(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】エネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物、エネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体、エネルギー貯蔵デバイス電極、及びエネルギー貯蔵デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/64 20060101AFI20240123BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240123BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240123BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20240123BHJP
【FI】
H01M4/64 A
H01M4/66 A
H01M4/13
H01G11/68
(21)【出願番号】P 2020538372
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2019032246
(87)【国際公開番号】W WO2020040078
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2018156154
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢島 麻里
(72)【発明者】
【氏名】畑中 辰也
(72)【発明者】
【氏名】境田 康志
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115201(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0027953(KR,A)
【文献】国際公開第2012/057031(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/042080(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64- 4/84
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性ポリマーを含み、かつ導電性炭素材料を含まない、エネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物
であって、
前記カチオン性ポリマーが、ジシアンジアミドをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、ジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、並びにジシアンジアミド及びジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含むものであるエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
【請求項2】
エネルギー貯蔵デバイス電極の集電体と電極合材層との間に介在する薄膜形成用である請求項1記載のエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
【請求項3】
更に、架橋剤を含む請求項1
又は2記載のエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項記載の薄膜形成用組成物から得られる薄膜を含むアンダーコート層。
【請求項5】
集電体と、該集電体の少なくとも一方の面に形成された請求項
4記載のアンダーコート層とを備えるエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
【請求項6】
集電体の一面あたりのアンダーコート層の目付量が、1,000mg/m
2以下である請求項
5記載のエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
【請求項7】
前記集電体が、銅箔又はアルミニウム箔である請求項
5又は
6記載のエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
【請求項8】
前記集電体が、銅箔である請求項
7記載のエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
【請求項9】
請求項
5~
8のいずれか1項記載のエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体と、そのアンダーコート層の上に形成された電極合材層とを備えるエネルギー貯蔵デバイス用電極。
【請求項10】
負極である請求項
9記載のエネルギー貯蔵デバイス用電極。
【請求項11】
請求項
9又は1
0記載のエネルギー貯蔵デバイス用電極を備えるエネルギー貯蔵デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物、エネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体、エネルギー貯蔵デバイス電極、及びエネルギー貯蔵デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタをはじめとするエネルギー貯蔵デバイスの用途拡大に伴い、内部抵抗の低抵抗化が求められている。この要求に応えるための1つの方法として、電極合材層と集電体との間に導電性炭素材料を含むアンダーコート層を配置して、それらの接触界面の抵抗を下げることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、アンダーコート層の単位面積あたりの重量(目付量)が大きいと、電池が重くなり、また大型化する問題がある。
【0003】
また、アンダーコート層には、電極合材層や集電体との密着性を高め、界面剥離による劣化を抑制することも期待される。導電性炭素材料は固体(粉末)で集電体や電極層との相互作用が弱いため、アンダーコート層が集電体や電極層と強く密着するには導電性炭素材料以外の密着力の高い成分が必要である。しかし、導電性炭素材料以外の成分が多くなると絶縁性成分が増えるため、アンダーコート層の導電性が低下し、電池の低抵抗化という効果が損なわれる。また、これらのアンダーコート層を形成する際に用いる導電性炭素材料を含む分散液の保存安定性は必ずしも良好ではなく、保存中に導電性炭素材料が凝集する等の問題をしばしば引き起こし、また、分散処理自体もコストがかかるため製造費が高額になるという問題があった。
