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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】暗渠管埋設装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 11/00 20060101AFI20240122BHJP
【FI】
E02B11/00 Z
E02B11/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020193691
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2022082240
(43)【公開日】2022-06-01
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】北川 巌
(72)【発明者】
【氏名】岩田 幸良
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-068937(JP,A)
【文献】特開2010-189859(JP,A)
【文献】特開昭54-130301(JP,A)
【文献】特開2018-178508(JP,A)
【文献】実開昭56-163142(JP,U)
【文献】実開昭53-118324(JP,U)
【文献】実開昭54-139902(JP,U)
【文献】特開2002-167742(JP,A)
【文献】特開昭52-111210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引されて進行することによって土壌(2)中に暗渠排水(3)を構築する暗渠管埋設装置(1)において、
互いに前後して所定の間隔を空けて配置され、それぞれ側面から視て上端と下端が前方に突出し中央部が後退するように湾曲した前刃(10)及び後刃(12)と、
暗渠管(4)を上端から下端へと挿通させる管部材であり上方から下方に延在すると共に漸次後方へと延在する暗渠管挿入ガイド(14)と、
前記暗渠管挿入ガイド(14)の長手方向に垂直な断面が、平面視にて1つの頂点(11a)から進行方向に対し傾斜してそれぞれ後方に延在する2つの辺(11b,11b)を少なくとも有する形状であって、前記2つの辺(11b,11b)を含む前記暗渠管挿入ガイド(14)の2つの外面により形成される開削溝形成刃(11)と、
前記後刃(12)の後縁と前記暗渠管挿入ガイド(14)における前記開削溝形成刃(11)の前縁とを接続する平板状の後刃固定板(13)と、を有し、
前記前刃(10)と、前記後刃(12)と、前記後刃固定板(13)と、前記開削溝形成刃(11)を含む前記暗渠管挿入ガイド(14)とが、進行方向に沿って前方から後方へと一列に直列配置されていることを特徴とする暗渠管埋設装置。
【請求項2】
前記前刃(10)及び後刃(12)がそれぞれ、土壌(2)を切削して細切れ目(6)を形成した後、前記開削溝形成刃(11)が、前記細切れ目(6)を押し広げて開削溝(7)を形成することを特徴とする請求項1に記載の暗渠管埋設装置。
【請求項3】
前記暗渠管挿入ガイド(14)の鉛直方向に垂直な断面形状が、平面視にて前記2つの辺(11b,11b)の各々の後端から進行方向に対し平行にそれぞれ後方に延在する別の2つの辺(11c,11c)をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の暗渠管埋設装置。
【請求項4】
記後刃固定板(13)は、進行方向に対し垂直に貫通する土付着防止孔(16)を形成されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の暗渠管埋設装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業生産の場である農地の排水性に欠陥があるために農産物の生産性を阻害する場合や適切な農作業性を確保できない場合に、その原因となる農地の排水性を抜本的に改善することができる暗渠排水を構築するための暗渠管埋設装置に関する。
【背景技術】
【0002】
