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特許7424434硬化型液体組成物、硬化物及び硬化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】硬化型液体組成物、硬化物及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240123BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240123BHJP
   C08F 283/01 20060101ALI20240123BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240123BHJP
   C08L 67/06 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C08L101/00
B33Y70/00
C08F283/01
C08K7/02
C08L67/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022144403
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2017216369の分割
【原出願日】2017-11-09
(65)【公開番号】P2022172361
(43)【公開日】2022-11-15
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 啓
(72)【発明者】
【氏名】草原 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】長友 雄司
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105888(JP,A)
【文献】特開2002-321231(JP,A)
【文献】特開2017-135371(JP,A)
【文献】特開2016-117273(JP,A)
【文献】特開2009-108423(JP,A)
【文献】特開2001-201500(JP,A)
【文献】特開平08-081481(JP,A)
【文献】特表2010-520949(JP,A)
【文献】特開2008-260812(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114031(WO,A1)
【文献】特開2002-268217(JP,A)
【文献】特表平10-505352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B33Y
C08K
C08L
C08F 283/01
C08F 299/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂の前駆体と、ファイバーと、を含む硬化型液体組成物であって、
ステレオリソグラフィー方式に用いられる硬化型液体組成物であり、
23℃で液体であり、
前記ファイバーは、繊維径が2~25μmであり、繊維長が50μm以上300μm以下であり、該硬化型液体組成物に対して合計で10質量%以上60質量%以下含まれ、
硬化後の該硬化型液体組成物は、JIS K7191の測定方法において、1.8MPaで荷重したときの荷重たわみ温度が120℃以上であり、
前記ファイバーの繊維径及び繊維長は、平均値を表し、前記硬化後の該硬化型液体組成物について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)により測定を行い、5箇所の平均を求めて得られたものであることを特徴とする硬化型液体組成物。
【請求項2】
前記硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の硬化型液体組成物。
【請求項3】
前記硬化性樹脂の前駆体は、電子線又は電磁波により重合するモノマーもしくはオリゴマー又はモノマーとオリゴマーの混合物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化型液体組成物。
【請求項4】
前記ファイバーは、ガラスファイバー、カーボンファイバー、アラミドファイバー及びアルミファイバーから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の硬化型液体組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の硬化型液体組成物からなることを特徴とする硬化物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の硬化型液体組成物を硬化させて硬化物を製造することを特徴とする硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化型組成物、硬化物、硬化物の製造方法及び硬化物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンターで造形物として硬化物を形成する方式はいくつか知られている。例えば、液体状の光硬化性樹脂として樹脂溶液を紫外線レーザーで一層ずつ硬化させて積層していく方式が知られている。これはSLA(Stereolithography)方式、ステレオリソグラフィー方式などとも称される。ステレオリソグラフィー方式を用いた装置としては、例えば特許文献1、2が知られている。
