(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240123BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240123BHJP
【FI】
B32B27/36
C08J7/04 B CFD
(21)【出願番号】P 2019110772
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄三
(72)【発明者】
【氏名】棟 泰人
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-175229(JP,A)
【文献】特開2007-314710(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044056(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062074(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子含有層Aを備えたポリエステルフィルムの一方の表面に塗布層を備え、
前記ポリエステルフィルムは、粒子含有層A、基材層、及び、前記粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bをこの順に備え、当該ポリエステルフィルムの前記粒子含有層A側表面に前記塗布層を備え、
前記塗布層がメラミン化合物を含有する塗布液から形成された層であり、
塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.30μm以上であ
り、
前記粒子含有層A及び前記粒子含有層Bは、平均粒径2.0μm以上の粒子を含有し、
前記粒子含有層Bが含有する平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量(質量%)は、粒子含有層Aが含有する平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量(質量%)の60%以下である、積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記塗布液中の全不揮発成分に占めるメラミン化合物の割合が20質量%以上70質量%以下である請求項
1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記塗布液中の全不揮発成分に占めるメラミン化合物の割合が20質量%以上40質量%以下である請求項
1又は2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
粒子含有層Aを備えたポリエステルフィルムの一方の表面に塗布層を備え、
前記ポリエステルフィルムは、粒子含有層A、基材層、及び、前記粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bをこの順に備え、当該ポリエステルフィルムの前記粒子含有層A側表面に前記塗布層を備え、
前記塗布層がメラミン化合物を含有する塗布液から形成された層であり、
塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.30μm以上であ
り、
前記塗布液中の全不揮発成分に占めるメラミン化合物の割合が20質量%以上40質量%以下である、積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記粒子含有層A及び前記粒子含有層Bは、平均粒径2.0μm以上の粒子を含有し、平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量は、粒子含有層Aよりも粒子含有層Bの方が少ない、請求項
4に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記粒子含有層Bが含有する平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量(質量%)は、粒子含有層Aが含有する平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量(質量%)の60%以下である、請求項
5に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
粒子含有層B側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.020μm以上0.30μm未満である請求項1~
6のいずれか一項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記ポリエステルフィルムの厚さに対する基材層の厚さの割合((基材層の厚さ)/(ポリエステルフィルムの厚さ))が、0.60以上0.99以下である請求項1~
7のいずれか一項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記塗布層が実質的に粒子を含有しない請求項1~
8のいずれか一項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記塗布層の厚さが0.020μm以上1.0μm以下である請求項1~
9のいずれか一項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項11】
150℃90分間の加熱処理前後の塗布層側のフィルムヘーズ変化量が2.0%以下である請求項1~
10のいずれか一項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の積層ポリエステルフィルムを用いた半導体パッケージのモールド工程用離型フィルム。
【請求項13】
半導体チップを設置したリードフレームと金型との間に離型フィルムを配置し、金型内にモールド樹脂を充填する半導体パッケージの製造方法に用いられる当該離型フィルムとして用いる、請求項
12に記載の半導体パッケージのモールド工程用離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット調外観を有するポリエステルフィルムの表面に塗布層を備える積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。
【0003】
近年、ポリエステルフィルムの用途の多様化によって上記以外の特性も求められるようになってきており、例えば半導体パッケージのモールド工程用としてポリエステルフィルムが用いられる場合には、前記の特性に加えて、金型との剥離性の向上や、ポリエステルフィルムに含まれる低分子量成分(オリゴマー成分)の析出抑制が求められる場合がある。
【0004】
前記要求に対し、例えば特許文献1には、粒子とオリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを用いて得られる、表面光沢度が低いポリエステルフィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、基材の片面に微粒子および硬化性樹脂を含有するコート剤を用いて形成された凹凸層を備える離型シートが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のポリエステルフィルムは固有粘度が高いポリエステルを用いることから押出成形が困難になり、生産効率の悪化が懸念される。また、半導体パッケージのモールド工程においてポリエステルフィルムが直接金型と接触することになるため、工程条件によっては剥離性が十分でないことも懸念される。
特許文献2に記載の離型シートでは、半導体パッケージのモールド工程において凹凸層から微粒子が脱落することによって金型を汚染したり、汚染が進行し金型の平坦性が失われた結果、封止樹脂漏れを誘発したりすることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-179334号公報
