IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】ルテニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20240122BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20240122BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240122BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20240122BHJP
   C02F 1/62 20230101ALN20240122BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/04
C22B3/44
C22B3/46
C02F1/62 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020147033
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041684
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 学
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-147990(JP,A)
【文献】特開2004-131745(JP,A)
【文献】特開2013-177663(JP,A)
【文献】特開2007-270255(JP,A)
【文献】特開2006-334492(JP,A)
【文献】特開2008-115429(JP,A)
【文献】特開2006-274397(JP,A)
【文献】特公昭51-029486(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液を液温20℃以上80℃以下に調整し、表面に銅を析出させた卑金属と接触させてルテニウムを析出させる工程を含むことを特徴とする、ルテニウムの回収方法。
【請求項2】
前記酸性溶液は、さらに銅を含み、前記酸性溶液の銅濃度が0.05g/L以上であることを特徴とする、請求項1に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項3】
前記表面に銅を析出させた卑金属の添加量が、ルテニウムの30質量倍以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項4】
前記卑金属が鉄であり、鉄としての添加量が前記酸性溶液中の銅濃度の2倍質量以下になるように、前記酸性溶液の銅濃度を調整することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項5】
前記銅を析出させた卑金属は、硫酸銅溶液に卑金属を浸漬して得ることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項6】
前記銅を析出させた卑金属は、平均粒径P80が200μm以下の鉄粉と銅イオン含有液とを接触させて得ることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウムの回収方法に係る。
【背景技術】
【0002】
銅乾式製錬では銅精鉱を熔解し、転炉、精製炉で99%以上の粗銅とした後に電解精製工程において例えば純度99.99%以上の電気銅を生産する。近年では転炉においてリサイクル原料として電子部品由来の貴金属を含む金属屑が投入されており、銅以外の有価物は電解精製時にスライムとして沈殿する。
【0003】
このスライムには貴金属類、希少金属、銅精鉱に含まれているセレンやテルルも同時に濃縮される。銅製錬副産物としてこれらの元素は個別に分離・回収される。
【0004】
このスライムの処理には湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば特許文献1においてはスライムを塩酸-過酸化水素により銀を回収し、溶解した金は溶媒抽出により回収した後に、その他の有価物を二酸化硫黄で順次還元回収する方法が開示されている。特許文献2には同様の方法で金銀を回収した後、二酸化硫黄で有価物を還元して沈殿せしめ、セレンのみを蒸留して除去して貴金属類を濃縮する方法が開示されている。
【0005】
