(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ナノ結晶合金薄帯及び磁性シート
(51)【国際特許分類】
H01F 1/153 20060101AFI20240123BHJP
H01F 3/04 20060101ALI20240123BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240123BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20240123BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
H01F1/153 133
H01F3/04
C22C38/00 303V
C21D8/12 H
C21D6/00 C
(21)【出願番号】P 2023539140
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2023013211
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022055679
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】豊永 詞
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/032531(WO,A1)
【文献】特開2016-094651(JP,A)
【文献】特開2021-105212(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 6/00- 6/04
C21D 8/12
C21D 9/46
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 35/00-45/10
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44- 3/14
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Fe
1-xA
x)
aSi
bB
cCu
dM
eで表され、AはNi及びCoの少なくとも1種であり、MはNb、Mo、V、Zr、Hf及びWから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、75.0≦a≦81.0、9.0≦b≦18.0、5.0≦c≦10.0、0.02≦d≦1.2、0.1≦e≦1.5、0≦x≦0.1で構成され、平均結晶粒径が50nm以下のαFe結晶相が体積率で40%以上を占め、飽和磁束密度が1.36T以上、残留磁束密度Brと磁界8000A/mの磁束密度B
8000の比Br/B
8000が0.20以上、最大透磁率が4000以上である、ナノ結晶合金薄帯。
【請求項2】
前記ナノ結晶合金薄帯の長手方向に磁界80A/m印加したときの磁束密度B80
Lと、前記長手方向に直交する幅方向に磁界80A/m印加したときの磁束密度B80
Wと、の比(B80
L/B80
W)が0.60~1.40であり、かつB80
L、B80
Wともに0.4T以上である請求項1に記載のナノ結晶合金薄帯。
【請求項3】
飽和磁歪が7ppm以下である請求項1又は請求項2に記載のナノ結晶合金薄帯。
【請求項4】
厚さが20μm以下であり、幅が5mm以上である請求項1
又は請求項2に記載のナノ結晶合金薄帯。
【請求項5】
前記ナノ結晶合金薄帯のシワ高さが0.15mm以下であり、占積率が68.0%以上である請求項1
又は請求項2に記載のナノ結晶合金薄帯。
【請求項6】
請求項
1に記載のナノ結晶合金薄帯と、
帯状に形成された支持体、及び、前記支持体における第1面及び第2面の少なくとも一方に設けられた粘着剤を有する粘着層と、を備え、
前記粘着層の前記粘着剤に、前記ナノ結晶合金薄帯が接着され、
前記粘着層の厚さが1~10μmである磁性シート。
【請求項7】
請求項
1に記載のナノ結晶合金薄帯と、
帯状に形成された支持体、及び、前記支持体における第1面及び第2面に設けられた粘着剤を有する粘着層と、を備え、
前記粘着層の厚さが1~10μmであり、
複数の前記ナノ結晶合金薄帯が前記粘着層を介して多層に形成されている磁性シート。
【請求項8】
128kHz、0.2Tでの鉄損が2000kW/m
3以下、128kHz,0.03Vでの複素透磁率実部が1500以上である請求項6又は請求項7に記載の磁性シート。
【請求項9】
前記ナノ結晶合金薄帯にクラックが形成されている請求項6
又は請求項7に記載の磁性シート。
【請求項10】
128kHz、0.2Tでの鉄損が2000kW/m
3以下、128kHz,0.03Vでの複素透磁率実部が400~3000である請求項9に記載の磁性シート。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2022年3月30日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2022-055679号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2022-055679号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示はナノ結晶構造を有するナノ結晶合金薄帯及びそれを用いた磁性シートに関する。
【背景技術】
【0003】
ナノ結晶構造を有する低磁歪なナノ結晶合金薄帯が知られている。ナノ結晶合金薄帯は、透磁率が高く、損失も低いという優れた磁気特性を備え、それらの優れた磁気特性を広い周波数帯域で示す。ナノ結晶合金薄帯は、トランス、モータ、チョークコイル、磁気シールド、電流センサーなどの磁性部品に用いられる。
【0004】
これらの磁性部品としては、半導体などの高周波化に伴い、動作周波数をより高くした仕様の部品も多く、それに伴い使用する軟磁性材料をナノ結晶合金薄帯に切り替えることが増えてきている。その際、部品の更なる小型化を実現するため、約1.2Tである低磁歪なナノ結晶合金薄帯の飽和磁束密度をさらに上げることが求められている。
【0005】
また近年、携帯電話、小型電化製品、電子デバイス及び電気自動車などの充電方法に非接触充電が採用されたり、採用が検討されたりしている。非接触充電装置おいて、送受信コイルの磁心、又は磁気シールド用軟磁性材料として、ナノ結晶合金薄帯が使用されることがある。非接触充電用の軟磁性材料として求められる主な特性は、高透磁率、低損失、高飽和磁束密度、及び薄型化である。
【0006】
現在、非接触充電の電力転送に主に使用される周波数帯は100kHz前後であり、主に使用される軟磁性材料はフェライト及びナノ結晶合金薄帯に限定される。ナノ結晶合金薄帯は、薄帯の厚さが約20μm以下と非常に薄く、飽和磁束密度がフェライトの3倍程度である。よって、ナノ結晶合金薄帯は、小型薄型化に優れ、受信・送信コイルセットの小型薄型化に大きく寄与する。このような理由から、ナノ結晶合金薄帯は、いろいろな製品の非接触充電用コイルに採用されたり、採用が検討されたりしている。
【0007】
非接触充電では充電時間を短縮するために、充電出力が高められる傾向にあり、この場合、軟磁性体に流れる磁束量を増加させるとよい。磁束量の増加分を補う方法としては、使用するナノ結晶合金薄帯量を増やす、又は使用量を変えずにより高い飽和磁束密度を持つナノ結晶合金薄帯に切り替えることが考えられ、特に後者が求められている。また非接触充電ではコイルから合金薄帯の板厚方向に磁束が流れ、その後中心部から面内外側に流れていくため、ナノ結晶合金薄帯は、等方的な磁気特性を有することが好ましい。