【0003】
ステレオリソグラフィー方式の樹脂溶液に用いる材料としては、例えば特許文献3ではジメチルアクリレート、ウレタンアクリレートを用いることが記載されている。また、特許文献4では、(メタ)アクリレート化合物やウレタン(メタ)アクリレート化合物が含まれる放射線硬化性組成物が記載されている。
【0004】
従来の樹脂溶液では、アクリル樹脂等の強度の弱い材料がメインであり、高硬度の造形物を得るために熱硬化樹脂の使用が望まれていた。
しかし、熱硬化樹脂をステレオリソグラフィーで使用する場合、反応速度が不十分なため、硬化条件の最適化が定まらず、実用化されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ステレオリソグラフィー方式で硬化物を形成する場合であっても耐熱性、強度に優れた硬化物が得られる硬化型組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は硬化性樹脂の前駆体と、ファイバーと、を含む硬化型液体組成物であって、ステレオリソグラフィー方式に用いられる硬化型液体組成物であり、23℃で液体であり、前記ファイバーは、繊維径が2~25μmであり、繊維長が50μm以上300μm以下であり、該硬化型液体組成物に対して合計で10質量%以上60質量%以下含まれ、硬化後の該硬化型液体組成物は、JIS K7191の測定方法において、1.8MPaで荷重したときの荷重たわみ温度が120℃以上であり、前記ファイバーの繊維径及び繊維長は、平均値を表し、前記硬化後の該硬化型液体組成物について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)により測定を行い、5箇所の平均を求めて得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステレオリソグラフィー方式で硬化物を形成する場合であっても耐熱性、強度に優れた硬化物が得られる硬化型組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の硬化物の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図2】本発明の硬化物の製造方法の他の例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る硬化型組成物、硬化物、硬化物の製造方法及び硬化物の製造装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0010】
(硬化型組成物)
本発明は、電子線及び電磁波の少なくとも一方により重合する硬化型組成物であって、熱硬化性樹脂の前駆体と、重合開始剤と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ステレオリソグラフィー方式で硬化物を形成する場合であっても耐熱性、強度に優れた硬化物を得ることができる。また、本発明の硬化型組成物は、特にステレオリソグラフィー方式に好適に用いられ、複雑かつ精細な硬化物を簡便かつ効率よく製造することが可能となる。
【0012】
本発明の硬化型組成物は、室温で液体であることが好ましく、23℃で液体であることがより好ましい。この場合、ステレオリソグラフィー方式の造形に特に好適に用いることができる。
【0013】
<熱硬化性樹脂>
本発明の硬化型組成物は、熱硬化性樹脂の前駆体を含み、熱硬化性樹脂は、熱硬化性の前駆体に硬化剤を加え熱をかけることにより効果反応により硬化がおこる樹脂のことである。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びジアリルフタレート樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記熱硬化性樹脂の前駆体は、例えば、電子線及び電磁波の少なくとも一方により重合するモノマーもしくはオリゴマー又はモノマーとオリゴマーの混合物からなる。硬化強度を高めるためにアクリル、ビニルモノマを上記、熱硬化樹脂前駆体に含んでもよい。
【0014】
硬化型組成物中の熱硬化性樹脂の前駆体の含有量は、適宜変更することが可能であるが、硬化型組成物中に強度を向上させる目的でファイバー、フィラーが含有されている場合、硬化型組成物全体に対して10~80質量%であることが好ましい。ファイバー、フィラーが含有されていない場合は、50質量%以上であることが好ましく、この場合、希釈などの強度低下を抑制することができる。
【0015】
<重合開始剤>
