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  • 特許-プラズマ処理方法 図1
  • 特許-プラズマ処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/50 20060101AFI20240122BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C23C14/50 E
C23C14/34 K
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020083209
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021178984
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊介
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-500760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板が設置される基台を備えると共に基台にヒータ線が組み付けられたプラズマ処理装置用の基板ステージを真空チャンバ内に配置し、基台に被処理基板を設置し、真空チャンバ内に発生させたプラズマを利用して被処理基板に所定の処理を施すプラズマ処理方法であって、
前記プラズマ処理装置用の基板ステージとして、被処理基板が設置される基台面内でその中心を通って互いに直交する二軸をX軸及びY軸とし、ヒータ線は、XY平面の各象限にて同等の輪郭を持つ部分を有し、第1象限及び第2象限のヒータ線の各部分と第3象限及び第4象限のヒータ線の各部分とがY軸に対して線対称であり、第1象限及び第4象限のヒータ線の各部分と第2象限及び第3象限のヒータ線の各部分とに互いに逆向きの直流電流を夫々流す電源設けられものを用い、
処理中に、前記電源が前記第1象限及び第4象限のヒータ線の各部分と前記第2象限及び第3象限のヒータ線の各部分とに流す直流電流を調整することで、基台に設置される被処理基板を貫通して漏洩する、500A/m~50000A/mの範囲内の強度を持つ磁場を形成することを特徴とするプラズマ処理方法
【請求項2】
前記プラズマ処理装置用の基板ステージは、前記ヒータ線の各部分が円弧状の輪郭を持、前記円弧の半径が1cm~10cmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置されて被処理基板を支持するプラズマ処理装置用の基板ステージを用いたプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマ処理装置用の基板ステージとして、被処理基板が設置される金属製の基台にヒータ線を組み付けたものが一般に知られている。そして、真空チャンバ内でスパッタリング法による成膜処理やドライエッチング処理といったプラズマを利用した所定処理の際には、ヒータ線に通電してジュール熱により基台を加熱し、基台からの伝熱により被処理基板を室温より高い所定温度に加熱できるようになっている。また、プラズマを利用した処理の際に、被処理基板の設置面と背向する基台の下方にアシスト磁石を設置し、被処理基板を貫通して漏洩する磁場を形成し、被処理基板上方のプラズマ密度を高めることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ここで、上記基板ステージにアシスト磁石を適用する場合、基台の加熱時にこの基台からの輻射や伝熱によりアシスト磁石が所定温度を超えて加熱されると、減磁してしまうという問題が生じる。このような場合、例えば、アシスト磁石を冷却する機構等を備えればよいが、これでは、部品点数が増加して装置構成が複雑になるばかりか、コストアップを招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-7104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、被処理基板の加熱と被処理基板を貫通して漏洩する磁場の形成とが両立できる簡単な構成のプラズマ処理装置用の基板ステージを利用するプラズマ処理方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、被処理基板が設置される基台を備えると共に基台にヒータ線が組み付けられたプラズマ処理装置用の基板ステージを真空チャンバ内に配