(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】車体用樹脂部材、車体用樹脂部材付き窓部材、及び車両
(51)【国際特許分類】
B60J 1/00 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
B60J1/00 G
(21)【出願番号】P 2021530566
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024069
(87)【国際公開番号】W WO2021006004
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019126898
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 久仁子
【審査官】佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-166964(JP,A)
【文献】特開2015-107764(JP,A)
【文献】特開2009-234432(JP,A)
【文献】特開2010-234867(JP,A)
【文献】特開2012-206721(JP,A)
【文献】特表2016-511295(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049606(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両において窓部材の上部に配置される車体用樹脂部材であって、
前記車体用樹脂部材には一つ
以上の車載部材が取り付けられ、
前記車体用樹脂部材の可視光透過率が50%以下であ
り、前記車体用樹脂部材の荷重たわみ温度が50℃以上であり、前記車体用樹脂部材は厚さが2~30mmの板状である、車体用樹脂部材。
【請求項2】
前記車体用樹脂部材が前記窓部材の幅方向全体にわたって設けられた、請求項1に記載の車体用樹脂部材。
【請求項3】
前記車載部材
はセンサ
を含み、前記車体用樹脂部材は貫通孔を備え
、前記センサは、前記貫通孔を通過する電磁波を検出できるように前記車体用樹脂部材に取り付けられる、請求項1又は2に記載の車体用樹脂部材。
【請求項4】
前記センサが可視光カメラ、赤外線カメラ、レーダー、及びライダーからなる群より選ばれる1種以上である、請求項3に記載の車体用樹脂部材。
【請求項5】
前記車載部材
はアンテナ
を含み、前記車体用樹脂部材は前記アンテナを取り付けるための窪みを備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材。
【請求項6】
前記車載部材
はミラー
を含み、前記車体用樹脂部材は前記ミラーのミラーベースを取り付けるための平面部を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材。
【請求項7】
前記車載部材
はミラー
を含み、前記ミラーのミラーベースは前記車体用樹脂部材と一体成形されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材。
【請求項8】
前記貫通孔の車外側の端部にカバーガラスを備える、請求項3
又は4に記載の車体用樹脂部材。
【請求項9】
前記カバーガラスがカルコゲナイドガラスである、請求項8に記載の車体用樹脂部材。
【請求項10】
前記車体用樹脂部材は線膨張係数が80×10
-6℃
-1以下である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材。
【請求項11】
前記車体用樹脂部材はUV吸収剤及
び酸化防止剤
の少なくとも一方を含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材。
【請求項12】
前記車体用樹脂部材は黒く着色された、請求項1~
11のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材。
【請求項13】
窓部材と、前記窓部材の上部に配置された請求項1~
12のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材とを備える、車体用樹脂部材付き窓部材。
【請求項14】
窓部材と、前記窓部材の上部に配置された請求項1~
12のいずれか1項に記載の車体用樹脂部材を備える、車両。
【請求項15】
前記
車体用樹脂部材が前記
車両の車体
部分と同じ色で着色された、請求項
