IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】窒化珪素質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20240122BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20240122BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B05D7/24 302Y
B05D3/04 C
B05D3/06 101A
B05D3/06 102A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023525593
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2021081913
(87)【国際公開番号】W WO2022106436
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】63/116,474
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ、アール.ダンメル
(72)【発明者】
【氏名】藤原 嵩士
(72)【発明者】
【氏名】マンスール、モワンプール
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/007277(WO,A1)
【文献】特表2019-518811(JP,A)
【文献】特開2003-163265(JP,A)
【文献】特開2017-200861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ポリシラザンおよび溶媒を含んでなる窒化珪素質膜形成組成物を基板の上方に適用して、塗膜を形成すること;
(ii)前記塗膜に、非酸化雰囲気中で電子線を照射すること;
(iii)(a)電子線照射された塗膜に、非酸化雰囲気中で真空紫外光を照射すること、および
(b)電子線照射された塗膜に、プラズマ処理を施すこと
からなる群から選択される少なくとも一つのプロセス;ならびに
(iv)工程(iii)で処理された塗膜を非酸化雰囲気中で加熱すること
を含んでなる、窒化珪素質膜の製造方法。
【請求項2】
電子線の照射量が10MGy~100MGyである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
真空紫外光の波長が100~200nmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ポリシラザンが、下記式(1)で表される繰り返し単位を含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【化1】
(ここで、R~Rは、それぞれ独立に、単結合、水素またはC1~4アルキルである)
【請求項5】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した、ポリシラザンのポリスチレン換算質量平均分子量が900~15,000である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ポリシラザンがペルヒドロポリシラザンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(iv)における加熱が300~800℃で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
真空紫外光の照射エネルギーが3~15J/cmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法により得られる窒化珪素質膜。
【請求項10】
窒化珪素質膜の屈折率が1.75~2.00である、請求項9に記載の窒化珪素質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に窒化珪素質膜の製造に適用するかたちでの無機膜の製造に関する。さらに、本発明は、前記窒化珪素質膜を具備してなる、半導体デバイス等の製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、特に半導体デバイスの製造では、窒化珪素等の化学的に不活性な誘電材料が必須である。窒化珪素の薄膜は、拡散マスク、エッチングプロセス用のハードマスク、酸化バリア、トレンチ分離、高絶縁破壊電圧を有する層間絶縁材料として機能する。トランジスタ素子とビットラインの間、ビットラインとキャパシタの間、キャパシタと金属配線の間、複数の金属配線の間等に、層間絶縁膜を形成することができる。また、配線のマイグレーションの抑制、シリコンウェーハの損傷の抑制、高度デバイスに用いられる材料の耐熱性等の要求に応じて、成膜工程の温度を下げる必要がある。
【0003】
