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特許7423980ウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240123BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01L21/304 642A
H01L21/302 102
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019195427
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021068873
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】飯野 秀章
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088740(JP,A)
【文献】特開平06-181191(JP,A)
【文献】特開2008-244271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304-21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽と、
前記洗浄槽に設置されたウエハの表面にCO ガスを供給するためのガス供給手段と、
前記ガス供給手段により前記CO ガスが供給された後のウエハの表面に、水とアルコールとの混合溶液を供給するための溶液供給手段とを備えるウエハの表面の洗浄装置。
【請求項2】
前記混合溶液が、超純水に対してアルコールを3mol/%以上、10mol/%以下の範囲内で含むものである請求項1に記載のウエハの表面の洗浄装置。
【請求項3】
前記アルコールがイソプロピルアルコール又はエタノールである請求項1又は請求項2に記載のウエハの表面の洗浄装置。
【請求項4】
前記混合溶液を脱気するための脱気膜モジュールをさらに備える請求項1から請求項のいずれか一項に記載のウエハの表面の洗浄装置。
【請求項5】
洗浄槽に設置されたウエハの表面にCO ガスを供給するガス供給工程と、
前記ガス供給工程により前記CO ガスが供給された後のウエハの表面に、水とアルコールとの混合溶液を供給するための溶液供給工程とを備えるウエハの表面の洗浄方法。
【請求項6】
前記混合溶液が、超純水に対してアルコールを3mol/%以上10mol/%以下の範囲内で含むものである請求項に記載のウエハの表面の洗浄方法。
【請求項7】
前記アルコールがイソプロピルアルコール又はエタノールである請求項5又は請求項6に記載のウエハの表面の洗浄方法。
【請求項8】
前記溶液供給工程の前に、前記混合溶液を脱気するための脱気工程をさらに備える請求項から請求項のいずれか一項に記載のウエハの表面の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハの表面の洗浄装置及び洗浄方法に関し、特に、ドライエッチングにより表面に微細な溝又は孔が形成された半導体用ウエハの表面の洗浄装置及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造においては、製造工程の各過程に応じて、ウエハの表面や薄膜に付着した微粒子等の汚染物質を除去するため、必要な洗浄を行っている。そのうち、集積回路の形成過程においては、ドライエッチングにより溝又は孔を形成したウエハに対して、ウエハ表面に付着した微粒子や、溝又は孔の内部に残留した微粒子等の汚染物質を除去するための洗浄を行っている。
【0003】
近年、半導体デバイス構造の微細化や立体化、高集積化に伴い、ウエハの表面に形成される溝又は孔の高アスペクト比化が進んでおり、アスペクト比が10以上、さらにアスペクト比が20以上に及ぶものもある。このような高アスペクト比の溝又は孔を有するウエハを洗浄するために、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノールのような表面張力及び粘度が低い溶液を使用した洗浄方法や、ウエハの表面をあらかじめ界面活性剤で親水化した後、界面活性剤を薬液に置換して行う洗浄方法が提案されている。
【0004】
