バインダと前記第2フッ素系バインダとの重量比が、90:10ないし10:90であることを特徴とする請求項
8または
9に記載の正極。
【請求項11】
前記第1非フッ素系バインダがシアノ基を含むことを特徴とする請求項1から
10のいずれか一項に記載の正極。
【請求項12】
前記第1非フッ素系バインダが、アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位と、オレフィン系単量体に由来する反復単位と、を含むことを特徴とする請求項1から
10のいずれか一項に記載の正極。
【請求項13】
前記リチウム遷移金属酸化物が下記化学式2で表示される化合物であることを特徴とする請求項1から
12のいずれか一項に記載の正極:
(化学式2)
Li
aNi
xCo
yM
zO
2-bA
b
前記化学式2で、
1.0≦a≦1.2、0≦b≦0.2、0.3≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、x+y+z=1であり、Mは、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、ガリウム(Ga)、シリコン(Si)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びホウ素(B)からなる群から選択された1以上であり、Aは、F、S、Cl、Br、またはそれらの組み合わせである。
【請求項14】
前記リチウム遷移金属酸化物が、下記化学式3あるいは4で表示される化合物であることを特徴とする請求項1から
13のいずれか一項に記載の正極:
(化学式3)
LiNi
xCo
yMn
zO
2
(化学式4)
LiNi
xCo
yAl
zO
2
前記式で、0.3≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。
【請求項15】
前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、正極活物質95ないし98.9重量%、導電材1ないし4重量%、及びバインダ0.01ないし2重量%を含み、ローディング量が3.0mAh/cm
2以上であることを特徴とする請求項1から
14のいずれか一項に記載の正極。
【請求項16】
前記ローディング量が5.0mAh/cm
2以上であることを特徴とする請求項
15に記載の正極。
【請求項17】
ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、90°以上曲げられた後にも破断されないことを特徴とする請求項1から
16のいずれか一項に記載の正極。
【請求項18】
ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、最大曲げ強度が1.0N以下であることを特徴とする請求項1から
17のいずれか一項に記載の正極。
【請求項19】
ASTM D3330に準ずる180°剥離強度試験において、剥離強度が0.3gf/mm以上であることを特徴とする請求項1から
18のいずれか一項に記載の正極。
【請求項20】
請求項1ないし
19のうちいずれか1項に記載の正極と、
負極と、
前述の正極と負極との間に配置される電解質と、を含むリチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、及びそれを含むリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、各種電子機器(electronic device)、電気車両(EV:electric vehicle)などに電源として使用される。当該の電子機器及び電気車両の高性能化に符合するために、リチウム電池の高エネルギー密度化が要求される。すなわち、高容量のリチウム電池が要求される。
【0003】
高容量のリチウム電池を具現するために、高容量を有する正極活物質を使用し、正極合剤のローディング量が増大する。
ニッケル含量が多い正極活物質は、増大された放電容量を提供するが、電解液との副反応により、リチウム電池の寿命特性が低下し、熱安定性が低下する。
【0004】
該正極合剤のローディング量が増大すれば、放電容量が増大するが、正極厚が増大する。増大された厚みを有する正極は、柔軟性が低下し、リチウム電池製造時の巻き取り過程または充放電過程において、亀裂が発生しやすい。
【0005】
従って、ニッケル含量が多い正極活物質を含み、増大されたローディング量を有する正極を採用しながらも、向上した性能を提供するリチウム電池に対する研究が進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、新たな組成を有するバインダ、及び線形炭素系導電材を含むことにより、向上した物性を有する正極を提供することである。
【0007】
他の一側面は、前述の正極を採用することにより、向上した寿命特性を有するリチウム電池を提供することである。
【0008】
さらに他の一側面は、高容量正極活物質を含み、増大されたローディング量を有する正極を採用することにより、向上したエネルギー密度を有するリチウム電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一側面により、
正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、
前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造(layered crystalline structure)を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して30mol%以上であり、
前記導電材が線形炭素系導電材を含み、
前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダと、を含み、
前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上である正極が提供される。
【0010】
他の一側面により、
前述のところによる正極と、
負極と、
前述の正極と負極との間に配置される電解質と、を含むリチウム電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
一側面によれば、極性官能基含有バインダ及び線形炭素系導電材を含むことにより、正極の柔軟性及び結着力が同時に向上する。
【0012】
他の一側面によれば、向上した柔軟性及び結着力を有する正極を採用することにより、リチウム電池の寿命特性が向上する。
【0013】
さらに他の一側面によれば、向上した柔軟性及び結着力を有し、ニッケル含量が多いリチウム遷移金属酸化物を含み、増大されたローディング量を有する正極を採用することにより、リチウム電池のエネルギー密度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1及び比較例4で製造された正極に対する曲げ強度測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1で製造された正極に対する曲げ特性評価結果である。
【
図3】実施例1及び比較例2で製造されたリチウム電池の常温寿命特性評価結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1、実施例2及び比較例3で製造されたリチウム電池の常温寿命特性評価結果を示すグラフである。
【
図5】例示的な具現例によるリチウム電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下で説明される本創意的思想(present inventive concept)は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有することができるが、特定実施例を図面に例示し、詳細な説明によって詳細に説明する。しかし、それは、本創意的思想を、特定の実施形態について限定するものではなく、本創意的思想の技術範囲に含まれる全ての変換、均等物または代替物を含むものであると理解されなければならない。
【0016】
以下で使用される用語は、単に特定の実施例についての説明に使用されたものであり、本創意的思想を限定する意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。以下において、「含む」または「有する」というような用語は、明細書上に記載された特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、成分、材料、またはそれらの組み合わせが存在するということを示すものであり、1またはそれ以上の他の特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、成分、材料、またはそれらの組み合わせの存在または付加の可能性をあらかじめ排除するものではないと理解されなければならない。以下で使用される「/」は、状況により、「及び」とも解釈され、あるいは「または」とも解釈される。
【0017】
図面において、多くの層及び領域を明確に表現するために、厚みを拡大したり縮小したりして示した。明細書全体を通じて、類似した部分については、同一図面符号を付した。明細書全体において、層、膜、領域、板のような部分が、他の部分の「上」または「上部」にあるとするとき、それは、他の部分の真上にある場合だけではなく、その中間に他の部分がある場合も含む。明細書全体において、第1、第2のような用語は、多様な構成要素についての説明にも使用されるが、該構成要素は、用語によって限定されるものではない。該用語は、1つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみに使用される。
【0018】
C-rateは、電池の最大容量に対して、電池が放電する速度の尺度である。1.0C rateは、1時間に全体電池を放電させる放電電流を意味する。例えば、1.6Ahの放電容量を有する電池の1.0C rateは、1.6Aの放電電流になる。この電池の5.0C rateは、8.0Aになるであろう。この電池の0.5C rateは0.8Aになるであろう。以下において、例示的な具現例による正極、及びそれを含むリチウム電池について、さらに詳細に説明する。