窒化珪素膜の形成方法には、化学蒸着法(CVD法)、ゾルゲル法、ケイ素含有ポリマーを含んでなる組成物を適用する方法、および焼成等が用いられる。これらの中でも、組成物を用いた窒化珪素膜の形成方法は比較的簡単である。
【0004】
酸エッチングに耐えることができ、かつ高い屈折率を有しており、半導体デバイスの、幅が狭く、かつ高アスペクト比のトレンチを充填することができ、また、低プロセス温度で硬化して窒化珪素膜に変換することができる材料が求められている。
【0005】
米国特許出願公開2009/289284号明細書は、ペルヒドロポリシラザンを基板上にスピンオンし、このペルヒドロポリシラザン膜を100~200℃の温度で焼成し、焼成したペルヒドロポリシラザン膜を窒素ガス環境中で200~500℃の温度で硬化させることを含んでなる、窒化珪素膜の製造方法を開示する。
【0006】
特開1995-206410号公報は、基板上にペルヒドロポリシラザン溶液を適用し、ペルヒドロポリシラザン膜を、UV光を照射しながら500℃より低い温度で焼成することを特徴とする、窒化珪素膜の形成方法を開示する。
【0007】
特許4049841号公報は、ペルヒドロポリシラザンを有機溶媒に溶解して作成したペルヒドロポリシラザン溶液を基板上に適用して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させ、乾燥塗膜を真空中で600℃を超える温度で焼成することを特徴とする、窒化珪素膜の形成方法を開示する。
【0008】
米国特許第5,093,096号明細書は、ポリシラザンの紡糸溶液を紡糸し、真空または非酸化雰囲気中で線量5×10~9×10radの電離放射線をこの繊維に照射し、照射された繊維をアンモニアガス流中、600~1,700℃の温度で焼くことを含んでなる、窒化珪素繊維の製造方法を開示する。
【0009】
米国特許第6,426,127号明細書は、基板上にシラザンポリマー含有組成物を適用し、任意に組成物を加熱してそこから溶媒を蒸発させ、またシラザンポリマー含有組成物を硬化させるのに十分な条件下で、組成物に電子線を全面照射することを含んでなる、基板上に誘電体コーティングを形成するためのプロセスを開示する。この電子線照射量は、約1~約500,000μC/cmの範囲内である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2009/289284号明細書
【文献】特開1995-206410号公報
【文献】特許4049841号公報
【文献】米国特許第5,093,096号明細書
【文献】米国特許6,426,127号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明の一つの形態は、
ポリシラザンおよび溶媒を含んでなる窒化珪素質膜形成組成物を基板の上方に適用して、塗膜を形成すること;
前記塗膜に、非酸化雰囲気中で電子線を照射すること;
(a)電子線照射された塗膜に、非酸化雰囲気中で真空紫外光を照射すること、および(b)電子線照射された塗膜に、プラズマ処理を施すことからなる群から選択される少なくとも一つのプロセス;および
先の工程で処理された塗膜を非酸化雰囲気中で加熱すること
を含んでなる、窒化珪素質膜の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の別の形態は、幅が狭く、かつ高アスペクト比のトレンチ内に形成することができる窒化珪素質膜を提供する。
【0013】
また、本発明の他の形態は、酸エッチングに耐え得る窒化珪素質膜を有する電子デバイスの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の窒化珪素質膜の製造方法は、簡便なプロセスで、かつ、低いプロセス温度で、窒化珪素質膜を得ることを可能にする。この窒化珪素質膜は、幅が狭く、かつ高アスペクト比のトレンチ内に形成することができる。また、この窒化珪素質膜は、半導体デバイス等の製造工程において、酸性エッチングに耐え得る。この窒化珪素質膜はまた、高い屈折率と低い酸素含有量を有する。この窒化珪素質膜の製造方法を用いることにより、電子デバイスの歩留まりを向上させることができる。
[定義]
【0015】
特に断らない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される以下の用語は、本明細書の目的のために以下の意味を有するものとする。
【0016】
本明細書では、単数形の使用は、複数のものを含み、単語「a」、「an」および「the」は、特に断らない限り、「少なくとも1つの」を意味する。さらに、用語「含む(including)」および「含む(includes)」並びに「含まれる(included)」等の他の形態の使用は、限定的ではない。また、「要素(element)」または「成分(component)」等の用語は、特に断らない限り、1つのユニットを含んでなる要素または成分と、1つより多くのユニットを含んでなる要素または成分の両方を包含する。本明細書で使用されるように、特に断らない限り、接続詞「および」は包括的であることを意図しており、接続詞「または」は、排他的であることを意図していない。例えば、「または、代わりに」という語句は、排他的であることを意図している。本明細書で使用されるように、用語「および/または」は、単一の要素を使用することを含む前述の要素の任意の組み合わせを指す。