貴金属を回収した後の溶液には希少金属イオン、テルル、セレンが含まれておりさらにこれら有価物を回収することが必要である。回収方法としては還元剤により生じた沈殿を回収する方法、溶液ごと銅精鉱に混合しドライヤーで乾燥させて製錬炉に繰り返す方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-316735号公報
【文献】特開2016-160479号公報
【文献】特開2019-147990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されている、二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法はコストや製造規模の面で利点が多い。加えて各元素が順次沈殿することから分離精製にも効果がある。
【0008】
二酸化硫黄を用いて有価物を回収する方法では溶解後に順次有価物を還元して回収することができる。初めに白金、パラジウムが沈殿する。次にセレンが還元を受ける。イリジウム、ルテニウム、ロジウムは酸化還元電位が比較的低く還元を受け難く、最後まで溶液に残留する。溶液中のルテニウムは臭素酸等の強力な酸化剤により酸化後に蒸留して二酸化ルテニウムとして回収する方法が一般的である。
【0009】
特許文献3には、最後まで溶液に残ったルテニウムは金属銅によってセメンテーションする方法が開示されている。セメンテーションに用いる金属に銅を使用することにより、共存しているヒ素がアルシンガスとして発生することを回避することができる。
【0010】
ルテニウムを蒸留する方法では、蒸留時に使用する酸化剤として、例えば臭素酸が考えられるが、その価格は高い。また、製錬澱物工程由来の溶液に含まれるルテニウムは通常100~300mg/L程度であり、他の共存物質と反応してしまうことで酸化効率は低い。
【0011】
また、蒸留される酸化ルテニウムは有毒な化合物であることが知られる。毒物を高濃度で扱うこととなり安全上問題があるので多段蒸留は好ましくない。さらに、蒸留時に不純物が混入すると再度精製操作が必要となるが蒸留は共沸留分が混入しやすい。そのため、蒸留に供するには粗ルテニウムの純度を高めておく必要がある。
【0012】
粗ルテニウムの純度を高めるには一度ルテニウム類を無害な形で粗分離し濃縮することが必要になる。濃縮において溶液を還元して沈殿物としてルテニウムとその他元素を回収する。その他元素としてはセレン、テルル、ロジウムが一般的である。
【0013】
特許文献3に開示してあるように銅によるセメンテーションでルテニウムは粗ルテニウムとして回収できる。しかしながら回収したルテニウム含有沈殿物から銅を除去する必要があるが、硫酸で溶解しなければならない。銅は硫酸に溶解するときは加熱することが必要であり、未反応の銅はその表面がセメンテーションにより析出したセレンやテルル等の物質に被覆されるので酸溶解反応は効率的であるとは言えない。
【0014】
さらに銅は比較的価格の高い金属である。セメンテーションに使用する場合はコストが無視できない。とはいえ代表的な卑金属である鉄や亜鉛、アルミニウムは酸性条件下では場合によりヒ素と反応してアルシンガスを発生する問題がある。
【0015】
本発明はこのような従来の事情を鑑み、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを選択的に回収する方法を提供する。特に銅製錬における電解精製工程で発生する電解澱物を溶解した液に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液を、表面に銅を析出させた卑金属でセメンテーションしてルテニウムを選択的に回収することができることを見出した。本発明の実施形態は、以下のように特定される。
(1)ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液を液温20℃以上80℃以下に調整し、表面に銅を析出させた卑金属と接触させてルテニウムを析出させる工程を含むことを特徴とする、ルテニウムの回収方法。
(2)前記酸性溶液は、さらに銅を含み、前記酸性溶液の銅濃度が0.05g/L以上であることを特徴とする、(1)に記載のルテニウムの回収方法。
(3)前記表面に銅を析出させた卑金属の添加量が、ルテニウムの30質量倍以上であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のルテニウムの回収方法。