【0019】
一具現例による正極は、正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、該正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造(layered crystalline structure)を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、該ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、該導電材が線形炭素系導電材を含み、該バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダと、を含み、前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上である。
【0020】
該正極が該線形炭素系導電材を0.1wt%以上含み、極性官能基含有第1フッ素系バインダを含むことにより、向上した結着力と柔軟性とを同時に提供することにより、向上したサイクル特性とエネルギー密度とを提供する。また、該正極が第1非フッ素系バインダを含むことにより、線形炭素系導電材の分散性が向上する。
【0021】
該線形炭素系導電材は、炭素ナノチューブ(CNT)、炭素ナノファイバ(carbon nanofiber)及び炭素ナノロッド(carbon nanorod)のうちから選択された1以上を含むが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、線形炭素系導電材として使用されるものであるならば、いずれも可能である。該線形炭素系導電材の縦横比(aspect ratio)は、2以上、3以上、4以上、5以上、10以上、20以上、50以上または100以上である。該線形炭素系導電材が、そのような高い縦横比を有することにより、少ない含量にもかかわらず、正極内に三次元的に分散されて伝導性ネックワークを形成し、正極の電気伝導度を向上させる。該線形炭素系導電材は、特に、炭素ナノチューブ(CNT)である。該炭素ナノチューブは、例えば、単層(single walled)炭素ナノチューブ、二層(double-walled)炭素ナノチューブ、多層(multi-walled)炭素ナノチューブ、束状炭素ナノチューブ、またはそれらの混合型などである。該炭素ナノチューブの大きさは、例えば、直径が5ないし50nmであり、長さが1ないし50μmである。該導電材の縦横比は、導電材の任意両末端の長さの最大値と最小値との比率である。例えば、該炭素ナノチューブの縦横比は、炭素ナノチューブの長さと直径との比率である。正極が含む線形炭素系導電材の含量は、正極活物質、導電材及びバインダの総重量を基準に、例えば、0.1wt%以上、0.3wt%以上、0.5wt%以上、0.7wt%以上、0.9wt%以上、1wt%以上または1.3wt%以上である。該正極が含む線形炭素系導電材の含量は、正極活物質、導電材及びバインダの総重量を基準に、例えば、0.1wt%ないし5wt%、0.1wt%ないし4wt%、0.1wt%ないし3wt%、0.3wt%ないし3wt%、0.5wt%ないし3wt%、0.7wt%ないし3wt%、0.9wt%ないし3wt%、1wt%ないし3wt%、または1.3wt%ないし3wt%である。
【0022】
例示的な1つの導電材は、線形炭素系導電材以外に、粒子状(particular)炭素系導電材をさらに含む。該粒子状炭素系導電材の縦横比は、2未満、1.8未満または1.5未満である。該粒子状炭素系導電材は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、天然黒鉛及び人造黒鉛のうちから選択された1以上でもあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、粒子状炭素系導電材として使用されるものであるならば、いずれも可能である。該粒子状炭素系導電材は、特に、カーボンブラックである。当該の線形炭素系導電材と粒子状炭素系導電材との重量比は、90:10ないし10:90、90:10ないし50:50、90:10ないし60:40、85:15ないし60:40、または80:20ないし60:40である。当該の線形炭素系導電材と粒子状炭素系導電材とがそのような範囲の重量比を有することにより、導電材の分散性が向上し、少ない導電材含量にもかかわらず、正極の電気伝導度がさらに向上し、正極の内部抵抗が低下する。
【0023】
正極において、該導電材含量は、正極活物質、導電材及びバインダの総重量を基準に、0.1wt%ないし5wt%、0.3wt%ないし4wt%、0.5wt%ないし4wt%、1.0wt%ないし4wt%、1.0wt%ないし3wt%、1wt%ないし2.5wt%、または1.0wt%ないし2wt%である。該正極が、そのような含量範囲の導電材を含むことにより、該正極の結着力、柔軟性及び電気伝導度がさらに向上する。結果として、そのような正極を含むリチウム電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0024】
該極性官能基含有第1フッ素系バインダは、極性官能基を含む単量体由来の反復単位;フッ化ビニリデン単量体由来の反復単位;及び選択的に、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロビニル及びパーフルオロアルキルビニルエーテルからなる群のうちから選択された1以上のフッ素含有単量体由来の反復単位を含む。第1フッ素系バインダにおいて、極性官能基は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上でもあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、フッ素系バインダの極性官能基として使用されるものであるならば、いずれも可能である。そのような極性官能基のうち、正極活物質との結着性、及び正極活物質層と集電体との結着性の観点から、例えば、カルボン酸基またはスルホン酸基が選択される。特に、ニッケル含量が多いリチウム遷移金属酸化物から溶出される遷移金属イオンを捕集する効率の観点において、例えば、カルボン酸基が選択される。該第1フッ素系バインダは、例えば、極性官能基含有単量体とフッ化ビニリデン単量体との共重合体、または極性官能基含有単量体、フッ化ビニリデン単量体、及び前述の他のフッ素系単量体の共重合体である。該第1フッ素系バインダは、例えば、極性官能基含有単量体-フッ化ビニリデン共重合体、極性官能基含有単量体-フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、極性官能基含有単量体-フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体などでもあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、極性官能基含有フッ素系バインダとして使用されるものであるならば、いずれも可能である。該第1フッ素系バインダは、特に、カルボン酸基(-COOH)含有ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダである。該第1フッ素系バインダとして、フッ化ビニリデン単量体以外に、他のフッ素系単量体に由来する反復単位の含量は、例えば、5モル%以下である。他のフッ素系単量体に由来する反復単位が存在する場合、第1フッ素系バインダにおいて、フッ素含有単量体由来の反復単位(すなわち、フッ化ビニリデン単量体に由来する反復単位、及びフッ化ビニリデン単量体以外に、他のフッ素系単量体に由来する反復単位)の含量は、例えば、50モル%以上ないし100モル%未満、60モル%以上ないし100モル%未満、70モル%以上ないし100モル%未満、80モル%以上ないし100モル%未満、または90モル%以上ないし100モル%未満であり、残りは、非フッ素系単量体に由来する反復単位である。該第1フッ素系バインダにおいて、フッ素含有単量体由来の反復単位の含量は、第1フッ素系バインダの全体単量体含量に対して、例えば、90モル%ないし99.9モル%でもある。該第1フッ素系バインダが、そのような含量範囲のフッ素含有単量体由来の反復単位を含むことにより、優秀な化学的安定性を有する。該第1フッ素系バインダにおいて、極性官能基を含む単量体由来の反復単位の含量は、例えば、10モル%以下、0.1モル%ないし9モル%以下、0.1モル%ないし8モル%以下、0.1モル%ないし7モル%以下、または0.1モル%ないし5モル%以下である。該第1フッ素系バインダがそのような含量範囲の極性官能基を含むことにより、電解液に対する耐溶剤性(solvent resistance)がさらに向上する。該第1フッ素系バインダの重量平均分子量は、例えば、1,000,000Dalton以上、1,000,000Daltonないし2,000,000Dalton、1,000,000Daltonないし1、800,000Dalton、1,000,000Daltonないし1、500,000Dalton、または1,000,000Daltonないし1,200,000Daltonである。該第1フッ素系バインダの重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィ(gel permeation chromatography)によるポリスチレン換算値である。該第1フッ素系バインダがそのような範囲の重量平均分子量を有することにより、正極活物質と集電体との接着力がさらに向上する。
【0025】