ウエハ表面に形成された溝又は孔の内部に残留した微粒子等の汚染物質を除去するための洗浄液として、IPAやエタノールは有効であるものの、これらの洗浄液の多用は、ランニングコストの増大、そして環境負荷の増大につながるという問題がある。加えて、例えば特許文献1では、ウエハ表面に形成されたホール(孔)内部に、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムを含む薬液を注入した後、IPA蒸気を用いて、ホール内部の薬液を保持したままウエハ表面の薬液を除去し、最後に純水を供給しホール内部の薬液と置換して除去する方法が開示されているが、洗浄にかかる時間が全体として長時間になり、スループットの低下につながるという問題もある。また、非特許文献1及び非特許文献2には、溶液のIPA又はエタノールの濃度を低くしても、高アスペクト比の溝又は孔(細孔)の内部まで溶液を浸水させることができることが述べられているものの、IPA又はエタノールの濃度を低くしたことにより溶液の表面張力が増大することに加え、細孔内に存在するガスが溶液の浸水を妨げていることにより、浸水が完了するまでに長時間を有し、やはり全体のスループットが低下してしまう。
【0005】
また、ウエハ表面に形成された細孔の内部に残留した微粒子等の汚染物質を除去するために、界面活性剤を使用した場合、非特許文献3に示されるように、細孔に対する浸水速度は速くなるものの、細孔内に界面活性剤が残留してしまうという問題がある。そのため、細孔内に残留した界面活性剤をUV処理等によって除去する必要があり、やはり全体としてのスループットが低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-147434号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Langmuir,(2017),33,3601-3609
【文献】Solid State Phenomena,(2016),255,129-135
【文献】ESSL,(2006),9,F17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述のような事情に基づいてなされたものであり、ランニングコストや環境負荷を低減させることができるとともに、ウエハの表面にドライエッチングにより複数の微細な溝又は孔が形成されている場合であっても、溝又は孔の内部に残留する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができ、かつ、溝又は孔への浸水速度を早めることにより、ウエハ洗浄のスループットを向上させることが可能なウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、洗浄槽と、洗浄槽に設置されたウエハの表面に易溶解性ガスを供給するためのガス供給手段と、前記ガス供給手段により前記易溶解性ガスが供給された後のウエハの表面に、水とアルコールとの混合溶液を供給するための溶液供給手段とを備えるウエハの表面の洗浄装置を提供する(発明1)。
【0010】
ここで、「易溶解性ガス」とは、水に溶解し易い性質を有するガスを意味し、例えば、Nガス、COガス等が挙げられる。
【0011】
かかる発明(発明1)によれば、従来のIPAやエタノールといったアルコールのみを用いた洗浄に比べて、アルコールの使用量が少ないため、ランニングコストや環境負荷を低減させることができる。また、易溶解性ガスが供給された後のウエハの表面に、水とアルコールとの混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、ウエハ表面に付着する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができる。そして、ウエハの表面にドライエッチングにより微細な溝又は孔が形成されている場合であっても、易溶解性ガスが充填された溝又は孔に対して混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、溝又は孔に対する浸水速度が速くなり、溝又は孔の内部に残留する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができることに加えて、ウエハ洗浄のスループットを向上させることができる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記易溶解性ガスが、Nガス又はCOガスであることが好ましい(発明2)。
【0013】
かかる発明(発明2)によれば、易溶解性ガスがNガス又はCOガスであることにより、混合溶液への溶解がより迅速に行われる。
【0014】
上記発明(発明1、2)においては、前記混合溶液が、超純水に対してアルコールを3mol/%以上、10mol/%以下の範囲内で含むものであることが好ましい(発明3)。
【0015】
