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特許7424283導電膜とその製造方法、導電体、レジストパターンの形成方法及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】導電膜とその製造方法、導電体、レジストパターンの形成方法及び積層体
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/12 20060101AFI20240123BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240123BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240123BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20240123BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20240123BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240123BHJP
   G03F 7/039 20060101ALN20240123BHJP
   G03F 7/038 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
H01B1/12
H01B13/00 503D
H01B13/00 503Z
H01B5/14 Z
C08G73/00
G03F7/11 501
G03F7/20 521
G03F7/20 504
G03F7/039 601
G03F7/038 601
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020506645
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010536
(87)【国際公開番号】W WO2019177096
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018048383
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】牧川 早希
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 明
(72)【発明者】
【氏名】山田 直子
(72)【発明者】
【氏名】入江 嘉子
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 慎二
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 正志
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/017540(WO,A1)
【文献】特開2016-080964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/12
H01B 13/00
H01B 5/14
C08G 73/00
G03F 7/11
G03F 7/20
G03F 7/039
G03F 7/038
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマー(A)と、塩基性化合物(B)と、界面活性剤とを含み、膜厚が35nm以下である導電膜であり、
前記導電膜の表面抵抗値が1×1011Ω/□以下であり、
前記導電膜に電圧を印加した際の当該導電膜に流れる電流値の標準偏差が1.5以下である、導電膜。
【請求項2】
前記導電膜に電圧を印加した際の当該導電膜に流れる電流値の標準偏差が0.36以下である、請求項1に記載の導電膜。
【請求項3】
前記界面活性剤が、分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有する水溶性ポリマー(C)を含み、
下記測定方法により高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定したときの下記式(I)で求められる面積比が0.44以下である、請求項1又は2に記載の導電膜。
(測定方法)
前記導電膜を水に溶解させた水溶液から有機溶剤(β)にて前記水溶性ポリマー(C)を抽出した試験溶液(β)を、高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定し、下記式(I)より面積比を求める。ここで、有機溶剤(β)はn-ブタノール、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトンのいずれかである。
面積比=Y/(X+Y) ・・・(I)
(式(I)中、Xは、全イオン電流クロマトグラムから、分子量(M)が600以上の化合物に由来するイオンを用いて抽出イオンクロマトグラムを作成したときのピーク面積値の総和であり、Yは、全イオン電流クロマトグラムから、分子量(M)が600未満の化合物に由来するイオンを用いて抽出イオンクロマトグラムを作成したときのピーク面積値の総和である。)
【請求項4】
前記導電性ポリマー(A)が酸性基を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の導電膜。
【請求項5】
前記導電性ポリマー(A)が下記一般式(1)で表される単位を有する、請求項に記載の導電膜。
【化1】
式(1)中、R~Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子を表し、R~Rのうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。ここで、酸性基とはスルホン酸基又はカルボキシ基である。
【請求項6】
荷電粒子線描画時の帯電防止用である、請求項1~のいずれか一項に記載の導電膜。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の導電膜の製造方法であって、
前記導電性ポリマー(A)を含む導電性組成物を用いて前記導電膜を形成する、導電膜の製造方法。
【請求項8】
前記導電性組成物が、分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有する水溶性ポリマー(C)を含み、
前記水溶性ポリマー(C)をフィルターによる濾過又は吸着剤との接触により精製する工程を含む、請求項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項9】
前記導電性組成物中の前記導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の含有量が、前記導電性ポリマー(A)の総質量に対して0.8質量%以下である、請求項7又は8に記載の導電膜の製造方法。
【請求項10】
前記導電性組成物中の高沸点溶剤の含有量が、前記導電性組成物の総質量に対して150質量ppm以下であり、前記高沸点溶剤の沸点が180℃以上である、請求項7~9のいずれか一項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項11】
前記導電性組成物中の水の含有量が、前記導電性組成物の総質量に対して50質量%以上である、請求項7~10のいずれか一項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項12】
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられた、請求項1~のいずれか一項に記載の導電膜とを有する、導電体。
【請求項13】
化学増幅型レジストからなるレジスト層を片面上に有する基板の前記レジスト層の表面に、請求項1~のいずれか一項に記載の導電膜を形成する積層工程と、前記基板に対し、前記導電膜の側から電子線をパターン状に照射する露光工程とを有する、レジストパターンの形成方法。
【請求項14】
レジスト層と、前記レジスト層の表面に形成された帯電防止膜とを有する積層体であって、
前記帯電防止膜は導電性ポリマー(A)と、塩基性化合物(B)と、界面活性剤とを含み、
前記帯電防止膜の膜厚が35nm以下であり、
前記帯電防止膜の表面抵抗値が1×1011Ω/□以下であり、
かつ前記帯電防止膜に電圧を印加した際の当該帯電防止膜に流れる電流値の標準偏差が1.5以下である、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜とその製造方法、導電体、レジストパターンの形成方法及び積層体に関する。
本願は、2018年3月15日に、日本に出願された特願2018-048383号、に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
電子線やイオン線等の荷電粒子線を用いたパターン形成技術は、光リソグラフィーの次世代技術として期待されている。
荷電粒子線を用いる場合、生産性向上には、レジストの感度向上が重要である。従って、露光部分もしくは荷電粒子線が照射された部分に酸を発生させ、続いてポストエクスポージャーベーク(PEB)処理と呼ばれる加熱処理により架橋反応又は分解反応を促進させる、高感度な化学増幅型レジストの使用が主流となっている。
【0003】
ところで、荷電粒子線を用いるパターン形成方法においては、特に基板が絶縁性の場合、基板の帯電(チャージアップ)によって発生する電界が原因で、荷電粒子線の軌道が曲げられ、所望のパターンが得られにくいという課題がある。
【0004】
この課題を解決する手段として、導電性ポリマーを含む導電性組成物をレジスト層の表面に塗布して導電膜(帯電防止膜)を形成し、前記導電膜でレジスト層の表面を被覆する技術が有効であることが既に知られている。
例えば、特許文献1には、酸性基を有する導電性ポリマーと、含窒素官能基及び末端疎水性基を有する水溶性ポリマーと、溶剤とを含む導電性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-226721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の導電性組成物により形成された導電膜の場合、必ずしも導電性が均一ではなかった。導電膜の導電性が不均一であると電子線の照射にムラが発生し、電子線描画後のパターンの欠陥等が生じる場合がある。
【0007】
本発明は、導電性が均一な導電膜とその製造方法、導電体、レジストパターンの形成方法及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 導電性ポリマー(A)を含み、膜厚が35nm以下である導電膜であり、前記導電膜の表面抵抗値が1×1011Ω/□以下であり、前記導電膜に電圧を印加した際の当該導電膜に流れる電流値の標準偏差が5以下である、導電膜。
[2] 塩基性化合物(B)をさらに含む、[1]の導電膜。
[3] 界面活性剤をさらに含む、[1]又は[2]の導電膜。
[4] 前記導電性ポリマー(A)が酸性基を有する、[1]~[3]のいずれかの導電膜。
[5] 前記導電性ポリマー(A)が下記一般式(1)で表される単位を有する、[4]の導電膜。
【0009】
【化1】
【0010】
式(1)中、R~Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子を表し、R~Rのうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。ここで、酸性基とはスルホン酸基又はカルボキシ基である。
【0011】
[6] 荷電粒子線描画時の帯電防止用である、[1]~[5]のいずれかの導電膜。
[7] [1]~[6]のいずれかの導電膜の製造方法であって、前記導電性ポリマー(A)を含む導電性組成物を用いて前記導電膜を形成する、導電膜の製造方法。
[8] 前記導電性組成物中の前記導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の含有量が、前記導電性ポリマー(A)の総質量に対して0.8質量%以下である、[7]の導電膜の製造方法。
[9] 前記導電性組成物中の高沸点溶剤の含有量が、前記導電性組成物の総質量に対して150質量ppm以下であり、前記高沸点溶剤の沸点が180℃以上である、[7]又は[8]の導電膜の製造方法。
[10] 前記導電性組成物中の水の含有量が、前記導電性組成物の総質量に対して50質量%以上である、[7]~[9]のいずれかの導電膜の製造方法。
[11] 基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられた、[1]~[6]のいずれかの導電膜とを有する、導電体。
[12] 化学増幅型レジストからなるレジスト層を片面上に有する基板の前記レジスト層の表面に、[1]~[6]のいずれかの導電膜を形成する積層工程と、前記基板に対し、前記導電膜の側から電子線をパターン状に照射する露光工程とを有する、レジストパターンの形成方法。
[13] レジスト層と、前記レジスト層の表面に形成された帯電防止膜とを有する積層体であって、前記帯電防止膜は導電性ポリマー(A)を含み、前記帯電防止膜の膜厚が35nm以下であり、前記帯電防止膜の表面抵抗値が1×1011Ω/□以下であり、かつ前記帯電防止膜に電圧を印加した際の当該帯電防止膜に流れる電流値の標準偏差が5以下である、積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電性が均一な導電膜とその製造方法、導電体、レジストパターンの形成方法及び積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の導電体の一例を示す断面図である。
図2】本発明の積層体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「導電性」とは、1×1011Ω/□以下の表面抵抗値を有することである。表面抵抗値は、一定の電流を流した場合の電流間の電位差より求められる。