該極性官能基含有第1フッ素系バインダの含量は、例えば、正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、2wt%以下、1.5wt%以下、1wt%以下、0.5wt%以下、0.2wt%以下、0.1wt%以下である。例えば、0.01wt%ないし2wt%、0.01wt%ないし1.5wt%、0.01wt%ないし1.0wt%、0.01wt%ないし0.5wt%、0.01wt%ないし0.2wt%、または0.01wt%ないし0.1wt%である。該正極がそのような範囲の第1フッ素系バインダを含むことにより、正極活物質と極板との接着力がさらに向上し、そのような正極を採用するリチウム電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0026】
例示的な1つの正極は、極性官能基非含有第2フッ素系バインダをさらに含む。該極性官能基非含有第2フッ素系バインダは、フッ化ビニリデン系バインダである。該第2フッ素系バインダは、例えば、フッ化ビニリデン単量体のホモ重合体、またはフッ化ビニリデン単量体と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロビニル及びパーフルオロアルキルビニルエーテルからなる群のうちから選択された1以上のフッ素含有単量体との共重合体である。具体的には、該第2フッ素系バインダは、フッ化ビニリデンホモ重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体などでもあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、極性官能基非含有フッ素系バインダとして使用されるものであるならば、いずれも可能である。該第2フッ素系バインダは、特に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダである。該第2フッ素系バインダにおいて、フッ化ビニリデン単量体に由来する反復単位の含量は、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上または90モル%以上である。該第1フッ素系バインダの重量平均分子量は、例えば、1,000,000Dalton以下、100,000Daltonないし1,000,000Dalton、200,000Daltonないし900,000Dalton、300,000Daltonないし800,000Dalton、500,000Daltonないし700,000Dalton、または670,000Daltonないし700,000Daltonである。該第2フッ素系バインダがそのような範囲の重量平均分子量を有することにより、第1フッ素系バインダを含む正極において、正極活物質の分散性がさらに向上する。
【0027】
該極性官能基非含有第2フッ素系バインダの含量は、例えば、正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、2wt%以下、1.5wt%以下、1wt%以下、0.5wt%以下、0.2wt%以下、0.1wt%以下である。例えば、0.01wt%ないし2wt%、0.01wt%ないし1.5wt%、0.01wt%ないし1.0wt%、0.01wt%ないし0.5wt%、0.01wt%ないし0.2wt%、または0.01wt%ないし0.1wt%である。該正極がそのような範囲の第2フッ素系バインダを含むことにより、正極内において、正極活物質の分散性がさらに向上し、そのような正極を採用するリチウム電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0028】
当該の極性官能基含有第1フッ素系バインダと極性官能基非含有第2フッ素系バインダとの重量比は、例えば、90:10ないし10:90、80:20ないし20:80、70:30ないし30:70、または60:40ないし40:60である。当該の第1フッ素系バインダと第2フッ素系バインダとがそのような範囲の重量比を有することにより、正極活物質の分散性が向上し、正極活物質と極板との接着力がさらに向上する。
【0029】
当該の極性官能基含有第1フッ素系バインダと極性官能基非含有第2フッ素系バインダは、非水系(non-aqueous)溶媒の溶解時、適正粘度を維持させ、正極活物質の分散性を向上させ、正極活物質と正極活物質との間、及び正極活物質と正極集電体との間に強い結着力を付与し、正極の寸法安定性を向上させる。従って、充放電過程において、正極集電体において、正極合剤の脱離、または正極合剤の亀裂が防止されるので、そのような正極を採用するリチウム電池のサイクル特性が向上する。
【0030】
例示的な1つの正極において、第1非フッ素系バインダは、シアノ基を含む。該シアノ基含有第1非フッ素系バインダは、例えば、アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位と、オレフィン系単量体に由来する反復単位とを含む。該アクリロニトリル系単量体は、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどである。該オレフィン系単量体は、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどである。該第1非フッ素系バインダは、例えば、主鎖(main backbone)に二重結合を実質的に含まない水素化されたバインダである。該第1非フッ素系バインダは、特に、水素化されたアクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)である。該第1非フッ素系バインダにおいて、アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位の含量は、例えば、1wt%ないし70wt%、2wt%ないし50wt%、5wt%ないし30wt%、または10wt%ないし25wt%である。該第1非フッ素系バインダにおいて、オレフィン系単量体に由来する反復単位の含量は、例えば、30wt%ないし99wt%、50wt%ないし98wt%、70wt%ないし95wt%、または75wt%ないし90wt%である。該第1非フッ素系バインダがそのような範囲のアクリロニトリル系単量体及び/またはオレフィン系単量体含量を有することにより、線形炭素系導電材の分散性がさらに向上する。該第1非フッ素系バインダの重量平均分子量は、例えば、100,000Daltonないし1,000,000Dalton、100,000Daltonないし800,000Dalton、100,000Daltonないし600,000Dalton、100,000Daltonないし500,000Dalton、または100,000Daltonないし300,000Daltonである。該第1非フッ素系バインダがそのような範囲の重量平均分子量を有することにより、正極の柔軟性がさらに向上する。該第1非フッ素系バインダのガラス転移温度(Tg)は、-40℃ないし30℃、-40℃ないし25℃、-40℃ないし20℃、-40℃ないし15℃、または-40℃ないし5℃である。該第1非フッ素系バインダがそのような範囲の低いガラス転移温度を有することにより、正極内において、第1非フッ素系バインダによる接着ネックワーク形成がさらに容易である。
【0031】
該第1非フッ素系バインダの含量は、例えば、正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、2wt%以下、0.1wt%ないし2wt%、0.1wt%ないし1.5wt%、0.1wt%ないし1.0wt%、0.1wt%ないし0.7wt%、0.1wt%ないし0.5wt%、または0.1wt%ないし0.3wt%である。該正極がそのような範囲の第1非フッ素系バインダを含むことにより、正極の柔軟性及び電気伝導度がさらに向上し、そのような正極を採用するリチウム電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0032】
例示的な1つの正極は、シアノアルキル基含有第2非フッ素系バインダをさらに含む。該シアノアルキル基含有第2非フッ素系バインダは、シアノ基が主鎖に直接連結された第1非フッ素系バインダと異なり、シアノ官能基が高分子主鎖の枝に連結されており、高ニッケル含量を有するリチウム遷移金属酸化物と電解液との副反応で発生する熱を抑制するのに効果的である。すなわち、該第2非フッ素系バインダは、正極内において、正極の発熱量を低減させ、高ニッケル含量を有するリチウム遷移金属酸化物の劣化を抑制する。従って、該第2非フッ素系バインダを含む正極の熱安定性が向上する。結果として、そのような正極を採用したリチウム電池の熱安定性が向上し、サイクル特性が向上する。特に、該リチウム電池の高温サイクル特性が向上する。
【0033】
該第2非フッ素系バインダの含量は、例えば、正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、2wt%以下、0.1wt%ないし2wt%、0.1wt%ないし1.5wt%、0.1wt%ないし1.0wt%、0.1wt%ないし0.7wt%、0.1wt%ないし0.5wt%、または0.1wt%ないし0.3wt%である。該正極がそのような範囲の第2非フッ素系バインダを含むことにより、該正極の熱安定性がさらに向上し、そのような正極を採用するリチウム電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0034】
該第2非フッ素系バインダは、例えば、ヒドロキシ基含有化合物に、シアノアルキル基が結合されたシアノ樹脂(cyano resin)である。該シアノ樹脂は、A-OHによって表示されるヒドロキシ基含有高分子化合物のヒドロキシ基に、シアノアルキル基が置換/結合されて得られ、A-OHとA-O-RCN(前記化学式において、-RCNは、シアノアルキル基である)とが不規則的に結合されたランダム共重合体(random copolymer)樹脂を意味する。
【0035】
