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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】シリコーン層を含む積層体の切断方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019218741
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021089935
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 昌保
(72)【発明者】
【氏名】尼子 雅章
(72)【発明者】
【氏名】須藤 学
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伸
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-260211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0104929(US,A1)
【文献】特開2003-001457(JP,A)
【文献】特開2012-169573(JP,A)
【文献】特開2019-122966(JP,A)
【文献】特開2016-025282(JP,A)
【文献】特開2017-056465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0181309(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(I):基材及び、前記基材と密着した少なくとも一層のシリコーン層を積層させて積層体を得る工程と、
工程(II):前記工程(I)で得られた前記積層体の切断予定面の内部または外部表面にレーザー光を照射する工程と、
工程(III):前記工程(II)の終了後、前記基材及び前記基材と密着した少なくとも一層のシリコーン層を含む前記積層体を個片化する工程と、
を少なくとも含み、
前記シリコーン層の引張り強さが20MPa以下または、前記シリコーン層の破断伸びが100%以下である、シリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項2】
前記工程(II)が、
工程(II-1):前記切断予定面に対して平行な面内を通るレーザー光を照射する工程、または
工程(II-2):前記切断予定面内の一点以上に、少なくとも2以上のレーザー光を集光して焦点を形成する工程、
から選ばれる1以上のレーザー光を照射する工程であり、当該工程により、前記積層体の前記切断予定面が切断または改質されることを特徴とする、請求項1に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項3】
前記工程(II)が、
工程(II-2-A):前記切断予定面内の少なくとも2点に、それぞれ少なくとも1以上のレーザー光を集光して焦点を形成する工程、
であり、前記焦点のうち少なくとも一点が、前記シリコーン層の内部または前記シリコーン層と前記基材との界面の近傍に形成されることを特徴とする、請求項1に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項4】
前記工程(III)が、前記積層体を、切断面または前記切断予定面に対して垂直方向にダイシングテープを用いて引き延ばす方法により、前記積層体を個片化する工程である、請求項1に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項5】
前記シリコーン層が、(A1)硬化反応性シリコーン組成物、(A2)硬化反応が完了したシリコーン硬化反応物、(A3)硬化反応性を有するシリコーン硬化反応物及び、(A4)非硬化反応性シリコーンから選ばれるシリコーン層である、請求項1から4のいずれか一項に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項6】
前記シリコーン層が、(1)光学機能層、(2)接着剤層、(3)熱的機能層、(4)導電層、及び(5)応力緩和層から選ばれる1種類以上の機能を有する層である、請求項1からのいずれか一項に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項7】
前記基材が、シリコンウェハ、ガラスウェハ、セラミック、サファイヤ、ゴム、熱可塑性樹脂及び熱伝導性板から選ばれる1種類以上である、請求項1からのいずれか一項に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項8】
前記基材が電気回路を有する、請求項に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項9】
