(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/50 20060101AFI20240123BHJP
C08G 77/38 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C08G77/50
C08G77/38
(21)【出願番号】P 2021511896
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013535
(87)【国際公開番号】W WO2020203607
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019071485
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 美早紀
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-515634(JP,A)
【文献】特表2016-516101(JP,A)
【文献】国際公開第2018/091582(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/219927(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/219922(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/219918(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/109187(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069706(WO,A1)
【文献】特表2010-537015(JP,A)
【文献】特開昭58-185594(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105238342(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107523257(CN,A)
【文献】特表2020-517771(JP,A)
【文献】特表2018-513129(JP,A)
【文献】特開昭61-051056(JP,A)
【文献】国際公開第2020/226076(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C07F 7/02- 7/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3)で示される、分子中にSiH基を含有しない両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン。
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、mは10以上の整数であり、nは独立に0
又は1であり、a2は独立に2又は3である。)
【請求項2】
(D)下記一般式(6)
【化7】
(式中、R
1は独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、mは10以上の整数である。)
で示される両末端にSiH基を有するオルガノポリシロキサンと
(E)下記一般式(7)
【化8】
(式中、R
2、R
3はそれぞれ独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは0
又は1であり、a2は2又は3である。)
で示されるオルガノシラン化合物を、
(F)白金族金属触媒
の存在下で付加反応させることを特徴とする請求項
1に記載の下記一般式(3)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【化9】
(式中、R
1、R
2、R
3、m、n、a2は上記と同じである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温(25℃±15℃)において大気中の湿気により加水分解して乳酸エステルを放出することができる両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の原料シロキサンでは、従来は分子鎖両末端をシラノール基やアルコキシ基で変性したオルガノポリシロキサンが使用されている。
【0003】
室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の縮合硬化タイプとしては、一般的に、脱アルコール型、脱オキシム型、脱酢酸型等が知られており、各種用途で使用されている。例えば、脱アルコール型は、電気電子用の部品固定接着剤やコーティング剤、自動車用接着剤等で幅広く使用されている。脱オキシム型や脱酢酸型は、硬化性が比較的早いため、主に建材用シーリング剤での使用例が多いが、硬化時に副生するガスが有毒あるいは刺激臭を有しているため、安全上の問題を孕んでいる。また脱オキシム型や脱酢酸型は、被着体に対する腐食性も懸念されるため、使用時には注意が必要である。
【0004】
最近新しい硬化技術として、縮合反応により脱乳酸エステルタイプの室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物が開示された(特許文献1:特許第5399392号公報)。特許文献1では、分子鎖両末端がシラノール基であるポリジメチルシロキサンとエチルラクタートシランからなる室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物が、従来の脱オキシムタイプ等と比較して人体健康面、環境面において優位であることが示されている。また従来の硬化タイプと比較して臭気が弱く不快でないため、作業性も良好と記載されている。しかしながら、該特許では、硬化速度が非常に遅い(硬化時間が非常に長い)室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物となっている。
【0005】
この問題を解決するために組成物中のアミノシランとスズ化合物のモル比を1:1~50:1とするシリコーンゴム組成物が開示された(特許文献2:特表2018-515634号公報)。しかしながら、特許文献2では、製造方法が3つの工程に分けられており、工程数が多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5399392号公報
【文献】特表2018-515634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記事情を改善するためになされたもので、特に室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の原料シロキサンとして有用な両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意努力を行った結果、下記一般式(