該第2非フッ素系バインダは、例えば、シアノアルキルポリビニルアルコール(cyanoalkyl polyvinyl alcohol)、シアノアルキルプルラン(cyanoalkyl pullulan)、シアノアルキルセルロース(cyanoalkyl cellulose)、シアノアルキルヒドロキシエチルセルロース(cyanoalkyl hydroxyethylcellulose)、シアノアルキル澱粉(cyanoalkyl starch)、シアノアルキルデキストリン(cyanoalkyl dextrin)、シアノアルキルコラーゲン(cyanoalkyl collagen)及びシアノアルキルカルボキシメチルセルロース(cyanoalkyl carboxymethyl cellulose)のうちから選択された1以上を含むが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、シアノ樹脂として使用されるものであるならば、いずれも可能である。該シアノアルキル基を含むアルキル基(R)の炭素数は、1ないし10である。
【0036】
該第2非フッ素系バインダは、具体的には、シアノエチルポリビニルアルコール(cyanoethyl polyvinyl alcohol)、シアノエチルプルラン(cyanoethyl pullulan)、シアノエチルセルロース(cyanoethyl cellulose)、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース(cyanoethyl hydroxyethyl cellulose)、シアノエチル澱粉(cyanoethyl starch)、シアノエチルデキストリン(cyanoethyl dextrin)、シアノエチルコラーゲン(cyanoethyl collagen)及びシアノエチルカルボキシメチルセルロース(cyanoethyl carboxymethyl cellulose)のうちから選択された1以上を含む。
【0037】
該第2非フッ素系バインダは、特に、例えば、下記化学式1で表示されるシアノエチルポリビニルアルコールである:
【0038】
【0039】
前記化学式1で、n及びmは、それぞれ反復単位内のモル分率であり、0≦n<1、0<m<1、n+m=1であり、xは、2である。
【0040】
当該のシアノ基含有第1非フッ素系バインダ及び/またはシアノアルキル基含有第2非フッ素系バインダは、正極内において、線形炭素系導電材の分散を向上させ、正極の柔軟性も向上させる。従って、当該の第1非フッ素系バインダと第2非フッ素系バインダとを含む正極の内部抵抗が低下し、電池製造過程において、正極の亀裂も抑制される。結果として、そのような正極を採用したリチウム電池の内部抵抗が低減し、リチウム電池の巻き取り過程または充放電過程において発生する亀裂などが抑制されることにより、リチウム電池のサイクル特性も向上する。
【0041】
第1フッ素系バインダ、第1非フッ素系バインダ、選択的に第2フッ素系バインダ、及び選択的に第2非フッ素系バインダを含むバインダ含量は、正極活物質、導電材及びバインダの総重量を基準に、0.1wt%ないし5wt%、0.1wt%ないし4wt%、0.1wt%ないし3wt%、1.0wt%ないし2wt%、0.1wt%ないし1.5wt%、0.1wt%ないし1wt%または0.1wt%ないし0.5wt%である。該正極がそのような含量範囲のバインダを含むことにより、該正極の柔軟性、結着力及び/またはサイクル特性がさらに向上する。
【0042】
該正極活物質は、ニッケル及びニッケル以外の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、ニッケル、及びニッケル以外の他の遷移金属を含むリチウム遷移金属酸化物において、ニッケルの含量は、遷移金属の全体モル数に対して、例えば、30mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、82mol%以上、85mol%以上、87mol%以上または90mol%以上である。該正極活物質が高ニッケル含量を有することにより、正極の放電容量がさらに向上する。
【0043】
該リチウム遷移金属酸化物は、例えば、下記化学式2で表示される化合物である:
(化学式2)
LiaNixCoyMzO2-bAb
化学式2で、1.0≦a≦1.2、0≦b≦0.2、0.3≦x<1、0<y≦0.4、0<z≦0.4、x+y+z=1であり、Mは、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、ガリウム(Ga)、シリコン(Si)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びホウ素(B)からなる群から選択された1以上であり、Aは、F、S、Cl、Br、またはそれらの組み合わせである。例えば、0.5≦x<1、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。例えば、0.6≦x<1、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。例えば、0.7≦x<1、0<y≦0.3、0<z≦0.3である。例えば、0.8≦x<1、0<y≦0.2、0<z≦0.2である。例えば、0.83≦x<0.97、0<y≦0.15、0<z≦0.15である。例えば、0.85≦x<0.95、0<y≦0.1、0<z≦0.1である。例えば、0.7≦x<0.99、0<y≦0.3、0<z≦0.3である。
【0044】
該リチウム遷移金属酸化物は、例えば、下記化学式3あるいは4で表示される化合物である:
(化学式3)
LiNixCoyMnzO2
(化学式4)
LiNixCoyAlzO2
前記化学式3,4で、0.3≦x<1、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。例えば、0.5≦x<1、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。例えば、0.6≦x<1、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。例えば、0.7≦x<1、0<y≦0.3、0<z≦0.3である。例えば、0.82≦x≦0.95、0<y≦0.15、0<z≦0.15である。例えば、0.85≦x≦0.95、0<y≦0.1、0<z≦0.1である。例えば、0.8≦x<0.99、0<y≦0.2、0<z≦0.1である。
【0045】
該リチウム遷移金属酸化物は、具体的には、LiNi0.7Co0.2Mn0.1O2、LiNi0.88Co0.08Mn0.04O2、LiNi0.8Co0.15Mn0.05O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.88Co0.1Mn0.02O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.2O2またはLiNi0.88Co0.1Al0.02O2である。そのようなリチウム遷移金属酸化物は、例えば、Alなどのドーピング元素により、追加してドーピングされることが可能である。
【0046】
該正極活物質は、例えば、光散乱法などの粒度分布測定で得られる粒度分布図において、2以上のピークを有するバイモーダル粒度分布を有する。該リチウム遷移金属酸化物がバイモーダル粒度分布を有することにより、リチウム遷移金属酸化物を含む正極の合剤密度がさらに向上する。該正極活物質含量は、正極活物質、導電材及びバインダの総重量を基準に、70wt%ないし99.9wt%、80wt%ないし99.9wt%、90wt%ないし99.9wt%、95wt%ないし98.9wt%、または97wt%ないし98.9wt%である。該正極がそのような含量範囲の正極活物質を含むことにより、正極の放電容量がさらに向上する。
【0047】
当該の線形炭素系導電材及び第1フッ素系バインダを含む正極が、向上した柔軟性及び結着力を有することにより、正極厚増大による亀裂などが抑制される。また、該正極が、ニッケルリッチ(rich)リチウム遷移金属酸化物を含むことにより、増大された放電容量を有する。従って、向上したサイクル特性と、3.0mAh/cm2以上のローディング量とを有する正極の具現が可能であり、そのような正極を採用することにより、向上したサイクル特性と、500Wh/L以上の高エネルギー密度とを有するリチウム電池の具現が可能である。該正極のローディング量(loading level)は、例えば、3.5mAh/cm2以上、4.0mAh/cm2以上、4.3mAh/cm2以上、4.5mAh/cm2以上、5.0mAh/cm2以上、5.5mAh/cm2以上または6.0mAh/cm2以上である。該正極の単位面積当たり重量は、例えば、40mg/cm2以上、45mg/cm2以上、50mg/cm2以上または55mg/cm2以上である。該正極のプレス密度は、例えば、3.0g/cc以上、3.2g/cc以上、3.4g/cc以上、3.6g/cc以上、3.8g/cc以上または4.0g/cc以上である。
【0048】
該正極は、ASTM D790に準ずる曲げ特性(flexural property)試験において、試片の曲げ角度が、例えば、90°以上、100°以上、110°以上、120°以上、130°以上、140°以上、150°以上、万能試験機(universal test machine)の機械的曲げ最大限界値で曲げられた後にも、破断されない。該正極は、ASTM D790に準ずる曲げ特性(3-point bending test;横20mm縦15mm電極試片、2ポイント間隔10mm)試験において、試片の垂直方向に加えられる力に対する最大曲げ強度(maximum bending strength)が、1.0N以下、0.9N以下、0.8N以下、0.7N以下、0.68N以下、0.66N以下または0.64N以下である。該正極のそのような低い最大曲げ強度を有することにより、前記正極を含むリチウム電池の巻き取り過程または充放電過程において発生する亀裂などが抑制される。該正極は、ASTM D3330に準ずる180°剥離強度(peel strength)試験において、幅25mm電極試片基準、剥離強度が、0.3gf/mm以上、1.0gf/mm以上、5.0gf/mm以上、10.0gf/mm以上、15.0gf/mm以上、20.0gf/mm以上、25.0gf/mm以上または30.0gf/mm以上である。該正極がそのような高い剥離強度、すなわち、向上した結着力を有することにより、前記正極を含むリチウム電池の巻き取り過程または充放電過程において発生する剥離、亀裂などが抑制される。また、該正極は、機械的最大限界値以上を評価するマニュアル曲げ(finger pressing/bending)により、例えば、90°以上、100°以上、110°以上、120°以上、130°以上、140°以上、150°以上、160°以上、170°以上曲げられた後にも破断されない。該正極がそのような向上した柔軟性を有することにより、前記正極を含むリチウム電池の巻き取り過程または充放電過程において発生する亀裂などが抑制される。従って、該正極は、向上した柔軟性と結着力とを同時に有することにより、増大されたローディング量を有するにもかかわらず、リチウム電池の巻き取り過程または充放電過程において発生する亀裂などが抑制される。