【文献】特開2014-212239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、例えば、半導体パッケージのモールド工程に用いる積層ポリエステルフィルムに関し、オリゴマー成分による汚染が抑制され、かつ剥離性に優れる積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、特定の構成からなる積層ポリエステルフィルムを用いれば、上記の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、粒子含有層Aを備えたポリエステルフィルムの一方の表面に塗布層を備え、塗布層がメラミン化合物を含有する塗布液から形成された層であり、塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.30μm以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば半導体パッケージのモールド工程用の離型フィルムとして用いた場合に、オリゴマー成分による金型の汚染が抑制され、かつ剥離性に優れる積層ポリエステルフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。ただし、本発明は次に説明する実施形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムは粒子含有層Aを備える。
ポリエステルフィルムの構成としては、粒子含有層Aのみからなるものであってもよいし、基材層の片面側又は両面側に粒子含有層Aを備えたものであってもよい。後者の具体例としては、例えば基材層の両面側に粒子含有層Aを備えたものであってもよいし、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bを形成したものであってもよいし、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には層を形成しないものであってもよいし、また、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子を含有しない層を形成したものであってもよい。
中でも、ポリエステルフィルムは、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bを形成した構成、すなわち、粒子含有層A、基材層及び粒子含有層Bをこの順に備える構成が好ましいため、この構成については後で詳述する。
ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであるのが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点で、二軸延伸フィルムであるのが好ましい。
【0014】
ポリエステルフィルムを構成する層、例えば上記粒子含有層Aや、基材層、粒子含有層B、さらなる他の層は、ポリエステルを主成分樹脂とする層であるのが好ましい。
ここで、「主成分樹脂」とは、各層を構成する樹脂成分のうちで最も含有割合の多い樹脂の意味である。
【0015】
使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。
ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。
一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸等の1種または2種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の1種または2種以上が挙げられる。効果的にポリエステルフィルムの表面粗さを大きくするという観点から、含有される第三成分がイソフタル酸であることが好ましい。
共重合ポリエステルは、含有される第三成分は30モル%以下であるのが好ましく、中でも5モル%以上或いは30モル%以下、その中でも25モル%以下、その中でも特に7モル%以上或いは22モル%以下であるのがさらに好ましい。この範囲にあることにより、製膜安定性を維持しつつ、効果的にポリエステルフィルムの表面粗さを大きくすることができる。
【0016】
代表的なポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等を例示することができる。
【0017】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。その中でも、チタン化合物やゲルマニウム化合物は触媒活性が高く、少量で重合を行うことが可能であり、フィルム中に残留する金属量が少ないことから、金属の凝集によるフィルム中の欠陥が少なく、フィルムの輝度が高くなるので好ましい。
【0018】
本発明におけるポリエステルフィルムを構成する粒子含有層Aは層中に粒子を含有する層である。粒子含有層Aを備えるポリエステルフィルム表面は粗面化されているため、例えば、金型からの剥離性に優れる。
【0019】
粒子含有層Aは平均粒径が2.0μm以上である粒子を含有することが好ましい。平均粒径が2.0μm以上である粒子を粒子含有層Aが含有することにより、ポリエステルフィルムの表面を粗面化することができ、マット調とすることができるとともに、例えば、金型からの剥離性を向上させることができる。但し、粒子の平均粒径が大き過ぎると、フィルム製造時のポリエステル押出工程におけるフィルターの圧力上昇が大きくなり生産性が低下する可能性がある。よって、粒子の平均粒径は2.0μm以上であるのが好ましく、中でも10.0μm以下、その中でも3.0μm以上或いは9.0μm以下、その中でも4.0μm以上或いは8.0μm以下であるのがさらに好ましい。
【0020】
なお、粒子の平均粒径は、粒子が粉体の場合には、遠心沈降式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所社製、SA-CP3型)を用いて粉体を測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径(d50)を平均粒径とすることができる。フィルム又は層中の粒子の平均粒径については、10個以上の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。後述する粒子についても同様である。
【0021】
粒子含有層Aが含有する粒子の形状は任意である。例えば球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれでもよい。但し、均一なマット面を得られるという観点から、球状であるのが好ましい。
粒子の硬度、比重、色等については特に制限はないし、種類の異なる2種類以上を併用してもよい。
【0022】
なお、粒子含有層Aにおいて、平均粒径が2.0μm以上の粒子と平均粒径が異なる粒子を混合し、かつ両粒子が同一の材質である場合、原料としては異なる平均粒径を有する別個の粒子であるものの、混合(配合)すると、それらの中間に平均粒径を有する1種の粒子にほかならない。そのような場合には、混合後の平均粒径をもって、平均粒径が2.0μm以上の粒子が含有されているか否かを判断するものとする。
【0023】
粒子含有層Aが含有する粒子は、ポリエステルフィルムの表面を粗面化可能な粒子であれば特に限定されるものではない。例えば無機粒子であっても、有機粒子であっても、架橋高分子粒子であってもよい。
無機粒子は、延伸した際にフィルムにボイドを形成することがあり、より粗面化できやすいという観点から好ましく、有機粒子はボイドが生じにくいためにフィルムの強度が下がらないという観点で好ましい。
【0024】