かかる発明(発明3)によれば、超純水に比べて表面張力及び粘度が低いことにより浸水速度が速いので、ウエハの表面にドライエッチングにより溝又は孔が形成されている場合であっても、ウエハ洗浄のスループットを向上させることができる。
【0016】
上記発明(発明1-3)においては、前記アルコールがイソプロピルアルコール又はエタノールであることが好ましい(発明4)。
【0017】
かかる発明(発明4)によれば、イソプロピルアルコール、エタノールは親水性が高いため、ウエハの表面にドライエッチングにより溝又は孔が形成されている場合であっても、水のみでは浸水が困難な溝又は孔に対して、混合溶液を浸水させることができる。
【0018】
上記発明(発明1-4)においては、前記混合溶液を脱気するための脱気膜モジュールをさらに備えることが好ましい(発明5)。
【0019】
アルコール類のような極性溶媒に極性ガスは溶解し易いため、水とアルコールを混合すると、アルコール中の極性ガス飽和溶解量が低下し、気泡が発生してしまったり、ガスの溶解の進行を妨げてしまったりすることがある。かかる発明(発明5)によれば、洗浄槽に供給される前に混合溶液を脱気することにより、気泡の発生を未然に防ぐことができる。また、脱気した混合溶液を易溶解性ガスが供給された後のウエハの表面に供給することにより、易溶解性ガスの混合溶液への溶解が促進されるので、浸水速度がさらに速くなり、ウエハ洗浄のスループットをさらに向上させることができる。
【0020】
第二に本発明は、洗浄槽に設置されたウエハの表面に易溶解性ガスを供給するガス供給工程と、前記ガス供給工程により前記易溶解性ガスが供給された後のウエハの表面に、水とアルコールとの混合溶液を供給するための溶液供給工程とを備えるウエハの表面の洗浄方法を提供する(発明6)。
【0021】
かかる発明(発明6)によれば、従来のIPAやエタノールといったアルコールのみを用いた洗浄に比べて、アルコールの使用量が少ないため、ランニングコストや環境負荷を低減させることができる。また、ガス供給工程後に溶液供給工程を行うことにより、ウエハの表面の易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、ウエハ表面に付着する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができる。そして、ウエハの表面にドライエッチングにより溝又は孔が形成されている場合であっても、溶液供給工程において、易溶解性ガスが充填した溝又は孔に対して混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、溝又は孔に対する浸水速度が速くなり、溝又は孔の内部に残留する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができることに加えて、ウエハ洗浄のスループットを向上させることができる。
【0022】
上記発明(発明6)においては、前記易溶解性ガスが、Nガス又はCOガスであることが好ましい(発明7)。
【0023】
上記発明(発明6、7)においては、前記混合溶液が、超純水に対してアルコールを3mol/%以上、10mol/%以下の範囲内で含むものであることが好ましい(発明8)。
【0024】
上記発明(発明6-8)においては、前記アルコールがイソプロピルアルコール又はエタノールであることが好ましい(発明9)。
【0025】
上記発明(発明6-9)においては、前記溶液供給工程の前に、前記混合溶液を脱気するための脱気工程をさらに備えることが好ましい(発明10)。
【0026】
かかる発明(発明10)によれば、溶液供給工程の前に混合溶液を脱気することにより、気泡の発生を未然に防ぐことができる。また、溶液供給工程において、脱気した混合溶液を易溶解性ガスが供給された後のウエハの表面に供給することにより、易溶解性ガスの混合溶液への溶解が促進されるので、浸水速度がさらに速くなり、ウエハ洗浄のスループットをさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法によれば、従来のIPAやエタノールといったアルコールのみを用いた洗浄に比べて、アルコールの使用量が少ないため、ランニングコストや環境負荷を低減させることができる。また、易溶解性ガスが供給された後のウエハの表面に、水とアルコールとの混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、ウエハ表面に付着する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができる。そして、ウエハの表面にドライエッチングにより微細な溝又は孔が形成されている場合であっても、易溶解性ガスが充填された溝又は孔に対して混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、溝又は孔に対する浸水速度が速くなり、溝又は孔の内部に残留する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができることに加えて、ウエハ洗浄のスループットを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第一実施形態に係るウエハの表面の洗浄装置を示す模式図である。
