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特許7423596薬物送達デバイスおよびその組み立て方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】薬物送達デバイスおよびその組み立て方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20240122BHJP
【FI】
A61M5/315 550P
A61M5/315 510
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021503784
(86)(22)【出願日】2019-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019068976
(87)【国際公開番号】W WO2020020680
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】18305999.7
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・アレクサンダー・シニア
(72)【発明者】
【氏名】ハリー・ロバート・レスター
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィッド・オーブリー・プランプトリ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ビージー
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-520367(JP,A)
【文献】特表2013-528086(JP,A)
【文献】特表2013-507158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達デバイスであって、
開口部(12)を含むハウジング(5、10)と、
近位端と、遠位端と、ハウジング(5、10)に対するピストンロッド(11)の遠位または近位方向運動の間ピストンロッド(11)を案内するように開口部(12)に係合するように適用されたインターフェース(14)を含む少なくとも一部分と、遠位端に配置された少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)とを有する、ピストンロッド(11)と、
該ピストンロッド(11)の遠位端に支承部(16)を回転可能に取り付けるための少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を含む支承部(16)と
を含み、
ここで、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および/または少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)は、ピストンロッド(11)と支承部(16)のスナップ係合のために径方向に弾性的に変形可能であり、
開口部(12)は、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を互いに取り付けた場合それらを受けるが、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を開口部(12)に受け入れた場合それらの係合解除を阻止するように適用された外形を有する少なくとも1つの部分を含む、
前記薬物送達デバイス。
【請求項2】
薬物送達デバイスの組み立ての間、ピストンロッド(11)は、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)が開口部(12)の遠位に位置する遠位取り付け位置と、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)が開口部(12)に受け入れられる近位輸送位置との間で軸方向に動くことができる、請求項1に記載の薬物送達デバイス。
【請求項3】
開口部は、内側ねじ山を備え、ハウジング(5、10)に対するピストンロッド(11)の遠位または近位方向運動の間ピストンロッド(11)を案内するように開口部(12
)に係合するように適用されたインターフェース(14)は、外側ねじ山(14)を含む、請求項1または2に記載の薬物送達デバイス。
【請求項4】
少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を受けるように適用された外形を有する少なくとも1つの部分は、内側ねじ山(13)を含む、請求項3に記載の薬物送達デバイス。
【請求項5】
開口部は、非円形断面を備え、ハウジング(5、10)に対するピストンロッド(11)の遠位または近位方向運動の間ピストンロッド(11)を案内するように開口部(12)に係合するように適用されたインターフェースは、対応する非円形断面を含む、請求項1または2に記載の薬物送達デバイス。
【請求項6】
少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を受けるように適用された外形を有する少なくとも1つの部分は、突起を含む、請求項5に記載の薬物送達デバイス。
【請求項7】
支承部(16)は、カートリッジの栓に当接する円盤を含み、少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)は、円盤の近位側から近位に延びるスピゴット(17)を含み、該スピゴット(17)は、少なくとも1つの径方向凹部(18)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項8】