3)
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、mは10以上の整数であり、
nは独立に0又は1であり、a
2は独立に2又は3
である。)
で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンが、無機質材料の表面処理剤、撥水処理用コーティング剤、特に室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の原料シロキサンとして好ましいことを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記の両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン及びその製造方法を提供するものである。
[
1]
下記一般式(3)で示される、分子中にSiH基を含有しない両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン。
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、mは10以上の整数であり、nは独立に0
又は1であり、a2は独立に2又は3である。)
[
2]
(D)下記一般式(6)
【化8】
(式中、R
1は独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、mは10以上の整数である。)
で示される両末端にSiH基を有するオルガノポリシロキサンと
(E)下記一般式(7)
【化9】
(式中、R
2、R
3はそれぞれ独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは0
又は1であり、a2は2又は3である。)
で示されるオルガノシラン化合物を、
(F)白金族金属触媒
の存在下で付加反応させることを特徴とする[
1]に記載の下記一般式(3)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【化10】
(式中、R
1、R
2、R
3、m、n、a2は上記と同じである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンは、無機質材料の表面処理剤、撥水処理用コーティング剤、特に室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の原料シロキサンとして有効で、本化合物を使用することで、室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の製造工程を簡略化させることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の
参考例1で得られた両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの
29Si-NMRスペクトル図である。
【
図2】本発明の
参考例2で得られた両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの
29Si-NMRスペクトル図である。
【
図3】本発明の実施例
1で得られた両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの
29Si-NMRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で示される、乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基含有シリル基(ラクタートシリル基)で分子鎖両末端がそれぞれ封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンである。
【化11】
(式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、mは10以上の整数であり、aは独立に2又は3であり、Xは炭素数2~4のアルキレン基又は酸素原子である。)
【0013】
上記式(1)中、R1は独立に炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの環状アルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;及びこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子で置換された基、例えば3,3,3-トリフルオロプロピル基等である。これらの中では、特にメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が好ましい。一般式(1)中の複数のR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0014】
また上記式(1)中、mは10以上の整数であり、通常は10~2,500、好ましくは20~2,000、より好ましくは50~1,200、更に好ましくは100~800程度の整数であり、また好適には、該ジオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が25~30,000mPa・sの範囲、好ましくは50~100,000mPa・sの範囲、より好ましくは500~80,000mPa・sの範囲となる整数であることが望ましい。
【0015】
なお、本発明において、ジオルガノシロキサン単位の繰り返し数を示すm値(重合度)又は分子量は、通常、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる(以下、同じ)。また、粘度は、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)によって測定することができる(以下、同じ)。
【0016】
また上記式(1)中、R2、R3はそれぞれ独立に炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの環状アルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;及びこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子で置換された基、例えば3,3,3-トリフルオロプロピル基等である。これらの中で、R2としてはメチル基、エチル基、ビニル基が好ましく、R3としてはメチル基、エチル基が好ましい。R2、R3は同一であっても異なっていてもよく、またR3同士が同一であっても異なっていてもよい。
aは2又は3である。