14に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体用樹脂部材、車体用樹脂部材付き窓部材、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には各種センサ、アンテナ、及びミラー等の様々な部材(以下「車載部材」ともいう)が搭載される。運転支援技術の向上などの理由から、車載部材の種類は多様化している。
【0003】
車載部材には、その種類に応じた様々な理由により、窓ガラスの内側、即ち車室内への配置が望まれるものがある。しかしながら、これらの車載部材には車室内への配置が困難なものもある。
【0004】
例えば、ガラスが赤外線を透過しにくいことから、赤外線カメラは車室内への配置が困難である。また、ガラスは近年の第4世代移動通信システム(以下「4G」ともいう)や第5世代移動通信システム(以下「5G」ともいう)において用いられる数GHz~数十GHzの周波数帯域(以下「高周波数帯域」ともいう)の電波に対する透過性も十分ではない。そのためアンテナも車室内への配置が困難である。
【0005】
上記に鑑みて、各種車載部材を車室内に配置するために様々な工夫がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1では、窓ガラスとして用いられる合わせガラスの内側のガラスの一部を電波透過材に置き換えることなどにより、窓部材の一部を電波透過率の高い領域とすることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、合わせガラスからなる窓部材において、部分的に内側のガラスが存在しない領域を設けることにより、電磁波の透過性を向上させることが開示されている。
【0008】
また、特許文献3では、窓ガラスの一部をくりぬいて赤外線透過率の高い材料を挿入し、窓部材に部分的に赤外線透過率の高い領域を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/188415号
【文献】日本国特表2011-502090号公報
【文献】英国特許出願公開第2271139号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの文献では、窓部材の加工の困難性や、車載部材取り付けの困難性の検討が十分になされていない。
【0011】
特許文献1~3に記載された、いずれの窓部材においても、ガラスの一部が切り欠かれたり、くりぬかれたりした形状とする必要がある。しかし、ガラスは成形性及び加工性が低いため、このような加工には多大なコスト及び工数がかかったり、加工部周辺が歪んだりして、外観や取り付けられる車載部材の性能に問題が生じうる。
【0012】
また、窓部材に車載部材を取り付ける方法としては、例えば窓部材に窪みや穴を設けて、そこに車載部材を取り付ける方法が挙げられる。しかし、ガラスは成形性及び加工性が低いため、このような加工にも多大なコスト及び工数がかかる。また、車載部材の取り付けに要求される位置決め精度と比較して、加工精度が十分とならない場合もある。
【0013】
窓部材に車載部材を取り付ける他の方法として、窓部材にブラケットを接着して、当該ブラケットを介して車載部材を取り付ける方法が挙げられる。しかし、窓部材は曲面状であるのに対し、ブラケットの貼り付け面は基本的に平面状なので、接着面積の確保、ひいては接着強度の確保が困難である。したがって、かかる方法は車載部材が重い場合には適用が困難となる。また、ウレタンなどの厚み及び柔軟性を有し、貼付け面形状の違いを緩和することができる接着剤の使用も考えられるが、かかる方法はコストや工数の増大を招く上に、貼り付けられた車載部材が振動しやすくなり、車載部材の機能に悪影響を及ぼす場合もある。
【0014】
また、窓部材に車載部材を取り付ける他の方法として、例えば窓部材に車載部材を接着する方法が挙げられるが、かかる方法においても上記のブラケットの接着と同様の問題が生じる。
【0015】
さらに、特許文献1または2に記載の窓部材では、窓部材に他の領域よりも電磁波透過性が高い領域を設けているが、この領域もガラスを備えるため、電磁波透過性が十分でない場合があった。
【0016】
本発明は上記に鑑みて完成されたものであり、車載部材の取り付けに適した車体用樹脂部材を提供することを目的とする。また、当該車体用樹脂部材を備える車体用樹脂部材付き窓部材、及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明に係る一実施形態の車体用樹脂部材は、車両において窓部材の上部に配置される車体用樹脂部材であって、少なくとも一つの車載部材が取り付けられる車体用樹脂部材である。
【0018】
本発明の車体用樹脂部材の一態様において、車載部材のうちの少なくとも一つはセンサであり、車体用樹脂部材は貫通孔を備えてもよい。
【0019】