前記基材及び、前記基材と密着した少なくとも一層の前記シリコーン層からなる構造単位を1または2以上含むシリコーン層を含む積層体である、請求項1からのいずれか一項に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【請求項10】
前記工程(I)が、真空ラミネーション、大気圧ラミネーション、ホットロールラミネーション、スピンコーティング、ダイコーティング、トランスファー成形、射出成型、及び圧縮成型から選ばれる1種類以上の工程により、前記基材と前記シリコーン層とを積層させる工程である、請求項1からのいずれか一項に記載のシリコーン層を含む積層体の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を積層体へ照射することにより、シリコーン層を含む積層体を切断する方法に関するものである。本発明に係る方法は、工業的生産効率に優れ、切断時のダストの発生が抑制され、かつ、シリコーン層及び基材に対するダメージを与えることなく、両者が一体化した積層体について、端部の凹凸がほとんど生じない形態で切断可能である。
【背景技術】
【0002】
最近の半導体チップの薄膜化、小チップ化への発展は目覚ましく、特に、メモリカードやスマートカードのような半導体ICチップが内蔵されたICカードでは薄膜化が要求されている。LED・LCD駆動用デバイスなどでは、小チップ化が要求されている。今後、これらの需要が増えるにつれ、半導体チップの薄膜化、小チップ化のニーズはより一層高まるものと考えられる。また、半導体チップ上に、例えばシリコーンからなる、光学機能、熱的機能、導電機能等を有する機能層を設けた積層体チップのニーズも高まるものと考えられる。
【0003】
これらの半導体チップは、電子回路が集積された半導体ウェハを、バックグラインド工程やエッチング工程等において所定厚みに薄膜化し、次いで、ダイシング工程において個々のチップに分割することにより得られる。特にチップが積層体チップである場合、半導体ウェハを個片化したのち、個々に機能層を設けるのは困難であるため、ウェハ状態で積層化したのち、ダイシング工程を行って個々のチップに分割することが好適である。
【0004】
このダイシング工程においては、従来より、ダイシングブレードにより半導体ウェハを切断する、ブレードダイシング方式が用いられてきた。ブレードダイシング方式では、切断の際、ブレードによる切削抵抗が半導体ウェハに直接加えられる。そのため、この切削抵抗によって、半導体チップに微小な欠け(チッピング)が発生することがある。チッピング発生は半導体チップの外観を損なうだけでなく、場合によっては抗折強度不足によるピックアップ時のチップ破損を招き、チップ上の回路パターンまで破損する可能性がある。また、ウェハの切削に伴いダストが発生するため、水で洗浄を行いながらダイシングを行う、いわゆるウェットプロセスを必要とする。また、ブレードダイシング方式は、ブレードによる物理的な切削工程を利用するため、チップ同士の間隔であるカーフ(スクライブライン、ストリートともいう)の幅を、厚みのあるブレード幅よりも狭小化することができない。その結果、1枚のウェハから得られるチップの数(収率)は少なくなる。さらに、ウェハの加工時間が長いという問題がある。
【0005】
また、ウェハが、例えばシリコンウェハなどの基材と、シリコーン層などの、基材上に設けられた層とを含む積層体である場合には、各層の硬度、粘度、摩擦係数、弾性係数などの物性の違いにより、異なる問題が生じる可能性がある。例えば、シリコーン層などの柔らかい層を切断する場合、ダイシングにより生じるダストがブレードに付着し、このダストがウェハの表面を汚染したり、チップにチッピングや形状の歪みを生じたり、摩擦熱により層が焼損したりする可能性がある。この問題は、特に、シリコーン層がガム状または高い粘度を有する場合に顕著でありうる。また、柔らかい層が、固い基材とダイシングブレードとの間で圧力により変形し、切断面が直線状とならない可能性がある。
【0006】
ブレードダイシング方式以外にも、ダイシング工程として様々な方式が利用されている。例えば、ウェハを薄膜化した後にダイシングを行うのは困難であるため、先に所定の深さの溝をブレードダイシングでウェハに形成し、次いで研削加工を行って薄膜化及びチップへの個片化を同時に行うDBG(Dicing Before Glinding,先ダイシング)方式がある。この方式は、チップの抗折強度が増大し、チップの破損を抑制できるという利点がある。しかし、溝の形成は従来のブレードダイシングで行うため、カーフ幅はブレードダイシング工程と同様である。また、溝の形成時にダストが発生するため水による洗浄や、ダストによる表面の汚染を生じうる。
【0007】