【0004】
一方、カチオン性ポリマーは、アニオン性ポリマーと強く静電的な相互作用をすることにより高い接着力を示す。カチオン性ポリマーをカーボンナノチューブの分散剤として用いた例として特許文献3が報告されているが、依然として前述した導電性炭素材料に由来する課題は残り、また、ジアリルアミン系カチオン性ポリマーとアニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを併用する必要があった。そこで、カチオン性ポリマーを含み、導電性炭素材料に由来する前記問題を生じない技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-170965号公報
【文献】国際公開第2014/042080号
【文献】特許第5403738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、エネルギー貯蔵デバイス電極において電極合材層や集電体との高い密着性を実現でき、導電性炭素材料を含まない薄膜を形成するための組成物、該組成物から得られる薄膜を含むアンダーコート層を備える複合集電体、該複合集電体を備えるエネルギー貯蔵デバイス電極、及び該電極を備えるエネルギー貯蔵デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、カチオン性のポリマーを含み、導電性炭素材料を含まない薄膜形成用組成物を用いることで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記エネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物、エネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体、エネルギー貯蔵デバイス電極、及びエネルギー貯蔵デバイスを提供する。
1.カチオン性ポリマーを含み、かつ導電性炭素材料を含まない、エネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
2.エネルギー貯蔵デバイス電極の集電体と電極合材層との間に介在する薄膜形成用である1のエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
3.前記カチオン性ポリマーが、ジシアンジアミドをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、ジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、ジシアンジアミド及びジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、並びにエチレンイミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む1又は2のエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
4.前記カチオン性ポリマーが、エチレンイミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーを含む1~3のいずれかのエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
5.更に、架橋剤を含む1~4のいずれかのエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物。
6.1~5のいずれかの薄膜形成用組成物から得られる薄膜を含むアンダーコート層。
7.集電体と、該集電体の少なくとも一方の面に形成された6のアンダーコート層とを備えるエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
8.集電体の一面あたりのアンダーコート層の目付量が、1,000mg/m2以下である7のエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
9.前記集電体が、銅箔又はアルミニウム箔である7又は8のエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
10.前記集電体が、銅箔である9のエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体。
11.7~10のいずれかのエネルギー貯蔵デバイス電極用複合集電体と、そのアンダーコート層の上に形成された電極合材層とを備えるエネルギー貯蔵デバイス用電極。
12.負極である11のエネルギー貯蔵デバイス用電極。
13.11又は12のエネルギー貯蔵デバイス用電極を備えるエネルギー貯蔵デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物は、導電性炭素材料を含まないため保存安定性に優れる。本発明の組成物を用いることで、集電体と電極合材層との密着力に優れるエネルギー貯蔵デバイス用電極を得ることができる。本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、界面剥離による電池の劣化を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[薄膜形成用組成物]
本発明のエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物は、カチオン性ポリマーを含み、かつ導電性炭素材料を含まないものである。なお、導電性炭素材料とは、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、カーボンナノチューブ(CNT)、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛等のそれ自身が導電性を有する炭素材料である。
【0011】
前記カチオン性ポリマーとしては、公知のカチオン性ポリマーから適宜選択して用いることができるが、アニオン性官能基を有しないものが好ましい。なお、本発明において「アニオン性官能基を有しない」とは、分子内にアニオン性官能基を有しない、すなわち、双性イオン構造を取り得ないことを意味し、カチオン性ポリマーが有するカチオンと、カウンターアニオンとの塩(例えばアミンの塩酸塩)の態様は含まれる。
【0012】