【0017】
用語「約(about)」または「約(approximately)」は、測定可能な数値変数に関連して使用される場合、変数の指示値を指し、かつ指示値の実験誤差内(例えば、95%の平均信頼限界内)または指示値の±10%内の、いずれか大きい方である変数のすべての値を指す。
【0018】
本明細書において、「Cx~y」、「C~C」および「C」等の記載は、分子または置換基中の炭素原子の数を意味する。例えば、C1~6のアルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
【0019】
本明細書において、特に記載しない限り、「アルキル」は、直鎖状または分岐状アルキルを意味し、そして「シクロアルキル」は、環状構造を含むアルキルを意味する。環状構造が直鎖状または分岐状アルキルで置換されているものもシクロアルキルと呼ばれる。また、シクロアルキルには、ビシクロアルキル等の多環構造を有するものも含まれる。「ヘテロアルキル」は、特に記載しない限り、主鎖または側鎖中に酸素または窒素を含むアルキルを意味し、例えば、オキシ、ヒドロキシ、アミノ、カルボニル等を含むアルキルを意味する。さらに、「ヒドロカルビル基」は、炭素と水素を含んでなり、必要に応じて酸素または窒素を含む、1価、2価またはそれ以上の基を意味する。さらに、本明細書において、特に記載しない限り、「アルキレン」は、前記アルキルに対応する2価の基を意味し、例えば、直鎖状アルキレンまたは側鎖を有する分岐状アルキレンを含む。
【0020】
本明細書において、「窒化珪素質」は、水素、酸素、または炭素を含むことができる、ケイ素-窒素結合を含んでなる非晶質の化合物を意味する。
【0021】
数値範囲が、「to」、「-」や「~」を用いて記載されている場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
【0022】
本明細書において、「非酸化雰囲気」は、酸素濃度が1ppm以下、かつ露点が-76℃以下の雰囲気を意味する。
【0023】
本明細書において、ポリマーが特定の定義なしに複数種類の繰り返し単位を含む場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。
【0024】
本明細書において、特に記載しない限り、摂氏(Celsius)を温度の単位として使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
【0025】
本明細書において、特に記載しない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0026】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成上の目的のためであり、記載された主題を限定するものとして解釈されるべきではない。これらに限定されないが、特許、特許出願、記事、書籍および論文を含む、この出願において引用される全ての文献または文献の部分は、任意の目的においてその全体を参照して本明細書に明示的に組み込まれる。この組み込まれた文献および類似の資料のうちの1つ以上が、本出願においてある用語の定義と矛盾するような方法でその用語を定義している場合、本出願が支配する。
【本発明の詳細な説明】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
窒化珪素質膜の製造方法
本発明に係る窒化珪素質膜の製造方法は、
ポリシラザンおよび溶媒を含んでなる窒化珪素質膜形成組成物を基板の上方に適用して、塗膜を形成すること;
前記塗膜に、非酸化雰囲気中で電子線を照射すること;
(a)電子線照射された塗膜に、非酸化雰囲気中で真空紫外光を照射すること、および(b)電子線照射された塗膜に、プラズマ処理を施すことからなる群から選択される少なくとも一つのプロセス;ならびに
先の工程で処理された塗膜を非酸化雰囲気中で加熱すること
を含んでなる。
【0029】
窒化珪素質膜形成組成物
本発明の窒化珪素質膜形成組成物は、ポリシラザンおよび溶媒を含んでなる。
【0030】
本発明による製造方法に用いるポリシラザンは、本発明の効果を損なわない限り、任意に選択することができる。これらは、無機化合物または有機化合物であり、直鎖状、分岐状または部分的に環状構造を有することができる。
【0031】
好ましくは、ポリシラザンは、下記式(1)で表される繰り返し単位を含んでなる:
【化1】
(ここで、R~Rは、それぞれ独立に、単結合、水素またはC1~4アルキルである)。
【0032】
より好ましくは、本発明による製造方法で用いられるポリシラザンは、ペルヒドロポリシラザン(以下、PHPSという)である。PHPSは、繰り返し単位としてSi-N結合を含んでなり、かつSi、NおよびHのみからなるケイ素素含有ポリマーである。このPHPSは、Si-N結合を除き、SiおよびNに結合する元素がすべてHであり、炭素および酸素等のその他の元素は実質的に含まれない。
