(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】同軸ケーブル、同軸ケーブルの製造方法、及びケーブルアセンブリ
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20240123BHJP
H01B 13/016 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01B11/18 D
H01B13/016 Z
(21)【出願番号】P 2020107523
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】渡部 考信
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】荒井 才志
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋光
(72)【発明者】
【氏名】岡田 良平
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 保
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-276785(JP,A)
【文献】特開2008-135196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
H01B 13/016
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の周囲を覆う絶縁体と、
前記絶縁体の周囲を覆うように、複数の金属素線を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドを有するシールド層と、
前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、
前記絶縁体は、前記複数の金属素線と接触する部分の表面に、前記複数の金属素線と嵌合するくぼみを有しており、
前記シールド層は、前記複数の金属素線の周方向における前記絶縁体と接触する部分が、前記絶縁体の前記くぼみと嵌合しており、前記シールド層の周方向に隣り合う前記複数の金属素線同士が面接触しており、前記複数の金属素線のケーブル径方向における外方の部分が略平坦な面を有
し、
前記くぼみに嵌合された前記複数の金属素線は、前記絶縁体の曲げに対して前記くぼみに沿うようにケーブル長手方向へ移動可能な状態で、前記絶縁体と接触している、
同軸ケーブル。
【請求項2】
ケーブル長手方向に垂直な断面において、前記複数の金属素線の外周の長さのうち1/6以上が前記絶縁体の前記くぼみと嵌合している、
請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記複数の金属素線は、引張強さが200MPa以上380Pa以下であり、伸びが7%以上20%以下である、
請求項1または2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
導体と、
前記導体の周囲を覆う絶縁体と、
前記絶縁体の周囲を覆うように、複数の金属素線を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドからなるシールド層と、
前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備えた同軸ケーブルの製造方法であって、
前記導体の周囲に、押出成形により前記絶縁体を被覆し、コア部を形成するコア部形成工程と、
前記コア部の周囲に、複数の金属素線を
、隣り合う前記金属素線同士の間に隙間がある状態で、螺旋状に巻き付ける素線巻き付け工程と、
前記複数の金属素線を巻き付けた前記コア部を加熱し、前記絶縁体を軟化させる第1加熱工程と、
前記素線巻き付け工程後に加熱された前記複数の金属素線および前記コア部をダイスに通して、前記金属素線を前記コア部側へと圧縮することにより、前記絶縁体の複数の金属素線と接触する部分の表面に、前記複数の金属素線と嵌合するくぼみを形成すると共に、複数の金属素線の周方向における前記絶縁体と接触する部分を、前記絶縁体の前記くぼみと嵌合させかつ、前記シールド層の周方向に隣り合う前記複数の金属素線同士を面接触させて前記シールド層を形成する圧縮工程と、
前記シールド層を加熱し、前記圧縮工程による前記金属素線の歪みを緩和する第2加熱工程と、
前記シールド層の周囲に、押出成形により前記シースを被覆するシース形成工程と、を備えた、