【0049】
他の一具現例によるリチウム電池は、前述の線形炭素系導電材と第1フッ素系バインダとを含む正極と、負極と、正極と負極との間に配置される電解質とを含む。
前述のバインダと線形炭素系導電材とを含む正極を採用したリチウム電池は、向上したエネルギー密度とサイクル特性とを同時に提供する。例えば、向上したサイクル特性と、4.0mAh/cm2以上のローディング量とを有する正極を採用することにより、向上したサイクル特性と、500Wh/L以上の高エネルギー密度とを有するリチウム電池の具現が可能である。該リチウム電池のエネルギー密度は、例えば、500Wh/L以上、550Wh/L以上、600Wh/L以上、650Wh/L以上、700Wh/L以上または800Wh/Lである。そのようなリチウム電池は、電気車両(EV)のような高エネルギーを要求する用途に適する。
【0050】
該リチウム電池は、その形態が特別に制限されるものではなく、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウム硫黄電池などを含む。該リチウム電池は、リチウム一次電池、リチウム二次電池をいずれも含む。本明細書において、特別に言及がなければ、該リチウム電池は、リチウム二次電池を意味する。また、該リチウム電池は、全固体電池(all solid battery)でもある。
【0051】
該リチウム電池は、例えば、次のような方法によっても製造されるが、必ずしもそのような方法に限定されるものではなく、当該技術分野において使用される他の全ての方法が可能である。
まず、前述の正極が準備される。
【0052】
当該の正極活物質、導電材、バインダ及び溶媒を混合し、正極活物質組成物が準備される。次に、該正極活物質組成物が正極集電体上に直接コーティングされ、正極が製造される。代案としては、該正極活物質組成物が、別途の支持体上にキャスティングされた後、支持体から剥離されたフィルムが金属集電体上にラミネーションされて正極が製造される。
【0053】
該正極活物質組成物に使用される正極活物質は、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含むリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、50mol%以上のニッケルリッチリチウム遷移金属酸化物を含む。該ニッケルリッチリチウム遷移金属酸化物は、例えば、前述の化学式1ないし3で表示されるリチウム遷移金属酸化物である。該正極活物質組成物に使用される導電材は、線形炭素系導電材を単独で含むか、あるいは線形炭素系導電材と粒子状炭素系導電材との混合物を含む。該正極活物質組成物に使用されるバインダは、極性官能基非含有第1フッ素系バインダ、極性官能基含有第2フッ素系バインダ、シアノ基含有第1非フッ素系バインダ及びシアノアルキル基含有第2非フッ素系バインダを含む。該正極活物質組成物に使用される溶媒は、N-メチルピロリドン、アセトンまたは水などであるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において使用されるものであるならば、いずれも可能である。該溶媒の含量は、例えば、正極活物質100重量部を基準に、10ないし100重量部である。
【0054】
該正極活物質組成物は、例えば、正極活物質として、ニッケルリッチリチウム遷移金属酸化物、導電材として、炭素ナノチューブとカーボンブラックとの混合物、バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボン酸基(-COOH)含有ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、水素化されたアクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、及びシアノエチル-ポリビニルアルコール(PVA-CN)の混合物、溶媒として、N-メチルピロリドン(NMP)を使用して製造する。該正極は、例えば、正極活物質97.7wt%、導電材1wt%、バインダ1.3wt%を含む固形粉を準備した後、そのような固形分の70重量%になるように溶媒を添加し、正極活物質スラリーを製造した後、そのようなスラリーを、正極集電体上に、コーティングして乾燥させて圧延して作製する。当該の正極活物質、導電材、一般的なバインダ及び溶媒の含量は、前述の正極部分を参照する。
【0055】
該正極集電体の厚みは、例えば、3μmないし50μmである。当該の正極集電体は、リチウム電池に化学的変化を引き起こさせず、高い導電性を有する材料であるならば、限定されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に、カーボン・ニッケル・チタン・銀などでコーティングしたものなどが使用される。該正極集電体は、集電体表面に、微細な凹凸を形成させ、正極活物質の接着力を高めることが可能であり、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を有する。該正極集電体は、特に、アルミニウムホイルである。該全固体電池の正極は、固体電解質をさらに含んでもよい。
【0056】
次に、負極が準備される。
負極活物質、導電材、バインダ及び溶媒を混合し、負極活物質組成物が準備される。次に、該負極活物質組成物が、負極集電体上に直接コーティングされて乾燥され、負極が製造される。代案としては、該負極活物質組成物が、別途の支持体上にキャスティングされた後、前記支持体から剥離されたフィルムが金属集電体上にラミネーションされ、負極が製造される。
【0057】
該負極活物質は、リチウム金属、リチウムと合金可能な金属、遷移金属酸化物、非遷移金属酸化物及び炭素系材料からなる群のうちから選択された1以上を含むが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、負極活物質として使用されるものであるならば、いずれも可能である。リチウムと合金可能な金属は、例えば、Si、Sn、Al、Ge、Pb、Bi、SbSi-Y合金(Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13~16族元素、遷移金属、希土類元素、またはそれらの組み合わせ元素であり、Siではない)、Sn-Z合金(Zは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13~16族元素、遷移金属、希土類元素、またはそれらの組み合わせ元素であり、Snではない)である。元素Y及びZは、互いに独立して、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Rf、V、Nb、Ta、Db、Cr、Mo、W、Sg、Tc、Re、Bh、Fe、Pb、Ru、Os、Hs、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、Sn、In、Ge、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Po、またはそれらの組み合わせである。該遷移金属酸化物は、例えば、リチウムチタン酸化物、バナジウム酸化物またはリチウムバナジウム酸化物である。該非遷移金属酸化物は、例えば、SnO2、SiOx(0<x<2)、またはシリコン・カーボン複合体(SiC)である。該炭素系材料は、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素、またはそれらの混合物でもある。該結晶質炭素は、例えば、無定形、板状、鱗片状(flake)、球形またはファイバ型の天然黒鉛または人造黒鉛のような黒鉛であり、該非晶質炭素は、例えば、ソフトカーボン(soft carbon:低温焼成炭素)、ハードカーボン(hard carbon)、メゾ相ピッチ(mesophase pitch)炭化物、または焼成されたコークスである。
【0058】
該負極活物質組成物に使用されるバインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリベンジミダゾール、ポリイミド、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアニリン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニルスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンスルホン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、多様な共重合体であるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、負極バインダとして使用されるものであるならば、いずれも可能である。
【0059】
該負極活物質組成物において、導電材、バインダ及び溶媒は、前述の正極活物質組成物に使用される材料と同一の材料を使用することが可能である。当該の負極活物質、導電材、一般的なバインダ及び溶媒の含量は、リチウム電池で一般的に使用されるレベルである。一方、当該の正極活物質組成物及び/または負極活物質組成物に可塑剤をさらに付加し、電極合剤内部に気孔を形成することも可能である。該負極は、例えば、負極活物質94wt%、導電材3wt%、バインダ3wt%を含む固形分を準備した後、そのような固形分の70重量%になるように溶媒を添加し、負極活物質スラリーを製造した後、そのようなスラリーを負極集電体上にコーティングして乾燥させて圧延して作製する。