畑作物の生産力を高めるには、水田の高度利用と生産力向上を進め、多様な作物栽培による付加価値の高い農業を展開することが不可欠である。そのためには、畑作物の生産力を左右する農地の排水機能を向上させる排水改良技術の技術開発が必要である。その方法では、暗渠排水を中核にした組合せ暗渠排水組織の充実が求められる。これらの基幹技術である暗渠排水の構築には、これまでの基盤整備とともに、多様な実施主体が利用できる暗渠排水の施工技術の充実や低コスト化が欠かせない。
【0003】
従来の暗渠排水の工法として、土地改良事業により整備されることの多い暗渠排水については、一般的に、農林水産省構造改善局監修土地改良事業計画設計基準計画「暗渠排水」に、工事の手順や標準的な工法や施工上の基準が示され、それらに基づく工法がある。これらの工法を用いて排水性の劣る農地に対して施工される暗渠排水は、深さ60cm~90cm程度の位置に、多数の孔が空いている合成樹脂の素材の暗渠管を埋設し、その上に透水性の高い資材を疎水材として埋設した溝状の構造を、5~10m程度の一定間隔で設置することによって構築される。
【0004】
これら従来工法を行うための暗渠管埋設装置としては、パイプ引き込み溝を構築する回転チェーン式のトレンチャー(特許文献1)、犂体によるドレーンレイヤー(特許文献2)などが提案されている。トレンチャーは専用機で機械が複雑、大型、高価であり、土木業者が製造し所有しており市販されていない。ドレーンレイヤーの施工機はブル用大型機種もあるが、埋設深さは60cm程度と浅い。加えて施工前に予備的な土壌掘削作業が必要であり手間がかかる。トラクタ用小型機種の提案(非特許文献1)もあるが、事前に深さ40cmの溝掘りや深さ50cmの心土破砕を行なう必要があるにも関わらず、管の埋設深さは50cmと浅い。
【0005】
これらのことから、現状では、トレンチャーの高価な専用機、或いは、バックホー掘削機の建設機械を用いる以外で、多様な実施主体が、十分な排水機能をもつ深さに暗渠排水を構築できる低コストな施工技術はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-41815号公報(トレンチャー式暗渠埋設装置)
【文献】特開2004-3268号公報(ドレーンレイヤー式暗渠埋設装置)
【非特許文献】
【0007】
【文献】「トラクタで利用できる浅層暗渠施工器」改訂版、農研機構東北農業研究センター、2019.3.30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術には、以下のような問題点がある。
(1)トレンチャーやバックホー掘削機などの建設機械による施工方法は、高価な専用機械による施工となるため、機械コストが極めて高く、かつ限られた者しか使用できない。
(2)牽引式のドレーンレイヤー式は、大型機械による施工であっても埋設深さが浅く、土の硬さにより機械の抵抗がかかるため、埋設深さの制御が難しい。
(3)大型機械で施工する場合、天候が悪いと走行により泥沼化してしまい、逆に排水不良を助長する。
(4)トラクタ用の小型牽引式のドレーンレイヤー式では、暗渠管の埋設深さは最深でも40~50cmまでと極めて浅い。
【0009】
以上の現状に鑑み、本発明は、排水不良な農地を高生産性な農地に改良するために、農業者が簡単かつ迅速に、トラクタの牽引力のみで、これまで建設機械により施工されていた構造の暗渠排水を構築することができる暗渠管埋設装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明は以下の構成を提供する。なお、括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付するものである。
・ 本発明の態様は、牽引されて進行することによって土壌(2)中に暗渠排水(3)を構築する暗渠管埋設装置(1)において、
互いに前後して所定の間隔を空けて配置され、それぞれ側面から視て上端と下端が前方に突出し中央部が後退するように湾曲した前刃(10)及び後刃(12)と、
暗渠管(4)を上端から下端へと挿通させる管部材であり上方から下方に延在すると共に漸次後方へと延在する暗渠管挿入ガイド(14)と、
前記暗渠管挿入ガイド(14)の長手方向に垂直な断面が、平面視にて1つの頂点(11a)から進行方向に対し傾斜してそれぞれ後方に延在する2つの辺(11b,11b)を少なくとも有する形状であって、前記2つの辺(11b,11b)を含む前記暗渠管挿入ガイド(14)の2つの外面により形成される開削溝形成刃(11)と、