同軸ケーブルの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の同軸ケーブルと、
前記同軸ケーブルの少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材と、を備えた、
ケーブルアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブル、同軸ケーブルの製造方法、及びケーブルアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転等に用いられる撮像装置や、スマートフォン、タブレット端末等電子機器の内部配線、あるいは、産業用ロボット等の工作機械で配線として用いられる高周波信号伝送用のケーブルとして、同軸ケーブルが用いられている。
【0003】
従来の同軸ケーブルとして、樹脂層上に銅箔を設けた銅テープ等のテープ部材を、絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けてシールド層を構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の同軸ケーブルでは、所定の周波数帯域(例えば、1.25GHz等の数GHzの帯域)で急激な減衰が生じるサックアウトと呼ばれる現象が発生してしまうという課題がある。
【0006】
これに対して、例えば、絶縁体の外表面にめっきを施してシールド層を構成することで、サックアウトの発生を抑制することが可能である。しかし、同軸ケーブルを繰り返し曲げたときに、めっきからなるシールド層に亀裂や絶縁体外面からのはく離が発生することがある。めっきからなるシールド層に亀裂や絶縁体外面からのはく離が発生すると、シールド効果が低下してしまう。すなわち、同軸ケーブルに生じるノイズをシールド層よって遮蔽する効果が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル、同軸ケーブルの製造方法、及びケーブルアセンブリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁体と、前記絶縁体の周囲を覆うように、複数の金属素線を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドを有するシールド層と、前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、前記絶縁体は、前記複数の金属素線と接触する部分の表面に、前記複数の金属素線と嵌合するくぼみを有しており、前記シールド層は、前記複数の金属素線の周方向における前記絶縁体と接触する部分が、前記絶縁体の前記くぼみと嵌合しており、かつ、前記シールド層の周方向に隣り合う前記複数の金属素線同士が面接触している、同軸ケーブルを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁体と、前記絶縁体の周囲を覆うように、複数の金属素線を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドからなるシールド層と、前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備えた同軸ケーブルの製造方法であって、前記導体の周囲に、押出成形により前記絶縁体を被覆し、コア部を形成するコア部形成工程と、前記コア部の周囲に、複数の金属素線を螺旋状に巻き付ける素線巻き付け工程と、前記複数の金属素線を巻き付けた前記コア部を加熱し、前記絶縁体を軟化させる第1加熱工程と、加熱された前記複数の金属素線および前記コア部をダイスに通して、前記金属素線を前記コア部側へと圧縮することにより、前記絶縁体の複数の金属素線と接触する部分の表面に、前記複数の金属素線と嵌合するくぼみを形成すると共に、複数の金属素線の周方向における前記絶縁体と接触する部分を、前記絶縁体の前記くぼみと嵌合させかつ、前記シールド層の周方向に隣り合う前記複数の金属素線同士を面接触させて前記シールド層を形成する圧縮工程と、前記シールド層を加熱し、前記圧縮工程による前記金属素線の歪みを緩和する第2加熱工程と、前記シールド層の周囲に、押出成形により前記シースを被覆するシース形成工程と、を備えた、同軸ケーブルの製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記同軸ケーブルと、前記同軸ケーブルの少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材と、を備えた、ケーブルアセンブリを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル、同軸ケーブルの製造方法、及びケーブルアセンブリを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る同軸ケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はその要部拡大図である。
