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特許7423984方法、GaNウエハ製品の生産方法および生産システム、包装体並びにGaN基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】方法、GaNウエハ製品の生産方法および生産システム、包装体並びにGaN基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240123BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20240123BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01L21/66 P
G01N21/65
C30B29/38 D
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019197541
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021072344
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯 憲司
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051423(JP,A)
【文献】特開2019-009329(JP,A)
【文献】特開2013-217903(JP,A)
【文献】特開2018-146410(JP,A)
【文献】特開2013-060343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 21/65
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに反対を向いた第一主面と第二主面を有するとともに、互いに異なるキャリア濃度を有する該第一主面側の第一領域と該第二主面側の第二領域を有する板状GaN結晶における、該第一領域の厚さを調べる方法であること、
および、
前記第一領域の厚さを調べるために共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置を用いること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記板状GaN結晶の厚さ方向に焦点を移動させて複数のラマンスペクトルを測定することにより前記厚さを調べる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
互いに反対を向いた第一主面と第二主面を有するとともに、互いに異なるキャリア濃度を有する該第一主面側の第一領域と該第二主面側の第二領域を有する板状GaN結晶における該第一領域の厚さが、所定値以上かどうかを判定する方法であること、
および、
前記判定に共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置を用いること、
を特徴とする方法。
【請求項4】
前記第一主面から焦点までの距離を前記所定値に設定してラマンスペクトルを測定することにより前記判定を行う、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第一領域が20μm以上の厚さを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第一領域と前記第二領域の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法が適用される、GaNウエハ製品の生産方法。
【請求項8】
前記GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板である、請求項7に記載の生産方法。
【請求項9】
前記おもて側領域のキャリア濃度が前記裏側領域のキャリア濃度より高い、請求項8に記載の生産方法。
【請求項10】
前記裏側領域が補償不純物でドープされる、請求項9に記載の生産方法。
【請求項11】
前記おもて側領域のキャリア濃度が前記裏側領域のキャリア濃度より低い、請求項8に記載の生産方法。
【請求項12】
前記おもて側領域が半絶縁性GaNからなる、請求項11に記載の生産方法。
【請求項13】
前記裏側領域がドナー不純物で意図的にドープされる、請求項11または12に記載の生産方法。
【請求項14】
GaNウエハ製品の生産方法であって、
該生産方法は、出発GaNウエハを準備するウエハ準備工程および該出発GaNウエハを加工するウエハ加工工程を含み、
該出発GaNウエハは、互いに異なるキャリア濃度を有し、かつ互いに積層された第一GaN層と第二GaN層を含み、
該ウエハ加工工程では、少なくとも該第一GaN層の厚さが減じられ、
該ウエハ加工工程を経る製品の全数または一部が、該第一GaN層の厚さに関連する情報を取得するためのラマン分光分析を受ける、生産方法。
【請求項15】
前記ウエハ加工工程の完了後において、前記第一GaN層が20μm以上の厚さを有する、請求項14に記載の生産方法。