置し、基台に被処理基板を設置し、真空チャンバ内に発生させたプラズマを利用して被処理基板に所定の処理を施すプラズマ処理方法であって、プラズマ処理装置用の基板ステージとして、被処理基板が設置される基台面内でその中心を通って互いに直交する二軸をX軸及びY軸とし、ヒータ線は、XY平面の各象限にて同等の輪郭を持つ部分を有し、第1象限及び第2象限のヒータ線の各部分と第3象限及び第4象限のヒータ線の各部分とがY軸に対して線対称であり、第1象限及び第4象限のヒータ線の各部分と第2象限及び第3象限のヒータ線の各部分とに互いに逆向きの直流電流を夫々流す電源設けられものを真空チャンバ内に配置し、処理中に、電源が第1象限及び第4象限のヒータ線の各部分と第2象限及び第3象限のヒータ線の各部分とに流す直流電流を調整することで、基台に設置される被処理基板を貫通して漏洩する、500A/m~50000A/mの範囲内の強度を持つ磁場を形成することを特徴とする
【0007】
本発明によれば、基台に被処理基板を設置した状態で電源によりヒータ線に直流電流を通電すると、ジュール熱により基台が加熱され、基台からの伝熱により被処理基板が室温より高い所定温度に加熱される。このとき、第1象限及び第4象限のヒータ線の各部分と第2象限及び第3象限のヒータ線の各部分とに互いに逆向きの直流電流が流れているため、第1象限及び第2象限のヒータ線の各部分との間、及び、第3象限及び第4象限のヒータ線の各部分との間に右ねじの法則に従って被処理基板を貫通して漏洩する磁場が形成される。その結果、部品点数の増加を招くことなく、簡単な構成で被処理基板の加熱と被処理基板を貫通して漏洩する磁場の形成とを両立できる。なお、ヒータ線は、第1象限~第4象限の各部分の自由端を互いに接続した1本のもので構成することができるが、例えば、同一方向に直流電流を流す第1象限及び第4象限の各部分と、第2象限及び第3象限の各部分とに分けて構成してもよい。また、各象限に、同等の輪郭を持つ部分を複数形成するように構成してもよい。このとき、各象限の各部分に独立して直流電流を流すように構成しておけば、例えば、被処理基板の面内温度分布を調整することと、磁場強度を調整することとを別々に実施でき、有利である。前記ヒータ線の各部分が円弧状の輪郭を持つような場合、前記円弧の半径が1cm~10cmの範囲に設定されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の基板ステージを備えるスパッタリング装置を模式的に説明する図。
図2】基板ステージの基台に設けられるヒータ線を示す模式的平面図。
図3】ヒータ線の変形例を示す模式的平面図。
図4】ヒータ線の他の変形例を示す模式的平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、被処理基板をシリコンウエハ(以下「基板Sw」という)とし、基板Swの表面にスパッタリング法による成膜処理を施すスパッタリング装置に適用する場合を例に、本発明の基板ステージの実施形態について説明する。以下においては、後述の基台上面内でその中心4cを通って互いに直交する二軸をX軸及びY軸とし、また、上、下といった方向を示す用語は、図1に示すスパッタリング装置SMの設置姿勢を基準として説明する。
【0011】
図1を参照して、SMは、スパッタリング装置であり、スパッタリング装置SMは、真空雰囲気を形成可能な真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1には、ターボ分子ポンプやロータリーポンプなどからなる真空ポンプユニットPuに通じる排気管11が接続され、真空チャンバ1内を所定圧力(例えば1×10-5Pa)まで真空排気できるようにしている。真空チャンバ1の側壁には、スパッタガスのガス源12に連通する、マスフローコントローラ13等で構成される流量制御弁が介設されたガス管14が接続され、流量制御されたスパッタガスを真空チャンバ1内に導入できるようになっている。スパッタガスには、放電用のアルゴンガス等の希ガスだけでなく、酸素ガスや窒素ガス等の反応ガスが含まれる。
【0012】