【0060】
該負極集電体の厚みは、例えば、3μmないし500μmである。該負極集電体は、リチウム電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有する材料であるならば、限定されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、または銅やステンレススチールの表面に、カーボン・ニッケル・チタン・銀などでコーティングしたものなどが使用される。該負極集電体は、集電体表面に、微細な凹凸を形成させ、負極活物質の接着力を高めることが可能であり、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を有する。該負極集電体は、特に、銅ホイルである。全固体電池の負極は、固体電解質をさらに含んでもよい。
【0061】
次に、正極と負極との間に挿入される分離膜が準備される。
該分離膜は、リチウム電池で一般的に使用されるものであるならば、いずれも使用可能である。電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら、電解液含湿能にすぐれるものが使用される。例えば、ガラスファイバ、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせ物のうちから選択され、不織布形態が一般的であるが、織布形態も可能である。該リチウムイオン電池には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのような巻き取り可能な分離膜が使用され、リチウムイオンポリマー電池には、例えば、電解質含浸能にすぐれる分離膜が使用される。
【0062】
該分離膜は、例えば、下記方法によって製造される。
高分子樹脂、充填剤及び溶媒を混合し、分離膜組成物が準備される。該分離膜組成物が、例えば、電極上部に直接コーティングされて乾燥されて分離膜が形成される。代案としては、分離膜組成物が支持体上にキャスティングされて乾燥された後、支持体から剥離させた分離膜フィルムが電極上部にラミネーションされ、分離膜が形成される。該分離膜製造に使用される高分子樹脂は、特別に限定されるものではなく、電極のバインダとして使用される物質であるならば、いずれも使用可能である。該分離膜製造に使用される高分子樹脂は、例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、またはそれらの混合物などである。
【0063】
次に、正極と負極との間に配置される電解質が準備される。
該電解質は、例えば、有機電解液である。該有機電解液は、例えば、有機溶媒に、リチウム塩が溶解されて製造される。該有機溶媒は、当該技術分野において、有機溶媒として使用されるものであるならば、いずれも可能である。該有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、スルホラン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジエチレングリコール、ジメチルエーテル、またはそれらの混合物などである。リチウム塩も、当該技術分野において、リチウム塩として使用されるものであるならば、いずれも可能である。該リチウム塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、LiAlO2、LiAlCl4、LiN(CxF2x+1SO2)(CyF2y+1SO2)(ただし、x、yは、自然数である)、LiCl、LiI、またはそれらの混合物などである。
【0064】
例示的な他の1つの電解質は、前述の有機電解液以外に、非水電解液、有機固体電解質、無機固体電解質などを追加して含む。該有機固体電解質は、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキサイド誘導体、ポリプロピレンオキサイド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合体などである。該無機固体電解質は、窒化物系固体電解質、酸窒化物系固体電解質、硫化物系固体電解質などである。該無機固体電解質は、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N-LiI-LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4-LiI-LiOH、Li3PO4-Li2S-SiS2などである。
【0065】
図5を参照すれば、例示的な1つのリチウム電池1は、正極3、負極2及び分離膜4を含む。正極3、負極2及び分離膜4が巻回されるか、あるいは折り畳まれ、電池ケース5に収容される。次に、電池ケース5に電解質が注入され、キャップ(cap)アセンブリ6に密封され、リチウム電池1が完成される。電池ケース5は、例えば、円筒状、角形、薄膜型などである。図面に図示されていないが、例示的な他の1つのリチウム電池は、正極と負極との間に分離膜が配置され、電池構造体が形成される。該電池構造体がバイセル構造に積層された後、電解質に含浸され、得られた結果物がパウチに収容されて密封されれば、リチウムイオンポリマー電池が完成される。また、該電池構造体は、複数個積層されて電池パックを形成し、そのような電池パックが、高容量及び高出力が要求される全ての機器に使用される。例えば、ノート型パソコン、スマートフォン、電気車両(EV)などに使用される。リチウム電池は、例えば、電池駆動モータによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気車両(EV)、ハイブリッド電気車両(HEV:hybrid electric vehicle)、プラグ・インハイブリッド電気車両(PHEV:plug-in hybrid electric vehicle)などを含む電気車両;電気自転車(E-bike)、電気スクータ(E scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどに使用されるが、それらに限定されるものではない。
【0066】
本明細書において、アルキルとは、完全飽和された分枝状または非分枝状(あるいは、直鎖または線形)炭化水素を指す。
【0067】
「アルキル」の非制限的な例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、n-ヘプチルなどを挙げることができる。
【0068】
「アルキル」中の1以上の水素原子は、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されたC1-C20アルキル基(例:CCF3、CHCF2、CH2F、CCl3など)、C1-C20アルコキシ基、C2-C20アルコキシアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン、ヒドラゾン、カルボン酸基やその塩、スルホニル基、スルファモイル(sulfamoyl)基、スルホン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩、C1-C20アルキル基、C2-C20アルケニル基、C2-C20アルキニル基、C1-C20ヘテロアルキル基、C6-C20アリール基、C6-C20アリールアルキル基、C6-C20ヘテロアリール基、C7-C20ヘテロアリールアルキル基、C6-C20ヘテロアリールオキシ基、C6-C20ヘテロアリールオキシアルキル基またはC6-C20ヘテロアリールアルキル基でも置換される。
【0069】
用語「ハロゲン」は、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素などを含む。用語「シアノ」は、-CNを指す。用語「シアノアルキル」は、-R-CNを指し、Rは、「アルキル」を指す。
【実施例】
【0070】
以下の実施例及び比較例を介して、例示的な具現例についてさらに詳細に説明する。ただし、該実施例は、技術的思想を例示するためのものであり、それらだけで本技術的思想の範囲が限定されるものではない。
【0071】
(正極及びリチウム電池の製造)
〔比較例1〕NCM 96wt%、CB 2wt%、mPVDF 0.2wt%、PVDF 1.6wt%、NBR 0.2wt%-without CNT(活物質:導電材:バインダ=96:2:2)
第1非フッ素系バインダ溶液(NBR、水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダがNMPに分散されたバインダ溶液、BM-720H、重量平均分子量=300,000g/mol、Tg=-30℃、Nippon Zeon Co.Ltd.、日本)に、導電材として、縦横比2未満の粒子状カーボンブラック(Ketjen black ECP、EC300J、AkzoNobel)を投入し、自転公転撹拌機(planetary centrifugal mixer;Thinky mixer、Thinky Corporation、米国)で、2,000rpmで10分間何回も撹拌し、導電材スラリーを製造した。
【0072】
第1フッ素系バインダ溶液(mPVDF、カルボン酸基(-COOH)含有改質PVDF、SOLEF 5130、重量平均分子量=1,000,000g/mol、Solvay、ベルギー)と、正極活物質であるLiNi0.88Co0.08Mn0.04O2とを導電材スラリーに添加し、シンキーミキサ(Thinky mixer)で、1,000rpmで5分間撹拌し、第1活物質スラリーを製造した。
【0073】
該第1活物質スラリーに、第2フッ素系バインダ溶液(PVDF、SOLEF 6020、重量平均分子量=700,000g/mol、Solvay、ベルギー)を添加し、シンキーミキサ(Thinky mixer)で、1,000rpmで5分間撹拌し、第2活物質スラリーを製造した。
【0074】
12μm厚のアルミニウムホイル上に、第2活物質スラリーをコーティングした後、110℃で2時間乾燥させた後で圧延し、ローディング量(loading levelまたはcapacity per unit area)6.0mAh/cm2及び合剤密度3.6g/ccの正極板を製造した。