【請求項16】
記第一GaN層および前記第二GaN層の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、請求項14または15に記載の生産方法。
【請求項17】
GaNウエハ製品の生産に使用されるシステムであって、
該GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板であり、
該システムは、共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置を備え、
該ラマン分光分析装置は、該GaN基板の該おもて側領域の厚さに関連する情報を取得するために使用される生産システム。
【請求項18】
前記おもて側領域が20μm以上の厚さを有する、請求項17に記載の生産システム。
【請求項19】
前記おもて側領域と前記裏側領域の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、請求項17または18に記載の生産システム。
【請求項20】
GaNウエハ製品が包装材で包装された包装体であって、
該GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板であり、
該おもて側領域の厚さに関連する、測定に基づいた情報が記録された媒体が、該GaNウエハ製品とともに該包装材によって包装された、または、該情報が該包装材に印字された、包装体。
【請求項21】
前記おもて側領域が20μm以上の厚さを有する、請求項20に記載の包装体。
【請求項22】
前記おもて側領域と前記裏側領域の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、請求項20または21に記載の包装体。
【請求項23】
半絶縁性であるおもて側領域と、ドナー不純物を含有し、おもて側領域との間でラマンスペクトルのA(LO)ピーク波数の差が1cm-1以上である裏側領域と、を有するGaN基板(ただし、おもて側とは、窒化物半導体デバイス用の基板として用いる際に、窒化物半導体デバイス構造を構成する窒化物半導体層が形成される側である)
【請求項24】
前記おもて側領域が20μm以上の厚さを有する、請求項23に記載のGaN基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、GaNウエハ製品の生産等の目的に好ましく用い得る方法、GaNウエハ製品の生産方法および生産システム、GaNウエハ製品が包装された包装体並びにGaN基板に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイア基板上にHVPEでGaN厚膜を成長させた後、サファイア基板を除去し、該GaN厚膜の両面を研磨して得られるGaNウエハにおいて、SiまたはGeドープによりキャリア濃度を高めた領域をおもて面側に設け、裏面側にはアンドープ領域を設けた二層型のものが知られている(特許文献1)。
同様の手順で得られる二層型GaNウエハにおいて、Feドープによりキャリア濃度を低下させて高抵抗化した領域をおもて面側に設け、裏面側にはアンドープ領域を設けたものも知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-70154号公報
【文献】特開2012-232884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の二層型GaNウエハでは、特におもて面側に設ける領域の厚さが、下限厚(設計上、該領域が少なくとも有すべきとされた厚さ)を下回らないようにしなくてはならない。該領域の厚さが下限厚を下回る不良品を発生させないためには、生産工程において、該領域の成長厚と加工量を適切に管理する必要がある。
この目的にとって、該領域の厚さが下限厚を下回っていないかどうかを非破壊で検査することができれば好都合である。
【0005】
本発明者は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板における、該おもて側領域の厚さに関する情報を、非破壊で取得する方法を検討した。本発明は該検討の過程でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態には下記が含まれる。
【0007】
[1]互いに反対を向いた第一主面と第二主面を有するとともに、互いに異なるキャリア濃度を有する該第一主面側の第一領域と該第二主面側の第二領域を有する板状GaN結晶における、該第一領域の厚さを調べる方法であること、
および、
共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置を用いること、
を特徴とする方法。
[2]前記板状GaN結晶の厚さ方向に焦点を移動させて複数のラマンスペクトルを測定することにより前記厚さを調べる、[1]に記載の方法。
[3]互いに反対を向いた第一主面と第二主面を有するとともに、互いに異なるキャリア濃度を有する該第一主面側の第一領域と該第二主面側の第二領域を有する板状GaN結晶における該第一領域の厚さが、所定値以上かどうかを判定する方法であること、
および、