無機粒子としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデンなどを挙げることができる。 なお、上記シリカ粒子は、二酸化ケイ素(SiO2)の他にも、例えば含水二酸化ケイ素などを含んでいてもよい。
【0025】
有機粒子としては、例えばアクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等を挙げることができる。
中でも、メタクリル酸メチル又はスチレン又は両方を共重合成分とする樹脂からなる粒子は、特にポリエステルフィルムとの相性が良いため、好ましい。
【0026】
架橋高分子粒子としては、例えばジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いてもよい。
【0027】
粒子含有層Aにおける粒子の含有量は、ポリエステルフィルムの表面を好適に粗面化することができ、しかも、フィルム延伸時に破断等が生じないようにするなどの観点から、0.1~20質量%であるのが好ましく、その中でも1質量%以上或いは18質量%以下、その中でも2質量%以上或いは15質量%以下、その中でも3質量%以上或いは10質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
粒子含有層Aの厚さは、1.0~20μmであるのが好ましく、中でも2.0μm以上或いは20μm以下、その中でも3.0μm以上或いは20μm以下、その中でも特に4.0μm以上或いは15μm以下であるのがさらに好ましい。
粒子含有層Aの厚さを1.0μm以上とすることにより、効果的に表面の粗面化することができる。また、粒子含有層Aの厚さが20μm以下とすることにより、表面粗面化の効果を確保することができる。
【0029】
基材層は、ポリエステルフィルムを構成する各層の中でも最も厚い層であり、上記ポリエステルを主成分樹脂としていれば、その組成は任意である。
【0030】
基材層は、粒子を含有する層を備えたものであってもよいし、粒子を含有する層のみからなるものであってもよい。但し、コストの観点から、上述した有機粒子、無機粒子などの粒子を含有しない層であるのが好ましい。
【0031】
基材層の厚さは、積層ポリエステルフィルムのカールを防止するという観点から、ポリエステルフィルムの厚さに対する基材層の厚さの割合((基材層の厚さ)/(ポリエステルフィルムの厚さ))が、0.60~0.99であるのが好ましく、中でも0.65以上或いは0.99以下、その中でも0.70以上或いは0.99以下であるのがさらに好ましい。この範囲にあることにより、基材層自体にコシが出るために積層ポリエステルフィルムのカールが発生しにくくなる。
【0032】
前述したように、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には、粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bを形成することができる。
【0033】
粒子含有層Bは層中に粒子を含有する層であるが、積層ポリエステルフィルムのカールを防ぐことができる点で、粒子含有層Aと同様、平均粒径2.0μm以上の粒子を含有することが好ましい。
但し、積層ポリエステルフィルムの粒子含有層B側表面は、粒子含有層A側表面ほど粗面化する必要はないため、粒子含有層Aおよび粒子含有層Bが平均粒径2.0μm以上の粒子を含有する場合、平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量は粒子含有層Aよりも少なくてよい。粒子含有層Aよりも粒子含有層Bの方が、平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量が少ないことにより、積層ポリエステルフィルム全体のカールを防ぐことができつつ、粒子含有層A側表面を粗面化する一方、粒子含有層B側表面に所望の層を積層し易くすることができる。例えば、積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いる場合、粒子含有層B側表面にリードフレーム等の基板を固定するための粘着層等を設ける必要があるため、当該用途には好適な構成となる。
粒子含有層Bが含有する平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量(質量%)は、粒子含有層Aが含有する平均粒径2.0μm以上の粒子の含有量(質量%)の0.1~100%とするのが好ましく、中でも1%以上或いは95%以下、その中でも5%以上或いは90%以下であるのがさらに好ましく、その中でも10%以上或いは80%以下、その中でも60%以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
粒子含有層Bが含有する粒子は、前記粒子含有層Aに用いられるものと同様の形状、種類のものが挙げられる。
【0035】
粒子含有層Bにおける粒子の含有量は、ポリエステルフィルム全体のカールを防ぎつつ、粒子含有層B側表面に所望の層を積層し易くすることができる点で、0.05~10質量%であるのが好ましく、その中でも0.1質量%~18質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
また、粒子含有層Bにおける粒子の含有量は、粒子含有層Aが含有する粒子の含有量の0.1~100質量%とするのが好ましく、中でも1質量%以上或いは95質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明におけるポリエステルフィルムを構成する各層には、必要に応じて従来公知の耐候剤、耐光剤、遮光剤、酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0038】
また、フィルムの耐候性の向上、液晶などの劣化防止のために、各層に紫外線吸収剤を含有させることも可能である。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する化合物で、ポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐えうるものであれば特に限定されない。
【0039】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤があるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などが挙げられる。耐久性の観点からは環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。また、紫外線吸収剤を2種類以上併用して用いることも可能である。
【0040】
本発明におけるポリエステルフィルムを構成する各層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはポリエステルの重合反応開始前に添加するのがよい。
【0041】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10~350μm、好ましくは25~250μmの範囲である。
【0042】
本発明の積層ポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する場合、まず先に述べたポリエステル原料を乾燥したペレットを、押出機を用いてダイから溶融シートとして押し出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍である。そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る方法が挙げられる。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0043】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムの製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0044】