【0008】
特開2008-196006号公報には、一般式:Fe100-x-a-y-zAxMaSiyBz(原子%)で表され、式中、AはCu,Auから選ばれる少なくとも1種の元素、MはTi,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選ばれた少なくとも1種の元素を示し、x、a、y及びzはそれぞれ0≦x≦2、0≦a≦1.5、13≦y≦18、4≦z≦10、x+a+y+z≦25を満足する組成であり、平均粒径120nm以下のbcc Fe-Si結晶粒とアモルファス相からなり、bcc Fe-Si結晶粒が体積分率で組織の50%以上を占めており、飽和磁束密度Bsが1.4T以上、飽和磁歪定数λsが-3.5×10-6以上+3.5×10-6以下の範囲にあることを特徴とするFe基ナノ結晶軟磁性合金が開示されている。
【0009】
特表2014-516386号公報には、Fe100-a-b-c-d-x-y-zCuaNbbMcTdSixByZzと、最大1at%の不純物とからなり、Mが元素Mo、Ta又はZrの1種又は複数種であり、Tが元素V、Mn、Cr、Co又はNiの1種又は複数種であり、Zが元素C、P又はGeの1種又は複数種であり、0at%≦a<1.5at%、0at%≦b<2at%、0at%≦(b+c)<2at%、0at%≦d<5at%、10at%<x<18at%、5at%<y<11at%及び0at%≦z<2at%である、テープの形に構成されている合金であって,粒子の少なくとも50vol%の平均径が100nm未満であるナノ結晶性構造と、中央の線形性部分を持つヒステリシスループと、残留磁気率Jr/Js<0.1と保磁力Hc対異方場強度Ha比<10%と、を有する、合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-196006号公報
【文献】特表2014-516386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ナノ結晶合金薄帯の飽和磁束密度は、含有するFe量に依存する。また、ナノ結晶合金薄帯が優れた磁気特性を持つためには、平均粒径50nm以下となる微細ナノ結晶構造を有することが必要であり、そのためには、核生成を促進するCu及び結晶粒の粒成長を抑制するNbの添加が必須である。また、ナノ結晶合金薄帯が低磁歪を維持するためには、一定量のSiの添加が必要である。求められる磁気特性の値にもよるが、平均粒径50nm以下となる微細ナノ結晶構造を維持し、磁歪7ppm以下となるようにCu,Nb,Si量を調整することで、飽和磁束密度1.20T~1.35T程度までは実現することができる。
【0012】
特許文献1では、飽和磁束密度1.4T以上で低磁歪なナノ結晶合金薄帯が開示されている。しかし、飽和磁束密度を上げるために、Cu,Nb量を低減しており、熱処理時の昇温速度も10000℃/min.(166K/sec.)以下と遅く、優れた磁気特性を示すために必要な平均結晶粒径50nm以下の微細ナノ結晶構造を得ることができない。
【0013】
この特許文献1に記載された方法では、平均結晶粒径は100nm程度となる。このため、特許文献1の実施例では、20kHz、0.2Tの鉄損が10W/kg以上となっている。特許文献1の表1に記載されているとおり、発明例の磁心損失は比較例のナノ結晶材と比較して大幅に劣化していることがわかる。特許文献1のFe基ナノ結晶軟磁性合金は、飽和磁束密度重視の製品用途で用いることはできるが、磁心損失の良好な材料が求められる用途には向いていない。
【0014】
特許文献2では、1.4T以上のナノ結晶合金薄帯が開示されているが、合金について、張力を印加して熱処理しているため、異方性が付与されてしまう。さらに、透磁率も3000以下となり、残留磁気率Jr/Js(Br/Bs)が0.1以下と低い。このため、特許文献2の合金は、低透磁率を必要とする一部の製品以外では使用に適さない。また、熱処理時に合金薄帯を拘束していないため、ナノ結晶時に薄帯にシワやスジなどが入りやすく、板厚偏差、占積率などの特性が悪化しやすい。また、シワやスジなどが生じた部分は、非常に脆くなり、張力により切れるなどの課題が生じ得る。
【0015】
本開示は、高飽和磁束密度で、高透磁率な優れた磁気特性を備えるナノ結晶合金薄帯を得ること、更に低磁歪で、低損失であり、等方性を備えたナノ結晶合金薄帯を得ること、また、シワやスジなどが抑制され、高い占積率を実現するナノ結晶合金薄帯を得ること、又は、それらを用いた磁性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の第1の態様に係るナノ結晶合金薄帯は、組成式(Fe1-xAx)aSibBcCudMeで表され、AはNi及びCoの少なくとも1種であり、MはNb、Mo、V、Zr、Hf及びWから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、75.0≦a≦81.0、9.0≦b≦18.0、5.0≦c≦10.0、0.02≦d≦1.2、0.1≦e≦1.5、0≦x≦0.1で構成され、平均結晶粒径が50nm以下のαFe結晶相が体積率で40%以上を占め、飽和磁束密度が1.36T以上、残留磁束密度Brと磁界8000A/mの磁束密度B8000との比Br/B8000が0.20以上、最大透磁率が4000以上である。
【0017】
本開示の第2の態様に係る磁性シートは、本開示のナノ結晶合金薄帯と、帯状に形成された支持体、並びに、前記支持体における第1面及び第2面の少なくとも一方に設けられた粘着剤を有する粘着層と、を備え、前記粘着層の前記粘着剤に、前記ナノ結晶合金薄帯が接着され、前記粘着層の厚さが1~10μmである。
【0018】
また、前記粘着層は、前記第1面及び前記第2面に粘着剤が設けられ、複数の前記ナノ結晶合金薄帯が前記粘着層を介して多層に形成されている磁性シートとしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、高飽和磁束密度で、高透磁率な優れた磁気特性を備えるナノ結晶合金薄帯を得ることができる。更に、低磁歪で、低損失であり、等方性を備えたナノ結晶合金薄帯を得ることができる。また、シワやスジなどが抑制され、高い占積率を実現するナノ結晶合金薄帯を得ることができる。また、それらを用いた磁性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の熱処理方法の一実施形態を示す概念図である。
【
図2】本開示の磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図3】本開示の磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図4】本開示の磁性シートの製造方法を説明する摸式図である。
【
図5】第1巻出しロールから供給される積層体の構成を説明する断面視図である。
【
図6】第1巻出しロールから供給され、樹脂シートが剥離された積層体の構成を説明する断面視図である。
【
図7】第2巻出しロールから供給されるナノ結晶合金薄帯の構成を説明する断面視図である。
【
図8】本開示の磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の趣旨の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、組成式(Fe1-xAx)aSibBcCudMeで表され、AはNi及びCoの少なくとも1種であり、MはNb、Mo、V、Zr、Hf及びWから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で75.0≦a≦81.0、9.0≦b≦18.0、5.0≦c≦10.0、0.02≦d≦1.2、0.1≦e≦1.5、0≦x≦0.1で構成される。