共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置を用いること、
を特徴とする方法。
[4]前記第一主面から焦点までの距離を前記所定値に設定してラマンスペクトルを測定することにより前記判定を行う、[3]に記載の方法。
[5]前記第一領域が20μm以上の厚さを有する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記第一領域と前記第二領域の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の方法が適用される、GaNウエハ製品の生産方法。
[8]前記GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板である、[7]に記載の生産方法。
[9]前記おもて側領域のキャリア濃度が前記裏側領域のキャリア濃度より高い、[8]に記載の生産方法。
[10]前記裏側領域が補償不純物でドープされる、[9]に記載の生産方法。
[11]前記おもて側領域のキャリア濃度が前記裏側領域のキャリア濃度より低い、[8]に記載の生産方法。
[12]前記おもて側領域が半絶縁性GaNからなる、[11]に記載の生産方法。
[13]前記裏側領域がドナー不純物で意図的にドープされる、[11]または[12]に記載の生産方法。
[14]GaNウエハ製品の生産方法であって、
該生産方法は、出発GaNウエハを準備するウエハ準備工程および該出発GaNウエハを加工するウエハ加工工程を含み、
該出発GaNウエハは、互いに異なるキャリア濃度を有し、かつ互いに積層された第一GaN層と第二GaN層を含み、
該ウエハ加工工程では、少なくとも該第一GaN層の厚さが減じられ、
該ウエハ加工工程を経る製品の全数または一部が、該第一GaN層の厚さに関連する情報を取得するためのラマン分光分析を受ける、生産方法。
[15]前記ウエハ加工工程の完了後において、前記第一GaN層が20μm以上の厚さを有する、[14]に記載の生産方法。
[16]前記前記第一GaN層および前記第二GaN層の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、[14]または[15]に記載の生産方法。
[17]GaNウエハ製品の生産に使用されるシステムであって、
該GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板であり、
該システムは、共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置を備え、
該ラマン分光分析装置は、該GaN基板の該おもて側領域の厚さに関連する情報を取得するために使用される生産システム。
[18]前記おもて側領域が20μm以上の厚さを有する、[17]に記載の生産システム。
[19]前記おもて側領域と前記裏側領域の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、[17]または[18]に記載の生産システム。
[20]GaNウエハ製品が包装材で包装された包装体であって、
該GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板であり、
該おもて側領域の厚さに関連する、測定に基づいた情報が記録された媒体が、該GaNウエハ製品とともに該包装材によって包装された、または、該情報が該包装材に印字された、包装体。
[21]前記おもて側領域が20μm以上の厚さを有する、[20]に記載の包装体。
[22]前記おもて側領域と前記裏側領域の間でラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1以上である、[20]または[21]に記載の包装体。
[23]半絶縁性であるおもて側領域と、ドナー不純物を含有し、おもて側領域との間でラマンスペクトルのA(LO)ピーク波数の差が1cm-1以上である裏側領域と、を有するGaN基板。
[24]前記おもて側領域が20μm以上の厚さを有する、[23]に記載のGaN基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板における、該おもて側領域の厚さに関する情報を、非破壊で取得するための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、GaNウエハの一例を示す斜視図である。
図2図2は、窒化物半導体デバイスの製造工程を説明するための工程断面図である。
図3図3は、GaNウエハ製品の生産方法に含まれるウエハ加工工程を説明するための工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明を実施形態に即して説明するが、本発明は以下に記述する実施形態に限定されるものではない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0011】
1.第一実施形態
本発明の第一実施形態は、互いに反対を向いた第一主面と第二主面を有するとともに、互いに異なるキャリア濃度を有する該第一主面側の第一領域と該第二主面側の第二領域を有する板状GaN結晶における、該第一領域の厚さを調べる方法である。