次に本発明の積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層の形成方法としては、例えば、コーティング、転写、ラミネート等の方法が挙げられるが、塗布層の形成のし易さを考慮するとコーティングにより形成することが好ましい。
【0045】
塗布層を形成するコーティング方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0046】
コーティングによる方法としては、フィルムの製造工程内で行う、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルムに系外でコーティングする、オフラインコーティングより設けられてもよい。より好ましくはインラインコーティングにより形成されるものである。
【0047】
インラインコーティングは、具体的には、フィルムを形成する樹脂を溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻上前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、フィルム製造と塗布層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。
【0048】
また、インラインコーティングによる工程によれば、塗布層の形成有無でフィルムの厚みが大きく変わることはなく、傷付きや異物付着のリスクも塗布層の形成有無で大きく変わることはないため、コーティングという工程を別途行うオフラインコーティングに比べ大きな利点である。
【0049】
また、延伸前にフィルム上に塗布層を設けることにより、塗布層をフィルムと共に延伸することができ、それにより塗布層をフィルムに強固に密着させることが出来る。
【0050】
その上、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦及び横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らずに平滑性を維持したまま高温をかけることができる。
それゆえ、コーティング後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、塗布層とフィルムをより強固に密着させることができ、さらには、強固な塗布層とすることができる。
さらに、上述のようにフィルム端部を把持しつつ延伸し、熱固定工程を経て塗布層を形成することでフィルムの耐熱性を向上させることができるという利点がある。これは、オフラインコーティングでは得られない高温で熱処理することが可能であり、塗布層がより高温でも耐え得るように形成された結果であると考えられる。
【0051】
インラインコーティングにより設ける塗布層の熱処理の温度は、好ましくは55~300℃、より好ましくは70~290℃、さらに好ましくは90~280℃、特に好ましくは170℃~270℃、最も好ましくは200℃~250℃である。目安として3~200秒間熱処理を行うのが良い。
【0052】
オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合は、通常、80~200℃で3~40秒間、好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0053】
塗布層の形成に関して、後述の一連の化合物を溶液または溶媒の分散体として、固形分濃度が0.1~50質量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。
インラインコーティングによって塗布層を設ける場合、塗布液は水溶液または水分散体であることが好ましいが、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。また、有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
【0054】
また、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム表面には、塗布層を設ける前にあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0055】
次に、本発明におけるポリエステルフィルムの一方の表面に設けられる塗布層について述べる。塗布層はメラミン化合物を含有する塗布液から形成された層である。なお、塗布層中にはその他の成分を含有しても構わない。
【0056】
本発明では、メラミン化合物を含有する塗布液から形成された塗布層をポリエステルフィルム表面に設けることで、オリゴマー成分の析出を抑制しつつ、剥離性に優れることを見出した。この理由は定かではないが、塗布層中のメラミン化合物が架橋構造を形成して緻密な膜ができるため、ポリエステルフィルム中のオリゴマー成分の析出が抑制されると考えられる。また、塗布層中のメラミン化合物が架橋構造を形成することで、塗布層自体の耐熱性が向上すると考えられる。
これらの結果、本発明の積層ポリエステルフィルムを金型に加熱しながら圧着した場合、オリゴマー成分の析出を抑制し耐熱性に優れる塗布層が、ポリエステルフィルムと金型との間に存在することにより、オリゴマー成分による金型の汚染を防ぎ、かつ金型との剥離性を維持できると考えられる。
さらにポリエステルフィルムの表面に塗布層を設けることで、ポリエステルフィルムからの粒子の脱落を防ぐことも考えられる。
なお本発明におけるオリゴマー成分とは、加熱によりポリエステルフィルム表面に析出するポリエステルの低分子量成分であり、エステル環状三量体のことを指す。
【0057】
メラミン化合物は、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0058】
メラミン化合物以外の塗布層の材料は、ポリエステルフィルム表面へのオリゴマー成分の析出を抑制する観点から、ポリエステル樹脂と化学的構造が異なる化合物や架橋可能な化合物が有効であり、例えば、長鎖アルキル化合物、アンモニウム基を有する化合物、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの中でも、剥離性などハンドリング性も向上させる観点から、長鎖アルキル化合物が好ましい。
【0059】
長鎖アルキル化合物は、炭素数が通常6以上、好ましくは8以上、さらに好ましくは12以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する化合物のことである。アルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、オクタデシル基、ベヘニル基等が挙げられる。
アルキル基を有する化合物は、例えば、各種の長鎖アルキル基含有高分子化合物、長鎖アルキル基含有アミン化合物、長鎖アルキル基含有エーテル化合物、長鎖アルキル基含有四級アンモニウム塩等が挙げられる。耐熱性、汚染性を考慮すると高分子化合物であることが好ましい。また、効果的に離型性を得られるという観点から、長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物であることがより好ましい。
【0060】
長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物は、反応性基を有する高分子と、当該反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物とを反応させて得ることができる。上記反応性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物等が挙げられる。