図2】本発明の第二実施形態に係るウエハの表面の洗浄装置を示す模式図である。
図3】比較例1のウエハの表面の洗浄装置を示す模式図である。
図4】比較例2のウエハの表面の洗浄装置を示す模式図である。
図5図1のウエハの表面の洗浄装置に用いるウエハを示す模式図であって、(a)はウエハの正面図、(b)は(a)のA-A’断面の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法の実施の形態について、適宜図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではない。
【0030】
〔ウエハ〕
図5は、本発明の一実施形態に係るウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法に用いるウエハ10を示す模式図であって、(a)はウエハ10の正面図、(b)は(a)のA-A’断面の一部を示す図である。
【0031】
ウエハ10には、図5(b)に示すように、ドライエッチングによって表面11に複数の凹部12が形成されている。この状態において、ウエハ10の表面11及び凹部12の側部や底部には、ドライエッチングの際に生じた残渣や微粒子等の汚染物質(不図示)が付着している。
【0032】
凹部12のアスペクト比は、凹部12の幅13に対する凹部2の深さ14の比で表される。ここで、高アスペクト比とは、凹部12の幅13に対する深さ14の比が2以上のものをいう。本実施形態において凹部12は、図5(a)において上下方向に延びる微細な溝(トレンチ)であって、高アスペクト比を有する。より具体的には、凹部12は、幅13が30nm、深さ14が300nm、奥行(不図示)が10mmであり、幅に対する深さの比(アスペクト比)が10である。なお、凹部12は高アスペクト比を有していればよく、その幅や深さは本実施形態のものに限られるものではないが、幅13が30nm以下であることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態において、凹部12は溝(トレンチ)であるが、凹部12の形状はこれに限られるものではなく、微細な孔(ホール)であってもよい。
【0034】
〔ウエハの表面の洗浄装置〕
次に、上述したようなウエハ10の表面の洗浄装置について図1及び図2を参照しつつ詳説する。なお、本実施形態においては、ウエハの表面の洗浄装置として浸漬式洗浄方式を採用している。浸漬式洗浄方式とは、ウェット洗浄方法の一つであり、ウエハを液体に浸漬する洗浄方式をいう。
【0035】
〈第一の実施形態〉
本発明の第一の実施形態に係るウエハの表面の洗浄装置100は、図1に示すように、洗浄槽1、洗浄槽1に設置されたウエハ10の表面11に易溶解性ガスを供給するためのガス供給手段2、ガス供給手段2により易溶解性ガスが供給された後のウエハ10の表面11に、水とアルコールとの混合溶液を供給するための溶液供給手段3を主に備える。本実施形態において、ガス供給手段2と溶液供給手段3は、一つのガス・溶液供給ユニット4として構成されている。
【0036】
[洗浄槽]
洗浄槽1は、ウエハ10の表面11を洗浄するための水槽であって、ウエハ10を設置するためのウエハホルダ(不図示)を有する。洗浄槽1としては、ガス供給手段2から供給される易溶解性ガス及び溶液供給手段3から供給される混合溶液により、ウエハ10の表面11を洗浄することができるように構成されていればよく、本実施形態においては浸漬式の洗浄方式を採用しているが、これに限られるものではない。
【0037】
[ガス供給手段]
ガス供給手段2は、洗浄槽1に設置されたウエハ10の表面11に易溶解性ガスを供給するための手段である。本実施形態においてガス供給手段2は、ガス供給源と洗浄槽1とを接続する配管L1を備え、配管L1には、易溶解性ガスをろ過するためのフィルター23が設けられている。また、配管L1には、フィルター23の上流側に、ガス圧レギュレーター21及びマスフロメータ22が、この順に接続されている。配管L1には、フィルター23の上流側であって、ガス圧レギュレーター21及びマスフロメータ22が接続されている位置にそれぞれ、易溶解性ガスの供給量を調整するための自動開閉バルブが設けられている。上記自動開閉バルブとしては、サックバック式のバルブを使用することが好ましいが、これに限られるものではない。