前記後刃(12)の後縁と前記暗渠管挿入ガイド(14)における前記開削溝形成刃(11)の前縁とを接続する平板状の後刃固定板(13)と、を有し、
前記前刃(10)と、前記後刃(12)と、前記後刃固定板(13)と、前記開削溝形成刃(11)を含む前記暗渠管挿入ガイド(14)とが、進行方向に沿って前方から後方へと一列に直列配置されていることを特徴とする。
・ 上記態様において、前記前刃(10)及び後刃(12)がそれぞれ、土壌(2)を切削して細切れ目(6)を形成した後、前記開削溝形成刃(11)が、前記細切れ目(6)を押し広げて開削溝(7)を形成することが、好適である。
上記態様において、前記暗渠管挿入ガイド(14)の長手方向に垂直な断面形状が、平面視にて前記2つの辺(11b)の各々の後端から進行方向に対し平行にそれぞれ後方に延在する別の2つの辺(11c)をさらに有することが、好適である。
上記態様において、前記後刃固定板(13)は、進行方向に対し垂直に貫通する土付着防止孔(16)を形成されていることが、好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明による暗渠管埋設装置は、進行方向に沿って前方から後方へと一列に直列配置された、前刃、後刃、開削溝形成刃付きの暗渠管挿入ガイドを備えている。暗渠管埋設装置は、牽引されて進行しつつ暗渠管埋設深さよりさらに深くまで挿入できるように、長さを変更可能な前刃及び後刃によって深層まで土壌を切削して細切れ目を構築することにより、暗渠管の土壌中への挿入を容易にする。
【0012】
加えて、後刃の後方に配置された暗渠管挿入ガイドが、所定の断面形状を有し、前向きに突出する開削溝形成刃を形成している。これにより、少ない抵抗で細切れ目を押し広げることができる。この結果、暗渠管を埋設する開削溝を容易に構築して暗渠管を最下部に設置できる。
【0013】
好ましくは暗渠管埋設装置の最後部に疎水材投入ガイドが配置され、所望の深さまで疎水材を投入することができる。これにより、排水不良な農地を改善するために十分な暗渠排水を、トラクタによっても簡単かつ迅速に構築できる。
【0014】
本発明によれば、従来の暗渠管埋設装置と比べて以下の効果があるため、確実に暗渠排水に必要な構造を構築することができる。
(a)暗渠管挿入ガイドが、土壌を切断するための、深さをそれぞれ変更できる前刃と後刃の2本の切断刃を前方に有するので、暗渠管埋設装置の地中施工部を確実に所定の深さに挿入できる。
(b)前刃と後刃の下端には暗渠管埋設装置の地中施工部を土中に挿入しやすくするために角度を変えることのできる射込み爪が取り付けられており、暗渠管埋設装置の地中施工部を水平に土壌中に挿入する作用が働き、安定した暗渠管の埋設深さを維持できる。
(c)暗渠管の埋設において土壌を開削するため土壌の持ち上げがないことから、下層土に化学的に不良な土壌が有る場合でも、農地の化学性を悪化させることなく暗渠排水を構築できる。
(d)暗渠管埋設装置に土壌が付着すると抵抗が増えて暗渠管埋設深さの不安定化が誘発されるため、土壌が付着し易い後刃と暗渠管挿入ガイドを支える後刃固定板に貫通孔を形成することによって空気の取り入れにより土壌の付着を防止できる。
(e)前刃、疎水材投入ガイドが不要な場合は取り外すことができる。
【0015】
以上の効果により、本発明によれば、農業者が簡単かつ迅速にトラクタの牽引力のみで、これまで建設機械により施工されていた構造の暗渠排水を施工することができる暗渠管埋設装置を実現して、所定の深さと任意の間隔で自由度が高い暗渠排水の構築技術を実現しできる。本発明は、より多くの排水不良地を改良して高生産性で優良な農地の創出に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の暗渠管埋設装置の全体の構成を示す概略側面図である。
図2図2は、図1に示した暗渠管埋設装置の前刃と後刃の設置長さを変更できることを示した図である。
図3図3は、暗渠管埋設装置をトラクタに牽引させることによって暗渠排水の施工を行っている状況を示した概略側面図である。
図4図4は、図1に示した暗渠管埋設装置の主要な部品である前刃と後刃に関係する部材とその接続方法及び配置を示した展開斜視図である。
図5図5(a)は、図1に示した暗渠管埋設装置の概略平面図であり、主要な部品の配置を示した図である。(b)は、(a)における暗渠管挿入ガイドの周辺の部分拡大断面図である。
図6図6は、図1に示した暗渠管埋設装置を前方から見た概略正面図であり、主要な部品の配置を示した図である。