【0023】
本開示のナノ結晶合金薄帯の組成に関して、以下に詳細に説明する。
【0024】
Fe(鉄)の含有量は、原子%で75.0%以上81.0%以下である。
【0025】
Feの含有量を75.0%以上とすることにより、高い飽和磁束密度を得ることができる。好ましくは76%以上であり、さらに好ましくは77%以上である。
【0026】
また、Feの含有量が81.0%を超えると低磁歪化が困難となるため、Feの含有量は81.0%以下とする。好ましくは80%以下であり、さらに好ましくは78%以下である。
【0027】
また、Feの一部をNi及びCoの少なくとも1種の元素に置換しても良い。(Fe1-xAx)としたとき、AはNi及びCoの少なくとも1種であり、xは0.1以下である。Feの一部をNi及びCoの少なくとも1種の元素に置換する場合、(Fe1-xAx)aで表すaが75.0%≦a≦81.0%の範囲内となる。(Fe1-xAx)の含有量aは、好ましくは76%以上であり、さらに好ましくは77%以上である。また、好ましくは80%以下であり、さらに好ましくは78%以下である。
【0028】
Si(ケイ素)の含有量は、は、原子%で9.0%以上18.0%以下である。
【0029】
Siの含有量は9.0%以上とすることで低磁歪化を実現することができる。Siの含有量は、好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは13%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。18.0%を超えるとアモルファス形成能が落ち、鋳造した際に結晶化が生じ、軟磁気特性を著しく低下させる。好ましくは17.0%以下であり、さらに好ましくは16.5%以下である。
【0030】
B(ホウ素)の含有量は、原子%で5.0%以上10.0%以下である。
【0031】
Bの含有量が5.0未満ではアモルファスの形成が困難となるため、Bの含有量は5.0%以上とする。好ましくは5.5%以上であり、さらに好ましくは6.0%以上である。
【0032】
Bの含有量が10.0%を超えると、Fe量、Si量が減るため、飽和磁束密度が小さくなる及び磁歪が大きくなる。そのため、Bの含有量は10.0%以下とする。好ましくは8.5%以下であり、さらに好ましくは7.5%以下であり、さらに好ましくは7.0%以下である。
【0033】
Cu(銅)の含有量は、原子%で0.02%以上1.2%以下である。
【0034】
Cuを含有することにより均一微細なナノ結晶組織が得られやすくなる。Cuの含有量は0.02%未満では平均粒径50nm以下とすることが難しくなる。このため、Cuの含有量は0.02%以上とする。好ましくは0.05%以上であり、好ましくは0.2%以上であり、好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。
【0035】
Cuの含有量が1.2%を超えると、脆化しやすくなり、飽和磁束密度が小さくなる。このため、Cuの含有量は、1.5%以下とする。好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.75%以下であり、さらに好ましくは0.65%以下である。
【0036】
M元素は、Nb,Mo,V,Zr,Hf及びWから選ばれた少なくとも1種であり、M元素の含有量は、原子%で0.1%以上1.5%以下である。
【0037】
M元素を含有させることにより、軟磁性を著しく劣化させるFeB化合物の析出開始温度を高温側にシフトさせることができる。これにより、bccFe(αFe)結晶化開始温度とFeB析出開始温度との差を広くすることができ、最適な熱処理温度の範囲を広げる効果を奏し、熱処理条件を緩和させることができる。M元素の含有量は、好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは0.4%以上である。
【0038】
M元素は高価であるため、M元素の含有量が多くなるとナノ結晶合金薄帯の価格が上がってしまう。このため、M元素の含有量は少ない方が好ましい。したがって、M元素の含有量は、1.5%以下とする。好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.9%以下であり、さらに好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.7%以下である。
【0039】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、C(炭素)を含有していても良い。Cは溶湯の湯流れを良くする効果があり、微量含むことで鋳造性などを向上させる。一方多量に添加すると薄帯が脆くなるため、Cの含有量は1質量%以下が好ましい。また、Cは原料の不純物として含まれうる。
【0040】
C量を低減するほど原料価格が高価となるため、0.01質量%以上は許容することが好ましい。なお、Cの効果を高めるためには、Cの含有量は0.1質量%以上が好ましい。
【0041】
また、本開示のナノ結晶合金薄帯は、上記した元素以外にも不純物を含有し得る。
【0042】
不純物としては、例えば、S(硫黄)、O(酸素)、N(窒素)、Cr、Mn、P、Ti、Al等が挙げられる。例えば、Sの含有量は、好ましくは200質量ppm以下であり、Oの含有量は、好ましくは5000質量ppm以下であり、Nの含有量は、好ましくは1000質量ppm以下である。
【0043】
Pの含有量は、好ましくは2000質量ppm以下である。これらの不純物の総含有量は、0.5質量%以下であることが好ましい。また、上記の範囲であれば、不純物に相当する元素が添加されていても良い。
【0044】
本開示のナノ結晶合金薄帯の製造方法について、好ましい実施形態を説明する。
【0045】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、上記した合金組成を備える合金溶湯を回転する冷却ローラ上に噴出させ、冷却ローラ上で急冷凝固させて合金薄帯を得る。そして、その合金薄帯を熱処理することにより、ナノ結晶合金薄帯を得ることができる。
【0046】
合金溶湯を急冷凝固して得られた合金薄帯はアモルファス状態の合金組織となっており、非晶質合金薄帯となっている。この非晶質合金薄帯を熱処理することにより、ナノ結晶合金薄帯が得られる。合金溶湯を急冷凝固して得られた非晶質合金薄帯は微細な結晶からなる結晶相を有していても良い。
【0047】
合金溶湯を得るためには、目的とする合金組成とするための複数の材料である各元素源(純鉄、フェロボロン、フェロシリコン等)が配合される。そして、複数の材料が誘導加熱炉で加熱され、融点以上になることで、溶融して合金溶湯となる。
【0048】
合金薄帯は、合金溶湯を所定形状のスリット状のノズルから回転する冷却ローラ上に噴出させて、合金溶湯を冷却ローラ上で急冷凝固させることで得ることができる。冷却ローラは外径350~1000mm、幅100~400mm、回転の周速は20~35m/秒とすることができる。この冷却ローラは内部に外周部の温度上昇を抑制するための冷却機構(水冷など)を備えている。
【0049】
また、冷却ローラの外周部は、熱伝導率120W/(m・K)以上となるCu合金で構成されていることが好ましい。外周部の熱伝導率を120W/(m・K)以上とすることにより、合金溶湯が合金薄帯へ鋳造される際の冷却速度を高めることができる。
【0050】
