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特許7422989多孔質ジルコニア粒子及びタンパク質固定用凝集体
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  • 特許-多孔質ジルコニア粒子及びタンパク質固定用凝集体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】多孔質ジルコニア粒子及びタンパク質固定用凝集体
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20240122BHJP
   G01N 33/551 20060101ALI20240122BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240122BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240122BHJP
   B01D 15/08 20060101ALI20240122BHJP
   C07K 17/00 20060101ALN20240122BHJP
   C07K 1/16 20060101ALN20240122BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20240122BHJP
【FI】
B01J20/06 A
G01N33/551
C01G25/02
B01J20/28 Z
B01D15/08
C07K17/00
C07K1/16
C07K16/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019010342
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020116530
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 且也
(72)【発明者】
【氏名】永田 夫久江
(72)【発明者】
【氏名】笠原 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 淳
(72)【発明者】
【氏名】廣部 由紀
【審査官】本間 友孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189655(JP,A)
【文献】特開平01-294532(JP,A)
【文献】国際公開第2007/021037(WO,A1)
【文献】特表平09-503989(JP,A)
【文献】特開2008-138084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
B01D 15/00-15/42
C01G 25/00-47/00
C07K 1/00-19/00
G01N 33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子であって、
BET法により測定された孔径分布において、
累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径D50が3.20nm以上6.50nm以下であり、
累積細孔容積が全細孔容積の90%となる細孔径D90が10.50nm以上100.00nm以下であるとともに、
全細孔容積が0.10cm/gより大きいことを特徴とし、
表面に、キレート剤が担持されており、
前記キレート剤は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種である多孔質ジルコニア粒子。

【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子であって、
BET法により測定された孔径分布において、
累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径D50が3.20nm以上6.50nm以下であり、
累積細孔容積が全細孔容積の90%となる細孔径D90が10.50nm以上100.00nm以下であるとともに、
全細孔容積が0.10cm/gより大きいことを特徴とし、
表面に、キレート剤が担持されており、
前記キレート剤は、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸である多孔質ジルコニア粒子。
【請求項3】
前記タンパク質は、免疫グロブリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項4】
前記免疫グロブリンは、IgG、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の多孔質ジルコニア粒子が凝集してなることを特徴とするタンパク質固定用凝集体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質ジルコニア粒子及びタンパク質固定用凝集体に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のタンパク質を選択的に吸着させることで、特定タンパク質を分離精製するカラムが検討されている。