前記カチオン性ポリマーとしては、集電体と電極合材層との密着性により優れているという点から、特に、ジシアンジアミドをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、ジエチレントリアミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、ジシアンジアミド及びジエチレントリアミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、並びにエチレンイミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を含むものが好ましい。特に、ジシアンジアミド及びジエチレントリアミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、並びにエチレンイミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を含むものがより好ましく、ジシアンジアミド-ジエチレントリアミン縮合物及びエチレンイミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマーであるポリエチレンイミンから選ばれる1種又は2種以上を含むものがより一層好ましく、エチレンイミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマーであるポリエチレンイミンが更に好ましい。なお、前記各カチオン性ポリマーは、前記各モノマー成分以外のモノマー成分を用いた共重合体であってもよい。
【0013】
これらのカチオン性ポリマーは、公知の手法で合成して得られたものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、センカ(株)製のユニセンスシリーズ、日本触媒(株)製のエポミン(ポリエチレンイミン)SP-003、SP-006、SP-012、SP-018、SP-020、P-1000、ポリメント(アミノエチル化アクリルポリマー)NK-100PM、NM-200PM、NK-350、NK-380等が挙げられる。ユニセンスシリーズとしては、ユニセンスKHP10P(ジシアンジアミド-ジエチレントリアミン縮合物塩酸塩)を好適に用いることができる。
【0014】
前記カチオン性ポリマーの平均分子量は、特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が300~1,000,000が好ましく、50,000~300,000がより好ましい。なお、本発明においてMnは、0.5mol/L酢酸及び0.5mol/L硝酸カリウムを含む水溶液を溶剤として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
【0015】
前記カチオン性ポリマーの含有量は、塗工性の観点から、本発明の薄膜形成用組成物中、1~50質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0016】
溶媒としては、前記カチオン性ポリマーを溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、水;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。特に、電池用途で使用される溶媒という点から、水又はNMPを含むことが好ましい。またコストを下げ得るという点からは、水を含むことが好ましい。
【0017】
これらの溶媒は、塗工性を上げること、コストを下げることを目的として、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。水とアルコール類との混合溶媒を用いる場合、その混合割合は特に限定されないが、質量比で、水:アルコール類=1:1~10:1程度が好ましい。
【0018】
また、前記薄膜形成用組成物は、膜強度向上の観点から、必要に応じてその他のポリマーを含んでもよい。前記その他のポリマーは、アニオン性官能基を有しないものが好ましい。前記その他のポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(TFE-HFP))、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VDF-HFP))、フッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン共重合体(P(VDF-CTFE))等のフッ素系樹脂;ポリビニルピロリドン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、EEA(エチレン-アクリル酸エチル共重合体)等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS)、スチレン-ブタジエンゴム等のポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の(メタ)アクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグリコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等の熱可塑性樹脂や、ポリアニリン及びその半酸化体であるエメラルジンベース;ポリチオフェン;ポリピロール;ポリフェニレンビニレン;ポリフェニレン;ポリアセチレン等の導電性高分子、更にはエポキシ樹脂;ウレタンアクリレート;フェノール樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等が挙げられる。前記薄膜形成用組成物においては、溶媒として水を用いることが好適であることから、その他のポリマーとしても水溶性のもの、例えば、水溶性セルロースエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が好ましい。
【0019】
その他のポリマーは、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、メトローズ(登録商標)SHシリーズ(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、メトローズSEシリーズ(ヒドロキシエチルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、JC-25(完全ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JM-17(中間ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JP-03(部分ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)等が挙げられる。