本発明の車体用樹脂部材の一態様において、車載部材のうちの少なくとも一つはアンテナであり、車体用樹脂部材は前記アンテナを取り付けるための窪みを備えてもよい。
【0020】
本発明の車体用樹脂部材の一態様において、車載部材のうちの少なくとも一つはミラーであり、車体用樹脂部材は前記ミラーのミラーベースを取り付けるための平面部を備えてもよい。
【0021】
本発明の車体用樹脂部材の一態様において、車載部材のうちの少なくとも一つはミラーであり、ミラーのミラーベースは車体用樹脂部材と一体成形されていてもよい。
【0022】
本発明の車体用樹脂部材の一態様は、可視光透過率が50%以下であってもよい。
【0023】
本発明の車体用樹脂部材の一態様は、荷重たわみ温度が50℃以上であってもよい。
【0024】
本発明の車体用樹脂部材の一態様は、線膨張係数が80×10-6℃-1以下であってもよい。
【0025】
また、本発明に係る一実施形態の車体用樹脂部材付き窓部材は、窓部材と、窓部材の上部に配置された本発明の車体用樹脂部材とを備える。
【0026】
本発明の車体用樹脂部材付き窓部材の一態様は、車体用樹脂部材に取り付けられた少なくとも一つの車載部材をさらに備えてもよい。
【0027】
また、本発明に係る一実施形態の車両は、窓部材と、窓部材の上部に配置された本発明の車体用樹脂部材を備える。
【0028】
本発明の車両の一態様は、車体用樹脂部材に取り付けられた少なくとも一つの車載部材をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一実施形態に係る車体用樹脂部材は、車載部材の取り付けに適する。また、車体用樹脂部材付き窓部材及び車両は、車載部材の取り付けに適する車体用樹脂部材を備える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る車体用樹脂部材を備える車両の概略正面図である。
【
図2】
図2は、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図の一例である。
【
図3】
図3は、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図の他の例である。
【
図4】
図4は、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図の他の例である。
【
図5】
図5は、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図の他の例である。
【
図6】
図6は、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図の他の例である。
【
図7】
図7は、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図の他の例である。
【
図8】
図8は、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図の他の例である。
【
図9】
図9は、本発明の他の実施形態に係る車体用樹脂部材を備える車両の概略正面図である。
【
図10A】
図10Aは、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材と窓部材の接合部分周辺の拡大図の一例である。
【
図10B】
図10Bは、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材と窓部材の接合部分周辺の拡大図の他の例である。
【
図10C】
図10Cは、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材と窓部材の接合部分周辺の拡大図の他の例である。
【
図10D】
図10Dは、
図1のA-A線に沿った断面図における、車体用樹脂部材と窓部材の接合部分周辺の拡大図の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0032】
図1に、本実施形態の車体用樹脂部材1を備える車両100の概略正面図を示す。本実施形態の車体用樹脂部材1は、車両100において窓部材2の上部に配置され、少なくとも一つの車載部材が取り付けられる。以下に本実施形態の車体用樹脂部材1について詳細に説明する。
【0033】
本実施形態の車体用樹脂部材は、車体を構成する樹脂部材(車体用樹脂部材)である。
なお、本明細書において、車体は窓部材と区別して用いられる概念である。窓部材は、通常は合わせガラスや強化ガラスで構成され、搭乗者はこれを通して外部の風景を視認する。車両用窓部材としては、例えばウインドシールド、リアガラス、及びサイドガラスなどが挙げられる。一方、車体は通常可視光をほぼ透過せず、搭乗者が車体を通して外部の風景を視認することはない。