ピストンロッド(11)の少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)は、支承部(16)の少なくとも1つの径方向凹部(18)に係合するように適用された少なくとも1つのスナップフック(15)を含む、請求項7に記載の薬物送達デバイス。
【請求項9】
ピストンロッド(11)の少なくとも1つの第1の取り付け要素は、その遠位端にスピゴットを含み、該スピゴットは、少なくとも1つの径方向凹部を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項10】
支承部(16)は、カートリッジの栓に当接する円盤を含み、少なくとも1つの第2の取り付け要素は、円盤の近位側から近位に延びピストンロッド(11)の少なくとも1つの径方向凹部に係合するように適用された少なくとも1つのスナップフックを含む、請求項9に記載の薬物送達デバイス。
【請求項11】
ピストンロッド(11)を遠位方向に変位させるようにピストンロッド(11)に動作可能に連結された駆動部材(20)、および/または、用量を選択するようにハウジング(5、10)に動作可能に連結された用量設定部材(6、8、22)、および/または、ハウジング(5、10)に取り付けられ薬剤を含むカートリッジを含むカートリッジホルダ(9)とをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項12】
開口部(12)は、支承部(16)とピストンロッド(11)を互いに取り付けた場合それらの軸方向運動を可能にするが少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を開口部(12)に受け入れた場合それらの係合解除に必要な取り付け要素(15)のうちの少なくとも1つの弾性変形をブロックする隙間嵌めまたは締り嵌めで少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を受けるように適用された外形を有する少なくとも1つの部分を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項13】
薬物送達デバイスの組み立て方法であって、
該デバイスは、少なくとも、開口部(12)を含むハウジング(5、10)と、
近位端と遠位端と該遠位端に配置された少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)とを有するピストンロッド(11)と、
該ピストンロッド(11)の遠位端に支承部(16)を回転可能に取り付けるための少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を含む支承部(16)とを有し、
該方法は、
ピストンロッド(11)の遠位端が開口部(12)を通って遠位に突出するようにピストンロッド(11)をハウジング(5、10)に導入する工程と、
その後、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)のスナップ係合によって支承部(16)をピストンロッド(11)に取り付ける工程と、
その後、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)がハウジング(5、10)の開口部(12)に少なくとも部分的に受け入れられるまで、ピストンロッド(11)を近位方向に後退させる工程と:
を含む、前記組み立て方法。
【請求項14】
ピストンロッド(11)をハウジング(5、10)に遠位方向に導入する工程、および/またはピストンロッド(11)を近位方向に後退させる工程は、ピストンロッド(11)の回転と並進運動の組合せを含む、請求項13に記載の組み立て方法。
【請求項15】
支承部(16)をピストンロッド(11)に取り付ける工程は、少なくとも1つの第1の取り付け要素(15)および/または少なくとも1つの第2の取り付け要素(17、18)を径方向に弾性的に変形させることを含む、請求項13または14に記載の組み立て方法。
【請求項16】
支承部(16)がカートリッジ内の栓に当接するように、薬剤を含むカートリッジを含むカートリッジホルダ(9)をハウジング(5、10)に取り付ける工程をさらに含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、薬剤のいくつかの使用者可変用量を選択し投薬するためのたとえば注射デバイスである薬物送達デバイスを対象とする。本発明は、さらに、薬物送達デバイスの組み立て方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
ペン型薬物送達デバイスには、正式な医療訓練を受けていない者によって定期的な注射が行われる適用例がある。こうした適用例は、糖尿病の患者の間でますます一般的になっており、自己治療により、このような患者は自身の疾患の効果的な管理を行うことが可能である。実際、このような薬物送達デバイスでは、使用者は、薬剤のいくつかの使用者可変用量を個別に選択し投薬することができる。本発明は、さらに、設定用量の増減ができない所定用量の投薬のみ可能ないわゆる固定用量デバイスも対象とする。
【0003】
基本的に、2つのタイプの薬物送達デバイス、すなわち:再設定可能デバイス(すなわち、再使用可能なもの)、および再設定不可能(すなわち、使い捨ての)ものがある。たとえば、使い捨てペン送達デバイスは独立型デバイスとして供給される。そのような独立型デバイスには、着脱可能な充填済みカートリッジがない。というより、その充填済みカートリッジは、デバイス自体を壊さなければこれらのデバイスから取り出し、取り替えることができない。したがって、このような使い捨てデバイスは、再設定可能な用量設定機構を有する必要がない。本発明は、両方のタイプのデバイス、すなわち使い捨てデバイスならびに再使用可能デバイスに適用可能である。