これらの反応性基を有する化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンアミン、反応性基含有ポリエステル樹脂、反応性基含有ポリ(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも離型性や取り扱い易さを考慮するとポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0061】
上記の反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物は、例えば、ヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、ラウリルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ベヘニルイソシアネート等の長鎖アルキル基含有イソシアネート、ヘキシルクロライド、オクチルクロライド、デシルクロライド、ラウリルクロライド、オクタデシルクロライド、ベヘニルクロライド等の長鎖アルキル基含有酸クロライド、長鎖アルキル基含有アミン、長鎖アルキル基含有アルコール等が挙げられる。これらの中でも離型性や取り扱い易さを考慮すると長鎖アルキル基含有イソシアネートが好ましく、オクタデシルイソシアネートが特に好ましい。
【0062】
また、長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物は、長鎖アルキル(メタ)アクリレートの重合物や長鎖アルキル(メタ)アクリレートと他のビニル基含有モノマーとの共重合によって得ることもできる。長鎖アルキル(メタ)アクリレートとは、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0063】
アンモニウム基を有する化合物は、分子内にアンモニウム基を有する化合物であり、脂肪族アミン、脂環族アミンや芳香族アミンのアンモニウム化物等が挙げられる。アンモニウム基を有する化合物は、高分子タイプのアンモニウム基を有する化合物であることが好ましく、当該アンモニウム基は、カウンターイオンとしてではなく、高分子の主鎖や側鎖中に組み込まれている構造であることが好ましい。例えば、付加重合性のアンモニウム基またはアミン等のアンモニウム基の前駆体を含有するモノマーを重合した重合体からアンモニウム基を有する高分子化合物とするものが挙げられ、好適に用いられる。重合体としては、付加重合性のアンモニウム基またはアミン等のアンモニウム基の前駆体を含有するモノマーを単独で重合してもよいし、これらを含有するモノマーと他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0064】
アンモニウム基を有する化合物の中でも、加熱によるエステル環状三量体の析出量の抑制、耐熱安定性が優れているという点で、ピロリジニウム環を有する化合物が好ましい。
【0065】
ピロリジニウム環を有する化合物の窒素原子に結合している2つの置換基は、それぞれ独立してアルキル基、フェニル基等であり、これらのアルキル基、フェニル基が以下に示す基で置換されていてもよい。置換可能な基は、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、エステル基、アルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基、チオアルコキシ、チオフェノキシ基、シクロアルキル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、シアノ基、ハロゲンである。また、窒素原子に結合している2つの置換基は化学的に結合していてもよく、例えば、-(CH2)m-(m=2~5の整数)、-CH(CH3)CH(CH3)-、-CH=CH-CH=CH-、-CH=CH-CH=N-、-CH=CH-N=C-、-CH2OCH2-、-(CH2)2O(CH2)2-などが挙げられる。
【0066】
ピロリジニウム環を有するポリマーは、ジアリルアミン誘導体を、ラジカル重合触媒を用いて環化重合させることにより得られる。重合は、溶媒として水あるいはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、アセトニトリルなどの極性溶媒中で過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、第3級ブチルパーオキサイド等の重合開始剤により、公知の方法で実施できるが、これらに限定するものではない。ジアリルアミン誘導体と重合性のある炭素-炭素不飽和結合を有する化合物を共重合成分としてもよい。加熱によるエステル環状三量体の析出量の抑制の観点から、ジアリルアミン誘導体の単独重合体よりも、各種の炭素-炭素不飽和結合を有する化合物(アクリル系およびメタクリル系化合物)との共重合体の方が好ましい。
【0067】
また、オリゴマー成分の析出抑制および耐湿熱安定性に優れるという点で、下記式(1)の構造を有する高分子であることも好ましい。単独の重合体や共重合体、さらには、その他の複数の成分を共重合していてもよい。加熱によるエステル環状三量体の析出量を低減できるという観点からは、上記のピロリジニウム環を有する化合物よりも、下記式(1)の構造を有する化合物の方が好ましい。
【0068】
【0069】
例えば、上記式中で置換基R1は水素原子または炭素数が1~20のアルキル基、フェニル基等の炭化水素基、R2が-O-、-NH-または-S-、R3が炭素数1~20のアルキレン基または式1の構造を成立しうるその他の構造、R4、R5、R6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、フェニル基等の炭化水素基、またはヒドロキシアルキル基等の官能基が付与された炭化水素基、X-は各種のカウンターイオンである。
【0070】
上記の中でも、特に帯電防止性や耐湿熱安定性に優れるという観点において、式(1)中で、置換基R1は水素原子または炭素数が1~6のアルキル基であることが好ましく、R3は炭素数が1~6のアルキル基であることが好ましく、R4、R5、R6はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、さらに好ましくは、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることである。
【0071】
上述したアンモニウム基を有する化合物のアンモニウム基の対イオン(カウンターイオン)となるアニオンとしては例えば、ハロゲンイオン、スルホナート、ホスファート、ニトラート、アルキルスルホナート、カルボキシラート等のイオンが挙げられる。
【0072】
また、アンモニウム基を有する化合物の数平均分子量は1000~500000、好ましくは2000~350000、さらに好ましくは5000~200000である。分子量が1000未満の場合は塗布層の強度が弱くなる場合や、耐熱安定性が劣る場合がある。また、分子量が500000を超える場合は、塗布液の粘度が高くなり、取扱い性や塗布外観が悪化する場合がある。
【0073】
また、アンモニウム基を有する化合物の利点は、オリゴマー成分の析出を抑えられるばかりでなく、塗布層への帯電防止性能も付与できる点にあり、塵埃などの異物の付着を防止し、取扱い性の良いフィルムにすることもできることである。特に帯電防止性の観点からは、ピロリジニウム環を有する化合物や上記式(1)の構造を有する化合物が好ましい。
【0074】
ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコール部位を有する化合物であり、例えば、ポリビニルアルコールに対し、部分的にアセタール化やブチラール化等された変性化合物も含め、従来公知のポリビニルアルコールを使用することができる。ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは300~40000の範囲のものが用いられる。重合度が100未満の場合、塗布層の耐水性が低下する場合がある。また、ポリビニルアルコールのケン化度は特に限定されるものではないが、70モル%以上、好ましくは70~99.9モル%の範囲であるポリ酢酸ビニルケン化物が実用上用いられる。