該第一領域の厚さを非破壊で調べるために、第一実施形態では、共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置が用いられる。
【0012】
図1に示すGaNウエハ10は、互いに反対を向いた第一主面と第二主面を有するとともに、互いに異なるキャリア濃度を有する該第一主面側の第一領域と該第二主面側の第二領域を有する板状GaN結晶の一例である。
GaNウエハ10は、その形状が円板であり、互いに反対を向いた2つの主面(大面積面)として、おもて面11と裏面12を有している。加えて、GaNウエハ10は、おもて面11側におもて側領域R、裏面12側に裏側領域Rを有しており、おもて側領域Rと裏側領域Rは互いに異なるキャリア濃度を有している。
GaNウエハの形状は、図1に示す円形状の板のみならず、多角形状等の板であってもよい。
【0013】
おもて側領域Rおよび裏側領域Rにおけるキャリア濃度は、それぞれ、厚さ方向に略一定である。
GaNウエハ10は、おもて側領域Rと裏側領域Rの境界部に、これら2つの領域の中間のキャリア濃度を有する中間領域(図示せず)を有し得る。
キャリア濃度がおもて側領域Rにおいて裏側領域Rよりも高いとき、該中間領域で
は、おもて側領域Rに近づくにつれてキャリア濃度が段階的または連続的に増加していてもよい。反対に、キャリア濃度がおもて側領域Rにおいて裏側領域Rよりも低いとき、該中間領域では、おもて側領域Rに近づくにつれてキャリア濃度が段階的または連続的に減少していてもよい。
GaNウエハ10は、おもて側領域Rと裏側領域Rの間に再成長界面を有していてもよい。
【0014】
GaNウエハ10の直径Dは、通常25mm以上であり、50mm以上、100mm以上または150mm以上であってもよく、典型的には25~30mm(約1インチ)、50~55mm(約2インチ)、100~105mm(約4インチ)、150~155mm(約6インチ)等である。
GaNウエハ10は、当該ウエハのハンドリングに支障が生じない厚さtを有する。厚さtの下限は直径Dに応じて異なり、あくまで目安であるが、直径Dが約2インチのとき250μm、直径Dが約4インチのとき350μm、直径Dが約6インチのとき450μmである。厚さtは通常1mm以下である。
GaNウエハ10のエッジは面取りされていてもよい。GaNウエハ10には、結晶の方位を表示するオリエンテーション・フラットまたはノッチ、おもて面と裏面の識別を容易にするためのインデックス・フラット等、必要に応じて様々なマーキングを施してもよい。
【0015】
GaNウエハ10の用途は、窒化物半導体デバイス用の基板である。
窒化物半導体は、窒化物系III-V族化合物半導体、III族窒化物系化合物半導体、GaN系半導体などとも呼ばれ、GaNを含む他、GaNのガリウムの一部または全部を他の周期表第13族元素(B、Al、In等)で置換した化合物を含む。
窒化物半導体デバイスは、デバイス構造の主要部が窒化物半導体で形成された半導体デバイスである。代表的な窒化物半導体デバイスとして、レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)などの発光デバイスと、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor)などの電子デバイスと、太陽電池が挙げられる。
【0016】
GaNウエハ10が基板として使用されるときは、そのおもて面11上に窒化物半導体デバイス構造を構成する窒化物半導体層が形成される。
おもて側領域Rを補償不純物でドーピングして半絶縁性としたとき、GaNウエハ10は横型デバイス構造のGaN-HEMTのための基板として好ましく使用できる。GaNでは一般に、比抵抗が10Ω・cm以上であるとき、半絶縁性であるとされる。
ドナー不純物ドーピングによりおもて側領域Rのキャリア濃度を例えば1×1018cm-3以上としたとき、GaNウエハ10は、縦型デバイス構造の窒化物半導体デバイスのための基板として好ましく使用できる。縦型デバイス構造は、レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMTなどのデバイスで採用され得る。
【0017】
GaNウエハ10を用いた窒化物半導体デバイスの製造では、まず、図2(a)に示すようにGaNウエハ10が準備され、続いて、図2(b)に示すように、GaNウエハ10のおもて面11上に、第一窒化物半導体層21と第二窒化物半導体層22を少なくとも含むエピタキシャル膜20がMOVPE(Metal Organic Vaper Phase Epitaxy)で成長されることにより、エピタキシャルウエハが形成される。
例えば、窒化物半導体デバイスがHEMTであるときは、第一窒化物半導体層21と第二窒化物半導体層22は、それぞれ、アンドープGaNチャネル層とアンドープAlGaNキャリア供給層である。
例えば、窒化物半導体デバイスがp-nダイオードであるときは、第一窒化物半導体層
21と第二窒化物半導体層22は、それぞれ、n型GaN層とp型GaN層であり得る。
【0018】