例えば、特許文献1では、この目的のために多孔質ジルコニア粒子を採用した技術が開示されている。この技術では、多孔質ジルコニア粒子の表面に、タンパク質を吸着させるリガンドとしてのプロテインAを結合させることで、選択性(特異性)を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-47365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術は、プロテインAを用いているため、コストが高いという課題があった。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、安価であり、しかも、特定タンパク質を固定する特異性が高い多孔質ジルコニア粒子を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子であって、
BET法により測定された孔径分布において、
累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径D50が3.20nm以上6.50nm以下であり、
累積細孔容積が全細孔容積の90%となる細孔径D90が10.50nm以上100.00nm以下であるとともに、
全細孔容積が0.10cm/gより大きいことを特徴とする多孔質ジルコニア粒子。
【0006】
〔2〕前記タンパク質は、免疫グロブリンであることを特徴とする〔1〕に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【0007】
〔3〕前記免疫グロブリンは、IgG、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする〔2〕に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【0008】
〔4〕表面に、キレート剤が担持されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【0009】
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の多孔質ジルコニア粒子が凝集してなることを特徴とするタンパク質固定用凝集体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のタンパク質固定用の多孔質ジルコニア粒子は、リガンドとしてプロテインを用いていないから、低コストである。しかも、本発明の多孔質ジルコニア粒子は、D50、D90、及び全細孔容積が特定範囲内にあるから、選択性(特異性)が高い。
本発明の多孔質ジルコニア粒子は、固定されるタンパク質が、免疫グロブリンである場合には、選択性が非常に高い。
本発明の多孔質ジルコニア粒子は、固定されるタンパク質が、IgG、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種である場合には、選択性が極めて高い。
本発明の多孔質ジルコニア粒子の表面に、キレート剤が担持されていると、選択性がより高まる。
本発明の多孔質ジルコニア粒子が凝集してなるタンパク質固定用凝集体は、安価であり、しかも選択性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)の推定担持構造を示す模式図である。
図2】実験例3(実施例)の孔径分布(細孔分布)を示すグラフである。
図3】実験例13(比較例)の孔径分布(細孔分布)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
1.多孔質ジルコニア粒子
本発明の多孔質ジルコニア粒子は、タンパク質の固定に用いられるタンパク質固定用の多孔質ジルコニア粒子である。
(1)D50、D90、及び全細孔容積
多孔質ジルコニア粒子は、BET法により測定された孔径分布において、累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径D50が3.20nm以上6.50nm以下であり、累積細孔容積が全細孔容積の90%となる細孔径D90が10.50nm以上100.00nm以下である。細孔径D50は、3.35nm以上6.30nm以下であることが好ましく、3.50nm以上5.00nm以下であることがより好ましい。細孔径D90は、10.80nm以上50.00nm以下であることが好ましく、11.00nm以上30.00nm以下であることがより好ましい。
多孔質ジルコニア粒子は、全細孔容積が0.10cm/gより大きい。全細孔容積は、0.15cm/gより大きいことが好ましく、0.30cm/gより大きいことがより好ましい。なお、全細孔容積の上限値は、特に限定されないが、通常10cm/gである。
D50、D90、及び全細孔容積が上記範囲内であると、吸着するタンパク質の選択性が高くなる。なお、D90を100.00nm以下とすることで、タンパク質の単量体が選択的に固定されやすくなる。タンパク質の単量体は10nm程度の大きさであり、他方、タンパク質の凝集体は100nm程度の大きさである。よって、D90を100.00nm以下とすることで、タンパク質の凝集体の固定を避けて、タンパク質の単量体のみが固定されやすくなる。
【0014】
(2)測定装置、及びD50、D90の算出方法
孔径分布と細孔容積は、例えば、細孔分布測定装置(マイクロメリティックス 自動比表面積/細孔分布測定装置(TriStarII 島津製作所))を用いて測定できる。
ここで、この算出方法について説明する。
D50の算出方法を説明する。まず、孔径分布のデータから、累積細孔容積50%を挟んで、累積細孔容積50%に最も近い2点であるA,Bの累積細孔容積(X(%))及び細孔径(Y(nm))を読み取る。具体的には、A(Xa(%)、Ya(nm))、B(Xb(%)、Yb(nm))を読み取る(但し、Xa>Xb,Ya>Ybである)。そして、これらの値を用いて下記式(1)によりD50が求められる。

式(1)
D50=log(Xb)+((log(Xa)-log(Xb))*[(50-(Yb))/((Ya)-(Yb))]