本発明の硬化型組成物は、重合開始剤を含む。電子線及び電磁波の少なくとも一方を吸収する重合開始剤を用いることで反応が進行し、ポリマー化が伸長することにより樹脂が固化し硬化物を得ることができる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤及び光熱変換剤から選ばれる1種以上が好ましい。
【0016】
硬化型組成物中の重合開始剤の含有量は、適宜変更することが可能であるが、硬化型組成物中、0.01~5質量%であることが好ましい。
【0017】
<電子線、電磁波>
本発明の硬化型組成物は電子線及び電磁波の少なくとも一方により重合するものであり、電子線及び電磁波としては、必要に応じて適宜変更することができる。電子線及び電磁波としては、重合開始剤を励起させるのに十分な強度を有していることが好ましい。
本発明における電子線及び電磁波としては、例えば、紫外線(UV)、半導体レーザー、DLP(Digital Light Processing、登録商標)タイプでの光源、赤外線レーザー等が挙げられる。
電磁波の波長としては、250~1000nmが好ましい。UV波長の開始剤を使用するときは250~420nmの波長が好ましく、赤外線レーザーの波長が必要なときは、700~900nmの波長が好ましい。
電子線及び電磁波は、2種類以上あってもよく、同時もしくは順番に切り替えて使用されるのでもよい。
【0018】
<ファイバー、フィラー>
本発明の硬化型組成物は、さらにファイバー(繊維などとも称する)又はフィラーを含むことが好ましい。ファイバー又はフィラーを含むことにより、耐熱性や強度をより向上させることができる。
【0019】
ファイバーとしては、ガラスファイバー、カーボンファイバー、アラミドファイバー、金属ファイバー等が挙げられる。
金属ファイバーにおける金属としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。
フィラーとしては、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、ガラスビーズ、フラーレン等が挙げられる。
また、上記の他にも、強度、耐熱性向上の点から、例えば、国際公開第2008/057844号パンフレットに記載のものなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
これらの中でも、ファイバーとしては、ガラスファイバー、カーボンファイバー、アラミドファイバー及びアルミファイバーから選ばれる1種以上であることが、入手性及び経済性の点で好ましい。
【0021】
ファイバー、フィラーの含有量としては、必要に応じて適宜変更することが可能であるが、硬化型組成物に対して合計で5質量%以上であることが好ましい。5質量%以上含むことにより、耐熱性や強度の向上効果が得られる。
【0022】
また、ファイバー、フィラーの含有量は、硬化型組成物に対して合計で90質量%以下であることが好ましい。この場合、ファイバー又はフィラーが多く含まれるので、造形が困難になることを防ぐことができる。
【0023】
また、ファイバー、フィラーの含有量は、硬化型組成物の粘度との兼ね合いから、合計で10質量%以上60質量%以下がより好ましい。また、硬化物の強度をより向上させるために、20質量%以上がさらに好ましい。
【0024】
ファイバーの形状としては、必要に応じて適宜変更することが可能である。例えば、繊維径が1~30μmであることが好ましく、繊維長が50μm以上であることが好ましい。なお、ファイバーの繊維径及び繊維長は、平均値を表し、硬化物について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)により測定を行い、5箇所の平均を求めて得られる。
【0025】
繊維径としては、2~25μmがより好ましく、4~15μmがさらに好ましい。
繊維長としては、100μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましい。繊維長の上限としては、特に制限されるものではないが、3000μm以下が好ましい。
【0026】
ファイバーがこれらの好適な範囲であると、硬化物の耐熱性や強度をより向上させることができるとともに、硬化物の表面の粗さをファイバー又はフィラーが無添加である場合の硬化物と同程度にすることができる。
【0027】
ファイバー、フィラーと樹脂の密着性を向上させる観点から、収束剤の添加やファイバー、フィラーの表面処理を行ってもよく、中でも表面に疎水化処理されたファイバー、フィラーが好ましく用いられる。
【0028】
疎水化処理の方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。疎水化処理に用いられる疎水化処理剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)等のシランカップリング剤、ジメチルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル処理剤などが挙げられる。これらの中では、シランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0029】
