(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】正極を作製する方法およびそのために適当な中間体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20240122BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20240122BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240122BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240122BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240122BHJP
C08G 79/02 20160101ALI20240122BHJP
C01G 45/00 20060101ALI20240122BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/1397
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/36 C
C08G79/02
C01G45/00
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020533016
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2018083496
(87)【国際公開番号】W WO2019115291
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-02
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】メンデス アグデロ,マヌエル アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ヘッカー,ヨハネス ダフィット
(72)【発明者】
【氏名】ホルツマン,スフェン
(72)【発明者】
【氏名】フィーヒター,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】コッホ,マリオン
(72)【発明者】
【氏名】モンターク,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】クリーク,パトリク
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,フォルカー
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103951981(CN,A)
【文献】特開2006-052401(JP,A)
【文献】Kurt Kellner et al.,Monatshefte fur Chemie,1990年,vol. 121,pp. 1031-1038
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C08G 79/02
C01G 45/00
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程、
(a) 層化されたリチウム遷移金属酸化物、リチウム化されたスピネル、カンラン石構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩、およびリチウムニッケル-コバルトアルミニウム酸化物から選択された正極活物質を提供する工程、
(b) 前記正極活物質を、一般式(Ia)
【化1】
(式中、
R
1は、同じであるかまたは異なり、水素、C
1~C
4-アルキル、アリール、およびC
4~C
7-シクロアルキルから選択され、
R
2およびR
3は、各発生箇所で、フェニル、C
1~C
8-アルキル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(
CH
3
)
2-
*から独立に選択され、ここで、1個または複数の非隣接CR
9
2基は、酸素により置き換えられていてもよく、R
9は、各発生箇所で、HおよびC
1~C
4-アルキルから独立に選択され、pは0から6の変数であり、
R
2およびR
3は、C
1~C
8-アルキルと、オリゴマー全体で1分子当たり多くても1個の、フェニル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(
CH
3
)
2-
*からなる群から選択される基と、から選択され、
アステリスク
*は、式(Ia)の少なくとももう1つのユニット、またはC
1~C
4-アルキルから選択されるエンドキャップR
4、または分岐のためのプレイスホルダーである)
によるユニットを担持するオリゴマー、
および任意に、導電性の形態にある少なくとも1種の炭素、および任意に、結合剤で処理する工程、
(c) 前記処理された正極活物質のスラリーを、電流コレクターに適用する工程、ならびに
(d) 溶媒を少なくとも部分的に除去する工程
を含む、正極を作製する方法。
【請求項2】
工程(b)で、1分子当たり少なくとも平均2個のP原子を担持するオリゴマーが使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R
1が水素およびメチルから選択され、R
2およびR
3は全てメチルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)が、5から200℃の範囲内の温度で実施される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴマーは、R
4がC
1~C
4-アルキルから選択されるO-R
4基でエンドキャップされている、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)が、スクイージーまたは押出し機を用いて実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)が、常圧における沸点が25から250℃の範囲内の非プロトン性溶媒から選択される非プロトン性溶媒中で実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一般式(Ia)によるユニットを担持するオリゴマーと、導電性形態にある炭素、および任意に結合剤とを、非プロトン性溶媒の存在下で、ただし、前記正極活物質の非存在下で混合する追加の工程を含み、前記追加の混合工程は、工程(b)の前に実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記正極活物質が、層化されたリチウム遷移金属酸化物およびリチウムニッケル-コバルトアルミニウム酸化物から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
層化されたリチウム遷移金属酸化物、リチウム化されたスピネル、カンラン石構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩、およびリチウムニッケル-コバルトアルミニウム酸化物から選択される正極活物質であって、正極活物質全体の0.1から4質量%の範囲内のコーティングを有し、そのようなコーティングは、PおよびSiを1:1から1.8:1の質量範囲で含み、
上記コーティングは、一般式(Ia)によるユニットを担持するオリゴマーを含む、正極活物質
【化2】
(式中、
R
1は、同じであるかまたは異なり、水素、C
1~C
4-アルキル、アリール、およびC
4~C
7-シクロアルキルから選択され、
R
2およびR
3は、各発生箇所で、フェニル、C
1~C
8-アルキル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(
CH
3
)
2-
*から独立に選択され、ここで、1個または複数の非隣接CR
9
2基は、酸素により置き換えられていてもよく、R
9は、各発生箇所で、HおよびC
1~C
4-アルキルから独立に選択され、pは0から6の変数であり、
R
2およびR
3は、C
1~C
8-アルキルと、オリゴマー全体で1分子当たり多くても1個の、フェニル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(
CH
3
)
2-
*からなる群から選択される基と、から選択され、
アステリスク
*は、式(Ia)の少なくとももう1つのユニット、またはC
1~C
4-アルキルから選択されるエンドキャップR
4、または分岐のためのプレイスホルダーである)。
【請求項11】
正極を作製するために用いられる、式(Ia)によるユニットを担持するオリゴマー
【化3】
(式中、
R
1は、同じであるかまたは異なり、水素、C
1~C
4-アルキル、アリール、およびC
4~C
7-シクロアルキルから選択され、
R
2およびR
3は、各発生箇所で、フェニル、C
1~C
8-アルキル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(
CH
3
)
2-
*から独立に選択され、ここで、1個または複数の非隣接CR
9
2基は、酸素により置き換えられていてもよく、R
9は、各発生箇所で、HおよびC
1~C
4-アルキルから独立に選択され、pは0から6の変数であり、
R
2およびR
3が、C
1~C
8-アルキルと、オリゴマー全体で1分子当たり多くても1個の、フェニル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(
CH
3
)
2-
*からなる群から選択される基と、から選択され、
アステリスク
*は、式(Ia)の少なくとももう1つのユニット、またはC
1~C
4-アルキルから選択されるエンドキャップR
4、または分岐のためのプレイスホルダーである)
であって、1分子当たりの式(Ia)によるユニットの平均は少なくとも3であるオリゴマー。
【請求項12】
1ppmから100ppmの範囲内の合計塩素含有率を有する、請求項11に記載のオリゴマー。
【請求項13】
20℃で決定された、10mPa・sから10,000mPa・sの範囲内の動的粘度を有する、請求項11または12に記載のオリゴマー。
【請求項14】
R
1が水素およびメチルから選択され、R
2およびR
3は全てメチルである、請求項11から13のいずれか1項に記載のオリゴマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極を作製する方法を対象とし、前記方法は以下の工程を含む:
(a) 層化されたリチウム遷移金属酸化物、リチウム化されたスピネル、カンラン石構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩、およびリチウムニッケル-コバルトアルミニウム酸化物から選択される正極活物質を提供する工程、
(b) 前記正極活物質を、一般式(Ia)
【化1】
(式中、
R
1は同じであるかまたは異なり、水素、C
1~C
4-アルキル、アリール、およびC
4~C
7-シクロアルキルから選択され、
R
2およびR
3は、各出現時、フェニル、C
1~C
8-アルキル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(R
2)
2-
*から独立に選択され、ここで、1個または複数の非隣接CR
9
2基は酸素により置き換えられていてもよく、R
9は、各出現時、HおよびC
1~C