同様にして、D90を求める。すなわち、まず、孔径分布のデータから、累積細孔容積90%を挟んで、累積細孔容積90%に最も近い2点であるC,Dの累積細孔容積(X(%))及び細孔径(Y(nm))を読み取る。具体的には、C(Xc(%)、Yc(nm))、D(Xd(%)、Yd(nm))を読み取る(但し、Xc>Xd,Yc>Ydである)。そして、これらの値を用いて下記式(2)によりD90が求められる。

式(2)
D90=log(Xd)+((log(Xc)-log(Xd))*[(90-(Yd))/((Yc)-(Yd))]
【0015】
(3)粒子径
多孔質ジルコニア粒子の粒子径は特に限定されないが、一次粒子は、通常10nm~100nmであり、好ましくは、10nm~50nmであり、さらに好ましくは10nm~30nmである。一次粒子径が、この範囲内であると、多孔質ジルコニア粒子の比表面積が大幅に増大するため、タンパク質の固定量が増加する傾向にある。
【0016】
2.タンパク質
固定の対象となるタンパク質は、特に限定されない。本発明の多孔質ジルコニア粒子は、免疫グロブリン、特に、IgG、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種を選択的に固定することに優れている。
なお、本発明において、「固定」とは、物理的固定と、化学的固定を含む。本発明の多孔質ジルコニア粒子は、その細孔内でのタンパク質の固定に、毛細管現象によりタンパク質が挿入される物理的固定と、ジルコニア表面に共有結合などの化学結合を利用した化学的固定を利用しており、高いタンパク質固定能を有している。
【0017】
3.キレート剤
多孔質ジルコニア粒子の表面には、キレート剤が担持されていてもよい。キレート剤を担持することで、選択性がより高まる。
キレート剤は、特に限定されない。キレート剤として、下記一般式(1)で表される化合物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DETPA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DETPPA)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、塩としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウム等)の塩が好適に例示される。
【0018】
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0019】
一般式(1)のRにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
また、R~Rにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
【0020】
キレート剤としては、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、一般式(1)で表される化合物が好ましい。一般式(1)で表される化合物の中でも、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA;N,N,N’,N’-Ethylenediaminetetrakis(methylenephosphonic Acid))が特に好ましい。
【0021】
キレート剤の担持量は、特に限定されない。キレート剤の担持量は、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、ジルコニア1mgあたり、0.01μg~10μgであることが好ましく、0.02μg~5μgであることがより好ましく、0.05μg~3μgであることが更に好ましい。
なお、キレート剤の担持量は、TG-DTA(熱重量示差熱分析)の重量減少から算出できる。
【0022】
キレート剤の担持態様は、明らかではないが、ジルコニウム原子に、キレート剤に由来する配位子が結合しているものと推測される。例えば、キレート剤がエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸の場合には、図1の構造であると推測される。
【0023】
4.タンパク質固定用凝集体
タンパク質固定用凝集体は、多孔質ジルコニア粒子が凝集してなる。タンパク質固定用凝集体の径(サイズ)は、特に限定されない。
凝集体の径は、通常50nm~20000nmであり、好ましくは、100nm~15000nmであり、さらに好ましくは500nm~10000nmである。凝集体の径が、この範囲内であると、遠心法による沈殿分離が容易であり、精製プロセス全体の低コスト化が図れる。また、カラムとして使用する場合は、20μm~100μmに造粒してもよい。
【0024】
5.多孔質ジルコニア粒子の製造方法
多孔質ジルコニア粒子の製造方法は、特に限定されない。多孔質ジルコニア粒子は、例えば、次の方法によって製造できる。ジルコンを原料として、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl・8HO)溶液を得る。そして、加水分解反応により、Zr(OH)微粒子とし、これを焼成して、多孔質ジルコニア粒子とする。
【実施例
【0025】
実施例により本発明を更に具体的に説明する。
1.実験A
(1)多孔質ジルコニア粒子
多孔質ジルコニア粒子には、表1に記載の多孔質ジルコニア粒子を用いた。
なお、実験例1~9が実施例に相当し、実験例10~17は比較例である。比較例については、表1において、実験例の番号を示す数字の後に「10*」のように「*」を付している。
【0026】
【表1】
【0027】