また、別の方式として、ダイシングをレーザーで行う、レーザーダイシング方式が用いられている。レーザーダイシング方式によればカーフ幅を狭くできる。また、ダストが発生しないため、洗浄が不要であり、ドライプロセスとなる利点もある。レーザーダイシング方式はブレードダイシングよりも処理速度を高速化できるが、依然として1ラインずつ加工しなければならず、特に極小チップの製造には時間を要する。また、レーザーダイシング方式には、レーザーによる切断時に生じる昇華物がウェハ表面に付着し、汚れが生じるという欠点がある。そのため、所定の液状保護剤でウェハ表面を保護する前処理を必要としうる。また、完全なドライプロセスを実現するには至っていない。
【0008】
特許文献1には、シリコンウェハなどの半導体ウェハと、粘着剤層を介して基材上に設けられた樹脂などの層とを含む積層体にレーザーを照射し、ダイシングを行う方法が開示されている。しかし、この方法では、各層の硬度、粘度、弾性係数などの物性の違いにより、分割が良好に行われない可能性がある。
【0009】
また、ダイシングを水圧で行うウォータージェット方式などのウェットプロセスも用いられうる。しかし、この方式では、カーフ幅の狭小化には制約があり、得られるチップの収率も低くなる。また、ウェットプロセスであるため、MEMSデバイスやCMOSセンサーなど、表面汚染を高度に抑えることが必要な材料において問題が起きる可能性がある。
【0010】
また、改質層をウェハの厚み方向にレーザーで形成し、次いでウェハをエキスパンドして分断することにより、チップを個片化する、いわゆるステルスダイシング方式(登録商標)も知られている(例えば、特許文献2、3)。この方式は、カーフ幅をゼロにでき、ドライプロセスで加工できるという利点を有する。しかし、改質層形成時の熱履歴によりチップ抗折強度が低下する傾向があり、また、エキスパンドによる分割の際に、ウェハ材料に起因するダストが発生する場合がある。さらに、隣接するチップが互いに衝突し、抗折強度不足を引き起こす可能性がある。またさらに、ウェハが、例えばシリコンウェハなどの基材と、シリコーン層などの、基材上に設けられた層とを含む積層体である場合には、各層の硬度、粘度、弾性係数などの物性の違いにより、分割が良好に行われない可能性がある。
【0011】
さらに、ステルスダイシング(登録商標)と先ダイシングを合わせた方式として、狭スクライブ幅対応チップ個片化方式が挙げられる。この方式は、薄膜化の前に、所定の厚み分だけ改質層を形成し、次いで裏面研削加工を行って薄膜化及びチップへの個片化を同時に行う。この技術は、前述のプロセスの欠点を改善したものであり、ウェハ裏面研削加工中に、応力でシリコンの改質層が劈開し、個片化する。そのため、この技術は、カーフ幅がゼロであり、チップ収率が高く、抗折強度も増大するという利点を有する。しかし、裏面研削加工中に個片化されるため、チップ端面が隣接するチップと衝突して、チップコーナーが欠ける現象がみられる場合がある。またさらに、ウェハが、例えばシリコンウェハなどの基材と、シリコーン層などの、基材上に設けられた層とを含む積層体である場合には、各層の硬度、粘度、弾性係数などの物性の違いにより、分割が良好に行われない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許出願公開第2005-252094号公報
【文献】特許第3408805号公報
【文献】特許第4733934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、工業的生産効率に優れ、切断時のダストの発生が抑制され、高いチップ収率及び、製造されたチップが高い抗折強度を有する、積層体の切断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の解決手段を提供する。
【0015】
本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、工程(I):基材及び、基材と密着した少なくとも一層のシリコーン層を積層させて積層体を得る工程と、
工程(II):工程(I)で得られた積層体の切断予定面の内部または外部にレーザー光を照射する工程と、
工程(III):工程(II)の終了後、基材及び基材と密着した少なくとも一層のシリコーン層を含む積層体を個片化する工程と、
を少なくとも含む。
【0016】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、工程(II)が、
工程(II-1):切断予定面に対して平行な面内を通るレーザー光を照射する工程、または
工程(II-2):切断予定面内の一点以上に、少なくとも2以上のレーザー光を集光して焦点を形成する工程、
から選ばれる1以上のレーザー光を照射する工程であり、当該工程により、積層体の切断予定面が切断または改質されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、工程(II)が、
工程(II-2-A):切断予定面内の少なくとも2点に、少なくとも2以上のレーザー光を集光して焦点を形成する工程、