4-アルキルから独立に選択され、pは0から6の変数であり、
ここで、R
2およびR
3の殆ど全部は、C
1~C
8-アルキルから選択される)
によるユニットを担持するオリゴマー、
および任意に、導電性形態にある少なくとも1種の炭素、および任意に、結合剤で処理する工程、
(c) 前記処理された正極活物質のスラリーを電流コレクターに適用する工程、ならびに
(d) 工程(c)で使用された溶媒を、少なくとも部分的に除去する工程。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーの貯蔵は、まだ成長する関心事の主題である。電気エネルギーの効率的な貯蔵は、電気エネルギーが、有利なときに発生されて、必要な時に使用されることを可能にするであろう。電気化学的二次電池は、それらが再充電可能なために、この目的に十分に適する。二次リチウム蓄電池は、エネルギー貯蔵にとって特別の関心事であり、その理由は、それらがリチウムの小さい原子量および大きいイオン化エネルギーに基づいて高いエネルギー密度を提供し、それらが多くのポータブルのエレクトロニクス、例えば、携帯電話、ラップトップコンピューター、小型カメラ、その他のための電源として広く使用されるようになったからである。
【0003】
何年もの間多くの研究が行われたにもかかわらず、リチウムイオン電池にはまだ幾つかの欠点がある。とりわけ、電池の抵抗増大は、容量低下(「容量減衰」)に至り得る問題である。特に最初のサイクル中に、除去される必要があるガスが発生し得る。そのようなガスは、種々の発生源および理由から生じ得る。1つの理由は、電解質の分解である。
【0004】
いろいろな方法が、種々の理論、例えば正極活物質における反応性基の失活に基づいて試みられた。米国特許公開2009/0286157号には、表面処理の方法が開示されて、そこで、その著者らは、ある種のハロシランから選択される有機金属化合物を用いる正極活物質の表面処理を記載している。しかしながら、脱離基として作用するハロゲン化物は、それが酸化または還元反応を受けやすくないかという問題を生じ得る。
【0005】
O,O’-ジアルキルホスホン酸とハロシランとのポリマー反応生成物が、K.Kellnerら、Monatshefte Chemie 1990年、121巻、1031~1038頁に記載されており、防カビ剤および殺菌剤として提案されている。さらに、末端ホスホネートおよびホスフェート基を有するリンおよびケイ素含有モノマーおよびオリゴマーの合成が、K.Troevらにより、「Phosphorus、Sulfur、and Silicon and the Related Elements」1992年、68巻、107~114頁に記載されて、生物学的に活性な物質としての使用が提案されている。
【0006】
同様に、リンおよびイオウ化合物を用いる正極活物質の表面処理が、米国特許公開第2012/0068128号に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許公開2009/0286157号
【文献】米国特許公開第2012/0068128号
【非特許文献】
【0008】
【文献】K.Kellnerら、Monatshefte Chemie 1990年、121巻、1031~1038頁
【文献】K.Troevらにより、「Phosphorus、Sulfur、and Silicon and the Related Elements」1992年、68巻、107~114頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それ故、危険の懸念を呼び起こす副生物を形成せずに、リチウムイオン電池の循環挙動、特に容量減衰を低下させ、およびガス発生を改善する方法を提供することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、冒頭で明らかにされた方法が見出され、その後、本発明の方法または本発明による方法として、定義された。
【0011】
本発明の方法は、後で工程(a)、工程(b)、工程(c)等とも称される以下の工程を含む。前記工程を、下でより詳細に説明することにする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
工程(a)では、層化されたリチウム遷移金属酸化物、リチウム化されたスピネル、カンラン石構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩、およびリチウムニッケル-コバルトアルミニウム酸化物から選択される正極活物質(cathode active material)が提供される。
【0013】
層化されたリチウム遷移金属酸化物の例は、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、および一般式Li(1+z)[NiaCobMnc](1-z)O2+e(式中、zは0から0.3であり;a、bおよびcは、同じであっても異なっていてもよく、独立に0から0.95であり、a+b+c=1であり;-0.1≦e≦0.1である)を一般的に有する層化された構造の混合された遷移金属酸化物である。層化されたリチウム遷移金属酸化物は、非ドープであっても、例えばTi、Al、Mg、Ca、またはBaでドープされていてもよい。
【0014】
リチウム化された遷移金属リン酸塩の例は、LiMnPO4、LiNiPO4、LiFePO4およびLiCoPO4、およびFeおよびCoまたはFeおよびMnまたはFeおよびFeの代わりにNiの組み合わせを含有する混合されたリチウム遷移金属リン酸塩である。リチウム化された遷移金属リン酸塩は、少量の、例えば0.01から5モル%のリン酸リチウムを含有することもできる。リン酸リチウムの例は、Li3PO4およびLi4P2O7である。
【0015】
好ましい実施形態では、リチウム化された遷移金属リン酸塩は、導電性形態にある炭素と一緒に提供され、例えば導電性形態にある炭素でコートされている。そのような実施形態では、リチウム化された遷移金属リン酸の炭素に対する比は、通常100:1から100:10、好ましくは100:1.5から100:6の範囲内である。本発明の関係で、用語「導電性形態にある」および「導電性多形にある」は互換的に使用される。
【0016】
リチウム化された遷移金属リン酸塩は、通常カンラン石構造を有する。
【0017】
マンガン含有の例は、スピネル様LiMn2O4および一般式Li1+tM2-tO4-dのスピネル(dは0から0.4であり、tは、0から0.4であり、およびMは、MnおよびFe、Co、Ni、Cr、V、Mg、Ca、Al、B、Zn、Cu、Nb、Ti、Zr、La、Ce、Yまたは前述の任意の2種以上の混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のさらなる金属である)である。例えば、MはMnzM(2-z)であり、zは0.25から1.95、好ましくは0.5から1.75、より好ましくは1.25から1.75の範囲内である。
【0018】
特に好ましいスピネルは、Li1+tMn(1-175)Ni(1-0.25)O4を含む。
【0019】
リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物の例、それらの好ましいものは一般式Li(1+g)[NihCoiAlj](1-g)O2を有する。g、h、i、およびjの典型的な値は:g=0から0.1、h=0.8から0.85、i=0.15から0.20、j=0.01から0.05である。
【0020】
好ましい正極活物質は、層化されたリチウム遷移金属酸化物およびリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物である。層化されたリチウム遷移金属酸化物の特に好ましい例は、Li(1+z)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-z)O2、Li(1+z)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-z)O2、Li(1+z)[Ni0.4Co0.2Mn0.4](1-z)O2、Li(1+z)[Ni0.4Co0.3Mn0.3](1-z)O2、Li(1+z)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-z)O2、Li(1+z)[Ni0.7Co0.2Mn0.1](1-z)O2、およびLi(1+z)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-z)O2であり、ここで、zは各場合に0.1から0.25から選択される。
【0021】
正極活物質は、粒子状形態であることもある。正極活物質に関係する用語「粒子状」は、前記材料が、最大粒子直径が32μmを超えない粒子の形態で提供されることを意味することとする。前記最大粒子直径は、例えば篩いにより決定することができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、工程(a)で提供される正極活物質は、球形粒子を含む。球形粒子は、球形形状を有する粒子である。球形粒子は、正確に球形であるものだけでなく、少なくとも90%(数平均)の代表的試料の最大および最小直径の相違が10%以下であるこれらの粒子も含むこととする。
【0023】
本発明の一実施形態において、工程(a)で提供される正極活物質は、一次粒子の凝集塊である二次粒子を含む。好ましくは、工程(a)で提供される正極活物質は、一次粒子の凝集塊である球形二次粒子を含む。さらにより好ましくは、工程(a)で提供される正極活物質は、球形の一次粒子または小平板の凝集塊である球形の二次粒子を含む。
【0024】
本発明の一実施形態において、工程(a)で提供される正極活物質の二次粒子の平均粒子直径(D50)は、6から12μm、好ましくは7から10μmの範囲内である。本発明の関係で平均粒子直径(D50)は、例えば、光散乱により決定することができる、体積に基づく粒子直径の中央値を指す。
【0025】
本発明の一実施形態において、工程(a)で提供される正極活物質の一次粒子は、1から2000nm、好ましくは10から1000nm、特に好ましくは50から500nmの範囲内に平均直径を有する。一次粒子の平均直径は、例えば、SEMまたはTEMによって決定することができる。SEMは、走査電子顕微鏡の略号であり、TEMは、透過電子顕微鏡の略号である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、工程(a)で、2種以上の異なる正極活物質の混合物、例えば遷移金属組成が異なる2種の層化されたリチウム化された遷移金属酸化物、または層化されたリチウム遷移金属酸化物およびリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、または組成が異なる2種のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、または層化されたリチウム化された遷移金属酸化物およびリチウム化されたスピネルが提供され得る。しかしながら、ただ1種の正極活物質が提供されることが好ましい。
【0027】
工程(b)では、工程(a)で提供された正極活物質が、式(Ia)によるユニットを担持する少なくとも1種のオリゴマーで処理される。
【0028】
本発明の一実施形態において、一般式(Ia)によるユニットを担持するオリゴマーの量は、正極活物質の合計量に対して0.05から10質量%、好ましくは0.1から5質量%の範囲内である。
【0029】