図7図7(a)~(d)は、図3に示した暗渠管埋設装置による暗渠排水の施工状況の各段階を、関係する主要な部品と共に模式的に示した図である。
図8図8は、本発明の暗渠管埋設装置により施工した圃場の土壌断面図の例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の構成例を示した図面を参照して本発明の暗渠管埋設装置の実施形態を説明する。
【0018】
本発明の暗渠管埋設装置は、トラクタにより牽引されて進行することによって、地中に暗渠排水を構築する機械である。暗渠排水は、土壌中の例えば深さ60cm~90cm程度の位置に、多数の孔が空いている合成樹脂の素材の暗渠管を埋設し、その上に透水性の高い資材を疎水材として埋設した溝状の構造物である。本明細書では、暗渠管埋設装置の進行方向を前方と、その反対方向を後方と称する。
【0019】
以下、図1図7を参照して本発明の暗渠管埋設装置の構成及び動作を説明する。なお、説明においては、複数の図面を同時に参照する場合がある。
図1は、本発明の暗渠管埋設装置の全体構成の一例を概略的に示す。
図2は、図1に示した暗渠管埋設装置の前刃と後刃の設置長さを変更できることを示した図である。
図3は、暗渠管埋設装置をトラクタに牽引させることによって暗渠排水の施工を行っている状況を示した概略側面図である。
図4は、図1に示した暗渠管埋設装置の主要な部品である前刃と後刃に関係する部材とその接続方法及び配置を示した展開斜視図である。
図5(a)は、図1に示した暗渠管埋設装置の概略平面図であり、主要な部品の配置を示した図である。図5(b)は、図5(a)における暗渠管挿入ガイドの周辺の部分拡大断面図である。
図6は、図1に示した暗渠管埋設装置を前方から見た概略正面図であり、主要な部品の配置を示した図である。
図7(a)~(d)は、図3に示した暗渠管埋設装置による暗渠排水の施工状況の各段階を、関係する主要な部品と共に模式的に示した図である。
【0020】
図1に示すように、暗渠管埋設装置1は、施工中に地上を進行する上半部の地上構造部1aと、施工中に地中を進行する下半部の地中施工部1bとを有する。
【0021】
地上構造部1aは、主な構成部品として、部品接続フレーム60と、トラクタ接続フレーム50と、暗渠管積載リール40とを有する。疎水材投入ガイド15は、地中施工部1bに接続されているが、図3に示すように、施工中、その上部のホッパー部15aが地上に露出している。
【0022】
地中施工部1bは、主な構成部品として、前刃10及び後刃12と、後刃固定板13と、開削溝形成刃11と、暗渠管挿入ガイド14と、支持連結板17と、疎水材投入ガイド15とを有する。
【0023】
部品接続フレーム60は、暗渠管埋設装置1の各構成部品を取付けてこれらを支持するための本体フレームである(図4図5及び図6も参照)。
【0024】
トラクタ接続フレーム50は、暗渠管埋設装置1を牽引するトラクタの後部に接続するための接続具である(図3図5及び図6も参照)。
【0025】
暗渠管積載リール40は、図3に示すように、リール状に巻かれた暗渠管4の製品を積載するためのリールである。暗渠管積載リール40は両方向に回転可能である。暗渠管4を埋設するときは、暗渠管積載リール40から暗渠管4が引き出され、暗渠管挿入ガイド14に供給される。
【0026】
前刃10と後刃12とは、互いに前後して所定の間隔を空けて直列配置されている。前刃10及び後刃12の各々は、側面から視て上端と下端が前方に突出し中央部が後退するように湾曲して鉛直方向に延在し、前向きの切断刃をそれぞれ有する。施工中、先ず、前刃10が前方の土壌を切削することにより、図7に示す細切れ目6を土壌中に形成する。後刃12は、前刃10による切削によって形成された土壌中の細切れ目6を再度切削する。なお、必要に応じて、前刃10を取り外し、後刃12のみで切削を行うこともできる。
【0027】
後刃固定板13は、後刃12の後縁に沿うように接続された1枚の平板部材である。後刃固定板13の両側面は進行方向に平行であり、その厚さは、後刃12の厚さ以下である。後刃固定板13には、進行方向に対し垂直に貫通する適宜の大きさの土付着防止孔16が形成されている。土付着防止孔16は、後刃固定板13の周辺に空気を取り入れる作用があり、それによって暗渠管埋設装置1の構成部品に土壌が付着することを軽減できる。
【0028】