【
図2】同軸ケーブルの製造する際のフロー図である。
【
図4】ケーブルアセンブリの端末部を示す断面図である。
【
図5】本発明の一形態に係る同軸ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図6】本発明を適用した多心ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る同軸ケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はその要部拡大図である。
【0015】
図1(a),(b)に示すように、同軸ケーブル1は、導体2と、導体2の周囲を覆うように設けられている絶縁体3と、絶縁体3の周囲を覆うように設けられているシールド層4と、シールド層4の周囲を覆うように設けられているシース5と、を備えている。
【0016】
導体2は、複数本の金属素線21を撚り合わせた撚線導体からなる。これに限らず、導体2としては、金属素線21を撚り合わせた後、ケーブル長手方向に垂直な断面形状が円形状となるように圧縮加工された圧縮撚線導体を用いることもできる。導体2として圧縮撚線導体を用いることで、導電率が向上し良好な伝送特性が得られると共に、曲げやすさも維持できる。また、金属素線21は、導電率や機械的強度を向上させる観点から、錫(Sn)、銀(Ag)、インジウム(In)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)等を含む銅合金線であってもよい。
【0017】
絶縁体3は、例えば、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)やFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる。絶縁体3は、発泡樹脂であってもよく、耐熱性を向上すべく架橋された樹脂で構成されてもよい。また、絶縁体3は、さらに多層構造となっていてもよい。例えば、導体2の周囲に非発泡のポリエチレンからなる第1非発泡層を設け、第1非発泡層の周囲に発泡ポリエチレンからなる発泡層を設け、発泡層の周囲に非発泡のポリエチレンからなる第2非発泡層を設けた3層構成とすることもできる。本実施の形態では、導体2の周囲に、PFAからなる絶縁体3をチューブ押出しにより形成した。絶縁体3をチューブ押出しにより形成することで、端末加工時に導体2から絶縁体3を剥がし易くなり、端末加工性が向上する。以下、導体2と絶縁体3とをまとめてコア部6と呼称する。
【0018】
シールド層4は、絶縁体3の周囲に複数の金属素線41を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドから構成されている。本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、シールド層4は、複数の金属素線41の周方向における一部を、絶縁体3に埋め込んで構成されている。つまり、本実施の形態では、絶縁体3は、複数の金属素線41と接触する部分の表面に、複数の金属素線41と嵌合するくぼみ3aを有しており、シールド層4は、複数の金属素線41の周方向における絶縁体3と接触する部分が、絶縁体3のくぼみ3aと嵌合している。
【0019】
図1(b)に示すように、各金属素線41のケーブル径方向における内側の部分は、絶縁体3のくぼみ3aに嵌合され絶縁体3(くぼみ3aの内周面)と密着した状態となっている。以下、金属素線41の外周面のうち、絶縁体3のくぼみ3aに嵌合されて絶縁体3と密着している部分を嵌合部41aと呼称する。絶縁体3の外周面には、金属素線41の形状に応じた凹凸が形成されており、金属素線41の一部が収容される(嵌合部41aと当接する)凹状のくぼみ3aと、周方向に隣り合う金属素線41の間に位置する凸部3bとが、周方向に交互に形成されている。
【0020】