【0004】
これらのタイプのペン送達デバイスは(拡大された万年筆に似ていることが多いのでこのように名づけられた)、一般に、3つの主な要素、すなわち:多くの場合ハウジングまたはホルダに含まれるカートリッジを含むカートリッジセクション;カートリッジセクションの一方端に連結されたニードルアセンブリ;およびカートリッジセクションの他方端に連結された用量投与セクションを含む。カートリッジ(アンプルと呼ばれることが多い)は、典型的には、医薬品(たとえば、インスリン)が充填されているリザーバと、カートリッジリザーバの一方端に位置する可動のゴムタイプの栓またはストッパと、他方の多くの場合くびれている端部に位置し穿孔可能なゴム封止部を有する上部とを含む。典型的には、圧着環状金属バンドが、ゴム封止部を所定位置に保持するのに使用される。典型的には、カートリッジハウジングはプラスチックで作られるが、カートリッジリザーバは従来よりガラスで作られている。
【0005】
ニードルアセンブリは、典型的には、交換可能な両頭針アセンブリである。注射の前に、交換可能な両頭針アセンブリをカートリッジアセンブリの一方端に取り付け、用量を設定してから、設定用量を投与する。このような着脱可能なニードルアセンブリは、カートリッジアセンブリの穿孔可能な封止端にねじ留めする、または押し付ける(すなわち、カチッと留める)ことができる。
【0006】
用量投与セクションまたは用量設定機構は、典型的には、ペンデバイスの、用量の設定(選択)に使用される部分である。注射の間、用量設定機構に含まれているスピンドルまたはピストンロッドがカートリッジの栓またはストッパを押す。この力によって、カートリッジに含まれている医薬品が取り付けられたニードルアセンブリを通って注射される。注射の後、大部分の薬物送達デバイスおよび/またはニードルアセンブリ製造業者および供給者によって通常推奨されるように、ニードルアセンブリを取り外して廃棄する。
【0007】
薬物送達デバイスタイプの別の区分は、駆動機構に関連する:たとえば使用者が注射ボタンに力を加えることによって手で駆動されるデバイス、ばねなどによって駆動されるデバイス、およびこれら2つの概念を組み合わせたデバイス、すなわち使用者が注射力を及ぼすことがやはり必要とされるばね補助式デバイスがある。ばねタイプのデバイスは、予荷重が掛けられているばね、および用量選択中に使用者によって負荷が掛けられるばねを含む。蓄積エネルギーデバイスには、ばね予荷重と、たとえば用量設定中に使用者によってもたらされる追加のエネルギーとの組合せを用いるものがある。
【0008】
既知の薬物送達デバイスは、典型的には、開口部を含むハウジングと、近位端および遠位端を有するピストンロッドとを含み、ピストンロッドの少なくとも一部分は、ハウジングに対するピストンロッドの遠位または近位方向運動の間ピストンロッドを案内するように開口部に係合するように適用されたインターフェースと、遠位端に配置された少なくとも1つの第1の取り付け要素を備える。支承部は、支承部をピストンロッドの遠位端に回転可能に取り付けるための少なくとも1つの第2の取り付け要素を有するように設けることができる。ピストンロッドまたはスピンドルの遠位端に配置された圧力フットまたは支承部を含む薬物送達デバイスの一例は、特許文献1に示されており、そこでは、支承部は、カートリッジのピストンまたは栓の端部に当接するように配置されている。
【0009】
特許文献2には、遠位端を有する回転可能スピンドルと、スピンドルに対する支承部の独立した動きを防ぐために支承部をスピンドルに固定的に取り付けるウェブを含む第1の連結を介してスピンドルの遠位端に取り付けられた円盤形支承部とを含む、スピンドルと支承部を組み合わせたものが開示されている。この第1の連結は、組み立ての間、ウェブが切断(剪断)されウェブが支承部から連結解除されたときに作り出される第2の連結によって取って代わられる。第2の連結は、回転する継手連結、すなわちスピンドルが自由に回転することができるものである。
【0010】
そのような薬物送達デバイスの組み立ては、機構サブアセンブリを提供する第1の組み立て工程シーケンスを含むことができ、この機構サブアセンブリには、カートリッジとの結合による最終組み立てが施される。最終組み立ては、機構サブアセンブリが生産される場所から離れた場所で行うことができる。これは、支承部およびピストンロッドを含む機構サブアセンブリの輸送および収納を含むことがある。
【0011】
いくつかの薬物送達デバイスでは、ピストンロッドは、デバイスの近位(ボタン)端から、ハウジングのたとえばねじ付開口部を通って組み付けなければならない。これは、支承部のための任意のスナップ連結機能の直径がハウジングのねじ形態の内部ボアの直径未満であることを必要とする。この直径は、たとえば3mmしかなく、それによって頑丈なスナップ連結の設計がより難しくなる。
【0012】
投薬の間のピストンロッドからの軸方向負荷は、可能な限り点接触に近い接触面を用いて支承部に伝達されなければならない。これは、投薬中にピストンロッドが支承部に対してスピンしたときの摩擦の影響を低減させるためである。この点接触は、デバイスの軸上でなければならず、したがって、ピストンロッドはこの軸上でスピンするので、点接触は軸から逸脱することはない。
【0013】
さらに、支承部をピストンロッドに連結することに使用される機能は、これらの2つの部材を作る成形型の設計に任意の追加の複雑さを加えずに成形可能でなければならない。本質的に、これは、可能であれば、機能が単純な開閉ツーリング構造および必要に応じて最大2つのスライドにより成形可能でなければならないことを意味する。