こうすることにより、合金薄帯の脆化を抑制し、合金薄帯の厚肉化(厚みを増大させること)を可能とするとともに、鋳造時の表面結晶化を抑制することができる。よって、熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制し、鉄損を低くできる。
【0051】
また、外周部の熱伝導率は150W/(m・K)以上とすることが好ましく、さらに180W/(m・K)以上とすることが好ましい。
【0052】
冷却ローラの外周部とは、合金溶湯が接し得る部分であり、その厚さは5~15mm程度あればよく、その内側はローラ構造を維持する構造材を用いればよい。
【0053】
上記の急冷法(合金溶湯を急速冷却することで合金薄帯を得る手法)で製造された非晶質合金薄帯を熱処理することにより、ナノ結晶合金薄帯を得ることができる。
【0054】
本開示における熱処理方法について、好ましい実施形態を以下説明する。
【0055】
本開示において、熱処理温度は500~700℃で行うことが好ましい。昇温速度は15000℃/min.以上であることが好ましい。
【0056】
本開示の熱処理において、非晶質合金薄帯を加熱体に接触させて熱処理することが好ましい。この加熱体は所望の温度(熱処理温度、500~700℃)に設定されており、その所望の温度に設定された加熱体に非晶質合金薄帯を接触させて熱処理を行うことが好ましい。
【0057】
このとき、非晶質合金薄帯と加熱体との接触時間(保持時間)は0.1秒から30秒とすることが好ましい。接触時間の下限は0.2秒がより好ましい。接触時間の上限は10秒がより好ましく、さらに5秒がより好ましく、2秒が最も好ましい。量産性を向上させるため、高速化及び安定化を図る場合、接触時間は0.2秒から2秒とすることが好ましい。
【0058】
本開示の熱処理において、昇温速度を30000℃/min.以上とすることがより好ましい。昇温速度の上限は熱処理装置の設備能力、加熱体及び薄帯押え部材の温度、加熱体及び薄帯押え部材と薄帯の接触状態などによって決めることができるが、実質的に240000℃/min.程度である。好ましくは100000℃/min.である。
【0059】
熱処理中に磁場を印加したり、張力を付与したりすることで透磁率やB80L/B80Wなどの特性を調整することが可能である。
【0060】
本開示において、非晶質合金薄帯を加熱体に接触させて熱処理する際、非晶質合金薄帯が加熱体に押え付けられた状態で熱処理することが好ましい。
【0061】
非晶質合金薄帯が加熱体に押え付けられた状態で熱処理する方法として、非晶質合金薄帯の加熱体に接触する面の反対面に薄帯押え部材を接触させ、非晶質合金薄帯が加熱体に押え付けられた状態とすることができる。この薄帯押え部材が非晶質合金薄帯を加圧するような構成とし、非晶質合金薄帯が加熱体に押え付けられた状態とすることができる。薄帯押え部材は柔軟部材とすることが好ましい。
【0062】
柔軟部材としては、金属部材とすることが好ましい。なお、柔軟部材とは、ローラに沿って変形できる部材のことである。
【0063】
また、薄帯押え部材としては、ベルトやローラとしてもよい。
【0064】
本開示の熱処理方法の一例について図を用いて説明する。
【0065】
図1は、本開示の熱処理方法の一実施形態を示す概念図である。
【0066】
図1に示す熱処理方法は、加熱体となる加熱ローラ2と、薄帯押え金属ベルト3(薄帯押え部材)と、その薄帯押え金属ベルト3を支持するローラ4,5とを備えている。薄帯押え金属ベルト3(薄帯押え部材)は、非晶質合金薄帯(以下、薄帯ともいう)1が加熱体となる加熱ローラ2に押え付けられた状態とする構成(要素)の一例である。
【0067】
熱処理方法では、この加熱ローラ2(加熱体)と薄帯押え金属ベルト3との間に非晶質合金薄帯1を通し、非晶質合金薄帯1が加熱体(加熱ローラ2)に押え付けられた状態で、非晶質合金薄帯1を加熱する。
図1中の矢印は各部の動きを示しており、加熱ローラ2、ローラ4,5は円筒形であり、回転する構造である。これらにより、非晶質合金薄帯1は、搬送されながら、かつ加熱ローラ2に押え付けられた状態で加熱される。
【0068】
ここで、加熱ローラ2により加熱された後の非晶質合金薄帯1はナノ結晶合金薄帯となる。
【0069】
ローラ4,5としては加熱することができる加熱ローラを用いることが好ましい。これらにより、非晶質合金薄帯1に接触する前に薄帯押え金属ベルト3を加熱しておくことが好ましい。ローラ4,5を加熱ローラとする場合、薄帯押え金属ベルト3の温度(薄帯押え金属ベルト3が非晶質合金薄帯1に接するときの温度)を、非晶質合金薄帯1の加熱温度と同等か、やや低い温度とすることが好ましい。
【0070】
ローラ4,5の温度は、薄帯押え金属ベルト3の温度を適切とするための温度とすればよい。例えば、ローラ4,5の温度を加熱体の温度より50℃ほど高く設定することも望ましい。薄帯押え金属ベルト3、ローラ4,5の温度としては、非晶質合金薄帯1の熱処理に適した温度を選択することができる。
【0071】
薄帯押え金属ベルト3は、柔軟部材の一例であり、柔軟部材は、可撓性、強度の観点から、金属部材が好ましい。例えば、耐熱性ステンレスやニッケル基の超耐熱合金などの耐熱性に優れた材質を用いることがより好ましい。
【0072】
上記の熱処理方法によると、非晶質合金薄帯1の加熱体に接触する面の反対面に柔軟部材(薄帯押え金属ベルト3)が押し付けられた構造となり、これにより、非晶質合金薄帯1は、加熱体(加熱ローラ2)に押え付けられた状態となる。非晶質合金薄帯1は、薄帯押え金属ベルト3で加熱ローラ2に密接し、非晶質合金薄帯1、薄帯押え金属ベルト3、及び加熱ローラ2が一体とした動きをすることが好ましい。
【0073】
ここで、加熱ローラ2は、非晶質合金薄帯に直接接してその非晶質合金薄帯を加熱するための加熱体である。非晶質合金薄帯1は、円筒状の加熱ローラ2の外周面の一部(周方向の一部領域)に当接(接触)し、加熱される。加熱ローラ2に非晶質合金薄帯の搬送駆動力を持たせてもよい。
【0074】
薄帯押え金属ベルト3を駆動するためのローラとしては、ローラ4,5の両方が用いられてもよいし、どちらか一方のみが用いられてもよい。ローラ5に駆動力を持たせ、ローラ4は機械的に従属させる構成としてもよい。こうすることにより、ローラ4やローラ5に対する電気的同期運転といった複雑な制御を回避することができ、更に、ローラ4とローラ5との熱膨張差による同期ズレを修正する必要もなくなる。
【0075】
加熱ローラ2は、非晶質合金薄帯1を当接させて加熱するための凸面を有する加熱体の一例である。また、「凸面」とは、非晶質合金薄帯側に盛り上がった面を意味する。例えば、加熱ローラ2は、
図1に示すローラのように、円筒(円柱)形の側面が形成する曲面の他、略D型部材の曲面部分のように部材の一部に構成された曲面などを備えていても良く、非晶質合金薄帯が追随して十分な接触が確保される形状であればよい。なお、本開示の加熱体は回転しない構成としても良く、その加熱体上を薄帯が移動する(滑走する)構成としても良い。
【0076】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、平均結晶粒径50nm以下のαFe結晶相が体積率で40%以上を占めている。
【0077】
また、本開示のナノ結晶合金薄帯は、飽和磁束密度が1.36T以上、残留磁束密度Brと磁界8000A/mの磁束密度B8000との比Br/B8000が0.20以上、最大透磁率が4000以上である。飽和磁束密度は1.37T以上であることが好ましく、さらに1.40T以上であることが好ましい。最大透磁率は5000以上であることが好ましい。
【0078】