【0020】
その他のポリマーの含有量は、特に限定されるものではないが、組成物中に0~50質量%程度とすることが好ましく、0~30質量%程度とすることがより好ましい。
【0021】
前記薄膜形成用組成物は、架橋剤を含んでもよい。前記架橋剤は、アニオン性官能基を含まないものが好ましく、使用する溶媒に溶解することが好ましい。
【0022】
前記架橋剤としては、例えば、アミノ基と反応し得るケトン類、アルキルハライド類、アクリロイル類、エポキシ化合物、シアナマイド類、尿素類、酸、酸無水物、アシルハライド類、チオイソシアネート基、イソシアネート基、アルデヒド基、カルボジイミド基等の官能基を有している化合物や、同じ架橋性官能基同士で反応するヒドロキシ基(脱水縮合)、メルカプト基(ジスルフィド結合)、エステル基(クライゼン縮合)、シラノール基(脱水縮合)、ビニル基、アクリル基等を有している化合物等が挙げられる。前記架橋剤の具体例としては、酸触媒の存在下で架橋反応性を発揮する多官能アクリレート、テトラアルコキシシラン、ブロックイソシアネート基を有するモノマー又はポリマー、カルボジイミド基を有するモノマー又はポリマー等が挙げられる。
【0023】
このような架橋剤は、市販品として入手することもできる。市販品としては、例えば、多官能アクリレートでは、A-9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学工業(株)製)、A-GLY-9E(Ethoxylated glycerine triacrylate(EO 9mol)、新中村化学工業(株)製)、A-TMMT(ペンタエリスリトールテトラアクリレート、新中村化学工業(株)製)等が挙げられる。テトラアルコキシシランでは、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製)、テトラエトキシシラン(東横化学(株)製)等が挙げられる。ブロックイソシアネート基を有するポリマーでは、エラストロン(登録商標)シリーズE-37、H-3、H38、BAP、NEW BAP-15、C-52、F-29、W-11P、MF-9、MF-25K(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。カルボジイミド基を有するポリマーでは、カルボジライト(登録商標)シリーズSV-02、V-02-L2、V-02、V-04、E-01、E-02、E-03A、E-04(日清紡ケミカル(株)製)スタバクゾール(登録商標)I(ラインケミー社製)、スタビライザー7000(RASCHIG GmbH製)等が挙げられる。
【0024】
前記架橋剤の含有量は、使用する溶媒、使用する基材、要求される粘度、要求される膜形状等により変動するが、前記カチオン性ポリマーに対し、0.001~80質量%が好ましく、0.01~50質量%がより好ましく、0.05~40質量%がより一層好ましい。
【0025】
前記薄膜形成用組成物の調製法は、特に限定されないが、例えば、カチオン性ポリマー及び溶媒、並びに必要に応じてその他のポリマーや架橋剤を任意の順序で混合して調製することができる。
【0026】
本発明のエネルギー貯蔵デバイス電極用薄膜形成用組成物は、エネルギー貯蔵デバイス電極に用いられる薄膜を形成するためのものである。前記薄膜は、特に、集電体と電極合材層との間に介在するアンダーコート層に含まれる薄膜として好適に使用できる。
【0027】
[アンダーコート層]
前記アンダーコート層は、本発明の組成物から得られる薄膜のみを含むものでもよく、前記薄膜以外の薄膜を含んでもよい。前記薄膜以外の薄膜としては、特許第5773097号公報に記載された導電性結着層等が挙げられる。
【0028】
集電体の一面あたりのアンダーコート層の目付量は、前記膜厚を満たす限り特に限定されないが、1,000mg/m2以下が好ましく、500mg/m2以下がより好ましく、300mg/m2以下がより一層好ましい。一方、アンダーコート層の機能を担保して優れた特性の電池を再現性よく得るため、集電体の一面あたりのアンダーコート層の目付量を好ましくは1mg/m2以上、より好ましくは5mg/m2以上、より一層好ましくは10mg/m2以上、更に好ましくは15mg/m2以上とする。なお、前記アンダーコート層の厚さは、前記目付量を満たす限り特に限定されないが、通常1nm~10μm程度である。
【0029】
本発明におけるアンダーコート層の目付量は、アンダーコート層の面積(m2)に対するアンダーコート層の質量(mg)の割合であり、アンダーコート層がパターン状に形成されている場合、当該面積はアンダーコート層のみの面積であり、パターン状に形成されたアンダーコート層の間に露出する集電体の面積を含まない。
【0030】
アンダーコート層の質量は、例えば、アンダーコート箔から適当な大きさの試験片を切り出し、その質量W0を測定し、その後、アンダーコート箔からアンダーコート層を剥離し、アンダーコート層を剥離した後の質量W1を測定し、その差(W0-W1)から算出する、又は予め集電体の質量W2を測定しておき、その後、アンダーコート層を形成したアンダーコート箔の質量W3を測定し、その差(W3-W2)から算出することができる。
【0031】
アンダーコート層を剥離する方法としては、例えばアンダーコート層が溶解、又は膨潤する溶媒に、アンダーコート層を浸漬させ、布等でアンダーコート層をふき取る等の方法が挙げられる。
【0032】
目付量は、公知の方法で調整することができる。例えば、塗布によりアンダーコート層を形成する場合、アンダーコート層を形成するための塗工液の固形分濃度、塗布回数、塗工機の塗工液投入口のクリアランス等を変えることで調整できる。ここで、固形分とは、前記塗工液の成分のうち溶媒以外の成分のことをいう。目付量を多くしたい場合は、固形分濃度を高くしたり、塗布回数を増やしたり、クリアランスを大きくしたりする。目付量を少なくしたい場合は、固形分濃度を低くしたり、塗布回数を減らしたり、クリアランスを小さくしたりする。
【0033】
[複合集電体]
集電体の少なくとも一方の面に前記アンダーコート層を形成することで、複合集電体が得られる。
【0034】