暗渠管挿入ガイド14は、後刃12の後方に配置されている。具体的には、後刃固定板13の後縁に沿うように接続されている。暗渠管挿入ガイド14は、両端が開口した管部材であり、その上端14aから下端14bまで暗渠管4を挿通させることができる。暗渠管挿入ガイド14の上端14aは、暗渠管積載リール40の近傍で開口し、暗渠管積載リール40から引き出された暗渠管4が挿入される。暗渠管挿入ガイド14は、上方から下方に延在すると共に漸次後方へと延在し、暗渠管挿入ガイド14の下端14bは、後方斜め下方に向かって開口している。暗渠管挿入ガイド14の下端14bから暗渠管4が送り出される。下端14bの位置は、暗渠管4の埋設位置に応じて設定される。
【0029】
図4及び図5を参照して、暗渠管埋設装置1が有する開削溝形成刃11について説明する。開削溝形成刃11は、暗渠管挿入ガイド14の外面の少なくとも1部により構成される。開削溝形成刃11は、先行する前刃10及び後刃12により形成された細切れ目6の幅を押し広げることによって、図7に示す開削溝7を土壌中に形成する役割を果たす。このために、暗渠管挿入ガイド14は、長手方向に垂直な断面が、平面視にて所定の外郭形状を有する。好ましくはその断面形状が多角形であり、さらに好ましくは六角形である。
【0030】
図5(b)の暗渠管挿入ガイド14の周辺の拡大断面図に示すように、平面視にて、暗渠管挿入ガイド14の長手方向に垂直な断面形状が、1つの頂点11aから進行方向に対し傾斜してそれぞれ後方に延在する2つの辺11b、11bを少なくとも有する。これらの傾斜した2つの辺11b、11bを含む暗渠管挿入ガイド14の2つの外面が、実質的に開削溝形成刃11を構成している。暗渠管挿入ガイド14の前向きの2つの外面は、平面視にて頂点が前向きに突出した三角形部分を形成する。2つの辺11b、11bの後端同士の間の間隔によって、形成される開削溝7の幅が決まる。開削溝7の幅は、暗渠管4を設置するために適切な幅に設定される。
【0031】
好ましくは、暗渠管挿入ガイド14の断面形状において、平面視にて、進行方向に対し傾斜した2つの辺11b、11bの各々の後端から、進行方向に対し平行にそれぞれ後方に延在する2つの辺11c、11cを有する。互いに平行な2つの辺11c、11cを含む暗渠管挿入ガイド14の2つの外面すなわち両側面は、開削溝7を形成する際の土壌2からの抵抗をより少なくすると共に、形成された開削溝7の両壁を安定に保持する。
【0032】
疎水材投入ガイド15は、一例として平板状の支持連結板17を介して暗渠管挿入ガイド14の後方に接続されている。支持連結板17の幅は、開削溝7の幅と同程度とすることが好ましい。疎水材投入ガイド15は、上部のホッパー部15aと、下部の投入スリット部15bとを有する。ホッパー部15aは、投入するための疎水材を積載している。投入スリット部15bは、一対の側壁の間に内部空間を有し、その内部空間はホッパー部15aの底部と連通すると共に、下方及び後方に向かって大きく開口している。投入スリット部15bの幅は、開削溝7の幅とほぼ同程度とすることが好ましい。
【0033】
なお、必要に応じて疎水材投入ガイド15を取り外すこともできる。その場合、別の方法で疎水材5を投入する。
【0034】
前刃10及び後刃12の各々の下端には、下方に向かって土壌に突き刺すことができる射込み爪20がそれぞれ取り付けられている。射込み爪20によって、土壌中への前刃10及び後刃12の挿入が容易となる。
【0035】
図2に示すように、前刃10及び後刃12は、部品接続フレーム60から下方に延在する部分の長さをそれぞれ変更することができる(図4も参照)。前刃10及び後刃12の上端には、鉛直方向に配列した複数の刃固定孔32がそれぞれ形成されている。一方、部品接続フレーム60に取り付けられた2つの刃ホルダー30、30には、前刃及び後刃12の上端を取り付けるための取付孔が形成されている。前刃10及び後刃12の複数の固定孔からそれぞれ選択された1つの刃固定孔32、32を、刃ホルダー30、30の取付孔に合わせ、双方の孔に刃固定ピン31、31をそれぞれ挿通し固定することによって、前刃10及び後刃12を部品接続フレーム60にそれぞれ固定できる。
【0036】
必要に応じて、前刃10と後刃12の長さを、図1に示すように同じ長さとすることも、図2に示すようにΔdだけ異なる長さとすることもできる。前刃10及び後刃12の長さを設定することによって、図7に示す細切れ目6の深さを変更することができる。