【0038】
ここで、「易溶解性ガス」とは、水に溶解し易い性質を有するガスを意味し、例えば、Nガス、COガス等が挙げられる。本実施形態において、易溶解性ガスは、Nガス又はCOガスであることが好ましく、特にCOガスであることが好ましい。易溶解性ガスが、Nガス又はCOガスであることにより、後述する水とアルコールとの混合溶液への溶解がより迅速に行われる。
【0039】
[溶液供給手段]
溶液供給手段3は、ガス供給手段2により易溶解性ガスが供給された後のウエハ10の表面11に、水とアルコールとの混合溶液を供給するための手段である。本実施形態において溶液供給手段3は、超純水供給源と洗浄槽1とを接続する配管L2と、アルコール供給源と配管L2とを接続する配管L3とを備える。配管L2と配管L3との接続部には、配管L3側に、アルコールの供給量を調整するための自動開閉バルブが設けられている。上記自動開閉バルブとしては、サックバック式のバルブを使用することが好ましいが、これに限られるものではない。
【0040】
配管L2には、配管L2と配管L3との接続部の下流側に、超純水とアルコールを混合し、混合溶液を製造するための溶液混合室32が設けられており、溶液混合室32下流側に、水とアルコールとの混合溶液から不純物を除去するためのフィルター35が設けられている。また、配管L2には、溶液混合室32の上流側に、流量計31が設けられており、溶液混合室32の下流側であってフィルター35の上流側に、超純水とアルコールの混合度を管理するためのオンラインTOC計33、マスフロメータ34が、この順に設けられている。配管L2には、流量計31の上流側に、超純水の供給量を調整するための自動開閉バルブが設けられている。上記自動開閉バルブとしては、サックバック式のバルブを使用することが好ましいが、これに限られるものではない。
【0041】
本実施形態においては、超純水とアルコールの混合度を管理するために、オンラインTOC計33を使用しているが、これに限られるものではなく、例えば、超純水の流量をモニタリングするための流量計31の測定値に対する比例制御のみで、超純水とアルコールの混合度を管理してもよい。
【0042】
なお、一般的なウエハの表面の洗浄レシピにおいて、一つの液体が送り出される時間は0.5分~1分程度であることが多く、流速は2L/min.~4L/min.程度であることから、溶液混合室32の容積は5Lあれば十分である。溶液混合室32としては、従来の薬注機構を適用することができる。
【0043】
本実施形態において、溶液混合室32とフィルター35の間の配管L2には、図1に示すように、複数の屈曲管(エルボ)が用いられているとともに、配管中に絞り(オリフィス)が設けられている。溶液混合室32とフィルター35の間の配管L2がこのような構造であることにより、溶液混合室32から流出する混合溶液の混合がさらに促進される。
【0044】
溶液混合室32の上流側には、スタティックミキサーのようなライン混合装置がさらに設けられていてもよい。ただし、レイノルズ数が4000以上になるように配管系と移送混合時の流量を調整することで、それぞれの液体粘性、密度がプラスマイナス20%程度等しい場合には、特にスタティックミキサーを設ける必要hsなく、配管として屈曲管(エルボ)を用いたり、配管中に絞り(オリフィス)を設けたりすることでも十分に混合を行うことができる。
【0045】
配管L3には、アルコール供給源から配管L3を経て供給されたアルコールを貯留するための貯留タンク36が設けられており、貯留タンク36には、貯留されたアルコールを配管L2に供給するための送液ポンプ37が接続している。
【0046】
なお、配管L2としては、内径8mm以下のものを好適に使用することができるが、乱流を起こすだけの流速を得ることができれば、これに限られるものではない。
【0047】
本実施形態において、水とアルコールとの混合溶液は、超純水に対してアルコールを3mol/%以上、10mol/%以下の範囲内で含むものであることが好ましく、特に超純水に対してアルコールを3mol/%程度含むものであることが好ましい。超純水に対してアルコールを3mol/%以上、10mol/%以下の範囲内で含む混合溶液Mは、超純水に比べて表面張力及び粘度が低いので、ウエハ10の表面11に形成されている凹部12に対する浸水速度が速くなる。
【0048】