さらに、本実施の形態では、シールド層4は、周方向に隣り合う金属素線41同士が面接触するように構成されている。周方向に隣り合う金属素線41が接触する部分においては、金属素線41が変形し略平坦な形状となっており、金属素線41同士が隙間無く接触している。以下、金属素線41同士が接触している略平坦な部分を素線接触部41bと呼称する。
【0021】
例えば、絶縁体3の周囲に複数の金属素線41を螺旋状に巻き付けて横巻きシールドを構成するだけでは、同軸ケーブルを曲げた際に、金属素線41間に隙間が発生してノイズ特性が低下してしまう。さらに、金属素線41の間に生じる隙間の影響により、所定の周波数帯域(例えば、10GHz等の帯域)で急激な減衰が生じるサックアウトと呼ばれる現象が発生してしまう。本実施の形態のように、シールド層4において、金属素線41の一部を絶縁体3のくぼみ3aに埋め込み、かつ、周方向に隣り合う金属素線41同士を面接触させることで、同軸ケーブル1を曲げた際に、各金属素線41が絶縁体3の曲げの動きに追従するため、金属素線41間に隙間が生じにくくなる。また、くぼみ3aに嵌合された各金属素線41は、絶縁体3の曲げに対して、くぼみ3aに沿うようにケーブル長手方向へ移動する。これにより、曲げて配線された場合であっても、ノイズ特性を向上することが可能になり、さらに26GHzまでの帯域においてサックアウトの発生を抑制することが可能になる。
【0022】
さらに、金属素線41が絶縁体3に埋め込まれることで、端末加工時にケーブル端末部においてシース5を除去しシールド層4を露出させた際に、金属素線41が解けにくくなり、端末加工を容易に行うことが可能になる。さらにまた、金属素線41が絶縁体3に密着されるため、導体2とシールド層4との距離を長手方向において一定に維持することが可能になり、ケーブル長手方向においてインピーダンスを安定して一定に維持することも可能になる。
【0023】
同軸ケーブル1を曲げた際に各金属素線41がくぼみ3aに沿うようにケーブル長手方向へ移動し、絶縁体3の動きに追従しやすくするために、ケーブル長手方向に垂直な断面において、複数の金属素線41の外周の長さのうち1/6以上が絶縁体3に埋め込まれている(絶縁体3のくぼみ3aの内周面に密着している)ことが望ましい。つまり、金属素線41の周方向に沿った嵌合部41aの長さLが、金属素線41の外周の長さの1/6以上であるとよい。さらに換言すれば、各金属素線41の外周面のうち、中心角が60度以上となる範囲が嵌合部41aとなっているとよい。金属素線41が埋め込まれている部分の長さLは、例えば、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて、同軸ケーブル1の横断面(同軸ケーブル1の長手方向に垂直な断面)を観察することにより求められる。
【0024】
詳細は後述するが、シールド層4は、コア部6に金属素線41を巻き付けた状態で加熱した後、ダイスに通すことで金属素線41をケーブル径方向内側に圧縮して形成される。この際、金属素線41がダイスの内周面に擦られることで、各金属素線41のケーブル径方向における外方の部分(嵌合部41aと対向する部分)には、略平坦な面からなる外部41cが形成される。なお、外部41cの形状は、ダイスの内周面に沿った形状となるため、完全に平坦な面ではなく、わずかに湾曲した面となっていることでもよい。
【0025】
本実施の形態では、金属素線41が絶縁体3に埋め込まれ固定されること(すなわち、金属素線41がくぼみ3aに嵌合され、くぼみ3aの内周面と金属素線41の外周面の一部とが密着した状態)になる。そして、この状態を維持して同軸ケーブル1の曲げやすさを確保するために、金属素線41としては、塑性変形しやすい低耐力な材質からなるものを用いることがよい。より具体的には、金属素線41としては、引張強さが200MPa以上380Pa以下であり、かつ伸びが7%以上20%以下であるものを用いるとよい。
【0026】
本実施の形態では、金属素線41として、軟銅線からなる金属線411の周囲に銀からなるめっき層412を有する銀めっき軟銅線を用いた。なお、金属線411としては、軟銅線に限らず、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、あるいは純銅に微量の不純物を添加した低軟化温度の線材等を用いることができる。また、めっき層412を構成する金属は銀に限らず、例えば錫や金であってもよく、めっき層412を省略することも可能である。
【0027】
また、金属素線41の導電率は、金属素線41に軟銅線を用いる場合は98%IACSであるとよく、金属素線41に銅合金線を用いる場合は80%IACS以上であるとよい。本実施の形態では、圧縮工程後に熱処理(第2加熱工程)を行うことで、導電率の改善を図っている。同軸ケーブル1の製造方法の詳細については、後述する。