【0075】
該正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比は、96:2:2であり、該バインダに含まれる第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比は、0.2:1.6:0.2であった。
【0076】
炭素ナノチューブ含量は、0重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、正極活物質、導電材及びバインダの総重量に対して、0.2重量%であった。
該正極板を使用し、コインセル(CR2032型)を製造した。コインセル製造時、対極(counter electrode)としては、金属リチウム(Li metal)を使用し、分離膜として、厚み20μmポリエチレン分離膜(separator、Star(登録商標) 20)を使用し、電解質としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC):エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジメチルカーボネート(DMC)(7:7:46:40体積比)混合溶媒に、ビニレンカーボネート(VC)1.5wt%が添加され、1.15M LiPF6が溶解されたものを使用した。
【0077】
〔比較例2〕NCM 95wt%、CB 2.5wt%、mPVDF 0wt%、PVDF 2.5wt%、NBR 0wt%-without NBR(活物質:導電材:バインダ=95:2.5:2.5)
正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比が95:2.5:2.5であり、バインダに含まれる第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比が0:2.5:0になるように、含量比を変更したことを除いては、比較例1と同一の方法で正極板を製造した。
炭素ナノチューブ含量は、0重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、0重量%であった。
比較例1と同一の方法で、コインセルを製造した。
【0078】
〔比較例3〕NCM 97.7wt%、CNT+CB 1.86wt%、mPVDF 0.0wt%、PVDF 0.1wt%、NBR 0.34wt%-CNT 1.3%(活物質:導電材:バインダ=97.7:1.86:0.44)without mPVDF
正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比が97.7:1.86:0.44であり、バインダに含まれる第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比が0.0:0.1:0.34になるように、含量比を変更したことを除いては、比較例1と同一の方法で、正極板を製造した。
炭素ナノチューブ含量は、1.3重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、0.0重量%であった。
比較例1と同一の方法で、コインセルを製造した。
【0079】
〔実施例1〕NCM 97.7wt%、CNT+CB 1.86wt%、mPVDF 0.1wt%、PVDF 0.0wt%、NBR 0.34wt%-CNT 1.3wt%(活物質:導電材:バインダ=97.7:1.86:0.44)
正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比が97.7:1.86:0.44であり、第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比が0.1:0.0:0.34になるように、含量比を変更したことを除いては、比較例1と同一の方法で、正極板を製造した。
炭素ナノチューブ含量は、1.3重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、0.1重量%であった。
比較例1と同一の方法で、コインセルを製造した。
【0080】
〔実施例2〕NCM 97.7wt%、CNT+CB 1.86wt%、mPVDF 0.05wt%、PVDF 0.05wt%、NBR 0.34wt%-CNT 1.3wt%(活物質:導電材:バインダ=97.7:1.86:0.44)
正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比が97.7:1.86:0.44であり、バインダに含まれる第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比が0.05:0.05:0.34になるように、含量比を変更したことを除いては、比較例1と同一の方法で、正極板を製造した。
炭素ナノチューブ含量は、1.3重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、0.05重量%であった。
比較例1と同一の方法で、コインセルを製造した。
【0081】
〔実施例3〕NCM 97.7wt%、CNT+CB 1.0wt%、mPVDF 0.2wt%、PVDF 0.9wt%、NBR 0.2wt%-CNT 0.7wt%(活物質:導電材:バインダ=97.7:1.0:1.3)
導電材として、カーボンブラック単独の代わりに、縦横比10以上の線形炭素ナノチューブ(CNT)と、縦横比2未満の粒子状カーボンブラック(Ketjen black ECP、EC300J、AkzoNobel)との7:3重量比混合物を使用し、正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比が97.7:1:1.3であり、バインダに含まれる第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比が0.2:0.9:0.2になるように、含量比を変更したことを除いては、比較例1と同一の方法で、正極板を製造した。
炭素ナノチューブ含量は、0.7重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、0.2重量%であった。
比較例1と同一の方法で、コインセルを製造した。
【0082】
〔実施例4〕NCM 97.7wt%、CNT+CB 1.3wt%、mPVDF 0.2wt%、PVDF 0.54wt%、NBR 0.26wt%-CNT 0.9wt%(活物質:導電材:バインダ=97.7:1.3:1.0)
正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比は、97.7:1.3:1であり、バインダに含まれる第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比が0.2:0.54:0.26になるように、含量比を変更したことを除いては、比較例1と同一の方法で、正極板を製造した。
炭素ナノチューブ含量は、0.9重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、0.2重量%であった。
比較例1と同一の方法で、コインセルを製造した。
【0083】
〔実施例5〕NCM 97.7wt%、CNT+CB 1.57wt%、mPVDF 0.2wt%、PVDF 0.22wt%、NBR 0.31wt%-CNT 1.1wt%(活物質:導電材:バインダ=97.7:1.57:0.73)
正極に含まれる正極活物質、導電材及びバインダの重量比が97.7:1.57:0.73であり、バインダに含まれる第1フッ素系バインダ(m-PVDF)、第2フッ素系バインダ(PVDF)及び第1非フッ素系バインダ(NBR)の重量比が0.2:0.22:0.31になるように、含量比を変更したことを除いては、比較例1と同一の方法で、正極板を製造した。
炭素ナノチューブ含量は、1.1重量%であった。第1フッ素系バインダの含量は、0.2重量%であった。
比較例1と同一の方法で、コインセルを製造した。
【0084】
〔評価例1〕剥離強度(peel strength)評価
実施例1,3及び4、並びに比較例1で製造された正極板に対して、ASTM D3330に準ずる方法で剥離強度を測定した。測定に使用された機器は、UTM、Instron 3345であった。
【0085】
実施例1,3、及び4、並びに比較例1で製造された集電体両面に、活物質層が配置された正極板を25mm×150mmサイズに切断し、それぞれ20枚の試片を準備した。常温で、ガラス基板上に接着剤をコーティングした後、接着剤上に正極板を付着させ、ロールプレシングした後、正極板の一端を180°折り曲げた後、一端の反対方向に、100mm/minの速度で引っ張りながらかかる力を測定した。評価結果を、下記表1に示した。亀裂(break)発生率は、全体試片において、正極板を180°折り曲げる過程において、接着剤と接触しない正極板一面の正極活物質層で亀裂が発生した試片数を百分率で示した値である。剥離強度は、20枚の試片の平均値である。
【0086】
【0087】
表1から分かるように、比較例1の正極に比べ、実施例1,3及び4の正極において、剥離強度が上昇した。
従って、実施例1,3及び4の正極は、比較例1の正極に比べ、さらに少ないバインダ含量にもかかわらず、顕著に向上した正極活物質層と集電体との結着力(adhesive force)、及び/または正極活物質層の凝集力(cohesive force)を有することを確認した。
【0088】
また、比較例1の正極においては、亀裂発生率が100%であったが、実施例1,3及び4の正極においては、活物質層の亀裂発生率が90%以下に低下し、実施例1においては、亀裂が発生しなかった。
従って、実施例1,3及び4の正極は、比較例1の正極に比べ、さらに少ないバインダ含量にもかかわらず、向上した柔軟性を有するということを確認した。
【0089】
〔評価例2〕曲げ強度(bending strength)評価