本開示のナノ結晶合金薄帯はナノ結晶合金薄帯の長手方向に磁界80A/m印加したときの磁束密度B80Lと、前記長手方向に直交する幅方向に磁界80A/m印加したときの磁束密度B80Wと、の比(B80L/B80W)が0.60~1.40であり、かつB80L、B80Wともに0.4T以上であることが好ましい。比(B80L/B80W)は0.70~1.30であることがより好ましい。また、B80L、B80Wともに0.5T以上であることがより好ましい。
【0079】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、飽和磁歪が7ppm以下であることが好ましい。より好ましくは5ppm以下である。
【0080】
また、飽和磁歪は0ppmであることが最も好ましい。
【0081】
組成式(Fe1-xAx)aSibBcCudMeで表され、AはNi及びCoの少なくとも1種であり、MはNb、Mo、V、Zr、Hf及びWから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、75.0≦a≦77.0、15.0≦b≦18.0、5.0≦c≦7.5、0.02≦d≦1.2、0.6≦e≦1.5、0≦x≦0.1のとき、飽和磁歪がほぼ0ppm(-2.0ppm以上2.0ppm以下)のナノ結晶合金薄帯が得られる。また、このとき、0.190≦b/a≦0.225であることが好ましい。
【0082】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、厚さが25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。また、厚さは、5μm以上であることが好ましく、更に10μm以上が好ましい。幅は5mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることがより好ましい。
【0083】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、シワ高さが0.15mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.10mm以下であり、さらに好ましくは0.08mm以下である。
【0084】
また、本開示のナノ結晶合金薄帯は、占積率が68.0%以上であることが好ましい。占積率は、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。
【0085】
占積率は、JIS C 2534:2017に準拠した以下の方法で測定することができる。
【0086】
長さ120mmに切断した薄帯を20枚重ね平らな試料台にセットし、直径16mmの平らなアンビルを50kPaの圧力で積層した薄帯に乗せ幅方向に10mm間隔で高さを測定する。そのときの最大高さをhmax(μm)とし以下の計算式から占積率LFを求める。
【0087】
LF(%)=試料の重量(g)/密度(g/cm3)/hmax(μm)/試料長さ(240cm)/薄帯の幅(cm)×10000
このとき、密度(g/cm3)は、熱処理後の合金薄帯の密度である。この密度は7.4g/cm3とすることができる。
【0088】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、電子部品、モータなどに用いる磁心やシールド材などに使用することに適している。これにより、優れた磁気特性を備える磁心やシート材を得ることができる。
【0089】
本開示のナノ結晶合金薄帯は、例えば、非接触充電用の磁性シートとして使用できる磁性シートを構成することができる。
【0090】
本開示の磁性シートは、ナノ結晶合金薄帯と、帯状に形成された支持体、並びに、前記支持体における第1面及び第2面の少なくとも一方に設けられた粘着剤を有する粘着層と、を備え、前記粘着層の前記粘着剤に、前記ナノ結晶合金薄帯が接着され、前記粘着層の厚さが1~10μmである。粘着層は支持体の両面に粘着剤を備える構成であることが好ましい。
【0091】
また、粘着層を介して複数のナノ結晶合金薄帯が積層された磁性シートとすることが好ましい。具体的には、ナノ結晶合金薄帯の一面に粘着層が貼り付けられた磁性シートを複数用意する。第一の磁性シートのうち、粘着層のナノ結晶合金薄帯が貼られてない側に、別の磁性シートのナノ結晶合金薄帯を貼り付けることによって、ナノ結晶合金薄帯が積層された磁性シートを構成することができる。このとき、ナノ結晶合金薄帯の積層数は所望の特性を得るために適宜選択できる。
【0092】
本開示の磁性シートは、ナノ結晶合金薄帯が積層された磁性シートから試料を採取して測定したとき、128kHz,0.2Tでの鉄損が2000kW/m3以下、128kHz、0.03Vでの複素透磁率実部が1500以上であることが好ましい。
【0093】
鉄損は、低い方が好ましく、より好ましくは1800kW/m3以下であり、より好ましくは1700kW/m3以下であり、より好ましくは1500kW/m3以下である。
【0094】
また、本開示の磁性シートを非接触充電用途で用いる場合、充電出力が大きくなるほど発生する磁束量が大きくなるため、磁性シートの磁気飽和を抑制し及び渦電流損失を低減するため、ナノ結晶合金薄帯にクラックが形成されていることが好ましい。
【0095】
本開示の磁性シートは、クラックが形成されたナノ結晶合金薄帯が積層された磁性シートから試料を採取して測定したとき、128kHz,0.2Tでの鉄損が2000kW/m3以下、128kHz、0.03V複素透磁率実部が400~3000であることが好ましい。
【0096】
〔実施例1〕
実施例1では、合金組成がFe76.4Si16B6.5Cu0.6Nb0.5となるように元素源を配合し、配合物を1350℃に加熱して合金溶湯を作製し、その合金溶湯を周速30m/秒で回転する外径400mm、幅200mmの冷却ローラ上に噴出させ、冷却ローラ上で急冷凝固させて、非晶質合金薄帯を作製した。冷却ローラの外周部は、熱伝導率が150W/(m・K)のCu合金で構成されており、内部には外周部の温度制御用の冷却機構を備えている。
【0097】
この非晶質合金薄帯を昇温速度6℃/min.、熱処理温度470℃、保持時間1時間の条件で熱処理した試料(比較例1)と、昇温速度79200℃/min.、熱処理温度660℃、保持時間1.2秒の条件で熱処理した試料(実施例1)とを作製した。実施例1の熱処理には、
図1に示す熱処理方法を用いた。熱処理後の実施例1及び比較例1の試料は、ナノ結晶合金薄帯である。
【0098】
また、実施例1及び比較例1のナノ結晶合金薄帯の幅は50mmであり、厚さは16.4μmであった。
【0099】
この実施例1と比較例1とについて、平均結晶粒径、20kHz、0.2Tでの鉄損、Br/B8000、及び最大透磁率を表1に示す。実施例1及び比較例1のB8000(Bs)は1.41Tと同等であった。
【0100】
実施例1では、昇温速度を15000℃/min.以上とすることで平均結晶粒径を50nm以下とすることができた。また、20kHz,0.2Tでの鉄損も10W/kg以下と優れている。また、Br/B8000は0.20以上であり、最大透磁率は4000以上を示した。実施例1では、高飽和磁束密度、低損失かつ高透磁率なナノ結晶合金薄帯を実現することができた。測定方法は実施例2で説明する。
【0101】
【0102】
〔実施例2〕
実施例2では、表2に示す各組成となるように元素源を配合し、配合物を1350℃に加熱して合金溶湯を作製し、その合金溶湯を周速30m/秒で回転する外径400mm、幅200mmの冷却ローラ上に噴出させ、冷却ローラ上で急冷凝固させて、非晶質合金薄帯を作製した。
【0103】