真空チャンバ1の上部にはカソードユニットCが取付けられている。カソードユニットCは、成膜する薄膜に応じて適宜選択される材料製のターゲット2と、ターゲット2上方に配置される、基板Sw中心を回転中心として回転可能な磁石ユニット3とを有する。ターゲット2は、基板Swの輪郭に応じた形状(例えば平面視円形)を有し、スパッタ面2aを下方に向けた姿勢でバッキングプレート21に装着された状態で、絶縁体Io1を介して真空チャンバ1側壁の上部に取り付けられている。ターゲット2には、DC電源や高周波電源等のスパッタ電源Psからの出力が接続され、スパッタリング時、負の電位を持つ直流電力や高周波電力をターゲット2に投入できるようになっている。磁石ユニット3としては、ターゲット2のスパッタ面2aの下方空間に磁場を形成し、スパッタリング時にスパッタ面2aの下方で電離した電子等を捕捉してターゲット2から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する公知の構造を有するものを利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。そして、真空チャンバ1の下部にターゲット2に対向させて本実施形態の基板ステージStが配置されている。
【0013】
図2も参照して、基板ステージStは、絶縁体Io2を介して真空チャンバ1下壁に設けられ、基板Swの輪郭に一致する上面を持つ基台4を備える。基台4は、熱伝導性を有する誘電体(例えばAlN製)で構成される。基台4にはバイアス電源Pbからの出力が接続され、スパッタリング時、所定周波数の高周波電力を基台4に投入することができる。基台4にはまたヒータ線5が組み込まれている。ヒータ線5としては、タンタル、モリブデン、タングステン、ニッケルクロムや鉄クロムなどの材料製で所定径の線材をコイル状に巻回したものを利用することができる。この場合、ヒータ線5は1本で構成され、次のように基台4に組み込まれている。
【0014】
即ち、X軸とY軸の座標平面の第1~第4の各象限Q1~Q4にて同等の略円形(円弧状)の輪郭を持つ部分51a~51dを有し、第1象限Q1及び第2象限Q2の各部分51a,51bと第3象限Q3及び第4象限Q4の各部分51c,51dとがY軸に対して線対称となるように設けられる。この場合、第4象限Q4の部分51dと第1象限Q1の部分51aの間、第1象限Q1の部分51aと第3象限Q3の部分51cの間、並びに、第3象限Q3の部分51cと第2象限Q2の部分51bの間(即ち、各部分51a~51dの自由端の間)に位置するヒータ線5の部分52a~52eは線状となるようにしている。また、各部分51a~51dの半径rは1cm~10cmの範囲内に設定される。半径rが1cmより小さいと、加熱による大きな熱膨張収縮が伴うヒータ線5がもともとの変形が大きいために破壊されてしまう一方で、10cmより大きいと、発生する磁場が非常に小さいという問題がある。
【0015】
基台4から外部に延出するヒータ線5の両端53a,53bは、真空チャンバ1外に配置された直流電源6に接続され、ヒータ線5に通電すると、基台4がジュール熱で加熱され、基台4からの伝熱により基板Swを室温より高い所定温度に加熱することができる。このとき、第1象限Q1及び第4象限Q4の各部分51a,51dと第2象限Q2及び第3象限Q3の各部分51b,51cとに互いに逆向きの直流電流が夫々流れるため、第1象限Q1及び第2象限Q2の各部分51a,51bとの間、及び、第3象限Q3及び第4象限Q4の各部分51c,51dとの間に右ねじの法則に従って基板Swを貫通して漏洩する磁場が形成される。この場合、ヒータ線5への通電電流は、磁場の強度が500A/m~50000A/mの範囲内となるように適宜調整される。
【0016】
上記スパッタリング装置SMは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御手段を有し、マスフローコントローラ13の稼働、真空ポンプユニットPuの稼働や、各種の電源Ps,6,Pbの稼働等を統括制御するようにしている。以下、基板Swをシリコンウエハの表面に下地膜としてPt膜/Ti膜が成膜されたものとし、この基板Swの表面にスパッタリング法によりLiCoO膜を成膜する場合を例に、上記スパッタリング装置SMを用いたプラズマ処理方法について説明する。尚、下地膜(Pt膜/Ti膜)の成膜方法としては、スパッタリング方法等の公知の方法を用いることができるため、詳細な説明を省略する。
【0017】
真空チャンバ1内に配置された基台4の上面に基板Swを設置し、真空チャンバ1内を所定圧力まで真空排気し、所定圧力に到達すると、真空チャンバ1内にアルゴンガスを所定流量で導入し、磁石ユニット3を回転させながら、スパッタ電源Psからターゲット2に負の電位を持つ直流電力や高周波電力を投入し、バイアス電源Pbから基台4に高周波電力を投入する。すると、真空チャンバ1内にプラズマが形成され、プラズマ中のアルゴンイオンによりターゲット2がスパッタリングされ、ターゲット2から余弦側に従い飛散したスパッタ粒子が基板Swの表面に付着、堆積してLiCoO膜が成膜される。