【0028】
シース5は、例えば、PFAやFEP等のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、架橋ポリオレフィン等からなる。端末加工性を高めるために、シース5は、チューブ押出しや挿入押出しによって筒状に形成されていることが望ましく、シールド層4の金属素線41間に入り込まないように形成することが望ましい。本実施の形態では、フッ素樹脂からなるシース5をチューブ押出しにより形成した。
【0029】
シース5は、コア部6やシールド層4を保護するためのものであるが、本実施の形態では、金属素線41をケーブル径方向外側から内側へと締付け、金属素線41を絶縁体3に押し付けた状態で保持する役割も果たしている。そのため、シース5は、シールド層4をケーブル径方向外側から内側へと締付けるように設けられることが望ましい。
【0030】
(同軸ケーブル1の製造方法)
図2は、同軸ケーブル1の製造する際のフロー図である。
図2に示すように、同軸ケーブル1を製造する際には、まず、ステップS1にて、コア部形成工程を行う。コア部形成工程では、撚線導体からなる導体2の周囲に、押出成形により絶縁体3を被覆して、コア部6を形成する。端末加工時に導体2から絶縁体3を剥がし易くするために、絶縁体3は、チューブ押出しまたは挿入押出しにより形成することが望ましい。
【0031】
その後、ステップS2にて、素線巻き付け工程を行う。素線巻き付け工程では、コア部6の周囲に、複数の金属素線41を螺旋状に巻き付ける。素線巻き付け工程にて金属素線41を隙間無く巻き付けてしまうと、後述する圧縮工程で金属素線41をケーブル径方向内側に押し込んでも、金属素線41がケーブル径方向内側に移動しにくくなり、金属素線41が絶縁体3に埋め込まれなくなってしまうおそれがある。そのため、素線巻き付け工程では、金属素線41間にある程度隙間ができるように複数の金属素線41を巻き付けることが望ましい。具体的には、ケーブル軸方向に垂直な断面において、周方向に隣り合う金属素線41間の距離(隙間の長さ)の合計値が、金属素線41の外径の1倍以上、1.5倍以下とすることが好ましい。
【0032】
その後、ステップS3にて、第1加熱工程を行う。第1加熱工程では、
図3に示すように、金属素線41を巻き付けたコア部6をヒータ71により加熱する。この際、絶縁体3の軟化温度以上の温度に加熱して、絶縁体3を軟化させる。この際、絶縁体3が溶融してしまわない程度の温度に加熱するとよい。
【0033】
その後、ステップS4にて、圧縮工程を行う。圧縮工程では、
図3に示すように、第1加熱工程で加熱された金属素線41及びコア部6をダイス72に通して、金属素線41をコア部6側(ケーブル径方向内側)へと圧縮する。ダイス72の穴径は、コア部6に金属素線41を巻き付けた際の外径よりも小さく形成されており、コア部6及び金属素線41をダイス72に通すことで、金属素線41がケーブル径方向内側へと圧縮される。
【0034】
第1加熱工程により絶縁体3は軟化した状態となっているため、圧縮工程を行うことにより、金属素線41の周方向における一部が絶縁体3に埋め込まれる。金属素線41が埋め込まれることにより、絶縁体3の外周面にはくぼみ3aが形成され、金属素線41の一部がくぼみ3aに嵌合される。また、くぼみ3aを形成する際の肉の流動によって、周方向に隣り合う金属素線41の間の位置では盛り上がりが生じ、凸部3bが形成される。凸部3bは、周方向に隣り合う金属素線41と絶縁体3との間に形成される隙間を塞ぐように形成されるため、高周波信号を伝送する際の電気特性の改善に寄与する。
【0035】
また、圧縮工程で周方向に並んだ金属素線41がケーブル径方向内側へと押し込まれることにより、周方向に隣り合う金属素線41同士が互いに押し潰されて面接触された状態となり、素線接触部41bが形成される。また、この際、ダイス72の内周面に金属素線41が擦られることによって、各金属素線41に略平坦な面からなる外部41cが形成される。
【0036】
その後、ステップS5にて、第2加熱工程を行う。第2加熱工程では、
図3に示すように、ヒータ73によって金属素線41を加熱し、金属素線41の焼き鈍しを行う。これにより、圧縮工程による金属素線41の歪み(残留歪み)が緩和される。また、金属素線41の歪み(残留歪み)が緩和されることにより、金属素線41が直線状に戻ろうとする力が緩和され、コア部6の周囲に巻き付けられた形状のままとなるため、シース5を除去した際に金属素線41が解けにくくなり、端末加工性の向上に寄与する。このようなステップS2~ステップS5を経てシールド層4が形成されることになる。なお、金属素線41の歪み(応力歪み)を緩和させる必要がない場合は、ステップS5を省略してもよい。