【0037】
図3は、暗渠管埋設装置1をトラクタ100に牽引させることによって暗渠排水の施工を行っている状況を示した概略側面図である。なお、図3中の左端には、施工後の地表と進行方向に垂直な土壌断面とを概略斜視図で示している。
【0038】
暗渠管埋設装置1は、トラクタ接続フレーム50によりトラクタ100の後部に接続され、進行方向に牽引される。土壌2中には、少なくとも前刃10及び後刃12と、その後方に位置して開削溝形成刃11を前面に有する暗渠管挿入ガイド14とが、進行方向に沿って一列に直列配置されている。好ましくはさらに、最後部の疎水材投入ガイド15(投入スリット部15b)が加わり、進行方向に沿って一列に直列配置されている。これら全ての構成部品は、所定の深さに挿入されている。
【0039】
最初に前刃10が土壌を切断し、続いて後刃12が再度、土壌を確実に切断する。それにより図7に示す細切れ目6が形成される。その後、暗渠管挿入ガイド14の前向きに突出する外面により形成された開削溝形成刃11が、細切れ目6の幅を押し広げることによって、図7に示す開削溝7が形成される。続いて、50mや100mの暗渠管4の巻き製品を積載した暗渠管積載リール40を回転させながら、暗渠管4を引き出して暗渠管挿入ガイド14の上端から挿入し、下端から送り出すことによって、所定の深さに暗渠管4を埋設していく。
【0040】
その後、最後部の疎水材投入ガイド15の投入スリット部15bから開削溝内に疎水材5が投入され、暗渠管4の上の空間が充填される。これにより、暗渠排水の構造が構築される。
【0041】
暗渠管埋設装置1が通過したのち、表面土壌などの混和土・埋戻し土8を暗渠の溝内に戻し、暗渠排水の上部を塞いだ状態にする。この作業は、ブルーザーなどの建設機械やロータリ耕運機を付けたトラクタなどの作業機や人力により行うことができる。
【0042】
図4は、暗渠管埋設装置1の主要部の展開斜視図である。図4を参照して、前刃10及び後刃12の各々の下端に取り付けられる射込み爪20の角度の変更について説明する。射込み爪20には、前固定ボルト21と後固定ボルト22をそれぞれ貫通させる前方孔20aと後方孔20bが形成されている。一方、前刃10及び後刃12の各々の下端には、前方に位置する1つの爪配置前方孔23と、後方に互いに上下に位置する3つの爪配置後方孔24、25、26が形成されている。前固定ボルト21は、射込み爪20の前方孔20aと、前刃10及び後刃12の爪配置前方孔23とを貫通して固定される。一方、後固定ボルト22は、射込み爪20の後方孔20bと、前刃10及び後刃12の爪配置後方孔24、25、26のうち選択された1つとを貫通して固定される。
【0043】
前刃10及び後刃12の爪配置後方孔24、25、26のうち1つを選択することによって、前固定ボルト21を支点として水平方向に対する角度を変えて射込み爪20を配置することができる。射込み爪20の角度を変えることで、暗渠管埋設装置1が土壌2の下方に向かって挿入される力を調整することができる。
【0044】
図5の平面図に示すように、重要な点として、互いに前後して所定の間隔を空けて配置された前刃10と後刃12が、平面視にて略二等辺三角形の部品接続フレーム60の二等分線上、すなわちほぼ中央に配置されている。そのために、部品接続フレーム60には、互いに前後して直列配置された2つの刃ホルダー30が設けられている。その後方には、ここでは六角形断面をもつ暗渠管挿入ガイド14の上端開口が配置され、さらにその後方に疎水材投入ガイド15が配置されている。直接的又は間接的に土の抵抗を受けるこれらの部品30、14、15が、平面視にて進行方向に沿って前方から後方へと一列に直列配置されていることによって、土の抵抗を軽減して暗渠管埋設装置1を所定の深さまで到達させることを容易にする。
【0045】
なお、土の抵抗を受けない暗渠管積載リール40は、作業の支障とならない位置に適宜配置できる。好ましくは、暗渠管積載リール40の重量が、暗渠管埋設装置1を深く挿入するためのモーメント力として寄与するように、暗渠管挿入ガイド14への暗渠管の円滑な供給を考慮しつつ、暗渠管積載リール40をできるだけ後方に配置している。
【0046】