なお、以下車体用樹脂部材を単に「樹脂部材」という場合がある。
【0034】
本実施形態の樹脂部材は、車載部材が取り付けられる部材である。本実施形態の樹脂部材は、樹脂製であり成形性や加工性が高いことから、容易に車載部材の取り付けに適した形状とすることができる。車載部材の取り付けに適した形状とは、例えば、車載部材を取り付けるための窪みや穴、突起、及び平面部等を備える形状である。本実施形態の樹脂部材をこのような形状とする方法は特に限定されないが、コストや工数、加工精度の観点から、成形時にこのような形状とすることが好ましい。すなわち、本実施形態の樹脂部材は一体成形により形成された樹脂部材であることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態の樹脂部材は、車載部材を容易に取り付けられることや、樹脂製であることから、取り付けられる車載部材の機能を阻害しにくい。詳細は後述する。
【0036】
これらの特徴より、本実施形態の樹脂部材は車載部材の取り付けに適した部材である。また、本実施形態の樹脂部材は車両において窓部材の上側に取り付けられるため、特に高い位置に取り付けられることが望まれる車載部材の取り付けに適している。以下、取り付けられる車載部材の例を挙げて本実施形態の車載部材の構造の例を具体的に説明する。
【0037】
<センサ>
まず、車載部材がセンサである場合について説明する。ここで、車両に搭載されるセンサとしては、例えば可視光カメラや赤外線カメラ等のカメラ、ミリ波レーダー等のレーダー、及びライダー(LIDAR:Laser Imaging Detection and Ranging)等が挙げられる。
【0038】
センサは、広いセンサ範囲を確保するために車両において比較的高い位置に取り付けることが望まれている。しかし、ガラスは赤外線やミリ波の透過率が低いことから、赤外線カメラやライダー、ミリ波レーダーは車室内(窓部材の内側)に取り付けられることはできない。したがってセンサは、通常はフロントグリル内部に取り付けられている。
【0039】
一方、可視光はガラスを透過するため、可視光カメラは車室内に取り付けることができ、通常は窓部材の内側の上部に取り付けられている。しかし、このように可視光カメラが取り付けられた場合、可視光カメラは窓部材を透過した可視光を検知することになるので、得られる画像が不鮮明でひずんだ画像になるという問題があった。
【0040】
上記の問題を解決するためには、窓部材の一部に貫通孔を設け、この貫通孔を通過する電磁波を検出できるようにセンサを取り付けるという方法が考えられる。しかし、窓部材は加工性及び成形性の低いガラスで形成されるため、このような貫通孔を設けるのには多大なコスト及び工数を必要とする。
【0041】
さらに、通常窓部材は曲面状であり、また、加工性の低いガラス製であることから、センサの窓部材への取り付けは困難性が高く、多大なコスト及び工数を要するといった問題点もあった。他にも、取り付けが困難であることから、取り付けられたセンサの安定性が悪く、車両の走行中に振動が生じやすくなり、センサの機能に悪影響を及ぼす場合もあった。
【0042】
センサが取り付けられる場合における上記のような従来の問題を解決するための本実施形態の樹脂部材の一例としては、貫通孔を備える樹脂部材が挙げられる。センサは、当該貫通孔を通過する電磁波(可視光、赤外線、及びミリ波など)を検出できるように樹脂部材に取り付けられる。
【0043】
本実施形態の樹脂部材は樹脂製であり成形性及び加工性に優れるので、貫通孔を容易に形成可能である。また、センサを容易にかつ安定して取り付けることができる。したがって、本実施形態の樹脂部材を用いれば、センサを高い位置に、容易かつ機能を妨げることなく取り付け可能である。
【0044】
貫通孔の大きさや形状は、取り付けられるセンサ部材の大きさや形状に応じて適宜調整すればよいが、通常は直径1~3cm程度の円形である。
【0045】
センサを樹脂部材に固定する方法としては、例えば、センサを貫通孔に挿入する方法、センサを樹脂部材に接着する方法、センサを樹脂部材に押し付ける方法、及びブラケットやセンサボックスを用いてセンサを固定する方法等が挙げられる。以下に、
図2~4にセンサを樹脂部材に取り付ける方法の例を示して説明する。なお、センサを樹脂部材に固定する方法はこれらに限定されない。
図2~4は、
図1のA-A線に沿った断面図における、樹脂部材1の車載部材が取り付けられる部位の周辺の拡大図である。なお、
図5~8も同様である。
【0046】
図2に示す例においては、センサ3は樹脂部材1に接着されて固定されている。なお、
図2に示す例のように、センサ3のレンズ部が車外に露出している場合、レンズ部はカバーガラス等で保護されていることが好ましい。
【0047】