【0014】
一旦取り付けられたら、支承部をピストンロッドの端部から引き離すことは困難でなければならない。これは、最終組み立ての前に機構サブアセンブリを輸送する間、支承部が外れないことを確実にするためである。使い捨てペンの最終組み立て後、支承部は、機構とカートリッジとの間に捕らえられ、したがってこの段階での外れる危険は最低限に抑えられる。さらに、一部が投薬されると、この支承部保持は、支承部がカートリッジ内にあり軸方向の動きが阻止されるので必要なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】EP2437821B1
【文献】EP2437827B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、組み立てやすいが完成デバイスへ最終的に組み付ける前のサブアセンブリ状態でしっかりと保持される、ピストンロッドとの点接触が好ましい支承部を含む薬物送達デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1で定められるような薬物送達デバイスおよび請求項13で定められるような組み立て方法によって解決される。
【0018】
本発明による薬物送達デバイスにおいて、少なくとも1つの第1の取り付け要素および/または少なくとも1つの第2の取り付け要素は、ピストンロッドと支承部とのスナップ係合のために径方向に弾性的に変形可能である。さらに、開口部は、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素を互いに取り付けた場合それらを受けるように適用された外形を有する少なくとも1つの部分を含む。その一方、開口部の外形は、開口部が、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素を開口部に受け入れた場合それらの係合解除を阻止するまたは少なくとも妨げるように取り付け要素に適用される。たとえば、開口部の部分は、好ましくは開口部の内側との接触による摩擦なくして支承部とピストンロッドの軸方向運動を可能にする隙間嵌めまたは締り嵌めで第1および第2の取り付け要素を受けるまたは包むように適用させることができる。隙間嵌めまたは締り嵌めは、係合解除に必要な取り付け要素の弾性変形を開口部がブロックするように選ぶことができる。
【0019】
本発明は、支承部を輸送のための位置にロックして最終的な組み立ての前にそれが抜け落ちる危険を低減させるような方法で、支承部をたとえば使い捨てペン注射器のピストンロッドに取り付けるという概念に基づいている。本発明は、好ましくは、これに限定しないが、デバイスへ最終的に組み付ける前の機構の輸送のために良好な支承保持だけを必要とする使い捨てペン型デバイスに関する。
【0020】
本発明による薬物送達デバイスは、使用の間、たとえば用量投薬のためにピストンロッドを使用者が引っ張る、押すおよび/または回転させることによって直接動作させることができる、非常に単純な設計を有することができる。代替として、薬物送達デバイスは、少なくとも、用量投薬の間ピストンロッドを遠位に変位させるようにピストンロッドに動作可能に連結された1つの駆動部材、および/または用量選択のためにハウジングに動作可能に連結された用量設定部材をさらに含むことができる。
【0021】
輸送のために支承部を所定位置にロックするために、薬物送達デバイスの組み立ての間、ピストンロッドは、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素が開口部の遠位に位置する遠位取り付け位置と、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素が開口部に受け入れられる近位輸送位置との間で軸方向に動くことができてよい。換言すると、ピストンロッドが遠位取り付け位置にある場合、それぞれの取り付け要素の径方向拡大が可能になることによって、そうした拡大を開口部は妨げないので、支承部の取り付けが可能になる。その一方で、ピストンロッドが近位輸送位置に後退している場合、ハウジング開口部または開口部のそれぞれの部分は、それぞれの取り付け要素の拡大を阻止し少なくともピストンロッドからの支承部の係合解除を妨げ支承部をピストンロッド上にロックする。
【0022】
本発明の一例では、開口部は、内側ねじ山を備え、ハウジングに対するピストンロッドの遠位または近位方向運動の間ピストンロッドを案内するように開口部に係合するように適用されたインターフェースは、外側ねじ山を含む。この場合、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素を受けるように適用された外形を有する少なくとも1つの部分は、内側ねじ山を含むことができる。したがって、ピストンロッドの軸方向運動は、典型的には、螺旋経路に沿った回転と変位の組合せを含む。しかし、用量投薬のためのピストンロッドとハウジングの一般的な係合はねじインターフェースの形態であってよいが、短距離、たとえば遠位取り付け位置と近位輸送位置との間の純軸方向変位は、回転なしに可能であってよい。
【0023】
代替として、開口部は、たとえば溝、スプライン、リブおよび/または平坦化部分の形態の非円形断面を備え、ハウジングに対するピストンロッドの遠位または近位方向運動の間ピストンロッドを案内するように開口部に係合するように適用されたインターフェースは、対応する非円形断面を含む。この場合、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素を受けるように適用された外形を有する少なくとも1つの部分は、突起を含むことができる。