また、本発明において「末端疎水性基」の「末端」とは、ポリマーを構成する繰り返し単位以外の部位を意味する。
また、本明細書において「溶解性」とは、水、塩基及び塩基性塩の少なくとも一方を含む水、酸を含む水、水と水溶性有機溶剤との混合溶剤のうち、10g(液温25℃)に、0.1g以上均一に溶解することを意味する。また、「水溶性」とは、上記溶解性に関して、水に対する溶解性のことを意味する。
また、本明細書において「質量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定される質量平均分子量(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算又はポリエチレングリコール換算)である。
【0015】
[導電膜]
本発明の第一の態様の導電膜は、導電性ポリマー(A)を含み、膜厚が35nm以下である。導電膜は、塩基性化合物(B)をさらに含むことが好ましい。また、導電膜は、必要に応じて、分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有する水溶性ポリマー(C)等の界面活性剤や任意成分をさらに含んでいてもよい。
【0016】
本発明者らは鋭意検討した結果、導電膜に含まれる低分子量体が導電性を阻害する要因となり、導電性が不均一となることを突き止めた。
ここで、「低分子量体」としては、導電性ポリマー(A)由来と水溶性ポリマー(C)由来が挙げられる。導電性ポリマー(A)由来の低分子量体としては、導電性ポリマー(A)の原料モノマー(残留モノマー)や硫酸イオンなどが挙げられる。硫酸イオンは、導電性ポリマー(A)から脱離した遊離の酸性基や原料モノマーの重合に用いた酸化剤の分解物などである。水溶性ポリマー(C)由来の低分子量体としては、質量平均分子量が600以下のものが挙げられ、具体的には、水溶性ポリマー(C)の原料モノマー(残留モノマー)やオリゴマー、原料モノマーを重合する際に用いる各種添加剤などが挙げられる。ただし、導電膜が塩基性化合物(B)を含む場合、該塩基性化合物(B)は低分子量体に含まれないものとする。
なお、本明細書では、導電性ポリマー(A)由来の低分子量体を「導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分」ともいい、水溶性ポリマー(C)由来の低分子量体を「水溶性ポリマー(C)由来の重合残渣成分」ともいう。
【0017】
導電膜の膜厚は35nm以下であり、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。導電膜の膜厚が35nm以下であれば、膜中に存在する低分子量体の割合が相対的に減るため、導電性が均一となりやすい。また、導電膜の膜厚は5nm以上が好ましい。膜厚が5nm以上であれば、導電膜の平滑性を良好に維持できる。
導電膜の膜厚は、接触式段差計を用いて測定される値である。
【0018】
導電膜の表面抵抗値は1×1011Ω/□以下であり、5×1010Ω/□以下が好ましい。導電膜の表面抵抗値が低いほど導電率が高く、充分な導電性を有する。導電膜の表面抵抗値の下限値については特に制限されないが、通常は、1×10Ω/□である。
導電膜の表面抵抗値は、表面抵抗率計を用いて測定される値である。
【0019】
導電膜に電圧を印加した際の当該導電膜に流れる電流値の標準偏差は5以下であり、2.5以下が好ましく、2以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、1以下が特に好ましい。電流値の標準偏差が5以下であれば導電性が均一となる。電流値の標準偏差は小さいほど、すなわち0に近いほど好ましく、0が最も好ましい。
電流値の標準偏差は、コンダクティブ原子間力顕微鏡(C-AFM)等の走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて測定される値である。具体的には、導電性の短針を使用し、短針と導電膜との間に一定の電圧を印加して、短針からの電流値を計測・画像化しながら測定範囲0.5×1μm(測定点数64×128点)の領域を走査することにより電流値を計測し、平均値と電流値の標準偏差を求める。
【0020】
導電膜中の低分子量体のうち、導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の含有量は、導電膜中の導電性ポリマー(A)の総質量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。低分子量体の含有量が5質量%以下であれば、導電性がより均一となる。低分子量体の含有量は少ないほど好ましい。
導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の含有量は、イオンクロマトグラフ(IC)を用いて測定される。具体的には、導電膜を水に溶解させ、固形分濃度が2質量%になるように調整した試験溶液(α)について、ICを用いて導電性ポリマー(A)の残留モノマーの濃度と、硫酸イオン濃度を測定し、クロマトグラムを得る。このクロマトグラム上の残留モノマー及び硫酸イオンに相当するピークの面積または高さを読み取り、予め作成しておいた検量線から、導電性ポリマー(A)中の低分子量体の含有量を求める。
【0021】
導電膜中の低分子量体のうち、水溶性ポリマー(C)由来の低分子量体の含有量は、導電膜を水に溶解させた水溶液から有機溶剤(β)にて水溶性ポリマー(C)を抽出した試験溶液(β)を、高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定したときの、下記式(I)で求める面積比が0.44以下となる量が好ましい。下記式(I)で求める面積比が0.44以下となれば、導電性がより均一となる。下記式(I)より求められる面積比は小さいほど好ましい。
面積比=Y/(X+Y) ・・・(I)
(式(I)中、Xは、全イオン電流クロマトグラムから、分子量(M)が600以上の化合物に由来するイオンを用いて抽出イオンクロマトグラムを作成したときのピーク面積値の総和であり、Yは、全イオン電流クロマトグラムから、分子量(M)が600未満の化合物に由来するイオンを用いて抽出イオンクロマトグラムを作成したときのピーク面積値の総和である。)
有機溶剤(β)としては、導電膜に含まれる導電性ポリマー(A)を溶解せず、かつ水溶性ポリマー(C)を溶解することが可能な溶剤であれば特に制限されないが、SP値が6~15、より好ましくは7~13の有機溶剤が好ましく、具体的にはn-ブタノール、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0022】
導電膜の算術平均粗さ(Ra)は、0.7nm以下が好ましく、0.6nm以下がより好ましい。導電膜の算術平均粗さ(Ra)が0.7nm以下であれば、導電性がより均一となる。また、導電膜の算術平均粗さ(Ra)は、測定値の信頼性の観点から、0.1nm以上が好ましい。
導電膜の算術平均粗さ(Ra)は、触針式段差計(段差・表面あらさ・微細形状測定装置)を用いて測定される値である。
【0023】
<導電性ポリマー(A)>
導電性ポリマー(A)としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニレン、ポリテルロフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリアセン、ポリアセチレンなどが挙げられる。
これら中でも、導電性に優れる観点から、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンが好ましい。
【0024】
ポリピロールを構成する単量体(原料モノマー)の具体例としては、例えばピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシエチルピロール、3-メチル-4-カルボキシブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロールなどが挙げられる。
【0025】
ポリチオフェンを構成する単量体(原料モノマー)の具体例としては、例えばチオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブチレンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、3-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン、3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、及び4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウムなどが挙げられる。
ポリチオフェンを構成する単量体としては、上述した以外にも、例えば特開2016-188350号公報、特開2017-52886号公報、特開2014-65898号公報、特開2017-101102号公報等に示された単量体などが挙げられる。
【0026】
ポリアニリンを構成する単量体(原料モノマー)の具体例としては、例えばアニリン、2-メチルアニリン、3-イソブチルアニリン、2-メトキシアニリン、2-エトキシアニリン、2-アニリンスルホン酸、3-アニリンスルホン酸などが挙げられる。
【0027】
導電性ポリマー(A)は、水溶性又は水分散性を有していることが好ましい。導電性ポリマー(A)が水溶性又は水分散性を有していれば、導電性組成物の塗布性が高まり、均一な厚さの導電体が得られやすくなる。
【0028】
また、導電性ポリマー(A)は、酸性基を有していることが好ましい。導電性ポリマー(A)が酸性基を有していれば、水溶性が高まる。
酸性基を有する導電性ポリマーとしては、分子内にスルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有していれば、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、例えば、特開昭61-197633号公報、特開昭63-39916号公報、特開平1-301714号公報、特開平5-504153号公報、特開平5-503953号公報、特開平4-32848号公報、特開平4-328181号公報、特開平6-145386号公報、特開平6-56987号公報、特開平5-226238号公報、特開平5-178989号公報、特開平6-293828号公報、特開平7-118524号公報、特開平6-32845号公報、特開平6-87949号公報、特開平6-256516号公報、特開平7-41756号公報、特開平7-48436号公報、特開平4-268331号公報、特開2014-65898号公報等に示された導電性ポリマーなどが、溶解性の観点から好ましい。
【0029】
酸性基を有する導電性ポリマーとしては、具体的には、α位若しくはβ位が、スルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されたフェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、及びカルバゾリレンからなる群から選ばれた少なくとも1種を繰り返し単位として含む、π共役系導電性ポリマーが挙げられる。
また、前記π共役系導電性ポリマーがイミノフェニレン、及びガルバゾリレンからなる群から選ばれた少なくとも1種の繰り返し単位を含む場合は、前記繰り返し単位の窒素原子上に、スルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する、又はスルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されたアルキル基、若しくはエーテル結合を含むアルキル基を前記窒素原子上に有する導電性ポリマーが挙げられる。
この中でも、導電性や溶解性の観点から、β位がスルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されたチエニレン、ピロリレン、イミノフェニレン、フェニレンビニレン、カルバゾリレン、及びイソチアナフテンからなる群から選ばれた少なくとも1種をモノマーユニットとして有する導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0030】
導電性ポリマー(A)は、導電性や溶解性の観点から下記一般式(2)~(5)で表される単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を有することが好ましい。
【0031】
【化2】
【0032】
【化3】
【0033】
【化4】
【0034】
【化5】
【0035】
式(2)~(5)中、Xは硫黄原子、又は窒素原子を表し、R~R19は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子(-F、-Cl、-Br又はI)、-N(R20、-NHCOR20、-SR20、-OCOR20、-COOR20、-COR20、-CHO、又は-CNを表す。R20は炭素数1~24のアルキル基、炭素数1~24のアリール基、又は炭素数1~24のアラルキル基を表す。
ただし、一般式(2)のR~Rのうちの少なくとも一つ、一般式(3)のR~R10のうちの少なくとも一つ、一般式(4)のR11~R14のうちの少なくとも一つ、一般式(5)のR15~R19のうちの少なくとも一つは、それぞれ酸性基又はその塩である。
【0036】
ここで、「酸性基」とは、スルホン酸基(スルホ基)又はカルボン酸基(カルボキシ基)を意味する。
スルホン酸基は、酸の状態(-SOH)で含まれていてもよく、イオンの状態(-SO )で含まれていてもよい。さらに、スルホン酸基には、スルホン酸基を有する置換基(-R21SOH)も含まれる。
一方、カルボン酸基は、酸の状態(-COOH)で含まれていてもよく、イオンの状態(-COO)で含まれていてもよい。さらに、カルボン酸基には、カルボン酸基を有する置換基(-R21COOH)も含まれる。
前記R21は炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアリーレン基、又は炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアラルキレン基を表す。