カバーガラスにおいては、センサ3が検出する電磁波の透過率が高いことが好ましい。例えば、可視光カメラを取り付ける場合は、カバーガラスは可視光透過率が高いガラスからなることが好ましい。また、赤外線カメラを取り付ける場合は、カバーガラスは赤外線透過率が高いガラスからなることが好ましい。赤外線透過率が高いガラスとしては、例えばカルコゲナイトガラスが挙げられる。
【0048】
なお、このような構成では、貫通孔4内に雨が入った場合に、ワイパーにより雨を除去できない。したがって、このような構成では、例えば空気を貫通孔に吹き付ける機構を備えることにより、貫通孔4内の雨を除去できるようにすることが好ましい。また、貫通孔とセンサ3の間から雨が車内側に入らないように、貫通孔4が任意の部材で封止されることが好ましい。
【0049】
また、センサは、接着剤ではなく、例えばバネ部材により樹脂部材に押し付けられて固定されていてもよい。この場合は、封止性の観点から、樹脂部材とセンサの間にゴム部材を配置することが好ましい。
【0050】
次に、
図3に示す他の例について説明する。
図3に示す例においては、センサ3はブラケット6を介して樹脂部材1に固定されている。この例においては、
図3に示すように貫通孔4の車外側の端部にカバーガラス5が設けられることが好ましい。センサ3の取り付けの安定性を向上させるためには、樹脂部材1に平面部を設けてそこにブラケット6を取り付けることが好ましい。また、ブラケット6を樹脂部材1と一体成形することも好ましい。
【0051】
次に、
図4に示す他の例について説明する。
図4に示す例においては、センサ3はセンサボックス7に格納され、バネ部材9により樹脂部材に押し付けられ、また、貫通孔4に挿入されて固定されている。
【0052】
樹脂部材1にセンサボックス7を取り付ける方法は特に限定されない。例えば樹脂部材1にセンサボックス7を接着してもよい。また、樹脂部材1に係合用の突起を設け、これをセンサボックス7に設けた係合用の窪みに挿入することにより取り付けてもよい。係合用の突起及び窪みの形状は特に限定されず、適宜取り付けやすいような形状に調整すればよい。また、センサボックス7は、樹脂部材1と一体成形により形成されていてもよい。
【0053】
この例において、センサ3は貫通孔4内に挿入されて固定されている。センサ3を貫通孔4に固定する方法としては特に限定されない。例えば接着剤で固定する方法、貫通孔4の内面及びセンサ3の外面にネジ山を設けてこれらを螺合させる方法、及びセンサ3に例えばクリップなどの係止具を設けてこれにより係止する方法などが挙げられる。
【0054】
また、センサ3は、例えばバネ部材9によりセンサボックス7の内側から樹脂部材1に対して押し付けられることにより固定されていてもよい。この場合は、センサ3と樹脂部材1の間に生じるすき間を埋めるためのゴム部材8が配置されることが好ましい。
【0055】
また、複数のセンサを取り付ける場合は、1つのセンサボックスに複数のセンサを格納して取り付けてもよい。また、センサには、外光が入らないようにセンサ上部を覆うフードなどが取り付けられていてもよい。
【0056】
なお、センサを樹脂部材に取り付ける方法は、上記に説明した具体例に限定されない。例えば、センサボックスに代えて、センサボックスの底板のみからなる板状部材にセンサを載置し、当該板状部材を樹脂部材に取り付けることによりセンサを取り付けてもよい。
【0057】
<アンテナ>
次に、車載部材が電波の送受信に用いるアンテナである場合について説明する。
アンテナは、電波の送受信を容易にするために車両において比較的高い位置に取り付けることが望まれており、例えば窓部材の内側の上部に取り付けられていた。しかし、近年の4Gや5Gにおいて用いられる高周波数帯域の電波はガラスを透過しにくいことから、アンテナを従来のように車室内に配置することは困難となっていた。
【0058】
一方、本実施形態の樹脂部材は樹脂製なので、ガラス製の窓部材と比較すると材質や厚みを調整することにより電磁波透過性を向上させやすく、高周波数帯域の電波も透過することができる。そのため、本実施形態の樹脂部材を用いればアンテナを車室内に設置することが可能となる。
【0059】
アンテナは、例えば接着剤などにより樹脂部材1に取り付けることができる。アンテナが取り付けられる場合、樹脂部材1は、
図5に示すようにアンテナ10を取り付けるための窪み11を有してもよい。
【0060】
また、アンテナ10は例えば
図6に示すように、樹脂部材1に設けられたポケット12に挿入されて取り付けられてもよい。ポケット12内でのアンテナ10の振動を抑制するためには、アンテナ10は例えばバネ部材13などによりポケット12内に押し付けられて固定されていることが好ましい。また、アンテナ10は、例えばポケット12内に接着されていてもよい。