前記集電体は、従来、エネルギー貯蔵デバイス用電極の集電体として用いられているものを使用することができる。例えば、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス、ニッケル、金、銀及びこれらの合金や、カーボン材料、金属酸化物、導電性高分子等を用いることができるが、超音波溶接等の溶接を適用して電極構造体を作製する場合、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス又はこれらの合金からなる金属箔を用いることが好ましい。特に、後述する本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極をリチウムイオン二次電池の負極として使用する場合は銅を、正極として使用する場合はアルミニウムを用いることが好ましい。集電体の厚さは特に限定されないが、本発明においては、1~100μmが好ましい。
【0035】
前記アンダーコート層が前記薄膜のみからなる場合は、薄膜の形成方法としては、例えば、前記薄膜形成用組成物を集電体の上に塗布し、これを自然又は加熱乾燥する方法が挙げられる。前記塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、インクジェット法、キャスティング法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、フレキソ印刷法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等が挙げられる。これらのうち、作業効率等の点から、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法が好適である。前記アンダーコート層が前記薄膜を含む複数の薄膜を有する場合は、例えば、形成する薄膜の順に集電体上に薄膜形成用組成物を塗布し乾燥させる工程を繰り返せばよい。
【0036】
加熱乾燥する場合の温度も任意であるが、50~200℃程度が好ましく、80~150℃程度がより好ましい。
【0037】
[エネルギー貯蔵デバイス電極]
本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、前記複合集電体と、そのアンダーコート層上に形成された電極合材層とを備えるものである。
【0038】
[電極合材層]
前記電極合材層は、活物質、バインダーポリマー及び必要に応じて溶媒を含む電極スラリーを、アンダーコート層上に塗布し、自然又は加熱乾燥して形成することができる。
【0039】
前記活物質としては、従来、エネルギー貯蔵デバイス用電極に用いられている各種活物質を用いることができる。例えば、リチウム二次電池やリチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としてリチウムイオンを吸着・離脱可能なカルコゲン化合物又はリチウムイオン含有カルコゲン化合物、ポリアニオン系化合物、硫黄単体及びその化合物等を用いることができる。
【0040】
このようなリチウムイオンを吸着離脱可能なカルコゲン化合物としては、例えばFeS2、TiS2、MoS2、V2O6、V6O13、MnO2等が挙げられる。
【0041】
リチウムイオン含有カルコゲン化合物としては、例えばLiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2、LixNiyM1-yO2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、及びZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であり、0.05≦x≦1.10、0.5≦y≦1.0)等が挙げられる。
【0042】
ポリアニオン系化合物としては、例えばリン酸鉄リチウム(LiFePO4)等が挙げられる。硫黄化合物としては、例えばLi2S、ルベアン酸等が挙げられる。
【0043】
一方、前記負極を構成する負極活物質としては、アルカリ金属、アルカリ合金、リチウムイオンを吸蔵・放出する周期表4~15族の元素から選ばれる少なくとも1種の単体、酸化物、硫化物、窒化物、又はリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料を使用することができる。
【0044】
アルカリ金属としては、Li、Na、K等が挙げられ、アルカリ金属合金としては、例えば、Li-Al、Li-Mg、Li-Al-Ni、Na-Hg、Na-Zn等が挙げられる。
【0045】
リチウムイオンを吸蔵放出する周期表4~15族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素の単体としては、例えば、ケイ素やスズ、アルミニウム、亜鉛、砒素等が挙げられる。
【0046】
同じく酸化物としては、例えば、スズケイ素酸化物(SnSiO3)、リチウム酸化ビスマス(Li3BiO4)、リチウム酸化亜鉛(Li2ZnO2)、リチウム酸化チタン(Li4Ti5O12)、酸化チタン等が挙げられる。
【0047】
同じく硫化物としては、リチウム硫化鉄(LixFeS2(0≦x≦3))、リチウム硫化銅(LixCuS(0≦x≦3))等が挙げられる。
【0048】
同じく窒化物としては、リチウム含有遷移金属窒化物が挙げられ、具体的には、LixMyN(M=Co、Ni、Cu、0≦x≦3、0≦y≦0.5)、リチウム鉄窒化物(Li3FeN4)等が挙げられる。
【0049】
リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、又はこれらの焼結体等が挙げられる。
【0050】
また、電気二重層キャパシタの場合、活物質として炭素質材料を用いることができる。この炭素質材料としては、活性炭等が挙げられ、例えば、フェノール樹脂を炭化後、賦活処理して得られた活性炭が挙げられる。
【0051】
バインダーポリマーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、例えば、PVDF、PTFE、P(TFE-HFP)、P(VDF-HFP)、P(VDF-CTFE)等のフッ素原子を有するポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、CMC、ポリアクリル酸(PAA)、PAAの有機塩及び金属塩、ポリアミック酸等のアニオン性官能基を有するポリマー、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。これらのうち、集電体と電極合材層との密着力に優れることから、フッ素原子を有するポリマーやアニオン性官能基を有するポリマーが好ましい。
【0052】
なお、バインダーポリマーの含有量は、活物質100質量部に対し、0.1~20質量部、特に1~10質量部が好ましい。
【0053】