非晶質合金薄帯の幅と厚さを表3に示す。冷却ローラの外周部は、熱伝導率が150W/(m・K)のCu合金で構成されており、内部には外周部の温度制御用の冷却機構を備えている。
【0104】
表2に示す各材質の非晶質合金薄帯を用い、表3の条件で、熱処理を行った。評価結果を表3、4に示す。なお、表の空欄は未測定であることを意味する。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
〔平均結晶粒径〕
平均結晶粒径はX線回折実験から得られたX線回折パターン中の(110)面からの回折ピークの積分幅を用いて、シェラーの式から求めた。(110)面からの回折ピークの積分幅は回折パターンに対する擬Voigt関数を用いたピーク分解を行うことによって求め、平均粒径をD、積分幅をβ、回折角をθ、シェラー定数をK、X線の波長をλとすると、以下で与えられるシェラーの式(数1)からDが求まる。
【0109】
ただし今回の場合、X線の波長λ=0.154050nm,シェラー定数K=1.333を仮定として適用した。また積分幅は、装置由来の回析線幅の広がり分だけ積分幅が狭くなるように補正した値を用いている。
【0110】
【0111】
〔体積率〕
体積率は、ナノ結晶の体積率であり、ナノ結晶以外の部分は非晶質の部分である。
【0112】
この体積率は、Feの(110)面からの回折ピークの積分強度とハローパターンの積分強度との比で求める。ハローパターンの積分強度は、Feの(110)面からの回折ピークの積分強度+2θ=44°近傍の積分強度である。ナノ結晶が示すピーク及びアモルファスが示すハローパターンの積分強度は、X線回折パターンに対する擬Voigt関数を用いたピーク分解を行うことによって求める。
【0113】
体積率Vは、ナノ結晶の(110)ピークの積分強度をIc、2θ=44°近傍のハローパターンの積分強度をIaとすると、以下で与えられる式(数2)からは求まる。ただし、本実施例の組成の場合、Fe及びFe2Bの積分強度のピークが重なり、分解が困難なため、Ic、Iaには、微量であるが析出されるFe2Bの積分強度も含まれ得る。
【0114】
【0115】
〔飽和磁束密度Bs〕
飽和磁束密度Bsは、メトロン技研株式会社製直流磁化特性試験装置にて熱処理後のナノ結晶合金薄帯(単板試料)に磁界8000A/m印加し、その時の最大磁束密度を測定して得られる。本開示のナノ結晶合金薄帯は、比較的飽和しやすい特性であるため、磁界8000A/m印加時点で飽和する。B8000と飽和磁束密度Bsとがほぼ同じ値となるため、飽和磁束密度BsをB8000で表す。
【0116】
〔最大透磁率〕
最大透磁率は、メトロン技研株式会社製直流磁化特性試験装置にて熱処理後のナノ結晶合金薄帯(単板試料)に磁界800A/m印加し、その時の磁界Hに対する透磁率を測定し、このときの最大を示す透磁率が適用される。
【0117】
〔磁束密度B80〕
メトロン技研株式会社製直流磁化特性試験装置にてナノ結晶合金薄帯の長手方向(鋳造方向)及び長手方向と直交する幅方向にそれぞれ磁界80A/m印加し、その時の最大磁束密度をそれぞれB80L,B80Wとした。そして、その比B80L/B80Wを算出し、等方性の評価をおこなった。
【0118】
〔飽和磁歪〕
株式会社共和電業製歪ゲージを張り付けた試料(ナノ結晶合金薄帯)に電磁石で5kOeの磁界を印加した。そして、電磁石を360°回転させ、試料に印加する磁界の方向を360°変化させせたときに生じた試料の伸び及び収縮の最大変化量を歪ゲージの電気抵抗値の変化から測定した。飽和磁歪=2/3×最大変化量とした。
【0119】
飽和磁歪と、Si/Fe(at%比)と、の関係を表5に示す。表5に示すとおり、組成式(Fe1-xAx)aSibBcCudMeで表され、AはNi及びCoの少なくとも1種であり、MはNb、Mo、V、Zr、Hf及びWから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、75.0≦a≦77.0、15.0≦b≦18.0、5.0≦c≦7.5、0.02≦d≦1.2、0.6≦e≦1.5、0≦x≦0.1のとき、飽和磁歪がほぼ0ppm(-2.0ppm以上2.0ppm以下)のナノ結晶合金薄帯が得られた。また、このとき、0.190≦b/a≦0.225である。
【0120】
【0121】
〔シワ高さ〕
シワ高さは、薄帯表面に形成された、スジやシワの高さのことである。ナノ結晶合金薄帯をガラス板に挟んだ状態で株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡VR3200にて薄帯表面の高さを測定し、その最大値と最小値の差をシワ高さとして算出した。
【0122】
ナノ結晶合金薄帯をガラス板に挟んだ理由は、薄帯が非常に薄く薄帯のみを測定ステージに置くとうねりなどで薄帯が部分的に浮き上がり、高さの測定に影響するため、それらの影響を極力小さくする目的である。
【0123】
〔磁束密度Br〕
メトロン技研株式会社製直流磁化特性試験装置にて熱処理後のナノ結晶合金薄帯(単板試料)に磁界8000A/m印加し、その時の磁界0の時の磁束密度Bの値をBrとした。
【0124】
〔鉄損〕
岩崎通信機株式会社製BHアナライザSY8218にて、15層のナノ結晶合金薄帯から、内径8.8mm、外径19.9mmのリングコアを打ち抜き、ケースにいれ、鉄損を測定した。測定条件として、1次2次巻線15ターン巻き、周波数20kHz、磁束密度0.2Tを採用した。
【0125】
以上のとおり、本開示によれば、平均結晶粒径が50nm以下のαFe結晶相が体積率で40%以上を占め、飽和磁束密度が1.36T以上のナノ結晶合金薄帯が得られた。また、残留磁束密度Brと磁界8000A/mの磁束密度B8000の比Br/B8000が0.20以上、最大透磁率が4000以上のナノ結晶合金薄帯が得られた。
【0126】
また、本開示によれば、ナノ結晶合金薄帯の長手方向に磁界80A/m印加したときの磁束密度B80Lと、前記長手方向に直交する幅方向に磁界80A/m印加したときの磁束密度B80Wと、の比(B80L/B80W)が0.60~1.40であり、等方性の特性を示すナノ結晶合金薄帯が得られた。
【0127】
また、本開示によれば、飽和磁歪が7ppm以下のナノ結晶合金薄帯が得られた。
【0128】
また、本開示によれば、シワ高さが0.15mm以下であり、占積率が68.0%以上のナノ結晶合金薄帯が得られた。
【0129】
よって、本開示により、高飽和磁束密度で、高透磁率な優れた磁気特性を備えるナノ結晶合金薄帯を得ることができた。また、低磁歪で、低損失であり、等方性を備えたナノ結晶合金薄帯を得ることができた。また、シワやスジなどが抑制され、高い占積率を実現するナノ結晶合金薄帯を得ることができた。
【0130】
〔実施例3〕
実施例3では、実施例1のナノ結晶合金薄帯の一面に3μm厚の粘着層を貼り付けて、磁性シートを作製した。
【0131】
図2は、磁性シートの構造を説明する幅方向に切断した断面視図である。
【0132】
磁性シートは、
図2に示すように、1層の粘着層10と、1層の樹脂シート15と、1層のナノ結晶合金薄帯20と、が積層された構成を有する。
【0133】
粘着層10には、支持体11と、粘着剤12と、が設けられている。なお、支持体11は、長尺状に形成された帯状の膜部材、例えば長方形状に形成された膜部材である。支持体11は、可撓性を有する樹脂材料を用いて形成されている。樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることができる。
【0134】
粘着剤12は、例えば、感圧性接着剤を用いることができる。例えば、アクリル系の接着剤、シリコーン系の接着剤、ウレタン系の接着剤、合成ゴム、天然ゴム等の、公知の接着剤を粘着剤12として用いることができる。アクリル系の接着剤は、耐熱性、耐湿性に優れ、かつ、接着可能な材質も幅広いため、粘着剤12として好ましい。