【0061】
さらに、通常車載部材の取り付けにはブラケットが用いられるが、ブラケットは金属製であるため、電波の送受信に悪影響を及ぼす。一方、本実施形態の樹脂部材は樹脂製であり成形性及び加工性が高く、各種車載部材の取り付けに適した形状とすることが容易である。そのため、車載部材の取り付けに用いるブラケットの数を削減することができる。したがって、上記観点からも本実施形態の樹脂部材はアンテナの取り付けに適している。
【0062】
<ルームミラー>
次に、車載部材がルームミラーである場合について説明する。
ルームミラーは通常窓部材に接着されたミラーベースを介して窓部材に取り付けられる。しかし、窓部材は曲面状であるのに対し、ミラーベースの取り付け面は通常平面状であるため、上述のとおり接着強度の確保が困難であった。しかしながら、近年ルームミラーは多機能化が求められており、それに伴いルームミラーの重量が増加するので、より強固にルームミラーを取り付けることができる取り付け構造が求められていた。
【0063】
ルームミラー14が取り付けられる場合において、上記のような従来の問題を解決するための本実施形態の樹脂部材の第1の例としては、
図7に示すようにミラーベース15を取り付けるための平面部16を備える樹脂部材1が挙げられる。この時、接着性向上のために表面を粗面化しても良い。また、第2の例としては、
図8に示すように一体成形されたミラーベース17を備える樹脂部材1が挙げられる。
【0064】
上記第1の例の樹脂部材1では、平面部16にミラーベース15を取り付け、当該ミラーベース15にルームミラー14を取り付けることにより、強固にルームミラー14を取り付けられる。また、上記第2の例の樹脂部材1では、一体成形されたミラーベース17にルームミラー14を取り付けることにより、強固にルームミラー14を取り付けられる。第1の例において平面部16にミラーベース15を取り付ける方法は特に限定されないが、例えば接着により取り付けることができる。
【0065】
以上、車載部材として代表的なものを挙げ、それを取り付けるための樹脂部材の例を説明したが、本実施形態の樹脂部材に取り付けられる車載部材は以上に例示したものに限定されない。また、本実施形態の車載部材には複数の車載部材が取り付けられてもよい。
【0066】
本実施形態の樹脂部材の形状は特に限定されないが、例えば厚さ2~30mmの板状であってもよい。樹脂部材の厚みは均一でなくてもよく、要求される強度や、取り付けられるセンサ等の性能や取り付け構造に応じて、適宜調整されていてもよい。本実施形態の樹脂部材1は、例えば
図1に示すように窓部材2の幅方向全体にわたって設けられてもよいし、また、
図9に示すように窓部材2の幅方向の一部に設けられてもよい。
【0067】
本実施形態の樹脂部材は、車両に設ける場合おいて、塗装されてもよく、塗装されなくてもよい。
図1に示す形状のように広範囲にわたって本実施形態の樹脂部材が設けられる場合は、本実施形態の樹脂部材以外の車体部分と同じ色で塗装されることが、外観上の理由から好ましい。
【0068】
一方、塗装されない場合は、本実施形態の樹脂部材は直接日光や外気、雨等に触れることとなるため、耐候性が高いことが好ましい。耐候性は、本実施形態の樹脂部材を黒く着色することや、本実施形態の樹脂部材にUV吸収剤や酸化防止剤等を含有させることにより向上させることができる。
【0069】
また、車外から車載部材の取り付け構造が視認できると外観上好ましくない。そのため、本実施形態の樹脂部材は塗装されない場合は、可視光透過率が低いことが好ましい。具体的には、可視光透過率が50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。なお、上記の可視光透過率は日本工業規格(JIS R3212-2015)に準拠して求められた可視光透過率を意味する。
【0070】
また、本実施形態の樹脂部材が取り付けられる領域は、比較的日光などにより温度が上昇しやすい領域であるため、本実施形態の樹脂部材は、耐熱性に優れることが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂部材は、荷重たわみ温度が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがさらに好ましい。上記の荷重たわみ温度は日本工業規格(JIS K7191-2-2007、0.45MPa)に準拠して測定された値を意味する。
【0071】
樹脂部材と窓部材の接合部分を説明するために、
図10A~Dに
図1のA-A線に沿う断面図の、樹脂部材1と窓部材2の接合部分周辺の拡大図を示す。
【0072】
樹脂部材1と窓部材2とは例えば接着剤により接合される。接合部分の構造は、