であり、焦点のうち少なくとも一点が、シリコーン層の内部またはシリコーン層と基材との界面の近傍に形成されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、工程(III)が、積層体を、切断面または切断予定面に対して垂直方向にダイシングテープを用いて引き延ばす方法により、積層体を個片化する工程である。
【0019】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、シリコーン層が、(A1)硬化反応性シリコーン組成物、(A2)硬化反応が完了したシリコーン硬化反応物、(A3)硬化反応性を有するシリコーン硬化反応物及び、(A4)非硬化反応性シリコーンから選ばれるシリコーン層である。
【0020】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、シリコーン層の引張り強さが20MPa以下または、シリコーン層の破断伸びが100%以下である。
【0021】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、シリコーン層が、(1)光学機能層、(2)接着剤層、(3)熱的機能層、(4)導電層、及び(5)応力緩和層から選ばれる1種類以上の機能を有する。
【0022】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、基材が、シリコンウェハ、ガラスウェハ、セラミック、サファイヤ、ゴム、熱可塑性樹脂及び熱伝導性板から選ばれる1種類以上である。
【0023】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、基材が電気回路を有する。
【0024】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、積層体が、基材及び、基材と密着した少なくとも一層のシリコーン層からなる構造単位を1または2以上含むシリコーン層を含む。
【0025】
また、本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法は、工程(I)が、真空ラミネーション、大気圧ラミネーション、ホットロールラミネーション、スピンコーティング、ダイコーティング、トランスファー成形、射出成型、及び圧縮成型から選ばれる1種類以上の工程により、基材とシリコーン層とを積層させる工程である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るシリコーン層を含む積層体の切断方法によれば、工業的生産効率に優れ、切断時のダストの発生が抑制され、高いチップ収率及び、製造されたチップが高い抗折強度を有する。
【0027】
本発明の好適な実施形態及びその他の実施形態、並びにそれらの利点は、添付した図面とともに、以下の発明の詳細な説明を参照することにより、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の1つの実施形態に係る積層体を示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る積層体にレーザー光を照射し、チップに分割する方法を示す断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る積層体にレーザー光を照射し、チップに分割する方法を示す断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る積層体にレーザー光を照射した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、基材上に設けられたシリコーン層を含む積層体を切断する方法を提供する。図1は、積層体1を示す断面模式図である。積層体1は、基材12及び、基材12上に密着して設けられたシリコーン層14を含む。
【0030】
基材12は、ウェハ状であり、様々な材料から形成されうるが、例えば、シリコンウェハ、ガラスウェハ、セラミック、サファイヤ、ゴム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、GaN、GaAs、AlN、SiN、チタニア、Al、プラスチック基板、熱可塑性樹脂及び熱伝導性板から選ばれる一種類以上でありうる。基材12は、保護層を含みうる。基材12は、可視光に対して透明、半透明または不透明でありうる。図1では、基材12は単一の材料からなるものとして示しているが、基材12は、それぞれ異なる材料からなる複数の層からなるものでありうる。基材12は、表面にパターンを形成されたものでありうる。基材12は、例えば電子集積回路、発光素子、受光素子、微小電気機械(Micro-Electro-Mechanical Systems,MEMS)素子、受動素子などの電気回路を含むものでありうる。
【0031】