【0135】
粘着剤12は、支持体11における第1面11A及び第2面11Bに膜状又は層状に設けられている。ここで、粘着層10は、第1面11A側の粘着剤12と、支持体11と、第2面11B側の粘着剤12と、のそれぞれの厚さの合計が3μmであった。
【0136】
また、樹脂シート15を取り去ることにより、第2面11B側の粘着剤12を用いて磁性シートを他の部材へ貼り付けることができる。
【0137】
また、上記した磁性シートを複数用意して、ナノ結晶合金薄帯が複数積層された磁性シートを作製した。複数の磁性シートを用いて、ナノ結晶合金薄帯が粘着層を介して積層されるように構成した。
【0138】
具体的には、まず、第1の磁性シートの粘着層10のうちナノ結晶合金薄帯20が貼られてない側で、樹脂シート15(15B)を剥がす。次いで、粘着層10の粘着剤12が露出した部分に、別の磁性シートのナノ結晶合金薄帯20を貼り付ける。これを繰り返すことによって、ナノ結晶合金薄帯が15層積層された磁性シートを構成した。
【0139】
ナノ結晶合金薄帯が15層積層された磁性シートを用い、その磁性シートを内径8.8mm、外径19.9mmのリング状に打ち抜いた。このリング状の磁性シートを用い、128kHz、0.2Tでの鉄損と128kHz,0.03Vでの複素透磁率実部を評価した。結果を表6に示す。
【0140】
また、同様にして、実施例2のNo.1~11についても15層の磁性シートを作製し、128kHz、0.2Tでの鉄損と128kHz,0.03Vでの複素透磁率実部を評価した。結果を表6に示す。
【0141】
本開示によれば、128kHz、0.2Tでの鉄損が2000kW/m3以下、128kHz,0.03Vでの複素透磁率実部が1500以上である磁性シートが得られた。
【0142】
本開示により、優れた磁気特性を備える磁性シートを構成できた。
【0143】
【0144】
〔実施例4〕
実施例4では、実施例1のナノ結晶合金薄帯の一面に3μm厚の粘着層10を貼り付けて、その後ナノ結晶合金薄帯にクラック21を形成させ、磁性シートを作製した。
【0145】
図3は、この磁性シート100の構造を説明する幅方向に切断した断面視図である。
【0146】
磁性シート100は、
図3に示すように、1層の粘着層10と、1層の樹脂シート15と、1層のナノ結晶合金薄帯20と、が積層された構成を有する。ここで、ナノ結晶合金薄帯20にはクラック21が形成されていて、このクラック21により、ナノ結晶合金薄帯20は小片22に分割されている。
【0147】
また、上記した磁性シートを複数用意して、ナノ結晶合金薄帯が複数積層された磁性シートを作製した。複数の磁性シートを用いて、ナノ結晶合金薄帯20が粘着層10を介して積層されるように構成した。
【0148】
具体的には、まず、第1の磁性シート100の粘着層10のナノ結晶合金薄帯20が貼られてない側で、樹脂シート15を剥がす。次いで、粘着層10の粘着剤12が露出した部分に、別の磁性シート100のナノ結晶合金薄帯20を貼り付ける。これを繰り返すことによって、ナノ結晶合金薄帯が15層積層された磁性シートを構成した。
【0149】
ナノ結晶合金薄帯が15層積層された磁性シートを用い、その磁性シートを内径8.8mm、外径19.9mmのリング状に打ち抜いた。このリング状の磁性シートを用い、128kHz、0.2Tでの鉄損と128kHz,0.03Vでの複素透磁率実部を評価した。その結果を表7に示す。
【0150】
また、同様にして、実施例2のNo.4についても15層の磁性シートを作製し、128kHz、0.2Tでの鉄損と128kHz、0.03Vでの複素透磁率実部を評価した。結果を表7に示す。
【0151】
本開示によれば、128kHz、0.2Tでの鉄損が2000kW/m3以下、複素透磁率実部が400~3000である磁性シートが得られた。
【0152】
【0153】
実施例3、4において、鉄損及び複素透磁率実部の測定方法は以下のとおりである。
【0154】
〔鉄損〕
岩崎通信機株式会社製BHアナライザSY8218にて、15層の磁性シートから、内径8.8mm、外径19.9mmのリングコアを打ち抜き、ケースにいれ、鉄損を測定した。測定条件として、1次2次巻線15ターン巻き、128kHz、磁束密度0.2Tでの鉄損を採用した。
【0155】
〔複素透磁率〕
岩崎通信機株式会社製BHアナライザSY8218にて、15層の磁性シートから、内径8.8mm、外径19.9mmのリングコアを打ち抜き、ケースにいれ、複素透磁率実部を測定した。測定条件として、1次2次巻線15ターン巻き、周波数128kHz、電圧0.03Vを採用した。
【0156】
図4は、本開示のナノ結晶合金薄帯が1層の磁性シート100の製造方法を説明する模式図である。
図4では、ナノ結晶合金薄帯20に粘着層10を連続的に貼り付ける方法を示す。
【0157】
磁性シート100は、
図4に示す製造装置500を用いて製造される。製造装置500には、製造工程の上流から下流に向かって、第1巻出しロール510と、第1巻取りロール520と、第2巻出しロール530と、複数の貼付けローラ540と、クラック部550と、平坦化ローラ560と、第3巻取りロール570と、が設けられている。製造装置500には、さらに複数の誘導ローラ580が設けられてもよい。誘導ローラ580については図示していない位置でも必要に応じて配置することができる。
【0158】
図5は、第1巻出しロール510から供給される積層体の構成を説明する断面視図である。
【0159】
第1巻出しロール510には、
図5に示すように、積層体であって、粘着層10の第1面11A及び第2面11Bに樹脂シート15A,15Bが積層された積層体が巻き付けられている。
【0160】
第1面11Aに配置された樹脂シート15Aは保護シートである。第2面11Bに配置された樹脂シート15Bはライナーとも表記する。樹脂シート15Aは、第2面11Bに配置された樹脂シート15Bよりも厚さが薄いシートである。
【0161】
図6は、第1巻出しロール510から供給され、樹脂シート15Aが剥離された積層体の構成を説明する断面視図である。
【0162】
第1巻出しロール510から巻き出された積層体は、
図6に示すように、樹脂シート15Aが剥離される。剥離された樹脂シート15Aは、
図4に示すように、第1巻取りロール520に巻き取られる。
【0163】
図7は、第2巻出しロール530から供給されるナノ結晶合金薄帯20の構成を説明する断面視図である。
【0164】
樹脂シート15Aが剥離された積層体は、複数の誘導ローラ580により、貼付けローラ540に導かれる。貼付けローラ540には、さらに第2巻出しロール530から巻き出されたナノ結晶合金薄帯20が導かれている。貼付けローラ540に導かれるナノ結晶合金薄帯20には、
図7に示すように、クラック21は形成されていない。
【0165】
図2は、貼付けローラ540により、ナノ結晶合金薄帯20が粘着層10に接着された状態を説明する断面視図である。
【0166】
貼付けローラ540としては、
図4に示すように、対向して配置された円筒形の2つのローラを備える。2つのローラは、それぞれ突起を備えない滑らかな周面を有する。2つのローラは、樹脂シート15Aが剥離された積層体にナノ結晶合金薄帯20を押し付けて接着する。
【0167】
具体的には、対向して配置された2つのローラの間に、積層体とナノ結晶合金薄帯20とを導き、2つのローラを用いて、
図2に示すように、粘着層10の第1面11Aにナノ結晶合金薄帯20を押し付けて接着する。ナノ結晶合金薄帯20が接着された積層体は、