【0033】
PHPSは、分子内に分岐構造または環状構造を有し、そのようなPHPSの具体的な部分構造の一例が以下の式で示される。
【0034】
【化2】
【0035】
本発明による製造方法に用いられるポリシラザンの質量平均分子量は、溶媒への溶解性や反応性の観点から、好ましくは900~15,000であり、より好ましくは900~10,000である。質量平均分子量は、ポリスチレン換算の質量平均分子量であり、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0036】
組成物を調製するために、多種多様な溶媒を使用することができる。適切な溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、およびトリエチルベンゼン等の芳香族化合物;シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、およびp-メンタン等の飽和炭化水素化合物;シクロヘキセン等の不飽和炭化水素化合物;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、およびアニソール等のエーテル化合物;n-ブチル酢酸、i-ブチル酢酸、n-アミル酢酸、およびi-アミル酢酸等のエステル化合物;メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン化合物が挙げられるが、これらに限定されない。溶媒は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。複数種類の溶媒を用いることで、ポリシラザンの溶解度や溶媒の蒸発速度を調整することができる。
【0037】
採用した塗布方法の作業性や、微細トレンチへの組成物の浸透性や、トレンチの外側に必要な膜厚を考慮に入れ、使用したポリシラザンの質量平均分子量に応じて、組成物中の溶媒量を適切に選択することができる。本発明の組成物は、一般に、組成物の全質量を基準として、1~50質量%、好ましくは1~30質量%のポリシラザンを含有する。
【0038】
本発明による製造方法に用いられる組成物は、任意の成分、例えば界面活性剤等を含有することができる。界面活性剤は、塗布性を向上させることができるため、使用することが好ましい。本発明の組成物に用いることができる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0039】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、およびポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル;ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル;ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー;アセチレンアルコール;アセチレングリコール;アセチレンアルコールのポリエトキシレート等のアセチレンアルコール誘導体;アセチレングリコールのポリエトキシレート等のアセチレングリコール誘導体;フッ素含有界面活性剤、例えば、フロラード(商品名、スリーエムジャパン株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製);または有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。アセチレングリコールの例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0040】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩または有機アミン塩等が挙げられる。
【0041】
両性界面活性剤としては、例えば、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタイン等が挙げられる。
【0042】
これら界面活性剤は、単独でまたは2種以上混合して使用することができ、その配合比は、組成物の全質量に対して、通常50~10,000ppmであり、好ましくは100~5,000ppmである。
【0043】
窒化珪素質膜形成組成物の適用
このような基板に窒化珪素質膜形成組成物を適用する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スピン塗布、ディップ塗布、スプレー塗布、転写法、ロール塗布、バー塗布、ドクター塗布、ブラシ塗布、フロー塗布、またはスリット塗布等の通常の方法が挙げられる。組成物が適用される好適な基板としては、例えば、シリコン基板、ガラス基板および樹脂フィルム等である。これらの基板上には、必要に応じて半導体素子等を形成することができる
【0044】
窒化珪素質膜形成組成物を適用した後、塗膜を乾燥させる目的で、プリベーク工程を行うことが好ましい。プリベーク工程は、空気中で、または好ましくは非酸化雰囲気中で行う。処理条件は、例えば、ホットプレート上で50~200℃で10秒~30分間である。