シリコーン層14は、例えば、(A1)硬化反応性シリコーン組成物、(A2)硬化反応性を有しないシリコーン硬化反応物(すなわち、硬化反応が完了したシリコーン硬化反応物)、(A3)硬化反応性を有するシリコーン硬化反応物(すなわち、多段階または継続的な硬化反応性を有するために、全ての硬化反応が完結しておらず、硬化反応が進行可能な状態にあるシリコーン硬化反応物)及び、(A4)非硬化反応性シリコーンから選ばれるシリコーン層でありうる。硬化反応性シリコーン組成物は、例えばヒドロシリル化反応を用いて硬化されうる。
【0032】
シリコーン層14は、様々な機能を有する層でありうる。例えば、シリコーン層14は、(1)光学機能層、(2)接着剤層、(3)熱的機能層、(4)導電層、(5)応力緩和層、(6)保護層などから選ばれる1種類以上の機能を有する層でありうる。例えば、基材12が発光素子または受光素子などである場合、シリコーン層14は、光フィルター層、光回折層、光散乱層、光拡散層、光反射層、光導波路層、光吸収黒色層、UVフォトクロミック層、波長変換層、透過層、位相遅延層などの光学機能層でありうる。また、シリコーン層14は、少なくとも2つの層を物理的に接着する接着剤層でありうる。また、シリコーン層は熱管理層、例えば熱拡散層でありうる。また、シリコーン層は、ダイアタッチフィルム(DAF,Die-Attach Film)ホットメルトによるシリコーン拡散層、シリコーンガム、シリコーン感圧接着剤、ホットメルトシリコーン層でありうる。
【0033】
また、シリコーン層14は、様々な種類のフィラー粒子を含みうる。例えば、フィラー粒子は、シリカ、アルミナ、蛍光体、リン光体、ZnO、Agなどでありうる。
【0034】
シリコーン層14は、例えば25℃で5000Pa.s以上の粘度を有しうる。
【0035】
シリコーン層14は、様々な方法で基材12に設けられうる。例えば、液体状の未硬化シリコーンを基材12にローラーコーティング、スピンコーティング、ダイコーティング、射出成型、圧縮成型などの方法で塗布し、熱処理によって硬化させ、シリコーン層14を設けることができる。また、硬化されたシリコーンの薄膜を、真空ラミネーション、大気圧ラミネーション、ホットロールラミネーション、トランスファー成形などの方法で基材12に貼り付け、シリコーン層14を設けることにより、積層体1を得ることができる。真空ラミネーションを用いる場合、例えば、50から200℃の温度で基材12にラミネートすることができる。
【0036】
シリコーン層14は、基材12に密着して設けられるが、例えば、密着力を向上するために、基材12及びシリコーン層14の表面に、例えばシランカップリング剤の塗布や、プラズマの照射などの表面処理を行うことも可能である。このような表面処理を行った場合であっても、シリコーン層14が基材12に設けられれば、シリコーン層14は基材12に密着する。
【0037】
図1では一層のシリコーン層14を含む積層体1を示しているが、積層体1は、複数のシリコーン層を含むものであってもよい。例えば、複数のシリコーン層は、同じ機能を有する層であってもよく、異なる機能を有する層であってもよい。
【0038】
次に、図2(a)から2(c)を参照して、積層体1をレーザーアブレーション法を用いて切断し、個々のチップに分割する、シリコーン層を含む積層体の切断方法に係る第1の実施形態を説明する。
【0039】
図2(a)は、積層体1をダイシングテープ16に載置する工程を示す断面図である。積層体1は、シリコーン層14がダイシングテープ16と接するように、ダイシングテープ16に載置される。
【0040】
図2(b)は、積層体1の切断予定面102の内部にレーザー光104を照射する工程を示す断面図である。レーザー光104は、ダイシングテープ16を通して切断予定面102に照射される。レーザー光104は、赤外線、可視光、紫外線から選択された特定の波長を有する。レーザー光104は、切断予定面102に対して平行な面内を通りうる。図2(b)は、ダイシングテープ16を通してシリコーン層14に集光され、切断予定面102内に焦点を形成されるレーザー光104を示している。この場合、レーザー光20はシリコーン層14に吸収される波長を有する。異なる実施形態として、レーザー光20を基材12側から照射し、シリコーン層14に集光することもできる。この場合、レーザー光20は基材12に対しては吸収率が小さく、ほとんどが透過するが、シリコーン層14に対する吸収率が大きな波長を有する。さらに異なる実施形態として、レーザー光104を基材12側から照射し、基材12に集光することもできる。この場合、レーザー光104は基材12に対する吸収率が大きな波長を有する。またさらに異なる実施形態として、レーザー光104をシリコーン層14側から照射し、基材12に集光することもできる。この場合、レーザー光104はシリコーン層14に対しては吸収率が小さく、ほとんどが透過するが、基材12に対する吸収率が大きな波長を有する。レーザー光104が切断予定面102において基材12またはシリコーン層14に吸収されると、切断予定面102の物質が加熱され、蒸散する。そのため、レーザー光104を切断予定面102に沿って積層体1の表面を走査させると、積層体1に切断面が形成され、個々のチップ108に分割することができる。なお、切断予定面102の材料を蒸散させることができるのであれば、レーザー光104は、切断予定面102の外部の表面に照射されてもよい。