【0037】
その後、ステップS6にて、シース形成工程を行う。シース形成工程では、シールド層4の周囲に、押出成形によりシース5を被覆する。端末加工性を高めるために、シース5は、チューブ押出しや挿入押出しによって形成されることが望ましい。以上により、同軸ケーブル1が得られる。
【0038】
(他の製造方法)
本実施の形態では、圧縮工程にて金属素線41を絶縁体3に埋め込んだが、これに限らず、押出成形等により予めくぼみ3aを有する絶縁体3を形成しておき、その後、くぼみ3aに嵌合するように複数の金属素線41を螺旋状に巻き付けした後に、複数の金属素線41同士が面接触するように横巻シールドを圧縮させることで、シールド層4を形成してもよい。製造の容易さの観点からは、上述したステップS1~ステップS6からなる製造方法とすることが好ましい。
【0039】
(ケーブルアセンブリ)
次に、同軸ケーブル1を用いたケーブルアセンブリについて説明する。
図4は、本実施の形態に係るケーブルアセンブリの端末部を示す断面図である。
【0040】
図4に示すように、ケーブルアセンブリ10は、本実施の形態に係る同軸ケーブル1と、同軸ケーブル1の少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材11と、を備えている。
【0041】
端末部材11は、例えば、コネクタ、センサ、コネクタやセンサ内に搭載される基板、あるいは電子機器内の基板等である。
図4では、端末部材11が基板11aである場合を示している。基板11aには、導体2が接続される信号電極12、及び、シールド層4が接続されるグランド電極13が形成されている。基板11aは、樹脂からなる基材16に信号電極12及びグランド電極13を含む導体パターンが印刷されたプリント基板からなる。
【0042】
同軸ケーブル1の端末部においては、端末から所定長さの部分のシース5が除去されシールド層4が露出されており、さらに露出されたシールド層4及び絶縁体3の端末部が除去され導体2が露出されている。露出された導体2が半田等の接続材14によって信号電極12に固定され、導体2が信号電極12に電気的に接続されている。また、露出されたシールド層4が半田等の接続材15によってグランド電極13に固定され、シールド層4がグランド電極13に電気的に接続されている。なお、導体2やシールド層4の接続は半田等の接続材14,15を用いずともよく、例えば、固定用の金具に導体2やシールド層4を加締め等により固定することで、導体2やシールド層4を接続してもよい。また、端末部材11がコネクタやセンサである場合、導体2やシールド層4を直接電極や素子に接続する構成としてもよい。
【0043】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、シールド層4が横巻きシールドからなり、絶縁体3は、複数の金属素線41と接触する部分の表面に、複数の金属素線41と嵌合するくぼみ3aを有しており、シールド層4は、複数の金属素線41の周方向における絶縁体3と接触する部分が、絶縁体3のくぼみ3aと嵌合しており、かつ、シールド層4の周方向に隣り合う複数の金属素線41同士が面接触している。
【0044】
金属素線41の一部を絶縁体3のくぼみ3aに嵌合させ、かつ周方向に隣り合う金属素線41同士が面接触するように構成することにより、同軸ケーブル1を繰り返し曲げても金属素線41間に隙間が生じにくくなる。金属素線41間の隙間を抑制することにより、ノイズ特性を向上し、サックアウトの発生を抑制することが可能になる。すなわち、本実施の形態によれば、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル1を実現できる。
【0045】
例えば、同軸ケーブル1を電子機器の内部配線として用いる場合、同軸ケーブル1はS字状やL字状に曲げた状態で配線されることが多い。本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、金属素線41が絶縁体3に埋め込まれているため、金属素線41が絶縁体3の曲げに追従する。つまり、本実施の形態では、同軸ケーブル1をS字状やL字状に曲げた場合であっても、金属素線41が絶縁体3に埋め込まれた状態が維持され、かつ金属素線41同士が面接触した状態が維持される。その結果、同軸ケーブル1を曲げて配線しても、金属素線41間に隙間が発生しにくくなり、ノイズ特性や電気特性の劣化を抑制することが可能になる。