【0045】
電子線照射
窒化珪素質膜形成組成物から形成された塗膜に、電子線を照射する。電子線は、0.1~10mA、好ましくは0.1~8mAの管電流から発生される。加速電圧は50~l00kV、好ましくは50~80kVである。加速電圧が50kVより低いと、膜厚に応じて、塗膜の底部付近での窒化珪素質膜への変換が不十分となる。加速電圧が100kVを超えると、半導体素子に影響を及ぼす可能性がある。
【0046】
電子線の照射量は、10~100MGyであり、好ましくは10~80MGyである。
【0047】
電子線照射は、非酸化雰囲気中、20~100℃で行う。非酸化雰囲気は、酸素濃度が1ppm以下、かつ露点が-76℃以下の雰囲気を意味する。好ましくは、N、Ar、He、Ne、H、またはこれらの任意の2種以上の混合物のガス雰囲気が用いられる。
【0048】
電子線照射膜の後処理
(a)電子線照射膜に真空紫外光を照射する。本発明の真空紫外光照射としては、波長100~200nmの真空紫外光を用いることが好ましい。真空紫外光を発生させる装置としては、例えば、低圧水銀ランプ、エキシマランプ(単一波長:126nm(Ar)、146nm(Kr)、165nm(ArBr)、172nm(Xe)、および193nm(ArF))が挙げられる。これらの中でも、本発明では、172nmの波長を発するXeエキシマランプを用いることが好ましい。
【0049】
真空紫外光の照度は、1~200mW/cmの範囲であり、好ましくは10~100mW/cmの範囲である。真空紫外光の照射量は、3~15J/cmの範囲であり、好ましくは5~12J/cmの範囲である。
【0050】
真空紫外光照射は、非酸化雰囲気中、10~100℃で行う。好ましくは、N、Ar、He、Ne、H、またはこれらの任意の2種以上の混合物のガス雰囲気が用いられる。
【0051】
電子線照射および真空紫外光照射は、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて行われる。
【0052】
(b)電子線照射膜をプラズマ処理する。プラズマは、プラズマ処理チャンバ内に導入されたガスから発生される。ガスとしては、例えば、N、H、He、Ar、Ne、Xe、炭素含有ガス、塩素含有ガス、およびこれらの任意の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。このようなガスの中でも、NまたはArが好ましい。プラズマ処理は、好ましくは10~60分間、より好ましくは15~45分間、好ましくは基板温度50~300℃、より好ましくは80~250℃で行なわれる。チャンバ内の圧力は、好ましくは0.1Pa~0.4MPaであり、より好ましくは1Pa~0.3MPaである。ガス供給流量は、好ましくは5,000~50,000標準cc/分(sccm)であり、より好ましくは10,000~30,000sccmである。
【0053】
被処理塗膜の加熱
被処理塗膜を非酸化雰囲気中で加熱する。好ましくは、N、Ar、He、Ne、H、またはこれらの任意の2種以上の混合物のガス雰囲気が用いられる。加熱は、300~800℃の温度範囲内で行なうことができる。300℃より低い温度で加熱することにより、本発明の窒化珪素質膜の膜特性が影響を受ける。加熱は、炉VF-1000(光洋サーモシステム株式会社)の中で行なう。
【0054】
目標温度への加熱速度および加熱時の冷却速度は、特に限定されず、通常、1℃~100℃/分の範囲内とすることができる。さらに、目標温度に到達した後の保持時間も特に限定されず、一般的に1分~10時間の範囲内とすることができる。
【0055】
本発明の窒化珪素質膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.1~1.2μmであり、より好ましくは0.1~1.0μmである。
【0056】
本発明の窒化珪素質膜の屈折率は、分光エリプソメーター(M-2000V、ジェー・エー・ウーラム社)で測定して、1.75~2.00であり、好ましくは1.80~2.00である。ケイ素、窒素および酸素の含有量を、X線光電子分光分析装置(PHI Quantera II、 アルバック・ファイ株式会社)で測定する。ケイ素、窒素および酸素の合計質量を基準とした窒化珪素質膜の酸素含有量は、0.5~7質量%であり、好ましくは0.5~6質量%である。
【0057】
本発明の電子デバイスの製造方法は、上記方法を含んでなる。デバイスは、好ましくは半導体デバイス、太陽電池チップ、有機発光ダイオードおよび無機発光ダイオードである。本発明のデバイスの好ましい一つの形態は、半導体デバイスである。
【0058】
実施例
以降において、本発明を実施例により説明する。これらの実施例は、説明のために提示されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0059】
合成例1