【0024】
本発明の一例によれば、支承部は、カートリッジの栓に当接する円盤を含むことができ、支承部の少なくとも1つの第2の取り付け要素は、円盤の近位側から近位に延びるスピゴットまたはステムを含むことができる。スピゴットは、ピストンロッドとのスナップ係合を可能にする少なくとも1つの径方向凹部を備えることができる。この場合、ピストンロッドの少なくとも1つの第1の取り付け要素は、支承部の少なくとも1つの径方向凹部に係合するように適用された少なくとも1つのスナップフックを含むことができる。この設計は、この機能を製品またはアセンブリに実装しやすくする市販の既存製品の設計と類似している。換言すると、この構成では、支承部は、ピストンロッドの雌スナップ機能に取り付けられる雄スピゴットを有する。しかし、同様に、ピストンロッドがスピゴットを収容し支承部がたとえば少なくとも1つのスナップフックであるスナップ機能を収容してもよいが、低摩擦動作のためには、スピゴットのドーム形端部は、分割線がないように成形されることが好ましい。ピストンロッドは、(端と端を)逆さに組み付けてもよく、ドーム形端部付きスピゴットを両端に成形する場合、これは2つの追加のスライドを必要とすることになり、それによって、支承部にドームを成形する場合と比べて、ツール当たりの部材キャビティ(part cavities)の数がより少なくなりこの部材のツーリングがより複雑になる。
【0025】
本発明に関して、ハウジングという用語は、デバイスの外側本体またはシェルに限定されない。むしろ、ハウジングは、内部ハウジング構成要素またはインサートとすることができる。そうした内部ハウジング構成要素またはインサートは、別個の構成要素部材であってよく、またはデバイスの外側本体もしくはシェルの一体部分であってもよい。
【0026】
少なくとも、開口部を含む1つのハウジングと、近位端と遠位端と遠位端に配置された少なくとも1つの第1の取り付け要素とを有するピストンロッドと、ピストンロッドの遠位端に支承部を回転可能に取り付けるための少なくとも1つの第2の取り付け要素を含む支承部とを含む薬物送達デバイスについての本発明による組み立て方法は、ピストンロッドの遠位端が開口部を通って遠位に突出するようにピストンロッドをハウジングにたとえば遠位方向に導入する工程と、その後、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素のスナップ係合によって支承部をピストンロッドに取り付ける工程と、その後、少なくとも1つの第1の取り付け要素および少なくとも1つの第2の取り付け要素がハウジングの開口部に少なくとも部分的に受け入れられるまで、ピストンロッドを近位方向に後退させる工程とを含む。このピストンロッドの後退は、たとえばスナップである取り付け要素の径方向外方への偏向をロックする働きをし、したがって大きな力が掛けられない限り支承部が外れないようになる。
【0027】
ピストンロッドをハウジングに遠位方向に導入する工程、および/またはピストンロッドを近位方向に後退させる工程は、ピストンロッドのたとえば螺旋経路に沿った回転と並進運動の組合せを含むことができる。さらに、支承部をピストンロッドに取り付ける工程は、少なくとも1つの第1の取り付け要素および/または少なくとも1つの第2の取り付け要素を径方向に弾性的に変形させることを含むことができる。
【0028】
注射デバイスは、典型的には、薬剤を含むカートリッジを含む。したがって、組み立て方法は、支承部がカートリッジ内の栓に当接するように、薬剤を含むカートリッジを含むカートリッジホルダをハウジングに取り付ける工程をさらに含むことができる。
【0029】
「薬剤」という用語は、本明細書で用いられる場合、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態では、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、かつ/あるいはペプチド、タンパク質、多糖、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモン、もしくはオリゴヌクレオチド、または上述した薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、糖尿病もしくは糖尿病に伴う合併症、たとえば、糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害、たとえば、深部静脈血栓塞栓症もしくは肺血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチの治療および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病に伴う合併症、たとえば、糖尿病性網膜症の治療および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)もしくはそのアナログもしくは誘導体、もしくはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4またはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4のアナログもしくは誘導体を含む。
【0030】
インスリンアナログは、たとえば、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0031】
インスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0032】