【0046】
また、金属素線41が絶縁体3に埋め込まれることで、シース5を除去した際に金属素線41が解けにくくなり、端末加工性を向上できると共に、ケーブル端末部におけるシールド層4の乱れを抑制して電気特性を向上させることができる。さらに、導体2とシールド層4との距離を長手方向において一定に維持することが可能になり、ケーブル長手方向においてインピーダンスを安定して一定に維持することも可能になる。
【0047】
(他の実施の形態)
図5は、本発明の他の形態に係る同軸ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図5に示す同軸ケーブル1は、
図1(a),(b)の同軸ケーブル1において、一括めっき部42を有する点のみが異なるものである。
【0048】
一括めっき部42は、横巻きシールド(横巻きシールド部)の周囲全体を一括して覆うように設けられており、横巻きシールドと共に外部導体であるシールド層4を構成している。一括めっき部42は、隣り合う金属素線41同士を連結する導電性のめっきからなる。一括めっき部42を設けることで、一括めっき部42により金属素線41間の隙間を塞ぐことができ、ノイズ特性をより向上できる。さらに、金属素線41間の隙間がなくなることにより、26GHzまでの帯域においてサックアウトの発生をより抑制することが可能になる。
【0049】
この実施の形態では、一括めっき部42として、錫からなるものを用いた。ただし、これに限らず、一括めっき部42として、例えば銀、金、銅等からなるものを用いることができる。ただし、製造の容易さの観点から、錫からなる一括めっき部42を用いることがより好ましいといえる。
【0050】
絶縁体3の周囲に複数本の金属素線41を螺旋状に巻き付けして横巻きシールドを形成した後、溶融した錫を貯留した槽に通すことで、溶融めっきからなる一括めっき部42が形成される。このとき、横巻きシールドの周囲に錫が付着しやすくするために、横巻きシールドの周囲にフラックスを塗布した後に、溶融した錫を貯留した槽に通すことが望ましい。フラックスとしては、例えばロジン系のフラックス等を用いることができる。
【0051】
ここでは、金属素線41として銀めっき軟銅線を用いており、金属素線41の表面には銀からなるめっき層412が設けられている。一括めっき部42を形成する際、溶融した錫に接触する部分のめっき層412を構成する銀は槽内の錫に拡散し、金属素線41と一括めっき部42との間に銅と錫を含む金属間化合物413が形成される。本発明者らがSEM(走査型電子顕微鏡)を用いたEDX分析(エネルギー分散型X線分光法による分析)を行ったところ、金属素線41の表面に、銅と錫とからなる金属間化合物413が存在することが確認できた。なお、金属間化合物413には、めっき層412を構成する銀が含まれていると考えられるが、金属間化合物413における銀の含有量は、EDX分析で検出が難しい程度のごく微量である。
【0052】
一括めっき部42と接触しない部分の金属素線41(めっき時に溶融した錫と接触しない部分の金属素線41)には、銀からなるめっき層412が残存する。すなわち、嵌合部41a、素線接触部41b、及び嵌合部41aと素線接触部41bの間の部分には、銀からなるめっき層412が残存する。高周波信号の伝送においては、電流はシールド層4における絶縁体3側に集中するため、銀からなるめっき層412が存在することにより、シールド層4の導電性の低下を抑制し、良好な減衰特性を維持することが可能になる。
【0053】
(多心ケーブルへの適用)
また、本発明は、多心ケーブルにも適用可能である。
図6に示す多心ケーブル100は、
図1の同軸ケーブル1において、導体2及び絶縁体3を、ケーブルコア103に置き換えたものである。ケーブルコア103は、導体101aと導体101aの周囲を覆う絶縁体101bとを有する複数本(ここでは4本)の絶縁電線101と、撚り合わせた絶縁電線101の周囲を覆う内部シース103と、を有する。内部シース103は、複数の金属素線41と接触する部分の表面に、複数の金属素線41と嵌合するくぼみ103aを有しており、シールド層4は、複数の金属素線41の周方向における内部シース103と接触する部分が、内部シース103のくぼみ103aと嵌合しており、かつ、シールド層4の周方向に隣り合う複数の金属素線41同士が面接触している。内部シース103は、例えば、チューブ押出しによって形成されてもよい。これにより、内部シース103を充実押出しにより形成した場合と比較して、端末加工時に内部シース103を除去して絶縁電線101を露出させることが容易になり、端末加工の作業性を向上できる。なお、多心ケーブル100において、シールド層4は、