【0041】
また、図2(b)では1つのレーザー光104を積層体1に照射することが示されているが、例えば、切断予定面102に沿って、一点に2以上のレーザー光を集光して照射してもよい。この場合、各レーザー光のエネルギーを減少させることができるため、レーザー光が通過する経路に与える損傷を低下させることができる。また、例えば、切断予定面102に沿って、深さの異なる2つ以上の位置にレーザー光を集光して焦点を形成してもよい。2つ以上の位置に集光されるレーザー光は、1つの光源から放出されたレーザー光の集光位置を、レンズにより変更することにより実現することができる。レーザー光104を基材12内の位置及びシリコーン層14内の位置にそれぞれ集光させる場合、フィルターや波長変換素子を利用して、基材12内に集光させる場合には基材12に対して大きな吸収率を有する波長、シリコーン層14内に集光させる場合にはシリコーン層14に対して大きな吸収率を有する波長に変換することもできる。また、1つの光源から放出されたレーザー光を複数に分割し、それぞれ異なる位置に集光させてもよい。また、複数の光源から放出された複数のレーザー光を、それぞれ異なる位置に集光させてもよい。複数の位置におけるレーザー光の照射及び集光は、同時に行ってもよく、異なる時間において行ってもよい。
【0042】
また、基材12に吸収される波長を有するレーザー光を基材12に集光し、同時に、または異なる時間において、シリコーン層14に吸収される波長を有する別のレーザー光をシリコーン層14に集光して、積層体1を切断することもできる。このような構成によれば、基材12及びシリコーン層14の両方を確実に切断することが可能になる。また、シリコーン層14が、光拡散、光散乱、光反射などの特性を有する光学機能層である場合には、基材12に吸収される波長を有するレーザー光を、基材12側から入射し、基材12内に集光することが有利でありうる。
【0043】
図2(c)は、チップ108に分割され、個片化された積層体1を示す。レーザー光の照射の終了後、積層体1には切断面が形成される。次いで、ダイシングテープ16が切断面に対して垂直方向にエキスパンドされ、チップ108の間隔が広げられる。そのため、チップ同士を衝突させることなく、容易にチップ108をピックアップすることができる。なお、チップ108の間隔を、超音波、振動その他の外部からの物理的刺激により、切断面に対して垂直方向に広げることもできる。
【0044】
また、図2(a)から2(c)では、積層体1を、シリコーン層14がダイシングテープ16と接するように載置し、ダイシングテープ16側からレーザー光104を入射し、シリコーン層14に集光する例を示した。しかし、積層体1を、基材12がダイシングテープ16と接するように載置することもまた可能である。この場合、基材12に吸収される波長を有するレーザー光をダイシングテープ16側から入射し、基材12内で集光させることも可能であるし、シリコーン層14に吸収される波長を有するレーザー光をシリコーン層14側から入射し、シリコーン層14内で集光させることも可能である。
【0045】
以上のように、第1の実施形態によれば、本方法はカーフ幅が小さく、チップ収率が高い。また、積層体に外力を加えずに切断を行うことができるため、チップの高い抗折強度を維持することができる。さらに、レーザー光により積層体の切断予定面の物質を蒸散させるため、ダストの発生が抑制される。
【0046】
次に、図3(a)から3(c)を参照して、レーザー光による物質の改質により、積層体1を切断し、個々のチップに分割する、シリコーン層を含む積層体の切断方法に係る第2の実施形態を説明する。
【0047】
図3(a)は、積層体1をダイシングテープ16に載置した状態を示す断面図である。積層体1は、シリコーン層14がダイシングテープ16と接するように、ダイシングテープ16に載置される。
【0048】