エッチング加工、イオン注入、電極形成、保護膜形成等を含み得る半導体プロセスが実行された後、エピタキシャルウエハは分断されて窒化物半導体デバイスチップとなるが、通常は分断の前にエピタキシャルウエハを薄化するためにGaNウエハ10の裏面12側が研削される。この研削は、エピタキシャルウエハの外周部にリング状の厚肉部が残るように行われ得る。
一例では、該研削によって、図2(c)に示すように、GaNウエハ10から裏側領域Rが全部除去される。これが可能なのは、おもて側領域Rが少なくとも20μm、好ましくは40μm以上、より好ましくは50μm以上の厚さを有するときである。この場合も、エピタキシャルウエハの外周部には裏側領域12をリング状に残すように研削を行ってもよい。。
【0019】
GaNウエハ10のおもて側領域Rの厚さを、従来から誘電体膜や半導体膜の厚さ測定に使用されている既存の技法を用いて、非破壊で調べることは難しい。なぜなら、おもて側領域Rも裏側領域RもGaN結晶から構成されているので、一部の不純物の濃度は異なるものの、これら2つの領域の間には実質的に屈折率差が存在しないからである。
しかし、本発明者が見出したところによれば、GaNウエハ10のおもて側領域Rの厚さは、共焦点光学系を備え、z軸方向に焦点位置を変化させることのできるラマン分光分析装置を用いることにより測定が可能である。
【0020】
従来から知られていることだが、なぜラマン分光分析でGaN結晶のキャリア濃度が測定できるかというと、キャリア濃度が低いとき734cm-1付近に現れる鋭いA(LO)ピークが、キャリア濃度の増加とともにブロードになるとともに、高波数側にシフトするからである。
(LO)ピークとは、A(LO)フォノンモードに起因するラマンピークである。キャリア濃度が増加すると、LOフォノン(格子振動)とプラズモン(電子の集団振動)との相互作用が起こるせいで、A(LO)フォノンモードがLOフォノン-プラズモン結合モード(LOPCモード)に変化する。これが、A(LO)ピークのブロード化と高波数シフトの原因である。A(LO)ピークの波数とキャリア濃度の対応は、概ね下記表1に示す通りである。
【0021】
【表1】
【0022】
共焦点光学系を備えるラマン分光分析装置を用いて、GaNウエハ10のおもて面11側から、測定毎に焦点を少しずつ深い位置に移動させてラマンスペクトルを測定すると、焦点がおもて側領域R内から裏側領域R内に移ったときにA(LO)ピークの波数が変化するので、そのときの焦点の深さから、おもて側領域Rの厚さを知ることができ
る。
おもて側領域Rのキャリア濃度が裏側領域Rのキャリア濃度より高いときは、焦点がおもて側領域R内から裏側領域R内に移ったときにラマンスペクトルのA(LO)ピークが低波数側に変化する。
反対に、おもて側領域Rのキャリア濃度が裏側領域Rのキャリア濃度より低いときは、焦点がおもて側領域R内から裏側領域R内に移ったときにラマンスペクトルのA(LO)ピークが高波数側に変化する。
焦点の位置がおもて面11から遠ざかるにつれて、吸収現象のせいで、焦点に到達する励起光の強度が低下し、また、おもて面11を通してGaNウエハ10の外部に放出される信号光の強度も低下するが、ラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数には影響がない。そのため、おもて側領域Rの厚さが例えば400μm以上であっても、測定精度が著しく低下することはない。
【0023】
おもて側領域Rの方が裏側領域Rより高いキャリア濃度を有するときとは、例えば、おもて側領域Rと裏側領域RがいずれもHVPEで成長されたGaN(HVPE-GaN)からなり、かつ、おもて側領域Rがドナー不純物で意図的にドープされているのに対し、裏側領域Rが意図的ドープされていないGaN(UID-GaN;un-intentionally doped GaN)からなるときである。
おもて側領域Rが、アモノサーマル法で成長されたGaN(アモノサーマルGaN)からなるのに対し、裏側領域RがHVPE-GaNからなるときも、おもて側領域Rが裏側領域Rより高いキャリア濃度を有し得る。
あるいは、おもて側領域Rが補償不純物でドープされていないのに対し、裏側領域Rが補償不純物でドープされているときも、おもて側領域Rが裏側領域Rより高いキャリア濃度を有し得る。
【0024】
おもて側領域Rの方が裏側領域Rより低いキャリア濃度を有するときとは、例えば、おもて側領域Rと裏側領域RがいずれもHVPE-GaNからなり、かつ、おもて側領域RがUID-GaNからなるのに対し、裏側領域Rがドナー不純物で意図的ドープされたGaNからなるときである。
おもて側領域Rが、HVPE-GaNからなるのに対し、裏側領域RがアモノサーマルGaNからなるときも、おもて側領域Rが裏側領域Rより低いキャリア濃度を有し得る。
あるいは、おもて側領域Rが補償不純物でドープされているのに対し、裏側領域Rが補償不純物でドープされていないときも、おもて側領域Rが裏側領域Rより低いキャリア濃度を有し得る。
【0025】
ドナー不純物の代表例は、Si(ケイ素)、Ge(ゲルマニウム)およびO(酸素)である。
補償不純物とは、n型キャリアを補償する働きを持つ不純物であり、代表例はC(炭素)と遷移金属元素である。遷移金属元素としては、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)などが例示される。