エキセンジン-4は、たとえば、H-His-Gly-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Leu-Ser-Lys-Gln-Met-Glu-Glu-Glu-Ala-Val-Arg-Leu-Phe-Ile-Glu-Trp-Leu-Lys-Asn-Gly-Gly-Pro-Ser-Ser-Gly-Ala-Pro-Pro-Pro-Ser-NH2の配列のペプチドであるエキセンジン-4(1-39)を意味する。
【0033】
エキセンジン-4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H-(Lys)4-desPro36,desPro37エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)5-desPro36,desPro37エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39);もしくは
desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
(ここで、基-Lys6-NH2が、エキセンジン-4誘導体のC-末端に結合していてもよい);
【0034】
もしくは、以下の配列のエキセンジン-4誘導体:
desPro36エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2(AVE0010)、
H-(Lys)6-desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
H-desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
desMet(O)14 Asp28 Pro36,Pro37,Pro38 エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5 desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Lys6-desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
H-desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(S1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン-4誘導体の薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物
から選択される。
【0035】
ホルモンは、たとえば、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンである。
【0036】
多糖は、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化形たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。
【0037】
抗体は、基本構造を共有するイムノグロブリンとしても公知の球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位はイムノグロブリン(Ig)単量体(Ig単位のみを含む)であり、分泌型抗体は、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもありうる。
【0038】
Ig単量体は、4本のポリペプチド鎖;システイン残基間のジスルフィド結合によって結合した2本の同一の重鎖および2本の同一の軽鎖からなる「Y」字型の分子である。各重鎖は約440アミノ酸長であり、各軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化する鎖内ジスルフィド結合を含む。各鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインで構成される。これらのドメインは、70~110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に従って異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的なイムノグロブリン折り畳み構造を有する。
【0039】
α、δ、ε、γ、およびμで表される5タイプの哺乳動物Ig重鎖が存在する。存在する重鎖のタイプにより抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM抗体中に見出される。
【0040】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(C)と可変領域(V)とを有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、αおよびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つのイムノグロブリンドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0041】