【0037】
酸性基の塩としては、スルホン酸基又はカルボン酸基のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又は置換アンモニウム塩などが挙げられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム及びこれらの骨格を有する誘導体などが挙げられる。
アルカリ土類金属塩としては、例えばマグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
置換アンモニウム塩としては、例えば脂肪族アンモニウム塩、飽和脂環式アンモニウム塩、不飽和脂環式アンモニウム塩などが挙げられる。
脂肪族アンモニウム塩としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メチルエチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム、メチルプロピルアンモニウム、エチルプロピルアンモニウム、メチルイソプロピルアンモニウム、エチルイソプロピルアンモニウム、メチルブチルアンモニウム、エチルブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラメチロールアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラn-ブチルアンモニウム、テトラsec-ブチルアンモニウム、テトラt-ブチルアンモニウムなどが挙げられる。
飽和脂環式アンモニウム塩としては、例えば、ピペリジニウム、ピロリジニウム、モルホリニウム、ピペラジニウム及びこれらの骨格を有する誘導体などが挙げられる。
不飽和脂環式アンモニウム塩としては、例えば、ピリジニウム、α-ピコリニウム、β-ピコリニウム、γ-ピコリニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、ピロリニウム、及びこれらの骨格を有する誘導体などが挙げられる。
【0038】
導電性ポリマー(A)としては、高い導電性を発現できる観点から、上記一般式(5)で表される単位を有することが好ましく、その中でも特に、溶解性にも優れる観点から、下記一般式(1)で表される単位を有することがより好ましい。
【0039】
【化6】
【0040】
式(1)中、R~Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子(-F、-Cl、-Br又はI)を表し、R~Rのうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。ここで、酸性基とはスルホン酸基又はカルボキシ基である。
【0041】
前記一般式(1)で表される単位としては、製造が容易な点で、R~Rのうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基であり、他のいずれか一つがスルホン酸基であり、残りが水素であるものが好ましい。
【0042】
導電性ポリマー(A)において、溶解性が非常に良好となる観点から、ポリマー中の芳香環の総数に対する、酸性基が結合した芳香環の数は、50%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、100%が最も好ましい。
ポリマー中の芳香環の総数に対する、酸性基が結合した芳香環の数は、導電性ポリマー(A)製造時の、原料モノマーの仕込み比から算出した値のことを指す。
【0043】
また、導電性ポリマー(A)において、モノマーユニットの芳香環上の酸性基以外の置換基は、モノマーへの反応性付与の観点から電子供与性基が好ましく、具体的には、炭素数1~24のアルキル基、炭素数1~24のアルコキシ基、ハロゲン基(-F、-Cl、-Br又はI)等が好ましく、このうち、電子供与性の観点から、炭素数1~24のアルコキシ基であることが最も好ましい。
【0044】
導電性ポリマー(A)としては、高い導電性と溶解性を発現できる観点から、下記一般式(6)で表される構造を有する化合物であることが好ましく、下記一般式(6)で表される構造を有する化合物の中でも、ポリ(2-スルホ-5-メトキシ-1,4-イミノフェニレン)が特に好ましい。
【0045】
【化7】
【0046】
式(6)中、R22~R37は、各々独立に、水素原子、炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子(-F、-Cl、-Br又はI)からなる群より選ばれ、R22~R37のうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。nは重合度を示す。本発明においては、nは5~2500の整数であることが好ましい。
【0047】
導電性ポリマー(A)に含有される酸性基は、導電性向上の観点から少なくともその一部が遊離酸型であることが望ましい。
【0048】
導電性ポリマー(A)として、上述した以外にも、例えばスルホン酸基を有する導電性ポリマーとして、例えば下記一般式(7)、(8)で表される単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を有する導電性ポリマーを用いてもよい。
【0049】
【化8】
【0050】
【化9】
【0051】
式(7)、(8)中、Lは-(CH-、又は下記一般式(9)で表され、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。pは6~12の整数である。
ここで、「アミン化合物の共役酸」とは、アミン化合物にヒドロン(H)が付加してカチオン種になったものを示す。具体的には、sp3混成軌道を有するN(R38で表されるアミン化合物(共役酸としては[NH(R38で表される。)、又はsp2混成軌道を有すピリジン類化合物、イミダゾール類化合物などが挙げられる。R38は水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基である。
【0052】
【化10】
【0053】
式(9)中、R39は水素原子、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又はハロゲン原子(-F、-Cl、-Br又はI)を表す。qは1~6の整数を表す。
【0054】
前記一般式(8)で表される単位は、前記一般式(7)で表される単位のドーピング状態を表す。
ドーピングにより絶縁体-金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。アクセプタは、ドーピングにより導電性ポリマー(A)の高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。その結果、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、アクセプタはp型ドーパントとも呼ばれる。一方、ドナーは、主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0055】
導電性ポリマー(A)の質量平均分子量は、GPCのポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算で、導電性、溶解性及び成膜性の観点から、1000~100万が好ましく、1500~80万がより好ましく、2000~50万がさらに好ましく、2000~10万が特に好ましい。導電性ポリマー(A)の質量平均分子量が1000未満の場合、溶解性には優れるものの、導電性、及び成膜性が不足する場合がある。一方、導電性ポリマー(A)質量平均分子量が100万を超える場合、導電性には優れるものの、溶解性が不充分な場合がある。
ここで、「成膜性」とは、ハジキ等が無い均一な膜となる性質のことを指し、ガラス上へのスピンコート等の方法で評価することができる。
【0056】
導電性ポリマー(A)の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、本発明の効果を有する限り特に限定はされない。
具体的には、前述のいずれかのモノマーユニットを有する重合性単量体(原料モノマー)を化学酸化法、電解酸化法などの各種合成法により重合する方法等が挙げられる。このような方法としては、例えば特開平7-196791号公報、特開平7-324132号公報に記載の合成法などを適用することができる。
以下に、導電性ポリマー(A)の製造方法の一例について説明する。
【0057】
導電性ポリマー(A)は、例えば原料モノマーを塩基性反応助剤の存在下、酸化剤を用いて重合することで得られる。
塩基性反応助剤としては、例えば無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)などが挙げられる。
酸化剤としては、例えばペルオキソ二硫酸類(ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等)、過酸化水素などが挙げられる。
【0058】
重合の方法としては、例えば、酸化剤溶液中に原料モノマーと塩基性反応助剤の混合溶液を滴下する方法、原料モノマーと塩基性反応助剤の混合溶液に酸化剤溶液を滴下する方法、反応容器等に原料モノマーと塩基性反応助剤の混合溶液と、酸化剤溶液を同時に滴下する方法などが挙げられる。
【0059】
重合後は、通常、遠心分離器等の濾過器により溶媒を濾別する。さらに、必要に応じて濾過物を洗浄液により洗浄した後、乾燥させて、導電性ポリマー(A)を得る。
【0060】
このようにして得られる導電性ポリマー(A)には、原料モノマー(残留モノマー)や硫酸イオン等の低分子量体(重合残渣成分)が含まれている場合がある。これら低分子量体(重合残渣成分)は導電性を阻害する要因となる。
【0061】
よって、導電性ポリマー(A)を精製して低分子量体(重合残渣成分)を除去することが好ましい。すなわち、導電膜は、精製した導電性ポリマー(A)を含むことが好ましい。
導電性ポリマー(A)中の重合残渣成分の含有量は、導電性ポリマー(A)の総質量に対して、0.8質量%以下が好ましく、0.6質量%以下がより好ましい。重合残渣成分の含有量が0.8質量%以下であれば、導電性がより均一となる。重合残渣成分の含有量は少ないほど好ましい。
導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の含有量は、イオンクロマトグラフ(IC)により測定される。具体的には、導電性ポリマー(A)の固形分濃度が2質量になるように調整した水溶液に、溶離液を加えて、試験溶液を調整する。ICを用いて導電性ポリマー(A)の重合残渣成分の濃度を測定し、クロマトグラムを得る。このクロマトグラム上の重合残渣成分に相当するピークの面積または高さを読み取り、予め作成しておいた検量線から、導電性ポリマー(A)中の重合残渣成分の含有量を求める。溶離液としては、固形分濃度が1.8mmol/lの炭酸ナトリウム水溶液と、固形分濃度が1.7mmol/lの炭酸水素ナトリウム水溶液との混合液(質量比1:1)を用いる。
【0062】
また、導電膜に含まれる導電性ポリマー(A)が精製されたものであるか否かは、例えば上述した方法により、導電膜中の導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の含有量をイオンクロマトグラフ等で測定することで判断できる。具体的には、導電膜中の導電性ポリマー(A)の総質量に対して、導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の含有量が5質量%以下であれば、導電膜に含まれる導電性ポリマー(A)が精製されたものであると判断できる。
なお、導電性ポリマー(A)中の重合残渣成分は、主に残留モノマーと、重合に用いた酸化剤の分解物(硫酸イオン)である。一方、導電膜中の導電性ポリマー(A)由来の低分子量体は、主に残留モノマーと、重合に用いた酸化剤の分解物(硫酸イオン)と、導電性ポリマー(A)から脱離した遊離の酸性基(硫酸イオン)である。
【0063】
導電性ポリマー(A)の精製方法としては特に限定されず、イオン交換法、プロトン酸溶液中での酸洗浄、加熱処理による除去、中和析出などあらゆる方法を用いることができるが、純度の高い導電性ポリマー(A)を容易に得ることができる観点から、イオン交換法が特に有効である。
【0064】
イオン交換法としては、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂を用いたカラム式、バッチ式の処理;電気透析法などが挙げられる。
なお、イオン交換法で導電性ポリマー(A)を精製する場合は、重合で得られた反応混合物を所望の固形分濃度になるように水性媒体に溶解させ、ポリマー溶液としてから陽イオン交換樹脂等に接触させることが好ましい。
水性媒体としては、水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、後述する溶剤(D)と同様のものが挙げられる。
ポリマー溶液中の導電性ポリマー(A)の濃度としては、工業性や精製効率の観点から、0.1~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0065】
導電性ポリマー(A)に対する陽イオン交換樹脂の量は、導電性ポリマー(A)100質量部に対して100~2000質量部が好ましく、500~1500質量部がより好ましい。陽イオン交換樹脂の量が100質量部以上であれば、低分子量体が充分に除去される。一方、陽イオン交換樹脂の量が2000質量部を超えると、ポリマー溶液に対して過剰量となるため、陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン交換処理した後の、ポリマー溶液の回収が困難となる。
陽イオン交換樹脂としては、例えばオルガノ株式会社製の「アンバーライトIR-120B」などが挙げられる。陰イオン交換樹脂としては、例えばオルガノ株式会社製の「アンバーライトIRA410」などが挙げられる。
【0066】