<その他の成分>
硬化型組成物は、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
例えば、消泡剤、収束剤、架橋剤、減粘剤、表面処理剤、可塑剤、平滑化剤、溶媒等が挙げられる。
【0030】
<用途>
本発明の硬化型組成物としては、電子機器パーツや自動車部品のプロトタイプや強度試験用の試作品、エアロスペースや自動車産業のドレスアップツール等に使われる少量ロットでの製品などの用途に使用するための物品を形成することに好適に用いることができる。本発明によれば、既存のステレオリソグラフィー方式での材料と比較し、硬化物の強度が優れることが期待されるため、実用の製品としても使用に耐え得る。
【0031】
生産スピードは、射出成型のような大量に生産するものには劣ると考えられるが、例えば、小さい部品を平面状に大量に作ることにより必要な生産量を確保することができる。また、射出成型用の型として使用できるといった利点もある。
【0032】
なお、本発明の硬化型組成物は、特にステレオリソグラフィー方式に好適に用いられるが、ステレオリソグラフィー以外の方式にも用いることが可能である。例えば、インクジェット方式での使用も考えられるが、硬化型組成物の粘度やファイバー又はフィラーの径に対応できる吐出機構を考慮する必要がある。
【0033】
(硬化物)
本発明の硬化物(造形物などとも称する)は、本発明の硬化型組成物からなるものであり、硬化型組成物に電子線及び電磁波の少なくとも一方を照射し、硬化させて得ることができる。
【0034】
硬化物は、JIS K7191の測定方法において、1.8MPaで荷重したときの荷重たわみ温度が60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。好適な範囲を満たす場合、硬化物の耐熱性、硬度がより向上し、硬化物の使用の幅が広がり、実用の製品としても使用に耐え得る。
【0035】
なお、硬化物を製造する方法としては、適宜操作を変更することができ、例えば、硬化型組成物を順次硬化・積層させた後、積層物全体を加熱してもよい。全体を加熱することで、硬化物の耐熱性や強度が向上する。
本発明においては、耐熱性や強度に優れた硬化物が得られ、造形が完了した後に積層物全体を加熱せずとも、荷重たわみ温度が60℃以上になることを達成しやすくなる。
【0036】
(硬化物の製造方法及び硬化物の製造装置)
本発明の硬化物の製造方法は、ステージ上又はステージ下に硬化型組成物からなる薄層を形成する薄層形成工程と、薄層の少なくとも一部に電子線及び電磁波の少なくとも一方を照射して硬化する硬化工程と、を有し、硬化型組成物が本発明の硬化型組成物である。
本発明の硬化物の製造装置は、ステージ上又はステージ下に硬化型組成物からなる薄層を形成する薄層形成手段と、薄層の少なくとも一部に電子線及び電磁波の少なくとも一方を照射して硬化する硬化手段と、を有し、硬化型組成物が本発明の硬化型組成物である。
【0037】
薄層形成工程及び薄層形成手段としては、適宜変更することが可能である。本発明の硬化物の製造方法、硬化物の製造装置としては、自由液面法、規制液面法等を採用することができる。自由液面法では、例えば、硬化型組成物が供給される貯蔵部内にステージを配置させ、ステージを下げることで、ステージ上に硬化型組成物からなる薄層を形成する。また、硬化型組成物の粘度によっては、薄層が平面になりにくい場合があり、必要に応じて、硬化型組成物をならす工程を行ってもよい。また、規制液面法では、例えば、硬化型組成物が供給される貯蔵部内にステージを配置させ、ステージを上げることで、ステージ下に硬化型組成物からなる薄層を形成する。
【0038】
硬化工程及び硬化手段としては、電子線及び電磁波の少なくとも一方を照射することができればよく、適宜変更することが可能である。電子線、電磁波の照射の際には、電子線、電磁波を照射する照射ユニットを所望の位置に移動させて照射を行ってもよいし、ある程度の範囲を一括して照射してもよい。照射の範囲は適宜変更することができ、照射の範囲が狭いほど、精密な硬化物が得られる。電子線、電磁波を照射する方向としては、薄層の上方向から行ってもよいし、下方向から行ってもよい。
【0039】
本発明の硬化物の製造装置の一実施形態として、公知の装置を用いることができる。例えば、上述の規制液面法として、特許第5774825号公報に記載の1次元規制方式による製造装置を用いることができ、特許5605589号公報に記載の2次元規制方式による製造装置を用いることができる。
特に制限されるものではないが、本発明では中でも、1次元規制方式、2次元規制方式でのステレオリソグラフィーによる造形が高粘度材料を使用できるため好ましい。
【0040】
なお、所望の箇所に電子線、電磁波を照射する方法としては、特に制限されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、ガルバノミラー等を用いて照射位置を変えてもよく、照射ユニットを所望の位置に移動させてもよく、ステージを移動させてもよい。あるいは、ガルバノミラーの代わりにfシーターレンズとポリゴンミラーの組合せを使用してもよい。