表1において、「新日本電工」は「新日本電工株式会社」、「第一稀元素」は「第一稀元素化学工業株式会社」、「共立マテリアル」は「共立マテリアル株式会社」、「丸美陶料」は「丸美陶料株式会社」、「東ソー」は「東ソー株式会社」、「Zir Chrom」は「Zir Chrom Seperations Inc.」、「アルドリッチ」は「シグマ アルドリッチ ジャパン」、「信越化学」は「信越化学工業株式会社」をそれぞれ意味する。
【0028】
(2)孔径分布と細孔容積
孔径分布と細孔容積(全細孔容積)は、マイクロメリティックス 自動比表面積/細孔分布測定装置(TriStarII 島津製作所)を用いて測定した。各多孔質ジルコニア粒子)を50mg程度秤量し、80℃で3時間脱気乾燥した物を試料として用いた。各値は、窒素吸着実験からBET法により算出した。
D50、D90は、「発明を実施するための形態」の欄における「1.(1)D50、D90、及び全細孔容積」に記載の方法で算出した。
【0029】
(3)IgGの固定、及びIgG量の測定
各多孔質ジルコニア粒子に対して、それぞれ次のようにして、IgGを固定し、固定されたIgG量を求めた。
多孔質ジルコニア粒子へのIgGの固定は、以下のように行った。スピッツに500μLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を入れて、この液に多孔質ジルコニア粒子3mgを加えた。多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、IgG(500μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、12,000回転で10分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のIgG量を、プロテインアッセイ染色液(BIO-RAD)を用い、マイクロプレートリーダー(InfiniteF200PRO,TECAN)により定量した。始めに加えたIgG量と、未固定のIgG量との差分を固定されたIgG量とした。
【0030】
(4)実験結果
図2に実験例3(実施例)の孔径分布(細孔分布)を示す。図3に実験例13(比較例)の孔径分布(細孔分布)を示す。図2から実験例3では、D50が3.20nm以上6.50nm以下であり、かつD90が10.50nm以上100.00nm以下であることが分かる。他方、図3から実験例13では、D50が3.20nm以上6.50nm以下であり、D90が10.50nm未満であることが分かる。
表1に結果を併記する。実施例である実験例1~9は、次の〔1〕~〔3〕の全ての要件を満たしている。
〔1〕細孔径D50が3.20nm以上6.50nm以下である。
〔2〕細孔径D90が10.50nm以上100.00nm以下である。
〔3〕全細孔容積が0.10cm/gより大きい。
これに対して、比較例である実験例10~17は以下の要件を満たしていない。
実験例10では、〔2〕〔3〕の要件を満たしてない。
実験例11では、〔2〕〔3〕の要件を満たしてない。
実験例12では、〔2〕〔3〕の要件を満たしてない。
実験例13では、〔2〕〔3〕の要件を満たしてない。
実験例14では、〔2〕〔3〕の要件を満たしてない。
実験例15では、〔2〕の要件を満たしてない。
実験例16では、〔1〕〔2〕の要件を満たしてない。
実験例17では、〔2〕〔3〕の要件を満たしてない。
実施例である実験例1~9は、比較例である実験例10~17と比べて、優れたタンパク質固定能を示した。
【0031】
2.実験B
IgGの最大固定量を測定するため、実施例Aと同様の操作にて、投入するIgGの量を増したIgG(750μg/500μL)を用い、これを500μL加えて、実験Bを実施した。実験Bは、IgGの投入量以外は、実験Aと同様に実施した。
表2に実験結果を示す。
【0032】
【表2】
【0033】
全細孔容積が0.2cm/g以上の多孔質ジルコニア粒子(実験例1,2,4,5,7)では、IgGの仕込み量(投入量)が500μgの場合よりも、IgGの仕込み量(投入量)が750μgの場合の方が、より多くのIgGを固定できることが分かった。
【0034】
3.実験C
次に、キレート剤としてのエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)の担持が、タンパク質の選択性に与える影響について検討した。
【0035】
(1)多孔質ジルコニア粒子
多孔質ジルコニア粒子には、表3に記載の次の多孔質ジルコニア粒子を用いた。
表3において、「RC100」は、第一稀元素化学工業株式会社製の多孔質ジルコニア粒子であり、表1の実験例6と同じである。「UEP100」は、第一稀元素化学工業株式会社製の多孔質ジルコニア粒子であり、表1の実験例2と同じである。
表3において、「RC100-P(0.00125M)」は、第一稀元素化学工業株式会社製の多孔質ジルコニア粒子(RC100、原料)を、0.00125MのEDTPA溶液で処理して得られたEDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子である。
表3において、「UEP100-P(0.00125M)」は、第一稀元素化学工業株式会社製の多孔質ジルコニア粒子(UEP100)を、0.00125MのEDTPA溶液で処理して得られたEDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子である。
なお、「RC100-P(0.00125M)」の調製は以下のように行った。予め100℃で2時間、脱気乾燥した多孔質ジルコニア粒子(RC100)250mgに対し、0.00125MのEDTPA溶液を10mL加え、15分脱気後、17時間、攪拌及び/又は振とうした。その後、更に、4時間還流した後、純水で洗浄し、凍結乾燥して、RC100-P(0.00125M)を得た。