ポリマー溶液と、陽イオン交換樹脂の接触方法としては、例えば、容器にポリマー溶液と陽イオン交換樹脂を入れ、攪拌又は回転させることで、陽イオン交換樹脂と接触させる方法が挙げられる。
また、陽イオン交換樹脂をカラムに充填し、ポリマー溶液を、好ましくはSV=0.01~20、より好ましくはSV=0.2~10の流量で通過させて、陽イオン交換処理を行う方法でもよい。
ここで、空間速度SV(1/hr)=流量(m/hr)/濾材量(体積:m)である。
【0067】
ポリマー溶液と、陽イオン交換樹脂を接触させる時間は、精製効率の観点から、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。
なお、接触時間の上限値については特に制限されず、ポリマー溶液の濃度、陽イオン交換樹脂の量、後述する接触温度などの条件に併せて、適宜設定すればよい。
ポリマー溶液と、陽イオン交換樹脂を接触させる際の温度は、工業的観点から、10~50℃が好ましく、10~30℃がより好ましい。
【0068】
電気透析法の場合、電気透析法のイオン交換膜は特に限定はされないが、不純物の拡散による浸透をより抑制するために、一価イオン選択透過処理が施されたイオン交換膜であって、分画分子量が300以下のものを使用することが好ましい。このようなイオン交換膜としては、例えば株式会社アストム製の「ネオセプタCMK(カチオン交換膜、分画分子量300)」、「ネオセプタAMX(アニオン交換膜、分画分子量300)」などが好適である。また、電気透析法に用いるイオン交換膜として、アニオン交換層、カチオン交換層を張り合わせた構造を持ったイオン交換膜であるバイポーラ膜を用いてもよい。このようなバイポーラ膜としては、例えば株式会社アストム製の「PB-1E/CMB」などが好適である。電気透析における電流密度は限界電流密度以下であることが好ましい。バイポーラ膜での印加電圧は、10~50Vが好ましく、25~35Vがより好ましい。
【0069】
<塩基性化合物(B)>
導電性ポリマー(A)が酸性基を有する場合、塩基性化合物(B)を用いると、導電性ポリマー(A)中の酸性基へ効率良く作用して塩を形成することで、導電性ポリマー(A)の安定性を高めることが可能になると考えられる。その結果、網目構造が形成されやすくなり、導電膜に電流が均一に流れやすくなり、導電性がより均一となる。
【0070】
塩基性化合物(B)としては、導電性ポリマー(A)の酸性基と塩を形成しやすく、導電性ポリマー(A)の安定性を高める点から、下記の化合物(b-1)、化合物(b-2)及び化合物(b-3)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
化合物(b-1):2つ以上の窒素原子を有する塩基性化合物。
化合物(b-2):窒素原子に結合する4つの置換基のうちの少なくとも1つが、炭素数1以上の炭化水素基である第4級アンモニウム化合物。
化合物(b-3):同一分子内に塩基性基と2つ以上のヒドロキシ基を有し、かつ融点が30℃以上である塩基性化合物。
【0071】
(化合物(b-1))
化合物(b-1)の分子内の窒素原子の数は2~6が好ましく、2~3がより好ましい。
化合物(b-1)としては、2つ以上の窒素原子を有するものであれば特に限定されないが、2つ以上の窒素原子が第3級アミン由来の窒素原子であることが好ましい。
また、化合物(b-1)は、共役構造を有することが好ましい。共役構造を有してれば、導電性ポリマー(A)の酸性基と効率よく塩を形成することができる。
化合物(b-1)としては、分子内に2つ以上の第3級アミンを有し、かつ共役構造を有する化合物がより好ましい。
また、化合物(b-1)の拡散性の観点から、120℃以上の沸点を有するものが好ましい。
なお、「分子内に2つ以上の第3級アミンを有する」とは、少なくとも一方の第3級アミンが、共役構造、すなわち環状構造に含まれていることを意味する。ここで、共役構造、すなわち、環状構造としては、例えば、炭素数6~10の芳香環構造、炭素数5~15の脂環構造が挙げられる。
【0072】
化合物(b-1)としては、具体的には、4-アミノピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、4-ジメチルアミノメチルピリジン、3,4-ジメチルアミノピリジン、3,4-ビス(ジメチルアミノ)ピリジン、2-アミノピラジン、2,3-ジアミノピラジン、メラミン、アンメリン、アンメリド、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)や、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、及び、それらの誘導体が挙げられる。これらの中でも、水溶性の観点では、4-ジメチルアミノピリジン、4-ジメチルアミノメチルピリジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)が好ましい。
これら化合物(b-1)は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0073】
化合物(b-1)の含有量は、導電性ポリマー(A)を構成する単位のうち、酸性基を有する単位1molあたり、1~100mol%が好ましく、20~80mol%がより好ましく、40~70mol%がさらに好ましい。特に、化合物(b-1)の含有量が40mol%以上であれば、導電性ポリマー(A)の酸性基と充分に塩を形成できる。一方、化合物(b-1)の含有量が80mol%以下であれば、導電膜の導電性がより向上する。
【0074】
(化合物(b-2))
化合物(b-2)において、4つの置換基が結合する窒素原子は、第4級アンモニウムイオンの窒素原子である。
化合物(b-2)において、第4級アンモニウムイオンの窒素原子に結合する炭化水素基としては、アルキル基、アラルキル基、アリール基等が挙げられる。
窒素原子に結合する4つの置換基のうちの少なくとも1つは、炭素数1以上のアルキル基である。後述する導電性組成物の塗布性が向上する観点から、窒素原子に結合する4つの置換基のうちの少なくとも1つは、炭素数3以上のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数4以上のアルキル基である。
【0075】
化合物(b-2)としては、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウム、水酸化テトラヘキシルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、水溶性が向上する観点で、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウムが好ましい。
これら化合物(b-2)は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0076】
化合物(b-2)の含有量は、導電性ポリマー(A)を構成する単位のうち、酸性基を有する単位1molに対して、1~100mol%が好ましく、20~80mol%がより好ましく、30~75mol%がさらに好ましい。化合物(b-2)の含有量が上記範囲内であれば、導電膜の導電性を良好に維持しつつ、導電性ポリマー(A)をより安定化できる。特に、化合物(b-2)の含有量が80mol%以下であれば、導電膜の導電性がより向上する。
【0077】
(化合物(b-3))
化合物(b-3)において、同一分子内に塩基性基のみを有する場合は、導電性ポリマー(A)の酸性基と効率よく塩を形成することが困難となる。一方、同一分子内にヒドロキシ基のみを有する場合は、導電性ポリマー(A)の酸性基と塩を形成できない。また、同一分子内中のヒドロキシ基の数が1つであったり、融点が30℃未満であったりすると、例えば、後述する導電性組成物中の流動性が悪くなる等の理由で、酸性基と効率よく塩を形成することができない。
【0078】
化合物(b-3)は、酸性基のレジスト層への移行抑制能、入手性及び製造のしやすさを考慮すると、ヒドロキシ基の数は、3つ以上が好ましい。また、化合物(b-3)中のヒドロキシ基の数の上限は、入手性の観点から、8以下であることが好ましい。すなわち、化合物(b-3)中のヒドロキシ基の数は、2~8であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。
【0079】
化合物(b-3)の融点は、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。
なお、化合物(b-3)の融点が高すぎると、例えば、溶媒への溶解性が低下する等の理由で、酸性基と効率よく塩を形成することが困難となる傾向にある。よって、化合物(b-3)の融点は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。すなわち、化合物(b-3)の融点は、30~300℃であることが好ましく、40~250℃であることがより好ましく、50~200℃であることがさらに好ましい。
【0080】
塩基性基としては、例えば、アレニウス塩基、ブレンステッド塩基、ルイス塩基等で定義される塩基性基が挙げられる。
ヒドロキシ基は、-OHの状態であってもよいし、保護基で保護された状態であってもよい。保護基としては、例えば、アセチル基;トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等のシリル基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基等のアセタール型保護基;ベンゾイル基;アルコキシド基などが挙げられる。
【0081】
化合物(b-3)としては、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸などが挙げられる。これらの中でも、水溶性や塩基性に優れる観点で、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが好ましい。
これら化合物(b-3)は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0082】
化合物(b-3)の含有量は、導電性ポリマー(A)を構成する単位のうち、酸性基を有する単位1molに対して、1~300mol%が好ましく、10~200mol%がより好ましい。化合物(b-3)の含有量が上記範囲内であれば、導電膜の導電性を良好に維持しつつ、導電性ポリマー(A)をより安定化できる。
【0083】
塩基性化合物(B)として、化合物(b-1)、化合物(b-2)及び化合物(b-3)以外の他の塩基性化合物を用いることもできる。
【0084】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有する水溶性ポリマー(C)、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、水溶性ポリマー(C)以外の非イオン系界面活性剤(他の非イオン系界面活性剤)などが挙げられる。これらの界面活性剤は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。これらの中でも、レジストへの影響を抑制しやすい観点から、水溶性ポリマー(C)が好ましい。
【0085】
(水溶性ポリマー(C))
水溶性ポリマー(C)は、分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有する。
詳しくは後述するが、導電膜は導電性ポリマー(A)を含む導電性組成物を基材等へ塗布して製造される。水溶性ポリマー(C)は分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有するので、界面活性能を発現しやすい。そのため、導電性組成物が水溶性ポリマー(C)をさらに含んでいれば、導電性組成物の基材等への塗布性が向上する。しかも、一般的な界面活性剤(例えばドデシルベンゼンスルホン酸等)はレジスト特性に悪影響を及ぼすことがあるが、水溶性ポリマー(C)であればレジストへの影響を抑制しやすい。
【0086】
含窒素官能基としては、溶解性の観点から、アミド基が好ましい。
末端疎水性基の炭素数は、4以上が好ましく、8以上がより好ましい。
末端疎水性基としては、疎水性基内にアルキル鎖、アラルキル鎖、又はアリール鎖を含むものが好ましく、溶解性や界面活性能の観点から、炭素数4~100のアルキル鎖、炭素数4~100のアラルキル鎖、及び炭素数4~100のアリール鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらアルキル鎖、アラルキル鎖及びアリール鎖の炭素数は、それぞれ4~70が好ましく、8~30がより好ましい。
このような末端疎水性基としては、具体的に、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、一級又は二級のアルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基等が挙げられる。これらの中でも、溶解性や界面活性能の観点から、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基が好ましく、アルキルチオ基が特に好ましい。
【0087】
水溶性ポリマー(C)としては、アミド結合を有するビニルモノマーのホモポリマー、又はアミド結合を有するビニルモノマーと、アミド結合を有さないビニルモノマー(その他のビニルモノマー)とのコポリマーを主鎖構造とし、かつ、ポリマーを構成する繰り返し単位以外の部位に疎水性基を有する化合物が好ましい。
【0088】
アミド結合を有するビニルモノマーとしては、アクリルアミド及びその誘導体、N-ビニルラクタム等が挙げられる。具体的には、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N-ビニル-N-メチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等が特に好ましい。
【0089】