図5に示す同軸ケーブル1と同様に、複数の金属素線41から構成される横巻きシールドの周囲全体を一括して覆う一括めっき部が設けられている構造であってもよい。
【0054】
さらに、
図1の同軸ケーブル1を複数本束ね、その周囲を一括して覆うようにジャケットを設けて多心ケーブルを構成することも可能である。さらにまた、
図1の同軸ケーブル1と、他の電線とを束ね、その周囲を一括して覆うようにジャケットを設けて多心ケーブルを構成することも可能である。
【0055】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0056】
[1]導体(2)と、前記導体(2)の周囲を覆う絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)の周囲を覆うように、複数の金属素線(41)を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドからなるシールド層(4)と、前記シールド層(4)の周囲を覆うシース(5)と、を備え、前記絶縁体(3)は、前記複数の金属素線(41)と接触する部分の表面に、前記複数の金属素線(41)と嵌合するくぼみ(3a)を有しており、前記シールド層(4)は、前記複数の金属素線(41)の周方向における前記絶縁体(3)と接触する部分が、前記絶縁体(3)の前記くぼみ(3a)と嵌合しており、かつ、前記シールド層(4)の周方向に隣り合う前記複数の金属素線(41)同士が面接触している、同軸ケーブル(1)。
【0057】
[2]ケーブル長手方向に垂直な断面において、前記複数の金属素線(41)の外周の長さのうち1/6以上が前記絶縁体(3)の前記くぼみ(3a)と嵌合している、[1]に記載の同軸ケーブル(1)。
【0058】
[3]前記複数の金属素線(41)は、引張強さが200MPa以上380Pa以下であり、伸びが7%以上20%以下である、[1]または[2]に記載の同軸ケーブル(1)。
【0059】
[4]導体(2)と、前記導体(2)の周囲を覆う絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)の周囲を覆うように、複数の金属素線(41)を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドからなるシールド層(4)と、前記シールド層(4)の周囲を覆うシース(5)と、を備えた同軸ケーブル(1)の製造方法であって、前記導体(2)の周囲に、押出成形により前記絶縁体(3)を被覆し、コア部(6)を形成するコア部形成工程と、前記コア部(6)の周囲に、複数の金属素線(41)を螺旋状に巻き付ける素線巻き付け工程と、前記複数の金属素線(41)を巻き付けた前記コア部(6)を加熱し、前記絶縁体(6)を軟化させる第1加熱工程と、加熱された前記複数の金属素線および前記コア部(6)をダイス(72)に通して、前記金属素線(41)を前記コア部(6)側へと圧縮することにより、前記絶縁体(3)の複数の金属素線(41)と接触する部分の表面に、前記複数の金属素線(41)と嵌合するくぼみ(3a)を形成すると共に、複数の金属素線(41)の周方向における前記絶縁体(3)と接触する部分を、前記絶縁体(3)の前記くぼみ(3a)と嵌合させ、かつ、前記シールド層(4)の周方向に隣り合う前記複数の金属素線(41)同士を面接触させて前記シールド層(4)を形成する圧縮工程と、前記シールド層(4)を加熱し、前記圧縮工程による前記金属素線(41)の歪みを緩和する第2加熱工程と、前記シールド層(4)の周囲に、押出成形により前記シース(5)を被覆するシース形成工程と、を備えた、同軸ケーブルの製造方法。
【0060】
[5][1]乃至[3]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)と、前記同軸ケーブル(1)の少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材(11)と、を備えた、ケーブルアセンブリ(10)。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…同軸ケーブル
2…導体
3…絶縁体
3a…くぼみ
4…シールド層
41…金属素線
41a…嵌合部
41b…素線接触部
41c…外部
42…一括めっき部
5…シース
6…コア部
10…ケーブルアセンブリ
11…端末部材