【0075】
塗布層は、外観や透明性の向上等のために、バインダーとして従来公知の各種のポリマー、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を併用することも可能である。また、膜強度の向上などのために、メラミン化合物以外の従来公知の架橋剤、たとえばオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物等を使用することも可能である。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、フッ素化合物、シリコーン化合物、ワックス等の離型剤を併用して、耐ブロッキング性や滑り性向上を図ることも可能である。
【0076】
塗布層は、耐ブロッキング性や滑り性向上の観点から、粒子を含有させることも考えられる。しかしながら、塗布層からの粒子の脱落を防ぐ観点では、実質的に粒子を含有しない方が好ましい。
【0077】
ここで、「実質的に粒子を含有しない」とは、意図的に粒子を含有させないという意味であり、製造工程において不可避的に異物が混入する可能性を考慮したものである。例えば無機粒子の場合であれば、XRF(蛍光X線)分析で金属元素もしくは半金属元素を定量した場合に、通常50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる粒子含有量であると定義することができる。
【0078】
塗布液中に含まれるメラミン化合物は、塗布層を形成する際の乾燥過程や、製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いる。塗布液から形成された塗布層中には、メラミン化合物の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0079】
塗布液中のメラミン化合物の含有量は、塗布液中の全不揮発成分に対して、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは40~60質量%の範囲である。
塗布液中の全不揮発成分に対するメラミン化合物の含有量が上記範囲内である場合は、塗布液から形成される塗布層がより緻密になり、オリゴマー成分の析出を抑制するとともに、例えば、金型からの剥離性を同時に満足させることができる。
【0080】
塗布層中の各種成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0081】
塗布層の厚さは、通常0.002~1.0μm、好ましくは0.005~0.5μm、より好ましくは0.01~0.2μm、特に好ましくは0.01~0.1μmの範囲である。厚さが上記の範囲内であれば、粒子含有層Aによるポリエステルフィルム表面の粗面化を妨げる(剥離性を低減させる)ことなく、かつ、オリゴマー成分の析出を抑制することができる。
【0082】
塗布層の厚さは、例えば、染色した塗布層の断面を透過型電子顕微鏡(例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H-7650、加速電圧100kV)を用いて測定することができる。
なお、塗布層の厚さは、粒子含有層A側表面の凹凸構造における凹部の平坦な部分で測定する値である。
【0083】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、粒子含有層Aを備えたポリエステルフィルムの一方の表面に塗布層を備えていればよいから、塗布層側表面に他の層を備えていてもよいし、ポリエステルフィルムの片面に塗布層を備え、もう一方の面に他の層を備えてもよい。
【0084】
前記「他の層」としては、易接着層、帯電防止層、オリゴマー封止層、粘着層、離型層、スティッキング防止層、ブロッキング防止層などを挙げることができる。
例えば、本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いる場合には、リードフレーム等の基板を固定するために粘着層を設ける構成が好ましく、具体的には、ポリエステルフィルムの片面に塗布層を備え、もう一方の面に粘着層を設ける構成が好ましい。
また、上記構成において、ポリエステルフィルムと粘着層との密着性を高めるために、粘着層とポリエステルフィルムとの間に易接着層を設ける構成も好ましい。
さらに、上述したように、ポリエステルフィルムは、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bを形成した構成、すなわち、粒子含有層A、基材層及び粒子含有層Bをこの順に備える構成が好ましいため、例えば、本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いる場合に好ましい構成としては、塗布層/粒子含有層A/基材層/粒子含有層B/粘着層や、塗布層/粒子含有層A/基材層/粒子含有層B/易接着層/粘着層が挙げられる。
【0085】
粘着層は、例えば、半導体パッケージのモールド工程においてリードフレーム等の基板を固定するために設けられるものである。また、フィルムの目的を達成した後は、工程用離型フィルムと同時に粘着層も除去されるものであるため、粘着層はリードフレーム等の基板から剥がすことが可能であり、剥離後に糊残りや表面汚染性がないものであることが好ましい。
【0086】
粘着層は粘着剤組成物を含有するものである。粘着剤組成物とは粘着性を付与できるものであれば特に限定なく使用でき、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。これらの中でも粘着特性の調整を行いやすく、透明性にも優れるという観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。また、粘着剤の形成方法として、例えば、熱硬化型、活性エネルギー線硬化型、ホットメルト型などが挙げられる。
【0087】
粘着層の形成方法としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒に粘着性物質ないしその組成物を溶解又は分散させて10~40重量%程度の粘着剤液を調製し、それを保護フィルム上に塗工、加熱乾燥して粘着層を形成し、セパレータを貼り合わせる方式、あるいはセパレータ上に塗工、加熱乾燥して粘着層を形成し、保護フィルムを貼り合わせる方式などがあげられる。
【0088】
粘着剤液の塗工方法としては、公知の方法が用いられる。具体的には、塗布層の塗工方法として上述した方法が挙げられる。
【0089】
粘着層の厚みは好ましくは1~500μm、より好ましくは5~200μm、さらに好ましくは10~100μmの範囲である。1μm未満の場合は粘着性が不十分である場合があり、500μmを超える場合は粘着性が安定的に得られない場合がある。
【0090】
易接着層は、ポリエステルフィルム表面と他の層との密着性を向上させる層である。
【0091】
易接着層は、従来公知の各種の方法、コーティング、転写、ラミネート等で設けることが可能である。それらの中でもコーティングにより設けることが製造のしやすさの観点から好ましい。インラインコーティングにより設けられてもよく、オフラインコーティングにより設けられてもよいが、製造コストやフィルムの製造工程中の熱処理による易接着層層の強度やフィルムとの密着性向上の観点から、インラインコーティングが好ましく用いられる。
【0092】
易接着層に含有する樹脂としては従来公知の樹脂を使用することができ、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル樹脂(ポリビニルアルコール、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)等が挙げられる。その中でも、ポリエステルフィルムとの密着性という観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂が好ましく、粘着層との密着性という観点からは、特にアクリル樹脂が好ましい。