一般式(Ia)によるユニットを担持するオリゴマーは、この後オリゴマー(I)とも称される。オリゴマー(I)を、より詳細に説明することにする。オリゴマー(I)は、式(Ia)によるユニットを担持する
【化2】
(式中、
R
1は、同じであるかまたは異なり、水素、およびC
1~C
4-アルキル、アリール、およびC
4~C
7-シクロアルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、tert.-ブチルから選択され、好ましいC
1~C
4-アルキルはメチルである。
【0030】
好ましくは、オリゴマー(I)中の全てのR1は同じであり、水素およびメチルから選択される。さらにより好ましくは、全てのR1は水素である。
【0031】
R2およびR3は、各出現時、フェニル、C1~C8-アルキル、C4~C7-シクロアルキル、C1~C8-ハロアルキル、およびOPR1(O)-*および-(CR9
2)p-Si(R2)2-*から独立に選択され、ここで、1個または複数の非隣接CR9
2基が酸素により置き換えられていてもよく、R9は、各出現時、HおよびC1~C4-アルキルから独立に選択され、pは0から6の変数である。
【0032】
1個または複数の非隣接CR9
2基が、酸素により置き換えられていてもよく、pが0から6の変数である式-(CR9
2)p-Si(R2)2-*の基の例は、-Si(CH3)2-、-CH2-Si(CH3)2-、-O-CH2-CH2-O-Si(CH3)2-、-CH2-CH2-Si(CH3)2-、および-C(CH3)2-Si(CH3)2-である。
【0033】
フェニルは、非置換であっても、1個または複数のC1~C4-アルキル基で置換されていてもよく、例は、パラ-メチルフェニル、2,4-ジメチルフェニル、2,6-ジメチルフェニルである。
【0034】
C1~C8-アルキルおよびC4~C7-シクロアルキルの例は、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、iso-オクチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルであり、好ましいものは、n-C1~C4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、tert.-ブチルであり、好ましいC1~C4-アルキルはメチルである。
【0035】
少なくとも1つのハロゲン原子、好ましくはフッ素または塩素を担持するC1~C8-ハロアルキル基の例。C1~C8-ハロアルキルは、ペルハロゲン化されていても、モノハロゲン化されていても、または部分的にハロゲン化されていてもよい。特定の例は、クロロメチル、ジクロロメチル、トリフルオロメチル、ω-クロロエチル、ペルフルオロ-n-ブチル、ω-クロロ-n-ブチル、および-(CH2)2-(CF2)5-CF3である。
【0036】
したがって、オリゴマー(I)は、好ましくは、配列-O-P-O-Si-O-P-Oを担持する。その結果として、それらは、-O-P-O-PまたはO-P-Si-O配列を担持しない。
【0037】
オリゴマー(I)では、R2およびR3の殆ど全部が、C1~C8-アルキルから選択され、例えば、オリゴマー(I)全体で、C1~C8-アルキル以外に1分子当たり1つのみの基R2またはR3を担持する。
【0038】
式(Ia)等のユニット中で、アステリスク*は、式(Ia)の少なくとももう1つのユニットのための、またはエンドキャップR4のための、または分岐のためのプレイスホールダーである。下を参照されたい。
【0039】
本発明の一実施形態において、オリゴマー(I)はO-R
4基でエンドキャップされており、ここで、R
4は、C
1~C
4-アルキルから選択され、好ましいR
4はメチルである。好ましくは、エンドキャッピングは、リン上において、例えば以下の式
【化3】
(式中、R
4は、C
1~C
4-アルキル、特にメチルまたはエチルであり、R
1は上で定義されている通りである)による基による。
【0040】
本発明の一実施形態において、オリゴマー(I)は、1分子当たり少なくとも1個のSi原子および少なくとも2個のP原子を担持する。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、オリゴマー(I)は、1分子当たり2から100個の一般式(Ia)によるユニットを担持し、好ましくは3から20個である。そのような数は、数平均の数と理解されるべきである。そのような数平均は、例えば、1H-NMR分光法により決定することができる。
【0042】
本発明の一実施形態において、本発明のオリゴマーは、1分子当たり1個または複数の分岐を、好ましくは、ケイ素上に、例えば
【化4】
のように有することもある。
【0043】
オリゴマー(I)の合成を、さらに下でより詳細に説明する。
【0044】
工程(b)による処理は、工程(a)で提供された正極活物質を、溶媒中にオリゴマー(I)と一緒にスラリー化することにより実施することができる。前記溶媒は、2種以上の溶媒の混合物であってもよい。しかしながら、好ましい実施形態では、工程(b)では、ただ1種の溶媒が使用される。工程(b)のために適当な溶媒は非プロトン性である。本発明の関係で、「非プロトン性」とは、溶媒が25℃で1M NaOH水溶液により除去され得るプロトンを担持していないことを意味する。
【0045】
工程(b)のために適当な溶媒は、例えば、脂肪族または芳香族炭化水素、有機カーボネート、およびさらにエーテル、アセタール、ケタールおよび非プロトン性アミドおよびケトンである。例には:n-ヘプタン、n-デカン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、オルト-、メタ-およびパラ-キシレン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、DMSO(ジメチルスルホキシド)およびシクロヘキサノンが含まれる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、工程(b)で使用される溶媒は、常圧で沸点が105から250℃の範囲内の非プロトン性溶媒から選択される。適当な溶媒の例は、N,N-ジメチルホルムアミド(「DMF」)、N,N-ジメチルアセトアミド(「DMA」)、N-C1~C8-2-アルキルピロリドン、例えばN-メチル-2-ピロリドン(「NMP」)、N-エチル-2-ピロリドン(「NEP」)、N-n-ブチル-2-ピロリドン、およびN-C5~C8-2-シクロアルキルピロリドン、例えばN-シクロヘキシル-2-ピロリドンである。好ましい例は、DMF、NMPおよびNEPである。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、工程(b)で使用される溶媒は、低い、例えば1質量%未満、好ましくは3から100質量ppm、さらにより好ましくは5から50質量ppmの含水率を有する。
【0048】
溶媒の全固体に対する質量比は、10:1から1:5、好ましくは5:1から1:4の比の内であってもよい。この含有率の固体は、正極活物質およびオリゴマー(I)、および、適用可能ならば、導電性多形にある炭素および結合剤である。
【0049】
工程(b)の一実施形態において、工程(a)で提供される正極活物質は、導電性形態にある炭素と一緒にスラリーにされ得る。導電性形態にある炭素は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、炭素ナノチューブ、煤煙、グラフェンまたは少なくとも上記2種の物質の混合物から選択することができる。
【0050】
工程(b)では、工程(a)で提供される正極活物質を、1種または複数の結合剤、例えば、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンおよびエチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリルおよび1,3-ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーのコポリマー、特にスチレン-ブタジエンコポリマー、およびポリ塩化ビニリデンのようなハロゲン化された(co)ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、テトラフルオロエチレンとフッ化ビニリデンのコポリマー、およびポリアクリロニトリルのような1種または複数の有機ポリマーと一緒にスラリーにすることもできる。
【0051】
工程(b)におけるスラリー化は、混合により実行される。種々の成分の添加順序は、1対の選択肢の間で選ぶことができる。しかしながら、場合によっては、1種または複数の固体を導入する前に、オリゴマー(I)と溶媒とを最初に混合することが好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態では、容器にオリゴマー(I)と溶媒の混合物を入れるか、またはオリゴマー(I)を溶媒に溶解させる。次に、正極活物質、導電性多形にある炭素および、適用可能ならば結合剤を、好ましくは、攪拌または振盪下で加える。前記容器は、攪拌されている槽式反応器または混合ドラムであってもよい。混合ドラムが選択される実施形態では、前記混合は、混合ドラムを回転させることにより実行することができる。
【0053】
本発明の別の実施形態では、容器に、正極活物質、導電性多形にある炭素および、適用可能ならば結合剤を充填する。次に、好ましくは、攪拌または回転下で、溶媒中のオリゴマー(I)の溶液を加える。
【0054】
混合は、1個または複数の容器中で、例えば2個以上の攪拌されている槽式反応器のカスケードで、または攪拌されている容器および押出し機の配列で実行することができる。押出し機は、スラリーの固体含有率が80%以上の実施形態において好ましい容器である。スラリーの固体含有率が70%以下の実施形態では、攪拌されている槽式反応器が好ましい。
【0055】
本発明の一実施形態において、一般式(Ia)によるユニットを担持するオリゴマーと導電性形態にある炭素と、および任意に結合剤とを、非プロトン性溶媒の存在下で、ただし正極活物質の非存在下で混合する追加の工程であって、前記追加の混合する工程が、工程(b)の前に実施される。
【0056】
本発明の一実施形態において、正極活物質は、導電性形態にある炭素と同時に、またはその存在下で発生される。この実施形態は、正極活物質が、リチウム化された遷移金属リン酸塩、例えばLiFePO4またはLiCoPO4またはLiMnPO4から選択される実施形態において好ましい。そのような実施形態では、本発明の一実施形態において、工程(b)は、そのような正極活物質を、炭素、溶媒およびオリゴマー(I)、および任意に結合剤、および任意に導電性形態にあるさらなる炭素と一緒に混合することにより実施される。
【0057】
工程(b)によるスラリー化は、10から100℃、好ましくは20から60℃の範囲の温度で実行することができる。
【0058】
工程(b)は、1分から10時間、好ましくは2分から2時間、より好ましくは5分から1時間の範囲内の持続時間を有することができる。種々の成分を、塊のないスラリーが得られるまでスラリー化することが好ましい。
【0059】
本発明の一実施形態において、工程(b)の持続時間は、30秒から24時間、好ましくは5分から12時間、およびさらにより好ましくは30分から5時間の範囲内である。
【0060】
本発明の一実施形態において、工程(b)は、不活性ガス、例えば窒素またはアルゴンなどの希ガスの下で実施される。他の実施形態では、工程(b)は、窒素が富化された空気の下で、例えば、1から18体積%の範囲内の酸素含有率で実施される。