図4に示すように、貼付けローラ540からクラック部550に導かれる。
【0168】
なお、クラック21を形成しない場合は、クラック部550に導かれることなく、第3巻取りロール570に巻き取られるようにしてもよいし、所望の長さで切断されるようにしてもよい。
【0169】
図3は、クラック部550によりナノ結晶合金薄帯20にクラック21が形成された状態を説明する断面視図である。
【0170】
クラック部550は、粘着層10に接着されたナノ結晶合金薄帯20にクラック21を形成する。具体的には、クラック部550は、対向して配置された2つのローラを備える。すなわち、クラック部550は、クラックローラ550Aと、支持ローラ550Bとを備える。
【0171】
製造装置500は、これらの2つのローラの間に、ナノ結晶合金薄帯20が接着された積層体を導く。クラックローラ550Aは、周面に突起が設けられた円筒形のローラである。支持ローラ550Bは、周面に突起が設けられていない円筒形のローラである。製造装置500は、クラックローラ550Aの突起部分をナノ結晶合金薄帯20に押し付けて、
図3に示すようにクラック21を形成する。
【0172】
支持ローラ550Bは、樹脂シート15が剥離された積層体側に配置されている。クラック21が形成されたナノ結晶合金薄帯20には複数の小片22が含まれる。複数の小片22は、粘着層10に接着される。
【0173】
ここで、クラックローラ550Aの構成について説明する。クラックローラ550Aには、上記の突起として、複数の凸状部材が周面に配置されている。クラックローラ550Aの凸状部材の端部の先端の形状は、平坦、錐状、中央が窪む逆錐状、又は筒状でもよい。複数の凸状部材は、規則的に配置されてもよいし、不規則に配置されてもよい。
【0174】
クラック部550から平坦化ローラ560に導かれた積層体は、平坦化ローラ560により平坦化処理が行われる。なお、平坦化ローラ560は整形ローラとも表記する。
【0175】
具体的には、平坦化ローラ560における対向して配置された2つのローラの間に積層体が導かれ、積層体が2つのローラに挟まれて押圧される。これにより、クラック21が形成されたナノ結晶合金薄帯20の表面が平坦化される。
【0176】
平坦化処理が行われた後の積層体が磁性シート100となる。磁性シート100は、誘導ローラ580を経由して第3巻取りロール570に導かれる。磁性シート100は、第3巻取りロール570に巻き取られる。第3巻取りロール570に巻き取られ、リング状又は渦巻き状の形状になった磁性シート100が巻体状磁性シート200である。
【0177】
磁性シート100は、巻き取られる方法が採用されてもよいし、巻き取られることなく所定長さに切断されてもよい。
【0178】
ここで、ナノ結晶合金薄帯20の幅Bと粘着層10の幅Aとは次式の関係を満たす形状を有していることが好ましい(
図8参照)。
【0179】
0.2mm≦(幅A-幅B)≦3mm
幅Aは、粘着層10に関する寸法であって、より好ましくは粘着層10におけるナノ結晶合金薄帯20が接着される粘着剤12が設けられた領域に関する寸法である。幅Bは、ナノ結晶合金薄帯20に関する寸法である。粘着剤12が粘着層10の支持体11の全面に設けられている場合には、幅Aは、粘着層10又は支持体11に関する寸法である。
【0180】
ここで、(幅A-幅B)の下限は、0.5mmであることが好ましく、更に1.0mmであることが好ましい。また、(幅A-幅B)の上限は、2.5mmであることが好ましく、更に2.0mmであることが好ましい。
【0181】
ナノ結晶合金薄帯20は、粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されてもよいし、中心が離れて配置されてもよい。この場合、0mm<隙間a、及び、0mm<隙間bの関係(
図8参照。)を満たすように配置されている。
【0182】
隙間a及び隙間bは、粘着層10の端部からナノ結晶合金薄帯20の端部までの距離である。具体的には隙間aは、粘着層10の第1粘着層端部10Xから、ナノ結晶合金薄帯20の第1薄帯端部20Xまでの距離である。隙間bは、粘着層10の第2粘着層端部10Yから、ナノ結晶合金薄帯20の第2薄帯端部20Yまでの距離である。
【0183】
第1薄帯端部20Xは、ナノ結晶合金薄帯20における第1粘着層端部10Xと同じ側の端部である。第2粘着層端部10Yは、粘着層10の第1粘着層端部10Xと反対側の端部である。第2薄帯端部20Yは、ナノ結晶合金薄帯20における第2粘着層端部10Yと同じ側の端部である。
【0184】
幅A、幅B、隙間a、及び隙間bは、磁性シート100の長手方向と交差する方向、より好ましくは直交する方向の寸法である。磁性シート100の長手方向と、粘着層10の長手方向は同じ方向である。また、磁性シート100の長手方向と、ナノ結晶合金薄帯20の長手方向は同じ方向である。
【0185】
磁性シート100は、粘着層10における粘着剤12が設けられた領域の幅Aを、ナノ結晶合金薄帯20の幅Bよりも広く設定される。このような構成によれば、粘着層10にナノ結晶合金薄帯20を貼り付ける際に、粘着層10やナノ結晶合金薄帯20に蛇行が生じても、ナノ結晶合金薄帯20の全面に粘着層10の粘着剤12が配置されやすくすることができる。また、ナノ結晶合金薄帯20の全面に粘着層10が配置されることにより、ナノ結晶合金薄帯20にクラック21が形成されて小片22が形成された後、小片22が脱落することを抑制することができる。
【0186】
磁性シート100は、幅Aから幅Bを引いた値が0.2mm以上に設定される。このような構成によれば、粘着層10にナノ結晶合金薄帯20を貼り付ける際に、ナノ結晶合金薄帯20に粘着剤12が配置されない部分が発生してしまうことを抑制しやすい。
【0187】
磁性シート100は、幅Aから幅Bを引いた値が3mm以下に設定される。このような構成によれば、磁性シート100におけるナノ結晶合金薄帯20が配置されていない部分が大きくなることを抑制しやすい。また、磁性シート100を並列して並べたときに、ナノ結晶合金薄帯間の間隔(磁気ギャップ)が大きくなることを抑制しやすい。
【0188】
磁性シート100は、0mm<隙間a、及び、0mm<隙間bの関係を満たすように設定される。このような構成によれば、粘着層10にナノ結晶合金薄帯20を貼り付ける際に、ナノ結晶合金薄帯20が粘着剤12の設けられた領域から突出することを抑制しやすい。そのため、ナノ結晶合金薄帯20に粘着剤12が配置されない部分が発生することを抑制しやすい。
【0189】
本開示によれば、高飽和磁束密度で、高透磁率のナノ結晶合金薄帯が得られた。また、本開示によれば、低磁歪で、低損失であり、等方性を備えたナノ結晶合金薄帯が得られた。また、本開示によれば、シワやスジなどが抑制され、高い占積率を実現するナノ結晶合金薄帯が得られた。
【0190】
本開示によれば、優れた磁気特性のナノ結晶合金薄帯を用いた磁性シートが得られた。
【要約】
高飽和磁束密度で、高透磁率な優れた磁気特性を備えるナノ結晶合金薄帯を提供する。組成式(Fe1-xAx)aSibBcCudMeで表され、AはNi及びCoの少なくとも1種であり、MはNb、Mo、V、Zr、Hf及びWから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、75.0≦a≦81.0、9.0≦b≦17.5、5.0≦c≦10.0、0.02≦d≦1.5、0.1≦e≦3.5、0≦x≦0.1で構成され、平均結晶粒径が50nm以下のαFe結晶相が体積率で40%以上を占め、飽和磁束密度が1.36T以上、残留磁束密度Brと磁界8000A/mの磁束密度B8000の比Br/B8000が0.20以上、最大透磁率が4000以上である。