溶媒としては、前記薄膜形成用組成物で例示した溶媒が挙げられ、これらの中からバインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、PVDF等の非水溶性のバインダーの場合はNMPが好適であり、PAA等の水溶性のバインダーの場合は水が好適である。
【0054】
なお、前記電極スラリーは、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、例えば、カーボンブラック、CNT、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。
【0055】
電極スラリーの塗布方法としては、前述した薄膜形成用組成物と同様の方法が挙げられる。また、加熱乾燥する場合の温度も任意であるが、50~400℃程度が好ましく、80~150℃程度がより好ましい。
【0056】
電極合材層の形成部位は、用いるデバイスのセル形態等に応じて適宜設定すればよく、アンダーコート層の表面全部でもその一部でもよいが、ラミネートセル等に使用する目的で、金属タブと電極とを超音波溶接等の溶接により接合した電極構造体として用いる場合には、溶接部を残すためアンダーコート層の表面の一部に電極スラリーを塗布して電極合材層を形成することが好ましい。特に、ラミネートセル用途では、アンダーコート層の周縁を残したそれ以外の部分に電極スラリーを塗布して電極合材層を形成することが好適である。
【0057】
前記電極合材層の厚さは、電池の容量と抵抗のバランスを考慮すると、10~500μmが好ましく、10~300μmがより好ましく、20~100μmがより一層好ましい。
【0058】
前記電極合材層は、アニオン性官能基を有する化合物を含むことが好ましい。この場合、例えば、バインダーポリマーがアニオン性官能基を有するものであってもよく、導電材がアニオン性官能基を有するものであってもよい。アニオン性官能基を有するバインダーポリマーとしては、前述したとおりである。アニオン性官能基を有する導電材としては、酸素を含む雰囲気下で合成することで表面に酸性官能基を多く保持させたもの、化学酸化処理や熱酸化処理等により表面に酸性官能基を導入したもの、アニオン性界面活性剤、アニオン性分散剤と複合化させて得られるもの等が挙げられる。
【0059】
電極は、必要に応じてプレスしてもよい。プレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やロールプレス法が好ましい。また、プレス圧力は、特に限定されないが、0.1kN/cm以上が好ましく、0.2kN/cm以上がより好ましい。プレス圧力の上限は、5kN/cm程度が好ましく、3kN/cm程度がより好ましい。
【0060】
本発明のエネルギー貯蔵デバイス電極は、特にエネルギー貯蔵デバイスの正極としても負極としても使用できるが、特に負極として好適である。
【0061】
[エネルギー貯蔵デバイス]
本発明のエネルギー貯蔵デバイスは、前述したエネルギー貯蔵デバイス用電極を備えるものであり、より具体的には、少なくとも一対の正負極と、これら各極間に介在するセパレータと、電解質とを備えて構成され、正負極の少なくとも一方が、前述したエネルギー貯蔵デバイス用電極から構成される。
【0062】
本発明のエネルギー貯蔵デバイスとしては、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池等の各種エネルギー貯蔵デバイスが挙げられる。
【0063】
このエネルギー貯蔵デバイスは、電極として前述したエネルギー貯蔵デバイス用電極を用いることにその特徴があるため、その他のデバイス構成部材であるセパレータや、電解質等は、公知の材料から適宜選択して用いることができる。
【0064】
セパレータとしては、例えば、セルロース系セパレータ、ポリオレフィン系セパレータ等が挙げられる。電解質としては、液体、固体のいずれでもよく、また水系、非水系のいずれでもよいが、本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、非水系電解質を用いたデバイスに適用した場合にも実用上十分な性能を発揮させ得る。
【0065】
非水系電解質としては、電解質塩を非水系有機溶媒に溶かしてなる非水系電解液が挙げられる。電解質塩としては、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロホスフェート、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のリチウム塩;テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、メチルトリエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムパークロレート等の4級アンモニウム塩;リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のリチウムイミド等が挙げられる。
【0066】
非水系有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等が挙げられる。
【0067】
エネルギー貯蔵デバイスの形態は特に限定されず、円筒型、扁平巻回角型、積層角型、コイン型、扁平巻回ラミネート型、積層ラミネート型等の従来公知の各種形態のセルを採用することができる。
【0068】
コイン型に適用する場合、前述した本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極を、所定の円盤状に打ち抜いて用いればよい。例えば、リチウムイオン二次電池は、コインセルのワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、所定形状に打ち抜いた本発明の電極を設置し、その上に、電解液を含浸させた同形状のセパレータを重ね、更に上から、電極合材層を下にして対極を重ね、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封して作製することができる。
【0069】
積層ラミネート型に適用する場合、電極合材層がアンダーコート層表面の一部又は全面に形成された電極における、アンダーコート層が形成され、かつ、電極合材層が形成されていない部分(溶接部)で金属タブと溶接して得られた電極構造体を用いればよい。この場合、電極構造体を構成する電極は1枚でも複数枚でもよいが、一般的には、正負極とも複数枚が用いられる。正極を形成するための複数枚の電極は、負極を形成するための複数枚の電極と、1枚ずつ交互に重ねることが好ましく、その際、正極と負極の間には前述したセパレータを介在させることが好ましい。
【0070】