【0018】
スパッタリングによる成膜中、直流電源6からヒータ線5への通電により基台4が加熱され、基台4からの伝熱により基板Swが所定温度(例えば200℃~400℃)に加熱される。このとき、第1象限Q1及び第4象限Q4の各部分51a,51dと第2象限Q2及び第3象限Q3の各部分51b,51cとに互いに逆向きの直流電流が流れるため、第1象限Q1及び第2象限Q2の各部分51a,51bとの間、及び、第3象限Q3及び第4象限Q4の各部分51c,51dとの間に右ねじの法則に従って基板Swを貫通して漏洩する磁場が形成される。ここで、各部分51a~51dの半径をr(m)、各部分51a~51dを流れる電流値をI(A)とすると、磁場の強度H(A/m)は、H=I/2rの式により求められる。このため、直流電源6から各部分51a~51dに流す直流電流を調整することで、500A/m~50000A/mの範囲内の強度Hを持つ磁場を形成することができる。この磁場の作用により基板Swの中央領域上方のプラズマ密度を高めることができ、基板Sw面内で膜質の分布良くLiCoO膜を成膜することができる。
【0019】
このように本実施形態によれば、基台4にアシスト磁石やその冷却機構を設ける必要がないため、部品点数の増加を招くことなく簡単な構成で基板Swの加熱と基板Swを貫通して漏洩する磁場の形成との両立が可能となる。
【0020】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、各部分51a~51dが略円形(円弧状)の輪郭を持つ場合を例に説明したが、輪郭はこれに限定されることはなく、例えばコ字状の輪郭を持つように構成してもよい。この場合も、直流電源6から各部分に流す直流電流を適宜調整することで、500A/m~50000A/mの範囲内の強度を持つ磁場を形成できる。
【0021】
上記実施形態では、基台4にヒータ線5が内蔵されている場合を例に説明したが、ヒータ線5は基台4に組み付けられていればよく、例えば、基台4上面にヒータ線5が溶着等の公知の方法により設けられてもよい。
【0022】
上記実施形態では、ヒータ線5を1本で構成する場合を例に説明したが、図3に示すように、同一方向に直流電流を流す第1象限Q1及び第4象限Q4の各部分51a,51dと、第2象限Q2及び第3象限Q3の各部分51b,51cとに分けて2本で構成してもよい。また、上記実施形態では、各象限Q1~Q4に各部分51a~51dを夫々有しているが、第1象限Q1及び第4象限Q4の各部分と、第2象限Q2及び第3象限Q3の各部分とを夫々一体に形成してもよい。
【0023】
ところで、各象限Q1~Q4に各部分(以下「第1部分」ともいう)51a~51dを夫々1つ有する場合、各部分51a~51dが基台中心4c寄りに配置されることと相俟って、所望の磁場強度が得られるように直流電流を調整すると、基板Swの外周領域の加熱が不十分となり、基板Swの面内温度分布が悪化する可能性がある。そこで、図4に示す変形例では、基台4に3本のヒータ線5,50a,50bが組み込まれている。即ち、各象限Q1~Q4に、上記第1部分51a~51dに加えて、その外側に第2部分54a~54dが更に形成されている。第1象限Q1及び第4象限Q4のヒータ線50aの第2部分54a,54dと、第2象限Q2及び第3象限Q3のヒータ線50bの第2部分54b,54cとは、夫々一体に形成されて円弧状の輪郭を持つ。そして、基台4から外部に延出するヒータ線50aの両端55a,55b、及びヒータ線50bの両端55c,55dが直流電源60に接続され、ヒータ線50a,50bに通電すると、基板Swの特に外周領域を加熱できる。その結果、磁場強度の調整とは別に、基板Swの面内温度分布の調整を実施することができ、有利である。
【0024】
上記実施形態では、プラズマ処理装置としてスパッタリング装置SMを例に説明したが、ドライエッチング装置等の他のプラズマ処理装置に対しても本発明の基板ステージを適用することができる。ドライエッチング装置に適用する場合、基板中央領域のエッチングレートが高められてエッチングレートの面内均一性の調整を図ることができる。
【符号の説明】
【0025】
SM…スパッタリング装置(プラズマ処理装置)、St…基板ステージ、Sw…基板(被処理基板)、2…ターゲット、4…基台、4c…基台4の中心、5…ヒータ線、Q1~Q4…第1象限~第4象限、51a~51d…同等の輪郭を持つ部分、r…円弧の半径、6…直流電源(電源)。
図1
図2
図3
図4