なお、本実施形態において、水とアルコールとの混合溶液は、超純水に対してアルコールを3mol/%以上、10mol/%以下の範囲内で含むものであるが、超純水に対してアルコールを3mol/%以上、10mol/%以下の範囲内で含んでさえいれば、例えば、微量のHClやNHOHをさらに混合させたものであってもよい。水とアルコールとの混合溶液に微量のHClやNHOHをさらに混合させることにより、洗浄効果の向上を図ることができる。
【0049】
また、水とアルコールとの混合溶液に含まれるアルコールは、イソプロピルアルコール又はエタノールが好ましい。ソプロピルアルコール、エタノールは親水性が高いため、水のみでは浸水が困難なウエハ10の凹部12に対して、水とアルコールとの混合溶液を浸水させることができる。
【0050】
〈第二の実施形態〉
次に、本発明の第二の実施形態に係るウエハの表面の洗浄装置200について、図2を参照しつつ説明する。ウエハの表面の洗浄装置200は、図2に示すように、溶液供給手段3を構成する配管L2が、溶液混合室32とオンラインTOC計33との間に、脱気膜モジュール38をさらに備える以外は、第一の実施形態に係るウエハの表面の洗浄装置100と同一の構成を有するため、ウエハの表面の洗浄装置100と同一の構成については、同一の符号を用いて説明を省略する。
【0051】
脱気膜モジュール38は、水とアルコールとの混合溶液を脱気するためのものであって、気体を移動させる動力源として、真空ポンプ39を有する。アルコール類のような極性溶媒に極性ガスは溶解し易いため、水とアルコールを混合すると、アルコール中の極性ガス飽和溶解量が低下し、気泡が発生してしまったり、ガスの溶解の進行を妨げてしまったりすることがある。よって、脱気膜モジュール38により水とアルコールとの混合溶液を脱気した上で、洗浄槽1に供給することにより、気泡の発生を未然に防ぐことができるとともに、易溶解性ガスの混合溶液への溶解が促進されるので、ウエハ10の凹部12に対する浸水速度を速めることができる。
【0052】
本実施形態において、脱気膜モジュール38は中空糸型であるが、水とアルコールとの混合溶液を脱気することができれば、これに限られるものではなく、例えばスパイラル型であってもよい。脱気膜モジュール38が中空糸型であることにより、モジュール体積あたりの膜面積が大きくなるので、小型モジュールで溶存気体濃度を十分に下げることができ、高効率の脱気処理が可能となる。
【0053】
本実施形態において、脱気膜モジュール38とフィルター35の間の配管L2は、ガスの脱気度を維持するために気密性の高い材質であることが好ましく、例えば、金属製又はPVDFもしくはビニール製の配管を使用することが好ましい。
【0054】
なお、溶液混合室32で混合された後の混合溶液は、脱気膜モジュール38へポンプ送液又はガス圧力送液されてもよい。
【0055】
〔ウエハの表面の洗浄方法〕
次に、上述したようなウエハの表面の洗浄装置100及び200を用いたウエハ10の表面の洗浄方法について図1及び図2を参照しつつ詳説する。
【0056】
〈第一の実施形態〉
ウエハの表面の洗浄装置100を用いたウエハの表面の洗浄方法は、洗浄槽1にウエハ10を設置する工程、洗浄槽1に設置されたウエハ10の表面11に易溶解性ガスを供給するガス供給工程、ガス供給工程により易溶解性ガスが供給された後のウエハ10の表面11に、水とアルコールとの混合溶液を供給するための溶液供給工程を主に備える。ガス供給工程と溶液供給工程は、連続して行われる。
【0057】
[ウエハ設置工程]
まず、ウエハ設置工程において、洗浄槽1のウエハホルダにウエハ10が設置される。
【0058】
[ガス供給工程]
次に、ガス供給工程において、洗浄槽1に設置されたウエハ10の表面11に対して、ガス供給手段2により易溶解性ガスが供給される。これにより、ウエハ10の表面11が易溶解性ガスで覆われるとともに、高アスペクト比の凹部12の内部にも易溶解性ガスが充填される。
【0059】
ガス供給工程においては、この後に連続して行う溶液供給工程で、ウエハ10に残留させた易溶解性ガスを水とアルコールとの混合溶液に溶解させるために、易溶解性ガスを供給後も、易溶解性ガスが、ウエハ10の表面11を覆い、かつ凹部12の内部を満たすようにしておく。
【0060】
ここで、「易溶解性ガス」とは、水に溶解し易い性質を有するガスを意味し、例えば、Nガス、COガス等が挙げられる。本実施形態において、易溶解性ガスは、Nガス又はCOガスであることが好ましく、特にCOガスであることが好ましい。易溶解性ガスが、Nガス又はCOガスであることにより、水とアルコールとの混合溶液への溶解がより迅速に行われる。
【0061】
[溶液供給工程]