(4)前記卑金属が鉄であり、鉄としての添加量が前記酸性溶液中の銅濃度の2倍質量以下になるように、前記酸性溶液の銅濃度を調整することを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(5)前記銅を析出させた卑金属は、硫酸銅溶液に卑金属を浸漬して得ることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(6)前記銅を析出させた卑金属は、平均粒径P80が200μm以下の鉄粉と銅イオン含有液とを接触させて得ることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液を、表面に銅を析出させた卑金属でセメンテーションしてルテニウムを選択的に回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係るルテニウムの回収方法は、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液を液温20℃以上80℃以下に調整し、表面に銅を析出させた卑金属と接触させてルテニウムを析出させる工程を含む。
【0019】
非鉄金属製錬、とりわけ銅製錬の電解精製工程で生じる電解澱物は白金族元素と重金属、有毒元素が濃縮される。白金族元素ならびに有毒元素は単独で製錬されることはなく、他金属の副産物として回収されるか廃触媒等のリサイクル原料から分離される。したがって、本発明の実施形態に係るルテニウムの回収方法は廃棄物からのリサイクルにも適用できる。
【0020】
塩酸と過酸化水素を添加して電解澱物を溶解することができるが、銀は溶解直後に塩化物イオンと不溶性の塩化銀沈殿を形成する。酸化剤と塩素を含む溶液、例えば王水や塩素水であれば貴金属類は溶解して銀を塩化銀として分離できる。塩化物浴であるため浸出貴液(PLS)には白金族元素、希少金属元素、カルコゲン元素、ヒ素、アンチモン等が分配する。
【0021】
浸出貴液(PLS)は一度冷却され、鉛やアンチモンといった卑金属類の塩化物を沈殿分離する。その後に溶媒抽出により金を有機相に分離する。金の抽出剤はジブチルカルビトール(DBC)が広く使用されている。
【0022】
金を抽出した後のPLSを還元すれば有価物は沈殿・回収できるが、元素により酸化還元電位が異なるために自ずと沈殿の順序が決まっている。初めに金、白金、パラジウム、次にセレンやテルルといったカルコゲン、さらにルテニウムやイリジウムといった不活性貴金属類が沈殿する。
【0023】
還元剤は還元性硫黄が価格と効率の面から利用され、なかでも二酸化硫黄は転炉ガスや硫化鉱の焙焼により大量にしかも安価に供給できるため最適である。不活性貴金属類は二酸化硫黄や亜硫酸塩では還元速度が極めて遅い。そもそも含有量も多くはなく、例えば銅電解澱物溶解液中のルテニウムは150~300mg/L程度である。現状の二酸化硫黄によるルテニウム回収率は6~8時間の反応時間で30~50%程度であるが、完全に沈殿せしめるならば10時間以上必要であると予想される。これはあまりに長く現実的な反応時間ではない。
【0024】
そこで、ルテニウムをより迅速にかつ効率的に回収するには金属によるセメンテーションが最も良い。ルテニウムは亜鉛、マグネシウム、アルミニウムなど酸で水素を発生する金属(卑金属)により金属ルテニウムまで還元されることは知られている。
Fe + Ru2+ → Fe2+ + Ru
【0025】
ところがヒ素を含む酸性溶液では上記の卑金属とは、酸で水素を発生して、ヒ素が反応してアルシンガスが発生する問題がある。
3Fe + H3AsO3 + 6H+ → 3Fe2+ + H3As + 3H2
そのため、卑金属単体によるセメンテーションは現実的ではない。
一方、銅は、ヒ素を含む酸性溶液中にあっても、ヒ化銅ができ、アルシンガスは発生しない。
6Cu+ 2H3AsO3 + 6H+ → 2Cu3As + 6H2
そこで、卑金属の近傍に銅が存在すれば、卑金属と接する溶液中のヒ素の濃度は銅により下がり、アルシンの発生量を抑制してルテニウムを回収することが可能になる。その典型的な形態は、表面を銅で被覆することである。
【0026】
卑金属の表面の被覆は水溶性銅塩を溶かした水溶液に卑金属単体を浸せばよく、例えば、銅を析出させた卑金属は、硫酸銅溶液に卑金属を浸漬することで得ることができる。そのほかにも電気メッキやガス蒸着してもよく、表面が銅に覆われているのであれば、クラッド状のようなものでもよい。
【0027】
さらに、表面を銅で被覆した卑金属は、未反応分が回収したルテニウムに混入しても硫酸等の鉱酸で容易に溶解することができる。本発明における「卑金属」は、標準水素電極で負の酸化還元電位を示す金属を指し、卑金属であれば対象は問わないが、取扱い易さからは、アルミニウム、亜鉛、鉛、鉄、ニッケルやその合金が使用でき、中でも鉄は費用と反応性の面で最も好ましい。
【0028】