金属タブは、複数枚の電極の最も外側の電極の溶接部で溶接しても、複数枚の電極のうち、任意の隣接する2枚の電極の溶接部間に金属タブを挟んで溶接してもよい。金属タブの材質は、一般的にエネルギー貯蔵デバイスに使用されるものであれば、特に限定されず、例えば、ニッケル、アルミニウム、チタン、銅等の金属;ステンレス、ニッケル合金、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金等の合金等が挙げられる。これらのうち、溶接効率を考慮すると、アルミニウム、銅及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含んで構成されるものが好ましい。金属タブの形状は、箔状が好ましく、その厚さは0.05~1mm程度が好ましい。
【0071】
溶接方法は、金属同士の溶接に用いられる公知の方法を用いることができ、その具体例としては、TIG溶接、スポット溶接、レーザー溶接、超音波溶接等が挙げられるが、超音波溶接にて電極と金属タブとを接合することが好ましい。
【0072】
超音波溶接の方法としては、例えば、複数枚の電極をアンビルとホーンとの間に配置し、溶接部に金属タブを配置して超音波をかけて一括して溶接する方法や、電極同士を先に溶接し、その後、金属タブを溶接する方法等が挙げられる。
【0073】
本発明では、いずれの方法でも、金属タブと電極とが前記溶接部で溶接されるだけでなく、複数枚の電極同士も互いに超音波溶接されることになる。溶接時の圧力、周波数、出力、処理時間等は、特に限定されず、用いる材料やアンダーコート層の目付量等を考慮して適宜設定すればよい。
【0074】
以上のようにして作製した電極構造体を、ラミネートパックに収納し、前述した電解液を注入した後、ヒートシールすることでラミネートセルが得られる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、下記実施例に限定されない。なお、使用した装置は、以下のとおりである。
・プローブ型超音波照射装置:Hielscher Ultrasonics社製、UIP1000
・ワイヤーバーコーター:(株)エスエムテー製、PM-9050MC
・ロールプレス装置:(有)タクミ技研、SA-602
・充放電測定装置:東洋システム(株)製、TOSCAT-3100
・粘着・皮膜剥離解析装置:協和界面科学(株)製、VERSATILE PEEL ANALYZER VPA-3
・粘度計:東機産業(株)製、TV-22型粘度計 コーンプレートタイプ
【0076】
[1]薄膜形成用組成物の調製
[実施例1]
カチオン性ポリマーであるエポミンP-1000(日本触媒(株)製、固形分濃度:29.8質量%、モノマー組成:エチレンイミン)6.71gと、純水33.29gとを混合し、均一な溶液である薄膜形成用組成物Aを調製した。
【0077】
[比較例1-1]
カチオン性ポリマーであるエポミンP-1000(日本触媒(株)製、固形分濃度:29.8質量%、ポリエチレンイミン)4.19gと、純水44.56gとを混合し、更にそこへ導電性炭素材料であるCNT(戸田工業(株)製、TC-2010)1.25gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて、500Wで10分間超音波処理を施し、均一なCNT分散液である薄膜形成用組成物Bを調製した。
【0078】
[比較例1-2]
国際公開第2014/042080号の合成例2の方法に従って合成した、下記式で表されるPTPA-S0.5gと、アロン10H(東亞合成(株)製、固形分濃度:25.3質量%、ポリアクリル酸)3.95gと、水及びイソプロピルアルコール(IPA)の混合溶媒(水:IPA=1:5.5(質量比))95.10gとを混合し、更にそこへ導電性炭素材料であるCNT(Nanocyl S.A.社製、NC-7000)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて、500Wで10分間超音波処理を施し、均一なCNT分散液である薄膜形成用組成物Cを調製した。
【化1】
【0079】
[2]複合集電体の製造
[実施例2]
薄膜形成用組成物Aを、集電体である銅箔(厚さ15μm)にワイヤーバーコーター(OSP-2、ウェット膜厚2μm)で均一に展開後、110℃で20分乾燥して単一膜からなるアンダーコート層を形成し、複合集電体Aを作製した。目付量を測定した結果、108mg/m2であった。
【0080】
[比較例2-1]
薄膜形成用組成物Aのかわりに薄膜形成用組成物Bを用いた以外は、実施例2と同様の方法で複合集電体Bを作製した。目付量を測定した結果、103mg/m2であった。
【0081】
[比較例2-2]
薄膜形成用組成物Aのかわりに薄膜形成用組成物Cを用い、ワイヤーバーコーター(OSP-13、ウェット膜厚13μm)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で、複合集電体Cを作製した。目付量を測定した結果、140mg/m2であった。
【0082】
[3]電極の製造及び密着力の評価
[実施例3]
活物質として人造黒鉛(MAG)、バインダーとしてスチレンブタジエンラテックス(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)、並びに水を混合処理することで、電極スラリー(人造黒鉛:SBR:CMC=97:1.5:1.5(質量比))を作製した。得られた電極スラリーを、複合集電体Aに電極目付量が10mg/cm2になるように展開後、乾燥してアンダーコート層上に活物質層を形成し、更にロールプレス機で0.4kN/cmのプレス圧で圧着することで電極Aを作製した。
【0083】
[比較例3-1]
複合集電体Aのかわりに複合集電体Bを用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で、電極Bを作製した。
【0084】
[比較例3-2]
複合集電体Aのかわりに複合集電体Cを用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で、電極Cを作製した。
【0085】
[比較例3-3]
複合集電体Aのかわりに無垢の銅箔を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で、電極Dを作製した。
【0086】
電極A~Dを25mm幅で切り出し、電極合材層塗工面に20mm幅の両面テープを貼り付けてガラス基板上に固定した。これを粘着・皮膜剥離解析装置に固定して剥離角度90°かつ剥離速度100mm/minで剥離試験を行い、密着力を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