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン7,500mLを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。次いで、ジクロロシラン500gを加えると白色固体状のアダクト(SiHCl・2CN)が生成する。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、撹拌しながら反応混合物にゆっくりとアンモニア350gを吹き込む。引き続いて30分間攪拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー生成物を、乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製の0.2μmフィルターを用いて加圧濾過し、濾液6,000mLを得る。エバポレータを用いてピリジンを留去し、濃度38.9%の無機ポリシラザンのキシレン溶液を得る。
【0060】
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン4,680g、乾燥キシレン151g、38.9%反応生成物1,673gを導入する。窒素ガスを0.5NL/分でバブリングしながら、これらを撹拌して均一化させる。次いで、100℃で13時間、改質反応を行い、重量平均分子量4,266のペルヒドロポリシラザンを得る。
【0061】
合成例2
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン7,500mLを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。ジクロロシラン500gを加えると、白色固体状のアダクト(SiHCl・2CN)が生成する。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、混合溶液を1時間撹拌し、メチルアミン470gを溶液中に吹き込み、-3℃の反応温度で100分間、アミノリシスを行う。続いて、撹拌しながらアンモニア80gをゆっくりと反応混合物に吹き込み、-3℃の温度を維持しながら30分間撹拌した後、液層に30分間乾燥窒素を吹き込んで過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー生成物を、乾燥窒素雰囲気中でテフロン(登録商標)製の0.2μmフィルターを用いて加圧濾過し、濾液6,000mLを得る。エバポレータを用いてピリジンを留去し、重量平均分子量(Mw)が1,700以上で、かつ濃度30.0%のN-メチルポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られた樹脂のFT-IRスペクトル測定により、メチルアミン骨格を含むポリシラザン化合物の製造が確認され、また樹脂のNH/SiH比は0.10である。H NMRスペクトルにより、NMe/SiH1,2比は0.21であり、またSiH/SiH1,2比は0.11である。
【0062】
実施例1
合成例1のペルヒドロポリシラザン溶液をキシレンで希釈して7.5質量%溶液とし、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いてシリコンウェーハ上にスピンコートする。窒素雰囲気中、ホットプレート上において80℃で3分間、塗膜をプリベークする。プリベークされた膜に、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて電子線を照射する。電子線照射は、N雰囲気中、25℃で行う。電子線は、7.5mAの管電流から発生される。加速電圧は70kVであり、また電子線の照射量は60MGyである。
【0063】
電子線照射膜に、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて、波長172nmの真空紫外光を照射する。真空紫外光の照度は25mW/cmであり、また真空紫外線量は9J/cmである。真空紫外光照射は、N雰囲気中において25℃で行う。
【0064】
真空紫外光照射膜を非酸化雰囲気中、450℃で90分間加熱する。窒化珪素質膜の屈折率は1.82であり、また膜厚は0.28μmである。窒化珪素質膜の酸素含有量は4.6質量%である。
【0065】
表面に幅20nm、深さ500nmのトレンチ構造を有するシリコン基板を用意する。上記の方法により、窒化珪素質膜を作成する。窒化珪素質膜付きシリコン基板をトレンチ方向に対して垂直に切断する。シリコン基板の細片を0.5%フッ化水素酸水溶液に30秒間浸漬する。断面を走査型電子顕微鏡により観察する。トレンチの底部は、0.5%フッ化水素酸水溶液に耐えることができる。
【0066】
実施例2
合成例2のN-メチルポリシラザン溶液をキシレンで希釈して9.0質量%溶液とし、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いてシリコンウェーハ上にスピンコートする。窒素雰囲気中、ホットプレート上において80℃で3分間、塗膜をプリベークする。プリベークされた膜に、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて電子線を照射する。電子線照射は、N雰囲気中、25℃で行う。電子線は、7.5mAの管電流から発生される。加速電圧は70kVであり、また電子線の照射量は15MGyである。