哺乳動物では、λおよびκで表される2タイプのイムノグロブリン軽鎖が存在する。軽鎖は、2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211~217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を含み、哺乳動物の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0042】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(VH)について3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0043】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化により、Igプロトタイプが3つのフラグメントに切断される。1つの完全なL鎖と約半分のH鎖とをそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズは同等であるが鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶化可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH-H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合を、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域を融合して、単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することができる。
【0044】
薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類、たとえば、Na+、もしくはK+、もしくはCa2+から選択されるカチオン、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)、(式中、R1~R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1~C6アルキル基、場合により置換されたC2~C6アルケニル基、場合により置換されたC6~C10アリール基、または場合により置換されたC6~C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容可能な塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0045】
薬学的に許容可能な溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0046】
次に、添付の図面を参照して本発明の非限定的な例示的な実施形態について述べる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の一態様による用量設定機構を含む薬物送達デバイスの図である。
図2】キャップが取り外されカートリッジホルダが見える、図1の薬物送達デバイスの図である。
図3】支承部の組み立て前の本発明による薬物送達デバイスの一実施形態の断面図である。
図4】支承部の組み立て後の図1の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1を参照すると、図面には、例示的な配置による薬物送達デバイス1が示されている。薬物送達デバイス1は、遠位に配置されたカートリッジ保持部材2と、近位に配置された用量設定機構3とを含む。薬物送達デバイスは、再設定可能薬物送達デバイス(すなわち、再使用可能デバイス)、あるいは再設定不可能薬物送達デバイス(すなわち、再使用不可能デバイス)であってよい。カートリッジ保持部材2および用量設定機構3は、連結機能によって一緒に固定される。再設定不可能デバイスの場合、これらの連結機能は、恒久的、または不可逆的となる。再設定可能デバイスの場合、これらの連結機能は解放可能となる。
【0049】
この例示的な配置では、カートリッジ保持部材2は、用量設定機構3内に固定される。着脱可能キャップ4は、カートリッジ保持部材2の上に解放可能に保持される。用量設定機構3は、外側ハウジング5に入っており、用量ダイヤルグリップ6と、窓またはレンズ7とを含む。用量スケール装置8は、窓またはレンズ7を通して見ることができる。
【0050】
薬物送達デバイス1に含まれる医薬品の用量を設定するには、使用者は、ダイヤル設定用量が用量スケール装置8によって窓またはレンズ7内に見えるように、外側ハウジング5に対して用量ダイヤルグリップ6を回転させる。用量の設定は、図2に示されるように外側ハウジング5に対する用量ダイヤルグリップ6の近位方向運動を含むことができる。用量の投薬は、用量ダイヤルグリップを遠位方向に押し戻すことを含むことができる。
【0051】
図2は、カバーキャップ4がデバイス1の遠位端から取り外された状態の図1の薬物送達デバイス1を示している。この取り外しによってカートリッジホルダ9が露出する。いくつかの用量の医薬製品を投薬することができるカートリッジ(図示せず)は、カートリッジホルダ9内に提供される。カートリッジは、その近位端近くに保持された栓またはストッパ(図2には示されない)を含む。
【0052】
薬物送達デバイス、具体的には用量設定機構3は、内側ハウジング10またはインサートをさらに含むことができる。内側ハウジング10またはインサートは、図3に示されるような別個の構成要素部材であってよく、または外側ハウジング5の一体部材であってもよい。薬物送達デバイスは、カートリッジ保持部材2の方に向いた遠位端と反対の近位端とを有するピストンロッド11またはスピンドルをさらに含む。
【0053】