「UEP100-P(0.00125M)」の調製も「RC100-P(0.00125M)」と同様に行った。すなわち、原料として「RC100」の代わりに「UEP100」を用いた以外は、「RC100-P(0.00125M)」の場合と同様にして「UEP100-P(0.00125M)」を調製した。
また、EDTPA溶液の濃度を0.00125M、0.0025M、0.005M、0.01Mに変化させた以外は、RC100-P(0.00125M)と同様に行い、計4種のPCS140(SD)P(EDTA濃度)を調整した。
なお、EDTPAの担持量は、TG-DTA(熱重量示差熱分析)の重量減少から算出した。すなわち、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子を10mg程度秤量し、常温~1000℃までの重量変化を測定しつつ、示差熱分析(TG-DTA;Thermo plus TG8120,リガク)を行った。200℃~600℃での重量減少量から算出した結果、多孔質ジルコニア粒子1mgあたり0.06μg~2.2μgのEDTPAを担持していた。
【0036】
【表3】
【0037】
(2)タンパク質の選択性試験
多孔質ジルコニア粒子(RC100、UEP100)、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子(RC100-P、UEP100-P)を用いて、タンパク質の選択性試験を実施した。
上記4種の各多孔質ジルコニア粒子について、IgG、HAS(Albumin from human serum)、Trf(Transferrin human)の3種のタンパク質に対して、それぞれ次の試験を実施した。
スピッツに500μLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を入れて、この液に多孔質ジルコニア粒子3mgを加えた。多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、タンパク質(500μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、14,000回転で5分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のタンパク質の量を、プロテインアッセイ染色液(BIO-RAD)を用い、マイクロプレートリーダー(InfiniteF200PRO,TECAN)により定量した。始めに加えたタンパク質の量と、未固定のタンパク質の量との差分を固定されたタンパク質の量とした。
【0038】
(3)実験結果
表3に結果を示す。
まず、多孔質ジルコニア粒子RC100、及びEDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子RC100-Pの結果を考察する。
多孔質ジルコニア粒子RC100には、IgGの他にも、HAS、Trfが固定されることが確認された。
他方、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子RC100-Pには、IgGは固定されるが、HAS、Trfは固定されないことが確認された。
この結果から、多孔質ジルコニア粒子RC100にEDTPAを担持して、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子RC100-Pとすることで、IgGの選択特異性が向上することが分かる。
次に、多孔質ジルコニア粒子UEP100、及びEDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子UEP100-Pの結果を考察する。
多孔質ジルコニア粒子UEP100には、IgGの他にも、HAS、Trfが固定されることが確認された。HASの固定量は、64.3μgであり、Trfの固定量は、28.5μgであった。
他方、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子UEP100-Pには、IgGの他にHASが固定されるが、HASの固定量は4.1μgであった。このHASの固定量4.1μgは、多孔質ジルコニア粒子UEP100の場合の64.3μgよりも格段に少なくなっていた。また、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子UEP100-Pには、Trfは固定されないことが確認された。
この結果から、多孔質ジルコニア粒子UEP100にEDTPAを担持して、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子UEP100-Pとすることで、IgGの選択特異性が向上することが分かる。
【0039】
4.実施例の効果
D50、D90、及び全細孔容積が特定範囲内にある多孔質ジルコニア粒子は、タンパク質の一例としてのIgGを選択的に固定できる。
多孔質ジルコニア粒子の表面に、キレート剤の一例としてのEDTPAが担持されていると、選択性がより高まる。
【0040】
<他の実施形態(変形例)>
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の多孔質ジルコニア粒子は、抗体分離精製に用いる場合に、ジルコニア結晶相が持つ、耐薬品性、高い構造強度、焼成による再生利用可能性など、従来技術にはない有利な効果を奏する。よって、抗体製品の製造プロセスの低コスト化に大きく貢献するものと期待される。抗体医薬を始めとする抗体の精製と分離に利用されるカラム製品としての応用としてのみならず、食品中アレルゲン等の特異的なタンパク質の除去への利用も考えられる。
図1
図2
図3