溶液供給工程においては、ガス供給工程後のウエハ10の表面11に対して、溶液供給手段103により水とアルコールとの混合溶液が供給される。これにより、ウエハ10の表面11を覆い、かつ凹部12の内部を満たしている易溶解性ガスが混合溶液に溶解されるので、高アスペクト比の凹部12の内部まで混合溶液で十分に洗浄することができる。
【0062】
また、易溶解性ガスが充填された凹部12に対して水とアルコールとの混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、凹部12に対する浸水速度が速くなり、ウエハ洗浄のスループットを向上させることができる。
【0063】
なお、溶液供給工程の後は、スピン乾燥等の公知の方法によりウエハ10を乾燥する乾燥工程を行うことができる。
【0064】
〈第二の実施形態〉
次に、ウエハの表面の洗浄装置200を用いたウエハ10の表面の洗浄方法について、図2を参照しつつ説明する。ウエハの表面の洗浄装置200を用いたウエハ10の表面の洗浄方法は、溶液供給工程の前に、水とアルコールとの混合溶液を脱気するための脱気工程をさらに備える以外は、第一の実施形態に係るウエハの表面の洗浄装置100を用いたウエハ表面の洗浄方法と同一の構成を有するため、以下では、脱気工程についてのみ説明する。
【0065】
[脱気工程]
脱気工程においては、溶液供給工程によりウエハ10の表面11に供給される前の水とアルコールとの混合溶液に対して、脱気膜モジュール38により脱気処理が行われる。これにより、気泡の発生を未然に防ぐことができる。また、溶液供給工程において、脱気した水とアルコールとの混合溶液をガス供給工程後のウエハ10の表面11に供給することにより、易溶解性ガスの混合溶液への溶解が促進されるので、浸水速度が速くなる。
【0066】
以上のように、本発明のウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法によれば、従来のIPAやエタノールといったアルコールのみを用いた洗浄に比べて、アルコールの使用量が少ないため、ランニングコストや環境負荷を低減させることができる。また、易溶解性ガスが供給された後のウエハ10の表面11に、水とアルコールとの混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、ウエハ表面11に付着する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができる。そして、ウエハ10の表面11にドライエッチングにより微細な溝又は孔が形成されている場合であっても、易溶解性ガスが充填された溝又は孔に対して混合溶液を供給することにより、易溶解性ガスが迅速に混合溶液に溶解するので、溝又は孔に対する浸水速度が速くなり、溝又は孔の内部に残留する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができることに加えて、ウエハ洗浄のスループットを向上させることができる。
【0067】
以上、本発明について図面を参照にして説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。上記実施形態においては、ウエハの表面の洗浄装置として、ウエハを液体に浸漬する浸漬式洗浄装置を使用しているが、上述のガス供給工程と溶液供給工程を連続して行うことができればこれに限られるものではなく、例えば、ウエハに液体を噴射する枚葉式洗浄装置を使用してもよい。
【実施例
【0068】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳説するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
図1から図4に示すウエハの表面の洗浄装置を用いて、図5に示すウエハ10の表面の洗浄を行った。洗浄には浸漬式の洗浄装置を用いた。なお、図3に示すウエハの表面の洗浄装置300は、溶液供給手段3の代わりに超純水を供給するための超純水供給手段5を備える以外は、ウエハの表面の洗浄装置100ほぼ同一の構成を有する。また、図4に示すウエハの表面の洗浄装置400は、超純水供給手段5が、脱気膜モジュール51及びこれに接続する真空ポンプ52をさらに備える以外は、ウエハの表面の洗浄装置300とほぼ同一の構成を有する。
【0070】
洗浄条件は以下の通りである。
〈サンプルウエハ〉
・材質:Siウエハ(ウエハ表面にドライエッチング技術を用いて溝(トレンチ)を形成)
・溝:幅30nm、深さ300nm、奥行10nm
・表面組成:疎水性(疎水性高分子ポリマーBUTSで表面を修飾)
・表面接触角:130°
〈易溶解性ガス〉
・種類:COガス(純度99.9%)
・ガス供給:1L/min.×5min.