水溶性ポリマー(C)の末端疎水性基の導入方法は、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、ビニル重合時の連鎖移動剤を選択することにより導入する方法が、簡便で好ましい。
例えば、分子内に含窒素官能基及び炭素数4以上の末端疎水性基を有する水溶性ポリマー(C)は、アミド結合を有するビニルモノマーと必要に応じて他のビニルモノマーとを、重合開始剤及び炭素数4以上の連鎖移動剤の存在下で重合して製造することができる。
この場合、連鎖移動剤としては、上述の末端疎水性基を導入することのできるものであれば、本発明の効果を有する限り特に限定はされないが、好ましい末端疎水性基であるアルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基等を容易に得ることができる、チオール、ジスルフィド、チオエーテルなどを好ましく用いることができる。
【0090】
水溶性ポリマー(C)の主鎖構造部分の繰り返し単位、すなわち、上述のアミド結合を有するビニルモノマーの重合度は、前記水溶性ポリマー(C)の溶解性の観点から、2~100000が好ましく、2~1000がより好ましく、3~200が特に好ましい。
また、界面活性能の観点から、前記水溶性ポリマー(C)の、主鎖構造部分の分子量(以下、「水溶性部分の分子量」と言うこともある)と末端疎水性部分の分子量(以下、「疎水性部分の分子量」と言うこともある)の比、すなわち、(水溶性部分の分子量)/(疎水性部分の分子量)は、1~1500であることが好ましく、5~1000であることがより好ましい。ここで、「水溶性部分の分子量」、及び「疎水性部分の分子量」は、得られた水溶性ポリマー(C)の質量平均分子量と、主鎖構造部分を構成するモノマーと、末端疎水性部分を構成する連鎖移動剤の仕込み比から算出することができる。
【0091】
水溶性ポリマー(C)の質量平均分子量は、GPCのポリエチレングリコール換算で、100~100万が好ましく、100~10万がより好ましく、400以上2000未満がさらに好ましく、600~1800が特に好ましい。水溶性ポリマー(C)の質量平均分子量が100以上であれば、後述する導電性組成物の塗布性の向上効果が発現しやくなる。一方、水溶性ポリマー(C)の質量平均分子量が100万以下であれば、水溶性が高まる。特に、水溶性ポリマー(C)の質量平均分子量が400以上2000未満であれば、実用的な水への溶解性と塗布性のバランスに優れる。
【0092】
水溶性ポリマー(C)としては、溶解性等の観点から、下記一般式(10)で表される化合物であることが好ましい。
【0093】
【化11】
【0094】
式(10)中、R40、R41は、各々独立に、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、又は炭化水素基を表す。また、R40、R41のうちの少なくとも一つは、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、又はアリールチオ基である。mは2~100000の整数を表す。
炭化水素基としては、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基が挙げられる。
【0095】
水溶性ポリマー(C)には、原料モノマー(残留モノマー)、副反応の併発に伴うオリゴマー、原料モノマーを重合する際に用いる各種添加剤等の低分子量体が含まれている場合がある。これら低分子量体は導電性を阻害する要因となる。
【0096】
よって、水溶性ポリマー(C)を精製して低分子量体(残留モノマーやオリゴマー、各種添加剤)を除去することが好ましい。すなわち、導電膜は、精製した水溶性ポリマー(C)を含むことが好ましい。
導電膜に含まれる水溶性ポリマー(C)が精製されたものであるか否かは、例えば上述した方法により、導電膜中の導電性ポリマー(C)由来の低分子量体の含有量を高速液体クロマトグラフ質量分析計等で測定することで判断できる。具体的には、前記式(I)で求める面積比が0.44以下であれば、導電膜に含まれる水溶性ポリマー(C)が精製されたものであると判断できる。
【0097】
水溶性ポリマー(C)の精製方法としては特に限定されず、オクタデシル基修飾シリカや活性炭などの疎水性物質等の吸着剤との接触、溶媒による洗浄、フィルターによる濾過等の方法が挙げられる。
【0098】
水溶性ポリマー(C)の含有量は、導電性ポリマー(A)100質量部に対して5~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。このように、水溶性ポリマー(C)の量を調整し、導電性ポリマー(A)と組み合わせることにより、導電性がより均一となる。
【0099】
(陰イオン系界面活性剤)
陰イオン系界面活性剤としては、例えば、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ペルフルオロノナン酸、N‐ラウロイルサルコシンナトリウム、ココイルグルタミン酸ナトリウム、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェノールスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウムなどが挙げられる。
【0100】
(陽イオン系界面活性剤)
陽イオン系界面活性剤としては、例えば、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、モノメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、トリメチルアミン塩酸塩、塩化ブチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化セチルピリジニウムなどが挙げられる。
【0101】
(両性界面活性剤)
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルメチル-β-アラニン、ラウリルジメチルアミン-N-オキシド、オレイルジメチルアミンN-オキシドなどが挙げられる。
【0102】
(他の非イオン系界面活性剤)
他の非イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、オクチルフェノールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコール、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オクチルグルコシド、デシルグルコシド、ラウリルグルコシド、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどが挙げられる。
【0103】
<任意成分>
導電膜は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて導電性ポリマー(A)、塩基性化合物(B)及び界面活性剤以外の成分(任意成分)を含んでいてもよい。
任意成分としては、高分子化合物や添加剤などが挙げられる。
【0104】
高分子化合物としては、例えばポリビニールホルマール、ポリビニールブチラール等のポリビニルアルコール誘導体類及びその変性体、デンプン及びその変性体(酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、カチオン化デンプン等)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びこれらの塩等)、ポリアクリルアミド、ポリ(N-t-ブチルアクリルアミド)、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸等のポリアクリルアミド類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸(塩)、ポリエチレングリコール、水溶性アルキド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリブタジエン樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリルスチレン共重合体樹脂、水溶性酢酸ビニルアクリル共重合体樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性スチレンマレイン酸共重合樹脂、水溶性フッ素樹脂及びこれらの共重合体などが挙げられる。
添加剤としては、例えば顔料、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、防腐剤などが挙げられる。
【0105】
<製造方法>
導電膜は、導電性ポリマー(A)を含む導電性組成物より形成される。以下、導電膜の製造方法の一例について説明する。
本実施形態の導電膜の製造方法は、基材上に導電性ポリマー(A)を含む導電性組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)と、乾燥後の塗膜を加熱処理する工程(加熱工程)とを有する。
また、本実施形態の導電膜の製造方法は、塗膜形成工程に先立ち、導電性組成物を調製する工程(調製工程)を有していてもよい。
【0106】
(調製工程)
調製工程は、導電性組成物を調製する工程である。
導電性組成物は、例えば導電性ポリマー(A)と溶剤(D)とを混合することで得られる。塩基性化合物(B)をさらに含む導電膜を製造する場合は、導電性ポリマー(A)と塩基性化合物(B)と溶剤(D)とを混合することで導電性組成物を調製する。さらに、これらの混合物に水溶性ポリマー(C)等の界面活性剤を添加すれば、基材に対する塗布性に優れる導電性組成物が得られる。また、必要に応じて任意成分を添加してもよい。
導電性ポリマー(A)、塩基性化合物(B)、水溶性ポリマー(C)等の界面活性剤及び任意成分としては、先に例示したものが挙げられる。
【0107】
ところで、上述したように、導電性ポリマー(A)には、残留モノマーや硫酸イオン等の低分子量体(重合残渣成分)が含まれている場合がある。これら低分子量体(重合残渣成分)は導電性を阻害する要因となる。よって、導電性ポリマー(A)としては、精製されたものを用いることが好ましい。具体的には、導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の含有量が、導電性ポリマー(A)の総質量に対して0.8質量%以下である導電性ポリマー(A)を用いることが好ましい。
すなわち、導電膜の製造方法は、調製工程の前に、導電性ポリマー(A)の精製工程を有していてもよい。
【0108】
精製された導電性ポリマー(A)は、低分子量体(重合残渣成分)が充分に除去されているので、より優れた導電性を示す。また、精製された導電性ポリマー(A)を含む導電性組成物を用いて形成される導電膜は、電流値の標準偏差がより小さくなり、導電性がより均一となる。加えて、平滑性にも優れた導電膜が得られる。
なお、精製後の導電性ポリマー(A)は、水などの水性媒体に分散又は溶解した状態である。従って、エバポレータなどで水性媒体を全て除去すれば固体状の導電性ポリマー(A)が得られるが、導電性ポリマー(A)は溶媒に分散又は溶解した状態のまま導電性組成物の調製に用いてもよい。
【0109】
また、水溶性ポリマー(C)には、残留モノマー、副反応の併発に伴うオリゴマー、原料モノマーを重合する際に用いる各種添加剤等の低分子量体が含まれている場合がある。これら低分子量体は導電膜中で凝集して導電膜の不均一化をもたらすことがある。よって、水溶性ポリマー(C)としては、精製されたものを用いることが好ましい。すなわち、導電膜の製造方法は、調製工程の前に、水溶性ポリマー(C)の精製工程を有していてもよい。
【0110】
精製された水溶性ポリマー(C)は、低分子量体が充分に除去されているので、より優れた導電性を示す。また、精製された水溶性ポリマー(C)を含む導電性組成物を用いて形成される導電膜は、電流値の標準偏差がより小さくなり、導電性がより均一となる。加えて、平滑性にも優れた導電膜が得られる。
なお、精製後の水溶性ポリマー(C)は、通常、水などの水性媒体に分散又は溶解した状態である。従って、エバポレータなどで水性媒体を全て除去すれば固体状の水溶性ポリマー(C)が得られるが、水溶性ポリマー(C)は溶媒に分散又は溶解した状態のまま導電性組成物の調製に用いてもよい。
【0111】
溶剤(D)としては、導電性ポリマー(A)を溶解することができる溶剤であれば、本発明の効果を有する限り特に限定はされないが、水、又は水と有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。
有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のピロリドン類;乳酸メチル、乳酸エチル、β-メトキシイソ酪酸メチル、α-ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類などが挙げられる。
溶剤(D)として、水と有機溶剤との混合溶剤を用いる場合、これらの質量比(水/有機溶剤)は1/100~100/1であることが好ましく、2/100~100/2であることがより好ましい。
【0112】
ところで、溶剤(D)として高沸点溶剤を含む導電性組成物を基材や後述するレジスト層に塗布すると、基材やレジスト層が浸食される場合がある。よって、導電性組成物中の高沸点溶剤の含有量は、導電性組成物の総質量に対して150質量ppm以下が好ましく、100質量ppm以下がより好ましい。導電性組成物中の高沸点溶剤の含有量は少ないほど好ましい。
ここで、高沸点溶剤とは、沸点が100℃以上の有機溶剤のことであり、具体的には、トルエン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0113】
導電性組成物中の導電性ポリマー(A)の含有量は、導電性組成物の総質量に対して、0.01~95質量%が好ましく、0.05~90質量%がより好ましい。
導電性組成物中の塩基性化合物(B)及び水溶性ポリマー(C)の含有量は、導電性ポリマー(A)に対する割合が上述した範囲内となる量が好ましい。
導電性組成物中の水の含有量は、導電性組成物の総質量に対して、50質量%以上が好ましく、80~99.5質量%がより好ましい。