実施例1,3,4及び比較例1で製造された正極板に対して、ASTM D790に準ずる方法で、曲げ強度(bending strength、3-point bending test)を測定した。
実施例1,3,4及び比較例1で製造された正極板を、15mm×20mmサイズに切断して試片を準備した。3地点曲げ方式で、10mm間隔である、第1地点と第2地点との間に試片を配置し、試片の真ん中(第3地点)を、プローブ(probe)で、試片厚方向に一定速度で押し、曲げテスト(bending property test)を実施した。第3地点の厚み方向移動速度5mm/minで移動しながらかかる力を測定した。測定結果を、下記表2、
図1及び
図2に示した。最大曲げ強度(maximum bending forceまたはmaximum bending strength)は、プローブの移動距離によって試片にかかる力の最大値である。
【0090】
【0091】
表2及び
図1から分かるように、実施例1,3及び4の正極の最大曲げ強度は、比較例1の正極の最大曲げ強度に比べて低かった。
図1から分かるように、実施例1の正極の最大曲げ強度は、実施例4に比べてさらに低かったが、曲げ強度が低下される傾きは、さらに緩やかであった。
【0092】
従って、実施例1,3及び4の正極は、比較例1の正極に比べ、さらに少ないバインダ含量にもかかわらず、向上した柔軟性を有するということを確認した。
また、
図2から分かるように、実施例1の正極は、曲げ試験後、大きな曲げ/ベンディング角度(左側試片2枚90°、右側試片2枚180°)までフィンガプレシング(finger-pressing)した後にも、破断されずに曲げられた状態を維持した。
【0093】
〔評価例3〕インピーダンス評価
実施例1,3及び5、並びに比較例2で製造されたリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフ(cut-off)した。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.2C rateの定電流で放電した(化成段階)。
【0094】
化成段階を経たリチウム電池に対し、 25℃で0.5C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.5C rateの定電流で放電した(初回サイクル)。そのような充放電サイクルを50回反復した。全ての充放電サイクルにおいて、1つの充電/放電サイクル後、20分間の休止時間を置いた。
【0095】
50サイクル充放電が終わった後、リチウム電池に対し、45℃で0.5C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフして充電を完了した。
【0096】
充電されたリチウム電池に対し、インピーダンス分析機(Biologic VMP3、Potentio Electrochemical Impedance Spectroscopy)を使用し、インピーダンスを測定した。1MHzないし100mHzの周波数領域で、10mVの振幅(amplitude)の交流を利用して測定した。測定されたナイキストプロットで、界面抵抗(interfacial resistance)を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0097】
【0098】
表3から分かるように、実施例1,3及び5の正極を含むリチウム電池は、比較例2の正極を含むリチウム電池に比べ、インピーダンスが低下した。
すなわち、実施例1,3及び5の正極が、0.1重量%以上の線形炭素系導電材を含むことにより、界面抵抗が顕著に低減されたことを示している。
【0099】
〔評価例4〕常温(25℃)充放電特性評価-CNT含量
実施例1及び比較例2で製造されたリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.2C rateの定電流で放電した(化成段階)。
【0100】
化成段階を経たリチウム電池に対し、25℃で0.5C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.5C rateの定電流で放電した(初回サイクル)。そのような充放電サイクルを50回反復した。全ての充放電サイクルにおいて、1つの充電/放電サイクル後、20分間の休止時間を置いた。
【0101】
充放電実験結果の一部を、下記表4及び
図3に示した。50回目サイクルでの容量維持率は、下記数式1で定義される。
(数式1)
容量維持率=[50回目サイクルでの放電容量/初回サイクルでの放電容量]×100
【0102】
【0103】
表4及び
図3から分かるように、ローディング量6mAh/cm
2である正極を採用することにより、高いエネルギー密度を有する実施例1のリチウム電池は、比較例2のリチウム電池に比べ、常温寿命特性が顕著に向上した。
比較例2のリチウム電池は、約30サイクルまで、実施例1のリチウム電池と類似した容量維持率を示しているが、約30サイクル後、容量維持率が急激に低下した。
従って、正極において、線形炭素系導電材含量が0.1重量%未満である場合、常温寿命特性が顕著に低下するということを確認した。
【0104】
〔評価例5〕常温(25℃)充放電特性評価-mPVDF含量
実施例1、実施例2、比較例3で製造されたリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.2C rateの定電流で放電した(化成段階)。
【0105】
化成段階を経たリチウム電池に対し、25℃で0.5C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.5C rateの定電流で放電した(初回サイクル)。そのような充放電サイクルを50回反復した。全ての充放電サイクルにおいて、1つの充電/放電サイクル後、20分間の休止時間を置いた。
【0106】
充放電実験結果の一部を、下記表5及び
図4に示した。50回目サイクルでの容量維持率は、下記数式2で定義される。
(数式2)
容量維持率=[50回目サイクルでの放電容量/初回サイクルでの放電容量]×100
【0107】
【0108】
表5及び
図4から分かるように、ローディング量6mAh/cm
2である正極を採用することにより、高いエネルギー密度を有する実施例1及び2のリチウム電池は、比較例3のリチウム電池に比べ、常温寿命特性が顕著に向上した。
【0109】
比較例3のリチウム電池は、約30サイクルまで、実施例1及び2のリチウム電池と類似した容量維持率を示しているが、約30サイクル後、容量維持率が急激に低下した。
従って、正極において、極性官能基含有第1フッ素系バインダを含まない場合、常温寿命特性が顕著に低下するということを確認した。
【0110】
〔評価例6〕常温高率特性評価
実施例1,3及び比較例1で製造されたリチウム電池に対し、25℃で0.1C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.1C rateの定電流で放電した(初回サイクル、化成サイクル)。
【0111】
初回サイクルを経たリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.2C rateの定電流で放電した(2回目サイクル)。
【0112】
2回目サイクルを経たリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.5C rateの定電流で放電した(3回目サイクル)。
【0113】
3回目サイクルを経たリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、1.0C rateの定電流で放電した(4回目サイクル)。
【0114】
4回目サイクルを経たリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、2.0C rateの定電流で放電した(5回目サイクル)。
【0115】
5回目サイクルを経たリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、3.0C rateの定電流で放電した(6回目サイクル)。
【0116】
6回目サイクルを経たリチウム電池に対し、25℃で0.2C rateの電流で、電圧が4.35V(対Li)に至るまで定電流充電し、続けて、定電圧モードで4.35Vを維持しながら、0.05C rateの電流でカットオフした。次に、放電時、電圧が2.8V(対Li)に至るまで、0.5C rateの定電流で放電した(7回目サイクル)。
【0117】
前記全ての充放電サイクルにおいて、1つの充電/放電サイクル後、20分間の休止時間を置いた。
前記充放電実験結果の一部を、下記表6に示した。高率特性は、下記数式3あるいは4によってそれぞれ定義される。
(数式3)
2C高率特性[%]=[5回目サイクルでの放電容量(2C rate)/2回目サイクルでの放電容量(0.2C rate)]×100
(数式4)
3C高率特性[%]=[6回目サイクルでの放電容量(3C rate)/2回目サイクルでの放電容量(0.2C rate)]×100
【0118】
【0119】
表6から分かるように、線形炭素系導電材を0.1重量%以上含む実施例1及び3のリチウム電池は、優秀な高率特性を提供した。
また、表に示されていないが、実施例1及び実施例3のリチウム電池は、線形炭素系導電材を含まない比較例1のリチウム電池に比べ、高率特性が向上した。
【0120】
また、線形炭素系導電材を1.0重量%以上含む実施例1のリチウム電池は、線形炭素系導電材含量が少ない実施例3のリチウム電池に比べても、高率特性が顕著に向上した。
また、図面に図示されていないが、線形炭素系導電材を含まない比較例1のリチウム電池は、実施例1及び実施例3のリチウム電池に比べ、サイクル特性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の、正極、及びそれを含むリチウム電池は、例えば、電力供給関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 リチウム電池
2 負極
3 正極
4 分離膜
5 電池ケース
6 キャップアセンブリ