また、式(1)のaが付された括弧内に示される加水分解性基において、メチル基が結合しているメチン炭素は不斉中心となり得るが、(R)体、(S)体、ラセミ体のいずれであっても構わない。
【0017】
上記一般式(1)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンとしては、下記一般式(2)、(3)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンが例示できる。
【化12】
(式中、R
1、R
2、R
3、mは上記と同じであり、nは独立に0,1又は2、好ましくは0又は1であり、a1は独立に2又は3、好ましくは2であり、a2は独立に2又は3、好ましくは3である。)
【0018】
上記一般式(1)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法として、一つは、分子鎖両末端にシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)をそれぞれ1個ずつ有するオルガノポリシロキサンと、分子中にラクタート基を3個又は4個有するオルガノシラン化合物とを、特定の沸点を有する一級アミンの存在下で縮合反応させることにより、上記式(2)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンを製造する方法が例示でき、もう一つは、両末端にSiH基(ケイ素原子に結合した水素原子)をそれぞれ1個ずつ有するオルガノポリシロキサンと、分子中に2個又は3個のラクタート基と少なくとも1個(1個又は2個)のケイ素原子に結合したアルケニル基とを有するオルガノシラン化合物とを、白金族金属触媒の存在下でヒドロシリル化付加反応させることにより、上記式(3)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンを製造する方法が例示できる。
【0019】
式(2)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法
具体的に、上記一般式(2)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法としては、
(A)下記一般式(4)
【化13】
(式中、R
1、mは上記と同じである。)
で示される両末端にシラノール基を有するオルガノポリシロキサンと、
(B)下記一般式(5)
【化14】
(式中、R
2、R
3は上記と同じであり、bは3又は4である。)
で示されるオルガノシラン化合物を
(C)沸点が30~100℃である一級アミン
の存在下で縮合反応させることにより製造することができる。
以下にこの製造方法について詳述する。
【0020】
[(A)成分]
(A)成分は、下記一般式(4)で示される両末端にシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)をそれぞれ1個ずつ(分子中に2個)有するオルガノポリシロキサンである。
【化15】
(式中、R
1、mは上記と同じである。)
【0021】
上記式(4)中、R1及びmは、上記一般式(1)及び一般式(2)と同じであり、R1としては、式(1)で例示したR1と同様のものが例示でき、好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。R1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0022】
式(4)で示される両末端にシラノール基を有するオルガノポリシロキサンとして、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化16】
(式中、mは上記と同じである。)
【0023】
[(B)成分]
(B)成分は、下記一般式(5)で示される一分子中に-O-CH(CH
3)-C(=O)O-R
3(R
3は上記と同じ)で示される乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基(ラクタート基)を分子中に3個又は4個有する加水分解性オルガノシラン化合物(即ち、トリラクタート(オルガノ)シラン又はテトララクタートシラン)である。
【化17】
(式中、R
2、R
3は上記と同じであり、bは3又は4である。)
【0024】
上記式(5)中、R2、R3は上記一般式(1)及び一般式(2)と同じであり、式(1)で例示したR2、R3と同様のものが例示できる。これらの中で、R2としてはメチル基、エチル基、ビニル基が好ましく、R3としては、メチル基、エチル基が好ましい。R2、R3は同一であっても異なっていてもよく、またR3同士が同一であっても異なっていてもよい。
bは3又は4であり、上記一般式(2)におけるa1とは、b=a1+1の関係にあり、特には3が好ましい。なお、a1は2又は3であり、特には2が好ましい。
また、式(5)のメチル基が結合しているメチン炭素は不斉中心となり得るが、(R)体、(S)体、ラセミ体のいずれであっても構わない。
【0025】
(B)成分の具体例としては、メチルトリス(エチルラクタート)シラン、ビニルトリス(エチルラクタート)シラン、エチルトリス(エチルラクタート)シラン、n-プロピルトリス(エチルラクタート)シラン、n-ブチルトリス(エチルラクタート)シラン、メチルトリス(メチルラクタート)シラン、ビニルトリス(メチルラクタート)シラン、エチルトリス(メチルラクタート)シラン、n-プロピルトリス(メチルラクタート)シラン、n-ブチルトリス(メチルラクタート)シラン、メチルトリス(n-プロピルラクタート)シラン、ビニルトリス(n-プロピルラクタート)シラン、エチルトリス(n-プロピルラクタート)シラン、n-プロピルトリス(n-プロピルラクタート)シラン、n-ブチルトリス(n-プロピルラクタート)シラン等が挙げられる。
これらの中では、メチルトリス(エチルラクタート)シラン、ビニルトリス(エチルラクタート)シラン、メチルトリス(メチルラクタート)シラン、ビニルトリス(メチルラクタート)シランが好ましく、メチルトリス(エチルラクタート)シラン、ビニルトリス(エチルラクタート)シランが特に好ましい。
(B)成分は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0026】
(B)成分の使用量については、(A)成分中のケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)と(B)成分のモル比((A)のSiOH基:(B))が1:1~1:50、好ましくは1:1.8~1:30、より好ましくは1:2~1:10程度となる比率で反応させることが望ましい。通常、(A)成分と(B)成分とを含有する組成物中には水分が微少量含まれ、(B)成分のラクタート基が消費される場合があるため、(A)成分中の水酸基(シラノール基)に対して(B)成分を過剰量で用いることが好ましい。(B)成分が少なすぎると未反応の(A)成分が残存する場合があり、多すぎると反応終了後において、(B)成分の未反応分が多量に残留するため、次の工程に大きな負荷がかかる場合がある。