【0114】
(塗膜形成工程)
塗膜形成工程は、基材上に導電性ポリマー(A)を含む導電性組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成する工程である。
基材としては、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、PET、PBT等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂、塩化ビニル、ナイロン、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリスルホン、ポリイミド、ポリウレタン、フェノール樹脂、シリコン樹脂、合成紙等の各種高分子化合物の成型品、及びフィルム、紙、鉄、ガラス、石英ガラス、各種ウエハ、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼等、及びこれらの基材表面に各種塗料や感光性樹脂、レジスト等がコーティングされているものなどを例示することができる。
基材の形状は特に限定されず、板状であってもよいし、板状以外の形状であってもよい。
前記基材に導電性組成物を塗布する工程は、これら基材の製造工程、例えば一軸延伸法、二軸延伸法、成形加工、又はエンボス加工等の工程前、又は工程中に行ってもよく、これら処理工程が完了した基材に対して行うこともできる。
【0115】
導電性組成物は、乾燥後の塗膜の膜厚が35nm以下となるように、好ましくは5~30nmとなるように基材上へ塗布する。
導電性組成物の基材への塗布方法としては、本発明の効果を有する限り特に限定はされないが、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、カーテンコート法等の手法が挙げられる。
【0116】
(加熱工程)
加熱工程は、乾燥後の塗膜を加熱処理する工程である。
加熱温度としては、導電性の観点から、40℃~250℃の温度範囲であることが好ましく、60℃~200℃の温度範囲であることがより好ましい。また、処理時間は、安定性の観点から、1時間以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましい。
【0117】
なお、加熱工程の代わりに、塗膜を常温(25℃)で1分間~60分間放置する処理を行ってもよい。
【0118】
<作用効果>
以上説明した本発明の導電膜は、電流値の標準偏差が5以下であるため、導電性が均一である。したがって、膜の位置による導電性の斑を低減できる。そして、例えば電子線リソグラフィーなどによるレジスト表面の帯電の影響を本発明の導電膜を使用することで、位置による斑を低減でき、均一なレジストパターンを形成できる。
電流値の標準偏差は、導電膜の膜厚が薄いほど小さくなる傾向にあるが、膜厚が薄くなるほど平滑性が低下する傾向にあり、かえって導電性が不均一となる場合がある。
上述したように、精製した導電性ポリマー(A)を用いて導電膜を形成すれば、導電膜中への導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の混入を軽減できるので、膜厚を過度に薄くしなくても電流値の標準偏差をより小さくすることができる。よって、平滑性を維持しつつ、導電性がより均一な導電膜が得られる。
また、導電性ポリマー(A)として酸性基を有する導電性ポリマーを用い、かつ塩基性化合物(B)と併用すれば、導電性ポリマー(A)の酸性基と塩基性化合物(B)とが塩を形成し、導電性ポリマー(A)同士の網目構造が形成される。したがって、電流が流れやすくなり、導電性がより均一となる。
【0119】
さらに、水溶性ポリマー(C)等の界面活性剤を併用すれば、基材上への導電性組成物の塗布性が向上する。特に、水溶性ポリマー(C)は一般的な界面活性剤とは異なり、主鎖構造部分(水溶性部分)と、末端疎水性基(疎水性部分)によって界面活性能を発現することができる。そのため、水溶性ポリマー(C)は酸、塩基を含まず、加水分解により生じる副生成物もないことから、レジスト等に悪影響を与えにくい。また、導電性ポリマー(A)の網目構造の間を塩基性化合物(B)と水溶性ポリマー(C)が配置することで、より均一な導電膜を形成し、導電膜の電流がより均一に流れやすくなる。特に、精製した水溶性ポリマー(C)を用いて導電膜を形成すれば、電膜中への水溶性ポリマー(C)由来の低分子量体の混入を軽減できるので、膜厚を過度に薄くしなくても電流値の標準偏差をより小さくすることができる。
【0120】
本発明の導電膜は、荷電粒子線描画時の帯電防止用として好適である。具体的には、本発明の導電膜を、化学増幅型レジストを用いた荷電粒子線によるパターン形成法のレジスト層の表面に形成する。こうして形成された導電膜がレジスト層の帯電防止膜となる。
また、上述した以外にも、本発明の導電膜は、例えばコンデンサ、透明電極、半導体等の材料として使用することもできる。
【0121】
[導電体]
本発明の第二の態様の導電体は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられた、本発明の第一の態様の導電膜とを有する。
図1は、本発明の第二の態様の導電体の一例を示す断面図である。
この例の導電体10は、板状の基材11と、基材11の一方の面上に設けられた導電膜12とを有する。
導電膜12は、上述した本発明の第一の態様の導電膜である。
基材11としては、導電膜の製造方法の説明において先に例示した基材が挙げられる。
【0122】
導電体10は、基材11上に導電膜12を形成することで得られる。具体的な製造方法は、導電膜の製造方法と同様である。すなわち、導電体10は、前記塗膜形成工程と加熱工程とを経て製造される。また、前記塗膜形成工程に先立ち、前記調製工程を行ってもよい。
【0123】
本発明の第二の態様の導電体は、本発明の第一の態様の導電膜を有するので、導電性が均一である。
本発明の第二の態様の導電体は上述したものに限定されない。例えば、図1に示す導電体10は、板状の基材11の一方の面上の全面に導電膜12が積層しているが、基材11の一方の面上の一部に導電膜12が積層していてもよいし、基材11の他方の面上の少なくとも一部にも導電膜12が積層していてもよい。また、基材11の側面の少なくとも一部に導電膜12が積層していてもよい。さらに、板状以外の形状の基材の表面の少なくとも一部に導電膜が積層していてもよい。
【0124】
[レジストパターンの形成方法]
<第三の態様>
本発明の第三の態様のレジストパターンの形成方法は、
化学増幅型レジストからなるレジスト層を片面上に有する基板の、前記レジスト層の表面に本発明の第一の態様の導電膜を形成する積層工程と、
前記基板に対し、前記導電膜の側から電子線をパターン状に照射する露光工程と、
前記露光工程の後、前記基板を加熱する露光後ベーク(以下、PEBともいう。)工程と、
前記PEB工程の後、水洗により前記導電膜を除去し、前記レジスト層を現像してレジストパターンを形成する水洗・現像工程と、
を有する。
【0125】
(積層工程)
積層工程は、化学増幅型レジストからなるレジスト層を片面上に有する基板の、前記レジスト層の表面に本発明の第一の態様の導電膜を形成する工程である。
基板としては、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、ガラス、石英ガラス、各種ウエハ、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、タンタル、ステンレス鋼等、及びこれらの基板表面に各種塗料や感光性樹脂がコーティングされているものなどが挙げられる。
【0126】
基板の片面上には、ポジ型又はネガ型の化学増幅型レジストからなるレジスト層が設けられる。
ポジ型の化学増幅型レジストとしては、電子線に感度を有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用できる。典型的には、電子線の照射により酸を発生する酸発生剤と、酸分解性基を有する構成単位を含む重合体とを含有するものが用いられる。
ポジ型レジスト層は公知の方法により形成できる。例えば基板の片面上に化学増幅型レジストの有機溶剤溶液を塗布し、必要に応じて加熱(プリベーク)を行うことによりポジ型のレジスト層を形成できる。
【0127】
ネガ型の化学増幅型レジストとしては、電子線に感度を有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用できる。典型的には、電子線の照射により酸を発生する酸発生剤と、現像液に可溶性の重合体と、架橋剤とを含有するものが用いられる。
ネガ型のレジスト層は、ポジ型のレジスト層と同様、公知の方法により形成できる。
【0128】
導電膜は、レジスト層の表面に上述した導電性組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成した後、必要に応じて乾燥後の塗膜を加熱処理することで形成される。これにより、基板とレジスト層と導電膜とがこの順に積層した積層体が得られる。
導電性組成物の塗布方法及び加熱処理の条件としては、導電膜の製造方法の説明において先に例示した塗布方法及び加熱処理の条件が挙げられる。
導電膜の膜厚は、35nm以下であり、5~30nmが好ましい。
【0129】
(露光工程)
露光工程は、前記基板に対し、前記導電膜の側から電子線をパターン状に照射する工程である。
露光工程により、基板と導電膜との間のレジスト層に潜像が形成される。
このとき、レジスト層の表面に導電膜が設けられていることにより、導電膜からアースをとることができ、基板全体の帯電を防止できる。そのため、帯電の影響でレジスト層に入射する電子の位置がずれることを抑制でき、目的とするレジストパターンに対応する潜像を精度良く形成できる。
【0130】
(PEB工程)
PEB工程は、前記露光工程の後、前記基板を加熱(PEB)する工程である。
露光工程で電子線を照射した基板を加熱することにより、ポジ型のレジスト層の場合は電子線照射部(露光部)で、酸発生剤から発生した酸の作用による反応が促進され、現像液への溶解性が増大する。一方、ネガ型のレジスト層の場合は逆に、現像液への溶解性が低下する。
基板の加熱は、ホットプレートを用いる等の公知の方法により行うことができる。加熱条件は、レジストにより異なるが、導電膜の耐熱性の点から、200℃以下、1時間以内が好ましい。
【0131】
(水洗・現像工程)
水洗・現像工程は、前記PEB工程の後、水洗により前記導電膜を除去し、前記レジスト層を現像してレジストパターンを形成する工程である。
導電膜は水溶性であるため、水洗を行うと、導電膜が溶解除去される。
水洗は、水性液に接触させることを示す。水性液としては、単なる水、塩基及び塩基性塩の少なくとも一方を含む水、酸を含む水、水と水溶性有機溶媒との混合物等が挙げられる。
【0132】
ポジ型のレジスト層を現像すると、ポジ型のレジスト層の電子線照射部(露光部)が溶解除去され、ポジ型のレジスト層の電子線未照射部(未露光部)からなるレジストパターンが形成される。
一方、ネガ型のレジスト層を現像すると、ポジ型のレジスト層の場合とは逆に、電子線未照射部(未露光部)が溶解除去され、ネガ型のレジスト層の電子線照射部(露光部)からなるレジストパターンが形成される。
【0133】
水洗・現像工程は、例えば以下の(α)又は(β)の方法により行うことができる。
方法(α):水洗にアルカリ現像液を用い、導電膜の除去と共にレジスト層の現像を行う。
方法(β):水洗により導電膜のみを除去し、次いで、現像液によりレジスト層を現像する。
【0134】
方法(α)で用いるアルカリ現像液(アルカリ水溶液)としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えばテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液等が挙げられる。
方法(β)の水洗は、現像液に該当しない水性液、例えば水等を用いて行うことができる。現像は、方法(α)と同様、アルカリ現像液を用いて行うことができる。
【0135】
(他の形態)
第三の態様のレジストパターンの形成方法においては、積層工程と露光工程との間に、基板を保管する工程(保管工程)を有していてもよい。
積層工程の後、保管期間を設けると、その間にレジスト層が導電膜からの影響を受け、レジスト層の電子線未照射部の現像後の膜厚が、保管期間を設けない場合に比べて薄くなる傾向がある。
保管工程における保管期間、温度、湿度等の保管条件は、本発明の効果を有する限り特に限定はされないが、2か月以内、5℃~30℃、70%以下が好ましい。
【0136】
また、水洗・現像工程の後に、必要に応じて、基板を純水等でリンス処理してもよい。
水洗・現像工程の後、又はリンス処理後に、必要に応じて、レジストパターンが形成された基板を加熱(ポストベーク)してもよい。
【0137】
<第四の態様>
本発明の第四の態様のレジストパターンの形成方法は、
化学増幅型レジストからなるレジスト層を片面上に有する基板の、前記レジスト層の表面に本発明の第一の態様の導電膜を形成する積層工程と、
前記基板に対し、前記導電膜の側から電子線をパターン状に照射する露光工程と、
前記露光工程の後、水洗により前記導電膜を除去する水洗工程と、
前記水洗工程の後、前記基板を加熱する露光後ベーク工程(PEB工程)と、
前記PEB工程の後、前記レジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、
を有する。
【0138】
第四の態様のレジストパターンの形成方法は、水洗による導電膜の除去を、露光工程の後、PEB工程の前に行うこと以外は、第三の態様のレジストパターンの形成方法と同様である。
【0139】
PEB時に導電膜があると、熱によって導電膜中の酸性物質や塩基性物質がレジスト層に移行し、レジストパターンに影響を及ぼすことがある。第四の態様のレジストパターンの形成方法においては、PEB工程の前に導電膜を除去することで、PEB時にレジスト層が導電膜からの影響を受けることを防止でき、導電膜からの影響がより少ないレジストパターンを形成できる。
水洗工程は、第三の態様のレジストパターンの形成方法の水洗・現像工程における水洗と同様に実施できる。