【0041】
本発明では、必要に応じて、薄層形成工程と硬化工程を所定回数繰り返し、硬化物を製造する。所定回数繰り返すことにより、硬化型組成物が硬化した部分が積層して積層物が得られる。積層物を作成しながら、マイクロ波等により反応を進行させてもよく、造形物をIRヒーター等で過熱してもよい。このような積層物を本発明の硬化物としてもよいし、造形物が完成した後に加熱工程を行い、積層物全体を加熱して硬化物としてもよい。全体を加熱することにより、硬化物の耐熱性や強度をより向上させることができ、荷重たわみ温度をより高くすることができる。しかし、本発明においては、このように最後に追加加熱工程を行わなくても良好な耐熱性や強度を得られるという利点がある。
【0042】
また、各種材料を用いて硬化型組成物を作製した後、かつ、薄層形成工程の前に、硬化型組成物を攪拌する工程(攪拌工程)を行ってもよい。攪拌することにより、硬化型組成物中における各成分のムラを防止でき、高精密な硬化物が得られやすくなる。攪拌工程には、超音波を使用した振動により攪拌する方法を用いてもよい。
【0043】
本発明の立体造形物の製造方法は、射出成型のような金型を必要としないため、試作及びプロトタイプの作製においては、圧倒的なコスト削減と工数削減を達成することができる。また、ステレオリソグラフィー方式における複雑かつ精細な硬化物を簡便かつ効率よく製造することが可能といった効果が得られる。
【0044】
以下、本発明の硬化物の製造方法について、一実施形態を説明するが、本発明はこれに限られるものではない。図1に本実施形態の製造方法を説明するための模式図を示す。図1(A)に示されるように、薄層形成工程によりステージ10上に薄層20を形成する。次に、図1(B)に示されるように、薄層20の少なくとも一部に電子線・電磁波30を照射して硬化させる硬化工程を行う。これにより、図1(C)に示されるように、薄層20の少なくとも一部が硬化され、硬化物40が得られる。その後、所望の造形となるように、薄層20の他の部分に電子線・電磁波30を照射する。次いで、必要に応じて、ステージ10を下げて次の層の薄層を形成した後、硬化工程を繰り返す。
【0045】
図2にその他の実施形態の製造方法を説明するための模式図を示す。図2(A)に示されるように、薄層形成工程によりステージ10下に薄層20を形成する。次に、図2(B)に示されるように、薄層20の少なくとも一部に電子線・電磁波30を照射して硬化させる硬化工程を行う。これにより、図2(C)に示されるように、薄層20の少なくとも一部が硬化され、硬化物40が得られる。その後、所望の造形となるように、薄層20の他の部分に電子線・電磁波30を照射する。次いで、必要に応じて、ステージ10を上げて次の層の薄層を形成した後、硬化工程を繰り返す。
【0046】
なお、本発明によれば、硬化型組成物の粘度が高い場合であっても造形物を製造することができる。これは、従来のSLA方式とは異なるプロセスを経るためである。例えば従来と異なる攪拌等を行うことで粘度が高い硬化型組成物についても好適に造形を行うことができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、実施例1~6、14とあるのは、本発明に含まれない参考例1~6、14とする。
【0048】
(実施例1)
<硬化型組成物の作製>
以下の組成により硬化型組成物を作製した。得られた硬化型組成物は23℃で液体であった(その他の実施例についても同様)。なお、以下、硬化型組成物において「樹脂」とあるのは、樹脂の前駆体(モノマー)を表す(その他の実施例についても同様)。
【0049】
不飽和ポリエステル樹脂(DIC社製LP-921-N)・・・・・・99.5質量%
ラジカル重合開始剤1(BASF社製irgacure1173)・・・0.3質量%
消泡剤(DIC社製RS-408)・・・・・・・・・・・・・・・・・0.2質量%
【0050】
<硬化物の作製>
DWS社製028Jについて、通常のレーザー光源を照射した後に、806nmの半導体レーザーを照射できるように追加改良を行った。なお、通常のレーザー光源、半導体レーザーは本発明でいう電磁波に該当する。
上記得られた硬化型組成物を100g秤量し、上記改良した装置を用いて積層ピッチを50μmにして造形物(硬化物)を作製した。得られた造形物はエタノールで十分に洗浄した後に、自然乾燥させた。造形物は、JIS K7191に記載された試験片をZ軸方向が最も長い辺となるように3本作製した。
【0051】
(実施例2)
以下の組成により硬化型組成物を作製し、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0052】
不飽和ポリエステル樹脂(DIC社製LP-921-N)・・・・・・99.5質量%
光熱変換剤1(SigmaAldrich社製IR-806)・・・・・0.3質量%
消泡剤(DIC社製RS-408)・・・・・・・・・・・・・・・・・0.2質量%
【0053】
(実施例3)