【0026】
ラマン分光測定の焦点がGaNウエハ10のおもて側領域R内にあるか裏側領域R内にあるかは、おもて側領域Rと裏側領域RとでラマンスペクトルのA(LO)ピークの波数差が1cm-1あれば検知可能であり、該波数差が3cm-1以上、更には5cm-1以上であれば、より確実に検知可能である。
例えば、おもて側領域Rが補償不純物ドーピングにより半絶縁性とされる一方、裏側領域Rは意図的にドーピングされないとき、どちらの領域もキャリア濃度が1017cm-3台より低く、かつ、おもて側領域Rのキャリア濃度が裏側領域Rより数桁下と
なり得る。ところが、かかる場合には、これら2つの領域をA(LO)ピークの波数で区別できないかも知れない。これは、キャリア濃度の低下とともにA(LO)ピークの波数が734cm-1付近に収束するからである。
かかる事態への対策として、GaNウエハ10のおもて側領域Rを半絶縁性とするときは、ラマン分光測定による該おもて側領域Rの厚さ測定を可能とする目的のために、裏側領域Rをドナー不純物でドーピングして、おもて側領域Rとの間のA(LO)ピーク波数差を1cm-1以上、更には3cm-1以上、更には5cm-1以上としてもよい。
【0027】
第一実施形態の方法は、共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置として一般に使用されているものを用いて実施することができる。かかるラマン分光分析装置の一例は、HORIBA製のLabRam HR800、Renishaw製のin-Via Raman system等である。
第一実施形態の方法は、例えば、GaNウエハ10を生産するときに、全数検査または抜き取り検査で、おもて側領域Rの厚さが下限厚以上となっているかどうかを調べるために用いることができる。
【0028】
2.第二実施形態
本発明の第二実施形態は、互いに反対を向いた第一主面と第二主面を有するとともに、互いに異なるキャリア濃度を有する該第一主面側の第一領域と該第二主面側の第二領域を有する板状GaN結晶における該第一領域の厚さが、所定値以上かどうかを判定する方法である。
該判定を非破壊で行うために、第二実施形態の方法では、共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置が用いられる。
【0029】
第二実施形態の方法は、例えば、図1に示すGaNウエハ10を生産するときに、全数検査または抜き取り検査で、おもて側領域Rの厚さが下限厚以上となっているかどうかを判定するために用いることができる。
かかる判定を行うには、おもて面11から焦点までの距離を下限厚に設定してGaNウエハ10のラマンスペクトルを測定し、A(LO)ピークの波数から、該焦点がおもて側領域R内にあるか裏側領域R内にあるかを調べる。該焦点がおもて側領域R内にあれば、おもて側領域Rの厚さは下限厚以上と判定できる。
【0030】
例えば、おもて側領域Rのキャリア濃度の設計値が1×1018cm-3以上、裏側領域Rのキャリア濃度の設計値が5×1017cm-3以下である場合、測定されたラマンスペクトルにおいてA(LO)ピーク波数が763cm-1以上ならば、焦点はおもて側領域R内にあり、748cm-1以下ならば、焦点は裏側領域R内にあるということができる。
【0031】
第一実施形態および第二実施形態の方法を適用する対象は、GaNウエハに限られるものではなく、例えば、GaNインゴットのような厚板であってもよい。
【0032】
3.第三実施形態
第三実施形態は、GaNウエハ製品の生産方法であって、出発GaNウエハを準備するウエハ準備工程および該出発GaNウエハを加工するウエハ加工工程を含む。該出発GaNウエハは、互いに異なるキャリア濃度を有し、かつ互いに積層された第一GaN層と第二GaN層を含み、該ウエハ加工工程では、少なくとも該第一GaN層の厚さが減じられる。該ウエハ加工工程を経る製品の全数または一部が、該第一GaN層の厚さに関連する情報を取得するためのラマン分光分析を受ける。
【0033】
ウエハ準備工程では、例えば、シード基板上に、互いに異なるキャリア濃度を有する第
一GaN層と第二GaN層をこの順、または反対順に成長させた後、シード基板を除去することにより、第一GaN層と第二GaN層を含む出発GaNウエハを準備する。
シード基板上に第一GaN層を先に成長させる場合、第一GaN層の成長完了の後、いきなり成長条件を第二GaN層の成長条件に変更せず、徐々に変化させるのが好ましい。気相成長法を用いる場合なら、ドーピングガスの供給レートを徐々に(段階的または連続的)変化させることが好ましい。
シード基板を除去する方法は特段制限されず、剥離、磨滅、溶解等を用いることができる。剥離による場合、レーザーリフトオフで行いうる他、予めシード基板の表面に剥離層を設けた上でGaN層を成長させてもよい。磨滅による場合、成長させたGaN層の一部も磨滅させてよい。シード基板がGaN基板である場合には、レーザー加工によってGaN基板とその上に成長させたGaN層とを切り離してもよい。
【0034】