【0061】
本発明の一実施形態において、工程(b)は、5から200℃、好ましくは10から100℃およびさらにより好ましくは15℃から60℃の範囲内の温度で実施される。加熱は、必要ならば、間接加熱により実行することもできる。さらにさらなる実施形態で、熱移動は、混合中に起こり、冷却が実行されなければならない。工程(b)は、好ましくは、溶媒の蒸発を防止するために、閉じた容器中で実施される。他の実施形態では、還流凝縮器が混合デバイスに接続される。
【0062】
スラリー化によりおよびその最中に、オリゴマー(I)は、正極活物質と相互作用することが可能になる。如何なる理論にも拘束されることは望まず、それぞれのオリゴマー(I)が正極活物質の遊離のヒドロキシル基と反応して、その結果、後で電気化学的電池中における電解質の反応を防止すると考えられる。
【0063】
工程(b)の他の実施形態では、前記処理は、無溶媒で実施される。例は、乾燥混合および流動床処理である。
【0064】
流動床処理は、正極活物質の粒子をガス導入口ストリームで流動化して、その結果流動床を形成して、オリゴマー(I)の溶液またはスラリーを、そのような流動床中または流動床上に噴霧することにより、実施することができる。
【0065】
そのような溶媒中における溶媒および可能なオリゴマー(I)の濃度は、上で記載した。
【0066】
噴霧は、1個または複数のノズルを通して実施される。適当なノズルは、例えば、高圧回転ドラム霧化器、回転霧化器、3流体ノズル、単一流体ノズルおよび2流体ノズルであり、単一流体ノズルおよび2流体ノズルが好ましい。2流体ノズルが使用される実施形態では、第1の流体はオリゴマー(I)のそれぞれスラリーまたは溶液であり、第2の流体は圧縮ガスであり、ガス導入口ストリームとも称されて、例えば、圧は1.1から7バールである。ガス導入口ストリームは、少なくとも25℃から250℃、好ましくは40から180℃、さらにより好ましくは50から120℃の範囲内の温度を有することもできる。
【0067】
ガスの導入口速度は、10m/秒から150m/秒の範囲内であってもよく、コートされるべき正極活物質の平均直径に適合させることができる。
【0068】
乾燥混合は、無溶媒または非常に少量の溶媒で実施されることが可能で、例えばオリゴマー(I)は、10から100体積%の溶媒で希釈される。次に、無希釈または希釈された所望量のオリゴマーを、それぞれの正極活物質に加え、両方を混合する。
【0069】
混合は、攪拌されている容器中で、すきの刃ミキサー、攪拌棒ミキサーおよびショベルミキサーで実施することができる。好ましいのはすきの刃ミキサーである。好ましいすきの刃ミキサーは、水平棒に取り付けられて、水平棒という用語は、混合要素がその周りを回る軸のことである。好ましくは、本発明の方法は、ショベル式混合用具、攪拌棒式混合用具、Beckerブレード混合用具で、最も好ましくは、すきの刃ミキサーで、放り投げおよび旋回の原理により実施される。
【0070】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の方法は、自由降下ミキサーで実施される。自由降下ミキサーは、重力を使用して混合を成し遂げる。好ましい実施形態で、本発明の方法の工程(b)は、その水平な軸の周りを回るドラムまたはパイプ形の容器中で実施される。より好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(b)は、じゃま板を有する回転容器中で実施される。
【0071】
工程(b)を実施することにより、処理された正極活物質が得られる。
【0072】
流動床処理および適用可能ならば乾燥混合のために適当な溶媒の例は、非プロトン性有機溶媒である。例は、脂肪族または芳香族の炭化水素、有機カーボネートならびにエーテル、アセタール、ケタールおよび非プロトン性アミドおよびケトンである。
【0073】
特定の例には:n-ヘプタン、n-デカン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、オルト-、メタ-およびパラ-キシレン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびシクロヘキサノンが含まれる。
【0074】
工程(c)および(d)は、任意の順序で実施してもよい。
【0075】
工程(c)中に、処理された正極活物質のスラリーが、電流コレクターに適用される。電流コレクターは、好ましくは、フィルム、例えば金属フォイルまたはポリマーフィルムから選択される。前記ポリマーフィルムは、移動媒体として使用され得る。好ましい金属フォイルは、ニッケルフォイル、チタンフォイルおよびステンレス鋼フォイルであり、さらにより好ましいものはアルミニウムフィルムである。好ましいポリマーフィルムは、ポリエステルフィルム、例えばポリブチレンテレフタレートフィルムであり、それは未処理であってもまたはシリコーンで処理されていてもよい。
【0076】
工程(c)のために適当な溶媒の例は、N,N-ジメチルホルムアミド(「DMF」)、N,N-ジメチルアセトアミド(「DMA」)、N-C1~C8-2-アルキルピロリドン、例えばN-メチル-2-ピロリドン(「NMP」)、N-エチル-2-ピロリドン(「NEP」)、N-n-ブチル-2-ピロリドン、およびN-C5~C8-2-シクロアルキルピロリドン、例えばN-シクロヘキシル-2-ピロリドンである。好ましい例は、DMF、NMPおよびNEPである。
【0077】
本発明の一実施形態において、電流コレクターは、平均厚さが、5から50μm、好ましくは10から35μmの範囲内の金属フォイルから選択される。さらにより好ましいのは、平均厚さが5から50μm、好ましくは10から35μmの範囲内のアルミニウムフォイルである。
【0078】
本発明の一実施形態において、電流コレクターは、平均厚さが、8から50μm、好ましくは12から35μmの範囲内のポリマーフィルムから選択される。さらにより好ましいのは、平均厚さが、8から50μm、好ましくは12から35μmの範囲のポリブチレンテレフタレートフィルムである。そのようなポリマーフィルムは、前駆体として役立ち、スラリーの適用および乾燥後に、正極材料が、移転コーティングまたは移転層化を通して金属フォイルに適用される。
【0079】
本発明の一実施形態では、スラリーは、電流コレクターに、コーティング、噴霧により、または電流コレクターをスラリー中に漬けることにより適用される。好ましい手段は、スクイージーまたは押出し機である。押出し機は、スラリーの固体含有率が75%以上の実施形態で、前記スラリーをそれぞれの電流コレクターに適用するために好ましい手段である。
【0080】
本発明の一実施形態において、工程(b)のスラリー化および工程(c)によるそれぞれの電流コレクターへの前記スラリーの適用は、同じ押出し機を利用して実施され、混合は、押出し機の最初の部分で実行されて、適用はノズルを用いて実行される。
【0081】
本発明の方法の工程(d)において、スラリー化のために使用される溶媒は、少なくとも部分的に除去される。
【0082】
前記溶媒の除去は、例えば、濾過、抽出洗浄、溶媒の蒸留除去、乾燥および蒸発によって達成することができる。好ましい実施形態では、全てのまたは殆ど全ての、例えば99質量%以上の溶媒が、蒸発により除去される。
【0083】
溶媒の蒸発除去(「蒸発」)の実施形態で、工程(d)は、50から200℃の範囲内の温度で実施することができる。濾過または抽出洗浄の実施形態で、工程(d)は、0から100℃の範囲内の温度で実施することができる。
【0084】
工程(d)が溶媒の蒸留除去または蒸発として実施される実施形態では、1から500ミリバールの範囲内の圧力が適用され得る。濾過または抽出洗浄の実施形態では、工程(d)は、同様に、周囲圧で実施され得る。
【0085】
本発明の方法により、リチウムイオン電池中における正極物質として優れた性質を示す材料が得られる。特に、電池の抵抗増大、低下した電池抵抗の強化、導電性炭素の分散、電流コレクターへの接着ならびに標準のおよび高電圧の操業下における容量減衰、および安定性に関して、優れた性質が観察される。
【0086】
本発明の一実施形態において、本発明の方法は、1つまたは複数の追加の工程、例えばカレンダーを用いるロール圧縮、または例えばディップコーティングによる後処理を含むこともできる。
【0087】
本発明の一実施形態では、本発明の方法の工程(b)および(c)は、正極活物質、導電性形態にある炭素および結合剤のスラリーを電流コレクターに適用して、次にそのような正極(cathode)をオリゴマー(I)で処理することにより、例えばバルクまたは溶液中の上記のオリゴマー(I)をそのような正極に噴霧することにより、またはそのような正極をオリゴマー(I)の溶液に浸漬することにより、逆の順序で、本質的に実施される。噴霧は、例えば、噴霧室で実施することができる。
【0088】
本発明の一実施形態において、そのような逆の方法のために適当な温度条件は、周囲温度から100℃である。
【0089】
本発明の方法により処理された正極材料は、任意のタイプの電解質および任意のタイプの負極を有するリチウムイオン電池で使用することができる。
【0090】
リチウムイオン電池における負極は、少なくとも1種の負極活物質、例えば、炭素(グラファイト)、TiO2、リチウムチタン酸化物(「LTO」)、ケイ素またはスズなどを通常含有する。負極は、それに加えて、電流コレクター、例えば銅フォイルなどの金属フォイル、および結合剤を含有することもできる。
【0091】
リチウムイオン電池において有用な電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、および任意に添加剤を含むことができる。
【0092】
リチウムイオン電池において有用な電解質のための非水性溶媒は、室温で液体であっても固体であってもよく、好ましくは、ポリマー、環状または非環状エーテル、環状および非環状アセタールおよび環状または非環状有機カーボネートの中から選択される。
【0093】
適当なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコールおよび特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、20モル%までの1種または複数のC1~C4-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチルまたはエチルエンドキャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0094】
適当なポリアルキレングリコールおよび特に適当なポリエチレングリコールの分子量Mwは、少なくとも400g/モルであることができる。適当なポリアルキレングリコールおよび特に適当なポリエチレングリコールの分子量Mwは、5,000,000g/モルまで、好ましくは2,000,000g/モルまでであることができる。
【0095】
適当な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0096】
適当な環状エーテルの例は、テトラヒドロフランおよび1,4-ジオキサンである。
【0097】
適当な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシエタン、1,1-ジメトキシエタンおよび1,1-ジエトキシエタンである。
【0098】
適当な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、特に1,3-ジオキソランである。
【0099】