図3(b)は、積層体1の切断予定面202に2つのレーザー光204、206を照射した状態を示す断面図である。レーザー光204は、ダイシングテープ16を通して、切断予定面202に対して平行な面内を通り、切断予定面202に照射される。レーザー光204は、赤外線、可視光、紫外線から選択された特定の波長を有するが、第1の実施形態と異なり、レーザー光204、206は、基材12及びシリコーン層14のいずれに対しても、吸収率の小さい波長を有する。レーザー光204、206は、切断予定面202に対して平行な面内を通りうる。図3(b)には、レーザー光204が、ダイシングテープ16を通して、シリコーン層14内の切断予定面202に集光され、レーザー206がダイシングテープ16及びシリコーン層14を通して、基材12内の切断予定面202に集光されることが示されている。しかし、レーザー204、206は、基材12の側から、それぞれシリコーン層14及び基材12に集光することもできる。レーザー光204、206がそれぞれシリコーン層14及び基材12に集光すると、集光位置の基材12及びシリコーン層14が、結晶構造の変化や原子の拡散、移動などにより改質され、改質領域210を形成する。改質領域210の形成は、切断予定面202に応力を加え、微小なクラックなどを発生させることもある。レーザー光204、206を切断予定面202に沿って積層体1の表面を走査させると、積層体1の切断予定面202に沿って改質領域210が形成される。
【0049】
レーザー光204、206は、図2(b)に関して説明したのと同様に、1つの光源から放出されたレーザーを複数に分割し、それぞれ異なる位置に集光させてもよい。また、複数の光源から放出されたレーザー光を、それぞれ異なる位置に集光させてもよい。また、それぞれ2以上のレーザーを、各位置に集光させてもよい。複数の位置におけるレーザー光の照射及び集光は、同時に行ってもよく、異なる時間において行ってもよい。また、2つのレーザー光204、206の代わりに、3つ以上のレーザー光を、切断予定面202の異なる深さに集光し、3つ以上の改質領域を形成してもよい。
【0050】
図3(c)は、チップ208に分割され、個片化された積層体1を示す。レーザー光の照射の終了後、積層体1の切断予定面202には改質領域210が形成される。そのため、切断予定面202に沿った開裂/劈開/個片化が容易になる。次いで、ダイシングテープ16が切断予定面202に対して垂直方向にエキスパンドされると、改質領域210に応力が集中し、改質領域210から分離してチップ208に分割される。また、エキスパンドではなく、超音波、振動その他の外部からの物理的刺激を印加することにより切断予定面202を開裂させ、個片化することもできる。
【0051】
図2(a)から2(c)に関して説明した第1の実施形態と同様に、図3(a)から3(c)に関して説明した第2の実施形態においても、積層体1を、基材12がダイシングテープ16と接するように載置することも可能である。この場合においても、レーザー光204、206はダイシングテープ16側から入射してもよいし、シリコーン層14側から入射してもよい。
【0052】
第2の実施形態によれば、レーザー光による積層体の蒸散がないため、カーフ幅が原理的にゼロであり、チップ収率が高い。また、蒸散がないため、ダストが発生せず、積層体の表面が汚染されない。さらに、積層体に加える外力は、改質領域を分離できる程度に小さくすることができるため、チップの高い抗折強度を維持することができる。
【0053】
次に、図4を参照して、レーザー光による物質の改質により、積層体1を切断し、個々のチップに分割する、シリコーン層を含む積層体の切断方法に係る第3の実施形態を説明する。なお、第3の実施形態においては、積層体1をダイシングテープ16に載置する工程及び、ダイシングテープ16をエキスパンドして積層体1を個々のチップに分割し、個片化する工程については、第2の実施形態と同様であり、その詳細な説明は省略する。
【0054】
図4は、第2の実施形態と同様にダイシングテープ16に載置された積層体1の切断予定面302に2つのレーザー光304、306を照射した状態を示す断面図である。レーザー光304、306は、基材12に対して吸収率の小さい波長を有する。レーザー光304、306は、切断予定面302に対して平行な面内を通りうる。レーザー光304は、基材12側から切断予定面302に入射され、基材12内であって、基材12の表面の近傍に第1の改質領域310を形成する。レーザー光306も、基材12側から切断予定面302に入射され、基材12内であって、基材12とシリコーン層14との界面の近傍に第2の改質領域312を形成する。第2の改質領域312の中心と界面との距離は、例えば基材12の厚さの約5%でありうる。
【0055】
第1及び第2の改質領域310、312は、レーザー光304、306の集光により、基材12が結晶構造の変化や原子の拡散、移動などにより改質されることによって形成される。第1及び第2の改質領域310、312の形成は、切断予定面302に応力を加え、微小なクラックなどを発生させることもある。基材12とシリコーン層14との界面の近傍の領域に形成された第2の改質層312は、シリコーン層14にも応力や微小なクラック等を生じさせうる。レーザー光304、306を切断予定面302に沿って積層体1の表面を走査させると、積層体1の切断予定面302に沿って改質領域310が形成される。
【0056】