【0093】
また、易接着層の強度を高くするために、架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、種々公知の架橋剤が使用でき、例えばオキサゾリン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等を挙げることができる。
その中でも、密着性の観点からは、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、特にオキサゾリン化合物やイソシアネート系化合物がより好ましく、易接着層の強度を高くするという観点からは、メラミン化合物が好ましい。
【0094】
コーティングにより易接着層を形成する際、その塗布液には、上記樹脂以外にも、例えば、その他のバインダー、界面活性剤、粒子、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等を含有してもよい。
また、コーティング前にポリエステルフィルム表面に化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0095】
易接着層の厚みは好ましくは0.001~1μm、より好ましくは0.01~0.5μm、さらに好ましくは0.02~0.2μmの範囲である。易接着層の厚みを上記範囲で使用することにより、他の層との密着性が良好なものとなる。
【0096】
本発明の積層ポリエステルフィルムの塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)は、0.30μm以上であり、好ましくは、0.33μm以上である。上限は特に限定されないが、通常は3μm以下である。塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)が上記範囲内であることにより、金型との剥離性を確保することができる。
【0097】
本発明の積層ポリエステルフィルムの非塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)は、該表面に所望の層を積層し易くすることができるという観点から、塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)よりも小さいことが好ましい。
具体的には、非塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)は、0.30μm未満であることが好ましい。一方、下限はフィルムの加工性や易滑性・耐ブロッキング防止の観点から、0.020μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.025μm以上である。
本発明におけるポリエステルフィルムが粒子含有層A、基材層及び粒子含有層Bをこの順に備え、塗布層を粒子含有層A側表面に備える場合には、粒子含有層B側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.020μm以上0.30μm未満であることが好ましい。
【0098】
本発明の積層ポリエステルフィルムの熱処理(150℃、90分間)前後における塗布層側のフィルムヘーズ変化量(ΔH)は好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。ΔHが2.0%を超える場合には、オリゴマー成分の析出により金型や製造ライン、製品等の汚染により、生産効率低下、品質低下を招くおそれがある。
【0099】
本発明の積層ポリエステルフィルムをモールド工程用離型フィルムとして用いる場合、フィルムを通して金型やリードフレーム等の基板の位置等を視認する必要もあるため、本発明の積層ポリエステルフィルムの光学濃度(OD値)は0.3未満であることが好ましく、0.1未満であることがより好ましい。
一方で、積層ポリエステルフィルムの識別性を必要とする場合には、光学濃度(OD値)が0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。
【0100】
本発明の積層ポリエステルフィルの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10~350μm、好ましくは25~250μmの範囲である。
【0101】
これから、半導体パッケージの製造方法の一例を説明する。
先ず、リードフレーム上に配置した複数の半導体チップを、一方の金型Aの各半導体パッケージ成形用空間部に挿合させた後、離型フィルム及びもう一方の金型Bを順次位置させる。
次いで、離型フィルムがリードフレーム表面に密着されるよう金型Aと金型Bとを所定圧力でクランプさせた後、溶融されたモールド樹脂を各半導体パッケージ成形用空間部内に充填させ所定時間硬化させて、各半導体パッケージ成形用空間部当り1個の半導体パッケージを成形する。
次いで、金型Aと金型Bを半導体パッケージから脱着させると、リードフレーム上に半導体パッケージが形成される。この後、リードフレームを切断して個々の半導体パッケージになる。
使用された離型フィルムは金型Aと金型Bを半導体パッケージから脱着させる際に除去され、成形のサイクル毎に供給されるようになっている。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムからのオリゴマー成分の析出を抑制しつつ、剥離性に優れるものであり、例えば、本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルム、詳しくは、半導体チップを設置したリードフレームと金型との間に離型フィルムを配置し、金型内にモールド樹脂を充填する半導体パッケージの製造方法に用いられる半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いた場合、オリゴマー成分による金型の汚染を防ぐことができ、かつ金型からの剥離性に優れるため、当該用途に好適に用いることができる。
ただし、上述した用途に限られるものではなく、例えば、マット調外観を転写できる転写フィルム、インサート成形やインモールド成形等の金型成形用フィルムとして好適に用いることもできる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない範囲において、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0103】
(1)ポリエステルの固有粘度
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0104】
(2)粒子の平均粒径
株式会社島津製作所社製の遠心沈降式粒度分布測定装置、SA-CP3型を用いて沈降法によって粒子の大きさを測定した。測定により得られた粒子の等価球形分布における積算(体積基準)50%の値を用いて平均粒径とした。
【0105】
(3)平均表面粗さ(Ra)
株式会社小坂研究所社製表面粗さ測定機(SE-3500)を用いて次のようにして求めた。すなわち、フィルム断面曲線からその平均線の方向に基準長さL(2.5mm)の部分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線 y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられた値を〔nm〕で表わす。平均表面粗さは、試料フィルム表面から10本の粗さ曲線を求め、これらの粗さ曲線から求めた抜き取り部分の平均表面粗さの平均値で表わした。なお、触針の先端半径は2μm、荷重は30mgとし、カットオフ値は0.08mmとした。
【0106】
(Ra)=(1/L)∫L0|f(x)|dx
【0107】
(4)塗布層の厚さ