図3に示される実施形態では、内側ハウジング10は、ピストンロッド11を受ける中央開口部12を備える。図示の実施形態の代替として、開口部12を外側ハウジング5に直接設けてもよい。開口部12は、ピストンロッド11の外側ねじ山14と相互作用する内側ねじ山13を備える。したがって、内側ハウジング10に対してピストンロッド11が回転すると、内側ハウジング10に対してピストンロッド11が軸方向に変位することになる。ピストンロッド11の遠位端は、たとえば2つの可撓性フック15を含む、雌スナップ機能を備える。フック15は、雌スナップ機能が広がるように、径方向に弾性的に変形することができるように設計される。
【0054】
内側ねじ山13を含む中央開口部12と可撓性フック15の寸法は、中央開口部12および内側ねじ山13が、図3および図4に示されるようなフックが応力を受けていない(静止)状態にあるときに可撓性フック15に干渉しないように選ばれる。しかし、内側ねじ山13を含む中央開口部12は、実質的に、可撓性フック15が径方向に広がることを防ぐ。少なくとも1つの可撓性フック15は、第1の取り付け要素を構築する。
【0055】
薬物送達デバイスは、ピストンロッド11の取り付けに先立って、図3に示される支承部16をさらに含む。支承部16は、実質的に円盤形をしており、近位方向に延びるスピゴット17またはステムを含む。スピゴット17は、その近位端と支承部16の円盤形部分との間に配置された環状の凹部18または溝を備える。凹部18を含むスピゴット17は、第2の取り付け要素を構築する。スピゴット17と凹部18の寸法は、可撓性フック15内へのスピゴット17のスナップ係合によってピストンロッド11の遠位端に支承部16を取り付けることができるように、ピストンロッド11の雌スナップ機能、すなわち可撓性フック15の寸法に適用される。
【0056】
図3および図4に示される実施形態の代替として、凹部を含むスピゴットをピストンロッド11に設け、雌スナップ機能を支承部16に設けてもよい。
【0057】
図3および図4は、薬物送達デバイス1の組み立ての間、特にピストンロッド11への支承部16の取り付けの間の2つの工程を示している。図3は、内側ハウジング10のねじ山13を通って遠位取り付け位置へと前進させられ、支承部16に留められそうなピストンロッド11を示している。ピストンロッド11を支承部16に留めるには、支承部を(図3に見られるように)右に押すか、スナップ連結を完全に組み立てるのに必要な量と同じだけ内側ハウジング10のねじ付開口部の中でピストンロッド11を回転させることによってピストンロッド11を前進させることができるかのどちらかである。
【0058】
図4では、ピストンロッド11は支承部に留められており、次いで、ピストンロッド11が逆方向に回転され、それによってピストンロッド11は軸方向に(図4に見られるように)右に動き、支承部16を内側ハウジング10のねじ山形態13の領域へと引き戻す。ピストンロッド11のこの後退は、スナップ(フック15)の径方向外方の偏向をロックする働きをし、したがって支承部16は、大きな力が掛けられない限り外れないようになる。
【0059】
図面に示される例では、内側ハウジング10は、開口部12に対して遠位方向に延びる実質的に円筒形の連結部分19を備える。連結部分19は、外側ハウジング5に内側ハウジング10がしっかりと拘束されるように適用される。
【0060】
図3および図4の例示的な実施形態では、薬物送達デバイスは、ピストンロッド11とたとえばスプライン係合により相互作用するドライバ20をさらに含む。ドライバ20は、薬物送達デバイス1から投薬することができる薬物の最大量を制限することができるナット21に係合する外側ねじ山を備えることができる。図3および図4は、さらに、用量ダイヤルグリップ6および/または用量スケール装置8の一体部分であってよい用量設定スリーブ22の一部分を示している。代替として、用量設定スリーブ22は、用量ダイヤルグリップ6および/または用量スケール装置8および/またはドライバ20に連結してもよい。
【0061】
たとえば、用量設定は、用量ダイヤルグリップ6により用量設定スリーブ22を第1の方向に回転させることを含むことができる。この回転は、外側ハウジング5および内側ハウジング10に対する回転、ならびに/またはドライバ20に対する回転とすることができる。
【0062】
用量投薬は、用量設定スリーブ22を第1の方向とは反対の第2の方向に回転させることを含むことができる。用量投薬の間、ドライバ20は、用量設定スリーブ22に回転不能に連結することができる。ドライバ20の回転はピストンロッド11に伝わり、ドライバが回転したときにピストンロッド11は内側ハウジング10とのねじ係合により遠位方向に動くことができる。ピストンロッド11と支承部16の遠位方向運動は、カートリッジ内の栓を遠位方向に押し、それによってある用量の薬剤が投薬される。
【0063】
代替として、用量投薬の間の用量設定スリーブ22の回転は、ピストンロッド11とのねじインターフェースを介して伝達されるドライバ20の軸方向運動または螺旋運動を含むことができる。これは、結果的に、ピストンロッド11と支承部16の純粋な軸方向運動、または軸方向運動と回転運動が組み合わさったものになり、それによってカートリッジ内の栓が遠位方向に押され、ある用量の薬剤が投薬される。
【符号の説明】
【0064】
1 薬物送達デバイス
2 カートリッジホルダ
3 ハウジング
4 用量設定機構
5 キャップ
6 用量ダイヤルグリップ
7 窓/レンズ
8 用量スケール装置
9 カートリッジホルダ
10 内側ハウジング
11 ピストンロッド
12 開口部
13 内側ねじ山
14 外側ねじ山
15 フック/雌スナップ機能(第1の取り付け要素)
16 支承部
17 スピゴット(第2の取り付け要素)
18 凹部
19 連結部分
20 ドライバ
21 ナット
22 用量設定スリーブ
図1
図2
図3
図4