【0140】
なお、第四の態様のレジストパターンの形成方法においては、積層工程と露光工程との間に、基板を保管する工程(保管工程)を有していてもよい。保管工程は、第三の態様のレジストパターンの形成方法の保管工程と同様である。
また、現像工程の後に、必要に応じて、基板を純水等でリンス処理してもよい。
現像後、又はリンス処理後に、必要に応じて、レジストパターンが形成された基板を加熱(ポストベーク)してもよい。
【0141】
<作用効果>
以上説明した本発明の第三、第四の態様のレジストパターンの形成方法によれば、レジスト層の表面に本発明の第一の態様の導電膜が設けられた状態で露光工程を行うので、基板全体の帯電を防止できる。そのため、帯電の影響でレジスト層に入射する電子の位置がずれることを抑制でき、目的とするレジストパターンに対応する潜像を精度良く形成できる。しかも本発明の第一の態様の導電膜は導電性が均一であるため、露光度合にムラが生じにくく、均一なレジストパターンを形成できる。
【0142】
[パターンが形成された基板の製造方法]
パターンが形成された基板の製造方法は、上述した本発明の第三、第四の態様のレジストパターンの形成方法によりレジストパターンを形成して、片面上にレジストパターンが形成された基板を得る工程(以下、レジストパターン形成工程)、を有する。
該レジストパターン工程により、片面上にレジストパターンを有する基板が得られる。
【0143】
パターンが形成された基板の製造方法は、前記レジストパターン工程の後、得られた基板を、前記レジストパターンをマスクとしてエッチングする工程(エッチング工程)をさらに有してもよい。
また、エッチング工程の後に基板上にレジストパターンが残存する場合は、基板上のレジストパターンを剥離剤によって除去する工程をさらに有してもよい。
【0144】
上記のようにして、パターンが形成された基板が得られる。例えば、基板として、透明基板とその表面に設けられた遮光膜とを備えるものを使用し、エッチング工程で遮光膜をエッチングすることにより、フォトマスクを製造することができる。
【0145】
[積層体]
本発明の第五の態様の積層体は、レジスト層と、前記レジスト層の表面に形成された帯電防止膜とを有する。
図2は、本発明の第五の態様の積層体の一例を示す断面図である。
この例の積層体20は、板状の基板21と、基板21の一方の面上に設けられたレジスト層22と、レジスト層22上に設けられた帯電防止膜23とを有する。
基板21としては、本発明の第三の態様のレジストパターンの形成方法の説明において先に例示した基板が挙げられる。
レジスト層22としては、本発明の第三の態様のレジストパターンの形成方法の説明において先に例示したレジスト層が挙げられる。
帯電防止膜23は、上述した本発明の第一の態様の導電膜からなる。
【0146】
積層体20は、基板21上にレジスト層22及び帯電防止膜23をこの順で形成することで得られる。具体的な製造方法は、本発明の第三の態様のレジストパターンの形成方法の積層工程と同様である。
【0147】
本発明の第五の態様の積層体は、本発明の第一の態様の導電膜からなる帯電防止膜を有するので、導電性が均一である。
【0148】
本発明のその他の態様としては、以下の通りである。
<1> 導電性ポリマー(A)を含み、膜厚が35nm以下である導電膜であり、前記導電膜の表面抵抗値が1×1011Ω/□以下であり、前記導電膜に電圧を印加した際の当該導電膜に流れる電流値の標準偏差が5以下である、導電膜。
<2> 塩基性化合物(B)をさらに含む、<1>の導電膜。
<3> 前記塩基性化合物(B)が、前記化合物(b-1)、化合物(b-2)及び化合物(b-3)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、<2>の導電膜。
<4> 前記化合物(b-1)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)を構成する単位のうち、酸性基を有する単位1molあたり、1~100mol%である、<3>の導電膜。
<5> 前記化合物(b-2)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)を構成する単位のうち、酸性基を有する単位1molに対して、1~100mol%である、<3>又は<4>の導電膜。
<6> 前記化合物(b-3)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)を構成する単位のうち、酸性基を有する単位1molに対して、1~300mol%である、<3>~<5>のいずれかの導電膜。
<7> 前記塩基性化合物(B)が、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)及び水酸化テトラブチルアンモニウムの少なくとも一方を含む、<3>~<6>のいずれかの導電膜。
<8> 界面活性剤をさらに含む、<1>~<7>のいずれかの導電膜。
<9> 前記界面活性剤が、分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有する水溶性ポリマー(C)を含む、<8>の導電膜。
<10> 前記水溶性ポリマー(C)が、前記一般式(10)で表される化合物である、<9>の導電膜。
<11> 前記水溶性ポリマー(C)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)100質量部に対して5~200質量部である、<9>又は<10>の導電膜。
<12> 下記測定方法により高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定したときの下記式(I)で求められる面積比が0.44以下である、<9>~<11>のいずれかの導電膜。
(測定方法)
前記導電膜を水に溶解させた水溶液から有機溶剤(β)にて前記水溶性ポリマー(C)を抽出した試験溶液(β)を、高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定し、下記式(I)より面積比を求める。ここで、有機溶剤(β)はn-ブタノール、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトンのいずれかである。
面積比=Y/(X+Y) ・・・(I)
(式(I)中、Xは、全イオン電流クロマトグラムから、分子量(M)が600以上の化合物に由来するイオンを用いて抽出イオンクロマトグラムを作成したときのピーク面積値の総和であり、Yは、全イオン電流クロマトグラムから、分子量(M)が600未満の化合物に由来するイオンを用いて抽出イオンクロマトグラムを作成したときのピーク面積値の総和である。)
<13> 前記導電性ポリマー(A)が酸性基を有する、<1>~<12>のいずれかの導電膜。
<14> 前記導電性ポリマー(A)が前記一般式(1)で表される単位を有する、<13>の導電膜。
<15> 前記導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の含有量が、前記導電膜中の導電性ポリマー(A)の総質量に対して、5質量%以下である、<1>~<14>のいずれかの導電膜。ここで、導電性ポリマー(A)由来の低分子量体とは、導電性ポリマー(A)の原料モノマー(残留モノマー)及び硫酸イオンであり、硫酸イオンは、導電性ポリマー(A)から脱離した遊離の酸性基及び原料モノマーの重合に用いた酸化剤の分解物である。
<16> 算術平均粗さ(Ra)が0.7nm以下である、<1>~<15>のいずれかの導電膜。
<17> 荷電粒子線描画時の帯電防止用である、<1>~<16>のいずれかの導電膜。
<18> <1>~<17>のいずれかの導電膜の製造方法であって、前記導電性ポリマー(A)及び溶剤(D)と、必要に応じて塩基性化合物(B)、界面活性剤及び任意成分の1種以上とを含む導電性組成物を用いて前記導電膜を形成する、導電膜の製造方法。
<19> 前記導電性組成物中の前記導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の含有量が、前記導電性ポリマー(A)の総質量に対して0.8質量%以下である、<18>の導電膜の製造方法。
<20> 前記導電性組成物中の高沸点溶剤の含有量が、前記導電性組成物の総質量に対して150質量ppm以下であり、前記高沸点溶剤の沸点が180℃以上である、<18>又は<19>の導電膜の製造方法。
<21> 前記導電性組成物中の水の含有量が、前記導電性組成物の総質量に対して50質量%以上である、<18>~<19>のいずれかの導電膜の製造方法。
<22> 基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられた、<1>~<17>のいずれかの導電膜とを有する、導電体。
<23> 化学増幅型レジストからなるレジスト層を片面上に有する基板の前記レジスト層の表面に、<1>~<17>のいずれかの導電膜を形成する積層工程と、前記基板に対し、前記導電膜の側から電子線をパターン状に照射する露光工程とを有する、レジストパターンの形成方法。
<24> レジスト層と、前記レジスト層の表面に形成された帯電防止膜とを有する積層体であって、前記帯電防止膜は<1>~<17>のいずれかの導電膜である、積層体。
【実施例
【0149】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施例及び比較例における各種測定・評価方法は以下の通りである。実施例1、4は参考例である。
【0150】
<測定・評価方法>
(膜厚の測定)
接触式段差計(KLA-Tencor社製、「Stylus profiler P-16+」)を用いて、導電膜の膜厚を測定した。
【0151】
(表面抵抗値の測定)
ハイレスタMCP-HT260(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用い、2端子法(電極間距離20mm)にて、導電膜の表面抵抗値を測定した。
【0152】
(導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の含有量の測定)
導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の含有量は、イオンクロマトグラフ(IC)により測定した。具体的には、導電性ポリマー(A)の固形分濃度が2質量になるように調整した水溶液に、以下の溶離液を加えて、試験溶液を調整した。ICを用いて導電性ポリマー(A)の重合残渣成分の濃度を測定し、クロマトグラムを得た。このクロマトグラム上の重合残渣成分に相当するピークの面積または高さを読み取り、予め作成しておいた検量線から、導電性ポリマー(A)中の重合残渣成分の含有量を求めた。
<<IC測定条件>>
・装置:イオンクロマトグラフ IC-2010(東ソー株式会社製)
・カラム:TSKguard Column Super IC-Anion HS C-No W00052
・溶離液:固形分濃度が1.8mmol/lの炭酸ナトリウム水溶液と、固形分濃度が1.7mmol/lの炭酸水素ナトリウム水溶液との混合液(質量比1:1)
・流速:1.5ml/分
・測定温度:40℃
・試料注入量:30μl
【0153】
(低分子量体の含有量の測定1:導電性ポリマー(A)由来の低分子量体)
導電膜を水に溶解させ、固形分濃度が2質量%になるように調整した水溶液を試験溶液(α)として用い、該試験溶液(α)に以下の溶離液を加えて、以下のイオンクロマトグラフ(IC)測定条件にて測定した。得られたクロマトグラム上の残留モノマー及び硫酸イオンに相当するピークの面積または高さを読み取り、予め作成しておいた検量線から、導電性ポリマー(A)中の低分子量体の含有量を求めた。
<<IC測定条件>>
・装置:イオンクロマトグラフ IC-2010(東ソー株式会社製)
・カラム:TSKguard Column Super IC-Anion HS C-No W00052
・溶離液:固形分濃度が1.8mmol/lの炭酸ナトリウム水溶液と、固形分濃度が1.7mmol/lの炭酸水素ナトリウム水溶液との混合液(質量比1:1)
・流速:1.5ml/分
・測定温度:40℃
・試料注入量:30μl
【0154】
(低分子量体の含有量の測定2:水溶性ポリマー(C)由来の低分子量体)
導電膜を水に溶解させ、固形分濃度が2質量%になるように調整した水溶液2mlに、1mlのn-ブタノールを加え、振とう抽出して二層分離した後、上層のn-ブタノール層を分取した。分取したn-ブタノール層を試験溶液(β)として用い、以下のLC-MS測定条件にて測定した。
得られた全イオン電流クロマトグラムから、各化合物に由来するイオンを用いて抽出イオンクロマトグラムを作成し、それぞれピーク面積値を求めた。分子量(M)が600以上の化合物に由来するピークの面積値の総和を(X)、分子量(M)が600未満の化合物に由来するピークの面積値の総和を(Y)とし、面積比=Y/(X+Y)を算出した。
<<LC-MS測定条件>>
・装置:LC/1200シリーズ、質量分析計/6220A 飛行時間型質量分析計(Agilent Technologies社製)
・カラム:CAPCELL PAK C18 AQ(3μm、2.0×250mm)(株式会社資生堂製)
・溶離液A:0.1%ギ酸含有水
・溶離液B:0.1%ギ酸含有アセトニトリル/イソプロピルアルコール=1/1(v/v)
・グラジエント溶離条件:リニアグラジエント 0分(溶離液A/溶離液B=98/2)-55分(溶離液A/溶離液B=0/100)-75分(溶離液A/溶離液B=0/100)
・流速:0.2ml/分
・測定温度:40℃
・試料注入量:5μl
<<質量分析>>
・イオン化法:ESI
・極性:正イオン
・キャピラリー電圧:3500V
・フラグメンター電圧:150V
・ネブライザー圧力:50psig
・乾燥ガス温度:350℃
・乾燥ガス流量:10L/分
【0155】
(電流値の測定)
導電体から導電膜を剥離し、剥離した導電膜を、銀ペーストを用いて導電性を有する試料台上に固定した。走査型プローブ顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製、「SPA400」)を用い、下記の測定条件で短針と導電膜との間に一定の電圧を印加して、短針からの電流値を計測・画像化しながら測定領域を走査することにより電流値を計測した。電流値の平均値および電流値の標準偏差を求めた。