図6の正面図に示すように、暗渠管埋設装置1の揺れやトラクタ100の蛇行などによって、前刃10が切断した土壌2の細切れ目6から後刃12が逸れた場合でも、後刃12によって新たな位置に細切れ目6を構築することができる。その場合、前刃10による細切れ目6と後刃12による細切れ目6とは、土壌中で近傍に位置するので、暗渠管挿入ガイド14の前方の土壌は確実にほぐされる。それによって、暗渠管挿入ガイド14にかかる土壌からの抵抗を軽減することが可能になる。その結果、暗渠管挿入ガイド14の前向きに突出する外面により形成された開削溝形成刃11が細切れ目6の幅を容易に広げることができる。
【0047】
このように、少なくとも前刃10、後刃12、暗渠管挿入ガイド14(開削溝形成刃11を含む)が、好ましくはさらに疎水材投入ガイド15が、進行方向に沿って前方から後方へと一列に直列配置されていることによって、土の抵抗を軽減して暗渠管埋設装置1を所定の深さまで容易に到達させることが可能となる。
【0048】
土の抵抗を受けない暗渠管積載リール40は、正面視においても作業の支障とならない位置に適宜配置できる。
【0049】
図7(a)~(d)は、図3に示した暗渠管埋設装置による暗渠排水の施工状況を示している。各段階に対応する各図において、上側には関係する主要な構成部品を示し、下側には進行方向に垂直な土壌断面を模式的に示している。
【0050】
図7(a)では、前刃10により、土壌2を切断することによって細切れ目6を形成し、土壌を深層まで細く切削する。それによって、暗渠管埋設装置1の地中構造部1bを土壌中に挿入し易くする。加えて、前刃10の下端に配置された射込み爪20の作用によって、前刃10は、可能な限り深く挿入される力を得られる。
【0051】
図7(b)では、前刃10の後方に配置された後刃12が、再度土壌2を切削する。これにより前刃10により形成された細切れ目6から後刃12が逸れた場合でも、再度、後刃12が土壌2を切削して新たな細切れ目6を構築できる。その場合、進行方向において同位置に、左右方向に並んだ2つの細切れ目6が形成されるため、土壌2から受ける抵抗を軽減することができる。
【0052】
さらに、後刃12の後方に後刃固定板13を介して接続された暗渠管挿入ガイド14の前向きに突出する外面が開削溝形成刃11の役割を果たす。このために、暗渠管挿入ガイド14の断面は所定の外郭形状を有し、好ましくは多角形、さらに好ましくは六角形の断面形状を有する。その断面の外郭形状は、1つの頂点が進行方向に突出するように配置されている。暗渠管挿入ガイド14の前向きに突出する外面により形成された開削溝形成刃11によって、土壌2に既に形成されている細切れ目6の幅を容易に押し広げて開削溝7を形成することができる。暗渠管挿入ガイド14の左右方向の幅は、所望する開削溝7の幅に応じて設定される。また好ましくは、暗渠管挿入ガイド14の左右の両側面が進行方向に対し平行であることから、開削溝7を形成する際の土壌2からの抵抗をより少なくすることができる。
【0053】
開削溝7が形成されると、暗渠管挿入ガイド14の下端から送り出された暗渠管4が開削溝7の底に設置されていく。
【0054】
図7(c)では、暗渠管挿入ガイド14の後方に配置された疎水材投入ガイド15から開削溝7内に、疎水材15が所定の深さまで投入される。これは、人力や暗渠管埋設装置1に伴走51する作業機械により行うことができる。
【0055】
図7(d)では、暗渠管埋設装置1が通過した後、表面の土壌などの混和土・埋戻し土8を開削溝7の上部空間に戻して上部を塞ぐ。これにより、暗渠排水が完成する。この作業は、ブルーザーなどの建設機械やロータリ耕運機付けたトラクタなどの作業機により、又は人力により行うことができる。
【実施例1】
【0056】
以下に、本発明の実施例を示す。
図8(a)は、図1に示した暗渠管埋設装置1を用いた暗渠排水の試験施工の結果を示す土壌2中の概略断面図である。
試験条件は次の通りである。
・試験場所:茨城県つくば市農村工学研究部門の重粘土圃場
・トラクタ:クボタ製 セミクローラ SMZ76(76馬力)
・土壌条件:グライ土
【0057】
施工試験の処理区では、前刃11、後刃12ともに想定の深さまで挿入できている。施工速度は2km/hでトラクタがスリップすることなく施工できた。図8(a)に示すように、施工後の暗渠排水の形状も暗渠管4上の埋設深さdが75cmと適切に施工されていることが見てとれる。暗渠排水の幅wは7cmである。これにより、本発明の暗渠管埋設装置1の実施効果が確認された。
【実施例2】
【0058】