図10Aのように樹脂部材1と窓部材2との端面どうしが当接した構造であってもよい。また、
図10Bのように樹脂部材1の端面の両方の長辺付近が端面に垂直な方向に突出し、この突出部の間に窓部材2の端部が嵌め込まれた構造であってもよい。また、
図10Cや
図10Dのように、樹脂部材1の端面の片方の長辺付近が端面に垂直な方向に突出していてもよい。強度の観点からは
図10B~
図10Dの構造が好ましく、特に車外からの衝撃に対する強度の観点からは
図10B及び
図10Cの構造が好ましい。
【0073】
樹脂部材と窓部材の熱膨張率差が大きいと、樹脂部材と窓部材の接合が破壊されたり、窓部材又は樹脂部材が割れたりする恐れがある。特に、
図1に示すように樹脂部材が窓部材の幅方向全体にわたって設けられている場合にはこの恐れは顕著である。
【0074】
したがって、本実施形態の樹脂部材の線膨張係数は、窓部材の線膨張係数(約9×10-6℃-1)に近いことが好ましい。具体的には80×10-6℃-1以下であることが好ましく、60×10-6℃-1以下であることがより好ましく、50×10-6℃-1以下であることがさらに好ましい。なお、上記の線膨張係数は、日本工業規格(JISK7140-1-2008)に基づいて測定された値である。
【0075】
本実施形態の樹脂部材の材料は特に限定されない。また、本実施形態の樹脂部材の材料となる樹脂には、寸法安定性及び耐熱性の向上、難燃性付与等の熱的機能の向上、強度や耐摩耗性等の機械特性の向上、電気特性、磁気特性及び遮音性の向上等、様々な目的でフィラーを混合できる。フィラーの形状は限定されず、例えば球状、中空状、粒状、板状、棒状、及び繊維状などがあげられる。フィラーの材料も限定されず、例えばガラス、炭酸カルシウムなどの無機塩、炭素及びアラミドなどがあげられる。
【0076】
本実施形態の樹脂部材の材料としては、例えば繊維強化プラスチックが挙げられる。繊維強化プラスチックとしては、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、CNF(セルロースナノファイバ)強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、及びアラミド繊維強化プラスチック(AFRP)などが挙げられる。
【0077】
本実施形態の樹脂部材の材料としては、繊維強化されていないプラスチックを用いることもできる。例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ABS樹脂、アクリル(PMMA)、ポリアミド樹脂(PA、ナイロン含む)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)なども用いることができる。
これらは、性能向上を目的として2種類以上を混合してポリマーアロイとすることも可能である。
【0078】
なお、本実施形態の樹脂部材には本発明の効果を阻害しない範囲で添加剤が添加されていてもよく、例えばUV吸収剤や酸化防止剤などが添加されていてもよい。また、本実施形態の樹脂部材には、本発明の効果を阻害しない範囲で、コーティング等の加工が施されていてもよい。
【0079】
本実施形態の樹脂部材の製造方法は特に限定されないが、例えば射出成型が挙げられる。
【0080】
次に、本実施形態の車体用樹脂部材付き窓部材について説明する。本実施形態の車体用樹脂付き窓部材は、車両用窓部材と、当該車両用窓部材の上部に取り付けられた上述の樹脂部材とを備える。
【0081】
本実施形態の車体用樹脂部材付き窓部材において、窓部材の構成は特に限定されない。窓部材は、例えば合わせガラスからなる窓部材であってもよいし、樹脂製の窓部材であってもよい。樹脂製の窓部材を構成する樹脂としては、ポリカーボネート、及びセルロースナノファイバとポリカーボネートの複合樹脂等が挙げられる。
【0082】
次に、本実施形態の車両について説明する。本実施形態の車両は、窓部材と、当該窓部材の上部に上述した樹脂部材を備える車両である。本実施形態の車両は、比較的高い位置に樹脂部材を備え、この樹脂部材に車載部材を取り付けることができる。
【0083】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0084】
なお、本出願は、2019年7月8日出願の日本特許出願(特願2019-126898に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0085】
1 車体用樹脂部材
2 窓部材
3 センサ
4 貫通孔
5 カバーガラス
6 ブラケット
7 センサボックス
8 ゴム部材
9 バネ部材
10 アンテナ
11 窪み
12 ポケット
13 バネ部材
14 ルームミラー
15 ミラーベース
16 平面部
17 ミラーベース
100 車両。