【0027】
[(C)成分]
(C)成分は、沸点が30~100℃、好ましくは30~80℃の一級アミンであり、(A)成分と(B)成分の縮合反応の触媒として用いられる成分である。(C)成分は、1種を単独で使用しても2種以上の混合物として使用してもよい。(C)成分は、室温下において、液体状であるため、取り扱いが容易である。なお、沸点が100℃以下であるため、反応終了後、減圧加熱等により完全に除去されうる。
【0028】
より具体的には、プロピルアミン(沸点:48℃)、イソプロピルアミン(沸点:33℃)、ブチルアミン(沸点:78℃)、イソブチルアミン(沸点:68~69℃)、sec-ブチルアミン(沸点:63℃)、tert-ブチルアミン(沸点:44.5℃)、アリルアミン(沸点:96~98℃)等が挙げられる。特に好ましくは、イソプロピルアミン(沸点:33℃)である。
【0029】
(C)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対して0.01~25質量部が好ましく、0.05~10質量部が好ましい。(C)成分が少なすぎると反応が効率よく進行しない場合があり、多すぎると経済的に好ましくない。
【0030】
[縮合反応]
式(2)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンは、上記(A)、(B)及び(C)成分を上述した配合割合で混合し、縮合反応させる。反応条件としては、通常、大気圧下、60~180℃、好ましくは80~110℃の温度範囲で、60~600分、好ましくは180~420分とすることができる。
【0031】
式(3)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法
次に、下記一般式(3)
【化18】
(式中、R
1、R
2、R
3、m、n、a2は上記と同じである。)
で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンの具体的な製造方法としては、
(D)下記一般式(6)
【化19】
(式中、R
1、mは上記と同じである。)
で示される両末端にSiH基(ケイ素原子に結合した水素原子)をそれぞれ1個ずつ(分子中に2個)有するオルガノポリシロキサンと
(E)下記一般式(7)
【化20】
(式中、R
2、R
3、n、a2は上記と同じである。)
で示される分子中に2個又は3個のラクタート基と少なくとも1個(1個又は2個)の炭素数2~4のケイ素原子に結合したアルケニル基とを有するオルガノシラン化合物を、
(F)白金族金属触媒
の存在下でヒドロシリル化付加反応させることにより製造することができる。
以下にこの製造方法について詳述する。
【0032】
[(D)成分]
(D)成分は、下記一般式(6)で示される両末端にSiH基(ケイ素原子に結合した水素原子)をそれぞれ1個ずつ(分子中に2個)有するオルガノポリシロキサンである。
【化21】
(式中、R
1、mは上記と同じである。)
【0033】
上記式(6)中、R1及びmは、上記一般式(1)及び一般式(3)と同じであり、R1としては、式(1)で例示したR1と同様のものが例示でき、好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。R1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0034】
式(6)で示される両末端にSiH基(ケイ素原子に結合した水素原子)を有するオルガノポリシロキサンとして、具体的には、下記に示すもの(分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン)が例示できる。
【化22】
(式中、mは上記と同じである。)
【0035】
[(E)成分]
(E)成分は、下記一般式(7)で示される分子中にビニル基等の炭素数2~4のケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個(1個又は2個)、好ましくは1個有すると共に、-O-CH(CH
3)-C(=O)O-R
3(R
3は上記と同じ)で示される乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基(ラクタート基)を2個又は3個、好ましくは3個有する加水分解性オルガノシラン化合物である。
【化23】
(式中、R
2、R
3、n、a2は上記と同じである。)
【0036】
上記式(7)中、R2、R3は上記一般式(1)及び一般式(3)と同じであり、式(1)で例示したR2、R3と同様のものが例示できる。これらの中で、R2としては、アルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基を除く1価炭化水素基(アルキル基、アリール基等)が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい(即ち、式(7)において、分子中のケイ素原子に結合したアルケニル基は1個であることが好ましい)。R3としては、メチル基、エチル基が好ましい。R2、R3は同一であっても異なっていてもよく、またR3同士が同一であっても異なっていてもよい。
nは0,1又は2であり、0又は1が好ましい。また、a2は2又は3であり、特には3が好ましい。
また、式(7)のメチル基が結合しているメチン炭素は不斉中心となり得るが、(R)体、(S)体、ラセミ体のいずれであっても構わない。
【0037】
(E)成分の具体例としては、ビニルトリス(エチルラクタート)シラン、アリルトリス(エチルラクタート)シラン、メチルビニルビス(エチルラクタート)シラン、エチルビニルビス(エチルラクタート)シラン、ビニルトリス(メチルラクタート)シラン、アリルトリス(メチルラクタート)シラン、メチルビニルビス(メチルラクタート)シラン、エチルビニルビス(メチルラクタート)シラン等が挙げられる。
これらの中では、ビニルトリス(エチルラクタート)シラン、ビニルトリス(メチルラクタート)シランが特に好ましい。
(E)成分は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0038】
(E)成分の使用量については、(D)成分中のSiH基と(E)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基のモル比((D)のSiH基:(E)のケイ素原子結合アルケニル基)が1:1~1:50、好ましくは1:1.8~1:30、より好ましくは1:2~1:10となる比率で反応させることが望ましい。(D)成分中のSiH基に対する(E)成分中のケイ素原子結合アルケニル基のモル比が少なすぎると未反応の(D)成分が残存する場合があり、多すぎると反応終了後において、(E)成分の未反応分が多量に残留するため、次の工程に大きな負荷がかかる場合がある。