図8(b)は、同じ敷地内の別の圃場において土壌の違いによる暗渠管埋設装置1の作動を確認した結果を示す。
なお、試験条件は次の通りである。
・試験場所:茨城県つくば市農村工学研究部門の黒ボク土圃場
・土壌条件:黒ボク土
・トラクタ:クボタ製 セミクローラ SMZ76(76馬力)
・土層構成:地表から深さ70cmの間は均質な淡色な黒ボク土で深さ30cmに山中式土壌硬度計で18mmの耕盤層と思われる土層がある。排水性は中程度である。
【0059】
施工試験の処理区では、土壌が切断しにくい黒ボク土であるため、若干浅くなる傾向が見られたが、前刃11、後刃12ともに想定の深さまで挿入できている。暗渠管4も所定の埋設深さdを確保している。施工速度は2km/hでトラクタがスリップすることなく施工できた。図8(b)に示すように、施工後の暗渠排水の形状は暗渠管4上の埋設深さdが68cmと適切に施工されていることが見てとれる。暗渠排水の幅wは7cmである。これにより、本発明の暗渠管埋設装置1の実施効果が確認された。
【実施例3】
【0060】
図8(c)は、異なる地域の土壌と異なるトラクタの違いによる暗渠管埋設装置1の作動を確認した結果を示す。
なお、試験条件は次の通りである。
・試験場所:宮城県大崎市の低地土圃場
・トラクタ:クボタ製 セミクローラ MIR1000(100馬力)
・土壌条件:灰色低地土
【0061】
施工試験の処理区では、前刃11、後刃12ともに想定の深さまで挿入できている。土壌はやや固めであったが、所定の暗渠管4の埋設深さdを確保している。トラクタは大きいことから施工速度は2km/hでトラクタがスリップすることなく施工できた。図8(c)に示すように、施工後の暗渠排水の形状は暗渠管4上の埋設深さdが73cmと適切に施工されていることが見てとれる。暗渠排水の幅wは7cmである。これにより、本発明の暗渠管埋設装置1の実施効果が確認された。
【0062】
[比較例1]
暗渠管埋設装置1の現地ほ場における異なるトラクタや土壌での作動を確認した。
なお、試験条件は次の通りである。
・試験場所:茨城県つくば市農村工学研究部門の重粘土圃場
・土壌条件:グライ土
・土層構成:地表から深さ70cmの間は均質な重粘土で青色にグライ化している。
15cm以下に山中式土壌硬度計で18mmの耕盤層と思われる土層がある。排水性は不良。地下水位が60cm付近に見られる。
【0063】
[比較例2]
本発明による暗渠管埋設装置1より施工されなかった、試験圃場における未施工の場所の土壌条件は、以下の通りである。
・試験場所:茨城県つくば市農村工学研究部門の黒ボク土圃場
・土壌条件:黒ボク土
・土層構成:地表から深さ70cmの間は均質な淡色な黒ボク土で深さ30cmに山中式土壌硬度計で18mmの耕盤層と思われる土層がある。排水性は中程度である。
【0064】
[比較例3]
本発明による暗渠管埋設装置1より施工されなかった、試験圃場における未施工の場所の土壌条件は、以下の通りである。
・試験場所:宮城県大崎市の低地土圃場
・土壌条件:灰色低地土
・土層構成:地表から深さ70cmの間に粘土層があり、15cm程度の深さに山中式土壌硬度計で20mmの堅い耕盤層がある。排水性は不良である。
【0065】
以上の通り、本発明による暗渠管埋設装置は、それぞれ深さを変えることのできる前刃と後刃が、前後に直列配置された構造を備える。これにより、農業者が所有するトラクタによる暗渠管埋設装置の牽引作業によっても、堅密な土層においても、土壌を2本の刃で確実に切断して、深層まで暗渠管埋設装置を挿入でき、暗渠管と疎水材を深さ75cm程度までの所定の深さに安定して埋設することができる。これにより排水不良な農地の排水性を改善できる。
【符号の説明】
【0066】
1 暗渠管埋設装置
1a 地上構造部
1b 地中施工部
2 土壌
4 暗渠管
5 疎水材
6 細切れ目
7 開削溝
8 混和土・埋戻し土
10 前刃
11 開削溝形成刃
12 後刃
13 後刃固定板
14 暗渠管挿入ガイド
15 疎水材投入ガイド
16 土付着防止孔
17 支持固定板
20 射込み爪
21 前固定ボルト
22 後固定ボルト
23 爪配置前方孔
24、25、26 爪配置後方孔
30 刃ホルダー
31 刃固定ピン
32 刃固定孔
40 暗渠管積載リール
50 トラクタ接続フレーム
60 部品接続フレーム
100 トラクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8