〈アルコール〉
・種類:IPA(純度98%)
・供給濃度:3mol%~
〈浸水評価方法〉
・測定機器:ATR-FTIR
・測定方法:ウエハサンプル裏面からIR照射し、ウエハサンプル表面のOH-伸縮ピーク高さから浸水率を算出した。
【0071】
〔実施例1〕
図1に示すウエハの表面の洗浄装置100を用いて、ウエハサンプルの洗浄を行った。まず、ウエハサンプルを洗浄槽1に設置し、易溶解性ガスを5分間供給した後、超純水とアルコールの混合溶液(アルコール濃度3~5mol/%)を供給した。洗浄後のウエハサンプルの浸水率をATR-FTIRを用いて算出した。
【0072】
〔実施例2〕
図1に示すウエハの表面の洗浄装置100を用いて、ウエハサンプルの洗浄を行った。まず、ウエハサンプルを洗浄槽1に設置し、易溶解性ガスを5分間供給した後、超純水とアルコールの混合溶液(アルコール濃度10mol/%)を供給した。洗浄後のウエハサンプルの浸水率をATR-FTIRを用いて算出した。
【0073】
〔実施例3〕
図1に示すウエハの表面の洗浄装置100を用いて、ウエハサンプルの洗浄を行った。まず、ウエハサンプルを洗浄槽1に設置し、易溶解性ガスを5分間供給した後、超純水とアルコールの混合溶液(アルコール濃度10mol/%以上)を供給した。洗浄後のウエハサンプルの浸水率をATR-FTIRを用いて算出した。
【0074】
〔実施例4〕
図2に示すウエハの表面の洗浄装置200を用いて、ウエハサンプルの洗浄を行った。まず、ウエハサンプルを洗浄槽1に設置し、易溶解性ガスを5分間供給した後、超純水とアルコールの混合溶液(アルコール濃度3~5mol/%)を脱気してから供給した。洗浄後のウエハサンプルの浸水率をATR-FTIRを用いて算出した。
【0075】
〔比較例1〕
図3に示すウエハの表面の洗浄装置300を用いて、ウエハサンプルの洗浄を行った。まず、ウエハサンプルを洗浄槽1に設置し、易溶解性ガスを5分間供給した後、超純水のみを供給した。洗浄後のウエハサンプルの浸水率をATR-FTIRを用いて算出した。
【0076】
〔比較例2〕
図4に示すウエハの表面の洗浄装置400を用いて、ウエハサンプルの洗浄を行った。まず、ウエハサンプルを洗浄槽1に設置し、易溶解性ガスを5分間供給した後、超純水のみを脱気してから供給した。洗浄後のウエハサンプルの浸水率をATR-FTIRを用いて算出した。
【0077】
実施例1-4及び比較例1、2について、浸水完了までにかかった時間を、洗浄条件とともに表1に示す。本結果から、超純水に対してアルコール(IPA)を3mol/%以上含む超純水とアルコールの混合溶液を使用することにより、浸水速度が速くなることが認められた。また、混合溶液を脱気してから使用することにより、浸水速度がさらに速くなることが認められた。
【0078】
【表1】
【0079】
以上説明したように、本発明のウエハの表面の洗浄装置及びウエハの表面の洗浄方法によれば、ランニングコストや環境負荷を低減させることができるとともに、ウエハの表面にドライエッチングにより複数の微細な溝又は孔が形成されている場合であっても、溝又は孔の内部に残留する微粒子等の汚染物質を良好に除去することができ、かつ、溝又は孔への浸水速度を速めることにより、ウエハ洗浄のスループットを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、半導体の製造工程において、特にドライエッチングにより溝又は孔を形成したウエハに対して、ウエハ表面に付着した微粒子や溝又は孔の内部に残留した微粒子等の汚染物質を除去するための洗浄装置及び洗浄方法として有用である。
【符号の説明】
【0081】
10 ウエハ
11 表面
12 凹部
13 凹部の幅
14 凹部の深さ
100、200 ウエハの表面の洗浄装置
1 洗浄槽
2 ガス供給手段
21 ガス圧レギュレーター
22 マスフロメータ
23 フィルター
3 溶液供給手段
31 流量計
32 溶液混合室
33 オンラインTOC計
34 マスフロメータ
35 フィルター
36 貯留タンク
37 送液ポンプ
38 脱気膜モジュール
39 真空ポンプ
L1、L2、L3 配管
図1
図2
図3
図4
図5