[4]試験用二次電池の製造及びサイクル特性評価
[実施例4、比較例4-1~4-3]
電極A~Dから、それぞれ直径10mmの円盤状の電極を4枚打ち抜き、120℃で15時間真空乾燥し、アルゴンで満たされたグローブボックスに移した。2032型のコインセル(宝泉(株)製)のワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、直径14mmに打ち抜いたリチウム箔(本荘ケミカル(株)製、厚さ0.17mm)を6枚重ねたものを設置し、その上に、電解液(キシダ化学(株)製、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=3:7(体積比)、電解質であるリチウムヘキサフルオロホスフェートを1mol/L、添加剤であるフルオロエチレンカーボネート20体積%含む。)を24時間以上染み込ませた、直径16mmに打ち抜いたセパレータ(セルガード(株)製、セルガード#2400)を1枚重ねた。更に上から、活物質を塗布した面を下にして電極を重ねた。電解液を1滴滴下したのち、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封した。その後24時間静置し、試験用の二次電池を4個作製した。
【0089】
作製した試験用二次電池のサイクル特性を評価した。アンダーコート層が電池に及ぼす影響を評価することを目的として、充放電測定装置を用いて、表2に示した条件で充放電試験を行った。結果を表3に示す。
【0090】
【0091】
・カットオフ電圧:2.00V-0.01V
・試験電池数:4個
・温度:室温
【0092】
【0093】
[5]薄膜形成用組成物の調製
[実施例5]
カチオン性ポリマーであるエポミンP-1000(日本触媒(株)製、固形分濃度:29.8質量%、モノマー組成:エチレンイミン)0.57g及び純水2.80gを混合し、更にそこへカルボジライトSV-02(日清紡ケミカル(株)製、固形分濃度:40.0質量%)0.83g及び純水5.81gを混合させた溶液を加え、均一な溶液である薄膜形成用組成物Dを調製した。
【0094】
[6]複合集電体の製造
[実施例6]
薄膜形成用組成物Aのかわりに薄膜形成用組成物Dを用いた以外は、実施例2と同様の方法で複合集電体Dを作製した。目付量を測定した結果、95mg/m2であった。
【0095】
[7]電極の製造及び密着力の評価
[実施例7-1]
活物質として一酸化ケイ素(SiO)と黒鉛、バインダーとしてLiOH水溶液で20%中和したPAA0.8Li0.2、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、並びに水を混合処理することで、電極スラリー(SiO:黒鉛:PAA0.8Li0.2:AB=24.8:57.8:12.5:5(質量比))を作製した。得られた電極スラリーを、複合集電体Aに電極目付量が4mg/cm2になるように展開後、80℃で30分、120℃でさらに30分乾燥して、アンダーコート層上に活物質層を形成し、更にロールプレス機で0.2kN/cmのプレス圧で圧着することで電極Eを作製した。
【0096】
[実施例7-2]
複合集電体Aのかわりに複合集電体Dを用いたこと以外は、実施例7-1と同様の方法で、電極Fを作製した。
【0097】
[比較例5-1]
複合集電体Aのかわりに複合集電体Bを用いたこと以外は、実施例7-1と同様の方法で、電極Gを作製した。
【0098】
[比較例5-2]
複合集電体Aのかわりに複合集電体Cを用いたこと以外は、実施例7-1と同様の方法で、電極Hを作製した。
【0099】
[比較例5-3]
複合集電体Aのかわりに無垢の銅箔を用いたこと以外は、実施例7-1と同様の方法で、電極Iを作製した。
【0100】
電極E~Iを25mm幅で切り出し、電極合材層塗工面に20mm幅の両面テープを貼り付けてガラス基板上に固定した。これを粘着・皮膜剥離解析装置に固定して剥離角度90°かつ剥離速度100mm/minで剥離試験を行い、密着力を測定した。結果を表4に示す。
【0101】
【0102】
[8]試験用二次電池の製造及びサイクル特性評価
[実施例8-1~8-2、比較例6-1~6-3]
電極E~Iから、それぞれ直径10mmの円盤状の電極を4枚打ち抜き、120℃で15時間真空乾燥した。2032型のコインセル(宝泉(株)製)のワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、直径14mmに打ち抜いたリチウム箔(本荘ケミカル(株)製、厚さ0.17mm)を1枚設置し、その上に、直径16mmに打ち抜いたガラス繊維濾紙(GEヘルスケア・ジャパン(株)製、GF/F 90 mm)を1枚重ねた。電解液(キシダ化学(株)製、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:3(体積比)、電解質であるリチウムヘキサフルオロホスフェートを1mol/L、添加剤であるビニレンカーボネートを2体積%含む。)を300μL滴下し、更に上から活物質を塗布した面を下にして電極を重ねた。ワッシャーとスペーサーが溶接されたケースを載せて、コインセルかしめ機で密封した。その後15時間静置し、試験用の二次電池を4個作製した。
【0103】
作製した試験用二次電池のサイクル特性を評価した。アンダーコート層が電池に及ぼす影響を評価することを目的として、充放電測定装置を用いて、表5に示した条件で充放電試験を行った。結果を表6に示す。
【0104】
【0105】
・カットオフ電圧:1.50V-0.005V
・試験電池数:4個
・温度:室温
【0106】
【0107】
[9]薄膜形成用組成物の保存安定性の評価及び塗工性の評価
[実施例9-1~9-2、比較例7]
調製直後の薄膜形成用組成物A、B及びDを用いて複合集電体をそれぞれ作製した場合、並びに調製後、室温、大気雰囲気下で7日間静置した後の薄膜形成用組成物A、B及びDを用いて複合集電体をそれぞれ作製した場合について、塗工性を目視で評価した。評価は、〇:均一に塗工可、×:一部凝集物が見られるため塗工不可、とした。結果を表7に示す。
また、薄膜形成用組成物A、B及びDの作製直後、並びに室温、大気雰囲気下で7日間静置した後に、粘度計を用いて室温で粘度を測定した。結果を表7に示す。
【0108】
【0109】
以上の結果より、本発明の薄膜形成用組成物は、導電性炭素材料を含有していないため導電性炭素材料の凝集等による不均一化が起こらず、組成物自体が安定であることがわかった。更に、この組成物から得られた本発明のアンダーコート層は、活物質との密着性が高く、導電性炭素材料が入っていないにもかかわらず、サイクル特性が導電性炭素材料を含むアンダーコート層と同程度であることがわかった。