適当な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートである。適当な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)および(III)の化合物である
【化5】
(式中、
R
5、R
6およびR
7は、同一であるかまたは異なることができて、水素およびC
1~C
4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルの中から選択され、R
5およびR
6は、好ましくは、両方がtert-ブチルであることはない)。本発明のさらなる実施形態において、R
5は、フッ素であってもよく、R
6およびR
7は、同一であるかまたは異なることができて、水素およびC
1~C
4-アルキルの中から選択される。
【0100】
特に好ましい実施形態では、R5はメチルであり、R6およびR7は各々水素であるか、またはR5、R6およびR7は各々水素である。
【0101】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)
【化6】
のビニレンカーボネートである。
【0102】
さらなる例は、γ-ブチロラクトンおよびフッ素化エーテルである。
【0103】
溶媒(1種または複数)は、好ましくは、水を含まない状態、例えば、カールフィッシャー滴定により決定することができる含水率が1質量ppmから0.1質量%の範囲内で使用される。
【0104】
リチウムイオン電池において有用な電解質は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。適当な電解質塩は、特に、リチウム塩である。適当なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド、例えばLiN(CnF2n+1SO2)2などであり、ここで、nは1から20の範囲内の整数である。さらなる例は、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4および一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩であり、ここで、nは上で定義された通りであり、tは、以下のように定義される:
t=1、Yが酸素およびイオウの中から選択される場合、
t=2、Yが窒素およびリンの中から選択される場合、および
t=3、Yが炭素およびケイ素から選択される場合。
【0105】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4の中から選択され、LiPF6およびLiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
【0106】
本発明の方法を実施することにより、優れたサイクル挙動を示す正極が得られる。特に、電池の抵抗増大、低下した電池抵抗の強化、導電性炭素の分散、電流コレクターへの接着および容量減衰、および標準および高電圧下の操業における安定性に関して、優れた性質が観察される。
【0107】
本発明の別の態様は、層化されたリチウム遷移金属酸化物、リチウム化されたスピネル、カンラン石構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩、およびリチウムニッケル-コバルトアルミニウム酸化物から選択される正極活物質を対象とし、ここで、前記正極活物質は、全正極活物質の0.1から4質量%の範囲内のコーティングを有し、そのようなコーティングは、質量で1.01:1から1.8:1の範囲のPおよびSiを含む。そのような正極活物質は、この後、本発明の正極活物質または本発明による正極活物質とも称される。
【0108】
本発明の好ましい実施形態において、前記コーティングは、PおよびSiを、1.1:1から1.75:1、より好ましくは1.2対1.5の質量範囲で含む。
【0109】
層化されたリチウム遷移金属酸化物、リチウム化されたスピネル、カンラン石構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩、およびリチウムニッケル-コバルトアルミニウム酸化物は、上で説明してある。好ましいものは、例えば、一般式Li(1+z)[NiaCobMnc](1-z)O2+e(式中、zは0から0.3であり;a、bおよびcは、同じであっても異なっていてもよく、独立に0から0.95であり、a+b+c=1;および-0.1≦e≦0.1である)による層化されたリチウム遷移金属酸化物である。層化されたリチウム遷移金属酸化物は、非ドープであっても、例えば、Ti、Al、Mg、Ca、またはBaでドープされていてもよい。
【0110】
本発明の正極活物質は、PおよびSiを、1.01:1から1.8:1の質量範囲で含むコーティングを有する。そのようなコーティングは、一般式(Ia)のユニットまたはオリゴマー(I)の分解生成物を含むことがある。如何なる理論にも束縛されることは望まず、例えば本発明の方法の工程(a)による処理中に、オリゴマー(I)が、温度および他の処理条件に依存して、ある程度分解することがあると考えることができる。
【0111】
そのようなコーティングは、完全であることも不完全であることも、均一であることも不均一であることもある。本発明の一実施形態において、コーティングは完全である。そのことは、本質的に、例えば、基礎の正極活物質の粒子の表面の少なくとも95%が1層、例えば、PおよびSi種のおよび特にオリゴマー(I)の単分子層を有することを意味する。
【0112】
本発明の別の実施形態において、コーティングは不完全である。そのことは、表面の一部だけが若干のPおよびSiを表出して、他の部分は表さないことを意味する。いかなる理論にもとらわれることは望まず、そのような事例では、PおよびSi、および特にオリゴマー(I)は、元の正極活物質と触媒的に活性な部位でだけ反応すると考えられる。例えば、基礎の正極活物質の表面の10から95%未満が、若干の堆積されたPおよびSi種および好ましくはオリゴマー(I)を示すことが可能である。
【0113】
本発明の一実施形態において、PおよびSi層は、本発明の正極活物質において、およそ同じ厚さである。他の実施形態では、PおよびSiの層は、種々の程度、例えば2から100nmの厚さを有する
【0114】
若干のオリゴマー(I)が、本発明の方法の工程(b)中に基礎の正極活物質の二次粒子の細孔中に拡散することは可能である。しかしながら、特に重合度が10以上のオリゴマーが細孔中に拡散する傾向はない。
【0115】
本発明の一実施形態において、本発明の正極活物質のコーティングは、一般式(Ia)
【化7】
(式中、
R
1は、同じであるかまたは異なり、水素およびC
1~C
4-アルキル、アリール、およびC
4~C
7-シクロアルキルから選択され、
R
2およびR
3は、各出現時、フェニルおよびC
1~C
8-アルキル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(R
2)
2-
*から独立に選択され、ここで、1個または複数の非隣接CR
9
2基は、酸素により置き換えられていてもよく、R
9は、各出現時、HおよびC
1~C
4-アルキルから独立に選択され、pは0から6の変数であり、
R
2およびR
3の殆ど全ては、C
1~C
8-アルキルから選択される)
によるユニットを担持する。
【0116】
変数R1からR3およびpは、より詳細に上で定義されている。
【0117】
本発明の一実施形態において、本発明の正極活物質は、さらに、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、炭素ナノチューブ、煤煙、グラフェンまたは上記の物質の少なくとも2種の混合物から選択される、導電性形態にある炭素を含む。
【0118】
本発明の正極活物質は、粒子状形態であってもよい。本発明の正極活物質に関係する用語「粒子状」は、前記材料が32μmを超えない最大粒子直径を有する粒子の形態で提供されることを意味するものとする。前記最大粒子直径は、例えば篩いにより決定することができる。
【0119】
本発明の一実施形態において、本発明の正極活物質は、球形粒子を含む。球形粒子は、球形形状を有する粒子である。球形粒子は、正確に球形である粒子だけでなく、代表的試料の少なくとも90%(数平均)の最大直径と最小直径の相違が10%以下のこれらの粒子も含むものとする。
【0120】
本発明の一実施形態において、本発明の正極活物質は、一次粒子の凝集塊である二次粒子を含む。好ましくは、本発明の正極活物質は、一次粒子の凝集塊である球形の二次粒子を含む。さらにより好ましくは、本発明の正極活物質は、球形の一次粒子または小平板の凝集塊である球形の二次粒子を含む。
【0121】
本発明の一実施形態において、本発明の正極活物質の二次粒子の平均粒子直径(D50)は、6から12μm、好ましくは7から10μmの範囲内である。本発明に関係する平均粒子直径(D50)は、例えば、光散乱により決定することができる、体積に基づく粒子直径の中央値を指す。
【0122】
本発明の一実施形態において、本発明の正極活物質の一次粒子1から2000nm、好ましくは10から1000nm、特に好ましくは50から500nmの範囲内に平均直径を有する。平均一次粒子の直径は、例えば、SEMまたはTEMにより決定することができる。SEMは走査電子顕微鏡の略号であり、TEMは、透過電子顕微鏡の略号である。
【0123】
本発明の正極活物質を含む正極は、優れたサイクル挙動および特に低下した容量減衰およびガス発生を示して、リチウムイオン電池で使用されるときに、災害懸念を生ずる副生物の形成がない。
【0124】
本発明のさらなる態様は、式(Ia)
【化8】
(式中、
R
1は、同じであるかまたは異なり、水素およびC
1~C
4-アルキル、アリール、およびC
4~C
7-シクロアルキルから選択され、
R
2およびR
3は、各出現時、フェニルおよびC
1~C
8-アルキル、C
4~C
7-シクロアルキル、C
1~C
8-ハロアルキル、OPR
1(O)-
*、および-(CR
9
2)
p-Si(R
2)
2-
*から独立に選択され、ここで、1個または複数の非隣接CR
9
2基は酸素により置き換えられていてもよく、R
9は、各出現時、HおよびC
1~C
4-アルキルから独立に選択され、pは0から6の変数であり、
R
2およびR
3の殆ど全ては、C
1~C
8-アルキルから選択される)
によるユニットを担持するオリゴマーであって、
1分子当たりの式(Ia)によるユニットの平均は少なくとも3である
オリゴマーに関する。
【0125】
そのようなオリゴマーは、この後で、本発明のオリゴマーまたは本発明によるオリゴマーとも称される。
【0126】
本発明の一実施形態において、本発明のオリゴマーは、O-R4基でエンドキャップされており、ここで、R4はC1~C4-アルキルから選択される。
【0127】
特定すると、
R1は、同じであるかまたは異なり、水素およびC1~C4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、tert.-ブチルから選択され、好ましいC1~C4-アルキルはメチルである。
【0128】
好ましくは、オリゴマー(I)中における全てのR1は、同じであり、水素およびメチルから選択される。さらにより好ましくは、全てのR1は水素である。
【0129】
R2およびR3は、各出現時、
フェニル、