ウエハ準備工程では、予め完成されたGaNウエハを準備し、その上に該GaNウエハと異なるキャリア濃度のGaN層を成長させることにより、出発GaNウエハを準備してもよい。この方法で準備された出発GaNウエハでは、通常、予め完成されたGaNウエハからなる部分が第二層、その上に成長させたGaN層からなる部分が第一層である。
予め完成されたGaNウエハの上に気相法で新たに成長させるGaN層をドーピングする場合、ドーピングガスの供給レートを徐々に(段階的または連続的)増加させることが好ましい。
ウエハ準備工程では、予め完成された厚いGaNウエハの上にGaN層を成長させ、その後、レーザー加工によって該厚いGaNウエハから該GaN層に隣接する部分を切り離すことにより、出発GaNウエハを準備してもよい。この方法で準備された出発GaNウエハでは、厚いGaNウエハに由来する部分と、新たに成長させたGaN層からなる部分の、いずれか一方が第一層であり、他方が第二層である。
【0035】
ウエハ加工工程では、図3(a)に示す出発GaNウエハが、厚さを減じられることにより、図3(b)に示す薄化GaNウエハとされる。図3では、第一GaN層の厚さだけが減じられているが、ウエハ加工工程では、第一GaN層と第二GaN層の両方の厚さが減じられてもよい。
出発GaNウエハの厚さを減じる方法は特段制限されず、出発GaNウエハの表面の状態に応じて、研削(粗研削、精密研削)、ラッピング、ポリシング、CMP、エッチングから適宜必要なものを選んで使用することができ、また、これらを組み合わせることができる。
【0036】
ウエハ加工工程を経る製品の少なくとも一部は、第一GaN層の厚さに関連する情報を取得する目的でラマン分光分析を受ける。第一GaN層の厚さに関連する情報は、好ましくは、前述の第一実施形態または第二実施形態に係る方法により取得される。
該ラマン分光分析は、ウエハ加工工程の前、途中および後から選ばれる一以上のタイミングで行われ、その回数に特段の制限はない。
ウエハ加工工程の前に、出発GaNウエハにおける第一GaN層の厚さに関する情報を取得することで、第一GaN層が加工前から下限厚を下回っている不良品がウエハ加工工程に流れることを防止できる。
ウエハ加工工程の前または途中に第一GaN層の厚さに関する情報を取得することで、第一GaN層の過度な加工や加工の不足を回避することができる。
ウエハ加工工程の後に、薄化GaNウエハにおける第一GaN層の厚さに関する情報を取得することで、第一GaN層の厚さが下限厚を下回る不良品が出荷されることを防止できる。
第三実施形態の生産方法は、図1に示すGaNウエハ10の生産に好ましく用い得る。
【0037】
4.第四実施形態
第四実施形態は、GaNウエハ製品の生産システムである。該GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板である。該生産システムは、共焦点光学系を備えたラマン分光分析装置を備え、該ラマン分光分析装置は、該GaN基板の該おもて側領域の厚さに関連する情報を取得するために使用される。
【0038】
該生産システムは、GaNウエハの加工に用いられる加工設備を備えていてもよい。該加工設備は、該GaN基板のおもて側領域の厚さ調節などに用いられる設備であり、研削(粗研削、精密研削)、ラッピング、ポリシング、CMP、およびエッチングから選ばれる加工に用いられる装置を少なくとも含むことが好ましい。
該生産システムは、更に、GaNウエハを構成するGaN結晶の成長に用いられる結晶製造設備を備えていてもよい。該結晶製造設備は、HVPE、THVPE、OVPE、ハロゲンフリーVPE、MOCVD、フラックス法およびアモノサーマル法から選ばれる方法に用いられる装置を少なくとも含むことが好ましい。
おもて側領域の厚さに関連する情報は、好ましくは、前述の第一実施形態または第二実施形態に係る方法により取得される。
第四実施形態の生産システムは、図1に示すGaNウエハ10の生産に好ましく用い得る。
【0039】
5.第五実施形態
第五実施形態は、GaNウエハ製品が包装材で包装された包装体である。該GaNウエハ製品は、互いに異なるキャリア濃度を有するおもて側領域と裏側領域を有するGaN基板である。該包装体では、該おもて側領域の厚さに関連する、測定に基づいた情報が記録された媒体が、該GaNウエハ製品とともに該包装材によって包装されている、または、該情報が該包装材に印字されている。
測定に基づいた情報とは、ラマン分光測定を含む前述の第一実施形態または第二実施形態に係る方法で得られる情報のように、仕様値あるいは設計値ではなく、実際の測定に基づいた情報ということである。
媒体の種類に特段の限定はなく、紙であってもよいし、電気または磁気を利用した記憶媒体であってもよい。
印字の態様に特段の限定はなく、情報を直接包装材に印字してもよく、情報が記録された印字された外部端末によりアクセスすることができる電子コード等を印字してもよい。
【0040】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0041】
10 GaNウエハ
11 おもて面
12 裏面
20 エピタキシャル膜
21 第一窒化物半導体層
22 第二窒化物半導体層
おもて側領域
裏側領域
D 直径
t 厚さ
図1
図2
図3