レーザー光304、306は、図2(b)及び3(b)に関して説明したのと同様に、1つの光源から放出されたレーザーを複数に分割し、それぞれ異なる位置に集光させてもよい。また、複数の光源から放出されたレーザー光を、それぞれ異なる位置に集光させてもよい。複数の位置におけるレーザー光の照射及び集光は、同時に行ってもよく、異なる時間において行ってもよい。また、2つのレーザー光304、306の代わりに、3つ以上のレーザー光を、切断予定面302の異なる深さに集光し、3つ以上の改質領域を形成してもよい。
【0057】
図4に示したレーザー光の照射工程は、特に、シリコーン層14が、光拡散、光散乱、光反射などの特性を有する光学機能層である場合に特に有利でありうる。シリコーン層14が光学機能層である場合、レーザー光を入射しても、レーザー光が光拡散等の光学的な機能の影響を受け、シリコーン層14内に集光して改質層を形成することが困難である場合がありうるからである。
【0058】
図4に示すように第1及び第2の改質領域310、312を形成したのち、第2の実施例と同様にダイシングテープ16をエキスパンドしてチップに分割する。
【0059】
図4に関して説明した第3の実施形態においても、積層体1を、基材12がダイシングテープ16と接するように載置することも可能である。この場合、レーザー光304、306はダイシングテープ16側から基材12に入射されうる。
【0060】
第3の実施形態によれば、レーザー光による積層体の蒸散がないため、カーフ幅が原理的にゼロであり、チップ収率が高い。また、蒸散がないため、ダストが発生せず、積層体の表面が汚染されない。さらに、積層体に加える外力は、改質領域を分離できる程度に小さくすることができるため、チップの高い抗折強度を維持することができる。またさらに、シリコーン層が光学機能層であっても、基材内であって基材とシリコーン層との界面の近傍に改質領域を形成することにより、積層体を容易にチップに分割することができる。
【0061】
前述の第1から第3の実施形態では、積層体を2つのチップに分割する例を示したが、例えば第1の方向に平行な複数の切断予定面及び、第1の方向に対して垂直な第2の方向に平行な複数の切断予定面に沿って積層体を切断し、複数のチップに分割することもできる。また、切断予定面を直線ではなく、折れ線状にすることにより、例えば、六角形、三角形、円形、リング状、穴を有する形状など、正方形、長方形以外の形状を有するチップを製造することもできる。
【0062】
本発明の切断方法において、任意で、レーザー光の照射によるレーザーステルス法と同時に、あるいは、レーザーステルス法による改質領域の形成の前、あるいは、形成の後に、当該切断予定面に対して、レーザーアブレーション方式によるダイシング処理を行ってもよい。レーザーステルス法による改質領域の形成と、レーザーアブレーションダイシング方式によるダイシング処理を同時に、あるいは時差を設けて組み合わせることで、個別の切断方法では円滑な切断および個片化が行えない積層体であっても、積層体をチップに分割、個片化することができる場合がある。
【0063】
また、積層体の準備の際、基材とシリコーン層との密着を強化し、安定させるために、基材にシリコーン層を密着して設けて積層体を製造し、所定の時間(例えば、1時間程度)経過後に積層体の分割を行うこともできる。
【0064】
また、前述の第1から第3の実施形態では、一層の基材12及び少なくとも一層のシリコーン層14を含む積層体1の切断方法について説明した。しかし、例えば、基材及び、基材と密着した少なくとも一層のシリコーン層からなる構造単位を、2以上含む積層体にも、本発明の切断方法は適用されうる。このような積層体は、例えば、基材/シリコーン層/基材またはシリコーン層/基材/シリコーン層の順に積層されたものでありうる。また、基材/シリコーン層/基材/シリコーン層/・・・の順に、任意の数の基材及びシリコーン層を積層したものでありうる。この場合、複数の基材及びシリコーン層のそれぞれの内部に、例えば3点以上の深さにレーザー光を集光させて蒸散または改質層を形成することにより、第1から第3の実施形態で説明された方法と同様の方法で積層体をチップに分割、個片化することができる。
【0065】
ダイシングテープのエキスパンドによる積層体の分割の際、積層体に用いられるシリコーン層の引張強さが大きすぎると、または破断伸びが大きすぎると、シリコーン層が分割されない恐れがある。そこで、シリコーン層の引張り強さは、20MPa以下またはその破断伸びが100%以下であることが好ましい。
【0066】
以上、本発明の実施形態を例示的に説明したが、当業者であれば、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で様々な改変、改良、変形を行うことが可能であることは了解されるべきである。
【符号の説明】
【0067】
1 積層体
12 基材
14 シリコーン層
16 ダイシングテープ
102、202、302 切断予定面
104、204、206、304、306 レーザー光
108、208 チップ
210、310、312 改質領域
図1
図2
図3
図4