以下の組成により硬化型組成物を作製し、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0054】
ポリアミック酸(宇部社製ユピアーAT)・・・・・・・・・・・・・99.4質量%
アニオン開始剤1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.2質量%
(2-(9-Oxoxanthen-2-yl)propionic Acid 1,5,7-Triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene Salt(TCI社製))
光熱変換剤1(SigmaAldrich社製IR-806)・・・・・0.2質量%
消泡剤(DIC社製RS-408)・・・・・・・・・・・・・・・・・0.2質量%
【0055】
(実施例4)
以下の組成により硬化型組成物を作製し、得られた硬化型組成物を用いて、電子線(アイ・エレクトロンビーム社製 0.1Gy)を照射した以外は実施例1と同様に造形物を作製した。
【0056】
液状エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON EXA-4850)・49.6質量%
液状エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON HP-4710)・・49.7質量%
カチオン開始剤1(ADEKA社製アデカアークルズSP-170)・・0.3質量%
光熱変換剤1(SigmaAldrich社製IR-806)・・・・・0.2質量%
消泡剤(DIC社製RS-408)・・・・・・・・・・・・・・・・・0.2質量%
【0057】
(実施例5)
以下の組成により硬化型組成物を作製し、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0058】
液状エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON EXA-4850)・49.6質量%
液状エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON HP-4710)・・49.7質量%
アニオン開始剤1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.3質量%
(2-(9-Oxoxanthen-2-yl)propionic Acid 1,5,7-Triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene Salt(TCI社製)
光熱変換剤1(SigmaAldrich社製IR-806)・・・・・0.2質量%
消泡剤(DIC社製RS-408)・・・・・・・・・・・・・・・・・0.2質量%
【0059】
(実施例6)
以下の組成により硬化型組成物を作製し、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0060】
フェノール樹脂(DIC社製EPICLON EXA-4850)・・49.6質量%
液状エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON HP-4710)・・49.7質量%
カチオン開始剤1(ADEKA社製アデカアークルズSP-170)・・0.2質量%
光熱変換剤1(SigmaAldrich社製IR-806)・・・・・0.2質量%
アニオン開始剤1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.1質量%
(2-(9-Oxoxanthen-2-yl)propionic Acid 1,5,7-Triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene Salt(TCI社製)
消泡剤(DIC社製RS-408)・・・・・・・・・・・・・・・・・0.2質量%
【0061】
(実施例7)
実施例1の硬化型組成物にガラスファイバー(日東紡績社製SS05-413、以下「GF1」と表記する)を硬化型組成物全体に対して20質量%加え、まぜまぜマン(MISUGI社製)で10分間攪拌した。これにより本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0062】
(実施例8)
実施例1の硬化型組成物にカーボンファイバー(クレカ社製M-2007S、以下「CF」と表記する)を硬化型組成物全体に対して20質量%加え、ラジカル重合開始剤の代わりに光熱変換剤1(SigmaAldrich社製IR-806)を添加し、まぜまぜマン(MISUGI社製)で10分間攪拌した。これにより本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0063】
(実施例9)
実施例1の硬化型組成物にアラミド繊維(帝人社製、以下「AF」と表記する)を硬化型組成物全体に対して20質量%加え、まぜまぜマン(MISUGI社製)で10分間攪拌した。これにより本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0064】