鉄は単体でも、表面を銅で被覆した状態でもルテニウムをセメンテーションできる。また、鉄を被覆している銅はルテニウムをもセメンテーションできる。これに対しヒ素は鉄が酸溶解する時の発生期水素のみと反応してアルシンを発生する。銅と反応してヒ化銅を生成することも75℃以上で可能であるが、アルシンは発生しないため問題ない。
【0029】
ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液を表面に銅を析出させた卑金属と接触させてルテニウムを析出させるが、このとき、酸性溶液を液温20℃以上80℃以下に調整する。酸性溶液が液温20℃以上であると、反応が問題ない速度で進行し、さらには共存するアルカリ塩類もしくはアルカリ土類塩類の析出を抑えながらルテニウムをセメンテーションすることができる。酸性溶液が80℃以下であると、ヒ素に対してルテニウムの選択性が高いままルテニウムをセメンテーションすることができる。当該酸性溶液の液温は、40℃以上70℃以下に調整するのが好ましい。
【0030】
銅被覆鉄の表面の銅は硫酸酸性液中では徐々に溶解する。溶解した箇所は鉄表面が再生する。この再生鉄表面ではルテニウムがセメンテーションされる。もしくは銅が再度析出して鉄を覆い、ヒ素との反応は優先度が低い。
【0031】
それでも幾らかのアルシンが発生する恐れがあるならば、予め(上記接触前に)酸性溶液の銅濃度を0.05g/L以上に調整しておくことが好ましい。アルシンが発生しても銅イオンと反応してヒ化銅としてトラップすることができる。当該銅濃度は、0.2g/L以上1g/L以下に調整しておくことがより好ましい。
【0032】
銅濃度は硫酸銅(II)、塩化銅(II)等の水溶性銅塩で調整すればよい。銅電解液を添加してもよい。初期に投入しても反応途中に添加してもよい。
【0033】
また、上記卑金属が鉄であるとき、鉄としての添加量が酸性溶液中の銅濃度の2倍質量以下になるように、酸性溶液の銅濃度を調整することが好ましい。このような構成によれば、ヒ素がアルシンまで還元される可能性を大幅に低くすることができる。鉄としての添加量が酸性溶液中の銅濃度の1.5倍質量以下になるように、酸性溶液の銅濃度を調整することがより好ましい。
【0034】
また、酸性溶液への表面に銅を析出させた卑金属の添加量は、酸性溶液に含まれるルテニウムの30質量倍以上であるのが好ましい。このような構成によれば、効率的にルテニウムのみをセメンテーションすることができる。酸性溶液への表面に銅を析出させた卑金属の添加量は、酸性溶液に含まれるルテニウムの50質量倍以上100質量倍以下であるのがより好ましい。
【0035】
銅を析出させた卑金属は、平均粒径P80が200μm以下の鉄粉と銅イオン含有液とを接触させて得ることが好ましい。ここで、「P80」とは、篩にかけた時に80%が通過する粒径を示す。銅を析出させた卑金属の平均粒径P80が200μm以下であると、反応速度を高めることができる。銅を析出させた卑金属の平均粒径P80は、150μm以下であるのがより好ましい。
【0036】
回収されるルテニウムは金属ルテニウムであり既存のルテニウム精製工程で処理できる。一般にセメンテーションでは過剰に置換金属を添加するが、未反応の銅被覆鉄は酸性条件下では加熱すれば溶解する。もしくは磁力により分別することも可能である
【0037】
セメンテーションに際しては予め還元剤により鉄や銅と反応するイオン化傾向が低い金属類やセレンやテルルを除いておくと銅被覆鉄使用量が抑制できる。この時の還元剤としては安価な二酸化硫黄が好ましい。
【0038】
銅被覆鉄の作成に用いる鉄の形状は、板状、棒状、ショットや鉄粉でもよい。タンク式反応槽ではなく、充填塔や循環槽に銅被覆鉄を装入して処理対象液を通液させてもよい。接触方式は回収物中銅含有量の許容量や反応効率、設備上の制約により決定される。セメンテーションに使用される銅被覆鉄の比表面積の大きい銅被覆鉄粉がより好ましい。
【0039】
ルテニウムのセメンテーション反応でタンク式反応槽に銅被覆鉄を投入する場合はその形状が粉粒体であることが好ましい。粉粒体とはここでは平均粒径D50が10mm以下の粒子を指す。溶液中にカルコゲン類が共存する場合はより多くの銅被覆鉄を投入することが好ましい。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実験例1)
銅製錬の銅電解精製工程から回収された電解澱物を硫酸により銅を除いた。濃塩酸と60%過酸化水素水を添加して溶解し、固液分離してPLS(浸出貴液)を得た。PLSを6℃まで冷却して卑金属分を沈殿除去した。酸濃度を2N以上に調整しDBC(ジブチルカルビトール)とPLSを混合して金を抽出した。金抽出後のPLSを70℃に加温し、二酸化硫黄と空気の混合ガス(二酸化硫黄濃度5~20%)を吹き込んで貴金属とセレンを還元し固液分離した。セレン分離後液のセレン濃度は110mg/L、テルル濃度85mg/L、ルテニウム濃度は82mg/L、銅濃度は2.3g/L、ヒ素濃度は1.4g/Lであった。