<<測定条件>>
・測定モード:Nano Current AFM(SISモード併用)・カンチレバー:SI-DF3-R
・電圧:-0.2V(実施例1、比較例1、2)又は-1.0V(実施例2~5)・測定範囲:0.5×1μm
・測定点数:64×128点
【0156】
(平滑性の評価)
走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツル株式会社製、「SPI4000/SPA400」)を用い、下記の測定条件にて、導電膜の算術平均粗さ(Ra)を測定した。
<<測定条件>>
・カンチレバー:SI-DF20
・測定モード:タッピングモード
・走査範囲:1μm×1μm
・走査速度:0.6Hz
【0157】
(膜減り試験による評)
<<膜減り量の測定>>
化学増幅型電子線レジスト(以下、「レジスト」と略す。)を使用し、レジスト層の膜減り量を以下の手順(1A)~(8A)で測定した。
(1A)レジスト層の形成:基材として4インチシリコンウエハー上にレジスト0.2μmをスピンコーターにて2000rpm×60秒間の条件で回転塗布した後、ホットプレートにて130℃で90秒間プリベークを行い、溶剤を除去し、基材上にレジスト層を形成した。
(2A)レジスト層の膜厚測定1:基材上に形成されたレジスト層の一部を剥離し、基材面を基準位置として、触針式段差計(Stylus profiler P-16+, KLA-Tencor Corporation製)を用い、初期のレジスト層の膜厚a[nm]を測定した。
(3A)導電膜の形成:レジスト層上に導電性組成物2mLを滴下し、レジスト層の表面全体を覆うように、スピンコーターにて2000rpm×60秒間の条件で回転塗布した後、ホットプレートにて80℃で2分間プリベークを行い、溶剤を除去し、レジスト層上に膜厚約30nmの導電膜を形成した。
(4A)PEB処理:導電膜とレジスト層が積層した基材を空気雰囲気下、ホットプレートにて120℃×20分加熱し、この状態の基材を空気中、常温(25℃)で90秒静置した。
(5A)水洗:導電膜を20mLの水で洗い流した後、スピンコーターにて2000rpm×60秒間で回転させ、レジスト層の表面の水を除去した。
(6A)現像:2.38質量%テトラメチルアンモニウムハドロオキサイド(TMAH)水溶液からなる現像液20mLをレジスト層の表面に滴下した。60秒静置した後、スピンコーターにて2000rpm×60秒間で回転させ、レジスト層の表面の現像液を除去し、引き続き60秒間回転を維持して乾燥した。
(7A)レジスト層の膜厚測定2:前記(2A)においてレジスト層を一部剥離した部分から5mm以内におけるレジスト層の一部を剥離した後、触針式段差計を用いて現像後のレジスト層の膜厚b[nm]を測定した。
(8A)膜減り量の算出:上記膜厚aの値から膜厚bの値を差し引いて、レジスト層の膜減り量c[nm](c=a-b)を算出した。
【0158】
<<基準膜減り量の測定>>
レジスト層は、レジスト層形成後の保管期間によって個々のレジストに特有の膜減り量(以下、「基準膜減り量」という。)d[nm]が存在する。導電膜に起因しないこの基準膜減り量dを以下の手順(1B)~(6B)で測定した。
(1B)レジスト層の形成:前記(1A)と同様にして、基材上にレジスト層を形成した。
(2B)レジスト層の膜厚測定1:前記(2A)と同様にして、初期のレジスト層の膜厚a[nm]を測定した。
(3B)PEB処理:レジスト層が積層した基材を用いた以外は、前記(4A)と同様にしてベーク処理した。
(4B)現像:前記(6A)と同様にして、現像を行った。
(5B)レジスト層の膜厚測定2:前記(2B)においてレジスト層を剥離した部分から5mm以内におけるレジスト層の一部を剥離した後、触針式段差計を用いて現像後のレジスト層の膜厚e[nm]を測定した。
(6B)膜減り量の算出:上記膜厚aの値から膜厚eの値を差し引いて、レジスト層の基準膜減り量d(d=a-e)を算出した。
なお、レジスト層の基準膜減り量dは、3nmであった。
【0159】
<<導電膜中の成分が原因となるレジスト層の膜減り量の算出>>
上記レジスト層の膜減り量cの値からレジスト層の基準膜減り量dの値を差し引いて、導電膜からレジスト層へ移行した、溶融した添加剤が原因となるレジスト層の膜減り量f[nm](f=c-d)を算出し、以下の評価基準にて評価した。膜減り量fが少ないほど好ましく、AとBを合格とする。
A:膜減り量fが10nm未満である。
B:膜減り量fが10nm以上である。
【0160】
<製造例1:導電性ポリマー(A-1)の製造>
2-アミノアニソール-4-スルホン酸100mmolを、4mol/Lのアンモニア水溶液に25℃で溶解し、モノマー溶液を得た。得られたモノマー溶液に、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間さらに攪拌溶解して、導電性ポリマーを含む反応混合物を得た。その後、前記反応混合物から導電性ポリマーを遠心濾過器にて濾別した。得られた導電性ポリマーをメタノールにて洗浄した後、乾燥させ、粉末状の導電性ポリマー(A-1)15gを得た。
得られた導電性ポリマー(A-1)中の重合残渣成分の含有量を測定したところ、導電性ポリマー(A-1)の総質量に対して0.9質量%であった。
【0161】
<製造例2:導電性ポリマー(A-2)の製造>
製造例1で得られた導電性ポリマー(A-1)10質量部を100質量部の水に溶解し、ポリマー溶液を得た。
超純水により洗浄した陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「オルライトDS-1」)と陰イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「オルライトDS-2」)との混合物(質量比1:1)を、ポリマー溶液100質量部に対して50質量部となるようにカラムに充填した。
このカラムに、ポリマー溶液を通過させて陽イオン交換処理を行い、精製された導電性ポリマー(A-2)を得た。導電性ポリマー(A-2)は水に溶解した水溶液の状態であり、導電性ポリマー(A-2)水溶液の総質量に対する導電性ポリマー(A-2)の含有量は、2.0質量%である。
得られた導電性ポリマー(A-2)中の重合残渣成分の含有量を測定したところ、導電性ポリマー(A-2)の総質量に対して0.3質量%であった。
【0162】
<製造例3:水溶性ポリマー(C-1)の製造>
含窒素官能基を含むビニルモノマーとして、N-ビニルピロリドン55g、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル3g、末端疎水性基導入のための連鎖移動剤として、n-ドデシルメルカプタン1gを、溶剤であるイソプロピルアルコール100mlに攪拌溶解して反応溶液を得た。その後、予め80℃に加熱しておいたイソプロピルアルコール100ml中に、前記反応溶液を1ml/minの滴下速度で滴下し、滴下重合を行った。滴下重合は、イソプロピルアルコールの温度を80℃に保ちながら行われた。滴下終了後、80℃でさらに2時間熟成した後、放冷した。その後、減圧濃縮を行い、得られた反応物を少量のアセトンに再溶解させた。この反応物のアセトン溶液を、過剰のn-ヘキサンに滴下することで得られた白色沈殿を濾別し、n-ヘキサンで洗浄した後に乾燥させ、45gの水溶性ポリマー(C-1)を得た。
【0163】
<製造例4:水溶性ポリマー(C-2)の製造>
ビーカーに水溶性ポリマー(C-1)5gを量り取り、そこに超純水95gを加えて、撹拌して、水溶性ポリマー水溶液を得た。さらにその水溶性ポリマー水溶液を50nmのポリエチレン製のフィルターで濾過することで、精製された水溶性ポリマー(C-2)を得た。水溶性ポリマー(C-2)は水に溶解した水溶液の状態であり、水溶性ポリマー(C-2)水溶液の総質量に対する水溶性ポリマー(C-2)の含有量は、4.5質量%であった。
【0164】
[実施例1]
<導電性組成物の調製>
導電性ポリマー(A-2)水溶液14.5gと、水溶性ポリマー(C-2)水溶液0.67gと、超純水80.83gと、イソプロピルアルコール4gとを混合し、導電性組成物を調製した。
得られた導電性組成物の組成(純分換算)を表1に示す。
得られた導電性組成物を用いて膜減り試験を行った。結果を表1に示す。
【0165】
<導電体の作製>
基材として2インチシリコンウエハー上に、得られた導電性組成物をスピンコート塗布(2000rpm×60秒間)した後、ホットプレートにて80℃、2分間加熱処理を行い、膜厚10nmの導電膜が基材上に形成された導電体を得た。
得られた導電体を用いて、導電膜の表面抵抗値、電流値及び算術平均粗さ(Ra)を測定した。また、導電膜中の低分子量体の含有量を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0166】
[実施例2]
純分換算での含有量が表1に示す値となるように、導電性ポリマー(A-2)水溶液14.5gと、塩基性化合物(B)として1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)0.10gと、水溶性ポリマー(C-2)水溶液5.78gと、超純水75.62gと、イソプロピルアルコール4gとを混合し、導電性組成物を調製した。得られた導電性組成物を用いて膜減り試験を行った。結果を表1に示す。
得られた導電性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして導電体を作製し、各種測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0167】
[実施例3]
純分換算での含有量が表1に示す値となるように、導電性ポリマー(A-2)水溶液14.5gと、塩基性化合物(B)として水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)0.20gと、水溶性ポリマー(C-2)水溶液2.89gと、超純水78.41gと、イソプロピルアルコール4gとを混合し、導電性組成物を調製した。
得られた導電性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして導電体を作製し、各種測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0168】
[実施例4]
純分換算での含有量が表1に示す値となるように、導電性ポリマー(A-2)水溶液14.5gと、超純水81.50gと、イソプロピルアルコール4gとを混合し、導電性組成物を調製した。
得られた導電性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして導電体を作製し、各種測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0169】
[実施例5]
実施例2で得られた導電性組成物を2インチシリコンウエハーに800rpm×60秒でスピンコート塗工した後、ホットプレートにて80℃、2分間加熱処理を行い、膜厚30nmの導電膜が基材上に形成された導電体を作製し、各種測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0170】
[比較例1]
導電性ポリマー(A-1)2.00gと、水溶性ポリマー(C-1)0.20gと、超純水93.80gと、イソプロピルアルコール4gとを混合し、導電性組成物を調製した。
得られた導電性組成物を用い、導電膜の膜厚を30nmに変更した以外は、実施例1と同様にして導電体を作製し、各種測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0171】
[比較例2]
導電性ポリマー(A-1)2.00gと、水溶性ポリマー(C-1)0.20gと、超純水92.80gと、イソプロピルアルコール4gと、高沸点溶剤としてトルエン1gとを混合し、導電性組成物を調製した。得られた導電性組成物を用いて膜減り試験を行った。結果を表1に示す。
得られた導電性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして導電体を作製し、各種測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0172】
【表1】
【0173】
表1中の導電性ポリマー(A)、塩基性化合物(B)及び水溶性ポリマー(C)の含有量は、それぞれ純分換算である。また、「重合残渣成分の含有量」は、導電性ポリマー(A)の総質量に対する、導電性ポリマー(A)由来の重合残渣成分の量(質量%)である。
なお、表1では、導電性組成物に含まれる超純水とイソプロピルアルコールの含有量は省略した。
【0174】
表1から明らかなように、実施例1~5で得られた導電膜は、電流値の標準偏差が5以下であり、導電性が均一であった。中でも、塩基性化合物を併用した実施例2、3、5の場合は電流値の標準偏差がさらに低く、導電性がさらに均一であった。
一方、比較例1、2で得られた導電膜は、電流値の標準偏差が5.2であり、導電性が不均一であった。特に、高沸点溶剤であるトルエンを含む導電性組成物を用いた比較例2の場合、レジスト層が膜減りしやすかった。
なお、各実施例及び比較例において、導電膜中の導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の含有量は、導電性ポリマー(A)中の重合残渣成分の含有量に比べて多い。これは、導電膜の形成において加熱することで、導電性ポリマー(A)から酸性基が脱離したことにより、導電膜中の導電性ポリマー(A)由来の低分子量体の含有量が増えたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の導電膜は、荷電粒子線を用いるパターン形成方法において、レジスト表面に設けられる帯電防止膜として有用である。
【符号の説明】
【0176】
10 導電体
11 基材
12 導電膜
20 積層体
21 基板
22 レジスト層
23 帯電防止膜
図1
図2