(実施例10)
実施例1の硬化型組成物にアルミファイバー(アルミナセブン社製、以下「AlF」と表記する)を硬化型組成物全体に対して20質量%加え、ラジカル重合開始剤の代わりに光熱変換剤1(SigmaAldrich社製IR-806)を添加し、まぜまぜマン(MISUGI社製)で10分間攪拌した。これにより本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0065】
(実施例11)
実施例1の硬化型組成物に、GF1とは繊維長が異なるガラスファイバー(日東紡績社製、以下「GF2」と表記する)を硬化型組成物全体に対して40質量%加え、まぜまぜマン(MISUGI社製)で10分間攪拌した。これにより本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0066】
(実施例12)
実施例2において、不飽和ポリエステル樹脂を実施例3のポリアミック酸(宇部社製ユピアーAT)に変えて硬化型組成物を作製した。次いで、得られた硬化型組成物にガラスファイバー(日東紡績社製、「GF2」)を硬化型組成物全体に対して20質量%加え、まぜまぜマン(MISUGI社製)で10分間攪拌した。これにより本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0067】
(実施例13)
実施例11において、不飽和ポリエステル樹脂の代わりに、アルキド樹脂(荒川化学社製)原料に置き換えた。これにより、本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0068】
(実施例14)
実施例11において、不飽和ポリエステル樹脂の代わりに、ジアリルフタレート樹脂(住友ベークライト社製)に置き換えた。これにより、本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0069】
(実施例15)
実施例11において、不飽和ポリエステル樹脂の代わりに、ウレタンアクリレート樹脂(日本ユピカ社製CBZ500LM-AS)とウレタン樹脂(三井化学社製タケネート500)原料を重量比で1対1になるように置き換えた。また、ラジカル重合開始剤1の量を0.15質量%、さらに光熱変換剤1を0.15質量%追加した。これにより、本実施例の硬化型組成物を得た。次いで、得られた硬化型組成物を用いて実施例1と同様に造形物を作製した。
【0070】
(比較例1)
実施例1において、ラジカル重合開始剤1を入れなかった以外は、実施例1と同様にして造形を行った。しかし、造形物は作製できなかった。
【0071】
(比較例2)
実施例1において、電磁波照射の代わりにアルファー線を照射した以外は、実施例1と同様にして、造形を行った。しかし、造形物はできなかった。
【0072】
(比較例3)
実施例3において、アニオン開始剤1及び光熱変換剤1を入れなかった以外は、実施例3と同様にして造形を行った。しかし、造形物は作製できなかった。
【0073】
(比較例4)
実施例4において、アニオン開始剤1及び光熱変換剤1を入れなかった以外は、実施例4と同様にして造形を行った。しかし、造形物は作製できなかった。
【0074】
(比較例5)
実施例6において、カチオン開始剤1、光熱変換剤1及びアニオン開始剤1を入れなかった以外は、実施例6と同様にして造形を行った。しかし、造形物は作製できなかった。
【0075】
(比較例6)
実施例1において、不飽和ポリエステル樹脂をヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカルズ社製)に変えた以外は、実施例1と同様にして造形を行った。
【0076】
(比較例7)
比較例6において、GF1とは繊維径、繊維長が異なるガラスファイバー(日東紡績社製、以下「GF3」と表記する)を硬化型組成物全体に対して10質量%加え、まぜまぜマン(MISUGI社製)で10分間攪拌した以外は、比較例6と同様にして造形を行った。
【0077】
(評価)
実施例及び比較例のうち、造形できたものについて、JIS K7191に準じて荷重たわみ試験を行った。測定装置は、東洋精機社製HOT TESTER 3M-2を用い、試験はフラットワイズ方式で1.8MPaで荷重し、0.34mm変動したときの温度を荷重たわみ温度とした。60℃以上を合格とし、70℃以上、80℃以上と高温になるほど、より耐熱性や強度が向上しているといえるため好ましい。
【0078】
組成及び評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【符号の説明】
【0080】
10 ステージ
20 硬化型組成物
30 電子線・電磁波
40 硬化物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【文献】特許第5605589号公報
【文献】特許第5774825号公報
【文献】特開平10-101754号公報
【文献】特許第3971412号公報
図1
図2