【0042】
硫酸濃度3N、銅濃度30g/Lの液を200ml測り取った。鉄粉(粒度100μm以下)を15g添加した。10秒後にろ過して固液分離して銅被覆鉄粉を得た。水洗後エタノールで洗浄して風乾後に用いた。銅被覆鉄粉の銅品位は35wt%であった。
【0043】
セレン分離後液(ルテニウムの回収対象となるルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液)を200ml測り取り、50~55℃もしくは70~75℃に加温して銅被覆鉄粉を1g添加した(実施例1、2)。比較のため鉄粉1gを添加し50~55℃でセメンテーションした系(比較例1)、もしくは銅粉1gを添加して75~80℃でセメンテーションした系(比較例2)も試行した。30分後に分析用サンプルを採取した。120分間で反応を終了した。沈殿は濾別して乾燥後に質量を測定した。
【0044】
試験サンプルは2mlを分取して50mlに規正した。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)により溶液中のルテニウム、ヒ素及び銅それぞれの濃度を定量した。残渣の分析は0.1g程度を測り取り王水に溶解後、ICP-OESで濃度を測定してヒ素含有率を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1、2を比較例1と比べると、銅被覆鉄粉は金属鉄を添加する場合よりもヒ素を液中に残したままルテニウムをセメンテーションできたことがわかる。また実施例1、2を比較例2と比べると、銅被覆鉄粉は銅よりルテニウムのセメンテーションが効果的であったことが分かる。
【0047】
(実験例2)
実験例1と同じセレン分離後液(ルテニウムの回収対象となるルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液)を200ml分取した。50℃に加温し表2に示す量の銅被覆鉄粉を添加して攪拌した。銅被覆鉄粉は実験例1で使用したものと同じものを使用した。セレン分離後液には銅が2.3g/L程度含まれていた。30分後に分析用サンプルを採取した。120分間で反応を終了した。
【0048】
試験サンプルは2mlを分取して50mlに規正した。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)により溶液中のルテニウム、ヒ素及び銅それぞれの濃度を定量した。定量方法は実験例1に準じる。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
原料液のルテニウム含有量は17mgであるから銅被覆鉄粉1gの添加で80%以上のルテニウムが回収できた。0.7gの添加でも50%以上の回収が迅速に達成できる。逆に添加量が多いとルテニウムの回収は効果的であるがヒ素の混入量が増えてしまう。
【0051】
(実験例3)
実験例1とは別ロットのセレン分離後液(ルテニウムの回収対象となるルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液)を200ml分取した。表3に示す温度に加温し表3に示す量の銅被覆鉄粉を添加して攪拌した。銅被覆鉄粉は新規に調製し、銅品位は61wt%であった。セレン分離後液には銅が0.55g/L、ルテニウムが130mg/L、ヒ素が1.5g/L程度含まれていた。30分後に分析用サンプルを採取した。60分間で反応を終了した。
【0052】
試験サンプルは2mlを分取して50mlに規正した。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)により溶液中のルテニウム、ヒ素及び銅それぞれの濃度を定量した。定量方法は実験例1に準じる。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
ヒ素はほとんどアルシンとなって放散されていない。ヒ素がアルシンになることを防ぐのであれば銅イオンの濃度が0.05g/L以上であればよい。鉄と反応して単体ヒ素になることはあってもアルシンの発生までつながることはない。
【0055】
硫酸銅の添加のない条件では30℃程度の反応温度でもルテニウムが回収された。0.3gの銅被覆鉄粉の添加でも50%程度のルテニウムのセメンテーションが達成された。