【0039】
[(F)成分]
(F)成分の白金族金属触媒は、(D)成分のSiH基含有オルガノポリシロキサンと(E)成分のアルケニル基含有オルガノシラン化合物との付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進させる作用を有する限り、特に限定されない。
(F)成分としては、例えば、従来から公知のヒドロシリル化反応触媒を使用することができる。その具体例としては、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属触媒などが挙げられるが、特に白金化合物が好ましい。
【0040】
(F)成分の配合量は有効量でよく、好ましくは(D)成分のSiH基含有オルガノポリシロキサンに対して、白金族金属原子の質量換算で0.1~1,000ppmが好ましく、10~100ppmがより好ましい。(F)成分が少なすぎると反応が効率よく進行しない場合があり、多すぎると経済的に好ましくない。
【0041】
[付加反応]
式(3)で示される両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンは、上記(D)、(E)及び(F)成分を上述した配合割合で混合し、付加反応させる。反応条件としては、通常、大気圧下、60~180℃、好ましくは90~150℃の温度範囲で、5~600分、好ましくは180~360分とすることができる。
【0042】
本発明の両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサンは、主に無機質材料の表面処理剤、撥水処理用コーティング剤等の主剤(ベースポリマー)として有用である。特に、これらの用途に用いられる脱乳酸エステル型の室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の原料シロキサンとして有用である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で室温は25℃を示し、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。また、重合度はトルエンを展開溶媒としたGPC分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度を示す。
【0044】
[
参考例1]
攪拌機、温度計、ジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコに、下記式
【化24】
で示される分子鎖両末端にシラノール基を有するジメチルポリシロキサン100.0g、ビニルトリス(エチルラクタート)シラン6.7g及びイソプロピルアミン0.080gを仕込み、200rpmの回転速度で、100℃にて6時間混合攪拌した。その後、1.3kPaの減圧下、140℃にて5時間加熱を行い、揮発分を除去した。最後に、系内を室温まで冷却し、圧力を大気圧に戻して、下記式(8)で示される目的化合物(分子鎖両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。
【化25】
【0045】
式(8)で示される目的化合物の
29Si-NMR測定を行い、構造解析を行った。
図1に、
29Si-NMR測定結果を示す。反応前に存在していたジメチルポリシロキサン末端のシラノール基由来ピーク(-10ppm付近)が消滅し、これに替わって、乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基含有シリル基(エチルラクタートシリル基)の生成を示唆するピーク(-67ppm付近)が観測された。ジメチルポリシロキサンの末端シラノール基は、ビニルトリス(エチルラクタート)シランと反応し、乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基含有シリル基でほぼ完全に封鎖されたことが確認できた。
【0046】
[
参考例2]
参考例1において、添加するシラン成分をメチルトリス(エチルラクタート)シラン6.6gへ変更したこと以外は、同様の操作を行い、下記式(9)で示される目的化合物(分子鎖両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。
【化26】
【0047】
式(9)で示される目的化合物の
29Si-NMR測定を行い、構造解析を行った。
図2に、
29Si-NMR測定結果を示す。反応前に存在していたジメチルポリシロキサン末端のシラノール基由来ピーク(-10ppm付近)が消滅し、これに替わって、乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基含有シリル基の生成を示唆するピーク(-52ppm付近)が観測された。
参考例1と同様に、ジメチルポリシロキサンの末端シラノール基は、メチルトリス(エチルラクタート)シランと反応し、乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基含有シリル基でほぼ完全に封鎖されたことが確認できた。
【0048】
[実施例
1]
攪拌機、温度計、ジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコに、下記式
【化27】
で示される分子鎖両末端にSiH基を有するジメチルポリシロキサン(分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン)100.0g、白金触媒(塩化白金酸-ビニルシロキサン錯体、白金原子の質量として上記ジメチルポリシロキサンに対して10ppm)を仕込み、90℃まで昇温した。次に、滴下ロートにビニルトリス(エチルラクタート)シラン5.1gを仕込み、滴下を行った。滴下終了後、200rpmの回転速度で、90℃にて5時間混合攪拌した。その後、触媒を活性炭にて除去、濾過した後、1.3kPaの減圧下、140℃にて5時間加熱を行い、揮発分を除去した。下記式(10)で示される目的化合物(分子鎖両末端ラクタートシリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。
【化28】
【0049】
式(10)で示される目的化合物の
29Si-NMR測定を行い、構造解析を行った。
図3に、
29Si-NMR測定結果を示す。反応前に存在していたジメチルポリシロキサン末端のSiH基由来ピーク(-6ppm付近)が消滅し、これに替わって、乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基含有シリル基(エチルラクタートシリル基)の生成を示唆するピーク(9.0ppm付近)が観測された。ジメチルポリシロキサンの末端SiH基は、ビニルトリス(エチルラクタート)シランと反応し、乳酸エステルを脱離可能な加水分解性基含有シリル基でほぼ完全に封鎖されたことが確認できた。