塗布層の表面をRuO4で染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuO4染色し、塗布層断面を透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H-7650、加速電圧100kV)を用いて測定した。
【0108】
(5)加熱処理によるフィルムヘーズ変化量
積層ポリエステルフィルムの塗布層側とは反対側の面に、活性エネルギー線硬化性樹脂(商品名:紫光7600B(三菱ケミカル株式会社製))と、光重合開始剤(商品名:Irgacure651(IGM RESINS社製))を、質量比で100/5で混合、メチルエチルケトンで濃度30質量%に希釈した塗布剤を乾燥厚さが3μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。ハードコート層を形成したフィルムのヘーズを、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、「HM-150」)を使用し、JIS K 7136に準拠して塗布層側から測定した。
次いで積層ポリエステルフィルムのハードコート層側にケント紙を重ねて固定し、窒素雰囲気下で、150℃で90分間放置して熱処理を行った。熱処理後に積層ポリエステルフィルムからケント紙を外し、上記と同様の方法でフィルムのヘーズを塗布層側から測定した。熱処理後のヘーズと熱処理前のヘーズの差を計算し、フィルムヘーズ変化量とした。
フィルムヘーズ変化量が低いほど、高温処理によるフィルムからのオリゴマー成分の析出量、すなわちエステル環状三量体の析出が少ないことを示し、良好である。
【0109】
(6)剥離性
本発明の積層ポリエステルフィルムと厚み0.5mmのステンレス板(商品名HS0543)を10cm×5cmに切り出し、積層ポリエステルフィルムの塗布層表面とステンレス板を重ねあわせ、熱プレス機で180℃、20MPaの圧力で5分間プレスしてサンプル(積層ポリエステルフィルムとステンレス板の積層体)を作成した。サンプルを作成した直後に、積層ポリエステルフィルムを上側にしてサンプルを水平に静置した状態から積層ポリエステルフィルムを垂直に持ちあげ、剥離性を下記判定基準により判定を行った。
<判定基準>
◎(very good):貼り付きなく、積層ポリエステルフィルムが自然に剥離した。
○(good):貼り付きがあるが、ステンレス板は持ち上がらず積層ポリエステルフィルムが剥離できた。
△(usual):ステンレス板が持ち上がるものの剥離でき、実用上問題ない。
×(poor): 剥離可否に関わらず、剥離後のステンレス板に汚染が確認でき、実用上問題がある。
【0110】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のとおりである。
<ポリエステル(I)>
ポリエチレンテレフタレートホモポリマー(固有粘度:0.63dl/g)。
<ポリエステル(II)>
平均粒径が4.5μmのメタクリル酸アルキル-スチレン共重合体粒子を10質量%含有するポリエチレンテレフタレートホモポリマー(固有粘度:0.61dl/g)。
<ポリエステル(III)>
平均粒径が2.7μmのシリカ粒子を0.7質量%含有するポリエチレンテレフタレートホモポリマー(固有粘度:0.61dl/g)。
<ポリエステル(IV)>
平均粒径0.3μmの酸化チタン粒子を50質量%含有するポリエチレンテレフタレートホモポリマー
【0111】
塗布液の組成物として以下を用いた。
<メラミン化合物(C1)>
ヘキサメトキシメチロールメラミン
【0112】
<オキサゾリン化合物(C2)>
オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー。
(オキサゾリン基量=7.7mmol/g、商品名:エポクロス(株式会社日本触媒製))
【0113】
<長鎖アルキル基含有化合物(R1)>
4つ口フラスコにキシレン200部、オクタデシルイソシアネート600部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。ポリビニルアルコールを加え終わってから、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。
反応混合物を約80℃まで冷却してから、メタノール中に加えたところ、反応生成物が白色沈殿として析出したので、この沈殿を濾別し、キシレン140部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した後、沈殿をメタノールで洗浄し、乾燥粉砕して得た。
【0114】
<アンモニウム基を含有する化合物(E1)>
下記組成で重合したポリマー。
ポリ(トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート・メタンスルホナート)。数平均分子量30000
【0115】
<ポリビニルアルコール(P1)>
ケン化度88mol%、重合度500のポリビニルアルコール。
【0116】
<下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体:(A1)>
エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、N-メチロールアクリルアミドを主成分モノマーとして重合された、ガラス転移点が40℃のアクリル樹脂。
【0117】
実施例1:
ポリエステル(I)、(II)をそれぞれ50%、50%の割合で混合したものを粒子含有層Aの原料とし、ポリエステル(I)を基材層の原料とし、ポリエステル(I)、(III)をそれぞれ70%、30%の割合で混合したものを粒子含有層Bの原料として、3台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、3種3層(粒子含有層A/基材層/粒子含有層B=5:30:3の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの粒子含有層A側の表面に下記表1に示す塗布液1を、粒子含有層B側の表面に下記表1に示す塗布液11を塗布したのちテンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行ったのち、横方向に2%弛緩し、厚さ(乾燥後)が0.05μmの塗布層および厚さ(乾燥後)が0.05μmの易接着層を有する厚さ38μmの積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの各評価結果は下記表2に示す。
【0118】
実施例2~12:
塗布液1の組成を表1に示す塗布液組成に変更し、実施例2および4においてはさらに塗布層の厚みを変更した以外は実施例1と同様にして製造し、積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの各評価結果は下記表2に示す。
【0119】
比較例1:
粒子含有層A側に塗布層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして製造し、積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの各評価結果は下記表2に示す。加熱処理によるフィルムヘーズ変化量は2.1%であり、オリゴマー成分の析出が多いことがわかる。
また、剥離性評価では剥離後のステンレス板にはオリゴマー成分が転着したことによる汚染がみられた。
【0120】
【0121】
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムからのオリゴマー成分の析出を抑制しつつ、剥離性に優れるものであり、例えば、本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いた場合、オリゴマー成分による金型の汚染を防ぐことができ、かつ剥離性に優れるため、当該用途に好適に用いることができる。