【0067】
電子線照射膜に、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて、波長172nmの真空紫外光を照射する。真空紫外光の照度は25mW/cmであり、また真空紫外線量は10J/cmである。真空紫外光照射は、N雰囲気中において25℃で行う。
【0068】
真空紫外光照射膜を非酸化雰囲気中、600℃で90分間加熱する。窒化珪素質膜の屈折率は1.88であり、また膜厚は0.31μmである。窒化珪素質膜の酸素含有量は、3.0質量%である。
【0069】
実施例3
合成例1のペルヒドロポリシラザン溶液をキシレンで希釈して10.0質量%溶液とし、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いてシリコンウェーハ上にスピンコートする。窒素雰囲気中、ホットプレート上において80℃で3分間、塗膜をプリベークする。プリベークされた膜に、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて電子線を照射する。電子線照射は、N雰囲気中、25℃で行う。電子線は、7.5mAの管電流から発生される。加速電圧は70kVであり、また電子線の照射量は96MGyである。
【0070】
電子線照射膜に、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて、波長172nmの真空紫外光を照射する。真空紫外光の照度は25mW/cmであり、また真空紫外線量は7J/cmである。真空紫外光照射は、N雰囲気中において25℃で行う。
【0071】
真空紫外光照射膜を非酸化雰囲気中、800℃で90分間加熱する。窒化珪素質膜の屈折率は1.95であり、また膜厚は0.25μmである。窒化珪素質膜の酸素含有量は0.8質量%である。
【0072】
実施例4
実施例1の電子線照射膜に対してプラズマ処理を行う。大気圧プラズマ表面処理装置AP-TO2(積水化学工業株式会社)の中に電子線照射膜を配置する。直接プラズマ処理を200℃で30分間行う。チャンバ内の圧力は0.1MPaであり、また電極間の電圧は15kVである。ガス供給流量は、20,000sccm(N:96体積%、H:4体積%)である。
【0073】
プラズマ処理膜を非酸化雰囲気中、450℃で90分間加熱する。窒化珪素質膜の屈折率は1.79であり、また膜厚は0.25μmである。窒化珪素質膜の酸素含有量は4.9質量%である。
【0074】
比較例1
合成例1のペルヒドロポリシラザン溶液をキシレンで希釈して7.5質量%溶液とし、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いてシリコンウェーハ上にスピンコートする。窒素雰囲気中、ホットプレート上において80℃で3分間、塗膜をプリベークする。プリベークされた膜に、真空紫外光(172nm)の照射装置(株式会社エム・ディ・コム)を備えたEB-ENGIN L12978(浜松ホトニクス株式会社)を用いて電子線を照射する。電子線照射は、N雰囲気中、25℃で行う。電子線は、7.5mAの管電流から発生される。加速電圧は70kVであり、また電子線の照射量は60MGyである。
【0075】
電子線照射膜を非酸化雰囲気中、450℃で90分間加熱する。窒化珪素質膜の屈折率は1.64である。窒化珪素質膜の酸素含有量は24.2質量%である。
【0076】
実施例1~4および比較例1の結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
質量平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、Alliance e2695高性能GPCシステム(日本ウォーターズ株式会社)およびSuperMultiporeHZ-N GPCカラム(東ソー株式会社)を用いて測定される。測定は、標準試料として単分散ポリスチレンを、また溶離剤としてクロロホルムを用い、流量0.6mL/分およびカラム温度40℃の条件で測定した後、標準試料に対する相対分子量として質量平均分子量を算出する。
【0079】
ケイ素、窒素および酸素の含有量
窒化珪素質膜の、ケイ素、窒素および酸素の含有量は、X線光電子分光分析装置(PHI Quantera II、 アルバック・ファイ株式会社)を用いて測定される。各元素の含有量(質量%)は、ケイ素、窒素および酸素の合計質量に基づいて算出される。
【0080】
膜厚および屈折率
窒化珪素質膜の膜厚および屈折率を分光エリプソメーター(M-2000V、ジェー・エー・ウーラム社)により測定する。
【0081】
絶縁破壊電界(Fbd)
膜厚200nmのケイ素含有膜の絶縁破壊電界をSSM495272A-M100(日本エス・エス・エム株式会社)を用いて測定する。電流密度がIE-6(A/cm)を超えたときの電界をFbd(MV/cm)とする。