C1~C8-アルキル、例えばフェニル、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、iso-オクチルから独立に選択され、好ましいものは、n-C1~C4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、tert.-ブチルであり、(好ましいC1~C4-アルキルはメチルである)、
C4~C7-シクロアルキル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、
少なくとも1個のハロゲン原子、好ましくはフッ素または塩素を担持するC1~C8-ハロアルキル基、例えばペルハロゲン化された、モノハロゲン化された、または部分的にハロゲン化されたC1~C8-ハロアルキル(特定の例は、クロロメチル、ジクロロメチル、トリフルオロメチル、ω-クロロエチル、パーフルオロ-n-ブチル、ω-クロロ-n-ブチル、および-(CH2)2-(CF2)5-CF3である)、
上で定義された通りのOPR1(O)-*、
および、-(CR9
2)p-Si(R2)2-*(式中、1個または複数の非隣接CR9
2基は酸素により置き換えられていてもよく、R9は、各出現時、C1~C4-アルキルおよび特にHから独立に選択され、pは0から6、特に2から4の変数である)である。
【0130】
式-(CR9
2)p-Si(R2)2-*において、全てのR9は水素であることが特に好ましい。
【0131】
したがって、本発明のオリゴマーは、好ましくは、配列-O-P-O-Si-O-P-Oを担持する。その結果として、それらは、O-P-O-PまたはO-P-Si-O配列を担持しない。
【0132】
本発明のオリゴマーでは、R2およびR3の殆ど全ては、C1~C8-アルキルから選択され、例えば本発明のオリゴマー全体が、C1~C8-アルキル以外に1分子当たり1つのみの基R2またはR3を担持する。
【0133】
本発明の一実施形態において、本発明のオリゴマーは、1分子当たり1個または複数の分岐を、好ましくは、ケイ素上に有することができて、例えば
【化9】
である。
【0134】
本発明の一実施形態において、本発明のオリゴマーは、O-R
4基でエンドキャップされており、ここで、R
4は、C
1~C
4-アルキルから選択され、好ましいR
4はメチルである。エンドキャッピングは、ケイ素でもよいが、好ましくは、エンドキャッピングはリン上の、例えば、以下の式(Ib)による基であり、
【化10】
ここで、R
4は、C
1~C
4-アルキル、特にメチルまたはエチルである。R
1は上で定義された通りである。
【0135】
好ましいエンドキャッピングは、一般式(Ib)による基である。
【0136】
好ましい実施形態では、R1は、水素およびメチルから選択され、全てのR2およびR3はメチルである。
【0137】
好ましくは、本発明のオリゴマーは、1分子当たり2から100個、好ましくは2から20個およびさらにより好ましくは3から8個の一般式(Ia)によるユニットを担持する。そのような数は、平均の数と理解されるべきであり、数平均を意味する。本発明のオリゴマーは、本発明の正極を製造するために申し分なく適する。
【0138】
本発明のオリゴマーは、一般式(V):による少なくとも1種の化合物と一般式(VI)による少なくとも1種のケイ素化合物とを反応させることにより、製造することができ、
(R4O)2R1P=O (X1)2SiR2R3
(V) (VI)
ここで、
R4は同じであるかまたは異なり、C1~C4-アルキル、特にメチルまたはエチルであり、および
R1は、同じであるかまたは異なり、水素およびC1~C4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、tert.-ブチルから選択され、好ましいC1~C4-アルキルはメチルである。
【0139】
X1は、同じであるかまたは異なり、Cl、Br、O-COR8およびO-R8から選択され、R8はC1~C4-アルキルから選択される。好ましいR8はメチルまたはエチルである。全てのX1はClであることは、さらにより好ましい。
【0140】
スペーサーの導入が所望の実施形態では、そのようなスペーサーは、一般式X1-Si(R2)2-(CR9
2)p-Si(R2)2-X1による1種または複数の化合物を添加することにより導入することができ、ここで、pは上で定義された通りであり、(CR9
2)では、1個または複数の非隣接CR9
2基が酸素により置き換えられていてもよい。1例は、X1-Si(R2)2-O-Si(R2)2-X1、特にClSi(CH3)2OSi(CH3)2Clである。
【0141】
分岐の導入が所望の実施形態では、(X1)3SiR2またはSi(X1)4などのさらなる反応物が添加されてもよい。
【0142】
本発明の一実施形態において、本発明のオリゴマーは、各場合、20℃で決定された10mPa・sから10,000mPa・s、好ましくは20mPa・sから5,000mPa・s、より好ましくは50mPa・sから2,500mPa・sの範囲内の動的粘度を有する。
【0143】
本発明の一実施形態において、本発明のオリゴマーは、質量によりAgClとして決定されて1から100ppm、好ましくは2から50ppmの範囲内の塩素含有率を有する。
【0144】
本発明のさらなる態様は、この後本発明の製造方法とも称される、本発明のオリゴマー(I)の製造に関する。本発明のオリゴマーは、一般式(V)による少なくとも1種の化合物と、一般的(VI)による少なくとも1種のケイ素化合物とを反応させることにより製造することができる。そのような反応の過程で、本発明のオリゴマーが形成されて、X1-R4が切断除去される。本発明の製造方法は、加熱または冷却下で実施されることもある。式に、したがって、X1-R4の沸点に応じて、冷却器の温度は、X1-R4の部分が留去されて、その部分が反応容器に戻されるように調節される。例えば、X1-R4がCH3Clである場合には、冷却器の温度を-25℃から+25℃、好ましくは-10℃から+15℃の範囲内に維持することが有利である。X1-R4がC2H5Clである場合には、冷却器の温度を-20℃から+30℃の範囲内に維持することが有利である。
【0145】
過剰な一般式(VI)の化合物が適用される実施形態では、主としてダイマーが得られる。
【0146】
本発明のオリゴマーの製造は、非プロトン性溶媒中で実施され得る。本発明のオリゴマーの製造のために適当な溶媒は、例えば、脂肪族または芳香族炭化水素、有機カーボネート、さらに、エーテル、アセタール、ケタールおよび非プロトン性アミドおよびケトンである。例には:n-ヘプタン、n-デカン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、オルト-、メタ-およびパラ-キシレン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンが含まれる。
【0147】
しかしながら、本発明の好ましい実施形態においては、本発明のオリゴマーの製造は、バルク、したがって、無溶媒で実施される。
【0148】
本発明の一実施形態において、本発明のオリゴマーの製造は、100ミリバールから10バールの範囲内の圧で実施される。正常圧、1013ミリバール、が好ましい。
【0149】
好ましくは、本発明のオリゴマーは、精製工程なしで使用される。
【0150】
本発明を、実施例によりさらに例示する。
【0151】
I.合成
一般的事項:
全ての化合物は、製造直後に、1H NMR分光法および31P NMR分光法を使用して分析した。試料は、不活性雰囲気下で製造し、CDCl3(7.26ppm)を参照として使用して測定した;本発明のオリゴマーが分析されるとき、スクリューキャップ式のNMR管は、参照としてC6D6(7.16ppm)で満たした内部管を備えていた。スペクトルは、CryoProbe Prodigyプローブヘッドを備えたBruker Avance IIIで、または1H:500.36MHz、31P:202.56MHzの周波数で作動するVarian NMRシステム400で記録した。31P NMRのデータは、明瞭にするために、プロトンからデカップルして捕集した:{1H}。31P NMR測定のための緩和時間D1を、60秒に増大して、その結果各P-種の量を決定した。MNovaソフトウェアを使用して、スペクトルを分析した。
【0152】
本発明のオリゴマーのMnを計算するために、31P-NMRスペクトル(緩和時間D1=60秒で定量的に測定)中のエンドキャップのシグナルを2に設定した。その結果、反復ユニットのシグナルから反復ユニットの数nを得る。数平均分子量は、停止基の分子量、n×反復ユニットの分子量および追加のCH3)2SiO2-ユニットの分子量を加えることにより計算される。
【0153】
粘度測定のためには、Anton Paar Physica MCR51を使用した。測定は、20℃、剪断ストレスプロファイル10から1000秒-1で実施して平均値を計算した。
【0154】
反応収率は、出発原料の量、アルキルクロリドの放出された量と得られたオリゴマーの質量との差に基づいて計算した。
【0155】
I.1 出発材料の概要
【0156】
【0157】
I.2 本発明のオリゴマーおよび比較の化合物の合成
比較の例1:ジメチルホスファイト(V.3)=1.4mPa・s
比較の例2:ビス(トリメチルシリル)ホスファイト(C1)、動的粘度:2.3mPa・s
比較の例3:トリス(トリメチルシリル)ホスフェート(C2)、動的粘度:4.3mPa・s
本発明のオリゴマー(I.1):動的粘度:170mPa・s
本発明のオリゴマー(I.4):動的粘度:12mPa・s
例示となる本発明のオリゴマーをまとめて表1に示す。
【0158】
実験1 本発明のオリゴマー(I.1):
還流凝縮器を備えた250-mlの3つ口フラスコに、88.0g(1.0当量、800ミリモル)のジメチルホスファイト(V.3)を充填した。室温で、104.8gのMe2SiCl2((VI.1)、1.0当量(800ミリモル)を加え、次に攪拌下で90℃に加熱して、メチルクロリドの形成が終わるまで1時間攪拌した。冷却器の温度は20℃であった。形成した無色の残留物を含むフラスコに、蒸留ブリッジを取り付けて加熱して(1時間、100℃、0.2ミリバール)、平均分子量Mnが957g/モルの本発明のオリゴマー(I.1)を無色の油として得た(105g、収率95%;クロリド含有率55ppm)。
【0159】
本発明のオリゴマー(I.1)は、原理的に異なるユニット:2P-含有停止基[2×CH
3OP(O)H-、合わせて158.03g/モル]、nSi-およびP-含有反復ユニット[n×(CH
3)
2SiO
2P(O)H-ユニット、1ユニット当たり138.14g/モル]、および以下の構造による:
【化12】
1つの追加の(CH
3)
2SiO
2-ユニット(90.15g/モル)に分割され得る。
【0160】
数平均分子量を計算するために、31P-NMRスペクトル中の停止基のシグナル(緩和時間D1=60秒で定量的に測定)を2に設定した(-2.5ppmにおける化学シフトのシグナル)。その結果、反復ユニットのシグナルから反復ユニットの数nが得られる(-14から-17.5ppmの領域中に化学シフトを有するシグナルの積分)。数平均分子量は、停止基の分子量、n×反復ユニットの分子量および追加のCH3)2SiO2-ユニットの分子量を加えることにより計算される。
動的粘度:170mPa・s
【0161】
実験2 本発明のオリゴマー(I.2):
実験1で記載された条件に従って、Me2SiCl2(0.9当量、765ミリモル、98.7g)、MeSiCl3(0.1当量、85ミリモル、12.7g)およびジメチルホスファイト(1.0当量、850ミリモル、93.5g、(V.3))を、変換して本発明のオリゴマー(I.2)を得た(95.0g、87%収率)。31P NMRスペクトル中の停止および反復ユニットの化学シフトは、実験1と同じ範囲内にあった。
動的粘度:180mPa・s
【0162】
実験3 本発明のオリゴマー(I.3):
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(0.9当量、72ミリモル、9.47g)、SiCl4(0.1当量、8ミリモル、1.4g)およびジメチルホスファイト(1.0当量、80ミリモル、8.8g、(V.3))を変換して本発明のオリゴマー(I.3)を得た。31P NMRスペクトル中の停止および反復ユニットの化学シフトは、実験1と同じ範囲にあった。
【0163】
実験4 本発明のオリゴマー(I.4):
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(4.0当量、320ミリモル、4.30g)、およびジメチルホスファイト(1.0当量、80ミリモル、8.80g、(V.3))を変換して本発明のオリゴマー(I.4)を得た(5.00g、収率44%)。31P NMRスペクトル中の停止および反復ユニットの化学シフトは、実験1と同じ範囲にあった。
動的粘度:12mPa・s
【0164】
実験5 本発明のオリゴマー(I.5):
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(1.0当量、70ミリモル、9.12g)およびジメチルメチルホスホネート(1.0当量、70ミリモル、8.95g、(V.4))を変換して、本発明のオリゴマー(I.5)を得た(9.80g、収率92%)。反復ユニットの化学シフトは、31P NMRスペクトル中で、8から12ppmの領域におよび停止基は21から23ppmにあった。
【0165】
実験6 本発明のオリゴマー(I.6):
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(1.0当量、50ミリモル、6.45g)およびジエチルホスファイト(1.0当量、50ミリモル、7.12g、(V.5))を変換して、本発明のオリゴマー(I.6)を得た(3.80g、収率53%)。反復ユニットの化学シフトは、31P NMRスペクトル中の-14から-17.5ppmの領域に、および停止のユニットは-4.2ppmにあった。
【0166】
実験7 本発明のオリゴマー(I.7):
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(1.0当量、70ミリモル、9.17g)およびジメチルフェニルホスホネート(1.0当量、70ミリモル、13.30g、(V.6))を変換して、本発明のオリゴマー(I.7)を得た(13,6g、収率88%)。本発明のオリゴマー(I.7)は、753g/モルの平均分子量Mnおよび1520mPa・sの動的粘度を有した。反復ユニットの化学シフトは、31P NMRスペクトル中の-0.2から-2.5ppmの領域および停止のユニットは10.4ppmにあった。
【0167】
Mn=753g/モルは、実験1について論じたように、31P NMRにより決定したが、ただし、停止基[2・CH3OP(O)H-、合計:310.24g/モル]、nSi-およびP-含有反復ユニット[n・(CH3)2SiO2P(O)H-ユニット、1ユニット当たり214.25g/モル]およびI.7の構造による1つの追加の(CH3)2SiO2-ユニット(90.15g/モル)の値が使用された。
動的粘度:1520mPa・s
【0168】
実験8 本発明のオリゴマー(1.8):
実験1に記載された条件に従って、Et2SiCl2(1.0当量、70ミリモル、7.86g)およびジメチルホスファイト(1.0当量、70ミリモル、11.34g、(V.3))を変換して、本発明のオリゴマー(1.8)を得た(15.3g、収率98%)。反復ユニットの化学シフトは、31P NMRスペクトル中で、-14から-17.5ppmの領域に、および停止基は-4.2ppmにあった。
【0169】
実験9
実験1に記載された条件に従って、ClMe2SiOSiMe2Cl(1.0当量、80ミリモル、6.45g)およびジメチルホスファイト(1.0当量、80ミリモル、9.00g、(V.3))を変換して、本発明のオリゴマー(I.9)を得た(15.40g、収率87%)。反復ユニットの化学シフトは、31P NMRスペクトル中で、-15から-17.5ppmの領域内にあり、停止基は-2.7ppmにあった。
【0170】
本発明のオリゴマーI.2からI.9を、実験1に記載されたように製造して抽出物で分析した。抽出物の比および反応条件を表1のリストに掲げた。得られた混合物の組成も表1に示す。
【0171】
【0172】
I.3 冷却温度の影響に関する検討
実験10:
4枚のブレードを据えたブレードタービン、サーモスタットにより調節される強力な冷却器(長さ40cm、10℃)、反応ならびにオフガス制御のための温度計を備えた、トレースで加熱される250mLの攪拌されているガラス容器に、不活性雰囲気下で、Me2SiCl2(1.0当量、1mol、131.0g)を、ジメチルホスファイト(1.0当量、1mol、112.3g、(V.3))に25℃で加えた。無色透明の混合物を、段階的に90分以内で90℃に加熱して、この温度に30分間保った。反応混合物を、RTに冷却して、冷却器を蒸留ブリッジで置き換え、全ての揮発性物質を除去して(90℃、1時間、0.5ミリバール)、本発明のオリゴマーI.10を、動的粘度が243mPa・sの透明な油として得た(134,6g、収率97%;塩化物の含有率15ppm)。31P NMR分析により、停止基と反復ユニットとの比は21から79であることが明らかになった。
【0173】
実験11:
冷却温度を10℃に代えて25℃に設定し、実験10に記載された条件に従って、本発明のオリゴマーI.11を得た(126.9g、収率91%)。動的粘度は49mPa・sであり、停止基と反復ユニットとの比は、31P NMR分析に基づいて44から56であった。
【0174】
実験12:
冷却温度を+10℃から-10℃に代えて、実験13に記載された条件に従って、収率本発明のオリゴマーI.12を得た(135.6g、収率95%);動的粘度は590mPa・sであり、停止基の反復ユニットに対する比は、31P NMR分析に基づいて13から87であった。
【0175】
I.4 本発明の正極活物質の製造
正極材料をシリル-H-ホスホネートで湿式コーティングするために、回転乾燥フラスコ(30mL)を備えたマイクロ蒸留のためのBuechiガラスオーブンB-585を30rpm(1分当たりの回転数)で使用した。
【0176】
工程(a.1)および(a.2):
以下の真新しい正極活物質を使用した:
0.42Li2MnO3 0.58Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2(A.1)。全体の式はLi1.21(Ni0.23Co0.12Mn0.65)0.79O2.06であった。D50:9.62μm、レーザー回折はMalvern Instrumentsからの装置Mastersize 3000で行った。
【0177】
Li1.03(Ni0.6Co0.2Mn0.2)0.97O2(A.2)。D50:10.8μm、レーザー回折はMalvern Instrumentsからの装置Mastersize 3000で行った。
【0178】
実験I.4.1/工程(b.1):
Buechiガラスオーブンのフラスコに25gの量の(A.1)を不活性雰囲気下で充填した。40mLの乾燥ジクロロメタン中の本発明のオリゴマー(I.1)(0.25g、1質量%)の溶液を加えて、25℃で45分間相互作用するに任せた。次にBuechiのガラスオーブンを、50℃に減圧(400ミリバールおよび30rpm)下で加熱して溶媒を完全に蒸発させ、0.1ミリバールで1時間乾燥させた後、微粒子状固体を得た。本発明のCAM.1が得られた。
【0179】
実験I.4.2/工程(b.2):
ジクロロメタンに代えて40mLの乾燥されたTHFを用いたことを除いて、実験I.4.1を繰り返した。本発明のCAM.2が得られた。
【0180】
実験I.4.3/工程(b.3):
ジクロロメタンに代えて40mLの乾燥された酢酸エチルを用いたことを除いて、実験I.4.1を繰り返した。本発明のCAM.3が得られた。
【0181】
実験I.4.4/工程(b.4):
ジクロロメタンに代えて40mLの乾燥されたアセトンを用いたことを除いて、実験I.4.1を繰り返した。本発明のCAM.4が得られた。
【0182】
実験I.4.5/工程(b.5):
(I.1)(0.5質量%)に代えて、0.125gの本発明のオリゴマー(I.2)を使用したことを除いて、実験I.4.4を繰り返した。本発明のCAM.5が得られた。
【0183】
実験I.4.6/工程(b.6):
(I.1)(0.25質量%)に代えて0.063gの本発明のオリゴマー(I.2)を使用したことを除いて、実験I.4.4を繰り返した。本発明のCAM.6が得られた。
【0184】
比較実験I.4.7/工程C-(b.7):
如何なる本発明のオリゴマーを使用しなかったことを除いて、実験I.4.4を繰り返した。C-CAM.7が得られた。
【0185】
実験I.4.8/工程(b.8):
Buechiのガラスオーブンのフラスコに、25gの量の(A.2)を不活性雰囲気下で充填した。本発明のオリゴマー(I.2)(0.025g、0.1質量%)の40mL乾燥アセトン中の溶液を加えて、25℃で45分間相互作用するに任せた。次にBuechiのガラスオーブンを50℃に減圧(400ミリバール)下で加熱して、溶媒を完全に蒸発させて0.1ミリバールで1時間乾燥させた後、微粒子状固体を得た。本発明のCAM.8が得られた。
【0186】
実験I.4.9/工程(b.9):
0.125gの本発明のオリゴマー(I.2)(0.5質量%)を使用したことを除いて、実験I.4.4を繰り返した。本発明のCAM.9が得られた。
【0187】
比較実験I.4.10/工程C-(b.10):
如何なる本発明のオリゴマーも使用しなかったことを除いて、実験I.4.8を繰り返した。C-CAM.10が得られた。
【0188】
I.5 乾式コーティングの手順
正極活物質を本発明のオリゴマーで処理する代替法のために、ピンタイプのローターを備えたEirich実験室ミキサーEL/5として市販されている遠心的に配置された混合用具を備えた回転する傾いた混合平鍋を使用した。混合スピードは300rpmで、傾きは20°であり、不活性雰囲気は特に断りのない限りアルゴンであった。
【0189】
比較実験I.5.1/工程C-(b.11)
不活性雰囲気下で、Erich実験室ミキサーEL/5の混合チャンバーに417gの正極材料粉体(A.1)を充填した。混合を開始して(25℃で300rpm)、その後直ちに、12.0gの乾燥アセトンを1分かけて加え、次に混合を再開して5000rpmで4分間継続した。C-CAM.11が得られた。
ICP測定:P<0.03%;Si<0.03%(検出レベル未満)
【0190】
実験I.5.2/工程(b.12):
不活性雰囲気下で、Erich実験室ミキサーEL/5の混合チャンバーに452gの正極活物質(A.1)を充填した。混合を開始して(25℃で300rpm)その後直ちに、10.4gの乾燥アセトン中の2.3gの本発明のオリゴマー(I.2)(0.5質量%)を1分かけて加え、次に混合を再開して5000rpmで4分間継続した。本発明のCAM.12が得られた。
ICP測定:P=0.11%;Si=0.07%
【0191】
実験I.5.3/工程(b.13):
不活性雰囲気下で、Erich実験室ミキサーEL/5の混合チャンバーに、428gの正極活物質(A.1)を充填した。混合を開始して(25℃で300rpm)、その後直ちに、8.6gの乾燥アセトン中の4.3gの本発明のオリゴマー(I.2)(1.0質量%)を1分かけて加え、次に混合を再開して5000rpmで4分間継続した。本発明のCAM.13が得られた。
ICP測定:P=0.21%;Si=0.11%
【0192】
比較実験I.5.4/工程C-(b.14)
不活性雰囲気下で、Erich実験室ミキサーEL/5の混合チャンバーに496gの正極活物質(A.2)を充填した。混合を開始して(25℃で300rpm)その後直ちに、20.7gの乾燥アセトンを1分かけて加え、次に混合を再開して5000rpmで4分間継続した。C-CAM.14が得られた。
ICP測定:P<0.03%;Si<0.03%(検出レベル未満)。
【0193】
実験I.5.5/工程(b.15):
不活性雰囲気下で、Erich実験室ミキサーEL/5の混合チャンバーに、497gの正極活物質(A.2)を充填した。混合を開始して(25℃で300rpm)その後直ちに、7.9gの乾燥アセトン中の1.3gの本発明のオリゴマー(I.2)(0.25質量%)を1分かけて加え、次に混合を再開して5000rpmで4分間継続した。本発明のCAM.15が得られた。
ICP測定:P=0.05%;Si=0.04%
【0194】
実験I.5.6/工程(b.16):
不活性雰囲気下で、Erich実験室ミキサーEL/5の混合チャンバーに、513gの正極活物質(A.2)を充填した。混合を開始して(25℃で300rpm)その後直ちに、5.2gの乾燥アセトン中2.6gの本発明のオリゴマー(I.2)(0.5質量%)を1分かけて加え、次に混合を再開して5000rpmで4分間継続した。本発明のCAM.16が得られた。
ICP測定:P=0.11%;Si=0.07%
【0195】
【0196】
II. 本発明の正極の製造
表X1で提示された正極活物質についての電気化学的サイクリング実験のための正電極を、表X2で提示された組成物に基づいて製造した。正極活物質のほかのそのような成分は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)結合剤、活性炭素(Timcalから購入したスーパーC65L)およびグラファイト(TimcalからのSFG6L)などの導電性添加剤である。これらの成分が混合される比率は、使用される正極活物質に応じて、表X2に提示されている。典型的には、全てのスラリーは、20gの正極活物質に基づいて製造され、利用されたNEPの量は、合計固体含有率(CAM+スーパーC65L+SFG6L)が59から62%の領域であるような量であった。それに加えて、幾つかの選択されたケースでは、本発明のオリゴマー(I.1)または(I.2)が、スラリー製造中に、スラリー中に存在する正極活物質の合計量に関する表X2で示した質量パーセントで添加される。成分は以下の順で混合される:
【0197】
工程(c.1):遊星型ミキサー中で(2000rpm)、所与の量のN-エチルピロリドン(NEP)、結合剤(PVdF)および本発明のオリゴマー(I.1)または、適用可能ならば(I.2)を、表X2に従って加えて、3分間または両方の成分が完全に溶解されるまで混合した。そのようにして得られた溶液に、スーパーC65LおよびSFG6Lを表X2に従って加えて、遊星型ミキサー(2000rpm)中で15分間または外見で塊のないスラリーが得られるまで混合した。得られた20gのCAMをI.4に従って加えた。その結果生じたスラリーを、再び遊星型ミキサー中で(2000rpm)15分間または外見で塊のないスラリーが得られるまで混合した。
【0198】
工程(d.1):工程(c.1)で得られたスラリーを、20μmの厚さのアルミニウムフォイルに、ドクターブレードを利用して適用した。このようにしてロードされたアルミニウムフォイルが得られた。
【0199】
工程(e.1):工程(d.1)でロードされたアルミニウムフォイルを真空オーブン中で、真空下120℃で20時間乾燥した。室温に冷却した後、電極をカレンダー処理して、14mmの直径ディスクを打ち抜いた。次に生じた電極を秤量して、再び真空下120℃で乾燥して、アルゴンで満たされたグローブボックス中に導入した。
【0200】
生じた本発明の正極テープをまとめて表X2に示す。
【0201】
【0202】
比較例9では、ビス-トリメチルシリルホスホネート(V.1)を加えた。
*:CAMに対する質量%
【0203】
III.全容量コイン電池の製造
電気化学的サイクリング実験のためにNCM-622を含有する正電極を、上で記載されたようにして製造し、Elexcel Corporation Ltd.からの市販のグラファイトコートテープを負電極として使用した。正負複合電極、ポリプロピレン隔膜(Celgard)およびそれぞれの電解質を使用して2032コイン電池を製造した。全ての電池は、アルゴンで満たされて酸素および水レベルが1.0ppm未満のグローブボックス中で組み立てて、それらの電気化学的試験を、Maccor4000バッテリー試験システムで実施した。
【0204】
表X2におけるC-CT.1からCT.5までの全容量コイン電池について、電解質は、50:50の比率の質量パーセントで混合されたエチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネートに加えられた2質量%のビニレンカーボネートを含有する溶媒混合物中に溶解された1M LiPF6からなった。
【0205】
表X2中の全容量コイン電池C-CT.6ffについて、電解質は、12:64:24の体積パーセントの比率で混合されたFEC:DEC:K2(FEC=フルオロエチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネートおよびK2=1H,1H,5H-ペルフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル)中の1M LiPF6からなった。
【0206】
IV.本発明の電気化学的電池の評価
IV.1 C-CT.1からCT.5Iに基づくコイン電池のサイクリングの評価
IV.1 25℃での形成
それぞれの全容量コイン電池を、0.1Cの一定電流で4.2Vの電圧まで充電して(CCCV充電、CV-工程の最大持続時間30分)、0.1Cで放電した(2.7Vでカットオフ)(サイクル1)。その後直ちに、電池を25℃において0.5Cの一定電流で4.2Vの電圧まで充電して(CCCV充電、CV-工程の最大持続時間30分)、0.1Cで放電する(2.7Vでカットオフ)(サイクル2)。サイクル2の充電手順を、さらに3回繰り返した(サイクル3~5)。次に、電池を0.5Cの一定電流で4.2Vの電圧まで充電して、4.2Vで30分間、一定的なこれらの充電条件を保ちながら充電し、次に電池を2.7Vの放電電圧まで、1C(2回、サイクル6から7)、2C(2回、サイクル8から9)および3C(2回、サイクル10から11)の一定電流で放電する。最終的に、電池は、サイクル2で使用された手順と同じ手順に従って、11回充電されて放電される。
【0207】
IV.2 25℃および4.35Vの上方カットオフ電圧におけるコイン電池のサイクリングの評価
電池が形成されたら、それらを、0.2Cの一定電流で4.35Vの電圧まで充電して、次に0.1Cの一定電流で3.0Vの放電電圧まで放電した。この手順を1回繰り返した(サイクル12および13)。サイクル13からの充電容量を100%(0.2Cの手順で容量チェック)に対応する0.2Cで得られる参照放電容量値として設定して、それに続く、電池が0.2Cの一定電流における25%SOC工程で順次充電されるサイクル(サイクル14)のための参照値としてさらに使用する。各充電工程の後、電池抵抗を、電流中断を適用することによるDCの内部抵抗(DCIR)測定を実施することにより決定した。100%SOCに達した後(4回充電、25%SOC工程)電池を0.2Cで3.0Vまで放電した(電池抵抗決定手順)。
【0208】
サイクル14における最初の電池抵抗測定に続いて、電池を1Cの一定電流で4.35Vの電圧まで充電して、4.35Vで電流が0.01Cの値に達するまでか、または最大2時間充電して、1Cの一定電流で3.0Vの電圧まで放電した(サイクル15)。サイクル15で測定された放電容量を、1Cで得られる、100%に対応する参照放電容量値として設定した。この充電および放電手順を100回繰り返した。1Cで100サイクルの後の結果の放電容量が、サイクル15(1Cで延長されたサイクリング手順)で測定された参照放電容量のパーセンテージとして表現される。次に、0.2Cにおける容量チェック、電池抵抗の決定および1Cの延長されたサイクリングで構成される手順の配列を、最少2回、または電池が1Cでサイクル15における参照値の70%未満に達するまで繰り返した。種々の例からの1Cにおける300サイクル後の結果を、表X3に提示する。
【0209】
【0210】
IV.1.3 C-CT.6からCT.16までに基づいた全容量コイン電池の25℃におけるサイクリングおよび電池抵抗の評価
それぞれの全容量コイン電池を、25℃において、0.067Cの一定電流で4.7Vの電圧まで充電して、0.067Cの一定電流で2.0Vの放電電圧まで放電した(第1活性化サイクル;サイクル1)。その後直ちに、電池を25℃において0.1Cの一定電流で4.6Vの電圧まで充電する。電池を4.6Vで電流が0.05Cの値に達するまでさらに充電して、次に0.1Cの一定電流で2.0Vの放電電圧まで放電した(サイクル2)。第2サイクルと同じ手順を1回繰り返した(サイクル3)。次に電池を0.1Cの一定電流で4.6Vの電圧まで充電して、次に0.1Cの一定電流で2.0Vの放電電圧まで放電する(サイクル4)。サイクル4からの充電容量を、0.1Cで得られた100%に対応する参照放電容量値として設定した(0.1Cの手順で容量をチェック)。このサイクルによる充電容量は、その後の、サイクル(サイクル5)のための参照値としても使用され、サイクル5では、電池は0.1Cの一定電流でサイクル5の充電容量の40%(40%SOC)まで充電された。電池が40%SOCに達したら、DCの内部抵抗(DCIR)測定を、電流中断を適用することにより実施した(電池抵抗決定手順)。
【0211】
サイクル6から7では、電池を25℃における0.2Cの一定電流で4.6Vの電圧まで充電する。電池を、4.6Vで電流が0.05Cの値に達するまでさらに充電して、次に0.5Cの一定電流で2.0Vの放電電圧まで放電した。次に、電池を、0.7Cの一定電流で4.6Vの電圧まで充電して、4.6Vで電流が0.05Cの値に達するまで充電して、これらの充電条件を一定に保ちながら、電池を、2.0Vの放電電圧まで1C(2回、サイクル8から9)、2C(2回、サイクル10から11)および3C(2回、サイクル12から13)の一定電流で放電する。
【0212】
放電速度の変動に従って、延長されたサイクリングを、電池を0.7Cの一定電流で4.6Vの電圧まで充電し、4.6Vで電流が0.05Cの値に達するまで充電して、2.0Vの放電電圧まで1Cの一定電流で放電する(サイクル14)ことにより実施した。サイクル14について測定された放電容量を、1Cにおける第1の放電容量として記録して、1Cで得られた100%に対応する参照放電容量値として設定した。この充電および放電手順を、少なくとも100回または測定された充電容量がサイクル14の充電容量の70%未満になるまで繰り返した。延長されたサイクリング実験の間に、0.1Cにおける容量チェックおよび40%SOCで測定されたDCの内部抵抗(DCIR)測定を、100サイクルごとに実施した。後者はサイクル2から5について記載されたサイクリングの配列を、1Cサイクルの100回ごとに繰り返すことにより達成された。種々の例からの結果を表X4に提示する。
【0213】